(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】マグネットポンプ
(51)【国際特許分類】
F04D 13/02 20060101AFI20240221BHJP
【FI】
F04D13/02 F
(21)【出願番号】P 2019220301
(22)【出願日】2019-12-05
【審査請求日】2022-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】505328085
【氏名又は名称】古河産機システムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】種市 準
【審査官】中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-159086(JP,A)
【文献】特開2003-235730(JP,A)
【文献】実開昭56-138193(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 1/00-13/16
F04D 17/00-19/02
F04D 21/00-25/16
F04D 29/00-35/00
F16J 15/00-15/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インペラが収容された送液室と、前記インペラを回転駆動させる駆動部が収容されて内部が
清浄な液体である二次流体で満たされる二次流体室と、前記送液室と前記二次流体室との間に設けられて内部が空気で満たされる空気室と、を備え、
前記送液室には、前記インペラの背面側の基端部に、前記空気室との間を軸封する送液室軸封部が設けられ、
前記二次流体室には、前記空気室との間を軸封する二次流体室軸封部が設けられていることを特徴とするマグネットポンプ。
【請求項2】
前記空気室には、ラビリンス形状部および/または円環溝が配置されている請求項1に記載のマグネットポンプ。
【請求項3】
前記空気室には、前記送液室から前記空気室への送液の漏水の有無を感知する漏水検出手段が設けられている請求項1または2に記載のマグネットポンプ。
【請求項4】
前記漏水検出手段として、前記空気室内の空間への漏水を検出可能な漏水感知センサが設けられている請求項3に記載のマグネットポンプ。
【請求項5】
前記漏水検出手段として、機外から前記空気室内の空間に連通するドレンが設けられている請求項3に記載のマグネットポンプ。
【請求項6】
前記二次流体室軸封部の後方に水中軸受部およびマグネットカップリング部をこの順に備え、
前記マグネットカップリング部は、前記インペラの駆動軸の基端側に連結された従動側マグネット部と、該従動側マグネット部とは隔壁部材によって仕切られるとともにモータの出力軸と一体で回転されて前記従動側マグネット
部を、磁力を介して回転駆動させる駆動側マグネット部と、を有し、
前記駆動部として、前記水中軸受部および前記マグネットカップリング部のうち前記隔壁部材の内側の前記従動側マグネット
部が収容された領域が前記二次流体室の二次流体で満たされる請求項1から5のいずれか一項に記載のマグネットポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネットポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
マグネットポンプは、インペラ背面のシャフト部(駆動側接液部)に駆動力を伝達する駆動部を、マグネットカップリングおよび水中軸受等によって構成し、この駆動部(シャフトアッセンブリ)がシャフトを介してインペラに直結される。従来、シャフトアッセンブリは、送液が満たされた状態で回転するため、ポンプ外部への送液の漏洩は完全に遮断される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実全昭50-034803号公報
【文献】特開平02-264193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来のマグネットポンプでは、送液が高濃度スラリである場合、シャフトアッセンブリが、駆動側接液部に直結されて送液に満たされて回転するので、シャフトアッセンブリ自体が早期にダメージを受けるという問題がある。
【0005】
