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特許7440901トレーニング器具、トレーニング方法、およびトレーニング椅子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】トレーニング器具、トレーニング方法、およびトレーニング椅子
(51)【国際特許分類】
   A63B 23/02 20060101AFI20240221BHJP
   A63B 23/00 20060101ALI20240221BHJP
【FI】
A63B23/02 A
A63B23/00 F
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020073281
(22)【出願日】2020-04-16
(65)【公開番号】P2021168813
(43)【公開日】2021-10-28
【審査請求日】2023-01-11
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.試験日 令和2年2月4日 2.試験場所 御代田中央記念病院 3.試験を行った者 宮下 智 4.試験内容 宮下 智が、御代田中央記念病院にて、宮下智、石井秀幸、山田健人、山田茂人、および山田剛輔が発明した利用者の深部体幹筋を強化・活性化するトレーニング椅子について、その性能比較試験を行った。
(73)【特許権者】
【識別番号】514225456
【氏名又は名称】株式会社新晃製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100166051
【弁理士】
【氏名又は名称】駒津 啓佑
(72)【発明者】
【氏名】宮下 智
(72)【発明者】
【氏名】石井 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】山田 健人
(72)【発明者】
【氏名】山田 茂人
(72)【発明者】
【氏名】山田 剛輔
【審査官】三田村 陽平
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-129120(JP,A)
【文献】登録実用新案第3225040(JP,U)
【文献】特開2014-200461(JP,A)
【文献】特開2015-229062(JP,A)
【文献】特開2016-059577(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0209886(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 1/00-26/00
A47C 1/00-31/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
利用者の深部体幹筋を強化するトレーニング器具において、
着座時に半円曲面状の凸部の天頂部で前記利用者の坐骨の下部を支持する半円曲面凸部を有する坐骨キャッチシートと、
記坐骨キャッチシートに着座した利用者の腰椎部に後方側からあてがうことで、前記利用者の背面が鉛直に近くなる姿勢で支持され、前記利用者が腰部で押した力に対抗する腰椎コントロールパッドと、
を備えることを特徴とするトレーニング器具。
【請求項2】
前記天頂部を形成する曲面は、
前記利用者の着座時に、前記利用者の骨盤傾斜角度が中間位で起立するために十分な曲率半径で形成されること、
を特徴とする請求項1記載のトレーニング器具。
【請求項3】
前記坐骨キャッチシートは、
前記利用者の着座時に、前記利用者の骨盤傾斜角度が中間位で保持できる弾性を備えた弾性部材で形成されること、
を特徴とする請求項2記載のトレーニング器具。
【請求項4】
前記弾性部材は、
エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂であること、
を特徴とする請求項3記載のトレーニング器具。
【請求項5】
利用者の深部体幹筋を強化するトレーニング方法において、
半円曲面凸部を有する坐骨キャッチシートが、着座時に半円曲面上の凸部の天頂部で前記利用者の坐骨の下部を支持する工程と、
腰椎コントロールパッドを前記坐骨キャッチシートに着座した利用者の腰椎部に後方側からあてがうことで、前記利用者の背面が鉛直に近くなる姿勢で支持される工程と、
前記利用者が腰部で押した力に前記腰椎コントロールパッドが対抗する工程と、
を備えることを特徴とするトレーニング方法。
【請求項6】
利用者の深部体幹筋を強化するトレーニング椅子において、
着座時に半円曲面状の凸部の天頂部で前記利用者の坐骨の下部を支持する半円曲面凸部を有する坐骨キャッチシートと、
記坐骨キャッチシートに着座した利用者の腰椎部に後方側からあてがうことで、前記利用者の背面が鉛直に近くなる姿勢で支持され、前記利用者が腰部で押した力に対抗する腰椎コントロールパッドと、
を備えることを特徴とするトレーニング椅子。
【請求項7】
前記坐骨キャッチシートの高さを調節する高さ調節機構、
を備えることを特徴とする請求項6記載のトレーニング椅子。
【請求項8】
前記腰椎コントロールパッドを前記腰椎にあてる位置を調節する腰椎あて位置調節機構、
を備えることを特徴とする請求項6記載のトレーニング椅子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレーニング器具、トレーニング方法、およびトレーニング椅子に関し、特に利用者の深部体幹筋を強化・活性化するトレーニング器具、トレーニング方法、およびトレーニング椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
