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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】金属加工油剤組成物及び金属加工方法
(51)【国際特許分類】
   C10M 173/00 20060101AFI20240221BHJP
   C10M 145/26 20060101ALN20240221BHJP
   C10M 133/44 20060101ALN20240221BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20240221BHJP
   C10N 30/12 20060101ALN20240221BHJP
   C10N 40/20 20060101ALN20240221BHJP
   C10N 40/22 20060101ALN20240221BHJP
【FI】
C10M173/00
C10M145/26
C10M133/44
C10N30:00 A
C10N30:12
C10N40:20 Z
C10N40:22
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020094949
(22)【出願日】2020-05-29
(65)【公開番号】P2021187963
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2022-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000135265
【氏名又は名称】株式会社ネオス
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】常盤 祐平
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102533418(CN,A)
【文献】特開平08-253789(JP,A)
【文献】特表2012-502121(JP,A)
【文献】特開平02-132136(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106479659(CN,A)
【文献】特表2012-526183(JP,A)
【文献】特開昭63-061092(JP,A)
【文献】特開2015-086428(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
C10N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油を含む油性成分と、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルと、水とを含有してなる水中油型エマルションを含む、銅系金属材又亜鉛系金属材用の金属加工油剤組成物であって、平均油滴径が150nm以上350nm以下であり、
前記金属加工油剤組成物の総量を基準として、
前記油性成分の含有量が55重量%以上95重量%以下であり、
前記ポリオキシアルキレンアルキルエーテルの含有量が0.1重量%以上3.0重量%未満であり、
前記水の含有量が1重量%以上15重量%以下である
金属加工油剤組成物。
【請求項2】
前記ポリオキシアルキレンアルキルエーテルの含有量が、前記油性成分1質量部に対して0質量部超0.15質量部以下である、請求項1に記載の金属加工油剤組成物。
【請求項3】
ベンゾトリアゾールを含有する請求項1又は請求項2に記載の金属加工油剤組成物。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の金属加工油剤組成物を使用して、銅系金属材又亜鉛系金属材を加工する金属加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属加工油剤組成物及び金属加工方法に関する。より詳細には、金属、特に銅系又は亜鉛系金属の溶出を抑制し、防食性に優れた金属加工油剤組成物、及びこの金属加工油剤組成物を用いた金属加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
切削加工や研削加工などの金属加工分野において、水溶性の金属加工油剤組成物が使用されている。水溶性の金属加工油剤組成物は、一般に、基油、界面活性剤、酸化防止剤、水などを目的に応じて配合してなり、例えばクーラント液のように、さらに水に希釈して使用されることも多い。このため、被加工材が腐食しやすいという問題がある。
【0003】
