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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】柑橘果実様飲料
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/56 20060101AFI20240221BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20240221BHJP
   A23L 2/02 20060101ALI20240221BHJP
   A23L 2/38 20210101ALI20240221BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20240221BHJP
   A23L 2/54 20060101ALI20240221BHJP
   C12G 3/06 20060101ALI20240221BHJP
【FI】
A23L2/56
A23L2/00 T
A23L2/02 B
A23L2/38 A
A23L2/52 101
A23L2/54
A23L2/54 101
C12G3/06
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019192126
(22)【出願日】2019-10-21
(65)【公開番号】P2021065132
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2022-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】303040183
【氏名又は名称】サッポロビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100158698
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 基樹
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 あゆみ
(72)【発明者】
【氏名】山崎 晴菜
(72)【発明者】
【氏名】高澄 耕次
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-182177(JP,A)
【文献】特開2020-184967(JP,A)
【文献】GEROGE A. BURDOCK,Fenaroli's Handbook of Flavor Ingredients sixth edition,CRC Press,2009年,p.613
【文献】J. Agric. Food Chem.,2001年,Vol.49,pp.1358-1363
【文献】Journal of Food Quality,2010年,Vol.33,pp.165-180
【文献】GEROGE A. BURDOCK,Fenaroli's Handbook of Flavor Ingredients sixth edition,CRC Press,2009年,pp.1283-1284
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
C12G
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/FSTA/AGRICOLA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3-ヒドロキシヘキサン酸エチルを0.10mg/L以上含有し、さらにメチルヘプテノンを0.04mg/L以上8.0mg/L以下含有する、柑橘果実様飲料。
【請求項2】
前記3-ヒドロキシヘキサン酸エチルの含有量が0.70mg/L以上である、請求項1に記載の柑橘果実様飲料。
【請求項3】
前記3-ヒドロキシヘキサン酸エチルの含有量が50mg/L以下である、請求項1または2に記載の柑橘果実様飲料。
