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特許7441067移動式ひび割れ検出装置、及びひび割れ検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】移動式ひび割れ検出装置、及びひび割れ検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/84 20060101AFI20240221BHJP
   G01N 21/88 20060101ALI20240221BHJP
【FI】
G01N21/84 B
G01N21/88 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020024295
(22)【出願日】2020-02-17
(65)【公開番号】P2020160056
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-01-10
(31)【優先権主張番号】P 2019054281
(32)【優先日】2019-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(73)【特許権者】
【識別番号】505466295
【氏名又は名称】株式会社イクシス
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】羽根田 健
(72)【発明者】
【氏名】山崎 文敬
(72)【発明者】
【氏名】狩野 高志
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-217801(JP,A)
【文献】特開2017-161403(JP,A)
【文献】特開2018-195001(JP,A)
【文献】特開平4-240555(JP,A)
【文献】国際公開第2011/064821(WO,A1)
【文献】特開2001-99784(JP,A)
【文献】国際公開第2018/043180(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/84-G01N 21/958
G01N 23/00-G01N 23/2276
E01C 21/00-E01C 23/24
G05D 1/00-G05D 1/87
G06T 7/00ーG06T 7/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Science Direct
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自律走行しながら床面のひび割れを検出する装置であって、
前記床面上を自走する移動体と、
前記移動体の現在位置を計測する位置計測手段と、
前記床面の一部を収めた部分画像を取得する画像取得手段と、
前記床面を表す環境地図に検査範囲を入力する検査範囲入力手段と、
前記移動体の走行経路を設定する経路設定手段と、
前記走行経路にしたがって前記移動体を走行させる走行制御手段と、
前記画像取得手段が取得した前記部分画像に基づいて、前記床面に生じたひび割れを検出するひび割れ検出手段と、
検出されたひび割れを出力するひび割れ出力手段と、を備え、
前記検査範囲を複数に分割する小領域が、それぞれ前記部分画像と同等の領域で設定され、
前記位置計測手段及び前記画像取得手段は、前記移動体に取り付けられ、
前記位置計測手段は、前記移動体とともに移動しながら、連続的、定期的又は断続的に現在位置を計測し、
前記経路設定手段は、移動中に取得する複数の前記部分画像が前記検査範囲を網羅するように、前記走行経路を設定し、
前記走行制御手段は、前記走行経路と、前記位置計測手段が計測する現在位置と、に基づいて前記移動体を走行させ、
前記画像取得手段は、前記移動体とともに移動しながら、設定された前記小領域ごとに前記部分画像を撮影することで、複数の該部分画像によって前記検査範囲が網羅され、
前記ひび割れ出力手段は、前記小領域にひび割れが検出された前記部分画像を割り当て、該小領域ごとにひび割れの有無を出力する、
ことを特徴とする移動式ひび割れ検出装置。
【請求項2】
前記画像取得手段は、前記位置計測手段によって計測された現在位置が新たに到達した前記小領域となったタイミングで、前記部分画像を取得する、
ことを特徴とする請求項1記載の移動式ひび割れ検出装置。
【請求項3】
開口部を有する遮光体と、
前記遮光体内に配置される照明機器と、をさらに備え、
前記遮光体は、前記開口部を床に向けた姿勢であって前記画像取得手段を収容するように前記移動体に取り付けられ、
前記画像取得手段は、前記遮光体によって暗室状態とされ、しかも前記照明機器による照明を得ながら、前記部分画像を取得する、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の移動式ひび割れ検出装置。
【請求項4】
周辺物までの距離を計測する測距手段を、さらに備え、
前記走行制御手段は、前記移動体の移動中に前記測距手段によって障害物が検知されると、該障害物を回避するように該移動体を移動させ、
