(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】多段光フィルタ装置、及び、多段光フィルタ装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/20 20060101AFI20240221BHJP
G02B 7/18 20210101ALI20240221BHJP
【FI】
G02B5/20
G02B7/18 100
(21)【出願番号】P 2020054911
(22)【出願日】2020-03-25
【審査請求日】2022-12-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】山岸 裕幸
【審査官】藤岡 善行
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-241996(JP,A)
【文献】特開平03-056945(JP,A)
【文献】特開2007-210083(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/20
G02B 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの平面状光フィルタを含む光フィルタ群と、前記光フィルタ群に属する第1の平面状光フィルタを透過した光を反射することによって、前記光フィルタ群に属する第2の平面状光フィルタに導くミラー構造と、を備えて
おり、
前記光フィルタ群には、屈折率が個別に設定された複数のマイクロセルを有する平面状光フィルタが少なくとも一つ含まれている、
ことを特徴とする多段光フィルタ装置。
【請求項2】
前記第1の平面状光フィルタ及び前記第2の平面状光フィルタは、同一の平面上に配置されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の多段光フィルタ装置。
【請求項3】
前記ミラー構造は、(1)前記第1の平面状光フィルタを透過した光を反射する第1の反射面であって、前記平面の第1の側に配置され、前記平面との成す角が45°である第1の反射面と、(2)前記第1の反射面にて反射された光を更に反射し、前記第2の平面状光フィルタに導く第2の反射面であって、前記平面の前記第1の側に配置され、前記平面との成す角が45°である第2の反射面と、を含んでいる、
ことを特徴とする請求項2に記載の多段光フィルタ装置。
【請求項4】
前記第1の反射面及び前記第2の反射面は、直角プリズムミラーの互いに直交する2つの面に形成されている、
ことを特徴とする請求項3に記載の多段光フィルタ装置。
【請求項5】
前記第1の反射面は、第1の直角プリズムミラーの互いに直交する2つの面の各々と45°で交わる斜面に形成されており、前記第2の反射面は、第2の直角プリズムミラーの互いに直交する2つの面の各々と45°で交わる斜面に形成されている、
ことを特徴とする請求項3に記載の多段光フィルタ装置。
【請求項6】
前記光フィルタ群は、前記平面上に配置された第3の平面状光フィル
タを更に含み、
前記ミラー構造は、(3)前記第2の平面状光フィルタを透過した光を反射する第3の反射面であって、前記平面の第2の側に配置され、前記平面との成す角が45°である第3の反射面と、(4)前記第3の反射面にて反射された光を更に反射し、前記第
3の平面状光フィルタに導く第4の反射面であって、前記平面の前記第2の側に配置され、前記平面との成す角が45°である第4の反射面と、を含んでいる、
ことを特徴とする請求項3~5の何れか一項に記載の多段光フィルタ装置。
【請求項7】
前記光フィルタ群に属する平面状光フィルタは、一体成形されている、
ことを特徴とする請求項1~6の何れか一項に記載の多段光フィルタ装置。
【請求項8】
前記複数のマイクロセルは、高さが個別に設定された複数のピラーにより構成され、
前記平面状光フィルタは、前記複数のマイクロセルが形成された領域を取り囲む、前記ピラーよりも高さの高いフレーム部を有している、
ことを特徴とする請求項
1~7の何れか一項に記載の多段光フィルタ装置。
【請求項9】
請求項1~
8の何れか一項に記載の多段光フィルタ装置の製造方法であって、
前記光フィルタ群に属する平面状光フィルタを一体成形する工程を含んでいる、
ことを特徴とする多段光フィルタ装置の製造方法。
【請求項10】
請求項1~
8の何れか一項に記載の多段光フィルタ装置の製造方法であって、