日本人の平均寿命は年々延びている。厚生労働省が公表している平成30年の簡易生命表によると、日本人の平均寿命は、男性で81.25年、女性で87.32年となっており、前年と比較して男性では0.106年、女性では0.05年上回っている。
【0003】
80年を上回る日本人の平均寿命は世界でもトップクラスであるが、一方で平均寿命が伸びた分だけ、長い期間を寝たきりの状態で生活を余儀なくされる人たちが増加しているのも事実である。
【0004】
たとえば厚生労働省が算出している介助を受けたり、寝たきりになったりせずに生活できる「健康寿命」は、平成28年で男性が72.14歳、女性が74.79歳であった。つまり、介護を受ける年数、または寝たきり状態の年数は、男性が約9年、女性が約13年であり、平均寿命が伸びて長生きできても、健康な状態で長生きできるわけではない。
【0005】
将来、寝たきりにならないためには、運動が大切といわれている。たとえば、高齢者が歩くための筋力が低下することで転倒しやすくなり、転倒により骨折してしまうと歩行ができなくなってしまうからである。
【0006】
また筋量と健康寿命とは比例するともいわれている。加齢とともに筋量が低下すると、身体を動かすこと自体がつらくなるため活動量の低下につながる。活動量が低下することで、筋量の減少がさらに加速することになり、やがて動けなってしまうからである。
【0007】
つまり、健康で長生きするためには、いつまでも自分の足で動いて活動できる身体を形成することが大切であり、必要な筋量を維持したり、増加したりすることが必要である。
特に、インナーマッスルとも呼ばれる深部体幹筋を鍛えることが寝たきりにならないために特に重要だといわれている。
【0008】
人間の身体のうち、手足と頭を除いた胴体部分である体幹にある筋肉は体幹筋と呼ばれており、その体幹筋の中でも、身体の表面に近い部分に存在する筋肉ではなく、身体の深い部分に存在する筋肉が、体幹部分を安定させ、手足のスムーズな動きに貢献する深部体幹筋である。
【0009】
この深部体幹筋の活動により、人間はバランスを崩した際に、手は体にかかるダメージを最小限に抑えて保護することができ、足は一歩踏み出すことによってバランスを回復させる動きにつながっている。
【0010】
頭を含む上半身と、骨盤とをつないでいる骨は脊柱だけであり、胸郭と骨盤との間には骨格が存在しない。この骨格が存在しない胸郭と骨盤との間で、脊柱を安定させる役割を担っている深部体幹筋が、腹横筋および多裂筋である。
【0011】
一方で、いわゆるシックスパックと呼ばれる腹筋を形成する筋肉が、腹部の正面に存在する腹直筋である。これらはアウターマッスルとも呼ばれる表層筋であり、表層筋の例としては腹直筋のほかに、厚い胸板を形成する大胸筋や、力こぶを形成する上腕二頭筋などが挙げられる。
【0012】
深部体幹筋は表層筋よりも深い位置に存在する筋肉である。日常生活では深部体幹筋を意識して動かすことはないが、深部体幹筋は日常生活のあらゆる場面で最初に働く筋肉である。たとえば、モノを持ち上げる動作を行う場合、そのモノが重いものなのか、または軽いものなのかを脳が判断する。そして深部体幹筋を動かすことで身体を支え、モノの重量に合った力を表層筋が出すことでモノを持ち上げることができる。
【0013】
このため、深部体幹筋の筋量や活動量が低下すると、身体を支えることが困難となり、体勢を崩しやすくなったり、転倒してしまったりすることになる。加齢とともに躓いたり、転倒したりしやすくなるのは、深部体幹筋の活動量の低下によるものが多い。
【0014】
一般に、腹部の諸筋肉を鍛えるためには、トレーニング方法のひとつとして、あおむけ状態から上半身を起こす動作を繰り返すことで、腹部の諸筋肉を鍛える腹筋運動が知られている。
【0015】
ところが、あおむけ状態から上半身を起こす動作は、老人や腰部に疾患がある者には非常に困難な動作である。そこで腰に負担をかけることなくかつ容易な動作で腹部背部諸筋肉を強化することができるトレーニング器具が開発されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0016】
特許文献1で開示されたトレーニング器具では、使用者の両脚間で挟持される可動体が基台に揺動自在に軸着され、基台が、使用者が着座する座板に対し回動自在となると共に、可動体と基台間に、ゴムやスプリングなどの弾性部材や油圧力を利用した部材などをはじめとする、可動体を揺動方向に抵抗力を負荷する手段が介装されている。
【0017】
これにより、使用者は、弾性部材の張力や油圧、空圧、摩擦など各種の手段により抵抗力の生じた可動体を、両脚で挟み込みながら膝を左や右に傾ける運動を繰り返すことにより、腹直筋の上部、中部、下部はもちろんのこと、殊に外腹斜筋、内腹斜筋や腹横筋、脊柱起立筋や腸腰筋などの身体のコアの筋肉を強化することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【文献】特開2005-342177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかし、特許文献1で開示されたトレーニング器具では、腹部の表在に存在する筋肉を動かすことで腹部周辺の筋肉を強化するため、特に身体を支えるために重要な深部体幹筋の中の腹横筋を効率よく強化することができないという問題があった。
【0020】
前述のように、腹横筋は腰部の深い位置に存在し、手足が動く前に収縮することで脊柱を安定させるための筋肉である。このため腹横筋は身体を支えるために重要な筋肉である。
【0021】
