(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】細胞培養基材、細胞培養方法、及び、細胞培養器
(51)【国際特許分類】
C12M 3/00 20060101AFI20240221BHJP
C12N 5/04 20060101ALI20240221BHJP
C12N 5/07 20100101ALI20240221BHJP
【FI】
C12M3/00 A
C12N5/04
C12N5/07
(21)【出願番号】P 2019077507
(22)【出願日】2019-04-16
【審査請求日】2022-03-18
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】上木 岳士
(72)【発明者】
【氏名】中西 淳
【審査官】小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-161660(JP,A)
【文献】国際公開第2017/034004(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/099232(WO,A1)
【文献】Electrochemistry,2007年,Vol. 75,p. 734-736
【文献】Isr. J. Chem.,2019年,Vol. 59,p. 803-812,First published: 07 December 2018
【文献】Toxicol. In Vitro.,2018年,Vol. 46,p. 194-202
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 3/00 - 3/10
C12N 5/00 - 5/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞培養用の組成物であって、
細胞培養基材と、
水系の培養液と、を含有し、
前記細胞培養基材と前記培養液との界面で細胞を培養するように構成されており、
前記細胞培養基材
は、
融点が150℃以下であり、かつ、以下の試験方法により測定される飽和水分量が100000質量ppm以下である塩を含有し、
前記塩はイオン液体であり、
前記細胞培養基材は流動性を有する、
細胞培養用の組成物。
試験:前記塩に対して体積基準で5倍の水を添加して混合物を得て、前記混合物を撹拌した後、25℃で10時間静置し、その後、前記混合物を遠心分離して、水相と前記塩の濃厚相とに分離し、前記濃厚相についてカールフィッシャー滴定法を用いて飽和水分量を測定する。
【請求項2】
前記細胞培養基材が液体である、請求項1に記載の
細胞培養用の組成物。
【請求項3】
動物細胞、及び、植物細胞からなる群より選択される少なくとも1種の接着培養に用いられる、請求項1又は2に記載の
細胞培養用の組成物。
【請求項4】
前記塩を構成するカチオンが、有機カチオン、及び、金属錯体カチオンからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1~3のいずれか1項に記載の
細胞培養用の組成物。
【請求項5】
前記塩を構成するカチオンが、アンモニウムイオン、ピリジニウムイオン、ピロリジニウムイオン、ピペリジニウムイオン、オキサゾリウムイオン、オキサゾリニウムイオン、イミダゾリウムイオン、チアゾリウムイオン、及び、ホスホニウムイオンからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1~3のいずれか1項に記載の
細胞培養用の組成物。
【請求項6】
前記塩を構成するアニオンが、下記式7で表されるアニオンである、請求項1~5のいずれか1項に記載の
細胞培養用の組成物。
【化1】
(式7中、R
7はハロゲン原子、又は、ハロゲン化アルキル基を表し、複数あるR
7は同一でも異なってもよく、R
7は互いに連結して環を形成してもよい。)
【請求項7】
前記細胞培養基材の水分含有量が、前記細胞培養基材の全質量に対して10質量%以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の
細胞培養用の組成物。
【請求項8】
前記細胞培養基材が、更に、界面活性剤を含有する、請求項1~
7のいずれか1項に記載の
細胞培養用の組成物。
【請求項9】
前記細胞培養基材が、前記イオン液体のみから構成される請求項1~7のいずれか1項に記載の
細胞培養用の組成物。
【請求項10】
前記培養液中に前記細胞培養基材が分散しているエマルジョンを備える、請求項1~9のいずれか1項に記載の細胞培養用の組成物。
【請求項11】
細胞培養基材に細胞を接着させて培養する、細胞培養方法
であって、
前記細胞培養基材は、融点が150℃以下であり、かつ、以下の試験方法により測定される飽和水分量が100000質量ppm以下である塩を含有し、
前記塩はイオン液体であり、
前記細胞培養基材は流動性を有する、細胞培養方法。
試験:前記塩に対して体積基準で5倍の水を添加して混合物を得て、前記混合物を撹拌した後、25℃で10時間静置し、その後、前記混合物を遠心分離して、水相と前記塩の濃厚相とに分離し、前記濃厚相についてカールフィッシャー滴定法を用いて飽和水分量を測定する。
【請求項12】
前記細胞培養基材が液体である、請求項11に記載の細胞培養方法。
【請求項13】
動物細胞、及び、植物細胞からなる群より選択される少なくとも1種の接着培養に用いられる、請求項11又は12に記載の細胞培養方法。
【請求項14】
前記塩を構成するカチオンが、有機カチオン、及び、金属錯体カチオンからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項11~13のいずれか1項に記載の細胞培養方法。
【請求項15】
前記塩を構成するカチオンが、アンモニウムイオン、ピリジニウムイオン、ピロリジニウムイオン、ピペリジニウムイオン、オキサゾリウムイオン、オキサゾリニウムイオン、イミダゾリウムイオン、チアゾリウムイオン、及び、ホスホニウムイオンからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項11~13のいずれか1項に記載の細胞培養方法。
【請求項16】
前記塩を構成するアニオンが、下記式7で表されるアニオンである、請求項11~15のいずれか1項に記載の細胞培養方法。
【化2】
(式7中、R
7
はハロゲン原子、又は、ハロゲン化アルキル基を表し、複数あるR
7
は同一でも異なってもよく、R
7
は互いに連結して環を形成してもよい。)
【請求項17】
前記細胞培養基材の水分含有量が、前記細胞培養基材の全質量に対して10質量%以下である、請求項11~16のいずれか1項に記載の細胞培養方法。
【請求項18】
前記細胞培養基材が、更に、界面活性剤を含有する、請求項11~17のいずれか1項に記載の細胞培養方法。
【請求項19】
前記細胞培養基材が、前記イオン液体のみから構成される請求項11~17のいずれか一項に記載の細胞培養方法。
【請求項20】
容器と、細胞培養基材と、を有する細胞培養器
であって、
前記細胞培養基材は、融点が150℃以下であり、かつ、以下の試験方法により測定される飽和水分量が100000質量ppm以下である塩を含有し、
前記塩はイオン液体であり、
前記細胞培養基材は流動性を有する、細胞培養器。
試験:前記塩に対して体積基準で5倍の水を添加して混合物を得て、前記混合物を撹拌した後、25℃で10時間静置し、その後、前記混合物を遠心分離して、水相と前記塩の濃厚相とに分離し、前記濃厚相についてカールフィッシャー滴定法を用いて飽和水分量を測定する。
【請求項21】
容器と、請求項1~10のいずれか1項に記載の細胞培養用の組成物と、を有する細胞培養器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養基材、細胞培養方法、及び、細胞培養器に関する。
