(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】塩化ビニル系プラスチゾル組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 27/06 20060101AFI20240221BHJP
C08J 9/12 20060101ALI20240221BHJP
B32B 5/20 20060101ALI20240221BHJP
B32B 27/22 20060101ALI20240221BHJP
B32B 27/24 20060101ALI20240221BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20240221BHJP
E04F 15/16 20060101ALI20240221BHJP
A47G 27/02 20060101ALI20240221BHJP
【FI】
C08L27/06
C08J9/12 CEV
B32B5/20
B32B27/22
B32B27/24
B32B27/30 101
E04F15/16 A
A47G27/02 102
(21)【出願番号】P 2020051973
(22)【出願日】2020-03-24
【審査請求日】2023-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】597012286
【氏名又は名称】新第一塩ビ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100191204
【氏名又は名称】大塚 春彦
(72)【発明者】
【氏名】織田 誠司
(72)【発明者】
【氏名】紙中 学
【審査官】飛彈 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-131594(JP,A)
【文献】特開昭61-115941(JP,A)
【文献】特開2018-117823(JP,A)
【文献】特開平04-229258(JP,A)
【文献】特開2005-306905(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 27/06
C08J 9/12
B32B 5/20
B32B 27/30
B32B 27/22
B32B 27/24
A47G 27/02
E04F 15/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次粒子の平均粒子径(D50)が0.1 ~10μmの微粒子であるペースト加工用塩化ビニル系樹脂50~90質量%、及び
平均粒子径(D50)が50~200μmの粒子であるサスペンジョン系多孔質塩化ビニル系樹脂10~50質量%を含む塩化ビニル系樹脂と、可塑剤とを含有する塩化ビニル系プラスチゾル組成物であって、
前記サスペンジョン系多孔質塩化ビニル系樹脂の細孔内に、沸点が70~
150℃の揮発性液体成分が
、サスペンジョン系多孔質塩化ビニル系樹脂全体に対して0.5質量%以上含有されていることを特徴とする塩化ビニル系プラスチゾル組成物。
【請求項2】
前記サスペンジョン系多孔質塩化ビニル系樹脂のポロシティが、0.15~0.45ml/gであることを特徴とする請求項
1記載の塩化ビニル系プラスチゾル組成物。
【請求項3】
前記揮発性液体成分が、水であることを特徴とする請求項
1又は2記載の塩化ビニル系プラスチゾル組成物。
【請求項4】
請求項
1~3のいずれか記載の塩化ビニル系プラスチゾル組成物を塗布した後、加熱発泡することを特徴とする塩化ビニル系発泡層の製造方法。
【請求項5】
塩化ビニル系発泡層が、タイルカーペットを構成する層であることを特徴とする請求項
4記載の塩化ビニル系発泡層の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ビニル系樹脂を含有する塩化ビニル系プラスチゾル組成物、及びこれを用いた塩化ビニル系発泡層の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、オフィスビルの床面には、一辺が50cm程度のタイルカーペットを用いることが主流となっている(例えば、特許文献1参照)。
