(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】土砂の排水特性評価方法
(51)【国際特許分類】
C02F 11/147 20190101AFI20240221BHJP
B01D 21/01 20060101ALI20240221BHJP
【FI】
C02F11/147 ZAB
B01D21/01 105
(21)【出願番号】P 2020103251
(22)【出願日】2020-06-15
【審査請求日】2023-03-02
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 地盤工学会発行、第54回地盤工学研究発表会予稿集(1033:高分子ポリマー添加による汚染浚渫土の脱水促進効果)、掲載アドレス(https://onsite.gakkai-web.net/jgs/contents/index.html)、掲載日2019年6月21日 第54回地盤工学研究発表会(1033:高分子ポリマー添加による汚染浚渫土の脱水促進効果)、開催場所:大宮ソニックシティビル(埼玉県さいたま市大宮区桜木町1-7-5)、開催日2019年7月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219406
【氏名又は名称】東亜建設工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】淺井 貴恵
(72)【発明者】
【氏名】三枝 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】玉上 和範
(72)【発明者】
【氏名】末岡 一男
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-165198(JP,A)
【文献】特開2017-080679(JP,A)
【文献】特開平01-085200(JP,A)
【文献】特開平01-090100(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 11/00-11/20
B01D 21/00-21/34
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原土砂の塑性指数を、前記原土砂に含まれる2μm以上5μm以下の範囲で設定した所定値以下の粒径の粘土含有率で除して算出される前記原土砂の活性度の大きさに基づいて、前記原土砂に所定の配合割合で高分子凝集剤が混合されて製造される処理土砂の
製造された時点から48時間を超えない製造初期の期間での排水特性を評価する
に際して、
前記排水特性の評価指標は、前記処理土砂および前記高分子凝集剤が混合されていない前記原土砂の予め設定された所定条件下での排水量の経時変化データに対して双曲線近似によってそれぞれ前記土砂の最終排水量を推定して、排水の開始時点から前記最終排水量の所定割合の中間排水量に到達する時点までの中間経過時間によって前記中間排水量を除してそれぞれの前記土砂の初期排水勾配を算出し、前記原土砂の前記初期排水勾配に対する前記処理土砂の前記初期排水勾配の比率として算出する評価勾配比率の大きさとすることを特徴とする土砂の排水特性評価方法。
【請求項2】
前記所定条件として、前記処理土砂および前記原土砂に載荷する載荷応力を複数水準に異ならせる
請求項1に記載の土砂の排水特性評価方法。
【請求項3】
前記最終排水量に基づいて前記処理土砂の最終含水比を算出し、前記処理土砂の当初含水比から前記最終含水比を差し引いて含水比変化値を算出し、この含水比変化値の前記載荷応力に対する変化具合の大きさに基づいて、前記排水特性の前記載荷応力による影響度を評価する
請求項2に記載の土砂の排水特性評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土砂の排水特性評価方法に関し、さらに詳しくは、原土砂に高分子凝集剤が混合された処理土砂の排水特性を簡便により精度よく評価できる土砂の排水特性評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
浚渫土などの水分を多量に含んだ土砂に対して、改質剤として高分子凝集剤を混合して流動性を低下させて、搬送作業などでの取扱性を向上させることがある。このように高分子凝集剤は原土砂の保水性を高める効果に注目されて使用されている。
【0003】
