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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】膜厚管理装置及び膜厚管理システム
(51)【国際特許分類】
   G01B 21/08 20060101AFI20240221BHJP
   G01B 15/02 20060101ALI20240221BHJP
【FI】
G01B21/08
G01B15/02 C
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023129718
(22)【出願日】2023-08-09
【審査請求日】2023-08-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520445521
【氏名又は名称】株式会社ダックビル
(73)【特許権者】
【識別番号】500489015
【氏名又は名称】建装工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230115118
【弁護士】
【氏名又は名称】西村 義隆
(72)【発明者】
【氏名】野口 高志
(72)【発明者】
【氏名】谷口 角
【審査官】山▲崎▼ 和子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-294288(JP,A)
【文献】特開平11-118453(JP,A)
【文献】特開昭62-137508(JP,A)
【文献】特開2002-328104(JP,A)
【文献】特開2006-274768(JP,A)
【文献】特開2004-234335(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 15/00-15/08
21/00-21/32
E04G 1/00-27/00
E04F 10/00-21/32
E01D 1/00-24/00
G06Q 50/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作物に塗布した塗料の膜厚を管理するための装置であって、
前記工作物に固定され、前記塗料によって覆われるよう設置された無線通信装置と、
前記無線通信装置と電波を介して通信を行うための受信機とを備え、
前記無線通信装置は、前記受信機から発せられる前記電波を受信するアンテナと、該電波から給電する制御回路と、複数の日時において測定した日時、膜厚を含む情報を記憶するメモリとを有する膜厚管理装置。
【請求項2】
工作物に塗布した塗料の膜厚を管理するための装置であって、
前記工作物に固定され、前記塗料によって覆われるよう設置された無線通信装置と、
前記無線通信装置と電波を介して通信を行うための受信機とを備え、
前記無線通信装置は、前記受信機から発せられる前記電波を受信するアンテナと、該電波から給電する制御回路と、複数の日時において測定した日時、膜厚を含む情報を記憶するメモリとを有し、
前記受信機は、前記無線通信装置と通信を行いデータを送信及び受信する送受信部と、前記無線通信装置から受信する前記電波の電波強度を測定する計測部と、前記計測部が測定した電波強度を用いて前記塗料の膜厚を推定する膜厚推定部を有する膜厚管理装置。
【請求項3】
前記無線通信装置を覆う前記塗料の上にレールを設置し、前記受信機と前記塗料を接触させながら前記受信機が前記無線通信装置から前記電波を受信する請求項1又は請求項2に記載の膜厚管理装置。
【請求項4】
前記受信機における前記膜厚推定部は、前記塗料ごとに作成した電波強度に応じた膜厚を示す対応表を用いて膜厚を推定する請求項2に記載の膜厚管理装置。
【請求項5】
前記受信機における前記膜厚推定部は、前記無線通信装置から発せられる電波強度をP0、前記塗料の透過率をT、前記受信機の前記計測部が計測した電波強度をPとしたときに、以下の数3によって膜厚dを推定する請求項2に記載の膜厚管理装置。
【数3】
【請求項6】
工作物に塗布した塗料の膜厚を管理するためのシステムであって、
前記工作物に固定され、前記塗料によって覆われるよう設置された複数の無線通信装置と、
前記無線通信装置と電波を介して通信を行うための受信機とを備え、
前記無線通信装置は、前記受信機から発せられる前記電波を受信するアンテナと、該電波から給電する制御回路と、複数の日時において測定した日時、膜厚を含む情報を記憶するメモリとを有し、
前記受信機は、前記無線通信装置と通信を行いデータを送信及び受信する送受信部と、前記無線通信装置から受信する前記電波の電波強度を測定する計測部と、前記計測部が測定した電波強度を用いて前記塗料の膜厚を推定する膜厚推定部を有する膜厚管理システム。
【請求項7】
工作物に塗布した塗料の膜厚を管理するためのシステムであって、