ところが、表層筋とは異なり腹横筋は意識的に収縮させることが困難な筋肉であるため、特許文献1で開示されたトレーニング器具を使用したとしても、腹横筋を収縮させて強化することはできない問題がある。
【0022】
腹横筋を収縮させるためには、たとえば排尿時に途中で尿を止めるように骨盤底筋群を収縮させる、腹部をへこませる、などの方法で収縮させることができる。ところが、排尿時に途中で尿を止めるときの筋収縮が一瞬であるように、意識的に腹横筋を持続して収縮させることはできない。このため、意識的に腹横筋を継続して収縮させて腹横筋を強化することはできい。
【0023】
つまり、特許文献1で開示されたトレーニング器具を使用したとしても、意識的に腹横筋を収縮させて強化することはできず、また日常の生活で意識的に腹横筋を収縮させようとしたとしても、瞬間的であって継続的に収縮させて強化することはできないため、腹横筋を効率よく強化することはできなかった。
【0024】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、身体を支えるために重要な深部体幹筋の中の腹横筋を効率よく強化することができるトレーニング器具、トレーニング方法、およびトレーニング椅子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明では上記問題を解決するために、利用者の深部体幹筋を強化するトレーニング器具において、利用者の深部体幹筋を強化するトレーニング器具において、着座時に曲面状の凸部の天頂部で前記利用者の坐骨を支持する曲面凸部を有する坐骨キャッチシートと、前記利用者が前記坐骨キャッチシートに着座した状態で、後方側から前記利用者の腰椎部にあてて、前記利用者が腰部で押し返すための腰椎コントロールパッドとを備えることを特徴とするトレーニング器具が提供される。
【0026】
これにより、曲面凸部を有する坐骨キャッチシートが、着座時に曲面状の凸部の天頂部で利用者の坐骨を支持し、利用者が坐骨キャッチシートに着座した状態で、後方側から利用者の腰椎部にあてられた腰椎コントロールパッドを、利用者が腰部で押し返す。
【0027】
坐骨キャッチシートの曲面凸部の天頂部に利用者の坐骨を合わせて着座することで、着座した利用者の骨盤傾斜角度が中間位で起立し、利用者の坐骨で体重を支えることができる。このように坐骨で体重を支えるような姿勢で利用者が着座することで、腹横筋を収縮させた状態で利用者は着座する。
【0028】
また利用者が坐骨キャッチシートに着座した状態で、腰椎コントロールパッドを後方側から利用者の腰椎部にあてて、利用者が腰部で腰椎コントロールパッドを押し返すことで、腰椎の前彎は小さく抑制されるため、さらに腹横筋が収縮する。
【0029】
また本発明では、利用者の深部体幹筋を強化するトレーニング方法において、曲面凸部を有する坐骨キャッチシートが、着座時に曲面上の凸部の天頂部で前記利用者の坐骨を支持する工程と、前記利用者が前記坐骨キャッチシートに着座した状態で、後方側から前記利用者の腰椎部に腰椎コントロールパッドをあてる工程と、前記利用者が前記腰椎コントロールパッドを腰部で押し返す工程とを備えることを特徴とするトレーニング方法が提供される。
【0030】
これにより、曲面凸部を有する坐骨キャッチシートが、着座時に曲面上の凸部の天頂部で利用者の坐骨を支持し、利用者が坐骨キャッチシートに着座した状態で、後方側から利用者の腰椎部に腰椎コントロールパッドがあてられ、利用者が腰椎コントロールパッドを腰部で押し返す。
【0031】
坐骨キャッチシートの曲面凸部の天頂部に利用者の坐骨を合わせて着座することで、着座した利用者の骨盤傾斜角度が中間位で起立し、利用者の坐骨で体重を支えることができる。このように坐骨で体重を支えるような姿勢で利用者が着座することで、腹横筋を収縮させた状態で利用者は着座する。
【0032】
また利用者が坐骨キャッチシートに着座した状態で、腰椎コントロールパッドを後方側から利用者の腰椎部にあてて、利用者が腰部で腰椎コントロールパッドを押し返すことで、腰椎の前彎は小さく抑制されるため、さらに腹横筋が収縮する。
【0033】
また本発明では、利用者の深部体幹筋を強化するトレーニング椅子において、
着座時に曲面状の凸部の天頂部で前記利用者の坐骨を支持する曲面凸部を有する坐骨キャッチシートと、前記利用者が前記坐骨キャッチシートに着座した状態で、後方側から前記利用者の腰椎部にあてて、前記利用者が腰部で押し返すための腰椎コントロールパッドとを備えることを特徴とするトレーニング椅子が提供される。
【0034】
これにより、曲面凸部を有する坐骨キャッチシートが、着座時に曲面状の凸部の天頂部で利用者の坐骨を支持し、利用者が坐骨キャッチシートに着座した状態で、後方側から利用者の腰椎部にあてられた腰椎コントロールパッドを、利用者が腰部で押し返す。
【0035】
坐骨キャッチシートの曲面凸部の天頂部に利用者の坐骨を合わせて着座することで、着座した利用者の骨盤傾斜角度が中間位で起立し、利用者の坐骨で体重を支えることができる。このように坐骨で体重を支えるような姿勢で利用者が着座することで、腹横筋を収縮させた状態で利用者は着座する。
【0036】
また利用者が坐骨キャッチシートに着座した状態で、腰椎コントロールパッドを後方側から利用者の腰椎部にあてて、利用者が腰部で腰椎コントロールパッドを押し返すことで、腰椎の前彎は小さく抑制されるため、さらに腹横筋が収縮する。
【発明の効果】
【0037】
本発明のトレーニング器具、トレーニング方法、およびトレーニング椅子によれば、坐骨キャッチシートが有する曲面凸部に、利用者が着座した状態で、腰椎コントロールパッドを後方側から利用者の腰椎部にあてて、利用者が腰部で腰椎コントロールパッドを押し返すので、次のような効果がある。
