(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】回転電機の駆動装置
(51)【国際特許分類】
H02P 27/06 20060101AFI20240221BHJP
H02P 25/18 20060101ALI20240221BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20240221BHJP
【FI】
H02P27/06
H02P25/18
H02M7/48 M
(21)【出願番号】P 2020125701
(22)【出願日】2020-07-22
【審査請求日】2023-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【氏名又は名称】北 裕介
(72)【発明者】
【氏名】清水 浩史
(72)【発明者】
【氏名】山口 美帆
【審査官】佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-201922(JP,A)
【文献】特開2019-013098(JP,A)
【文献】特開2015-202019(JP,A)
【文献】国際公開第2019/058668(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 4/00
H02P 21/00-25/03
H02P 25/04
H02P 25/08-31/00
H02P 6/00-6/34
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数相に対応する複数の巻線を有する回転電機に適用される、回転電機の駆動装置(10)であって、
直流電源に接続され、前記巻線の一端に相ごとに接続された上アームスイッチ及び下アームスイッチを備える第1インバータ(INV1)と、
前記巻線の他端に相ごとに接続された上アームスイッチ及び下アームスイッチを備える第2インバータ(INV2)と、
前記第1インバータと前記第2インバータとを前記相ごとに接続する複数の相接続線(LU1,LV1,LW1)のそれぞれに1つずつ設けられた相電流センサ(DU,DV,DW)と、
前記第1インバータの直流高電位側と前記第2インバータの直流高電位側とを接続する高電位接続線(La)と、
前記第1インバータの直流低電位側と前記第2インバータの直流低電位側とを接続する低電位接続線(Lb)と、
を含み、前記回転電機のH駆動が可能な駆動回路(11)と、
前記上アームスイッチ及び前記下アームスイッチの開閉を制御することにより前記第1インバータと前記第2インバータの作動を制御可能な制御部(12)と、を備え、
前記制御部は、前記回転電機のH駆動時に前記相電流センサが検出する相電流に基づいて算出した各相電流の総和である総和電流に基づいて、前記相電流センサの故障診断を実行する回転電機の駆動装置。
【請求項2】
前記回転電機のH駆動時に前記相電流センサが検出する相電流に基づいて算出した各相電流の総和である零ではない総和電流に基づいて、前記相電流センサの故障診断を実行する請求項1に記載の回転電機の駆動装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記総和電流が、所定の電流閾値を超えた時間の累計が所定の時間閾値を超えた場合に、前記相電流センサのうちの少なくともいずれかが故障したと判定する請求項1
または2に回転電機の駆動装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記総和電流を周波数解析し、次数が偶数である周波数成分のピークが所定以上となった場合に、前記相電流センサのうちの少なくともいずれかが故障したと判定する請求項
1~3のいずれかに回転電機の駆動装置。
【請求項5】
前記回転電機は、中性点が開放されたオープン巻線の3相回転電機であり、前記第1インバータおよび前記第2インバータは、3相インバータである請求項1~
4のいずれかに記載の回転電機の駆動装置。
【請求項6】
前記駆動回路は、前記複数の相接続線に流れる全電流を一括して検出可能な1つの電流センサを監視センサとしてさらに備え、
前記制御部は、前記相電流の電流波形と、前記監視センサが検出する全電流の電流波形とに基づいて、前記相電流センサの故障診断を実行する請求項1~
5のいずれかに記載の回転電機の駆動装置。
【請求項7】
前記制御部は、
前記総和電流と前記全電流との双方が正常な正弦波形である場合には、正常と判断し、
前記総和電流と前記全電流との双方が正常な正弦波形ではない場合には、前記相電流センサおよび前記監視センサ以外の他の前記駆動回路の部位が故障したと判断
する請求項6に記載の回転電機の駆動装置。
【請求項8】