前記移動体の移動方向に位置するとともに、前記床面よりも所定の高さを有する前記周辺物が、前記障害物として検出される、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の移動式ひび割れ検出装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の移動式ひび割れ検出装置を用いて、前記床面のひび割れを検出する方法であって、
前記環境地図を確認しながら、前記検査範囲入力手段によって前記検査範囲を入力する検査範囲入力工程と、
前記経路設定手段が、前記走行経路を設定する経路設定工程と、
前記走行制御手段の制御によって前記移動体が走行し、移動しながら前記位置計測手段が現在位置を計測するとともに、移動しながら前記画像取得手段が設定された前記小領域ごとに前記部分画像を撮影することで複数の該部分画像によって前記検査範囲が網羅される画像取得工程と、
前記ひび割れ検出手段が、前記部分画像に基づいて前記床面に生じたひび割れを検出するひび割れ検出工程と、
前記ひび割れ出力手段が、検出されたひび割れを出力するひび割れ出力工程と、
を備えたことを特徴とするひび割れ検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、特にコンクリート造の床表面に生じたひび割れの検出に関する技術であり、より具体的には、自律走行しながら取得した画像に基づいてひび割れを検出する移動式ひび割れ検出装置と、これを用いたひび割れ検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
住宅をはじめ学校施設や店舗、倉庫といった建築物は、主に鉄筋コンクリート造、鉄骨造、木造に大別することができる。例えば、倉庫の場合は鉄骨造とされることが多く、戸建住宅の場合はその半数以上が木造建築物といわれている。また集合住宅やオフィスビルは、鉄筋コンクリート造とされるのが一般的である。
【0003】
鉄筋コンクリート(RC:Reinforced Concrete)造や鉄骨鉄筋コンクリート(SRC:Steel Reinforced Concrete)造の建築物は、その床や壁、天井等がコンクリート構造物とされる。このコンクリート構造物は、あらかじめ工場等で製作された2次製品(プレキャスト製品)を利用して構築することもあるが、通常は所定の場所に直接コンクリートを打ち込んで構築される。いずれにしろ、セメントと水、骨材等を練り混ぜた状態のコンクリート(フレッシュコンクリート)を、鉄筋等が組み立てられた型枠の中に打ち込み、コンクリートの硬化を待って型枠を外すことでコンクリート構造物を構築するのが一般的である。
【0004】
上記のとおり、コンクリートは時間の経過とともに硬化していく材料であり、フレッシュコンクリートから「硬化した状態のコンクリート」になる過程で、あるいは硬化後に床等として供用されている間に、ひび割れが発生することがある。コンクリートのひび割れの種類はその発生原因によって分けられ、さらにコンクリート硬化前の原因と硬化後の原因で大別される。硬化前の原因としては、型枠の移動やセメントの異常凝結によって生じる「初期ひび割れ」、養生中における表面の急速乾燥によって生じる「プラスチック収縮ひび割れ」等が挙げられる。一方、硬化後の原因としては、水分損失に伴うセメントゲルの収縮によって生じる「乾燥収縮ひび割れ」や、セメントの水和熱に起因して生じる「温度ひび割れ」、鉄筋の腐食やアルカリ骨材反応によって生じる「物理的・化学的なひび割れ」、過大な荷重の作用や構造物沈下によって生じる「構造ひび割れ」等が挙げられる。
【0005】
コンクリートのひび割れには、構造物の用途に影響を与えない無害なものもあるが、その用途に重大な影響を及ぼす有害なひび割れもある。有害なひび割れは、その長さや幅が徐々に拡大していくものも多く、そのためできるだけ早い段階でひび割れを検出し、有効な対策を実施することが望ましい。
【0006】
コンクリート構造物である床(以下、「コンクリート床」という。)に関しても、供用中に、あるいは施工後の引き渡し前に、ひび割れの有無を確認する検査が行われている。従来、床コンクリートのひび割れ検査を行うにあたっては、必要な知識を持つ検査員による近接目視が主流であった。検査員が、ひび割れを検出し、そのひび割れの長さや幅を実測し、これらの結果を写真やスケッチとともに記録する。そして、現地で記録した結果に基づいて報告書を作成するわけである。
【0007】
しかしながら目視による検査手法は、検査員に対して大量かつ正確な情報の取得を求めるものであり、そのため一連の検査作業において多大な時間と労力を消費しなければならなかった。また、目視検査には相当の知識と経験が要求され、すなわち検査員は限定的であり、そのうえ慢性的な人手不足の問題もあって、適時に検査員を確保することが困難であった。さらに、人による目視観察であるため、たとえ適切な検査員であっても主観による個人差が生じ、また記録の際にエラーが生じることもあるなど、一様性や正確性という点においても問題が指摘されることがあった。
【0008】
そこで近年では、コンクリート床の表面を撮影した画像からひび割れを検出する手法が採用されるようになった。例えば特許文献1では、赤外波長帯の照明装置によってストロボ照射された路面を撮影し、その路面の画像から路面のひび割れ等を検出する技術を提案している。また特許文献2では、モバイルマッピングシステム(以下、「MMS」という。)を利用し、走行しながら撮影した路面の画像から亀甲状のひび割れを検出する技術を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2015-025727号公報
