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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】耐摩耗絶縁シート
(51)【国際特許分類】
   H01B 17/58 20060101AFI20240221BHJP
   H01B 7/36 20060101ALI20240221BHJP
   H02G 7/00 20060101ALI20240221BHJP
【FI】
H01B17/58 F
H01B7/36 Z
H01B17/58 Z
H02G7/00
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020034773
(22)【出願日】2020-03-02
(65)【公開番号】P2021140868
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2023-01-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000115382
【氏名又は名称】ヨツギ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075557
【弁理士】
【氏名又は名称】西教 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】井上 浩一
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 宏昭
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】実開昭58-085716(JP,U)
【文献】特開2009-297978(JP,A)
【文献】特開2016-048645(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 17/58
H01B 7/36
H02G 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気絶縁性を有する、予め定める第1色の合成樹脂から成る可撓性の摩耗層と、
電気絶縁性を有する、前記第1色とは異なる第2色の合成樹脂から成り、前記摩耗層に積層される可撓性の摩耗検知層と、を含み、前記摩耗層を外側にして電線に装着される矩形の耐摩耗絶縁シートであって、
前記摩耗層は、
前記摩耗検知層に重なる積層部と、
前記摩耗検知層の周縁部の少なくとも1つの縁辺部の側面を被覆する側面被覆部と、を有し、
前記側面被覆部は、前記摩耗検知層の、該側面被覆部が設けられた前記縁辺部の側面から垂直な方向に、前記側面被覆部の厚みTの2倍以上、5倍以下の幅Wを有していることを特徴とする耐摩耗絶縁シート。
【請求項2】
前記摩耗検知層の前記摩耗層によって覆われていない摩耗検知層表面および前記側面被覆部の前記摩耗検知層表面の外周側に連なる側面被覆部表面には、粘着性を有する粘着層が設けられていることを特徴とする請求項に記載の耐摩耗絶縁シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架空電線の樹木などが近接している縁廻し部、本線部、碍子および絶縁カバー部などに装着し、樹木から架空電線を保護するために用いられる耐摩耗絶縁シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術の耐摩耗絶縁シートは、例えば特許文献1に電線絶縁カバーシートとして記載されている。この従来技術の電線絶縁カバーシートは、矩形のシート体と、シート体が挿入される透明な袋状体と、電線に逆U字状に掛止められたシート体および袋状体の互い対向する端部同士を固定する手段とを備えている。
【0003】
シート体は、電気絶縁性を有する可撓性の合成樹脂材料として、ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニルなどによって形成された複数のシート状体が積層され、それらのシート状体の全周が溶着されている。シート体の一方の表面のほぼ四隅には、袋状体に固定するための面状ファスナが貼着されている。
【0004】
袋状体は、耐熱性を有する可撓性の合成樹脂材料として、ポリ塩化ビニリデンによって形成され、内周面にはシート体の面状ファスナに係合する面状ファスナが貼着されている。このような袋状体には、シート体が挿入され、開口端が部分的に開口させた状態で溶着されている。
