(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】部材及びそれを有する装置
(51)【国際特許分類】
B32B 27/18 20060101AFI20240221BHJP
G01N 31/22 20060101ALI20240221BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20240221BHJP
【FI】
B32B27/18 Z
G01N31/22 123
B32B27/30 D
(21)【出願番号】P 2020036127
(22)【出願日】2020-03-03
【審査請求日】2022-11-18
(73)【特許権者】
【識別番号】390005050
【氏名又は名称】ダイキンファインテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100138863
【氏名又は名称】言上 惠一
(74)【代理人】
【識別番号】100138885
【氏名又は名称】福政 充睦
(72)【発明者】
【氏名】堀園 拓磨
(72)【発明者】
【氏名】綿貫 弘子
(72)【発明者】
【氏名】松井 良平
【審査官】増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-356981(JP,A)
【文献】特開昭63-144040(JP,A)
【文献】特開2009-122048(JP,A)
【文献】特開2009-167567(JP,A)
【文献】特開2014-208806(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
G01N 31/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材、保護層異常検知層及び保護層をこの順に有する部材であって、
前記保護層は、少なくともその一部に透明又は半透明の部分を有する層であり、
前記保護層異常検知層は、前記保護層の外面側に存在する物質によって変色する変色剤を含む層であ
り、
前記保護層は、フッ素樹脂を主成分として含み、
前記部材は、半導体製造装置、液晶製造装置、医薬品製造装置、化学薬品製造装置、半導体搬送装置、液晶搬送装置、医薬品搬送装置又は化学薬品搬送装置のいずれかに用いられる装置用の部品である、部材。
【請求項2】
前記部材は、
半導体製造装置又は半導体搬送装置のいずれかに用いられる装置用の部品であり、該部品は、半導体製造用のウェハを収納して運搬するためのウェハキャリア、又は、薬液処理工程において使用されるアーム、洗浄槽、薬液貯留槽、配管もしくはバルブのいずれかである、請求項1に記載の部材。
【請求項3】
基材は、金属、石英、SiC、セラミック、又は金属酸化物のいずれかである、請求項1又は2に記載の部材。
【請求項4】
前記保護層異常検知層と基材の間に、密着層をさらに有する、請求項1
~3のいずれかに記載の部材。
【請求項5】
前記変色剤は、酸又はアルカリ性物質と接することで変色する酸塩基指示薬である、請求項1
~4のいずれかに記載の部材。
【請求項6】
前記酸塩基指示薬は、熱重量示差熱分析における最低温側ピークの温度が230℃以上である、請求項
5に記載の部材。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の部材を含む、装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部材及びそれを有する装置に関し、外部物質(特に、酸性またはアルカリ性物質)に接触することで変色する変色剤を含む層を備える部材及びそれを有する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の製造工程においては、ウェハなどのワークを把持して搬送する把持アーム、搬送キャリア等の部材が、ワークを処理する際に使用される薬液に接触する。薬液には、酸性又はアルカリ性を有し、腐食性を示すものがある。
【0003】
特許文献1には、把持アームの表面に、保護樹脂で成るコーティングを施す技術が記載されている。特許文献1によれば、保護樹脂として、耐薬品性および耐熱性に優れ、かつ摩擦係数の低いポリクロロトリフルオロエチレン樹脂(PCTFE)やポリテトラフルオロエチレン・パー・フルオロアルコキシ樹脂(PFA)などが用いられる。
【0004】
このフッ素樹脂コーティングにより、把持アームが薬液に接触することが防止され、把持アームの腐食が防止される。尚、特許文献1の把持アームのようにその表面に保護層が形成された部品を、以下「部材」という。
