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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】塗工紙
(51)【国際特許分類】
   D21H 19/44 20060101AFI20240221BHJP
   D21H 19/40 20060101ALI20240221BHJP
【FI】
D21H19/44
D21H19/40
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2016172973
(22)【出願日】2016-09-05
(65)【公開番号】P2017048493
(43)【公開日】2017-03-09
【審査請求日】2019-05-15
【審判番号】
【審判請求日】2022-06-28
(31)【優先権主張番号】P 2015173479
(32)【優先日】2015-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100126985
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 充利
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 規之
(72)【発明者】
【氏名】外岡 遼
(72)【発明者】
【氏名】稲田 周平
(72)【発明者】
【氏名】菱沼 記之
(72)【発明者】
【氏名】吉松 丈博
【合議体】
【審判長】山崎 勝司
【審判官】稲葉 大紀
【審判官】藤井 眞吾
(56)【参考文献】
【文献】特開平7-97793(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B 1/00- 1/38
D21C 1/00-11/14
D21D 1/00-99/00
D21F 1/00-13/12
D21G 1/00- 9/00
D21H11/00-27/42
D21J 1/00- 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原紙、およびその上に設けられた顔料と接着剤を含む顔料塗工層を備え、
前記顔料がカオリンまたはクレーを含み、
前記顔料100重量部に対して5~10重量部の前記接着剤を含み、
前記接着剤が、全接着剤中、20~50重量%のラテックスを含み、
前記顔料塗工層の塗工量が片面当たり5~50g/mであり、
JIS-P8142による白紙光沢度が30%未満、かつ
ISO 15359に準じて測定した静的摩擦係数および動的摩擦係数において、静的摩擦係数よりも大きい動的摩擦係数を有する、塗工紙。
【請求項2】
前記接着剤が、全接着剤中、20~45重量%のラテックスを含む、請求項1に記載の塗工紙。
【請求項3】
印刷用塗工紙である、請求項1または2に記載の塗工紙。
【請求項4】
JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法 No.46 により測定した印刷インキ受理性が20~35である、請求項3に記載の塗工紙。
【請求項5】
原紙上に、顔料と接着剤を含む顔料塗工液をブレード塗工する工程を備え、
前記顔料がカオリンまたはクレーを含み、
前記顔料100重量部に対して5~10重量部の前記接着剤を含み、
前記接着剤が、全接着剤中、20~50重量%のラテックスを含み、
前記顔料塗工層の塗工量が片面当たり5~50g/mである、
請求項1~4のいずれかに記載の塗工紙の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塗工紙およびその製造方法に関する。より詳しくは、本発明はマット調印刷用塗工紙およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塗工紙は光沢塗工紙と艶消し塗工紙に大別される。光沢塗工紙には、従来高級印刷に用いられていたアート紙、スーパーアート紙、あるいはカタログ、パンフレットなどに用いられるコート紙等があり、印刷仕上がりが白紙光沢も印刷光沢も高いグロス調となる。艶消し塗工紙とは光沢塗工紙よりも白紙光沢や印刷光沢が低い塗工紙であり、ダル調塗工紙、マット調塗工紙がある。特にマット調塗工紙は、光沢塗工紙に比べて白紙光沢と印刷光沢の差異が大きく、印刷後の文字部が読みやすいことから、近年需要が増えている。
