IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ポル・メド・テックの特許一覧

<>
  • 特許-移植材料の製造方法、及び移植材料 図1
  • 特許-移植材料の製造方法、及び移植材料 図2
  • 特許-移植材料の製造方法、及び移植材料 図3
  • 特許-移植材料の製造方法、及び移植材料 図4
  • 特許-移植材料の製造方法、及び移植材料 図5
  • 特許-移植材料の製造方法、及び移植材料 図6
  • 特許-移植材料の製造方法、及び移植材料 図7
  • 特許-移植材料の製造方法、及び移植材料 図8
  • 特許-移植材料の製造方法、及び移植材料 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】移植材料の製造方法、及び移植材料
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20240221BHJP
   A61L 27/36 20060101ALI20240221BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20240221BHJP
   A61L 27/40 20060101ALI20240221BHJP
   A61L 27/52 20060101ALI20240221BHJP
【FI】
C12N5/071
A61L27/36 300
A61L27/36 400
A61L27/38 100
A61L27/40
A61L27/52
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2023550541
(86)(22)【出願日】2022-12-27
(86)【国際出願番号】 JP2022048145
(87)【国際公開番号】W WO2023127872
(87)【国際公開日】2023-07-06
【審査請求日】2023-08-18
(31)【優先権主張番号】P 2021215284
(32)【優先日】2021-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022156136
(32)【優先日】2022-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518232087
【氏名又は名称】株式会社ポル・メド・テック
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(72)【発明者】
【氏名】長嶋 比呂志
(72)【発明者】
【氏名】松成 ひとみ
【審査官】松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-515835(JP,A)
【文献】特表2013-526297(JP,A)
【文献】国際公開第2020/262642(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
A61L 27/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物体躯から摘出した臓器の少なくとも一部を可塑性部材に接触させて位置決めする工程、及び
前記位置決め後の前記臓器中に外来物を注入する工程を含む、前記外来物が注入された臓器を含む移植材料の製造方法。
【請求項2】
前記臓器中の注入標的領域の直上又は近傍の表面から前記注入を行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記動物体躯が胎仔体躯である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記臓器が異種移植用臓器である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記臓器が前記摘出後、ガラス化凍結を経た臓器である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記可塑性部材が、前記ガラス化凍結時に前記臓器を被覆した可塑性部材である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記臓器の少なくとも一部が前記可塑性部材に埋もれている、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項8】
前記可塑性部材がゲルである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項9】
前記注入には針状部材を用いる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項10】
前記針状部材が通過する経路が、液体が難浸透性な緻密な構造を有する請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記外来物が、前記動物体躯の動物以外に由来する細胞である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項12】
前記臓器が腎臓であり、前記注入標的領域が後腎の腎皮質形成領域である、請求項2に記載の方法。
【請求項13】
動物から摘出された臓器と、前記臓器内に注入された外来物と、を含み、前記臓器には、外来物が注入された領域の直上の表面又は近傍の表面に注入痕が形成されている移植材料であって、前記直上の表面が、前記臓器の表面のうち、前記領域に最も近い表面であり、
前記近傍の表面が、前記臓器の中心に対して前記領域と同じ側に存在する表面である、前記移植材料。
【請求項14】
前記外来物が、前記臓器以外に由来する細胞である、請求項13に記載の材料。
【請求項15】
前記近傍の表面が、前記直上の表面を含む表面の領域である、請求項13に記載の材料。
【請求項16】
異種移植用である、請求項13に記載の材料。
【請求項17】
前記動物がブタである、請求項13に記載の材料。
【請求項18】