【0005】
このように、この従来技術では、電線との摩擦熱によって溶融して燃えだすこと、雨やほこりなどによって電線絶縁シート体に表示された耐電圧値、労働省検定番号などが消えてしまうこと、およびシート体を貫通する傷が生じることを防止することができる電線絶縁カバーシートが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】実公昭64-4184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述の従来技術では、電線の近くに樹木があると、成長した樹木の枝が電線絶縁カバーシートに接触し、大きな摩擦で摺動する。これによって電線絶縁カバーシートの袋状体が損耗し、やがて破損してしまうことになる。袋状体が破損すると、樹木の枝は、袋状体に挿入されているシート体の表面に接触し、風の作用によって大きな摩擦力で摺動し、シート体をも破損してしまう。このように、この従来技術では、シート体を透明な袋状体に挿入する構成であるので、電線絶縁カバーシートが損傷していても、保全管理を担当する作業者は電線絶縁カバーシートの損傷を容易に見つけることが困難であり、電気絶縁カバーシートが交換されないまま放置されてしまうおそれがある。
【0008】
また、シート体が透明な袋状体に挿入されているので、日射などの光が電気絶縁カバーシートに照射されると、袋状体による反射および袋状体を透過した光の内部での乱反射によって、地上から架空電線に装着された電気絶縁カバーシートを見ても、電気絶縁カバーシートの損傷の有無を確認することが困難である。そのため、高所作業車などによって、各電線に取り付けられている電気絶縁カバーシートの近傍で確認作業を行わなければならず、保守管理作業に多大な手間および労力を要してしまう、という問題がある。
【0009】
本発明の目的は、作業者が離れた位置で容易かつ確実に損傷の有無を確認することができる耐摩耗絶縁シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、電気絶縁性を有する、予め定める第1色の合成樹脂から成る可撓性の摩耗層と、
電気絶縁性を有する、前記第1色とは異なる第2色の合成樹脂から成り、前記摩耗層に積層される可撓性の摩耗検知層と、を含み、前記摩耗層を外側にして電線に装着される矩形の耐摩耗絶縁シートであって、
前記摩耗層は、
前記摩耗検知層に重なる積層部と、
前記摩耗検知層の周縁部の少なくとも1つの縁辺部の側面を被覆する側面被覆部と、を有し、
前記側面被覆部は、前記摩耗検知層の、該側面被覆部が設けられた前記縁辺部の側面から垂直な方向に、前記側面被覆部の厚みTの2倍以上、5倍以下の幅Wを有していることを特徴とする耐摩耗絶縁シートである。
【0012】
また本発明は、前記摩耗検知層の前記摩耗層によって覆われていない摩耗検知層表面および前記側面被覆部の前記摩耗検知層表面の外周側に連なる側面被覆部表面には、粘着性を有する粘着層が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電線に摩耗層を外側にして耐摩耗絶縁シートが装着された状態では、耐摩耗絶縁シートの摩耗検知層の第2色が内側となり、少なくとも1つの縁辺部の側面も摩耗層の側面被覆部によって被覆されているので、摩耗検知層が外部に露出せず、地上からは実質上、第1色の摩耗層だけが視認される。これによって、日射などの光が摩耗層によって反射している状態であっても、耐摩耗絶縁シートが摩耗していると誤認することが防がれ、摩耗状態を確認するための無駄な手間および労力の発生を回避することができる。このような誤認による無駄な手間および労力の回避は、山間部および市街地などの広域の配電管区で電線の保全維持管理を行う上で、大きなコスト削減となり、実効性に優れた耐摩耗絶縁シートを提供することができる。
【0014】
また本発明によれば、側面被覆部は、摩耗検知層の縁辺部の側面から該側面に垂直な方向の幅Wが、側面被覆部の厚みTの2倍以上、5倍以下に形成されるので、摩耗検知層の縁辺部の側面は側面被覆部の側面から幅方向において内側に耐摩耗絶縁シートが長期間にわたって電線に装着され、熱膨張または熱収縮による反りや浮きなどの変形によって、耐摩耗絶縁シートと、その下地となる電線との間、または耐摩耗絶縁シートと、その下地となる耐摩耗絶縁シートの重なり部との間に隙間が生じても、厚みTの2倍以上5倍以下の幅Wを有する側面被覆部によって、摩耗検知層は外部からは見えず、作業者が耐摩耗絶縁シートに摩耗が発生していると誤認することが防がれる。
