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特許7440907雌ネジ加工方法、推定刃先距離判別装置およびツールプリセッタ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】雌ネジ加工方法、推定刃先距離判別装置およびツールプリセッタ
(51)【国際特許分類】
   B23G 1/16 20060101AFI20240221BHJP
【FI】
B23G1/16 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020158915
(22)【出願日】2020-09-23
(65)【公開番号】P2022052491
(43)【公開日】2022-04-04
【審査請求日】2023-06-05
(73)【特許権者】
【識別番号】591033755
【氏名又は名称】エヌティーツール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003052
【氏名又は名称】弁理士法人勇智国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 均
【審査官】中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-093478(JP,A)
【文献】特開2016-203341(JP,A)
【文献】特開2015-039762(JP,A)
【文献】特開2013-252594(JP,A)
【文献】特開2012-240179(JP,A)
【文献】特開2003-323963(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0303672(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23G 1/00-11/00
B23Q 17/00-23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械の主軸に装着される工具ホルダに保持され、ネジピッチPで切り刃が形成されているとともに、食付き部と完全ネジ部からなるネジ部を先端部に有するタップをピッチ送りすることによって、加工対象物の貫通穴の内周面に雌ネジを加工する雌ネジ加工方法において、
前記主軸の延在方向に沿って、基準位置が設定されているとともに、前記主軸回りに、工作機械基準位相、前記工作機械基準位相に対して位相差αを有する工具ホルダ基準位相、前記工作機械基準位相に対して位相差βを有する、前記雌ネジのネジ切り開始位置に対応するネジ切り開始位相、前記タップのピッチ送りを開始するピッチ送り開始位置が設定されており、
前記タップのタップ先端と前記基準位置との間の、前記主軸の延在方向に沿ったタップ先端距離M1を測定するステップと、
前記ネジ部の前記完全ネジ部を形成する切り刃のうちの所定の切り刃の刃先に対応する刃先位相と前記工具ホルダ基準位相との間の位相差θを測定するステップと、
前記所定の切り刃の刃先と前記基準位置との間の、前記主軸の延在方向に沿った刃先距離M3を測定するステップと、
前記タップ先端距離M1、前記刃先距離M3、前記位相差α、前記位相差β、前記位相差θおよび前記ネジピッチPに基づいて、前記ネジ切り開始位相上の推定刃先位置と前記基準位置との間の、前記主軸の延在方向に沿った、ネジ切り開始位相上の推定刃先距離M2を判別するステップと、
前記ネジ切り開始位相上の推定刃先距離M2に基づいて、前記タップを、前記ピッチ送り開始位置からピッチ送りすることを特徴とする雌ネジ加工方法。
【請求項2】
請求項1に記載の雌ネジ加工方法であって、
前記ネジ切り開始位相上の推定刃先距離M2を判別するステップでは、
前記タップ先端距離M1、前記刃先距離M3および前記ネジピッチPに基づいて、前記完全ネジ部の、前記刃先位相上の外縁を、前記タップ先端より前記工具ホルダと反対側に延ばして形成される推定切り刃の推定刃先と前記タップ先端との間の、前記主軸の延在方向に沿った距離△m1を判別し、
前記タップ先端距離M1、前記位相差α、前記位相差β、前記位相差θ、前記ネジピッチPおよび前記距離△m1に基づいて、前記ネジ切り開始位相上の推定刃先距離M2を、[M2=M1+△m1+(φ/360度)×P]、[φ=θ-(α-β)]により判別することを特徴とする雌ネジ加工方法。
【請求項3】
工作機械の主軸に装着される工具ホルダに保持され、ネジピッチPで切り刃が形成されているとともに、食付き部と完全ネジ部からなるネジ部を先端部に有するタップをピッチ送りすることによって、加工対象物の貫通穴の内周面に雌ネジを加工する雌ネジ加工方法で用いられる、ネジ切り開始位相上の推定刃先距離を判別する推定刃先距離判別装置であって、
前記主軸の延在方向に沿って、基準位置が設定されているとともに、前記主軸回りに、工作機械基準位相、前記工作機械基準位相に対して位相差αを有する工具ホルダ基準位相、前記工作機械基準位相に対して位相差βを有する、前記雌ネジのネジ切り開始位置に対応するネジ切り開始位相が設定されており、
測定装置と、処理装置を備え、
前記測定装置は、
前記タップのタップ先端と前記基準位置との間の、前記主軸の延在方向に沿ったタップ先端距離M1と、
前記ネジ部の前記完全ネジ部を形成する切り刃のうちの所定の切り刃の刃先に対応する刃先位相と前記工具ホルダ基準位相との間の位相差θと、
前記所定の切り刃の刃先と前記基準位置との間の、前記主軸の延在方向に沿った刃先距離M3を測定可能に構成され、
前記処理装置は、前記タップ先端距離M1、前記刃先距離M3、前記位相差α、前記位相差β、前記位相差θおよび前記ネジピッチPに基づいて、前記ネジ切り開始位相上の推定刃先位置と前記基準位置との間の、前記主軸の延在方向に沿った、ネジ切り開始位相上の推定刃先距離M2を判別することを特徴とする推定刃先距離判別装置。
