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特許7441115タイヤ設計支援方法、システム及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】タイヤ設計支援方法、システム及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   B60C 19/00 20060101AFI20240221BHJP
   G01M 17/02 20060101ALI20240221BHJP
   G06N 20/00 20190101ALI20240221BHJP
   G06F 30/27 20200101ALI20240221BHJP
   G06F 30/10 20200101ALI20240221BHJP
【FI】
B60C19/00 Z
G01M17/02
G06N20/00 130
G06N20/00
G06F30/27
G06F30/10
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020091095
(22)【出願日】2020-05-26
(65)【公開番号】P2021187185
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】余合 勇人
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-287516(JP,A)
【文献】国際公開第94/016877(WO,A1)
【文献】特開2018-147460(JP,A)
【文献】特開2018-195307(JP,A)
【文献】国際公開第2020/044739(WO,A1)
【文献】特開2019-035626(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 19/00
G01M 17/02
G06F 30/27
G06F 30/10
G06N 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1又は複数のプロセッサが実行する方法であって、
(a)タイヤ設計変数の組み合わせを入力としてタイヤ性能値及び接地諸元を出力するように機械学習された予測モデルを用いて、タイヤ設計変数の複数組について、各々の組に対応する前記タイヤ性能値及び接地諸元を予測するステップと、
(b)前記タイヤ設計変数の複数組と対応する予測された前記タイヤ性能値及び接地諸元の中から、予め指定されたタイヤ性能値及び接地諸元の抽出条件に合致するタイヤ設計変数の組み合わせを抽出するステップと、
を含む、タイヤ設計支援方法。
【請求項2】
前記予測モデルは、タイヤ設計変数の組み合わせをタイヤ性能値及び接地諸元に関連付けた、単一のタイヤサイズのみの教師データを用いて機械学習されている、請求項1に記載のタイヤ設計支援方法。
【請求項3】
前記予測モデルは、タイヤ設計変数の組み合わせをタイヤ性能値及び接地諸元に関連付けた、複数のタイヤサイズが含まれる教師データを用いて、前記タイヤ設計変数の組み合わせとタイヤサイズを入力としてタイヤ性能値及び接地諸元を出力するように機械学習されており、
前記(a)において、指定されたタイヤサイズを前記予測モデルへ入力し、前記タイヤ設計変数の各組に対応する前記タイヤ性能値及び接地諸元を予測する、請求項1に記載のタイヤ設計支援方法。
【請求項4】
前記予測モデルは、複数のタイヤ性能値を予測するように構成されており、
前記方法は、
(c)予め指定された少なくとも1つの重みを用いて、前記(b)の抽出結果の前記複数のタイヤ性能値から評価値を算出するステップと、
(d)前記算出した評価値に応じて少なくとも1組の前記タイヤ設計変数の組み合わせを提供するステップと、
を含む、請求項1~3のいずれかに記載のタイヤ設計支援方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の方法を実行する1又は複数のプロセッサを備える、タイヤ設計支援システム。
【請求項6】
請求項1~4のいずれかに記載の方法を1又は複数のプロセッサに実行させる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、タイヤ設計支援方法、システム及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
新たな空気入りタイヤの設計においては、既に販売しているタイヤ等、設計基準となる基準タイヤの目的となるタイヤ性能を更に向上させつつ、基準タイヤの目的以外のタイヤ性能を維持する設計手法がとられることがある。
