(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】ファイバレーザ装置
(51)【国際特許分類】
H01S 3/067 20060101AFI20240221BHJP
【FI】
H01S3/067
(21)【出願番号】P 2020109497
(22)【出願日】2020-06-25
【審査請求日】2022-12-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(74)【代理人】
【識別番号】100160093
【氏名又は名称】小室 敏雄
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】王 宇
【審査官】高椋 健司
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-110171(JP,A)
【文献】特開2019-070600(JP,A)
【文献】特開2008-226886(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-2027376(KR,B1)
【文献】特表2019-537047(JP,A)
【文献】国際公開第2011/118293(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/145840(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0134512(US,A1)
【文献】特開2012-212775(JP,A)
【文献】特開2013-205433(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/00 -3/02
H01S 3/04 -3/0959
H01S 3/10 -3/102
H01S 3/105-3/131
H01S 3/136-3/213
H01S 3/23 -4/00
G02B 6/02 -6/10
G02B 6/26 -6/27
G02B 6/30 -6/34
G02B 6/42 -6/44
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起光を出力する励起光源と、
前記励起光源から出力された前記励起光が入力される光デバイスと、を備え、
前記光デバイスは、
希土類が添加された増幅コアを有する増幅用ファイバと、
希土類が添加されていない伝搬コアと、前記伝搬コアから径方向外側に所定の間隔をあけて配置された閉じ込め領域と、前記閉じ込め領域を覆い、前記閉じ込め領域よりも低い屈折率を有する低屈折率領域と、を有するパッシブファイバとを備え、
前記伝搬コアと前記増幅コアとが接続され、
前記励起光源から出力された前記励起光の少なくとも一部が、前記閉じ込め領域に光学的に結合する、ファイバレーザ装置。
【請求項2】
前記伝搬コアにFBGが形成されている、請求項1に記載の
ファイバレーザ装置。
【請求項3】
複数の前記閉じ込め領域が前記伝搬コアを囲うように設けられている、請求項1または2に記載の
ファイバレーザ装置。
【請求項4】
前記増幅用ファイバの入力側に接続され、HR-FBGが形成された第1FBGファイバと、
前記増幅用ファイバの出力側に接続され、OC-FBGが形成された第2FBGファイバと、を備え、
前記第1FBGファイバと前記第2FBGファイバとのうち少なくとも一方が前記パッシブファイバである、請求項
1に記載のファイバレーザ装置。
【請求項5】
複数の励起光源と、
希土類が添加された増幅コアを有する増幅用ファイバと、
前記複数の励起光源から出射された励起光を前記増幅用ファイバに入射させるコンバイナと、を備え、
前記コンバイナは、
前記複数の励起光源にそれぞれ接続された複数の励起ファイバが束ねられたバンドル部と、
前記バンドル部の出力側に配置されたパッシブファイバと、を有し、
前記パッシブファイバは、希土類が添加されていない伝搬コアと、前記伝搬コアから径方向外側に所定の間隔をあけて配置されるとともに前記励起光を内部に閉じ込め可能な閉じ込め領域とを有し、
前記伝搬コアと前記増幅コアとが接続され、
前記励起光源から出力された前記励起光の少なくとも一部が、前記閉じ込め領域に光学的に結合する、ファイバレーザ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ファイバレーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、増幅用ファイバを用いたファイバレーザ装置が開示されている。増幅用ファイバの端部において生じる熱を放出するため、特許文献1では、増幅用ファイバの一部が放熱板上に配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ファイバレーザ装置においては、例えば放熱板を配置するだけでは熱の制御が不十分な場合があるなど、増幅用ファイバにおける発熱自体を抑制することが求められていた。