【文献】特開2018-040666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1や特許文献2など従来の画像認識によるひび割れ検出手法は、画像を取得するために多くの時間と労力を要していた。例えば、コンクリート床のひび割れを検出するために特許文献1の技術を適用すると、通常、床面は相当の面積を有することから、撮影者は数多くの画像を取得する作業を余儀なくされる。また特許文献2の技術を適用すると、運転者が床面上を隈なく運転することが求められるし、そもそも人の運転で室内を走行する移動体を用意することが現状では困難である。
【0011】
さらに従来の画像認識によるひび割れ検出手法は、一連の作業に相当の時間を要するという問題も抱えていた。ひび割れ検出を目的に取得される画像は一般的に高解像であって画像データサイズが大きく(つまりデータが重い)、しかも床面全体を撮影すると相当な画像枚数となることから、画像認識処理や報告書作成に相当の時間が掛かるわけである。
【0012】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち検査員による目視観察に頼ることなく、しかも画像取得やその処理にかかる時間を従来手法よりも低減することができる移動式ひび割れ検出装置と、これを用いたひび割れ検出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明は、無人で自律走行する移動体によって床面の画像を取得し、移動中にその場でひび割れを検出することで画像の事後処理を残さない、という点に着目してなされたものであり、これまでにない発想に基づいて行われた発明である。
【0014】
本願発明の移動式ひび割れ検出装置は、自律走行しながら床面のひび割れを検出する装置であって、床面上を自走する移動体と、位置計測手段、画像取得手段、検査範囲入力手段、経路設定手段、走行制御手段、ひび割れ検出手段、ひび割れ出力手段を備えたものである。位置計測手段は、移動体の現在位置を計測する手段であり、画像取得手段は、部分画像(床面の一部を撮影した画像)を取得する手段であり、検査範囲入力手段は、環境地図(対象となる床面を表す地図)に検査範囲を入力する手段である。また経路設定手段は、移動体の走行経路を設定する手段であり、走行制御手段は、走行経路にしたがって移動体を走行させる手段であり、ひび割れ検出手段は、画像取得手段が取得した部分画像に基づいて床面に生じたひび割れを検出する手段であり、ひび割れ出力手段は、検出されたひび割れを出力する手段である。なお、位置計測手段と画像取得手段は、移動体に取り付けられ、また位置計測手段は、移動体とともに移動しながら連続的(あるいは、定期的、断続的)に現在位置を計測し、画像取得手段は、移動体とともに移動しながら連続的(あるいは、定期的、断続的)に部分画像を取得する。経路設定手段が、移動中に取得する複数の部分画像が検査範囲を網羅するように走行経路を設定し、その走行経路と現在位置に基づいて走行制御手段が移動体を走行させる。そして、ひび割れ出力手段が、ひび割れが検出された部分画像を小領域(検査範囲を複数に分割した領域)に割り当て、小領域ごとにひび割れの有無を出力する。
【0015】
本願発明の移動式ひび割れ検出装置は、測距手段と地図作成手段をさらに備えたものとすることもできる。測距手段は、床面を含む周辺物までの距離を計測する手段であり、地図作成手段は、環境地図を作成する手段である。なお、測距手段は、移動体に取り付けられ、移動体とともに移動しながら連続的(あるいは、定期的、断続的)に周辺物までの距離を計測する。また地図作成手段は、位置計測手段によって得られた位置情報と、測距手段によって得られた計測結果に基づいて環境地図を作成する。
【0016】
本願発明の移動式ひび割れ検出装置は、開口部を有する遮光体と、この遮光体内に配置される照明機器をさらに備えたものとすることもできる。なお遮光体は、開口部を床に向けた姿勢であって画像取得手段を収容するように移動体に取り付けられる。この場合、画像取得手段は、遮光体によって暗室状態とされ、しかも照明機器による照明を得ながら、部分画像を取得する。
【0017】
本願発明の移動式ひび割れ検出装置は、検出されたひび割れの幅又は長さ(あるいは両方)に基づいて、検出されたひび割れごとにひび割れ規模(あらかじめ設定)を設定するものとすることもできる。この場合、ひび割れ出力手段は、ひび割れ規模に応じた表示を小領域ごとに付したうえで出力する。
【0018】
本願発明のひび割れ検出方法は、本願発明の移動式ひび割れ検出装置を用いて床面のひび割れを検出する方法であって、検査範囲入力工程と経路設定工程、画像取得工程、ひび割れ検出工程、ひび割れ出力工程を備えた方法である。検査範囲入力工程では、環境地図を確認しながら検査範囲入力手段によって検査範囲を入力し、経路設定工程では、経路設定手段が走行経路を設定する。また画像取得工程では、走行制御手段の制御によって移動体が走行し、移動しながら位置計測手段が現在位置を計測するとともに、移動しながら画像取得手段が部分画像を取得する。ひび割れ検出工程では、ひび割れ検出手段が部分画像に基づいて床面に生じたひび割れを検出し、ひび割れ出力工程では、ひび割れ出力手段が検出されたひび割れを出力する。
【発明の効果】
【0019】