【0003】
空気入りタイヤではないが、特許文献1には、遠心圧縮機の機械構造と性能を機械学習させ、所望の性能に合致する機械構造を予測することが開示されている。
【0004】
タイヤ設計変数群とタイヤ性能を機械学習させれば、設計変数を入力することでタイヤ性能を予測可能になると考えられる。しかし、基準タイヤからタイヤ設計変数を変更すれば、目的性能以外の性能が大きく変化するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2018/147104号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、目的性能以外のタイヤ性能を維持しつつ且つ目的のタイヤ性能値を達成する設計変数の組み合わせを提示可能なタイヤ設計支援方法、システム及びプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のタイヤ設計支援方法は、1又は複数のプロセッサが実行する方法であって、(a)タイヤ設計変数の組み合わせを入力としてタイヤ性能値及び接地諸元を出力するように機械学習された予測モデルを用いて、タイヤ設計変数の複数組について、各々の組に対応する前記タイヤ性能値及び接地諸元を予測するステップと、(b)前記タイヤ設計変数の複数組と対応する予測された前記タイヤ性能値及び接地諸元の中から、予め指定されたタイヤ性能値及び接地諸元の抽出条件に合致するタイヤ設計変数の組み合わせを抽出するステップと、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態のタイヤ設計支援システムを示すブロック図。
図2】第1実施形態のタイヤ設計支援システムが実行する処理を示すフローチャート。
図3】複数の予測結果を、横軸を損失エネルギー、縦軸をピークμとするグラフにプロットして示す図。
図4】第1実施形態のタイヤ設計支援システムの変形例を示すブロック図。
図5】教師データと予測対象タイヤサイズの関係を示す図。
図6】第2実施形態のタイヤ設計支援システムを示すブロック図。
図7】第2実施形態のタイヤ設計支援システムが実行する処理を示すフローチャート。
図8】第2実施形態のタイヤ設計支援システムが提供する、図3に示した結果から求めたパレート解を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<第1実施形態>
以下、本開示の第1実施形態を、図面を参照して説明する。
【0010】
[タイヤ設計支援システム1]
第1実施形態のタイヤ設計支援システム1は、目的となるタイヤ性能の要求値と、接地諸元とを少なくとも入力とし、入力された条件に合致するタイヤの設計変数の組み合わせを提示する。タイヤ設計支援システム1への入力として、タイヤサイズを加えてもよい。システム1は、機械学習により構築された予測モデル22を用いる。システム1は、予測モデル22を機械学習により構築するためのモデル構築システム2と、構築した予測モデル22を用いてタイヤ性能を予測する予測システム3と、を有する。これら各システム1~3は、プロセッサ1a、メモリ1b、各種インターフェイス等を備えたコンピュータにおいて予め記憶されている図2に示す処理ルーチンをプロセッサ1aが実行することによりソフトウェア及びハードウェアが協働して実現される。本実施形態では、1つの装置におけるプロセッサ1aが各部を実現しているが、これに限定されない。例えば、ネットワークを用いて分散させ、複数のプロセッサが各部の処理を実行するように構成してもよい。すなわち、1又は複数のプロセッサが処理を実行する。
【0011】
接地諸元は、タイヤの接地面形状又は接地圧力を示す値を意味する。接地諸元の具体例としては、例えば、センター部(接地面のタイヤ幅方向中央)とショルダー部(接地面のタイヤ幅方向の最外端である接地端から10mmタイヤ幅方向内側に位置する所定位置)の接地長比、接地長(センター部のみ又はショルダー部のみ)、接地幅、接地面積、平均圧力、平均圧力標準偏差などが挙げられる。
【0012】
