(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】窒化アルミニウム膜、圧電デバイス、共振器、フィルタおよびマルチプレクサ
(51)【国際特許分類】
H03H 9/17 20060101AFI20240221BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20240221BHJP
H10N 30/20 20230101ALI20240221BHJP
H10N 30/30 20230101ALI20240221BHJP
H10N 30/853 20230101ALI20240221BHJP
【FI】
H03H9/17 F
C23C14/06 A
H10N30/20
H10N30/30
H10N30/853
(21)【出願番号】P 2020051764
(22)【出願日】2020-03-23
【審査請求日】2023-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】田中 邦明
(72)【発明者】
【氏名】谷口 眞司
【審査官】志津木 康
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-207910(JP,A)
【文献】特開2018-014643(JP,A)
【文献】特開2019-009771(JP,A)
【文献】国際公開第2015/080023(WO,A1)
【文献】特開2006-001834(JP,A)
【文献】特開2003-034573(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0386641(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B35/56-35/599
C23C14/00-14/58
H01G4/12-4/30
H03H3/007-3/10
H03H9/00-9/76
H10N30/00-39/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の結晶粒を有し、2族元素および12族元素の少なくとも一方の元素と4族元素とを含み、
前記少なくとも一方の元素、前記4族元素、窒素、アルミニウム、及び希ガス元素以外の元素を含まず、結晶粒の粒界を含む幅が4nmの粒界領域における前記4族元素に対する前記2族元素および前記12族元素の少なくとも一方の元素の原子組成比は0.7以上
1.5未満である窒化アルミニウム膜。
【請求項2】
前記粒界領域における前記4族元素に対する前記2族元素および前記12族元素の少なくとも一方の元素の原子組成比は
1.3以下である請求項1に記載の窒化アルミニウム膜。
【請求項3】
前記粒界領域以外の領域における前記4族元素に対する前記2族元素および前記12族元素の少なくとも一方の元素の原子組成比は0.9
未満である請求項1または2に記載の窒化アルミニウム膜。
【請求項4】
前記4族元素は、チタン、ジルコニウムおよびハフニウムの少なくとも1つであり、前記2族元素および前記12族元素の少なくとも一方の元素は、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよび亜鉛の少なくとも1つである請求項1から3のいずれか一項に記載の窒化アルミニウム膜。
【請求項5】
前記4族元素はハフニウムであり、前記2族元素および前記12族元素の少なくとも一方の元素はマグネシウムである請求項1から3のいずれか一項に記載の窒化アルミニウム膜。
【請求項6】
複数の結晶粒を有し、2族元素および12族元素の少なくとも一方の元素と5族元素とを含み、
前記少なくとも一方の元素、前記5族元素、窒素、アルミニウム、及び希ガス元素以外の元素を含まず、結晶粒の粒界を含む幅が4nmの粒界領域における前記5族元素に対する前記2族元素および前記12族元素の原子組成比は1.4以上
3.0未満である窒化アルミニウム膜。
【請求項7】
前記粒界領域における前記5族元素に対する前記2族元素および前記12族元素の少なくとも一方の元素の原子組成比は
2.6以下である請求項6に記載の窒化アルミニウム膜。
【請求項8】
前記粒界領域以外の領域における前記5族元素に対する前記2族元素および前記12族元素の少なくとも一方の元素の原子組成比は1.8
未満である請求項6または7に記載の窒化アルミニウム膜。
【請求項9】
前記5族元素は、バナジウム、ニオブおよびタンタルの少なくとも1つであり、前記2族元素および前記12族元素の少なくとも一方の元素は、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよび亜鉛の少なくとも1つである請求項6から8のいずれか一項に記載の窒化アルミニウム膜。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の窒化アルミニウム膜を備える圧電デバイス。
【請求項11】
請求項1から9のいずれか一項に記載の窒化アルミニウム膜と、
前記窒化アルミニウム膜の少なくとも一部を膜厚方向に挟み平面視において重なるよう設けられた一対の電極と、を備える共振器。
【請求項12】
請求項11に記載の共振器を備えるフィルタ。
【請求項13】
請求項12に記載のフィルタを備えるマルチプレクサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化アルミニウム膜、圧電デバイス、共振器、フィルタおよびマルチプレクサに関する。
【背景技術】
【0002】