【0038】
まず坐骨キャッチシートが有する曲面凸部に着座することにより、利用者の骨盤傾斜角度が中間位で起立し、利用者は腹横筋を収縮させた状態で着座できる。これにより、利用者は坐骨キャッチシートに座るだけで、継続的に腹横筋を収縮させることができる。
【0039】
さらに坐骨キャッチシートにより利用者の骨盤傾斜角度が中間位で起立した状態で、利用者の腰椎部にあてられた腰椎コントロールパッドを利用者が腰部で押し返すことで、腰椎の前彎が小さくなり、より腹横筋が収縮した状態にすることができるので、腰椎コントロールパッドを押し返す強さによって、腹横筋収縮の強弱を調節することができる。
【0040】
これにより、利用者は腰椎コントロールパッドを押し返すようにして坐骨キャッチシートに座るだけで、腹横筋を収縮させた状態を継続させることができるので、持続的負荷が腹横筋にかかり、さらに腹横筋収縮を強弱させることで、効率よく腹横筋を強化していくことができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】本実施の形態に係るトレーニング椅子を示す斜視図である。
図2】本実施の形態に係るトレーニング椅子を示す側面図である。
図3】坐骨キャッチシートの詳細を示す斜視図である。
図4】腰椎コントロールパッドの詳細を示す側面図である。
図5】利用者がトレーニング椅子に着座した様子を示す側面図である。
図6】ヒトの骨盤の詳細を示す側面図である。
図7】腹部の筋肉のリラックス時と収縮時とを比較した超音波写真図である。
図8】第7胸椎棘突起と、第4腰椎棘突起の場所を示す人体の背面図である。
図9】利用者が着座した状態での上前腸骨棘、上後腸骨棘、第7胸椎、および第4腰椎の位置関係を示す側面図である。
図10】腰椎コントロールパッドを使用した状態での上前腸骨棘、上後腸骨棘、第7胸椎、および第4腰椎の位置関係を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本実施の形態に係るトレーニング椅子を示す斜視図である。
図1に示すようにトレーニング椅子100は、前脚部110、後脚部120、坐骨キャッチシート130、および腰椎コントロールパッド140を備えている。
【0043】
前脚部110および後脚部120は、たとえば断面が円形状の中空部材を折り曲げ形成することで構成されており、回動接続部121によって後脚部120が前脚部110に回動可能に接続されている。
【0044】
回動接続部121を中心にして後脚部120を閉方向に回動させることで、後脚部120が折りたたまれる。後脚部120を自在に折りたたむことで、トレーニング椅子100を手軽に持ち運ぶことができる。
【0045】
坐骨キャッチシート130は、坐骨キャッチシート130の高さを調節する高さ調節機構131を介して前脚部110に固定されており、高さ調節機構131の機能によって、坐骨キャッチシート130が前脚部110の任意の高さで調節可能に固定されている。
【0046】
高さ調節機構131は、たとえば前脚部110にボルトを締め付けることで前脚部110への位置を固定する方法や、前脚部110を挟み込む力で前脚部110への位置を固定するパイプホルダーなどが挙げられる。
【0047】
高さ調節機構131の機能により、坐骨キャッチシート130は前脚部110の任意の高さに固定することができるため、利用者Uの体型に合わせて坐骨キャッチシート130の高さを調節することができる。
【0048】
また坐骨キャッチシート130は、ここでは図示しない利用者Uが着座するためのシートであり、利用者Uが着座した際に、利用者Uの体重を坐骨で支持できるような形状をしている。
【0049】
坐骨キャッチシート130の具体的な形状は、円柱を高さ方向に分割した半円柱形状をしており、弾性を有する弾性部材で形成されている。坐骨キャッチシート130は、円柱を分割したときに分割断面を底面にして設置され、利用者Uは半円柱形状の天頂部に坐骨を合わせるようにして着座する。
【0050】
この坐骨キャッチシート130に利用者Uが着座することで、着座した利用者Uの骨盤が起立する。これにより、利用者Uの体重は、起立した坐骨で支えることができるようになる。
【0051】
このように、利用者Uの骨盤が起立した状態で、利用者Uが坐骨で体重を支えるような姿勢で着座することで、後述するように腹横筋を収縮させた状態で着座することができる。
【0052】
これにより、利用者Uはトレーニング椅子100に着座するだけで、腹横筋を持続的に収縮させることになり、継続的な力でゆっくり腹横筋に負荷を与えることができる。つまり利用者Uはトレーニング椅子100に着座するだけで効率よく腹横筋を強化・活性化することができる。
【0053】
一般に製造されている通常の椅子の座面は、座面が後傾するように後方側が低く形成されている。これは、後傾した座面に利用者Uが着座することで、後傾した座面に合わせて利用者Uの骨盤が後傾し、利用者Uの骨盤が後傾することで、利用者Uの体幹筋、特に腹部の筋肉が緩む。後傾した座面に着座した利用者Uの体幹筋が緩むことで、利用者Uはリラックスして椅子に座ることができる。
【0054】
このように、椅子の座面を後傾させることで、着座した利用者Uはリラックスできるので、一般的な事務椅子よりも、会議室の椅子や役員専用の椅子などは、さらに座面の後傾角度を大きくすることで、よりリラックスして着座できるようになっている。
【0055】