ガラス化凍結されている、請求項13に記載の材料。
【請求項19】
前記注入痕の少なくとも一部が、ゲルで被覆されている、請求項13に記載の材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生医療等製品として好適な、外来物が注入された臓器を含む移植材料の製造方法、及び移植材料に関する。特に、外来物が注入された臓器を含む異種移植材料の製造方法、及び異種移植材料に関する。
【背景技術】
【0002】
臓器再生は様々な臓器において活発に発展を遂げている。例えば、複雑で臓器再生困難と考えられてきた腎臓については、発生段階にある動物の腎発生領域にヒト間葉系幹細胞等の外来物を注入し、異種の発生プログラムを借りた「胎生臓器補完法」が開発されつつある(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
上記胎生臓器補完法に関し、例えば、動物体躯(胎仔体躯等)の臓器(後腎等)に外来物(例えば、ヒト間葉系幹細胞)を注入する場合、後腎等の臓器を胎仔体内から摘出した状態では、ガラス毛細管等の針状部材の穿刺が困難である。そこで、動物体躯(胎仔体躯等)をある程度切り開いて解体した状態で、動物体躯(胎仔体躯等)に付いた状態の臓器(後腎等)に上記針状部材を穿刺して外来物を注入することが行われている(例えば、非特許文献2参照)。また、上記臓器が後腎である場合、上記後腎が動物体躯(胎仔体躯等)に付着した状態であれば、腎皮質形成領域の位置の特定が容易であることも、その方法が採られている一因である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】横尾隆ら、「医学のあゆみ」 Volume 279, Issue 7, 715 - 719 (2021)
【文献】M Yamanaka et al., Nature Communications, 2017; p.12, Injection of NPCs into nephrogenic zone
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記方法では下記の問題があった。
1)胎仔体躯等の動物体躯に付いた状態でしか注入作業が行えないために、注入作業の場所及び時間の制約が大きい。
2)胎仔体躯等の動物体躯から摘出した後腎等の臓器は、極小さな(長径2mmx短径1mm程度)、かつ柔軟な臓器のため、臓器を損傷しないようにソフトに把持しながら針状部材を穿刺することが困難である。
【0006】
3)後腎等の臓器中の注入標的領域が動物体躯(胎仔体躯等)を切り開いて露出していない側に存在する場合には、上記臓器の露出面側から毛細管等の針状部材を穿刺して上記注入標的領域まで貫通させて外来物を注入せざるを得ない。これにより、注入経路における損傷が移植材料に大きく残存してしまう。
【0007】
本発明は、以上のような従来技術の問題に鑑みてなされたものであり、動物体躯から摘出した臓器に対して外来物を簡易に注入することができる移植材料の製造方法を提供することを第1の目的とする。
また、本発明は、外来物が注入されているにもかかわらず、損傷が低減された移植材料を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、動物体躯から摘出した臓器の少なくとも一部を可塑性部材に接触させて位置決めすることにより、外来物を臓器の所望の箇所に最短経路で、煩雑な作業を要することなく簡便に注入することができることを見出した。本発明は、上記知見に基づき完成されるに至ったものである。
すなわち本発明は以下の通りである。
【0009】
<1>動物体躯から摘出した臓器の少なくとも一部を可塑性部材に接触させて位置決めする工程、及び
前記位置決め後の前記臓器中に外来物を注入する工程を含む、前記外来物が注入された臓器を含む移植材料の製造方法。
<2>前記臓器中の注入標的領域の直上又は近傍の表面から前記注入を行う、<1>に記載の方法。
<3>前記動物体躯が胎仔体躯である、<1>又は<2>に記載の方法。
<4>前記臓器が異種移植用臓器である、<1>~<3>のいずれか1項に記載の方法。
<5>前記臓器が前記摘出後、ガラス化凍結を経た臓器である、<1>~<4>のいずれか1項に記載の方法。
<6>前記可塑性部材が、前記ガラス化凍結時に臓器を被覆した可塑性部材である、<5>に記載の方法。
<7>前記臓器の少なくとも一部が前記可塑性材料に埋もれている、<1>~<6>のいずれか1項に記載の方法。
<8>前記可塑性部材がゲルである、<1>~<7>のいずれか1項に記載の方法。
<9>前記注入には針状部材を用いる、<1>~<8>のいずれか1項に記載の方法。
<10>前記針状部材が通過する経路が、液体が難浸透性な緻密な構造を有する<9>に記載の方法。
<11>前記外来物が、前記動物体躯の動物以外に由来する細胞である、<1>~<9>のいずれか1項に記載の方法。
<12>前記臓器が腎臓であり、前記注入標的領域が後腎の腎皮質形成領域である、<1>~<10>のいずれか1項に記載の方法。
<13>動物から摘出された臓器と、前記臓器内に注入された外来物と、を含み、前記臓器には、外来物が注入された領域の直上又は近傍に注入痕が形成されている移植材料。
<14>前記外来物が、前記臓器以外に由来する細胞である、<13>に記載の材料。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、動物体躯から摘出した臓器に対して外来物を簡易に注入することができる移植材料の製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、外来物が注入されているにもかかわらず、損傷が低減された移植材料を提供することができる。
また、本発明によれば、注入作業の場所及び時間の制約を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の好ましい1つの実施形態を示す概略図である。
図2図2は、ゼラチンゲルへの半包埋により位置決めされた後腎の顕微鏡写真を示す図である。