前記工作物に固定され、前記塗料によって覆われるよう設置された複数の無線通信装置と、
前記無線通信装置と電波を介して通信を行うための受信機とを備え、
前記無線通信装置は、前記受信機から発せられる前記電波を受信するアンテナと、該電波から給電する制御回路と、前記工作物内における該無線通信装置とは別の無線通信装置の推定した膜厚を含む情報を記憶するメモリを有し、
前記受信機は、前記無線通信装置と通信を行いデータを送信及び受信する送受信部と、前記無線通信装置から受信する前記電波の電波強度を測定する計測部と、前記計測部が測定した電波強度を用いて前記塗料の膜厚を推定する膜厚推定部を有する膜厚管理システム。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、膜厚管理装置及び膜厚管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
建物などの建築物、橋梁などの工作物は(以下、建築物と工作物をまとめて「工作物」という)、常に雨風、紫外線、地震による振動などにさらされており、経年劣化が進行している。一般的に、ある程度の年数が経過したら、大規模修繕を行った方がよいという目安はあるが、環境によって劣化具合は様々であるし、同じ工作物においても、太陽光や雨風の影響を受けやすい箇所、素材の性質などによって工作物内の箇所によってさまざまである。
【0003】
例えば、特許文献1では、ひずみを計測するセンサを工作物に取り付けた上でRFID(Radio Frequency Identification)と接続し、無線通信によりひずみ情報を送信する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-12346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
工作物の状態を維持し、メンテナンスを行う対象は、鉄筋等のひずみのみに限らず、工作物に塗布された塗料においても重要である。なぜならば、工作物の塗料は、雨風や紫外線等から工作物を守るために塗布され、日々劣化するとともに、塗料が劣化すれば、その下の工作物のコンクリートなど素材の劣化が早まるからである。したがって、工作物における塗料の膜厚についても、劣化状態を把握し、かつその情報が適切に把握可能であることが望ましい。
【0006】
工作物には耐用年数が長期にわたるものが存在するが、長期間の経過により、建設を請け負った業者や管理していた会社が廃業してしまうなど、工作物の所有者が塗膜の経緯に関する情報を把握できなくなるケースも存在する。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みて提案するものであり、工作物に塗布された塗料の劣化状態、すなわち膜厚を測定し、かつ情報管理を行うことが可能な膜厚管理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本開示に係る膜厚管理装置は、工作物に固定され、塗料によって覆われる無線通信装置と、無線通信装置と電波を介して通信を行うための受信機とを備え、無線通信装置は、受信機から発せられる電波を受信するアンテナと、電波から給電する制御回路と、測定した膜厚を記憶するメモリとを有する。
【0009】
上記目的を達成するため、本開示に係る膜厚管理システムは、工作物に固定され、塗料によって覆われる複数の無線通信装置と、無線通信装置と電波を介して通信を行うための受信機とを備え、無線通信装置は、受信機から発せられる電波を受信するアンテナと、電波から給電する制御回路と、工作物における複数の箇所の推定した膜厚を記憶するメモリを有し、受信機は、無線通信装置と通信を行いデータを送信及び受信する送受信部と、無線通信装置から受信する電波の電波強度を測定する計測部と、計測部が測定した電波強度を用いて塗料の膜厚を推定する膜厚推定部を有する。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、工作物に塗布された塗料の下に膜厚を管理するための無線装置を設置しておくことで、容易に膜厚を管理することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】膜厚管理装置10の概要を示す図である。
図2】無線通信装置100のハードウェア構成を示す図である。
図3】無線通信装置100の基本的な機能を示すブロック図である。
図4】無線通信装置100の記憶部120の膜厚DB121が記憶する内容の一例を示す図である。
図5】受信機200のハードウェア構成を示す図である。
図6】受信機200の基本的な機能を示すブロック図である。
図7】膜厚測定の際の受信機200の設置方法の一例を示す図である。
図8】膜厚推定部233が用いる対応表の具体例を示す図である。
図9】受信機200が膜厚測定を行う際の制御処理の一例を示すフローチャートである。
