(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】ラミネート材
(51)【国際特許分類】
B32B 3/30 20060101AFI20240221BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20240221BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20240221BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20240221BHJP
H01G 2/10 20060101ALI20240221BHJP
H01G 4/224 20060101ALI20240221BHJP
H01G 9/08 20060101ALI20240221BHJP
H01G 11/78 20130101ALI20240221BHJP
H01M 50/10 20210101ALI20240221BHJP
【FI】
B32B3/30
B32B15/08 E
B32B15/08 N
B32B27/18 Z
B65D65/40 D
H01G2/10 C
H01G4/224 200
H01G9/08 E
H01G11/78
H01M50/10
(21)【出願番号】P 2018133930
(22)【出願日】2018-07-17
【審査請求日】2021-06-02
【審判番号】
【審判請求日】2022-10-25
(73)【特許権者】
【識別番号】501428187
【氏名又は名称】株式会社レゾナック・パッケージング
(74)【代理人】
【識別番号】100109911
【氏名又は名称】清水 義仁
(74)【代理人】
【識別番号】100071168
【氏名又は名称】清水 久義
(74)【代理人】
【識別番号】100099885
【氏名又は名称】高田 健市
(72)【発明者】
【氏名】南堀 勇二
【合議体】
【審判長】金丸 治之
【審判官】山崎 勝司
【審判官】西本 浩司
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-101764(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B65D 65/00-65/46
H01M 50/00-50/198
H01G 11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外側層と、内側層と、前記外側層と内側層との間に配設された金属箔層とを含むラミネ
ート材であり、
前記内側層は1層ないし複数層からなり、
前記内側層の最内層が、熱融着性樹脂と滑剤と粗面化材とを含み、滑剤濃度が1000
ppm~3000ppmであり、粗面化材含有率が1wt%~5wt%の樹脂組成物から
なり、
前記内側層の最内層の表面に、表面高さの平均値を基準高さとするとき、1mm
2につ
き前記基準高さよりも0.3μm以上高い凸部を
4個以上有し、
前記外側層の表面に、前記内側層の最内層の表面に析出した滑剤が点状に転写され、滑
剤転写量が0.4μg/cm
2以下であ
り、
前記滑剤転写量は、前記外側層の表面にアセトンを接触させた状態で3分間放置した後、アセトンを拭き取り、この拭き取った液中に含まれる滑剤量をガスクロマトグラフを用いて測定、分析することにより求められるものであることを特徴とするラミネート材。
【請求項2】
前記内側層の最内層の表面において前記基準高さよりも0.3μm以上高い部分の面積
率が20%~80%である請求項1に記載のラミネート材。
【請求項3】
前記内側層の表面の中心線平均粗さRaが0.05μm~1μmである請求項1または
2に記載のラミネート材。
【請求項4】
前記滑剤は少なくとも脂肪族アマイドを含む請求項1~3のいずれか1項に記載のラミ
ネート材。
【請求項5】
前記内側層の最内層を構成する樹脂組成物の熱融着性樹脂が、共重合成分としてプロピ
レンおよびプロピレンを除く他の共重合成分を含むランダム共重合体を主成分とする請求