図3】腎被膜下の腎皮質形成領域の1か所へ外来物(GFP発現細胞)を注入した結果を示す顕微鏡写真を示す図である。
図4】腎被膜下の腎皮質形成領域の2か所へ外来物(GFP発現細胞)を注入した結果を示す顕微鏡写真を示す図である。
図5】後腎間葉領域へ広範に外来物(GFP発現細胞)を注入した結果を示す顕微鏡写真を示す図である。
図6】実施例3の注入結果を示す顕微鏡写真を示す図である。
図7】比較例1の注入結果を示す顕微鏡写真を示す図である。
図8】実施例4におけるPdx1-Hes1遺伝子の発現によってβ細胞を欠損するブタの膵臓組織を示す図である。
図9図8に示した複数の膵組織断片のうちの1個に注入されたヒトiPS細胞由来膵前駆細胞塊の様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施態様について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施態様に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0013】
≪外来物が注入された臓器を含む移植材料の製造方法≫
本発明の第1の態様は、動物体躯から摘出した臓器の少なくとも一部を可塑性部材に接触させて位置決めする工程、及び
上記位置決め後の前記臓器中に外来物を注入する工程を含む、前記外来物が注入された臓器を含む移植材料の製造方法である。
第1の態様は、動物体躯から摘出した臓器の少なくとも一部を可塑性部材に接触させて位置決めすることにより、動物体躯から摘出した臓器に対して外来物を煩雑な作業を要することなく簡易に注入することができる。
【0014】
図1を参照して好ましい1つの実施形態を説明する。
動物体躯から摘出した臓器1の少なくとも一部を可塑性部材2に接触(好ましくは、包埋)させて位置決めすることにより、上記臓器1の注入標的領域3に任意の手段により外来物を簡易に(好ましくは、精度よく)注入することができる。可塑性部材2は基板4に接触(設置、固定など)させることが好ましい。
【0015】
上記動物体躯を提供する動物としては、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、霊長類(例えば、ヒト、類人猿(チンパンジー、サル等))、げっ歯類(例えば、マウス、ラット)等の任意の哺乳類が挙げられる。上記動物としては、げっ歯類よりも体格等の特徴がヒトに近い哺乳類が好ましく、ブタ、ヒツジ、ヤギ、霊長類(例えば、ヒト、類人猿)がより好ましく、ブタ(すなわち、上記臓器が、ブタ由来の臓器)が更に好ましい。
上記動物体躯としては、胎仔体躯、幼体体躯、成体体躯のいずれであってもよいが、免疫原性が低い観点から、上記動物体躯が胎仔体躯であることが好ましい。特に、上記臓器が異種移植用臓器である場合には、胎仔体躯であることが好ましい。
【0016】
上記臓器は、移植用臓器が好ましく、異種移植用臓器がより好ましい。
上記臓器として具体的には、内臓(例えば、膵臓、腎臓、尿管、膀胱、肝臓、心臓、胃、腸等)、生殖器(例えば、卵巣、精巣)、受精卵、胚、胎仔、骨髄(例えば、造血器官)、脳、眼、鼻、口、皮膚、神経、若しくは、それらに由来する組織、又は人工組織(軟骨細胞シート等の細胞シート、オルガノイド等)が挙げられる。上記臓器としては、内臓、生殖器、受精卵、胚、胎仔が好ましく、内臓、生殖器がより好ましく、膵臓(例えば、膵島)、腎臓(例えば、後腎、特に、後腎、尿管及び膀胱を含む泌尿器)がさらに好ましい。
【0017】
上記臓器は遺伝子改変された臓器(組み換え臓器又はゲノム編集臓器)であってもなくてもよい。
遺伝子改変された臓器の調製は、例えば、(1)遺伝子改変された動物細胞の調製、及び、(2)上記調製された当該細胞から体細胞クローン技術により当該臓器を調製することが挙げられる。
上記(1)遺伝子改変された動物細胞の調製としては、所望のトランス遺伝子又はゲノム編集ツールを含むベクターを動物受精卵に注入する方法及び動物精子を含む液と卵(好ましくは卵子、より好ましくは成熟卵子)との顕微授精(卵細胞質内精子注入;ICSIともいう。)による、顕微授精を介した遺伝子導入(ICSI mediated gene transfer method)が挙げられる。
また、当該細胞の調製は、CRISPR(Clusterd Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats)/Casヌクレアーゼ等の遺伝子編集技術による所望のトランス遺伝子の導入であってもなくてもよい。
【0018】
上記(2)調製された遺伝子改変された動物細胞から体細胞クローン技術による遺伝子改変された臓器の上記調製に関し、体細胞クローン技術は、クローンを作製したい動物の細胞(好ましくは遺伝子改変動物細胞)を培養してドナー細胞とし、このドナー細胞をレシピエント除核卵子(卵母細胞)に細胞融合等の融合法等により核移植したのち、培養後、仮親に移植及び受胎させクローンを作製する技術をいう。
上記体細胞クローン技術により、遺伝子改変された動物をクローニングすることができ、当該動物から目的の臓器を摘出することにより遺伝子改変された臓器を調製することができる。
【0019】
上記臓器は二次臓器であってもなくてもよい。
ここで「二次臓器」とは、形成が阻害された臓器(例えば膵臓)が本来形成される体内の部位に、動物を育成し成長させることによって形成された臓器様の組織をいう(特開2019-62929号公報)。
上記二次臓器は、上記遺伝子改変された臓器であってもなくてもよい。つまり、臓器形成の上記阻害を、臓器を有する動物の遺伝子を改変する遺伝子改変により行うことができる。例えば、膵臓の形成を阻害する場合は、Pdx1遺伝子のプロモーターにHes1遺伝子を連結したPdx1-Hes1遺伝子を用いる、すなわちPdx1プロモーター制御下でHes1遺伝子を過剰発現させて行うことができる(Matsunari et al.,PNAS 110:4557-4562(2013);特開2019-62929号公報)。
また、薬剤の投与によって、臓器形成を阻害して上記二次臓器を形成してもよい。
【0020】