接地面形状及び接地圧力は、タイヤを正規リムにリム組みし、正規内圧を充填した状態でタイヤを平坦な路面に垂直に置き、正規荷重を加えたという条件で計測する。正規リムは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤごとに定めるリムであり、例えば、JATMAであれば標準リム、TRA及びETRTOであれば「Measuring Rim」となる。正規内圧は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤごとに定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に記載の最大値、ETRTOであれば「INFLATION PRESSURE」である。なお、タイヤが乗用車用である場合には180kPaとし、さらに、Extra LoadまたはReinforcedと記載されたタイヤである場合には220kPaとする。正規荷重は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤごとに定めている荷重であり、JATMAであれば最大負荷能力、TRAであれば上記の表に記載の最大値、ETRTOであれば「LOAD CAPACITY」であるが、タイヤが乗用車用である場合には内圧の対応荷重の88%とする。
【0013】
なお、実装方法によってモデル構築システム2と、予測システム3とが同じコンピュータシステム上に構築されず、個々に独立して運用することが可能である。すなわち、モデル構築システム2のみを実装してもよく、予測システム3のみを実装してもよい。
【0014】
図1に示すように、タイヤ設計支援システム1は、受付部10と、モデル構築システム2と、予測システム3と、を有する。受付部10は、ユーザから、目的となるタイヤ性能の要求値と、接地諸元とを少なくとも受け付ける。本実施形態では、目的となるタイヤ性能として、第1目的性能と第2目的性能の2種の性能を受け付けている。第1目的性能は、損失エネルギーの要求値であり、第2目的性能は、ピークμ(摩擦係数)の要求値であるが、目的となるタイヤ性能は、その種類が任意に変更可能である。また、本実施形態では、2種のタイヤ性能を探索しているが、少なくとも1種あればその数は、目的に応じて適宜変更可能である。本実施形態では、接地諸元として接地長比(ショルダー部の接地長/センター部の接地長)を用いた。受付部10は、受け付けたデータをメモリ1bに記憶する。
【0015】
受付部10が、更に予測対象タイヤサイズと、教師用タイヤサイズとの少なくとも1つを受け付けるようにしてもよい。タイヤサイズは、タイヤ幅/偏平率/リム径の組み合わせで表す。予測対象タイヤサイズは、実際に性能を知りたいタイヤサイズを示す。教師用タイヤサイズは、教師データに使用するタイヤサイズを示す。例えば、予測タイヤサイズが225/55/R19の場合に、教師用タイヤサイズを同サイズに設定すれば、全サイズを教師データに使用する場合に比べて、学習コスト及び予測精度を向上させることができる。一方、教師用タイヤサイズを指定しなければ、保有する全てのタイヤサイズのデータを教師データに用いるため、学習コストが増大するが、予測タイヤサイズのデータを有さない場合には、未知のタイヤサイズを予測可能となる。図1は、予測タイヤサイズと教師用タイヤサイズに同一サイズを指定した場合で説明する。
【0016】
[モデル構築システム2]
モデル構築システム2は、教師データ生成部20と、学習部21と、を有する。モデル構築システム2は、CAEデータベース4にアクセス可能である。CAEデータベース4は、過去に実施したタイヤのシミュレーションに関するデータが記憶されている。例えば、損失エネルギー、ピークμ、接地形状、接地圧力等の各種の物性値、物性値を算出するためのタイヤモデル(FEMなど)などが含まれる。タイヤモデルは、複数の設計変数を有する。
【0017】
教師データ生成部20は、受付部10が受け付けてメモリ1bに記憶した入力データに基づいて、CAEデータベース4から該当するデータを抽出し、抽出したデータに基づき教師データD1を生成してメモリ1bに記憶する。具体的には、教師用タイヤサイズが指定されている場合に、指定されたタイヤサイズに該当するデータのみを抽出する。教師用タイヤサイズが指定されていない場合には、全てのタイヤサイズが対象となるため、全タイヤサイズのデータを抽出する。
【0018】
機械学習に用いる教師データD1は、予測モデル22への入力としてのタイヤの設計変数の組(本実施形態では設計変数1~6)と、予測モデル22からの出力としての目的のタイヤ性能値(第1目的性能、第2目的性能)とが関連付けられたデータを有する。更に、教師データD1は、予測モデル22への入力としてのタイヤ設計変数の組(設計変数1~6)と、予測モデル22からの出力としての接地諸元とを関連付けたデータを有する。図1に示す教師データD1は、接地諸元、第1目的性能、第2目的性能、及び設計変数の組(設計変数1~6)が一列として関連付けられ、その組み合わせが複数列存在することが理解できるように表形式で表現している。これは、本開示の理解を容易にするための表現であり、実際のデータ形式を示すものではない。