前記総和電流が正常な正弦波形ではなく、かつ、前記全電流が正常な正弦波形である場合には、前記相電流センサの少なくともいずれかが故障したと判断する請求項6または7に記載の回転電機の駆動装置。
【請求項9】
前記総和電流が正常な正弦波形であり、かつ、前記全電流が正常な正弦波形ではない場合には、前記監視センサが故障したと判断する請求項6~8のいずれかに記載の回転電機の駆動装置。
【請求項10】
前記制御部は、前記相電流センサの少なくともいずれかが故障したと判断した場合に、さらに、各相接続線について1相のみを通電した状態で、前記総和電流の電流波形と、全電流の電流波形とを比較することにより、故障した前記相電流センサを特定する請求項
6~9のいずれかに記載の回転電機の駆動装置。
【請求項11】
前記制御部は、前記相電流センサの故障診断を常時実行する常時故障診断モードと、前記相電流センサの故障診断を所定の診断条件時にのみ実行する非常時故障診断モードとを、前記回転電機の駆動状態に基づいて切り替える請求項
6~10のいずれかに記載の回転電機の駆動装置。
【請求項12】
前記回転電機は、車両に搭載され、
前記制御部は、前記相電流センサの故障診断を常時実行する常時故障診断モードと、前記相電流センサの故障診断を所定の診断条件時にのみ実行する非常時故障診断モードとを、前記車両の車速に基づいて切り替える請求項6~10のいずれかに記載の回転電機の駆動装置。
【請求項13】
前記駆動回路は、前記高電位接続線および前記低電位接続線の少なくとも一方に備えられた、前記第1インバータと前記第2インバータとを導通または遮断する接続線スイッチ(SC)をさらに備え、前記回転電機のH駆動とY駆動とを切り替え可能であり、
前記制御部は、
前記回転電機のY駆動時には、前記複数の相電流センサのうちの1つを代替監視センサとして選定し、
前記代替監視センサ以外の他の前記相電流センサの相電流の総和と、前記代替監視センサが検出する電流とに基づいて、前記駆動回路の故障診断を実行する請求項
1~12のいずれかに記載の回転電機の駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数相に対応する複数の巻線を有する回転電機に適用される、回転電機の駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機の駆動装置において、駆動回路に流れる電流を検出する電流センサの故障を検出する技術が知られている。特許文献1には、駆動回路の各相をインバータと接続する相接続線に、駆動電流を検出する電流センサをそれぞれ2つずつ設置し、2つの電流センサから取得する同一の相接続線に流れる電流の検出値を互いに比較することにより、一方の電流センサの故障を診断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、各相接続線に流れる電流を検出するための第1の電流センサに加えて、第1電流センサの故障を診断するための第2の電流センサが設定される。例えば、回転電機が3相である場合には、駆動回路には6個の電流センサが設置される。駆動装置の小型化や低コスト化のためには、駆動回路に設置する電流センサの個数を低減することが好ましい。このため、3相を対称にY結線接続した駆動回路においては、所定の周波数成分である特定周波数成分において各相の電流波が互いに打ち消し合い、瞬時値のベクトル和が零となること(いわゆる三相和零)を利用して、3相のうちの1相について、電流センサの設置を省略する技術が知られている。
【0005】
しかしながら、回転電機についてH駆動を実行する駆動回路においては、各相の電流波が互いに打ち消し合い、瞬時値のベクトル和が零となるような状態が得られないため、これを利用して電流センサの設置を省略することができない。
【0006】
上記に鑑み、本発明は、H駆動を実行する駆動回路において、電流センサの故障診断と、電流センサの個数低減とを両立可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、複数相に対応する複数の巻線を有する回転電機に適用される、回転電機の駆動装置を提供する。この駆動装置は、直流電源に接続され、前記巻線の一端に相ごとに接続された上アームスイッチ及び下アームスイッチを備える第1インバータと、前記巻線の他端に相ごとに接続された上アームスイッチ及び下アームスイッチを備える第2インバータと、前記第1インバータと前記第2インバータとを前記相ごとに接続する複数の相接続線のそれぞれに1つずつ設けられた相電流センサと、前記第1インバータの直流高電位側と前記第2インバータの直流高電位側とを接続する高電位接続線と、前記第1インバータの直流低電位側と前記第2インバータの直流低電位側とを接続する低電位接続線と、を含み、前記回転電機のH駆動が可能な駆動回路と、前記上アームスイッチ及び前記下アームスイッチの開閉を制御することにより前記第1インバータと前記第2インバータの作動を制御可能な制御部と、を備える。前記制御部は、前記回転電機のH駆動時に前記相電流センサが検出する相電流に基づいて算出した各相電流の総和である総和電流に基づいて、前記相電流センサの故障診断を実行する。