【背景技術】
【0002】
流動性を有する細胞培養基材は、その粘弾性を制御することにより細胞の生長形態を制御することができる特長を有し、開発が進められている。なかでも、細胞を接着させて生長させる「二次元培養」が可能な流動性細胞培養基材として、フッ素含有有機液体が知られている。
非特許文献1には、パーフルオロカーボンと液体培地との界面で細胞を培養する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】ACS Appl. Mater & Interfaces, 2017, 9, 30553.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フッ素含有有機液体は、水系の培地と共に用いた場合、その界面において細胞培養が可能であるものの、使用後のフッ素含有有機液体を再利用しようとすると、不純物の分離、及び、蒸留による沸点の近い成分の分離等が必要であり、多くのエネルギー及びコストを要し、効率的なではないという課題があった。
本発明は、上記課題に鑑みて、二次元培養が可能であって、かつ、容易に再利用可能な細胞培養基材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を達成することができることを見出した。
【0006】
[1] 融点が150℃以下であり、かつ、以下の試験方法により測定される飽和水分量が100000質量ppm以下である塩を含有する細胞培養基材。 試験:上記塩に対して体積基準で5倍の水を添加して混合物を得て、上記混合物を撹拌した後、25℃で10時間静置し、その後、上記混合物を遠心分離して、水相と上記塩の濃厚相とに分離し、上記濃厚相についてカールフィッシャー滴定法を用いて飽和水分量を測定する。
[2] 動物細胞、及び、植物細胞からなる群より選択される少なくとも1種の接着培養に用いられる、[1]に記載の細胞培養基材。
[3] 上記塩がイオン液体である、[1]又は[2]に記載の細胞培養基材。
[4] 上記塩を構成するカチオンが、有機カチオン、及び、金属錯体カチオンからなる群より選択される少なくとも1種である、[1]~[3]のいずれかに記載の細胞培養基材。
[5] 上記塩を構成するカチオンが、アンモニウムイオン、ピリジニウムイオン、ピロリジニウムイオン、ピペリジニウムイオン、オキサゾリウムイオン、オキサゾリニウムイオン、イミダゾリウムイオン、チアゾリウムイオン、及び、ホスホニウムイオンからなる群より選択される少なくとも1種である、[1]~[3]のいずれかに記載の細胞培養基材。
[6] 上記塩を構成するアニオンが、後述する式7で表されるアニオンである、[1]~[5]のいずれかに記載の細胞培養基材。
[7] 更に、高分子化合物を含有する、[1]~[6]のいずれかに記載の細胞培養基材。
[8] 更に、界面活性剤を含有する、[1]~[7]のいずれかに記載の細胞培養基材。
[9] [1]~[8]のいずれかに記載の細胞培養基材に細胞を接着させて培養する、細胞培養方法。
[10] 容器と、[1]~[8]のいずれかに記載の細胞培養基材と、を有する細胞培養器。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、二次元培養が可能であって、かつ、容易に再利用可能な細胞培養基材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係る細胞培養器の一例を示す斜視図である。
【
図2】
図1の細胞培養器のAA′断面模式図である。
【
図3】特定塩として、[P
4441][TFSI]を含有する細胞培養基材を用いて培養し、10日間経過後の細胞の光学顕微鏡像である。
【
図4】特定塩として[P
66614][TFSI]を含有する細胞培養基材を用いて培養し、10日間経過後の細胞の光学顕微鏡像である。
【
図5】特定塩として[P
8888][TFSI]を含有する細胞培養基材を用いて培養し、7日間培養した細胞の光学顕微鏡写真である。
【
図6】特定塩として[P
6614][cTFSI]を含有する細胞培養基材を用いて培養し、7日間培養した細胞の光学顕微鏡写真である。
【
図7】特定塩として[P
8888][BETI]を含有する細胞培養基材を用いて培養し、7日間培養した細胞の光学顕微鏡写真である。
【
図8】特定塩として[P
66614][BETI]を含有する細胞培養基材を用いて培養し、7日間培養した細胞の光学顕微鏡写真である。
【
図9】特定塩として[P
2225][TFSI]を使用し、単官能重合性化合物を2M、多官能重合性化合物を1mol%として得られた細胞培養基材(上側)、及び、単官能重合性化合物を4M、多官能重合性化合物を5mol%として得られた細胞培養基材(下側)を用いて培養した細胞の光学顕微鏡写真である。
【
図10】特定塩として[P
4441][TFSI]を使用し、単官能重合性化合物を2M、多官能重合性化合物を1mol%として得られた細胞培養基材(上側)、及び、単官能重合性化合物を4M、多官能重合性化合物を5mol%として得られ細胞培養基材(下側)を用いて培養した細胞の光学顕微鏡写真である。
【
図11】特定塩として[P
66614][TFSI]を使用し、単官能重合性化合物を2M、多官能重合性化合物を1mol%として得られた細胞培養基材(上側)、及び、単官能重合性化合物を4M、多官能重合性化合物を5mol%として得られた細胞培養基材(下側)を用いて培養した細胞の光学顕微鏡写真である。
【
図12】[P
4441][TFSI]からなるイオン液体の存在下で培養したhMSCs細胞の培養開始から1、4、24時間経過後における顕微鏡像、及び、蛍光画像である。
【
図13】[P
66614][TFSI]からなるイオン液体の存在下で培養したhMSCs細胞の培養開始から1、4、24時間経過後における顕微鏡像、及び、蛍光画像である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0010】
また、本明細書における基(原子群)の表記において、置換、及び、無置換を記していない表記は、本発明の効果を損ねない範囲で、置換基を有さないものと共に置換基を有するものをも包含するものである。例えば、「アルキル基」とは、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。このことは、各化合物についても同義である。
【0011】
また、本明細書において、「(メタ)アクリレート」はアクリレート及びメタクリレートの双方、又は、いずれかを表し、「(メタ)アクリル」はアクリル、及び、メタクリルの双方、又は、いずれかを表す。
また、本明細書において、「(メタ)アクリルアミド」は、メタクリルアミド、及び、アクリルアミドの双方、又は、いずれかを表す。
また、本明細書において、本明細書におけるモノマーは、オリゴマー、及び、ポリマーと区別され、特に断らない限り、重量平均分子量が2,000以下の化合物をいう。
また、本明細書において「準備」というときには、特定の材料を合成ないし調合等して備えることのほか、購入等により所定の物を調達することを含む意味である。
【0012】
[細胞培養基材]
本発明の実施形態に係る細胞培養基材(以下、「本細胞培養基材」ともいう。)は、融点が150℃以下であり、かつ、後述する試験方法(以下、「飽和水分量測定試験」ともいう。)により測定される飽和水分量が100000質量ppm(100,000質量ppm)以下である塩(以下、「特定塩」ともいう。)を含有する細胞培養基材である。
【0013】
本細胞培養基材によって本発明の課題が解決される機序としては必ずしも明らかではないが、本発明者らは以下のとおり推測している。なお、以下の機序は推測であり、以下の機序以外の機序により本発明の課題が解決される場合であっても本発明の範囲に含まれるものとする。