前記ミラー構造に含まれる反射面の位置及び方向の一方又は両方を、前記光フィルタ群に属する平面状光フィルタを透過した光をモニタしながら調整する工程を含んでいる、
ことを特徴とする多段光フィルタ装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の平面状光フィルタを含む多段光フィルタ装置に関する。また、そのような多段光フィルタ装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、入力光の光路上にレンズやフィルタなど複数の光学素子を重ねて配置し、これらの光学素子を入力光に順に作用させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
複数の平面状光フィルタを入力光に順に作用させる多段光フィルタ装置においては、これらの平面状光フィルタの入力光に対する位置及び方向を予め定められた位置及び方向に調整することが重要である。なぜなら、平面状光フィルタの入力光に対する位置及び方向が予め定められた位置及び方向からずれると、所期の作用を入力光に対して及ぼすことが困難になるからである。しかしながら、複数の平面状光フィルタを重ねて配置した多段光フィルタ装置においては、これらの平面状光フィルタの入力光に対する位置及び方向を予め定められた位置及び方向に調整することは困難である。
【0005】
一例として、屈折率が個別に設定された複数のマイクロセルを有し、各マイクロセルを透過した光を相互に干渉させることによって、省スペースかつ低消費電力で予め定められた演算を光学的に実行するように設計された平面状光フィルタが知られている。このような平面状光フィルタにより構成された多段光フィルタ装置においては、平面状光フィルタの入力光に対する位置及び方向が予め定められた位置及び方向から僅かにずれただけで、所期の光演算を実行することが困難になり得る。
【0006】
本発明の一態様は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、平面状光フィルタの入力光に対する位置及び方向を予め定められた位置及び方向に調整することが容易な多段光フィルタを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様1に係る多段光フィルタ装置は、少なくとも2つの平面状光フィルタを含む光フィルタ群と、前記光フィルタ群に属する第1の平面状光フィルタを透過した光を反射することによって、前記光フィルタ群に属する第2の平面状光フィルタに導くミラー構造と、を備えている。
【0008】
上記の構成によれば、ミラー構造に含まれる反射面の位置(例えば、中心位置)及び方向(例えば、法線方向)の一方又は両方を調整することによって、光フィルタ群に属する平面状光フィルタの入力光に対する位置及び方向を予め定められた位置及び方向に調整することができる。このため、光フィルタ群に属する平面状光フィルタの入力光に対する位置及び方向を予め定められた位置及び方向に容易に調整することができる。
【0009】
本発明の態様2に係る多段光フィルタ装置においては、態様1の構成に加えて、前記第1の平面状光フィルタ及び前記第2の平面状光フィルタは、同一の平面上に配置されている、という構成が採用されている。
【0010】
上記の構成によれば、第1の平面状フィルタ及び第2の平面状フィルタの方向を調整する必要がない。したがって、光フィルタ群に属する平面状光フィルタの入力光に対する位置及び方向を予め定められた位置及び方向に更に容易に調整することができる。
【0011】
本発明の態様3に係る多段光フィルタ装置においては、態様2の構成に加えて、前記ミラー構造は、(1)前記第1の平面状光フィルタを透過した光を反射する第1の反射面であって、前記平面の第1の側に配置され、前記平面との成す角が45°である第1の反射面と、(2)前記第1の反射面にて反射された光を更に反射し、前記第2の平面状光フィルタに導く第2の反射面であって、前記平面の前記第1の側に配置され、前記平面との成す角が45°である第2の反射面と、を含んでいる、という構成が採用されている。
【0012】
上記の構成によれば、第1の平面状光フィルタを垂直に透過した光を、第2の平面状光フィルタに垂直に入射させることができる。
【0013】
本発明の態様4に係る多段光フィルタ装置においては、態様3の構成に加えて、前記第1の反射面及び前記第2の反射面は、直角プリズムミラーの互いに直交する2つの面に形成されている、という構成が採用されている。
【0014】
