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特許7441110誘電体、電子部品、および積層セラミックコンデンサ
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  • 特許-誘電体、電子部品、および積層セラミックコンデンサ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】誘電体、電子部品、および積層セラミックコンデンサ
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/30 20060101AFI20240221BHJP
   C04B 35/468 20060101ALI20240221BHJP
   H01B 3/12 20060101ALI20240221BHJP
   H01B 3/02 20060101ALI20240221BHJP
【FI】
H01G4/30 515
H01G4/30 201L
C04B35/468
H01B3/12 303
H01B3/02 A
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020082117
(22)【出願日】2020-05-07
(65)【公開番号】P2021177512
(43)【公開日】2021-11-11
【審査請求日】2023-04-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 裕太
(72)【発明者】
【氏名】萩原 智也
【審査官】田中 晃洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-021820(JP,A)
【文献】特開2002-362970(JP,A)
【文献】特開2017-178685(JP,A)
【文献】特開2013-227196(JP,A)
【文献】特開平10-135070(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/30
C04B 35/468
H01B 3/12
H01B 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
双晶構造を有するコアシェル粒子を含み、
前記コアシェル粒子における双晶の対応粒界は、前記コアシェル粒子の粒界からシェル部を通り、コア部を通り、前記コア部を挟んで反対側の前記シェル部を通って前記コアシェル粒子の粒界まで延びていることを特徴とする誘電体。
【請求項2】
前記誘電体に含まれる結晶粒子に対する前記コアシェル粒子が占める個数の割合は、2%以上、20%以下であることを特徴とする請求項1に記載の誘電体。
【請求項3】
前記コアシェル粒子は、BaおよびTiの酸化物を主成分とすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の誘電体。
【請求項4】
前記コアシェル粒子は、希土類元素の酸化物を含み、Mg、V、Mn、ZrおよびCrの酸化物の少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の誘電体。
【請求項5】
前記誘電体の主成分セラミックを100mol%とした場合に、希土類Re(Reは希土類元素の少なくとも1種)の酸化物がReの酸化物に換算して1.75mol%~3.50mol%含まれ、Mg、V、Mn、ZrおよびCrの酸化物がMgO、MnO、ZrO、VおよびCrに換算して合計で0.02mol%~2.05mol%含まれることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の誘電体。
【請求項6】
Siの酸化物が含まれることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の誘電体。
【請求項7】
前記誘電体の主成分セラミックを100mol%とした場合に、Siの酸化物はSiOに換算して0.25mol%~2.50mol%含まれることを特徴とする請求項6に記載の誘電体。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の誘電体を含むことを特徴とする電子部品。
【請求項9】
双晶構造を有するコアシェル粒子を含む複数の誘電体層と、複数の内部電極層とが積層された積層構造を有し、
前記コアシェル粒子における双晶の対応粒界は、前記コアシェル粒子の粒界からシェル部を通り、コア部を通り、前記コア部を挟んで反対側の前記シェル部を通って前記コアシェル粒子の粒界まで延びていることを特徴とする積層セラミックコンデンサ。
【請求項10】
前記誘電体層に含まれる結晶粒子に対する前記コアシェル粒子が占める個数の割合は、2%以上、20%以下であることを特徴とする請求項9に記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項11】
前記コアシェル粒子は、BaおよびTiの酸化物を主成分とすることを特徴とする請求項9または請求項10に記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項12】
前記コアシェル粒子は、希土類元素の酸化物を含み、Mg、V、Mn、ZrおよびCrの酸化物の少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項9から請求項11のいずれか一項に記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項13】
前記誘電体層の主成分セラミックを100mol%とした場合に、希土類Re(Reは希土類元素の少なくとも1種)の酸化物がReの酸化物に換算して1.75mol%~3.50mol%含まれ、Mg、V、Mn、ZrおよびCrの酸化物がMgO、MnO、ZrO、VおよびCrに換算して合計で0.02mol%~2.05mol%含まれることを特徴とする請求項9または請求項10に記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項14】