【請求項4】
前記3-ヒドロキシヘキサン酸エチル100質量部に対して、前記メチルヘプテノンを3~300質量部含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の柑橘果実様飲料。
【請求項5】
前記柑橘果実様飲料がアルコール飲料である、請求項1~4のいずれか1項に記載の柑橘果実様飲料。
【請求項6】
前記柑橘果実様飲料の柑橘果実ストレート果汁に換算した柑橘果汁使用率が30質量%未満である、請求項1~5のいずれか1項に記載の柑橘果実様飲料。
【請求項7】
前記柑橘果実様飲料が炭酸ガスを含有する発泡性飲料である、請求項1~6のいずれか1項に記載の柑橘果実様飲料。
【請求項8】
前記柑橘果実様飲料が、グレープフルーツ果実様飲料、レモン果実様飲料、シークヮーサー果実様飲料からなる群から選ばれる少なくとも1つである、請求項1~7のいずれか1項に記載の柑橘果実様飲料。
【請求項9】
柑橘果実様飲料において、3-ヒドロキシヘキサン酸エチルの含有量を0.10mg/L以上とし、さらにメチルヘプテノンの含有量を0.04mg/L以上8.0mg/L以下とする、柑橘果実様飲料における柑橘果実の複雑味、ならびに後味のシャープさ向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柑橘果実様飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
グレープフルーツ、レモン、シークヮーサーなどの柑橘果実の香味を有する飲料は、柑橘果実特有の爽やかな香気等が消費者に好まれ、清涼飲料やアルコール飲料などにおいて多種多様な商品が販売されている。そして、このような柑橘果実の香味を有する柑橘果実様飲料は、香気成分によって特徴づけられたものが多い。
【0003】
例えば、特許文献1には、レモンなどの柑橘類果実をもぎたて搾り立てした際の果汁感、新鮮感および爽快感が付与された柑橘類果実様飲料として、シトラールとノナナールとを特定量含む柑橘類果実様飲料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-023338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、柑橘果実の香味を付与したり補ったりするために、柑橘香料などの使用により飲料に香気成分を添加、配合しても、この香気成分によって柑橘果実の複雑味を再現することは難しい。また、この香気成分の添加、配合だけでは、得られる柑橘果実様飲料の味が平板となりやすく、後味のシャープさに欠けた飲料となりやすい。
【0006】
そこで本発明は、柑橘果実の複雑味、ならびに後味のシャープさを備えた柑橘果実様飲料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明者は鋭意検討し、香気成分である3-ヒドロキシヘキサン酸エチルが柑橘果実様飲料の香味や後味などに影響していることを明らかにした。この知見から、3-ヒドロキシヘキサン酸エチルを0.10mg/L以上含有する柑橘果実様飲料とすることにより、柑橘果実の複雑味、ならびに後味のシャープさを備えた柑橘果実様飲料を提供できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は次の(1)~(11)である。
(1)3-ヒドロキシヘキサン酸エチルを0.10mg/L以上含有する、柑橘果実様飲料。
(2)前記3-ヒドロキシヘキサン酸エチルの含有量が0.70mg/L以上である、(1)に記載の柑橘果実様飲料。
(3)前記3-ヒドロキシヘキサン酸エチルの含有量が50mg/L以下である、(1)または(2)に記載の柑橘果実様飲料。
(4)さらに、メチルヘプテノンを0.04mg/L以上含有する、(1)~(3)のいずれか1つに記載の柑橘果実様飲料。
(5)さらに、前記3-ヒドロキシヘキサン酸エチル100質量部に対して、メチルヘプテノンを3~300質量部含む、(1)~(3)のいずれか1つに記載の柑橘果実様飲料。
