(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】検査装置、プログラム、算出装置および検査方法
(51)【国際特許分類】
A61B 3/028 20060101AFI20240221BHJP
【FI】
A61B3/028
(21)【出願番号】P 2020098207
(22)【出願日】2020-06-05
【審査請求日】2023-03-06
(73)【特許権者】
【識別番号】506423051
【氏名又は名称】株式会社QDレーザ
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【氏名又は名称】片山 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137615
【氏名又は名称】横山 照夫
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 誠
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 一孝
【審査官】岩永 寛道
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-128747(JP,A)
【文献】特開2006-280613(JP,A)
【文献】特開平11-070076(JP,A)
【文献】特開2003-334170(JP,A)
【文献】特開昭52-001993(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0215724(US,A1)
【文献】特開2007-125125(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0038791(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/028
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
視標とユーザの眼球との間の光軸に設けられた円柱凸レンズと、
前記光軸に設けられ、前記円柱凸レンズの円柱軸と略平行な円柱軸を有する円柱凹レンズと、
前記ユーザの乱視度数を算出するために用いる、前記光軸の方向における前記円柱凸レンズと前記円柱凹レンズとの前記光軸の方向における距離を変更する駆動機構と、
を備える検査装置。
【請求項2】
前記円柱凸レンズの焦点距離の絶対値と前記円柱凹レンズの焦点距離の絶対値とは略同じである請求項1に記載の検査装置。
【請求項3】
前記円柱凸レンズの円柱軸および前記円柱凹レンズの円柱軸は前記光軸に略直交する請求項1または2に記載の検査装置。
【請求項4】
前記円柱凸レンズの焦点距離の絶対値および前記円柱凹レンズの焦点距離の絶対値は50mm以上かつ150mm以下である請求項1から3のいずれか一項に記載の検査装置。
【請求項5】
前記距離に基づき、前記ユーザの乱視度数を算出する算出部を備える請求項1から4のいずれか一項に記載の検査装置。
【請求項6】
前記駆動機構は、前記ユーザの乱視の方位角を算出するために用いる、前記光軸を中心とする前記円柱凸レンズおよび前記円柱凹レンズの回転角度を変更する請求項1から5のいずれか一項に記載の検査装置。
【請求項7】
前記光軸に設けられた第1球面凸レンズと、
前記光軸に設けられた第2球面凸レンズと
、
前記ユーザの球面度数を算出するために用いる、前記光軸の方向における前記第1球面凸レンズと前記第2球面凸レンズとの前記光軸の方向における距離を変更する
別の駆動機構と、
を備える請求項1から6のいずれか一項に記載の検査装置。
【請求項8】
コンピュータに、
視標とユーザの眼球との間の光軸に設けられた円柱凸レンズと、前記光軸に設けられ前記円柱凸レンズの円柱軸と略平行な円柱軸を有する円柱凹レンズと、の前記光軸の方向における、調整された距離に関する情報を取得させ、
前記距離に関する情報に基づき、前記ユーザの乱視度数を算出させるプログラム。
【請求項9】
視標とユーザの眼球との間の光軸に設けられた円柱凸レンズと、前記光軸に設けられ前記円柱凸レンズの円柱軸と略平行な円柱軸を有する円柱凹レンズと、の前記光軸の方向における、調整された距離に関する情報を取得する取得部と、
前記距離に関する情報に基づき、前記ユーザの乱視度数を算出する算出部と、
を備える算出装置。
【請求項10】
