(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】ナノラミネート光学コーティングを形成するためのシステム
(51)【国際特許分類】
C23C 14/56 20060101AFI20240221BHJP
C23C 14/48 20060101ALI20240221BHJP
G02B 1/115 20150101ALI20240221BHJP
【FI】
C23C14/56 F
C23C14/48 D
G02B1/115
(21)【出願番号】P 2020502325
(86)(22)【出願日】2018-07-19
(86)【国際出願番号】 US2018042971
(87)【国際公開番号】W WO2019018698
(87)【国際公開日】2019-01-24
【審査請求日】2021-06-25
(32)【優先日】2017-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507310307
【氏名又は名称】インテヴァック インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【氏名又は名称】金子 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100170900
【氏名又は名称】大西 渉
(72)【発明者】
【氏名】ブラック, テリー
(72)【発明者】
【氏名】ブロニガン, ウェンデル トーマス
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-093489(JP,A)
【文献】特開2006-039007(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0110253(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0345007(US,A1)
【文献】特開2004-319889(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0023941(US,A1)
【文献】特開2005-169267(JP,A)
【文献】特開平06-240445(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/56
C23C 14/48
G02B 1/115
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に反射防止コーティング及び疎油性コーティングを含む光学コーティングを形成するための処理システムであって、
基板キャリアを個別に一度に1つずつ直線方向に処理及び移送するように構成された線形移送処理セクションと、
複数の前記基板キャリアを軸を中心に同時に移送するように構成されたバッチ処理セクションと、
前記バッチ処理セクションに配置され、反射防止コーティング層を堆積するように構成された少なくとも1つのイオンビームアシスト蒸着処理チャンバと、
基板を載置するための複数の基板キャリアと、
前記基板キャリアを大気に晒すことなく、該基板キャリアを線形移送処理セクションとバッチ処理セクションの間で移送するための手段とを含
み、
前記基板は、前記処理システムにおける処理全体を通して、前記基板キャリア上に載置され、前記基板キャリアに残る、処理システム。
【請求項2】
前記基板キャリアのそれぞれは、軸を中心に前記基板を回転させるように構成されている、請求項1に記載の処理システム。
【請求項3】
前記基板キャリアのそれぞれは、
移送ベースと、
前記移送ベースに配置された回転セクションと、
前記回転セクションに回転可能に実装されたトッププレートとを含む、請求項1に記載の処理システム。
【請求項4】
前記回転セクションは、磁気ストリップと係合して前記トッププレートに回転を与えるように構成された金属ロッドを含む、請求項3に記載の処理システム。
【請求項5】
前記バッチ処理セクションは、遊星処理チャンバを含み、該遊星処理チャンバの軸を中心に複数のキャリアが回転し、該各キャリアも自身の軸を中心に回転する、請求項1に記載の処理システム。
【請求項6】
前記バッチ処理セクションは、背中合わせの向きで2列に配置された複数の処理チャンバ、及びレーストラックコースを形成する該複数の処理チャンバを通過するコンベアベルトを含み、該コンベアベルトは前記複数の基板キャリアと係合し、該複数の基板キャリアをレーストラックコースの周りで同時に移動させる、請求項1に記載の処理システム。
【請求項7】
前記線形移送処理セクションは、真空ロードロックを介してバッチ処理セクションに接続されている、請求項6に記載の処理システム。
【請求項8】
前記複数の処理チャンバのそれぞれは、シャッタを有するスパッタリング源を含む、請求項6に記載の処理システム。
【請求項9】
前記複数の処理チャンバは、該複数の処理チャンバの間にバルブゲートがない状態で共通の雰囲気に接続されている、請求項8に記載の処理システム。
【請求項10】
前記スパッタリング源は、少なくとも1つのシリコンターゲットと1つのアルミニウムターゲットとを含み、前記複数の処理チャンバは酸素ガス源と窒素ガス源とを含む、請求項8に記載の処理システム。
【請求項11】
複数の線形移送処理セクション及び複数のバッチ処理セクションを含み、該各線形移送処理セクションは対応するバッチ処理セクションと対になっている、請求項1に記載の処理システム。
【請求項12】
前記基板キャリアを移送する手段は、各々が前記複数の線形移送処理セクションの1つに取り付けられている複数のロボットアームを含む、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記各複数の基板キャリアは、複数の基板を垂直方向に載置し、処理中に該基板を回転させるように構成されている、請求項1に記載の処理システム。
【請求項14】
線形移送処理システム内に配置された少なくとも1つの蒸発処理システムをさらに含み、該蒸発処理システムが疎油性コーティングを形成するように構成されている、請求項1に記載の処理システム。
【請求項15】
ガラス基板上方へのコーティングを製造するための方法であって、
前記基板を複数のキャリアにロードすることと、
前記複数のキャリアを複数のスパッタリング源を有するバッチ処理チャンバに移送することと、
前記複数のキャリアを前記バッチ処理チャンバ内で同時に移送し、前記各キャリアを前記スパッタリング源の前に複数回通過させて前記基板上に反射防止コーティング(ARC)の複数の層を形成することと、
前記キャリアを一度に1つずつ、複数の線形処理チャンバを含む線形移送セクションに移送し、該各線形処理チャンバは一度に単一のキャリアを処理するように構成されていることと、
前記反射防止コーティング(ARC)上方にダイヤモンド状コーティング(DLC)を形成するように、少なくとも1つの前記線形処理チャンバを動作することと、
前記ダイヤモンド状コーティング(DLC)上方に疎油性層を形成するように、少なくとも1つの前記線形処理チャンバを動作することとを含
み、
前記基板は、処理システムにおける処理全体を通して、前記キャリア上に載置され、前記キャリアに残る、方法。
【請求項16】
前記キャリアをバッチ処理して前記反射防止コーティング(ARC)を形成するプロセス中に、前記複数のスパッタリング源のシャッタを一度に1つずつ連続して開くことをさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記バッチ処理中に前記キャリアを回転させることをさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
複数の層を形成することは、複数の交互のナノ層を形成することを含み、該各ナノ層が30ナノメートル以下の厚さに作られる、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
複数の層を形成することは、複数の交互のナノ層を形成することを含み、該各ナノ層が2~10ナノメートルの厚さに作られる、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