図10】膜厚管理システム1の具体的構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本開示の内容を不当に限定するものではない。また、実施形態に示される構成要素のすべてが、本開示の必須の構成要素であるとは限らない。
【0013】
<膜厚管理装置の説明>
図1は、膜厚管理装置10の概要を示す図である。膜厚管理装置10は、無線通信装置100と、受信機200からなる。また、無線通信装置100は、工作物300と塗料400との間に設置される。具体的には、無線通信装置100は、両面テープや接着剤などによって工作物300に固定され、その上から塗料400が塗られる。塗料400が塗られることで、無線通信装置100を雨風や紫外線等から保護することが可能である。
【0014】
無線通信装置100は、RFID(Radio Frequency Identification)、RFタグ、ICタグ、無線タグなどと呼ばれる回路により構成可能である。無線通信装置100は、工作物300に固定され、その上から塗料が塗布されることで塗料に覆われて設置される。無線通信装置100は、受信機200から発せられる電波を受信して、給電を行い、受信機200との間で無線通信を行う。無線通信装置100は、RFIDなどの小型の回路により構成することで、工作物300と塗料400の間に設置することが可能となり、これにより無線通信装置100は雨風や紫外線から守られる。さらに、審美性にも影響を与えることなく無線通信装置100を設定することが可能となる。
【0015】
受信機200は、無線通信装置100に対して電波を発信し、無線通信を行う。受信機200は、無線通信装置100の上に塗布された塗料の膜厚を電波を用いて測定できるよう塗料の上に又は塗料と離して設置する。受信機200は無線通信装置100から受信する電波強度の測定をし、無線通信装置100のメモリに記憶されたデータの読み出しと、無線通信装置100のメモリに対してデータを記憶させる。なお、受信機200と無線通信装置100の距離は常に一定に保たれるよう設置することが望ましい。これは後述のように、受信機200は無線通信装置100から発せられる電波の電波強度を測定するため、距離は一定に保つことが望ましいからである。
【0016】
工作物300は、建物などの建築物、橋梁、鉄塔などをはじめ、塗料を塗布する対象が土地に定着しているものである。
【0017】
塗料400は、工作物300に塗布され、乾燥すると工作物300に密着する素材からなり、工作物300の美化を図る素材だけでなく、防水材など工作物300の保護を図る素材も配合される。
【0018】
(無線通信装置100の説明)
図2は、無線通信装置100のハードウェア構成を示す図である。無線通信装置100は、アンテナ101、制御回路102、メモリ103とを備える。また、これ以外に、CPU(Central Processing Unit)や揮発性メモリを備えていてもよい。
【0019】
アンテナ101は、受信機200と無線通信を行うために、電波を送信または受信する。
【0020】
制御回路102は、無線通信装置100の制御を行うための回路である。例えば、アンテナ101で送受信する電波を変調、復調するための回路、アンテナ101で受信した電波から給電を行うための回路、メモリ103からデータを読み出すための回路、メモリ103にデータを書き込むための回路が含まれる。
【0021】
制御回路102は、アンテナ101と接続し、アンテナ101で受信した電波を復調し、また、データを変調してアンテナ101を介して送信する。また、制御回路102は、メモリ103と接続し、メモリ103にデータを書き込み、またメモリ103からデータを読み出す。
【0022】
メモリ103は、データを記憶する。メモリ103が記憶するデータには、測定した膜厚などが含まれる。メモリ103は、不揮発性メモリにより実現され、電源が断たれても記憶したデータを保持する。
【0023】
詳細は後述するが、無線通信装置100にメモリ103が設置されることで、工作物300上に工作物300に関するデータを記憶することが可能となる。
【0024】
図3は、無線通信装置100の基本的な機能を説明するためのブロック図である。無線通信装置100は、通信部110、記憶部120、制御部130とを備える。
【0025】
通信部110は、受信機200と通信するための処理を行う。例えば通信部110は、受信機200と通信し、制御部130を介して記憶部120から読み出した膜厚、素材、日時、電波強度などのデータを受信機200に送信する。例えば通信部110は、受信機200と通信し、受信機200から受信した膜厚、素材、日時、電波強度などのデータを制御部130を介して記憶部120に記憶する。
【0026】