【0014】
本細胞培養基材は後述する特定塩を含有する。上記特定塩は、後述する試験方法で測定した飽和水分量が所定の範囲内であり、一般的な細胞培養液との間により明確な界面を形成しやすいものと推測される。更に、培養液と混合しにくいため、使用後の再利用が容易である。
また、特定塩の融点は150℃以下であるため、細胞培養基材が適度な粘弾性を有し、種々の細胞が接着しやすいという特徴を有するものと推測される。
以下では、本細胞培養基材が含有する各成分について詳述する。
【0015】
〔特定塩〕
本細胞培養基材は特定塩を含有する。本明細書において、特定塩は、カチオンとアニオンとの組み合わせにより形成される物質を意味する。
本細胞培養基材における特定塩の含有量としては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する細胞培養基材が得られる点で、一般に細胞培養基材の全質量に対して、1~100質量%が好ましく、20~100質量%がより好ましく、30~100質量%が更に好ましく、50質量%を超えて、100質量%以下が特に好ましい。
なお、本細胞培養基材は、特定塩の1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有していてもよい。本細胞培養基材が、2種以上の特定塩を含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0016】
特定塩の融点は150℃以下であれば特に制限されないが、得られる細胞培養基材の流動性がより制御しやすい点で、100℃以下がより好ましく、25℃以下が更に好ましい。なお、本明細書において、融点とは、大気圧下における融点を意味し、融点が25℃以下の不揮発性の塩をイオン液体ともいう。
【0017】
イオン液体は、不揮発性のため精製及び再利用がより容易であり、より好ましい。本細胞培養基材の再利用方法としては特に制限されないが、本細胞培養基材を水、及び/又は、有機溶剤で洗浄した後、活性炭処理し、次に、減圧濃縮する方法が挙げられる。上述のとおり、本細胞培養基材は、蒸留を経ずにより簡便な方法により精製、再利用が可能である。
【0018】
特定塩は、以下の方法により測定される飽和水分量が100000質量ppm以下(10質量%以下)である。
(試験方法)
試験:上記塩に対して体積基準で5倍の水を添加して混合物を得て、上記混合物を撹拌した後、25℃で10時間静置し、その後、上記混合物を遠心分離して、水相と上記塩の濃厚相とに分離し、上記濃厚相についてカールフィッシャー滴定法を用いて飽和水分量を測定する。
【0019】
なかでも、より優れた本発明の効果を有する細胞培養基材が得られる点で、上記方法により測定される飽和水分量としては、80000質量ppm以下が好ましく、50000質量ppm以下がより好ましく、20000質量ppm以下が更に好ましく、17000質量ppm以下が特に好ましく、12000質量ppm以下が最も好ましく、7500質量ppm以下がより最も好ましく、4000質量ppm以下が更に最も好ましい。なお、飽和水分量の下限値としては特に制限されないが、0質量ppm以上であればよいが、一般に、1質量ppm以上が好ましい。
飽和水分量が上記数値範囲内にあると、得られる細胞培養基材は水系の培養液との間でより明確な界面を形成しやすい。
なお、本明細書において飽和水分量は小数第1位まで求めて四捨五入して得られる値を意味する。
【0020】
なお、カールフィッシャー滴定法は、アルコールの存在下でカールフィッシャー試薬により水分を滴定する公知の方法であり、例えば、電量滴定法が適用できる。本明細書において、「飽和水分量」とは、上記方法により測定される水分含有量を意味する。
【0021】
特定塩を構成するカチオンとしては特に制限されず、公知のカチオンが使用できる。なかでも、より優れた本発明の効果を有する細胞培養基材が得られる点で、有機カチオン、及び、金属錯体カチオンからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、有機カチオンを含有することが好ましく、有機カチオンからなることが好ましい。なお、本明細書において、有機カチオンとは、金属原子を含有せず、炭素原子を少なくとも1つ有するカチオンを意味する。
【0022】
有機カチオンとしては特に制限されないが、例えば、オニウム等が挙げられる。より具体的には、アンモニウムイオン(例えば、RA
4N+)、イミニウムイオン(例えば、RB
2C=N+R1
2)、スルホニウムイオン(例えば、RA
3S+)、オキソニウムイオン(例えば、RA
2O+)、ホスホニウムイオン(代表構造:RA
4P+)、ヨードニウムイオン(例えば、RA
2I+)等が挙げられる。なお、上記各式中、RAはアルキル基、アリール基、及び、ヘテロ環基等の置換基を表す。RBは水素原子、又は、1価の置換基を表す。分子中の複数のR1、分子中の複数のRB、又は、分子中のRAとRBは、互いに結合して環を形成してもよい。また、分子中の2つのRA、又は、2つのRBが共同して二重結合の基(例えば、=O、=S、=NRB)を形成してもよい。
【0023】
金属錯体カチオンとしては特に制限されないが、フェロセン系、コバルトセン系、ルテニウム系、並びに、リチウム、及び、ナトリウム等の高ルイス酸性をクラウンエーテル等の配位によって下げた溶媒和イオン等が挙げられる。
【0024】
特定塩をカチオンの他の形態としては、アンモニウムイオン、ピロリジニウムイオン、ピリジニウムイオン、ピペリジニウムイオン、オキサゾリウムイオン、オキサゾリニウムイオン、イミダゾリウムイオン、チアゾリウムイオン、及び、ホスホニウムイオン等が好ましく、アンモニウムイオン、ピロリジニウムイオン、ピペリジニウムイオン、ピリジニウムイオン、及び、イミダゾリウムイオンがより好ましく、細胞に対する毒性がより低い点で、ホスホニウムイオンが更に好ましい。
【0025】
・アンモニウムイオン
アンモニウムイオンとしては、例えば、以下の式1で表されるカチオンが挙げられる。
【化1】
【0026】
式1中、R1はそれぞれ独立に水素原子、又は、一価の置換基を表し、複数あるR1はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。R1の一価の置換基としては特に制限されないが、例えば、ヘテロ原子を含有してもよい炭素数1~15の置換又は無置換の炭化水素基が挙げられる。
【0027】
・ピロリジニウムイオン
ピロリジニウムイオンとしては、例えば、以下の式2で表されるカチオンが挙げられる。
【化2】
【0028】
式2中、R2はそれぞれ独立に水素原子、又は、一価の置換基を表し、複数あるR2はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。R2の一価の置換基としては特に制限されないが、例えば、ヘテロ原子を含有してもよい炭素数1~15の置換又は無置換の炭化水素基が挙げられる。
【0029】
・ピペリジニウムイオン
ピペリジニウムイオンとしては、例えば、以下の式3で表されるカチオンが挙げられる。
【化3】
【0030】
式3中、R3はそれぞれ独立に水素原子、又は、一価の置換基を表し、複数あるR3はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。R3の一価の置換基としては特に制限されないが、例えば、ヘテロ原子を含有してもよい炭素数1~15の置換又は無置換の炭化水素基が挙げられる。
【0031】
・ピリジニウムイオン
ピリジニウムイオンとしては、例えば、以下の式4で表されるカチオンが挙げられる。
【化4】
【0032】