このタイルカーペットは、通常、カーペットのパイルが埋め込まれている上部パイル層と、強度保持のためのバッキング層を有している。このバッキング層に用いるバッキング材としては、140~160℃の低温加工条件でも強度を持たせることが可能であることから、ゲル化に優れたペースト加工用塩化ビニル系樹脂が使用されることが多い。また、このバッキング層には、強度保持の点から、通常、炭酸カルシウム等の無機フィラーが配合されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、タイルカーペットのバッキング層には、通常、無機フィラーが配合されるため、タイルカーペット製品が重いという問題があった。
【0005】
本発明の課題は、塩化ビニル系樹脂が用いられる樹脂層を軽量化し、製品全体としての重量の低減を図ることが可能な塩化ビニル系プラスチゾル組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、内部細孔を有するサスペンジョン系多孔質塩化ビニル系樹脂をペースト加工用塩化ビニル系樹脂と併用することにより軽量化を図ることができ、また、この内部細孔に低沸点の揮発性液体成分を含有させることにより、加熱成形時における揮発性液体成分の発泡によってさらに軽量化を図ることができることを見いだした。さらに、この内部細孔内の揮発性液体成分のガス化による発泡は、非常に微細で均一な発泡であり、表面が非常に平滑な樹脂層を形成できることを見いだした。本発明は、これらの知見によりなされたものである。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の通りのものである。
[1]ペースト加工用塩化ビニル系樹脂50~90質量%、及びサスペンジョン系多孔質塩化ビニル系樹脂10~50質量%を含む塩化ビニル系樹脂と、可塑剤とを含有する塩化ビニル系プラスゾル組成物であって、
前記サスペンジョン系多孔質塩化ビニル系樹脂の細孔内に、沸点が70~220℃の揮発性液体成分が含有されていることを特徴とする塩化ビニル系プラスチゾル組成物。
【0008】
[2]前記揮発性液体成分が、前記サスペンジョン系多孔質塩化ビニル系樹脂の細孔内に、ポロシティに対して5体積%以上100体積%未満含有されていることを特徴とする上記[1]記載の塩化ビニル系プラスチゾル組成物。
[3]前記揮発性液体成分が、サスペンジョン系多孔質塩化ビニル系樹脂全体に対して、0.5質量%以上含有されていることを特徴とする上記[2]記載の塩化ビニル系プラスチゾル組成物。
[4]前記サスペンジョン系多孔質塩化ビニル系樹脂のポロシティが、0.15~0.40ml/gであることを特徴とする上記[1]~[3]のいずれか記載の塩化ビニル系プラスチゾル組成物。
[5]前記揮発性液体成分が、水であることを特徴とする上記[1]~[4]のいずれか記載の塩化ビニル系プラスチゾル組成物。
【0009】
[6]上記[1]~[5]のいずれか記載の塩化ビニル系プラスチゾル組成物を塗布した後、加熱発泡することを特徴とする塩化ビニル系発泡層の製造方法。
[7]塩化ビニル系発泡層が、タイルカーペットを構成する層であることを特徴とする上記[6]記載の塩化ビニル系発泡層の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の塩化ビニル系プラスチゾル組成物を用いることにより、樹脂層を軽量化し、製品全体としての重量の低減を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[塩化ビニル系プラスチゾル組成物]
本発明の塩化ビニル系プラスチゾル組成物は、ペースト加工用塩化ビニル系樹脂50~90質量%、及びサスペンジョン系多孔質塩化ビニル系樹脂10~50質量%を含む塩化ビニル系樹脂と、可塑剤とを含有し、サスペンジョン系多孔質塩化ビニル系樹脂の細孔内に、沸点が70~220℃の揮発性液体成分が含有されていることを特徴とする。
【0012】
本発明の塩化ビニル系プラスチゾル組成物は、平滑で軽量な樹脂層を形成することができる。すなわち、まず、内部細孔を有するサスペンジョン系多孔質塩化ビニル系樹脂をペースト加工用塩化ビニル系樹脂と併用することで比重を低下させて軽量化を図ることができる。また、この内部細孔に低沸点の揮発性液体成分を含有させることにより、プラスチゾル組成物の加熱成形時における揮発性液体成分のガス化によって、発泡が可能となり、比重を低下させて軽量化を図ることができる。さらに、この細孔内に存在する揮発性液体成分のガス化は、微細で均一な発泡を生じさせることから、非常に平滑な樹脂層を形成することができる。
【0013】
(塩化ビニル系樹脂)
本発明の塩化ビニル系プラスチゾル組成物に含まれる塩化ビニル系樹脂は、ペースト加工用塩化ビニル系樹脂を50~90質量%、及びサスペンジョン系多孔質塩化ビニル系樹脂を10~50質量%含む。