【0008】
本発明者は、H駆動時に各相電流の総和である総和電流を演算した場合には、例えば「三相和零」のように、複数相を対称にY結線接続した際には各相電流が互いに打ち消される特定周波数成分においても、総和電流は零にはならないことに着目した。そして、各相電流の電流波形に異常が生じた場合には、総和電流の電流波形にも異常が生じるという知見を得て、これに基づいて、総和電流を監視することにより相電流センサの故障診断を実行することに想到した。
【0009】
本発明に係る駆動装置では、第1インバータと第2インバータとを相ごとに接続する複数の相接続線のそれぞれに、1つずつ相電流センサが設けられている。制御部は、回転電機のH駆動時に相電流センサが検出する相電流に基づいて算出した各相電流の総和である総和電流に基づいて、相電流センサの故障診断を実行する。H駆動時には、特定周波数成分においても総和電流が零にならないため、総和電流を監視することにより、相電流センサの故障を診断できる。このため、相接続線を流れる相電流センサを相ごとに1つずつ設置するだけで、相電流センサのいずれかが故障した場合には、これを診断により判定できる。H駆動を実行する駆動回路において、相電流センサの故障診断のために追加する電流センサの個数を低減でき、電流センサの故障診断と、電流センサの個数低減とを両立できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】相電流センサが検出する相電流と、その3次成分の総和とを比較する図。
【
図3】相電流センサが検出するW相電流と、U,V,W相の3次成分の総和とを比較する図。
【
図4】相電流センサが検出する相電流の波形が正常から異常に変化する前後を示す図。
【
図5】
図4に示す相電流の正常な波形についてそれぞれ周波数解析を行った図。
【
図6】
図4に示す相電流の正常な波形の総和を示す図。
【
図7】
図6に示す相電流の正常な波形の総和について周波数解析を行った図。
【
図8】
図4に示す相電流の異常な波形についてそれぞれ周波数解析を行った図。
【
図9】
図4に示す相電流の異常な波形の総和を示す図。
【
図10】
図9に示す相電流の異常な波形の総和について周波数解析を行った図。
【
図11】第1実施形態に係る故障診断処理のフローチャート。
【
図13】第2実施形態に係る故障診断処理の概要を示す図。
【
図14】第2実施形態に係る故障診断処理のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
図1に、回転電機の駆動制御を実行する駆動装置10を示す。回転電機は、中性点が開放されたオープン巻線の3相回転電機であり、U相巻線Uと、V相巻線Vと、W相巻線Wとを備えている。駆動装置10は、駆動回路11と、制御部12と、直流電源VDCとを備えている。駆動回路11は、第1インバータINV1と、第2インバータINV2と、高電位接続線Laと、低電位接続線Lbと、接続線スイッチSCと、相電流センサDU,DV,DWを備えている。
【0012】
第1インバータINV1は、3相インバータであり、直流電源VDCに接続されており、回転電機のU相巻線Uの一端に接続された上アームスイッチSU1a及び下アームスイッチSU1bと、V相巻線Vの一端に接続された上アームスイッチSV1a及び下アームスイッチSV1bと、W相巻線Wの一端に接続された上アームスイッチSW1a及び下アームスイッチSW1bとを備える。
【0013】
第2インバータINV2は、3相インバータであり、回転電機のU相巻線Uの他端に接続された上アームスイッチSU2a及び下アームスイッチSU2bと、V相巻線Vの他端に接続された上アームスイッチSV2a及び下アームスイッチSV2bと、W相巻線Wの他端に接続された上アームスイッチSW2a及び下アームスイッチSW2bとを備える。
【0014】
高電位接続線Laは、第1インバータINV1の直流高電位側と第2インバータINV2の直流高電位側とを接続する配線である。低電位接続線Lbは、第1インバータINV1の直流低電位側と前記第2インバータの直流低電位側とを接続する。
【0015】
第1インバータINV1において、各相の上アームスイッチSU1a,SV1a,SW1aの高電位側端子は直流電源VDCの正極端子に接続され、各相の下アームスイッチSU1b,SV1b,SW1bの低電位側端子は直流電源VDCの負極端子に接続されている。上アームスイッチSU1a,SV1a,SW1a及び下アームスイッチSU1b,SV1b,SW1bは、それぞれ半導体スイッチング素子である。
