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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】堤防補強方法
(51)【国際特許分類】
   E02B 3/10 20060101AFI20240221BHJP
【FI】
E02B3/10
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020037791
(22)【出願日】2020-03-05
(65)【公開番号】P2021139162
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2023-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】510131487
【氏名又は名称】国土交通省大臣官房会計課長
(73)【特許権者】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000150110
【氏名又は名称】株式会社竹中土木
(73)【特許権者】
【識別番号】000219406
【氏名又は名称】東亜建設工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000222668
【氏名又は名称】東洋建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000236610
【氏名又は名称】株式会社不動テトラ
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森川 嘉之
(72)【発明者】
【氏名】高橋 英紀
(72)【発明者】
【氏名】上野 一彦
(72)【発明者】
【氏名】グエン タング タン ビン
(72)【発明者】
【氏名】河田 雅也
(72)【発明者】
【氏名】徳永 幸彦
(72)【発明者】
【氏名】小西 一生
(72)【発明者】
【氏名】田口 博文
(72)【発明者】
【氏名】浅田 英幸
(72)【発明者】
【氏名】府川 裕史
(72)【発明者】
【氏名】久保 滋
(72)【発明者】
【氏名】和田 眞郷
(72)【発明者】
【氏名】深田 久
(72)【発明者】
【氏名】山田 和彦
【審査官】亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-013451(JP,A)
【文献】特開2007-231641(JP,A)
【文献】特開2015-081436(JP,A)
【文献】特開2009-287365(JP,A)
【文献】特開2006-161358(JP,A)
【文献】特開2011-214248(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0025670(KR,A)
【文献】特開2014-177854(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 3/04-3/14
E02B 5/00-7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
堤体からなる堤防を補強する方法であって、
地震時を含む外力作用時および越流時に前記堤体の天端高さを維持するために、前記堤体の内部に天端から所定の深さまで鉛直方向に延び、地盤材料とセメント系固化材とを混合した地盤改良体からなる壁体を設けるステップと、前記壁体の堤外側に遮水層を設け、前記壁体と前記遮水層との間に不飽和領域を形成することによって、前記壁体へ作用する土圧、水圧、空圧の合力である外力を低減するステップとを備え、前記壁体は、越流によって堤内側の地盤が洗掘した場合でも自立可能であるとともに、地震動または堤外側の水面変動によって前記堤体の周辺地盤が沈下した場合でも天端高さを維持可能であることを特徴とする堤防補強方法。
【請求項2】
前記壁体が、上方から見て格子状を呈する構造体、または、側方から見て格子状を呈する構造体であることを特徴とする請求項に記載の堤防補強方法。
【請求項3】
前記遮水層を、前記堤体の堤外側のり面の全体と、前記堤体の天端の前記壁体の上面とに連続的に設けることを特徴とする請求項またはに記載の堤防補強方法。
【請求項4】