これに対し、従来のマグネットポンプにおいて、スラリ中から固形粒子を分離するセパレータやストレーナ等の分離手段を設けて、駆動側接液部を濾過した送液で満たす技術が存在している(例えば特許文献1参照)。しかしながら、セパレータやストレーナ等の分離手段を設ける技術では、重スラリに対しては分離手段の濾過能力が十分に機能しないおそれがある。
また、特許文献2記載の技術では、マグネットポンプの圧力容器内部をポンプ室とマグネット室とに分離し、マグネット室内の液体を強制循環させてマグネット室内のベアリング部を強制潤滑する構造を採用するものの、強制潤滑構造が高価であるという問題があり、重スラリに対応するノンリークポンプを構成する上で、解決すべき課題が残される。
【0006】
そこで、本発明は、このような問題点に着目してなされたものであって、送液が高濃度スラリであっても、シャフトアッセンブリの早期ダメージを防止または抑制し得るマグネットポンプを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係るマグネットポンプは、インペラが収容された送液室と、前記インペラを回転駆動させる駆動部が収容されてその内部が二次流体で満たされる二次流体室と、前記送液室と前記二次流体室との間に設けられてその内部が空気で満たされる空気室と、を備え、前記送液室には、前記空気室との間を軸封する送液室軸封部が前記インペラの背面側基端部に設けられ、前記二次流体室には、前記空気室との間を軸封する二次流体室軸封部が設けられていることを特徴とする。
【0008】
本発明の一態様に係るマグネットポンプによれば、水中軸受やマグネットカップリングを含むシャフトアッセンブリを送液で満たすのではなく、二次流体(例えばオイル)で満たす二次流体室内に配置している。そのため、送液が高濃度スラリであっても、シャフトアッセンブリの早期ダメージを防止または抑制して、長寿命化を図ることができる。
【発明の効果】
【0009】
上述のように、本発明によれば、送液が高濃度スラリであっても、シャフトアッセンブリの早期ダメージを防止または抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一態様に係るマグネットポンプの一実施形態の説明図であり、同図では、軸線に沿った断面を示している。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態について、図面を適宜参照しつつ説明する。本実施形態のマグネットポンプは、被送流体(送液)として、微粒懸濁物や、土砂、砂、小石等の固形物粒子を含むスラリを輸送する例である。
なお、図面は模式的なものである。そのため、厚みと平面寸法との関係、比率等は現実のものとは異なることに留意すべきであり、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。
また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記の実施形態に特定するものではない。
【0012】
図1に示すように、本実施形態のマグネットポンプ1は、送液室40を内部に有するケーシング30と、ケーシング30内に突設する駆動軸8の先端に支持されるインペラ34と、を備える。
ケーシング30は、フロントケーシング31と、リアケーシング32と、後部カバー33と、を有して構成される。フロントケーシング31の正面中心部には、吸込口35が設けられ、フロントケーシング31およびリアケーシング32との合わせ面を中心(CL2)とする側面(この例では駆動軸8の軸線CL1よりも上部)には吐出口36が設けられている。
【0013】
ケーシング30の接液面には、耐食性に優れたライナを設けることが好ましい。本実施形態では、ケーシング30の接液面にライナ41が装着されている。本実施形態のライナ41は、主ライナ41aと、主ライナ41aの背面側中央部を軸方向の後方側から覆うように形成された円盤状の後部ライナ41bと、を有して構成される。
特に、本実施形態の後部ライナ41bは、端面前側のライナ先端41sが、インペラ34のボス部34jに対向して張り出しており、ライナ先端41sが、後述する液室軸封部80のゴムスプリング83に当接されている。
【0014】
インペラ34の背面には、複数の裏羽根34rが設けられている。複数の裏羽根34rは、インペラ34の背面側に浸入したスラリを、裏羽根34rによる遠心力の作用で液室軸封部80とは反対の送液室40側に戻すことにより、液室軸封部80へのスラリの浸入を防止または抑制するようになっている。