ペースト加工用塩化ビニル系樹脂が50質量%未満(サスペンジョン系多孔質塩化ビニル系樹脂が50%超)であると、ゾル化しにくく粘度が向上して取り扱いにくくなると共に、十分な強度の発泡層が得られない。一方、ペースト加工用塩化ビニル系樹脂が90質量%超(サスペンジョン系多孔質塩化ビニル系樹脂が10%未満)であると、十分な軽量化が図れない。
【0014】
塩化ビニル系樹脂は、ペースト加工用塩化ビニル系樹脂を60~90質量%、及びサスペンジョン系多孔質塩化ビニル系樹脂を10~40質量%含むことが好ましく、ペースト加工用塩化ビニル系樹脂を65~75質量%、及びサスペンジョン系多孔質塩化ビニル系樹脂を25~35質量%含むことがより好ましい。
【0015】
以下、本発明の塩化ビニル系樹脂を構成するペースト加工用塩化ビニル系樹脂、及びサスペンジョン系多孔質塩化ビニル系樹脂についてより詳細に説明する。
【0016】
(ペースト加工用塩化ビニル系樹脂)
本発明のペースト加工用塩化ビニル系樹脂としては、塩化ビニルのホモポリマーの他、塩化ビニルを主体とするコポリマーが含まれる。塩化ビニルを主体とするとは、例えば、塩化ビニルが全体の50質量%以上であることをいい、70質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。
【0017】
塩化ビニルと共重合し得る単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン等のオレフィン系化合物;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和モノカルボン酸;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸-n-ブチル、アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸-N,N-ジメチルアミノエチル等の不飽和モノカルボン酸エステル;アクリルアミド、メタクリルアミド等の不飽和アミド;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル;マレイン酸、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸;これらのエステルおよびこれらの無水物;N-置換マレイミド類;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル等のビニルエーテル;塩化ビニリデン等のビニリデン化合物等を挙げることができる。
【0018】
本発明のペースト加工用塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニル単独で、又は塩化ビニルとこれと共重合可能な不飽和単量体とからなる単量体混合物を従来公知の方法で重合することにより得ることができる。例えば、乳化重合(播種乳化重合を含む)により得ることができる。
【0019】
ペースト加工用塩化ビニル系樹脂は、通常、一次粒子の平均粒子径(D50)が0.1~10μmの微粒子である。平均粒子径(D50)は、0.1~5.0μmであることが好ましく、0.5~3.0μmであることがより好ましい。
この平均粒子径(D50)は、体積基準で求めた粒度分布の全体積を100%とした累積体積分布曲線において50%となる点の粒子径、すなわち体積基準累積50%径を意味する。粒度分布は、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(例えば、(株)堀場製作所製LA-960)により求めることができる。
【0020】
ペースト加工用塩化ビニル系樹脂の平均重合度は、600~1700であることが好ましく、900~1500であることがより好ましい。この平均重合度は、塩化ビニル樹脂試験法(2003年4月 塩ビ工業・環境協会発行)の測定方法に従い、JIS K7367-2に準拠して、測定した還元粘度(K値)を、近似式:K値=20.42*Ln(重合度)-74.93で換算する。
【0021】
(サスペンジョン系多孔質塩化ビニル系樹脂)
本発明におけるサスペンジョン系多孔質塩化ビニル系樹脂としては、ペースト加工用塩化ビニル系樹脂と同様、塩化ビニルのホモポリマーの他、塩化ビニルを主体とするコポリマーであってもよい。
【0022】
サスペンジョン系多孔質塩化ビニル系樹脂は、ペースト加工用塩化ビニル系樹脂よりも粒子径が大きく、通常、平均粒子径(D50)が50~200μmの粒子である。平均粒子径(D50)は、70~180μmであることが好ましく、100~150μmであることがより好ましい。この平均粒子径(D50)は、JIS Z8815(乾式ふるい分け試験法)により、JIS Z8801のふるいを用いた50%通過径として示す。