本願発明の移動式ひび割れ検出装置、及びひび割れ検出方法には、次のような効果がある。
(1)ひび割れ検査の作業が自動化され、しかも多数の画像を後処理する必要がないことから、報告書作成までの時間が大幅に短縮される。発明者らが実際に検証したところ、目視による検査手法に比して約60%の作業時間が短縮された。
(2)無人の自律走行としていることから、人が立ち入ることができない施設でもひび割れ検査を実施することができる。
(3)計算機による演算処理(例えば人工知能を用いた処理)でひび割れを検出することから、安定的(一様)かつ高精度で結果を得ることができ、検査そのものの信頼性が向上するとともに、顧客からの信頼も獲得することができる。
(4)検出されたひび割れの記録を電子的(電磁的)に保管することができるため、多時期の結果を容易に比較することができ、その結果、ひび割れの経年変化も正確に把握することができる。
(5)遮光体と照明機器を備えることによって、照明(フラッシュライト)の光量や角度を一定に維持することができ、その結果、外的要因に影響を受けることなく常に同条件での(いわば安定した)画像取得が可能となり、さらに高い精度でひび割れを検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】壁面で囲まれ複数の柱が配置された部屋を示す平面図。
図2】本願発明の移動式ひび割れ検出装置の主な構成を示すブロック図。
図3】床面上を走行する移動体を示す側面図。
図4】本願発明の移動式ひび割れ検出装置の主な処理の流れを示すフロー図。
図5】環境地図の範囲内に設定される検査範囲を示す平面図。
図6】8×12個の小領域MSが設定され検査範囲を示すモデル図。
図7】部分画像範囲と同等の領域で設定された小領域を示すモデル図。
図8】隣接する小領域を順次経由していく走行経路を示すモデル図。
図9】障害物を回避しながら、隣接する小領域を順次経由していく走行経路を示すモデル図。
図10】外形が四角錐台である遮光体を示す側面図。
図11】ひび割れが収められた部分画像を示す画像図。
図12】本願発明のひび割れ検出方法の主な工程を示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本願発明の移動式ひび割れ検出装置、及びひび割れ検出方法の実施形態の例を図に基づいて説明する。
【0022】
1.全体概要
本願発明の移動式ひび割れ検出装置、及びひび割れ検出方法は、特にコンクリート床の表面(以下、単に「床面FL」という。)に生じたひび割れを検出するものであり、例えば図1に示すような室内の床面FLのひび割れを検出することができる。図1は、壁面WLで囲まれ複数(図では8本)の柱PLが配置された部屋を示す平面図である。
【0023】
本願発明は、図1に示すように無人の移動体101が床面FL上を自律走行しながら画像を取得していき、その取得した画像から即時(リアルタイム)にひび割れを検出することをひとつの特徴としている。移動体101は、床面FL全体のうち指定された領域(以下、「検査範囲RA」という。)内を、自動的に設定される移動経路にしたがって移動していくとともに、移動体101に搭載された撮影手段(カメラやビデオカメラなど)が所定の位置で画像を取得していく。当然ながら移動体101の撮影手段で取得される画像は床面FL(検査範囲RA)の一部を収めたものとなり、いわば部分的な画像であることから、便宜上ここでは撮影手段では取得される画像のことを「部分画像」ということとする。
【0024】
部分画像を取得すると、画像認識技術を用いてひび割れを検出するとともに、ひび割れに関する情報(以下、「ひび割れ情報」という。)も取得する。このひび割れ情報には、部分画像を特定する情報(どの部分画像から検出されたかという情報)が含まれ、そのほかひび割れの幅や長さなどの情報を含めることもできる。移動体101が検査範囲RA内の走行を完了すると、取得したひび割れ情報に基づいて検査範囲RA内におけるひび割れの分布図(以下、「ひび割れマップ」という。)が作成され、出力される。
【0025】
2.移動式ひび割れ検出装置
本願発明の移動式ひび割れ検出装置の実施形態の例を、図に基づいて説明する。なお、本願発明のひび割れ検出方法は、本願発明の移動式ひび割れ検出装置を用いてひび割れの検出を行う方法であり、したがってまずは本願発明の移動式ひび割れ検出装置について説明し、その後に本願発明のひび割れ検出方法について説明することとする。
【0026】
図2は、本願発明の移動式ひび割れ検出装置100の主な構成を示すブロック図である。この図に示すように本願発明の移動式ひび割れ検出装置100は、移動体101と位置計測手段102、画像取得手段103、検査範囲入力手段104、経路設定手段105、走行制御手段106、ひび割れ検出手段107、ひび割れ出力手段108を含んで構成され、さらに測距手段109や地図作成手段110、遮光体111、照明機器112、環境地図記憶手段113、ひび割れ情報記憶手段114を含んで構成することもできる。
【0027】
図3は、床面FL上を走行する移動体101を示す側面図である。この図に示すように、位置計測手段102と画像取得手段103は移動体101に取り付けられ、また遮光体111や照明機器112も移動体101に取り付けることができ、さらに液晶ディスプレイや操作パネルなどを移動体101に取り付けてもよい。なお、後述するように位置計測手段102はレーザーセンサーを利用することができ、この場合、測距手段109と兼ねることができる。換言すれば、レーザーセンサーを移動体101に搭載すれば、位置計測手段102と測距手段109の両方が移動体101に取り付けられることになる。