Siの酸化物が含まれることを特徴とする請求項9から請求項13のいずれか一項に記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項15】
前記誘電体層の主成分セラミックを100mol%とした場合に、Siの酸化物はSiOに換算して0.25mol%~2.50mol%含まれることを特徴とする請求項14に記載の積層セラミックコンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体、電子部品、および積層セラミックコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサなどの電子部品について、小型大容量化に伴い、誘電体層が薄層化および多積層化された構造が開示されている(例えば、特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-178684号公報
【文献】特開2017-178685号公報
【文献】特開2002-362971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、誘電体層を薄層化しようとすると、誘電体層にかかるDC電界強度が増加する。そこで、誘電体層に信頼性の向上が求められる。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、信頼性を向上させることができる誘電体、電子部品、および積層セラミックコンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る誘電体は、双晶構造を有するコアシェル粒子を含み、前記コアシェル粒子における双晶の対応粒界は、前記コアシェル粒子の粒界からシェル部を通り、コア部を通り、前記コア部を挟んで反対側の前記シェル部を通って前記コアシェル粒子の粒界まで延びていることを特徴とする。
【0007】
上記誘電体に含まれる結晶粒子に対する前記コアシェル粒子が占める個数の割合は、2%以上、20%以下としてもよい。
【0008】
上記誘電体において、前記コアシェル粒子は、BaおよびTiの酸化物を主成分としてもよい。
【0009】
上記誘電体において、前記コアシェル粒子は、希土類元素の酸化物を含み、Mg、V、Mn、ZrおよびCrの酸化物の少なくとも1つを含んでいてもよい。
【0010】
上記誘電体において、主成分セラミックを100mol%とした場合に、希土類Re(Reは希土類元素の少なくとも1種)の酸化物がReの酸化物に換算して1.75mol%~3.50mol%含まれ、Mg、V、Mn、ZrおよびCrの酸化物がMgO、MnO、ZrO、VおよびCrに換算して合計で0.02mol%~2.05mol%含まれていてもよい。
【0011】
上記誘電体において、Siの酸化物が含まれていてもよい。
【0012】
上記誘電体において、前記誘電体の主成分セラミックを100mol%とした場合に、Siの酸化物はSiOに換算して0.25mol%~2.50mol%含まれていてもよい。
【0013】
本発明に係る電子部品は、上記いずれかの誘電体を含むことを特徴とする。
【0014】
本発明に係る積層セラミックコンデンサは、上記いずれかの誘電体を含む複数の誘電体層と、複数の内部電極層とが積層されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、信頼性を向上させることができる誘電体、電子部品、および積層セラミックコンデンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】積層セラミックコンデンサの部分断面斜視図である。
図2】(a)は双晶をもつコアシェル粒子を例示する断面図であり、(b)は反射電子像で観察した双晶をもつコアシェル粒子を例示する図であり、(c)は誘電体層の模式的な断面図である。
図3】積層セラミックコンデンサの製造方法のフローを例示する図である。
図4】(a)~(c)は積層工程を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。
【0018】
(実施形態)
図1は、実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100の部分断面斜視図である。図1で例示するように、積層セラミックコンデンサ100は、略直方体形状を有する積層チップ10と、積層チップ10のいずれかの対向する2端面に設けられた外部電極20a,20bとを備える。なお、積層チップ10の当該2端面以外の4面のうち、積層方向の上面および下面以外の2面を側面と称する。外部電極20a,20bは、積層チップ10の積層方向の上面、下面および2側面に延在している。ただし、外部電極20a,20bは、互いに離間している。
【0019】
積層チップ10は、誘電体として機能するセラミック材料を含む誘電体層11と、卑金属材料を含む内部電極層12とが、交互に積層された積層体の構成を有する。各内部電極層12の端縁は、積層チップ10の外部電極20aが設けられた端面と、外部電極20bが設けられた端面とに、交互に露出している。それにより、各内部電極層12は、外部電極20aと外部電極20bとに、交互に導通している。その結果、積層セラミックコンデンサ100は、複数の誘電体層11が内部電極層12を介して積層された構成を有する。また、誘電体層11と内部電極層12との積層体において、積層方向の最外層には内部電極層12が配置され、当該積層体の上面および下面は、カバー層13によって覆われている。カバー層13は、セラミック材料を主成分とする。例えば、カバー層13の材料は、誘電体層11とセラミック材料の主成分が同じである。
【0020】
積層セラミックコンデンサ100のサイズは、例えば、長さ0.25mm、幅0.125mm、高さ0.125mmであり、または長さ0.4mm、幅0.2mm、高さ0.2mm、または長さ0.6mm、幅0.3mm、高さ0.3mmであり、または長さ1.0mm、幅0.5mm、高さ0.5mmであり、または長さ3.2mm、幅1.6mm、高さ1.6mmであり、または長さ4.5mm、幅3.2mm、高さ2.5mmであるが、これらのサイズに限定されるものではない。
【0021】
