(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】聴力診断装置、聴力診断方法および聴力診断プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/12 20060101AFI20240221BHJP
【FI】
A61B5/12
(21)【出願番号】P 2023104250
(22)【出願日】2023-06-26
【審査請求日】2023-06-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】323004798
【氏名又は名称】株式会社jibiica
(74)【代理人】
【識別番号】100134430
【氏名又は名称】加藤 卓士
(72)【発明者】
【氏名】藤原 崇志
【審査官】▲高▼木 尚哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-000490(JP,A)
【文献】特開2006-020906(JP,A)
【文献】特開2002-191581(JP,A)
【文献】特開2008-220805(JP,A)
【文献】特開2013-075066(JP,A)
【文献】特開2017-070370(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部雑音の音量を測定する測定部と、
測定した前記外部雑音の音量および被験者の年齢
と性別とに基づいて、被験者の聴力を診断するための出力音声の周波数ごとの音量を
1つに決定する決定部と、
前記外部雑音下において、
決定した周波数及び音量での前記出力音声が聞こえているか否かの判定結果を取得する取得部と、
前記取得部が取得した判定結果
に基づいて、前記被験者の聴力を診断する診断部と、
を備えた聴力診断装置。
【請求項2】
前記取得部は、決定した出力音声の周波数および音量
の両方を変更しつつ、前記出力音声が聞こえているか否かの判定を取得する請求項1に記載の聴力診断装置。
【請求項3】
前記決定部はさらに、前記被験者の職場環境、薬物摂取歴または家族歴に基づいて、前記出力音声を決定する請求項1に記載の聴力診断装置。
【請求項4】
測定部を用いて外部雑音の音量を測定する測定ステップと、
測定した前記外部雑音の音量および被験者の年齢
と性別とに基づいて、被験者の聴力を診断するための出力音声の周波数ごとの音量を決定部において
1つに決定する決定ステップと、
前記外部雑音下において、
決定した周波数及び音量での前記出力音声が聞こえているか否かの判定結果を取得部で取得する取得ステップと、
前記判定結果
に基づいて、前記被験者の聴力を診断部で診断する診断ステップと、
を含む聴力診断方法。
【請求項5】
外部雑音の音量を測定する測定ステップと、
測定した前記外部雑音の音量および被験者の年齢
と性別とに基づいて、被験者の聴力を診断するための出力音声の周波数ごとの音量を
1つに決定する決定ステップと、
前記外部雑音下において、
決定した周波数及び音量での前記出力音声が聞こえているか否かの判定結果を取得する取得ステップと、
前記判定結果
に基づいて、前記被験者の聴力を診断する診断ステップと、
をプロセッサに実行させる聴力診断プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、聴力診断装置、聴力診断方法および聴力診断プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
上記技術分野において、特許文献1には、プログラムで聴力を診断する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記文献に記載の技術では、正確に聴力診断を行うことができなかった。
【0005】
本発明の目的は、上述の課題を解決する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る装置は、
外部雑音の音量を測定する測定部と、
測定した前記外部雑音の音量および被験者の年齢と性別とに基づいて、被験者の聴力を診断するための出力音声の周波数ごとの音量を1つに決定する決定部と、
前記外部雑音下において、決定した周波数及び音量での前記出力音声が聞こえているか否かの判定結果を取得する取得部と、
前記取得部が取得した判定結果に基づいて、前記被験者の聴力を診断する診断部と、
を備えた聴力診断装置である。
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る方法は、
測定部を用いて外部雑音の音量を測定する測定ステップと、
測定した前記外部雑音の音量および被験者の年齢と性別とに基づいて、被験者の聴力を診断するための出力音声の周波数ごとの音量を決定部において1つに決定する決定ステップと、