複数の層を形成することは、AlN、Si
3N
4、Al
2O
3、及びSiOから構成される複数の交互のナノ層を形成することを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項21】
前記基板キャリアは、単一のトラックに自由に乗り、
前記線形移送処理セクションにおいて前記基板キャリアにかかる第1原動力と、前記バッチ処理セクションにおいて前記基板キャリアにかかる第2原動力とをさらに含む、請求項1に記載の処理システム。
【請求項22】
前記第
1原動力は、前記基板キャリアのそれぞれが個別に且つ他の基板キャリアに対して独立して移動できるように、前記基板キャリアに係合する個別のホイールを含み、
前記第
2原動力は、単一のモータにより駆動され、複数の前記基板キャリアに係合するコンベアベルトを含む、請求項21に記載の処理システム。
【請求項23】
前記線形移送処理セクションは、
上部トンネルと、
下部トンネルと、
前記基板キャリアを前記上部トンネルと前記下部トンネルとの間で移送させるエレベータとを含む、請求項1に記載の処理システム。
【請求項24】
前記基板キャリアを前記線形移送処理セクションと前記バッチ処理セクションとの間で移送させるように構成された少なくとも1つのロボットアームをさらに含む、請求項1に記載の処理システム。
【請求項25】
前記下部トンネルに設けられた疎油性真空チャンバをさらに含む、請求項
23に記載の処理システム。
【請求項26】
前記下部トンネルに設けられたダイヤモンド状カーボン(DLC)堆積チャンバをさらに含む、請求項
23に記載の処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願のクロスリファレンス)
本願は、2017年7月19日に出願された米国仮特許出願第62/534,438号、及び2018年4月2日に出願された米国仮特許出願第62/651,617号の優先権を主張するものであり、そのすべては参照として本明細書に組み込まれる。
【0002】
(技術分野)
本開示は、反射防止コーティング等の光学コーティングの分野、及びその光学コーティンの製造に関する。
【背景技術】
【0003】
反射防止コーティング(ARC)は、例えば、眼鏡、板ガラス(例えば、車のフロントガラス)、フラットスクリーンディスプレイ、及びタッチスクリーン等多くの用途に用いられている。これらの用途の多くでは、ARCの要件には可視波長における効率のよい反射防止特性、高透明度、及び耐久性が含まれる。当然ながら、これらの特性を商業上許容可能なコストで実現する必要がある。
【0004】
一般に、基板上にARCを形成する2つの方法、ウェット法とドライ法がある。ドライ法は、成膜法又はスパッタリング法を用いて、高屈折率と低屈折率とが交互する複数の薄層を積層する。この方法は、層間界面における優れた接着性、及び層厚の非常に正確な制御を提供するが、比較的高い製造コストを必要とする。ウェット法は、湿式溶液で基板をコーティングし、その後溶媒を乾燥させることを含む。この方法でも、低屈折率と高屈折率との交互層が形成されるので、プロセスが繰り返される必要があり、ドライ法と比較して層の界面における接着性が比較的低くなる。
【0005】
ARCを形成するためのウェット法及びドライ法の例は、例えば、米国特許第9,482,789号、第8,358,467号、第6,532,112号、第5,106,671号に記載されている。
【0006】
従来のARCの問題の1つは、大容量でコスト競争力のあるARCを形成するほとんどの方法では、連続使用又は過酷な環境での使用を仮定してデバイスを使用するのに十分な耐傷性又は耐摩耗性のコーティングが形成されないことである。携帯電話等のモバイルデバイスは、従来のARCコーティングでは対応し得ない用途の一例である。その理由は、ARCに損傷があると、スクリーンから放出される光が強く屈折し、デバイスに非常に目に見える欠陥が生じるからである。この目に見える欠陥により、ARコーティングの反射防止の利点がなくなる。
【0007】
また、AR又はカラーコーティングを作製する複数の層等の光学積層体に用いられるフィルムの応力は、非常に高くなり得る。これにより、デバイスが落下した場合、又はガラス表面に衝撃を受けた場合に破損が増加し得る。破損は、モバイルデバイス製造業者の保証による返品の大きな原因であり、破損の増加のリスクがあるため、フィルムの使用は製造業者にとって望ましくない。
【0008】
従って、例えば、フラットパネルディスプレイ及びタッチスクリーンで用いられ得る、改良されたARCが当該技術分野では求められている。さらに、高スループット及び商業上許容可能なコストで改良されたコーティングを形成し得る機械が当該技術分野において求められている。
【発明の概要】
【0009】
以下の本開示の発明の概要は、本発明におけるいくつかの態様及び特徴の基本的な理解を得るために含まれる。この発明の概要は本発明の広範囲の概略においてではなく、それ自体特に本発明の不可欠な又は重要な要素を特定すること、又は本発明の範囲を詳述することを意図しない。その唯一の目的は、以下に記載されるより詳細な説明の前置きとして簡易な形態で本発明のいくつかの概念を提示することにある。
【0010】
開示の実施形態は、改良された光学的及び機械的特性、特に高耐久性及び耐傷性を有する改良された光学コーティング構造を形成するように特に設計されたシステムを提供する。開示の実施形態は、許容可能な商業的コストで大量生産が実施可能な製造方法を利用する。
【0011】
開示の実施形態において、例えばARC等の光学コーティングは、ナノラミネートとも呼ばれる複数の超格子を用いて形成され、各超格子は交互の屈折率のナノ層を有し、改良されたARC構造を作製する。各超格子は、組成及び/又は結晶相が交互になっているが屈折率が一致する、少なくとも2つのnmスケール層(すなわち1つの二重層)からなる。複数の超格子は、有効屈折率が交互になって積層される。超格子の有効屈折率は、ナノ層の厚さで重み付けされた、二重層を構成する2つのナノ層の平均屈折率である。開示の実施形態において、各ナノ層は30ナノメートル以下、より一般的には2~10nmの範囲の厚さである。いくつかの実施形態では、ARC構造全体がナノ層で構成される。代替的実施形態では、標準的なARC層が形成され、1つの、典型的には最後の光学層が複数のナノ層で構成され、ハードキャップ層を形成する。
【0012】
一般的な態様では、基板上に反射防止コーティング及び疎油性コーティングを含む、光学コーティングを形成するための処理システムが提供されており、該システムは基板キャリアを個別に一度に1つずつ直線方向に処理及び移送するように構成された線形移送処理セクションと、線形移送処理システムに配置され、疎油性コーティングを形成するように構成された少なくとも1つの蒸発処理システムと、軸を中心に基板キャリアを同時に移送するように構成されたバッチ処理セクションと、バッチ処理セクションに配置され、反射防止コーティング層を堆積するように構成された少なくとも1つのイオンビームアシスト蒸着処理チャンバと、基板を載置するための複数の基板キャリアと、基板キャリアを大気に晒すことなく、該基板キャリアを線形移送処理セクションとバッチ処理セクションとの間に移送するための方法とを含む。
【0013】
一実施形態では、バッチ処理セクションは遊星処理チャンバを含み、そこでは複数のキャリアは遊星処理チャンバの軸を中心に回転させられ、各キャリアもそれ自体の軸を中心に回転する。別の実施形態では、バッチ処理システムは、背中合わせの向きで2列に配置された複数の処理チャンバ、及びレーストラックを形成する複数のチャンバを通過するコンベアベルトを含み、コンベアベルトは複数の基板キャリアと係合するレーストラックの周りで複数の基板キャリアを同時に移動させる。
【0014】