【0019】
本実施形態では、次の設計変数の組を用いているが、これは一例であり、種々変更可能である。例えば、下記では物性値であるが、タイヤ形状(プロファイル)に関するデータ、トレッドパターンに関するデータなどが挙げられる。
設計変数1:トレッドのヤング率[MPa]
設計変数2:ベルトコードの本数[一インチあたりの本数]
設計変数3:ベルトコードのタイヤ周方向に対する角度[度]
設計変数4:プライコードの本数[一インチあたりの本数]
設計変数5:ビードフィラーのヤング率[MPa]
設計変数6:サイドウォールのヤング率[MPa]
【0020】
学習部21は、メモリ1bに記憶されている教師データD1を用いた機械学習により予測モデル22を学習させて構築する。予測モデル22は、教師有りの機械学習モデルであれば、例えば、線形回帰、回帰木、ランダムフォレスト、サポートベクターマシン、ニューラルネットワーク、アンサンブル、クリギング法等の種々のモデルを利用可能である。本実施形態では、全結合層で構成されるディープニューラルネットワークを用いているが、これに限定されない。本実施形態では、設計変数の組を入力として、2種のタイヤ性能値及び接地諸元を予測するため、予測モデル22は、第1モデル22aと、第2モデル22bと、第3モデル22cとを有する。第1モデル22aは、設計変数の組を入力として、接地諸元(接地長比)を出力するように構成されている。第2モデル22bは、設計変数の組を入力として、第1目的性能である損失エネルギーを出力するように構成されている。第3モデル22cは、設計変数の組を入力として、第2目的性能であるピークμを出力するように構成されている。第1モデル22a、第2モデル22b及び第3モデル22cは、それぞれ独立して学習により構築される。学習部21により構築された予測モデル22は、メモリ1bに記憶される。なお、目的性能の種類が1つである場合には、第3モデル22cは省略でき、目的性能の種類の数に応じて第2モデル以降の数が変化する。
【0021】
[予測システム3]
図1に示すように、予測システム3は、設計変数群生成部30と、予測部31と、抽出部32と、を有する。
【0022】
設計変数群生成部30は、予測モデル22に入力するための予測対象の設計変数の組を複数組生成する。各々の設計変数について、予め定められた探索範囲内において所定刻み幅で変化させた設計変数を生成し、複数の設計変数の組み合わせを生成する。探索範囲は、CAEデータベース4から抽出されたデータにおける最大値と最小値を用いることが好ましい。学習範囲内でデータを生成することになるため、予測精度を向上させることが可能となる。具体例は後述する。
【0023】
予測部31は、学習部21が構築した予測モデル22を用いて、設計変数群生成部30が生成した予測対象の設計変数の複数組について、各々の組に対応するタイヤ性能値及び接地諸元を予測する。設計変数の各組を、第1モデル22a、第2モデル22b及び第3モデル22cに入力することにより、第1目的性能、第2目的性能および接地諸元が出力される。
【0024】
抽出部32は、予測部31の予測結果のうち、受付部10を介してユーザにより予め指定されたタイヤ性能値及び接地諸元の抽出条件に合致するタイヤ設計変数の組み合わせを抽出する。ここで、予測部31の予測結果のうち、予め指定されたタイヤ性能値及び接地諸元の抽出条件に合致する結果のみをメモリ1bに記憶することで抽出処理を実現してもよいし、予測部31の予測結果を全てメモリ1bに記憶してから、抽出条件に合致するデータをピックアップすることで抽出処理を実現してもよい。
【0025】
[タイヤ設計支援方法]
図1に示すシステム1における1又は複数のプロセッサが実行する、タイヤ設計支援方法について、図2を用いて説明する。ここでは、実例を用いて説明する。
【0026】
まず、ステップST1において、受付部10は、目的となるタイヤ性能の要求値、接地諸元、予測対象タイヤサイズ及び教師用タイヤサイズを受け付ける。教師用タイヤサイズはユーザが明示しなくてもよい。本実施形態では、第1目的性能である損失エネルギーの要求値として、基準タイヤモデルの損失エネルギーが3827[Nm/sec]であるため、3760[Nm/sec]以下とした。第2目的性能であるピークμの要求値として、基準タイヤモデルのピークμが0.914[単位無]であるため、0.917以上とした。接地長比として、基準モデルの接地長比が0.600であるため、0.600±0.01とした。本実施形態では、予測対象タイヤサイズとして、225/55R19を入力した。教師用タイヤサイズは同サイズである。
【0027】