土砂に所定の配合割合の高分子凝集剤を混合して改質することにより、土砂の排水効率を高める方法も提案されている(例えば、特許文献1参照)。ところが、様々な種類(特性)の土砂、高分子凝集剤が存在しているため、単純に改質剤の混合割合を考慮しただけでは、様々な土砂に対して高分子凝集剤を混合した際の排水効率の向上具合を精度よく評価することは難しい。それ故、高分子凝集剤が混合された処理土砂の排水特性を簡便により精度よく評価するには改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、原土砂に高分子凝集剤が混合された処理土砂の排水特性を簡便により精度よく評価できる土砂の排水特性評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明の土砂の排水特性評価方法は、原土砂の塑性指数を、前記原土砂に含まれる2μm以上5μm以下の範囲で設定した所定値以下の粒径の粘土含有率で除して算出される前記原土砂の活性度の大きさに基づいて、前記原土砂に所定の配合割合で高分子凝集剤が混合されて製造される処理土砂の製造された時点から48時間を超えない製造初期の期間での排水特性を評価するに際して、前記排水特性の評価指標は、前記処理土砂および前記高分子凝集剤が混合されていない前記原土砂の予め設定された所定条件下での排水量の経時変化データに対して双曲線近似によってそれぞれ前記土砂の最終排水量を推定して、排水の開始時点から前記最終排水量の所定割合の中間排水量に到達する時点までの中間経過時間によって前記中間排水量を除してそれぞれの前記土砂の初期排水勾配を算出し、前記原土砂の前記初期排水勾配に対する前記処理土砂の前記初期排水勾配の比率として算出する評価勾配比率の大きさとすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、原土砂の前記活性度に注目することで、原土砂に所定の配合割合で高分子凝集剤が混合されて製造される処理土砂の排水特性、特に、製造初期の期間での排水特性を、様々な種類の原土砂を用いる場合にも、簡便により精度よく評価することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】原土砂と、原土砂に所定の配合割合で高分子凝集剤を混合して製造した処理土砂の所定条件下での排水量の経時変化データを例示するグラフ図である。
【
図2】
図1の処理土砂の製造初期の期間における排水量の経時変化データを拡大して例示するグラフ図である。
【
図4】土砂の予め設定された所定条件下での排水量の経時変化データと、経時変化データから算出した土砂の初期排水勾配を例示するグラフ図である。
【
図5】原土砂の活性度と原土砂に高分子凝集剤が混合された処理土砂の評価勾配比率との関係を例示するグラフ図である。
【
図6】処理土砂に対する載荷応力と処理土砂の含水比変化値との関係を例示するグラフ図である。
【
図7】原土砂の活性度と、処理土砂の含水比変化値の載荷応力に対する変化具合の大きさとの関係を例示するグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の土砂の排水特性評価方法を図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0010】
本発明は、原土砂に所定の配合割合で高分子凝集剤が混合されて製造される処理土砂の製造初期の期間での排水特性を評価する方法である。原土砂に混合する高分子凝集剤の所定の配合割合は、高分子凝集剤の種類などによって異なるが、例えば、原土砂1m3当たり0.1kg~20kg程度である。
【0011】
高分子凝集剤は一般的に、保水性を高める効果に注目されて、浚渫土などの水分を多量に含んだ土砂の流動性を低下させる改質剤や水処理の凝集剤として使用されている。原土砂に高分子凝集剤を所定の配合割合で混合すると、高分子凝集剤による凝集作用によって多数のフロックが形成され、フロックを形成する土粒子間に土中の水分の一部が保持された状態となり、原土砂よりも流動性が低下した処理土砂となる。フロックを形成する土粒子間に取り込まれなかった土中の残りの水分は遊離水(自由水)となる。高分子凝集剤として、例えば、アニオン系ポリマーや、カチオン系ポリマー、ノニオン系ポリマー、両性系ポリマーなどの有機系の高分子ポリマーや、ポリ塩化アルミニウム(PAC)等の無機系凝集剤を用いることができる。より詳しくは、高分子凝集剤として、水分中で多価のプラスイオンや金属イオンを有するもの、具体的には、ポリ塩化アルミニウムや、硫酸バンド(硫酸アルミニウム)、ポリ硫酸第二鉄、ミョウバン等を用いることができる。或いは、高分子凝集剤として、ポリアクリル酸塩を主成分とした改質剤や、ヘキサメタリン酸ナトリウム等を用いることもできる。
【0012】
図1は、高分子凝集剤が混合されていない原土砂と、原土砂に所定の配合割合で高分子凝集剤を混合して製造された処理土砂のそれぞれの排水量の経時変化データを示している。図中のRは、原土砂のデータを示している。Xは、原土砂に所定の配合割合(1m