【0023】
サスペンジョン系多孔質塩化ビニル系樹脂は、多孔質であることから比重が低い。このサスペンジョン系多孔質塩化ビニル系樹脂のポロシティ(細孔容積)としては、0.15~0.45ml/gであることが好ましく、0.15~0.40ml/gであることがより好ましい。この範囲のポロシティの樹脂を用いることにより、十分な軽量化を図ることが可能となると共に、非常に微細な発泡の発生による、極めて平滑な樹脂層表面の形成が可能となる。
なお、ポロシティは、水銀圧入法(ポロシメーター)により求めることができる。
【0024】
サスペンジョン系多孔質塩化ビニル系樹脂の平均重合度としては、600~1700であることが好ましく、700~1500であることがより好ましく、800~1300であることがさらに好ましい。この範囲の平均重合度の樹脂を用いることにより、取り扱い性のよい所望の粘度を保持したゾル組成物とすることができ、また、形成した樹脂層において十分な強度を得ることができる。この平均重合度は、ペースト加工用塩化ビニル系樹脂の場合と同様に算出したものである。
【0025】
サスペンジョン系多孔質塩化ビニル系樹脂の細孔内には、沸点が70~220℃の揮発性液体成分が含有されている。この揮発性液体成分が、プラスチゾル組成物の加熱成形時にガス化し、微細な発泡を生じさせる。
【0026】
揮発性液体成分は、サスペンジョン系多孔質塩化ビニル系樹脂の細孔内に、ポロシティに対して5体積%以上100体積%未満含有されていることが好ましく、10体積%以上95体積%以下含有されていることがより好ましく、15体積%以上95体積%以下含有されていることがさらに好ましい。
【0027】
また、揮発性液体成分のサスペンジョン系多孔質塩化ビニル系樹脂全体に対する含有量としては、0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることがさらに好ましく、10質量%以上であることが特に好ましい。上限は、細孔内に存在できる量であれば特に制限されるものではないが、例えば50質量%であり、40質量%であることが好ましく、35質量%であることがより好ましい。上記範囲の揮発性液体成分を含有することにより、発泡による効果を十分に享受することができる。
【0028】
本発明のプラスチゾル組成物において揮発性液体成分は、実質的にサスペンジョン系多孔質塩化ビニル系樹脂の細孔内のみに存在する。すなわち、サスペンジョン系多孔質塩化ビニル系樹脂を除いて、塩化ビニル系プラスチゾル組成物中には、実質的に揮発性液体成分は含まれない。ここで、「実質的に含まない」とは、プラスチゾル組成物の製造過程から不可避的に含まれる揮発性液体成分は含まれ得るが、それ以外は含まないことを意味する。例えば、プラスチゾル組成物中の揮発液体成分量が、1質量%以下であり、好ましくは0.5質量%以下である。
【0029】
沸点が70~220℃の揮発性液体成分としては、水;エタノール、ブタノール,
エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール;シクロヘキサン、ヘプタン、シクロヘプタン、オクタン、シクロオクタン、ノナン、シクロノナン等の炭化水素などを挙げることができる。これらの中でも、沸点が70~150℃の揮発性液体成分が好ましく、経済的観点、環境的観点から、特に水が好ましい。
【0030】
本発明のサスペンジョン系多孔質塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニル単独で、又は塩化ビニルとこれと共重合可能な不飽和単量体とからなる単量体混合物を従来公知の方法で重合することにより得ることができる。例えば、懸濁重合により得ることができる。温度、分散剤の種類や量、撹拌速度等の各種反応条件を適宜設定して、所望のポロシティや重合度の樹脂を得ることができる。
【0031】
(可塑剤)
本発明の塩化ビニル系プラスチゾル組成物においては、従来塩化ビニル系プラスチゾルの可塑剤として公知のものを使用することができる。
【0032】