式4中、R4はそれぞれ独立に水素原子、又は、一価の置換基を表し、複数あるR4はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。R4の一価の置換基としては特に制限されないが、例えば、ヘテロ原子を含有してもよい炭素数1~15の置換又は無置換の炭化水素基が挙げられる。
【0033】
・イミダゾリウムイオン
イミダゾリウムイオンとしては、例えば、以下の式5で表されるカチオンが挙げられる。
【化5】
【0034】
式5中、R5はそれぞれ独立に水素原子、又は、一価の置換基を表し、複数あるR5はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。R5の一価の置換基としては特に制限されないが、例えば、ヘテロ原子を含有してもよい炭素数1~15の置換又は無置換の炭化水素基が挙げられる。
【0035】
・ホスホニウムイオンとしては、例えば、以下の式6で表されるカチオンが挙げられる。
【化6】
【0036】
式6中、R6はそれぞれ独立に水素原子、又は、一価の置換基を表し、複数あるR6はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。R6の一価の置換基としては特に制限されないが、例えば、ヘテロ原子を含有してもよい炭素数1~15の置換又は無置換の炭化水素基が挙げられる。
【0037】
R6の炭化水素基としては特に制限されないが、炭素数が1~15の直鎖状のアルキル基が好ましい。なかでも、より得られる細胞培養基材の毒性がより低い点で、炭素数が1~14が好ましく、1~12がより好ましく、1~10が更に好ましく、1~8が特に好ましく、1~6が最も好ましい。
【0038】
複数あるR6がそれぞれヘテロ原子を含有してもよい炭素数1~15の置換又は無置換の炭化水素基である場合、R6はそれぞれ同一で異なっていてもよいが、得られる塩の融点がより低くなりやすい点で、R6の少なくとも1つが、他のR6とは異なることが好ましい。すなわち、ホスホニウムイオンの対称性がより低いと、得られる塩の融点がより低くなりやすい。
また、得られる塩の融点がより低くなりやすい点では、R6の炭化水素基の炭素数が5以上であることも好ましい。R6の炭素数がより多いと、得られる塩の融点がより低くなりやすい。
【0039】
特定塩を構成するアニオンとしては特に制限されず、公知のアニオンが使用できる。なかでも、より優れた本発明の効果を有する細胞培養基材が得られる点で、アニオンとしては、ハロゲン原子を含有するアニオンが好ましい。ハロゲン原子としては特に制限されないが、フッ素、又は、臭素が好ましく、フッ素がより好ましい。
【0040】
ハロゲン原子を含有するアニオンとしては特に制限されないが、例えば、以下の式7で表されるアニオンが挙げられる。
【化7】
【0041】
式7中、R7はハロゲン原子、又は、ハロゲン化アルキル基を表し、フッ化アルキル基がより好ましい。複数あるR7は同一でも異なってもよい。また、R7は互いに連結して環を形成してもよい。
R7のフッ化アルキル基としては特に制限されないが、得られる細胞培養基材がより優れた疎水性を有する点で、R7はパーフルオロアルキル基であることが好ましい。
【0042】
上記アニオンの具体例としては、ビス(フルオロスルフォニル)イミド(FSI)、ビス(トリフルオロメタンスルフォニル)イミド(TFSI)、ビス(ペンタフルオロエチルスルフォン)イミド(BETI)、N,N-ビス(ノナフルオロブタンスルフォニル)イミド(NFSI)、及び、N,N-ヘキサフルオロプロパン-1,3-ジスルフォニルイミド(cTFSI)等が挙げられる。
【0043】
また、上記以外のアニオンとしては、Cl-、Br-、I-、BF4
-、BF3C2F5
-、PF6
-、NO3
-、CF3CO2
-、CF3SO3
-、及び、(CF3SO2)3C-等も使用可能である。
【0044】
(水分)
本細胞培養基材は後述する高分子化合物を含有しない場合、実質的に水分を含有しないことが好ましい。細胞培養基材が、実質的に水を含有しないとは、吸着水のように平衡的に存在し得る水分以外には、細胞培養基材の原料へ意図的に添加された水分、及び、細胞培養基材の調製時に意図的に添加された水分がないことを意味している。
細胞培養基材の水分含有量は、細胞培養基材が後述する高分子化合物を含有しない場合、すでに説明した特定塩の飽和水分量と同程度であることが好ましく、具体的には、細胞培養基材の全質量に対して10質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましく、1.2質量%以下が更に好ましく、0.75質量%以下が特に好ましい。
【0045】
一方、本細胞培養基材が、後述する高分子化合物を含有する場合、本細胞培養基材中における水分含有量としては特に制限されないが、一実施形態として、80質量%以下であるものが挙げられる。なお、本明細書における細胞培養基材中の水分含有量とはカールフィッシャー滴定法により測定される水分含有量を意味する。
【0046】
本細胞培養基材は実質的に水分を含有しないことが好ましい。言い換えれば、本細胞培養基材は疎水性であることが好ましく、これにより、水分を含有する培養液、典型的には、細胞の培養に必要な栄養成分と、水と、を含有する液体とより混和、及び/又は、上記液体により溶解しにくく、結果として、上記液体と本細胞培養基材の界面が形成され、上記界面にて細胞を接着培養(二次元培養)できる。
【0047】
〔その他の成分〕
本細胞培養基材はすでに説明した特定塩を含有していれば、本発明の効果を奏する範囲内において他の成分を含有していてもよい。他の成分としては、例えば、高分子化合物、界面活性剤、色素、有機溶剤、有機/無機微粒子、カーボンナノチューブ、及び、グラフェン等の含炭素化合物、層状化合物、繊維、及び、コロイド微粒子等が挙げられる。
【0048】
<高分子化合物>
本細胞培養基材は、高分子化合物を含有してもよい。細胞培養基材が高分子化合物を含有する場合、得られる細胞培養基材の粘弾性がより調整しやすい点で好ましい。また、高分子化合物の特性に対応した機能を細胞培養基材に付与できる。高分子化合物の特性としては、例えば、光、及び/又は、熱に対する応答性等が挙げられる。
【0049】
本細胞培養基材中における高分子化合物の含有量としては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する細胞培養基材が得られる点で、一般に、本細胞培養基材が含有する特定塩の100質量部に対して、0.001~50質量部が好ましい。なお、本細胞培養基材は、高分子化合物の1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有していてもよい。本細胞培養基材が、2種以上の高分子化合物を含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0050】
高分子化合物としては特に制限されず、公知の高分子化合物が使用できる。なかでも、より優れた本発明の効果を有する細胞培養基材が得られる点で、ラジカル重合可能なエチレン性不飽和基を有するモノマーに基づく繰り返し単位(以下、単に、「単位1」ともいう。)を有する高分子化合物が好ましい。
エチレン性不飽和基としては特に制限されないが、例えば、(メタ)アクリロイル基、スチリル基、及び、アリル基等が挙げられる。
【0051】
単位1としては、特に制限されないが、例えば、下記式8a、及び、8bで表される繰り返し単位が挙げられる。
【化8】
【0052】
式8a中、R81は、水素原子、又は、アルキル基を表し、L8は2価の連結基を表し、2価の連結基としては特に制限されないが、-O-、-S-又は、-NR-(Rは水素原子、又は、1価の置換基)が好ましく、-O-、又は、-NR-がより好ましい。
【0053】