このケーシング30に対し、送液室40とは反対の後部側から、不図示の締めねじによって、水中軸受部20を有するオイル室ケーシング50と、マグネットカップリング部10を有する駆動部ハウジング60と、がこの順に連結されている。オイル室ケーシング50には、上下の対向する位置に、給排油口51,52が設けられており、オイル室ケーシング50内が、二次流体としてのオイルが満たされるオイル室になっている。
【0015】
駆動部ハウジング60には、マグネットカップリング部10の基端側(同図右側)の側面に、モータブラケット2が複数のボルト2aによって連結され、このモータブラケット2に駆動モータ3が一体で固定されている。駆動軸8は、その基端側がケーシング30の後方の後部カバー33の中心部を貫通しており、駆動軸8の途中部分が、オイル室軸封部90よりも後方の位置で水中軸受部20によって回転自在に支持されている。
【0016】
駆動軸8の基端部には、マグネットカップリング部10の出力軸4が、モータ3の駆動力を、磁力を介して伝達可能に接続される。本実施形態では、マグネットカップリング部10は、モータ3の出力軸4とともに一体で回転する駆動側マグネット部5と、駆動側マグネット部5の内側に隙間を隔てて設けられた隔壁部材であるキャン6と、キャン6内部に隙間を隔てて設けられて駆動側マグネット部5から磁力を介して追従回転可能に設けられた従動側マグネット7と、を有する。
駆動側マグネット部5の内周面には、周方向に沿って複数のアウタマグネット5aが配置される一方、従動側マグネット7の外周面には、周方向に沿って複数のインナマグネット7aがアウタマグネット5aに対向配置されている。
【0017】
水中軸受部20は、軸受ブラケット21と、軸方向に離間した二つの水中軸受22,23と、を有する。軸受ブラケット21は、その支持フランジ部21fが、オイル室ケーシング50の後端面と駆動部ハウジング60の前端面との間に介装された状態で固定されている。この軸受ブラケット21によって、上記駆動軸8の先端側(同図左側)を、二つの水中軸受22,23によって回転自在に支承している。
また、水中軸受部20には、駆動軸8のインペラ34側の段部8dの端面に、スラスト軸受25が装着されており、上記送液室40のインペラ34から受けるスラスト荷重をスラスト軸受25で支持している。本実施形態のマグネットポンプ1では、上述したマグネットカップリング部10および水中軸受部20により、駆動部(シャフトアッセンブリ)が構成されている。
【0018】
本実施形態の水中軸受部20は、オイル室ハウジング50内に且つ給排油口51,52に対向する位置まで軸方向に延出して設けられている。この例では、対向する上下の給排口51,52の中心軸CL3の延長線上の位置よりも、スラスト軸受25の軸方向の後部の位置が送液室40側に張り出す位置まで延出して配置されている。これにより、オイルによる水中軸受部20の冷却効果が向上するとともに、水中軸受部20のドライ運転によるトラブル等を防止または抑制する効果を奏する。
【0019】
ここで、本実施形態のインペラ34は、その基端部分に、軸方向後方に伸びるボス部34bが設けられている。ボス部34bは、水平に配置された駆動軸8の先端に直結される。そして、本実施形態のマグネットポンプ1は、送液室40内のインペラ34のボス部34bの外周面の位置に、メカニカルシール機構を有する送液室軸封部80が装備されている。
本実施形態の送液室軸封部80は、後部カバー33の前面と、インペラ34のボス部34bとの間に装備される。また、後部カバー33の背面とスラスト軸受25の前面との間に、オイル室軸封部90が設けられている。
【0020】
本実施形態では、送液室軸封部80とオイル室軸封部90との間の領域であって、ケーシング30の背面中央に固定された後部カバー33の内周面側の領域に空気室70が画成されている。本実施形態のマグネットポンプ1では、送液室軸封部(液室メカニカルシール)80とオイル室軸封部(油室メカニカルシール)90とにより、後部カバー33の内部が前後から隔絶された空気室70になっている。
【0021】
本実施形態のマグネットポンプ1は、送液室40の送液がオイル室ケーシング50内のオイルに混入しないように、4段階のシール機構を備えている。本実施形態では、1次シール機構として、送液室40の内部に、インペラ34の背面に取付けられた液室メカニカルシール80を設けている。
液室メカニカルシール80は、
図2に拡大図示するように、インペラ34の背面側のボス部34jに配置される円環状の回転環81と、液室40内に配置されて回転環81の摺接面81sに対して軸方向に対向する摺接面82sを有する円環状の静止環82と、液室40内に配置されて静止環82を回転環81の方向に押圧付勢する略円環状のゴムスプリング83と、を備える。