【0005】
本発明はこのような事情を考慮してなされ、増幅用ファイバにおける発熱を抑制することが可能な光デバイス及びファイバレーザ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の第1態様に係る光デバイスは、希土類が添加された増幅コアを有する増幅用ファイバと、希土類が添加されていない伝搬コアと、前記伝搬コアから径方向外側に所定の間隔をあけて配置された閉じ込め領域と、前記閉じ込め領域を覆い、前記閉じ込め領域よりも低い屈折率を有する低屈折率領域と、を有するパッシブファイバとを備え、前記伝搬コアと前記増幅コアとが接続されている。
【0007】
上記態様によれば、例えば、増幅用ファイバの入力側にパッシブファイバが接続されている場合、励起光は、パッシブファイバの閉じ込め領域を伝搬する。閉じ込め領域を伝搬した励起光は、増幅コアから離れた位置から、増幅用ファイバ内に入射する。すなわち、パッシブファイバの閉じ込め領域が、伝搬コアと所定の間隔をあけて配置されているため、増幅用ファイバとパッシブファイバとの接続部分における、励起光と増幅コア内の希土類との重なりを小さくすることができる。これにより、増幅用ファイバの端面(パッシブファイバとの接続部分)における局所的な発熱を抑えることができる。
また、光デバイスが双方向励起型のファイバレーザ装置に用いられる場合、増幅用ファイバの出力側にもパッシブファイバを接続することにより、増幅用ファイバの両端で同様の効果を得ることができる。
【0008】
ここで、前記伝搬コアにFBGが形成されていてもよい。
【0009】
また、複数の前記閉じ込め領域が前記伝搬コアを囲うように設けられていてもよい。
【0010】
本発明の第2態様に係るファイバレーザ装置は、励起光を出力する励起光源と、前記励起光源から出力された前記励起光が入力される前記光デバイスと、を備え、前記励起光源から出力された前記励起光の少なくとも一部が、前記閉じ込め領域に光学的に結合する。
【0011】
上記態様のファイバレーザ装置は、前記増幅用ファイバの入力側に接続され、HR-FBGが形成された第1FBGファイバと、前記増幅用ファイバの出力側に接続され、OC-FBGが形成された第2FBGファイバと、を備え、前記第1FBGファイバと前記第2FBGファイバとのうち少なくとも一方が前記パッシブファイバであってもよい。
【0012】
本発明の第3態様に係るファイバレーザ装置は、複数の励起光源と、希土類が添加された増幅コアを有する増幅用ファイバと、前記複数の励起光源から出射された励起光を前記増幅用ファイバに入射させるコンバイナと、を備え、前記コンバイナは、前記複数の励起光源にそれぞれ接続された複数の励起ファイバが束ねられたバンドル部と、前記バンドル部の出力側に配置されたパッシブファイバと、を有し、前記パッシブファイバは、希土類が添加されていない伝搬コアと、前記伝搬コアから径方向外側に所定の間隔をあけて配置されるとともに前記励起光を内部に閉じ込め可能な閉じ込め領域とを有し、前記伝搬コアと前記増幅コアとが接続されている。
【発明の効果】
【0013】
本発明の上記態様によれば、増幅用ファイバの端面における局所的な発熱を抑制することが可能な光デバイス及びファイバレーザ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1実施形態に係るファイバレーザ装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】第1実施形態に係る入力側ファイバの横断面図である。
【
図3】第1実施形態に係るコンバイナの横断面図である。
【
図4】第1実施形態に係る入力側ファイバと増幅用ファイバとの接続部分の断面図である。
【
図5】第2実施形態に係る入力側ファイバの横断面図である。
【
図6】第3実施形態に係る入力側ファイバの横断面図である。
【
図7】第4実施形態に係るファイバレーザ装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1実施形態)
以下、第1実施形態の光デバイスおよびファイバレーザ装置について、図面に基づいて説明する。