圧電薄膜共振器等の圧電デバイスおよび弾性波デバイスには圧電膜として窒化アルミニウム膜が用いられている。窒化アルミニウム膜にスカンジウムを添加することで、圧電性が向上することが知られている(例えば特許文献1)。窒化アルミニウム膜に2族元素または12族元素と4族元素または5族元素を添加することで圧電性が向上することが知られている(例えば特許文献2および3)。窒化アルミニウム膜の厚さ方向の端部において粒界のスカンジウムの濃度を結晶粒のスカンジウムの濃度より高くすることが知られている(例えば特許文献4)。4族元素に対する2族元素または12族元素の組成比を1未満とすることが知られている(例えば特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-15148号公報
【文献】特開2013-219743号公報
【文献】特開2018-14643号公報
【文献】特開2019-207910号公報
【文献】特開2019-9771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、4族元素と2族元素または12族元素との濃度が増加すると電気機械結合係数が大きくなるもののQ値が低下する。特許文献5では、窒化アルミニウム膜における4族元素に対する2族元素または12族元素の組成比を1未満とすることで圧電薄膜共振器のFOMを向上させている。しかしながら、窒化アルミニウム膜における4族元素に対する2族元素または12族元素の組成比を1未満としても圧電薄膜共振器のQ値が低下することがある。このように、圧電デバイスの特性は十分ではない。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、特性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、複数の結晶粒を有し、2族元素および12族元素の少なくとも一方の元素と4族元素とを含み、前記少なくとも一方の元素、前記4族元素、窒素、アルミニウム、及び希ガス元素以外の元素を含まず、結晶粒の粒界を含む幅が4nmの粒界領域における前記4族元素に対する前記2族元素および前記12族元素の少なくとも一方の元素の原子組成比は0.7以上1.5未満である窒化アルミニウム膜である。
【0007】
上記構成において、前記粒界領域における前記4族元素に対する前記2族元素および前記12族元素の少なくとも一方の元素の原子組成比は1.3以下である構成とすることができる。
【0008】
上記構成において、前記粒界領域以外の領域における前記4族元素に対する前記2族元素および前記12族元素の少なくとも一方の元素の原子組成比は0.9未満である構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記4族元素は、チタン、ジルコニウムおよびハフニウムの少なくとも1つであり、前記2族元素および前記12族元素の少なくとも一方の元素は、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよび亜鉛の少なくとも1つである構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記4族元素はハフニウムであり、前記2族元素および前記12族元素の少なくとも一方の元素はマグネシウムである構成とすることができる。
【0011】
本発明は、複数の結晶粒を有し、2族元素および12族元素の少なくとも一方の元素と5族元素とを含み、前記少なくとも一方の元素、前記5族元素、窒素、アルミニウム、及び希ガス元素以外の元素を含まず、結晶粒の粒界を含む幅が4nmの粒界領域における前記5族元素に対する前記2族元素および前記12族元素の原子組成比は1.4以上3.0未満である窒化アルミニウム膜である。
【0012】
上記構成において、前記粒界領域における前記5族元素に対する前記2族元素および前記12族元素の少なくとも一方の元素の原子組成比は2.6以下である構成とすることができる。
【0013】
上記構成において、前記粒界領域以外の領域における前記5族元素に対する前記2族元素および前記12族元素の少なくとも一方の元素の原子組成比は1.8未満である構成とすることができる。
【0014】
上記構成において、前記5族元素は、バナジウム、ニオブおよびタンタルの少なくとも1つであり、前記2族元素および前記12族元素の少なくとも一方の元素は、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよび亜鉛の少なくとも1つである構成とすることができる。
【0015】
本発明は、上記窒化アルミニウム膜を備える圧電デバイスである。
【0016】
本発明は、上記窒化アルミニウム膜と、前記窒化アルミニウム膜の少なくとも一部を膜厚方向に挟み平面視において重なるよう設けられた一対の電極と、を備える共振器である。
【0017】
本発明は、上記共振器を備えるフィルタである。
【0018】
本発明は、上記フィルタを備えるマルチプレクサである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1(a)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の平面図、
図1(b)および
図1(c)は、
図1(a)のA-A断面図である。
【
図2】
図2(a)から
図2(c)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の製造方法を示す断面図である。
【
図3】
図3(a)は、実験1において用いた圧電薄膜共振器の等価回路、
図3(b)は、キャパシタの等価回路である。
【
図4】
図4は、実験1におけるtanδに対する反共振周波数のQ値Qaを示す図である。
【
図5】
図5(a)および
図5(b)は、実験2における窒化アルミニウム膜のそれぞれAFM画像およびsMIMのC強度の画像を示す図である。
【
図6】
図6は、実験3におけるHAADF-STEM法を用いた窒化アルミニウムの断面の画像を示す図である。
【
図7】
図7は、実験3におけるEDS分析法を用い
図6内の直線に沿った元素濃度を示す図である。
【
図8】
図8(a)は、
図7のMg濃度をEPMAに換算した濃度を示す図、
図8(b)は、
図8(a)に基づく窒化アルミニウム膜の断面模式図である。