腎臓の形成を阻害する場合は、Six2-Notch2遺伝子を過剰発現させる遺伝子改変(Fujimura et al.,J Am Soc Nephrol,21:803-810,2010)、Sall1、Pax2等腎臓発生を制御する遺伝子の発現阻害又は抑制することによって行うことができる。
上記二次臓器は、本来の臓器としての機能を100%有していてもよく、一部しか有していなくてもよい。好ましい二次臓器としては、特定の機能細胞を欠損する二次臓器を挙げることができる。
ここで、「機能細胞」とは、臓器中に含まれる細胞で何らかの機能を持つ細胞を意味する。例えば、膵臓におけるα細胞、β細胞、γ細胞などが挙げられ、腎臓におけるネフロン前駆細胞、後腎間葉細胞、尿管芽細胞等が挙げられる。
好ましい機能細胞としては、膵臓におけるβ細胞が挙げられ、腎臓におけるネフロン前駆細胞が挙げられる。
特定の機能細胞を欠損する好ましい臓器としては、β細胞を欠損する膵臓、ネフロン前駆細胞を欠損する腎臓、後腎間葉細胞を欠損する腎臓等が挙げられる。
【0021】
上記臓器が腎臓(例えば、後腎、特に、後腎、尿管及び膀胱を含む泌尿器)である場合、尿管の先端に後腎(腎臓原基)が形成された後の腎臓が好ましく、後にネフロン形成の主要素となる尿管芽の伸長期に相当する腎臓(例えば、後腎、特に、後腎、尿管及び膀胱を含む泌尿器)がより好ましい。
より具体的には、上記伸長期に相当する胎齢25日~45日の腎臓(例えば、後腎、特に、後腎、尿管及び膀胱を含む泌尿器)が好ましく、胎齢30日~40日の腎臓(例えば、後腎、特に、後腎、尿管及び膀胱を含む泌尿器)がより好ましい。
【0022】
上記臓器の少なくとも一部を上記可塑性部材に接触させる態様としては、上記臓器を上記可塑性部材上に置くこと、上記臓器の少なくとも一部を上記可塑性粘着部材の下、横又は上に滑らない程度に包埋等により密着させること等が挙げられる。上記いずれの態様においても、上記臓器の少なくとも一部が上記可塑性部材に埋もれていることが好ましい。上記臓器の一部が上記可塑性部材に埋もれて、上記臓器の一部が露出していてもよく、上記臓器が上記可塑性部材に完全に埋もれていてもよい(上記可塑性部材により完全に被覆されていてもよい。)。
また、上記臓器の少なくとも一部を上記可塑性部材に接触させる態様に関し、上記可塑性部材が後述するゲルである場合、ゾル(上記ゲルのゲル化前のゾル)を含む液(好ましくはヒドロゾル)中に、上記臓器を浸漬した後にゲル化すること、上記臓器に上記ゾルを含む液を塗布した後にゲル化すること等であってもなくてもよい。
上記ゾルのゲル化は、例えば、カルシウムイオン、バリウムイオン等の多価金属イオンの添加、冷却等の任意の方法により行い得る。
ここで「位置決め」とは、滑り等による上記臓器の動きを抑制して上記可塑性部材に対する上記臓器の位置関係を保つことをいう。
【0023】
上記可塑性部材としては、滑り等による上記臓器の動きを抑制できる程度に上記臓器に密着し得る可塑性(変形性ないし柔軟性)を有し、本発明の目的を達成し得る限り特に制限はなく、任意の可塑性材料を含む部材が挙げられる。上記臓器の動きを抑制できる程度の摩擦係数を有する可塑性材料を含む部材が好ましく、例えば、可塑性粘着材料等を含む部材であってもなくてもよい。
上記可塑性材料を除去しきれずに僅少量残存しても実害がないこと、及び、上記可塑性材料を除去せずに被覆されたまま移植に供し得る観点から、薬理学的に許容される任意の可塑性材料(薬学上許容される非毒性の可塑性材料)を含む部材が好ましい。
なかでも、上記臓器の動きを抑制できる程度に上記臓器を密着し得る可塑性(変形性ないし柔軟性)を有し、かつ水素結合、分子間力等による適度な摩擦係数を有する観点から、ゲルが好ましく、薬理学的に許容される任意のゲル(薬学上許容される非毒性のゲル)がより好ましく、ハイドロゲルが更に好ましい。
【0024】
また、上記ゲルは、ゾル-ゲルの相転移の制御しやすさの観点から、イオン架橋によりゾル-ゲルの相転移が起こるゲル、又は、温度(例えば、5~40℃の相転移温度、好ましくは5~10℃、10~15℃、15~20℃、20~25℃、25℃~30℃、30℃~35℃又は35℃~40℃の相転移温度)によりゾル-ゲルの相転移が起こる温度感受性ゲルが好ましい。
上記イオン架橋によりゾル-ゲルの相転移が起こるゲルは、例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA・2Na)等のキレート剤によるキレート処理により、上記イオン架橋を分解しゾル化し得る。
【0025】
上記ハイドロゲルとしては、アルギン酸ないしその塩(例えば、アルギン酸カルシウム、アルギン酸バリウム等の多価金属塩、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム等の一価金属塩が挙げられる。より確実にゲル化を達成する観点から、アルギン酸カルシウム、アルギン酸バリウムの多価金属塩が好ましい。)、ゼラチン、カラギーナン、寒天(アガロースゲル)、ペクチン、キトサン、シリコーンハイドロゲル、コンニャク、その他の多糖類等が挙げられ、中でも、上記イオン架橋によりゾル-ゲルの相転移が起こるハイドロゲル、又は、温度によりゾル-ゲルの相転移が起こる温度感受性ハイドロゲルが好ましい。上記イオン架橋によりゾル-ゲルの相転移が起こるハイドロゲルとしてはアルギン酸ないしその塩(好ましくは多価金属塩)が挙げられる。温度によりゾル-ゲルの相転移が起こる温度感受性ハイドロゲルとしては、ゼラチン、カラギーナン、寒天(アガロースゲル)、ペクチン等が挙げられる。比較的に低い温度(例えば、35℃以下)でゾル化することができ、上記臓器等へのダメージが低いことからゼラチンが好ましい。
例えば、5~25%(w/v)ゼラチン溶液を使用することができる。7~20%(w/v)ゼラチン溶液が好ましく、10~15%(w/v)ゼラチン溶液がより好ましい。