図1に示すように、ファイバレーザ装置1Aは、複数の励起光源2と、コンバイナ3と、第1FBGファイバ4と、増幅用ファイバ5と、第2FBGファイバ6と、デリバリファイバ7と、出力端8と、を備えている。第1FBGファイバ4および増幅用ファイバ5は、光デバイスRを構成している。また、第1FBGファイバ4、増幅用ファイバ5、および第2FBGファイバ6は、共振器を構成している。共振器は、励起光源2が出射する励起光によってレーザ光を生成する。なお、共振器に、他の構成要素(例えばデリバリファイバ7、出力端8など)を含めてもよい。
本実施形態のファイバレーザ装置1Aは、後方励起光源を有していない片側励起型(前方励起型)である。
【0016】
(定義)
本明細書では、増幅用ファイバ5から見たとき、励起光源2側を入力側といい、出力端8側を出力側という。また、第1FBGファイバ4の長手方向を単に長手方向といい、第1FBGファイバ4の中心軸線に直交する断面を横断面という。横断面視において、第1FBGファイバ4の中心軸線に交差する方向を径方向といい、中心軸線回りに周回する方向を周方向という。
また、本明細書では、コアに希土類が添加されていない光ファイバを「パッシブファイバ」という。第1FBGファイバ4がパッシブファイバであってもよいし、第2FBGファイバ6がパッシブファイバであってもよい。
【0017】
励起光源2としては、レーザダイオードなどを用いることができる。コンバイナ3は、複数の励起光源2が出射した励起光を、1本の光ファイバに結合し、第1FBGファイバ4に入力する。第1FBGファイバ4の入力側の端部は、コンバイナ3に接続されている。第1FBGファイバ4の出力側の端部は、融着接続部F1によって、増幅用ファイバ5に融着接続されている。増幅用ファイバ5の出力側の端部は、融着接続部F2によって、第2FBGファイバ6に融着接続されている。図示は省略するが、融着接続部F1、F2は剛性の高い補強器によって保持されており、曲げなどが生じにくくなっている。補強器によって融着接続部F1、F2を補強することで、例えば融着接続部F1、F2で破断が生じることを抑止できる。
【0018】
第1FBGファイバ4は、
図2に示すように、横断面視において、伝搬コア41と、伝搬コア41の外周を覆う内クラッド42と、内クラッド42の外周を覆う閉じ込め領域43と、閉じ込め領域43の外周を覆う外クラッド44と、外クラッド44の外周を覆う保護被覆45とを備えている。本実施形態では、内クラッド42および外クラッド44が、閉じ込め領域43を覆い、閉じ込め領域43よりも低い屈折率を有することで、閉じ込め領域43の内部に励起光を閉じ込め可能な低屈折率領域である。
本実施形態の閉じ込め領域43は、横断面視において円環状の層である。
【0019】
第1FBGファイバ4の伝搬コア41には、希土類が添加されていない。また、伝搬コア41には、HR-FBG(High Reflectivity-Fiber Bragg Grating)4aが形成されている。HR-FBG4aは、励起状態にされた増幅用ファイバ5の活性元素が放出する光のうち信号光の波長の光をほぼ100%の反射率で反射するように調整されており、第1FBGファイバ4の長手方向に沿って一定の周期で高屈折率の部分が繰り返される構造となっている。また、FBGを形成しやすくするために、第1FBGファイバ4の伝搬コア41にはB(ボロン)が添加されていてもよい。
【0020】
内クラッド42および外クラッド44は、例えば純粋なシリカからなるシリカガラスにより構成されていてもよく、あるいは塩素(Cl2)を添加することによって屈折率を低くしたシリカガラスにより構成されていてもよい。内クラッド42の屈折率と外クラッド44の屈折率は同じである。
【0021】
閉じ込め領域43は、第1FBGファイバ4の長手方向に沿って延びている。閉じ込め領域43は、伝搬コア41から径方向において所定の間隔をあけて配置されるとともに、その内部に励起光を閉じ込め可能である。
ここで、内クラッド42の直径D1とすると、以下の式(1)を満たすように、伝搬コア41と閉じ込め領域43との径方向における位置関係が設定されている。
D1>1.5×Dm …(1)
【0022】
上式(1)におけるDmは、信号光の最大強度のe-2=0.135倍の2点間での距離で定義したモードフィールド径(MFD)である。内クラッド42の直径D1が式(1)を満たすことにより、伝搬コア41から漏れ出た信号光が、内クラッド42の外周に設けられた閉じ込め領域43に閉じ込められるのを防ぐことが可能となる。さらには、閉じ込め領域43が伝搬コア41を伝搬する信号光のモードフィールドに与える影響を抑えることが可能となる。
【0023】
閉じ込め領域43は、例えば、二酸化ゲルマニウム(GeO2)を添加することによって屈折率を高くしたシリカガラスにより構成されている。すなわち、内クラッド42の屈折率をn2とし、閉じ込め領域43の屈折率をn3とすると、n3>n2の関係が成り立っている。
