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特許7440869光共振器並びにそれを用いた炭素同位体分析装置及び炭素同位体分析方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】光共振器並びにそれを用いた炭素同位体分析装置及び炭素同位体分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/3504 20140101AFI20240221BHJP
   G01J 3/26 20060101ALI20240221BHJP
   G02F 1/37 20060101ALI20240221BHJP
【FI】
G01N21/3504
G01J3/26
G02F1/37
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020557637
(86)(22)【出願日】2019-11-21
(86)【国際出願番号】 JP2019045682
(87)【国際公開番号】W WO2020105714
(87)【国際公開日】2020-05-28
【審査請求日】2022-07-22
(31)【優先権主張番号】P 2018217929
(32)【優先日】2018-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018217938
(32)【優先日】2018-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390037327
【氏名又は名称】積水メディカル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 賢二
(72)【発明者】
【氏名】二宮 真一
(72)【発明者】
【氏名】富田 英生
(72)【発明者】
【氏名】井口 哲夫
(72)【発明者】
【氏名】西澤 典彦
(72)【発明者】
【氏名】ゾンネンシャイン フォルカ
(72)【発明者】
【氏名】寺林 稜平
【審査官】三宅 克馬
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-516405(JP,A)
【文献】国際公開第2016/140254(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/122475(WO,A1)
【文献】特開平11-64109(JP,A)
【文献】特開2009-128193(JP,A)
【文献】武田晨 ほか,中赤外キャビティリングダウン分光におけるバックグラウンドノイズの低減,第79回応用物理学会秋季学術講演会 講演予稿集,応用物理学会,2018年09月05日,02-120
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/01
G01N 21/17 - G01N 21/61
G01J 3/00 - G01J 4/04
G01J 7/00 - G01J 9/04
G02F 1/00 - G02F 1/125
G02F 1/21 - G02F 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のミラーを備える光共振器と、
前記光共振器からの透過光の強度を検出する光検出器と、
照射光の光軸と、エタロン効果により生じる光の光軸とが一致しないように、前記ミラーの互いの相対的位置関係を調整する第一の干渉除去手段と、を備える分光装置。
【請求項2】
前記第一の干渉除去手段は、前記光共振器内に照射される照射光の光軸上の光の干渉を防止するための、前記ミラーの一方が搭載可能であり、前記ミラーの3次元の位置調整が可能なアライメント機構である、請求項1に記載の分光装置。
【請求項3】
前記アライメント機構は、前記光共振器内に照射される照射光の光軸をX軸としたときに、
(i)X軸、Y軸、Z軸のそれぞれの方向に移動可能、
(ii)X軸、Y軸、Z軸のそれぞれの軸を中心に略360度回転可能、
の少なくとも一方を満たす、請求項2に記載の分光装置。
【請求項4】
前記第一の干渉除去手段は、光共振器端部に設けられている、請求項1から3のいずれか1項に記載の分光装置。
【請求項5】
前記分光装置は、さらに第二の干渉除去手段を備える、請求項1から4のいずれか1項に記載の分光装置。
【請求項6】
前記第一の干渉除去手段と、前記第二の干渉除去手段は、エタロン効果を除去するものである、請求項に記載の分光装置。
【請求項7】
前記分光装置は、さらに光共振器長を共鳴から非共鳴条件へと制御するピエゾ素子を備える、請求項1からのいずれか1項に記載の分光装置。
【請求項8】
炭素同位体から二酸化炭素同位体を含むガスを生成する燃焼部、二酸化炭素同位体精製部を備える二酸化炭素同位体生成装置と、
請求項1から7のいずれか1項に記載の分光装置と、
光発生装置と、を備える炭素同位体分析装置。
【請求項9】
前記光発生装置は、1つの光源、前記光源からの第1光を伝送する第1光ファイバー、前記第1光ファイバーの分岐点から分岐し前記第1光ファイバーの下流側の合流点で合流し前記第1光よりも長波長の第2光を発生させる第2光ファイバー、前記第1光ファイバーの前記分岐点と前記合流点の間に配置された第1増幅器、前記第2光ファイバーの前記分岐点と前記合流点の間に配置され前記第1増幅器とは帯域が異なる第2増幅器、周波数が異なる複数の光を通過させることで周波数の差から前記二酸化炭素同位体の吸収波長の光として波長4.5μm~4.8μm帯の中赤外域光周波数の光コムを発生させる非線形光学結晶を備える請求項8に記載の炭素同位体分析装置。
【請求項10】
前記光発生装置は、前記光源からの光を複数のスペクトル成分に分ける波長フィルタ、前記複数のスペクトル成分のそれぞれの時間差を調整し非線形結晶に集光させる分光手段を備えるディレイラインをさらに備える、請求項9に記載の炭素同位体分析装置。
【請求項11】
炭素同位体から二酸化炭素同位体を生成する工程と、
前記二酸化炭素同位体を1対のミラーを有する光共振器内に充填する工程と、
前記光共振器内に前記二酸化炭素同位体に対する吸収波長を有する照射光を照射する工程と、
前記照射光の光軸と、エタロン効果により生じる光の光軸とが一致しないように、前記ミラーの互いの相対的位置関係を調整する工程と、
前記二酸化炭素同位体に前記照射光を照射し共振させた際に得られる透過光の強度を測定する工程と、
透過光の強度から炭素同位体濃度を計算する工程と、を有する炭素同位体分析方法。
【請求項12】
前記照射光を放射性二酸化炭素同位体14COに照射する、請求項11に記載の炭素同位体分析方法。
【請求項13】
前記光共振器内にガスが充填されていない状態で第一のスペクトルを測定する工程と、
前記光共振器内に試料ガスを充填した状態で第二のスペクトルを測定する工程と、
前記第一、第二のスペクトルを対比し、オシレーションの値を除去する工程と、をさらに有する請求項11または12に記載の炭素同位体分析方法。
【請求項14】
前記照射光として、複数の光を非線形光学結晶に通過させることにより周波数の差から波長4.5μm~4.8μm帯の中赤外域光周波数の光コムを発生させる、請求項11から13のいずれか1項に記載の炭素同位体分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、寄生エタロン効果を抑制できる光共振器並びにそれを用いた炭素同位体分析装置及び炭素同位体分析方法に関する。より詳しくは、放射性炭素同位体14C等の測定に有用な光共振器並びにそれを用いた放射性炭素同位体分析装置及び放射性炭素同位体分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素同位体は、従来より炭素循環に基づく環境動態評価や年代測定による歴史学の実証研究など、文理に渡る広範な応用展開がなされている。炭素同位体は、地域・環境によりわずかに異なるものの、安定同位体元素である12Cと13Cはそれぞれ98.89%と1.11%、放射性同位体14Cは1×10-10%天然に存在している。同位体は重量の相違があるだけで、化学的には同じ挙動を示すため、存在比の低い同位体の濃度を人工的な操作により高くし、精度よく測定を行うことで様々な反応過程の観測が可能となる。
