(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】放射性ヨウ素除去用濾材、及び放射性ヨウ素除去フィルタ
(51)【国際特許分類】
G21F 9/02 20060101AFI20240221BHJP
B01J 20/22 20060101ALI20240221BHJP
【FI】
G21F9/02 511C
G21F9/02 511T
G21F9/02 511S
B01J20/22 A
(21)【出願番号】P 2020033669
(22)【出願日】2020-02-28
【審査請求日】2023-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000232760
【氏名又は名称】日本無機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル・アイピー東京
(72)【発明者】
【氏名】栗原 駿一
(72)【発明者】
【氏名】林 嗣郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 弘邦
【審査官】小林 幹
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-205490(JP,A)
【文献】特開昭61-068127(JP,A)
【文献】特開2016-206164(JP,A)
【文献】特開平02-263199(JP,A)
【文献】特開2016-036790(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0224642(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/00-9/36
B01J 20/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体を通過させて、気体中の放射性ヨウ素を除去するための濾材であって、
気体が通過する方向に間隔をあけて配置される2枚の通気性シート材と、
前記通気性シート材の間に挟み込まれるよう配置される複数の吸着材と、を備え、
前記吸着材それぞれは、放射性ヨウ素を吸着する吸着機能付き薬剤と、前記吸着機能付き薬剤を表面に担持した担体粒子と、を含み、
前記担体粒子の90質量%以上は、粒径が1mm以下であ
り、
前記担体粒子は、第1の担体粒子と、粒径分布における粒径のピークが前記第1の担体粒子よりも小さい第2の担体粒子と、を有し、
前記吸着材は、気体が通過する方向に沿って前記通気性シート材の間に上流側から順に第2の部分、第1の部分をなすよう配置され、
前記通気性シート材と平行な平面の単位面積あたりの前記第2の担体粒子の質量は、前記第2の部分において、前記第1の部分よりも多い、ことを特徴とする放射性ヨウ素除去用濾材。
【請求項2】
前記第1の担体粒子の粒径は0.180~0.355mmであり、前記第2の担体粒子の粒径は0.150~0.250mmである、請求項1に記載の放射性ヨウ素除去用濾材。
【請求項3】
前記吸着材に含まれる前記吸着機能付き薬剤の割合は7.5質量%以下である、請求項1
又は2に記載の放射性ヨウ素除去用濾材。
【請求項4】
前記吸着機能付き薬剤はトリエチレンジアミンを含み、
前記吸着材に含まれる前記トリエチレンジアミンの割合は、4.0質量%以下である、請求項
3に記載の放射性ヨウ素除去用濾材。
【請求項5】
前記濾材の目付けは、700~850g/m
2である、請求項1から
4のいずれか1項に記載の放射性ヨウ素除去用濾材。
【請求項6】
請求項1から
5のいずれか1項に記載の濾材と、
前記濾材を取り囲む枠体と、を備えることを特徴とする放射性ヨウ素除去フィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体中の放射性ヨウ素を除去するための放射性ヨウ素除去用濾材、及び放射性ヨウ素除去フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
放射性物質を取り扱う分野において、放射性物質が大気に放出されることを防止するために、放射性ヨウ素を吸着する薬剤を担体に担持させた吸着材を用いて、気体中の放射性ヨウ素の除去を行う場合がある。