上記の構成によれば、第1の反射面及び第2の反射面を1つの直角プリズムミラーにより実現することができる。したがって、より少ない部品点数で多段光フィルタ装置を構成することが可能になる。
【0015】
本発明の態様5に係る多段光フィルタ装置においては、態様3の構成に加えて、前記第1の反射面は、第1の直角プリズムミラーの互いに直交する2つの面の各々と45°で交わる斜面に形成されており、前記第2の反射面は、第2の直角プリズムミラーの互いに直交する2つの面の各々と45°で交わる斜面に形成されている、という構成が採用されている。
【0016】
上記の構成によれば、第1の反射面及び第2の反射面を2つの直角プリズムミラーにより個別に実現することができる。したがって、第1の反射面の位置及び方向と第2の反射面の位置及び方向とを独立に調整することができる。
【0017】
本発明の態様6に係る多段光フィルタ装置においては、態様3~5の何れか一態様の構成に加えて、前記光フィルタ群は、前記平面上に配置された第3の平面状光フィルタ及び第4の平面状光フィルタを更に含み、前記ミラー構造は、(3)前記第2の平面状光フィルタを透過した光を反射する第3の反射面であって、前記平面の第2の側に配置され、前記平面との成す角が45°である第3の反射面と、(4)前記第3の反射面にて反射された光を更に反射し、前記第4の平面状光フィルタに導く第4の反射面であって、前記平面の前記第2の側に配置され、前記平面との成す角が45°である第4の反射面と、を含んでいる、という構成が採用されている。
【0018】
上記の構成によれば、(1)第1の平面状光フィルタを垂直に透過した光を、第2の平面状光フィルタに垂直に入射させ、(2)第2の平面状光フィルタを垂直に透過した光を第3の平面状光フィルタに垂直に入射させ、(3)第3の平面状光フィルタを垂直に透過した光を第4の平面状光フィルタに入射させることができる。
【0019】
本発明の態様7に係る多段光フィルタ装置においては、態様1~6の何れか一態様の構成に加えて、前記光フィルタ群に属する平面状光フィルタは、一体成形されている、という構成が採用されている。
【0020】
上記の構成によれば、光フィルタ群に属する平面状光フィルタの相対的な位置関係を、事後的な調整を行うことなく、高い精度で所期の位置関係にすることができる。
【0021】
本発明の態様8に係る多段光フィルタ装置においては、態様1~7の何れか一態様の構成に加えて、前記光フィルタ群には、屈折率が個別に設定された複数のマイクロセルを有する平面状光フィルタが少なくとも一つ含まれている、という構成が採用されている。
【0022】
上記の構成によれば、多段階の光演算を実行可能な多層光フィルタ装置を実現することができる。
【0023】
本発明の態様9に係る多段光フィルタ装置においては、態様8の構成に加えて、前記複数のマイクロセルは、高さが個別に設定された複数のピラーにより構成され、前記平面状光フィルタは、前記複数のマイクロセルが形成された領域を取り囲む、前記ピラーよりも高さの高いフレーム部を有している、という構成が採用されている。
【0024】
上記の構成によれば、複数のマイクロセルを有する平面状光フィルタ上にミラー構造(例えば、直角プリズムミラー)を載置したときに、これら複数のマイクロセルを構成する複数のピラーが損傷を受ける可能性を低減することができる。
【0025】
本発明の態様10に係る製造方法は、態様1~9の何れか一態様に係る多段光フィルタの製造方法であって、前記光フィルタ群に属する平面状光フィルタを一体成形する工程を含んでいる、ことを特徴とする。
【0026】
上記の製造方法によれば、光フィルタ群に属する平面状光フィルタの相対的な位置関係を、事後的な調整を行うことなく、高い精度で所期の位置関係にすることができる。
【0027】
本発明の態様10に係る製造方法は、態様1~9の何れか一態様に係る多段光フィルタの製造方法であって、ミラー構造を構成する反射面の位置及び方向の一方又は両方を、前記フィルタ群に属する平面状光フィルタを透過した光をモニタしながら調整する工程を含んでいる。
【0028】
上記の製造方法によれば、光フィルタ群に属する平面状光フィルタの入力光に対する位置及び方向を予め定められた位置及び方向に容易に調整することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の一態様によれば、平面状光フィルタの入力光に対する位置及び方向を予め定められた位置及び方向に調整することが容易な多段光フィルタを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の一実施形態に係る多段光フィルタ装置の構成を示す斜視図である。