3当たり3kg)のアニオン系ポリマーを混合して製造された処理土砂のデータを示している。Yは、原土砂に所定の配合割合(1m
3当たり10kg)のカチオン系ポリマーと、所定の配合割合(1m
3当たり2.5kg)のポリ塩化アルミニウム(PAC)を混合して製造された処理土砂のデータを示している。それぞれの高分子凝集剤は土砂の改質剤や水処理の凝集剤として使用されるものである。
【0013】
カチオン系ポリマーなどの特定の高分子凝集剤を使用する場合には、必要に応じてポリ塩化アルミニウム(PAC)が混合される。ポリ塩化アルミニウムは水中のアルカリ分と反応してプラスの電荷を帯びた水酸化アルミニウムを生成し、土粒子のマイナスの電荷を中和することで、フロックの形成を促進する機能を有している。カチオン系ポリマーなどの特定の高分子凝集剤を使用する場合には、ポリ塩化アルミニウムを混合することで処理土砂の排水性が向上する。それぞれの排水量データは、
図3に例示する載荷機構4と上部の排水管3を取り除いた排水試験装置1を用いて、土砂の自重によって排水された水量を測定した。
【0014】
図1に示すように、いずれの土砂も、単位時間当りの排水量が経時的に低下するが、最終的な排水量は原土砂(データR)が最大になる。したがって、高分子凝集剤によって土砂の保水性が高まって、処理土砂(データX、Y)の最終的な排水量が抑制されることが分かる。ここで、
図1の経過時間の初期の期間における排水量の経時変化データに注目すると
図2に示すとおりであった。
図2に示すように、処理土砂の製造初期の期間では、
図1の最終的な排水量とは異なり、原土砂よりも処理土砂の排水性が向上する場合がある。
図2では、処理土砂が製造された時点から3時間までのデータを示しているが、この製造初期の期間は例えば、製造時から48時間を超えない期間程度であり、24時間を超えない期間、さらには6時間を超えない期間であると、この排水特性が顕著である。そこで、本発明はこの点に着目して創作されている。
【0015】
図3に示すように、本発明者らは、排水試験装置1と様々な種類の土砂を使用して、それぞれの原土砂と、それぞれの原土砂に所定の配合割合で高分子凝集剤を混合して製造した処理土砂の排水試験を行った。排水試験装置1は、土砂S(原土砂または処理土砂)が収容される有底筒状の収容容器2と、土砂Sから排出された水Wを収容容器2の外部に排出する上部および下部の排水管3と、土砂Sに載荷応力を作用させる載荷機構4と、排水管3から排出された水Wを貯留する貯水部5とを有している。収容容器2の内部に土砂Sを収容し、載荷機構4により土砂Sに載荷応力を作用させた場合と、載荷機構4と上部の排水管3を取り外して土砂Sに載荷応力を作用させない場合について、それぞれ排水量を測定した。そして、原土砂のコンシステンシーを示す様々な指標と処理土砂の排水特性との関係性の分析を行った。
【0016】
その結果、原土砂の活性度に注目してデータを整理すると、原土砂の活性度と、その原土砂から製造される処理土砂の製造初期の期間での排水特性との相関が高いことが分かった。そこで、本発明では、原土砂の活性度の大きさに基づいて、原土砂に所定の配合割合で高分子凝集剤が混合されて製造される処理土砂の製造初期の期間での排水特性を評価する。
【0017】
活性度は土粒子どうしの化学的な結合の強さを示す指標であり、原土砂の塑性指数を、その原土砂に含まれる所定値以下の粒径の粘土含有量(%)で除した値である。前述した所定値は一般的に2μmと定義されており、この実施形態では、所定値を2μmとしている。塑性指数は、液性限界と塑性限界との差であり、例えば、JIS A 1205に規定されている土の液性限界・塑性限界試験を行うことで把握できる。原土砂に含まれる所定値以下の粒径の粘土含有量は、例えば、JIS A 1204に規定されている土の粒度試験方法を行うことで把握できる。原土砂を構成する粘土母材が同じ種類であれば原土砂の活性度はほぼ同じ値となる。尚、前述した所定値は、2μm~5μm程度であればよく、この範囲であれば所定値を2μmとした場合と同等に活性度の指標として用いることができる。
【0018】
以下に、原土砂の活性度と、その原土砂から製造される処理土砂の製造初期の期間での排水特性との相関を示すデータの具体例を説明する。
【0019】
排水試験装置1を使用して、複数種類の原土砂と、それぞれの原土砂から製造した処理土砂の排水試験を行い、
図4に例示するように、原土砂と処理土砂の予め設定された所定条件下(土砂に対する載荷応力の有無)での排水量の経時変化データをそれぞれ作成した。そして、排水量の経時変化データに対して双曲線近似によってそれぞれの土砂(原土砂、処理土砂)の最終排水量を推定した。