内部電極層12は、Ni(ニッケル),Cu(銅),Sn(スズ)等の卑金属を主成分とする。内部電極層12として、Pt(白金),Pd(パラジウム),Ag(銀),Au(金)などの貴金属やこれらを含む合金を用いてもよい。
【0022】
誘電体層11は、例えば、一般式ABOで表されるペロブスカイト構造を有するセラミック材料を主成分とする。なお、当該ペロブスカイト構造は、化学量論組成から外れたABO3-αを含む。例えば、当該セラミック材料として、BaTiO(チタン酸バリウム),CaZrO(ジルコン酸カルシウム),CaTiO(チタン酸カルシウム),SrTiO(チタン酸ストロンチウム),ペロブスカイト構造を形成するBa1-x-yCaSrTi1-zZr(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦1)等を用いることができる。
【0023】
誘電体層11は、上述した主成分セラミック材料に加えて、目的に応じて所定の添加化合物を含んでいる。添加化合物としては、Mo(モリブデン)、Nb(ニオブ)、Ta(タンタル)、W(タングステン)、Mg(マグネシウム)、Mn(マンガン)、V(バナジウム)、Cr(クロム)、Zr(ジルコニウム)、希土類元素(Y(イットリウム)、Sm(サマリウム)、Eu(ユウロピウム)、Gd(ガドリニウム)、Tb(テルビウム)、Dy(ジスプロシウム)、Ho(ホルミウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)およびYb(イッテルビウム))の酸化物、並びに、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Li(リチウム)、B(ホウ素)、Na(ナトリウム)、K(カリウム)およびSi(ケイ素)の酸化物もしくはガラスが挙げられる。
【0024】
このような積層セラミックコンデンサ100では、小型大容量化に伴い、誘電体層11の薄層化および多積層化が求められている。しかしながら、誘電体層11を薄層化しようとすると、誘電体層11におけるDC電界強度が増加してしまう。したがって、誘電体層11に信頼性向上が求められる。
【0025】
ここで、誘電体層11の信頼性について説明する。誘電体層11は、例えば、一般式ABOで表されるペロブスカイト構造を主相とするセラミック原料粉末を焼成によって焼結させることで形成することができる。したがって、焼成の際にセラミック原料粉末が還元雰囲気にさらされることにより、セラミック原料粉末のABOに酸素欠陥が生じる。積層セラミックコンデンサ100の使用時には誘電体層11に電圧が繰り返し印加されることになる。この際に酸素欠陥が移動することによって、障壁が破壊される。すなわち、ペロブスカイト構造中の酸素欠陥が、誘電体層11の信頼性低下の要因となっている。
【0026】
そこで、本実施形態においては、誘電体層11が含む主成分セラミックの結晶粒子の少なくとも一部が、シェル部およびコア部に双晶を有するコアシェル構造を有している。図2(a)は、誘電体層11が少なくとも一部に含むコアシェル粒子30を例示する断面図である。図2(a)においては、ハッチを省略してある。コアシェル粒子30は、誘電体層11の主成分セラミックの結晶粒子である。誘電体層11の主成分セラミックがチタン酸バリウムである場合には、コアシェル粒子30は、チタン酸バリウムの結晶粒子である。
【0027】
図2(a)で例示するように、コアシェル粒子30は、略球形状のコア部31と、コア部31を囲むように覆うシェル部32とを備えている。コア部31は、添加化合物が固溶していないもしくは添加化合物の固溶量が少ない結晶部分である。シェル部32は、添加化合物が固溶しておりかつコア部31の添加化合物濃度よりも高い添加化合物濃度を有している結晶部分である。
【0028】
コアシェル粒子30は、双晶構造を有している。コアシェル粒子30における双晶の対応粒界33は、コアシェル粒子30の粒界からシェル部32を通り、コア部31をさらに通り、コア部31を挟んで反対側のシェル部32を通ってコアシェル粒子30の粒界まで延びている。このように、コアシェル粒子30における双晶の対応粒界33は、粒界から連続して延びてコア部31を通って反対側の粒界まで延びている。このように、対応粒界33が形成される範囲が広くなっている。なお、図2(a)において、1本の対応粒界33が描かれているが、対応粒界33は、縞状に存在していてもよい。
【0029】
コアシェル粒子30におけるコア部31とシェル部32を区別する方法として、特に制限は無いが、例えば誘電体層11の任意の面を走査透過型電子顕微鏡(STEM)観察ができる厚みまで薄片化し、断面をSTEM観察し、エネルギー分散型X線分析(EDS)により元素マッピング像を取得し、元素マッピング像のコントラストを確認することで区別可能である。EDSにおいてこれを確認するには、例えば観察倍率は1万倍から15万倍の倍率で複数視野を観察することが好ましい。また、コア部31とシェル部32の断面積を算出する方法として特に制限は無いが、例えば20個のコアシェル粒子30について、EDSにて取得した元素マッピング像に対し画像処理をかけ、上記画像におけるコア部31とシェル部32に対し、それぞれが占める領域のピクセル数を数えることで、コア部31とシェル部32それぞれの断面積を算出することができる。上記手法でコア部31とシェル部32の総断面積を算出したとき、例えば、コア部31の比率は、20%~95%がよく、40%~85%が好ましく、60%~80%がより好ましい。
【0030】
対応粒界33では、原子欠損が生じるため、酸素欠陥がトラップされるようになる。コアシェル粒子30では、対応粒界33が広く形成されているため、酸素欠陥をトラップする能力が高くなる。それにより、誘電体層11にコアシェル粒子30が含まれることによって、誘電体層11の信頼性が向上する。
【0031】
ところで、誘電体層11において、主成分セラミック中に希土類元素が拡散した拡散相の割合を増加させることで、誘電体層11の信頼性を確保することが考えられる。しかしながら、過度に拡散相の割合を増加させると、温度特性が低下するおそれがある。これに対して、本実施形態においては、誘電体層11内にコアシェル粒子30を生成するだけで信頼性を向上させることができるため、誘電体層11の温度特性低下を抑制することができる。