ところが、この後傾させた座面に着座する利用者Uの骨盤は後傾してしまうため、腹横筋を含む体幹筋が緩んでしまうことになる。このため腹横筋を持続的に収縮することはできない。つまり後傾した座面に着座しても腹横筋をトレーニングすることはできない。
【0056】
さらに後傾させた座面に着座する利用者Uは、体幹筋が緩んだ状態で座位を維持しなくてはならないため、利用者Uは骨盤で体重を支えるのではなく、大殿筋をはじめとする臀部の表層筋を緊張させることで座位を維持することになる。
【0057】
このように後傾させた座面を備える椅子を利用者Uが長期的に利用すると、利用者Uの大殿筋などの表層筋が緊張することで筋量は維持もしくは増加されるが、腹横筋などの深部体幹筋は緩んだ状態が維持されるため筋肉活動量が低下する。
【0058】
このため、表層筋と深部体幹筋とのバランスが崩れてしまい、深部体幹筋の活動量が低下することで身体を支えることが不安定となり、体勢を崩しやすくなったり、腰痛を引き起こしたり、転倒してしまったりすることになる。
【0059】
そこで本実施の形態のトレーニング椅子100では、利用者Uが前傾した坐骨キャッチシート130に着座するだけで骨盤が起立し、骨盤が起立することで体重を坐骨で支える、つまり正しい姿勢で着座することができる。
【0060】
これにより利用者Uがトレーニング椅子100に長時間着座していても、利用者Uの腰や背中に負荷を軽減することができる。これにより瞬間的な動きを繰り返す運動ではなく、腹横筋に継続的な力でゆっくり負荷を与えることができるため、効率よく深部体幹筋である腹横筋をトレーニングすることができる。
【0061】
腰椎コントロールパッド140は、坐骨キャッチシート130に着座した利用者Uの腰椎部に当てるための当て材であって、利用者Uの腰椎部に当てる当て部141、当て部141から延設されて当て部141を支持するためのステー部142、当て部141およびステー部142を任意の角度に調節する角度調節機構143を備えている。
【0062】
当て部141およびステー部142は、当て部141およびステー部142の角度を調節する角度調節機構143を介して前脚部110、または前脚部110から延長された延長材144に固定されており、角度調節機構143の機能によって、当て部141およびステー部142が前脚部110または延長材144から任意の角度で調節可能に固定されている。
【0063】
角度調節機構143は、たとえば角度を自在に調節できる角度調節ヒンジであって、前脚部110または延長材144から当て部141およびステー部142を任意の角度で保持することができる。
【0064】
なお当て部141とステー部142との間にも、当て部141とステー部142との角度を調節可能にするここでは図示しない角度調節機構145を備えることもできる。角度調節機構143および角度調節機構145の機能により、当て部141の位置および向きを自在に調節することができ、利用者Uの体型に合わせた腰椎部に当て部141を当てることができる。
【0065】
坐骨キャッチシート130に着座した利用者Uの腰椎部に当て部141を当てることで、後述するように腹横筋が最も収縮するように腰椎の位置を導くことができる。
通常、ヒトの腰椎は前側に反るようにして前彎している。また「良い姿勢を取ってください」と指示すると、前彎した腰椎はさらに強く前彎する傾向がある。
【0066】
そこで坐骨キャッチシート130に着座した利用者Uの腰椎部に当て部141を当て、利用者Uに当て部141を後ろ側に押し返すように指示することで、腰椎の前彎が小さくなる。これにより、腹横筋が最も収縮するように腰椎の位置を導くことができる。
【0067】
上記のように、本実施の形態のトレーニング椅子100では、利用者Uが坐骨キャッチシート130に着座するだけで、腹横筋を持続的に収縮させることができ、坐骨キャッチシート130に着座した利用者Uの腰椎部に腰椎コントロールパッド140による当て部141を当てることで、腹横筋が最も収縮するように腰椎の位置を導くことができる。
【0068】
このように利用者Uは、トレーニング椅子100に座っているだけで、特に意識することなく腹横筋を効率よくトレーニングすることができる。このため、障害者でもトレーニング椅子100を利用して深部体幹筋である腹横筋をトレーニングすることができる。
【0069】
また障害者だけでなく、スポーツ選手や高齢者でも気軽にトレーニング椅子100に座るだけで腹横筋を鍛えることができるので、日常生活の中で腹横筋をトレーニングすることができる。
【0070】
このようにトレーニング椅子100では、障害者からスポーツ選手まで様々な利用者Uの腹横筋を気軽にトレーニングできるので、腹横筋活動が低下することで体勢を崩して生じる怪我や、転倒を抑制することができ、将来の寝たきりを防止することができる。
【0071】
さらにはトレーニング椅子100で気軽に腹横筋をトレーニングすることで、転倒による寝たきりや介護を防止することができ、健康寿命延伸に貢献できるので、長生きを素直に喜べるようにすることができる。
【0072】
また、トレーニング椅子100で腹横筋をトレーニングして健康寿命を伸ばすことで、高齢化に伴い拡大している医療費用や介護費用を節約することができる。これにより、健康保険料の値上げや、診療報酬の改定による患者負担分の増加、高齢者の医療費自己負担割合の増大などを抑制することができる。
【0073】
図2は、本実施の形態に係るトレーニング椅子を示す側面図である。
図2に示すように、坐骨キャッチシート130は、坐骨キャッチシート130の高さを調節する高さ調節機構131を介して前脚部110に固定されている。
【0074】
坐骨キャッチシート130は、高さ調節機構131より水平前側に設けられた水平台座132の上面に、半円柱形状の曲面凸部133に形成される天頂部134が上方に向けられて固定される。