【0015】
また本発明によれば、摩耗検知層表面および側面被覆部表面に粘着層が設けられるので、電線に耐摩耗絶縁シートを巻き付けると、粘着層が電線の外表面または先行して電線に巻き付けられている耐摩耗絶縁シートの外表面に粘着し、耐摩耗絶縁シートが電線に保持され、耐摩耗絶縁シートを容易かつ迅速に電線に取付けることができる。したがって、高所作業車のバケットなどに作業者がった状態で耐摩耗絶縁シートを電線に取り付ける高所作業を行うに際して、作業者は煩雑な作業を行う必要がなく、高所で不安定なバケット上であっても、作業者は簡便に耐摩耗絶縁シートを電線に取り付けることが可能となり、取付け性に優れた耐摩耗絶縁シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態の耐摩耗絶縁シート1を示す正面図である。
図2図1の切断面線II-IIから見た耐摩耗絶縁シートの断面図である。
図3】耐摩耗絶縁シート1が電線Cに取付けられた使用例1を示す斜視図である。
図4】耐摩耗絶縁シート1の側面被覆部10付近の拡大断面図である。
図5図3の切断面線V-Vから見た耐摩耗絶縁シート1の拡大断面図である。
図6】耐摩耗絶縁シート1の他の使用例2を模式的に示す断面図である。
図7】耐摩耗絶縁シート1の他の使用例2を模式的に示す断面図である。
図8】耐摩耗絶縁シート1の他の使用例2を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は本発明の一実施形態の耐摩耗絶縁シート1を示す正面図であり、図2図1の切断面線II-IIから見た耐摩耗絶縁シート1の拡大断面図であり、図3は耐摩耗絶縁シート1が電線Cに取付けられた使用例1を示す斜視図である。本実施形態では、山間地および市街地を問わず、樹木3に近接して架設されている電線Cまたは電線防護カバーを樹木3から保護するために用いられる耐摩耗絶縁シート1について説明する。本実施形態の耐摩耗絶縁シート1は、電気絶縁性を有する、予め定める第1色、例えば黒色の合成樹脂から成る可撓性の摩耗層4と、電気絶縁性を有する、第1色とは異なる第2色である、例えば黄色の合成樹脂から成り、摩耗層4に積層される可撓性の摩耗検知層5と、を含む。
【0018】
耐摩耗性絶縁シート1は、正面視において幅がW1、長さがL1の矩形の多層シート体であって、摩耗層4を外側にして電線Cに装着され、樹木3の枝6が電線Cへ直接接触することを防ぎ、電線Cの金属製の芯線C1を被覆している樹脂製の被覆層C2の摩耗を防ぎ、電線Cを保護するように構成されている。
【0019】
耐摩耗絶縁シート1のサイズ(幅W1×長さL1×厚みT1)について参考までに述べると、150mm×250mm×2.0mm、300mm×500mm×2.0mm、600mm×800mm×2.0mmなどの短尺シートの他、幅W1が150mm、300mm、600mmなどであり、長さL1が0.5m~10mの長尺シートがある。耐摩耗絶縁シート1の厚さT1は、2mm~3.5mm程度である。このような幅W1、長さL1、厚みT1は、上記の寸法に限定されるものではなく、電線Cのサイズ、使用環境、耐用年数などに応じて適切な寸法を製造可能である。
【0020】
図4は耐摩耗絶縁シート1の側面被覆部10付近の拡大断面図である。摩耗層4は、摩耗検知層5に重なる積層部7と、摩耗検知層5の周縁部の少なくとも1つの縁辺部8の側面9を被覆する側面被覆部10と、を有する。側面被覆部10は、摩耗検知層5の、該側面被覆部10が設けられた縁辺部8の側面9から垂直な方向(図4では右方)に、側面被覆部10の厚みT1の2倍以上、5倍以下の幅W(2・T≦W≦5・T)を有している。本実施形態では、摩耗検知層5の厚みT2は、例えば0.7mmであり、積層部7の厚みT1は、例えば1.5mmである。
【0021】