視標とユーザの眼球との間の光軸に設けられた円柱凸レンズと、前記光軸に設けられ前記円柱凸レンズの円柱軸と略平行な円柱軸を有する円柱凹レンズと、の前記光軸の方向における距離を調整するステップと、
前記距離に基づき、前記ユーザの乱視度数を算出するステップと、
を含む検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査装置、プログラム、算出装置および検査方法に関し、例えば乱視の度数を検査する検査装置、プログラム、算出装置および検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ユーザの眼(すなわち被検眼)の屈折力(ディオプタ)を検査するときには、例えばオートレフラクトメータ等を用い他覚的に屈折力を測定する。その後、測定された屈折力周辺の度数のレンズをユーザの眼前に配置し、ユーザが自覚的に最適なレンズを選定する。これにより、被検眼の屈折力を検査できる。屈折力の検査では、被検眼の球面度数S(Sphere)乱視の度数C(Cylindrical)および乱視の方位角A(Axis)を測定する。円柱凸レンズ、円柱凹レンズおよび可変球面度数のレンズを用い屈折力を検査することが知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ユーザの眼前にレンズを配置し被検眼の屈折力を検査する方法では、多数のレンズを用意し切り替える。このため、装置が大型になりかつ高価になる。特許文献1の方法では、円柱凸レンズおよび円柱凹レンズを光軸に対し回転させることで乱視の方位角を測定し、可変球面度数を調整することで、球面度数Sおよび乱視の度数Cを測定している。しかしながら、可変球面度数のレンズは高価であり精度も低い。
【0005】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、安価に屈折力を検査することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、視標とユーザの眼球との間の光軸に設けられた円柱凸レンズと、前記光軸に設けられ、前記円柱凸レンズの円柱軸と略平行な円柱軸を有する円柱凹レンズと、前記ユーザの乱視度数を算出するために用いる、前記光軸の方向における前記円柱凸レンズと前記円柱凹レンズとの前記光軸の方向における距離を変更する駆動機構と、を備える検査装置である。
【0007】
上記構成において、前記円柱凸レンズの焦点距離の絶対値と前記円柱凹レンズの焦点距離の絶対値とは略同じである構成とすることができる。
【0008】
上記構成において、前記円柱凸レンズの円柱軸および前記円柱凹レンズの円柱軸は前記光軸に略直交する構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記円柱凸レンズの焦点距離の絶対値および前記円柱凹レンズの焦点距離の絶対値は50mm以上かつ150mm以下である構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記距離に基づき、前記ユーザの乱視度数を算出する算出部を備える構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記駆動機構は、前記ユーザの乱視の方位角を算出するために用いる、前記光軸を中心とする前記円柱凸レンズおよび前記円柱凹レンズの回転角度を変更する構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記光軸に設けられた第1球面凸レンズと、前記光軸に設けられた第2球面凸レンズと、前記ユーザの球面度数を算出するために用いる、前記光軸の方向における前記第1球面凸レンズと前記第2球面凸レンズとの前記光軸の方向における距離を変更する別の駆動機構と、を備える構成とすることができる。
【0013】
本発明は、コンピュータに、視標とユーザの眼球との間の光軸に設けられた円柱凸レンズと、前記光軸に設けられ前記円柱凸レンズの円柱軸と略平行な円柱軸を有する円柱凹レンズと、の前記光軸の方向における、調整された距離に関する情報を取得させ、前記距離に関する情報に基づき、前記ユーザの乱視度数を算出させるプログラムである。
【0014】
本発明は、視標とユーザの眼球との間の光軸に設けられた円柱凸レンズと、前記光軸に設けられ前記円柱凸レンズの円柱軸と略平行な円柱軸を有する円柱凹レンズと、の前記光軸の方向における、調整された距離に関する情報を取得する取得部と、前記距離に関する情報に基づき、前記ユーザの乱視度数を算出する算出部と、を備える算出装置である。