【0016】
第2インバータINV2において、各相の上アームスイッチSU2a,SV2a,SW2aの高電位側端子は高電位接続線Laに接続され、各相の下アームスイッチSU2b,SV2b,SW2bの低電位側端子は低電位接続線Lbに接続されている。上アームスイッチSU2a,SV2a,SW2a及び下アームスイッチSU2b,SV2b,SW2bは、それぞれ半導体スイッチング素子である。なお、半導体スイッチング素子としては、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)、逆並列に接続された還流ダイオードを有するIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等を例示できる。
【0017】
第1インバータINV1において、各相の上アームスイッチSU1a,SV1a,SW1aと下アームスイッチSU1b,SV1b,SW1bとの間の中間点は、それぞれ、第1相接続線LU1,LV1,LW1によって、巻線U、V、Wの一端(第2インバータINV2と接続されていない一端)と接続されている。第2インバータINV2において、各相の上アームスイッチSU2a,SV2a,SW2aと下アームスイッチSU2b,SV2b,SW2bとの間の中間点は、それぞれ、第2相接続線LU2,LV2,LW2によって、巻線U、V、Wの一端(第1インバータINV1と接続されていない一端)と接続されている。第1相接続線LU1,LV1,LW1には、相電流センサDU,DV,DWとして、それぞれ1つずつの電流センサが設置されている。
【0018】
接続線スイッチSCは、高電位接続線Laに設けられており、高電位接続線Laを導通または遮断することにより、第1インバータINV1と第2インバータINV2とを導通または遮断する。接続線スイッチSCが閉状態(オン状態)の場合には、駆動回路11は、Hブリッジ回路として利用することができ、回転電機のH駆動が可能となる。
【0019】
接続線スイッチSCが開状態(オフ状態)の場合には、駆動回路11によって回転電機のY駆動が可能となる。例えば、第2インバータINV2の全ての上アームスイッチSU2a,SV2a,SW2aを閉状態とするとともに全ての下アームスイッチSU2b,SV2b,SW2bを開状態とすることにより、回転電機のY駆動が可能となる。すなわち、回転電機のU相巻線Uと、V相巻線Vと、W相巻線WとをY結線で接続することができる。この場合、上アームスイッチSU2a,SV2a,SW2aは、Y結線(星形結線)の中性点を構成する中性点構成スイッチに相当する。
【0020】
制御部12は、CPUや各種メモリからなるマイコンを備えており、回転電機における各種の検出情報や、力行駆動及び発電の要求に基づいて、第1インバータINV1および第2インバータINV2における各スイッチの開閉(オンオフ)により通電制御を実施する。回転電機の検出情報には、例えば、レゾルバ等の角度検出器により検出される回転子の回転角度(電気角情報)や、電圧センサにより検出される電源電圧(インバータ入力電圧)、電流センサにより検出される各相の通電電流が含まれる。
【0021】
制御部12は、さらに、接続線スイッチSCの開閉を制御する。制御部12は、H駆動時には、接続線スイッチSCを閉状態に制御し、Y駆動時には、接続線スイッチSCを開状態に制御する。制御部12は、第1インバータINV1および第2インバータINV2の各スイッチおよび接続線スイッチSCを操作する操作信号を生成して出力する。
【0022】
制御部12は、回転電機をH駆動する際には、接続線スイッチSCを閉状態に制御して、例えば、交互PWM駆動を実行することができる。交互PWM駆動は、第1インバータINV1と第2インバータINV2とを交互に作動させる非対称スイッチング制御の一例である。
【0023】
制御部12は、回転電機をY駆動する際には、接続線スイッチSCを開状態に制御し、第2インバータINV2の上アームスイッチSU2a,SV2a,SW2aを閉状態に制御し、第2インバータINV2の下アームスイッチSU2b,SV2b,SW2bを開状態に制御することにより、回転電機のU相巻線Uと、V相巻線Vと、W相巻線Wとは、Y結線された状態となる。より具体的には、巻線U,V,Wの第2インバータINV2側の巻線端子が、それぞれ上アームスイッチSU2a,SV2a,SW2aを介して接続されることにより、Y結線が実現される。第2インバータINV2を利用してY結線を構成するとともに、第1インバータINV1についてPWM制御等を実行することにより、回転電機をY駆動させることができる。上アームスイッチSU2a,SV2a,SW2aは、Y結線の中性点を構成する中性点構成スイッチに相当する。下アームスイッチSU2b,SV2b,SW2bは、中性点を構成しないため、非中性点構成スイッチに相当する。