【0003】
従来、原子力関連施設の換気空調系から排出される排気中に含まれる放射性ヨウ素を吸着する放射性ヨウ素吸着材と、ガス導入孔を有するガス導入部と、放射性ヨウ素吸着材を収容する一対のフィルタ本体とからなるヨウ素フィルタが知られている(特許文献1)。このヨウ素フィルタでは、ヨウ素フィルタの内部に侵入した排気は、フィルタ本体の一方の面側の孔を通過して放射性ヨウ素吸着材と接触し、排気中の放射性ヨウ素が放射性ヨウ素吸着材に吸着される。排気は放射性ヨウ素吸着材と接触しながら放射性ヨウ素吸着材同士の隙間を通って、フィルタ本体の他方の面側の孔を通過してヨウ素フィルタの後流側に流れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、放射性ヨウ素を吸着する吸着材を収容したフィルタは、気体中の微粒子を捕集するHEPAフィルタ等のエアフィルタと併用される場合がある。近年、エアフィルタには、省エネの観点から、多風量で使用しても圧力損失の小さいことが要求される場合がある。
しかし、上述したヨウ素フィルタには、放射性ヨウ素の除去効率を高めるために、多量の放射性ヨウ素吸着材が充填されているので、圧力損失が高く、多風量で使用することが困難である。ここで、ヨウ素フィルタを複数個、気流方向に対して並列に配置することで、処理面積を大きくし、圧力損失を低減することが行われる場合がある。しかし、この場合、ヨウ素フィルタを配置する部分の流路面積を大きく確保する必要がある。また、ヨウ素フィルタを並列に配置するための流路の部分の設計変更が必要となる。
【0006】
本発明は、従来と同等の放射性ヨウ素の除去効率を確保しつつ、圧力損失が低減された放射性ヨウ素除去用濾材、及び放射性ヨウ素除去フィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、
気体を通過させて、気体中の放射性ヨウ素を除去するための濾材であって、
気体が通過する方向に間隔をあけて配置される2枚の通気性シート材と、
前記通気性シート材の間に挟み込まれるよう配置される複数の吸着材と、を備え、
前記吸着材それぞれは、放射性ヨウ素を吸着する吸着機能付き薬剤と、前記吸着機能付き薬剤を表面に担持した担体粒子と、を含み、
前記担体粒子の90質量%以上は、粒径が1mm以下であり、
前記担体粒子は、第1の担体粒子と、粒径分布における粒径のピークが前記第1の担体粒子よりも小さい第2の担体粒子と、を有し、
前記吸着材は、気体が通過する方向に沿って前記通気性シート材の間に上流側から順に第2の部分、第1の部分をなすよう配置され、
前記通気性シート材と平行な平面の単位面積あたりの前記第2の担体粒子の質量は、前記第2の部分において、前記第1の部分よりも多い、ことを特徴とする。
【0008】
前記第1の担体粒子の粒径は0.180~0.355mmであり、前記第2の担体粒子の粒径は0.150~0.250mmであることが好ましい。
【0011】
前記吸着材に含まれる前記吸着機能付き薬剤の割合は7.5質量%以下であることが好ましい。
【0012】
前記吸着機能付き薬剤はトリエチレンジアミンを含み、
前記吸着材に含まれる前記トリエチレンジアミンの割合は、4.0質量%以下であることが好ましい。
【0013】
前記濾材の目付けは、700~850g/m2であることが好ましい。
【0014】
本発明の別の一態様は、放射性ヨウ素除去フィルタであって、
前記濾材と、
前記濾材を取り囲む枠体と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
上述の態様の放射性ヨウ素除去用濾材、及び放射性ヨウ素除去フィルタによれば、従来と同等の放射性ヨウ素の除去効率を確保しつつ、圧力損失が低減される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本実施形態の放射性ヨウ素除去フィルタを示す外観斜視図である。
【
図2】放射性ヨウ素除去用濾材の断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本実施形態の放射性ヨウ素除去用濾材、及び放射性ヨウ素除去エアフィルタについて説明する。本実施形態には、後述する種々の実施形態が含まれる。