【0003】
一方、マット調塗工紙は光沢塗工紙に比べて表面の凹凸が大きいので、紙の表面に乗ったインキが沈み込みやすい。そのため、印刷濃度を上げるためにはインキを多めに転移させる必要がある。従って、マット調塗工紙はインキの転移量が多くなるので乾燥性が低下する傾向にある。インキの乾燥性が劣ると、印刷後の印字物を重ねた際にインキが他方に転移する「裏移り」の問題が発生しやすい。そのため、一般に、印刷物と紙との密着を防止するために澱粉等のパウダーを使用したり、重ねた後に擦れが生じないように静置したりする等の対策が取られている。特に両面印刷を行う場合は、上記「裏移り」が発生すると印刷画像が汚損され、印刷物の価値が著しく損なわれるため、片面印刷後の静置時間を長くとり、擦れても「裏移り」が発生しなくなるまでインキを乾燥させる必要がある。インキの乾燥性が劣るとこの静置時間が長くなるため、作業効率が低下する。さらに、両面印刷においては反対面に印刷を施す際に、ロール等により既に印刷された面の印刷画像が擦られるため、インキの乾燥性が劣ると印刷画像が汚損されるおそれがある。よって、印刷速度の向上や両面印刷に対応するため、インキが速やかに乾燥する性能が求められている。
【0004】
さらに、塗工紙には、用紙が滑りやすくなって紙が揃わなくなり印刷機へのセットが困難になる、あるいは断裁が困難になる等の不具合を回避するために、紙の摩擦係数を調整することが検討されてきた。一般に、紙においては、動的摩擦係数は静的摩擦係数よりも小さくなることが知られている。このため、静的摩擦係数をある程度高くすれば適度に高い動的摩擦係数が得られるので、従来の技術は静的摩擦係数を調整することを主体に焦点が当てられていた。動的摩擦係数と静的摩擦係数との関係に着目した技術もあるが(例えば特許文献1)、当該技術も動的摩擦係数が静的摩擦係数よりも小さいことを前提としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平08-060597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
塗工紙の紙揃い性が悪いと裁断が困難になったり、また印刷機内で印刷用塗工紙が過度に滑りすぎると印刷不良が発生したりするが、発明者らは静的摩擦係数を高くするのみではこの不良を解決できないこと、さらにはマット調の印刷用塗工紙でこの傾向が特に高いことを見出した。そして発明者らは、塗工紙に静的摩擦係数よりも高い動的摩擦係数を付与することで、静的状態における不具合および動的状態における不具合を解消できることを見出した。以上を鑑み、本発明は、インキの乾燥性に優れ、かつ静的摩擦係数よりも高い動的摩擦係数を有する、塗工紙特にマット調印刷用塗工紙を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題は、以下の本発明により解決される。
[1]JIS-P8142による白紙光沢度が30%未満、かつ
ISO 15359に準じて測定した静的摩擦係数および動的摩擦係数において、静的摩擦係数よりも大きい動的摩擦係数を有する、塗工紙。
[2]原紙、およびその上に設けられた顔料と接着剤を含む顔料塗工層を備え、
前記顔料がカオリンまたはクレーを含み、
前記接着剤が、全接着剤中、20~50重量%のラテックスを含む、
請求項1に記載の塗工紙。
[3]印刷用塗工紙である、[1]または[2]に記載の塗工紙。
[4]JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法 No.46 により測定した印刷インキ受理性が20~35である、[3]に記載の塗工紙。[5]原紙上に、顔料と接着剤を含む顔料塗工液をブレード塗工する工程を備え、
前記顔料がカオリンまたはクレーを含み、
前記接着剤が、全接着剤中、20~50重量%のラテックスを含む、
[1]~[4]のいずれかに記載の塗工紙の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、紙揃い性に優れる塗工紙、特にマット調印刷用塗工紙を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明において「~」はその端値を含む。すなわち「X~Y」はXおよびYの値を含む。また、「XまたはY」はX、Yのいずれか1つ、あるいは双方を意味する。