【0024】
回転電機のU,V,W相は、Y駆動時には対称に結線された状態となり、所定の周波数成分において電流波形が互いに打ち消されて、瞬時ベクトル和が零の状態となる。すなわち、回転電機のY駆動時には、U,V,W相について三相和が零の状態を利用することができる。この三相和が零の状態となる所定の周波数成分を、本明細書では、特定周波数成分と称する。
【0025】
下記式(1)は、相電流の電流波形についてフーリエ級数展開を行って得られる周波数関数f(x)を示す式である。Y駆動時には、3,9,15次成分においてU,V,W相が互いに同位相となるため、三相和が零の状態となることが知られている。すなわち、3相の回転電機においては、3,9,15次成分において三相和が零となり、3,9,15次成分を特定周波数成分として用いることができる。
【0026】
【0027】
上記のとおり、Y駆動時には、特定周波数成分においてU,V,W相の各相電流が互いに打ち消される場合であっても、H駆動時には、同じ特定周波数成分においてもU,V,W相の各相電流が互いに打ち消されない。このため、回転電機のH駆動時には、各相電流の総和である総和電流を演算した場合には、総和電流は零にはならない。
【0028】
図2(a)は、回転電機のH駆動時に、相電流センサDU,DV,DWが検出するU,V,W相の相電流IU,IV,IWをそれぞれ示している。
図2(b)は、
図2(a)に示す相電流IU,IV,IWの3次成分の総和電流ISを示している。
図2に示すように、回転電機のH駆動時に、相電流センサDU,DV,DWが検出するU,V,W相の相電流IU,IV,IWは同位相にならないため打ち消し合うことがない。その結果、
図2(b)に示すように、3次成分の総和電流ISは零にはならず、正常時には正弦波形となる。なお、制御部12は、相電流センサDU,DV,DWから、
図2(a)に示すような相電流IU,IV,IWを取得し、3次成分の総和を演算することにより、
図2(b)に示すような総和電流ISを得ることができる。また、
図2(a),(b)は、同じ時間軸により同時期の電流波形を比較表示したものである。
【0029】
上記の知見に基づき、制御部12は、回転電機のH駆動時には、相電流センサDU,DV,DWが検出する各相の相電流に基づいて、特定周波数成分において電流波の総和である総和電流ISを算出し、この総和電流ISを監視する。
【0030】
図3(a)(b)は、相電流IWと、相電流IU,IV,IWの3次成分の総和電流ISとを同じ時間軸により比較表示したものである。なお、
図3(a)は、相電流センサDWの出力電圧についても図示している。
図3(a)に示すように、相電流センサDWが故障して出力電圧が0からVerrにステップ状に変化すると、相電流センサDWが検出する相電流IWの電流波形が正常な正弦波形から異常な波形へと変化する。相電流IWの電流波形が異常に変化した時点で、
図3(b)に示すように、3次成分の総和電流ISもまた、正常な正弦波形から異常な波形へと変化する。相電流IU,IVについても、同様に、その電流波形が正常な正弦波形から異常な波形へと変化した時点で、3次成分の総和電流が正弦波形から異常な波形へと変化する。
【0031】
制御部12は、
図3(b)に示すような総和電流ISが正常な正弦波形から異常な波形へと変化することを監視することにより、相電流センサDU,DV,DWの故障を診断することができる。
図3(b)に示すように、異常な波形においては、電流の振幅が大きくなる。このため、制御部12は、例えば、総和電流ISが、所定の電流閾値を超えた時間の累計が所定の時間閾値を超えた場合に、相電流センサDU,DV,DWのうちの少なくともいずれかが故障したと判定するように構成することができる。
【0032】
制御部12は、総和電流ISの所定の次数成分を監視することにより、相電流センサDU,DV,DWの故障を診断するように構成されていてもよい。この故障診断について、
図4~10を用いて、より具体的に説明する。なお、
図4,6,9において、縦軸は電流を示し、横軸は時間を示している。また、
図5,7,8,10において、縦軸は電流を示し、横軸は周波数を示し、波形のピーク近傍に付された1,2,3の数字は、それぞれ1次成分、2次成分、3次成分を示している。
【0033】
図4は、
図1に示すU,V,W相を有するオープン巻線の3相回転電機をH駆動し、交互PWM駆動を実行した際に、相電流センサDU,DV,DWが検出した相電流IU,IV,IWを示している。
図4に示すように、時間tcにおいて、相電流IU,IV,IWが正常な正弦波から異常波形に変化している。