項1~4のいずれか1項に記載のラミネート材。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のラミネート材の成形体からなる外装ケース。
【請求項7】
蓄電デバイス本体部と、
請求項1~5のいずれか1項に記載のラミネート材および/または請求項6に記載の蓄
電デバイス用外装ケースからなる外装部材とを備え、
前記蓄電デバイス本体部が、前記外装部材で外装されていることを特徴とする蓄電デバ
イス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノートパソコン用、携帯電話用、車載用、定置型の二次電池およびキャパシタ等の蓄電デバイス、食品、医薬品の包装に用いられるラミネート材、およびその関連技術に関する。
【0002】
なお、本願の特許請求の範囲及び明細書において、「中心線平均粗さ(Ra)」の語は、JIS B0601-2001に準拠して測定される中心線平均粗さ(Ra)を意味する。
【背景技術】
【0003】
上記の包装材としては、金属箔の両面に樹脂層を貼り合わせたラミネート材が用いられている。上記ラミネート材は張出成形や深絞り成形によって立体形状に成形することによってケースの収容空間を確保することができる(特許文献1、2参照)。
【0004】
そのため、使用箇所の空間に合わせて成形を行うことが可能なのだが、例えば二次電池の場合、必要最小限の空間で立体形状を設けているため、装置の筐体内で他の回路と不用意に接触しないように粘着テープで固定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6249062号公報
【文献】特開2003-288865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、各層を貼り合わせて作製されたラミネート材はロールに巻き取られ、成形加工までの間はロールで保管される。ラミネート材の内側樹脂層にはブロッキング防止のために滑剤が含まれ、滑剤が温度により析出することでスベリ性を与えている。ロールに巻き重ねられたラミネート材は、ケースの外面となる外側樹脂層と内面となる内側樹脂層が接触しているので、内側樹脂層に配合され、表面に析出した滑剤が外側樹脂層に転写される。外側樹脂層に転写された滑剤は立体形状に成形する際に滑り性を高める効果があり有用である。
【0007】
しかし、完成した製品ケースの外面に付着している滑剤は粘着テープの密着性を低下させるため、ケースからテープが剥がれ易くなりケースが固定されなくなることから回路内を破壊する可能性もある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述した背景技術に鑑み、内側層から外側層に転写される滑剤の転写量を制御して、粘着テープの密着性を低下させないラミネート材の提供を目的とする。
【0009】
即ち、本発明は下記[1]~[7]に記載の構成を有する。
【0010】
[1]外側層と、内側層と、前記外側層と内側層との間に配設された金属箔層とを含むラミネート材であり、
前記内側層は1層ないし複数層からなり、
前記内側層の最内層が、熱融着性樹脂と滑剤とを含み、滑剤濃度が1000ppm~5000ppmの樹脂組成物からなり、
前記内側層の最内層の表面に、表面高さの平均値を基準高さとするとき、1mm2につき前記基準高さよりも0.3μm以上高い凸部を1個以上有していることを特徴とするラミネート材。
【0011】
[2]前記内側層の最内層の表面において前記基準高さよりも0.3μm以上高い部分の面積率が20%~80%である前項1に記載のラミネート材。
【0012】
[3]前記内側層の表面の中心線平均粗さRaが0.05μm~1μmである前項1または2に記載のラミネート材。
【0013】
[4]前記滑剤は少なくとも脂肪族アマイドを含む前項1~3のいずれか1項に記載のラミネート材。
【0014】
[5]前記内側層の最内層を構成する樹脂組成物の熱融着性樹脂が、共重合成分としてプロピレンおよびプロピレンを除く他の共重合成分を含むランダム共重合体を主成分する前項1~4のいずれか1項に記載のラミネート材。