【
図9】
図9は、実験3における粒界からの距離に対するMg濃度を示す図である。
【
図10】
図10(a)および
図10(b)は、それぞれ粒界領域56および結晶粒領域58におけるMg/Hfに対するtanδを示す図である。
【
図11】
図11は、実施例1の変形例1に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
【
図12】
図12(a)および
図12(b)は、それぞれ実施例1の変形例2および3に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
【
図13】
図13(a)は、実施例2に係るフィルタの回路図、
図13(b)は、実施例2の変形例1に係るデュプレクサの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照し本発明の実施例について説明する。なお、元素の族の名称は、IUPAC(International Union of Pure and Applied Chemistry)の表記による。
【実施例1】
【0022】
図1(a)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の平面図、
図1(b)および
図1(c)は、
図1(a)のA-A断面図である。
図1(b)は、例えばラダー型フィルタの直列共振器、
図1(c)は例えばラダー型フィルタの並列共振器の断面図を示している。
【0023】
図1(a)および
図1(b)を参照し、直列共振器Sの構造について説明する。基板10上に、下部電極12が設けられている。基板10の平坦主面と下部電極12との間にドーム状の膨らみを有する空隙30が形成されている。ドーム状の膨らみとは、例えば空隙30の周辺では空隙30の高さが小さく、空隙30の内部ほど空隙30の高さが大きくなるような形状の膨らみである。基板10は例えばシリコン(Si)基板である。下部電極12は下層12aと上層12bとを含んでいる。下層12aおよび上層12bは例えばそれぞれクロム(Cr)膜およびルテニウム(Ru)膜である。
【0024】
下部電極12上に、圧電膜14が設けられている。圧電膜14は、(0001)方向を主軸とする窒化アルミニウムを主成分とする窒化アルミニウム膜であり、2族元素または12族元素と4族元素または5族元素とが添加されている。2族元素は例えばマグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)またはストロンチウム(Sr)であり、12族元素は例えば亜鉛(Zn)である。4族元素は例えばハフニウム(Hf)、チタン(Ti)またはジルコニウム(Zr)であり、5族元素は例えばバナジウム(V)、ニオブ(Nb)またはタンタル(Ta)である。圧電膜14は下部電極12上に設けられた下部圧電膜14aと下部圧電膜14a上に設けられた上部圧電膜14bとを備える。
【0025】
下部圧電膜14aと上部圧電膜14bとの間に挿入膜28が設けられている。挿入膜28は例えば酸化シリコン膜である。挿入膜28は共振領域60内の外周領域62に設けられ、中央領域64に設けられていない。すなわち、挿入膜28は中央領域64を囲むように設けられている。挿入膜28は、外周領域62から共振領域60外まで連続して設けられている。
【0026】
圧電膜14上に上部電極16が設けられている。共振領域60は、圧電膜14を挟み下部電極12と上部電極とが平面視において対向する領域であり、厚み縦振動モードの弾性波が共振する領域である。平面視において空隙30は共振領域60を含む。平面視において、空隙30の大きさは共振領域60と同じまたは共振領域60より大きい。共振領域60の平面形状は楕円形状である。上部電極16は下層16aおよび上層16bを含んでいる。下層16aおよび上層16bは例えばそれぞれルテニウム膜およびクロム膜である。
【0027】
上部電極16上には周波数調整膜24として酸化シリコン膜が形成されている。共振領域60内の積層膜18は、下部電極12、圧電膜14、挿入膜28、上部電極16および周波数調整膜24を含む。周波数調整膜24はパッシベーション膜として機能してもよい。
【0028】
共振領域60から下部電極12が引き出される領域では、共振領域60の外周より上部圧電膜14bの外周が外側に位置し、上部圧電膜14bの外周より下部圧電膜14aの外周が外側に位置する。挿入膜28の外周は下部圧電膜14aの外周に略一致する。これにより、圧電膜14には段差が形成される。
【0029】
図1(a)のように、下部電極12には犠牲層をエッチングするための導入路33が形成されている。犠牲層は空隙30を形成するための層である。導入路33の先端付近は圧電膜14で覆われておらず、下部電極12は導入路33の先端に孔部35を有する。
【0030】
図1(a)および
図1(c)を参照し、並列共振器Pの構造について説明する。並列共振器Pは直列共振器Sと比較し、上部電極16の下層16aと上層16bとの間に、チタン層からなる質量負荷膜20が設けられている。よって、積層膜18は直列共振器Sの積層膜に加え、共振領域60内の全面に形成された質量負荷膜20を含む。その他の構成は直列共振器Sの
図1(b)と同じであり説明を省略する。
【0031】
直列共振器Sと並列共振器Pとの共振周波数の差は、質量負荷膜20の膜厚を用い調整する。直列共振器Sと並列共振器Pとの両方の共振周波数の調整は、周波数調整膜24の膜厚を調整することにより行なう。
【0032】
2GHzの共振周波数を有する圧電薄膜共振器の場合、下部電極12のCr膜からなる下層12aの膜厚は100nm、Ru膜からなる上層12bの膜厚は250nmである。AlN膜からなる圧電膜14の膜厚は1100nmである。酸化シリコン膜からなる挿入膜28の膜厚は150nmである。上部電極16のRu膜からなる下層16aの膜厚は250nm、Cr膜からなる上層16bの膜厚は50nmである。酸化シリコン膜からなる周波数調整膜24の膜厚は50nmである。チタン膜からなる質量負荷膜20の膜厚は120nmである。各層の膜厚は、所望の共振特性を得るため適宜設定することができる。