【請求項4】
請求項3に記載の推定刃先距離判別装置であって、
前記処理装置は、
前記タップ先端距離M1、前記刃先距離M3および前記ネジピッチPに基づいて、前記完全ネジ部の、前記刃先位相上の外縁を、前記タップ先端より前記工具ホルダと反対側に延ばして形成される推定切り刃の推定刃先と前記タップ先端との間の、前記主軸の延在方向に沿った距離△m1を判別し、
前記タップ先端距離M1、前記位相差α、前記位相差β、前記位相差θ、前記ネジピッチPおよび前記距離△m1に基づいて、前記ネジ切り開始位相上の推定刃先距離M2を、[M2=M1+△m1+(φ/360度)×P]、[φ=θ-(α-β)]により判別することを特徴とする推定刃先距離判別装置。
【請求項5】
工作機械の主軸に装着される工具ホルダに保持され、ネジピッチPで切り刃が形成されているとともに、食付き部と完全ネジ部からなるネジ部を先端部に有するタップをピッチ送りすることによって、加工対象物の貫通穴の内周面に雌ネジを加工する雌ネジ加工方法で用いられるツールプリセッタであって、
請求項3または4に記載の推定刃先距離判別装置を備えていることを特徴とするツールプリセッタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タップを用いて、加工対象物の貫通穴の内周面に雌ネジを加工する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関のシリンダヘッドに点火プラグを装着する方法として、シリンダヘッドの外周面と内周面を貫通する貫通穴(「プラグ穴」と呼ばれる)の内周面に雌ネジを加工するとともに、点火プラグに、雌ネジとネジ結合可能な雄ネジを加工する方法が用いられている。シリンダヘッドの貫通穴の内周面に雌ネジを加工する方法としては、工作機械の主軸に装着される工具ホルダに保持されるタップにより加工する方法が用いられている。
ここで、点火プラグをシリンダヘッドに装着する際には、燃焼効率の向上等のために、点火プラグの接地電極の開口部を、燃料噴射口に向ける必要がある。すなわち、シリンダヘッドの貫通穴の内周面に雌ネジを加工する際に、内周面の所定位置(所定位相)からネジ切り加工を開始させる必要がある。
従来、ネジ切り開始位置から雌ネジの加工を開始させる技術として、特許文献1(特開2012-240179号公報)に開示されている技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-240179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されている技術を用いることにより、工作機械の主軸に装着されている工具ホルダに保持されているタップの切り刃の刃先の刃先位相を所定のネジ切り開始位相に設定することができる。
しかしながら、特許文献1に開示されている技術は、複雑であり、手間がかかる。
本発明は、このような点に鑑みて創案されたものであり、簡単に、雌ネジを、所定のネジ切り開始位置から加工することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1発明は、工作機械の主軸に装着される工具ホルダに保持され、ネジピッチPで切り刃が形成されているとともに、食付き部と完全ネジ部からなるネジ部を先端部に有するタップをピッチ送りすることによって、加工対象物の貫通穴の内周面に雌ネジを加工する雌ネジ加工方法に関する。
切り刃は、例えば、螺旋状に形成される。ピッチ送りでは、タップは、1回転で1ネジピッチP移動する。ピッチ送り開始位置は、好適には、加工対象物(ネジ切り開始位置)から、ネジピッチPの整数倍離れている位置が設定される。
食付き部を形成する切り刃の刃先の径(工具径)は、タップ先端側から完全ネジ部側に向かって増加するように設定されている。
本発明では、主軸の延在方向に沿った基準位置、主軸回りの、工作機械基準位相、工作機械基準位相に対して位相差αを有する工具ホルダ基準位相、工作機械基準位相に対して位相差βを有する、雌ネジのネジ切り開始位置に対応するネジ切り開始位相が規定されている。基準位置は、好適には、工具ホルダ上の位置であって、主軸に工具ホルダが装着された状態において、工作機械側で認識することができる位置が設定される。「主軸の延在方向」という記載は、「主軸回転中心の延在方向」あるいは「工具ホルダ回転中心線の延在方向」を意味する。「主軸回り」という記載は、「主軸回転中心線回り」あるいは「工具ホルダ回転中心線回り」を意味する。
本発明は、タップのタップ先端と基準位置との間の、主軸の延在方向に沿ったタップ先端距離M1を測定するステップを備えている。
タップ先端距離M1を測定する方法としては、種々の方法を用いることができる。
また、工具のネジ部の完全ネジ部を形成する切り刃のうちの所定の切り刃の刃先に対応する刃先位相と工具ホルダ基準位相との間の位相差θを測定するステップを備えている。刃先位相は、工具が工具ホルダに保持されている状態における、工具ホルダ回転中心線回りの刃先の位相である。
位相差θは、例えば、工具ホルダを、タップを保持している状態で主軸回りに回転させ、工具ホルダ基準位相と刃先位相との間の回転角として測定することができる。
また、所定の切り刃の刃先と基準位置との間の、主軸の延在方向に沿った刃先距離M3を測定するステップを備えている。
刃先距離M3を測定する方法としては、種々の方法を用いることができる。
タップ先端距離M1、位相差θおよび刃先距離M3は、工作機械上で測定することもできるが、好適にはツールプリセッタにより測定される。