【0028】
移動式ひび割れ検出装置100のうち検査範囲入力手段104と経路設定手段105、走行制御手段106、ひび割れ検出手段107、ひび割れ出力手段108、地図作成手段110(以下、これらをまとめて「演算処理関連手段」という。)は、専用のものとして製造することもできるし、汎用的なコンピュータ装置を利用することもできる。このコンピュータ装置は、パーソナルコンピュータ(PC)や、iPad(登録商標)といったタブレット型PC、スマートフォンを含む携帯端末などによって構成することができる。コンピュータ装置は、CPU等のプロセッサ、ROMやRAMといったメモリを具備しており、さらにマウスやキーボード等の入力手段やディスプレイを含むものもある。また、環境地図記憶手段113とひび割れ情報記憶手段114は、例えばデータベースサーバに構築することができ、ローカルなネットワーク(LAN:Local Area Network)に置くこともできるし、インターネット経由(つまり無線通信)で保存するクラウドサーバとすることもできる。
【0029】
演算処理関連手段は、移動体101に搭載することもできるし、移動体101とは異なる場所に設置することもできる。演算処理関連手段を移動体101とは異なる場所に設置する場合は、移動体101(特に、移動体101と位置計測手段102、測距手段109)と情報(データ)の送受信を行うための無線通信手段(状況によっては有線通信手段)を設けるとよい。また、環境地図記憶手段113とひび割れ情報記憶手段114も、移動体101に搭載することもできるし、移動体101とは異なる場所(例えば、演算処理関連手段の周辺)に設置することもできる。
【0030】
以下、主に図4を参照しながら移動式ひび割れ検出装置100の主な処理について詳しく説明する。図4は、本願発明の移動式ひび割れ検出装置100の主な処理の流れを示すフロー図である。なおこれらのフロー図では、中央の列に実施する行為を示し、左列にはその行為に必要なものを、右列にはその行為から生ずるものを示している。
【0031】
移動式ひび割れ検出装置100によって行われる処理は、対象とする床面FLの環境地図を作成する処理(以下、「事前処理」という。)と、実際に床面FLのひび割れを検出する処理(以下、「検出処理」という。)に大別することができる。ここで環境地図とは、床面FLと、その室内にある様々な物体(以下、「周辺物」という。)の位置と形状を表した地図であり、3次元空間座標系(例えば、X軸-Y軸-Z軸)で作成される立体的な地図や、2次元平面座標系(例えば、X軸-Y軸)で作成される平面的な地図とすることができる。なお、あらかじめ環境地図が用意されている場合は、事前処理を省略して検出処理のみを行うものとすることもできる。
【0032】
(事前処理)
移動式ひび割れ検出装置100によって環境地図を作成する処理について詳しく説明する。環境地図は、移動体101に設置された測距手段109による計測結果に基づいて作成される。そして、床面FL全体を対象とすることから、移動体101(つまり測距手段109)は室内を移動する必要がある。そこで、図4に示すようにまずは移動体101が移動を開始する。移動体101は、蓄電池やエンジン等を動力とする自走(無人走行)式であり、事前処理を行うときはオペレーターがリモートコントローラで操作することで移動体101を走行させる仕様とすることもできるし、計画したルートにしたがって走行させるプログラムを実行することで自律走行させる仕様とすることもできる。なお、図3に示す移動体101はタイヤで床面FL上を走行するものであるが、これに限らずクローラで移動することもできるし、回転翼で飛行させることもできる。
【0033】
移動体101が移動を開始すると、連続的(あるいは定期的、断続的)に移動体101の現在位置(以下、「自位置」という。)を計測しつつ、自位置から周辺物までの距離(以下、「周辺物距離」という。)を計測し、自位置と周辺物距離を記憶していく(図4のStep101)。
【0034】
周辺物距離の計測を行う測距手段109は、レーザーセンサーなど従来用いられている種々の計測機器を利用することができる。このレーザーセンサーは、周辺物に対して照射したレーザーパルスの反射波を受けて計測するものであり、照射時刻と受信時刻の時間差を求めることで周辺物距離を得ることができ、さらに照射位置(x,y,z)と照射姿勢(ω,φ,κ)が既値であれば計測点(レーザーパルスが反射した地点)の3次元座標を得ることができる。また、測距手段109としてレーザーセンサーを用いると、SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)によって自位置も取得できることから、自位置計測用の特段の機器を用意する必要がない。なお周辺物距離の計測は、レーザーセンサーによる計測方法のほか、ステレオ写真を用いた計測方法などを採用することもできる。また、SLAMによる自位置計測に代えて、無線LANのアクセスポイントを利用する測位方法、室内に電波発信機を配置して測位するIMES(Indoor Messaging System)、LEDの高速点滅を信号として伝送する可視光通信を利用した測位方法、赤外線通信を利用した測位方法など、従来用いられている様々な屋内測位方法を採用することもできる。