上記可塑性部材の大きさとしては、上記臓器の大きさに応じて当業者が適宜設定し得るが、例えば、上記臓器の断面を楕円とみなしたときに、上記臓器の長軸及び短軸それぞれに対し0.25倍~3倍の長辺及び短辺とするシート状部材とすることができる。上記臓器の長軸及び短軸それぞれに対し0.35倍~2倍の長辺及び短辺とするシート状部材が好ましく、上記臓器の長軸及び短軸それぞれに対し0.5倍~1.5倍の長辺及び短辺とするシート状部材がより好ましい。より具体的には、長辺10~200mm、短辺5~100mmとするシート状部材が挙げられる。厚みとしては、例えば、0.1mm~5mm(好ましくは0.5mm~2mm)とすることができる。
【0026】
外来物を注入する方法としては、上記臓器に外来物を注入することができる限り特に制限はないが、針状部材を上記臓器表面に穿刺して孔を形成して上記孔から上記外来物を任意の方法により注入する方法等が挙げられる。中空の針状部材を上記臓器表面に穿刺して上記外来物を任意の方法(例えば、毛細管現象、注射)により注入する方法が好ましい。
上記孔の孔径(例えば、平均直径)としては特に制限はなく、例えば、0.05mm~3mmが挙げられ、0.1mm~2mmが好ましく、0.5mm~1.5mmがより好ましい。
上記針状部材としては、先端が鋭利な毛細管が挙げられる。
外来物を注入する作業はフリーハンド(例えば、熟練者による顕微鏡下でのフリーハンド)で行っても行わなくてもよいが、より正確に実施する観点から、マイクロマニピュレーターを使用して実施することが好ましい。
ここで、上記外来物は、上記臓器以外に由来する物質を意味し、上記外来物としては、レシピエント(移植先個体)と同じ動物種に由来する物質、ドナー(移植元個体)と同じ動物種だがドナーとは異なる個体に由来する物質、レシピエント及びドナーのいずれとも異なる動物種に由来する物質、薬物(例えば、医薬品)等が挙げられる。動物種に由来する物質としては、免疫原性が低い観点から、レシピエントと同じ動物種に由来する物質が好ましい。物質としては、例えば、細胞、成長因子、ホルモン、サイトカイン等が挙げられ、中でも細胞が好ましい。上記細胞は人工的な細胞(例えば、遺伝子組み換え細胞、ES細胞、iPS細胞)であってもなくてもよい。
例えば、ブタ臓器をヒトに移植する異種移植である場合、上記「レシピエントと同じ動物種に由来する細胞」は「ヒトに由来する細胞」が挙げられる。
【0027】
上記臓器中の注入標的領域の直上又は近傍の表面から上記注入を行うことが好ましい。
ここで、上記「近傍の表面」とは、上記臓器の中心に対して上記注入標的領域と同じ側に存在する上記臓器の表面をいう。上記中心と、上記注入標的領域中の任意の1点とを結ぶ延長線上の点を含む上記臓器の表面が好ましい。
また、上記「直上の表面」とは、上記臓器の表面のうち、上記注入標的領域に最も近い表面をいう。上記「近傍の表面」は上記「直上の表面」を含む表面の領域であることが好ましい。
上記注入標的領域としては、上記臓器中の任意の領域が挙げられる。例えば、上記臓器が腎臓である場合、上記注入標的領域としては、後腎の腎皮質形成領域(nephrogenic zone)、後腎間葉領域等が挙げられる。
基板4として特に制限はないが、プレート(プラスチック製、金属製等)、ウェル、ガラス基板、皿(例えば、ディッシュ)等が挙げられる。
上記臓器に形成された注入痕の少なくとも一部を上記可塑性部材により被覆していても、被覆していなくてもよい。「注入痕」については、後で詳述する。
【0028】
上記臓器は上記摘出後、ガラス化凍結を経た臓器であってもなくてもよい。本発明によれば、動物体躯からの臓器摘出と外来物注入との場所及び/又は時間を独立させることができることから、ガラス化凍結により品質を維持したまま搬送及び/又は保管された臓器を好ましく使用することができる。
ガラス化凍結を経た臓器としては、ガラス化凍結保存(例えば、長期間保存)されていた臓器等が挙げられる。
上記ガラス化凍結時に上記臓器を可塑性部材で被覆してもよい。
この場合、上記ガラス化凍結時に臓器を被覆する上記可塑性部材は、第1の態様における上記可塑性部材(位置決め治具として機能する部材)と同一でも異なってもよい。上記ガラス化凍結時に臓器を被覆する可塑性部材をそのまま、第1の態様における上記可塑性部材(位置決め治具として機能する部材)として使用することが、工程簡素化の観点では好ましい。
【0029】
上述のように、従来は、動物体躯(胎仔体躯等)をある程度切り開いて解体した状態で、動物体躯(胎仔体躯等)に付いた状態の臓器(後腎等)に上記針状部材を穿刺して外来物を注入することが行われている(例えば、非特許文献2参照)。
その結果、上記従来法では、腎動脈、腎静脈、尿管などの重要な脈管、腎盂などの空隙の多い腎門方向から腎実質を貫通して(上記針状部材を穿刺して)上記外来物を注入しなければならなかった。その結果、腎門は上記脈管、空隙が多いことから注入後の上記外来物が漏出するという問題があった。
加えて、腎門は、腎臓の発生に伴い腎動脈、腎静脈、尿管などの重要な脈管が集合する重要な組織であることから、後腎への上記外来物注入の際に腎門部を損傷することは極力避けなくてはならないにもかかわらず、従来の上記腎門方向からの外来物注入法は、腎組織に対する侵襲性が大きいという問題もあった。
【0030】
本発明において、上述の通り、上記臓器に形成された注入痕の少なくとも一部を上記可塑性部材により被覆しても、被覆しなくてもよい。上記のように被覆しなくても、本発明によれば、上記腎門方向等の上記脈管、空隙が多い方向からの外来物注入を回避することができることから、注入痕の被覆有無にかかわらず、上記ガラス化凍結における上記外来物の漏出を抑制することができる。また、本発明によれば、腎門部への損傷を回避することができることから、従来法よりも侵襲性が低い。
本発明において、特に、上記注入が、上記針状部材により行われる場合、上記臓器内を上記針状部材が通過する経路(後述する連通孔が形成される経路)が、緻密な構造を有する場合、上記外来物の漏出を抑制することができる。上記経路が、組織若しくは細胞によりある程度埋め戻される等の理由からである。
緻密な上記構造としては、臓器の管腔部(例えば、管腔臓器)、門部等よりも、管、空隙等が少ない若しくは管、空隙等がない構造(例えば、臓器の実質部(実質臓器、固形臓器等)が有する構造)が挙げられる。臓器の管腔部(例えば、管腔臓器)、門部等よりも、液体(好ましくは、上記外来物を含む液体)が難浸透性な緻密な構造が好ましく、組織(例えば、結合組織)若しくは細胞(例えば、間葉細胞)が緻密に充実した構造がより好ましい。上記臓器が後腎である場合、後腎間葉領域、腎皮質形成領域、Cap mesenchyme等の後腎間葉細胞が充実した構造を有することが好ましい。