なお、タップ先端距離M1、位相差θ、刃先距離M3の少なくとも二つを測定するステップを有することは、少なくとも二つそれぞれを測定するステップを有することと等価である。
また、タップ先端距離M1、刃先距離M3、位相差α、β、θおよびネジピッチPに基づいて、ネジ切り開始位相上の推定刃先位置と基準位置との間の、主軸の延在方向に沿った、ネジ切り開始位相上の推定刃先距離M2を判別するステップを備えている。
また、ネジ切り開始位相上の推定刃先距離M2に基づいて、タップを、ピッチ送り開始位置からピッチ送りする。例えば、ネジ切り開始位相上の推定刃先距離M2で示される推定刃先位置がピッチ送り開始位置と一致する場合には、そのままタップのピッチ送りを開始する。一方、ネジ切り開始位相上の推定刃先距離M2で示される推定刃先位置がピッチ送り開始位置と一致しない場合には、タップを、推定刃先位置がピッチ送り開始位置と一致するように移動させた後、タップのピッチ送りを開始する。具体的には、主軸を、推定刃先位置とピッチ送り開始位置との間の距離だけ移動させた後、ピッチ送りを開始する。
本発明では、簡単に、雌ネジのネジ切りを、所定のネジ切り開始位置から開始させることができる。
第1発明の異なる形態では、ネジ切り開始位相上の推定刃先距離M2を判別するステップでは、タップ先端距離M1、刃先距離M3およびネジピッチPに基づいて、完全ネジ部の、刃先位相上の外縁を、タップ先端より工具ホルダと反対側に延ばして形成される推定切り刃の推定刃先とタップ先端との間の、主軸の延在方向に沿った距離△m1を判別する。そして、タップ先端距離M1、位相差α、β、θ、ネジピッチPおよび距離△m1に基づいて、ネジ切り開始位相上の推定刃先距離M2を、[M2=M1+△m1+(φ/360度)×P]、[φ=θ-(α-β)]により判別する。
本形態では、ネジ切り開始位相上の推定刃先距離を容易に判別することができる。
第2発明は、第1発明の雌ネジ加工方法で用いられる、ネジ切り開始位相上の推定刃先距離を判別する推定刃先距離判別装置に関する。
本発明では、主軸の延在方向に沿って、基準位置が設定されているとともに、主軸回りに、工作機械基準位相、工作機械基準位相に対して位相差αを有する工具ホルダ基準位相、工作機械基準位相に対して位相差βを有する、雌ネジのネジ切り開始位置に対応するネジ切り開始位相が設定されている。
本発明は、測定装置と処理装置を備えている。
測定装置は、タップ先端距離M1、位相差θ、刃先距離M3を測定可能に構成される。
タップ先端距離M1は、タップのタップ先端と基準位置との間の、主軸の延在方向に沿った距離である。位相差θは、ネジ部の完全ネジ部を形成する切り刃のうちの所定の切り刃の刃先に対応する刃先位相と工具ホルダ基準位相との間の位相差である。刃先距離M3は、所定の切り刃の刃先と基準位置との間の、主軸の延在方向に沿った距離である。
測定装置は、光透過型測定装置、光反射型測定装置、撮像型測定装置、回転角測定装置等の種々の測定装置の中から選択した1種類あるいは複数種類の測定装置を組み合わせて構成される。
処理装置は、タップ先端距離M1、刃先距離M3、位相差α、β、θおよびネジピッチPに基づいて、ネジ切り開始位相上の推定刃先位置と基準位置との間の、主軸の延在方向に沿った、ネジ切り開始位相上の推定刃先距離M2を判別するように構成されている。
本発明では、簡単に、ネジ切り開始位相上の推定刃先距離を判別することができる。
第2発明の異なる形態では、処理装置は、タップ先端距離M1、刃先距離M3およびネジピッチPに基づいて、完全ネジ部の、刃先位相上の外縁を、タップ先端より工具ホルダと反対側に延ばして形成される推定切り刃の推定刃先とタップ先端との間の、主軸の延在方向に沿った距離△m1を判別するように構成されている。さらに、処理装置は、タップ先端距離M1、位相差α、β、θ、ネジピッチPおよび距離△m1に基づいて、ネジ切り開始位相上の推定刃先距離M2を、[M2=M1+△m1+(φ/360度)×P]、[φ=θ-(α-β)]により判別するように構成されている。
本形態では、ネジ切り開始位相上の推定刃先距離を容易に判別することができる。
第3発明は、第1発明の雌ネジ加工方法で用いられるツールプリセッタに関する。
本発明は、第2発明の推定刃先距離班別装置を備えている。
本発明は、ネジ切り開始位相上の推定刃先距離を工作機械外で予め判別することができるため、雌ネジの加工時間を短縮することができる。
【発明の効果】
【0006】
本発明では、簡単に、雌ネジを、所定のネジ切り開始位置から加工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】点火プラグの一例を示す図である。
図2】点火プラグをシリンダヘッドに装着した状態を示す図である。
図3図1を矢印III方向から見た図である。
図4】本発明の雌ネジ加工装置の一実施形態を示す図である。
図5図4に矢印Vで示されている部分を拡大した図である。
図6図5のVI-VI線矢視図である。
図7】工具ホルダ基準位相と刃先位相との間の位相差θと刃先距離M3を測定する方法を説明する図である。
図8】本発明の雌ネジ加工装置の一実施形態の動作を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。以下の実施形態では、内燃機関のシリンダヘッドの連通穴の内周面に、点火プラグに加工された雄ネジにネジ結合可能な雌ネジを加工する場合について説明する。
【0009】
先ず、点火プラグの一例を、図1図2を参照して説明する。図1は、点火プラグ100を示し、図2は、点火プラグ100をシリンダヘッド200に装着した状態を示している。
【0010】
点火プラグ100は、金属製の筒状の取付け金具110を有している。
取付け金具110は、ネジ部120を有している。ネジ部120の外周には、シリンダヘッド200の貫通穴210の内周面に加工されている雌ネジ211にネジ結合可能な雄ネジ121が加工されている。雄ネジ121は、ネジピッチP(mm)を有している。