【0033】
基板10としては、シリコン基板以外に、サファイア基板、アルミナ基板、スピネル基板、石英基板、ガラス基板、セラミック基板またはGaAs基板等を用いることができる。下部電極12および上部電極16としては、ルテニウムおよびクロム以外にもアルミニウム(Al)、チタン、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)またはイリジウム(Ir)等の単層膜またはこれらの積層膜を用いることができる。例えば、上部電極16の下層16aをルテニウム、上層16bをモリブデンとしてもよい。
【0034】
挿入膜28は、圧電膜14よりヤング率および/または音響インピーダンスが小さい材料である。挿入膜28は、酸化シリコン以外に、アルミニウム、金(Au)、銅、チタン、白金、タンタルまたはクロム等の単層膜またはこれらの積層膜を用いることができる。
【0035】
周波数調整膜としては、酸化シリコン膜以外にも窒化シリコン膜または窒化アルミニウム等を用いることができる。質量負荷膜20としては、チタン以外にも、下部電極12および上部電極16として例示した金属の単層膜を用いることができる。質量負荷膜20としては、例えば窒化シリコンまたは酸化シリコン等の窒化金属または酸化金属からなる絶縁膜を用いることもできる。質量負荷膜20は、上部電極16の層間(下層16aと上層16bとの間)以外にも、下部電極12の下、下部電極12の層間、上部電極16の上、下部電極12と圧電膜14との間または圧電膜14と上部電極16との間に形成することができる。質量負荷膜20は、共振領域60を含むように形成されていれば、共振領域60より大きくてもよい。
【0036】
図2(a)から
図2(c)は、実施例1に係る直列共振器の製造方法を示す断面図である。
図2(a)に示すように、平坦主面を有する基板10上に空隙を形成するための犠牲層38を形成する。犠牲層38の膜厚は、例えば10~100nmであり、酸化マグネシウム(MgO)、酸化亜鉛(ZnO)、ゲルマニウム(Ge)または酸化シリコン(SiO
2)等のエッチング液またはエッチングガスに容易に溶解できる材料から選択される。その後、犠牲層38を、フォトリソグラフィ法およびエッチング法を用い所望の形状にパターニングする。犠牲層38の形状は、空隙30の平面形状に相当する形状であり、例えば共振領域60となる領域を含む。次に、犠牲層38および基板10上に下部電極12として下層12aおよび上層12bを形成する。犠牲層38および下部電極12は、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法またはCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用い成膜される。その後、下部電極12を、フォトリソグラフィ法およびエッチング法を用い所望の形状にパターニングする。下部電極12は、リフトオフ法により形成してもよい。
【0037】
図2(b)に示すように、下部電極12および基板10上に下部圧電膜14aおよび挿入膜28を、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い成膜する。挿入膜28を、フォトリソグラフィ法およびエッチング法を用い所望の形状にパターニングする。挿入膜28は、リフトオフ法により形成してもよい。
【0038】
図2(c)に示すように、上部圧電膜14b、上部電極16の下層16aおよび上層16bを、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い成膜する。下部圧電膜14aおよび上部圧電膜14bから圧電膜14が形成される。上部電極16上に周波数調整膜24を例えばスパッタリング法またはCVD法を用い形成する。フォトリソグラフィ法およびエッチング法を用い周波数調整膜24を所望の形状にパターニングする。フォトリソグラフィ法およびエッチング法を用い上部電極16を所望の形状にパターニングする。フォトリソグラフィ法およびエッチング法を用い上部圧電膜14bを所望の形状にパターニングする。フォトリソグラフィ法およびエッチング法を用い下部圧電膜14aを所望の形状にパターニングする。下部電極12の引き出し領域では、挿入膜28をマスクに下部圧電膜14aがエッチングされる。
【0039】
圧電膜14として、2族元素または12族元素と4族元素または5族元素とが添加された窒化アルミニウム膜を成膜する方法として、例えば反応性スパッタリング法がある。例えば、窒素(N2)ガスを含む雰囲気(例えばアルゴン(Ar)と窒素の混合ガス)中でAl-2族元素または12族元素-4族元素または5族元素の合金のターゲットから原子をスパタッリングさせ原子と窒素とを反応させ堆積させる。ターゲットへの電圧の印加方法としては例えば、ターゲットに交流(AC:Alternating Current)電圧を印加するACマグネトロンスパッタリング方式を用いることができる。Al-2族元素または12族元素-4族元素または5族元素の合金のターゲットおよびAlターゲットの2つのターゲットに同時に放電する2元系反応性スパッタリング法を用いてもよい。Alターゲット、2族元素または12族元素ターゲットおよび4族元素または5族元素ターゲットの3つのターゲットに同時に放電する多元系反応性スパッタリング法を用いてもよい。
【0040】
図1(c)に示す並列共振器においては、下層16aを形成した後に、質量負荷膜20を、例えばスパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い成膜する。質量負荷膜20をフォトリソグラフィ法およびエッチング法を用い所望の形状にパターニングする。その後、上層16bを形成する。
【0041】
その後、孔部35および導入路33(