(6)前記メチルヘプテノンの含有量が10mg/L以下である、(4)または(5)に記載の柑橘果実様飲料。
(7)前記柑橘果実様飲料がアルコール飲料である、(1)~(6)のいずれか1つに記載の柑橘果実様飲料。
(8)前記柑橘果実様飲料の柑橘果実ストレート果汁に換算した柑橘果汁使用率が30質量%未満である、(1)~(7)のいずれか1つに記載の柑橘果実様飲料。
(9)前記柑橘果実様飲料が炭酸ガスを含有する発泡性飲料である、(1)~(8)のいずれか1つに記載の柑橘果実様飲料。
(10)前記柑橘果実様飲料が、グレープフルーツ果実様飲料、レモン果実様飲料、シークヮーサー果実様飲料からなる群から選ばれる少なくとも1つである、(1)~(9)のいずれか1つに記載の柑橘果実様飲料。
(11)柑橘果実様飲料において、3-ヒドロキシヘキサン酸エチルの含有量を0.10mg/L以上とする、柑橘果実様飲料における柑橘果実の複雑味、ならびに後味のシャープさ向上方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、柑橘果実の複雑味、ならびに後味のシャープさを有する柑橘果実様飲料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明について詳細に説明する。
本発明は、3-ヒドロキシヘキサン酸エチルを0.10mg/L以上含有する柑橘果実様飲料(以下においては「本発明の柑橘果実様飲料」という場合もある)等である。
【0011】
ここで、本発明において「柑橘果実様飲料」とは、柑橘果実様香味を有する飲料、および/または、柑橘果実由来成分(柑橘果肉、柑橘果汁、柑橘果皮(ピール)、これらのエキス等)を含有する飲料を意味する。特に本発明は、柑橘果実様香味を有する飲料(柑橘果実由来成分を含有し且つ柑橘果実様香味を有する飲料、ならびに柑橘果実由来成分を含有しないが柑橘果実様香味を有する飲料(例えば、柑橘果実様フレーバーを含む飲料))において好適な効果を発揮する。
【0012】
また、本発明において「柑橘果実」とは、グレープフルーツ類、香酸柑橘類(レモン、シークヮーサー、ライム、ユズ、スダチ、カボス、ダイダイなど)、ミカン類(温州みかん、マンダリンオレンジ、ポンカンなど)、オレンジ類(バレンシアオレンジ、ネーブルオレンジなど)、タンゴール類(イヨカン、タンカンなど)、タンゼロ類、ブンタン類、雑柑類(夏ミカン、ハッサク、デコポンなど)、またはキンカン類の果実である。なお、本発明は、グレープフルーツ類ならびに香酸柑橘類(特にレモンやシークヮーサー)の果実様飲料においてより好適な効果を発揮する。
【0013】
まず、本発明の柑橘果実様飲料は、3-ヒドロキシヘキサン酸エチル(Ethyl 3-Hydroxyhexanoate:C16)を含有する。この3-ヒドロキシヘキサン酸エチルは、3-ヒドロキシカプロン酸エチルなどとも称され、下記式(1)で表される化合物であって、香気成分の一つである。
【0014】
【化1】
【0015】
そして、本発明の柑橘果実様飲料においては、3-ヒドロキシヘキサン酸エチルの含有量を0.10mg/L以上、好ましくは0.30mg/L以上、より好ましくは0.50mg/L以上、さらに好ましくは0.70mg/L以上、さらに好ましくは0.80mg/L以上、さらに好ましくは0.90mg/L以上、さらに好ましくは1.0mg/L以上とする。柑橘果実様飲料において、柑橘果実の複雑味、つまり柑橘果実そのものから得られるような柑橘果実の香りおよび味の複雑なバランスを付与することができ、これにより柑橘果実様飲料の香味を向上させることができるからである。同時に、飲料にボディ感が付与され、つまり飲用したときに味の厚みや豊かさが十分に感じられ、且つ、味をぼやけさせる好ましくない味の後残りが少ない、後味のシャープさを有する柑橘果実様飲料とすることができる。なお、この3-ヒドロキシヘキサン酸エチルの含有量は、市販されている3-ヒドロキシヘキサン酸エチル製剤や3-ヒドロキシヘキサン酸エチル含有原料の使用により調整することができ、これらを複数併用しても良い。
【0016】