【0032】
コアシェル粒子が双晶構造を有しているか否かは、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いて、反射電子像を観察することで判定することができる。双晶が存在するコアシェル粒子では図2(b)で例示するように、双晶を境に結晶方位が異なることに起因するコントラストの差異と、コア部とシェル部で同心円状に組成が異なることに起因するコントラストの差異が見られる。また、一般的には、双晶の存在は透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)を用いて双晶部における結晶方位を観察することで確認することができる。以上のことから、SEMまたはTEMを使用して観察することで、対応粒界33を確認することができる。
【0033】
図2(c)は、誘電体層11の模式的な断面図である。図2(c)で例示するように、誘電体層11は、主成分セラミックの複数の結晶粒子14を備えている。これらの結晶粒子14のうち、少なくとも一部が図2(a)で説明したコアシェル粒子30である。
【0034】
誘電体層11において、コアシェル粒子30が占める割合が低いと、十分に酸素欠陥をトラップすることができないおそれがある。そこで、誘電体層11において全部のコアシェル粒子30が占める割合に下限を設けることが好ましい。例えば、誘電体層11において、全ての結晶粒子14においてコアシェル粒子30が占める個数の割合は、2%以上であることが好ましく、8%以上であることがより好ましい。全ての結晶粒子14においてコアシェル粒子30が占める個数の割合については、例えば、SEM(走査型電子顕微鏡)の反射電子像で1万倍から5万倍の倍率で複数の視野をみて、不作為に選んだ結晶粒子を300個確認することで、コアシェル粒子30の割合を算出することができる。
【0035】
一方、誘電体層11において、コアシェル粒子30が占める割合が高いと、粒成長に伴う温度特性の悪化といった不具合が生じるおそれがある。そこで、誘電体層11において全部のコアシェル粒子30が占める割合に上限を設けることが好ましい。例えば、誘電体層11において、全ての結晶粒子14においてコアシェル粒子30が占める個数の割合は、20%以下であることが好ましく、12%以下であることがより好ましい。
【0036】
誘電体層11に添加される添加化合物のうち、希土類元素は、誘電体層11の信頼性を向上させる働きを有する。そこで、誘電体層11に希土類元素の化合物が添加されていることが好ましい。したがって、誘電体層11における希土類元素の化合物の添加量に下限を設けることが好ましい。一方で、希土類元素の化合物の添加量が多いと、主成分セラミック中に希土類元素が拡散した拡散相の割合が増加し、積層セラミックコンデンサ100の温度特性が低下するおそれがある。そこで、誘電体層11における希土類元素の化合物の添加量に上限を設けることが好ましい。本実施形態においては、例えば、誘電体層11の主成分セラミックを100mol%とした場合に、希土類Re(Reは希土類元素の少なくとも1種)の酸化物がReの酸化物に換算して1.75mol%~3.50mol%添加されていることが好ましく、2.00mol%~2.75mol%添加されていることがより好ましく、2.25mol%~2.50mol%添加されていることがさらに好ましい。なお、積層チップ10の焼成中にReが拡散したとしても、Reはいずれかの箇所に存在する。したがって、2層のカバー層13の間の積層構造についてICP分析をした場合に、Reは上記割合で検出される。
【0037】
誘電体層11に添加される添加化合物のうち、Mg、V、Mn、ZrおよびCrは、誘電体層11を焼成する際の焼結を促進する働きを有する。そこで、誘電体層11におけるMg、V、Mn、ZrおよびCrの添加量に下限を設けることが好ましい。一方で、誘電体層11におけるMgおよびZrの添加量が多いと、粒成長が抑制され、双晶形成の抑制といった不具合が生じるおそれがある。また、誘電体層11におけるMg、V、MnおよびCrの添加量が多いと、アクセプタ成分過剰に伴う酸素空孔濃度の増加による寿命の低下といった不具合が生じるおそれがある。また、誘電体層11におけるV、MnおよびCrの添加量が多いと、DCバイアス特性、エージング特性の悪化といった不具合が生じるおそれがある。そこで、誘電体層11におけるMg、V、Mn、ZrおよびCrの添加量に上限を設けることが好ましい。本実施形態においては、例えば、誘電体層11の主成分セラミックを100mol%とした場合に、Mg、V、Mn、ZrおよびCrの酸化物はMgO、MnO、ZrO、VおよびCrに換算して合計で0.02mol%~2.05mol%添加されていることが好ましく、0.10mol%~1.00mol%添加されていることがより好ましく、0.15mol%~0.80mol%添加されていることがさらに好ましい。
【0038】
誘電体層11に添加される添加化合物のうち、Siは、焼結助剤としての働きを有し、焼結温度を低下させる働きを有する。そこで、誘電体層11におけるSiの添加量に下限を設けることが好ましい。一方で、誘電体層11におけるSiの添加量が多いと、比誘電率の低下といった不具合が生じるおそれがある。そこで、誘電体層11におけるSiの添加量に上限を設けることが好ましい。本実施形態においては、例えば、誘電体層11の主成分セラミックを100mol%とした場合に、Siの酸化物は、SiOに換算して0.25mol%~2.50mol%添加されていることが好ましく、1.00mol%~2.00mol%添加されていることがより好ましく、1.50mol%~1.80mol%添加されていることがさらに好ましい。
【0039】
続いて、積層セラミックコンデンサ100の製造方法について説明する。図3は、積層セラミックコンデンサ100の製造方法のフローを例示する図である。
【0040】
(原料粉末作製工程)
誘電体層11に含まれるAサイト元素およびBサイト元素は、通常はABOの粒子の焼結体の形で誘電体層11に含まれる。例えば、BaTiOは、ペロブスカイト構造を有する正方晶化合物であって、高い誘電率を示す。このBaTiOは、一般的に、二酸化チタンなどのチタン原料と炭酸バリウムなどのバリウム原料とを反応させてチタン酸バリウムを合成することで得ることができる。誘電体層11を構成するセラミックの合成方法としては、従来種々の方法が知られており、例えば固相法、ゾル-ゲル法、水熱法等が知られている。本実施形態においては、これらのいずれも採用することができる。