開示の実施形態は、光学コーティングを形成する方法を含み、該方法は透明基板を提供することと、第1屈折率を有する第1屈折率層と第2屈折率を有する第2屈折率層とを交互に複数回形成することにより、基板上方に複数の透明層を形成することとを含み、その中で、複数の透明層を形成することは、透明基板をスパッタリングチャンバ内に配置すること、及びスパッタリングチャンバを活性化して、異なる材料の2つのナノ層の少なくとも1つの二重層を形成することによって、少なくとも1つの層を形成することを含み、各ナノ層は2~10ナノメートルの厚さを有し、各ナノ層は基板上方に形成されたナノ層に酸素又は窒素イオンを同時に注入しながらターゲットから材料をスパッタリングすることによって形成される。その方法は複数の透明層を形成する前に基板に直接シード層を形成することをさらに含んでもよい。また、その方法は複数の透明層上にダイヤモンド状コーティングを形成することを含んでもよい。また、その方法は、ダイヤモンド状コーティング上にシリコン層を形成すること、該シリコン層上にシリコン酸化物層を形成すること、及び該シリコン酸化物層上に指紋防止層を形成することを含んでもよい。さらに、その方法は、(n1-n2)/(n1+n2)≦0.07の関係を満たすように屈折率n1及びn2を有する異なる材料を選択することを含んでもよい。さらに、その方法は、(nf-ns)/(nf+ns)≧0.10の関係を維持するように複数の透明層を形成することを含んでもよく、式中のnfは二重層の有効屈折率であり、nsは第1屈折率又は第2屈折率のうちの1つの屈折率である。
【0015】
本発明の他の態様及び特徴は、以下の図面に関して記載される詳細な説明から明らかになる。詳細な説明及び図面は、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の種々の実施形態の種々の非限定的な例を提供することが理解されるべきである。
【0016】
本明細書に組み込まれ、その一部を構成する添付の図面は、本発明の実施形態を例示し、説明とともに本発明の原理を説明及び例示する役割を果たす。図面は、概略的に例示的な実施形態の主な特徴を示すことが意図される。図面は、実際の実施形態のすべての特徴や示される要素の相対的寸法を示すことを意図するものではなく、正確な縮尺で描かれていない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1A-D】
図1Aは、米国特許第6,532,112号に開示された従来技術のARC構造を示し、
図1B~1Dは本発明の実施形態に係る改変されたARC構造を示す。
【
図2A-C】
図2A~2Cは、一実施形態に係る光学コーティングを形成するためのプロセスを示す。
【
図3A-D】
図3A~3Cは、光学コーティングの実施形態をさらに示し、
図3Dは中間保護接着層を備えた、DLCの保護積層体及び指紋防止層を備えた一実施形態を示す。
【
図4A-C】
図4A~4Cは、光学コーティングを形成するためのシステムの一実施形態を示す。
【
図5A-D】
図5A~5Dは、
図4A~4Cのシステムに用いられてもよいキャリアの一実施形態を示す。
【
図6A-B】
図6Aと6Bは、光学コーティングを形成するためのシステムの一実施形態を示す。
【
図6C-E】
図6C~6Eは、
図6A、6Bのシステムに用いられるキャリアの一実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
光学コーティングの製造及びそのプロセスのための発明的なシステムの実施形態は、図面を参照して説明される。異なる実施形態又はそれらの組合せは、異なる用途又は異なる利点を得るために用いられてもよい。得ようとする結果に応じて、本明細書に開示の異なる特徴は、単独で又は他の特徴と組合せて、部分的に又は最大限を利用して利点と要件及び制約とのバランスを取ってもよい。従って、特定の利点は異なる実施形態を参照に強調されるが、開示の実施形態に限定することを意図していない。すなわち、本明細書に開示の特徴は、それらが説明される実施形態に限定せず、他の特徴と「混ぜ合わせられ」、他の実施形態に組み込まれてもよい。
【0019】
開示の実施形態は、ナノラミネート構造を有する光学コーティングを形成するためのシステム及び方法を含む。本開示の文脈において、ナノラミネートは、異なる組成の交互のナノ層であり、各ナノ層は30nm以下の厚さを有する。様々な開示の実施形態において、各ナノ層が2~10nmの薄さである場合に有益な結果が示される。ナノラミネート構造の腐食、摩耗、傷、及び硬度特性は、個々のフィルム又は30nmを超える厚さのフィルムの積層体よりもはるかに大きい。
【0020】
開示の実施形態によると、ARC層は、ガラス(ゴリラガラス等の処理ガラスを含む)、サファイア、及びプラスチック等の種々の結晶基板又は非結晶基板に形成され得る。しかしながら、本開示の実施形態では、基板を300℃以下の温度に維持しながら層が形成される。
【0021】
光学フィルムは、通常、非常に高い摩耗係数を有し、これは光学フィルムが非常に硬く、繰り返しの研磨接触により損傷し得るということを意味する。光学コーティングを研磨摩耗から保護するために、潤滑フィルムでコーティングする必要がある。開示の実施形態では、高水素化DLCは一般に20%以上の水素を有する。
【0022】
さらに、消費者用ディスプレイ製品では、指紋によりディスプレイの可視性能が落ちる。これらのタイプの製品の最終面は、防汚又は指紋防止コーティング(疎油性コーティングとも呼ばれる)を有する必要がある。一般に、疎油性コーティングはフルオロカーボンで作られる。しかしながら、通常、指紋防止用に用いられるフルオロカーボン材料をDLCに接着させることは非常に困難である。接着性を高めるために、二層フィルムはDLCとAFコーティングとの間に用いられる。薄い(約5オングストローム)シリコンフィルムはDLCに堆積され、第2SiO2層の形成に用いられる酸素からDLCを保護する。その結果、最終的な積層フィルムはDLCで覆われたARCであり、その後Si及びSiO2が続き、その上部にAFコーティングがある。
【0023】
コスト競争力のある方法で、携帯電話のディスプレイの前面と背面のカバーガラス、タブレット、自動車のディスプレイ又はコンピュータモニタ等の消費者用製品にこれらのフィルムを堆積させるためには、システムは基板の様々な要因に対して非常に柔軟でなければならないが、イオンビームアシスト反応性スパッタされたナノラミネートフィルムの要件に合わせて調整する必要がある。すなわち、好ましくは、スマートウォッチに用いられる基板等の小さな基板、及びコンピュータタッチスクリーン等の大きな基板を効率よく処理することが可能であるべきである。
【0024】
携帯電話サイズのディスプレイでは、1時間当たり数百を超える基板の高いスループットを実現する必要があり、2d及び3dガラスや他のモバイルディスプレイに必要な基板サイズ及び形状を容易に変更できる。モバイルデバイスディスプレイはかなりの範囲でサイズが異なり、広範囲を処理する柔軟性はシステムが業界でコスト競争力を持つための要件である。
【0025】
開示の実施形態では、システムはプロセスステーション拡大における直線的に追加され得る小さなチャンバを用いる。基板はキャリア上で移送され、真空を破ることなく基板サイズ及び形状因子を素早く変更できる。この設計により、基板がプロセスチャンバを通過する際に基板を回転又は振動させる。小さな2d又は3dの基板に均一なエッジコーティングを行うには回転が必要である。チャンバ内を回転するには大きすぎる2d基板には振動が必要である。振動により、基板の前縁と後縁を正しい時間だけ蒸着源に向けて傾け、エッジと表面を均一にコーティングできる。
【0026】
システムのバッチ部分では、キャリアはモノレール移送で堆積チャンバを通って繰り返し移動する。キャリアは、単一のモータで駆動するベルトシステムによって推進される。バッチ多層処理全体が完了した後、キャリアはロックを介して一度に1つずつバッチ処理チャンバに出入りする。システムのこの部分では、キャリアはまだモノレール上にあるが、磁気駆動ホイールによって個別に駆動される。すべてのキャリアがバッチチャンバに出入りした後、次のプロセスが開始され、必要なすべての層が新しい基板にコーティングされる。
【0027】
システムの非線形バッチプロセス部分では、高真空、高純度、低粒子バッチチャンバと適合しない追加のプロセスステップが行われ得る。モバイルディスプレイ上の最後の層として適用される蒸発指紋防止コーティング等のプロセスでは、プロセス間で真空分離が必要である。