【0015】
[6]前項1~5のいずれか1項に記載のラミネート材の成形体からなる外装ケース。
【0016】
[7]蓄電デバイス本体部と、
前項1~5のいずれか1項に記載のラミネート材および/または前項6に記載の蓄電デバイス用外装ケースからなる外装部材とを備え、
前記蓄電デバイス本体部が、前記外装部材で外装されていることを特徴とする蓄電デバイス。
【発明の効果】
【0017】
上記[1]に記載のラミネート材は、内側層の最内層を構成する樹脂組成物が1000ppm~5000ppmの滑剤を含み、最内層表面において基準値よりも0.3μm以上高い凸部を1mm2につき1個以上有している。かかる内側層の最内層表面の凹凸構造により、最内層が外側層に点状に接触し、最内層の表面に析出した滑剤が外側層に点状に転写されて転写量が抑制される。そして、滑剤の転写量が抑制されることで、外側層に滑り性を付与しつつ、粘着テープの密着性の低下を防ぐことができる。
【0018】
上記[2]に記載のラミネート材は、内側層の最内層の表面において基準値よりも0.3μm以上高い部分の面積率が20%~80%であるから、滑剤の転写量を適正値に制御できる。
【0019】
上記[3]に記載のラミネート材は、内側層の最内層の表面の中心線平均粗さRaが0.05μm~1μmの表面凹凸であるから、滑剤の転写量を適正値に制御できる。
【0020】
上記[4]に記載のラミネート材は、内側層の最内層に含まれる滑剤が析出し易く転写し易い脂肪族アマイドであるから、転写量を抑制する意義が大きい。
【0021】
上記[5]に記載のラミネート材は、内側層の最内層を構成する樹脂組成物の熱融着性樹脂が共重合成分としてプロピレンおよびプロピレンを除く他の共重合成分を含有するランダム共重合体であり柔らかいので、滑剤が表面に析出しやすい。このため、低濃度の滑剤でも表面に析出させることができ、滑剤の析出量に基づいて転写量を予測しやすい。
【0022】
上記[6]に記載の外装ケースは、上記[1]~[5]のいずれかに記載されたラミネート材の成形体であり、ラミネート材は、内側層の最内層は該層に含まれる滑剤によって滑り性が良く、外側層は最内層から転写された滑剤によって滑り性を維持しつつテープ密着性を良くすることができる。
【0023】
上記[7]に記載の蓄電デバイスによれば、外装部材の外側であるラミネート材の外側層に内側層の最内層から転写された滑剤量が抑制されているので、粘着テープの密着性が良い。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明にかかるラミネート材の一実施形態の断面図である。
【
図3A】内側層表面の凸部の数を説明する図である。
【
図3B】内側層表面の凸部の数を説明する図である。
【
図4】本発明にかかるラミネート材の他の実施形態の断面図である。
【
図5】本発明に係る蓄電デバイスの一実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1に本発明にかかるラミネート材の一実施形態を示す。
【0026】
ラミネート材1は、ケースの外面を形成する外側層としての耐熱性樹脂層11と、ケースの内面を形成する内側層としてのシーラント層12と、これら両層間に配置された金属箔層13とが接着剤層14、15を介して積層一体化されている。前記ラミネート材1は二次電池ケース材料として用いられ、前記シーラント層12は、腐食性の強い電解液等に対しても優れた耐薬品性を具備するとともに、ラミネート材1にヒートシール性を付与する役割を担うものである。また、前記ラミネート材1において、内側層はシーラント層12の単層であり、シーラント層12が本発明における内側層の最内層に対応する。
【0027】
[内側層の最内層]