【0003】
特に、臨床の分野においては医薬品体内動態評価を行うために、標識化合物として、例えば放射性炭素同位体14Cを生体に投与し分析することは極めて有用であり、例えばPhase I、Phase IIaにおいて実際に分析されている。ヒトにおいて薬理作用を発現すると推定される投与量(薬効発現量)を超えない用量(以下「マイクロドーズ」ともいう)の標識化合物として、極微量の放射性炭素同位体14C(以下、単に「14C」ともいう)を人体に投与し、分析することは、体内動態の問題に起因する医薬品の薬効・毒性についての知見が得られるため、創薬プロセスにおける開発リードタイムを大幅に短縮するものとして期待されている。
【0004】
従来より提案されている14C分析法としては、液体シンシチレーションカウンティング法(liquid Scintillation Counting、以下「LSC」ともいう)と、加速器質量分析法(Accelerator Mass Spectrometry、以下「AMS」ともいう)とが挙げられる。
LSCは、テーブルトップサイズの比較的小型な装置であるため簡便かつ迅速な分析が可能であるが、14Cの検出限界濃度が10dpm/mLと高いため臨床試験での使用に耐えうるものではなかった。一方、AMSは14Cの検出限界濃度が0.001dpm/mLと低く、LSCの14Cの検出限界濃度の1000倍以上低いため臨床試験での使用に耐えうるが、装置が大きくしかも高額であるためその利用が制限されていた。例えば日本国内にはAMSは十数台しか設置されていないことより、試料分析の順番待の時間を考慮すると、1サンプルの分析に1週間程度の時間を要していた。そのため、簡易、かつ迅速な14Cの分析法の開発が望まれていた。
【0005】
上述の課題を解決する手段としていくつかの技術が提案されている(例えば、非特許文献1、特許文献1参照。)。
例えば非特許文献1では、I. Galliらにより、キャビティーリングダウン分光法(Cavity Ring-Down Spectroscopy、以下「CRDS」ともいう)による天然同位体存在比レベルの14C分析の実証がなされ、その可能性が注目された。
しかしながら、CRDSによる14C分析が実証されたものの、利用された4.5μm帯レーザー光発生装置は極めて複雑な構造であったため、より簡易で使い勝手のよい14Cの分析装置及び分析方法が求められていた。そのため、本発明者等は1つの光源から光コムを発生する光コム光源を独自に開発することにより、コンパクトで使い勝手がよい、炭素同位体分析装置を完成した(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第3390755号公報
【文献】特許第6004412号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】「I.Galli et al.,Phy. Rev. Lett.2011, 107, 270802」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者等は炭素同位体分析装置の更なる分析精度の向上を図るため更なる検討を行ったところ、CRDSにおいては、光共振器と光路上の光学部品との表面間で反射が起こり、寄生エタロン効果が生じることにより、ベースラインに大きなノイズが生じていた。そのため、寄生エタロン効果を抑制できる光共振器が求められていた。
本発明は、寄生エタロン効果を抑制できる光共振器並びにそれを用いた炭素同位体分析装置及び炭素同位体分析方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下の内容に関する。
[1]一対のミラーを備える光共振器と、光共振器からの透過光の強度を検出する光検出器と、ミラーの互いの相対的位置関係を調整する第一の干渉除去手段と、を備える分光装置。
[2]第一の干渉除去手段は、光共振器内に照射される照射光の光軸上の光の干渉を防止するための、ミラーの一方が搭載可能であり、ミラーの3次元の位置調整が可能なアライメント機構である、[1]に記載の分光装置。
[3]アライメント機構は、光共振器内に照射される照射光の光軸をX軸としたときに、
(i)X軸、Y軸、Z軸のそれぞれの方向に移動可能、
(ii)X軸、Y軸、Z軸のそれぞれの軸を中心に略360度回転可能、
の少なくとも一方を満たす、[2]に記載の分光装置。
[4]分光装置は、さらに第二の干渉除去手段を備える、[1]から[3]のいずれか1項に記載の分光装置。
[5]炭素同位体から二酸化炭素同位体を含むガスを生成する燃焼部、二酸化炭素同位体精製部を備える二酸化炭素同位体生成装置と、[1]から[4]のいずれか1項に記載の分光装置と、光発生装置と、を備える炭素同位体分析装置。
[6]光発生装置は、1つの光源、光源からの第1光を伝送する第1光ファイバー、第1光ファイバーの分岐点から分岐し第1光ファイバーの下流側の合流点で合流し第1光よりも長波長の第2光を発生させる第2光ファイバー、第1光ファイバーの分岐点と合流点の間に配置された第1増幅器、第2光ファイバーの分岐点と合流点の間に配置され第1増幅器とは帯域が異なる第2増幅器、周波数が異なる複数の光を通過させることで周波数の差から二酸化炭素同位体の吸収波長の光として波長4.5μm~4.8μm帯の中赤外域光周波数の光コムを発生させる非線形光学結晶を備える[5]に記載の炭素同位体分析装置。
[7]光発生装置は、光源からの光を複数のスペクトル成分に分ける波長フィルタ、複数のスペクトル成分のそれぞれの時間差を調整し非線形結晶に集光させる分光手段を備えるディレイラインをさらに備える、[5]または[6]に記載の炭素同位体分析装置。
[8]炭素同位体から二酸化炭素同位体を生成する工程と、二酸化炭素同位体を1対のミラーを有する光共振器内に充填する工程と、光共振器内に二酸化炭素同位体に対する吸収波長を有する照射光を照射する工程と、照射光の光軸と、エタロン効果により生じる光の光軸とが一致しないように、ミラーの互いの相対的位置関係を調整する工程と、二酸化炭素同位体に照射光を照射し共振させた際に得られる透過光の強度を測定する工程と、透過光の強度から炭素同位体濃度を計算する工程と、を有する炭素同位体分析方法。
[9]照射光を放射性二酸化炭素同位体14COに照射する、[8]に記載の炭素同位体分析方法。
[10]光共振器内にガスが充填されていない状態で第一のスペクトルを測定する工程と、光共振器内に試料ガスを充填した状態で第二のスペクトルを測定する工程と、第一、第二のスペクトルを対比し、オシレーションの値を除去する工程と、をさらに有する[8]または[9]に記載の炭素同位体分析方法。
[11]照射光として、複数の光を非線形光学結晶に通過させることにより周波数の差から波長4.5μm~4.8μm帯の中赤外域光周波数の光コムを発生させる、[8]から[10]のいずれか1項に記載の炭素同位体分析方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、寄生エタロン効果を抑制できることより、ベースラインのノイズを減少できる共振器並びにそれを用いた炭素同位体分析装置及び炭素同位体分析方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は炭素同位体分析装置の第1の実施態様の概念図である。
図2図2はアライメント機構の組立図である。
図3図3A図3B図3Cはアライメント機構の動きを示す図である。
図4図4A図4Bはアライメント機構を用いてエタロン効果を取り除く方法の原理を示す図である。
図5図5Aは従来の共振器を用いて測定した際に見られる長周期のオシレーションを示す図であり、図5Bは本発明の共振器を用いた測定することで長周期のオシレーションを抑制できることを示す図である。