R82は、水素原子、又は、1価の置換基を表し、1価の置換基としては、直鎖状、分岐鎖状、又は、環状のアルキル基、アルケニル基、又は、アルキニル基;フェニル基、ベンジル基、トリル基、及び、キシリル基等のアリール基;モルフォリノ基;等が挙げられる。R82の1価の置換基が有する炭素数としては特に制限されないが、1~20が好ましい。
【0054】
なかでも、特定塩とのより優れた相溶性を有し、より均一な細胞培養基材が得られる点で、R82としては、直鎖状、又は、分岐鎖状のアルキル基が好ましく、アルキル基の炭素数としては特に制限されないが、より均一な細胞培養基材が得られる点で、1~6がより好ましく、1~5がより好ましい。
【0055】
また、特定塩とのより優れた相溶性を有し、より均一な細胞培養基材が得られる点で、L8が-NR-である場合、Rは1価の置換基が好ましく、更に、R82が1価の置換基であることがより好ましい。上記Rの1価の置換基としては特に制限されないが、R82の1価の置換基が挙げられる。
なかでも、L8が-NR-である場合、R及びR82がそれぞれ直鎖状、又は、分岐鎖状のアルキル基であることが好ましく、アルキル基の炭素数としては特に制限されないが、1~6が好ましく、1~5がより好ましい。上記の理由としては必ずしも明らかではないが、R、及び、R82が1価の置換基である場合、水素結合供与性がより低くなるため、特定塩(特に疎水性のイオン液体である特定塩)に対するより優れた相溶性が得られたものと推測される。
【0056】
式8b中、R83は、水素原子、又は、アルキル基を表し、R84はハロゲン原子、又は、1価の置換基を表し、nは0~5の整数を表す。
1価の置換基としては特に制限されず、例えば、式8aのR82の1価の置換基として説明した置換基が挙げられる。
【0057】
より具体的には、単位1としては以下の式に示す単位が挙げられる。
【化9】
【0058】
【0059】
高分子化合物の製造方法としては特に制限されず、公知の製造方法が適用可能である。なかでも、エチレン性不飽和基を有するモノマーと重合開始剤とを含有する重合性組成物にエネルギー(熱、及び/又は、光等)を照射して、重合させて得る方法が好ましい。
【0060】
<重合性組成物>
重合性組成物は、モノマーと重合開始剤とを含有する。重合性組成物が含有するエチレン性不飽和基を有するモノマーとしては、単官能重合性化合物、及び、多官能重合性化合物が挙げられる。重合性組成物は、単官能重合性化合物、及び、多官能重合性化合物のいずれか一方を含有してればよいが、より優れた本発明の効果を有する細胞培養基材が得られる点で、重合性組成物は、単官能重合性化合物と、多官能重合性化合物とを含有することが好ましい。なお、重合性組成物は、単官能重合性化合物、及び/又は、多官能重合性化合物の1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有していてもよい。
なお、重合性組成物は上記以外の成分を含有してもよい。
【0061】
重合性組成物が多官能重合性化合物を含有する場合、得られる高分子化合物が3次元網目構造を有しやすく、上記の特定塩によって膨潤したゲル状の細胞培養基材が得られやすい。
【0062】
(単官能重合性化合物)
単官能重合性化合物としては、例えば、メチル(メタ)アクリレ-ト、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロキシル(メタ)アクリレート、n-デシル(メタ)アクリレート、n-ドデシル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、及び、ジメチルアミノメチルメタクリレート等の(メタ)アクリレ-ト化合物;
アリルグリシジルエ-テル等のアリル化合物;
スチレン、α-メチルスチレン、4-tert-ブチルスチレン、ビニルトルエン、及び、4-(クロロメチル)スチレン等のスチレン化合物;
(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、及び、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド等のアクリルアミド系化合物;等が挙げられる。
【0063】
(多官能重合性化合物)
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1-(アクリロイルオキシ)-3-(メタクリロイルオキシ)-2-プロパノール、1,3-ブチレングリコールジメタクリレート、ノナンジオールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、1,12-ドデカンジオールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、オリゴエステルアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、及び、2,2-ビス(4-メタクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン等の(メタ)アクリレート化合物;メチレンビスアクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド化合物;等が挙げられる。
【0064】
重合性組成物が含有するモノマー中の単官能重合性化合物と多官能重合性化合物の比率としては特に制限されないが、重合性組成物中における単官能重合性化合物の含有量を100質量部としたとき、多官能重合性化合物の含有量が0.001~50質量部であることが好ましい。
【0065】
(重合開始剤)
重合開始剤としては、特に制限されず、公知の熱重合開始剤、及び/又は、光重合開始剤が使用できる。
熱重合開始剤としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、及び、過酸化ベンゾイル等の過酸化物等が挙げられる。
光重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、ミヒラーズケトン、キサントン、及び、チオキサントン等の芳香族ケトン化合物;2-エチルアントラキノン等のキノン化合物;アセトフェノン、トリクロロアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾインエーテル、2,2-ジエトキシアセトフェノン、及び、2,2-ジメトキシー2-フェニルアセトフェノン等のアセトフェノン化合物;メチルベンゾイルホルメート等のジケトン化合物;1-フェニル-1,2-プロパンジオン-2-(O-ベンゾイル)オキシム等のアシルオキシムエステル化合物;2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド等のアシルホスフィンオキシド化合物;テトラメチルチウラム、及び、ジチオカーバメート等のイオウ化合物;過酸化ベンゾイル等の有機化酸化物;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物;有機スルフォニウム塩化合物;ヨードニウム塩化合物;フォスフォニウム化合物;等が挙げられる。
【0066】
重合開始剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。重合性組成物中における重合開始剤の含有量は、重合性組成物の全質量に対して、0.001~10質量%が好ましい。
【0067】
高分子化合物の調製方法としては特に制限されず、公知の調製方法が使用できる。なかでも、ゲル状の細胞培養基材が得られやすい点で、上記重合性組成物を特定塩(特にイオン液体が好ましい)に分散、及び/又は、溶解させた複合物を得て、上記複合物にエネルギー付与(加熱、及び/又は、光照射)することが好ましい。
【0068】
<界面活性剤>