【0075】
この坐骨キャッチシート130に利用者Uが着座することで、着座した利用者Uの骨盤が起立する。これにより、利用者Uの体重は、起立した坐骨で支えることができるようになる。
【0076】
高さ調節機構131が取り付けられる前脚部110には、高さ調節機構131の固定位置を容易に把握できる高さ目盛り111が付されている。高さ目盛り111は、たとえば前脚部110に等間隔にマークされた目盛線や目盛線に合わせて付された数値である。
【0077】
利用者Uの体型に合わせて坐骨キャッチシート130の高さを調節し、高さ目盛り111で表示された数値を利用者Uが記憶し、その記憶した数値に合わせて坐骨キャッチシート130の高さを調節することで、トレーニング椅子100を複数の利用者Uで共有する場合でも、自分の体型にあった坐骨キャッチシート130の高さを容易に再現することができる。
【0078】
また左右両側の前脚部110に同じように高さ目盛り111を設けることで、坐骨キャッチシート130の高さを調節する際に、高さ目盛り111を見ながら高さを調節できるので、左右の高さを一致させて、水平台座132を水平になるように調節することができる。
【0079】
図3は、坐骨キャッチシートの詳細を示す斜視図である。
図3に示すように、坐骨キャッチシート130は円柱を高さ方向に分割した半円柱形状の曲面凸部133を有しており、弾性を有する弾性部材で形成されている。
【0080】
坐骨キャッチシート130は、たとえばEVA(Ethylene Vinyl Acetate Copolymer)樹脂と呼ばれるエチレン・酢酸ビニル共重合樹脂やポリエチレン樹脂などで形成されており、EVA樹脂は、弾力性、柔軟性、強靭性、低音保持性、耐候性などの特性を備えている。
【0081】
EVA樹脂は、低反発まくらなどに利用されるウレタン樹脂と比較して荷重を加えたときに沈み込むような柔軟性ではなく、荷重を加えたときに少しだけ凹む程度の弾力性を備えている。
【0082】
このため、坐骨キャッチシート130は利用者Uが着座しても大きく形状を変形させることなく半円柱形状の曲面凸部133に形成される天頂部134で利用者Uの坐骨を支えることができ、適度な柔軟性で長時間の着座姿勢でも臀部を痛めることがない。
【0083】
坐骨キャッチシート130は、利用者Uが着座したときに、坐骨キャッチシート130により、坐骨支持で上前腸骨棘と上後腸骨棘とを結ぶ線が床面と平行になる位置関係を容易に取ることができる。
【0084】
具体的に坐骨キャッチシート130が有する曲面凸部133は、たとえば半径75mm、高さ305mmの円柱を、高さ方向に2分割した半円柱形状で形成され、分割断面135が底面になるようにして設置される。
【0085】
曲面の天頂である天頂部134に利用者Uの坐骨を合わせて利用者Uが坐骨キャッチシート130に着座することで、従来の平面の座面椅子に着座する場合のように面で支持するのとは異なり、坐骨キャッチシート130では点で坐骨を支持するので、坐骨が起立し、腹横筋を収縮させることができる。
【0086】
なお、曲面凸部133の高さや天頂部134を形成する曲面の大きさは、任意に設定できる。ただし、曲面凸部133の曲面を大きく、つまり曲面凸部133の径を大きくしすぎると、曲面凸部133で臀部全体を支持してしまうため、利用者Uが坐骨で体重を支持できなくなってしまう。このため、天頂部134を形成する曲面の曲率半径は、利用者の骨盤が中間位に起立させるために十分な曲率半径で形成されることが好ましい。
【0087】
天頂部134を形成する曲面の曲率半径は、身体の大きさや身長などによって任意に設定することができ、たとえば大人なら曲率半径が75mm程度、子どもなら60mm程度で形成するとよい。
【0088】
また、半円柱形状の曲面凸部133の分割断面135側を奥行方向に伸ばした延設部136を形成することもできる。具体的には、半円柱形状の曲面凸部133の分割断面135の一方側に厚さ15mmの延設部136が、半円柱形状の曲面凸部133の分割断面135と合わせて205mmになるように形成されている。
【0089】
延設部136を曲面凸部133の奥行方向に連続して形成することで、坐骨キャッチシート130の奥行きが大きくなり、深部体幹筋のトレーニングを行わない場合など、延設部136に臀部を合わせて着座することで、リラックスして坐骨キャッチシート130に着座することができる。
【0090】
また坐骨キャッチシート130の天頂部から底部にかけて曲面状になるように形成することで、坐骨キャッチシート130に着座した利用者Uの臀部から太腿部にかけて、不快感なく着座することができる。
【0091】
また、EVA樹脂やポリエチレン樹脂などは適度な弾性を備えているが、耐久性が弱いため、半円柱形状の曲面凸部133や延設部136をカバー部材で被覆することもできる。
【0092】
図4は、腰椎コントロールパッドの詳細を示す側面図である。
図4に示すように、腰椎コントロールパッド140は、当て部141、ステー部142、角度調節機構143、延長材144、および角度調節機構145を備えている。
【0093】
これにより、当て部141の位置および向きを自在に調節することができ、利用者Uの体型に合わせた腰椎部に当て部141を、利用者Uの体型に合わせた向きで当てることができる。
【0094】
また、角度調節機構143または角度調節機構145は、調節する角度を容易に把握できる角度目盛り143Kが付されている。角度調節機構145に設けられた角度目盛り143Kは、たとえば角度調節機構145の側面に均等角度でマークされた角度線や角度線に合わせて付された数値である。またステー部142の中心に中心線142Cを設けることで、角度目盛り143Kと中心線142Cとが交わる角度を調節角度として容易に把握することができる。