【0018】
図1は、本実施形態の放射性ヨウ素除去フィルタ(以下、単にフィルタという)1を示す外観斜視図である。
フィルタ1は、放射性ヨウ素除去用濾材(以下、単に濾材という)2と、セパレータ3と、枠体4と、を備えている。
【0019】
濾材2は、気体を通過させて、気体中の放射性ヨウ素を除去するために用いられる。
放射性ヨウ素とは、129I、131I、133Iをいう。以降の説明では、これらをまとめて、非放射性ヨウ素(安定同位体)である127Iと区別することなくIで表す。放射性ヨウ素は、ヨウ素単体(I2)あるいはヨウ素化合物中に含まれる。ヨウ素化合物の例としてヨウ化メチル(CH3I)等の有機ヨウ素化合物が挙げられる。
【0020】
濾材2は、2枚の通気性シート材11,12と、複数の吸着材と、を備える。
【0021】
通気性シート材11,12は、気体が通過する方向に間隔をあけて配置される。本明細書において、濾材2に関して、気体が通過する方向とは、平面状に延在する通気性シート材11,12と直交する方向(
図3の気流方向)を意味し、プリーツ加工された濾材2を気体が通過する方向や、フィルタ1を気体が通過する方向(
図1のX方向)とは区別される。通気性シート材11,12には、気体を通過させる一方で、吸着材を間に保持できる材料が用いられる。そのような材料の好ましい例として、複数の繊維を含む繊維体が挙げられる。繊維体からなる通気性シート材11,12は、容易に折り曲げられるため、濾材2に、プリーツ加工等の加工を施しやすい。また、焼却等による濾材2の廃棄が可能である。繊維体の好ましい繊維として、例えば、ガラス繊維、有機繊維、あるいはこれらの混合繊維が挙げられる。繊維体の好ましい形態として、例えば、不織布が挙げられる。繊維体の具体例として、バインダにより互いに接着した有機繊維からなる不織布が挙げられる。通気性シート材11,12には、同一の材料を用いることができる。
【0022】
吸着材は、通気性シート材11,12の間に挟み込まれるよう配置される多数の粒子である。吸着材それぞれは、不図示の吸着機能付き薬剤(以下、単に薬剤という)と、担体粒子23と、を含む。
【0023】
薬剤には、放射性ヨウ素を吸着する機能を有するものが用いられる。薬剤は、少なくともトリエチレンジアミン(TEDA)を含むことが好ましい。TEDAは、2つの3級アミノ基を有するポリアミン化合物であり、3級アミノ基が、4級アンモニウム化してCH3Iと結合する性質を有し、CH3Iが3級アミノ基に吸着されることで、特にCH3Iに含まれる放射性ヨウ素を吸着することができる。
【0024】
薬剤は、TEDAの他に、さらに、KI、I2、Agのうちの少なくとも1つの成分を含むことが好ましい。薬剤にKI、I2が含まれていると、放射性ヨウ素がKIやI2の非放射性ヨウ素と同位体交換され、放射性ヨウ素を吸着することができる。また、薬剤にAgが含まれていると、放射性ヨウ素がAgと反応してAgIとなり、放射性ヨウ素を吸着することができる。
【0025】
担体粒子23の表面には、薬剤が担持されている。担体粒子に用いられる材料には、表面に複数の細孔を有するものが用いられ、例えば、活性炭、アルミナ、ゼオライト、シリカゲル、活性白土などが用いられる。活性炭には、例えば、ヤシ殻から製造したものが用いられる。担体粒子は、それぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0026】
担体粒子23の90質量%以上は、粒径が1mm以下である。ここでいう担体粒子の粒径は、担体粒子23の個々の粒径を意味し、JIS K1474に準拠して算出される平均粒径とは区別される。例えば、吸着材となる担体粒子23の中から無作為に選択した所定数(例えば50~500個)の担体粒子の90質量%以上の担体粒子の粒径が1mm以下である場合も、上記した担体粒子23の90質量%以上は、粒径が1mm以下である場合に該当する。
【0027】