【0020】
図4に例示するように、原土砂と処理土砂のいずれにおいても、土砂の排水の開始時点(t=0)から概ね6時間を超えない期間は単位時間当たりの排水量が多く、排水の開始時点から概ね6時間を超えると時間が経過するにつれて単位時間当たりの排水量が徐々に減少する。そして、排水の開始時点から概ね20時間を超えると、単位時間当たりの排水量は大幅に減少し、やがて最終排水量W
fを迎える。それ故、排水の開始時点から20時間程度までの排水量の経時変化データを取得すれば、双曲線近似により土砂(原土砂、処理土砂)の最終排水量W
fを推定することが可能である。
【0021】
図4の一点鎖線で示すように、本発明では、土砂(原土砂、処理土砂)の最終排水量W
fの所定割合を中間排水量W
mとし、土砂の排水の開始時点から中間排水量W
mに到達する時点までの経過時間を中間経過時間t
mとする。そして、中間経過時間t
mによって中間排水量W
mを除した値を初期排水勾配E
d(=W
m/t
m)とする。即ち、排水の開始時点を示すグラフの原点(0,0)と、グラフ上の中間排水量W
mに対応する点P(t
m,W
m)を通る割線の勾配が初期排水勾配E
dである。
【0022】
この実施形態では、土砂の最終排水量Wfの5割を中間排水量Wm(=Wf/2)としている。中間排水量Wmは、例えば、最終排水量Wfの3割以上7割以下の範囲内で適宜設定する。初期排水勾配Edの大きさは、土砂の排水の開始時点から中間排水量Wmに到達する時点までの排水のし易さを示し、初期排水勾配Edが大きいほど排水の初期の期間での土砂の排水効率が高いことを示している。
【0023】
図5は、原土砂の活性度と、その原土砂から製造した処理土砂の評価勾配比率との関係をグラフ化したデータである。図中のXは、既述した所定の配合割合で原土砂にアニオン系ポリマーを混合して製造した処理土砂のデータを示し、Yは、既述した所定の配合割合で原土砂にカチオン系ポリマーとポリ塩化アルミニウム(PAC)を混合して製造した処理土砂のデータを示している。
【0024】
前述した処理土砂の評価勾配比率は、原土砂の初期排水勾配E
dに対する処理土砂の初期排水勾配E
dの比率である。つまり、評価勾配比率は、処理土砂の初期排水勾配E
dを原土砂の初期排水勾配E
dで除した値である。評価勾配比率が1より大きい場合には原土砂に高分子凝集剤を混合することによる排水促進効果があり、評価勾配比率の値が大きいほど高分子凝集剤を混合することによる排水促進効果が大きいことを示している。評価勾配比率が1以下の場合には原土砂に高分子凝集剤を混合することによる排水促進効果がないことを示している。
図5では、処理土砂および原土砂に載荷する載荷応力を複数水準に異ならせた場合(載荷応力の大きさを0kPa、10kPa、20kPa、30kPaとした場合)についてそれぞれデータを示している。載荷応力は、土砂に作用させる載荷力を載荷面積で除して算出される。
【0025】
図5のデータから分かるように、評価勾配比率は原土砂の活性度と相関性を有しており、原土砂の活性度が大きいほど評価勾配比率が高くなり、高分子凝集剤を混合することによる排水促進効果は大きくなる。特に、活性度が大きい原土砂にカチオン系ポリマーを混合すると、処理土砂の製造初期の期間での排水促進効果が大幅に増大することが分かる。
【0026】
図6は、処理土砂に対する載荷応力(kN/m
2)と、処理土砂の含水比変化値との関係をグラフ化したものである。含水比変化値は、処理土砂の当初含水比(初期含水比)から、処理土砂の最終排水量W
fに基づいて算出した最終含水比を差し引いて算出した値である。
図6に示すそれぞれの載荷応力に対する含水比変化値を示す近似直線の傾きaは、含水比変化値の載荷応力に対する変化具合の大きさを示し、処理土砂に作用させる載荷応力が処理土砂の排水に及ぼす影響度を意味している。含水比変化値の載荷応力に対する変化具合の大きさ(傾きa)が大きいほど処理土砂に作用させる載荷応力が処理土砂の排水に及ぼす影響度が高いことを示している。
【0027】
図7は、原土砂の活性度と、前述した処理土砂の含水比変化値の載荷応力に対する変化具合の大きさ(傾きa)との関係をグラフ化したデータである。
図7のデータから、含水比変化値の載荷応力に対する変化具合の大きさは、原土砂の活性度と相関性を有しており、原土砂の活性度が大きいほど含水比変化値の載荷応力に対する変化具合が大きく、載荷応力が処理土砂の排水に及ぼす影響度合いが大きいことが分かる。また、原土砂の種類が同じであれば、原土砂の当初含水比によらず、含水比変化値の載荷応力に対する変化具合の大きさはほぼ同じになることが分かる。
【0028】