取付け金具110の内側には、絶縁碍子140が挿入されている。
絶縁碍子140の内側には、中心電極150が配置されている。中心電極150は、ネジ部120より、点火プラグ中心線Kの延在方向に沿った一方側(先端側)に飛び出ている先端部151を有している。
ネジ部120の、点火プラグ中心線Kの延在方向に沿った一方側には、接地電極160が配置されている。接地電極160は、基部161と先端部162を有し、L字状に形成されている。中心電極150の先端部151と接地電極160の先端部162との間に、火花ギャップGが形成される。
取付け金具110は、ネジ部120より、点火プラグ中心線Kの延在方向に沿った他方側(後端側)に、鍔部130を有している。鍔部130は、シリンダヘッド200の外周面201に当接する当接面131を有している。
【0011】
シリンダヘッド200は、外周面201と内周面202を有している、内周面202により燃焼室が形成されている。
シリンダヘッド200は、外周面201と内周面202を連通する貫通穴210を有している。貫通穴210は、貫通穴中心線Sに沿って延在している。貫通穴210の内周面には、点火プラグ100の雄ネジ121とネジ結合可能な雌ネジ211が加工されている。雌ネジ211は、ネジピッチP(mm)を有している。
【0012】
点火プラグ100をシリンダヘッド200に装着するには、図2に示されているように、ネジ部120に加工されている雄ネジ121を、貫通穴210の内周面に加工されている雌ネジ211にネジ結合する。点火プラグ100は、規定されている装着状態となるように装着される。例えば、鍔部130の当接面131がシリンダヘッド200の外周面201に当接するように、点火プラグ100のネジ部120がシリンダヘッド200の貫通穴210内に挿入される。
シリンダヘッド200が、本発明の「雌ネジが加工される加工対象物」に対応する。また、点火プラグ100が、本発明の「加工対象物にネジ結合される結合物」に対応する。
【0013】
燃焼効率等を向上させるには、図2に示されているように、点火プラグ100がシリンダヘッド200に装着された状態において、接地電極160の開口部170が燃料噴射口(図示省略)の方向に向くように構成する必要がある。
ここで、点火プラグ100の雄ネジ121およびシリンダヘッド200の雌ネジ211のネジピッチPが設定されている。また、点火プラグ100のシリンダヘッド200への装着状態が規定されている。例えば、鍔部130の当接面131がシリンダヘッド200の外周面201に当接する状態が装着状態として規定されている。
このため、点火プラグ100をシリンダヘッド200に装着した状態における、点火プラグ100の接地電極160の開口部170の向きは、雌ネジ211のネジ切り開始位置210a(ネジ切り開始位相T)によって規定される。すなわち、図3に示されている、雌ネジ211のネジ切り開始位置210aを、燃料噴射口の位置に基づいて設定することにより、点火プラグ100がシリンダヘッド200に装着された状態において、接地電極160の開口部170を燃料噴射口の方向に向かせることができる。
ネジ切り開始位置210aに対応する、貫通穴中心線S回りのネジ切り開始位相Tは、工作機械500の工作機械基準位相Nを基準に設定される。すなわち、ネジ切り開始位相Tと工作機械基準位相Nとの間の位相差βは、燃料噴射口の位置等に応じて設定される。
【0014】
次に、シリンダヘッド200の雌ネジ211のネジ切りを、設定されたネジ切り開始位置210a(ネジ切り開始位相T)から開始する方法について、図4図6を参照して説明する。
図4は、タップ400を用いて、シリンダヘッド200の貫通穴210の内周面に雌ネジ211を加工する雌ネジ加工装置の一実施形態を示す図である。図5は、図4に矢印Vで示されている部分の拡大図であり、図6は、図5のVI-VI線矢視図である。
【0015】
本実施形態の雌ネジ加工装置は、工作機械500、工具ホルダ300、タップ400により構成されている。
なお、工作機械500は、x-y-z座標系を有している。本明細書では、z軸に沿って一方側(タップ400側)を「先端側」といい、z軸に沿って他方側(工作機械500側)を「後端側」という。
工作機械500は、z軸に平行(「略平行」を含む)な主軸回転中心線Q(図5図6参照)回りに回転可能(x-y平面上の位相が可変)であるとともに、z軸に沿った位置を調整可能な主軸510を有している。主軸510は、主軸回転中心線Qの延在方向に沿って先端側に主軸先端面511を有している。
主軸510は、主軸先端面511に開口し、工具ホルダ300のシャンク部320が挿入可能な工具ホルダ挿入空間(図示省略)を有している。
主軸回転中心線Qの延在方向が、本発明の「主軸の延在方向」に対応し、主軸回転中心線Q回りが、本発明の「主軸回り」に対応する。
【0016】
工具ホルダ300は、工具ホルダ本体部(以下、単に、「本体部」という)310と締付部材330を有している。
本体部310は、本体部回転中心線(以下、「工具ホルダ回転中心線」という)の延在方向に沿って後端側にシャンク部320を有している。シャンク部320は、工作機械500の主軸510の工具ホルダ挿入空間内に挿入された状態で保持される(装着される)。
本体部310のシャンク部320が主軸510に装着された状態では、工具ホルダ300は、主軸510と連動して、主軸回転中心線Q回りに回転するとともに、主軸回転中心線Qの延在方向に沿って移動する。本明細書では、「工具ホルダ回転中心線の延在方向」という記載は、工具ホルダ300が主軸510に装着された状態における延在方向、すなわち、主軸回転中心線Qの延在方向を示す。