【0024】
伝搬コア41の屈折率をn1とし、内クラッド42および外クラッド44の屈折率をn2とし、閉じ込め領域43の屈折率をn3とし、保護被覆45の屈折率をn4とすると、以下の式(2)~(4)の関係を満たすように、伝搬コア41、内クラッド42、閉じ込め領域43、外クラッド44、保護被覆45の屈折率が設定されている。
n1>n2 …(2)
n3>n2 …(3)
n2>n4 …(4)
【0025】
本実施形態では、伝搬コア41の屈折率n1と閉じ込め領域43の屈折率n3との関係は、n3>n1を満たすように設定されている。なお、閉じ込め領域43の屈折率n3は、伝搬コア41の屈折率n1より必ずしも大きくなくてもよく、少なくとも上記式(3)を満たすことにより、励起光を閉じ込め領域43内に閉じ込めることが可能となる。
また、保護被覆45の屈折率n4は、伝搬コア41の屈折率n1、内クラッド42および外クラッド44の屈折率n2、閉じ込め領域43の屈折率n3の中で最も小さく設定されている。上記式(4)を満たすことにより、励起光が第1FBGファイバ4の外部に漏れ出ることを抑制することができる。
【0026】
以上より、本実施形態の第1FBGファイバ4は、以下の式(5)を満たす。
n3>n1>n2>n4 …(5)
このように屈折率が設定されることにより、第1FBGファイバ4は、内クラッド42と外クラッド44とを備えたダブルクラッド構造となり、効率良く励起を行うことができる。
【0027】
閉じ込め領域43のNA(以下、NAcと表す)は、以下の式(6)を満たすように設定され、外クラッド44のNA(以下、NAoと表す)は、以下の式(7)を満たすように設定されている。
NAc>0.25×NAp …(6)
NAo>NAp …(7)
【0028】
上式(6)、(7)における「NAp」は、励起光の最大強度のe-2=0.135倍のNA成分で定義されている。本実施形態では、上記式(6)を満たすように、閉じ込め領域43のNAを設定することにより、励起光の一部を閉じ込め領域43に光学的に結合させる。
【0029】
外クラッド44のNAが、NAp以下であると、励起光が保護被覆45を伝搬してしまう場合がある。これにより、保護被覆45が発熱してしまう可能性があるため、上記式(7)を満たすように、外クラッド44のNAが設定されている。
【0030】
コンバイナ3は、
図3に示すように、7本の励起ファイバ3aを有している。各励起ファイバ3aの入力側の端部は、励起光源2に接続されている。コンバイナ3は、励起光源2が出射した励起光を励起ファイバ3aによって伝搬し、1本の第1FBGファイバ4に結合するように構成されている。励起ファイバ3aの直径をD2とし、外クラッド44の直径をD3とすると、以下の式(8)を満たすように設定されている。
D3>3.01×D2 …(8)
この式(8)を満たすことにより、コンバイナ3から出力された励起光が第1FBGファイバ4の外クラッド44内に収まるため、コンバイナ3からの励起光を効率良く第1FBGファイバ4に入力させることができる。
【0031】
第2FBGファイバ6のコアには、OC-FBG(Output Coupler-Fiber Bragg Grating)6aが形成されている。OC-FBG6aは、HR-FBG4aとほぼ同様の構造を有しているが、HR-FBG4aよりも低い反射率で、信号光を反射するように調整されている。
【0032】
図4に示すように、増幅用ファイバ5は、1種類または2種類以上の活性元素が添加された増幅コア51と、増幅コア51を覆うクラッド52と、クラッド52を覆う保護被覆53と、を有している。増幅コア51に添加する活性元素としては、例えばエルビウム(Er)、イッテルビウム(Yb)、あるいはネオジム(Nd)などの希土類元素が使用される。これらの活性元素は、励起状態で光を放出する。
第1FBGファイバ4と増幅用ファイバ5との接続部分が融着接続部F1である。増幅用ファイバ5の増幅コア51と、第1FBGファイバ4の伝搬コア41とは、融着接続部F1において接続されている。
【0033】
増幅用ファイバ5内では、HR-FBG4aおよびOC-FBG6aで反射した信号光が、増幅用ファイバ5の長手方向で往復する。信号光は、この往復に伴って増幅されてレーザ光となる。このように、共振器内では、光が増幅されてレーザ光が生成される。レーザ光の一部は、OC-FBG6aを透過し、デリバリファイバ7を介して出力端8に到達する。
【0034】
先述の通り、増幅用ファイバ5は、HR-FBG4aが形成された第1FBGファイバ4またはOC-FBG6aが形成された第2FBGファイバ6とは異なるファイバである。このため、増幅用ファイバ5の両端部には、融着接続部F1、F2が設けられている。