【0010】
1.塗工紙
塗工紙とは原紙の上に、クリア塗工層、顔料塗工層等の塗工層を備える紙である。本発明の塗工紙は、JIS-P8142による白紙光沢度が30%未満、かつISO 15359に準じて測定した静的摩擦係数および動的摩擦係数において、静的摩擦係数よりも大きい動的摩擦係数を有する。本発明の塗工紙は印刷用塗工紙であることが好ましく、印刷用塗工紙とは顔料塗工層を設けた用紙表面にオフセット印刷、グラビア印刷、オンデマンド印刷(レーザー方式、インクジェット方式、電子写真方式等)などの印刷方式による商業印刷等を施して用いられる用紙をいう。また塗工紙の用途は、例えばチラシ用紙、書籍用紙、文庫カバー用紙、新聞用紙などの各種印刷用紙、各種コピー用紙、各種インクジェット印刷用紙、感熱紙、感圧紙、クラフト用紙、圧着記録紙、包装用紙、紙容器原紙、板紙、薄葉紙、色上質紙、水溶紙、ファンシーペーパー、壁紙、繊維板、写真用紙、含浸用原紙、消臭紙、不燃紙、難燃紙、プリンテッドエレクトロニクス用紙、テープ用紙、封筒用紙、化粧材用紙、バッテリー用セパレーター、ODP用紙、各種衛生用紙、たばこ用紙、カップ原紙、研磨紙、合成紙などが挙げられるが、これらに限定されない。中でも一態様において、本発明の塗工紙は、オフセット印刷やグラビア印刷等の各種印刷方式に供される印刷用紙として好適である。以下、印刷用塗工紙を例にして本発明の塗工紙を説明する。
【0011】
(1)白紙光沢度
白紙光沢度はマット調の度合いを示す指標であり、本発明においてはJIS-P8142に従い測定される。本発明の印刷用塗工紙の白紙光沢度は30%未満である。白紙光沢度の下限は限定されないが、15%以上が好ましい。
【0012】
(2)印刷インキ受理性
印刷インキ受理性はインキの乾燥しやすさを示す指標であり、本発明においてはJAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法 No.46に準じて測定される。具体的に印刷インキ受理性は、一定量のインキを紙に塗布し一定時間経過後に当該インキをふき取り、インキを塗布する前と後とでの白色度の違いにより評価される。値が高いほど、インキの乾燥性に優れることを意味する。本発明において印刷インキ受理性は20以上が好ましく、21以上がより好ましく、22以上がさらに好ましい。また印刷インキ受理性は35以下が好ましく、31以下がより好ましく、30以下がさらに好ましく、25以下がよりさらに好ましい。印刷インキ受理性が20未満であるとインキの乾燥性が十分ではない。一方、印刷インキ受理性が35を超えるとインキの乾燥性が過剰となり、印刷光沢度が低下する。
【0013】
(3)摩擦係数
本発明の印刷用塗工紙は静的摩擦係数よりも大きい動的摩擦係数を有する。摩擦係数はISO 15359に準じて測定される。ISO 15359では、同一サンプルを用いて静的摩擦係数および動的摩擦係数を3回ずつ測定し、静的摩擦係数については1回目と3回目の値を採用し、動的摩擦係数については3回目の値を採用する。本発明においては、静的摩擦係数については1回目の値を採用する。限定されないが、[(動的摩擦係数)-(静的摩擦係数)]/(静的摩擦係数)で算出される増加率が、2~25%であることが好ましく、3~20%であることがより好ましい。また、具体的な摩擦係数は限定されないが、静的摩擦係数は0.3~0.7であることが好ましく、0.4~0.6であることがより好ましい。摩擦係数がこの範囲にあると、前記の印刷前における不具合および印刷機内での不具合が解消される。
【0014】
(4)原紙
1)パルプ
本発明の原紙には化学パルプ、機械パルプ、古紙パルプなど公知のパルプを使用できるが、化学パルプを使用することが好ましい。
化学パルプには、クラフトパルプ法により製造したものや、亜硫酸パルプ法により製造されたもの、晒化学パルプや未晒化学パルプ等があり、本発明においてはこれらを使用することができるが、クラフト法により製造した化学パルプが生産コストおよび品質の面から好適である。原料パルプに占める化学パルプの含有量は、白色度等の観点から、全パルプ中60重量%以上であり、80重量%以上がより好ましく、90重量%以上がさらに好ましく、95重量%以上が特に好ましい。