そこで、被加工材の腐食を抑制するために、従来、金属加工油剤組成物には防食剤が配合されている。防食剤は、被加工材の金属がイオンとして金属加工油剤組成物に含まれる水に溶出することを防止する効果がある。特許文献1には、防食成分として、油溶性有機金属塩、ベンゾトリアゾール、有機アミンを含有する防錆剤組成物が開示されている。特許文献1によれば、防錆剤組成物は、油溶性有機金属塩とベンゾトリアゾールとを併用することで、ベンゾトリアゾールと金属との錯体形成による強固な結合を維持しつつ、油溶性有機金属塩の多重防錆層を形成することが可能となり、水希釈液中における防錆剤の含有量が極く少量であっても、優れた防食性能が発揮される。そして、特許文献1の防錆剤組成物は、アルミニウム純度の高いアルミニウム合金のみならず、銅を多く含むアルミダイカストのようなアルミニウム合金に対しても極めて安定した防食性能を発揮しうることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6286642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の通り、ベンゾトリアゾールは防食剤として用いられているが、防食効果を示すのは特定の金属材に限られており、特に真鍮に対しては防食効果を十分に示さないという問題がある。
【0006】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、金属の溶出を抑制し、防食性に優れた金属加工油剤組成物、及びこの金属加工油剤組成物を用いた金属加工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、金属加工油剤組成物における平均油滴径を特定の範囲内に調整することで、金属加工油剤組成物又は金属加工油剤組成物の希釈液中への銅の溶出を抑制し得ることを見出した。本発明は、このような知見に基づき完成された発明である。
【0008】
すなわち、本発明の一態様に係る金属加工油剤組成物は、油性成分と、水とを含有してなる水中油型エマルションを含む金属加工油剤組成物であって、平均油滴径が90nm以上350nm以下である。
【0009】
上述の金属加工油剤組成物において、前記平均油滴径を調整する界面活性剤を含有してもよい。
【0010】
上述の金属加工油剤組成物において、前記界面活性剤が、ノニオン界面活性剤であってもよい。
【0011】
上述の金属加工油剤組成物において、ベンゾトリアゾールを含有してもよい。
【0012】
本発明の一態様に係る金属加工方法は、上述のいずれかの金属加工油剤組成物を使用して、金属材を加工する。
【0013】
上述の金属加工方法において、前記金属材が、銅系金属材又亜鉛系金属材であってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、金属の溶出を抑制し、防食性に優れた金属加工油剤組成物、及びこの金属加工油剤組成物を用いた金属加工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】銅の溶出量と平均油滴径との関係を示すグラフである。
図2】亜鉛の溶出量と平均油滴径との関係を示すグラフである。
図3】銅の溶出量と平均油滴径との関係を示すグラフである。
図4】亜鉛の溶出量と平均油滴径との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0017】
本明細書中、特に記載が無い限り、含有割合又は配合割合の単位「%」は、「重量%」を意味する。
【0018】
1.金属加工油剤組成物
本発明の金属加工油剤組成物は、油性成分と、水とを含有してなる水中油型エマルションを含み、平均油滴径が90nm以上350nm以下である。
以下、金属加工油剤組成物の組成について具体的に説明する。
【0019】
本発明において、油性成分は、基油を含む。基油は、天然品でもよく、合成品でもよい。基油としては、例えば、鉱物油、植物油、脂肪酸エステル類等が挙げられる。中でも鉱物油が好ましい。基油は1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。油性成分は、基油に加えて、例えば、脂肪酸類、脂肪酸縮合物質類等を含んでもよい。
【0020】
本発明の金属加工油剤組成物における油性成分の含有割合については、油性成分の種類、他の配合成分の種類や含有割合等に応じて適宜設定できる。例えば、油性成分の含有割合は、金属加工油剤組成物の総量を基準として、油性成分の総量を55%以上95%以下とすることが好ましい。この場合、目的とする油滴径範囲のエマルション粒子を容易に形成でき、金属の溶出を効果的に抑制できる。油性成分の総量の下限は、より好ましくは60%、さらに好ましくは65%である。油性成分の総量の上限は、より好ましくは90%、さらに好ましくは85%である。
【0021】
本発明において、金属加工油剤組成物は、水を含む。使用する水は、水道水、工業用水、イオン交換水、蒸留水等いずれでもよく、その水は硬水であるか軟水であるかを問わない。本発明の金属加工油剤組成物における水の含有割合については、通常、金属加工油剤組成物の総量を基準として、水の総量を1%以上15%以下とすることができる。
【0022】