【0035】
次に、ファイバレーザ装置1Aの作用について説明する。
励起光源2から出射された励起光は、コンバイナ3により1本の光ファイバに結合し、第1FBGファイバ4に入力される。
コンバイナ3から第1FBGファイバ4内に入射した励起光のNA成分のうち、閉じ込め領域43のNA以下の成分は、閉じ込め領域43に光学的に結合する。
図4に示すように、閉じ込め領域43内を伝搬する励起光L1は、増幅用ファイバ5の端面5aにおいて、すぐに増幅コア51に入射するのではなく、クラッド52内を長手方向において一定距離伝搬する。励起光L1は、一定距離伝搬した後、増幅コア51に吸収される。
【0036】
励起光L1が増幅コア51に吸収される増幅コア51の端面5aからの最短位置Pは、閉じ込め領域43を伝搬する励起光L1のNAに対して、(D1-D4)/2NAが成り立つ。ここで、D4は、第1FBGファイバ4の伝搬コア41の直径である。ただし、第1FBGファイバ4の曲げやクラッド52の形状は考慮していない。
励起光が結合する位置は、励起光のNA成分によるため、閉じ込め領域43を伝搬する励起光L1とは異なる成分の励起光は、長手方向において異なる位置で増幅コア51に吸収される。このように、本実施形態では融着接続部F1の近傍(増幅用ファイバ5の端部)で励起光が増幅コア51に吸収される長手方向における位置を分散させて、局所的な発熱を抑制することができる。
【0037】
以上説明したように、本実施形態の光デバイスRでは、希土類が添加された増幅コア51を有する増幅用ファイバ5と、希土類が添加されていない伝搬コア41と、伝搬コア41と所定の間隔をあけて配置された閉じ込め領域43と、閉じ込め領域43を覆い、閉じ込め領域43よりも低い屈折率を有する低屈折率領域(内クラッド42および外クラッド44)と、を有する第1FBGファイバ4(パッシブファイバ)とを備える。そして、伝搬コア41と増幅コア51とが接続されている。
【0038】
このような光デバイスRによれば、励起光の一部は、第1FBGファイバ4の閉じ込め領域43を伝搬する。閉じ込め領域43を伝搬した励起光は、増幅用ファイバ5の増幅コア51から離れた位置から増幅用ファイバ5に入射する。すなわち、第1FBGファイバ4の閉じ込め領域43が、第1FBGファイバ4の伝搬コア41と所定の間隔をあけて配置されているため、増幅用ファイバ5と第1FBGファイバ4との接続部分(増幅用ファイバ5の端面5a)における励起光と増幅コア51に添加された増幅媒質(イッテルビウム(Yb)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)などの希土類)の分布との重なりを小さくすることができる。これにより、増幅用ファイバ5の端面5aにおける局所的な発熱を抑えることができる。
【0039】
また、横断面視において閉じ込め領域43を円環状とすることにより、簡易な構成で閉じ込め領域43を形成することができる。
【0040】
また、本実施形態のファイバレーザ装置1Aは、励起光を出力する励起光源2と、励起光源2から出力された励起光が入力される第1FBGファイバ4と、を備え、励起光源2から出力された励起光が、閉じ込め領域43に光学的に結合する。閉じ込め領域43は、伝搬コア41と所定の間隔をあけて配置されるとともに、その内部において励起光を閉じ込め可能である。
【0041】
このようなファイバレーザ装置1Aによれば、上述したように第1FBGファイバ4と増幅用ファイバ5との接続部分における局所的な発熱を抑えることができるため、TMI(Transverse Mode Instability。なお、Thermal modal Instabilityともいう)現象を抑制することができる。TMI現象とは、増幅用ファイバに投入する励起光のパワーを増大させていくと、熱の影響で励起光からレーザ光への変換効率が減少し、励起光強度に対しての信号光強度の線形性が失われる現象である。この現象が生じると、基本モードから高次モードへモード間の結合が生じるため、レーザ光のビーム品質が低下する。さらに、高次モードのレーザ光が増幅されることによって基本モードのレーザ光の増幅に寄与するエネルギーが減少するため、基本モードのレーザ光の増幅効率が低下してしまう。増幅された高次モードのレーザ光は伝搬中で減衰し易い。従って、TMI現象を抑制することにより、励起光からレーザ光への変換効率の減少を抑制し、励起光強度に対しての信号光強度の線形性を保つことができる。
【0042】