【0015】
2)填料
本発明においては原紙に公知の填料を用いてよい。
公知の填料としては、重質炭酸カルシム、軽質炭酸カルシウム、クレー、シリカ、軽質炭酸カルシウム-シリカ複合物、カオリン、焼成カオリン、デラミカオリン、ホワイトカーボン、タルク、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、酸化亜鉛、酸化チタン、ケイ酸ナトリウムの鉱産による中和で製造される非晶質シリカ等の無機填料や、尿素-ホルマリン樹脂、メラミン系樹脂、ポリスチレン樹脂、フェノール樹脂などの有機填料が挙げられる。この中でも、中性抄紙やアルカリ抄紙における代表的な填料である重質炭酸カルシウムや軽質炭酸カルシウムが不透明度向上のためにも好ましく使用される。紙中填料率は特に制限されないが、1~40重量%が好ましく、10~35重量%がさらに好ましい。
【0016】
3)その他
本発明においては、公知の製紙用添加剤も使用できる。
例えば、硫酸バンドや各種のアニオン性、カチオン性、ノニオン性あるいは、両性の歩留まり向上剤、濾水性向上剤、各種紙力増強剤や内添サイズ剤等の抄紙用内添助剤を必要に応じて使用することができる。乾燥紙力向上剤としてはポリアクリルアミド、カチオン化澱粉などが挙げられ、湿潤紙力向上剤としてはポリアミドアミンエピクロロヒドリンなどが挙げられる。これらの薬品は地合や操業性などの影響の無い範囲で添加される。内添サイズ剤としてはアルキルケテンダイマーやアルケニル無水コハク酸、ロジンサイズ剤などが挙げられる。更に、染料、有色顔料、蛍光増白剤、pH調整剤、消泡剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤等も必要に応じて添加することができる。
【0017】
4)原紙の坪量
本発明の原紙の坪量は40~160g/mが好ましく、45~150g/mがより好ましく、50~130g/mがさらに好ましいが、それらに限定されない。また本発明の原紙は、単層抄きでも多層抄きでもよいが、単層抄きが好ましい。
【0018】
(5)顔料塗工層
1)顔料
顔料塗工層とは顔料を含む塗工層である。顔料塗工層は1層であってもよく、2層以上であってもよい。
本発明においては公知の顔料を用いることができる。その例としては、カオリン、クレー、エンジニアードカオリン、デラミネーテッドクレー、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、タルク、二酸化チタン、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、酸化亜鉛、珪酸、珪酸塩、コロイダルシリカ、サチンホワイトなどの無機顔料および密実型、中空型、またはコアーシェル型などの有機顔料が挙げられる。これらの顔料は複数種を組合せて使用してもよい。
【0019】
前記物性を達成するために、本発明においては、炭酸カルシウム、カオリン、またはクレーを用いることが好ましい。当該顔料の合計量は、顔料100重量部あたり、20重量部以上50重量部未満であることが好ましく、20~48重量部がより好ましく、30~47重量部がさらに好ましい。炭酸カルシウムとしては重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム等の炭酸カルシウムが好ましい。また、軽質炭酸カルシウムとしては、特許5274077号公報等に記載された、パルプ製造工程の苛性化工程で製造された軽質炭酸カルシウム(苛性化軽質炭酸カルシウム)を使用してもよい。
【0020】
本発明においては、沈降法により粒度分布を測定した際に、粒子径が2μm以下の粒子の割合が80%以上である顔料を使用することが好ましい。当該割合は85%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。沈降法による顔料の粒度分布は、島津製作所社製、セディグラフ5100等により測定可能である。
【0021】
本発明の顔料は、体積50%平均粒子径(D50)が、0.5~6.0μmであることが好ましく、例えば炭酸カルシウムのD50は、0.5~6.0μmであることが好ましく、0.5~2.0μmであることがより好ましい。カオリンまたはクレーのD50は1.0~6.0μmであることが好ましく、2.0~5.5μmであることがより好ましい。これらの顔料の粒子径は、Malvern社製MastersizerSなどのレーザー回折式粒度分布測定機等により測定可能である。