【
図2】
図1の多段光フィルタ装置のAA’断面を示す断面図である。
【
図3】
図1の多段光フィルタ装置が備える平面状光フィルタの一具体例を示す斜視図である。
【
図4】
図1の多段光フィルタ装置の一変形例を示す斜視図である。
【
図5】
図4の多段光フィルタ装置のBB’断面を示す断面図である。
【
図6】
図1の多段光フィルタ装置の製造方法を模式的に示す図である。
【
図7】
図6の多段光フィルタ装置の製造方法の一変形例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
(多段光フィルタ装置の構成)
本発明の一実施形態に係る多段光フィルタ装置1の構成について、
図1及び
図2を参照して説明する。
図1は、多段光フィルタ装置1の構成を示す斜視図であり、
図2は、多段光フィルタ装置1のAA’断面を示す断面図である。
【0032】
多段光フィルタ装置1は、光フィルタ群11と、透明基板12と、ミラー構造13と、を備えている。本実施形態において、透明基板12は、ガラス層12aと、樹脂層12bと、により構成されている。光フィルタ群11は、例えばナノインプリントによって樹脂層12b内に一体成形されている。なお、ガラス層12aは、光演算の対象となる光(例えば赤色光)、及び、樹脂層12bを硬化させるための光(例えば紫外光)を透過する光透過性、並びに、樹脂層12bの形状を平板状に保つための剛性を有する材料により構成される。これらの性質を有する材料により構成された板状部材であれば、ガラス層12の代わりに用いることができる。
【0033】
光フィルタ群11は、N個の平面状光フィルタ11a1~11aNの集合である。
図1においては、4個の平面状光フィルタ11a1~11a4により構成された光フィルタ群11を例示している。ただし、平面状光フィルタ11a1~11aNの個数Nは、2以上の任意の自然数であればよく4に限定されない。
【0034】
本実施形態において、各平面状光フィルタ11ai(iは1以上N以下の自然数)の平面視形状は、正方形である。また、本実施形態において、平面状光フィルタ11a1~11aNは、各平面状光フィルタ11aj(jは1以上N-1以下の自然数)の一辺が隣接する平面状光フィルタ11aj+1の一辺と平行に対向するように、同一の平面上に一直線状に並んで配置されている。
【0035】
また、本実施形態において、各平面状光フィルタ11aiは、屈折率が個別に設定された複数のマイクロセルを有し、各マイクロセルを透過した光(主に可視光を想定)を相互に干渉させることによって、予め定められた光演算を実行するように設計されたものである。入力光に平面状光フィルタ11a1~11aNを順に作用させてN回の光演算を順次実行する場合、平面状光フィルタ11a1~11aNの相対的な位置関係を所期の関係に保つことが重要になるが、本実施形態においては、平面状光フィルタ11a1~11aNを一体成形することによってこの要求をクリアしている。なお、本明細書において「マイクロセル」とは、サイズがマイクロメートルオーダー以下、すなわち、10μm未満のセルのことを指す。マイクロセルのサイズの下限は、特に限定されないが、例えば、1nmである。
【0036】
ミラー構造13は、(1)第1の平面状光フィルタ11a1を透過した光を反射して第2の平面状光フィルタ11a2に導き、(2)第2の平面状光フィルタ11a2を透過した光を反射して第3の平面状光フィルタ11a3に導き、(3)第3の平面状光フィルタ11a3を透過した光を反射して第4の平面状光フィルタ11a4に導くための構造である。本実施形態において、ミラー構造13は、N-1個の直角プリズムミラー13a1~13aN-1により構成されている。
【0037】
第1の直角プリズムミラー13a1は、第1の反射面13b1と、第2の反射面13b2と、有しており、透明基板12の上面側(特許変位の範囲における「第1の側」の一例)に配置されている。第1の反射面13b1は、第1の平面状光フィルタ11a1を透過した光を反射する反射面であり、透明基板12の上面との成す角は45°である。第2の反射面13b2は、第1の反射面13b1にて反射された光を更に反射して第2の平面状光フィルタ11a2に導く反射面であり、透明基板12の上面との成す角は45°である。したがって、透明基板12の下面側から第1の平面状光フィルタ11a1に垂直に入射した光は、第1の反射面13b1及び第2の反射面13b2に順に反射され、透明基板12の上面側から第2の平面状光フィルタ11a2に垂直に入射する。