図6図6A図6Bはレーザー光を用いた高速走査型のキャビティーリングダウン吸収分光法の原理を示す図である。
図7図7はCRDSにおける13CO14COの吸収量Δβの温度依存性を示す図である。
図8図8は光共振器の変形例の概念図である。
図9図914COと競合ガスの4.5μm帯吸収スペクトルを示す図である。
図10図10は炭素同位体分析装置の第2の実施態様の概念図である。
図11図11は分析試料の吸収波長と吸収強度の関係を示す図である。
図12図12は1本の光ファイバーを用いた中赤外コム生成の原理を示す図である。
図13図13Aは試料ガス(CO)をガスセルに充填した場合としなかった場合に測定されたスペクトルである。図13Bは、試料ガス(CO)をガスセルに充填した場合に測定されたスペクトル(引き算処理前)と引き算処理を行った後のスペクトルを示す図である。
図14図14A図14Bは、エタロン効果の概念図である。
図15図15Aは、14COを含むガスを測定したスペクトルを示す図であり、図15Bは、測定されたスペクトルと計算より求めたスペクトルを差し引きしてオシレーション成分を抽出したものを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、実施形態を挙げて本発明の説明を行うが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。図中同一の機能又は類似の機能を有するものについては、同一又は類似の符号を付して説明を省略する。但し、図面は模式的なものである。したがって、具体的な寸法等は以下の説明を照らし合わせて判断されるべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0013】
本明細書において「炭素同位体」とは、特に断りのない限り安定炭素同位体12C、13C、及び放射性炭素同位体14Cを意味する。また、単に元素記号「C」と表示される場合、天然存在比での炭素同位体混合物を意味する。
酸素の安定同位体は16O、17O及び18Oが存在するが、元素記号「O」と表示される場合、天然存在比での酸素同位体混合物を意味する。
「二酸化炭素同位体」とは、特に断りのない限り12CO13CO及び14COを意味する。また、単に「CO」と表示される場合、天然存在比の炭素及び酸素同位体により構成される二酸化炭素分子を意味する。
【0014】
本明細書において「生体試料」とは、血液、血漿、血清、尿、糞便、胆汁、唾液、その他の体液や分泌液、呼気ガス、口腔ガス、皮膚ガス、その他の生体ガス、さらには、肺、心臓、肝臓、腎臓、脳、皮膚などの各種臓器及びこれらの破砕物など、生体から採取し得るあらゆる試料を意味する。さらに、当該生体試料の由来は、動物、植物、微生物を含むあらゆる生物が挙げられ、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトの由来である。哺乳動物としては、ヒト、サル、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ウシ、ブタ、イヌ、ネコなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0015】
上述の課題を解決するべく、本発明者等は、寄生エタロン効果によるノイズを減少させるべく検討した結果、光共振器内において、本来の光の光軸と、エタロンの光軸をずらすことにより、ベースラインのドリフトを解決できることを知見した。そして、更なる検討を加えた結果、新たな分光装置及びそれを備える炭素同位体分析装置を完成するに至った。以下、炭素同位体分析装置の説明を通じて、新たな分光装置について説明する。
【0016】
[炭素同位体分析装置の第1の態様]
図1は、炭素同位体分析装置の概念図である。炭素同位体分析装置1は、二酸化炭素同位体生成装置40と、光発生装置20と、分光装置10と、さらに演算装置30とを備える。
ここでは、分析対象として、炭素同位体である放射性同位体14Cを例にあげて説明する。なお、放射性同位体14Cから生成される二酸化炭素同位体14COの吸収波長を有する光は4.5μm帯の光である。詳細は後述するが、測定対象物質の吸収線、光発生装置、及び光共振器モードの複合による選択性により、高感度化を実現することが可能となる。
【0017】
〈分光装置〉
図1に示すように、分光装置10Aは、光共振器11と、光共振器11からの透過光の強度を検出する光検出器15とを備える。光共振器(Optical resonator or Optical cavity)11は、分析対象の二酸化炭素同位体が封入される筒状の本体と、本体の内部の長手方向の一端と他端に凹面が向かい合うように配置された高反射率の1対のミラー12a、12bと、本体内部の他端に配置されたミラー12a、12b間隔を調整するピエゾ素子13と、ミラー12a、12bの互いの相対的位置関係を調整する、ミラー12a、12bの3次元の位置調整が可能なアライメント機構(第一、第二の干渉除去手段)14a、14bと、分析対象ガスが充填されるセル16と、を備える。ここでは、2つのアライメント機構を配置しているが、ミラー12a、12bの互いの相対的位置関係を調整できるのであれば、1つであっても構わない。
なお、ここでは図示を省略しているが、本体の側部に二酸化炭素同位体を注入するためのガス注入口や、本体内の気圧を調整する気圧調整口を設けておくことが好ましい。また、1対のミラー12a、12bの反射率は、99%以上が好ましく、99.99%以上がより好ましい。
【0018】
図2に示すように、アライメント機構14は、アライメント本体141,142と、アライメント本体141,142に設けられた穴部に配置され、ミラー12を搭載するミラーマウント143と、スライディングベース145と、を備える。なお、特に制限はないが、スライディングベース145、ピエゾ素子13、ピエゾ素子アダプター131を接着剤等で一体に形成してもよい。
図3Aに示すように、アライメント機構14を作動させることにより、ミラー12は矢印で示す方向に移動する。またマウント本体141,142は、X軸、Y軸、Z軸のそれぞれの方向に移動可能であると共に、X軸、Y軸、Z軸のそれぞれの軸を中心に略360度回転可能である。そのため、図3Bの矢印で示すように、マウント本体141,142を移動させることができる。なお、図3Cは、アライメント本体142側(裏面)からみた図である。
【0019】
図14Aに示すように、従来の光共振器111を用いた場合、ミラー12aと12bの高反射面ではない裏面で反射した光の光路が光共振器の本来の光軸と一致する場合がある。図14Bにミラー12aの高反射面で反射した光の光軸と裏面で反射した光の光軸Eが光共振器の本来の光軸Cと一致する様子が示されている。このような場合、裏面で反射した光が光軸上の他の光学部品101等に到達し、その表面間でさらに反射が起こる。これによって、ミラー12a、12b間の光路長Lcの光の乱反射の他に、ミラー12aと光学部品101間の光路長Leで共振が起こり、エタロン効果が生じ、ベースラインに大きなノイズが生じていた。なお、同じことがミラー12bにおいても起こり、ミラー12bの裏面で反射した光が光軸上の他の光学部品101等に到達し、その表面間でさらに反射が起こる。これによって、ミラー12a、12b間の光路長Lcの光の乱反射の他に、ミラー12bと光学部品101間の光路長で共振が起こり、エタロン効果が生じ、ベースラインに大きなノイズが生じていた。
【0020】
図15Aに示されるように、14COを含むガスをセルに充填して測定されたスペクトルには、ガスに含まれる成分による吸収以外の成分が含まれる。測定で得られた実験値から、計算で求めたガスに含まれるCO、NO、14CO2、Oによる吸収量を差し引き、オシレーション(見かけ上の減衰率が周期的に変化すること)を抽出したものを図15Bに示す。このようにオシレーション成分はより微量な14Cを分析する際に、14CO吸収量と同程度またはそれを超える大きさとなる場合があり、大きなノイズの要因となっていた。