本発明において、金属加工油剤組成物は、さらに界面活性剤を含有することが好ましい。界面活性剤は、金属加工油剤組成物の油滴径を調整するものとして機能する。本発明において、界面活性剤は、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤等を用いることができる。中でも、ノニオン界面活性剤を用いるのが好ましい。界面活性剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0023】
ノニオン界面活性剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル等が挙げられる。中でも、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルが好ましい。ポリオキシアルキレンアルキルエーテルとしては、例えば、ポリオキシアルキレンオレイルセチルエーテル、ポリオキシアルキレンラウリルエーテル等が挙げられる。ポリオキシアルキレンラウリルエーテルとしては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテルが挙げられる。
【0024】
本発明の金属加工油剤組成物における界面活性剤の含有割合については、界面活性剤の種類、他の配合成分の種類や含有割合等に応じて適宜設定できる。例えば、界面活性剤の含有割合は、金属加工油剤組成物の総量を基準として、界面活性剤の総量を0%以上9.0%以下とすることが好ましい。この場合、目的とする油滴径範囲のエマルション粒子を容易に形成でき、銅の溶出抑制効果に優れ、且つ金属加工油剤組成物の安定性を向上させる。界面活性剤の総量の下限は、より好ましくは0.1%、さらに好ましくは0.5%である。界面活性剤の総量の上限は、より好ましくは7.0%、さらに好ましくは5.0%である。
【0025】
本発明の金属加工油剤組成物において、油性成分に対する界面活性剤の含有割合については、特に限定的ではないが、油性成分の総量1質量部に対して、界面活性剤が総量で0質量部以上0.15質量部以下とすることが好ましい。この場合、目的とする油滴径範囲のエマルション粒子を容易に形成でき、金属の溶出抑制効果に優れるとともに、油性成分の分散安定性を向上させる。界面活性剤の総量の下限は、より好ましくは0.01質量部、さらに好ましくは0.02質量部である。界面活性剤の総量の上限は、より好ましくは0.13質量部、さらに好ましくは0.10質量部である。
【0026】
本発明の金属加工油剤組成物は、上述したように金属加工油剤組成物の平均油滴径が90nm以上350nm以下である。金属加工油剤組成物の平均油滴径が上記の範囲内である場合、金属加工油剤組成物又は金属加工油剤組成物の希釈液中への金属(被加工材)の溶出を抑制する効果が顕著に発揮され、優れた防食効果を発揮することができ、且つ油性成分の分散安定性を向上させる。さらには、金属加工油剤組成物の変色を防止することができる。平均油滴径の下限は、より好ましくは150nm、さらに好ましくは160nmである。平均油滴径の上限は、300nm、250nm、200nm、180nmの順に好ましい。
【0027】
本発明の金属加工油剤組成物は、上記の油性成分、水、及び界面活性剤を混合、攪拌し、金属加工油剤組成物の平均油滴径が上記の範囲となるよう水中油型エマルションを調製することによって得ることができる。
【0028】
本発明の金属加工油剤組成物は、上記の油性成分と、水とを含有し、且つ平均油滴径が上記の範囲内にあるという条件を満足することが必要であり、この条件を満足する限りにおいて、必要に応じて、その他の各種添加物を含有することができる。
【0029】
例えば、本発明の金属加工油剤組成物は、上記の成分に加えて、さらに、酸化防止剤、防錆剤、防食剤、防腐剤、消泡剤、及び極圧添加剤等を含有することができる。
【0030】
酸化防止剤としては、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、ジアリルジチオリン酸亜鉛、有機硫化物等が挙げられる。酸化防止剤は1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。酸化防止剤を含む場合、その含有量は、金属加工油剤組成物の総量を基準として、酸化防止剤の総量を通常1%以上10%以下とすることができる。
【0031】
防錆剤としては、有機アミン、炭素数6~36の脂肪族モノカルボン酸及びジカルボン酸とそのアミド、炭素数6~36のアルケニルコハク酸とそのアミド、芳香族カルボン酸、ベンゾトリアゾール等が挙げられる。防錆剤は1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。防錆剤を含む場合、その含有量は、金属加工油剤組成物の総量を基準として、防錆剤の総量を通常0.01%以上3%以下とすることができる。なお、本発明の金属加工油剤組成物は、防錆剤としてベンゾトリアゾールを使用し得るが、ベンゾトリアゾールを含まない場合であっても、平均油滴径を上記の範囲内に調整することで金属の水中への溶出を抑制し、防錆(防食)性を向上させるものである。