また、本発明の柑橘果実様飲料においては、3-ヒドロキシヘキサン酸エチルの含有量を、好ましくは50mg/L以下、より好ましくは40mg/L以下、さらに好ましくは30mg/L以下、さらに好ましくは20mg/L以下、さらに好ましくは15mg/L以下、さらに好ましくは12mg/L以下、さらに好ましくは10mg/L以下となるように調整すると、柑橘果実の複雑味やボディ感等を維持しつつ、柑橘果実様飲料としての香味等の総合的な味のバランスに優れた柑橘果実様飲料を得ることができるためより好適である。
【0017】
そして、本発明の柑橘果実様飲料は、さらにメチルヘプテノン(Methylheptenone:C14O)を含有するのが好ましい。このメチルヘプテノンは、6-メチル-5-へプテン-2-オンなどとも称され、下記式(2)で表される化合物であって、これも香気成分の一つである。
【0018】
【化2】
【0019】
本発明の柑橘果実様飲料においては、メチルヘプテノンの含有量を、好ましくは0.04mg/L以上、より好ましくは0.05mg/L以上、さらに好ましくは0.06mg/L以上、さらに好ましくは0.07mg/L以上、さらに好ましくは0.08mg/L以上、さらに好ましくは0.09mg/L以上、さらに好ましくは0.10mg/L以上とする。これにより、本発明の柑橘果実様飲料において、柑橘果実の複雑味、ボディ感、および後味のシャープさがより向上し、さらに柑橘果実の果肉部香味、つまり柑橘果実の果肉部分(果皮等を除いた果肉の部分)に由来する香りと味、ならびに柑橘果実の自然な香味(自然感)を付与することができる。さらには、柑橘果実様飲料としての味のバランスも向上させることができる。このメチルヘプテノンの含有量も、市販されているメチルヘプテノン製剤やメチルヘプテノン含有原料の使用により調整することができ、これらを複数併用しても良い。なお、このメチルヘプテノンは、一部の柑橘果実由来成分にもわずかに含まれていることがあるが、この量は極めて少ない場合が多いことから、柑橘果実由来成分を原料として使用するだけでは、得られる柑橘果実様飲料の飲用時におけるメチルヘプテノン含有量を上記範囲とすることが難しい場合がある。よって、使用する柑橘果実由来成分にメチルヘプテノンが含まれる場合でも、得られる柑橘果実様飲料のメチルヘプテノン含有量を上記範囲とするために、メチルヘプテノン製剤や他のメチルヘプテノン含有原料を併用することが好ましい。
【0020】
また、本発明の柑橘果実様飲料においては、メチルヘプテノンの含有量を、好ましくは10mg/L以下、より好ましくは8.0mg/L以下、さらに好ましくは7.0mg/L以下、さらに好ましくは5.0mg/L以下、さらに好ましくは4.0mg/L以下、さらに好ましくは3.0mg/L以下、さらに好ましくは2.0mg/L以下、さらに好ましくは1.0mg/L以下となるように調整するのが好適である。柑橘果実様飲料において、柑橘果実の自然感等が維持され、且つ柑橘果実様飲料としての味のバランスがより優れた柑橘果実様飲料を得ることができるからである。
【0021】
なお、本発明の柑橘果実様飲料においては、このメチルヘプテノンを、3-ヒドロキシヘキサン酸エチル100質量部に対して3~300質量部、より好ましくは5~200質量部、さらに好ましくは8~150質量部、さらに好ましくは10~100質量部となるような比率で含有させても良い。このような構成とすることにより、柑橘果実の複雑味、ボディ感、後味のシャープさ、柑橘果実の果肉部香味、ならびに柑橘果実の自然感がいずれもより優れた柑橘果実様飲料を得ることができる。そして、この場合においても、柑橘果実様飲料におけるメチルヘプテノン含有量を上記範囲内とするとより好適である。
【0022】
ここで、本発明の柑橘果実様飲料における3-ヒドロキシヘキサン酸エチルの含有量およびメチルヘプテノンの含有量は、溶媒抽出-ガスクロマトグラフ-質量分析法(溶媒抽出-GC-MS法)により測定されるものである。
【0023】