【0005】
また、基材が薬液に接触することを防止する他の手段として、保護樹脂で成るフィルムの片面に接着層が形成された複合フィルムを使用し、その接着層を基材表面に貼着することで、基材の表面に保護樹脂フィルムを有する複合フィルムを固定する技術がある。
【0006】
保護樹脂コーティング及び保護樹脂複合フィルム等の耐蝕用途の保護層には、耐用寿命が存在する。保護層が耐用寿命に達したとき、保護層の剥離等が発生し、薬液が部材の下地となっている基材と直接接触することにより、当該基材の成分が薬液に溶出される。その結果、薬液が汚染され、不良品及び損失が発生し得る。
【0007】
しかしながら、保護層の劣化の進行速度は一様ではなく、使用される環境に応じて耐用寿命が相違し得る。例えば、保護層が、腐食性に差がある複数種類の薬液に接触する、薬液に接触する部位が不均一、不特定、又は薬液に接触する時間が不定期である等の使用環境では、同じ種類の保護層であっても劣化が予想外に進行し、耐用寿命を予測することが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
部材に形成された保護層が当該部材の使用環境下で劣化した場合、保護層の剥離等が発生する前に部材の交換のシグナルを発信する機能を備えていれば、使用環境への悪影響が深刻になる前に部材を交換することができ、薬液の汚染、不良品及び損失の発生が有効に防止される。
【0010】
本発明は上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、保護層の耐用寿命の到来を適切に知ることができる部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、一の要旨において、基材、保護層異常検知層及び保護層をこの順に有する部材であって、前記保護層は、少なくともその一部に透明又は半透明の部分を有する層であり、保護層異常検知層は、前記保護層の外面側に存在する物質(以下、「外部物質」ともいう)によって変色する変色剤を含む層である、部材を提供する。また、本発明は、他の要旨において、上述の部材を有する、装置を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、保護層に問題が生じた(異常が生じた)ときに保護層異常検知層が変色することで、保護層の寿命の到来を適切に知ることができる部材及びそれを有する装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一の実施形態の保護層を基材の表面上に形成した部材の一例を示した断面図である。
【
図2】本発明の他の実施形態の保護層を基材の表面上に形成した部材の一例を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
本発明の実施形態の部材1は、基材11、保護層異常検知層12及び保護層13をこの順に有する。
図1は本発明の一の実施形態の部材1aであって、基材11に、保護層異常検知層12及び保護層13をその順に形成した部材1aの断面を模式的に示す。
【0015】
基材11は、各種の部品又は設備の本体部を構成するものであり、外部物質から保護され、本発明が目的とする部材1aを得ることができる限り、その材質、形状及び大きさ等について、特に制限されることはない。本発明の実施形態において、基材11は、例えば、金属、石英、SiC、セラミック、又は金属酸化物等でできていてよい。基材11が使用される部品又は設備の具体例としては、例えば、半導体製造用のウェハを収納して運搬するためのウェハキャリア、薬液処理工程において使用されるアーム、洗浄槽、薬液貯留槽、配管、バルブ、あるいは半導体製造以外の用途に用いられる各種の機械部品又は設備等、用途に限らず各種の部品又は設備が挙げられる。
【0016】
外部物質とは、基材11を腐食するか劣化させる性質を有する物質を意味する。外部物質は、例えば、酸素、水素等のガス、又は酸性若しくはアルカリ性を示す物質、或いはこれら各物質を含む溶液が挙げられ、具体的には、例えば、半導体製造工程内のウェハ洗浄工程で用いられる薬液が挙げられる。
【0017】
保護層13とは、基材11を外部物質から保護する層をいう。保護層13は、外部物質による腐食、劣化作用に対する耐性に優れた材料であれば特に限定されない。保護層13は、少なくともその一部に透明又は半透明の部分を有する。保護層13の色については、後述する保護層異常検知層12の変色を外部から判別できれば特に限定されず、有色又は無色である。保護層13は塗膜であってよく、フィルム(シートを含む概念である)であってもよい。塗膜とは通常公知の塗装方法等により形成された層をいい、フィルムとは押出成形法、圧延成形法及び溶液流延法等によって形成された層をいう。