【0038】
第2の直角プリズムミラー13a2は、第3の反射面13b3と、第4の反射面13b4と、有しており、透明基板12の下面側(特許変位の範囲における「第2の側」の一例)に配置されている。第3の反射面13b3は、第2の平面状光フィルタ11a2を透過した光を反射する反射面であり、透明基板12の下面との成す角は45°である。第4の反射面13b4は、第3の反射面13b3にて反射された光を更に反射して第3の平面状光フィルタ11a3に導く反射面であり、透明基板12の下面との成す角は45°である。したがって、透明基板12の上面側から第2の平面状光フィルタ11a2に垂直に入射した光は、第3の反射面13b3及び第4の反射面13b4に順に反射され、透明基板12の下面側から第3の平面状光フィルタ11a3に垂直に入射する。
【0039】
第3の直角プリズムミラー13a3は、第5の反射面13b5と、第6の反射面13b6と、有しており、透明基板12の上面側に配置される。第5の反射面13b5は、第3の平面状光フィルタ11a3を透過した光を反射する反射面であり、透明基板12の上面との成す角は45°である。第6の反射面13b6は、第5の反射面13b5にて反射された光を更に反射して第4の平面状光フィルタ11a4に導く反射面であり、透明基板12の上面との成す角は45°である。したがって、透明基板12の下面側から第3の平面状光フィルタ11a3に垂直に入射した光は、第5の反射面13b5及び第6の反射面13b6に順に反射され、透明基板12の上面側から第4の平面状光フィルタ11a4に垂直に入射する。
【0040】
(平面状光フィルタの具体例)
多段光フィルタ装置1が備える平面状光フィルタ11aiの具体例について、
図3を参照して説明する。
図3は、本具体例に係る平面状光フィルタ11aiの斜視図である。
【0041】
本具体例に係る平面状光フィルタ11aiは、一辺1.0mmの正方形であり、マトリックス状に配置された100×100個のマイクロセルにより構成されている。各マイクロセルは、厚さ100μmのベース上に形成された、1辺1μmの正方形の底面底辺を有する四角柱状のピラーにより構成されている。各ピラーの高さは、0nm、100nm、200nm、…、1100nm、1200nm(100nmステップ13段階)の何れかであり、そのピラーにより構成されるマイクロセルの屈折率が所期の屈折率になるように決められている。
【0042】
なお、平面状光フィルタ11aiのセルサイズは、本具体例において1μmであるが、これに限定されない。すなわち、平面状光フィルタ11aiのセルサイズは、10μm未満であれば良い。また、平面状光フィルタ11aiのセル数及び有効領域サイズも任意である。
【0043】
平面状光フィルタ11aiは、フレーム部11biに取り囲まれている。フレーム部11biの高さは、平面状光フィルタ11aiに設けられる最も高いピラーの高さよりも高くなっている。このため、
図1及び
図2に示すように、平面状光フィルタ11aiが設けられる透明基板12の上面に直角プリズムミラー13a1~13aN-1を当接させても、平面状光フィルタ11aiを構成するピラーが損傷を受けることはない。なお、本実施形態においては、フレーム部11biを設けることによって、平面状光フィルタ11aiを構成するピラーを直角プリズムミラー13a1~13aN-1から離間させる構成を採用しているが、これに限定されてない。例えば、直角プリズムミラー13a1~13aN-1の方に凹部を設けることによって、平面状光フィルタ11aiを構成するピラーを直角プリズムミラー13a1~13aN-1から離間させる構成を採用してもよい。あるいは、平面状光フィルタ11aiと直角プリズムミラー13a1~13aN-1との間に環状のスペーサを配置することによって、平面状光フィルタ11aiを構成するピラーを直角プリズムミラー13a1~13aN-1から離間させる構成を採用してもよい。
【0044】
なお、本実施形態においては、平面状光フィルタaiの各マイクロセルの屈折率の設定を、そのセルを構成するピラーの高さを設定することにより実現しているが、これに限定されるものではない。例えば、平面状光フィルタaiの各マイクロセルの屈折率の設定を、そのセルの材料を選択することにより実現してもよい。或いは、平面状光フィルタaiの各マイクロセルの屈折率の設定を、そのセルの材料に添加する添加剤の量及び/種類を選択することにより設定してもよい。
【0045】
(多段光フィルタ装置の変形例)