堤外側の前記堤体の内部において所定の深さまで壁状に遮水壁を設けるステップを備え、この遮水壁は、堤外側から前記堤体の内部への水の浸透を防ぎ、前記壁体へ作用する前記外力を低減するものであることを特徴とする請求項のいずれか一つに記載の堤防補強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、堤防補強構造および堤防補強方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、津波や高潮が海岸堤防に来襲し、海側の水位が上昇して越流が発生すると、陸側の地盤が洗掘されることがある。これは堤体全体の破壊につながり、海水が陸域に流れ込み甚大な被害が発生する。また、津波に先行する地震動によって、堤防が崩壊したり、天端高さが下がったりすると、海水が陸域に流れ込み甚大な被害が発生する。また、高波等によって堤防の海側が崩壊し、周辺地盤が消失したり沈下することもある。
【0003】
このような問題を解決するため、従来は、例えば以下のような対策が採られていた。
(1)越流等が発生しないように、堤防の天端高さを高くする方法
(2)地震動によって沈下する量を推定して、天端を高くしておく方法
(3)堤体下部の原地盤を地盤改良により強化する方法
(4)地震動や越流等を受けても天端高さを保つために、堤体内部に鋼管矢板や二重矢板などを打設する方法(例えば、特許文献1を参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-214248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の従来の方法は、それぞれ以下のような問題がある。
(1)全ての大きな津波や高波、高潮に対応することは難しい。越流等が発生しても、崩壊しない堤防が必要である。
(2)天端を高くすることで、沈下量がより増えることになり、最適な高さを設定することが困難である。また、総じて不経済である。
(3)堤体下部を地盤改良するためには、特殊な工法が必要であり、不経済である。
(4)鋼材を用いることから不経済である。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、堤防の越流等に対する抵抗性能および耐震性能を向上することのできる経済的な堤防補強構造および堤防補強方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る堤防補強構造は、堤体からなる堤防を補強する構造であって、地震時を含む外力作用時および越流時に堤体の天端高さを維持するために、堤体の内部に天端から所定の深さまで壁状に設けられ、地盤材料とセメント系固化材とを混合した地盤改良体からなる壁体を備え、この壁体は、越流によって堤内側の地盤が洗掘した場合でも自立可能であるとともに、地震動または堤外側の水面変動によって堤体の周辺地盤が沈下した場合でも天端高さを維持可能であることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る他の堤防補強構造は、上述した発明において、壁体が、格子状の構造体であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る他の堤防補強構造は、上述した発明において、堤体の表層側に設けられた遮水層を備え、この遮水層は、堤体の内部への水の浸透を防ぎ、壁体へ作用する外力を低減するものであることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る他の堤防補強構造は、上述した発明において、堤外側の堤体の内部において所定の深さまで壁状に設けられた遮水壁を備え、この遮水壁は、堤体の内部への水の浸透を防ぎ、壁体へ作用する外力を低減するものであることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る堤防補強方法は、堤体からなる堤防を補強する方法であって、地震時を含む外力作用時および越流時に堤体の天端高さを維持するために、堤体の内部に天端から所定の深さまで、地盤材料とセメント系固化材とを混合した地盤改良体からなる壁体を設けるステップを備え、この壁体は、越流によって堤内側の地盤が洗掘した場合でも自立可能であるとともに、地震動または堤外側の水面変動によって堤体の周辺地盤が沈下した場合でも天端高さを維持可能であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る他の堤防補強方法は、上述した発明において、壁体が、格子状の構造体であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る他の堤防補強方法は、上述した発明において、堤体の表層側に遮水層を設けるステップを備え、この遮水層は、堤体の内部への水の浸透を防ぎ、壁体へ作用する外力を低減するものであることを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る他の堤防補強方法は、上述した発明において、堤外側の堤体の内部において所定の深さまで壁状に遮水壁を設けるステップを備え、この遮水壁は、堤体の内部への水の浸透を防ぎ、壁体へ作用する外力を低減するものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る堤防補強構造によれば、堤体からなる堤防を補強する構造であって、地震時を含む外力作用時および越流時に堤体の天端高さを維持するために、堤体の内部に天端から所定の深さまで壁状に設けられ、地盤材料とセメント系固化材とを混合した地盤改良体からなる壁体を備え、この壁体は、越流によって堤内側の地盤が洗掘した場合でも自立可能であるとともに、地震動または堤外側の水面変動によって堤体の周辺地盤が沈下した場合でも天端高さを維持可能であるので、堤防の越流等に対する抵抗性能および耐震性能を経済的に向上することができるという効果を奏する。