【0018】
保護層13の材料は使用される外部物質の種類に応じて適宜決定されて良い。保護層13の材料は、典型的には、フッ素樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ナイロン等のポリアミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂等が挙げられ、これらの一種単層若しくは二種以上を積層して用いてもよく、更にはこれらの樹脂を混合して用いてもよい。
【0019】
保護層13は、フッ素樹脂を主成分として含むことが好ましい。主成分とは、50質量%を超えて含まれることをいい、好ましくは、保護層13に80質量%以上含まれており、更に好ましくは90質量%以上含まれている。フッ素樹脂としては、具体的には、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、変性ポリテトラフルオロエチレン(変性PTFE)、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、エチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)およびポリフッ化ビニル(PVF)が挙げられる。フッ素樹脂は二種以上を混合して用いてもよい。
【0020】
保護層13の厚さは、必要な耐久性等を考慮して適宜調節されるが、一般に、例えば、50~1000μmである。保護層13の厚さが50μm以下の場合、耐用寿命が実用に耐え難くなり、1000μm以上の場合は、製造コストが過大になる。保護層13の厚さは、好ましくは70~700μm、より好ましくは100~500μmである。
【0021】
保護層異常検知層12は基材11と保護層13との間に配置される層であって、保護層13の外側に存在する外部物質が接することによって変色する変色剤を含む層である。本発明では、保護層異常検知層12が基材11と保護層13との間に配置されている。保護層13の劣化又は腐食が徐々に進行することにより、保護層13にクラックが発生したり、保護層13のバリア性が低下したりする等、保護層13の保護機能が損なわれる(換言すると、保護層13に異常が発生する)と、外部物質が保護層13の内部に浸潤又は浸透することになる。外部物質が保護層異常検知層12に到達すると、保護層異常検知層12には外部物質が接することによって変色する変色剤が含まれるため、保護層異常検知層12が変色する。従って、目視により保護層13に異常が発生したことを早期に且つ簡便に検知することができる。
【0022】
保護層異常検知層12は、基材11と保護層13との間に配置されていればよく、単層であっても二層以上の複層であってもよい。複層である場合は、その層間に、たとえば上述した保護層13に用いられる樹脂層、後述する密着層14で用いられる樹脂層等の他の層が介在していてもよい。
【0023】
保護層異常検知層12は、本発明が目的とする部材1aを得られる限り、材質、形状、厚さなど特に制限されることはなく、母材としては、例えば、布帛(不織布を含む)、樹脂等を用いることができる。布帛を用いる場合は、布帛に変色剤を浸潤させることで、また樹脂から構成される場合は、当該樹脂に変色剤を混合することによって、それぞれ保護層異常検知層12とすることができる。
【0024】
保護層異常検知層12を樹脂で構成する場合、塗膜であってよく、フィルムであってもよい。塗膜である場合、変色剤及び樹脂を含有する塗料を、例えば、基材11に、塗布、乾燥等することにより得ることができる。変色剤及び樹脂を含有する塗料は、一般に、変色剤、溶媒(例えば、水及びアルコール等)及び樹脂を少なくとも含有する組成物でありえる。なお、樹脂を加熱溶融して用いることができる場合は、溶媒は用いなくともよい。フィルムである場合、保護層異常検知層12は、熱可塑性樹脂に変色剤を混合し、当該混合物を加熱溶融して、押出成形法、圧延成形法及び溶液流延法等により成形することで得ることができる。
【0025】
保護層異常検知層12を構成する樹脂は、変色剤の表示機能に対して実質的な影響を与えないことが好ましい。保護層異常検知層12を構成する樹脂の種類としては、上述した保護層13に用いられる樹脂と同じ樹脂が挙げられ、具体的には、例えば、フッ素樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ナイロン等のポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルが挙げられ、これらの一種単層若しくは二種以上を積層して用いてもよく、更にはこれらの樹脂を混合して用いてもよい。また、保護層異常検知層12に用いられる樹脂と保護層13に用いられる樹脂は、同種であっても異種であってもよい。