【0041】
得られたセラミック粉末に、目的に応じて所定の添加化合物を添加する。添加化合物としては、Mo、Nb、Ta、W、Mg、Mn、V、Cr、Zr、希土類元素(Y、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、TmおよびYb)の酸化物、並びに、Co、Ni、Li、B、Na、KおよびSiの酸化物もしくはガラスが挙げられる。
【0042】
例えば、セラミック粉末の平均粒径は、誘電体層11の薄層化の観点から、好ましくは50~300nmである。例えば、上記のようにして得られたセラミック粉末について、必要に応じて粉砕処理して粒径を調節し、あるいは分級処理と組み合わせることで粒径を整えてもよい。以上により、誘電体材料が得られる。
【0043】
(金属導電ペースト作製工程)
金属材料、共材、および有機バインダを混合することで、金属導電ペーストを作製する。内部電極層12を薄層化する観点から、金属材料として、粒径の小さいものを用いる。本実施形態においては、金属材料には、平均粒径が120nm以下の金属(例えば、Niなど)を用いる。また、金属導電ペーストには、共材としてセラミック粒子を添加しておく。セラミック粒子の主成分セラミックは、特に限定するものではないが、誘電体層11の主成分セラミックと同じであることが好ましい。したがって、共材は、チタン酸バリウムなどである。
【0044】
(積層工程)
次に、得られた誘電体材料に、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂等のバインダと、エタノール、トルエン等の有機溶剤と、可塑剤とを加えて湿式混合する。図4(a)で例示するように、得られたスラリを使用して、例えばダイコータ法やドクターブレード法により、基材上に例えば厚み0.8μm以下の帯状の誘電体グリーンシート41を塗工して乾燥させる。図4(a)では基材を省略してある。
【0045】
次に、図4(b)で例示するように、誘電体グリーンシート41の表面に、有機バインダを含む内部電極形成用の金属導電ペースト42をスクリーン印刷、グラビア印刷等により印刷する。それにより、シート部材43を得る。
【0046】
その後、図4(c)で例示するように、基材を剥離した状態で、金属導電ペースト42が互い違いになるように、かつ金属導電ペースト42が誘電体グリーンシート41の長さ方向両端面に端縁が交互に露出ように、所定層数(例えば100~500層)だけシート部材43を積層する。積層したシート部材43の上下にカバー層13となるカバーシートを圧着し、積層体を得る。その後に外部電極20a,20bの下地層となる金属導電ペーストを、積層体の両端面にディップ法等で塗布して乾燥させる。これにより、積層セラミックコンデンサ100を形成するための成型体が得られる。
【0047】
一枚の誘電体グリーンシート41上の複数箇所に、内部電極層12に対応する金属導電ペースト42を印刷してもよい。この場合、得られるシート部材43を積層し、カバーシートを圧着した後に所定チップ寸法(例えば1.0mm×0.5mm)ずつにカットし、カットされた積層体のそれぞれの両端面に、外部電極20a,20bの下地層となる金属導電ペーストをディップ法等で塗布して乾燥させてもよい。
【0048】
(焼成工程)
このようにして得られた成型体を、250~500℃のN雰囲気中で脱バインダ処理した後に、酸素分圧10-5~10-8atmの還元雰囲気中で1100~1300℃で10分~2時間焼成する。
【0049】
(温度保持工程)
その後、焼成工程より酸素分圧を高くした還元雰囲気中で焼成工程の最高温度よりも300℃低い温度(例えば880℃)で20分間保持したのちに冷却し、焼結体を得る。
【0050】
(再酸化処理工程)
その後、Nガス雰囲気中で600℃~1000℃で再酸化処理を行ってもよい。
(めっき処理工程)
その後、めっき処理により、外部電極20a,20bの下地層に、Cu,Ni,Sn等の金属コーティングを行う。それにより、積層セラミックコンデンサ100を得ることができる。
【0051】
本実施形態に係る製造方法によれば、焼成工程後に、焼成工程の最高温度よりも低い温度で所定時間保持する温度保持工程を行なってから冷却することで、誘電体材料に含まれる主成分セラミックの粒成長を促進することができる。それにより、誘電体層11内に、コアシェル粒子30を生成することができる。
【0052】
なお、温度保持工程における保持温度および保持時間は、主成分セラミック粒成長の程度に応じて調整することが好ましい。例えば、誘電体材料における主成分セラミックの平均粒径に対して、誘電体層11における結晶粒子14の平均結晶粒径が3倍以上となるように、保持温度および保持時間を調整することが好ましい。誘電体材料に粒成長を抑制するMgの酸化物を添加化合物として添加する場合には、Mgの酸化物の添加量を考慮することが好ましい。
【0053】
上記例では、電子部品の一例として積層セラミックコンデンサについて説明したが、それに限られない。例えば、バリスタやサーミスタなどの、他の電子部品を用いてもよい。
【実施例
【0054】
(実施例1)
BaおよびTiの酸化物をBaTiOに換算して100mol%、Dyの酸化物をDyに換算して2.00mol%、Mgの酸化物をMgOに換算して0.10mol%、Vの酸化物をVに換算して0.075mol%、Siの酸化物をSiOに換算して1.50mol%の組成割合となるよう秤量し、ボールミルで15時間~24時間、湿式混合粉砕して混合物を得た。
【0055】