【0032】
防食剤としては、リン酸エステル、アルキルホスホン酸、メタ珪酸ソーダ等が挙げられる。防食剤は1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。防食剤を含む場合、その含有量は、金属加工油剤組成物の総量を基準として、防食剤の総量を通常0.01%以上3%以下とすることができる。
【0033】
防腐剤としては、トリアジン系化合物、チアゾリン系化合物、フェノール系化合物等が挙げられる。防腐剤は1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。防腐剤を含む場合、その含有量は、金属加工油剤組成物の総量を基準として、防腐剤の総量を通常0.001%以上3%以下とすることができる。
【0034】
消泡剤としては、分子量100~1,000のポリオルガノシロキサン等が挙げられる。消泡剤は1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。消泡剤を含む場合、その含有量は、金属加工油剤組成物の総量を基準として、消泡剤の総量を通常0.001%以上1%以下とすることができる。
【0035】
極圧添加剤としては、鉛石鹸、硫化脂肪酸等の硫黄化合物、塩素化パラフィン等の塩素化合物、リン化合物等が挙げられる。極圧添加剤は1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0036】
本発明の金属加工油剤組成物は水溶性状であり、そのまま金属材の加工に使用できる。また、本発明の金属加工油剤組成物を原液とし、さらに水等の希釈剤で希釈して得られるクーラント(冷却剤)として金属材の加工に使用することもできる。
【0037】
本発明の金属加工油剤組成物を希釈剤で希釈して使用する場合、希釈倍率は、金属加工油剤組成物の組成及び金属加工時に求められる性能に応じて適宜調整すればよい。希釈して使用する場合は、通常1.5倍以上100倍以下に希釈して使用する。本発明の効果をより一層高め、加工特性を向上させるという観点から、好ましくは5倍以上50倍以下、より好ましくは10倍以上30倍以下である。
【0038】
使用時における本発明の金属加工油剤組成物のpHは、8.0以上9.0以下であることが好ましく、より好ましくは8.2以上8.8以下である。金属加工油剤組成物の水希釈液のpHが前記範囲であると、金属の溶出抑制効果に優れ、防食性を向上させると共に、水希釈液の腐敗を効果的に防止する。
【0039】
本発明の金属加工油剤組成物は、金属材の切削、研削、研磨及び切断等の加工に利用することができる。加工対象とする金属の種類は、金属加工の対象となる金属であれば特に限定されない。例えば、インコネル、チタン、チタン合金、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金、銅、銅合金等の非鉄金属及びその合金を加工対象とすることができる。特に、腐食され易く、従来の防食剤や防錆剤による防食効果が低い真鍮等の、銅系金属、亜鉛系金属やその合金に本発明の金属加工油剤組成物を適用した場合、良好に金属の溶出抑制効果が発揮される。
【0040】
2.金属加工方法
本発明の金属加工方法は、本発明の金属加工油剤組成物を用いて金属材を加工する。金属材の加工としては、切削、研削、研磨及び切断が挙げられる。金属加工油剤組成物を加工点に例えば液体状または霧状で供給した場合、金属加工油剤組成物中への金属材の溶出抑制効果を発揮し、防食性を向上させることができる。
【0041】
加工対象とする金属の種類は、金属加工の対象となる金属であれば特に限定されず、例えば上述した金属等が挙げられる。特に、腐食され易く、従来の防食剤や防錆剤による防食効果が低い真鍮等の、銅系金属、亜鉛系金属やその合金に本発明の金属加工方法を適用した場合、良好に金属の溶出抑制効果が発揮されるため好ましい。
【実施例
【0042】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づいて更に具体的に説明するが、本発明はそれら実施例に限定されることは意図しない。なお、実施例1~5及び13~17は参考例である。
【0043】
1.金属加工油剤組成物(1)
[実施例1]
<金属加工油剤組成物の調製>
下記表1に示す組成及び下記表2に示す界面活性剤の組成に従い、実施例1の金属加工油剤組成物を調製した。
本実施例で用いた表2に示される界面活性剤の詳細は以下のとおりである。
・ノニオン1:ポリオキシアルキレンオレイルセチルエーテル
・ノニオン2:ポリオキシアルキレンラウリルエーテル
金属加工油剤組成物の調製方法に特に制限はなく、室温下、各成分を順次投入し、一般的な撹拌方法で適切に撹拌することで調製した。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
[実施例2~12]