【0028】
開示の実施形態では、処理システムは線形運動セクション及び遊星運動セクションの両方を含み、真空を破ることなく基板はその2つのセクションの間に移送される。基板は線形運動セクション及び遊星バッチ処理セクションとして機能する基板キャリアに載置される。いくつかの開示の実施形態において、キャリアは、バッチ処理セクション内では同時に移動するが、線形セクション内では個別に移動する。バッチ処理システム内では、キャリアはチャンバの中心軸を中心に回転させられ、またそれ自体の軸を中心に回転もする。バッチチャンバにおいて、基板は種々の磁気又はイオン源を通過する。これにより、イオンビームアシスト蒸着法(IBAD)又はメタモード処理で、酸化物、窒化物、酸窒化物等の多くの交互層を堆積させる。
【0029】
処理システムの実施形態を説明する前に、以下はガラスコーティングとして形成されることが求められるフィルム構造の説明である。
【0030】
図1Aは、米国特許第6,532,112号に開示された従来技術のARC構造を示し、
図1B~1Dは、本発明の実施形態に係る変形されたARC構造を示す。従来技術により開示されているように、
図1Aに示すARC層は、異なる屈折率を有する酸化物材料の交互層からなる。従って、
図1Aの例では、層2と層4は屈折率1.45~1.50を有するSiO
2から作られ、層3と層5は屈折率2.1~2.3を有するNbOから作られる。配置は、520nmの波長で屈折率1.9~2.1を有するITO層によって覆われている。
【0031】
開示の実施形態は、少なくとも1つのARC層を、置き換えられた層と類似の有効屈折率を有する材料の交互ナノ層から作られる超格子と置き換えることによって、ARC構造の性能を高める。
図1Bは、ITOキャップ層1が複数のナノ層1´の超格子ナノラミネートにより置き換えられた一例を示す。ITO層1は、屈折率1.9~2.1を有すると報告されている。従って、この例では、ナノ層が類似する屈折率を有するように選択される。一実施形態によると、ITO層1は、各層が2.5nmの厚さを有し、全体が25nmの10層のSiN及びAlNの交互のナノ層によって置き換えられる。SiNは、520nmの波長で屈折率2.05を有する。AlNは、520nmの波長で屈折率2.15を有する。ナノラミネート層1´は、機械的特性を高め、ARC構造を2倍以上に作製し、以下に示すように、置き換えられたITOと類似の有効屈折率2.10を有する。
【0032】
図1Cは、層2がナノラミネート構造2´に置き換えられる一実施形態を示す。層2は、520nmの波長で屈折率1.45~1.50を有すると報告されている。従って、この例では、ナノ層は類似する屈折率を有するように選択される。この例では、ナノラミネート構造2´は、各層が2.5nmの厚さで全体が40nmの16層のSiO及びAl
2O
3の交互層で構成される。SiOは、520nmの波長で屈折率1.46を有し、Al
2O
3は、520nmの波長で屈折率1.77を有すると報告されている。しかしながら、主題の開示で推奨されているように、これらのフィルムがスパッタリングを用いて形成される場合、SiOは屈折率1.48~1.50を有し、Al
2O
3は屈折率1.65~1.67を有するので、有効屈折率は1.57となる。(以下の計算を参照)
【0033】
図1Bと1Cは、1層のみがナノラミネートに置き換えられている一実施形態を示すが、開示の実施形態に係る任意の層数は、類似の屈折率を有する材料のナノラミネートによって置き換えられ得る。実際、いくつかの実施形態において、
図1Dの例で示すようにすべての層が置き換えられてもよい。
【0034】
図1Dの例において、ITOキャップ層1は、各層が2.5nmの厚さを有し、全体が25nmの10層のSiN及びAlNの交互のナノ層で構成された、ナノラミネート層1´に置き換えられる。層2は、各層が2.5nmの厚さを有し、全体が40nmの16層のSiO及びAl
2O
3の交互のナノ層で構成された、ナノラミネート層2´に置き換えられる。層3は、各層が3nmの厚さを有し、全体が60nmの20層のSiN及びAlNの交互のナノ層で構成された、ナノラミネート層3´に置き換えられる。層4は、各層が2.5nmの厚さを有し、全体が25nmの10層のSiO及びAl
2O
3の交互のナノ層で構成された、ナノラミネート層4´に置き換えられる。層5は、各層が3nmの厚さを有し、全体が18nmの6層のSiN及びAlNの交互のナノ層で構成された、ナノラミネート層5´に置き換えられる。
【0035】
ナノラミネートの各層における材料は慎重に選択されなければならない。光学コーティングとして機能させるためには、低AR層ナノラミネート積層体の屈折率をできるだけ低くし、高AR層ナノラミネート積層体の屈折率をできる限り高くしなければならない。しかしながら、屈折率だけが重要な特性ではない。堅牢なナノラミネート積層体において、個々のナノ層の硬度、せん断率、及び応力も重要である。高屈折率のナノ層は、ZrO、Y-ZrO、AlN、SiN、ZrN、TiO、CrO、CrN、CrTiO、及びCrTiNの光学フィルム(化学量論的及び非化学量論的)の組合せから作製され得る。低屈折率のナノ層は、SiO、AlO、SiON、SiAlOのフィルムの組合せから作製され得る。
【0036】
この文脈において、低屈折率及び高屈折率という用語は、定量測定値としてではなく、むしろ交互層間の区別を可能にする相対的な記述語として用いられるということを理解されるべきである。ARCの文脈で重要なことは、屈折率の特定の値ではなく、低屈折率層の屈折率が高屈折率層の屈折率よりも十分に低く、必要な光学効果が得られることである。
【0037】
また、ナノ層の屈折率は光学積層体での目的に合うことが重要である。各高ナノ層及び低ナノ層では、2つの交互のナノ層を構成する材料の屈折率が近いほど、光学性能が向上する。実際、ナノラミネート内の2つのナノ層の屈折率が等しい場合、光学インタフェースで反射する光の量が(n1-n2)/(n1+n2)に比例するので光劣化はない。(n1-n2)/(n1+n2)の結果は、理想的にはナノラミネート層内のナノ層で0.07未満であり、高屈折率と低屈折率のナノラミネート積層体との間で0.1以上であるべきである。
【0038】
図1Dの例をみると、高屈折率ナノラミネート(例えば、層1´、3´、及び5´)の屈折率の違いは、(n
1-n
2)/(n
1+n
2)=(2.15-2.05)/(2.15+2.05)=0.02である。報告値を用いた低屈折率ナノラミネートの屈折率の違いは、(n
1-n
2)/(n
1+n
2)=(1.77-1.46)/(1.77+1.46)=0.09であり、これは要求される0.07を超える。従って、本明細書に記載のように、スパッタリングによって層を形成することが有利である。スパッタリング値を用いると、(n
1-n
2)/(n
1+n
2)=(1.67-1.48)/(1.67+1.48)=0.06が得られ、これは要求される0.07の範囲内である。高屈折率と低屈折率との違いは、2つの層の厚さ比を考慮して計算される。ナノラミネート1´は、[(t
1×n
1)+(t
2×n
2)]/(t
1+t
2)の有効屈折率を有し、式中のtは厚さである。つまり、[(2.5×2.05)+(2.5×2.15)]/5=2.10である。層2´の有効屈折率は、[(2.5×1.48)+(2.5×1.67)]/5=1.57である。従って、これら2つの層の違いは(n
1-n
2)/(n
1+n
2)=(2.10-1.57)/(2.10+1.57)=0.14である。
【0039】
ちなみに、
図1B~1Dの例において、ナノラミネート内のすべてのナノ層は同じ厚さを有するが、必ずしもそうである必要はない。例えば、層1´の有効屈折率は、SiNナノ層よりもAlNナノ層を厚くすることで増加され得る。例えば、AlNは6nmに、SiNは3nmに設定され得る場合、有効屈折率は、[(3×2.05)+(6×2.15)]/9=2.12である。同様に、層2´の有効屈折率を低下させるために、有効屈折率を、[(5.5×1.46)+(2.0×1.67)]/7.5=1.52に設定してもよい。