【0031】
ここで、ガラス化凍結とは、上記臓器を液体窒素(沸点-196℃)、液体ヘリウム(沸点-269℃)、液体エタン(沸点-175℃)等のガラス化凍結用冷媒に接触させて水の結晶化(氷晶形成)を抑制して非晶質のガラス状態で凍結(好ましくは、いわゆる急速冷却による凍結、より好ましくは、いわゆる超急速冷却による凍結)することをいう。
ガラス化凍結によれば、水の結晶化に伴う体積膨張を抑制し得るため、細胞膜が破れる等のダメージ(凍害)を抑制し得る。
ガラス化凍結用冷媒との上記接触の方法としては特に制限はないが、液体の浸漬又は適用(フラッシュ)、蒸気の吹きかけ等が挙げられる。
上記ガラス化凍結用冷媒と接触は、複数の上記臓器を同時に支持できるガラス化凍結用支持具、クライオトップ、ストロー(例えば、移植用ストロー、先端が鋭利なストロー等)、キャピラリーピペット等のガラス化凍結用支持具を用いて行われても、用いて行われなくてもよいが、上記支持具を用いて行われることが好ましい。
上記支持具としては、複数の上記臓器を一度に一体として凍結し、移植材料の製造効率を高めることができる観点から、複数の上記臓器を同時に支持できる上記ガラス化凍結用支持具がより好ましい。
複数の上記臓器を同時に支持できる上記ガラス化凍結用支持具として、例えば、ガラス板、金属板、プラスチック板等の上に複数のくぼみを有し、当該くぼみに、複数の上記臓器を同時に支持できるチップないしプレート、
メッシュ状の網、不織布等に複数の上記臓器を同時に支持できる支持具等が挙げられる。
また、市販の支持具としては、CRYOTOP(登録商標;北里バイオファルマ製)等が挙げられる。
【0032】
上記ガラス化凍結の前に、上記臓器を任意のガラス化液に接触(浸漬、塗布等)させることが好ましい。
上記ガラス化液としては特に制限はないが、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エチレングリコール(EG)、プロパンジオール、グリセリン等の細胞浸透性凍害保護剤、及び、ショ糖(スクロース)、トレハロース、ソルビトール、デキストラン等の糖類、カルボキシル化ポリリジン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、不凍蛋白等の細胞非浸透性凍害保護剤を含有する溶液(好ましくは水溶液)が挙げられる。
上記ガラス化液に接触させる前に、上記臓器を任意の平衡液に接触(浸漬、塗布等)させる前処理を行っても行わなくてもよい。
【0033】
上記凍結工程の後に、上記ガラス化凍結後(好ましくは、ガラス化凍結保存後)の上記臓器を任意の融解液に接触(浸漬、塗布等)させてもさせなくてもよい。
上記融解液に接触させた後、任意の希釈液に接触(浸漬、塗布等)させてもさせなくてもよい。
【0034】
上記好ましい1つの実施形態において、上記浸透圧勾配による上記外来物の漏出を抑制する観点から、被覆工程の後に、上記臓器をガラス化液に接触させる工程を更に含むことが好ましい。
【0035】
以上処理後の臓器は、移植(好ましくは異種移植)前に上記基礎培地ないし基礎媒液で培養してもしなくてもよい。
【0036】
例えば、上記臓器を再生医療等製品として使用する場合、上記臓器に上記外来物(例えば、レシピエントと同じ動物種に由来する細胞)を注入した後に、ガラス化凍結して保存することが要求される場合があり得る。
一方、後述する注入痕が存在すると、上記ガラス化凍結処理時に、上記臓器内部と、外部の溶液(例えば、上記ガラス化処理液、平衡液等)との浸透圧勾配により、上記外来物が上記臓器から漏出してしまうという従来技術の問題があった。
また、ガラス化凍結用冷媒ないしガラス化処理液は、繰り返し使用したり、複数の試料に対して同時に併用することにより、汚染(例えば細胞汚染)のリスクを招き得る。
そこで、上記外来物漏出低減、及び、上記汚染リスク低減の観点から、上記ガラス化凍結時に上記臓器を可塑性部材で被覆してもよいし、被覆しなくてもよい。
上記ガラス化凍結時に上記臓器を被覆するために、第1の態様における上記可塑性部材(位置決め治具として使用した部材)をそのまま使用してもよい。
注入痕の被覆有無にかかわらず、本発明によれば、上記腎門方向等の上記脈管、空隙が多い方向からの外来物注入を回避することができることから、上記ガラス化凍結における上記外来物の漏出を抑制することができる。
本発明において、特に、上記注入が、上記針状部材により行われる場合、上記臓器内を上記針状部材が通過する経路(後述する連通孔が形成される経路)が、液が難浸透性な緻密な構造を有する場合、上記外来物の漏出を抑制することができる。
【0037】
また、上記問題に鑑み、上記臓器が、内部に注入された外来物と、注入痕とを有し、上記可塑性部材が上記注入痕の少なくとも一部を被覆していることも好ましい1つの実施形態として挙げられる。
ここで、「注入痕」とは、上記臓器内部に上記外来物を人工的に注入するために形成された孔を意味し、上記臓器の表面の孔のみならず、上記臓器内部の注入標的領域まで至る連通孔を意味する。上記「注入痕」は、例えば、針状部材等により形成され得る。
上記好ましい1つの実施形態によれば、上記表面の上記孔と、上記連通孔とからなる注入痕のうちの少なくとも一部、及び、上記表面の上記孔が上記ゲルにより被覆され得る。
これにより、上記臓器内部と、外部の溶液(例えば、上記ガラス化液、上記平衡液等)との浸透圧勾配による、上記外来物の漏出を抑制することができる。
【0038】
前記凍結工程の後に、上記臓器の表面を被覆した上記可塑性部材を除去する除去工程を含んでいてもいなくてもよい。上記除去後の臓器を移植ドナーとして移植に使用し得る観点から、上記除去工程を含んでいることが好ましい。
上記被覆した可塑性部材がゲルである場合、上記可塑性部材を、ゾル化温度への加熱、上記キレート処理等の任意のゾル化、又は、物理的圧力等により上記ゲルを除去することができる。