なお、本実施形態では、工具ホルダ300は、主軸回転中心線Q回りの位相が設定された状態で主軸510に装着される。すなわち、図6に示されているように、工具ホルダ300の工具ホルダ基準位相Rと工作機械500の工作機械基準位相Nとの間の位相差αが、予め設定されている。
【0017】
また、本体部310は、工具ホルダ回転中心線の延在方向に沿って先端側に、タップ400の工具シャンク部(図示省略)が挿入可能な工具挿入空間(図示省略)を有している。タップ400の工具シャンク部は、工具ホルダ回転中心線回りの回転が規制された状態で工具挿入空間内に挿入可能に構成されている。例えば、工具シャンク部の後端部および工具挿入空間内の、工具シャンク部の後端部が挿入される部分の断面形状を、四角形状や三角形状に形成することによって、工具ホルダ300に対するタップ400の回転を規制する回転規制機構が構成される。なお、タップ400が工具ホルダ300に保持された状態における、本体部310に対するタップ400の、工具ホルダ回転中心線回りの位相は、工具シャンク部の工具挿入空間内へのタップ400の挿入状態によって決定される。すなわち、工作機械500の工作機械基準位相Nに対するタップ400の位相は、工具シャンク部の工具挿入空間内への挿入状態に依存する。
タップ400は、工具ホルダ300に保持された状態では、工具ホルダ300と連動して、工具ホルダ回転中心線回り(主軸回転中心線Q回り)に回転するとともに、工具ホルダ回転中心線(主軸回転中心線Q)の延在方向に沿って移動する。本明細書では、「タップ回転中心線(工具回転中心線)の延在方向」という記載は、タップ400が工具ホルダ300に保持されている状態における延在方向、すなわち、工具ホルダ回転中心線(主軸回転中心線Q)の延在方向を示す。
【0018】
締付部材330は、環状に形成されている。締付部材330の内周面には、本体部310の先端側の外周に加工されている雄ネジにネジ結合可能な雌ネジが加工されている。
タップ400は、工具シャンク部が本体部310の工具挿入空間内に挿入された状態で、締付部材330を締付けることによって、工具ホルダ300(詳しくは、工具ホルダ300の本体部310)に保持される。
【0019】
本実施形態では、図5図6に示されているタップ400を用いて、シリンダヘッド200の貫通穴210の内周面に雌ネジ211を加工する。図5は、タップ400のネジ部410の側面図であり、図6は、図5のVI-VI線矢視図である。
タップ400は、先端部にネジ部410を有している。
ネジ部410は、図5に示されているように、切り刃412が、ネジピッチP(mm)で螺旋状に形成されている。
また、ネジ部410は、溝によって複数のランドに分割されている。本実施形態では、ネジ部410は、図6に示されているように、4個の溝414によって、4個のランド411に分割されている。すなわち、切り刃412は、4個の溝414によって4分割されている。分割された各切り刃412は、タップ400の回転方向F側に刃先413を有している。なお、溝414の形状は、直線形状や螺旋形状等の種々の形状に設定することができる。切り刃412は、加工精度を高めるために、刃先413から回転方向Fと反対側に向かって逃げ加工が施されている。
また、ネジ部410は、食付き部420と完全ネジ部430を有している。食付き部420を形成する切り刃412は、刃先413の径(工具径)が、完全ネジ部430側(先端側)からタップ先端面400a側(後端側)に向かって減少している。
タップ先端面400aが、本発明の「タップ先端」に対応する。
【0020】
本実施形態の雌ネジ加工装置では、タップ400を保持する工具ホルダ300を工作機械500の主軸510に装着した状態で、主軸510(工具ホルダ300、タップ400)は、加工待機位置に配置される。加工待機位置としては、適宜の位置を設定可能である。図4では、主軸510は、主軸回転中心線Qとシリンダヘッド200の貫通穴210の貫通穴中心線Sとが一致する加工待機位置に配置されている。
また、加工待機位置において、主軸510の位相が設定された位相となるように、主軸510の回転角度が調整される。
また、本実施形態の雌ネジ加工装置では、タップ400を、ピッチ送り開始位置からピッチ送りすることによって、貫通穴210の内周面に雌ネジ211を加工する。ピッチ送りでは、タップ400(主軸510)は、1回転で、主軸回転中心線Qの延在方向に沿って1ネジピッチP移動する。
図4では、シリンダヘッド200(シリンダヘッド200の外周面201)から、ネジピッチPの整数倍のピッチ送り距離Hだけ離れた位置がピッチ送り開始位置Haとして設定されている。そして、ネジ切り開始位相T上の推定刃先位置410a(詳しくは後述する)がピッチ送り開始位置Haに一致した状態から、タップ400(主軸510)のピッチ送りを開始する。
【0021】
次に、本実施形態の雌ネジ加工装置の動作を説明する。
本実施形態では、主軸510の延在方向に沿って、基準位置J(図4参照)が規定されている。基準位置Jとしては、工具ホルダ300上の位置であって、工具ホルダ300が主軸510に装着された状態において、工作機械側で認識可能な位置が設定される。
また、図6に示されているように、工作機械500の主軸510の主軸回転中心線Q回りに、工作機械基準位相N、工具ホルダ基準位相R、ネジ切り開始位置210aに対応するネジ切り開始位相T、所定の切り刃412cの刃先413cに対応する刃先位相Wが規定されている。
工具ホルダ基準位相Rは、工作機械基準位相Nに対して位相差α(度)を有するように設定される。すなわち、工具ホルダ300は、工作機械基準位相Nと工具ホルダ基準位相Rとの間の位相差がαとなるように、主軸510に装着される。
ネジ切り開始位相Tは、工作機械基準位相Nに対して位相差β(度)を有するように設定される。位相差βは、点火プラグ100がシリンダヘッド200に装着された状態において、点火プラグ100の接地電極160の開口部170が燃料噴射口に向くように設定される。