【0040】
上述の開示から見受けられ得るように、各ナノラミネートは類似の屈折率の2つの異なる材料で構成される複数のナノ層を含み、該ナノ層は交互に積層される。従って、二重層と言え得、各二重層はそれぞれ異なる材料を含むが類似の屈折率を有する2つのナノ層の積層体である。この文脈において、類似の屈折率とは、1つのナノラミネートの二重層内の一方の層の屈折率値が、異なるナノラミネート内のナノ層の屈折率よりも、二重層内の他方のナノ層の屈折率値に近いということを意味する。すなわち、低屈折率ナノラミネートの二重層を構成する2つの材料は、高屈折率ナノラミネートを構成する任意の二重層の屈折率よりも互いに近い値を有する。
【0041】
一般に、コーティングの浸食性、摩耗性、傷性、及び硬度を向上させるために、二重層はそれぞれ2~10ナノメートルの厚さを有するナノ層で構成される。二重層は、屈折率が交互になった複数のナノラミネートを形成するために用いられ、所望の光学効果を得る。いくつかの実施形態において、反射コーティングが形成される。反射コーティングは、例えば、モバイルデバイスの裏側に形成され得る。これらの場合、光学積層体はモバイルデバイスが着色されて見えるように、所望の色を反射するように設計される。反射コーティングは、半波長(1/2λ)積層体で設計される。逆に、反射防止コーティングはモバイルデバイスのディスプレイ側に形成され、スクリーンからの光反射を排除又は低減する。反射防止コーティングは、4分の1波長(1/4λ)積層体で設計される。波長は、積層体が反射しようとする波長である。ゆえに、幅広い波長を反射する効果的なARCを形成するために、複数のナノラミネートは種々の厚さを有するように形成されなければならない。
【0042】
開示の実施形態において、ナノ層は金属の酸化物、窒化物、又は酸窒化物で構成される。いくつかの例において、YsZ、AlxOy、AlN、SixNy、AlSiO、及びSiONを含む。いくつかの実施形態において、接着層又はシード層は最初に堆積され、ITO、SnxOy、及びWOx等の材料でもよい。また好ましい実施形態では、種々の層はイオンビームアシスト蒸着法(IBAD)を用いて形成され、ターゲット材料は堆積される金属で構成され、堆積時に酸素又は窒素がイオン注入される。従って、スパッタリングプロセスは、金属モード(メタモードとも呼ばれる)で行われ、その中でターゲットは通常、アルゴンイオンによって(非酸化物)金属としてスパッタされ、基板に形成される非常に薄いフィルム(~1nm通常)は、堆積金属にO2又はN2イオンビームを当てることにより酸化物又は窒化物に変換される。例えば、スパッタリングのターゲットは、純シリコン又はアルミニウムで構成されてもよく、イオンビームはアルゴン含有又は非含有でO2又はN2を含み、SiO、SiN、AlO等の層を形成する。また、好ましい実施形態において、イオン電流対原子到達率比は0.5未満であり、イオンは600eV以下のポテンシャルエネルギーを有する。
【0043】
いくつかの実施形態において、任意の層の屈折率は材料を合金することによって変更され得る。例えば、MgOはZrOx等の高屈折率材料、又はAlOx等の低屈折率材料を合金するように用いられ得る。合金化は、約8~10%のMgOを追加することにより行われ得、層の結晶化温度を低下させる。別の例では、約10~12%のクロムはチタンで合金され得、靭性を向上させる。二酸化チタンの3つの鉱物形態の1つであるアナターゼは、2.4の高屈折率を有するが、低硬度を有するので合金化に適する。チタン自体は、屈折率を変える合金化剤として用いられ得る。タンタルは、高屈折率材料の特性を変える合金化剤になり得、ホウ素は低屈折率材料の特性を変える合金化剤になり得る。
【0044】
図2A~2Cは、一実施形態に係る光学コーティングを形成するためのプロセスを示す。
図2Aでは、プロセスは例えばプラズマ又はイオン衝撃等を用いて、基板200の表面を処理することによって開始してもよい。プラズマ又はイオン衝撃は、アルゴン及び/又は水素種を含んでもよい。
図2Bでは、シード層205は基板200の表面に形成され、結晶成長パターンを設定する及び/又は接着性を向上させる。シード層205はITO、SnxOy、及びWOx等の材料で構成されてもよく、イオンビームアシスト蒸着法を用いて形成される。
図2Cでは、ナノラミネート層210はシード層205上方に形成される。
【0045】
図3Aを参照すると、光学コーティング、この例ではARCが示され、部分的に標準層で構成され、部分的にナノラミネートで構成される。この例では、基板300は例えば携帯電話又は他のモバイルデバイス又はタッチスクリーンの前面ガラス等のガラスでもよい。ARCをディスプレイのガラスに適用した場合、ARCの寿命が増大し、明るい光の下でディスプレイの視認性を向上し得る。しかしながら、コーティングへの傷により、デバイスに見苦しい領域が生じる。この表面上の損傷は非常に目立ち、これらのフィルムの使用は高摩耗及び使用用途にとって望ましくないものになる。また、従来技術の光学積層体に用いられるフィルムの応力は、非常に大きくなり得る。これにより、デバイスが落下した場合、又はガラス表面に衝撃を受けた場合に破損が増加し得る。破損は、モバイルデバイス製造業者の保証による返品の大きな原因であり、破損の増加のリスクがあるため、フィルムの使用は製造者にとって望ましくない。従って、
図3Aの実施形態はコーティングの耐久性を増大させるように提供され、ディスプレイデバイスに用いられ得る。
【0046】
図3Aのコーティングは、高屈折率と低屈折率とが交互する多層を含む。第1層は10nmの厚さを有する、従来の高屈折率の薄層305である。この層、及び残りの高n層のすべては、屈折率2.02を有するSi
3N
4で構成される。第2層は、今回の場合、屈折率1.48を有するSiO
2で構成された40nmで低屈折率の従来の層である。この後、30nmの高n層315、25nmの低n層320、100nmの高n層325、10nmの低n層330、50nmの高n層335が続く。すべての高n層はSi
3N
4で構成され、すべての低n層はSiO
2で構成される。従来、最後の層は、例えば100nmのSiO
2層の低n層であった。しかしながら、
図3Aの実施形態では、上部層は10層の二重層のナノラミネートで構成され、各二重層は5nmのSiO
2ナノ層、及びSi
3N
4の屈折率よりもSiO
2の屈折率に近い屈折率を有する材料を含む5nmのナノ層で構成される。この例では、その材料はスパッタリングで形成したときに屈折率1.67を有するAl
2O
3である。従って、上部層340の有効屈折率は、[(5×1.48)+(5×1.67)]/10=1.57であり、これはSi
3N
4の高屈折率よりもSiO
2の低屈折率に近い。
【0047】
従って、一般に、
図3Aの実施形態は第1屈折率を有する複数の第1層と、第1屈折率と異なる第2屈折率を有する複数の第2層とを含む光学コーティングを提供し、その中で複数の第1層及び複数の第2層は、複数の第2層からの1層で終端して、基板上方に組合せられるように交互に形成され、その1層上方に形成された上部層は、複数の二重層を有するナノラミネートを含み、各二重層は上部層の有効屈折率が第2屈折率より第1屈折率に近い値を有する、異なる材料で構成された2つのナノ層を含む。また、2つの異なる材料は、式(n
1-n
2)/(n
1+n
2)≦0.07を満たすように選択され、式中のn
1及びn
2は2つの異なる材料の屈折率である。また、得られた上部層の有効屈折率n
effは、式|(n
eff-n
s)/(n
eff+n
s)|≧0.10を満たすことが望ましく、式中のn
sは第2屈折率である。
【0048】
図3Bは、
図3Aの構造を置き換える光学コーティングのための別の実施形態を示す。
図3Bの実施形態は、耐久性を向上させるだけでなく、低屈折率層の有効屈折率を変化させることも可能である。特に、
図3Bでは高n層はすべて標準層であり、低n層はすべてナノラミネートである。層311は4つの二重層で構成され、各二重層は5nmのSiO
2ナノ層及び5nmのAl
2O
3ナノ層を有し、全体が40nmである。層321は、例えば、2つの5nmのAl
2O