記憶部120は、無線通信装置100が記憶するデータを記憶する。例えば記憶部120は、膜厚、素材、日時、測定した電波強度などのデータを記憶する。また、測定した場所に関する位置情報や識別子(ID:Identification)を記憶してもよい。
【0027】
無線通信装置100が記憶部120を備えることにより、工作物300と分離されたシステムないし媒体ではなく、工作物300と共にデータを記憶しておくことが可能となる。工作物300は、一般的には取壊してその役目を終えるまで数十年の単位で存続するものであるから、分離したシステムや装置上に記憶した場合には、データを紛失するリスクがある。本発明のように工作物300とともに設置された無線通信装置100内にデータを記憶することで、管理者や所有者等が変更された場合においても、データの紛失なく管理を行うことが可能となる。
【0028】
制御部130は、無線通信装置100の制御回路により、無線通信装置100の動作を制御する。具体的には、制御部130は、アンテナ101が受信した電波の電磁誘導を用いるなどして、無線通信装置100に電源供給を行うための回路を備える。また、制御部130は、通信部110が受信機200から受信したデータを復調し、通信部110が受信機200に送信するためのデータを変調する。また、制御部130は、記憶部120から、膜厚、素材、日時、電波強度などの情報を読み出し、または、記憶部120に対して膜厚、素材、日時、電波強度などの情報を書き込んで記憶させる。
【0029】
アンテナ101が受信した電波の電磁誘導等を用いて電源供給を行うと、蓄電装置や電源供給のための配線を不要とし小型化できる点に利点があり、無線通信装置100を塗料400内に設置することが容易となる。
【0030】
(無線通信装置100が記憶するデータの具体例)
記憶部120は、工作物完成時の時点(日時等の時間的情報)、素材、膜厚、受信機200が無線通信装置100から受信する電波の電波強度、電波強度を測定した時点などを記憶する。そのほか、測定した場所に関する位置情報や識別子(ID)を記憶してもよい。
【0031】
また、記憶部120は、工作物300内に複数の無線通信装置100が設置される場合、無線通信装置100が設置された場所の情報だけではなく、工作物300に設置された他の無線通信装置100が設置された場所の情報を記憶してもよい。このとき、位置情報又は識別子などの情報とセットにして記憶することで、どの無線通信装置100に関する情報か識別する。このように、複数の無線通信装置100に情報を記憶することで、万が一情報が失われた際に、他の無線通信装置100から情報を取得することが可能となる。
【0032】
図4は、記憶部120の膜厚DB121が記憶する具体的な内容を示したものである。工作物完成時の2000年10月1日において、膜厚が2mm、受信機200が無線通信装置100から受信した電波の電波強度が250mWであることを示している。また、その後の測定において、2006年10月1日においては、受信機200が無線通信装置100から受信した電波の電波強度が310mWであり、それにより推定された膜厚が1.8mmであることを示している。
【0033】
記憶部120は、工作物完成時の日時、素材、膜厚を記憶しておくことで、所有者や管理者の変更、工作物関連資料の紛失などが生じた場合にも、データを参照することが可能となる。さらに、工作物完成以降の測定日時、電波強度、膜厚などを記憶しておくことで、時間と劣化の程度を把握し、分析に役立てることも可能となる。加えて、無線通信装置100を工作物の複数の箇所に設置することで、工作物の箇所ごとの劣化の程度を把握し分析に役立てることが可能となる。
【0034】
(受信機200の説明)
図5は、受信機200のハードウェア構成を示す図である。受信機200は、汎用のコンピュータにより構成可能である。
【0035】
図5に示すように、受信機200は、プロセッサ201、メモリ202、ストレージ203、通信IF204(なお、IFはInterFaceの略語として記載した)、入出力IF205を備える。
【0036】
プロセッサ201は、プログラムに記述された命令セットを実行するためのハードウェアであり、演算装置、レジスタ、周辺回路などにより構成される。メモリ202は、プログラム、および、プログラム等で処理されるデータ等を一時的に記憶するためのものであり、例えばDRAM(Dynamic Random Access Memory)等の揮発性のメモリにより実現される。ストレージ203は、プログラムなどのデータを保存するための記憶装置であり、例えばフラッシュメモリ、SSD(Solid State Drive)、HDD(Hard disk Drive)により実現される。通信IF204は、受信機200が無線通信装置100と通信するため、信号を送受信するためのインタフェースである。例えば、通信IF204は、無線通信装置100との間でデータを読み出すための信号やデータを書き込むための信号を送受信するインタフェースを含む。入出力IF205は、ユーザからの入力を受け付けるためのキーボード、マウス、テンキーなどの入力装置、およびユーザに対し情報を提示するためのディスプライなど出力装置のインタフェースとして機能する。