【0095】
利用者Uの体型に合わせて腰椎コントロールパッド140の角度を調節し、角度目盛り143Kや中心線142Cで表示された角度を利用者Uが記憶し、その記憶した角度に合わせて腰椎コントロールパッド140の角度を調節することで、トレーニング椅子100を複数の利用者Uで共有する場合でも、自分の体型にあった腰椎コントロールパッド140の角度を容易に再現することができる。
【0096】
また角度調節機構143は、利用者Uが腰椎を後ろ側に押し返したときに、角度が変化しない程度の抵抗力である角度保持力を備えている。これにより、利用者Uが腰椎を後ろ側に押し返しても、腰椎コントロールパッド140の調整角度が変化することがない。
なお当て部141は、利用者Uが腰椎を後ろ側に押し返したときに痛みを伴わないように、たとえばウレタンフォームなどの軟質な素材で形成するとよい。
【0097】
図5は、利用者がトレーニング椅子に着座した様子を示す側面図である。
図5に示すように、利用者Uがトレーニング椅子100に着座すると、坐骨キャッチシート130が利用者Uの体重で潰れるように変形し、このことで利用者Uは坐骨で体重を支持していることを自身で理解することができる。
【0098】
また坐骨キャッチシート130は、利用者Uの坐骨を合わせて着座する半円柱形状の曲面凸部133に形成された天頂部134を備えているため、着座した利用者Uが前傾姿勢になって利用者Uの骨盤が起立する。これにより、利用者Uの体重は、起立した坐骨で支えることができ、腹横筋を持続的に収縮させることができる。
【0099】
また坐骨キャッチシート130に着座した利用者Uの腰椎部に当て部141を当て、利用者Uが当て部141を後ろ側に押し返すように姿勢をとることで、腰椎の前彎が小さくなり、腹横筋が最も収縮することができる腰椎の位置へ導くことができる。
【0100】
これにより、利用者Uはトレーニング椅子100に着座するだけで、腹横筋を持続的に収縮させることになり、効率よく腹横筋をトレーニングすることができる。また、利用者Uが当て部141を後ろに押し返す力を調節することで、腹横筋が収縮する強さを調節することができる。このため、従来難しいとされている腹横筋収縮の強弱と持続的な筋収縮とが可能となり、さらに効率よく腹横筋を強化することができる。
【0101】
図6は、ヒトの骨盤の詳細を示す側面図である。
図6に示すように、骨盤は、左右一対で腸骨、坐骨、および、ここでは図示しない恥骨で構成される寛骨、仙骨、尾骨で構成されている。坐骨・腸骨・恥骨の結合部が大腿骨と接続して股関節となっている。
【0102】
腸骨の前側には、ここでは図示しない大腿筋膜張筋や縫工筋が付着し上前腸骨棘ASIS(Anterior Superior Iliac Spine、以下、上前腸骨棘Aと称する)と呼ばれ前側に突出した突起部が形成されている。また腸骨の後側には後ろ側に突出した突起部である上後腸骨棘PSIS(Posterior Inferior Iliac Spine、以下、上後腸骨棘Pと称する)が形成されている。
【0103】
この上前腸骨棘Aと上後腸骨棘Pとの位置関係を見ることで、骨盤の傾き具合を把握することができる。たとえば、上前腸骨棘Aと上後腸骨棘Pとを結んだ線がほぼ水平であれば、骨盤は中間位つまり骨盤が起立している状態であると考えることができる。
一方で、上前腸骨棘Aと上後腸骨棘Pとを結んだ線が前側に傾斜している場合は、骨盤が前傾した状態、つまり骨盤が前側に傾いた状態であると考えることができる。
【0104】
また、上前腸骨棘Aと上後腸骨棘Pとを結んだ線が後側に傾斜している場合は、前述のように一般に製造されている座面が後傾した椅子などに座った状態であり、リラックスして椅子に座ることはできるが、体幹筋、特に腹部の筋肉である腹横筋を鍛えることはできない。
【0105】
また骨盤が後傾した状態が続くと、いわゆる背骨が後ろ側に湾曲し、いわゆる猫背のような姿勢になってしまう。背中が丸くなることで、頭を支える首周りの筋肉への負担が増加し、肩こりや背中に痛みとして症状がでる場合がある。
【0106】
つまり、着座時の正しい姿勢、つまり身体に負担が少ない姿勢は、骨盤が起立した状態で、坐骨で体重を支えることができる状態が好ましい。これはつまり上前腸骨棘Aと上後腸骨棘Pとを結んだ線が水平に近づくことが好ましい。
【0107】
本実施の形態のトレーニング椅子100では、利用者Uが坐骨キャッチシート130に着座したときに、坐骨キャッチシート130が有する曲面凸部133の天頂部134で、利用者Uの坐骨で体重支持が行われ、上前腸骨棘Aと上後腸骨棘Pとを結んだ線が水平に近づくことで、骨盤が中間位つまり骨盤が起立している状態となる。
【0108】
図7は、腹部の筋肉のリラックス時と収縮時とを比較した超音波写真図である。
図7に示すように、一般に製造されている座面が後傾した椅子などに座ってリラックスした状態と、トレーニング椅子100の坐骨キャッチシート130に座って腹横筋を収縮させた状態とを、超音波診断装置で腹横筋の厚さを測定すると、明らかにトレーニング椅子100の坐骨キャッチシート130に座った場合のほうが、筋肉の厚さ、特に深部体幹筋である腹横筋の筋厚が増加していることがわかる。
【0109】
つまり、坐骨キャッチシート130に利用者Uが着座することで、骨盤が起き上がり、坐骨で体重を支えることで、腹横筋が収縮することがわかる。これにより、トレーニング椅子100に着座した利用者Uは、着座することで腹横筋を収縮し、着座を続ける限り、腹横筋が収縮した状態を持続することができる。