上記ヨウ素フィルタにおいて、放射性ヨウ素の除去効率を向上させるためには、吸着材を収容するフィルタ本体を気体が通過する時間を長くし、気体をより多くの吸着材と接触させることが有効である。しかし、気体がフィルタ本体を通過する時間を長くするために、フィルタ本体の厚さを厚くすると、圧力損失が上昇しやすい。このため、多風量(例えば50m3/分)で使用することは困難となる。
本発明者の検討によれば、粒径に関して上述した条件、すなわち、担体粒子23の90質量%以上は、粒径が1mm以下であることを満たすよう調整した担体粒子を用いることによって、気体が通過する方向の濾材の厚さが薄くても、放射性ヨウ素の除去効率を従来と同等に維持できることが明らかにされた。しかも、気体が通過する方向の濾材の厚さがフィルタ本体よりも薄く、また、プリーツ加工を施して濾材面積を大きくすることが可能であることにより、圧力損失を低減することができる。すなわち、本実施形態の濾材2によれば、従来と同等の放射性ヨウ素の除去効率を確保しつつ、圧力損失が低減される。このような濾材は、多風量で使用することができるため、例えば多風量型のHEPA(High Efficiency Particulate Air)フィルタと併用しても、圧力損失が上昇し難い。このため、濾材面積を大きくすることによって圧力損失が低減されるよう、濾材2を備えるフィルタ1を、流路の途中で気流方向に対して並列に複数個配置する必要がない。
【0028】
濾材2の放射性ヨウ素の除去効率のうち、有機ヨウ素化合物中の放射性ヨウ素の除去効率(以下、有機ヨウ素除去効率という)は、80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、99%以上であることが特に好ましい。また、ヨウ素単体の除去効率は、95%以上であることが好ましく、98%以上であることがより好ましく、99%以上であることがより好ましく、99.5%以上であることが特に好ましい。
【0029】
濾材2の圧力損失は、風速5.3cm/秒の条件において、50Pa未満であり、好ましくは30Pa未満であり、より好ましくは20Pa未満である。
【0030】
フィルタ1の説明に戻り、
図2に示す例の濾材2は、プリーツ加工が施されており、山折りと谷折りが交互に繰り返されたジグザグ形状をなしている。
図2は、
図1のZ方向と直交する平面による濾材2の断面を示す図である。
図2において、吸着材の図示は省略されている。
【0031】
セパレータ3は、濾材2の山折り、谷折りされた部分の内側のスペースのそれぞれに挿入され、プリーツの隣り合う間隔を保持する。セパレータ3は、例えば、紙、PET、ポリスチレン(PS)、アルミニウム、ステンレスのいずれかを材質とする薄板状の部材が波形状をなすようコルゲート加工されてなる。
図1に示す例において、セパレータ3は、気体がフィルタ1を通過する方向(気流方向、X方向)に折り目が延びるよう配置されている。
【0032】
枠体4は、濾材を周状に取り囲む部材である。枠体4は、
図1に示す例において、気流方向に見て、矩形状の外形を有しており、四辺のそれぞれに沿って延びる、上面部41、下面部43、及び側面部45,47を有している。枠体4は、例えば、これら各部41,43,45,47と対応する複数の板材を組み合わせて作製される。板材の材質は、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス、あるいは木材である。ステンレスは、亜鉛又はアルミニウムでめっきされたものであってもよい。また、板材は、アルマイト処理、クロメート処理等により形成された皮膜を含むものであってもよい。
上面部41及び下面部43と濾材2との間は、ウレタン系樹脂等のシール材によりシールされている。
【0033】
フィルタ1の寸法例を示すと、縦(
図1のZ方向)610mm×横(
図1のY方向)610mm×奥行き(
図1のX方向)292mmである。濾材2のプリーツ数は、特に制限されないが、例えば、30~50個である。
【0034】
フィルタ1の構造は、
図1に示すセパレータ型に制限されず、例えば特願2014-013675の
図1,
図4に示すような周知のVバンク型であってもよい。Vバンク型のフィルタの寸法例として、縦610mm×横610mm×奥行き292mmが挙げられる。V字状をなすフィルタパック対の数(バンク数)は、特に制限されないが、例えば3~7個である。