3ナノ層と組合せられた3つの5nmのSiO
2ナノ層で構成され、全体が25nmである。層331は、5nmのSiO
2ナノ層及び5nmのAl
2O
3ナノ層を有する1層の二重層で構成され、全体が10nmである。層340は10層の二重層で構成され、各二重層は5nmのSiO
2ナノ層及び5nmのAl
2O
3ナノ層を有し、全体で100nmとなる。その結果、標準的なARC層を使用している間、高nは2.02であり、低nは1.48であり、
図3Bの実施形態では高nは依然として2.02であるが、低nは1.57である。
【0049】
あるいは、低屈折率をSiO2の屈折率に近いものにしておくために、二重層はSiO2及びSiONで構成されてもよい。SiONは、N2O等の窒素含有ガス流を追加することで形成される。製造中のN2Oの流れに応じて、SiONの屈折率は1.46~1.56に調整され得る。従って、上端でも、(1.56-1.46)/(1.56+1.46)=0.03が得られ、これは要求される0.07の範囲内である。同様に、二重層をSiO2及びSiAlOで構成されてもよい。SiAlOは屈折率約1.50を有するため、(1.50-1.46)/(1.50+1.46)=0.01が得られ、これは要求される0.07の範囲内である。
【0050】
従って、一般に、
図3Bの実施形態は、第1屈折率n
1を有する複数の第1層と、第1屈折率と異なる第2屈折率n
2を有する複数の第2層とを含む光学コーティングを提供し、その複数の第1層及び複数の第2層は、基板上方に組合せられるように交互に形成され、各複数の第2層は少なくとも1つの二重層を有するナノラミネートを含み、各二重層は、第3屈折率n
3を有する第1ナノ層と第4屈折率n
4を有する第2ナノ層とを含み、各ナノラミネートの有効屈折率は第2屈折率と等しくなる、すなわちn
eff=n
2となる。これに関して、有効屈折率は、式|(n
eff-n
1)/(n
eff+n
1)|≧0.10を満たす。有効屈折率は、ナノ層の屈折率の重み付き平均であり、n
eff=[(t
3×n
3)+(t
4×n
4)]/(t
3+t
4)として表され得、式中のt
3及びt
4は各ナノ層の厚さである。また、第1ナノ層及び第2ナノ層は、式(n
3-n
4)/(n
3+n
4)≦0.07を満たすように選択される。
【0051】
光学コーティングのさらなる例が
図3Cに示される。
図3Cの実施形態において、すべての層がナノラミネートである。低nラミネートは、
図2Bに関して記載したものと同様であるが、高n層もまたナノラミネートに置き換えられている。この例では、第1層306は、1層の5nmのAlNナノ層と1層の5nmのSi
3N
4との二重層である。層316は、3層の二重層のナノラミネートであり、各二重層は1層の5nmのAlNナノ層と1層の5nmのSi
3N
4ナノ層とから構成される。層326は、10層の2重層のナノラミネートであり、各二重層は1層の5nmのAlNナノ層と1層の5nmのSi
3N
4ナノ層とから構成される。層336は、5層の二重層のナノラミネートであり、各二重層は1層の5nmのAlNナノ層と1層の5nmのSi
3N
4ナノ層とから構成される。従って、高nラミネートの有効屈折率は、[(5×2.02)+(5×2.15)]/10=2.085である。
【0052】
従って、一般に、
図3Cの実施形態は、第1屈折率を有する複数の第1層、及び第1屈折率と異なる第2屈折率を有する複数の第2層を含む光学コーティングを提供し、その複数の第1層及び複数の第2層は、基板上方に組合せられるように交互に形成され、その各複数の第1層は、第1ナノラミネートの有効屈折率が第1屈折率と等しくなるように、異なる材料の2つのナノ層で構成された少なくとも1つの二重層を有する第1ナノラミネートを含み、該各複数の第2層は、少なくとも1つの二重層を有する第2ナノラミネートを含み、各二重層は、第2ナノラミネートの有効屈折率が第2屈折率と等しくなるように異なる材料の2つのナノ層を含む。
【0053】
また、一般に、
図3Cの実施形態は、第1屈折率を有する複数の第1層、及び第1屈折率と異なる第2屈折率を有する複数の第2層を含む光学コーティングを提供し、その複数の第1層及び複数の第2層は、基板上方に組合せられるように交互に形成され、その各複数の第1層は、酸化物ナノラミネートの有効屈折率が第1屈折率と等しくなるように、第1酸化物ナノ層、及び第1酸化物ナノ層とは異なる材料の第2酸化物ナノ層で構成された少なくとも1つの酸化物二重層を有する酸化物ナノラミネートを含み、該各複数の第2層は、窒化物ナノラミネートの有効屈折率が第2屈折率と等しくなるように、第1窒化物ナノ層、及び第1窒化物ナノ層とは異なる材料の第2窒化物ナノ層で構成された少なくとも1つの窒化物二重層を有する窒化物ナノラミネートを含む。
【0054】
ナノ層は、材料特性(応力、硬度、化学量論)を制御する必要がある。この目的のために、反応性スパッタリングイオンアシスト蒸着法が好ましい手法である。反応性スパッタリングは、化学量論的なフィルムの迅速な堆積を可能にし、イオンアシスト部分は、原子レベルの加熱を可能にし、堆積フィルムの応力、密度、及び硬度の制御に役立つ。また、ナノ層の形成中にスパッタリングパラメータ及びガス流を制御することにより、ナノラミネート内の二重層を構成する2つのナノ層において、(n1-n2)/(n1+n2)の結果が0.07未満になるように屈折率は調節され得、高及び低ナノラミネートの有効率において、(n1eff-n2eff)/(n1eff+n2eff)の結果が0.1を超える。
【0055】
光学フィルムは高摩擦係数を有してもよく、これは、該光学フィルムが非常に硬いが、研磨接触を繰り返すことにより損傷し得るということを意味する。光学コーティングを研磨摩耗から保護するために、潤滑膜でコーティングしてもよい。これは、
図3A~3CではDLCと示した点線の層によって示される。この例では、ダイヤモンド状コーティング(DLC)膜は、少なくとも20%の水素を有する高水素化DLCである。
【0056】
さらに、消費者用ディスプレイ製品では、指紋によりディスプレイの可視性能が落ちる。これらのタイプの製品の最終面は、汚れ防止又は指紋防止(AF)コーティングを有するべきである。通常、指紋防止用に用いられるフルオロカーボン材料をDLCに接着させることは非常に困難である。接着性を高めるために、二層フィルムはDLCとAFコーティングとの間に用いられる。薄いシリコンフィルムはDLC上方に堆積され、第2SiO
2層を形成するために用いられる酸素からDLCを保護する。得られた積層体は
図3Dに示されるが、DLC、Si、SiO
2、及びAFの類似するキャップ層は、
図3A~3Cの任意の実施形態で形成され得る。
【0057】
見受けられ得るように、提案されたコーティングは、多くの異なる材料の薄層を含み、それらは異なるプロセスを用いて形成される。すべての層は、層形成の間に基板を大気にさらすことなく、基板上に形成されることが好ましい。従って、システムはすべての異なる層の真空処理を可能にすべきである。これらのプロセスには異なる環境が要求されるため、システムには異なるセクションを含むことが必要であり、各セクションは本明細書で実行されるプロセスに必要な特定の環境を提供するように調整される。
【0058】
図4Aは、上記の実施形態の光学コーティングを形成するシステムの一実施形態を示しており、内部要素を露出させるためにいくつかのカバーが取り外されている。
図4Aのシステムはモジュール式であり、必要に応じてバッチ処理チャンバ403及び線形処理セクション405は除去又は追加され得る。
図4Aのシステムでは、ARC層はバッチ処理チャンバ403で形成され、任意の前処理の間、DLC及び疎油性層は線形セクション405で行われる。特に、
図4Aの実施形態では、線形セクション405は上部トンネル407及び下部トンネル409を有し、DLC層及び疎油性層及びその他介在層は、下部トンネル409に形成され得、例えばプラズマ処理等の任意の前処理は、上部トンネルで行われ得る。基板はキャリア上に載置され、システム内の処理全体を通してキャリアに残る。キャリアは、線形セクション405内で独立して移動するが、バッチ処理チャンバ403内で一緒に移動する。キャリアは、ロボットアーム411によって線形セクション405とバッチ処理チャンバ403との間で移送される。キャリアは、エレベータ413を介して上部トンネル407と下部トンネル409との間で移送される。