【0026】
保護層異常検知層12を構成する樹脂はフッ素樹脂が好ましく、具体的には、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、変性ポリテトラフルオロエチレン(変性PTFE)、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)が好ましく、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、変性ポリテトラフルオロエチレン(変性PTFE)、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)等が挙げられる。
【0027】
保護層異常検知層12の厚さは、一般に1~150μmであることが好ましい。保護層異常検知層12の厚さが1μm以下の場合、異常検知識別機能が低下する虞があり、150μm以上の場合は、層間の密着性が低下する虞がある。保護層異常検知層12の厚さは、好ましくは5~100μm、より好ましくは10~70μmである。
【0028】
変色剤は、外部物質により色が変化する物質であり、外部物質の種類によって適宜選択される。例えば、外部物質が酸素である場合は、酸化還元指示薬が主成分として用いられ、外部物質が酸性又はアルカリ性物質である場合は、酸塩基指示薬(pH指示薬とも呼ばれる)が主成分として用いられる。
【0029】
酸化還元指示薬とは、酸化状態又は還元状態で変色(発色、消色)する酸化還元色素を含有するものであり、公知の指示薬のいずれも使用できる。具体例としては、インジゴイド系色素(インジゴスルフォン酸カリウム塩等)、チオインジゴイド色素(ミケスレン、ブリリアントピンクR等)、チアジン系色素、硫化系色素(C.I.スルファーブルー7等)が挙げられる。これらの酸化還元色素以外にも、酸化又は還元状態で変色する金属系微粉末(鉄、アルミ等)等も利用できる。これらの酸化還元色素は酸化状態でも還元状態でも使用することができる。これらの酸化還元色素(顔料や染料とも言われるが、本明細書における「色素」はこれら顔料(変色性金属粉を含む)や染料を包含する概念である)は、単独でも、或いは2種以上を組み合わせても使用できる。酸化還元色素の配合量は、その種類及び目的とする色調により異なるが、通常、保護層異常検知層12の母材(例えば、樹脂成分)100質量部に対して0.1~30質量部程度である。
【0030】
酸化還元指示薬は、保護層異常検知層12の変色機能の安定性を高める為に上述の酸化還元色素と還元剤を併用することが好ましい。酸化還元色素と併用する還元剤は、母材に混合可能であり、且つ当該色素を還元状態に保持し得るものであればいずれも使用可能であり、アスコルビン酸のように水酸基を有する樹脂酸や、樹脂の酸化防止剤など添加剤として使われるもので、還元能を有しているビタミン類(ビタミンC等)や単糖類などを使用することができる。還元剤の使用量は、前記色素に対して1~30質量倍が好ましい。
【0031】
酸塩基指示薬(又はpH指示薬)とは、一般的に、存在する環境の水素イオン濃度(pH)に依存して変色する色素をいい、本発明が目的とする部材1aを得ることができる限り、特に制限されることはなく、感度及び着色性等の特性、及び保護層異常検知層12の製造方法等を考慮して適宜選択することができる。酸塩基指示薬は複数種類を混合したものであってもよい。酸塩基指示薬は、保護層異常検知層12を製造する際に一緒に使用される成分及び温度等の影響により変質しないものを使用することが好ましい。例えば、保護層異常検知層12が加熱して成膜される場合、酸塩基指示薬の耐熱温度は加熱温度より高いことが必要である。その場合、酸塩基指示薬の耐熱温度は、保護層異常検知層12に含まれる樹脂の溶融温度より高いことが好ましい。
【0032】
酸塩基指示薬は、熱重量示差熱分析における最低温側ピークの温度が230℃以上であることが好ましく、250℃以上であることがより好ましく、300℃以上であることが更により好ましい。
【0033】