【0022】
詳しくは、後部カバー33は、円筒状のボディ部33aと、ボディ部33aの外周面にリアケーシング32の前面に二つの周縁部がインロー勘合によって嵌め合わされるように軽方向に張り出して設けられた円板状のインロー勘合部33bと、ボディ部33aの前面に軸方向に沿って円環状に突設されてゴムスプリング83が内周側に嵌め込まれた状態で保持されるとともに外面側が液接部とされている円環状凸部33cと、ボディ部33aに対して円環状凸部33cよりも内周側前面に形成された円環状凹部33dと、を有する。
【0023】
送液室軸封部(液室メカニカルシール)80は、円環状凹部33dに静止環82が支持ピン84によって軸方向にスライド移動可能に支持されている。円環状凸部33cの前端面は、ケーシング30の背面側の後部ライナ41bの背面に圧接されている。
本実施形態の送液室軸封部80は、後部カバー33のボディ部33aの軸方向前側の内周部の位置に、駆動軸8と同軸に形成されたインペラ34のボス部34bが配置され、このボス部34bの外周面に沿って円筒状の静止環82が同軸に円環状凹部33dに固定される。静止環82は、基部後側が、支持ピン84を介して円環状凹部33dに連結される。
【0024】
静止環82は、円筒状の基部82aと、基部82aから径方向外側に立ち上がるように形成された円環状の腕部82bと、を有する。基部82aの後側端面には、支持ピン84が挿入される挿入溝82mが、軸方向に沿って形成されている。腕部82bの前方を向く面の先端が前方に張り出した摺動面82sになっている。
後部カバー33のボディ部33aには、ボディ部33aの内面の軸方向略中央に、ゴムスプリング83を装着するための円環状の装着段部33nが形成されている。ゴムスプリング83は、装着段部33nに嵌め込まれる基部83aと、基部83aから斜め前方に張り出す腕部83bと、腕部83bの先端から後方に向けて軸線に沿って円環状に延びる保持リップ部83cと、を有する。
【0025】
ゴムスプリング83の保持リップ部83cは、その内周面が、基部82aの外周面に嵌め合わされるとともに、保持リップ部83cの前端面が、腕部82bの後面に当接する状態で装着される。腕部82bの前方を向く面の先端が、前方に張り出した摺動面82sになっている。静止環82は、その基部82aが、保持リップ部83cに嵌合した状態で支持ピン84を介してボディ部33aの円環状凹部33dに連結されてボディ部33aに保持される。
【0026】
一方、インペラ34のボス部34bの軸方向前側の位置には、静止環82に対向配置されてインペラ34とともに回転する回転環81が装着される。回転環81および静止環82には、硬度の高いセラミックス(例えばSiC)や超硬合金材料等を用いることが好ましい。
インペラ34のボス部34bには、回転環81よりも軸方向前側の位置に、サポートシール85が設けられている。サポートシール85は、円筒状段部85dの内周面が、基部34kの外側面に嵌め合わされるとともに、サポートシール85の後端面85rが、回転環81の前面81mに当接する状態で装着される。回転環81は、回転環81の前側に装着されたサポートシール85により弾性的に支持される。サポートシール85は、インペラ34と一体で回転するとともに回転環82を保持する。
【0027】
これにより、回転環81と静止環82とは、インペラ34のボス部34bの外周上に、メカニカルシールを構成するように軸方向に対向して装着される。換言すれば、本実施形態では、メカニカルシールとして、インペラ34とともに回転する回転環81と、回転環81の摺動面81sと摺接する摺動面82sが対向配置される静止環82と、を有する。
そして、回転環81と静止環82とは、対向配置された相互の径方向に沿った摺動面81s,82s同士が、互いに摺動されるシール摺動部を形成する。シール摺動部は、マグネットポンプ1の送液室40内(液室軸封部80の軸方向前方の接液部側)から外部(液室軸封部80の軸方向後方のオイル室51側)または外部から内部へのスラリの漏れを防止するように構成される。
【0028】
つまり、このシール摺動部は、回転環81側の付勢手段がサポートシール85であり、サポートシール85により軸方向後方に向けて回転環81が付勢されている。そして、静止環82側の付勢手段はゴムスプリング83であり、ゴムスプリング83により軸方向前方に向けて静止環82が付勢されている。