なお、本発明は、柑橘果実様飲料において、3-ヒドロキシヘキサン酸エチルの含有量を0.10mg/L以上とする、柑橘果実様飲料における柑橘果実の複雑味、ならびに後味のシャープさ向上方法を提供するものであるとも言える。そして、この方法では、さらにメチルヘプテノンの含有量を0.04mg/L以上とする、あるいは3-ヒドロキシヘキサン酸エチル100質量部に対してメチルヘプテノンを3~300質量部含有させることにより、柑橘果実様飲料における柑橘果実の複雑味、後味のシャープさ、ボディ感、柑橘果実の果肉部香味、ならびに柑橘果実の自然感向上方法を提供することもできる。
【0024】
ここで、本発明の柑橘果実様飲料に使用できる原料としては、果実由来成分(果汁、果肉、果皮エキスなど)、野菜由来成分(野菜汁、野菜エキスなど)、糖類(グルコース、フルクトース、ショ糖、マルトース、オリゴ糖など)、塩類(塩化ナトリウム、塩化カリウムなど)、有機酸(クエン酸、リンゴ酸、乳酸、コハク酸、酒石酸など)、リン酸、酒類、食酢、炭酸水、香料、着色料、甘味料、調味料、酸化防止剤、pH調整剤、乳化剤等が挙げられる。
【0025】
なお、本発明の柑橘果実様飲料においては、柑橘果実由来成分および/または柑橘果実様フレーバー(柑橘香料など)を含んだ柑橘果実様香味を有する飲料とするのが、本発明の効果がより発揮されるため好ましい。また、柑橘果実以外の果実由来成分や、柑橘果実様フレーバー以外の香気成分を含有させることも制限されないが、得られる飲料が柑橘果実様香味を有するように使用する原料の種類や量を選択、調整するのが好ましい。
【0026】
また、本発明は、無果汁飲料あるいは低果汁飲料であっても、柑橘果実の複雑味、ならびに後味のシャープさを備えた柑橘果実様飲料を提供できることも大きな特徴である。ここで、本発明における無果汁飲料とは、果汁および野菜汁(果実、野菜を破砕して搾汁または裏ごし等をし、皮、種子等を除去したもの、あるいはこれを濃縮または希釈したもの)を含まない飲料を意味する。さらに、本発明の柑橘果実様飲料は、柑橘果肉、柑橘果汁、柑橘果皮エキスなどの柑橘果実由来成分を含まない飲料であっても良い。
そして、本発明における低果汁飲料としては、JAS規格である果実飲料の日本農林規格(平成28年2月24日農林水産省告示第489号)において定められる柑橘果実ストレート果汁(搾汁)に換算した柑橘果汁使用率が30質量%未満である柑橘果実様飲料が例示され、さらには、この柑橘果汁使用率が25質量%以下、さらには20質量%以下の飲料であっても良い。この場合において、柑橘果汁と柑橘果汁以外の果汁とを合算した総果汁使用率(同規格のストレート果汁に換算した総果汁使用率)については、30質量%以上であっても良く、あるいは、これも同様に30質量%未満としても良い。ここで、本発明におけるストレート果汁に換算した果汁使用率とは、飲料の総質量に対する、この飲料中に含まれる果汁(柑橘果汁、あるいは総ての果汁)の同規格のストレート果汁に換算した質量の割合(質量%)である。
【0027】
そして、本発明の柑橘果実様飲料は、アルコール度数が1v/v%以上であるアルコール飲料(例えば、酒税法(昭和二十八年六月三日法律第五七号)において定義される酒類など)であっても良く、あるいは、アルコール度数1v/v%未満、より好ましくは0.5v/v%未満、さらに好ましくは0.1v/v%未満、さらに好ましくは0.005v/v%未満であるノンアルコール飲料であっても良い。本発明の柑橘果実様飲料がノンアルコール飲料である場合には、清涼飲料(炭酸飲料、果実飲料など)であっても良く、あるいは乳酸菌飲料や乳飲料であっても良い。
【0028】
本発明の柑橘果実様飲料がアルコール飲料である場合、そのアルコール度数は特に限定されないが、本発明の効果がより発揮されやすくなる範囲としては、例えば、下限として1v/v%以上、さらには3v/v%以上、さらには5v/v%以上の範囲が示され、上限として20v/v%以下、さらには15v/v%以下、さらには10v/v%以下、さらには7v/v%以下の範囲が示される。ここで、本発明の「アルコール度数(v/v%)」は、国税庁所定分析法(訓令)3清酒3-4アルコール分(振動式密度計法)に基づいて測定する。そして、本発明において「アルコール」とは、エタノールを意味する。