前記外部雑音下において、決定した周波数及び音量での前記出力音声が聞こえているか否かの判定結果を取得部で取得する取得ステップと、
前記判定結果に基づいて、前記被験者の聴力を診断部で診断する診断ステップと、
を含む聴力診断方法である。
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係るプログラムは、
外部雑音の音量を測定する測定ステップと、
測定した前記外部雑音の音量および被験者の年齢と性別とに基づいて、被験者の聴力を診断するための出力音声の周波数ごとの音量を1つに決定する決定ステップと、
前記外部雑音下において、決定した周波数及び音量での前記出力音声が聞こえているか否かの判定結果を取得する取得ステップと、
前記判定結果に基づいて、前記被験者の聴力を診断する診断ステップと、
をプロセッサに実行させる聴力診断プログラムである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、より正確に聴力診断を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態に係る聴力診断装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】第2実施形態に係る聴力診断装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】第2実施形態に係る聴力診断装置の構成を示すブロック図である。
【
図4】第2実施形態に係る聴力診断装置の処理を説明する図である。
【
図5】第2実施形態に係る聴力診断装置の処理を説明する図である。
【
図6】第2実施形態に係る聴力診断装置の処理を説明する図である。
【
図7】第2実施形態に係る聴力診断装置の処理の流れを示すフローチャートである。
【
図8】第2実施形態に係る聴力診断装置の処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、図面を参照して、本発明の実施の形態について例示的に詳しく説明する。ただし、以下の実施の形態に記載されている構成要素はあくまで例示であり、本発明の技術範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0012】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態としての聴力診断装置100について、
図1を用いて説明する。
図1に示すように、聴力診断装置100は、測定部101と決定部102と取得部103と診断部104とを含む。
【0013】
測定部101は外部雑音を測定する。決定部102は、測定した外部雑音、被験者の年齢に基づいて、聴力診断用の出力音声の周波数および音量を決定する。
【0014】
取得部103は、決定部102が決定した出力音声の周波数および音量を変更しつつ、前記外部雑音下において、出力音声が聞こえているか否かを判定する。診断部104は、被験者の年齢と、測定した外部雑音と、取得部103の判定結果に基づいて、被験者の聴力を診断する。
【0015】
以上の構成によれば、外部雑音や被験者の年齢を踏まえてより正確に聴力検査を行うことができる。
【0016】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態としての聴力診断装置200について、
図2を用いて説明する。
図2に示すように、情報処理装置200は、測定部201と決定部202と取得部203と診断部204と入力部205と提示部206を含む。
【0017】
外部音量測定部201は外部雑音の音量を測定する。この際、
図3に示すように、入力画面301の測定ボタン311を用いて外部雑音(環境音)の測定タイミングを決定してもよい。測定された外部雑音の音量は、音量表示部312に表示される。入力部205は、被験者の属性情報を入力する。具体的には、年齢314、性別315を入力する。その他、職場、家庭環境、過去の聴力像、主訴、症状などを入力してもよい。
【0018】
決定部202は、測定した外部雑音の音量および被験者の属性情報に基づいて、聴力診断用の出力音声の周波数ごとの音量を決定する。例えば1000Hzおよび4000Hzが用意されている場合、1000Hzは30dB、4000Hzは40dB、のように決定する。決定部202は例えば、被験者の年齢や性別に基づいて、出力音声を決定する。決定部202は、さらに、聴力診断装置に接続されるスピーカー(ヘッドフォンを含む)の種類に応じて、出力音声の周波数および音量を決定する。決定部202はさらに、被験者の過去の聴力検査結果、疾患(血圧が高いと聞こえにくい)、既往症、職場環境、薬物摂取歴または家族歴に基づいて、出力音声を決定してもよい。この際、関連法規に関する情報、一般人口の平均聴力像、年齢性別別聴覚疾患罹患率などのデータベースを利用する。
【0019】