【0037】
図6は、受信機200の基本的な機能を説明するためのブロック図である。受信機200は、通信部210、記憶部220、制御部230とを備える。
【0038】
通信部210は、無線通信装置100と通信するための処理を行う。例えば、受信機200の通信部210は、無線通信装置100との間で無線通信を行い、無線通信装置100に記憶された膜厚、素材、日時、電波強度などのデータを無線通信装置100の通信部110を介して取得し、及び/又は通信部110を介して送信する。
【0039】
記憶部220は、受信機200が使用するデータ及びプログラムを記憶する。
【0040】
制御部230は、受信機200のプロセッサが記憶部220に記憶されるプログラムを読み込み、プログラムに含まれる命令を実行することにより実現される。制御部230は受信機200の動作を制御する。具体的には、制御部230は、送受信部231、計測部232、膜厚推定部233としての機能を発揮する。
【0041】
送受信部231は、通信部210を介して無線通信装置100と通信を行い、無線通信装置100に記憶された膜厚、素材、日時、電波強度などのデータを受信して取得する。また、送受信部231は、取得したデータを、入出力IF205を介して表示する。
【0042】
送受信部231は、通信部210を介して無線通信装置100と通信を行い、入出力IF205を介して入力されたデータや、他の制御部230の機能により算出したデータを無線通信装置100に対して送信し、無線通信装置100の記憶部120に記憶させる。
【0043】
計測部232は、通信部210を介して無線通信装置100のアンテナ101から発せられる電波の電波強度を測定する。測定した電波強度は、測定時における時間的情報とともに通信部210を介して、無線通信装置100の記憶部120に記憶する。
【0044】
計測部232は、通信部210を介して無線通信装置100の記憶部120に測定時の時間的情報と電波強度を併せて記憶することにより、これらのデータを解析し、工作物の時間と電波強度の推移を分析することが可能となる。
【0045】
膜厚推定部233は、計測部232が測定した電波強度を用いて、無線通信装置100の上に設置された塗料400の膜厚を推定する。計測部232が測定した電波強度は、無線通信装置100と受信機200との間の距離の2乗に比例して減衰するので、これをもとに計測部232が測定した電波強度から距離を算出してもよい。
【0046】
膜厚推定部233は、例えば、予め素材ごとに電波強度と膜厚との対応表を作成しておき、無線通信装置100の記憶部120に記憶された素材の種類と、計測部232が測定した電波強度を用いて塗料400の膜厚を推定してもよい。
【0047】
膜厚推定部233は、以下のように塗料400の膜厚を推定してもよい。無線通信装置100から発せられる電波強度をP0、膜厚をd、受信機200の計測部232が測定した電波強度をP、塗料400の素材の電波の透過率をTとすると、測定した電波強度Pを以下のようなモデルで示すことができる。
【数1】
これをdについて解くと、数2のように示すことができる。
【数2】
受信機200は、記憶部220に塗料400の素材ごとの透過率Tと無線通信装置100が発する電波強度P0を記憶しておき、計測部232が測定した電波強度Pを用いることで、膜厚dを算出することが可能となる。
【0048】
上述のように、膜厚推定部233が推定した結果を、受信機200が測定した膜厚として利用することができる。
【0049】
また、膜厚推定部233は、計測部232が測定した電波強度を用いて膜厚推定を行うことで、電磁式、過電流式、赤外線、超音波など従来の方式を用いることと比較して必要な機構を省略することが可能となる。これにより、コスト削減、小型化などに資することになる。
【0050】
ただし、膜厚推定部233は、上述のように電波強度を用いることに限られるものではなく、電磁式、過電流式、赤外線、超音波など従来の方式を用いる機構を設置した上で、膜厚推定部233はかかる方式により膜厚推定を行ってもよい。
【0051】
(膜厚測定のための受信機200の設置方法)
受信機200は、無線通信装置100から発せられる電波強度を用いて膜厚を測定するため、受信機200の位置が毎回変わってしまうと正しい膜厚測定が実現できない。したがって、受信機200の設置位置は、どの測定においても同じ位置であることが望ましい。
【0052】
図7は、膜厚測定の際の受信機200の設置方法の一例を示したものである。図7のように、膜厚測定のためのセンサ部分をプローブ240として設置し、プローブ240を塗料400に接触させて電波強度を測定するとよい。なお、プローブ240を設置せず、受信機200の電波の送受信部を塗料400に接触させて電波強度を測定してもよい。