【0021】
本発明者等は、上述の知見に基づいて検討した結果、図4Aに示すように、アライメント機構を作動させて、ミラー12aの位置をY軸に沿って移動させ、または図4Bに示すようにZ軸を中心にして回転させることにより、エタロン効果により生じた光の光軸Eを、光軸Cからずらすことを見出した。これにより、エタロン効果を抑制できる光共振器を完成した。
【0022】
図5Aに示すように、従来の共振器を用いた測定では、オシレーションが見られたが、本発明の共振器を用いた測定では図5Bに示すように、オシレーションを抑制することが可能となりノイズが大幅に減少した。
【0023】
光共振器内部11にレーザー光を入射し閉じ込めると、レーザー光はミラーの反射率に対応した強度の光を出力しながら、数千回~一万回というオーダーで多重反射を繰り返す。そのため実効的な光路が数10kmにも及ぶため、光共振器内部に封入された分析対象のガスが極微量であっても大きな吸収量を得ることができる。
【0024】
図6A図6Bはレーザー光を用いた高速走査型のキャビティーリングダウン吸収分光法(Cavity Ring-Down Spectroscopy 以下「CRDS」ともいう)の原理を示す図である。
図6Aに示すように、ミラー間隔が共鳴条件を満たしているときは、高強度の信号が光共振器から透過される。一方、ピエゾ素子13を作動させてミラー間隔を変更し、非共鳴条件とすると、光の干渉効果により信号を検出することができなくなる。つまり、光共振器長を共鳴から非共鳴条件へとすばやく変化させることで、図6Aに示すような指数関数的な減衰信号[リングダウン信号(Ringdown signal)]を観測することができる。リングダウン信号を観測する別の方法として、入力レーザー光を光学スイッチにて素早く遮断する方法が例示できる。
光共振器の内部に吸収物質が充填されていない場合、透過してくる時間依存のリングダウン信号は図6Bの点線で示すような曲線となる。一方、光共振器内に吸光物質が充填されている場合、図6Bの実線で示すように、レーザー光が光共振器内で往復するごとに吸収されるため、光の減衰時間が短くなる。この光の減衰時間は、光共振器内の吸光物質濃度及び入射レーザー光の波長に依存しているため、Beer-Lambertの法則iiを適用することで吸収物質の絶対濃度を算出することができる。また光共振器内の吸収物質濃度と比例関係にある減衰率(リングダウンレート)の変化量を測定することにより、光共振器内の吸収物質濃度を測定することができる。
【0025】
光共振器から漏れ出た透過光を光検出器により検知し、演算装置を用いて14CO濃度を算出した後、14CO濃度から14C濃度を算出することができる。
【0026】
光共振器11のミラー12a、12b間隔、ミラー12a、12bの曲率半径、本体の長手方向長さや幅等は、分析対象である二酸化炭素同位体が持つ吸収波長により変化させることが好ましい。想定される共振器長は1mm~10mが挙げられる。
二酸化炭素同位体14COの場合、共振器長が長いことは光路長を確保するのに有効であるが、共振器長が長くなるとガスセルの体積が増え、必要な試料量が増えるため、共振器長は10cm~60cmの間が好ましい。またミラー12a、12bの曲率半径は、共振器長と同じか、長くすることが好ましい。
なおミラー間隔は、ピエゾ素子13を駆動することにより、一例として数マイクロメートルから数十マイクロメートルのオーダーで調整することが可能である。最適な共鳴条件を作り出すために、ピエゾ素子13による微調整を行うこともできる。
なお、1対のミラー12a、12bとしては、1対の凹面鏡を図示して説明してきたが、十分な光路が得られるのであれば、その他にも凹面鏡と平面鏡の組み合わせや、平面鏡同士の組み合わせであっても構わない。
ミラー12a、12bを構成する材料としては、サファイアガラス、CaF、ZnSeを用いることができる。
分析対象ガスを充填するセル16は、容積がより小さいことが好ましい。少ない分析試料であっても効果的に光の共振効果を得ることができるからである。セル16の容量は、8mL~1000mLが例示できる。セル容量は、例えば測定に供することができる14C源の量に応じて適宜好ましい容量を選択でき、尿のように大量に入手できる14C源では80mL~120mLのセルが好適であり、血液や涙液のように入手量が限られる14C源では8mL~12mLのセルが好適である。
【0027】
光共振器の安定性条件の評価
CRDSにおける14CO吸収量と検出限界を評価するため、分光データに基づく計算を行った。12CO13COなどに関する分光データは大気吸収線データベース(HITRAN)を利用し、14COに関しては文献値(「S. Dobos et al., Z. Naturforsch, 44a, 633-639 (1989)」)を使用した。
ここで、14COの吸収によるリングダウンレート(指数関数的減衰の割合)の変化量Δβ(=β-β0、β:試料有りの減衰率、β0:試料なしの減衰率)は、14COの光吸収断面積σ14、分子数密度N、光速cにより以下のように表せる。
Δβ=σ14(λ,T,P)N(T,P,X14)c
(式中、σ14、Nは、レーザー光波長λ、温度T、圧力P、X14=14C/TotalC比の関数である。)
図7は、計算で求められた13CO14COの吸収によるΔβの温度依存性を示す図である。図7より、14C/TotalCが10-10、10-11、10-12では、室温300Kでの13COによる吸収が14COの吸収量を超えるか同程度となるため、冷却を行う必要があることが分かった。
一方、光共振器由来のノイズ成分であるリングダウンレートのばらつきΔβ0~10-1が実現できれば、14C/TotalC比~10-11の測定を実現できることが分かる。これにより、分析時の温度として摂氏-40度程度の冷却が必要であることが明らかとなった。例えば、定量下限として14C/TotalCを10-11とすると、COガスの濃縮によるCOガス分圧の上昇(例えば20%)と、前記温度条件とが必要であることが示唆される。
なお、冷却装置や冷却温度について、後述の炭素同位体分析装置の第2の態様の欄においてより詳細に述べる。
【0028】
光共振器11について説明したが、光共振器の具体的態様の概念図(一部切欠図)を図8示す。図8に示すように、光共振器51は、真空装置としての円筒状の断熱用チャンバー58と、断熱用チャンバー58内に配置された測定用ガスセル56と、測定用ガスセル56の両端に配置された1対の高反射率ミラー52と、測定用ガスセル56の一端に配置されたミラー駆動機構55と、測定用ガスセル56の他端に配置されたリングピエゾアクチュエーター53と、測定用ガスセル56を冷却するペルチェ素子59と、循環冷却器(図示せず)に接続された冷却パイプ54aを有する水冷ヒートシンク54と、を備える。
【0029】
〈二酸化炭素同位体生成装置〉
二酸化炭素同位体生成装置40は、炭素同位体から二酸化炭素同位体を含むガスを生成する燃焼部と、二酸化炭素同位体精製部とを備える。二酸化炭素同位体生成装置40は、炭素同位体を二酸化炭素同位体に変換可能であれば特に制限されることなく種々の装置を用いることができる。二酸化炭素同位体生成装置40としては、試料を酸化させ、試料中に含まれる炭素を二酸化炭素にする機能を有していることが好ましい。
例えば全有機炭素(total organic carbon 以下「TOC」という)発生装置、ガスクロマトグラフィー用の試料ガス発生装置、燃焼イオンクロマトグラフィー用の試料ガス発生装置、元素分析装置(Elemental Analyzer:EA)等の二酸化炭素生成装置(G)41を用いることができる。
図9に、273K、CO分圧20%、CO分圧1.0×10-4%、NO分圧3.0×10-8%の条件下における14COと競合ガス13CO,CO,及びNOの4.5μm帯吸収スペクトルを示す。