【0022】
2)接着剤
顔料塗工層はマトリックスとして接着剤(バインダー)を含む。本発明で使用する接着剤は限定されず、公知の接着剤を使用できる。接着剤としては、スチレン・ブタジエン系、スチレン・アクリル系、エチレン・酢酸ビニル系、ブタジエン・メチルメタクリレート系、酢酸ビニル・ブチルアクリレート系等の各種共重合、無水マレイン酸共重合体、アクリル酸・メチルメタクリレート系共重合体等のラテックス;完全ケン化ポリビニルアルコール、部分ケン化ポリビニルアルコール、カルボキシ変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル変性ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール類;カゼイン、大豆蛋白、合成蛋白等の蛋白質類;酸化澱粉、陽性澱粉、尿素燐酸エステル化澱粉、ヒドロキシエチルエーテル化澱粉などのエーテル化澱粉、デキストリン等の澱粉類;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース等のセルロース誘導体等が挙げられる。これらの複数種を組合せて使用できる。
【0023】
接着剤の量は、印刷適性、塗工適性の点から、顔料100重量部に対して5~20重量部であることが好ましく、8~16重量部であることがより好ましい。接着剤の総量が20重量部を越える場合、顔料塗工液の粘度が高くなり塗工時に操業トラブルが生じ易い。さらに、インキの乾燥性が低下する傾向が見られる。一方、接着剤の総量が5重量部未満であると十分な表面強度を得にくくなる。
【0024】
本発明においては、前記物性を達成するために、全接着剤中20~55重量%のラテックスを含むことが好ましく、25~45重量%のラテックスを含むことが好ましい。また、2層以上の顔料塗工層を設けるときには、原紙から最も離れた最外顔料塗工層において、全接着剤中20~80重量%のラテックスを含むことが好ましく、25~75重量%のラテックスを含むことがさらに好ましく、25~55重量%のラテックスを含むことがより好ましい。他の接着剤としては澱粉類特に酸化澱粉やデキストリンを用いることが特に好ましい。澱粉類が好ましい理由として、ラテックスと比較すると澱粉類は顔料塗工液の保水性が高くなるため、原紙への塗工液の沈み込みが生じにくく、顔料塗工層で原紙を効果的に被覆することができる。言い換えれば、澱粉類を使用すると、顔料塗工層による原紙の被覆性が良好となる。その結果、印刷品質、特に印刷光沢度の向上と、インキ乾燥性の向上が期待できる。
【0025】
3)その他
顔料塗工層は、必要に応じて、分散剤、増粘剤、保水剤、消泡剤、耐水化剤、着色剤(染料、顔料)、蛍光染料等、通常の塗工紙用顔料に配合される各種助剤を含んでいてもよい。
【0026】
2.製造方法
本発明の印刷用塗工紙は公知の方法で製造できるが、原紙上に、顔料と接着剤を含む顔料塗工液をブレード塗工することにより製造することが好ましい。
【0027】
(1)原紙の調製
原紙についてはすでに述べたとおりである。原紙は公知の抄紙方法で製造される。
例えば、トップワイヤー等を含む長網抄紙機、オントップフォーマー、ギャップフォーマ、丸網抄紙機、長網抄紙機と丸網抄紙機を併用した板紙抄紙機、ヤンキードライヤーマシン等を用いて行うことができる。抄紙時のpHは、酸性、中性、アルカリ性のいずれでもよいが、中性またはアルカリ性が好ましい。抄紙速度も特に限定されない。
【0028】
(2)原紙の平滑化処理
得られた原紙に顔料塗工液を塗工する前に、各種カレンダー装置により原紙に平滑化処理を施すことが好ましい。かかるカレンダー装置としては、スーパーカレンダー、ソフトカレンダー等の一般に使用されているカレンダー装置が適宜使用できる。カレンダー仕上げ条件としては、剛性ロールの温度、カレンダー圧力、ニップ数、ロール速度、カレンダー前の紙水分等が、要求される品質に応じて適宜選択される。
【0029】
(3)顔料塗工液の調製