【0035】
一実施形態によれば、担体粒子23は、粒径分布における粒径のピークが互いに異なる2種以上の担体粒子を含むことが好ましい。ここでいう種とは、粒径分布の相違に応じて分けたもののそれぞれをいう。これにより、放射性ヨウ素の除去効率を向上させる効果と、圧力損失を小さくする効果とを高い次元で両立することができる。濾材2は、上述した条件の如く、粒径の小さい担体粒子23を多く含んでいるので、吸着材全体に含まれる薬剤の量が多く、また、担体粒子23の表面積が大きい。このため、有機ヨウ素除去効率及び無機ヨウ素除去効率の双方を効果的に向上させられる。また、粒径の小さい担体粒子23を多く含むことで、濾材2の厚さを薄くすることができる。一方、担体粒子23の粒径が小さすぎると、担体粒子23間の隙間が小さくなり、圧力損失が上昇するおそれがある。また、担体粒子23の粒径が小さすぎると、担体粒子23が通気性シート材11,12を通過して濾材2の外側に漏れ出てしまい、その結果、放射ヨウ素の除去効率が低下するおそれがある。このため、粒径分布の異なる複数の種類の担体粒子23を組み合わせて用いることで、放射性ヨウ素の高い除去効率を維持しつつ、圧力損失の上昇を抑制することができる。粒径の大きい担体粒子によって、粒子間の隙間が大きくなり、圧力損失の上昇を抑制する効果が大きくなる。また、粒径の大きい担体粒子は、通気性シート材11,12を通過し難く、濾材2の外側に漏れ出難い。さらに、粒径の大きい担体粒子を用いると、粒径の小さい担体粒子の使用量を減らせるので、粒径の小さい担体粒子23aが通気性シート材11,12を通過して濾材2の外側に漏れ出ないようにする必要がない。例えば、通気性シート材11,12の目付を大きくする必要がない。このような効果を大きくするために、さらに、担体粒子それぞれの粒径分布を足し合わせてなる担体粒子23全体の粒径分布に、ピークが2つ以上存在することが好ましい。
【0036】
上記2種以上の担体粒子23として、例えば、粒径分布の粒径のピークが小さい担体粒子(第2の担体粒子)と大きい担体粒子(第1の担体粒子)の2種の担体粒子を用いる場合の配合比は、放射性ヨウ素の除去効率を向上させる観点から、質量比で、好ましくは4:1~1:1、より好ましくは3:1~1:1である。さらに、担体粒子が通気性シート材11,12を通過して漏れ出るのを抑える観点から、上記配合比は、好ましくは5:1~2:1、より好ましくは4:1~1.5:1である。上記2種の担体粒子の粒径分布の好ましい組み合わせの例として、0.180~0.355mm、及び、0.150~0.250mmが挙げられる。
【0037】
上述したように、担体粒子23は、第1の担体粒子と、粒径分布における粒径のピークが第1の担体粒子よりも小さい第2の担体粒子と、を有している場合において、吸着材は、
図3に示すように、濾材2を気体が通過する方向に沿って通気性シート材11,12の間に上流側から順に
、第
2の部分25
b、第
1の部分25
aをなすよう配置され、通気性シート材11,12と平行な平面の単位面積あたりの第2の担体粒子23bの質量は、第
2の部分25
bにおいて、第
1の部分25
aよりも多いことが好ましい。
図3は、
図2の破線の円で囲んだ部分を拡大して、吸着材の配置態様の一例を示す図である。
図3では、わかりやすく説明するため、薬剤を担持した担体粒子に、担体粒子の符号を付けて示している。上記したように吸着材が配置されていることにより、第
2の担体粒子23
bからなる吸着材が下流側の通気性シート材12を通過して漏れ出るのを抑えることができる。なお、第1の部分25aと第2の部分25bとは、図示されるように、気体が通過する方向に離れていてもよく、接していてもよい。
【0038】
このような吸着材の配置態様は、例えば
図4に示す方法を行うことで得られる。
図4は、吸着材の配置のさせ方を説明する図である。
図4に示す方法では、通気性シート材12となるシート材料を一方向(