なお、閉じ込め領域43は、第1FBGファイバ4だけに設けたが、第1FBGファイバ4と第2FBGファイバ6とのうち少なくとも一方に設けられていればよい。特に双方向励起型のファイバレーザ装置の場合に、この構成が有効である。なお、第2FBGファイバ6側に比べて第1FBGファイバ4側の方が局所的な発熱が起きやすいため、第1FBGファイバ4に閉じ込め領域43を設けた方が、第2FBGファイバ6のみに閉じ込め領域43を設けるより効果的に発熱を抑えてTMI現象を抑制することができる。
【0043】
また、本実施形態では横断面視において閉じ込め領域43を円環状としたが、閉じ込め領域43の形状はこれに限らない。例えば、閉じ込め領域43は横断面視において楕円あるいは矩形の環状であってもよいし、環状でなくてもよい。閉じ込め領域43が伝搬コア41から径方向外側に離れた位置に配置されていれば、同様の効果が得られる。
【0044】
また、本実施形態では、閉じ込め領域43のNAは、NApの0.25倍より大きくなるように設定したが、NApの0.25倍以下であってもよい。すなわち、閉じ込め領域43に、励起光のうち、ごく一部の励起光でも伝搬可能であれば、端面5aにおける発熱を抑えることができるため、例えば、閉じ込め領域43のNAは、NApの0.01倍程度であってもよい。
【0045】
また、ファイバレーザ装置1Aが共振器を含まない場合は、パッシブファイバにFBGが書き込まれていなくてもよい。
波長分割多重方式(WDM)カップラなどの別の方法で励起光を第1FBGファイバ4に結合させる場合は、コンバイナ3を備えていなくてもよい。
また、増幅用ファイバ5の増幅コア51に光学的に結合される励起光の位置を変える場合は、例えば、第1FBGファイバ4の内クラッド42の直径D1を大きくすることにより、端面5aからより遠い位置で励起光L1を増幅コア51に吸収させることができる。
【0046】
(第2実施形態)
次に、本発明に係る第2実施形態について説明するが、第1実施形態と基本的な構成は同様である。このため、同様の構成には同一の符号を付してその説明は省略し、異なる点についてのみ説明する。
本実施形態の光デバイスRは、第1実施形態におけるFBGファイバ4に代えて、
図5に示すようなパッシブファイバ60を備えている。パッシブファイバ60は、複数の閉じ込め領域63a~63fを有する点において、第1実施形態と異なる。
【0047】
パッシブファイバ60は、横断面視において、伝搬コア61と、伝搬コア61の外周を覆うクラッド62と、クラッド62内に配置された複数の閉じ込め領域63a~63fと、クラッド62の外周を覆う保護被覆64とを備えている。本実施形態では、クラッド62が、閉じ込め領域63a~63fを覆い、閉じ込め領域63a~63fよりも低い屈折率を有することで、閉じ込め領域63a~63fの内部に励起光を閉じ込め可能な低屈折率領域である。
閉じ込め領域63a~63fは、長手方向に沿って延びており、伝搬コア61から径方向に所定の間隔をあけて配置されている。閉じ込め領域63a~63fは、伝搬コア61を囲むように、周方向に間隔を空けて環状に配置されている。
径方向における伝搬コア61の側面から閉じ込め領域63a~63fの外側面までの寸法をD6とすると、伝搬コア61と閉じ込め領域63a~63fとの位置関係は、以下を満たすように設定されている。
D6>0.75×Dm …(9)
上記式(9)を満たすことにより、伝搬コア61から漏れ出た信号光が閉じ込め領域63a~63fに閉じ込められるのを防ぐことが可能となる。さらには、閉じ込め領域63が伝搬コア61を伝搬する信号光のモードフィールドに与える影響を抑えることが可能となる。
【0048】
閉じ込め領域63a~63fは、周方向に等間隔に6つ配置されている。閉じ込め領域63a~63fの個数は、限定されず、1個以上であればよい。
クラッド62は、伝搬コア61および閉じ込め領域63a~63fすべてに接触するように設けられている。クラッド62は、例えば純粋なシリカからなるシリカガラスであってもよく、あるいは純シリカに塩素(Cl2)が添加されたものであってもよい。
【0049】
伝搬コア61の屈折率をn1aとし、クラッド62の屈折率をn2aとし、閉じ込め領域63a~63fの屈折率をn3aとし、保護被覆64の屈折率をn4aとすると、以下の式(10)~(12)の関係を満たすように、伝搬コア61、クラッド62、閉じ込め領域63a~63f、保護被覆64の屈折率が設定されている。
n1a>n2a …(10)
n3a>n2a …(11)
n2a>n4a …(12)
【0050】
本実施形態では、伝搬コア61の屈折率n1aと閉じ込め領域63a~63fの屈折率n3aとの関係は、n3a>n1aを満たすように設定する。なお、閉じ込め領域63a~63fの屈折率n3aは、伝搬コア61の屈折率n1aより必ずしも大きくなくてもよく、少なくとも上記式(11)を満たすことにより、励起光を閉じ込め領域63a~63f内に閉じ込めることが可能となる。