本発明の顔料塗工液は顔料、接着剤、および必要に応じて添加剤を水に分散または溶解することで調製できる。前述顔料塗工層を形成できるように各成分の配合は調整される。ブレード塗工を行う場合は、顔料塗工液の固形分濃度は40~70重量%が好ましく、より好ましくは60~70重量%である。顔料塗工液の粘度は室温にて60rpmで測定したB型粘度が500~3000mPa・sの範囲であることが好ましい。
【0030】
(4)塗工方法
塗工方法は限定されず、ロールコーター、ブレードコーター等の公知の塗工機を用いることができる。塗工速度も特に限定されないが、ブレードコーターの場合は400~1800m/分、ロールコーターの場合は400~2000m/分が好ましい。本発明においてはブレードコーターを用いることが好ましい。
【0031】
顔料塗工層は1層または複数層設けることができる。また、原紙の上にクリア塗工層を設け、その上に顔料塗工層を設けてもよい。
【0032】
本発明における顔料塗工層の塗工量(g/m)は、片面あたり固形分で2g/m以上が好ましく、5g/m以上がより好ましく、10g/m以上がさらに好ましい。塗工量が5g/m未満では、紙基材表面の凹凸を十分に覆うことができないため、印刷インキの受理性が著しく低下することがある。一方、顔料塗工層の塗工量は、50g/m以下が好ましく、40g/m以下がより好ましく、35g/m以下がさらに好ましい。
【0033】
本発明の印刷用塗工紙の坪量は、特に限定されないが、50g/m以上、260g/m以下程度である。
【0034】
(5)その他の工程
湿潤状態の塗工層を乾燥させる方法は限定されず、例えば蒸気加熱シリンダ、加熱熱風エアドライヤ、ガスヒータードライヤ、電気ヒータードライヤ、赤外線ヒータードライヤ等を用いることができる。
【0035】
本発明の印刷用塗工紙は、湿潤状態の塗工層を乾燥させた後に各種カレンダー装置により平滑化処理を施してもよい。かかるカレンダー装置としては、スーパーカレンダー、ソフトカレンダー等の一般に使用されているカレンダー装置が適宜使用できる。カレンダー仕上げ条件としては、剛性ロールの温度、カレンダー圧力、ニップ数、ロール速度、カレンダー前の紙水分等が、要求される品質に応じて適宜選択される。
【実施例
【0036】
以下に実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するがこれらによって本発明は限定されない。重量部および重量%は固形分換算の値である。
【0037】
<評価方法>
(1)白紙光沢度
JIS-P8142に基づいて測定した。
(2)印刷インキ受理性
JAPPAN TAPPI 紙パルプ試験方法No.46:紙及び板紙-印刷インキ受理性試験方法-K&Nインキ法に基づいて測定した。白色度の測定はUV光を含む条件(UV-In)で測定を行った。
(3)静的摩擦係数および動的摩擦係数
ISO 15359に準じて測定した。ただし、3回の繰返し測定において、静的摩擦係数は1回目の測定値を採用し、動的摩擦係数は3回目の測定値を採用した。
【0038】
(4)インキ乾燥性
ローランド社製オフセット枚葉印刷機(4色)にてオフセット枚葉用インキ(東洋インキ製NEX-M)を用い、印刷速度8000枚/hrでベタ部のインキ着肉濃度が墨2.00となる様に印刷したあと、墨ベタ印刷部を印刷直後から10分ごとに指先で触り、インキ乾燥の速さの程度を官能評価した。評価が4、3であれば実用上問題はない。
4:きわめて良好
3:良好
2:若干劣る
1:劣る
【0039】
(5)インキ擦れ
ローランド社製オフセット枚葉印刷機(4色)にてオフセット枚葉用インキ(東洋インキ製NEX-M)を用い、印刷速度8000枚/hrでベタ部のインキ着肉濃度が墨1.80となる様に印刷したあと、JIS P8111に基づき24時間調湿し、学振型摩擦堅牢度試験機により、墨ベタ印刷部が白紙部に合わさるように500gfの荷重をかけて1回擦り合わせ、白紙部に転移したインキをインキ擦れとして目視評価した。評価が4、3であれば実用上問題はない。
4:きわめて良好
3:良好
2:若干劣る
1:劣る
【0040】
(6)網点ムラ
ローランド社製オフセット枚葉印刷機(4色)にてオフセット枚葉用インキ(東洋インキ(株)製NEX-M)を用い、印刷速度8000枚/hrでベタ部のインキ着肉濃度が藍1.60、紅1.50となる様に藍紅(CM)の順に印刷した。得られた印刷物の藍紅(CM)ハーフトーン(50%)印刷部の着肉ムラを目視で評価した。評価が4、3であれば実用上問題はない。