上述したように、原土砂の活性度と、その原土砂から製造される処理土砂の排水特性(排水促進効果や載荷応力が排水に及ぼす影響度)との間には高い相関性がある。そのため、本発明によれば、原土砂の活性度に注目することで、原土砂に所定の配合割合で高分子凝集剤が混合されて製造される処理土砂の排水特性、特に、製造初期の期間での排水特性を、様々な種類の原土砂を用いる場合にも原土砂の活性度を把握するだけで、簡便により精度よく評価することが可能になる。これに伴い、土砂から短時間で水分を排水させるために高分子凝集剤を用いる工法の発展が期待できる。
【0029】
そして、特に、原土砂を構成する粘土母材の種類が同じであれば原土砂の活性度はほぼ同じ値となる。そのため、原土砂を構成する粘土母材が活性度を予め把握している種類であれば、原土砂の活性度を把握するための液性限界・塑性限界試験や粒度試験を行わずとも、その原土砂に高分子凝集剤を混合した場合の処理土砂の排水特性を極めて簡便に評価できる。
【0030】
また、例えば、上述したような、原土砂の活性度と処理土砂の製造初期の期間での排水特性との関係を示す様々なデータを予め取得しておけば、脱水処理の対象となる原土砂に高分子凝集剤を混合する場合の処理土砂の排水特性を評価する際には、その対象となる原土砂の活性度を把握するだけで処理土砂の排水特性を評価できる。対象となる原土砂に実際に高分子凝集剤を混合して処理土砂の排水特性を評価する試験をその都度行う必要がなくなるので、従来に比して対象となる原土砂に高分子凝集剤を混合する場合の処理土砂の排水特性の評価に要する作業工数や時間を大幅に低減できる。これに伴い、対象となる原土砂の脱水処理に要求されるコストや所要時間などの施工条件に応じた適切な脱水方法を早期に選定することが可能となるので、当業者にとって非常に有益である。
【0031】
図4および
図5に示すように、原土砂と処理土砂の予め設定された所定条件下での排水量の経時変化データに対して双曲線近似によってそれぞれ土砂(原土砂、処理土砂)の最終排水量W
fを推定して、それぞれの土砂の初期排水勾配E
dを算出する。そして、原土砂の初期排水勾配E
dに対する処理土砂の初期排水勾配E
dの比率を評価勾配比率として算出し、評価勾配比率の大きさに基づいて排水特性を評価すると、原土砂に高分子凝集剤を混合することによる排水促進効果の有無や排水促進効果の大きさを非常に評価し易くなる。これにより、原土砂の脱水処理に要求される施工条件において、原土砂に高分子凝集剤を混合する場合と混合しない場合とでどちらが適当であるかを判断し易くなる。
【0032】
例えば、原土砂の活性度が高く、評価勾配比率が1よりも大きい場合には、原土砂に高分子凝集剤を混合することによる排水促進効果があるため、原土砂に高分子凝集剤を混合することが、脱水処理に要する時間を短縮するには有効であると判断できる。一方で、例えば、原土砂の活性度が低く、評価勾配比率が1以下の場合には、原土砂に高分子凝集剤を混合することによる排水促進効果がないため、原土砂に高分子凝集剤を混合しない原土砂の状態で脱水処理を行うほうが、コストを抑えるには有利であると判断できる。
【0033】
さらに、
図5に示すように、前述した所定条件として、処理土砂および原土砂に載荷する載荷応力を複数水準に異ならせると、評価勾配比率に対する載荷応力の影響度も評価することが可能となるので、原土砂の活性度を把握するだけで、原土砂に高分子凝集剤を混合することによる排水促進効果と載荷応力の大きさによる排水促進効果の変化具合を総合的に評価することが可能となる。
【0034】
処理土砂の排水量の経時変化データから推定した処理土砂の最終排水量W
fに基づいて処理土砂の最終含水比を算出し、
図6に示すように、処理土砂の当初含水比から最終含水比を差し引いて含水比変化値を算出する。そして、
図7に示すように、その含水比変化値の載荷応力に対する変化具合の大きさ(傾きa)に基づいて、排水特性の載荷応力による影響度を評価すると、対象となる処理土砂の当初含水比によらず、載荷応力が処理土砂の排水に及ぼす影響度を評価することが可能となる。処理土砂の当初含水比によらず、対象となる原土砂の脱水方法を選定する際の処理土砂に対して載荷応力を作用させるか否かの判断や、処理土砂に作用させる載荷応力の大きさの判断を行うことが可能になるので、当業者にとって非常に有益である。
【0035】
例えば、載荷応力による影響度が小さい場合には、処理土砂に載荷応力を作用させる必要性が低いと判断できる。また、例えば、載荷応力による影響度が大きい場合には、処理土砂に載荷応力を作用させることが有効であると判断できる。
【符号の説明】
【0036】
1 排水試験装置
2 収容容器
3 排水管
4 載荷機構
5 貯水部
S 土砂
W 水