次のステップST2において、教師データ生成部20は、CAEデータベース4から予め指定された教師用タイヤサイズのデータを取得し、取得したデータに基づき教師データD1を生成し、メモリ1bに記憶する。ここでは、教師用タイヤサイズが(225/55R19)と指定されているので、このサイズのみのデータを取得する。タイヤサイズが単一のために、教師データD1にタイヤサイズが含まれない。予測モデル22がタイヤサイズを区別して学習する必要がないからである。本実施形態では、CAEデータベース4から抽出した件数は12500件であった。このように、単一のタイヤサイズのみの教師データを用いれば、複数のタイヤサイズの教師データを取得して教師データとする場合に比べて、学習コストを低減でき、予測精度を向上させることが可能となる。
なお、教師用タイヤサイズが指定されていない場合には、全てのタイヤサイズのデータを取得する。
【0028】
次のステップST3において、学習部21は、教師データD1を用いて予測モデル22を機械学習させて予測モデル22を構築する。
【0029】
次にステップST4において、設計変数群生成部30は、予測モデル22に入力するための予測対象の設計変数の組を複数組生成する。各々の設計変数について、予め定められた探索範囲内において所定刻み幅で変化させた設計変数を生成する。探索範囲は、CAEデータベース4から抽出されたデータにおける最大値と最小値を用いる。具体的には、次の通りであり、生成した組の数は1300万である。
設計変数1(トレッドのヤング率[MPa])について、基準タイヤが2.6であり、探索範囲は1.8~3.0とし、刻み幅を0.1とした。
設計変数2(ベルトコードの本数[一インチあたりの本数])について、基準タイヤが0.748であり、探索範囲は0.524~0.972であり、刻み幅を0.0448とした。
設計変数3(ベルトコードのタイヤ周方向に対する角度[度])について、基準タイヤが24であり、探索範囲は18~30であり、刻み幅を0.5とした。
設計変数4(プライコードの本数[一インチあたりの本数])について、基準タイヤが0.887であり、探索範囲は0.621~1.020であり、刻み幅を0.0532とした。
設計変数5(ビードフィラーのヤング率[MPa])について、基準タイヤが8であり、探索範囲が4~10であり、刻み幅を0.1とした。
設計変数6(サイドウォールのヤング率[MPa])について、基準タイヤが1.3であり、探索範囲が1.0~2.0であり、刻み幅を0.1とした。
【0030】
次のステップST5において、予測モデル22を用いて、生成したタイヤ設計変数の複数組について、各々の組に対応するタイヤ性能値及び接地諸元を予測する。
【0031】
次のステップST6において、タイヤ設計変数の複数組と対応する予測されたタイヤ性能値及び接地諸元の中から、予め指定されたタイヤ性能値及び接地諸元の抽出条件に合致するタイヤ設計変数の組み合わせを抽出する。ここで、第1目的性能である損失エネルギーの値が3760[Nm/sec]以下であり、第2目的性能であるピークμの値が0.917以上であり、接地長比が0.600±0.01である予測結果を抽出した。27178件抽出した。図3は、複数の予測結果を、横軸を損失エネルギー、縦軸をピークμとするグラフにプロットして示す。なお、基準タイヤもプロットしている。図3に示すように、得られた複数の予測結果は、基準タイヤに比べて、損失エネルギーの低減と、ピークμの向上が実現できている。
【0032】
目的となるタイヤ性能(損失エネルギー、ピークμ)以外の性能については、基準タイヤの接地諸元(接地長比0.600±0.01)とほぼ同じ値を抽出条件としているので、維持できている。タイヤと路面の接触状態は、タイヤの偏摩耗性能、耐久性能、操縦安定性能、ユニフォミティ、ハイドロプレーニング性能などと深く関係しており、タイヤの性能を評価するうえで、非常に重要な特性のひとつである。これらの性能は、接地諸元と相関があり、接地諸元である程度予測できる(維持できる)ためである。それでいて、タイヤの接地解析(接地面形状及び接地圧力)は、計算コストが低く、ビッグデータとしてのCAEデータベースを生成しやすい。一方、目的性能以外のこれらの性能には、計算コストが高く、容易に実施できないものがある(特に摩耗性能等)。したがって、計算コストが高い性能を、計算コストが低い解析結果(接地諸元)で予測(維持)できるメリットがある。
【0033】
<変形例>
図1では、教師用タイヤサイズが指定される場合の構成及び動作について説明しているが、教師用タイヤサイズが指定されず、又は、複数指定される場合には、図4に示すように構成する必要がある。
【0034】