前記シーラント層12は熱融着性樹脂と滑剤とを含む樹脂組成物からなり、表面12aは微細な凸部20が多数形成されて粗面化された凹凸構造を有している。ラミネート材1をロールに巻くなどシーラント層12と耐熱性樹脂層11が重なった状態において、シ-ラント層12の表面12aの凸部20によって点状に耐熱性樹脂層11に接触する。このため、シーラント層12の表面12aに析出した滑剤が耐熱性樹脂層11に点状に転写され、耐熱性樹脂層11に滑り性を与える。前記滑剤が点状に転写されることにより両者が密着した場合よりも耐熱性樹脂層11への転写量が抑制されるので、耐熱性樹脂層11の表面において滑剤による粘着テープとの密着性の低下を防ぐことができる。前記耐熱性樹脂層11への滑剤転写量が0.4μg/cm2以下であれば粘着テープの密着性が良好であり、0.3μg/cm2以下であればなお望ましい。
【0028】
本発明は、ラミネート材の内側層の最内層の表面形態および最内層を構成する樹脂組成物を規定することにより、滑剤の外側層の転写量を制御する。
【0029】
(表面形態)
本発明においては、
図2、
図3Aおよび
図3Bに参照されるように、前記シーラント層12の表面12aの凹凸構造を以下のとおりに規定する。
【0030】
前記シーラント層12は、表面12aにおいて、表面高さHの平均値を基準高さHsとするとき、前記基準高さHsよりも0.3μm以上高い凸部20を1mm
2につき1個以上有していることを要件とする。かかる高さの凸部20が1個未満の表面は粗面化が不十分であり、相対的に平滑な表面であるからシーラント層12中の滑剤の転写量が過剰になる。前記凸部20の数は基準高さHsよりも0.3μm以上の頂点の数とし、隣り合う凸部20との間の谷部の深さは問わない。
図3Aおよび
図3Bは、シーラント層12を、ラミネート材1の厚み方向に直交し基準高さHsよりも0.3μm高い点を通る平面Pで切断したときの断面図の例である。
図3Aは、1mm×1mmの平面領域に4つの凸部20aが点在し、隣り合う凸部20a間の谷部が平面Pよりも低い位置にあることを示している。
図3Bは、1mm×1mmの平面領域に4つの凸部20bが存在し、隣り合う凸部20b間の谷部が平面Pよりも高い位置にあり、4つの凸部20bは平面Pにおいて繋がっていることを示している。
図3Aおよび図
3Bは、いずれも1mm×1mmの平面領域に4個の凸部20a、20bが存在することを示している。
【0031】
また、本発明は前記シーラント層12の表面の粗面化の程度として、前記基準高さHsよりも0.3μm以上高い部分の面積率および表面粗さを以下のとおりに規定する。規定の粗面化によって滑剤の転写量を適量値に制御でき、耐熱性樹脂層11に滑り性を付与するとともに、粘着テープの密着性の低下を防止することができる。
【0032】
前記シーラント層12の表面において、前記基準高さHsよりも0.3μm以上高い部分の面積率が20%~80%であることが好ましい。
図3Aおよび
図3Bは基準高さHsよりも0.3μm高い平面Pにおける断面図であるから、これらの図において基準高さHsよりも0.3μm以上高い部分は斜線が付された部分である。前記基準高さHsよりも0.3μm以上高い部分のさらに好ましい面積率は30%~70%である。
【0033】
また、前記シーラント層12の表面12aの中心線平均粗さRaは0.05μm~1μmであることが好ましく、さらに好ましい中心線平均粗さRaは0.1μm~1μmである。
【0034】
また、前記シーラント層12の表面12aの凹凸構造は滑り性を高める効果があり、前記ラミネート材1の内側層は滑剤と凹凸構造の両方によって滑り性が高められている。
【0035】
上述した凹凸構造の形成方法は後に詳述する。
【0036】
(樹脂組成物)
前記シーラント層12は、熱融着性樹脂と滑剤とを含む樹脂組成物で構成されている。滑剤の種類は限定されず、脂肪族アマイド、芳香族アマイド、ワックス、シリコーン、パラフィン等を1種または複数種を用いることができる。これらの滑剤のうち、脂肪族アマイドは転写しやすく、表面に凹凸構造を有するシーラント層12によって耐熱性樹脂層への転写量を抑制するという本発明の適用意義が大きい。前記脂肪族アマイドとしては、特に限定されるものではないが、例えば、エルカ酸アミド、ベヘン酸アミド等が挙げられる。前記樹脂組成物中の滑剤濃度は1000ppm~5000ppmとする。滑剤濃度が1000ppm未満では転写量も少ないので転写した滑剤による問題が生じにくい。一方、5000ppmであれば成形時の滑り性が十分に高まるので、5000ppmを超える高濃度の滑剤は不経済である。特に好ましい滑剤濃度は1000ppm~3000ppmである。
