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特許7441056銅めっき廃液からの銅析出法およびそれを用いた銅分離回収装置
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  • 特許-銅めっき廃液からの銅析出法およびそれを用いた銅分離回収装置 図1
  • 特許-銅めっき廃液からの銅析出法およびそれを用いた銅分離回収装置 図2
  • 特許-銅めっき廃液からの銅析出法およびそれを用いた銅分離回収装置 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】銅めっき廃液からの銅析出法およびそれを用いた銅分離回収装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/70 20230101AFI20240221BHJP
   C23C 18/16 20060101ALI20240221BHJP
   C02F 1/62 20230101ALI20240221BHJP
【FI】
C02F1/70 A
C23C18/16 Z
C02F1/62 C
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020009668
(22)【出願日】2020-01-24
(65)【公開番号】P2021023926
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-11-14
(31)【優先権主張番号】P 2019145202
(32)【優先日】2019-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永瀬 雅啓
(72)【発明者】
【氏名】加藤 泰隆
【審査官】石岡 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-152592(JP,A)
【文献】特開昭61-074696(JP,A)
【文献】特開昭51-139167(JP,A)
【文献】特開2014-012880(JP,A)
【文献】特開2009-256779(JP,A)
【文献】特開2010-174312(JP,A)
【文献】特開昭59-101444(JP,A)
【文献】特表2017-538040(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F1/58-1/64、1/70-1/78
B01D9/00-9/04
C23C18/00-20/08
B22F9/00-9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅めっき廃液から銅を分離回収する銅析出法であって、
銅めっき廃液にNaBHを添加し、核となる粒径30nm~100nmの微細な銅微粒子を形成し、
銅めっき廃液中のHCHOにより、前記銅微粒子上に銅を析出させて銅粒子を形成し、
前記銅を析出させる反応で生成したHCOONaによって、前記銅粒子上にさらに銅を析出させて粒状の銅を得る。
【請求項2】
請求項1に記載の銅析出法であって、
前記NaBHの添加量は、前記銅めっき廃液中に含まれる銅を還元する量の3.3%~10%である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解銅めっき廃液から銅を析出させる銅析出法およびそれを用いた銅分離回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、無電解銅めっき廃液から銅を分離回収する方法として、フェントン処理を利用して水酸化銅を析出させる方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-12880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の方法では、無電解銅めっき廃液に含有されている有機化合物をフェントン酸化処理により分解除去する前の前処理として、廃液に存在する還元剤のホルムアルデヒドを銅イオンでギ酸に酸化するとともに銅を析出させている。しかしながら、この方法では、処理費が高く、また、分離回収した銅の含銅率が低くなる問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る銅析出法は、銅めっき廃液から銅を分離回収する銅めっき廃液からの銅析出法であって、銅めっき廃液にNaBHを添加し、核となる微細な銅微粒子を形成し、銅めっき廃液中のHCHOにより、前記銅微粒子上に銅を析出させて銅粒子を形成し、前記銅を析出させる反応で生成したHCOONaによって、前記銅粒子上にさらに銅を析出させて粒状の銅を得る。
【0006】