酸塩基指示薬の具体例としては、ブロモチモールブルー、ブロムクレゾールパープル、フェノールフタレイン、メチルレッド、チモールブルー、リトマス、メチルオレンジ、ブロモフェノールブルー、コンゴーレッド、クレゾールレッド、フェノールレッド、チモールフタレイン、モーダントオレンジ、ニュートラルレッド、クロロフェノールレッド等が挙げられ、メチルオレンジ、ブロモフェノールブルー、コンゴーレッド、クレゾールレッド、フェノールレッド、チモールフタレイン、モーダントオレンジ、ニュートラルレッド、クロロフェノールレッドが好ましく、メチルオレンジ、ブロモフェノールブルー、コンゴーレッド、クレゾールレッド、フェノールレッド、モーダントオレンジ、ニュートラルレッドがより好ましい。
【0034】
酸塩基指示薬の基本構造としては、酸塩基指示薬として機能する通常公知の基本構造を有する色素であれば特に限定されないが、具体的には、例えば、スルフォンフタレイン構造型色素、アゾ構造型色素、フタレイン構造型色素等が挙げられ、アゾ構造型(アゾ基を具備する構造)色素及びスルフォンフタレイン構造型色素が好ましく、特にアゾ構造型色素の中でもジスアゾ型色素(アゾ基を二つ具備するアゾ構造型色素)がより好ましい。ジスアゾ構造型色素としては、コンゴーレッド、ベンゾパープリン4B、ダイレクトスカイブルー6B等が挙げられる。
【0035】
図2は、本発明の他の実施形態の部材1bであって、基材11と保護層異常検知層12の間に、密着層14が更に設けられている。以下の説明では、部材1aと異なる構成について述べる。
密着層14は、基材11と保護層異常検知層12とを結合させる、又は基材11と保護層異常検知層12との結合力を向上させる(強化する)目的で、必要に応じて使用することができる。基材11と保護層異常検知層12の間の結合力を向上することができ、本発明が目的とする部材1bを得られる限り、密着層14は特に制限されることはない。密着層14は、基材11及び保護層異常検知層12の両方に接するように、基材11と保護層異常検知層12との間に配置される。
【0036】
密着層14は、具体的には、例えば、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルサルフォン、ポリベンゾイミダゾール等の樹脂、シランカップリング剤等で構成することができる。また、密着層14は、これらの樹脂等を含浸させたガラスフロスのような複合材料であってもよい。密着層14は、これらの樹脂等を単独で、若しくは二種以上を混合して用いてもよい。また、密着層14は、単層であっても、二層以上が積層されて設けられていてもよい。
【0037】
密着層14に上述の変色剤を含有させることで、密着層14に保護層異常検知機能を付加してもよい。その場合は、密着層14が保護層異常検知層12として機能することになる。即ち、保護層異常検知層12を二層積層させ、基材11側の保護層異常検知層12を上述の密着層14で用いられる母材で構成することもできる。
【0038】
本発明の部材1の製造は、粉体塗装、スプレー塗装、ディッピング塗工、印刷等の通常公知のコーティング方法(塗工方法)によって上述の各層を順次積層させることにより得ることができる。コーティング条件については使用する材料、その他塗工環境によって適宜選択することができる。なお、当該コーティング方法は、塗工工程のみをいうものではなく、必要に応じて、乾燥工程、焼成工程等を含む概念である。
【0039】
本発明の部材1は、種々の用途に使用することができる。本発明が目的とする部材1を使用することができる限り、その用途は特に制限されることはない。本発明の部材1は、各種装置の部品又は設備として用いることができ、装置としては、例えば、半導体製造装置、液晶製造装置、医薬品製造装置、化学薬品製造装置、半導体搬送装置、液晶搬送装置、医薬品搬送装置又は化学薬品搬送装置のいずれかに使用することができる。
【0040】
更に、本発明は本発明の部材1を含む、種々の装置を提供することができる。本発明が目的とする部材1を使用することができる限り、その装置は特に制限されることはないが、例えば、半導体製造装置、液晶製造装置、医薬品製造装置、化学薬品製造装置、半導体搬送装置、液晶搬送装置、医薬品搬送装置又は化学薬品搬送装置を例示することができる。
本明細書の当初の開示は、少なくとも下記の態様を包含する。
〔1〕基材、保護層異常検知層及び保護層をこの順に有する部材であって、
前記保護層は、少なくともその一部に透明又は半透明の部分を有する層であり、
前記保護層異常検知層は、前記保護層の外面側に存在する物質によって変色する変色剤を含む層である、部材。
〔2〕前記保護層異常検知層と基材の間に、密着層をさらに有する、〔1〕に記載の部材。
〔3〕前記変色剤は、酸又はアルカリ性物質と接することで変色する酸塩基指示薬である、〔1〕又は〔2〕に記載の部材。