刃先位相Wは、ネジ部410の完全ネジ部430を形成する切り刃のうちの所定の切り刃の刃先に対応する位相である。刃先位相Wは、工具ホルダ基準位相Rに対して位相差θ(度)を有している。位相差θは、工具ホルダ300へのタップ400の保持状態によって異なる。位相差θは、後述する方法で測定される。
ネジ切り開始位相Tと刃先位相Wとの間の位相差φは、予め設定されている位相差αおよびβと、測定した位相差θに基づいて、後述する方法で判別される。
【0022】
また、図4図5に示されているように、タップ先端距離M1、ネジ切り開始位相T上の推定刃先距離M2、刃先距離M3、距離△m1および距離△m2が規定されている。
タップ先端距離M1は、タップ先端面400aと基準位置Jとの間の、主軸回転中心線Qの延在方向に沿った距離(mm)である。タップ先端距離M1は、後述する方法で測定される。
刃先距離M3(mm)は、ネジ部410の完全ネジ部430を形成する切り刃のうちの所定の切り刃の刃先に対応する刃先位置と基準位置Jとの間の、主軸回転中心線Qの延在方向に沿った距離(mm)である。刃先距離M3は、後述する方法で測定される。
距離△m1は、ネジ部410の完全ネジ部430の、刃先位相W上の外縁を、タップ先端面400aより工具ホルダ300と反対側(先端側)に延ばして形成される推定切り刃の推定刃先とタップ先端面400aとの間の、主軸回転中心線Qの延在方向に沿った距離(mm)である。距離△m1は、測定したタップ先端距離M1および刃先距離M3と、予め設定されているネジピッチPとに基づいて、後述する方法で判別される。
距離△m2は、推定切り刃の推定刃先と、ネジ切り開始位相T上の推定刃先位置410aとの間の、主軸回転中心線Qの延在方向に沿った距離(mm)である。距離△m2は、判別した位相差φと、ネジピッチPに基づいて、後述する方法で判別される。
ネジ切り開始位相T上の推定刃先距離M2は、ネジ切り開始位相T上の推定刃先位置410aと基準位置Jとの間の、主軸回転中心線Qの延在方向に沿った距離である。ネジ切り開始位相T上の推定刃先距離M2は、測定したタップ先端距離M1、判別した距離△m1および△m2に基づいて、後述する方法で判別される。
【0023】
次に、タップ400により、シリンダヘッド200の貫通穴210の内周面に雌ネジ211を加工する動作を説明する。
先ず、タップ先端距離M1、位相差θおよび刃先距離M3を測定する。タップ先端距離M1、位相差θおよび刃先距離M3は、工作機械500上で測定することもできるが、本実施形態では、タップ400を保持している工具ホルダ300をツールプリセッタに配置した状態で測定している。
【0024】
(ステップ1)
ツールプリセッタのタップ先端距離測定装置(タップ先端距離測定手段)により、タップ400のタップ先端面400aと基準位置Jとの間のタップ先端距離M1を測定する。
タップ先端距離測定装置としては、公知の非接触式あるいは接触式の種々の測定装置(測定手段)を用いることができる。例えば、光照射装置と、光照射装置から照射され、物体で遮光されなかった光を受光する受光装置からなる検出装置を複数配置し、各検出装置の配置位置と受光状態に基づいてタップ先端距離M1を測定する光透過型測定装置を用いることができる。あるいは、光照射装置と、光照射装置から照射され、物体で反射した光を受光する受光装置からなる検出装置を複数配置し、各検出装置の配置位置と受光状態に基づいてタップ先端距離M1を測定する光反射型測定装置を用いることができる。あるいは、撮像装置で撮像した撮像情報を画像処理することによってタップ先端距離M1を測定する画像処理型測定装置を用いることができる。
【0025】
(ステップ2)
ツールプリセッタの位相差測定装置(位相差測定手段)により、位相差θを測定する。
位相差測定装置は、回転角測定装置(回転角測定手段)と切り刃距離測定装置(切り刃距離測定手段)を有している。
回転角測定装置は、工具ホルダ300が工具ホルダ回転中心線回り(主軸回転中心線Q回り)に回転する際に、工具ホルダ基準位相Rからの回転角を測定可能に構成されている。回転角測定装置としては、公知の種々の測定装置を用いることができる。
切り刃距離測定装置は、ネジ部410の完全ネジ部430を形成する切り刃のうちの所定の切り刃と工具ホルダ回転中心線(主軸回転中心線Q)との間の距離を測定する。例えば、図5図6に示されている、完全ネジ部430を形成する切り刃412a~412cのうちの所定の切り刃412cを選択する。そして、工具ホルダ300を工具ホルダ回転中心線回りに回転させながら、図7に示されているように、工具ホルダ回転中心線の延在方向と直交するN方向から見た、切り刃412cと工具ホルダ回転中心線との間の距離D(mm)を測定する。切り刃距離測定装置としては、公知の種々の構成の測定手段を用いることができる。
ここで、最も長い距離Dが、切り刃412cの刃先413cと工具ホルダ回転中心線との間の距離を示している。そして、最も長い距離Dを測定した時の回転角(工具ホルダ基準位相からの回転角)が、切り刃412cの刃先413cに対応する刃先位相Wと工具ホルダ基準位相Rとの間の位相差θを示している。
【0026】
(ステップ3)
ツールプリセッタの刃先距離測定装置(刃先距離測定手段)により、刃先距離M3を測定する。
刃先距離測定装置は、位相差測定装置の切り刃距離測定装置により最も長い距離Dを測定した時の工具ホルダ300の回転位置において、工具ホルダ回転中心線の延在方向と直交するN方向(図6参照)から見た、刃先413cと基準位置Jとの間の、工具ホルダ回転中心線(主軸回転中心線Q)の延在方向に沿った距離を刃先距離M3として測定する。刃先距離測定装置としては、公知の種々の構成の測定手段を用いることができる。