【0037】
前記シーラント層12の樹脂組成物を構成する熱融着性樹脂は限定されないが、滑剤を表面に析出させて滑り性を高めることができる樹脂として、共重合成分としてプロピレンおよびプロピレンを除く他の共重合成分を含有するランダム共重合体(以下、「プロピレンランダム共重合体」と略称する)を主成分とする(50%以上含む)化合物を推奨できる。前記プロピレンを除く他の共重合成分としては、特に限定されるものではないが、例えば、エチレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン等のオレフィン成分の他、ブタジエン等が挙げられる。ポリプロピレンは耐薬品性および熱封止性に優れ、かつランダム共重合体は柔らかく滑剤を析出しやすく、低濃度の滑剤でも表面に析出させることができる。また、滑剤の析出量に基づいて耐熱性樹脂層11への転写量を予測しやすい。
【0038】
前記ポリプロピレンランダム共重合体の230℃でのメルトフローレート(MFR)が、1g/10分~10g/10分の範囲であるのが好ましい。MFRが1g/10分~10g/10分の範囲である前記ランダム共重合体を用いることで、後述する粗面化材を微細にかつ均一に分散させることができ、また蓄電デバイス本体を外装材内に密封する際の密封性が向上し十分なヒートシール強度が得られると共に、ヒートシール後のシーラント層の厚みの低減を抑制できて絶縁性をより向上させることができる。前記ランダム共重合体として、エチレン-プロピレンランダム共重合体を用いる場合において該ランダム共重合体におけるエチレン含有率は3質量%~7質量%であるのが好ましく、この場合には200℃程度の比較的低いヒートシール温度でヒートシールを行っても高いヒートシール強度を得ることができる。また、前記ランダム共重合体の融点は140℃~155℃の範囲であるのが好ましい。
【0039】
[内側層の他の積層形態]
本発明のラミネート材の内側層は1層ないし複数層からなり、内側層の最内層の表面形態と樹脂組成物に上述した本発明の条件が課される。
図1のラミネート材1の内側層はシーラント層12の単独層であるから、シーラント層12が内側層の最内層となり、表面の凹凸構造および樹脂組成物の条件が課される。
図4のラミネート材2は、ケースの内面となる最内層22aと、前記最内層22aの金属箔層13側の中間層22bの2層構造のシーラント層22であり、最内層22aに本発明の条件が課される。なお、内側層は3層以上で構成することもできる。
【0040】
前記内側層22の中間層22bを構成する樹脂としては、エラストマー変性オレフィン系樹脂を用いるのが好ましい。前記エラストマー変性オレフィン系樹脂(ポリプロピレンブロックコポリマー)は、エラストマー変性ホモポリプロピレンまたは/およびエラストマー変性ランダム共重合体からなるのが好ましい。前記エラストマー変性ランダム共重合体は、共重合成分として「プロピレン」及び「プロピレンを除く他の共重合成分」を含有するランダム共重合体のエラストマー変性体であり、前記「プロピレンを除く他の共重合成分」としては、特に限定されるものではないが、例えば、エチレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン等のオレフィン成分の他、ブタジエン等が挙げられる。前記エラストマーとしては、特に限定されるものではないが、オレフィン系熱可塑性エラストマーを用いるのが好ましい。前記オレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、特に限定されるものではないが、例えば、EPR(エチレンプロピレンラバー)、プロピレン-ブテンエラストマー、プロピレン-ブテン-エチレンエラストマー、EPDM(エチレン-プロピレン-ジエンゴム)等が挙げられ、中でも、EPR(エチレンプロピレンラバー)を用いるのが好ましい。
【0041】