本発明においては、例えば、ジブチルフタレート、ジ-(2-エチルヘキシル)フタレート、ジ-n-オクチルフタレート、ジイソブチルフタレート、ジヘプチルフタレート、ジフェニルフタレート、ジイソデシルフタレート、ジウンデシルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジノニルフタレート、ジシクロヘキシルフタレートなどのフタル酸誘導体;ジ-(2-エチルヘキシル)イソフタレート、ジイソオクチルイソフタレートなどのイソフタル酸誘導体;ジ-(2-エチルヘキシル)テトラヒドロフタレート、ジ-n-オクチルテトラヒドロフタレート、ジイソデシルテトラヒドロフタレートなどのテトラヒドロフタル酸誘導体;ジ-n-ブチルアジペート、ジ-(2-エチルヘキシル)アジペート、ジイソデシルアジペート、ジイソノニルアジペートなどのアジピン酸誘導体;ジ-(2-エチルヘキシル)アゼレート、ジイソオクチルアゼレート、ジ-n-ヘキシルアゼレートなどのアゼライン酸誘導体;ジ-n-ブチルセバケート、ジ-(2-エチルヘキシル)セバケートなどのセバシン酸誘導体;ジ-n-ブチルマレエート、ジメチルマレエート、ジエチルマレエート、ジ-(2-エチルヘキシル)マレエートなどのマレイン酸誘導体;ジ-n-ブチルフマレート、ジ-(2-エチルヘキシル)フマレートなどのフマル酸誘導体;トリ-(2-エチルヘキシル)トリメリテート、トリ-n-オクチルトリメリテート、トリイソデシルトリメリテート、トリイソオクチルトリメリテート、トリ-n-ヘキシルトリメリテート、トリイソノニルトリメリテートなどのトリメリット酸誘導体;テトラ-(2-エチルヘキシル)ピロメリテート、テトラ-n-オクチルピロメリテートなどのピロメリット酸誘導体;トリエチルシトレート、トリ-n-ブチルシトレート、アセチルトリエチルシトレート、アセチルトリ-(2-エチルヘキシル)シトレートなどのクエン酸誘導体;モノメチルイタコネート、モノブチルイタコネート、ジメチルイタコネート、ジエチルイタコネート、ジブチルイタコネート、ジ-(2-エチルヘキシル)イタコネートなどのイタコン酸誘導体;ブチルオレエート、グリセリルモノオレエート、ジエチレングリコールモノオレエートなどのオレイン酸誘導体;グリセリルモノリシノレート、ジエチレングリコールモノリシノレートなどのリシノール酸誘導体;グリセリンモノステアレート、ジエチレングリコールジステアレートなどのステアリン酸誘導体;ジエチレングリコールモノラウレート、ジエチレングリコールジペラルゴネート、ペンタエリスリトール脂肪酸エステルなどのその他の脂肪酸誘導体;トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ-(2-エチルヘキシル)ホスフェート、トリフェニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリス(クロロエチル)ホスフェートなどのリン酸誘導体;ジエチレングリコールジベンゾエート、ジプロピレングリコールジベンゾエート、トリエチレングリコールジベンゾエート、ジブチルメチレンビスチオグリコレートなどのグリコール誘導体;グリセロールモノアセテート、グリセロールトリアセテート、グリセロールトリブチレートなどのグリセリン誘導体;アジピン酸系ポリエステル、セバシン酸系ポリエステル、フタル酸系ポリエステルなどのポリエステル系可塑剤;あるいは部分水添ターフェニル、接着性可塑剤;さらにはジアリルフタレート、アクリル系モノマーやオリゴマーなどの重合性可塑剤などを用いることができる。
【0033】
可塑剤は、これらの中でもフタル酸エステル系のものが好適である。なお、これらの可塑剤は1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
可塑剤の配合量は、用途等に応じて適宜選択すればよいが、塩化ビニル系樹脂100質量部当たり、30~150質量部であることが好ましく、50~120質量部であることがより好ましい。
【0034】
(その他の成分)
本発明の塩化ビニル系プラスチゾル組成物においては、塩化ビニル系樹脂及び可塑剤に加えて、その他の各種成分を配合してもよい。その他の成分としては、例えば、熱安定剤、充填剤、発泡剤、発泡促進剤、粘度調節剤、接着性付与剤、着色剤、希釈剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、補強剤を挙げることができる。
【0035】
本発明の塩化ビニル系プラスチゾル組成物は、比較的低粘度のゾルであり、成形方法によって最適な粘度は異なるが、取り扱いや接着性の観点から、2000~13000mPa・sであることが好ましく、4000~12000mPa・sであることがより好ましい。この粘度は、実施例で示した測定方法により測定されたものをいう。
【0036】
[塩化ビニル系プラスチゾル組成物の製造方法]