【0034】
図5は、時間tc以前の正常状態において、相電流IU,IV,IWについてそれぞれ高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier transform)により周波数解析を行った結果を示している。なお、
図5においても、
図4と同様に、実線、破線、一点鎖線は、それぞれ、相電流IU,IV,IWの周波数解析結果を示している。
図5に示すように、正常状態においては、1次成分が最も大きく、その次に3次成分が大きい。
【0035】
図6は、時間tc以前の正常状態において、
図4に示す相電流IU,IV,IWから得られた総和電流ISを示している。
図7は、
図6に示す総和電流ISについて高速フーリエ変換により周波数解析を行った結果を示している。
図7に示すように、正常状態の総和電流ISにおいては、3次成分が最も大きい。
【0036】
図8は、時間tc以後の異常状態において、相電流IU,IV,IWについてそれぞれ高速フーリエ変換により周波数解析を行った結果を示している。なお、
図8においても、
図4と同様に、実線、破線、一点鎖線は、それぞれ、相電流IU,IV,IWの周波数解析結果を示している。
図8に示すように、異常状態においては、正常状態においては現れなかった2次成分のピークが出現しており、3次成分のピークよりも大きくなっている。
【0037】
図9は、時間tc以後の異常状態において、
図4に示す相電流IU,IV,IWから得られた総和電流ISを示している。
図10は、
図9に示す総和電流ISについて高速フーリエ変換により周波数解析を行った結果を示している。
図10に示すように、異常状態においては、正常状態においては現れなかった2次成分のピークが出現している。このように、総和電流ISを周波数解析すると、相電流センサDU,DV,DWに故障が生じた場合には、総和電流ISにおいて次数が偶数である周波数成分のピーク(例えば、2次成分のピーク)が出現する傾向がある。このため、制御部12は、例えば、総和電流を周波数解析し、次数が偶数である周波数成分のピークが所定以上となった場合に、相電流センサDU,DV,DWのうちの少なくともいずれかが故障したと判定するように構成することができる。
【0038】
図11に、制御部12が実行する故障診断処理のフローチャートの一例を示す。
図11に示す処理は、所定の周期で繰り返し実行される。
【0039】
まず、ステップS101では、相電流センサDU,DV,DWから、電流の検出値である相電流IU,IV,IWを取得する。その後、ステップS102に進み、ステップS101において取得した相電流IU,IV,IWに基づいて、相電流IU,IV,IWの総和である総和電流ISを算出する。その後、ステップS103に進む。
【0040】
ステップS103では、ステップS102で算出した総和電流ISが、所定の電流閾値X1を超えた状態である累計時間T1が所定の時間閾値Y1を超えたか否かを判定する。例えば、IS>X1かつT1>Y1である場合には、ステップS103において肯定判定され、ステップS104に進み、相電流センサDU,DV,DWのうちの少なくともいずれかが故障したと診断する。一方、IS≦X1またはT1≦Y1である場合には、ステップS103において否定判定され、ステップS105に進み、相電流センサDU,DV,DWについて故障なしと診断する。ステップS104,S105の後、処理を終了する。
【0041】
上記のとおり、第1実施形態によれば、第1インバータINV1と第2インバータINV2とを相ごとに接続する複数の第1相接続線LU1,LV1,LW1のそれぞれに、1つずつ相電流センサDU,DV,DWが設けられている。制御部12は、ステップS101,S102に示すように、回転電機のH駆動時に、相電流センサDU,DV,DWによる検出値である相電流IU,IV,IWを取得し、相電流IU,IV,IWの総和である総和電流ISを算出する。そして、制御部12は、ステップS103~S105に示すように、総和電流ISが、電流閾値X1を超えた累計時間T1が時間閾値Y1を超えた場合に、相電流センサDU,DV,DWのうちの少なくともいずれかが故障したと判定する。このため、U,V,W相ごとに1つずつ相電流センサDU,DV,DWを設置するだけで、相電流センサDU,DV,DWのいずれかが故障した場合には、これを診断により判定できる。H駆動を実行する駆動回路において、相電流センサの故障診断のために追加する電流センサの個数を低減でき、電流センサの故障診断と、電流センサの個数低減とを両立できる。
【0042】
(変形例)
制御部12は、さらに、駆動回路11において接続線スイッチSCを開状態に制御して回転電機をY駆動する際にも、相電流センサDU,DV,DWの故障診断を実行可能に構成されていてもよい。