【0053】
また、無線通信装置100は一定の面を有するものの、受信機200の電波の送受信部(プローブ240を設置する場合にはプローブ240)と無線通信装置100のアンテナ101との距離が測定ごとに異なると正しく膜厚を測定することができない。そこで、例えば、受信機200の電波の送受信部(プローブ240を設定する場合にはプローブ240)に車輪をつけ、塗料400と接触させながら電波強度を測定できるように構成し、無線通信装置100のアンテナ101付近において受信機200の電波の送受信部(プローブ240を設定する場合にはプローブ240)をまんべんなく動かし、最も電波強度が強い値を測定値として膜厚測定してもよい。
【0054】
さらに、受信機200の電波の送受信部(プローブ240を設定する場合にはプローブ240)を動かすためのレールを無線通信装置100を覆う塗料の上に設置してもよい。受信機200は、塗料400と接触させながら、無線通信装置100から電波を受信し、電波強度を測定できるよう構成し、最も電波強度が強い値を測定値として膜厚測定してもよい。レールを設置しておくことで、同じ軌道上で測定が可能となることから、膜厚測定の正確性を高めることができる。
【0055】
膜厚測定のための受信機200の設置方法は上記に限られるものではなく、例えば受信機200の設置位置を決めておき、常にその位置から電波強度を測定してもよいし、上記以外の方法により塗料400と接触させながら電波強度を測定してもよい。
【0056】
(膜厚推定のための具体的処理方法-対応表を使う場合)
実際に受信機200の膜厚推定部233による膜厚推定により膜厚測定を行う一例を示す。まず、受信機200のプローブ240を無線通信装置100付近の塗料400でまんべんなく動かして電波強度をスキャンし、最も強い電波強度を測定する。このとき、受信機200から発せられた電波は無線通信装置100のアンテナ101で生ずる電磁誘導により電波を発生させ、当該電波を受信機200のプローブ240で感知して電波強度を測定する。
【0057】
受信機200の送受信部231は、予め無線通信装置100の膜厚DB121から、素材データを取得しておく。計測部232で測定された最も強い電波強度をPとすると、膜厚推定部233は、塗料ごとに作成した電波強度に応じた膜厚を示す対応表から、電波強度Pに対応する膜厚dを取得し、これを推定結果の膜厚とする。
【0058】
図8に、膜厚推定部233が用いる対応表の具体例を示す。例えば、塗料400の素材がAであり、受信した電波強度が990mWだった場合、対応表の990mWに対応する0.11mmを膜厚推定部233が推定する膜厚として算出する。
【0059】
(膜厚推定のための具体的処理方法-モデル化した数式を使う場合)
対応表を使う場合と同様に、まず、受信機200のプローブ240を無線通信装置100付近の塗料400でまんべんなく動かして電波強度をスキャンし、最も強い電波強度を測定する。このとき、受信機200から発せられた電波は無線通信装置100のアンテナ101で生ずる電磁誘導により電波を発生させ、当該電波を受信機200のプローブ240で感知して電波強度を測定する。
【0060】
受信機200の送受信部231は、予め無線通信装置100の膜厚DB121から、素材データと、無線通信装置100が発する電波強度P0を取得しておく。また、受信機200の記憶部220には、素材に対応する透過率Tを記憶しておく。例えば、素材がAであり、その透過率T=1であるとする。
【0061】
計測部232で測定された最も強い電波強度をP=250とし、透過率T=1、P0=1000とすると、膜厚推定部233は、式2を用いて、d=2と算出し、これを推定結果の膜厚とする。
【0062】
(効果の説明)
以上、膜厚管理装置10の構成について説明したが、無線通信装置100を用いることで、工作物300にデータを記憶することが可能となる。これにより、当該工作物300の管理者や所有者が変更され、適切に資料・データの引継ぎがなされなかったとしても、工作物300上に設置された無線通信装置100にデータが記憶されているため、建造当時の膜厚や塗料400の素材に加え、それ以降に計測された膜厚に関する情報を把握することが可能となる。
【0063】
また、無線通信装置100からデータを取得するためには、電波を用いた通信が必要となるが、この電波を膜厚測定にも用いることで、超音波や電流を用いる方法など膜厚測定のために別の機構を用いる必要がなく、簡単な構成で塗料400の膜厚を測定することが可能となる。
【0064】
加えて、一般的な膜厚計と比較すると、無線通信装置100との距離により測定する膜厚に影響を与える可能性があるが、受信機200にプローブ240などを設置して塗料400上でまんべんなく動かして最も強い電波強度を測定することにより、上記の問題を解決して正しい膜厚測定が可能となる。さらに、プローブ240に車輪を設けたり、プローブ240を動かすためのレールを設置することで、プローブ240をまんべんなく動かすことを容易にすることが可能となる。