摩耗検知層5の摩耗層4によって覆われていない摩耗検知層表面11および側面被覆部10の摩耗検知層表面11の外周側に連なる側面被覆部表面12には、粘着性を有する粘着層13が設けられている。粘着層13は、側面被覆層10の側面14から内側に距離ΔWだけ退避し、側面被覆部表面12の一部が露出している。粘着層13の厚みT3は、例えば1.0mm程度である。粘着層13が側面被覆層10の側面14から内側に距離ΔWだけ退避して形成されるので、耐摩耗絶縁シート1の取付け前の巻取り状態では、シート側面から粘着層13がはみ出さないので、作業者の手などに粘着層13が付着することを防止することができる。また、耐摩耗絶縁シート1の取付け後においては、シート側面から粘着層13がはみ出さないので、粘着層13にゴミなどの異物が付着して絶縁性が低下することを防止することができる。
【0022】
粘着層13は、本実施形態では、前述の各サイズのうち、幅W=150mmの短尺シートおよび長尺シートだけに設けられ、他のサイズである幅W1=300、W1=600の短尺シートおよび長尺シートには設けられていない構成としたが、他の実施形態ではすべてのサイズの耐摩耗絶縁シートに粘着層13が設けられてもよく、あるいはすべてのサイズの耐摩耗絶縁シート1に粘着層13を設けない構成であってもよい。
【0023】
摩耗層4の材料としては、例えば、ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ウレタン、エチレン酢酸ビニル共重合体、オレフィン系エラストマ、ポリエステル系エラストマ、ポリウレタン系エラストマ、スチレン系エラストマ、ブチルゴムのうちのいずれか1種を用いるようにしてもよい。また、耐摩耗絶縁シートが使用される環境によっては、充分な耐摩耗性を維持すると共に、耐熱性、耐水性を有する材料として、例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリサルフオン(PSF)、ポリアミド(PA)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、またはポリテトラフロロエチレン(PTFE)材などを用いることができる。このような摩耗層4に適した基材としては、樹木接触による地絡が発生した場合、延焼を防ぐことができる材料として、例えばポリエチレン系樹脂であって、かつ高い電気絶縁性および難燃性を有するものであってもよい。
【0024】
摩耗検知層5の材料としては、電気絶縁性を有する高分子材料、例えば、ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ウレタン、エチレン酢酸ビニル共重合体、オレフィン系エラストマ、ポリエステル系エラストマ、ポリウレタン系エラストマ、スチレン系エラストマ、ブチルゴムのうちのいずれか1種を用いるようにしてもよい。
【0025】
粘着層13は、二色押出し成形によって一体成形された摩耗層4および摩耗検知層5から成る2層構造の耐摩耗絶縁シートを製造し、その耐摩耗絶縁シートの摩耗検知層表面11および側面被覆部表面12にロールコート法、印刷法などによって粘着剤を塗布することによって形成されてもよく、粘着テープを貼付けることによって形成されてもよい。粘着剤としては、例えば、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤などが挙げられる。
【0026】
また、粘着テープとしては、例えば、ブチルテープ、超高分子量ポリエチレンテープ、ビニールテープ、ポリエステルテープ、ポリエチレンテープ、塩素化ポリエチレンテープなどが挙げられる。粘着層13の材料としては、長期にわたって耐候性、防水性、粘着性を担保させる点、ブチル系粘着剤であってもよい。
【0027】
図5図3の切断面線V-Vから見た耐摩耗絶縁シート1の拡大断面図である。前述のように、摩耗層4と摩耗検知層5とを異なる色(黒色および黄色)とすることによって、摩耗層4が樹木の枝等との擦れ合いによって摩耗し、摩耗層4とは異なる色(黄色)の摩耗検知層5が露出したとき、摩耗が進行していることを作業者が電線Cの装着位置の下方の位置する地上の離れた場所から目視で、耐摩耗絶縁シートの黒地に黄色の摩耗箇所を明瞭に認識することができ、耐摩耗絶縁シート1の交換を要するものと正確に判断することができる。
【0028】
本実施形態によれば、電線Cに摩耗層4を外側にして耐摩耗絶縁シート1が装着された状態では、耐摩耗絶縁シート1の摩耗検知層5の第2色(黄色)が内側となり、少なくとも1つの縁辺部8の側面9も摩耗層4の側面被覆部10によって被覆されているので、摩耗検知層5が外部に露出せず、地上からは実質上、第1色(黒色)の摩耗層4だけが視認される。これによって、日射などの光が摩耗層4によって反射している状態であっても、耐摩耗絶縁シート1が摩耗していると誤認することが防がれ、摩耗状態を確認するための無駄な手間および労力の発生を回避することができる。このような誤認による無駄な手間および労力の回避は、山間部および市街地などの広域の配電管区で電線の保全維持管理を行う上で、大きなコスト削減となり、実効性に優れた耐摩耗絶縁シート1を提供することができる。