【0015】
本発明は、視標とユーザの眼球との間の光軸に設けられた円柱凸レンズと、前記光軸に設けられ前記円柱凸レンズの円柱軸と略平行な円柱軸を有する円柱凹レンズと、の前記光軸の方向における距離を調整するステップと、前記距離に基づき、前記ユーザの乱視度数を算出するステップと、を含む検査方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、安価に屈折力を検査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、実施例1に係る検査装置のブロック図である。
【
図2】
図2は、実施例1におけるレンズ13および14を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、実施例1における制御部のブロック図である。
【
図4】
図4は、実施例1における制御部の処理を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、実験1における補正前後の視標の撮像画像である。
【
図6】
図6は、実験2における補正前後の視標の撮像画像である。
【
図7】
図7は、実験3における球面度数Sの補正後であり乱視度数Cの補正前後の視標の撮像画像である。
【
図8】
図8は、実験4におけるレンズ13および14を回転させたときの視標の撮像画像である。
【
図9】
図9は、実施例1の変形例1に係る検査装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照し、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0019】
図1は、実施例1に係る検査装置のブロック図である。ユーザの眼球30(すなわち被検眼)から視標20を見る光軸34の方向をZ方向、水平方向をX方向、垂直方向をY方向とする。
【0020】
図1に示すように、検査装置100は、光学系10、表示部22、制御部25、駆動機構26a、26b、検出器28a、28b、表示装置27および入力装置29を備えている。表示部22は視標20を表示する。表示部22は例えば液晶ディスプレイまたは有機EL(ElectroLuminescence)ディスプレイである。表示部22に表示された視標20の光35は光学系10を介し眼球30の瞳孔32に至る。光学系10は、光軸34上にレンズ11、12、13、14および15を有している。レンズ11および12は球面凸レンズである。レンズ13、14および15は、それぞれ円柱凹レンズ、円柱凸レンズおよび球面凹レンズである。
【0021】
表示部22の視標20が光学系10から例えば5m離れている場合、凸レンズ16を設けなくとも視標20の点光源から出射し光学系10に入射する光35は略平行光となる。視標20が光学系10の近くに配置される場合、例えば光学系10と視標20との間に凸レンズ16を設けることで、光学系10に入射する光35は略平行光となる。レンズ11が出射する光35は収束光となり、レンズ11と12との間で集光する。光35はレンズ12に拡散光として入射する。レンズ12から出射する光は略平行光となる。光35はレンズ13および14により変形しレンズ15を介し瞳孔32に至る。
【0022】
駆動機構26aは、レンズ13を矢印37aのようにZ方向に駆動し、レンズ13および14を矢印37のように光軸34を中心に回転させる。検出器28aはレンズ13の駆動距離からレンズ13と14との距離D1を検出する。また、レンズ13および14の回転角度θを検出する。駆動機構26aはレンズ13および14の少なくとも一方をZ方向に駆動してもよい。駆動機構26bはレンズ11を矢印37bのようにZ方向に駆動する。検出器28bはレンズ11の駆動距離からレンズ11と12との距離D2を検出する。駆動機構26bはレンズ11および12の少なくとも一方をZ方向に駆動してもよい。駆動機構26aおよび26bは例えばステッピングモータを含み、検出器28aおよび28bは例えばステッピングモータのステップ数に基づき、距離D1、D2および回転角度θを検出する。
【0023】
制御部25は駆動機構26a、26b、検出器28aおよび28bを制御する。制御部25は、例えばコンピュータまたはプロセッサである。表示装置27は、制御部25へのコマンドまたは屈折力の測定結果を表示する。表示装置27は、例えば液晶ディスプレイまたは有機ELディスプレイである。入力装置29は、制御部25にコマンドを入力する。入力装置29は、例えばキーボード、タッチパネルまたはマウスである。