図4の右方)に搬送しながら、搬送方向に沿って配置し担体粒子となる原料粒子を収容した2つのホッパー31,32のそれぞれから、原料粒子をシート材料上に落下させることで、第1の担体粒子23aの層の上に第2の担体粒子23bの層を重ねて形成される。上流側のホッパー31の底部には、目開きの大きいメッシュが取り付けられ、下流側のホッパー32の底部には、目開きの小さいメッシュが取り付けられており、同じ原料粒子を用いて、粒径分布の相違する2種の担体粒子を落下させることができる。粒子同士及び粒子とシート材料を接着するために、吸着材に粉末状ホットメルト樹脂が均一に散布され、熱固着される。
【0039】
吸着材に含まれる薬剤の割合は7.5質量%以下であることが好ましい。吸着材に含まれる薬剤の割合は、濾材2に含まれる全吸着材に担持された薬剤の量の合計を意味する。このように薬剤の量が制限されていると、薬剤を担持していない担体粒子23の部分の表面積を大きく確保できるため、薬剤による高い有機ヨウ素除去効率を達成しつつ、担体粒子23の当該部分の表面による高い無機ヨウ素除去効率を達成することができる。1.0質量%以上であることが望ましく、上記割合は、例えば3質量%である。
【0040】
薬剤にTEDAが含まれる場合、吸着材に含まれるTEDAの割合は、4質量%以下であることが好ましい。これにより、特にヨウ化メチルの高い除去効率を達成しつつ、高い無機ヨウ除去効率を達成することができる。
【0041】
上述したように、担体粒子23が、第1の担体粒子23a及び第2の担体粒子23bを含む場合に、一実施形態によれば、第2の担体粒子23bの質量に対する第2の担体粒子23bに担持された薬剤の質量の割合(平均値)は、第1の担体粒子23aの質量に対する第1の担体粒子23aに担持された薬剤の質量の割合(平均値)より多いことが好ましい。第2の担体粒子23bは、第1の担体粒子23aと比べ粒径が小さく、比表面積が大きい。このため、第2の担体粒子23bに担持される薬剤量が、第1の担体粒子23aに担持される薬剤量より多くても、薬剤を担持しない第2の担体粒子23bの部分の表面積を大きく確保できる。
【0042】
上述したように、担体粒子23が、第1の担体粒子23a及び第2の担体粒子23bを含み、粒径分布がそれぞれ、0.180~0.355mm、0.150~0.250mmである場合の比表面積、充填密度、ヨウ素吸着性能として、下記の範囲が例示される。
・第1の担体粒子23a
比表面積:800~1600m2/g
充填密度:0.450~0.60g/ml
・第2の担体粒子23b
比表面積:1000~1800m2/g
充填密度:0.50~0.60g/ml
第1の担体粒子23a及び第2の担体粒子23bの比表面積、充填密度、ヨウ素吸着性能が上記範囲を満たすことにより、有機ヨウ素除去効率及び無機ヨウ素除去効率をバランス良く向上させることができる。比表面積、充填密度、ヨウ素吸着性能は、JIS K1474に準拠して求められる。
【0043】
濾材2の目付けは、700~850g/m2であることが好ましい。このような目付けを満たす濾材2によれば、圧力損失を低減する上記効果を損なうことなく、担体粒子23が通気性シート材11,12を通過して漏れ出ることを抑制する効果が大きい。同様の理由から、通気性シート材11,12の厚さは、それぞれ、0.15mmであることが好ましい。
【0044】
通気性シート材11,12の間の吸着材の層の、気体が通過する方向に沿った厚さは、1.0~2.5mmであることが好ましい。このような厚さを満たすことにより、放射性ヨウ素の除去効率を向上させる上記効果を損なうことなく、濾材2のプリーツ加工をしやすくなる効果を得ることができる。上記厚さは、特に制限されないが、1.5~2.0mmであることが望ましい。上記範囲の厚さは、ヨウ素フィルタのフィルタ本体に収容される吸着材の厚さより薄く、例えば1/5程度の厚さであるが、上述したように粒径の小さい担体粒子を多く含む吸着材を用いているので、放射性ヨウ素の除去効率を向上させる上記効果が得られる。
【0045】
本実施形態の放射性ヨウ素除去用濾材及び放射性ヨウ素除去フィルタは、放射性ヨウ素を含む気体が発生しうる場所あるいは取り扱われる場所で好適に用いることができる。そのような場所として、例えば、RI(Radioisotope)を取り扱う研究所、病院、工場等のRI施設が挙げられる。本実施形態の放射性ヨウ素除去用濾材及び放射性ヨウ素除去フィルタは、これらの施設の換気設備あるいは空調設備の気体の流路の途中の部分に設置される。