また、このアルコール度数は、例えばリキュールなどの場合、その製造工程において、使用するベース酒(主として、焼酎、ウォッカ等の蒸留酒)のアルコール度数や、その配合割合などによって調整することができる。さらには、果実酒、発泡酒等の醸造酒である場合においては、その発酵条件を制御することによりアルコール度数を調整することもできる。
【0029】
さらに、本発明の柑橘果実様飲料は、炭酸ガスを含有する発泡性飲料(炭酸飲料、発泡性アルコール飲料など)であると、その飲用時における発泡により柑橘果実の香味などがより感じやすくなるため好ましい。ここで、本発明において「発泡性」とは、20℃における炭酸ガス圧が0.05MPa以上であることを意味し、0.10MPa以上、さらには0.15MPa以上、さらには0.20MPa以上であっても良い。そして、この炭酸ガス圧は1.00MPa以下、さらには0.50MPa以下、さらには0.30MPa以下であっても良い。また、この炭酸ガスは、原料として使用する炭酸水由来のものであっても良いし、カーボネーション(炭酸ガス圧入)工程により柑橘果実様飲料に炭酸ガスを付与したものであっても良い。そして、このカーボネーション工程は、バッチ式で行っても良いし、配管路に炭酸ガス圧入システム(カーボネーター)が組み込まれたインライン方式で連続的に行っても良い。また、このカーボネーション工程は、フォーミング(泡噴き)の発生等を避けるために、液の液温を10℃以下(好ましくは4℃以下)として行うのが好適である。
【0030】
なお、本発明の柑橘果実様飲料の製造方法は、3-ヒドロキシヘキサン酸エチルの含有量が所定の範囲内となるように調整する工程(さらにはメチルヘプテノンの含有量が所定の範囲内となるように調整する工程)を含めば、他は清涼飲料製造やアルコール飲料製造などにおける常法にしたがえば良く、特段限定はされない。例えば、柑橘果実様発泡性アルコール飲料を製造する場合の製造方法の一例としては、まず、ウォッカなどの蒸留酒等をベース酒とし、このベース酒に糖類、有機酸、柑橘果汁、柑橘香料、3-ヒドロキシヘキサン酸エチル製剤、メチルヘプテノン製剤などを混合して炭酸水により希釈し、3-ヒドロキシヘキサン酸エチルの含有量、さらにはメチルヘプテノンの含有量が所定の範囲内となるように調整して、必要であれば殺菌を行って製品とする方法が示される。
【0031】
そして、本発明の柑橘果実様飲料は、上記のようにして得られた製品を金属製容器、ガラス製容器、ペットボトル容器、紙容器などに充填した容器詰飲料としても良い。このような容器詰飲料とすることにより、柑橘果実様フレーバー等の経時劣化を抑制しやすいだけでなく、流通や販売などにおける利便性がより高まる。
【0032】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において様々な変形が可能である。
【実施例
【0033】
<グレープフルーツ果実様飲料の調製および官能評価(試験I)>
ベース酒となるウォッカに、糖類、クエン酸、グレープフルーツ香料(3-ヒドロキシヘキサン酸エチルおよびメチルヘプテノンを含有しない香料)、および得られるサンプルの3-ヒドロキシヘキサン酸エチル含有量が下記表1上段左側に記載の量となるように3-ヒドロキシヘキサン酸エチル製剤を添加混合して炭酸水により希釈し、アルコール度数が6(v/v)%、グレープフルーツ香料の含有量が0.06(w/v)%であり、3-ヒドロキシヘキサン酸エチル含有量が異なるサンプル1-1からサンプル1-5のグレープフルーツ果実様発泡性アルコール飲料(無果汁飲料)を作製した(サンプル1-1は3-ヒドロキシヘキサン酸エチルを含有しないコントロールサンプル)。なお、いずれのサンプルも、20℃における炭酸ガス圧は0.20MPaであった。
【0034】
そして、得られた各サンプルにおける、グレープフルーツ果実の複雑味、ボディ感、後味のシャープさ、およびグレープフルーツ果実様発泡性アルコール飲料としての味のバランスについて、訓練され官能的識別能力を備えた8名のパネリストにより、以下に示す評価基準を用いて各サンプルを官能評価した。