これにより、回転環81と静止環82との摺動面81s,82s同士が、互いに所定の押圧力で摺接されるメカニカルシール機構のシール摺動部を形成し、マグネットポンプ1の送液室40内からオイル室への流体の漏れを防止可能になっている。
【0029】
ここで、本実施形態は、上述した構成に加え、更に、空気室70に、スラリ中の固形粒子をオイル室軸封部90とは反対の送液室40側に戻すための複数のシール機構を備えている。本実施形態の空気室70には、2次シール機構として、液室メカニカルシール80の後方にラビリンス形状部71が設けられるとともに、3次シール機構として、ラビリンス形状部71の後方に多段(この例では3段)の円環溝72,73,74が設けられている。
【0030】
すなわち、本実施形態の空気室70は、2次シール機構として、ボス部34jの後縁外周部に円環状の突起部71aを有するとともに、突起部71aがボス部34jの後縁外周部に勘合するように、ボディ部33aの前面に円環状の凹部71bが形成されラビリンス形状部71を構成している。
また、本実施形態の空気室70は、3次シール機構として、後部カバー33の内周面に、それぞれ円環状をなす3列の円環溝72,73,74が、軸方向に所定の離隔距離を隔てて形成されている。この例では、各円環溝72,73,74は、横断面形状が、径方向外側に向かうにつれて狭幅する台形形状になっている。
【0031】
さらに、本実施形態の空気室70には、送液の漏水検出手段として漏水感知センサ76が装着されている。漏水感知センサ76は、円筒状の本体部76aと、本体部76aの後端側に形成された鍔状の装着フランジ76bと、本体部76aの先端から前方に向けて同軸に伸びる電極部76cと、を有する。
電極部76cは、送液室40から空気室70への送液の漏水の有無を感知するための検出子である。本体部76aの後端からは、オイル室ケーシング50のオイル室51内の適所から機外まで延出するようにリード線76dが配線されている。漏水感知センサ76は、電極部76cが送液で浸水することによって通電してリード線76dに出力信号が出力されるようになっている。
【0032】
漏水感知センサ76は、装着フランジ76bが、ボディ部33aのシール装着部33e後端面に固定され、電極部76cが、ボディ部33a内面の円環状凹部33dの、装着段部33nよりも内周寄りの低い位置に突設するように装着される。これにより、本実施形態の空気室70によれば、オイル室軸封部90に漏液が達する前の早い段階での漏水を漏水感知センサ76によって感知でき、迅速な保全作業を行うことができる。
【0033】
また、オイル室軸封部90には、オイル室ケーシング50の外部から、二次流体供給部51、52を用いて、オイルが連続的または間欠的に供給される。これにより、オイル室51の内部空間にはオイルが充填される。なお、本実施形態の例では、オイル室ケーシング50に満たす二次流体としてオイルを例に示したが、これに限定されず、必要に応じて、水、オイル、グリスなどの種々の二次流体を供給して充填することができる。本実施形態のマグネットポンプ1では、送液として高濃度スラリを扱う場合であって、水中軸受部20およびマグネットカップリング部10を満たす二次流体として、送液でなくオイルを満たしている。
【0034】
オイル室51の内部空間への二次流体のパージングにより、シール摺動部とサポートシール85の間から接液側に微量ずつ二次流体が押し出され、これにより、被送流体内の固形物粒子等がオイル室51内に侵入するのを防止するとともに、侵入した固形物粒子等の異物を被送流体側に押し戻す作用がある。
このように、本実施形態のマグネットポンプ1では、二次流体としてのオイルが送液中に漏れないように、多段の円環溝72,73,74の後方に、オイル室軸封部90を送液室軸封部80とは別途に配置している。つまり、オイル室ケーシング50内に、4次シール機構として、オイル室軸封部90として油室メカニカルシールを設けていることになる。
【0035】
オイル室軸封部90は、後部カバー33とスラスト軸受25との間の空間に配置されている。
後部カバー33は、ボディ部33aのオイル室51側に、ボディ部33aの後端に凸設されたボス状のシール装着部33eを有し、このシール装着部33eにオイル室軸封部90の静止環92が装着されている。静止環92は、静止環92とシール装着部33eの内面33fとの間に介装された保持器95によって保持される。
【0036】
オイル室軸封部90は、静止環92が後部カバー33側に固定されるとともに、シール装着部33eの内面33fに装着された保持器95で保持された静止環92に対して、軸方向に対向するように回転環91が取り付けられ、静止環92と回転環91とは、互いの対向面同士が摺接している。