多段光フィルタ装置1の変形例(以下、「多段光フィルタ装置1A」と記載)について、
図4及び
図5を参照して説明する。
図4は、多段光フィルタ装置1Aの構成を示す斜視図であり、
図5は、多段光フィルタ装置1AのBB’断面を示す断面図である。
【0046】
図1及び
図2に示す多段光フィルタ装置1においては、4個(一般にはN個)の平面状フィルタ11a1~11a4が互いに近接して配置されている。
【0047】
これに対して、
図4及び
図5に示す多段光フィルタ装置1Aにおいては、4個(一般にはN個)の平面状フィルタ11a1~11a4が互いに離間して配置されている。
【0048】
また、
図1及び
図2に示す多段光フィルタ装置1は、3個(一般にはN-1個)の直角プリズムミラー13a1~13a3を備えている。そして、第1の反射面13b1と第2の反射面13b2とが、第1の直角プリズムミラー13a1の互いに直交する2つの面に設けられている。また、第3の反射面13b3と第4の反射面13b4とが、第2の直角プリズムミラー13a2の互いに直交する2つの面に設けられている。また、第5の反射面13b5と第6の反射面13b6とが、第3の直角プリズムミラー13a3の互いに直交する2つの面に設けられている。
【0049】
これに対して、
図4及び
図5に示す多段光フィルタ装置1Aは、6個(一般には(N-1)×2個)の直角プリズムミラー13a1~13a6を備えている。そして、(1)第1の反射面13b1は、第1の直角プリズムミラー13a1の互いに直交する2つの面の各々と45°で交わる斜面に設けられ、(2)第2の反射面13b2は、第2の直角プリズムミラー13a2の互いに直交する2つの面の各々と45°で交わる斜面に設けられている。また、(3)第3の反射面13b3は、第3の直角プリズムミラー13a3の互いに直交する2つの面の各々と45°で交わる斜面に設けられ、(4)第4の反射面13b4は、第4の直角プリズムミラー13a4の互いに直交する2つの面の各々と45°で交わる斜面に設けられている。また、(5)第5の反射面13b5は、第5の直角プリズムミラー13a5の互いに直交する2つの面の各々と45°で交わる斜面に設けられ、(6)第6の反射面13b6は、第6の直角プリズムミラー13a6の互いに直交する2つの面の各々と45°で交わる斜面に設けられている。
【0050】
また、
図1及び
図2に示す多段光フィルタ装置1においては、平面状光フィルタ11a1~11a4を透過する光の光路が、透明基板12を上面視したときに直線軌道を描いている。
【0051】
これに対して、
図4及び
図5に示す多段光フィルタ装置1Aにおいては、平面状光フィルタ11a1~11a4を透過する光の光路が、透明基板12を上面視したときに周回軌道を描いている。
【0052】
以上のように、
図1及び
図2に示す多段光フィルタ装置1には、ミラー構造13をより少数の直角プリズムミラー13a1~13a3により実現することができるという利点がある。一方、
図4及び
図5に示す多段光フィルタ装置1には、反射面13b1~13b6の向きを個別に調整することができるという利点がある。何れの形態を採用するかは、それぞれ形態の利点と多段光フィルタ装置1に要求される形状及びサイズとに鑑みて、適宜選択すればよい。
【0053】
(多段光フィルタ装置の製造方法)
多段光フィルタ装置1の製造方法について、
図6を参照して説明する。
図6は、本製造方法の各段階を模式的に示す図である。
【0054】
本製造方法においては、まず、透明基板12の上面に、光フィルタ群11を構成する平面状光フィルタ11a1~11a4を、ナノインプリント法を用いて形成する。その後、透明基板12に直角プリズムミラー13a1~13a3を接着固定する。前者の工程については、公知であるため、以下、後者の工程について説明する。なお、以下の説明においては、透明基板12の主面(上面及び下面)と平行なX軸、透明基板12の主面と平行、且つ、X軸と直交するY軸、及び、透明基板12の主面と垂直なZ軸を有する座標系を用いる。
【0055】
第1に、
図6の(a)に示すように、透明基板12の上面において、第1の平面状光フィルタ11a1及び第2の平面状光フィルタ11a2の周囲に、未硬化の紫外線硬化樹脂R1を接着剤として塗布する。次に、第1の直角プリズムミラー13a1の底面を透明基板12の上面に当接させ、