【0024】
図2は、実施例1におけるレンズ13および14を示す斜視図である。
図2に示すように、レンズ13の円柱軸36aとレンズ14の円柱軸36bはともに光軸34を通り、互いに略平行である。円柱軸36aおよび36bは光軸34と略直交する。駆動機構26aは、レンズ13および14を円柱軸36aと36bが略平行の状態で光軸34を中心に角度θ回転させる。
【0025】
図3は、実施例1における制御部のブロック図である。
図3に示すように、制御部25は、例えばコンピュータであり、プロセッサ42、メモリ44、インターフェース46およびバス48を有している。プロセッサ42は、例えばCPU(Central Processing Unit)であり、処理を行う。メモリ44は、例えばRAM(Random Access Memory)等の揮発性メモリまたはROM(Read Only Memory)もしくはハードデイスク等の不揮発性メモリであり、データおよびコマンドを記憶する。インターフェース46は、駆動機構26a、26b、検出器28a、28b、表示装置27および入力装置29にデータおよびコマンドを入出力する。バス48は、プロセッサ42、メモリ44およびインターフェース46を接続する。制御部25は、球面度数S、乱視度数Cおよび乱視方位角Aを算出する算出装置である。コンピュータ等のハードウェアは、算出プログラム等のソフトウェアと協働し、距離D1、D2および角度θに関する情報を取得する取得部、および距離D1、D2および角度θに関する情報に基づき球面度数S、乱視度数Cおよび乱視方位角Aを算出する算出部として機能する。
【0026】
図4は、実施例1における制御部の処理を示すフローチャートである。
図4に示すように、制御部25は、距離D2を調整する(ステップS10)。例えば、制御部25は、駆動機構
26bに距離D2を変化させる。ユーザは視標20にフォーカスが合ったときに入力装置29を操作する。これにより、制御部25は視標20にフォーカスが合う距離D2を調整できる。制御部25は、距離D2に基づき球面度数Sを算出する(ステップS12)。制御部25は、球面度数Sを表示装置27に出力する(ステップS14)。
【0027】
制御部25は、距離D1および角度θを調整する(ステップS16)。例えば、制御部25は、駆動機構
26aに距離D1および回転角度θを変化させる。ユーザは視標20の歪みが最も小さいときに入力装置29を操作する。回転角度θの設定においては、まず距離D1をゼロにしておき、放射状のチャート(例えば後述する
図5のチャート)などをユーザに視認させて、放射状の線のうち最もボケている(ピントが外れている)線の角度を回転角度θとする。これにより、制御部25は視標20の歪みが小さい距離D1および回転角度θを調整できる。制御部25は、距離D1および角度θに基づき乱視の度数Cおよび方位角Aを算出する(ステップS18)。制御部25は、乱視の度数Cおよび方位角Aを表示装置27に出力する(ステップS20)。
【0028】
[レンズ11および12]
レンズ11および12について説明する。レンズ11および12の焦点距離をそれぞれf1およびf2とすると、レンズ11および12の合成焦点距離fsは、fs=(f1×f2)/(f1+f2-D2)となる。ここで、合成焦点距離fsの逆数(1/fs)がレンズ11および12の合成された度数である。このように、距離D2が変化すると合成焦点距離fsが変化する。このように、距離D2を変化させることで、球面度数Sを調整でき、距離D2から球面度数Sを算出することができる。
【0029】
眼鏡レンズを想定すると、レンズ11および12の光径Φは30mm程度である。光径Φが30mmのとき光学系10の収差を少なくしようとすると、F値は1.0程度以上となる。レンズ11と12との可動範囲が大きいと検査装置が大型化および低速化する。これらを考慮してレンズ11および12の焦点距離f1およびf2を設定する。
【0030】
表1は、実施例1におけるレンズ11および12の焦点距離f1およびf2の例を示す表である。f1およびf2はそれぞれレンズ11および12の焦点距離、F値はレンズ11および12の片側のF値、距離Dsは球面度数Sが0Dとなる距離D2、調整範囲は球面度数Sを±10D(Diopter)の範囲で調整するための距離D2の調整範囲である。
【表1】
【0031】