以上より、本実施形態のパッシブファイバ60は、以下の式(13)を満たす。
n3a>n1a>n2a>n4a …(13)
【0051】
閉じ込め領域63a~63fの直径は、いずれも互いに同じである。閉じ込め領域63a~63fの直径をD5とすると、コンバイナ3の励起ファイバ3aの直径D2との関係は、以下の式(14)を満たしている。
0.25×D2<D5<D2 …(14)
【0052】
以上説明したように、本実施形態の光デバイスでは、パッシブファイバ60に複数の閉じ込め領域63a~63fが設けられている。このため、励起光の一部は、パッシブファイバ60の閉じ込め領域63a~63fを伝搬し、増幅コア51から径方向に離れた位置において増幅用ファイバ5に入射する。すなわち、パッシブファイバ60の閉じ込め領域63a~63fが、伝搬コア61と径方向に所定の間隔をあけて配置されているため、増幅用ファイバ5とパッシブファイバ60との接続部分(増幅用ファイバ5の端面5a)における励起光と増幅媒質との重なりを小さくすることができる。これにより、増幅用ファイバ5の端面5aにおける局所的な発熱を抑えることができる。
【0053】
また、例えば複数の励起光源2から出射された励起光を、複数の閉じ込め領域63a~63fによってそれぞれ独立して伝搬させた場合には、励起光同士が干渉するのを防ぐことも可能である。
【0054】
(第3実施形態)
次に、本発明に係る第3実施形態について説明するが、第1実施形態と基本的な構成は同様である。このため、同様の構成には同一の符号を付してその説明は省略し、異なる点についてのみ説明する。
本実施形態の光デバイスRは、第1実施形態におけるFBGファイバ4に代えて、
図6に示すようなパッシブファイバ70を備えている。パッシブファイバ70は、伝搬コア71と、内クラッド72と、第1外クラッド73と、第2外クラッド75と、を備えている点において、第1実施形態と異なる。
【0055】
パッシブファイバ70は、横断面視において、伝搬コア71と、伝搬コア71の外周を覆う内クラッド72と、内クラッド72の外周を覆う第1外クラッド73と、第1外クラッド73を覆う閉じ込め領域74と、閉じ込め領域74の外周を覆う第2外クラッド75と、第2外クラッド75の外周を覆う保護被覆76とを備えている。本実施形態では、第1外クラッド73および第2外クラッド75が、閉じ込め領域74を覆い、閉じ込め領域74よりも低い屈折率を有することで、閉じ込め領域74の内部に励起光を閉じ込め可能な低屈折率領域である。
閉じ込め領域74は、横断面視において円環状である。また、閉じ込め領域74は、長手方向に沿って延びており、伝搬コア71を中心に伝搬コア71から径方向に所定の間隔をあけて伝搬コア71を囲むように配置されている。
【0056】
内クラッド72、第1外クラッド73、および第2外クラッド75は、例えば純粋なシリカからなるシリカガラスであってもよく、あるいは純シリカに塩素(Cl2)が添加されたものであってもよい。本実施形態では、内クラッド72は、第1外クラッド73に比べて屈折率が低い。第1外クラッド73の屈折率と第2外クラッド75の屈折率とは、同じである。
【0057】
伝搬コア71の屈折率をn1bとし、内クラッド72の屈折率をn2bとし、第1外クラッド73および第2外クラッド75の屈折率をn3bとし、閉じ込め領域74の屈折率をn4bとし、保護被覆76の屈折率をn5bとすると、以下の式(15)~(17)の関係を満たすように、伝搬コア71、内クラッド72、第1外クラッド73および第2外クラッド75、閉じ込め領域74、保護被覆76の屈折率を設定する。
n1b>n3b>n2b …(15)
n4b>n3b …(16)
n3b>n5b …(17)
【0058】
本実施形態では、伝搬コア71の屈折率n1bと閉じ込め領域74の屈折率n4bとの関係は、n4b>n1bを満たすように設定する。なお、閉じ込め領域74の屈折率n4bは、伝搬コア71の屈折率n4bより必ずしも大きくなくてもよく、少なくとも上記式(16)を満たすことにより、励起光を閉じ込め領域74内に閉じ込めることが可能となる。
以上より、本実施形態のパッシブファイバ70は、以下の式(18)を満たす。
n4b>n1b>n3b>n5b>n2b …(18)
【0059】
第1外クラッド73の直径をD7とすると、伝搬コア71と閉じ込め領域74との位置関係は、以下を満たすように設定されている。
D7>1.5×Dm …(19)
上記式(19)を満たすことにより、伝搬コア71から漏れ出た信号光が閉じ込め領域74に閉じ込められるのを防ぐことが可能となる。さらには、閉じ込め領域74が伝搬コア71を伝搬する信号光のモードフィールドに与える影響を抑えることが可能となる。