前処理後の生体試料を燃焼させることにより、二酸化炭素同位体14CO(以下、「14CO」ともいう)を含むガスを生成できる。しかし、14COの発生と共に、CO、NOといった夾雑ガスも発生する。これらCO、NOは、図9に示すように、それぞれ4.5μm帯の吸収スペクトルを有するので、14COが有する4.5μm帯の吸収スペクトルと競合する。そのため、分析感度を向上させるために、CO、NOを除去することが好ましい。
CO、NOの除去方法としては、以下のように14COを捕集・分離する方法が挙げられる。また、酸化触媒や白金触媒により、CO、NOを除去・低減する方法、及び前記捕集・分離方法との併用が挙げられる。
【0030】
(i)加熱脱着カラムによる14COの捕集・分離
二酸化炭素同位体生成装置は、燃焼部と、二酸化炭素同位体精製部と、を備えることが好ましい。燃焼部は、燃焼管と、燃焼管を加熱可能とする加熱部と、を備えることが好ましい。燃焼管は、試料を内部に収容可能に耐熱性ガラス(石英ガラス等)で構成され、燃焼管の一部に試料導入口が形成されていることが好ましい。燃焼管は試料導入口の他に、キャリアガスを燃焼管に導入可能にキャリアガス導入口を形成してもよい。なお、燃焼管の一部に試料導入口等を設ける態様の他にも、燃焼管の一端に燃焼管とは別部材で試料導入部を形成し、試料導入部に試料導入口やキャリアガス導入口を形成する構成としてもよい。
加熱部としては、燃焼管を内部に配置可能とし燃焼管を加熱可能とする、管状電気炉といった電気炉が挙げられる。管状電気炉の例としては、ARF-30M(アサヒ理化製作所)が挙げられる。
また、燃焼管は、キャリアガス流路の下流側に、少なくとも一種類の触媒を充填させた酸化部及び/又は還元部を具備することが好ましい。酸化部及び/又は還元部は、燃焼管の一端に設けてもよいし、別部材として設けてもよい。酸化部に充填する触媒として、酸化銅、銀・酸化コバルト混合物が例示できる。酸化部において、試料の燃焼により発生したH、COをHO、COに酸化することが期待できる。還元部に充填する触媒として、還元銅、白金触媒が例示できる。還元部において、NOを含む窒素酸化物(NO)をNに還元することが期待できる。
二酸化炭素同位体精製部としては、生体試料の燃焼により生じたガス中の14COを、ガスクロマトグラフィ(GC)で用いられるような、加熱脱着カラム(CO捕集カラム)を用いることができる。これにより14COを検出する段階でCO、NOの影響を軽減あるいは除去できる。またGCカラムに14COを含むCOガスが一時捕集されることで、14COの濃縮が見込まれるので、14COの分圧の向上が期待できる。
(ii)14CO吸着剤による14COのトラップ、再放出による14COの分離
二酸化炭素同位体生成装置40bは、燃焼部と、二酸化炭素同位体精製部と、を備えることが好ましい。燃焼部は、上述と同様に構成することができる。
二酸化炭素同位体精製部としては、14CO吸着剤、例えばソーダ石灰や水酸化カルシウム等を用いることができる。これにより、14COを炭酸塩の形で単離することで夾雑ガスの問題を解消できる。炭酸塩として14COを保持するので、サンプルを一時保存することも可能である。なお、再放出にはリン酸を用いることができる。
(i),(ii)のいずれか、あるいは両構成を備えることで、夾雑ガスを除去できる。
(iii)14COの濃縮(分離)
生体試料の燃焼により発生した14COは配管内で拡散する。そのため、14COを吸着剤に吸着させ濃縮することにより、検出感度(強度)を向上させてもよい。かかる濃縮によりCO、NOから14COの分離も期待できる。
【0031】
〈光発生装置〉
光発生装置20としては、二酸化炭素同位体の吸収波長を有する光を発生できる装置であれば特に制限されることなく種々の装置を用いることができる。ここでは、放射性二酸化炭素同位体14COの吸収波長である4.5μm帯の光を簡易に発生させ、しかも装置サイズがコンパクトな光発生装置を例に挙げて説明する。
【0032】
光発生装置20は、1つの光源と、光源からの光を伝送する第1光ファイバーと、第1光ファイバーの分岐点から分岐し前記第1光ファイバーの下流側の合流点で合流する第1光ファイバーよりも長波長の光を伝送する第2光ファイバーと、第1光ファイバーの分岐点から合流点の間に配置された第1増幅器と、第2光ファイバーの分岐点から合流点の間に配置され、第1増幅器とは帯域が異なる第2増幅器と、周波数が異なる複数の光を通過させることで周波数の差から前記二酸化炭素同位体の吸収波長の光を発生させる非線形光学結晶と、を備える。
【0033】
光源23としては、超短パルス波発生装置を用いることが好ましい。光源23として超短パルス波発生装置を用いた場合、パルスあたりの光子密度が高いため、非線形光学効果が容易に起こり、放射性二酸化炭素同位体14COの吸収波長である4.5μm帯の光を簡易に発生できる。また、各波長の波長幅が均等な櫛状の光の束(光周波数コム、以下「光コム」ともいう。)が得られるため、発振波長の変動が無視できるほど小さくできるからである。なお、光源として連続発振発生装置を用いた場合には、発振波長の変動があるため、光コムなどにより発振波長の変動を測定する必要がある。
光源23としては、例えばモード同期により短パルスを出力する固体レーザー,半導体レーザー,ファイバーレーザーを用いることができる。なかでもファイバーレーザーを用いることが好ましい。ファイバーレーザーは、コンパクトで対環境安定性にも優れた,実用的な光源であるからである。
ファイバーレーザーとしては、エルビウム(Er)系(1.55μm帯)またはイッテルビウム(Yb)系(1.04μm帯)のファイバーレーザーを用いることができる。経済的な観点からは汎用されているEr系ファイバーレーザーを用いることが好ましく、光強度を高める観点からはYb系ファイバーレーザーを用いることが好ましい。
【0034】
複数の光ファイバー21、22としては、光源からの光を伝送する第1光ファイバー21と、第1光ファイバー21から分岐し第1光ファイバー21の下流側で合流する波長変換用の第2光ファイバー22と、を用いることができる。第1光ファイバー21としては、光源から光共振器までつながっているものを用いることができる。また、それぞれの光ファイバーには、それぞれの経路上に複数の光学的部品や複数種類の光ファイバーを配置することができる。
第1光ファイバー21としては、生成した高強度な超短パルス光の特性を劣化させずに伝送できる光ファイバーを用いることが好ましい。具体的には、分散補償ファイバー(DCF)、ダブルクラッドファイバーなどを含むことができる。材料は、溶融石英でできたファイバーを用いることが好ましい。
第2光ファイバー22としては、効率良く所望の長波長側に超短パルス光を生成し、生成した高強度な超短パルス光の特性を劣化させずに伝送できる光ファイバーを使用することが好ましい。具体的には、偏波保持ファイバーや単一モードファイバー、フォトニック結晶ファイバー、フォトニックバンドギャップファイバーなどを含むことができる。波長のシフト量に合わせて、数mから数百mまでの長さの光ファイバーを使用することが好ましい。材料は、溶融石英でできたファイバーを用いることが好ましい。
【0035】
光発生装置は、例えば図10に示すような、光源23からの光を複数のスペクトル成分に分ける波長フィルタと、複数のスペクトル成分のそれぞれの時間差を調整し、非線形結晶24に集光させる分光手段と、を備えるディレイライン28をさらに備えることが好ましい。詳細については後述する。
【0036】
増幅器としては、例えば、第1光ファイバー21の経路上に配置される第1増幅器21としてEr添加型光ファイバー増幅器、第2光ファイバー22の経路上に配置される第2増幅器26としてTm添加型光ファイバー増幅器を用いることが好ましい。
第1光ファイバー21は、第3増幅器をさらに備えることが好ましく、第1増幅器21と合流点の間に第3増幅器を備えることがより好ましい。得られる光の強度が向上するからである。第3増幅器としては、Er添加型光ファイバー増幅器を用いることが好ましい。
第1光ファイバー21は、波長シフトファイバーをさらに備えることが好ましく、第1増幅器と合流点の間に波長シフトファイバーを備えることがより好ましい。得られる光の強度が向上するからである。