【0035】
移動体101が必要な範囲を移動し、必要な範囲の周辺物距離が取得できると、地図作成手段110を用いて環境地図を作成する(図4のStep102)。より詳しくは、移動しながら測距手段109が取得した周辺物距離と、その周辺物距離を計測したときの自位置に基づいて、周辺物の主要な座標(3次元座標)を算出し、そして床面FLを含む必要な周辺物の座標によって環境地図を作成する。ここで作成された環境地図は、環境地図記憶手段113(図2)に記憶される。
【0036】
(検出処理)
次に、移動式ひび割れ検出装置100によって床面FLのひび割れを検出する処理について詳しく説明する。まず、オペレーターが検査範囲入力手段104を用いて検査範囲RAを入力する(図4のStep103)。検査範囲RAは、図5に示すように環境地図の範囲内に設定される領域であり、例えば液晶ディスプレイに表示された環境地図をオペレーターが確認しながら検査範囲RAを入力する仕様にするとよい。
【0037】
検査範囲RAが入力されると、経路設定手段105が走行経路を設定する(図4のStep104)。この走行経路は、移動体101が自律走行するための経路(ルート)であって、移動中に取得する複数の部分画像によって検査範囲RAが網羅されるように設定される。以下、経路設定手段105が走行経路を設定する処理について説明する。
【0038】
検査範囲RAには、その領域を複数に分割した小領域MS(いわゆるメッシュ)が設定される。例えば図6では、8×12個の小領域MSが設定されている。なお、この小領域MSのサイズ(縦横の寸法)は、図7に示すように部分画像の範囲(以下、「部分画像範囲PF」という。)と同等の領域(あるいはやや小さい領域)で設定するとよい。これは、複数の部分画像によって検査範囲RAを網羅するためであり、後述するように小領域MSと部分画像を容易に対応付けることができるからである。
【0039】
経路設定手段105は、入力された検査範囲RA内の小領域MSに基づいて走行経路を設定する。具体的には図8に示すように、起点(図では、START)から出発して隣接する小領域MSを順次経由していき、検査範囲RAの端部まで到達すると折り返し、さらに隣のコースでやはり隣接する小領域MSを順次経由していき、これを繰り返すことによって図に示すような走行経路TRを設定する。なお走行経路TRの起点は、オペレーターが指定してもよいし、移動体101が置かれた初期位置とすることもできる。移動体101の初期位置を走行経路TRの起点とする場合は、位置計測手段102によって計測された自位置を用いるとよい。また、上記のとおり経路設定手段105が演算処理を行って、つまりプログラムが所定の処理をコンピュータに実行させることによって走行経路TRを設定する仕様とすることもできるし、オペレーターが経路設定手段105を操作することによりいわば手動で走行経路TRを設定する仕様とすることもできる。いずれにしろ検査範囲RAが網羅されるように走行経路TRが設定され、移動体101が、この走行経路TR(例えば図8)にしたがって自律走行し、しかも小領域MSごとに部分画像を取得することで、移動中に取得する複数の部分画像によって検査範囲RAが網羅されるわけである。
【0040】
走行経路TRが設定されると、走行制御手段106による制御にしたがって移動体101が自律走行していく(図4のStep105)。そして移動体101が移動しているときは、位置計測手段102によって連続的(あるいは、定期的、断続的)に自位置が計測され、画像取得手段103によって連続的(あるいは、定期的、断続的)に部分画像が取得される(図4のStep106)。走行制御手段106は、移動体101が自律走行している間、位置計測手段102によって計測された自位置と、あらかじめ読み出した走行経路TRに基づいて、走行制御手段106の位置を把握し、必要に応じて軌道を修正しながら、走行経路TRに沿って移動体101を自律走行させる。
【0041】
自位置の計測を行う位置計測手段102は、レーザーセンサーなど従来用いられている種々の計測機器を利用することができる。特に位置計測手段102としてレーザーセンサーを用いる場合は、SLAMによって自位置を計測することができる。また位置計測手段102としてレーザーセンサーを用いると、既述したとおり位置計測手段102と測距手段109を兼用することができる。換言すれば、レーザーセンサーを移動体101に搭載すれば、位置計測手段102と測距手段109の両方が移動体101に取り付けられることになる。なお自位置の計測は、レーザーセンサーによるSLAMのほか、ステレオ写真を用いたSLAMや、無線LANのアクセスポイントを利用する測位方法、室内に電波発信機を配置して測位するIMES、LEDの高速点滅を信号として伝送する可視光通信を利用した測位方法、赤外線通信を利用した測位方法など、従来用いられている様々な屋内測位方法を採用することもできる。
【0042】