【0035】
[グレープフルーツ果実の複雑味、ボディ感、および後味のシャープさの評価基準]
サンプル1-1におけるグレープフルーツ果実の複雑味、ボディ感、および後味のシャープさをいずれも1(全く感じない)とし、このサンプル1-1との対比として、それぞれ、1(全く感じない(サンプル1-1と同等である))から5(強く感じる)の5段階により比較官能評価を行った。
【0036】
[グレープフルーツ果実様発泡性アルコール飲料としての味のバランスの評価基準]
グレープフルーツ果実様発泡性アルコール飲料としての味のバランスについて、「味のバランスが非常に良い」場合を5点、「味のバランスが非常に悪い」場合を1点として、5段階により官能評価を行った。この味のバランスの評価は、点数が高いほど好ましいと判断できる。
【0037】
この官能評価結果(8名のパネリストの評価平均値)を下記表1下段左側に示した。この結果から、3-ヒドロキシヘキサン酸エチル含有量が0.50mg/L以上であるサンプル1-2からサンプル1-5は、グレープフルーツ果実由来成分を含まないにもかかわらず、グレープフルーツ果実の複雑味が感じられる飲料であり、また、後味のシャープさも感じられ、さらにボディ感も付与されていることが明らかとなった。特に、サンプル1-3およびサンプル1-4は、グレープフルーツ果実の複雑味、ボディ感、ならびに後味のシャープさのバランスが優れ、且つグレープフルーツ果実様発泡性アルコール飲料としての味のバランスも良い飲料であった。
【0038】
<グレープフルーツ果実様飲料の調製および官能評価(試験II)>
ベース酒となるウォッカに、糖類、クエン酸、グレープフルーツ香料(3-ヒドロキシヘキサン酸エチルおよびメチルヘプテノンを含有しない香料)、および得られるサンプルの3-ヒドロキシヘキサン酸エチル含有量が1.0mg/Lとなるように3-ヒドロキシヘキサン酸エチル製剤を添加混合し、さらに得られるサンプルのメチルヘプテノン含有量が下記表1上段中央に記載の量となるようにメチルヘプテノン製剤添加混合して炭酸水により希釈し、アルコール度数が6(v/v)%、グレープフルーツ香料の含有量が0.06(w/v)%、3-ヒドロキシヘキサン酸エチル含有量が1.0mg/Lであり、メチルヘプテノン含有量が異なるサンプル2-1からサンプル2-5のグレープフルーツ果実様発泡性アルコール飲料(無果汁飲料)を作製した(サンプル1-1はメチルヘプテノンを含有しないコントロールサンプルであり、上記試験Iのサンプル1-3と同じ配合である)。なお、いずれのサンプルも、20℃における炭酸ガス圧は0.20MPaであった。
【0039】
そして、得られた各サンプルにおける、グレープフルーツ果実の複雑味、ボディ感、後味のシャープさ、グレープフルーツ果実の果肉部香味、グレープフルーツ果実の自然感(化学的ではないグレープフルーツ果実の自然な香り)、およびグレープフルーツ果実様発泡性アルコール飲料としての味のバランスについて、訓練され官能的識別能力を備えた8名のパネリストにより、官能評価を行った。なお、グレープフルーツ果実の複雑味、ボディ感、後味のシャープさ、およびグレープフルーツ果実様発泡性アルコール飲料としての味のバランスについては上記試験Iと同じ評価基準を用い、また、グレープフルーツ果実の果肉部香味、およびグレープフルーツ果実の自然感については以下に示す評価基準を用いて各サンプルを官能評価した。
【0040】
[グレープフルーツ果実の果肉部香味の評価基準]
サンプル2-1におけるグレープフルーツ果実の果肉部香味を1(全く感じない)とし、このサンプル2-1との対比として、1(全く感じない(サンプル2-1と同等である))から5(強く感じる)の5段階により比較官能評価を行った。
【0041】
[グレープフルーツ果実の自然感の評価基準]
グレープフルーツ果実様発泡性アルコール飲料におけるグレープフルーツ果実の自然感を、3(普通:人工的ではない果実様の香味がある)を中心として、1(悪い:人工的な(ケミカル的な)香味)から5(良い:自然な果実自体の香味とほぼ同等)の5段階により官能評価を行った。