【0027】
次に、距離△m1、距離△m2および推定刃先距離M2を判別(算出)する。距離△m1、距離△m2、推定刃先距離M2は、測定したタップ先端距離M1、刃先距離M3および位相差θと、予め設定されている位相差α、βおよびネジピッチPを工作機械500の処理装置(処理手段)に入力することによって判別する。
なお、工作機械500の処理装置は、工具ホルダ300の基準位置Jおよびシリンダヘッド200(シリンダヘッド200の外周面201)の工作機械500上の位置を認識している。
【0028】
(ステップ4)
処理装置は、ネジ切り開始位相T上の推定刃先距離M2を判別する推定刃先距離判別装置(推定刃先距離判別手段)を有している。
推定刃先距離判別装置は、ネジ部410の完全ネジ部430を形成する切り刃のうちの所定の切り刃の刃先(図5図6では、刃先413c)に対応する刃先位相Wとネジ切り開始位置210aに対応するネジ切り開始位相Tとの間の位相差φを判別する。
位相差φは、予め設定されている、工作機械基準位相Nと工具ホルダ基準位相Rとの間の位相差αおよび工作機械基準位相Nとネジ切り開始位相Tとの間の位相差βと、測定した、工具ホルダ基準位相Rと刃先位相Wとの間の位相差θに基づいて、[φ=θ-(α-β)]により判別することができる。
また、距離△m1を判別する。
距離△m1は、完全ネジ部430の、刃先位相W上の外縁を、タップ先端面400aより工具ホルダ300と反対側(先端側)に延ばして形成される推定切り刃の推定刃先とタップ先端面400aとの間の、主軸回転中心線Qの延在方向に沿った距離である。推定切り刃の推定刃先としては、好適には、タップ先端面400aからの距離がネジピッチPより短い推定切り刃の推定刃先が選択される。図5では、推定切り刃412fの推定刃先413fが選択されている。
推定切り刃の推定刃先(図5では、推定刃先413f)の位置は、測定した、タップ先端面400aと基準位置Jとの間のタップ先端距離M1および完全ネジ部430を形成する切り刃のうちの所定の切り刃の刃先(図5図6では、刃先413c)と基準位置Jとの間の刃先距離M3と、予め設定されているネジピッチPに基づいて判別することができる。
また、距離△m2を判別する。
距離△m2は、推定切り刃(図5では、推定切り刃412f)とネジ切り開始位相Tとの交点(ネジ切り開始位相T上の推定刃先位置410a)と、推定切り刃の推定刃先(図5では、推定刃先413f)との間の、主軸回転中心線Qの延在方向に沿った距離である。距離△m2は、測定した、刃先位相Wとネジ切り開始位相Tとの間の位相差φと、予め設定されているネジピッチPに基づいて、[△m2=(φ/360度)×P]により判別することができる。
また、ネジ切り開始位相T上の推定刃先距離M2を判別する。
ネジ切り開始位相T上の推定刃先距離M2は、ネジ切り開始位相T上の推定刃先位置410aと基準位置Jとの間の、主軸回転中心線Qの延在方向に沿った距離である。ネジ切り開始位相T上の推定刃先位置410aは、推定切り刃(図5では、推定切り刃412f)とネジ切り開始位相Tとの交点である。
ネジ切り開始位相T上の推定刃先距離M2は、タップ先端距離M1、距離△m1および距離△m2に基づいて、[M2=M1+△m1+△m2]により判別することができる。
【0029】
(ステップ5)
処理装置は、判別した、ネジ切り開始位相T上の推定刃先距離M2に基づいて、タップ400(主軸510)を、ピッチ送り開始位置Haからピッチ送りする。これにより、シリンダヘッド200の貫通穴210の内周面に、ネジ切り開始位置210aから雌ネジ211の加工が開始される。
具体的には、処理装置は、工作機械500上の、工具ホルダ300の基準位置Jを認識している。これにより、ネジ切り開始位相T上の推定刃先距離M2に基づいて、工作機械500上の、ネジ切り開始位相T上の推定刃先位置410aを判別することができる。
また、処理装置は、工作機械500上の、シリンダヘッド200(シリンダヘッド200の外周面201)の位置を認識している。これにより、工作機械500上の、シリンダヘッド200から、ネジピッチPの整数倍のピッチ送り距離Hだけ離れているピッチ送り開始位置Haを判別することができる。
これにより、処理装置は、ネジ切り開始位相T上の推定刃先位置410aがピッチ送り開始位置Haと一致しているか否かを判別することができる。
そして、ネジ切り開始位相T上の推定刃先位置410aがピッチ送り開始位置Haと一致している場合には、タップ400(主軸510)を、そのままピッチ送りする。
一方、図8に示されているように、ネジ切り開始位相T上の推定刃先位置410aがピッチ送り開始位置Haと一致していない場合には、タップ400(主軸510)を、ネジ切り開始位相T上の推定刃先位置410aとピッチ送り開始位置Haとの間の距離だけ、主軸回転中心線Qの延在方向に沿って移動させた後、タップ400(主軸510)をピッチ送りする。
【0030】
(ステップ1)~(ステップ3)の処理を実行する順番は、適宜変更可能である。また、(ステップ1)~(ステップ3)の中から選択した少なくとも2つのステップの処理を、共通のステップで処理するように構成することもできる。
(ステップ1)~(ステップ3)の中から選択した少なくとも2つのステップの処理を共通のステップで実行する態様は、少なくとも2つのステップの処理を異なるステップで実行する構成に含まれる。
また、(ステップ1)~(ステップ3)の処理は、工作機械上で行うこともできる。
【0031】
以上では、雌ネジ加工方法あるいは雌ネジ加工装置について説明したが、本発明は、雌ネジ加工方法あるいは雌ネジ加工装置で用いられる、ネジ切り開始位相上の推定刃先距離を判別する推定刃先距離判別装置として構成することもできる。
例えば、