【0046】
(実験例)
本発明の効果を調べるために、表1及び下記に示す従来例のフィルタ本体、及び、比較例、実施例1~3の濾材を作製し、有機ヨウ素除去効率及び無機ヨウ素除去効率、及び圧力損失を評価した。
【0047】
従来例では、粒径1mm以下の担体粒子として、下記第1の担体粒子に薬剤を担持させたものを1質量%以下、粒径1.1~1.8mmの担体粒子を55質量%以上、含む担体粒子(表1に示す「他の担体粒子」)に、TEDAを担持させた吸着材を用いた。通気性シート材で挟み込む代わりに、直方体の箱体内に吸着材を収容した上記ヨウ素フィルタを、濾材の代わりに用いた。なお、フィルタ本体を気体が通過する方向に沿った、フィルタ本体に収容した吸着材の厚さは7.5mmとした。
【0048】
比較例、実施例1~3で用いた濾材は、下記の要領で作製した。
第1の担体粒子及び第2の担体粒子には、ヤシ殻から製造した活性炭の原料粒子を、JIS Z8801-1:2006に規定するふるい網を用いて分級したものを用いた。分級は、下記粒径の範囲の上限値と対応するふるい網を通過し、下限値と対応するふるい網を通過しない粒子を選別することで行った。なお、第1及び第2の担体粒子それぞれの粒径分布を足し合わせてなる担体粒子全体の粒径分布には、ピークが2つ以上存在していた。
・第1の担体粒子:粒径0.180~0.355mm
・第2の担体粒子:粒径0.150~0.250mm
【0049】
分級した担体粒子それぞれを、TEDAの溶液に含浸、乾燥させた後、KIの溶液に含浸、乾燥させ、吸着材を作製した。第1の担体粒子及び第2の担体粒子に担持させた薬剤量は下記のとおりである。薬剤量は、各担体粒子に担持させた量を基に算出される。
・第1の担体粒子:TEDA 2~2.5質量%、KI 1.5~2質量%
・第2の担体粒子:TEDA 3.5~4質量%、KI 2~2.5質量%
【0050】
このようにして得た吸着材に、ホットメルト樹脂の粉末を散布し、通気性シート材として、厚さ0.15mm、目付30g/m2の2枚の不織布で挟み込み、濾材を作製した。
【0051】
なお、表1に示す担体粒子量は、通気性シート材と平行な平面の単位面積あたりの薬剤を担持させた担体粒子の質量を表す。
【0052】
比較例では、第1の担体粒子のほか、他の担体粒子として、分級以外の工程を第1の担体粒子と同様にして作製した粒径1.18~1.70mmの担体粒子に薬剤を担持させたものを用いた。
【0053】
有機ヨウ素除去効率及び無機ヨウ素除去効率をASTM D-3803の趣旨に沿った試験「原子カグレード活性炭の試験方法」に準拠した測定方法で測定した。
【0054】
濾材2の圧力損失は、JIS B9927に準拠し、風速5.3cm/秒の条件で、差圧計を用いて測定した。
【0055】
その結果、有機ヨウ素除去効率が80%以上で、かつ、無機ヨウ素除去効率が95%以上だった場合を、従来と同等以上に除去効率を向上できたと評価した。また、圧力損失が30Pa以下だった場合を、圧力損失が低減されたと評価した。
【0056】
【0057】
実施例1~3と比較例の比較から、担体粒子の90質量%以上の粒径が1mm以下であることにより、従来と同等以上の放射性ヨウ素の除去効率を確保しつつ、圧力損失が低減されたことがわかる。
実施例1と実施例2,3の比較から、吸着材の担体粒子が、粒径分布における粒径のピークが互いに異なる第1及び第2の担体粒子を含む場合は、放射性ヨウ素の除去効率を向上させる効果と、圧力損失を小さくする効果とを高い次元で両立することができることがわかる。
なお、実施例2と実施例3の濾材にプリーツ加工を施したところ、実施例2のほうが良好に加工することができた。
【0058】
以上、本発明の放射性ヨウ素除去用濾材、及び放射性ヨウ素除去フィルタについて詳細に説明したが、本発明のエアフィルタは上記実施形態及び実施例に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0059】
1 エアフィルタ
2 濾材
3 セパレータ
4 枠体
11,12 通気性シート材
23 担体粒子
23a 第1の担体粒子
23b 第2の担体粒子
25a 第1の部分
25b 第2の部分
31,32 ホッパー