図6の(b)に示すように、第1の直角プリズムミラー13a1のアクティブ調心を行う。すなわち、光源21から出力された光を第1の平面状光フィルタ11a1に入力しながら、第2の平面状光フィルタ11a2を透過した光を、イメージセンサ22を用いてモニタする。そして、イメージセンサ22にてモニタされる光の強度分布が所期の分布(目標として予め定められた分布)になるように、第1の直角プリズムミラー13a1の位置及び方向を調整する。ここで、調整可能な位置は、
図6の(b)に示すX軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向の位置であり、調整可能な方向は、
図6の(b)に示すX軸、Y軸、及びZ軸を回転軸とする回転方向である。位置の調整は、方向の調整(第1の直角プリズムミラー13a1の底面をXY平面と平行にする)の後に行う。そして、イメージセンサ22にてモニタされる光の強度分布が所期の分布に一致したところで、紫外線を照射して紫外線硬化樹脂R1を硬化させることによって、第1の直角プリズムミラー13a1を透明基板12の上面に固定する。なお、本実施形態においては、第1の平面状光フィルタ11a1を囲むように紫外線硬化樹脂R1を塗布しているが、これに限定されない。例えば、第1の平面状光フィルタ11a1を覆うように紫外線硬化樹脂R1を塗布してもよい。
【0056】
第2に、
図6の(c)に示すように、透明基板12の下面において、第2の平面状光フィルタ11a2及び第3の平面状光フィルタ11a3の周囲に、未硬化の紫外線硬化樹脂R2を接着剤として塗布する。次に、第2の直角プリズムミラー13a2の底面を透明基板12の下面に当接させ、
図6の(d)に示すように、第2の直角プリズムミラー13a2のアクティブ調心を行う。すなわち、光源21から出力された光を第1の平面状光フィルタ11a1に入力しながら、第3の平面状光フィルタ11a3を透過した光を、イメージセンサ22を用いてモニタする。そして、イメージセンサ22にてモニタされる光の強度分布が所期の分布になるように、第2の直角プリズムミラー13a2の位置及び方向を調整する。ここで、調整可能な位置は、
図6の(d)に示すX軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向の位置であり、調整可能な方向は、
図6の(d)に示すX軸、Y軸、及びZ軸を回転軸とする回転方向である。位置の調整は、方向の調整(第2の直角プリズムミラー13a2の底面をXY平面と平行にする)の後に行う。そして、イメージセンサ22にてモニタされる光の強度分布が所期の分布に一致したところで、紫外線を照射して紫外線硬化樹脂R2を硬化させることによって、第2の直角プリズムミラー13a2を透明基板12の下面に固定する。なお、本実施形態においては、第2の平面状光フィルタ11a2を囲むように紫外線硬化樹脂R2を塗布しているが、これに限定されない。例えば、第2の平面状光フィルタ11a2を覆うように紫外線硬化樹脂R2を塗布してもよい。
【0057】
第3に、
図6の(e)に示すように、透明基板12の上面において、第3の平面状光フィルタ11a3及び第4の平面状光フィルタ11a4の周囲に、未硬化の紫外線硬化樹脂R3を接着剤として塗布する。次に、第3の直角プリズムミラー13a3の底面を透明基板12の上面に当接させ、
図6の(f)に示すように、第3の直角プリズムミラー13a3のアクティブ調心を行う。すなわち、光源21から出力された光を第1の平面状光フィルタ11a1に入力しながら、第4の平面状光フィルタ11a4を透過した光を、イメージセンサ22を用いてモニタする。そして、イメージセンサ22にてモニタされる光の強度分布が所期の分布になるように、第3の直角プリズムミラー13a3の位置及び方向を調整する。ここで、調整可能な位置は、
図6の(f)に示すX軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向の位置であり、調整可能な方向は、
図6の(f)に示すX軸、Y軸、及びZ軸を回転軸とする回転方向である。位置の調整は、方向の調整(第3の直角プリズムミラー13a3の底面をXY平面と平行にする)の後に行う。そして、イメージセンサ22にてモニタされる光の強度分布が所期の分布に一致したところで、紫外線を照射して紫外線硬化樹脂R3を硬化させることによって、第3の直角プリズムミラー13a3を透明基板12の上面に固定する。なお、本実施形態においては、第3の平面状光フィルタ11a3を囲むように紫外線硬化樹脂R3を塗布しているが、これに限定されない。例えば、第3の平面状光フィルタ11a3を覆うように紫外線硬化樹脂R3を塗布してもよい。
【0058】
これにより、
図6の(g)に示すように、多段光フィルタ装置1ができあがる。