〔4〕前記酸塩基指示薬は、熱重量示差熱分析における最低温側ピークの温度が230℃以上である、〔3〕に記載の部材。
〔5〕前記保護層は、フッ素樹脂を主成分として含む、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の部材。
〔6〕前記部材が、半導体製造装置、液晶製造装置、医薬品製造装置、化学薬品製造装置、半導体搬送装置、液晶搬送装置、医薬品搬送装置又は化学薬品搬送装置のいずれかに用いられる装置用部材である、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の部材。
〔7〕〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の部材を含む、装置。
【0041】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に述べる。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。特に記載がない場合、下記において、「部」及び「%」は質量基準である。
【実施例】
【0042】
<酸塩基指示薬の熱重量示差熱分析(TG-DTA)>
酸塩基指示薬の熱重量示差熱分析(TG-DTA)は、示差熱熱重量同時測定装置(株式会社日立ハイテクサイエンス社製STA7200RV)を使用して、酸塩基指示薬試料10mgを、40℃から600℃まで、10℃/minの条件で昇温して測定した。次の酸塩基指示薬について、熱重量示差熱分析で測定した最低温側ピークの温度を示す。
コンゴーレッド :385.1℃
アリザリンイエロー :361.3℃
メチルオレンジ :337.4℃
フェノールレッド :326.1℃
クレゾールレッド :306.2℃
ブロモフェノールブルー :288.9℃
チモールフタレイン :249.4℃
クロロフェノールレッド :242.0℃
リトマス試薬 :129.1℃
ニュートラルレッド : 72.0℃
【0043】
実施例1~10[酸塩基指示薬の耐熱性検討]
アルミニウム板上に表1に示す酸塩基指示薬を戴置し、150℃、200℃、250℃、300℃の各温度条件で1時間加熱した。その後、空気中で冷却し、各酸塩基指示薬を純水50gに溶解して、各酸塩基指示薬の0.2%水溶液を調整した。当該水溶液の色変化を確認することで酸塩基指示薬自体の耐熱性を検討した。その結果を表1に示す。なお、表1中の評価基準は次のとおり。
A:水溶液の色が加熱前の酸塩基指示薬の水溶液(以下、「比較サンプル」という)と同色で、且つ5%塩酸水溶液又は10%水酸化ナトリウム水溶液を滴下したときに、比較サンプルと同一の色変化を生じた。
B:水溶液の色は比較サンプルとは異なるが、5%塩酸水溶液又は10%水酸化ナトリウム水溶液を滴下したときに、色変化が認められた。
C:水溶液の調整自体が困難(加熱後の酸塩基指示薬が純水に溶解し難い)、又は水溶液に5%塩酸水溶液又は10%水酸化ナトリウム水溶液を滴下しても、色変化が認められなかった。
【0044】
【0045】
実施例11~20[保護層異常検知層の検討(230℃塗膜形成条件)]
石英ガラス(基材11)上に、EFEP樹脂粒子(ダイキン工業株式会社製「ネオフロン(登録商標)EFEP」)及び表2に示す酸塩基指示薬(EFEP樹脂粒子1質量部に対して0.1質量部)を含む水性塗料をスプレー塗装法により塗工後、乾燥(230℃、15分)して酸塩基指示薬を含むEFEP樹脂層(保護層異常検知層12)を設けて、それぞれ保護層異常検知層のサンプルを作成した。これらサンプルのEFEP樹脂層表面に5%塩酸水溶液又は10%水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、その色変化を評価した。その結果を表2に示す。なお、表2中の評価基準は次のとおり。
A:保護層異常検知層色が加熱前原料の水性塗料と同色で、且つ5%塩酸水溶液又は10%水酸化ナトリウム水溶液を滴下したときに、含有する酸塩基指示薬と同一の色変化を生じた。
B:保護層異常検知層色は原料の水性塗料と異なるが、5%塩酸水溶液又は10%水酸化ナトリウム水溶液を滴下したときに、色変化が認められた。
C:保護層異常検知層色が原料の水性塗料と異なっており、5%塩酸水溶液又は10%水酸化ナトリウム水溶液を滴下しても、色変化が認められなかった。
【0046】
【0047】
尚、実施例19のリトマスと実施例20のニュートラルレッドについて、各々の最低温側ピーク温度より低い温度で塗膜を作製し、5%塩酸水溶液又は10%水酸化ナトリウム水溶液を滴下したところ、各々のサンプルに色変化が認められた。