図4に示すように、教師データ生成部20は、教師用タイヤサイズが指定されていない場合には、全てのタイヤサイズを抽出対象とする。教師用タイヤサイズに複数サイズが指定されている場合には、当該指定された複数のタイヤサイズを抽出対象とする。いずれも、教師データD1’は、複数のタイヤサイズが含まれる。図4に示す教師データD1’は、予測モデル22への入力としてのタイヤ設計変数の組(設計変数1~6)及びタイヤサイズと、予測モデル22からの出力としてのタイヤ性能値及び接地諸元とをそれぞれ関連付けたデータを有する。図4に示す教師データD1’は、接地諸元、第1目的性能、第2目的性能、設計変数の組(設計変数1~6)及びタイヤサイズが関連付けられている。
【0035】
図1に示す予測モデル22は、設計変数の組が入力されるが、図4に示す予測モデル22は、設計変数の組とタイヤサイズが入力される。これにより、タイヤサイズを指定して学習又は予測可能となる。
【0036】
図4に示す予測部31は、設計変数群生成部30が生成した設計変数群と、予測対象タイヤサイズとを予測モデル22へ入力し、タイヤ性能値及び接地諸元を予測する。
【0037】
図4に示す構成であれば、図5に示すように、予測対象のタイヤサイズを、幅又は偏平で挟む位置関係に教師データがあれば、未知のタイヤサイズであっても、内挿関係となるので、予測可能となる。
【0038】
<第2実施形態>
第2実施形態について、図6及び図7を用いて説明する。第1実施形態は、条件に合致する設計変数の組を全て提示する。これに対して、第2実施形態は、条件に合致する設計変数の複数組のうち、予め指定された重みに応じて評価値を算出し、評価値に応じて少なくとも1組の設計変数の組み合わせを提示するように構成されている。
【0039】
そのために、図6及び図7のステップST1に示すように、受付部10は、第1目的性能の重みαと第2目的性能の重みβとを受け付ける。ここでは2つの重みを用いているが、重みの数は任意に変更可能である。予測システム3は、更に、評価値算出部33と、提供部34とを有する。評価値算出部33は、予め指定された少なくとも1つの重みを用いて、抽出部32が抽出した抽出結果の複数のタイヤ性能値から評価値を算出する(図7のステップST7参照)。本実施形態では、第1目的性能(損失エネルギー)の値がx1であり、第2目的性能(ピークμ)の値がx2である場合に、評価値は次の式で算出可能である。
評価値=αx1+βx2
【0040】
提供部34は、評価値算出部33が算出した評価値に応じて少なくとも1組のタイヤ設計変数の組み合わせをシステム外部へ提供する(図7のステップST8参照)。ここで、評価値が高い順に少なくとも1組のタイヤ設計変数の組み合わせを出力してもよい。図8は、図3に示した結果から求めたパレート解を示す図である。図3において左上が最も性能がよいが、左上のパレート解として3カ所確認できる。図8は、これら3カ所のパレート解を拡大して示すと共に、目的性能と設計変数の組み合わせを示す図である。図8に示すように、重みαを強くして重みβを弱くすれば、損失エネルギー特化型の設計変数群が得られる。逆に、重みαを弱くして重みβを強くすれば、ピークμ特化型の設計変数群が得られる。重みα,とβを同程度にすれば、2性能の両立解型の設計変数群が得られる。
【0041】
なお、第2実施形態に対して、第1実施形態における変形例を提供可能である。
【0042】
以上のように、第1実施形態又は第2実施形態のタイヤ設計支援方法は、1又は複数のプロセッサが実行する方法であって、(a)タイヤ設計変数の組み合わせを入力としてタイヤ性能値及び接地諸元を出力するように機械学習された予測モデル22を用いて、タイヤ設計変数の複数組について、各々の組に対応するタイヤ性能値及び接地諸元を予測するステップと、(b)タイヤ設計変数の複数組と対応する予測されたタイヤ性能値及び接地諸元の中から、予め指定されたタイヤ性能値及び接地諸元の抽出条件に合致するタイヤ設計変数の組み合わせを抽出するステップと、を含む。
【0043】
第1実施形態又は第2実施形態のタイヤ設計支援システムは、タイヤ設計変数の組み合わせを入力としてタイヤ性能値及び接地諸元を出力するように機械学習された予測モデル22を用いて、タイヤ設計変数の複数組について、各々の組に対応するタイヤ性能値及び接地諸元を予測する予測部31と、タイヤ設計変数の複数組と対応する予測されたタイヤ性能値及び接地諸元の中から、予め指定されたタイヤ性能値及び接地諸元の抽出条件に合致するタイヤ設計変数の組み合わせを抽出する抽出部32と、を備える。
【0044】