界面活性剤の配合比率を表2に示す通りとしたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2~12の金属加工油剤組成物を調製した。
【0047】
[比較例1~2]
界面活性剤の配合比率を表2に示す通りとしたこと以外は実施例1と同様にして、比較例1~2の金属加工油剤組成物を調製した。
【0048】
<油滴径の測定>
調製後の各試験液について、金属加工油剤組成物の平均油滴径を測定した。平均油滴径の測定は、動的光散乱(光子相関法)による粒子径測定装置(「ELSZ-1000 」(大塚電子株式会社製))を用いて行った。実施例1~12及び比較例1~2の測定結果を上記表2に併記する。
【0049】
<金属溶出抑制試験>
試験液として、上記表1の試料原液を水で5%に希釈したものを用いた。上記実施例及び比較例の各水希釈液40g中に、真鍮の研削粉10gを添加し、50℃下で一週間静置後、ろ紙を用いてろ過し、ろ液中の銅及び亜鉛濃度をそれぞれ原子吸光光度計により測定し、このろ液中の銅及び亜鉛濃度(mg/L)を、それぞれ銅及び亜鉛の溶出量(mg/L)とした。溶出量の測定は、原子吸光法による原子吸光分光光度計(「AA240FS 」(アジレント・テクノロジー社製))を用いて行った。実施例1~12及び比較例1~2試験結果を上記表2の右側に示す。
表2に基づいて図1及び図2を作成する。図1は、銅の溶出量と平均油滴径との関係を示すグラフである。図1の縦軸は銅の溶出量(単位はmg/L)を、横軸は平均油滴径(単位はnm)を示す。図2は、亜鉛の溶出量と平均油滴径との関係を示すグラフである。図2の縦軸は亜鉛の溶出量(単位はmg/L)を、横軸は平均油滴径(単位はnm)を示す。
【0050】
上記表2、図1及び図2から明らかなように、油性成分及び水を含有し、金属加工油剤組成物の平均油滴径が90nm以上350nm以下の範囲内にある実施例1~12の試験液において、金属加工油剤組成物の希釈液中への銅及び亜鉛それぞれの溶出量が抑制されている。これに対して、金属加工油剤組成物の平均油滴径が90nm以上350nm以下の範囲外にある比較例1~2の試験液においては、銅及び亜鉛それぞれの溶出抑制効果が十分に得られない。表2から明らかなように、平均油滴径の範囲が90nm以上350nm以下の範囲内において金属の溶出が効果的に抑制されており、平均油滴径の下限は、150nm、160nmの順に好ましい。さらに、水中油型エマルションの安定性の観点から、平均油滴径の上限は、300nm、250nm、200nm、180nmの順に好ましい。
【0051】
また、図1及び図2から明らかなように、平均油滴径が増加すると、銅及び亜鉛それぞれの溶出量が減少している。例えば、図1において、平均油滴径が90nm以上であれば、銅の溶出量が25mg/L以下に低減され、平均油滴径が150nm以上であれば、銅の溶出量が20mg/L以下に低減される。特に、平均油滴径が270nm以上350nm以下の範囲内において、銅及び亜鉛の両方の溶出が良好に抑制されている。
【0052】
2.金属加工油剤組成物(2)
[実施例13~21、比較例3]
金属加工油剤組成物(2)は、防錆剤としてベンゾトリアゾールを配合したこと以外は、金属加工油剤組成物(1)と同様の組成を有する。実施例1と同様にして、上記表1に示す組成と、下記表3に示す界面活性剤及びベンゾトリアゾールの組成とに従い、実施例13~21及び比較例3の金属加工油剤組成物を調製した。調製後の各試験液について、金属加工油剤組成物の平均油滴径を測定した。実施例13~21及び比較例3の測定結果を下記表3に併記する。
【0053】
【表3】
【0054】
実施例1と同様にして、銅及び亜鉛の溶出量をそれぞれ測定した。実施例13~21及び比較例3の試験結果を上記表3の右側に示す。表3に基づいて図3及び図4を作成する。図3は、銅の溶出量と平均油滴径との関係を示すグラフである。図4は、亜鉛の溶出量と平均油滴径との関係を示すグラフである。上記表3、図3及び図4からから明らかなように、平均油滴径の範囲が90nm以上180nm以下の範囲内において、金属加工油剤組成物の希釈液中への金属の溶出が効果的に抑制されおり、平均油滴径の下限は、120nm、150nmの順に好ましい。さらに、水中油型エマルションの安定性の観点から、平均油滴径の上限は350nmが好ましい。
【0055】
また、実施例13~21においても、上記と同様に、金属加工油剤組成物の平均油滴径が増加すると、銅及び亜鉛の溶出量が減少している。特に、平均油滴径が150nm以上180nm以下の範囲内において、銅及び亜鉛の両方の溶出が良好に抑制されている。従って、金属加工油剤組成物は、ベンゾトリアゾールを含む場合においても、平均油滴径を調整することで効果的に金属の溶出抑制効果を発揮することがわかる。
【0056】
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって、制限的なものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれる。
図1
図2
図3
図4