図1(a)参照)を介し、犠牲層38のエッチング液を下部電極12の下の犠牲層38に導入する。これにより、犠牲層38が除去される。犠牲層38をエッチングする媒体としては、犠牲層38以外の共振器を構成する材料をエッチングしない媒体であることが好ましい。特に、エッチング媒体は、エッチング媒体が接触する下部電極12がエッチングされない媒体であることが好ましい。積層膜18(
図1(b)、
図1(c)参照)の応力を圧縮応力となるように設定しておく。これにより、犠牲層38が除去されると、積層膜18が基板10の反対側に基板10から離れるように膨れる。下部電極12と基板10との間にドーム状の膨らみを有する空隙30が形成される。以上により、
図1(a)および
図1(b)に示した直列共振器S、および
図1(a)および
図1(c)に示した並列共振器Pが作製される。
【0042】
[実験1]
圧電膜14として、MgおよびHfを添加した窒化アルミニウム膜を用い、MgとHfの原子比率を変えた圧電薄膜共振器のサンプルA~Eを作製した。作製条件は以下である。
下部電極12の下層12a:膜厚が100nmのCr膜
下部電極12の上層12b:膜厚が210nmのRu膜
圧電膜14:膜厚が1150nmの窒化アルミニウム膜
挿入膜28:膜厚が150nmの酸化シリコン膜
上部電極16の下層16a:膜厚が230nmのRu膜
上部電極16の上層16b:膜厚が20nmのCr膜
周波数調整膜24:膜厚が50nmの酸化シリコン膜
質量負荷膜20:なし
【0043】
窒化アルミニウム膜の成膜方法は、ACマグネトロンスパッタリング方式を用いた反応性スパッタリング法を用いた。Al-Mg-Hf合金ターゲットおよびAlターゲットの2つのターゲットを用いた。Al-Mg-Hf合金ターゲット中のMgとHfの原子比率を変えることで、MgとHfの原子比率の異なるサンプルを作製した。Al-Mg-Hf合金ターゲットとAlターゲットとに印加するAC電力を変えることで窒化アルミニウム中のMgおよびHfの濃度を変化させることができる。
【0044】
サンプルA~Eに用いたAl-Mg-Hf合金ターゲットは、以下の5つの組成のターゲットである。表1は、サンプルAからEにおけるターゲットのMg、HfおよびAlの組成比(原子%)を示す表である。
【表1】
【0045】
作製した圧電薄膜共振器の反共振周波数におけるQ値およびtanδを測定した。
図3(a)は、実験1において用いた圧電薄膜共振器の等価回路、
図3(b)は、キャパシタの等価回路である。
図3(a)に示すように、圧電薄膜共振器のmBVD(Modified Butterworth-Van Dyke)法での等価回路では、ノードN01とN02との間にインダクタL
1、キャパシタC
1および抵抗R
1が直列接続された経路とキャパシタC
0および抵抗R
0が直列接続された経路とが並列接続されている。端子T01とノードN01との間に抵抗Rsが接続されている。端子T02とノードN02とは直接接続されている。
図3(a)の等価回路を用いフィッティングを行い各集中定数を求め、数式1の式より反共振周波数におけるQ値Qaを算出できる。
【0046】
【数1】
frは共振周波数であり、faは反共振周波数である。
【0047】
図3(b)に示すように、キャパシタの等価回路では、ノードN01とN02との間に抵抗R
1とキャパシタC
1が直列接続されている。端子T01とノードN01との間に抵抗Rsが接続されている。端子T02とノードN02とは直接接続されている。
図3(b)の等価回路を用いフィッティングを行い各集中定数を求め、数式2の式よりtanδが算出できる。
【0048】
【0049】
作製した圧電薄膜共振器について、ネットワークアナライザを用い、10MHzから5000MHzまでのS11特性を1MHzピッチで取得し、
図3(a)の等価回路を用い、反共振周波数のQ値Qaを求めた。
【0050】
共振周波数frから大きく外れる周波数では
図3(b)の等価回路が当てはまるため、50MHzから400MHzおよび3000MHzから4500MHzのS11を用い、周波数fを2000MHzとしてtanδを求めた。
【0051】
図4は、実験1におけるtanδに対する反共振周波数のQ値Qaを示す図である。ドットは測定点を示し、直線は近似直線を示す。
図4に示すように、2GHzにおけるtanδと反共振周波数のQ値Qaとには負の相関がある。MgおよびHfを窒化アルミニウム膜にドープすることで、Q値が低下する要因はtanδが大きくなっているためではないかと考えられる。
【0052】
[実験2]
シリコン基板に意図的に不純物を添加していない窒化アルミニウム膜を形成したサンプルを作製した。窒化アルミニウム膜の平面方向の断面をAFM(Atomic Force Microscope)分析およびsMIM(scanning Microwave Impedance Microscope)分析を行った。AFM分析では、断面の凹凸を観察でき、凹凸により結晶粒と粒界が観察できる。sMIM分析で得られるC強度は伝導に寄与するアクティブキャリア密度に相当する。
【0053】
図5(a)および
図5(b)は、実験2における窒化アルミニウム膜のそれぞれAFM画像およびsMIMのC強度の画像を示す図である。
図5(a)において、濃淡は窒化アルミニウム膜の断面の凹凸を示す。黒は凹んでいることを示し白は突出していることを示す。白い領域は結晶粒50に相当し、黒い領域は粒界52に相当する。
図5(b)において、黒から白になるほどcMIMのC強度が大きいことを示している。アクティブなキャリア密度が高いとC強度が大きくなる。
図5(a)と
図5(b)を比較すると、粒界52においてC強度が大きく、アクティブキャリア密度が高くなっている。
【0054】
この結果から、例えばMgおよびHf等のドーパントによって粒界52におけるキャリア密度が変化すると、
図3(b)の等価回路におけるR
1が変化し、tanδが変化すること考えられる。これにより、