【0037】
非線形光学結晶24としては、入射される光と出射される光に応じて適宜選択されるが、本実施例の場合は、それぞれの入射光から4.5μm帯前後の波長の光を発生するという観点から、例えばPPMgSLT(periodically poled MgO-dopedStoichiometric Lithium Tantalate(LiTaO))結晶もしくはPPLN(periodically poled Lithium Niobate)結晶、またはGaSe(Gallium selenide)結晶を用いることができる。また、1つのファイバーレーザー光源を用いているため、後述の通り、差周波混合において、光周波数の揺らぎをキャンセルすることができるからである。
非線形光学結晶24としては、照射方向(長手方向)長さが11mmよりも長尺のものが好ましく、32mm~44mmがより好ましい。高出力の光コムが得られるからである。
【0038】
差周波混合(Difference Frequency Generation 以下「DFG」ともいう)によれば、第1、第2光ファイバー21,22が伝送する波長(周波数)が異なる複数の光を非線形光学結晶に通過させることで、この周波数の差から、差周波数に対応した光を得ることができる。つまり、本実施例の場合、1つの光源23から、波長がλ、λである2つの光を発生させ、2つの光を非線形光学結晶に通過させることにより、周波数の差から二酸化炭素同位体の吸収波長の光を発生させることができる。非線形光学結晶を用いるDFGの変換効率は、元となる複数の波長(λ、λ、…λ)の光源の光子密度に依存する。そのため1つのパルスレーザー光源からDFGにより差周波の光を発生することができる。
このようにして得られる4.5μm帯の光は1パルスが規則的な周波数間隔fの複数の周波数の光(モード)からなる光コム(周波数f=fceo+N・f、N:モード数)である。光コムを用いてCRDSを行うためには、分析対象の吸収帯の光を分析対象の含まれる光共振器に導入する必要がある。なお、生成される光コムは、差周波混合のプロセスにおいてfceoがキャンセルされfceoが0になる。
【0039】
非特許文献1のI. Galliらに考案された炭素同位体分析装置の場合、波長の異なる2種類のレーザー装置(Nd:YAG laserとexternal-cavity diode laser (ECDL))を用意して、レーザー光の周波数の差から二酸化炭素同位体の吸収波長を有する照射光を発生させていた。両者は連続発振レーザーであり、かつ、ECDLの強度が低いため、十分な強度のDFGを得るために、DFGで使用する非線形光学結晶を光共振器内に設置し、そこに両者の光を入れ、光子密度を高める必要があった。また、ECDLの強度を高めるために、Ti:Sapphire結晶を別のNd:YAGレーザーの2倍波にて励起し、ECDL光を増幅する必要もあった。これらを行う共振器の制御が必要になるなど、装置が大がかりで、操作が複雑になっていた。一方、本発明の実施形態に係る光発生装置は、1つのファイバーレーザー光源と、数mの光ファイバーと、非線形光学結晶とで構成されているため、コンパクトで搬送しやすく、しかも操作が簡単である。また1つの光源から複数の光を発生させているため、それぞれの光の揺らぎ幅及び揺らぎのタイミングが同一となる。そのため、制御装置を用いることなく、差周波混合を行うことで簡易に光周波数の揺らぎをキャンセルすることができる。
第1光ファイバーと第2光ファイバーの合流点から光共振器の間の光路について、空気中にレーザー光を伝送させる態様や、必要に応じてレンズによるレーザー光の集光及び/または拡大をする光学系を含む光伝送装置を構築してもよい。
【0040】
本分析では、14Cの分析で使用する波長領域をカバーする範囲で光コムが得られていればよいため、本発明者等は、光コム光源の発振スペクトルをより狭くしたほうが、より高出力の光が得られることに着目した。発振スペクトルが狭い場合には、帯域が異なる増幅器による増幅や、長尺の非線形光学結晶を用いることができる。そこで、本発明者らは検討の結果、差周波混合法を用いた光コムの発生において、(イ)1つの光源から周波数が異なる複数の光を発生させ、(ロ)得られた複数の光の強度を帯域が異なる増幅器を用いてそれぞれ増幅し、(ハ)複数の光を従来の非線形光学結晶よりも長尺の非線形光学結晶に通過させることにより周波数の差から二酸化炭素同位体の吸収波長を有する高出力の照射光を発生させることを着想した。本発明は上記知見により基づいて完成したものである。なお、従来の差周波混合法において、帯域が異なる複数の増幅器を用いて光の強度を増幅することや、長尺の結晶を用いて高出力の照射光が得られる旨の報告はなかった。
【0041】
光吸収物質の光吸収は、吸収線強度が大きく、かつ、照射光の光強度も高い場合は、その光吸収に対応した下準位が著しく減少し、実効的な光吸収量が飽和したようになる(これを飽和吸収と呼ぶ)。SCAR理論(Saturated Absorption CRDS)によれば、光共振器内の14CO等の試料に吸収線強度が大きな4.5μm帯の光を照射すると、得られる減衰信号(リングダウン信号)の初期は光共振器内に蓄積されている光強度が高いため飽和効果が大きく見られ、その後、減衰が進むにつれて光共振器内に蓄積されている光強度が徐々に低くなるため飽和効果が小さくなる。このため、このような飽和効果が見られる減衰信号は、単純な指数関数減衰ではなくなる。この理論に基づけば、SCARで得られた減衰信号のフィッティングにより、試料による減衰率とバックグラウンドの減衰率を独立に評価できるため、寄生エタロン効果などのバックグラウンドの減衰率の変動に影響されることなく試料による減衰率を求めることができ、かつ、夾雑ガスと比較して14COの飽和効果が大きいため、14COによる光吸収をより選択的に測定できる。したがって、より光強度の高い照射光を用いるほうが、分析の感度が向上することが期待されている。本発明の光発生装置は、光強度が高い照射光を発生させることができるので、炭素同位体分析に用いた場合、分析感度が向上することが期待される。
【0042】
光源として光コムについて中心に説明してきたが、光源は光コムに制限されることはなく、種々の光源を用いることができる。例えば、上述の光発生装置から発生する線幅の狭い光(光コム)を周波数リファレンスとして用いるビート信号測定装置により、量子カスケードレーザー(以下「QCL」ともいう)から発する光の発振波長の揺らぎを補正した光源を用いてもよい。
【0043】
〈演算装置〉
演算装置30としては、上述の減衰時間やリングダウンレートから光共振器内の吸収物質濃度を測定し、吸収物質濃度から炭素同位体濃度を測定できるものであれば特に制限されることなく種々の装置を用いることができる。
演算制御部31としては、CPU等の通常のコンピュータシステムで用いられる演算手段等で構成すればよい。入力装置32としては、例えばキーボード、マウス等のポインティングデバイスが挙げられる。表示装置33としては、例えば液晶ディスプレイ、モニタ等の画像表示装置等が挙げられる。出力装置34としては、例えばプリンタ等が挙げられる。記憶装置35としてはROM、RAM、磁気ディスクなどの記憶装置が使用可能である。
【0044】
以上、第1の態様に係る炭素同位体分析装置について説明してきたが、炭素同位体分析装置は、上述の実施形態に限定されることなく、種々の変更を加えることができる。以下に炭素同位体分析装置の別の態様について、第1の態様からの変更点を中心に説明する。
【0045】
[炭素同位体分析装置の第2の態様]
〈冷却、除湿装置〉
図10は、炭素同位体分析装置の第2の態様の概念図である。図10に示すように、分光装置1aは、光共振器11を冷却するペルチェ素子19と、光共振器11を収納する真空装置18と、をさらに備えてもよい。14COの光吸収は温度依存性を有するため、ペルチェ素子19により光共振器11内の設定温度を低くすることで、14COの吸収線と13CO12COの吸収線との区別が容易になり、14COの吸収強度が強くなるからである。また光共振器11を真空装置18内に配置して、光共振器11が外気に晒されることを防止して外部温度の影響を軽減することで、分析精度が向上するからである。