【0110】
継続的な筋収縮を求めるトレーニングをトレーニング椅子100に着座するだけで行えるので、テレビを観ながら、話をしながら、本を読みながらなど生活の一部として深部体幹筋の中の腹横筋を容易に鍛えることができる。
【0111】
図8は第7胸椎棘突起と、第4腰椎棘突起の場所を示す人体の背面図である。
図8に示すように、頚椎(Cervical spine)はC1~C7、胸椎(Thoracic)はT1~T12、腰椎(Lumbar)はL1~L5で表現される。
【0112】
第7胸椎棘突起(T7棘突起、以下、第7胸椎Tと称する)は、左右の肩甲骨の下角を結んだ線状に存在する第7胸椎Tの棘突起である。
また第4腰椎棘突起(L4棘突起、以下、第4腰椎Lと称する)は、左右の腸骨の最高点を結んだヤコビ線状に存在する第4腰椎Lの棘突起である。
【0113】
先行研究により、前述の上前腸骨棘Aと上後腸骨棘Pとを結んだ線が水平に近づいた状態で、上前腸骨棘Aと上後腸骨棘Pとを結んだ線と、第7胸椎Tと第4腰椎Lとを結んだ線とが直角に近い位置関係で、かつ上後腸骨棘Pを中心軸となる姿勢で着座すると腹横筋の持続的収縮を引き出すことが明らかになっている。
【0114】
図9は、利用者が着座した状態での上前腸骨棘、上後腸骨棘、第7胸椎、および第4腰椎の位置関係を示す側面図である。
図9(A)は、従来の椅子に利用者Uが座った状態、図9(B)は、本実施の形態のトレーニング椅子100の坐骨キャッチシート130に利用者Uが座った状態を示している。
【0115】
図9(A)に示すように、利用者Uが従来の椅子に座った場合、骨盤が後傾するため上前腸骨棘Aと上後腸骨棘Pとを結んだ線が後側に傾斜している。第7胸椎Tと第4腰椎Lとを結んだ線は、上前腸骨棘Aと上後腸骨棘Pとを結んだ線と直角に近い位置関係で交わるが、上後腸骨棘Pが中心軸、つまり第7胸椎Tと第4腰椎Lとを結んだ線上からはずれた位置関係になるため、腹横筋の持続的収縮を引き出すことができない。また第7胸椎Tと第4腰椎Lとを結んだ線上に上後腸骨棘Pがないため、利用者Uの体重を坐骨で正しく支えることができない。
【0116】
一方で、図9(B)に示すように、利用者Uが本実施の形態のトレーニング椅子100の坐骨キャッチシート130に座った場合、骨盤は中間位つまり骨盤が起立している上になり、前述の上前腸骨棘Aと上後腸骨棘Pとを結んだ線が水平に近づいた状態となる。
【0117】
また第7胸椎Tと第4腰椎Lとを結んだ線は、上前腸骨棘Aと上後腸骨棘Pとを結んだ線と直角に近い位置関係で交わり、かつ第7胸椎Tと第4腰椎Lとを結んだ線上に上後腸骨棘Pが位置する。このため利用者Uの体重を坐骨で正しく支えることができ、腹横筋の持続的収縮を引き出すことができる。
【0118】
図10は、腰椎コントロールパッドを使用した状態での上前腸骨棘、上後腸骨棘、第7胸椎、および第4腰椎の位置関係を示す側面図である。
図10に示すように、坐骨キャッチシート130に着座した利用者Uの腰椎部に当て部141を当てることで、腹横筋が最も収縮するように腰椎の位置を導くことができ、さらに腹横筋が最も収縮する腰椎の位置を持続させることができる。
【0119】
前述のように、上前腸骨棘Aと上後腸骨棘Pとを結んだ線が水平に近づいた状態で、上前腸骨棘Aと上後腸骨棘Pとを結んだ線と、第7胸椎Tと第4腰椎Lとを結んだ線とが上後腸骨棘Pで直角に近い位置関係で交わるように着座すると腹横筋の持続的収縮を引き出すことができる。
【0120】
そこで坐骨キャッチシート130に着座した利用者Uの腰椎部に当て部141を当て、利用者Uに当て部141を後ろ側に押し返すように指示することで、腰椎の前彎が小さくなる。
【0121】
つまり利用者Uの腰椎部に当て部141を当てることで、上前腸骨棘Aと上後腸骨棘Pとを結んだ線が水平に近づいた状態で、上前腸骨棘Aと上後腸骨棘Pとを結んだ線と、第7胸椎Tと第4腰椎Lとを結んだ線とが上後腸骨棘Pで直角に近い位置関係に近づけることができる。
【0122】
また利用者Uが長時間にわたりトレーニング椅子100に座ることで、腰椎の前彎が大きくなってきたとしても、利用者Uの腰椎部に当てた当て部141を後ろ側に押し返すように促すことで、腰椎の前彎を小さくすることができる。
【0123】
以上のように、本実施の形態のトレーニング椅子100では、利用者Uが坐骨キャッチシート130に着座するだけで、腹横筋を持続的に収縮させることができ、坐骨キャッチシート130に着座した利用者Uの腰椎部に腰椎コントロールパッド140による当て部141を当てることで、腹横筋が最も収縮するように腰椎の位置を導くことができる。
【0124】
なお本実施の形態では、坐骨キャッチシート130および腰椎コントロールパッド140を備えるトレーニング椅子100として説明したが、手持ちの椅子の座面に坐骨キャッチシート130を固定し、背面の背もたれ部などに腰椎コントロールパッド140を取り付けて利用することもできる。
【符号の説明】
【0125】
100 トレーニング椅子
110 前脚部
111 高さ目盛り
120 後脚部
121 回動接続部
130 坐骨キャッチシート
131 高さ調節機構
132 水平台座
133 曲面凸部
134 天頂部
135 分割断面
136 延設部
140 腰椎コントロールパッド
141 当て部
142 ステー部
142C 中心線
143、145 角度調節機構
143K 角度目盛り
144 延長材
A 上前腸骨棘
L 第4腰椎
P 上後腸骨棘
T 第7胸椎
U 利用者
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10