【0059】
図4Bは、1つのバッチチャンバと2つのロボットが取り外された
図4Aのシステムを示し、下部トンネル409の視覚化を可能にする。参照Aはエレベータ413を指し、参照Bは光学DLCスパッタリングチャンバの位置を指しており、その後に介在層を形成するための他のスパッタリングチャンバが続き得る。参照Cは真空分離チャンバであり、参照Dは、例えば疎油性層を形成するために用いられ得るパスバイ処理モジュールを指す。参照Eは高真空ロードロックであり、参照Fは基板をシステムから取り外すために用いられる大まかな真空ロードロックである。
【0060】
図4Cは、
図4Aのモジュールシステムの基礎的要素を形成するバッチチャンバ及び線形セクションの対を示す(明確性のために下部トンネルは図示されていない)。システムは必要な数のこれらの対を用いて形成され得、
図4Aは3つの対で構成されるシステムを示す。
図4Aに示すように、連続する各セクションは、隣接するペアの向きから180度回転した向きに合わせられる。
【0061】
バッチ処理システムは複数のキャリアを支持し、処理中にキャリアを中心軸の周りで回転させる。さらに、キャリアは自身の軸を中心に回転する。キャリアがチャンバの軸を中心に回転すると、基板は複数の処理ステーションを通過してARCコーティングを構成する種々の層を形成する。
図4Cの例では、2つの処理ステーションは各バッチ処理チャンバに含まれ、各ステーションはシャッタを有する1つのスパッタリング源、及びIBAD処理を形成する1つのイオン源を有する。動作中、一度に1つのシャッタのみが開かれるため、キャリアがチャンバの軸を中心に回転すると、すべての基板は、動作中のスパッタリングステーションによって連続的にスパッタリングされ、1つの層が形成される。各基板は、適切な厚さの層を形成するために、スパッタリング源で複数のパスを行う。層の厚さに達すると、開いているシャッタが閉じられ、他方のシャッタが開かれ、プロセスが進行して第2層が形成される。このようにして、2つの異なる層は基板上に交互に堆積され、ARCを形成し得る。
【0062】
例えば、第1バッチ処理システムは、シリコンターゲットを有する1つのスパッタリング源と、ニオブターゲットを有する1つのスパッタリング源と、酸素ガスの供給とを有してもよい。一度キャリアがロードされると、ニオブ源のシャッタが開かれ、NbOの第1層を形成するように酸素が流れる。その後、ニオブ源のシャッタが閉じ、シリコンのシャッタが開かれてSiO2の層を形成する。すべての基板上にSiO2の適切な厚さが形成されると、シリコンのシャッタが閉じ、ニオブシャッタが開かれて次のNbO層を形成され、ARC積層体がすべて完了するまで続く。
【0063】
図1Bに示す構造を形成したい場合、別のバッチシステムが採用され、その中で1つのターゲットはシリコン製で、1つのターゲットはアルミニウム製で、窒素ガス源が提供される。その後、プロセスはシリコンターゲットのシャッタを開いてSiN層を形成すること、及びアルミニウムターゲットのシャッタを開いてAlN層を形成することを交互に行う。
図1Cに示す構造が望まれる場合、酸素のガス供給を用いてSiO
2及びAl
2O
3の交互層を形成する。従って、層5、4、3、2´、及び1´を有する構造を作製したい場合、システムは3つの線形セクションを備えた3つのバッチ処理システムを有するべきである。
【0064】
図4Cでは、参照Aは、バッチ処理チャンバ内の真空状態を維持する2つのマイスナートラップを示す。参照Bは、バッチ処理チャンバ403内の真空環境、及び線形セクション405内の真空環境を分離するスロットバルブを示す。参照Cは、線形移送セクション405である。
図4Cでは、2つのカバーは取り外され、IBAD処理用のスパッタリング源D及びイオン源Eを露出させる。この配置の特徴は、バッチ処理システムがチャンバの中心軸を中心にウウエハを回転させる「プラネタリー」配置を利用し、キャリアはバッチ処理チャンバを大気に晒すことなく、惑星システムに連続してロード及びアンロードし得ることである。さらに、DLC及び疎油性層等のバッチ処理システムに適合しないプロセスは、一度に1つの基板の線形セクションで実行され得る。
【0065】
参照Fはキャリアスピン回転モータであり、参照Gは主要な軌道回転モータである。すなわち、モータGは、バッチチャンバの中心軸の周りの軌道ですべてのキャリアを回転させ、モータFはそれ自体の軸の周りで各キャリアを回転させる。惑星が太陽の周りを公転するようにキャリアがチャンバの中心軸の周りを回り、惑星が各軸を中心に回転するように各キャリアもまた自身の軸を中心に回転するため、このような配置は遊星チャンバと呼ばれる。従って、このシステムは、線形移送セクションに結合された遊星チャンバの対で構成され、遊星チャンバとその結合された線形セクションの間で、遊星として機能するキャリアを真空中で移送され得ると言え得る。従って、キャリアは遊星運動と線形移送運動との両方を受ける。参照Hはキャリアローダを示し、大気に晒すことなくバッチチャンバと線形セクションとの間でキャリアを移送するために用いられる。
【0066】
図4A~4Cのシステムでは、バッチ処理チャンバでキャリアが処理されるとき、各スパッタリング源の前で複数のパスを作成する。逆に、キャリアが線形セクションにあるとき、各処理チャンバに単一のパスを作成する。また、キャリアがバッチ処理システムにあるとき、キャリアは惑星運動システム内の他のキャリアと同時に移動するが、キャリアが線形移送セクションにあるとき、キャリアは線形移送セクション内の他のキャリアとは独立して移動する。バッチ処理システムの1つで処理が完了すると、遊星回転システムがキャリアを一度に1つずつスロットバルブの位置に運び、ロボットアームがキャリアを1つずつ取り除き、線形移送セクションに配置する。ロボットは、処理済みのキャリアを処理対象の新しいキャリアと交換してもよい。
【0067】
図5A~5Dは、キャリアの一実施形態を示し、
図5Aは底面図、
図5Bは側面図、
図5Cは上面図、
図5Dは等角投影図である。
図5Cに示すように、キャリアは基板510を支持するように構成されているトッププレート505を有する。異なるトッププレートは、1つの大きな又は種々の小さな基板510を支持するように構成され得る。従って、キャリアのトッププレートを交換するだけで、システムは異なるサイズの基板を処理するように変換され得る。
【0068】
キャリアは、移送セクション515によってシステム全体に移送され、トッププレート505は回転セクション520を介して移送セクション515に取り付けられる。バッチ処理チャンバ内にある間、モータF(
図4Cを参照)からの結合が回転セクション520と係合し、それによりトッププレートのそれ自体の軸の周りのスピン回転を与える。移送セクションとトッププレートとを有するキャリアの構造により、キャリアを個別に線形セクションで移送し、バッチ処理チャンバで回転させることも可能である。また、回転セクション520はロボットアーム411のための係合機構を提供し、キャリアを線形セクションからバッチ処理チャンバへ移送し得る。
【0069】
図6Aと6Bは、開示の実施形態の光学コーティングを形成するための線形移送システムの一実施形態を示す。
図6Aは斜視図で、
図6Bは上部斜視図である。
図6Aと6Bの実施形態では、処理チャンバの対は、並んで配置されてバッチ処理セクション605を形成し、一連の処理チャンバは単一のファイルに配置されて単一のキャリア処理セクション610を形成する。バッチ処理セクション605では、セクション605のサイズを拡大又は縮小するために、チャンバ615は対で追加又は削除され得る。単一のキャリア処理セクション610では、セクション610のサイズを拡大又は縮小するために、チャンバ620は個々に追加又は削除され得る。バッチ処理セクションでは、キャリアがレーストラックコースで連続するチャンバを連続的に通過し得るように、各キャリア間に各バルブが複数のパスを実行するように、連続するチャンバ間に隔離弁はない。逆に、隔離弁は線形処理セクションのチャンバ620間に提供され、各キャリアは各チャンバ620でシングルパスのみを実行する。