光共振器11を冷却する冷却装置としては、ペルチェ素子19の他にも、例えば、液体窒素槽、ドライアイス槽などを用いることができる。分光装置10を小型化できる観点からはペルチェ素子19を用いることが好ましく、装置の製造コストを下げる観点からは液体窒素水槽もしくはドライアイス槽を用いることが好ましい。
真空装置18としては、光共振器11を収納でき、また光発生装置20からの照射光を光共振器11内に照射でき、透過光を光検出器に透過できるものであれば、特に制限なく様々な真空装置を用いることができる。
除湿装置を設けてもよい。その際、ペルチェ素子等の冷却手段により除湿してもよいが、フッ素系イオン交換樹脂膜といった水蒸気除去用高分子膜を使用した膜分離法によって除湿してもよい
【0046】
上述の炭素同位体分析装置1をマイクロドーズに用いる場合、放射性炭素同位体14Cに対する検出感度は「0.1dpm/ml」程度が想定される。この検出感度「0.1dpm/ml」を達成するためには、光源として「狭帯域レーザー」を用いるだけでは不十分であり、光源の波長(周波数)の安定性が求められる。即ち、吸収線の波長からずれないこと、線幅が狭いことが要件となる。この点、炭素同位体分析装置1では、「光周波数コム光」を用いた安定な光源をCRDSに用いることでこの課題を解決できる。炭素同位体分析装置1によれば、低濃度の放射性炭素同位体を含む検体に対しても測定が可能であるという有利な作用効果が奏される。
なお、先行文献(廣本 和郎等、「キャビティーリングダウン分光に基づく14C連続モニタリングの設計検討」、日本原子力学会春の年会予稿集、2010年3月19日、P432)には、原子力発電関連の使用済み燃料の濃度モニタリングに関連して、CRDSにより二酸化炭素中の14C濃度を測定する旨が開示されている。しかし、先行文献に記載された、高速フーリエ変換(FFT)を用いた信号処理方法は、データ処理が早くなるものの、ベースラインのゆらぎが大きくなるため、検出感度「0.1dpm/ml」を達成することは困難である。
【0047】
図11(Applied Physics Vol.24, pp.381-386, 1981より引用)は、分析試料1216131813161416の吸収波長と吸収強度の関係を示す。図11に示すように、それぞれの炭素同位体を含む二酸化炭素は、固有の吸収線を有している。実際の吸収では、各吸収線は試料の圧力や温度に起因する拡がりによって有限の幅を持つ。このため、試料の圧力は大気圧以下、温度は273K(0℃)以下にすることが好ましい。
【0048】
以上、14COの吸収強度は温度依存性があるため、光共振器11内の設定温度を、できるだけ低く設定することが好ましい。具体的な光共振器11内の設定温度は273K(0℃)以下が好ましい。下限値は特に制限はないが、冷却効果と経済的観点から、173K~253K(-100℃~-20℃)、特に233K(-40℃)程度に冷却することが好ましい。
分光装置は、振動吸収手段をさらに備えてもよい。分光装置の外部からの振動によりミラー間隔がずれることを防止して、測定精度を上げることができるからである。振動吸収手段としては、例えば衝撃吸収剤(高分子ゲル)や免震装置を用いることができる。免震装置としては外部振動の逆位相の振動を分光装置に与えることができる装置を用いることができる。
【0049】
〈ディレイライン〉
図10に示すように、第1光ファイバー21上にディレイライン28(光路差調整器)を設けてもよい。第1光ファイバー21上で発生した光の波長の微調整が容易になり、光発生装置のメンテナンスが用意になるからである。
図12は1本の光ファイバを用いた中赤外コム生成の原理を示す図である。図10図12を参照しつつ、ディレイライン28について説明する。図10の炭素同位体分析装置1は、光源23と非線形光学結晶24の間に、複数の波長フィルタからなるディレイライン28を備える。第1光ファイバー21により、光源23からの光が伝送され、スペクトルが拡げられる(スペクトルの伸張)。そして、スペクトル成分が時間的にずれている場合、図10に示されるように、ディレイライン28(光路差調整器)により、スペクトル成分が分けられ、時間差の調整が行われる。そして、非線形結晶25に集光させることで中赤外コムを生成することができる。
なお、分光手段としてディレイラインを挙げたが、それに限定されることなく、分散媒体を用いてもよい。
【0050】
[炭素同位体分析装置の第3の態様]
本発明者等は炭素同位体分析装置の更なる分析精度の向上を図るため更なる検討を行ったところ、光スイッチの性能(オンオフ比)が想定したものよりも低いことに起因して減衰率に誤差(リングダウン信号の減衰率を求めるための減衰関数によるフィッティングにおける残差)が生じていることを知見した。しかしながら、簡易で効果的なオンオフ制御の機構や方法は見当たらなかった。そのため、光スイッチの性能(オンオフ比)の向上を通じて、リングダウン信号のフィッティングにおける残差を解消し、分析精度の向上を図ることが求められていた。
炭素同位体分析装置に用いられる光スイッチとしては、特に制限なく様々なものを用いられているが、光学結晶と、圧電素子と、を備える音響光学変調器(以下、「AOM」ともいう。)を用いることができる。このAOMの圧電素子を作動させると、音響波が光学結晶内を伝播し、これにより光学結晶内に周期的な屈折率の分布が生まれ、入射光が回折されることで光源からの光のオンオフを制御することができる。ところが、光の放出をオフに制御しても、僅かに漏れ出した制御されていない光がリングダウン信号の誤差を生じさせていた。そこで、本発明者等は上記課題を解決するために、ミラーを配置した、ダブルパスを備える光発生装置を完成した。
即ち、本発明は、光源、光源からの光のオンオフを制御する光スイッチ、光スイッチからの光を反射して光スイッチに光を送り返すミラーを備える光発生装置と;炭素同位体から二酸化炭素同位体を含むガスを生成する燃焼部、二酸化炭素同位体精製部を備える二酸化炭素同位体生成装置と;光共振器、光検出器を備える分光装置と;を備える炭素同位体分析装置にも関する。この場合、光スイッチとしては音響光学変調器を用いることができる。炭素同位体分析装置の第3の態様によれば、リングダウン信号のフィッティングにおける残差が少ない光発生装置並びにそれを用いた放射性炭素同位体分析装置及び放射性炭素同位体分析方法が提供される。
【0051】
[炭素同位体分析方法の第1の態様]
分析対象として放射性同位体14Cを例にあげて説明する。
【0052】
(生体試料の前処理)
【0053】
(イ)まず図1に示すような炭素同位体分析装置1を用意する。また放射性同位体14C源として、14Cを含む生体試料、例えば、血液、血漿、尿、糞、胆汁などを用意する。
(ロ)生体試料の前処理として除タンパクを行うことにより、生体由来炭素源を除去する。生体試料の前処理は、広義には、生体由来の炭素源除去工程と、夾雑ガス除去(分離)工程とが含まれるが、ここでは、生体由来の炭素源除去工程を中心に説明する。
マイクロドーズ試験では極微量の14C標識化合物が含まれる生体試料(例えば、血液、血漿、尿、糞、胆汁など)について分析が行われる。そのため、分析効率を上げるためには、生体試料の前処理を行うことが好ましい。CRDS装置の特性上、生体試料中14Cと全炭素との比(14C/TotalC)が測定の検出感度を決定する要素の一つであるため、生体試料中から生体由来の炭素源を除去することが好ましい。
除タンパクの方法としては、酸や有機溶媒によりタンパク質の不溶化させる除タンパク法、分子サイズの違いを利用する限外濾過または透析による除タンパク法、固相抽出による除タンパク法等が例示できる。後述するように、14C標識化合物の抽出が行えることや、有機溶媒自身の除去が容易であることから、有機溶媒による除タンパク法が好ましい。