例No.1は、レンズ11および12の焦点距離f1およびf2を50mmに設定する。光径Φを30mmとすると、レンズ11および12のF値は1.67となる。距離Dsは100mmである。距離D2の調整範囲は±25mmとなる。同様に、例No.2では、焦点距離f1およびf2は30mm、F値は1.0、距離Dsは60mm、および調整範囲は±9mmである。例No.3では、焦点距離f1およびf2は70mm、F値は2.33、距離Dsは140mm、および調整範囲は±49mmである。
【0032】
距離D2の調整範囲が大きくなると、検査装置が大型化する。一方、距離D2の調整範囲が小さくなると、球面度数Sの調整精度が劣化する。これらを考慮すると、光径Φが20mm~40mmのとき、レンズ11および12の焦点距離f1およびf2は、30mm以上が好ましく、40mm以上がより好ましい。焦点距離f1およびf2は、70mm以下が好ましく、60mm以下がより好ましい。なお、焦点距離f1とf2とを略同じに設定したが、焦点距離f1とf2とは異なっていてもよい。
【0033】
[レンズ13および14]
次に、レンズ13および14について説明する。レンズ13および14の焦点距離をそれぞれf3およびf4とすると、レンズ13および14の合成焦点距離fcは、fc=(f3×f4)/(f3+f4-D1)となる。このように、距離D1が変化すると合成焦点距離fcが変化する。ここで、合成焦点距離fcの逆数(1/fc)がレンズ13および14の合成された度数である。このように、距離D1を変化させることで、乱視度数Cを調整でき、距離D1から乱視度数Cを算出することができる。このとき、回転角度θに基づく方位角Aを最適な角度に調整しておくことが好ましい。
【0034】
乱視の度数Cは球面度数Sより調整範囲が狭い。例えば乱視の度数Cの調整範囲は0Dから3D程度である。球面度数Sと方位角Aを用いることで、調整する度数は正または負のみでよい。そこで、レンズ13と14の焦点距離f3およびf4の絶対値を略同じとし、レンズ13と14の距離D1が0のとき、すなわちレンズ13と14とが重なっているとき、度数Cが0Dとなる。レンズ13および14は円柱レンズであり、焦点距離f3およびf4は円柱軸36aおよび36bに直交する方向の焦点距離である。円柱軸36aおよび36bの方向の焦点距離は無限遠である。
【0035】
表2は、実施例1におけるレンズ13および14の焦点距離f3およびf4の例を示す表である。f3およびf4はそれぞれレンズ13および14の焦点距離、F値はレンズ13および14の片側のF値、距離Dcは乱視度数Cが0Dとなる距離D1、調整範囲は乱視度数Cを0D~+3D(Diopter)の範囲で調整するための距離D1の調整範囲である。この場合も、回転角度θに基づく方位角Aを最適な角度に調整しておくことが好ましい。
【表2】
【0036】
例No.1では、レンズ13および14の焦点距離f3およびf4をそれぞれ-100mmおよび+100mmに設定する。光径Φを30mmとすると、レンズ13および14のF値は3.33となる。距離Dcは0mmである。距離D1の調整範囲は0~30mmとなる。同様に、例No.2では、焦点距離f3およびf4はそれぞれ-50mmおよび+50mm、F値は1.67、距離Dcは0mm、および調整範囲は0~7.5mmである。例No.3では、焦点距離f3およびf4はそれぞれ-70mmおよび+70mm、F値は2.33、距離Dcは0mm、および調整範囲は0~14.7mmである。
【0037】
乱視度数Cの調整の精度を向上させるためには、距離D1の調整範囲を大きくすることが好ましい。一方、レンズ13および14は円柱レンズのため、距離D1を長くすると像に歪曲が生じやすくなる。このため、距離D1の調整範囲が大きすぎると距離D1が大きくなり像の歪曲が生じてしまう。像の歪曲を抑制する観点から距離D1は距離D2より短いことが好ましい。これらを考慮すると、光径Φが20mm~40mmのとき、焦点距離f3およびf4の絶対値は50mm以上が好ましく、70mm以上がより好ましい。焦点距離f3およびf4の絶対値は150mm以下が好ましく、120mm以下がより好ましい。なお、焦点距離f3の絶対値と焦点距離f4の絶対値とを略同じに設定したが、焦点距離f3の絶対値と焦点距離f4の絶対値とは異なっていてもよい。
【0038】
[実験1]