「(態様1)工作機械の主軸に装着される工具ホルダに保持され、ネジピッチPで切り刃が形成されているとともに、食付き部と完全ネジ部からなるネジ部を先端部に有するタップをピッチ送りすることによって、加工対象物の貫通穴の内周面に雌ネジを加工する雌ネジ加工方法で用いられる、ネジ切り開始位相上の推定刃先距離を判別する推定刃先距離判別装置であって、
前記主軸の延在方向に沿って、基準位置が設定されているとともに、前記主軸回りに、工作機械基準位相、前記工作機械基準位相に対して位相差αを有する工具ホルダ基準位相、前記工作機械基準位相に対して位相差βを有する、前記雌ネジのネジ切り開始位置に対応するネジ切り開始位相が設定されており、
測定装置と、処理装置を備え、
前記測定装置は、
前記タップのタップ先端と前記基準位置との間の、前記主軸の延在方向に沿ったタップ先端距離M1と、
前記ネジ部の前記完全ネジ部を形成する切り刃のうちの所定の切り刃の刃先に対応する刃先位相と前記工具ホルダ基準位相との間の位相差θと、
前記所定の切り刃の刃先と前記基準位置との間の、前記主軸の延在方向に沿った刃先距離M3を測定可能に構成され、
前記処理装置は、前記タップ先端距離M1、前記刃先距離M3、前記位相差α、前記位相差β、前記位相差θおよび前記ネジピッチPに基づいて、前記ネジ切り開始位相上の推定刃先位置と前記基準位置との間の、前記主軸の延在方向に沿った、ネジ切り開始位相上の推定刃先距離M2を判別することを特徴とする推定刃先距離判別装置。」として構成することができる。
また、「(態様2)態様1の推定刃先距離判別装置であって、
前記処理装置は、
前記タップ先端距離M1、前記刃先距離M3および前記ネジピッチPに基づいて、前記完全ネジ部の、前記刃先位相上の外縁を、前記タップ先端より前記工具ホルダと反対側に延ばして形成される推定切り刃の推定刃先と前記タップ先端との間の、前記主軸の延在方向に沿った距離△m1を判別し、
前記タップ先端距離M1、前記位相差α、前記位相差β、前記位相差θ、前記ネジピッチPおよび前記距離△m1に基づいて、前記ネジ切り開始位相上の推定刃先距離M2を、[M2=M1+△m1+(φ/360度)×P]、[φ=θ-(α-β)]により判別することを特徴とする推定刃先距離判別装置。」として構成することができる。
態様1または態様2の推定刃先距離判別装置における測定装置は、工作機械に設けてもよいし、ツールプリセッタの測定装置を用いることもできる。
【0032】
また、本発明は、雌ネジ加工方法あるいは雌ネジ加工装置で用いられるツールプリセッタとして構成することもできる。
例えば、「(態様3)工作機械の主軸に装着される工具ホルダに保持され、ネジピッチPで切り刃が形成されているとともに、食付き部と完全ネジ部からなるネジ部を先端部に有するタップをピッチ送りすることによって、加工対象物の貫通穴の内周面に雌ネジを加工する雌ネジ加工方法で用いられるツールプリセッタであって、
態様1または態様2の推定刃先先端距離判別装置を備えることを特徴とするツールプリセッタ。」として構成することができる。
態様3のツールプリセッタにおける処理装置は、ツールプリセッタの処理装置が用いられる。また、本態様では、ネジ切り開始位相上の推定刃先先端距離を、工作機械外で予め判別することができるため、工作機械における雌ネジの加工時間を短縮することができる。
【0033】
本発明は、実施形態で説明した構成に限定されず、種々の変更、追加、削除が可能である。
距離△m1、距離△m2、ネジ切り開始位相上の推定刃先距離M2を判別する方法は、実施形態で説明した方法に限定されない。
ネジ部410を複数のランド部に分割する溝の数は、適宜設定可能である。
溝によって複数のランド部に分割されたネジ部を有するタップを用いたが、溝が形成されていないネジ部を有するタップ(例えば、断面が多角形を有する転造タップや溝なしタップ)を用いることもできる。
各ステップの処理は、実施形態で説明した処理に限定されない。
シリンダヘッドの貫通穴の内周面に雌ネジを加工する場合について説明したが、雌ネジを加工する加工対象物は。シリンダヘッドに限定されない。
実施形態では、鉛直方向に延在する貫通穴の内周面に雌ネジを加工する場合について説明したが、本発明は、種々の方向に延在する貫通穴の内周面に雌ネジを加工する場合に用いることができる。
実施形態で説明した構成は、単独で用いることもできるし、適宜選択した複数の構成を組み合わせて用いることもできる。
【符号の説明】
【0034】
100 点火プラグ
110 取付け金具
120 ネジ部
121 雄ネジ
130 縁部
131 当接面
140 絶縁碍子
150 中心電極
151 先端部
160 接地電極
161 基部
162 先端部
170 開口部
200 シリンダヘッド
201 外周面
202 内周面
210 貫通穴
210a ネジ切り開始位置
211 雌ネジ
300 工具ホルダ
310 工具ホルダ本体部(本体部)
320 シャンク部
330 締付部材
400 タップ
400a タップ先端面(タップ先端)
410 ネジ部
410a ネジ切り開始位相上の推定刃先位置
411、411a~411f ランド
412、412f 切り刃
413、413a~413f 刃先
414 溝
420 食付き部
430 完全ネジ部
500 工作機械
510 主軸
511 主軸先端面
G 火花ギャップ
H ピッチ送り距離
Ha ピッチ送り開始位置
K 点火プラグ中心線
M1 タップ先端距離
M2 推定刃先距離
M3 ネジ切り開始位相上の刃先距離
N 工作機械基準位相
P ネジピッチ
Q 主軸回転中心線(工具ホルダ回転中心線、工具回転中心線)
α、β、θ、φ 位相差
R 工具ホルダ基準位相
S 貫通穴中心線
T ネジ切り開始位相
W 刃先位相
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8