更に、任意の水溶液ないしはリン酸緩衝液、(流水)等の任意の洗浄液によって洗浄してもしなくてもよい。
上記除去工程は、複数回(例えば、段階的に)行っても行わなくてもよい。
【0039】
≪移植材料≫
本発明の第2の態様は、動物から摘出された臓器と、前記臓器内に注入された外来物と、を含み、前記臓器には、外来物が注入された領域の直上又は近傍に注入痕が形成されている移植材料である。
上記臓器の具体例及び好ましい例としては上述の通りである。
上記臓器が、内部に注入された外来物と、注入痕とを有し、上記ゲルが上記注入痕の少なくとも一部を被覆していることが好ましく、上記ゲルが上記注入痕の全てを被覆していることがより好ましく、上記ゲルが上記臓器の表面全てを被覆していることが更に好ましい。
上記外来物の具体例及び好ましい例としては上述の通りである。
上記注入痕については上述の通りである。
【実施例
【0040】
以下に本発明の実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で種々の応用が可能である。
【0041】
(材料)
緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現し、緑色蛍光を発するGFP発現ヒト間葉系幹細胞を吸引した先端を鋭く研磨した毛細管を用意した。
一方、ゼラチン粉末(富士フィルム和光純薬製)をpH7.2のHEPES緩衝TCM199培地に溶解し、濃度が10~15%(w/v)ゼラチン溶液を調製した。
【0042】
<実施例1>
DPF管理された野生型母豚から帝王切開により得たブタ胎仔から摘出した後腎を上記ゼラチン溶液に後腎を投入して、腎皮質形成領域(nephrogenic zone)の直上及び近傍の表面が露出するように上記後腎を上記ゼラチンゲルに半包埋(すなわち、後腎の上記ゲルに接触していない部分が存在する一方、後腎の上記ゲルに接触している部分が包埋)した。
【0043】
(位置決め工程)
図2は、ゼラチンゲルへの半包埋により位置決めされた後腎の顕微鏡写真を示す図である。
図2に示したように、上記ゼラチンゲルに半包埋されている後腎を35mmディッシュ(イワキ社製)上に置いて、腎皮質形成領域の直上及び近傍の表面が露出するように(上記ディッシュとは反対の上側を向くように)位置決めした。
【0044】
(外来物注入工程)
上記半包埋された後腎の被膜下の腎皮質形成領域の直上若しくは近傍の表面の1か所又は2か所にGFP発現ヒト間葉系幹細胞を吸引した上記毛細管を上記腎皮質形成領域へ最短の距離となるように穿刺し、外来物として上記ヒト間葉系幹細胞を上記腎皮質形成領域へ注入した。
また、上記半包埋された後腎の間葉領域の直上及び近傍の表面が露出するように(上記ディッシュとは反対の上側を向くように)位置決め後、広範囲に上記毛細管を上記間葉領域へ最短の距離となるように穿刺し、上記毛細管の先端を動かすことにより上記間葉領域の広範囲に上記ヒト間葉系幹細胞を注入した。
【0045】
(結果)
結果を図3~5に示す。
図3は、上記半包埋された後腎の被膜下の腎皮質形成領域の1か所にGFP発現細胞を注入した結果を示す顕微鏡写真を示す図である。
図4は、上記半包埋された後腎の被膜下の腎皮質形成領域の2か所にGFP発現細胞を注入した結果を示す顕微鏡写真を示す図である。
図5は、後腎間葉領域へ広範にGFP発現細胞を注入した結果を示す顕微鏡写真を示す図である。
図3~5に示した結果から明らかなように、動物体躯から摘出した臓器の所望の注入標的領域へ簡易に、外来物(GFP発現細胞)を注入できたことが分かる。
また、注入標的領域の直上及び近傍の表面から最短の距離で外来物を注入したことにより損傷が低減された、外来物が注入されている移植材料を提供することができるといえる。
【0046】
<実施例2>
DPF管理された野生型母豚から帝王切開により得たブタ胎仔から摘出した後腎を上記ゼラチン溶液に後腎を投入して上記後腎全体をゼラチンゲルにより被覆した。上記ゼラチンゲルで全被覆された後腎について、7.5質量%EG及び7.5質量%DMSOを凍害保護剤として含む平衡液4.5mlに室温(25~27℃)25分間浸漬して前処理を行った。
ついで、前処理後の後腎について、上記の2倍量である15質量%EG及び15質量%DMSOと0.5Mショ糖とを含むガラス化液に室温30分間浸漬した。
そして、上記ガラス化液に浸漬後の後腎について、支持具「クライオトップ」(北里バイオファルマ製)に乗せて液体窒素に投入して超急速に冷却し、ガラス化凍結した。
上記ガラス化凍結後の後腎をガラス化凍結保存容器に移し10日間の液体窒素内凍結保存後、融解は、1Mショ糖を含む37℃の融解液に1分間浸漬して行った。ついで、0.5Mショ糖含有希釈液に室温3分間、洗浄液にて5分間ずつ2回洗浄し、凍害保護剤を希釈及び除去した。
【0047】
(位置決め工程)
上記ガラス化凍結及び融解を経た上記ゼラチンゲルにより全被覆されている後腎を35mmディッシュ(イワキ社製)上に置いて、腎皮質形成領域の直上及び近傍の表面が上記ディッシュとは反対の上側を向くように位置決めした。
【0048】
(外来物注入工程)
上記全被覆された後腎の被膜下の腎皮質形成領域の直上若しくは近傍の表面の1か所又は2か所にGFP発現ヒト間葉系幹細胞を吸引した上記毛細管を上記腎皮質形成領域へ最短の距離となるように穿刺し、外来物として上記ヒト間葉系幹細胞を上記腎皮質形成領域へ注入した。
また、上記全被覆された後腎の間葉領域の直上及び近傍の表面が上記ディッシュとは反対側である上を向くように位置決め後、広範囲に上記毛細管を上記間葉領域へ最短の距離となるように穿刺し、上記毛細管の先端を動かすことにより上記間葉領域の広範囲に上記ヒト間葉系幹細胞を注入した。
【0049】
(結果)
実施例1と同様に、後腎の被膜下の腎皮質形成領域の1か所又は2か所にGFP発現細胞を注入した結果を示す顕微鏡写真が得られた。
また、実施例1と同様に、後腎間葉領域へ広範にGFP発現細胞を注入した結果を示す顕微鏡写真が得られた。
以上の結果から、動物体躯から摘出した臓器の所望の注入標的領域へ簡易に、外来物(GFP発現細胞)を注入できたことが分かる。