図1の眼球30の位置に、被検眼の代わりに無限遠にフォーカスを調整したレンズ付きカメラを配置し、レンズ付きカメラと光学系との間に眼鏡レンズを配置した。眼鏡レンズには球面度数Sおよび乱視度数Cを付加した。これにより、被検眼の屈折力を再現した。光学系10により、付加した球面度数Sおよび乱視度数Cを補正できるかを調査した。各レンズのフォーカスは表1および表2の例No.1であり、レンズ15の焦点距離f5は-200mmである。
【0039】
実験1として、眼鏡レンズを用い、屈折力として乱視度数Cを0Dとし、球面度数Sを0D、-8Dおよび-10Dとした度数を付加した。光学系10を調整し球面度数Sを補正した。すなわち、距離D1を乱視度数Cの補正が0Dとなる距離Dcとし、視標20のフォーカスが最も合うように距離D2を調整した。
【0040】
図5は、実験1における補正前後の視標の撮像画像である。
図5において、被検眼の屈折力は眼鏡レンズにより付加した屈折力であり、補正前は光学系10による球面度数Sおよび乱視度数Cの補正が0Dのときの撮像画像であり、補正後は乱視度数Cの補正を0Dとし光学系10により球面度数Sを補正した後の撮像画像である。右および左は右眼用および左眼用である。
【0041】
図5に示すように、被検眼の球面度数Sが0Dでは補正前の視標の画像はフォーカスが合っている。補正の必要がないため補正後の画像は載せていない。被検眼の球面度数S=-8DおよびS=-10Dとすると、補正前では視標の画像はフォーカスが合っていない。S=-8Dの補正後では、視標の画像はフォーカスが合っている。S=-10Dの補正後では、視標の画像はフォーカスが合っていない。以上のように、実験1では、球面度数Sが0Dから-8Dの補正(すなわち被検眼の屈折力の測定)が可能であった。
【0042】
[実験2]
実験2として、眼鏡レンズを用い、屈折力として球面度数Sを0Dとし、乱視度数Cを+1.5Dおよび+3.0Dとした度数を付加した。光学系10を調整し乱視度数Cを補正した。すなわち、距離D2を球面度数Sの補正が0Dとなる距離Dsとし、視標20のフォーカスが最も合うように距離D1および回転角度θを調整した。その他の実験方法は実験1と同じである。
【0043】
図6は、実験2における補正前後の視標の撮像画像である。
図6に示すように、被検眼の乱視度数Cが+1.5Dでは、補正前の視標の画像は画像の垂直方向のフォーカスはあっているが水平方向においてフォーカスが合っていない。補正後では視標の画像は画像の垂直方向および水平方向においてもフォーカスが合っている。C=+3.0Dでは、補正前の視標の画像は画像の垂直方向のフォーカスはあっているが水平方向においてC=+1.5Dよりフォーカスが合っていない。補正後では視標の画像は画像の水平方向においてフォーカスが合っている。垂直方向において若干フォーカスが合っていないが、これは収差に起因する。このように、実験2では、乱視度数Cが0Dから3Dの補正が可能である。
【0044】
[実験3]
実験3として、眼鏡レンズを用い、屈折力として球面度数Sを-8Dとし、乱視度数Cを+1.5Dおよび3.0Dとした度数を付加した。距離D2を調整し実験1と同様に球面度数Sを補正した。その後、距離D1および回転角度θを調整し、乱視度数Cを補正した。その他の実験方法は実験1と同じである。
【0045】
図7は、実験3における球面度数Sの補正後であり乱視度数Cの補正前後の視標の撮像画像である。
図7に示すように、被検眼の乱視度数Cが+1.5Dでは、球面度数Sの補正後であり乱視度数Cの補正前の視標の画像は画像の垂直方向のフォーカスはあっているが水平方向においてフォーカスが合っていない。乱視度数Cの補正後では視標の画像は画像の垂直方向および水平方向においてもフォーカスが合っている。C=+3.0Dでは、球面度数Sの補正後であり乱視度数Cの補正前の視標の画像は画像の垂直方向のフォーカスはあっているが水平方向においてC=+1.5Dよりフォーカスが合っていない。乱視度数Cの補正後では視標の画像は画像の水平方向においてフォーカスが合っている。垂直方向において若干フォーカスが合っていないが、これは収差に起因する。このように、実験1から実験3のように、球面度数Sが0Dから-8Dおよび乱視度数Cが0Dから+3Dの測定が可能である。
【0046】
[実験4]
実験4では、光学系10とレンズ付きカメラの間に眼鏡レンズは配置していない。光学系10のレンズ13および14を回転させカメラを用い視標を撮像した。光学系10の球面度数Sは0Dであり、乱視度数Cは+3Dである。レンズ13および14の回転角度θを0°、45°、90°、135°および180°とした。
【0047】
図8は、実験4におけるレンズ13および14を回転させたときの視標の撮像画像である。