【0043】
例えば、回転電機のY駆動時には、3,9,15次成分に例示される特定周波数成分において、三相和が零の状態となる。この知見に基づいて、相電流センサDU,DV,DWのうちの1つを代替監視センサとして選定する。そして、代替監視センサ以外の他の相電流センサの相電流を取得して、特定周波数成分において2つの相電流センサの検出値の和を算出し、三相和が零となることに基づいて、代替監視センサとして選定した相電流を算出する。そして、代替監視センサの算出値と、代替監視センサが実測する検出値とを比較することにより、相電流センサDU,DV,DWの故障診断を行う。
【0044】
具体的には、制御部12は、回転電機のY駆動時に、相電流センサDWを代替監視センサとして選定する。そして、相電流センサDU,DVの検出値である相電流IU,IVを取得する。特定周波数成分においては、三相和が零となるため、相電流IUと相電流IVから、W相の相電流の算出値IWcを算出できる。より具体的には、下記式(2)より、算出値IWcを算出できる。
【0045】
IWc+IU+IV=0 ・・(2)
【0046】
制御部12は、算出値IWcと、代替監視センサとしての相電流センサDWが検出する相電流の検出値IWdとを比較する。そして、算出値IWcと検出値IWdとが略一致する場合に、相電流センサDU,DV,DWについて故障なしと診断し、算出値IWcと検出値IWdとが乖離する場合に、相電流センサDU,DV,DWについて故障ありと診断する。
【0047】
(第2実施形態)
第2実施形態に係る駆動装置10は、
図12に示すように、3つの第1相接続線LU1,LV1,LW1に流れる全電流を一括して検出可能な1つの電流センサを監視センサDTとしてさらに備えている。制御部12は、相電流センサDU,DV,DWが検出する相電流IU,IV,IWと、監視センサDTが検出する全電流ITをと取得し、相電流IU,IV,IWと、全電流ITとに基づいて、駆動回路11の故障診断を実行する。その他の
図12に示す駆動装置10の各構成は、
図1に示す駆動装置10と同様であるため、説明を省略する。
【0048】
図13に示すように、制御部12は、相電流IU,IV,IWの総和電流IS(三相和演算値)を算出し、その電流波形を、監視センサDTの検出値である全電流ITの電流波形と比較する。制御部12は、総和電流ISと全電流ITとの双方が、異常波形である(正常な正弦波形ではない)場合には、素子故障(例えば、各インバータINV1,INV2を構成するスイッチング素子の故障)などの故障モードに該当し、駆動回路11において、相電流センサDU,DV,DWおよび監視センサDTではなく、他の部位の故障であると判断する。
【0049】
また、制御部12は、総和電流ISが異常波形であり、かつ、全電流ITが正常波形である場合には、相電流センサ故障の故障モードに該当し、相電流センサDU,DV,DWの少なくともいずれかが故障したと判断する。
【0050】
また、制御部12は、総和電流ISが正常波形であり、かつ、全電流ITが異常波形である場合には、監視センサ故障の故障モードに該当し、監視センサDTが故障したと判断する。
【0051】
また、制御部12は、
図13のいずれの故障モードにも該当しない場合、すなわち、総和電流ISと全電流ITとの双方が正常な正弦波形である場合には、相電流センサDU,DV,DWおよび監視センサDTの全てが正常であると判断する。
【0052】
図14に、制御部12が実行する故障診断処理のフローチャートを示す。
図11に示す処理は、所定の周期で繰り返し実行される。
【0053】
まず、ステップS201では、相電流センサDU,DV,DWから、電流の検出値である相電流IU,IV,IWを取得するとともに、監視センサDTから、電流の検出値である全電流ITを取得する。その後、ステップS202に進み、ステップS201において取得した相電流IU,IV,IWに基づいて、相電流IU,IV,IWの総和である総和電流ISを算出する。その後、ステップS203に進む。
【0054】
ステップS203では、ステップS202で算出した総和電流ISが、所定の電流閾値X1を超えた状態である累計時間T1が所定の時間閾値Y1を超えたか否かを判定する。例えば、IS>X1かつT1>Y1である場合には、ステップS203において肯定判定され、ステップS204に進む。一方、IS≦X1またはT1≦Y1である場合には、ステップS203において否定判定され、ステップS207に進む。
【0055】