前記エラストマー変性オレフィン系樹脂に関して、「エラストマー変性」の態様としては、エラストマーをグラフト重合したものであってもよいし、エラストマーをオレフィン系樹脂(ホモポリプロピレンまたは/および前記ランダム共重合体)に添加したものであってもよいし、或いは、その他の変性態様であってもよい。
【0042】
[内側層の最内層表面の凹凸構造の形成方法]
前記内側層の最内層の表面に凹凸構造を形成する方法として、例えば内側樹脂層に粗面化剤を配合する、凹凸が形成されたロールを押し付けて凹凸を転写する、内側樹脂層と金属箔層間の接着剤層を塗工する際にグラビア塗工で凹凸を設ける、接着剤層に不溶性微粒子を加えるといった方法がある。なお、凹凸構造の形成方法はこれらの方法に限定されるものではない。
【0043】
[他の層の材料]
本発明は内側層以外の各層の材料を限定するものではなく、ラミネート材の用途に応じて適宜選択する。以下は、蓄電デバイス用外装ケースの好ましい材料の例である。
【0044】
なお、本発明のラミネート材の用途は蓄電デバイス用外装ケースに限定されるものではなく、食品、医薬品等のケースとしても好適に用いられる。
【0045】
(外側層)
前記耐熱性樹脂層11を構成する耐熱性樹脂としては、外装ケースをヒートシールする際のヒートシール温度で溶融しない耐熱性樹脂を用いる。前記耐熱性樹脂としては、シーラント層12の融点より10℃以上高い融点を有する耐熱性樹脂を用いるのが好ましく、シーラント層12の融点より20℃以上高い融点を有する耐熱性樹脂を用いるのが特に好ましい。
【0046】
前記耐熱性樹脂層11としては、特に限定されるものではないが、例えば、ナイロンフィルム等のポリアミドフィルム、ポリエステルフィルム等が挙げられ、これらの延伸フィルムが好ましく用いられる。中でも、前記耐熱性樹脂層11としては、二軸延伸ナイロンフィルム等の二軸延伸ポリアミドフィルム、二軸延伸ポリブチレンテレフタレート(PBT)フィルム、二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム又は二軸延伸ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムを用いるのが特に好ましい。前記ナイロンフィルムとしては、特に限定されるものではないが、例えば、6ナイロンフィルム、6,6ナイロンフィルム、MXDナイロンフィルム等が挙げられる。なお、外側層はは、単層で形成されていても良いし、或いは、例えばポリエステルフィルム/ポリアミドフィルムからなる複層(PETフィルム/ナイロンフィルムからなる複層等)で形成されていても良い。なお、前記複層の場合、ポリエステルフィルム側を最外側に配置するのが良い。
【0047】
また、前記耐熱性樹脂層11の外側に保護層を積層して、保護層を外側層の最外層としてもよい。
【0048】
(金属箔層)
前記金属箔層13は、ケース内に酸素や水分の侵入を阻止するガスバリアを付与する役割を担うものである。前記金属箔層13としては、特に限定されるものではないが、例えば、アルミニウム箔、SUS箔(ステンレス箔)、銅箔、ニッケル箔等が挙げられ、中でも、アルミニウム箔を用いるのが好ましい。前記金属箔層13の厚さは、15μm~100μmであるのが好ましい。15μm以上であることで金属箔を製造する際の圧延時のピンホール発生を防止できると共に、100μm以下であることで張り出し成形、絞り成形等の成形時の応力を小さくできて成形性を向上させることができる。中でも、前記金属箔層4の厚さは、15μm~45μmであるのがより好ましい。
【0049】
前記金属箔層13は、少なくとも内側の面(シーラント層12側の面)に、化成処理が施されているのが好ましい。このような化成処理が施されていることによって内容物(電池の電解液等)による金属箔表面の腐食を十分に防止できる。このような化成処理としては、例えば、クロメート処理等が挙げられる。
【0050】
(接着剤層)
金属箔層13と外側層11との間の接着剤層14としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリウレタンポリオレフィン接着剤層、ポリウレタン接着剤層、ポリエステルポリウレタン接着剤層、ポリエーテルポリウレタン接着剤層等が挙げられる。前記外側接着剤層14の厚さは、1μm~6μmに設定されるのが好ましい。