このように、目的のタイヤ性能値の抽出条件を指定し、且つ、基準タイヤの接地諸元に応じた所定範囲を接地諸元の抽出条件に指定すれば、基準タイヤの目的性能以外のタイヤ性能が維持され且つ目的のタイヤ性能値を達成する設計変数の組み合わせを抽出可能となる。
【0045】
特に限定されないが、図1に示す実施形態のように、予測モデル22は、タイヤ設計変数の組み合わせをタイヤ性能値及び接地諸元に関連付けた、単一のタイヤサイズのみの教師データD1を用いて機械学習されていてもよい。これによれば、複数のタイヤサイズの教師データを学習する場合に比べて、学習時間コストの削減および予測精度を向上させることが可能となる。
【0046】
特に限定されないが、図4に示す実施形態のように、予測モデル22は、タイヤ設計変数の組み合わせをタイヤ性能値及び接地諸元に関連付けた、複数のタイヤサイズが含まれる教師データD1’を用いて、タイヤ設計変数の組み合わせとタイヤサイズを入力としてタイヤ性能値及び接地諸元を出力するように機械学習されており、(a)において、指定されたタイヤサイズを予測モデルへ入力し、タイヤ設計変数の各組に対応するタイヤ性能値及び接地諸元を予測するようにしてもよい。このようにすれば、予測対象として指定されたタイヤサイズが学習していないタイヤサイズであっても、タイヤ性能を予測可能となる。予測対象として指定されたタイヤサイズが学習しているタイヤサイズである場合には、データ数の多い第1タイヤサイズの教師データを用いた学習結果を、データ数の少ない第2タイヤサイズの学習に利用でき、データ数の少ない指定された第2タイヤサイズでも精度よく予測可能となる場合がある。
【0047】
特に限定されないが、図6~8に示す実施形態のように、予測モデル22は、複数のタイヤ性能値を予測するように構成されており、方法は、(c)予め指定された少なくとも1つの重みを用いて、(b)の抽出結果の前記複数のタイヤ性能値から評価値を算出するステップと、(d)算出した評価値に応じて少なくとも1組の前記タイヤ設計変数の組み合わせを提供するステップと、を含む、ようにしてもよい。このようにすれば、重みに反映された設計思想に基づいて最適な少なくとも1組の設計変数の組み合わせを提供可能となる。
【0048】
本実施形態に係るプログラムは、上記方法をコンピュータに実行させるプログラムである。
これらプログラムを実行することによっても、上記方法の奏する作用効果を得ることが可能となる。
【0049】
以上、本開示の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0050】
上記の各実施形態で採用している構造を他の任意の実施形態に採用することは可能である。各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【0051】
例えば、特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現できる。特許請求の範囲、明細書、および図面中のフローに関して、便宜上「まず」、「次に」等を用いて説明したとしても、この順で実行することが必須であることを意味するものではない。
【0052】
図1図4図6に示す各部は、所定プログラムを1又はプロセッサで実行することで実現しているが、各部を専用メモリや専用回路で構成してもよい。上記実施形態のシステム1は、一つのコンピュータのプロセッサ1aにおいて各部が実装されているが、各部を分散させて、複数のコンピュータやクラウドで実装してもよい。すなわち、上記方法を1又は複数のプロセッサで実行してもよい。
【0053】
システム1は、プロセッサ1aを含む。例えば、プロセッサ1aは、中央処理ユニット(CPU)、マイクロプロセッサ、またはコンピュータ実行可能命令の実行が可能なその他の処理ユニットとすることができる。また、システム1は、システム1のデータを格納するためのメモリ1bを含む。一例では、メモリ1bは、コンピュータ記憶媒体を含み、RAM、ROM、EEPROM、フラッシュメモリまたはその他のメモリ技術、CD-ROM、DVDまたはその他の光ディスクストレージ、磁気カセット、磁気テープ、磁気ディスクストレージまたはその他の磁気記憶デバイス、あるいは所望のデータを格納するために用いることができ、そしてシステム1がアクセスすることができる任意の他の媒体を含む。
【符号の説明】
【0054】
1…タイヤ設計支援システム,10…受付部,2…モデル構築システム,20…教師データ生成部,21…学習部,22…予測モデル,3…予測システム,30…設計変数群生成部,31…予測部,32…抽出部,33…評価値算出部,34…提供部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8