本発明の塩化ビニル系プラスチゾル組成物は、上記塩化ビニル系樹脂と、可塑剤と、必要に応じて他の成分とを混合することにより製造することができる。なお、ペースト加工用塩化ビニル系樹脂、サスペンジョン系多孔質塩化ビニル系樹脂、及び可塑剤の混合順序は問わない。すなわち、3成分を同時に混合してもよいし、2成分を混合した後、残りの成分を混合してもよい。
【0037】
ただし、サスペンジョン系多孔質塩化ビニル系樹脂の細孔内には、予め揮発性液体成分を含有させる必要がある。例えば、揮発性液体成分として水を用いる場合、サスペンジョン系多孔質塩化ビニル系樹脂の製造時に、水を完全に乾燥させないことにより、所定量の水を細孔内に残存させることができる。また、サスペンジョン系多孔質塩化ビニル系樹脂が乾燥物の場合は、揮発性液体成分を含有させた後、遠心脱水等により乾燥して、所定量の水を細孔内に残存させることができる。
【0038】
[塩化ビニル系発泡層の製造方法]
本発明の塩化ビニル系発泡層の製造方法は、上記本発明の塩化ビニル系プラスチゾル組成物を塗布した後、加熱発泡することを特徴とする。本発明の製造方法においては、加熱発泡時に、微細な発泡が生じるので、製造される発泡層は、軽量であると共に、非常に平滑な層となる。加熱温度としては、本発明の塩化ビニル系プラスチゾル組成物が溶融すると共に揮発性液体成分が揮発する温度であれば特に制限されるものではないが、例えば、120~250℃であり、150~200℃であることが好ましい。
【0039】
具体的に、この塩化ビニル系発泡層としては、タイルカーペットのバッキング層や接着層等のタイルカーペットを構成する層を好適に例示することができる。その他、壁材、床材、レザーを構成する層を例示することができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
[実施例1]
ペースト加工用塩化ビニル系樹脂として、平均重合度1350、平均粒子径(D50)が1.0μmの塩化ビニル樹脂微粒子(新第一塩ビ(株)ZEST PQ135)を用いた。
サスペンション系多孔質塩化ビニル系樹脂として、ポロシティ0.25ml/g、平均重合度1300、平均粒子径(D50)が130μmの塩化ビニル樹脂粒子を用いた。揮発性液体成分としては、水を用いた。
可塑剤として、ジ-(2-エチルヘキシル)フタレート((株)ジェイ・プラス製DOP)を用いた。
無機フィラーとして、炭酸カルシウム(日東粉化工業(株)製 寒水70)を用いた。
【0042】
樹脂製ビーカーに、サスペンション系多孔質塩化ビニル系樹脂と純水を1:1で加え、メカニカル制御撹拌機で攪拌した後、サスペンション系多孔質塩化ビニル系樹脂をステンレスバットに取り出し、60℃の乾燥機に入れて水分を揮発させて含水率を1.0質量%に調整した。
【0043】
500mlのプラスチックカップに、ペースト加工用塩化ビニル樹脂70質量部、上記含水率を調整したサスペンション系多孔質塩化ビニル樹脂30質量部、可塑剤100質量部、無機フィラー300質量部を計量し、メカニカル制御撹拌機で10分間混練して、実施例1に係る塩化ビニル系プラスチゾル組成物を製造した。
【0044】
[実施例2]
実施例1において、ペースト加工用塩化ビニル樹脂を85質量部、サスペンション系多孔質塩化ビニル樹脂を15質量部に変更した以外は同様にして、実施例2に係る塩化ビニル系プラスチゾル組成物を製造した。
【0045】
[実施例3]
実施例1において、サスペンション系多孔質塩化ビニル系樹脂として、ポロシティ0.15ml/gの塩化ビニル樹脂粒子(平均重合度1300、平均粒子径(D50)130μm)を用いた以外は同様にして、実施例3に係る塩化ビニル系プラスチゾル組成物を製造した。
【0046】
[実施例4]
実施例1において、サスペンション系多孔質塩化ビニル系樹脂として、ポロシティ0.35ml/gの塩化ビニル樹脂粒子(平均重合度1300、平均粒子径(D50)130μm)を用いた以外は同様にして、実施例4に係る塩化ビニル系プラスチゾル組成物を製造した。
【0047】
[実施例5]
実施例1において、サスペンション系多孔質塩化ビニル系樹脂として、ポロシティ0.45ml/gの塩化ビニル樹脂粒子(平均重合度1300、平均粒子径(D50)130μm)を用いた以外は同様にして、実施例5に係る塩化ビニル系プラスチゾル組成物を製造した。
【0048】
[実施例6]
実施例1において、サスペンション系多孔質塩化ビニル系樹脂全体に対する含水量を0.6質量%とした以外は同様にして、実施例6に係る塩化ビニル系プラスチゾル組成物を製造した。
【0049】
[実施例7]