【0051】
金属箔層13と内側層12との間の接着剤層15としては、特に限定されるものではないが、例えば、外側の接着剤層14として例示したものも使用できるが、電解液による膨潤の少ないポリオレフィン系接着剤を使用するのが好ましい。中でも、酸変性ポリオレフィン系接着剤を使用するのが特に好ましい。前記酸変性ポリオレフィン系接着剤としては、例えば、マレイン酸変性ポリプロピレン接着剤、フマル酸変性ポリプロピレン接着剤等が挙げられる。前記接着剤層15の厚さは、1μm~5μmに設定されるのが好ましい。
【0052】
[蓄電デバイス]
図5、6に示すように、本発明のラミネート材1を成形(深絞り成形、張り出し成形等)することにより、立体形状の外装ケース31を得ることができる。前記ラミネート材1のシーラント層12は滑剤を含有し、耐熱性樹脂層11はシーラント層12の滑剤が転写されているので、両面ともに滑り性が良く成形性が良い。なお、前記ラミネート材1は、成形に供されずにそのまま平面形状の外装材32として使用することもできる。
【0053】
図5、6は、外装部材30として本発明のラミネート材1を用いた蓄電デバイス40の一実施形態を示している。この蓄電デバイス40は、リチウムイオン2次電池である。前記外装部材30は、立体形状の外装ケース31と平面形状の外装材32とにより構成されている。そして、前記外装ケース31の収容凹部内に、略直方体形状の蓄電デバイス本体部(電気化学素子等)41が収容され、該蓄電デバイス本体部41の上に前記外装材32を内側層(シーラント層)12側を内方(下側)にして配置され、該外装材32の内側層12の周縁部と、前記外装ケース31のフランジ部(封止用周縁部)33の内側層(シーラント層)12とがヒートシールによりシール接合されて封止されることによって、蓄電デバイス40が構成されている。なお、前記外装ケース31の収容凹部の内側の表面は、内側層(シーラント層)12になっており、収容凹部の外面が外側層(耐熱性樹脂層)11になっている。
【0054】
図5において、34は前記外装材32の周縁部と外装ケース31のフランジ部(封止用周縁部)33とが接合(融着)されたヒートシール部である。なお、前記蓄電デバイス40において、蓄電デバイス本体部41に接続されたタブリードの先端部が、外装部材30の外部に導出されているが、図示は省略している。前記蓄電デバイス本体部41としては、特に限定されるものではないが、例えば、電池本体部、キャパシタ本体部、コンデンサ本体部等が挙げられる。
【0055】
前記ヒートシール部34の幅は、0.5mm以上に設定するのが好ましい。0.5mm以上とすることで封止を確実に行うことができる。中でも、前記ヒートシール部34の幅は、3mm~15mmに設定するのが好ましい。
【0056】
上記実施形態では、外装部材30が、立体形状の外装ケース31と平面形状の外装材32とからなる構成であったが、特にこのような組み合わせに限定されるものではない。例えば、外装部材が、一対の平面形状の外装材32からなる構成であってもよいし、或いは、一対の立体形状の外装ケース31からなる構成であってもよい。
【実施例】
【0057】
次に、本発明のラミネート材の具体的実施例について説明するが、本発明はこれら実施例のものに特に限定されるものではない。
【0058】
各例で作製したラミネート材は
図1に参照される積層構造を有するものであり、外側層は単層の耐熱性樹脂層11、内側層は単層のシーラント層12である。
【0059】
(実施例1、2、5、参考例3、4、6、7、比較例2)
JIS H4160-A8079の厚さ35μmのアルミニウム箔13の両面に、三価クロム化合物、水、アルコールからなる化成処理液を塗布した後、180℃で乾燥を行って化成皮膜を形成した。この化成皮膜のクロム付着量は片面当たり2mg/m2であった。
【0060】