本細胞培養基材は、界面活性剤を含有していてもよい。細胞培養基材が界面活性剤を含有する場合、後述する培養液と本細胞培養基材とを混合して分散させて典型的にはw/oエマルジョンを形成させて、細胞培養基材の表面積をより増加させて、より集積的な培養が可能になる。
【0069】
本細胞培養基材における界面活性剤の含有量としては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する細胞培養基材が得られる点で、一般に細胞培養基材の全質量に対して、0.0001~10質量%が好ましい。なお、細胞培養基材は、界面活性剤の1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有していてもよい。細胞培養基材が、2種以上の界面活性剤を含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0070】
界面活性剤としては特に制限されず、公知の界面活性剤が使用できる。界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、及び、ノニオン系界面活性剤が挙げられる
【0071】
(形状)
本細胞培養基材の形状としては特に制限されない。本細胞培養基材が固体、又は、ゲル状であれば、フィルム状、皿状、ボトル状、チューブ状、太さ5nm~5mmの糸又は棒状、袋状、ウェルプレート状、多孔質膜状、及び、粒径が1~2000μmの球状等が挙げられる。
【0072】
なかでも、細胞培養基材が含有する特定塩がイオン液体である場合、培地中に本細胞培養基材が分散した形態(典型的にはo/wエマルジョン)が好ましい。本細胞培養基材が培地中に分散したパーティクル状である場合、培地と本細胞培養基材との界面の面積がより大きくなり、細胞を二次元培養可能な面積がより大きくなるため、好ましい。
【0073】
〔細胞培養基材の製造方法〕
本細胞培養基材の製造方法としては特に制限されず、上記の各成分を混合すればよい。混合の方法としては特に制限されず、公知の混合方法が適用できる。
なかでも、より簡便に本細胞培養基材が得られる点で、本細胞培養基材の製造方法は、特定塩を合成する工程と、必要に応じてその他の成分を添加する工程と、を有することが好ましい。以下では、上記各工程について使用する特定塩がイオン液体である場合を例に説明するが、イオン液体以外である場合も同様である。
【0074】
イオン液体を合成する方法としては特に制限されず、公知の方法が使用できる。イオン液体を合成する方法としては、例えば、特開2018-62514号公報の0107~0125段落に記載の方法が挙げられ、上記内容は本明細書に組み込まれる。
【0075】
その他の成分を添加する工程としては特に制限されず、上記で得られたイオン液体に所定の成分を添加すればよい。なかでも、細胞培養基材が高分子化合物を含有する場合、イオン液体に重合性組成物(モノマー及び重合開始剤等)を分散、及び/又は、溶解させ、複合物を調製し、上記複合物にエネルギー付与(加熱、及び/又は、光照射)することが好ましい。
【0076】
〔用途〕
本細胞培養基材によれば、細胞を二次元培養することができる。より具体的には、細胞培養基材と後述する培養液との界面において、細胞を細胞培養基材に接着、伸展させることができる。
【0077】
<細胞>
本細胞培養基材に適用可能な細胞としては特に制限されないが、動物細胞、及び、植物細胞からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、動物細胞がより好ましい。細胞は、生体から得られた細胞であってもよいし、公知の方法により得られた樹立細胞株であってもよい。
【0078】
動物細胞としては、由来は動物であればよく、動物としては特に制限されないが、ヒト、マウス、及び、サル等が挙げられる。細胞の種類としては特に制限されないが、ヒト由来であれば、ヒトES細胞、ヒト間葉系幹細胞、ヒト組織細胞、及び、ヒト樹立細胞株等が挙げられる。
【0079】
細胞種としては特に限定されないが、樹状細胞等の免疫細胞;胚性幹細胞(ES細胞)、及び、誘導多様性幹細胞(iPS細胞)等の幹細胞;生体から採取した組織等に由来する初代培養細胞;種々のがん細胞等が挙げられる。
【0080】
また、細胞種としては、上皮細胞(角膜上皮細胞等)、内皮細胞(ヒト臍帯静脈内皮細胞等)、線維芽細胞(ヒト皮膚線維芽細胞、及び、マウス線維芽細胞等)、血球細胞、収縮性細胞(骨格筋細胞、及び、心筋細胞等)、血液・免疫細胞(赤血球、及び、マクロファージ等)、神経細胞(ニューロン、及び、グリア細胞等)、色素細胞(網膜色素細胞等)、肝細胞、軟骨細胞、骨芽細胞、並びに、幹細胞(造血幹細胞、皮膚幹細胞、生殖幹細胞、EC(embryonal carcinoma )細胞、EG(embryonic germ)細胞、及び、神経幹細胞等)等であってもよい。
【0081】
また、植物細胞としては、特に制限されず、任意の組織に由来する植物細胞を使用でき、例えば、胚、カルス、花粉、葉、葯、根、根端、花、種子、さや、茎、及び、組織培養物等に由来する植物細胞を使用できる。
【0082】
[細胞培養方法]
本発明の実施形態に係る細胞培養方法は、すでに説明した細胞培養基材に細胞を接着させて培養する細胞培養方法である。
【0083】
〔細胞培養器〕
図1は本発明の実施形態に係る細胞培養器の一例を示す斜視図であり、
図2は、上記細胞培養器のAA′断面模式図である。細胞培養器100は、支持体101と支持体上に配置された細胞培養基材102を有しており、更に、細胞培養基材102上には、培養液103が重層されている。
【0084】
支持体101は、細胞培養基材、及び、添加される培養液を支持する機能を有する部材であり、典型的には容器である。支持体101の材料としては特に制限されず、公知の材料が使用可能である。細胞培養基材の材料としては、有機材料、無機材料、及び、これらの複合物が挙げられる。
有機材料としては特に制限されないが、樹脂が挙げられる。樹脂としては、ポリスチレン等のスチレン系樹脂、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、パーフルオロカーボン系樹脂、及び、エポキシ樹脂等が挙げられる。
無機材料としては特に制限されないが、ガラス、及び、金属等が挙げられる。
【0085】
支持体101は皿状であるが、本発明の実施形態に係る細胞培養器に使用できる支持体としては上記に制限されず、フィルム状、膜状、板状、球状、多角形状、棒状、皿状、ボトル状、チューブ、針・糸状、繊維状、袋状、マルチウエルプレート状(例えば、24穴マイクロプレート)、マイクロ流路状、多孔質膜状、及び、網状等が挙げられる。
また、支持体は、これらを組み合わせた形状でも良いし、特定の形状を有さない不定形状であってもよい。
【0086】
本細胞培養方法は、まず、細胞培養基材と培養液との界面を形成し、次に、上記培養液に対して、培養対象とする細胞を播種する方法が挙げられる。
細胞培養基材と培養液との界面を形成する方法としては特に制限されず、支持体上に細胞培養基材層を形成し、次に、上記細胞培養基材層上に培養液層を形成する方法であってもよいし、支持体上に培養液層を形成し、次に、上記培養液層上に細胞培養基材層を形成する方法であってもよいし、支持体に収容された培養液に細胞培養基材を分散せてもよいし、支持体に収容された細胞培養基材に培養液を分散させてもよい。
界面の形成方法としては、典型的には、培養液と細胞培養基材とを混合する方法が挙げられる。
【0087】
なお、本細胞培養方法は上記以外にも、培養液と混合するまえの細胞培養基材を洗浄する工程、及び、細胞培養基材、及び/又は、培養液を紫外線滅菌する工程等を有していてもよい。
【0088】