実施例1において、サスペンション系多孔質塩化ビニル系樹脂全体に対する含水量を5.3質量%とした以外は同様にして、実施例7に係る塩化ビニル系プラスチゾル組成物を製造した。
【0050】
[実施例8]
実施例1において、サスペンション系多孔質塩化ビニル系樹脂全体に対する含水量を11.0質量%とした以外は同様にして、実施例8に係る塩化ビニル系プラスチゾル組成物を製造した。
【0051】
[実施例9]
実施例1において、サスペンション系多孔質塩化ビニル系樹脂全体に対する含水量を20.0質量%とした以外は同様にして、実施例9に係る塩化ビニル系プラスチゾル組成物を製造した。
【0052】
[実施例10]
実施例1において、サスペンション系多孔質塩化ビニル系樹脂全体に対する含水量を30.8質量%とした以外は同様にして、実施例10に係る塩化ビニル系プラスチゾル組成物を製造した。
【0053】
[比較例1]
実施例1において、ペースト加工用塩化ビニル樹脂を95質量部、サスペンション系多孔質塩化ビニル樹脂を5質量部に変更した以外は同様にして、比較例1に係る塩化ビニル系プラスチゾル組成物を製造した。
【0054】
[比較例2]
実施例1において、ペースト加工用塩化ビニル樹脂を45質量部、サスペンション系多孔質塩化ビニル樹脂を55質量部に変更した以外は同様にして、比較例1に係る塩化ビニル系プラスチゾル組成物を製造した。
[比較例3]
実施例1において、サスペンション系多孔質塩化ビニル系樹脂に水を含有させない(樹脂中の含水量を0質量%)以外は同様にして、比較例3に係る塩化ビニル系プラスチゾル組成物を製造した。
[比較例4]
実施例1において、サスペンション系多孔質塩化ビニル系樹脂に水を含有させず(樹脂中の含水量を0質量%)、プラスチゾル組成物中に水を添加した(10000ppm)以外は同様にして、比較例4に係る塩化ビニル系プラスチゾル組成物を製造した。
【0055】
上記実施例1~10及び比較例1~4に係る塩化ビニル系プラスチゾル組成物について、以下の方法で粘度を測定した。
【0056】
(粘度)
プラスチゾル組成物を気温23℃、湿度50%RHの雰囲気下で1時間静置後、プラスチゾルをよく掻き混ぜ、ブルックフィールド粘度計(英弘精機(株)製LVDV-3T)ローターNo.4、60rpmの粘度を測定した。
【0057】
上記実施例1~10及び比較例1~4に係る塩化ビニル系プラスチゾル組成物を用いて、塩化ビニル系発泡層を製造した。
具体的には、ステンレス鋼板上に滴下したプラスチゾル組成物を、ドクターブレードで1mm厚にコーティングし、160℃のオーブンで5分間加熱して発泡層(成形シート)を得た。
【0058】
製造された成形シートについて、発泡倍率、表面性状、比重、引張強度を以下の方法で評価した。
【0059】
(発泡倍率及び比重)
発泡倍率及び比重は、成形シートを4cm角の金型で打ち抜き、厚みと質量を測定して算出した。
【0060】
(表面性状)
表面性状は、表面の目視観察、断面の表層部を拡大観察し、以下の基準で評価した。
◎:全体が極めて平滑である
〇:全体が平滑である
△:全体が平滑であるが、部分的に凹凸がある
×:全体的に不均一な膨れや凹凸がある
【0061】
(引張強度)
引張強度は、成形シートからダンベル型引張試験片を作製し、オートグラフ((株)島津製作所製AGS-H)で引張強度を測定した。
【0062】
結果を表1~表3に示す。
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
表1及び表2に示すように、実施例1~10に係る塩化ビニル系プラスチゾル組成物を用いることにより、発泡倍率が高く、比重の低い発泡層が形成されると共に、形成された発泡層の表面性状は平滑であった。また、引張強度も十分に高いものであった。さらに、プラスチゾル組成物の粘度も低く、取り扱いやすいものであった。
【0067】
一方、表3に示すように、比較例1ように、サスペンション系塩化ビニル樹脂の配合量が少なすぎると、十分な発泡効果や比重低下の効果が得られなかった。また、比較例2ように、サスペンション系塩化ビニル樹脂の配合量が多すぎると、粘度が向上すると共に、十分な引張強度が得られなかった。また、比較例4のように、サスペンション系多孔質塩化ビニル系樹脂に水を含有させず、プラスチゾル組成物中に水を添加した場合には、発泡層の表面に不均一な膨れが生じ、実用化に耐えうるものではなかった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の塩化ビニル系プラスチゾル組成物は、タイルカーペットのバッキング層の形成等に用いることができることから、産業上有用である。