また、本発明に係る銅分離回収装置は、銅めっき廃液から銅を分離回収する銅分離回収装置であって、銅めっき廃液を貯留する銅めっき槽と、NaBHを貯留するNaBHタンクと、銅めっき槽から供給される銅めっき廃液とNaBHタンクから供給されるNaBHとを混合し、上述した銅析出法により銅を析出させるNaBH混合槽と、NaBH混合槽から供給される析出した銅を含む処理液を固液分離して銅を回収する固液分離装置と、銅めっき槽、NaBHタンク、NaBH混合槽および固液分離装置の各動作を制御する制御装置と、からなる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の銅析出法の実施形態によれば、銅めっき廃液にNaBHを添加し、添加したNaBHで銅めっき廃液中に残存する銅の一部から核となる微細な銅微粒子を形成し、形成した銅微粒子上に、銅めっき廃液中に残った銅にもともと備わっているめっき力で銅を析出させて粒状の銅を得ているため、安価な処理費用で、得られた銅の含銅率を高めることができる。
【0008】
本発明の銅分離回収装置の実施形態によれば、NaBHの作用により銅が粒状に析出し配管に付着しないため、NaBHを製造現場で投入すれば配管閉塞とその防止のための硫酸が削減でき運用上、コスト上のメリットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る無電解銅めっき廃液からの銅析出法の各工程を示すフローチャートである。
図2】(a)~(c)は、それぞれ、本発明の一実施形態に係る銅析出法の各工程における銅微粒子、銅粒子および粒状の銅の状態を示す断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る銅分離回収装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、本発明の一実施形態に係る銅析出法の各工程を示すフローチャートである。図1に従って本発明の一実施形態を説明すると、核となる微細な銅微粒子の形成(S1)、銅微粒子上へ銅を析出させた銅粒子の形成(S2)、および、銅粒子上へさらに銅を析出させた粒状の銅の形成(S3)から本発明は構成されている。
【0011】
核となる微細な銅微粒子の形成工程(S1)では、銅めっき廃液にNaBHを添加し、核となる微細な銅微粒子を形成する。この工程では、NaBHの還元力により、銅めっき廃液中に残存する銅の一部から核となる微細な銅微粒子を形成する。この工程での銅微粒子形成の反応は、以下のように進むと考えられる。
【0012】
銅微粒子上へ銅を析出させた銅粒子の形成工程(S2)では、銅めっき廃液中のHCHOにより、銅微粒子上に銅を析出させて銅粒子を形成する。この工程では、銅めっき廃液中のHCHOにより、S1工程で形成した銅微粒子上へ銅めっき廃液中に残った銅を析出させて、銅粒子を形成する。この工程での銅粒子形成の反応は、以下のように進むと考えられる。
【0013】
銅粒子上へさらに銅を析出させた粒状の銅の形成工程(S3)では、銅を析出させる工程(S2)での反応で生成したHCOONaによって、S2工程で形成した銅粒子上に銅めっき廃液中に残存した銅をさらに析出させて粒状の銅を得る。この工程での粒状の銅の形成の反応は、以下のように進むと考えられる。
なお、この工程でHCHOは炭酸ガス(CO)まで分解される。
【0014】
図2(a)~(c)は、それぞれ、本発明の一実施形態に係る銅析出法の各工程における銅微粒子、銅粒子および粒状の銅の状態を示す断面図である。以下、銅微粒子、銅粒子および粒状の銅について説明する。なお、図2(a)~(c)において、各構成部材の説明がわかりやすくなるように、各構成部材の大きさは実際の大きさとは異なっている。
【0015】
まず、図2(a)に示すように、核となる微細な銅微粒子の形成工程(S1)で銅微粒子1を形成する。核となる銅微粒子1は、処理すべき銅めっき廃液にNaBHを添加して、NaBHの還元力により形成される。
【0016】
このとき、NaBHの添加量は、銅めっき廃液中の銅の一部が銅として析出するように、銅めっき廃液中に含まれる銅を還元する量の3.3%~10%(重量比)とすることが好ましい。ここで、NaBHの添加量が、銅を還元する量の3.3%未満であると、十分な初期析出量が得られず実用的な反応時間内で99%以上の銅が除去不能であり、一方、10%を超えると、処理として支障はないが、余分な還元力が残るため後工程に影響がでる可能性があるからである。
【0017】
また、銅めっき廃液へのNaBHの添加により形成された銅微粒子1の粒径は、30nm~100nmであることが好ましい。ここで、銅微粒子1の粒径は、30nm未満であると、生成される粒子の最終的な大きさが小さくて固液分離が困難になる可能性があり、一方、100nmを超えると、無電解めっき銅廃液中の実用的な銅析出速度が得られない。このように、銅微粒子1の粒径が微細であるため、銅微粒子1は極めて大きい積算表面積を有し、強力に銅めっき廃液を活性化する。
【0018】
次に、図2(b)に示すように、銅微粒子上へ銅を析出させた銅粒子の形成工程(S2)で、銅微粒子1上に銅を析出させて銅の被覆層2を形成して銅粒子11を形成する。本発明では、この際、添加したNaBHで銅めっき廃液中の銅がすべて還元される訳ではない。従って、銅めっき廃液中に残存した銅は、銅めっき廃液中にもともとあるめっき力で析出して、銅の被覆層2を形成する。
【0019】
最後に、図2(c)に示すように、銅粒子上へさらに銅を析出させた粒状の銅の形成工程(S3)で、銅粒子11上に銅の被覆層3をさらに析出させて、粒状の銅21を形成する。
【0020】