4:きわめて良好
3:良好
2:若干劣る
1:劣る
【0041】
(7)印刷光沢度(光沢度差)
ローランド社製オフセット枚葉印刷機(4色)にてオフセット枚葉用インキ(東洋インキ(株)製NEX-M)を用い、印刷速度8000枚/hrでベタ部のインキ着肉濃度が藍1.60、紅1.50となる様に藍紅(CM)の順に印刷した。得られた印刷物の藍紅(CM)ベタ印刷部の光沢度を、JIS P-8142に基づいて測定した。
印刷光沢度から白紙光沢度を差し引いた値を光沢度差とし、光沢度差が25以上であれば印刷部と白紙部の光沢の差異が十分に得られており、実用上問題はない。
光沢度差(%)=印刷光沢度(%)-白紙光沢度(%)
【0042】
(8)印刷操業性(紙揃い)
ローランド社製オフセット枚葉印刷機(4色)にてオフセット枚葉用インキ(東洋インキ(株)製NEX-M)を用い、印刷速度8000枚/hrでベタ部のインキ着肉濃度が墨1.80となるように500部を印刷した後、印刷物の紙揃いを目視で評価した。評価が4、3であれば実用上問題はない。
4:きわめて良好
3:良好
2:若干劣る
1:劣る
【0043】
[実施例1]
顔料として重質炭酸カルシウムスラリー(IMERYS社製、商品名:カービタル97、粒子径が2μm以下の粒子の割合:97%、D50=0.86μm)55重量部(固形分)および2級クレー(IMERYS社製、商品名:KCS、粒子径が2μm以下の粒子の割合:85%、D50=4.9μm)45重量部(固形分)を用い、これに接着剤としてスチレン・ブタジエン共重合ラテックスを4重量部、酸化澱粉(日本コーンスターチ(株)製、商品名:SK200)を6重量部配合して、さらに水を加えて固形分濃度66重量%の顔料塗工液1を得た。
【0044】
原紙として、化学パルプ100重量%、填料として軽質炭酸カルシウムを13重量%含有した、密度0.73g/cm、坪量98g/mの上質紙を準備した。当該原紙上に、顔料塗工液1をブレードコーターで片面あたりの乾燥塗工量が15.0g/mとなるように両面塗工し、その後乾燥して印刷用塗工紙を得た。
【0045】
[実施例2]
顔料として苛性化軽質炭酸カルシウムスラリー1(D50=1.02μm)55重量部(固形分)および2級クレー(IMERYS社製、商品名:KCS、D50=4.9μm)45重量部(固形分)を用い、これに接着剤としてスチレン・ブタジエン共重合ラテックス1(A&L社製、商品名:PB1537)を4重量部、酸化澱粉(日本コーンスターチ社製、商品名:SK200)を6重量部配合して、さらに水を加えて固形分濃度66重量%の顔料塗工液1’を得た。
顔料塗工液1に代えて顔料塗工液1’を使用した以外は、実施例1と同様の方法にて印刷用塗工紙を得た。
【0046】
[比較例1]
顔料として重質炭酸カルシウムスラリー(IMERYS社製、商品名:カービタル97、粒子径が2μm以下の粒子の割合:97%、D50=0.86μm)100重量部(固形分)を用い、これに接着剤としてスチレン・ブタジエン共重合ラテックスを8重量部、酸化澱粉(日本コーンスターチ(株)製、商品名:SK200)を6重量部配合して、さらに水を加えて固形分濃度66重量%の顔料塗工液2を得た。顔料塗工液1に代えて顔料塗工液2を使用した以外は、実施例1と同様の方法にて印刷用塗工紙を得た。
【0047】
[比較例2]
顔料として重質炭酸カルシウムスラリー(IMERYS社製、商品名:カービタル97、粒子径が2μm以下の粒子の割合:97%、D50=0.86μm)55重量部(固形分)および2級クレー(IMERYS社製、商品名:KCS、粒子径が2μm以下の粒子の割合:85%、D50=4.9μm)45重量部(固形分)を用い、これに接着剤としてスチレン・ブタジエン共重合ラテックスを7重量部、酸化澱粉(日本コーンスターチ(株)社製、商品名:SK200)を3重量部配合して、さらに水を加えて固形分濃度66重量%の顔料塗工液3を得た。顔料塗工液1に代えて顔料塗工液3を使用した以外は、実施例1と同様の方法にて印刷用塗工紙を得た。
これらの結果を表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
表1から、本発明の印刷用塗工紙は、マット調印刷用塗工紙であり、インキ速乾性に優れ、かつ静的摩擦係数よりも高い動的摩擦係数を有することが明らかである。