次に、この混合物を脱水し乾燥して、空気中、800℃の条件で仮焼し、仮焼粉を得た。仮焼粉の平均粒径は97nmであった。この仮焼粉をエタノールで湿式解砕し、乾燥させ、これに有機バインダおよび溶剤を加えてドクターブレード法で約4μmの厚みのセラミックグリーンシートを得た。次に、このセラミックグリーンシートにNi粉末を主成分とする導電性ペーストを用いて内部電極を印刷法により形成した。そして、このシートを10層に積層し、熱圧着して積層体を得て、長さ1.0mm×幅0.5mm×高さ0.5mmの1005形状に切断して、チップ状の積層体を得た。次に、このチップ状の積層体にNi外部電極をディップで形成し、N雰囲気で脱バインダ処理を行なった後、酸素分圧が10-5~10-8atmの範囲で1200℃、15分間加熱処理し、その後温度保持工程として酸素分圧10-4~10-7atmの範囲、880℃で20分間保持したのち冷却してチップ状の焼結体を得た。次に、チップ状の焼結体をN雰囲気、800℃~1000℃の条件で再酸化処理をおこない、積層セラミックコンデンサを得た。得られた積層セラミックコンデンサの1層あたりの厚みは約3μmであった。また、焼結体における結晶粒子14の平均結晶粒子径は、352nmであり、原料粉サイズから3倍以上となった。
【0056】
次に、得られた積層セラミックコンデンサをエポキシ樹脂に埋め、内部電極交差部が露出するまで研磨を行い、内部電極間の誘電体層の部分に対しSEMによる反射電子像の観察を行った。得られた反射電子像から無作為に抽出した300個の結晶粒子14中において、コアシェル粒子30の個数の割合を求めた。
【0057】
(実施例2)
実施例2では、実施例1と比較して、焼成温度を20℃高い温度に変更した。その他の条件は、実施例1と同様とした。実施例2では、仮焼粉の平均粒径が97nmであり、結晶粒子14の平均結晶粒子径は467nmであった。
【0058】
(実施例3)
実施例3では、実施例1と比較して、用意するBaTiOを平均粒径が20nm大きいものへ変更した。その他の条件は、実施例1と同様とした。実施例3では、仮焼粉の平均粒径が122nmであり、結晶粒子14の平均結晶粒子径は263nmであった。
【0059】
(実施例4)
実施例4では、実施例3と比較して、焼成温度を20℃高い温度に変更した。その他の条件は、実施例3と同様とした。実施例2では、仮焼粉の平均粒径が122nmであり、結晶粒子14の平均結晶粒子径は315nmであった。
【0060】
(実施例5)
実施例5では、実施例4と比較して、焼成温度を20℃高い温度に変更した。その他の条件は、実施例1と同様とした。実施例5では、仮焼粉の平均粒径が122nmであり、結晶粒子14の平均結晶粒子径は417nmであった。
【0061】
(実施例6)
実施例6では、実施例1と比較して、用意するBaTiOを平均粒径が120nm大きいものへ変更した。その他の条件は、実施例2と同様とした。実施例6では、仮焼粉の平均粒径が218nmであり、結晶粒子14の平均結晶粒子径は316nmであった。
【0062】
(比較例1)
比較例1では、実施例6と比較して、880℃、20分間の温度保持工程をおこなわず、焼成工程の最高温度から冷却を行なった。その他の条件は、実施例1と同様とした。比較例1では、仮焼粉の平均粒径が218nmであり、結晶粒子14の平均結晶粒子径は254nmであった。
【0063】
(比較例2)
比較例2では、実施例1と比較して、880℃、20分間の温度保持工程をおこなわず、焼成工程の最高温度から冷却を行なった。また、実施例1と比較して、用意するBaTiOを平均粒径が220nm大きいものへ変更した。その他の条件は、実施例2と同様とした。比較例2では、仮焼粉の平均粒径が321nmであり、結晶粒子14の平均結晶粒子径は343nmであった。
【0064】
(比較例3)
比較例3では、比較例2と比較して、焼成温度を20℃高い温度へ変更した。その他の条件は、比較例2と同様とした。比較例3では、仮焼粉の平均粒径が321nmであり、結晶粒子14の平均結晶粒子径は387nmであった。
【0065】
実施例1では、誘電体層11において、全ての結晶粒子14に対してコアシェル粒子30が占める個数の割合は、15.9%であった。実施例2では、当該割合は、23.7%であった。実施例3では、当該割合は、2.7%であった。実施例4では、当該割合は、8.5%であった。実施例5では、当該割合は、21.4%であった。実施例6では、当該割合は、0.6%であった。比較例1~3では、コアシェル粒子30は生成されなかった。すなわち、比較例1~3では、当該割合は0%であった。表1は、これらの結果を示す。
【表1】
【0066】
(寿命測定試験)
次に、実施例1~6および比較例1~3について、寿命測定試験を行なった。150℃、-240Vの加速条件で、寿命が800min以上となった場合に合格「○」と判定し、寿命が800minを下回った場合に、不合格「×」と判定した。
【0067】
比較例1~3のいずれにおいても、寿命測定試験は不合格「×」と判定された。これは、コアシェル粒子30が誘電体層11内に含まれなかったために、酸素欠陥がトラップされなかったからであると考えられる。一方、実施例1~6のいずれにおいても、寿命測定試験は合格「○」と判定された。これは、コアシェル粒子30が誘電体層11内に含まれ、酸素欠陥がトラップされたからであると考えられる。
【0068】
なお、誘電体層11における全ての結晶粒子14に対してコアシェル粒子30が占める個数の割合が大きくなるほど、寿命が長くなっていることがわかる。特に、寿命を1000min以上とするためには、当該割合が2%以上であることが好ましいことがわかる。
【0069】
(温度変化率)
次に、実施例1~6および比較例1~3について、温度変化率を測定した。25℃の容量を基準としたとき、125℃における容量変化率を測定した。容量変化率が-33%以上であれば、合格と判定した。
【0070】
実施例2,5では容量変化率が-33%を下回ったものの、実施例1,3,4,6では、合格と判定された。これは、誘電体層11におけるコアシェル粒子30の割合が20%以下であったからであると考えられる。なお、容量変化率が-33%を下回っても、温度補償範囲の上限を、例えば125℃から105℃や85℃に下げることで、製品として成立する。
【0071】
以上の結果から、誘電体層11におけるコアシェル粒子30が占める割合は、2%以上、20%以下であることが好ましいことがわかる。より良好な容量変化率と寿命の特性を得るためには、誘電体層11におけるコアシェル粒子30が占める割合は、5%~16%であることが好ましいことがわかる。
【0072】
(実施例7)