図4のように反共振周波数におけるQ値Qaが変化してしまう。特許文献5では、結晶粒50と粒界52とを区別せず全体の4族元素に対する2族元素または12族元素の組成比を1未満としている。しかし、窒化アルミニウム膜の成膜条件等により、結晶粒50と粒界52の全体の組成比は同じでも、粒界52における組成比は異なる可能性がある。そこで、粒界52における4族元素に対する2族元素または12族元素の組成比に着目した。
【0055】
[実験3]
実験1において作製した圧電薄膜共振器と同じ条件で成膜した窒化アルミニウム膜をEDS(Energy Dispersive X-ray Spectrometry)分析とEPMA(Electron Probe Micro Analyzer)分析を行った。EDS分析は局所領域の面分析が可能である。一方、EPMA分析は面分析が難しい。EDS分析は、軽元素の特定X線が試料に吸収されやすいためN等の軽元素の定量値は実際の値より低くなる傾向がある。EPMA分析においても軽元素の特定X線は試料に吸収されやすい。しかし、吸収を前提とした定量計算法としてZAF法を用いること、および標準試料を用い補正を行うことで、軽元素における特定X線の吸収による定量性の低下を抑制できる。このように、EDS分析は定量性が低いが、EPMA分析は定量性が高い。
【0056】
以下に上記を踏まえた粒界近傍のHfに対するMgの組成比Mg/Hfを以下のように算出した。例としてサンプルDを用いて形成した窒化アルミニウムの分析結果を説明する。
【0057】
分析は以下のステップST1からST5にて行った。
[ステップST1]
EPMA分析法を用い結晶粒50に対し十分に広い領域として直径が約100μmの領域の原子濃度を測定する。
【0058】
[ステップST2]
EDS分析法を用い同じサンプルの線EDS分析を行なう。
図6は、実験3におけるHAADF-STEM法を用いた窒化アルミニウムの断面の画像を示す図である。
図6に示すように、HAADF-STEM(High-Angle Annular Dark-Field Scanning Transmission Electron Microscopy)法を用い結晶粒50と粒界52が観察できる。
【0059】
図7は、実験3におけるEDS分析法を用い
図6内の直線に沿った元素濃度を示す図である。
図7では、
図6の直線57に沿った距離に対するMg濃度(実線)とHf(破線)の濃度を示している。EDS分析のスポット径は0.2nmである。
図7に示すように、Hf濃度は場所によらずほぼ一定である。Mgは5ケ所のピークが現れる。Mg濃度のピークの位置を54a~54eとする。ピークの位置54a~54eは
図6の粒界52の位置とほぼ一致する。このように、Hfは結晶粒50および粒界52によらず一様に分布する。Mg濃度は粒界52近傍において結晶粒50より高い。
【0060】
表2は、EPMA分析における元素濃度とEDS分析法における全領域の平均の元素濃度とEDS分析における各元素濃度とを示す表である。
【表2】
【0061】
表2に示すように、EDS分析法ではEPMA分析法に比べ窒素濃度が低くなり、他の元素濃度は高くなる。前述のようにEPMA分析はEDS分析法に比べ定量性が高い。
【0062】
[ステップST3]
EDS線分析の各測定点の元素濃度をEPMA分析法相当に換算する。各元素濃度につき、EPMA換算濃度として、[EPMA測定濃度]×([EDS各測定点の濃度]/[EDS全域の濃度])を算出した。
図8(a)は、
図7のMg濃度をEPMAに換算した濃度を示す図である。
図8(a)に示すように、5つのピークが観察できる。
【0063】
[ステップST4]
Mg(2族元素または12族元素)濃度に基づき、粒界54およびその近傍の粒界領域56と結晶粒50内部の結晶粒領域58に分離する。
図8(b)は、
図8(a)に基づく窒化アルミニウム膜の断面模式図である。
図8(b)に示すように、シリコン基板10上に圧電膜14として窒化アルミニウム膜が積層されている。結晶粒50は柱状であり、結晶粒50の間が粒界52である。窒化アルミニウム膜の平面方向における断面51をEDS分析すると、粒界52が断面51に現れた個所がMg濃度のピークとなる。そこで、Mg濃度のピークの位置54a~54eを中心に片側幅Wの範囲を粒界52およびその近傍の粒界領域56とし、粒界領域56以外の領域を結晶粒50内部の結晶粒領域58と定義する。
【0064】
図9は、実験3における粒界からの距離に対するMg濃度を示す図である。
図9では、
図8(a)における各位置54aから54eからの距離に対するMg濃度を示している。
図9に示すように、距離0nmにおいてMg濃度は最も高い。距離が大きくなるに従い、つまりピーク位置54a~54eから離れるに従い、Mg濃度が減少する。距離が2nm以上となるとMg濃度はほぼ一定となる。結晶粒50内部ではMg濃度は一定であり、粒界52付近でMg濃度が高くなると考え、粒界領域56の片側幅Wを2nmとした。
【0065】
[ステップST5]
粒界領域56における各元素のEPMA換算濃度の平均、および結晶粒領域58における各元素のEPMA換算濃度を平均を算出する。粒界領域56および結晶粒領域58におけるMg/Hf濃度を算出する。
【0066】
サンプルA~Eの窒化アルミニウム膜の粒界領域56におけるMgのEPMA換算濃度/HfのEPMA換算濃度(Mg/Hf)と結晶粒領域58におけるMg/Hfを算出した。
【0067】
各サンプルA~Eについて、窒化アルミニウム膜で測定した粒界領域56および結晶粒領域58におけるMg/Hfと、サンプルA~Eの圧電薄膜共振器の2GHzにおけるtanδを比較した。
図10(a)および
図10(b)は、それぞれ粒界領域56および結晶粒領域58におけるMg/Hfに対するtanδを示す図である。
【0068】
図10(a)と
図10(b)を比較すると、粒界領域56では結晶粒領域58よりMg/Hfが大きい。このように、粒界領域56と結晶粒領域58ではMg/Hfの値が異なる。
図5(b)のcMIMにおける考察より、粒界52におけるアクティブキャリア密度が窒化アルミニウム膜の