ところで、柱PLを含んで検査範囲RAが設定されることもあり、そのため経路設定手段105によって設定された走行経路TR上に柱PLが置かれることもある。このように走行経路TR上に柱PLなどの障害物があると、当然ながら移動体101はそれ以上進めなくなる。そこで、移動体101の移動中に測距手段109(例えばレーザーセンサー)で障害物を検知することとし、障害物を検知した場合は、走行制御手段106がこの障害物を回避するように移動体101の移動させる仕様にするとよい。例えば、図9では測距手段109によって柱PL(障害物)が検知され、走行制御手段106が柱PLの左側を通行するように(つまり回避するように)移動体101を移動させている。なお、障害物を検知するにあたっては、移動体101の移動方向(前方)に位置するとともに、移動体101の移動面(この場合は床面FL)よりも所定の高さを有するものを「障害物」とすることができる。また、図9の例では障害物を検知した場合、その障害物の左側で回避する仕様としているが、もちろん右側で回避する仕様とすることもできるし、そのときの状況に応じて左右の判断を行う仕様とすることもできる。
【0043】
画像取得手段103は、デジタルカメラなどを利用することができ、画像からひび割れを認識できる程度の解像度を有するものを採用するとよい。また画像取得手段103は、自動的に画像を取得する仕様とし、そのシャッタートリガーは自位置の情報に基づいて設定するとよい。例えば、位置計測手段102によって計測された自位置が、新たに到達した小領域MSとなったタイミングで、画像取得手段103が画像を取得する。これにより、移動体101が新たな小領域MSに到達するたびに部分画像が取得され、結果的に検査範囲RA内にあるすべての小領域MSに対応する部分画像を取得することができる。画像取得手段103によって取得された部分画像は、対応する小領域MSと関連付けられて(紐づけられて)記憶される。
【0044】
画像取得手段103は、図3に示すように、移動体101に固定された遮光体111内に取り付けることができる。この遮光体111は、遮光性の部材で形成され、また画像取得手段103を収容するため内部が空洞となっており、さらに画像取得手段103が床面FLを撮影するため下方には開口部が設けられる。例えば図10に示す遮光体111は、外形が四角錐台であって下方に開口部が設けられ、その内部に画像取得手段103が収容されている。画像取得手段103が遮光体111内に収容されることによって、常に暗室状態で部分画像を取得することができ、すなわち外的要因に影響を受けることなく同条件で(いわば安定して)部分画像を取得することができるわけである。
【0045】
また図10に示すように、遮光体111内には照明機器112を配置することもできる。遮光体111内に照明機器112を配置することによって、画像取得手段103は照明を得ながら部分画像を取得することができ、しかも照明機器112は遮光体111に固定されていることから照明(フラッシュライト)の光量や角度を一定に維持することができ、この点においても同条件で(いわば安定して)部分画像を取得することができる。照明機器112は、常時点灯させてもよいし、画像取得手段103のシャッタートリガーと同期して(連動して)点灯させることもできる。なお図3では、画像取得手段103と遮光体111(照明機器112)を、移動体101の前方(つまり走行方向)に取り付けているが、これに限らず移動体101の側方や後方に画像取得手段103と遮光体111を取り付けることもできる。また、図3に示すように遮光体111の上部に位置計測手段102を設置することもできる。
【0046】
画像取得手段103によって部分画像が取得されると、その取得したタイミングで部分画像がひび割れ検出手段107に渡され、そしてひび割れ検出手段107がその部分画像からひび割れを検出する(図4のStep107)。部分画像からひび割れを検出するには、画像上の輝度や色(色相、彩度、明度)の相違に基づいて自動判別するなど、従来用いられている画像認識技術を用いることができる。また、ひび割れに対してあらかじめ設定された輝度や色と近似する(又は一致する)画素を画像中から検出し、その検出された画素が所定数(閾値以上)を超えて連続する場合、これをひび割れとして抽出することもできる。この場合、人工知能(Artificial Intelligence:AI)を用いて大量のひび割れ画像を学習(例えば、ディープラーニング等)し、部分画像からひび割れを検出するためのモデルを生成するとよい。
【0047】
ひび割れ検出手段107が部分画像からひび割れを検出すると、そのひび割れの「ひび割れ情報」を取得する。例えば、ひび割れを検出した部分画像の識別子(ID)や、部分画像内におけるひび割れの位置、さらには検査範囲RAにおけるひび割れの位置、ひび割れの長さ、ひび割れの幅などをひび割れ情報として取得する。さらに、ひび割れの長さやひび割れの幅に応じて設定される「ひび割れ規模」をひび割れ情報として取得することもできる。具体的には、あらかじめひび割れの長さと幅(あるいはどちらか一方)に応じた「ひび割れ規模」を段階的に設定しておき、取得されたひび割れの長さや幅に基づいて当該ひび割れのひび割れ規模を設定するわけである。例えば、幅0.1mm以上のひび割れを検出することとし、さらに幅0.1mm、幅0.2mm、幅0.3mm、・・・と0.1mmピッチでひび割れ規模を段階的に設定しておくことができる。ここで取得したひび割れ情報は、ひび割れ情報記憶手段114(図2)に記憶される。
【0048】
図4に示すように、移動体の制御(Step105)~ひび割れの検出(Step107)を、検査範囲RAの全範囲に対して繰り返し行う。そして、検査範囲RA内にあるすべての小領域MSに対応する部分画像を取得すると、走行制御手段106が移動体101の自律走行を停止させる。
【0049】