駆動軸8の外周には、コイルバネ支持部材94で水平姿勢が支持された円筒コイルバネ93が駆動軸8の外周を囲繞するように取り付けられ、この円筒コイルバネ93が回転環91を静止環92の方向に押圧付勢している。これにより、オイル室軸封部90は、静止環92と回転環91との間の摺接面によって、後部カバー33側からのスラリがオイル室ハウジング50内に漏れ出すことを防止している。
【0037】
次に、本実施形態のマグネットポンプ1の動作および作用効果について説明する。
本実施形態のマグネットポンプ1では、マグネットポンプ1の運転時には、モータ3が駆動されると出力軸4とともに駆動側マグネット部5が一体で回転し、駆動側マグネット部5のアウタマグネット5aから従動側マグネット7のインナマグネット7aに伝達された回転力によって従動側マグネット部7が回転駆動される。
これにより、水中軸受部20により回転自在に支持された駆動軸8が従動側マグネット部7とともに一体で回転すると、この駆動軸8に直接接続されたインペラ34がケーシング30の送液室40で回転する。ケーシング30内でインペラ34がその回転軸線CL1を中心として回転すると、送液室40では、インペラ34の動きに伴って、被送流体であるスラリを昇圧して、吸込口35から吐出口36に向けてスラリを圧送することができる。
【0038】
ここで、スラリを移送するポンプとして、「背景技術」で説明したように、従来から、水中軸受部とマグネットカップリング部とを用いたマグネットポンプが用いられているところ、通常、この種のマグネットポンプは、送液可能なスラリ粒子径が、およそ1~2mm(濃度30wt%)である。これは、使用する水中軸受の耐摩耗性等の規制条件により、送液可能なスラリ粒子径が制限されるからである。
【0039】
これに対し、本実施形態のマグネットポンプ1は、上述したように、駆動部(シャフトアッセンブリ)を構成する、水中軸受部とマグネットカップリング部に、送液とは違う媒体(オイル)を二次流体として封入する構造である。
すなわち、本実施形態のマグネットポンプ1によれば、水中軸受部20やマグネットカップリング部10を含むシャフトアッセンブリを送液で満たすのではなく、(清浄な)オイルで満たすように、オイル室ハウジング50のオイル室内に配置している。
【0040】
そのため、本実施形態のマグネットポンプ1によれば、シャフトアッセンブリは、オイル室ハウジング50内にオイルが満たされた状態で回転するため、ポンプ外部への送液の漏洩は完全に遮断される上、送液が高濃度スラリであっても、シャフトアッセンブリが送液とは隔絶された状態で回転するので、シャフトアッセンブリ自体が送液による早期ダメージを防止または抑制して、長寿命化を図ることができる。
そして、本実施形態のマグネットポンプ1は、液室側に、上述したメカニカルシール構造を有する送液室軸封部80を備えるので、ケーシング30内でインペラ34によって昇圧されたスラリが駆動軸8の周囲からオイル室51に漏れるのを防止できる。
【0041】
特に、本実施形態のマグネットポンプ1によれば、上述した多段のシール機構により、スラリ粒子径が2mm以上のスラリ液であっても安定した送液を可能にする。
本実施形態のマグネットポンプ1のシール機構において、高濃度スラリによるダメージを最初に受けるのは、インペラ34の背面に位置するように送液室40に配された送液室軸封部80であり、送液室軸封部80から高濃度スラリのリークが始まっても、空気室70からオイル室軸封部90を順に介してオイル室51内に高濃度スラリが浸入することになる。そのため、シャフトアッセンブリのダメージが早期に進行することが防止または抑制される。
【0042】
つまり、本実施形態のマグネットポンプ1によれば、送液は、まず、インペラ背部に設置された第一のシール機構である送液室軸封部80でシールされる。本実施形態のマグネットポンプ1では、送液室軸封部80は、インペラ背部にシール摺動面を設けることにより、シール摺動面が送液に直接触れるため、シール摺動面の液膜形成状態が安定する(ドライ摺動防止)。
【0043】
特に、本実施形態のマグネットポンプ1では、送液室軸封部80は、シール摺動面の面圧調整に、ゴムスプリング83の弾性力を利用しているので、円筒コイルバネのような複雑な形状の金属スプリングに比べて、ポンプをコンパクトに構成しつつ、ポンプの被送流体がスラリであっても、スラリ中の成分がコイルスプリングに固着して作動不良が発生するようなことはなく、ゴムスプリング83が送液に接液しても作動不良等のトラブルが防止または抑制される。本実施形態のマグネットポンプ1では、摺動面81s、82sの位置が裏羽根34rの内径よりも内側に設置されているので、摺動面81s、82sの位置では周速が低くなり潤滑に有利であるといえる。