【0048】
実施例21及び22[保護層異常検知層の検討(280℃塗膜形成条件)]
石英ガラス(基材11)上に、PCTFE樹脂粒子(ダイキン工業株式会社製「ネオフロン(登録商標)PCTFE」)及び表3に示す酸塩基指示薬(PCTFE樹脂粒子1質量部に対して0.1質量部)を含む水性塗料をスプレー塗装法により塗工後、乾燥(280℃、1時間)して酸塩基指示薬を含むPCTFE樹脂層(保護層異常検知層12)を設けて、それぞれ保護層異常検知層のサンプルを作成した。これらサンプルのPCTFE樹脂層表面に5%塩酸水溶液又は10%水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、その色変化を評価した。その結果を表3に示す。なお、表3中の評価基準は上述した表2の評価基準と同一である。
【0049】
【0050】
実施例23[実施例21の保護層異常検知層を有する部材]
石英ガラス(基材11)上に、PCTFE樹脂粒子(ダイキン工業株式会社製「ネオフロン(登録商標)PCTFE」)を含むポリアミドイミド樹脂のN-メチル-2-ピロリドン溶液をスプレー塗装法により塗工後、乾燥(150℃、1時間)してポリアミドイミド樹脂層(密着層14)を設けた。次いで、当該ポリアミドイミド樹脂層上に、PCTFE樹脂粒子(ダイキン工業株式会社製「ネオフロン(登録商標)PCTFE」)及び酸塩基指示薬であるコンゴーレッド(PCTFE樹脂粒子1質量部に対して0.1質量部、ナカライテスク株式会社製)を含む水性塗料をスプレー塗装法により塗工後、乾燥(280℃、1時間)して酸塩基指示薬を含むPCTFE樹脂層(保護層異常検知層12)を設けた。その後、当該PCTFE樹脂層上に、PCTFE樹脂粒子(ダイキン工業株式会社製「ネオフロン(登録商標)PCTFE」)を粉体塗装法により塗工(塗布、乾燥(280℃、1時間)を1セットとし、6セット繰返し)して、PCTFE樹脂層(保護層13)を設け、部材1を得た。
得られた部材1の構成は、次のとおり。
石英ガラス(基材11)/ポリアミドイミド樹脂層(密着層14:厚み50μm)/酸塩基指示薬(コンゴーレッド)を含むPCTFE樹脂層(保護層異常検知層12:20μm、赤色)/PCTFE樹脂層(保護層13:180μm、無色透明)
【0051】
比較例1
実施例23の酸塩基指示薬を含むPCTFE樹脂層(保護層異常検知層12)を設けなかった以外は実施例23と同様にして行い、比較例1の部材を得た。
得られた部材の構成は、次のとおり。
石英ガラス(基材11)/ポリアミドイミド樹脂層(密着層14:厚み50μm)/PCTFE樹脂層(保護層13:180μm、無色透明)
【0052】
<評価方法>
(耐食性試験)
山崎式ライニングテスター(山崎精機研究所製「LA-15」)を用いて、耐食性試験を行った。上記ライニングテスターに、それぞれ実施例23及び比較例1に係る部材1を設置した。部材1の基材11を約7℃に冷却し、かつ5%塩酸水溶液(80℃)を部材1の保護層13に接液させ、その状態で300時間保持した。試験後、部材1の色彩変化を保護層13側から目視で確認したところ、実施例23の部材1は、濃青色に変化していた。これは、保護層13の保護機能が損なわれた(異常が生じた)結果、保護層13の内面側に存在する保護層異常検知層12に5%塩酸水溶液が浸潤等により接触し、酸塩基指示薬が反応して色彩変化が生じたものと推測される。一方、比較例1の部材1は、保護層異常検知層12を備えていないため当然ながら色彩変化は見られず無色透明であったが、目視では保護層13の異常は全く分からなかった。
【0053】
以上に述べたとおり、本発明に係る部材1によれば、保護層13の寿命の到来を適切に知ることが可能である。これにより、たとえば、保護層13に問題が生じた(異常が生じた)ときに保護層異常検知層12が変色することで、保護層13の寿命の到来を適切に知ることができる。
【0054】
本発明に係る部材及び装置は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る部材及び装置の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の実施形態において、基材、保護層異常検知層及び保護層をこの順に有し、保護層を透して保護層異常検知層が視認可能である、部材を提供する。保護層を透して保護層異常検知層が視認可能であることで、保護層の寿命の到来を適切に知ることができる部材及びそれを有する装置が提供される。
【符号の説明】
【0056】
1、1a、1b 部材
11 基材
12 保護層異常検知層
13 保護層
14 密着層