本細胞培養方法では、本細胞培養基材と培養液と細胞とを共存させ、培養に適した温度に保つことで培養を行うことができる。培養中、培養液は培養期間に応じて交換してもしなくても適宜選択すればよい。また、培養液は静置状態であっても潅流状態であってもよい。
【0089】
<培養液>
本細胞培養基材を用いて細胞培養する場合に使用する培養液としては特に制限されないが、水を含有し、更に、糖類、アミノ酸、ビタミン又はその前駆体、無機塩、緩衝化剤、補因子、及び、核酸からなる群より選択される少なくとも1種(以下、基質ともいう。)を含有する培養液が挙げられる。
溶液中における基質の含有量としては特に制限されないが、典型的には培養液の全質量に対して、0.001~10質量%が好ましい。なお、培養液は、基質の1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有していてもよい。培養液が2種以上の基質を含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
また、培養液のpHとしては特に制限されないが、一般に6~8が好ましい。
【0090】
糖類としては、特に制限されないが、例えば、グルコース、ガラクトース、リボース、及び、フルクトース等の単糖類;スクロース、ラクトース、及び、マルトース等の二糖類;等が挙げられる。
【0091】
アミノ酸としては、特に制限されないが、例えば、チロシン、ロイシン、イソロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファン、バリン、及び、D-アミノ酸等が挙げられる。
【0092】
無機塩類としては、水溶性の無機塩が好ましく、例えば、カルシウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウム、コバルト、銅、鉛、鉄、マンガン、モリブデン、ニッケル、バナジウム、及び、亜鉛等の無機カチオンと、重炭酸イオン、ハロゲン化物イオン、リン酸イオン、及び、硫酸イオン等の無機アニオンの組み合せからなる塩が挙げられる。
【0093】
より具体的には、硫酸銅(II)五水和物(CuSO4・5H2O)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カルシウム(CaCl2・2H2O)、塩化カリウム(KCl)、硫酸鉄(II)、リン酸ナトリウム一塩基性無水物(NaH2PO4)、硫酸マグネシウム無水物(MgSO4)、リン酸ナトリウム二塩基性無水物(Na2HPO4)、塩化マグネシウム六水和物(MgCl2・6H2O)、及び、硫酸亜鉛七水和物等が挙げられる。
【0094】
緩衝化剤としては、例えば、CO2/HCO3(炭酸塩)、リン酸塩、HEPES(4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid)、PIPES(Piperazine-1,4-bis(2-ethanesulfonic acid)、ACES(N-(2-Acetamido)-2-aminoethanesulfonic acid)、BES(N,N-Bis(2-hydroxyethyl)-2-aminoethanesulfonic acid)、TES(N-Tris(hydroxymethyl)methyl-2-aminoethanesulfonic acid)、MOPS(3-Morpholinopropanesulfonic acid)、及び、TRIS(tris(hydroxymethyl)aminomethane)等が挙げられる。
【0095】
補因子としては、例えば、チアミン誘導体、ビオチン、ビタミンC、NAD/NADP、コバラミン、フラビンモノヌクレオチド及びその誘導体、グルタチオン、並びに、ヘムヌクレオチドリン酸(phophates)及び誘導体等が挙げられる。
【0096】
核酸としては、例えば、シトシン、グアニン、アデニン、チミン、及び、ウラシル等の核酸塩基;シチジン、ウリジン、アデノシン、グアノシン、及び、チミジン等のヌクレオシド;アデノシン一リン酸、アデノシン二リン酸、及び、アデノシン三リン酸等のヌクレオチド;等が挙げられる。
【実施例】
【0097】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0098】
[実施例1:細胞培養試験]
〔細胞培養基材の準備〕
ビス(フルオロスルフォン)イミド(FSI)、ビス(トリフルオロメタンスルフォニル)イミド(TFSI)、ビス(ペンタフルオロエチルスルフォン)イミド(BETI)、ビス(ノナフルオロブチルスルフォン)イミド(NFSI)、N,N-ヘキサフルオロ-1,3-ジスルフォニルイミド([cTFSI])をリチウム塩として準備した。これを各ハロアルキルホスフォニウムと混合し、を水、又は、エタノール中でイオン交換反応して、イオン液体(特定塩に該当する。)を準備した。また、その他のイオン液体は購入したものを水で3回洗浄した後に用いた。表1には、使用したアニオン、及び、カチオンの一覧を示した。下記表中の各アニオン、及び、各カチオンを組合せたイオン液体を使用して細胞培養基材を調製した。
【0099】
【0100】
〔飽和水分量測定試験〕
表2に記載したアニオン及びカチオンからなる塩1~18を調製した。いずれの塩も室温、常圧下で液体であった。各試料の500μLに対して過剰量の精製水2500μLを添加し、激しく撹拌して、混合液を得た。上記混合液を一晩、室温(25℃)に静置することで平衡状態に到達させた。次に、静置後の混合液について、遠心分離(10000rpm、20min)により二相に完全に分離させた。下相(イオン液体濃厚相)を約300μLをピペットで取り出し、カールフィッシャー滴定法により飽和水分量を定量した。結果を表2に示した。
表2に示した結果から、塩1~塩18の飽和水分量はいずれも所定の範囲内だった。
【表2】
【0101】
〔細胞培養試験〕
プラスチック製24穴(well)ディッシュに、各細胞培養基材を500μLずつ導入し、254nmの紫外光を照射し滅菌処理した。次に、ヒト由来フィブロネクチンを100μg/mLの濃度で溶解させたリン酸緩衝液(pH 7.4)1mLで細胞培養基材を覆い、37℃の条件で15時間静置した。次に、リン酸緩衝液相を除去し、及び、洗浄した。次に、hMSCs用増殖培地(培養液に該当する)を細胞培養基材上に導入しhMSCs(ヒト間葉系幹細胞)を1×104cells/wellになるように播種した。
培地は2日に一度程度の頻度で交換し、以後、任意の時間において細胞培養基材と培地との界面上の細胞を観察した。
【0102】
図3には、特定塩として、[P
4441][TFSI]を含有する細胞培養基材を用いて培養し、10日間経過後の細胞の光学顕微鏡像を示した。
また、
図4には、特定塩として[P
66614][TFSI]を含有する細胞培養基材を用いて培養し、10日間経過後の細胞の光学顕微鏡像を示した。なお、
図4における黒線で囲った部分は、吸着、及び、伸展した細胞の存在を示している。
【0103】
同様に、
図5には、特定塩として[P
8888][TFSI]を、
図6には、特定塩として[P
6614][cTFSI]を、
図7には、特定塩として[P
8888][BETI]を、
図8には特定塩として[P
66614][BETI]を用いて上記と同様にし7日間培養した細胞の光学顕微鏡写真を示した。
なお、
図3~
図8において使用した特定塩はいずれもイオン液体だった。
【0104】
図3~8の結果から、いずれの細胞培養基材を用いた場合であっても、培地(培養液)と細胞培養基材との界面において、細胞を二次元培養(接着培養)できることがわかった。
また、[P
2225][TFSI]、及び、[P
8888][cTFSI]についても同様の結果が得られることを確認した。
また、上記の各細胞培養基材は、特定塩(イオン液体)が[P
66614][NFSI]、及び、[P