実施例7では、Dy以外の希土類元素を添加した。実施例7では、BaおよびTiの酸化物をBaTiOに換算して100mol%、Hoの酸化物をHoに換算して1.75mol%、Mgの酸化物をMgOに換算して0.15mol%、Vの酸化物をVに換算して0.05mol%、Siの酸化物をSiOに換算して1.50mol%の組成割合となるよう秤量し、ボールミルで15時間~24時間、湿式混合粉砕して混合物を得た。実施例7では、仮焼粉の平均粒径が115nmであり、焼結体の平均結晶粒子径は317nmであった。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0073】
(実施例8)
実施例8では、BaおよびTiの酸化物をBaTiOに換算して100mol%、Hoの酸化物をHoに換算して2.00mol%、Mgの酸化物をMgOに換算して0.15mol%、Vの酸化物をVに換算して0.05mol%、Siの酸化物をSiOに換算して1.50mol%の組成割合となるよう秤量し、ボールミルで15時間~24時間、湿式混合粉砕して混合物を得た。実施例8では、仮焼粉の平均粒径が115nmであり、焼結体の平均結晶粒子径は422nmであった。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0074】
(実施例9)
実施例9では、BaおよびTiの酸化物をBaTiOに換算して100mol%、Hoの酸化物をHoに換算して2.50mol%、Mnの酸化物をMnOに換算して0.15mol%、Vの酸化物をVに換算して0.05mol%、Siの酸化物をSiOに換算して1.50mol%の組成割合となるよう秤量し、ボールミルで15時間~24時間、湿式混合粉砕して混合物を得た。実施例9では、仮焼粉の平均粒径が115nmであり、焼結体の平均結晶粒子径は342nmであった。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0075】
(実施例10)
実施例10では、BaおよびTiの酸化物をBaTiOに換算して100mol%、Hoの酸化物をHoに換算して2.50mol%、Zrの酸化物をZrOに換算して0.15mol%、Vの酸化物をVに換算して0.05mol%、Siの酸化物をSiOに換算して1.50mol%の組成割合となるよう秤量し、ボールミルで15時間~24時間、湿式混合粉砕して混合物を得た。実施例10では、仮焼粉の平均粒径が115nmであり、焼結体の平均結晶粒子径は252nmであった。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0076】
(実施例11)
実施例11では、BaおよびTiの酸化物をBaTiOに換算して100mol%、Hoの酸化物をHoに換算して2.50mol%、Mgの酸化物をMgOに換算して0.15mol%、Crの酸化物をCrに換算して0.05mol%、Siの酸化物をSiOに換算して1.50mol%の組成割合となるよう秤量し、ボールミルで15時間~24時間、湿式混合粉砕して混合物を得た。実施例11では、仮焼粉の平均粒径が115nmであり、焼結体の平均結晶粒子径は316nmであった。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0077】
(実施例12)
実施例12では、BaおよびTiの酸化物をBaTiOに換算して100mol%、Yの酸化物をYに換算して1.75mol%、Hoの酸化物をHoに換算して1.75mol%、Mgの酸化物をMgOに換算して0.15mol%、Vの酸化物をVに換算して0.05mol%、Siの酸化物をSiOに換算して1.50mol%の組成割合となるよう秤量し、ボールミルで15時間~24時間、湿式混合粉砕して混合物を得た。実施例12では、仮焼粉の平均粒径が127nmであり、焼結体の平均結晶粒子径は328nmであった。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0078】
(実施例13)
実施例13では、BaおよびTiの酸化物をBaTiOに換算して100mol%、Yの酸化物をYに換算して1.00mol%、Hoの酸化物をHoに換算して1.75mol%、Mgの酸化物をMgOに換算して0.15mol%、Vの酸化物をVに換算して0.05mol%、Siの酸化物をSiOに換算して1.50mol%の組成割合となるよう秤量し、ボールミルで15時間~24時間、湿式混合粉砕して混合物を得た。実施例13では、仮焼粉の平均粒径が127nmであり、焼結体の平均結晶粒子径は387nmであった。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0079】
(実施例14)
実施例14では、BaおよびTiの酸化物をBaTiOに換算して100mol%、Hoの酸化物をHoに換算して2.50mol%、Mnの酸化物をMnOに換算して0.50mol%、Vの酸化物をVに換算して0.05mol%、Siの酸化物をSiOに換算して1.20mol%の組成割合となるよう秤量し、ボールミルで15時間~24時間、湿式混合粉砕して混合物を得た。実施例14では、仮焼粉の平均粒径が115nmであり、焼結体の平均結晶粒子径は284nmであった。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0080】
(実施例15)
実施例15では、BaおよびTiの酸化物をBaTiOに換算して100mol%、Hoの酸化物をHoに換算して2.50mol%、Mnの酸化物をMnOに換算して1.50mol%、Vの酸化物をVに換算して0.05mol%、Siの酸化物をSiOに換算して1.00mol%の組成割合となるよう秤量し、ボールミルで15時間~24時間、湿式混合粉砕して混合物を得た。実施例15では、仮焼粉の平均粒径が115nmであり、焼結体の平均結晶粒子径は237nmであった。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0081】
(実施例16)