図3(b)の等価回路における抵抗R
1の大きさに寄与すると仮定すると、粒界領域56においてアクティブなキャリア密度が小さくなるようにMg濃度およびHf濃度を制御することがtanδを制御するには重要である。そこで、
図10(a)に着目する。
【0069】
図10(a)のように、Mg/Hfが0ではtanδが大きい。Mg/Hfが大きくなるとtanδが小さくなる。粒界領域56におけるMg/Hfが1付近でtanδが最も小さくなる。さらにMg/Hfが大きくなるtanδが大きくなる。
【0070】
2族元素または12族元素および4族元素は窒化アルミニウム内の主にアルミニウムに置換する。13族元素であるアルミニウムに4族元素(例えばHf)が置換すると、電子が余分に供給される。アルミニウムに2族元素または12族元素(例えばMg)をドープすると余分な電子が補償される。よって、粒界領域56におけるMg/Hfを1付近とすることで、Hfから供給される電子をMgが補償する。よって、粒界52におけるアクティブキャリア密度を低くできるため、
図3(b)の等価回路における抵抗R
1が高くなりtanδが小さくなる。よって、
図4のように反共振周波数におけるQ値Qaを向上できる。
【0071】
特許文献5では、結晶粒50および粒界52を含む全体の4族元素に対する2族元素または12族元素の原子組成比を1未満としているが、結晶粒50と粒界52における各元素濃度は窒化アルミニウム膜の成膜条件によって異なることが考えられる。このため、結晶粒50および粒界52を含む全体の4族元素に対する2族元素または12族元素の原子組成比を制御してもQ値が低くなることがありうる。
【0072】
実施例1によれば、窒化アルミニウム膜は複数の結晶粒50を有し、2族元素および12族元素の少なくとも一方の元素と4族元素とを含み、結晶粒50の粒界52を含む幅が4nmの粒界領域56における4族元素に対する2族元素および12族元素の少なくとも一方の元素の原子組成比は0.7以上である。これにより、粒界52におけるアクティブキャリア密度を低くできるため、
図3(b)の等価回路における抵抗R
1が高くなる。よって、tanδが小さくなりQ値が向上する。このように特性を向上できる。粒界領域56における4族元素に対する2族元素または12族元素の原子組成比は0.8以上が好ましく、0.9以上がより好ましい。
【0073】
粒界領域56における4族元素に対する2族元素および12族元素の少なくとも一方の元素の原子組成比は1.5以下が好ましく、1.3以下がより好ましく、1.2以下がさらに好ましい。これにより、粒界領域56における4族元素に対する2族元素および12族元素の少なくとも一方の元素の原子組成比が1に近くなり、粒界52におけるアクティブキャリア密度を低くできる。
【0074】
結晶粒領域58における4族元素に対する2族元素および12族元素の少なくとも一方の元素の原子組成比は粒界領域56より小さい。よって、粒界領域56以外の結晶粒領域58における4族元素に対する2族元素および12族元素の少なくとも一方の元素の原子組成比は0.9以下が好ましく、0.8以下がより好ましい。これにより、粒界領域56における4族元素に対する2族元素および12族元素の少なくとも一方の元素の原子組成比が1に近くなり、粒界52におけるアクティブキャリア密度を低くできる。
【0075】
4族元素は、チタン、ジルコニウムおよびハフニウムの少なくとも1つであり、2族元素および12族元素の少なくとも一方の元素は、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよび亜鉛の少なくとも1つであることが好ましい。
【0076】
特許文献2および3のように、4族元素の代わりに5族元素を窒化アルミニウムにドープしても電気機械結合係数が向上する。この場合、5族元素は主にアルミニウムに置換し、1つの5族元素から2個の電子が供給される。よって、5族元素をドープする場合、2族元素および12族元素の少なくとも一方の元素のドープ量は4族元素の2倍となる。
【0077】
よって、窒化アルミニウム膜は複数の結晶粒50を有し、2族元素および12族元素の少なくとも一方の元素と5族元素とを含み、結晶粒50の粒界52を含む幅が4nmの粒界領域56における5族元素に対する2族元素および12族元素の少なくとも一方の元素の原子組成比は1.4以上が好ましく、1.6以上がより好ましく、1.8以上がより好ましい。
【0078】
粒界領域56における5族元素に対する2族元素および12族元素の少なくとも一方の元素の原子組成比は3.0以下が好ましく、2.6以下がより好ましく、2.4以下がさらに好ましい。粒界領域56以外の結晶粒領域58における5族元素に対する2族元素および12族元素の少なくとも一方の元素の原子組成比は1.8以下が好ましく、1.6以下がより好ましい。
【0079】
5族元素は、バナジウム、ニオブおよびタンタルの少なくとも1つであり、2族元素および12族元素の少なくとも一方の元素は、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよび亜鉛の少なくとも1つであることが好ましい。
【0080】
窒化アルミニウム膜にはアルミニウム、窒素、4族元素、5族元素、2族元素および12族元素以外は意図的には含まないことが好ましく、アルミニウム、窒素、4族元素、5族元素、2族元素および12族元素以外の元素は5原子%以下が好ましく、1原子%以下がより好ましい。
【0081】
なお、4族元素に対する2族元素および12族元素の少なくとも一方の元素の原子組成比、および5族元素に対する2族元素および12族元素の少なくとも一方の元素の原子組成比等は、隣り合う3つの結晶粒50の粒界領域56および結晶粒領域58の原子組成比を測定した結果が上記範囲であればよい。これにより、窒化アルミニウム膜全体の粒界領域56における原子組成比を擬制できる。
【0082】
[実施例1の変形例1]