次に、前記化成処理済みアルミニウム箔13の一方の面に、ポリエステルウレタン樹脂接着剤を塗布して乾燥後の塗布量が3.5g/m2の接着剤層14を形成し、耐熱性樹脂層11として厚さ15μmの二軸延伸ポリアミドフィルムをドライラミネート法により貼り合わせた。
【0061】
次に、前記化成処理済みアルミニウム箔13の他方の面に、ポリアクリル接着剤を塗布して接着剤層15を形成し、シーラント層12として、厚さ30μmの未延伸ポリプロピレンフィルムを貼り合わせた。前記未延伸ポリプロピレンフィルムは、エチレン-プロピレンランダム共重合体をベースに、滑剤としてのエルカ酸アミドおよび粗面化材としての高密度ポリエチレンパウダーを表1に示す濃度で含有する樹脂組成物からなる。前記高密度ポリエチレンパウダーは、190℃でのMFRが0.2g/10分、密度が0.963g/cm3、スウェルが40%であり、フィリップス触媒を使用してスラリーループ法で製造されたものであり、平均粒径は0.5μmである。
【0062】
(比較例1)
シーラント層12としての未延伸ポリプロピレンフィルムを構成する樹脂組成物が、1000ppmのエルカ酸アミドを含有し粗面化材を含有しないことを除き、実施例1等と同じ材料と方法でラミネート材1を作製した。
【0063】
作製した各ラミネート材1はロールに巻き取り、室温で10日放置した後、以下の項目について評価した。評価結果を表1に示す。
【0064】
(表面形態)
作成した各ラミネート材を10mm×10mmにカットし、シーラント層12の表面を走査型白色干渉顕微鏡(VS1330)を用いて約1mm四方の表面状態を観察した。測定条件、5倍(5×)の二光束干渉対物レンズ、波長フィルタは520nmで観測し、Raを求めた。面積率は得られた分布図から0.3μmの等高線を引き重量法によって面積を求め計算した。
【0065】
(滑剤の転写量)
耐熱性樹脂層11表面に付着している滑剤量を以下の方法で測定した。
【0066】
ラミネート材1から縦100mm×横100mmの矩形状の試験片を2枚切り出した後、これら2枚の試験片を耐熱性樹脂層11(二軸延伸ポリアミドフィルム)が内側になるように重ね合わせて互いの周端部をPPテープでシールしたのち、シールがはがれないよう3辺をクリップで止めて袋体を作製した。この袋体の内部空間内にシリンジを用いてアセトン1mLを注入し、耐熱性樹脂層11の表面とアセトンとが接触した状態で3分間放置した後、袋体内のアセトンを抜き取った。この抜き取った液中に含まれる滑剤量をガスクロマトグラフを用いて測定、分析することにより、耐熱性樹脂層11の表面に存在する滑剤量(mg/m2)を求め、これをμg/cm2に換算した。
【0067】
(粘着テープ密着性)
ラミネート材1を150mm×150mmに切断して試験片とした。前記試験片の耐熱性樹脂層11に幅5mm×長さ100mmの粘着テープを貼り、重さ2kgのローラーで粘着テープに荷重かけて粘着テープ上を5往復させた。その後、25℃の室温で1時間静置した。
【0068】
前記試験片に貼り付けた粘着テープについて、JIS K6854-3(1999)に準拠し、島津製作所製ストログラフAGS-5kNXを用いて、一方のチャックで試験片を狭着固定し、他方のチャックで粘着テープを固定し、180°剥離強度を測定し、下記の基準で評価した。
【0069】
◎:剥離強度が6N/5mm以上
○:剥離強度が5N/5mm以上、6N/5mm未満
×:剥離強度が5N/5mm未満
【0070】
【0071】
表1より、シーラント層12中の滑剤濃度および表面形態を規定することにより、滑剤の転写量を抑制して粘着テープの密着性を維持できることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明のラミネート材は、蓄電デバイス、食品、医薬品の包装材として利用できる。
【符号の説明】
【0073】
1、2…ラミネート材
11…耐熱性樹脂層(外側層)
12…シーラント層(内側層の最内層)
13…金属箔層
20、20a、20b…凸部
22…内側層
22a…内側層の最内層
Hs…基準高さ(平均高さ)
30…外装部材
31…立体形状の外装ケース
32…平面形状の外装材
40…蓄電デバイス
41…デバイス本体