8888][NFSI]である細胞培養基材と比較して、よりhMSCs細胞が進展しやすかった。
【0105】
[実施例2:細胞培養試験(高分子化合物添加)]
〔溶解性試験〕
実施例1と同様の方法で塩を準備した。すなわち、ビス(トリフルオロメタンスルフォニル)イミドをリチウム塩として準備し、これを各ハロアルキルホスフォニウムと混合し、水、又は、エタノール中でイオン交換反応して、塩を得た。
【0106】
得られた塩に式で表される各高分子化合物を共溶媒留去法によって溶解させ、溶解性は目視によって判断した。結果は以下の基準により評価し、表3に示した。
AA:より優れた溶解性を有し、均一な溶液が得られた。
A: 優れた溶解性を有し、一定の条件下で相分離した
B: 溶解性を有し、粘稠溶液が得られた。
C: 溶液の一部に白濁が見られた。
【0107】
【0108】
【0109】
〔細胞培養基材の準備〕
(高分子化合物の合成)
・重合性組成物の作成
メタクリル酸ブチル(n-BuMA)の0.5M(:~4wt%)~4M(:~60wt%)に対して、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)を1~10mol%になるよう加え、更に、重合開始剤として、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)をn-BuMAに対して1mol%になるように加えて重合性組成物を調製した。この重合性組成物に、総体積が2mLになるように塩(イオン液体)を加えてメスアップした。
【0110】
・高分子化合物の合成
得られたイオン液体と重合性組成物との複合物を脱気し、アルゴン置換を数回繰り返した後、ガラス基板上に塗布して複合物層を形成し、得られた複合物層を60℃に加温して保持(~15h)した。更に、未反応モノマーの重合、及び、乾熱滅菌のために、アルゴン雰囲気下、120℃にて3h以上保持し、高分子化合物を含有するシート状の細胞培養基材を得た。得られた細胞培養基材は、使用時までデシケータ内で保存した。
【0111】
〔細胞培養試験〕
シート状の細胞培養基材を約0.5cm角に裁断し、表面を紫外線滅菌(照射光強度1Wcm
-2、15min)した。次に細胞培養基材上にフィブロネクチン(Fibronectin)の20mg/mLを滴下し、37℃にて2日以上静置後、アスピレーションし、その後、3×10
4cells/mLの条件でhMSCs細胞を播種した(培養条件の詳細は実施例1と同様である)。結果を
図9~11に示した。
【0112】
図9~11には、使用した塩、及び、高分子化合物が異なる6種類の細胞培養基材を用いてhMSCs細胞を培養し、1日間経過後の顕微鏡像を示した。
図9には塩として[P
2225][TFSI]を使用し、単官能重合性化合物を2M、多官能重合性化合物を1mol%として得られた細胞培養基材(上側)、及び、単官能重合性化合物を4M、多官能重合性化合物を5mol%として得られた細胞培養基材(下側)を用いた結果を示した。
【0113】
図10には特定塩として[P
4441][TFSI]を使用し、単官能重合性化合物を2M、多官能重合性化合物を1mol%として得られた細胞培養基材(上側)、及び、単官能重合性化合物を4M、多官能重合性化合物を5mol%として得られ細胞培養基材(下側)を用いた結果を示した。
図11には特定塩として[P
66614][TFSI]を使用し、単官能重合性化合物を2M、多官能重合性化合物を1mol%として得られた細胞培養基材(上側)、及び、単官能重合性化合物を4M、多官能重合性化合物を5mol%として得られた細胞培養基材(下側)を用いた結果を示した。
【0114】
図9~
図11の結果から、細胞培養基材中の高分子化合物の含有量、及び/又は、架橋密度がより高いと、細胞形状はより伸展し、細胞培養基材中の高分子化合物の含有量、及び/又は、架橋密度がより低いと、細胞形状はより球状となることがわかった。
すなわち、高分子化合物を含有する細胞培養基材を用いるとより簡便に細胞形状を制御できることがわかった。
【0115】
(形状観察)
上記で得られた培養細胞について、「ImageJ(商品名)」ソフトウェアを用いて画像処理し、円形度、及び、細胞面積を算出した。結果を表4に示した。なお、円形度とは式:4πS/L2(S:細胞の投影面積、L:細胞の周囲長)で計算される値を意味し、表4中、円形度とあるのは、各条件において50個以上の細胞の算術平均値である。また、細胞面積は各条件において50個以上の細胞の占める面積の算術平均値である。
【0116】
【0117】
表4に示した結果から、細胞形状、及び、面積(伸展度)の点で、[P4441]を用いた細胞培養基材を用いた場合、[P2225]を用いた場合と比較して、より真円度が低く、より伸展することがわかった。また、[P66614]を用いた細胞培養基材を用いた場合、[P2225]、及び、[P4441]を用いた場合と比較して、更に真円度が低く、更に伸展することがわかった。
また、[P66614]を用いた細胞培養基材を用いて培養した細胞は、PSt(ポリスチレン製)ディッシュ上で培養した細胞と形状が類似していた。
【0118】
[実施例3:hMSCs細胞生死判定試験]
48穴プラスティックディッシュそれぞれの穴(well)に6mm角スライドガラスを導入し、37℃に予備加温した培養液で満たした。次に、hMSCs(ヒト間葉系幹細胞)を3.5×105cells/wellになるよう播種し、CO25%、37℃の条件でインキュベートした。顕微鏡観察によりガラスプレート上の細胞がコンフルーエントな状態まで増殖することを確認した後、500μLの新鮮な培養液と入れ替え、20μLの塩(イオン液体)を、各wellに滴下した。次にインキュベーションを開始し、1、4、24時間後にガラスプレートを取り出し、生細胞と死細胞とをそれぞれ蛍光染色した。
染色操作後、ガラスプレートをpH7.4リン酸緩衝液中にて洗浄、及び、上記に導入し蛍光顕微鏡用の評価サンプルとした。
【0119】
図12は、[P
4441][TFSI]からなるイオン液体の存在下で培養したhMSCs細胞の培養開始から1、4、24時間経過後における顕微鏡像、及び、蛍光画像である。
図12において、上段左側が、培養開始から1時間経過後の顕微鏡像、上段右側が同視野の蛍光画像であり、中段左側が、培養開始から4時間経過後の顕微鏡像、中段左側が同視野の蛍光画像であり、下段左側が培養開始から24時間経過後の顕微鏡像、下段右側が同視野の蛍光画像である。
【0120】
また、
図13は、[P
66614][TFSI]からなるイオン液体の存在下で培養したhMSCs細胞の培養開始から1、4、24時間経過後における顕微鏡像、及び、蛍光画像である。上段左側が、培養開始から1時間経過後の顕微鏡像、上段右側が同視野の蛍光画像であり、中段左側が、培養開始から4時間経過後の顕微鏡像、中段左側が同視野の蛍光画像であり、下段左側が培養開始から24時間経過後の顕微鏡像、下段右側が同視野の蛍光画像である。
【0121】
図12、及び、
図13から、hMSCs細胞はいずれもほとんど生存していることが明らかであり、上記塩は、hMSCs細胞の生存率に影響を与えにくいことがわかった。
次に、蛍光画像を二値化処理し、細胞生存量を求めた。なお、モノクロ二値化した蛍光画像における白色部分の面積が生細胞の存在量と正の相関があるため、これを細胞生存量と定義した。各塩の共存下における1、4、24時間経過時における白色部分面積を、塩の非共存下(表5における例7に該当する)における、1、4、24時間におけるそれぞれの白色部分面積で除した値を細胞生存率(%)と定義し、表5に示した。
【0122】
【0123】
表5に示した結果から、例8~例11ではいずれも高い細胞生存率を示した。
【符号の説明】
【0124】
100 細胞培養器
101 支持体
102 細胞培養基材
103 培養液