【0016】
また、本発明に係る他の堤防補強構造によれば、壁体が、格子状の構造体であるので、地震時における堤体地盤のせん断変形を抑制して、堤体地盤内の過剰間隙水圧の上昇を抑制することができ、液状化強度を向上させることができるという効果を奏する。
【0017】
また、本発明に係る他の堤防補強構造によれば、堤体の表層側に設けられた遮水層を備え、この遮水層は、堤体の内部への水の浸透を防ぎ、壁体へ作用する外力を低減するものであるので、壁体を経済的なものにすることができるという効果を奏する。
【0018】
また、本発明に係る他の堤防補強構造によれば、堤外側の堤体の内部において所定の深さまで壁状に設けられた遮水壁を備え、この遮水壁は、堤体の内部への水の浸透を防ぎ、壁体へ作用する外力を低減するものであるので、壁体を経済的なものにすることができるという効果を奏する。
【0019】
また、本発明に係る堤防補強方法によれば、堤体からなる堤防を補強する方法であって、地震時を含む外力作用時および越流時に堤体の天端高さを維持するために、堤体の内部に天端から所定の深さまで、地盤材料とセメント系固化材とを混合した地盤改良体からなる壁体を設けるステップを備え、この壁体は、越流によって堤内側の地盤が洗掘した場合でも自立可能であるとともに、地震動または堤外側の水面変動によって堤体の周辺地盤が沈下した場合でも天端高さを維持可能であるので、堤防の越流等に対する抵抗性能および耐震性能を経済的に向上することができるという効果を奏する。
【0020】
また、本発明に係る他の堤防補強方法によれば、壁体が、格子状の構造体であるので、地震時における堤体地盤のせん断変形を抑制して、堤体地盤内の過剰間隙水圧の上昇を抑制することができ、液状化強度を向上させることができるという効果を奏する。
【0021】
また、本発明に係る他の堤防補強方法によれば、堤体の表層側に遮水層を設けるステップを備え、この遮水層は、堤体の内部への水の浸透を防ぎ、壁体へ作用する外力を低減するものであるので、壁体を経済的なものにすることができるという効果を奏する。
【0022】
また、本発明に係る他の堤防補強方法によれば、堤外側の堤体の内部において所定の深さまで壁状に遮水壁を設けるステップを備え、この遮水壁は、堤体の内部への水の浸透を防ぎ、壁体へ作用する外力を低減するものであるので、壁体を経済的なものにすることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、本発明に係る堤防補強構造および堤防補強方法の実施の形態を示す横断面図である。
図2図2は、設計での外力図であり、(1)は一般的な設計、(2)は遮水効果を考慮した設計である。
図3図3は、実験結果を示す図であり、(1)は比較例、(2)は実施例である。
図4図4は、不飽和領域が残留している時(t=2s)としていない時(t=8s)の比較図である。
図5図5は、格子状の壁体の一例を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明に係る堤防補強構造および堤防補強方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0025】
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る堤防補強構造10は、基礎地盤G上に築造された堤体12からなる堤防14を補強する構造であって、堤体12内に設けられた壁体16を備える。堤体12は、幅Bに対する長さの比率が大きい線状の構造物であり、横断面形状は略台形状である。図1において、HWLは津波、高潮来襲時の水位、NWLは平常時の水位、GLは越流洗掘後の地表面である。
【0026】