【0042】
この官能評価結果(8名のパネリストの評価平均値)を下記表1下段中央に示した。この結果から、3-ヒドロキシヘキサン酸エチル含有量が1.0mg/Lであり、且つメチルヘプテノン含有量が0.05mg/L以上であったサンプル2-2からサンプル2-5は、グレープフルーツ果実由来成分を含まないにもかかわらず、グレープフルーツ果実の果肉部香味、または自然感が感じられる飲料であり、あわせて、グレープフルーツ果実の複雑味、ボディ感、後味のシャープさも十分に感じられることが明らかとなった。特に、サンプル2-2からサンプル2-4は、グレープフルーツ果実の複雑味、ボディ感、後味のシャープさ、およびグレープフルーツ果実の自然感がより優れ、グレープフルーツ果実の果肉部香味も優れ、且つグレープフルーツ果実様発泡性アルコール飲料としての味のバランスが非常に好ましい飲料であった。
【0043】
<レモン果実様飲料およびシークヮーサー果実様飲料の調製、ならびに官能評価(試験III)>
ベース酒となるウォッカに、糖類、クエン酸、レモン香料あるいはシークヮーサー香料(いずれも3-ヒドロキシヘキサン酸エチルおよびメチルヘプテノンを含有しない香料)を添加混合し、さらに3-ヒドロキシヘキサン酸エチル製剤および/またはメチルヘプテノン製剤を得られるサンプルの3-ヒドロキシヘキサン酸エチル含有量およびメチルヘプテノン含有量が下記表1上段右側に記載の量となるように添加混合して炭酸水により希釈し、アルコール度数が6(v/v)%、香料の含有量が0.08(w/v)%であり、3-ヒドロキシヘキサン酸エチル含有量あるいはメチルヘプテノン含有量が異なるサンプル3-1からサンプル3-3のレモン果実様発泡性アルコール飲料、ならびにサンプル3-4からサンプル3-6のシークヮーサー果実様発泡性アルコール飲料を作製した(いずれも無果汁飲料であり、サンプル3-1およびサンプル3-4は、3-ヒドロキシヘキサン酸エチルおよびメチルヘプテノンを含有しないコントロールサンプル)。なお、いずれのサンプルも、20℃における炭酸ガス圧は0.20MPaであった。
【0044】
そして、得られた各サンプルにおける、柑橘果実の複雑味、ボディ感、後味のシャープさ、柑橘果実の果肉部香味、および柑橘果実様発泡性アルコール飲料としての味のバランスについて、訓練され官能的識別能力を備えた8名のパネリストにより、レモン果実様発泡性アルコール飲料はサンプル3-1、シークヮーサー果実様発泡性アルコール飲料はサンプル3-4との対比として、上記試験Iおよび試験IIと同様の評価基準を用いて官能評価を行った。
【0045】
この官能評価結果(8名のパネリストの評価平均値)を下記表1下段右側に示した。この結果から、飲料に3-ヒドロキシヘキサン酸エチルを1.0mg/L含有させることにより、レモンやシークヮーサーの果実由来成分を含まないにもかかわらず、レモン果実あるいはシークヮーサー果実の複雑味、後味のシャープさ、ボディ感、ならびに果肉部香味が感じられる飲料となること、さらに飲料にメチルヘプテノンを0.10mg/L含有させることにより、これらがより向上し、且つ柑橘果実様発泡性アルコール飲料としての味のバランスも向上することが明らかとなった。特に、レモン果実様発泡性アルコール飲料においては、3-ヒドロキシヘキサン酸エチルとメチルヘプテノンとを所定量含有させることにより、レモン果実の果肉部の香味がより優れた飲料となることが示された。
【0046】
以上より、3-ヒドロキシヘキサン酸エチルを一定量以上含有する柑橘果実様発泡性アルコール飲料は、柑橘果実の複雑味、ならびに後味のシャープさが向上した飲料となり、ボディ感および柑橘果実の果肉部香味も向上した飲料となること、さらにメチルヘプテノンを所定の量含有する柑橘果実様発泡性アルコール飲料は、柑橘果実の複雑味、ボディ感、後味のシャープさ、ならびに柑橘果実の果肉部香味がより向上し、さらに柑橘果実の自然感も優れ、柑橘果実様発泡性アルコール飲料としての味のバランスの評価も高いことが示された。
【0047】
【表1】