実施例16では、BaおよびTiの酸化物をBaTiOに換算して100mol%、Hoの酸化物をHoに換算して2.50mol%、Mgの酸化物をMgOに換算して2.00mol%、Vの酸化物をVに換算して0.05mol%、Siの酸化物をSiOに換算して1.20mol%の組成割合となるよう秤量し、ボールミルで15時間~24時間、湿式混合粉砕して混合物を得た。実施例16では、仮焼粉の平均粒径が115nmであり、焼結体の平均結晶粒子径は251nmであった。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0082】
(比較例4)
比較例4では、BaおよびTiの酸化物をBaTiOに換算して100mol%、Hoの酸化物をHoに換算して3.50mol%、Mnの酸化物をMnOに換算して0.15mol%、Vの酸化物をVに換算して0.05mol%、Siの酸化物をSiOに換算して1.70mol%の組成割合となるよう秤量し、ボールミルで15時間~24時間、湿式混合粉砕して混合物を得た。比較例4では、実施例1と比較して、880℃、20分間の温度保持工程をおこなわず、焼成工程の最高温度から冷却を行なった。その他の条件は、実施例1と同様とした。比較例4では、仮焼粉の平均粒径が253nmであり、焼結体の平均結晶粒子径は302nmであった。
【0083】
(比較例5)
比較例5では、BaおよびTiの酸化物をBaTiOに換算して100mol%、Hoの酸化物をHoに換算して2.50mol%、Zrの酸化物をZrOに換算して0.10mol%、Vの酸化物をVに換算して0.05mol%、Siの酸化物をSiOに換算して1.90mol%の組成割合となるよう秤量し、ボールミルで15時間~24時間、湿式混合粉砕して混合物を得た。比較例5では、実施例1と比較して、880℃、20分間の温度保持工程をおこなわず、焼成工程の最高温度から冷却を行なった。その他の条件は、実施例1と同様とした。比較例5では、仮焼粉の平均粒径が253nmであり、焼結体の平均結晶粒子径は284nmであった。
【0084】
(比較例6)
比較例6では、BaおよびTiの酸化物をBaTiOに換算して100mol%、Yの酸化物をYに換算して1.75mol%、Hoの酸化物をHoに換算して1.75mol%、Mgの酸化物をMgOに換算して0.075mol%、Vの酸化物をVに換算して0.05mol%、Siの酸化物をSiOに換算して1.80mol%の組成割合となるよう秤量し、ボールミルで15時間~24時間、湿式混合粉砕して混合物を得た。比較例6では、実施例1と比較して、880℃、20分間の温度保持工程をおこなわず、焼成工程の最高温度から冷却を行なった。その他の条件は、実施例1と同様とした。比較例6では、仮焼粉の平均粒径が252nmであり、焼結体の平均結晶粒子径は279nmであった。
【0085】
実施例7では、誘電体層11において、全ての結晶粒子14に対してコアシェル粒子30が占める個数の割合は、9.7%であった。実施例8では、当該割合は、18.1%であった。実施例9では、当該割合は、10.2%であった。実施例10では、当該割合は、3.2%であった。実施例11では、当該割合は、7.4%であった。実施例12では、当該割合は、8.5%であった。実施例13では、当該割合は、17.5%であった。実施例14では、当該割合は、8.1%であった。実施例15では、当該割合は、2.2%であった。実施例16では、当該割合は、2.9%であった。比較例4~6では、コアシェル粒子30は生成されなかった。すなわち、比較例4~6は、当該割合は0%であった。表2は、これらの結果を示す。
【表2】
【0086】
(寿命測定試験)
次に、実施例7~16および比較例4~6について、寿命測定試験を行なった。150℃、-240Vの加速条件で、寿命が800min以上となった場合に合格「○」と判定し、寿命が800minを下回った場合に、不合格「×」と判定した。
【0087】
比較例4~6のいずれにおいても、寿命測定試験は不合格「×」と判定された。これは、コアシェル粒子30が誘電体層11内に含まれなかったために、酸素欠陥がトラップされなかったからであると考えられる。一方、実施例7~16のいずれにおいても、寿命測定試験は合格「○」と判定された。これは、コアシェル粒子30が誘電体層11内に含まれ、酸素欠陥がトラップされたからであると考えられる。
【0088】
なお、誘電体層11における全ての結晶粒子14に対してコアシェル粒子30が占める個数の割合が大きくなるほど、寿命が長くなっていることがわかる。特に、寿命を1000min以上とするためには、当該割合が2%以上であることが好ましいことがわかる。
【0089】
(温度変化率)
次に、実施例7~16および比較例4~6について、温度変化率を測定した。25℃の容量を基準としたとき、125℃における容量変化率を測定した。容量変化率が-33%以上であれば、合格と判定した。
【0090】
実施例7~16のいずれにおいても、合格と判定された。これは、誘電体層11におけるコアシェル粒子30の割合が20%以下であったからであると考えられる。
【0091】
以上の結果から、誘電体層11におけるコアシェル粒子30が占める割合は、2%以上、20%以下であることが好ましいことがわかる。より良好な容量変化率と寿命の特性を得るためには、誘電体層11におけるコアシェル粒子30が占める割合は、5%~16%であることが好ましいことがわかる。
【0092】
また、誘電体層11の主成分セラミックを100mol%とした場合に、希土類Reの酸化物がReの酸化物に換算して1.75mol%~3.50mol%添加されていることが好ましいことがわかる。さらに、誘電体層11の主成分セラミックを100mol%とした場合に、Mg、V、Mn、ZrおよびCrの酸化物はMgO、MnO、ZrO、VおよびCrに換算して合計で0.02mol%~2.05mol%添加されていることが好ましいことがわかる。さらに、誘電体層11の主成分セラミックを100mol%とした場合に、Siの酸化物は、SiOに換算して0.25mol%~2.50mol%添加されていることが好ましいことがわかる。
【0093】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0094】
10 積層チップ
11 誘電体層
12 内部電極層
13 カバー層
14 結晶粒子
20a,20b 外部電極
30 コアシェル粒子
31 コア部
32 シェル部
33 対応粒界
100 積層セラミックコンデンサ
図1
図2
図3
図4