決定部202は、被検者に関する個人健康情報および医療情報(年齢、性別、既往歴、教育歴、環境音、職場環境、過去の聴力検査結果)を入力すると、聴力検査に関する関連法規、聴力に関する医学情報から鑑別すべき疾患を抽出し、抽出した情報から被検査者が検査をすべき検査音を決定してもよい。また決定部202は、周辺環境音に関する情報から、被検査者に提示する検査音の出力を決定する。決定部202は、携帯電話等の汎用機器を用いて検査可能か判定し、可能な場合、その汎用機器に応じて検査音を調整してもよい。決定部202が決定した音量は、入力画面301の音量表示部313に表示される。
【0020】
取得部203は、決定部202が周波数ごとに決定した音量の音声を出力して、外部雑音下において、出力音声が聞こえているか否かの判定結果を取得する。
図3に測定画面302を示す。周波数選択欄321において、提示音を選択して、検査音開始ボタン322をクリックすれば、検査音が出力される。検査音開始ボタン322は、検査音が出力中には、「検査音出力中」の表示に変わる。「検査音出力中」と表示されている間だけ「聞こえる」ボタン323および「聞こえない」ボタンがアクティブになる。つまり取得部203は、被験者から検査音が聞こえたか否かの判定を取得できる。
【0021】
診断部204は、被験者の年齢と、測定した外部雑音と、取得部203が取得した判定結果とに基づいて、被験者の聴力を診断する。聞こえないボタン324が押されなかった場合には、被験者の聴力を「問題なし」と診断する。聞こえないボタン324が一度でも押されると、被験者の聴力を「問題がある可能性あり、医師による診断を求めるべき」と診断する。
【0022】
診断部204は、被検者に関する個人健康情報および医療情報、および聴力検査の結果から、専門医の受診の必要性を判定し、診療情報提供書の案を作成してもよい。
【0023】
提示部206は、汎用機器の性能(出力レベル範囲)に関する調査データを参照して、被験者に必要な検査を実施できる汎用機器を提示する。また提示部206は、被検者に関する個人健康情報および医療情報、および聴力検査の結果から、類似の患者情報をデータベースから抽出し、聴覚補償が可能な機器の候補を提示してもよい。
【0024】
以上の構成によれば、外部雑音や被験者の年齢を踏まえてより正確に聴力検査を行うことができる。
【0025】
図4は、文献「Brant LJ, Fozard JL. Age changes in pure-tone hearing thresholds in a longitudinal study of normal human aging. J Acoust Soc Am. 1990 Aug;88(2):813-20. doi: 10.1121/1.399731. PMID: 2212307」に開示されたデータであり、813人(20~95歳)の成人を対象に、1968年から1987年にかけての聴力変化を評価したものである。
図4によれば、20歳台~80歳台の対象者が20年で聴力の音圧レベル(SPL)が上昇することを明らかにした(Longitudinal change)。また年齢別の評価でも、加齢とともに聴力の音圧レベルは上昇している(Cross-sectional change)。
【0026】
図5は、文献「Wasano K, Kaga K, Ogawa K. Patterns of hearing changes in women and men from denarians to nonagenarians. Lancet Reg Health West Pac. 2021 Mar 24;9:100131. doi: 10.1016/j.lanwpc.2021.100131. PMID: 34327440; PMCID: PMC8315603」に開示されたデータである。国立病院機構東京医療センター耳鼻咽喉科において2000年から2020年までに行われた約7万件の聴力検査結果から、加齢以外の耳疾患による影響と考えられるものを除いた10,681人を対象に、聴力閾値(各周波数において聞くことのできる最も小さな音の大きさ)の年代別平均値を男女別に集計し、加齢とともに聴力閾値が上昇することを確認したものである。
【0027】
図6は、環境音と聴力閾値の実験データを示したデータである。聴力閾値(各周波数において聞くことのできる最も小さな音の大きさ)が、環境音の変化に応じて変化するかどうか6耳を用いて実験を行った。
図6に示すように、被験者へ防音室でスピーカーから検査音(純音)を提示した。検査音は500Hz、1000Hz、2000Hzの3種類を使用し、聴力閾値(各周波数において聞くことのできる最も小さな音の大きさ)を測定した。
【0028】
測定にあたって環境音を「防音室(最大周辺音30dB以下)」「雑音小(平均周辺雑音40dB、最低33dB、最高47dB程度)」「雑音大(平均周辺雑音50dB、最低46dB、最高59dB程度)の3つに設定し、それぞれの状況において聴力閾値を測定した。6耳を対象に測定し、環境音が増大するにあたって聴力閾値が上昇することを確認し、また環境音よりも小さな検査音(純音)を聞き分けることができることを確認した。