図8に示すように、回転角度θとともに画像の視標の乱視成分が0°から180°回転している。このように、回転角度θに基づき、乱視の方位角Aを測定可能である。
【0048】
実験1から実験4のように、実施例1を用い被検眼の球面度数S、乱視度数Cおよび方位角Aを測定可能である。
【0049】
[実施例1の変形例1]
図9は、実施例1の変形例1に係る検査装置のブロック図である。
図9に示すように、実施例1の変形例1の検査装置102では、光学系10はレンズ11および12の代わりに1枚のレンズ17を有している。表示部22と光学系10との距離が近い場合、光35は光学系10に拡散光として入射する。レンズ17は凸レンズであり、光35を略平行光とする。駆動機構26bはレンズ17を矢印37bのようにZ方向に変化させ光35の開口数を変化させてもよい。検出器28bはレンズ17の位置を検出する。制御部25はレンズ17の位置に基づき球面度数Sを算出する。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0050】
実施例1およびその変形例によれば、円柱凸レンズ14は視標20とユーザの眼球30との間の光軸34に設けられている。円柱凹レンズ13は、光軸34に設けられ、円柱凸レンズ14の円柱軸36bと略平行な円柱軸36aを有する。駆動機構26aは、光軸34方向における円柱凸レンズ14と円柱凹レンズ13との光軸34の方向における距離D1を変更する。距離D1をユーザの乱視度数Cを算出するために用いる。これにより、乱視度数Cの異なる多数のレンズを用意しなくてもよい。また、特許文献1のような可変球面度数のレンズを用いなくてもよい。よって、安価に屈折力を測定できる。なお、円柱軸36aと36bとが略平行とは、視標20が歪まない程度に平行という意味であり、円柱軸36aと36bとのなす角度は例えば10°以下である。
【0051】
円柱凸レンズ14の焦点距離f4の絶対値|f4|と円柱凹レンズ13の焦点距離f3の絶対値|f3|とは略同じである。これにより、レンズ13と14との距離D1を0としたとき乱視度数Cを0Dにできる。なお、|f3|と|f4|とが略同じとは、例えば(|f3|-|f4|)/(|f3|+|f4|)が0.1以下である。
【0052】
レンズ14の円柱軸36aおよびレンズ13の円柱軸36bは光軸34に略直交する。これにより、距離D1を用い乱視度数Cを算出できる。なお、円柱軸36aおよび36bが光軸34と略直交とは、視標20が歪まない程度に直交するという意味であり、円柱軸36aおよび36bと光軸34のなす角度は例えば80°以上かつ100°以下である。
【0053】
表2のように、実用的な光径(例えば20mm以上かつ30mm)では、レンズ13および14の焦点距離f3およびf4の絶対値|f3|および|f4|は50mm以上かつ150mm以下であることが好ましい。
【0054】
駆動機構26aは、光軸34を中心とするレンズ13および14の回転角度θを変更する。回転角度θはユーザの乱視の方位角Aを算出するために用いる。これにより、乱視の方位角Aを測定できる。
【0055】
駆動機構26bは、光軸34の方向におけるレンズ11(第1球面凸レンズ)とレンズ12(第2球面凸レンズ)との光軸34の方向における距離D2を変更する。距離D2は、ユーザの球面度数Sを算出するために用いる。これにより、球面度数Sを測定できる。
【0056】
実施例1およびその変形例では、球面度数S、乱視度数Cおよび乱視の方位角Aを測定する検査装置を例に説明したが、検査装置は少なくとも乱視度数Cを測定すればよい。
【0057】
制御部25が距離D1、D2および角度θに基づき、球面度数S、乱視度数Cおよび方位角Aを算出する例を説明したが、検査装置と別のコンピュータに距離D1、D2および角度θに関する情報を入力し、コンピュータが距離D1、D2および角度θに関する情報に基づき、球面度数S、乱視度数Cおよび方位角Aを算出してもよい。
図4では、制御部25が行う検査方法を説明したが、
図4のステップの少なくとも一部は人が行ってもよい。
【0058】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0059】
10 光学系
11-17 レンズ
20 視標
22 表示部
25 制御部
26a、26b 駆動機構
27 表示装置
28a、28b 検出器
29 入力装置
30 眼球
32 瞳孔
34 光軸
35 光
36a、36b 円柱軸