壁体16は、地震時を含む外力作用時および越流時に堤体12の天端高さHを維持するためのものであり、堤体12の天端18の略中央から基礎地盤Gにかけて鉛直方向に壁板状に設けられる。この壁体16は、地盤材料とセメント系固化材とを混合した地盤改良体からなる。壁体16は、津波や高潮来襲時の越流によって堤体12の陸側(堤内側)の地盤G1が洗掘した場合でも自立可能に構成されるとともに、地震動や堤外側の水面変動によって堤体12の周辺地盤が沈下した場合でも天端高さHを維持可能に構成される。これにより、越流が発生して陸側の地盤G1が洗掘された場合でも、天端高さHを保つことができる。また、地震動や高波等によって周辺地盤が沈下した場合でも、天端高さHを保持することができる。なお、図1の例では、壁体16が基礎地盤Gに着底している場合を図示しているが、本発明の壁体はこれに限るものではなく、例えば壁体16は基礎地盤Gに着底しない構造であってもよい。壁体16は、越流によって堤体12の陸側の地盤G1が洗掘した場合でも自立可能で、かつ、地震動や高波等によって堤体12の周辺地盤が沈下した場合でも天端高さHを維持可能に支持できればいかなる態様のものでもよい。
【0027】
堤体12の堤外側のり面20の全体と、天端18の壁体16上面まで(表層側)は、遮水層22で連続的に防護されている。遮水層22は、堤体12の内部への水の浸透を防ぎ、壁体16へ作用する外力(土圧、水圧、空圧の合力)を低減するものである。
【0028】
また、堤外側のり面20ののり先の直下には、遮水壁24が設けられる。この遮水壁24は、のり先から基礎地盤Gにかけて鉛直方向に延びる壁板状のものであり、例えば矢板や地盤改良体により構築される。この地盤改良体は、堤体地盤とセメント系固化材とを原位置で混合撹拌する深層混合処理工法などで形成可能である。遮水壁24は、堤体12の内部への水の浸透を防ぎ、壁体16へ作用する外力(土圧、水圧、空圧の合力)を低減するものである。
【0029】
平常時の水位NWLよりも上側の遮水層22と遮水壁24と壁体16の間には、不飽和領域Rが形成される。図2(1)は、一般的な設計での外力図、(2)は遮水効果を考慮した設計での外力図である。図2(1)に示すように、遮水層22、遮水壁24がない場合、堤体12内部に水が浸入すると、壁体16に有効土圧Psと静水圧Pwの合力が作用する。これに対し、図2(2)に示すように、遮水層22、遮水壁24により水が浸入しなければ、壁体16には有効土圧Psと空圧Paの合力しか作用しない。
【0030】
したがって、遮水層22、遮水壁24を設けると、壁体16へ作用する外力を低減することができる。外力が低減すると、壁体16に要求される抵抗性能(例えば、体積やセメント量など)が減り、壁体16を経済的なものにすることができる。遮水層22は、のり面20の最外層に限るものではなく、堤外側から堤体12の内部への水の浸透を防げる位置であればいかなる位置でもよい。最外層に設ける場合は施工が容易となる。また、遮水壁24は、のり先の下方に限るものではなく、堤外側から堤体12の内部への水の浸透を防げる位置であればいかなる位置に設けてもよい。遮水層22、遮水壁24はいずれか一方を省略することができるし、双方を省略することもできるが、壁体16へ作用する外力を低減する上で設けることが望ましい。
【0031】
上記の堤防補強構造10を構築する場合には、堤体12の天端18から、周知のセメント固化処理工法による地盤改良を施し、堤体12内に地盤改良した壁体16を形成する。また、堤体12の堤外側のり面20ののり先の下側部分に遮水壁24を構築するとともに、堤外側のり面20と天端18に遮水層22を構築する。地盤改良は、堤体地盤とセメント系固化材とを原位置で混合撹拌する混合処理工法が好ましい。この堤防補強構造10によれば、鋼材を用いないので、堤防14の越流等に対する対策、耐震補強を経済的に行うことができる。したがって、堤防14の越流等に対する抵抗性能および耐震性能を経済的に向上することができる。
【0032】
上記の実施の形態においては、壁体16が板状の場合を例にとり説明したが、本発明の壁体は板状に限るものではなく、様々な形態を採用可能である。例えば、壁体16が格子状の構造体であってもよい。つまり、地盤改良した部分が、図5に示すように平面視で格子状を呈する構造体であってもよいし、側面視で格子状を呈する構造体であってもよい。または、これらの組み合わせでもよい。壁体16を格子状の構造体とすれば、地震時における堤体地盤のせん断変形を抑制して、堤体地盤内の過剰間隙水圧の上昇を抑制することができ、液状化強度を向上させることができる。また、上記の実施の形態では、壁体16を堤体12の横断方向に一つだけ設けた場合を例にとり説明したが、本発明はこれに限るものではなく、堤体12の横断方向に間隔をあけて壁体16を2つ以上設けてもよい。このようにしても、上記と同様の作用効果を奏することができる。
【0033】
(本発明の効果の検証)
次に、本発明の効果を検証するために行った実験および結果について説明する。
【0034】