【0029】
また、側面被覆部10は、摩耗検知層5の縁辺部8の側面9から該側面9に垂直な方向の幅Wが、側面被覆部10の厚みTの2倍以上、5倍以下に形成されるので、摩耗検知層5の縁辺部8の側面9は側面被覆部10の側面14から幅方向において内側に耐摩耗絶縁シート1が長期間にわたって電線Cに装着され、熱膨張または熱収縮による反りや浮きなどの変形によって、耐摩耗絶縁シート1と、その下地となる電線Cとの間、または耐摩耗絶縁シート1と、その下地となる耐摩耗絶縁シート1の重なり部22との間に隙間が生じても、厚みTの2倍以上、5倍以下の幅Wを有する側面被覆部10によって、摩耗検知層5は外部からは見えず、作業者が耐摩耗絶縁シート1に摩耗が発生していると誤認することが防がれる。
【0030】
また、摩耗検知層表面11および側面被覆部表面12に粘着層13が設けられるので、電線Cに耐摩耗絶縁シート1を巻き付けると、粘着層13が電線Cの外表面または先行して電線Cに巻き付けられている耐摩耗絶縁シート1の外表面に粘着し、耐摩耗絶縁シート1が電線Cに保持され、耐摩耗絶縁シート1を容易かつ迅速に電線に取付けることができる。したがって、高所作業車のバケットなどに作業者が乗った状態で耐摩耗絶縁シート1を電線Cに取り付ける高所作業を行うに際して、作業者は煩雑な作業を行う必要がなく、高所で不安定なバケット上であっても、作業者は簡便に耐摩耗絶縁シート1を電線Cに取り付けることが可能となり、取付け性に優れた耐摩耗絶縁シートを提供することができる。
【0031】
図6は耐摩耗絶縁シート1の他の使用例2を模式的に示す断面図である。なお、前述の実施形態と対応する部分には、同一の参照符を付す。前述の耐摩耗性絶縁シート1は、電線Cの軸線に垂直な断面において、互いに粘着して閉じられた両側部を下方に向けて、電線Cに上方から覆うように装着される。このように耐摩耗絶縁シート1を装着することによって、耐摩耗絶縁シート1の両側部が粘着層13を構成している粘着剤の劣化によって粘着性が低下し、粘着層13に微小な亀裂や剥離などの部分的な隙間が発生しても、その隙間は下方に臨んで開放している。これによって、降雨などによる水が隙間から内部に浸透して、粘着剤の粘着力低下が加速されてしまうことが防がれ、耐用期間が短縮されてしまうという不具合が生じない。
【0032】
また、耐摩耗絶縁シート1は、その長手方向に垂直な幅方向両側の各側面14から粘着層13が側面被覆層10の側面14から内側に距離ΔWだけ退避し、側面被覆部表面12の一部が露出しているので、図6のように耐摩耗絶縁シート1の両側部が対向するように電線Cに装着したとき、両側の側面被覆部表面12の間の空間は下方に臨んで開放しているので、各側面被覆部表面12の間の空間内に浸入した水および異物が固着して、側面被覆層10の劣化および変形などが防がれる。側面被覆層10が変形すると、付近の樹木の枝が風などによって接触したとき、変形した側面被覆層10に枝が引っ掛かり、互いに粘着していた各側面被覆層10を剥離し、耐摩耗絶縁シート1が電線Cから脱落し易くなる。本実施形態の耐摩耗絶縁シート1によれば、図6の使用形態において、電線Cから脱落しにくい耐摩耗絶縁シート1を提供することができる。
【0033】
このような耐摩耗絶縁シート1の使用例においても、摩耗層4が樹木の枝等との擦れ合いによって摩耗し、摩耗層4とは異なる色(例えば、黄色)の摩耗検知層5が露出したとき、摩耗が進行していることを作業者が電線Cの装着位置の下方の位置する地上の離れた場所から目視で、耐摩耗絶縁シートの黒地に黄色の摩耗箇所を明瞭に認識することができ、耐摩耗絶縁シート1の交換の要否を正確に判断することができる。
【0034】
図7は耐摩耗絶縁シート1の他の使用例3を模式的に示す斜視図である。なお、前述の実施形態と対応する部分には、同一の参照符を付す。本使用例では、電線Cの接続部に、大略的に薄手箱状の電線防護カバー20が装着され、この電線防護カバー20を覆うように耐摩耗絶縁シート1が巻掛けられて装着される。電線防護カバー20は、例えばポリエチレンなどの絶縁性樹脂の射出成型物によって実現されてもよい。電線Cの接続部は、2本の電線Cの被覆層C2が剥離され、ほぼ一直線を成す軸線上で互いに対向する各芯線C1の端部同士が接続金具によって電気的および機械的に接続されている。耐摩耗絶縁シート1は、このような電線Cの接続部に装着された電線防護カバー20に関して、電線Cが延びる方向に一方側から他方側にわたって巻回される。