【0060】
また、第2外クラッド75のNA(以下、NAoという)が、NAp以下であると、励起光が保護被覆76を伝搬してしまう場合がある。これにより、保護被覆76が発熱してしまう可能性があるため、下記式(20)を満たすように、NAoが設定されている。
NAo>NAp …(20)
【0061】
本実施形態の光デバイスRも、第1実施形態と同様に、増幅用ファイバ5とパッシブファイバ70との接続部分(増幅用ファイバ5の端面5a)における励起光と増幅媒質との重なりを小さくすることができる。これにより、増幅用ファイバ5の端面5aにおける発熱を抑えることができる。
【0062】
(第4実施形態)
次に、本発明に係る第4実施形態について説明するが、第1実施形態と基本的な構成は同様である。このため、同様の構成には同一の符号を付してその説明は省略し、異なる点についてのみ説明する。
本実施形態のファイバレーザ装置1Bでは、第1FBGファイバ4および第2FBGファイバ6を備えていない点、および、コンバイナの構成が第1実施形態と異なる。
【0063】
図7に示すように、ファイバレーザ装置1Bは、複数の励起光源2と、コンバイナ80と、増幅用ファイバ5と、デリバリファイバ7と、出力端8と、を備えている。
コンバイナ80は、バンドル部81と、パッシブファイバ82と、を備えている。バンドル部81は、複数の励起ファイバ81aが束ねられて構成されている。パッシブファイバ82は、バンドル部81の出力側に接続されている。
パッシブファイバ82の構成は、伝搬コア41にFBGが形成されていない点を除き、第1実施形態の第1FBGファイバ4と同様である(
図2)。
【0064】
次に、ファイバレーザ装置1Bの作用について説明する。
励起光源2から出射した励起光は、各励起ファイバ81aおよびバンドル部81を伝搬し、パッシブファイバ82に入射する。バンドル部81からパッシブファイバ82内に入射した励起光のNA成分のうち、閉じ込め領域43のNA以下の成分は閉じ込め領域43に光学的に結合する。
図4に示すように、閉じ込め領域43内を伝搬する励起光L1は、増幅用ファイバ5の端面5aでは、増幅コア51から入射されず、クラッド52内を一定距離伝搬する。励起光L1は、一定距離伝搬した後、増幅コア51に吸収される。
【0065】
以上説明したように、本実施形態のファイバレーザ装置1Bは、複数の励起光源2と、希土類が添加された増幅コア51を有する増幅用ファイバ5と、複数の励起光源2から出射された励起光を増幅用ファイバ5に入射させるコンバイナ80と、を備える。コンバイナ80は、複数の励起光源2にそれぞれ接続された複数の励起ファイバ81aが束ねられたバンドル部81と、バンドル部81の出力側に配置されたパッシブファイバ82と、を有する。パッシブファイバ82は、希土類が添加されていない伝搬コア41と、伝搬コア41から径方向外側に所定の間隔をあけて配置されるとともに励起光を内部に閉じ込め可能な閉じ込め領域とを有し、伝搬コア41と増幅コア51とが接続されている。
【0066】
このようなファイバレーザ装置1Bによれば、第1実施形態と同様に、励起光の一部がパッシブファイバ82の閉じ込め領域43を伝搬するため、パッシブファイバ82と増幅用ファイバ5との接続部分における励起光プロファイルと増幅媒質の分布との重なりを小さくすることができる。これにより、増幅用ファイバ5の端面5a(パッシブファイバ82との接続部分)における局所的な発熱を抑えることができる。
【0067】
このようなファイバレーザ装置1Bによれば、上述したように第1FBGファイバ4と増幅用ファイバ5との接続部分における局所的な発熱を抑えることができるため、TMI現象を抑制することができる。TMI現象を抑制することにより、励起光からレーザ光への変換効率の減少を抑制し、励起光強度に対しての信号光強度の線形性を保つことができる。
【0068】
なお、パッシブファイバ82の構成は、第2実施形態のパッシブファイバ60(
図5)、あるいは、第3実施形態のパッシブファイバ70(
図6)と同様であってもよい。
【0069】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した実施形態や変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0070】
R…光デバイス、1A,1B…ファイバレーザ装置、4…第1FBGファイバ(パッシブファイバ)、5…増幅用ファイバ、6…第2FBGファイバ、41…伝搬コア、43,63a~63f,74…閉じ込め領域、51…増幅コア、81…バンドル部、81a…励起ファイバ、82…パッシブファイバ