【0059】
なお、透明基板12に直角プリズムミラー13a1~13a3を接着固定するために用いる接着剤は、紫外線硬化樹脂に限定されない。すなわち、紫外線以外の光、熱、又は湿気等、任意の刺激により硬化する樹脂を用いることができる。また、この接着剤は、エポキシ系であってもよいし、アクリル系であってもよい。何れも粘度調整が可能であり、膜厚制御が容易である。
【0060】
(多段光フィルタ装置の製造方法の変形例)
なお、直角プリズムミラー13a1~13a3は、
図6に示すように、予め成形されたものを透明基板12に接着固定することにより実装してもよいし、
図7に示すように、透明基板12上で成形することにより実装してもよい。後者の場合、直角プリズムミラー13a1の成形は、例えば、以下のように行う。直角プリズムミラー13a2,12a3の成形も同様である。
【0061】
まず、
図7の(a)に示すように、直角プリズムミラー13a1と相補的な形状を有する金型23を透明基板12上に載置する。次に、
図7の(b)に示すように、金型23のアクティブ調心を行う。すなわち、光源21から出力された光を第1の平面状光フィルタ11a1に入力しながら、第2の平面状光フィルタ11a2を透過した光を、イメージセンサ22を用いてモニタする。そして、イメージセンサ22にてモニタされる光の強度分布が所期の分布になるように、金型23の位置及び方向を調整する。ここで、調整可能な位置は、
図7の(b)に示すX軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向の位置であり、調整可能な方向は、
図7の(b)に示すX軸、Y軸、及びZ軸を回転軸とする回転方向である。そして、イメージセンサ22にてモニタされる光の強度分布が所期の分布に一致したところで、金型23の位置及び方向を固定する。
【0062】
次に、
図7の(c)に示すように、金型23の内部に未硬化の紫外線硬化樹脂を充填する。その後、
図7の(d)に示すように、金型23の位置を微調整する。すなわち、光源21から出力された光を第1の平面状光フィルタ11a1に入力しながら、第2の平面状光フィルタ11a2を透過した光を、イメージセンサ22を用いてモニタする。そして、イメージセンサ22にてモニタされる光の強度分布が所期の分布になるように、金型23の位置を微調整する。ここで、調整可能な位置は、
図7の(d)に示すX軸方向及びY軸方向の位置である。そして、イメージセンサ22にてモニタされる光の強度分布が所期の分布に一致したところで、
図7の(e)に示すように、紫外線を照射して金型23の内部の紫外線硬化樹脂を硬化させる。
【0063】
次に、
図7の(f)に示すように、金型23を取り外した後、硬化した紫外線硬化樹脂の表面(透明基板12の上面に当接する面を除く)に金属膜を成膜する。これにより、透明基板12の上面と45°の角度を成して交わる硬化した紫外線硬化樹脂の2つの面が第1の反射面13b1及び第2の反射面13b2としてより好適に機能するようになる。これにより、直角プリズムミラー13a1が完成する。なお、反射率の高さを追及する必要がなければ、金属膜は省略してもよい。この場合でも、透明基板12の上面と45°の角度を成して交わる硬化した紫外線硬化樹脂の2つの面は、第1の反射面13b1及び第2の反射面13b2として機能する。
【0064】
なお、ここでは、3つの直角プリズムミラー13a1~13a3を個別に成形する方法について説明したが、これに限定されない。すなわち、3つの直角プリズムミラー13a1~13a3を一括して成形してもよい。この場合、直角プリズムミラー13a1と相補的な形状を有する1つの凹部を有する金型23の代わりに、直角プリズムミラー13a1と相補的な形状を有する3つの凹部を有する金型を用いればよい。
【0065】
(付記事項)
本発明は、上述した実施形態に限定されるものでなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、上述した実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても、本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0066】
1 多段光フィルタ装置
11 光フィルタ群
11ai 平面状光フィルタ
11bi フレーム部
12 透明基板
12a ガラス層
12b 樹脂層
13 ミラー構造
13a1~13a3 直角プリズムミラー
13b1~13b6 反射面
21 光源
22 イメージセンサ