また、本実施形態のマグネットポンプ1では、空気室70に、二次のシール機構としてラビリンス形状部71を有するので、オイル室51のシール摺動部に到達する固形粒子の量を抑制できる。よって、オイル室軸封部90のシール機能の長寿命化を図ることができる。
【0044】
さらに、本実施形態の送液室軸封部80によれば、空気室70に、三次のシール機構として、多段の円環溝72,73,74を設けているので、各円環溝72,73,74内で生じた渦流によって、スラリ中の固形粒子を捕捉(トラップ)できる。そのため、オイル室軸封部90のシール摺動部に到達する固形粒子の量を抑制する上で好適であり、オイル室軸封部90の長寿命化を図る上で優れている。
このように、本実施形態のマグネットポンプ1では、万一、送液室軸封部80から送液漏れが発生した場合であっても、予備シールとして、空気室70に、非接触式のラビリンス形状部71および多段の円環溝72,73,74を設けることによる、複合3段階シール構造になっているので、送液が高濃度スラリであっても、オイル室軸封部90への送液の漏れ出しを、より確実にシールできる。
【0045】
以上説明したように、本実施形態のマグネットポンプ1によれば、送液が高濃度スラリであっても、シャフトアッセンブリの早期ダメージを防止または抑制できる。なお、本発明に係るマグネットポンプは、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しなければ種々の変形が可能であることは勿論である。
例えば、上記実施形態のマグネットポンプ1において、多段のシール機構として、空気室70に、ラビリンス形状部71および多段の円環溝72,73,74を設けた例を示したが、これに限らず、ラビリンス形状部および/または円環溝を有しない構成としてもよい。ただし、空気室70に、ラビリンス形状部および/または円環溝が配置されていることは好ましい。
【0046】
このような構成であれば、空気室70のラビリンス形状部および/または円環溝のトラップ効果により、高濃度スラリがオイル室軸封部90からオイル室51側に多量に流入することを防止または抑制する上でより好適である。空気室70に、ラビリンス形状部および円環溝を複数段階にかつ複合的に設けることはより好ましい。
また、上記実施形態では、送液の漏水検出手段として、電気式の漏水感知センサ76を空気室70に装着した例を示したが、これに限定されず、送液室40から空気室70への送液の漏水の有無を感知可能であれば、種々の態様の検出手段を空気室70に設けることができる。
【0047】
例えば、上記実施形態のマグネットポンプ1において、空気室70内の空間に連通するドレンを設けることは好ましい。より具体的には、ボディ部33a内面の円環状凹部33dの、装着段部33nよりも内周寄りの低い位置に突設するドレン管を機外まで配管すれば、このドレン管が送液により浸水することによって、機外にて送液の漏水の有無を感知できる。このような構成であっても、空気室70のドレンによって高濃度スラリのリークを検知することで、早期のメンテナンスを促すことができるため、簡易な構成により、高濃度スラリがオイル室側に流入することを防止または抑制する上で好適である。
【符号の説明】
【0048】
1 マグネットポンプ
2 モータブラケット
3 モータ
4 出力軸
5 駆動側マグネット部
6 キャン(隔壁部材)
7 従動側マグネット部
8 駆動軸
10 マグネットカップリング部
20 水中軸受部
30 ケーシング
31 フロントケーシング
32 リアケーシング
33 後部カバー
34 インペラ
34j ボス部
34r 裏羽根
35 吸込口
36 吐出口
40 送液室
41 ライナ
41a 主ライナ
41b 後部ライナ
50 オイル室ケーシング(二次流体室ケーシング)
51 オイル室(二次流体室)
60 駆動部ハウジング
70 空気室
71 ラビリンス形状部
72 円環溝
73 円環溝
74 円環溝
76 漏水感知センサ(漏水検出手段)
80 送液室軸封部
81 回転環
82 静止環
83 ゴムスプリング
84 支持ピン
85 サポートシール
90 オイル室軸封部(二次流体室軸封部)
91 回転環
92 静止環
93 円筒コイルバネ
94 コイルバネ支持部材
95 保持器