有機溶媒を用いた除タンパク法の場合、まず生体試料に有機溶媒を添加し、タンパク質を不溶化する。このとき、タンパク質に吸着している14C標識化合物が、有機溶媒含有溶液へ抽出される。14C標識化合物の回収率を高めるために、前記有機溶媒含有溶液を別の容器に採取後、残差にさらに有機溶媒を添加し、抽出する操作を行ってもよい。前記抽出操作は複数回繰り返してもよい。なお、生体試料が糞である場合、肺など臓器である場合等、有機溶媒と均一に混合しにくい形態の場合には、該生体試料をホモジネートする等、生体試料と有機溶媒とが均一に混合されるための処理をすることが好ましい。また必要に応じて、不溶化したタンパク質を、遠心操作、フィルターによるろ過等により除去してもよい。
その後、有機溶媒を蒸発させることにより14C標識化合物を含む抽出物を乾固させ、有機溶媒由来の炭素源を取り除く。前記有機溶媒は、メタノール(MeOH)、エタノール(EtOH)、またはアセトニトリル(ACN)が好ましく、アセトニトリルがさらに好ましい。
【0054】
(ハ)前処理後の生体試料を加熱・燃焼させて、放射性同位体14C源から二酸化炭素同位体14COを含むガスを生成する。そして、得られたガスからNO、COを除去する。
【0055】
(ニ)得られた14COから水分を取り除いておくことが好ましい。例えば二酸化炭素同位体生成装置40内にて、14COを炭酸カルシウム等の乾燥剤上を通過させたり、14COを冷却して水分を結露させることにより水分を除去することが好ましい。14COに含まれる水分に起因する光共振器11の着氷・着霜によるミラー反射率低下が検出感度を低下させるため、水分を除去しておくことで分析精度が上がるからである。なお、分光工程を考慮すると、分光装置10へ14COを導入する前に、14COを冷却しておくことが好ましい。室温の14COを導入すると、共振器の温度が大きく変化し、分析精度が低下するためである。
【0056】
(ホ)14COを、図1に示すような1対のミラー12a、12bを有する光共振器11内に充填する。そして14COを273K(0℃)以下に冷却することが好ましい。照射光の吸収強度が高まるからである。また光共振器11を真空雰囲気に保つことが好ましい。外部温度の影響を軽減させることで、測定精度が高まるからである。
【0057】
(ヘ)図2のアライメント機構14を作動させて、図4A図4Bに示すように、ミラー12aとミラー12bの裏面からの反射光の光軸Eが光共振器の光軸(ミラー12aとミラー12bの高反射面からの反射光の光軸)Cと一致しないように調整する。
【0058】
(ト)光源23から得られた第1光を第1光ファイバー21に伝送する。また第1光ファイバー21から分岐し第1光ファイバー21の下流側の合流点で合流する第2光ファイバー22に第1光を伝送させて、第2光ファイバー22により第1光よりも長波長の第2光を発生させる。得られた第1光と第2光の強度を、帯域が異なる増幅器21,26を用いてそれぞれ増幅する。そして、短波長側の第1光ファイバー21から1.3μm~1.7μm帯の光を発生させ、長波長側の第2光ファイバー22から1.8μm~2.4μm帯の光を発生させる。次に第2光を第1光ファイバー21の下流側で合流させ、第1光と第2光を非線形光学結晶24に通過させ、周波数の差から二酸化炭素同位体14COの吸収波長の4.5μm帯の光として、波長4.5μm~4.8μm帯の中赤外域光周波数の光コムを照射光として発生させる。その際、非線形光学結晶24として長手方向の長さが11mmよりも長尺の長軸結晶を用いることにより強度の高い光を生成することができる。
【0059】
(チ)二酸化炭素同位体14COに照射光を照射し共振させる。その際、測定精度を上げるためには、光共振器11の外部からの振動を吸収し、ミラー12a、12b間隔にずれが生じないようにすることが好ましい。また照射光が空気に触れないように、第1光ファイバー21の下流側の他端をミラー12aに当接させながら照射することが好ましい。そして光共振器11からの透過光の強度を測定する。図5に示すように透過光を分光し、分光されたそれぞれの透過光について強度を測定してもよい。
【0060】
(リ)透過光の強度から炭素同位体14C濃度を計算する。
【0061】
以上、第1の態様に係る炭素同位体分析方法について説明してきたが、炭素同位体分析方法は、上述の実施形態に限定されることなく、種々の変更を加えることができる。以下に炭素同位体分析方法の別の態様について、第1の態様からの変更点を中心に説明する。
【0062】
[炭素同位体分析方法の第2の態様]
第1の態様では、分光装置の構造を改良する観点から、上述の課題を解決することとした。しかし、本発明はその他に、制御の観点から上述の課題を解決することもできる。
(イ)セル内にガス(試料)がない状態でスペクトルを測定する。周期的変動のみのスペクトルを取得する。
(ロ)サンプルガス(例えば、CO)を導入してスペクトルを測定する。
(ハ)(イ)と(ロ)で取得したスペクトルを差し引きする。
これにより、ベースラインのノイズを大幅に軽減することができる。
【0063】
図13Bは、上述の調整後のスペクトルである。
【0064】
(その他の実施形態)
上記のように、本発明は実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
実施形態に係る炭素同位体分析装置においては、分析対象である炭素同位体として放射性同位体14Cを中心に説明した。放射性同位体14Cの他にも、安定同位体元素である12C、13Cを分析することができる。その場合の照射光としては、例えば、12C及び13C分析を12CO及び13COの吸収線分析として行う場合は、2μm帯や1.6μm帯の光を用いることが好ましい。
12CO、及び13COの吸収線分析を行う場合、ミラー間隔は10~60cm、ミラーの曲率半径はミラー間隔と同じかそれ以上、とすることが好ましい。
なお、12C、13C、14Cはそれぞれ化学的には同じ挙動を示すが、安定同位体元素12C、13Cよりも放射性同位体14Cの天然存在比が低いことから、放射性同位体14Cはその濃度を人工的な操作により高くし、精度よく測定を行うことで様々な反応過程の観測が可能となる。
実施形態に係る炭素同位体分析装置は、第1光ファイバーから分岐し分岐点より下流側で第1光ファイバーに合流する非線形ファイバーで構成された第3の光ファイバーをさらに備えてもよい。第1~第3の光ファイバーを組み合わせることで2種以上の様々な周波数の光を発生することが可能になるからである。
第1の実施形態において説明したアライメント機構を備える光共振器は、エタロン効果を防止することによりベースラインのノイズをキャンセルできるため、種々の用途で活用可能である。例えば、第1の実施形態において説明した構成を一部に含む測定装置、医療診断装置、環境測定装置(年代測定装置)等も製造することができる。
光周波数コムは、レーザースペクトルの縦モードが非常に高い精度で等周波数間隔に並んだ光源であり、精密分光や高精度距離計測の分野において高機能な新しい光源として期待されている。また、物質の吸収スペクトルが中赤外域に多く存在するため、中赤外域の光周波数コム光源の開発は重要である。上述の光発生装置は種々の用途で活用可能である。
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0065】
1 炭素同位体分析装置
10A、10B 分光装置
11 光共振器
12a、12b ミラー
13 ピエゾ素子
14a、14b アライメント機構(第一、第二の干渉除去手段)
15 光検出器
16 セル
18 真空装置
19 ペルチェ素子
20A、20B 光発生装置
21 第1光ファイバー
22 第2光ファイバー
23 光源
24 非線形光学結晶
25 第一増幅器
26 第二増幅器
28 ディレイライン
29 光学スイッチ
30 演算装置
40 二酸化炭素同位体生成装置
50 光発生装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図10
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