移動体101による自律走行が完了すると、ひび割れ出力手段108がひび割れマップを作成する(図4のStep108)。このひび割れマップは、図6に示す検査範囲RAと小領域MSで構成され、それぞれの小領域MSには部分画像が関連付けられている。また、ひび割れが検出された画像に対応する小領域MSは、ひび割れが検出されない小領域MSとは異なる形式(例えば着色するなど)で表示される。さらに、ひび割れ規模に応じて小領域MSを表示することもできる。具体的には、あらかじめ「ひび割れ規模に対応する色」を設定しておき、ひび割れ検出手段107によって設定されたひび割れ規模に基づいてその小領域MSを表示するわけである。
【0050】
ひび割れマップは、それぞれの小領域MSに部分画像が関連付けられていることから、液晶ディスプレイにひび割れマップを表示し、マウス等の入力デバイスを用いて所望の小領域MSを指定(クリック)することで、その小領域MSに対応する部分画像(例えば図11)を表示させる仕様とすることもできる。図11は、ひび割れが収められた部分画像を示す画像図である。この場合、液晶ディスプレイに表示されたひび割れマップから、検査範囲RAのうちひび割れが検出された位置(小領域MS)を容易に把握することができるとともに、その位置(小領域MS)の部分画像も容易に確認できて極めて好適となる。また、例えばCAD(computer-aided design)データによる平面図と環境地図を合成した背景図を利用してひび割れマップを作成することもできる。この場合、この背景図が液晶ディスプレイに表示され、やはり検査範囲RAにおけるひび割れ分布を容易に把握することができるとともに、ひび割れ位置(小領域MS)の部分画像も容易に表示させることができる。
【0051】
3.ひび割れ検出方法
続いて、本願発明のひび割れ検出方法ついて図12を参照しながら説明する。なお、本願発明のひび割れ検出方法は、ここまで説明した移動式ひび割れ検出装置100を用いてひび割れの検出を行う方法であり、したがって移動式ひび割れ検出装置100で説明した内容と重複する説明は避け、本願発明のひび割れ検出方法に特有の内容のみ説明することとする。すなわち、ここに記載されていない内容は、「2.移動式ひび割れ検出装置」で説明したものと同様である。
【0052】
図12は、本願発明のひび割れ検出方法の主な工程を示すフロー図である。まず、移動体101で移動しながら自位置を計測しつつ、測距手段109(例えば、レーザーセンサー)が周辺物距離を計測し、地図作成手段110を用いて環境地図を作成する(Step201)。なお、あらかじめ環境地図が用意されている場合は、環境地図を作成する工程(Step201)は省略することもできる。
【0053】
環境地図を作成する(あるいは用意する)と、検査範囲入力手段104を用いてオペレーターが検査範囲RAを入力し(Step202)、経路設定手段105が走行経路TRを設定する(Step203)。そして、走行制御手段106による制御にしたがって移動体101が自律走行していき、位置計測手段102が連続的(あるいは、定期的、断続的)に自位置を計測し、画像取得手段103が連続的(あるいは、定期的、断続的)に部分画像を取得する(Step204)。
【0054】
画像取得手段103によって部分画像が取得されると、その取得したタイミングで部分画像がひび割れ検出手段107に渡され、そしてひび割れ検出手段107がその部分画像からひび割れを検出する(Step205)。検査範囲RA内にあるすべての小領域MSに対応する部分画像を取得すると、走行制御手段106が移動体101を停止させ、ひび割れ出力手段108がひび割れマップを作成する(Step206)。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本願発明の移動式ひび割れ検出装置、及びひび割れ検出方法は、マンションなどの集合住宅やオフィスビル、戸建住宅といった建築物で利用できるほか、店舗や校舎、倉庫、あるいは競技施設や映画館、コンサートホールなど様々な建築物で利用することができる。本願発明によれば、高い品質の建築物を提供し、ひいては高品質の住環境の提供につながることを考えれば、本願発明は産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明といえる。
【符号の説明】
【0056】
100 本願発明の移動式ひび割れ検出装置
101 (移動式ひび割れ検出装置の)移動体
102 (移動式ひび割れ検出装置の)位置計測手段
103 (移動式ひび割れ検出装置の)画像取得手段
104 (移動式ひび割れ検出装置の)検査範囲入力手段
105 (移動式ひび割れ検出装置の)経路設定手段
106 (移動式ひび割れ検出装置の)走行制御手段
107 (移動式ひび割れ検出装置の)ひび割れ検出手段
108 (移動式ひび割れ検出装置の)ひび割れ出力手段
109 (移動式ひび割れ検出装置の)測距手段
110 (移動式ひび割れ検出装置の)地図作成手段
111 (移動式ひび割れ検出装置の)遮光体
112 (移動式ひび割れ検出装置の)照明機器
113 (移動式ひび割れ検出装置の)環境地図記憶手段
114 (移動式ひび割れ検出装置の)ひび割れ情報記憶手段
FL 床面
WL 壁面
PL 柱
RA 検査範囲
Ms 小領域
TR 走行経路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12