また、注入標的領域の直上及び近傍の表面から最短の距離で外来物を注入したことにより損傷が低減された、外来物が注入されている移植材料を提供することができるといえる。
【0050】
<実施例3及び比較例1>
(実施例3)
DPF管理された野生型母豚から帝王切開により得た35日齢ブタ胎仔から摘出した後腎を上記ゼラチン溶液に後腎を投入して、実施例1と同様に、腎皮質形成領域(nephrogenic zone)の直上及び近傍の表面が露出するように上記後腎を上記ゼラチンゲルに半包埋(すなわち、後腎の上記ゲルに接触していない部分が存在する一方、後腎の上記ゲルに接触している部分が包埋)した。
実施例1と同様に、上記ゼラチンゲルに半包埋されている後腎を35mmディッシュ(イワキ社製)上に置いて、腎皮質形成領域の直上及び近傍の表面が露出するように(上記ディッシュとは反対の上側を向くように)位置決めした。
上記半包埋された後腎の被膜下の腎皮質形成領域の直上若しくは近傍の表面の1か所に食用緑色色素溶液0.1μLを吸引した毛細管を上記腎皮質形成領域へ最短の距離となるように穿刺し、外来物として上記食用緑色色素溶液0.1μLを上記腎皮質形成領域へ注入した。
上記色素注入後の注入痕を有する後腎(上記注入痕は上記ゲルで被覆されていない)を生理食塩水中に静置し、注入10分後に実体顕微鏡下で色素の漏出を観察した。結果を図6に示す(n数=3)。
【0051】
(比較例1)
DPF管理された野生型母豚から帝王切開により得たブタ35日齢胎仔を断頭により死亡させた。非特許文献2に記載のように、両後肢の関節部を脊髄に沿って尾側から切り開いた。同様に、他の側面(背面)も切り裂いて、椎骨を体外に取り出した。体内に一対の腎臓(metanephros)が見えるようになった後、胎児をマイクロピンセットで固定した。その後、食用緑色色素溶液0.1μLを吸引した毛細管を腎門から腎皮膜方向に刺して腎被膜を破裂させないように注意深く注入した。
上記注入後の腎臓(metanephros)は、尿管及び膀胱がつながったまま、マイクロピンセットを使って胎児から切り離した。
上記色素注入後の注入痕を有する後腎(上記注入痕は上記ゲルで被覆されていない)を生理食塩水中に静置し、注入10分後に実体顕微鏡下で色素の漏出を観察した。結果を図7に示す(n数=3)。
【0052】
(結果)
図6に示した結果から明らかなように、本発明の方法で外来物の注入を行った実施例3の臓器では臓器内に緑色色素が留まり、外来物(緑色色素)の漏出は起こらなかった(n数=3)。後腎間葉細胞細胞等が、上記注入痕をある程度埋め戻したためと予想される。
非特許文献2に記載の従来法で外来物の注入を行った比較例1の臓器では、図7Aに示した結果から明らかなように、注入孔からの外来物(緑色色素)の漏出が生じていることが分かる(n数=3)。
図7Bに示した結果から明らかなように、外来物(緑色色素)の尿管への漏出も生じていることが分かる(n数=3)。
【0053】
<実施例4>
本発明者らは、以前に、Pdx1-Hes1遺伝子を有し、膵臓形成が阻害(膵臓においてβ細胞が欠損)されたブタ由来の胚(ホスト胚)に正常ブタ由来の胚細胞(ドナー胚細胞)を注入した後、これを仮親の体内で成長させることにより、ドナー由来の膵臓を持つキメラブタを作出している(Matsunari et al.,PNAS 110:4557-4562(2013))。このキメラブタの雄を、野生型雌ブタと自然交配することにより、常に一定の割合で膵臓形成が阻害(膵臓においてβ細胞が欠損)された新生仔を得ることができる。
本実施例4において使用する膵臓形成が阻害(膵臓においてβ細胞が欠損)されたブタ新生仔は、このようなキメラブタとの自然交配により取得した(特開2019-62929号公報)。
【0054】
図8は、膵臓形成が阻害(膵臓においてβ細胞が欠損)された上記ブタ新生仔を開腹した後の膵臓組織を示す図である。図8中、スケールバーは1cmである。
図8から明らかなように、正常の膵臓と異なり、断片的な(長径数ミリ)複数個の膵臓組織(矢頭)が形成されていることがわかる。上記の通り、膵臓組織が非常に小さいことから、ブタ体躯に付いた状態で毛細管により外来物を注入することは困難であることがわかる。
【0055】
上記複数の膵組織断片(矢頭)を切り取り、実施例1と同様に、ゼラチンゲルに半包埋後、35mmディッシュ(イワキ社製)上に置いて位置決めした。
半包埋された上記複数の膵臓組織各々にヒトiPS細胞由来膵前駆細胞を吸引した毛細管を穿刺し、外来物として上記ヒトiPS細胞由来膵前駆細胞を注入した。
【0056】
(結果)
図9図8に示した複数の膵組織断片のうちの1個に注入されたヒトiPS細胞由来膵前駆細胞塊の様子を示す図である。図9中、スケールバーは50μmである。
図9aは、DAPI(4',6-diamidino-2-phenylindole)染色による組織全体の細胞核の位置とアミラーゼの蛍光免疫染色結果を示す図である。
図9aから明らかなように、アミラーゼ陽性細胞が検出され、当該アミラーゼ陽性組織が上記ブタの膵臓組織であるといえる。
また、図9bは、PDX1発現の緑色蛍光標識二次抗体の蛍光免疫染色結果を示す図である。また、図9cは、HNA(human nuclear antigen)発現するヒト細胞核の蛍光免疫染色結果を示す図である。図9b及びcから明らかなように、PDX1及びHNA共陽性の細胞が検出され、前記共陽性であることから「ヒトiPS細胞由来膵前駆細胞」といえる。
図9dは、上記各蛍光検出の合成(merge)した結果を示す図である。図9eは、HE(ヘマトキシリン・エオジン)染色による膵細胞構造及び膵組織構造の確認結果を示す図である。
図9d及びeから明らかなように、細胞であって、β細胞が欠損したアミラーゼ陽性ブタ膵臓細胞組織中にヒトiPS細胞由来膵前駆細胞の特徴が検出され、上記組織中にヒトiPS細胞由来膵前駆細胞が注入されたといえる。
以上の結果から、動物体躯から摘出した臓器の所望の注入標的領域(膵組織断片)へ簡易に、外来物(ヒトiPS細胞由来膵前駆細胞)を注入できたことが分かる。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9