【0070】
バッチセクション605は、ARCの複数のナノ層を形成するように用いられ得、単一のキャリア処理セクションは、チャンバを形成するARCの真空要件に適合しない、DLC、介在層、及び疎油性コーティングを形成するように用いられ得る。従って、チャンバ615の少なくとも1つはIBAD処理チャンバであるべきであり、チャンバ620の少なくとも1つは、蒸発処理チャンバであるべきである。ちなみに、
図6Bはシステムのサービスを可能にするために開いている中央チャンバ615を示す。
【0071】
図6Aと6Bの破線矢印は、各セクションでのキャリアの移送を示す。バッチ処理セクション605では、キャリアはレーストラックタイプコースに従い、それによって何度か各処理チャンバ615を訪れる。バッチ処理セクションは、
図4A~4Cのバッチ処理に関して説明したように、いくつかのIBADステーション615を有してもよく、その中で各ステーションは1つの材料のターゲットを有する。各スパッタリング源はシャッタを有し、スパッタリングターゲットと所望の層の厚さに応じて、1つ以上のシャッタが同時に開いてもよい。チャンバ615間に隔離弁が設けられていないため、1つのシャッタが開いているとき、クロススパッタリングを有しないように、すぐ隣の2つのチャンバのシャッタが閉じられることが好ましい。
【0072】
キャリアはARC層を形成するのに十分な回数レーストラックを処理した後、ロードロック625を介して一度に1つずつレーストラックを出て、例えば、DLC及び疎油性層形成等の後処理のために単一のファイル線形処理セクション610に進む。キャリアが後処理を完了すると、キャリアはロードテーブルにロードロックされ、キャリアをロード/アンロードセクションに送る。
【0073】
システム全体にわたって、キャリアは単一のトラックに自由に乗るが、原動力はバッチ処理セクション605と単一のファイル線形処理セクション610で別々に適用される。特に、バッチ処理セクション605では、単一のトラックは楕円形のレーストラック形状であり、単一のモータで駆動されるコンベアベルトは、レーストラック内のすべてのキャリアに係合し、すべてのキャリアを同時に移動させる。逆に、単一のファイル線形処理セクション610では、単一のトラックは直線モノレールの形態であり、個々の磁気ホイールはキャリアと係合し、各キャリアは他のキャリアとは独立して個別に移動し得る。このようにして、バッチ処理システムではパスバイ処理が実行されるが、線形セクションでは静的処理が実行され、その中でキャリアは処理チャンバ620内で停止し、キャリアが静止している間に処理が行われる。
【0074】
図6A及び6Bに示すバッチ処理の1つの特徴は、バッチ処理セクション605内の対向するチャンバ615の間に見通し線がないことである。明確にするために、
図6Aでは、対向するチャンバは615L及び615Rとして識別されている、すなわち、各チャンバ615Lは対応するチャンバ615Rと対になっている。従って、チャンバ615Lの1つのシャッタが開いてもよく、同時にその対向するチャンバ615Rのシャッタも開いてもよく、これら2つのチャンバ間に直線が存在しないため、1つのチャンバからの粒子は反対のチャンバからの粒子と混合され得ない。これは、当然ながら、遊星バッチチャンバの場合ではない。
【0075】
図4A~4Cの実施形態では、バッチ処理セクション605はARCを形成するように用いられ得、線形セクションはDLC、介在層、疎油性コーティングを形成するように用いられ得る。
図6Aと6Bの例では、チャンバ615の4つの対が示される。従って、2つの対は低n層のナノ層を形成するように用いられ得、2つの対は2つの高n層のナノ層を形成するように用いられ得る。例えば、第1の対向する対は、窒素ガスが供給されたアルミニウムターゲットを有してもよく、第2の対向する対は、窒素ガスが供給されたシリコンターゲットを有し得、第3の対向する対は、酸素ガスが供給されたアルミニウムターゲットを有し得、第4の対向する対は、酸素ガスが供給されたシリコンターゲットを有し得る。そのような配置の下、第1の対向する対のシャッタはAlNナノ層を形成するように開けられ得、第2の対のシャッタは、Si
3N
4ナノ層を形成するように開けられ得、第3の対のシャッタは、Al
2O
3ナノ層を形成するように開けられ得、第4の対のシャッタは、SiO
2ナノ層を形成するように開けられ得る。このようにして、各ナノ層の製造中に2つのスパッタリングステーションが同時に動作し、各キャリアは動作中の各スパッタリングステーションで複数のパスを実行し得る。
【0076】
ナノ層が完全に形成されると、キャリアはバッチ処理セクション605を出て、線形処理セクション610に個別に移送され、そこでDLC、介在層、及び疎油性層はチャンバ620で形成され得る。チャンバ620は、ゲートバルブ625(そのうちのいくつかのみが示されている)によって互いに分離され得る。チャンバ620は、静的又はパスバイ処理ステーションでもよい。一実施形態では、DLCチャンバは静的処理チャンバであり、疎油性蒸発チャンバはパスバイチャンバである。
図6Aに示すように、線形処理セクション610での処理が完了すると、キャリアはカルーセル635を出て、キャリアをロード/アンロードセクションに移送し、そこでは処理済の基板はキャリアからアンロードされ、新しい基板がキャリアにロードされる。
【0077】
図6C~6Eは、上述のシステムに用いられてもよいキャリアを示す。この例では、キャリアは回転セクション640を介して移送ベース635に取り付けられた2つの回転可能なトッププレート630を有する。基板650は、トッププレート630に垂直方向に載置される。この実施形態の1つの特徴は、原動力はトッププレートにスピンを加えることが必要とされていないため、モータFのための必要性及び結合を除去する。代わりに、回転セクション640は、磁気棒645に係合する金属ロッド642を含む。移送ベース635が移動すると、金属ロッド642は磁気棒645に沿って走り、それが回転し、それにより上部プレート630に載置された基板を回転させる。
【0078】
上述のシステムを用いて、ガラス基板上にコーティングを製造する方法が提供されており、その方法は、基板を複数のキャリアにロードすること、複数のキャリアを複数のスパッタリング源を有するバッチ処理チャンバに移送すること、バッチ処理チャンバ内で複数のキャリアを同時に移送して、各キャリアをスパッタリング源の前に複数回通過させて基板上に反射防止コーティング(ARC)の複数の層を形成すること、キャリアを一度に1つずつ、複数の線形処理チャンバを含む線形移送セクションに移送し、該各線形処理チャンバは一度に単一のキャリアを処理するように構成されていること、ARC上方にダイヤモンド状コーティング(DLC)を形成するように線形処理チャンバの少なくとも1つを動作させること、DLC上方に疎油性層を形成するために線形処理チャンバの少なくとも1つを動作させることを含む。プロセスは、キャリアをバッチ処理してARCを形成するプロセス中に複数のスパッタリング源のシャッタを一度に1つずつ連続して開くことを含んでもよい。
【0079】
本明細書に記載のプロセス及び技術は、任意の特定の装置に本質的に関連するものではなく、任意の適切な構成要素の組合せによって実施されてもよいということが理解されるべきである。さらに、本明細書に記載の技術に従って、種々のタイプの汎用デバイスを用いてもよい。本発明は、特定の実施例に関して記載されているが、これらはあらゆる点で限定的ではなく例示的であることを意図している。当業者は、本発明を実施するのに多くの異なる組合せが適していることを理解するであろう。
【0080】
さらに、本明細書に開示の本発明の仕様及び実施を考慮することにより、本発明の他の実施が当業者には明らかになるであろう。記載の実施形態の種々の様態及び/又は構成要素は、単独で又は任意の組合せで用いられてもよい。本明細書及び実施例は例示としてのみ考慮され、本発明の真の範囲及び精神は以下の特許請求の範囲によって示されるということが意図される。