【0035】
このように、電線Cおよびその接続部に装着された電線防護カバー20が耐摩耗絶縁シート1で被覆されることによって、強風などによって電線防護カバー20に強い風圧が作用しても、電線防護カバー20が電線Cからずれてしまうこと、あるいは電線防護カバー20が電線Cから脱落してしまうことが防がれ、電線Cの接続部を確実な電気的絶縁状態を維持することができる。
【0036】
このような耐摩耗絶縁シート1によって、摩耗層4が樹木の枝等との擦れ合いによって摩耗し、摩耗層4とは異なる色(例えば、黄色)の摩耗検知層5が露出したとき、摩耗が進行していることを作業者が電線Cの装着位置の下方の位置する地上の離れた場所から目視で、耐摩耗絶縁シートの黒地に黄色の摩耗箇所を明瞭に認識することができ、耐摩耗絶縁シートが交換を要するものと正確に判断することができる。
【0037】
図8は耐摩耗絶縁シート1の他の使用例4を模式的に示す側面図である。なお、前述の実施形態と対応する部分には、同一の参照符を付す。本使用例では、電線Cの接続部に、大略的の円筒状の電線防護カバー21が装着され、この電線防護カバー21を覆うように耐摩耗絶縁シート1が装着される。電線防護カバー21は、例えばポリエチレンなどの絶縁性樹脂の射出成型物によって実現されてもよい。電線Cの接続部においては、互いに接続される2本の電線Cの被覆層C2が剥離され、ほぼ一直線を成す軸線上で互いに対向する各芯線C1の各端部同士が、接続金具によって電気的および機械的に接続されている。
【0038】
耐摩耗絶縁シート1は、前述の図6の使用例と同様に、電線防護カバー21および電線防護カバー21から延びる電線Cを上方から覆うように装着されている。このように耐摩耗絶縁シート1が装着された状態において、耐摩耗絶縁シート1の長手方向に垂直な断面は、該長手方向の両端部の間の中間部では、電線Cおよび電線防護カバー21よりも下方に両側部が位置する、略C字状である。耐摩耗絶縁シート1の長手方向の両端部では、電線Cの軸線を含む鉛直な一平面に関して両側に一部する部分が、粘着層13によって電線Cを挟んで密着し、閉塞され、降雨などによる水、埃などの異物の内部への浸入が阻止されている。
【0039】
このような耐摩耗絶縁シート1の使用例においても、摩耗層4が樹木の枝等との擦れ合いによって摩耗し、摩耗層4とは異なる色(例えば、黄色)の摩耗検知層5が露出したとき、摩耗が進行していることを作業者が電線Cの装着位置の下方の位置する地上の離れた場所から目視で、耐摩耗絶縁シート1の摩耗検知層5の摩耗箇所を明瞭に認識することができ、耐摩耗絶縁シート1の交換の要否を容易かつ確実に判断することができる。
【0040】
前述の実施形態では、摩耗検知層5は一層の樹脂層によって構成される例について述べたが、他の実施形態では、色の異なる複数の樹脂層によって摩耗検知層5が構成されてもよい。この場合、摩耗検知層5を構成する色の異なる複数の樹脂層としては、色差があればよく、例えば外側に位置する外層を黄色とし、内側に位置する内層を赤色とすることによって、摩耗状態をその程度に応じて段階的に表示することができる。一例としては、外層の黄色が露出していれば、耐摩耗絶縁シート1を例えば1箇月以内に交換を要し、赤色が露出していれば、例えば1週間以内に交換を要するもとしてもよい。これによって、交換を要する耐摩耗絶縁シートの枚数および交換作業日などの計画を立てることができ、作業の円滑化および効率化を図ることができる。
【0041】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更、改良等が可能である。上記各実施形態をそれぞれ構成する全部または一部を、適宜、矛盾しない範囲で組み合わせ可能であることは、言うまでもない。
【符号の説明】
【0042】
1 耐摩耗絶縁シート
3 樹木
4 摩耗層
5 摩耗検知層
8 縁辺部
9 側面
10 側面被覆部
11 摩耗検知層表面
12 側面被覆部表面
13 粘着層
14 側面
C 電線
C1 芯線
C2 被覆層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8