本実験は、水槽に入れた堤体模型を用いて、壁体の影響を調べたものである。まず、堤体模型の堤外側の水位を上げることによって、越流を生じさせた。図3(1)は壁体を有しない堤体(比較例)、(2)は幅方向に間隔をあけて2つの壁体を設けた堤体(本発明の実施例)である。この図に示すように、比較例では、越流が発生して陸側の地盤が洗掘されると、天端高さを保つことができない。これに対し、実施例では、越流が発生して陸側の地盤が洗掘された場合でも、天端高さを保つことができる。したがって、壁体を有する本実施例は、比較例に比べて、越流に対する抵抗性能に優れている。
【0035】
次に、壁体を有し、遮水層、遮水壁を有さない堤体を用いて、越流時の堤体内部各所の間隙水圧の時間変化を測定し、不飽和領域の影響について調べた。図4(1)、(2)は、測定点を示している。(1)がt=2s、(2)がt=8sである。測定点P5、P8は壁体の左側(堤外側)の上下に位置し、P5は平常時の水位よりも下側に、P8は天端近傍に設定している。(3)に示すように、t=0の越流開始からt=2sまでの越流初期は壁体の左側に不飽和領域が残留して水圧上昇が抑えられているが、t=8sでは不飽和領域が残留しなくなり水圧が上昇している。(4)~(6)に、各時刻における壁体に作用する曲げモーメント、水平荷重、壁体の変位を示す。不飽和領域が残留しなくなると、曲げモーメント、水平荷重、変位が増大することがわかる。したがって、壁体の堤外側で不飽和領域が残留するように、遮水層を設けることが有効である。
【0036】
以上説明したように、本発明に係る堤防補強構造によれば、堤体からなる堤防を補強する構造であって、地震時を含む外力作用時および越流時に堤体の天端高さを維持するために、堤体の内部に天端から所定の深さまで壁状に設けられ、地盤材料とセメント系固化材とを混合した地盤改良体からなる壁体を備え、この壁体は、越流によって堤内側の地盤が洗掘した場合でも自立可能であるとともに、地震動または堤外側の水面変動によって堤体の周辺地盤が沈下した場合でも天端高さを維持可能であるので、堤防の越流等に対する抵抗性能および耐震性能を経済的に向上することができる。
【0037】
また、本発明に係る他の堤防補強構造によれば、壁体が、格子状の構造体であるので、地震時における堤体地盤のせん断変形を抑制して、堤体地盤内の過剰間隙水圧の上昇を抑制することができ、液状化強度を向上させることができる。
【0038】
また、本発明に係る他の堤防補強構造によれば、堤体の表層側に設けられた遮水層を備え、この遮水層は、堤体の内部への水の浸透を防ぎ、壁体へ作用する外力を低減するものであるので、壁体を経済的なものにすることができる。
【0039】
また、本発明に係る他の堤防補強構造によれば、堤外側の堤体の内部において所定の深さまで壁状に設けられた遮水壁を備え、この遮水壁は、堤体の内部への水の浸透を防ぎ、壁体へ作用する外力を低減するものであるので、壁体を経済的なものにすることができる。
【0040】
また、本発明に係る堤防補強方法によれば、堤体からなる堤防を補強する方法であって、地震時を含む外力作用時および越流時に堤体の天端高さを維持するために、堤体の内部に天端から所定の深さまで、地盤材料とセメント系固化材とを混合した地盤改良体からなる壁体を設けるステップを備え、この壁体は、越流によって堤内側の地盤が洗掘した場合でも自立可能であるとともに、地震動または堤外側の水面変動によって堤体の周辺地盤が沈下した場合でも天端高さを維持可能であるので、堤防の越流等に対する抵抗性能および耐震性能を経済的に向上することができる。
【0041】
また、本発明に係る他の堤防補強方法によれば、壁体が、格子状の構造体であるので、地震時における堤体地盤のせん断変形を抑制して、堤体地盤内の過剰間隙水圧の上昇を抑制することができ、液状化強度を向上させることができる。
【0042】
また、本発明に係る他の堤防補強方法によれば、堤体の表層側に遮水層を設けるステップを備え、この遮水層は、堤体の内部への水の浸透を防ぎ、壁体へ作用する外力を低減するものであるので、壁体を経済的なものにすることができる。
【0043】
また、本発明に係る他の堤防補強方法によれば、堤外側の堤体の内部において所定の深さまで壁状に遮水壁を設けるステップを備え、この遮水壁は、堤体の内部への水の浸透を防ぎ、壁体へ作用する外力を低減するものであるので、壁体を経済的なものにすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
以上のように、本発明に係る堤防補強構造および堤防補強方法は、海岸や河岸に設置される堤防などに有用であり、特に、越流等に対する抵抗性能および耐震性能を、経済的に向上するのに適している。
【符号の説明】
【0045】
10 堤防補強構造
12 堤体
14 堤防
16 壁体
18 天端
20 のり面
22 遮水層
24 遮水壁
B 幅
G 基礎地盤
G1 陸側の地盤
GL 越流洗掘後の地表面
H 天端高さ
HWL 津波、高潮来襲時の水位
NWL 平常時の水位
Pa 空圧
Ps 有効土圧
Pw 静水圧
R 不飽和領域
図1
図2
図3
図4
図5