【0029】
このようにして、一つの周波数に対して一つの測定音量が決定される。
図4を参照すると、例えば30代以下であれば15dB、40代~50代であれば20dB、60代であれば25dB、70代であれば30dB、80代であれば40dBのように決定部204が決定する。
【0030】
また、性別に関しては、
図5を参照して、年齢別の音量を決定する。例えば、1000Hzでは、男女間に差があまりみられないため、同一の音量に決定するが、4000Hzでは、例えば、70代では女性30dB、男性40dB、80代では女性40dB、男性50dB、のように差をつける。
【0031】
さらに
図6を参照して、年齢性別で決定された音量(防音室で測定する場合の音量)に対して、環境音が小さい(例えば40dB)場合には、10dBを加算し、環境音が大きい(例えば60dB)場合には、20dBを加算して、聴覚診断用の音声を決定する。
【0032】
図4~
図6のデータを踏まえて、本実施形態における決定部204は、
図7、
図8に示す処理の流れにより検査音量を決定し被験者の聴覚診断を行う。
【0033】
まず1000Hzでは、ステップS701において、年齢Xおよび性別を入力する。次に、ステップS703において、環境音Zの測定を行う。さらに、ステップS705において年齢Xが70より大きいか判定する。
【0034】
ステップS705において年齢Xが70歳より大きければ、ステップS709に進んで音量N=X/2+10とする。ステップS705において年齢Xが70以下と判定すると、ステップS711に進み、音量N=X/2とする。
【0035】
さらにステップS713に進み、環境音の音量Zが40dB以下であれば、処理を終了して、検査音量Nが決定する。
【0036】
ステップS713で、環境音の音量Zが40dBより大きいと判定すると、さらに、ステップS715に進み、環境音の音量Zが60dBより大きいか判定する。
【0037】
環境音の音量Zが60dBより大きければ、ステップS717に進み検査音量Nに20dBを加算し、環境音の音量Zが40dBより大きく60dB以下であれば、ステップS719に進み検査音量Nに10dBを加算する。
【0038】
4000Hzでは、
図8に示すように、さらにステップS807で、性別Yが男性か否か判定し、男性の場合にはステップS709に進んで音量N=X/2+10とする。女性の場合には、加算せずにステップS711に進む。
【0039】
以上のように本実施形態によれば、環境音の音量や年齢や性別に応じた音量で聴力検査を行うことができるため、より正確な聴力検査を実現できる。
【0040】
[他の実施形態]
以上、実施形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記実施形態に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明の技術的範囲で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。また、それぞれの実施形態に含まれる別々の特徴を如何様に組み合わせたシステムまたは装置も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0041】
また、本発明は、複数の機器から構成されるシステムに適用されてもよいし、単体の装置に適用されてもよい。さらに、本発明は、実施形態の機能を実現する情報処理プログラムが、システムあるいは装置に供給され、内蔵されたプロセッサによって実行される場合にも適用可能である。本発明の機能をコンピュータで実現するために、コンピュータにインストールされるプログラム、あるいはそのプログラムを格納した媒体、そのプログラムをダウンロードさせるサーバも、プログラムを実行するプロセッサも本発明の技術的範囲に含まれる。特に、少なくとも、上述した実施形態に含まれる処理ステップをコンピュータに実行させるプログラムを格納した非一時的コンピュータ可読媒体(non-transitory computer readable medium)は本発明の技術的範囲に含まれる。
【要約】
【課題】より正確な聴力診断を行うことができる。
【解決手段】外部雑音の音量を測定する測定部と、
測定した外部雑音の音量および被験者の年齢に基づいて、被験者の聴力を診断するための出力音声の周波数および音量を決定する決定部と、
決定部が決定した出力音声の周波数および音量を変更しつつ、外部雑音下において、出力音声が聞こえているか否かの判定結果を取得する取得部と、
被験者の年齢と、測定した外部雑音と、取得部の結果に基づいて、被験者の聴力を診断する診断部と、を備えた聴力診断装置。
【選択図】
図1