図11は、実施例1の変形例1に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図11に示すように、実施例1の変形例1では、挿入膜28が設けられていない。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0083】
[実施例1の変形例2]
実施例1の変形例2および3は、空隙の構成を変えた例である。
図12(a)および
図12(b)は、それぞれ実施例1の変形例2および3に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図12(a)に示すように、基板10の上面に窪みが形成されている。下部電極12は、基板10上に平坦に形成されている。これにより、空隙30が、基板10の窪みに形成されている。空隙30は共振領域60を含むように形成されている。その他の構成は、実施例1と同じであり説明を省略する。空隙30は、基板10を貫通するように形成されていてもよい。
【0084】
[実施例1の変形例3]
図12(b)に示すように、共振領域60の下部電極12下に音響反射膜31が形成されている。音響反射膜31は、音響インピーダンスの低い膜30aと音響インピーダンスの高い膜30bとが交互に設けられている。膜30aおよび30bの膜厚は例えばそれぞれλ/4(λは弾性波の波長)である。膜30aと膜30bの積層数は任意に設定できる。音響反射膜31は、音響特性の異なる少なくとも2種類の層が間隔をあけて積層されていればよい。また、基板10が音響反射膜31の音響特性の異なる少なくとも2種類の層のうちの1層であってもよい。例えば、音響反射膜31は、基板10中に音響インピーダンスの異なる膜が一層設けられている構成でもよい。その他の構成は、実施例1と同じであり説明を省略する。
【0085】
実施例1およびその変形例1において、実施例1の変形例2と同様の空隙30を形成してもよく、実施例1の変形例3と同様に空隙30の代わりに音響反射膜31を形成してもよい。
【0086】
実施例1およびその変形例1および2のように、圧電薄膜共振器は、共振領域60において空隙30が基板10と下部電極12との間に形成されているFBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)でもよい。また、実施例1の変形例3のように、圧電薄膜共振器は、共振領域60において下部電極12下に圧電膜14を伝搬する弾性波を反射する音響反射膜31を備えるSMR(Solidly Mounted Resonator)でもよい。共振領域60を含む音響反射層は、空隙30または音響反射膜31を含めばよい。
【0087】
実施例1およびその変形例2および3において、挿入膜28が共振領域60の外周領域62に設けられているが、挿入膜28は共振領域60の外周領域62の少なくとも一部に設けられていればよい。挿入膜28は共振領域60の外側に設けられてなくてもよい。実施例1の変形例1のように挿入膜28は設けられていなくてもよい。共振領域60の平面形状として楕円形状を例に説明したが、四角形状または五角形状等の多角形状でもよい。
【0088】
実施例1およびその変形例では、窒化アルミニウム膜を用いる圧電デバイスとして、窒化アルミニウム膜の少なくとも一部を膜厚方向に挟み平面視において重なるよう設けられた上部電極16および下部電極12(一対の電極)を有する圧電薄膜共振器を例に説明した。圧電デバイスは、窒化アルミニウム膜を伝搬する弾性波を励振する電極を有する弾性波デバイスでもよい。例えば、窒化アルミニウム膜上に櫛型電極が設けられたラム波を利用する共振器でもよい。
【実施例2】
【0089】
実施例2は、実施例1およびその変形例の圧電薄膜共振器を用いたフィルタおよびデュプレクサの例である。
図13(a)は、実施例2に係るフィルタの回路図である。
図13(a)に示すように、入力端子Tinと出力端子Toutとの間に、1または複数の直列共振器S1からS4が直列に接続されている。入力端子Tinと出力端子Toutとの間に、1または複数の並列共振器P1からP4が並列に接続されている。1または複数の直列共振器S1からS4および1または複数の並列共振器P1からP4の少なくとも1つの共振器に実施例1およびその変形例の圧電薄膜共振器を用いることができる。ラダー型フィルタの共振器の個数等は適宜設定できる。
【0090】
図13(b)は、実施例2の変形例1に係るデュプレクサの回路図である。
図13(b)に示すように、共通端子Antと送信端子Txとの間に送信フィルタ40が接続されている。共通端子Antと受信端子Rxとの間に受信フィルタ42が接続されている。送信フィルタ40は、送信端子Txから入力された信号のうち送信帯域の信号を送信信号として共通端子Antに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。受信フィルタ42は、共通端子Antから入力された信号のうち受信帯域の信号を受信信号として受信端子Rxに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。送信フィルタ40および受信フィルタ42の少なくとも一方を実施例2のフィルタとすることができる。
【0091】
マルチプレクサとしてデュプレクサを例に説明したがトリプレクサまたはクワッドプレクサでもよい。
【0092】
圧電デバイスとして、弾性波デバイス、フィルタおよびマルチプレクサについて説明したが、圧電デバイスは、インクジェットを用いたマイクロポンプ、RF(Radio Frequency)-MEMS(Micro Electro Mechanical System)スイッチ、光ミラーのようなアクチュエータでもよい。圧電デバイスは、加速度センサ、ジャイロセンサ、エナジーハーベス等のセンサでもよく、MEMS素子でもよい。
【0093】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0094】
10 基板
12 下部電極
14 圧電膜
16 上部電極