本発明の銅めっき廃液からの銅析出法に従って得られた粒状の銅21によれば、銅めっき廃液にNaBHを添加し、添加したNaBHで銅めっき廃液中に残存する銅の一部から核となる微細な銅微粒子を形成し、形成した銅微粒子上に、銅めっき廃液中に残った銅にもともと備わっているめっき力で銅を析出させて粒状の銅21を得ている。
【0021】
そのため、粒状の銅21は、もともと銅めっき廃液がもっている還元力で銅の被覆層2および3を形成しているため、処理費を安価にすることができる。また、粒状の銅21の含銅率を70%以上と高い含銅率とすることができる。
【0022】
さらに、本発明の銅析出法に従って得られた銅21は、粒状であるため、銅めっき廃液を輸送する配管に付着しない。通常、銅めっき廃液を輸送する配管では、銅めっき廃液の還元力により銅が析出し配管閉塞を引き起こす。そして、それを解決するために、硫酸で配管を洗浄してから銅めっき廃液を輸送する、あるいは、銅めっき廃液を酸性に調整してから配管を通す。この点で、本発明の粒状の銅21は、配管閉塞とその防止のための硫酸が削減でき、運用上、コスト上のメリットを提供することができる。
【0023】
図3は、本発明の一実施形態に係る銅分離回収装置の構成を示すブロック図である。図3に示す例において、銅分離回収装置は、銅めっき廃液を貯留する銅めっき槽31と、NaBHを貯留するNaBHタンク41と、銅めっき槽31から供給される銅めっき廃液とNaBHタンク41から供給されるNaBHとを混合し、本発明に係る銅析出法により銅を析出させるNaBH混合槽51と、NaBH混合槽51から供給される銅を含む処理液を固液分離して銅を回収する固液分離装置61と、銅めっき槽31、NaBHタンク41、NaBH混合槽51および固液分離装置61の各動作を制御する制御装置71と、から構成されている。
【0024】
本実施形態において、銅めっき槽31には配管32が設けられている。銅めっき槽31に貯留された銅めっき廃液は、配管32を通じて、NaBH混合槽51に供給される。配管32には、ポンプ33、流量計34および電磁弁35が設けられている。銅めっき槽31における銅めっき廃液のNaBH混合槽51への供給量などの制御は、流量計34の測定値をもとに制御装置71により、ポンプ33の動作を直接制御することにより、あるいは設定値を外れたときにアラートを発することにより行っている。電磁弁35は、また、銅めっき槽31中の洗浄液(酸性の硫酸過水)がNaBH混合槽51に流入して水素ガスが発生しないように、銅めっき槽31の洗浄液を、配管36を通じて外部へ排出するために利用されている。
【0025】
NaBHタンク41には配管42が設けられている。NaBHタンク41に貯留されたNaBHは、配管42を通じて、NaBH混合槽51に供給される。配管42には、ポンプ43および流量計44が設けられている。NaBHタンク41におけるNaBHのNaBH混合槽51への供給量などの制御は、制御装置71により、流量計44の測定値に基いて設定値を外れたときにアラートを発する、あるいはポンプ43の動作を直接制御することで行っている。
【0026】
NaBH混合槽51には、供給された銅めっき廃液とNaBHとを混合するための撹拌機52、および、混合液のpHを測定して銅めっき廃液とNaBHとの反応の最適pHから外れていないかを検知し、あるいは水素発生リスクを排除するためのpH計53が設けられている。また、NaBH混合槽51の下部には、配管54が設けられている。NaBH混合槽51で、供給された銅めっき廃液とNaBHとは撹拌機52により混合され、本発明の銅析出法に従って処理液中に銅を析出させている。析出した銅を含む処理液は、配管54を通じて固液分離装置61に供給される。NaBH混合槽51における銅を含む処理液の固液分離装置61への供給量などの制御は、制御装置71により、ポンプ55および電磁弁56の動作を制御することによって行っている。また、電磁弁56には配管57が設けられている。配管57にはポンプ58が設けられ、ポンプ58の動作により外部から配管フラッシングのための工水の供給を可能とし、沈殿による配管閉塞リスクを減少させている。
【0027】
固液分離装置61では、NaBH混合槽51から供給された銅を含む処理液を析出した銅と処理液とに分離し、本発明が目的とする銅を得ている。固液分離装置61としては、従来から公知の装置を用いることができ、例えば、1-25μmのフィルター、バグフィルター、スクリーン、あるいはフィルタープレスでのろ過、さらには遠心分離で固液分離を使用することができる。
【0028】
(実施例)
本発明の銅析出法に従って、まず、Cu3000mg/Lの銅めっき廃液に対し、NaBHを反応液中濃度96mg/L~540mg/L(全銅を還元する還元力の1/4~4/3)添加して、粒径30nmの核となる銅微粒子を形成した。その後、形成した銅微粒子上に銅被覆層を形成し、粒状の銅を形成した。処理開始から粒状の銅を形成するための反応時間は1時間と短かった。また、得られた粒状の銅の含銅率は約70%と高く、有価回収できる対象となることがわかった。
【符号の説明】
【0029】
1 銅微粒子
2、3 銅の被覆層
11 銅粒子
21 粒状の銅
31 銅めっき槽
32 配管
33 ポンプ
34 流量計
35 電磁弁
36 配管
41 NaBHタンク
42 配管
43 ポンプ
44 流量計
51 NaBH混合槽
52 撹拌機
53 pH計
54 配管
55 ポンプ
56 電磁弁
57 配管
58 ポンプ
61 固液分離装置
71 制御装置
図1
図2
図3