【0065】
(処理の流れ)
以下、図9を参照しながら、受信機200が膜厚測定のために実行する制御処理の一例を説明する。
【0066】
受信機200の制御部230は、通信部210を介して無線通信装置100から素材、過去に測定された膜厚、測定日時、電波強度などの情報を取得する(ステップS101)。
【0067】
受信機200の制御部230は、通信部210を介して無線通信装置100から発せられる電波の電波強度を測定する(ステップS102)。
【0068】
受信機200の制御部230は、測定した電波強度と、取得した素材そのほか過去に測定された膜厚、測定日時などの情報を用いて、膜厚を推定する(ステップS103)。
【0069】
膜厚を推定した後、受信機200の制御部230は、通信部210を介して無線通信装置100が推定された膜厚に関するデータを記憶するため、無線通信装置100に対して、測定日時、膜厚を送信する。(ステップS104)
【0070】
(膜厚管理システム)
膜厚管理装置10は、複数の無線通信装置100並びに単一又は複数の受信機200を有し、膜厚管理システム1として構成してもよい。
【0071】
図10に膜厚管理システム1の構成図を示す。例えば、膜厚管理システム1は、複数の無線通信装置100-1から100-Nと受信機200から構成される。なお、受信機200は1台でも複数でもよい。
【0072】
受信機200は、無線通信装置100-1から100-Nと通信が可能であり、無線通信装置100-1から100-Nと通信することで、膜厚を測定し、その膜厚データをそれぞれ無線通信装置100-1から100-Nに記憶する。これにより、無線通信装置100におけるそれぞれの箇所の膜厚データを記憶することが可能となる。
【0073】
また、無線通信装置100-1から100-Nは、該当箇所の膜厚に関するデータのみでなく、工作物300における他の無線通信装置100に関する膜厚データをともに記憶してもよい。
【0074】
無線通信装置100-1から100-Nは、当該無線通信装置上の過去から現在までの膜厚データのみならず、他の無線通信装置100に関する膜厚データも記憶することにより、例えばある無線通信装置100-Kのデータが失われたとしても、他の無線通信装置100-Lからデータを復元することが可能となる。特に屋外に設置される工作物300においては、場所によって紫外線、雨、風などの影響により劣化しやすく、データが消失する可能性があるため、このように冗長化された構成によりデータを保護することが可能となる。
【0075】
以上で実施形態の説明を終了するが、上記実施形態は一例に過ぎない。そのため、膜厚管理システム1、無線通信装置100、受信機200の具体的な構成、処理内容等は上記実施形態で説明したものに限られない。
【0076】
以上、本開示の好ましい実施形態について説明したが、本開示は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、本開示には、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲が含まれる。また、上記実施形態及び変形例で説明した装置の構成は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせ可能である。
【符号の説明】
【0077】
1…膜厚管理システム、10…膜厚管理装置、100、100-1~100-N…無線通信装置,101…アンテナ、102…制御回路、103…メモリ、110…通信部、120…記憶部、121…膜厚DB、130…制御部、200…受信機、201…プロセッサ、202…メモリ、203…ストレージ、204…通信IF、205…入出力IF、210…通信部、220…記憶部、230…制御部、231…送受信部、232…計測部、233…膜厚推定部、240…プローブ、300…工作物、400…塗料、NW…ネットワーク

【要約】
【課題】膜厚管理装置により、工作物の塗料の膜厚を測定し記憶することを可能とする。なお、工作物に情報を記憶する無線通信装置を固定することで情報の喪失を防止する。
【解決手段】膜厚管理装置は、工作物に固定され、塗料によって覆われる無線通信装置と、無線通信装置と電波を介して通信を行うための受信機とを備え、無線通信装置は、受信機から発せられる電波を受信するアンテナと、電波から給電する制御回路と、測定した膜厚を記憶するメモリとを有する。
【選択図】図1

図1
図2
図3
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図6
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図10