ステップS204では、ステップS201で算出した全電流ITが、所定の電流閾値X2を超えた状態である累計時間T2が所定の時間閾値Y2を超えたか否かを判定する。例えば、IT>X2かつT2>Y2である場合には、ステップS204において肯定判定され、ステップS205に進み、素子故障あり(素子故障モードである)と診断し、処理を終了する。一方、IT≦X2またはT2≦Y2である場合には、ステップS204において否定判定され、ステップS206に進み、相電流センサDU,DV,DWについて故障あり(相電流センサ故障モードである)と診断し、処理を終了する。
【0056】
ステップS207では、ステップS204と同様に、全電流ITが、所定の電流閾値X2を超えた状態である累計時間T2が所定の時間閾値Y2を超えたか否かを判定する。IT>X2かつT2>Y2である場合には、ステップS207において肯定判定され、ステップS208に進み、監視センサDTについて故障あり(監視センサ故障モードである)と診断し、処理を終了する。一方、IT≦X2またはT2≦Y2である場合には、ステップS207において否定判定され、ステップS209に進み、故障なしと診断し、処理を終了する。
【0057】
上記のとおり、第2実施形態によれば、相電流センサDU,DV,DWに加えて、3つの第1相接続線LU1,LV1,LW1に流れる全電流を一括して検出可能な監視センサDTをさらに備えている。
【0058】
制御部12は、ステップS201に示すように、回転電機のH駆動時に、相電流IU,IV,IWに加えて、監視センサDTの検出値である全電流ITを取得する。そして、ステップS203~S209に示すように、相電流IU,IV,IWの総和である総和電流ISと、全電流ITとに基づいて、故障診断を実行する。このため、U,V,W相ごとに1つずつの相電流センサDU,DV,DWと、1つの監視センサDTとを設置するだけで、相電流センサDU,DV,DWのいずれかが故障した場合には、これを診断により判定できる。さらには、監視センサDTの故障診断も併せて実行できる。H駆動を実行する駆動回路において、相電流センサの故障診断のために追加する電流センサの個数を低減でき、電流センサの故障診断と、電流センサの個数低減とを両立できる。
【0059】
(変形例)
図12に示す駆動装置10においては、制御部12は、相電流センサDU,DV,DWの少なくともいずれかが故障したと判断した場合に、さらに、相電流センサDU,DV,DWのうちいずれが故障したかを特定するように構成されていてもよい。制御部12は、例えば、U,V,W相の各相接続線について1相のみを通電した状態で、総和電流ISの電流波形と、全電流ITの電流波形とを比較することにより、故障した相電流センサを特定することができる。U,V,W相のうち1相のみを通電すると、相電流センサが正常である相については、総和電流ISと全電流ITとが略一致する。U,V,W相について、1相ずつ順番に通電し、総和電流ISの電流波形と全電流ITの電流波形とが乖離した相を特定する処理を実行することにより、相電流センサDU,DV,DWのうちいずれが故障したかを特定することができる。駆動装置10が、車両に搭載される回転電機の駆動装置である場合においては、相電流センサDU,DV,DWのうちいずれが故障したかを特定することにより、故障時の退避走行が可能となる。
【0060】
なお、上記の各実施形態では、相電流センサDU,DV,DWと、監視センサDTとは、第1相接続線LU1,LV1,LW1に設置されていたが、第2相接続線LU2,LV2,LW2に接続されていてもよい。また、接続線スイッチSCは、低電位接続線Lbにのみ備えられていてもよく、高電位接続線Laと低電位接続線Lbの双方に備えられていてもよい。
【0061】
また、制御部12は、相電流センサDU,DV,DW等の故障診断について、故障診断を常時実行する常時故障診断モードと、故障診断を所定の診断条件時にのみ実行する非常時故障診断モードとを、回転電機の駆動状態に基づいて切り替えるように構成されていてもよい。例えば、駆動装置10が、車両に搭載される回転電機の駆動装置である場合においては、車速が高速である場合に常時故障診断モードを実行し、低速である場合に非常時故障診断モードを実行するように切り替えてもよい。より具体的には、車速が所定の速度閾値以上である場合に常時故障診断モードを実行し、車速が所定の速度閾値未満である場合に非常時故障診断モードを実行するように切り替えてもよい。
【0062】
上記の各実施形態によれば、下記の効果を得ることができる。
【0063】
回転電機の駆動装置10は、複数相に対応する複数の巻線を有する回転電機に適用される。駆動装置10は、駆動回路11と、制御部12とを備えている。駆動回路11は、直流電源VDCに接続された第1インバータINV1と、第2インバータINV2と、第1インバータINV1と第2インバータINV2とを相ごとに接続する複数の第1相接続線LU1,LV1,LW1のそれぞれに1つずつ設けられた相電流センサDU,DV,DWと、高電位接続線Laと、低電位接続線Lbと、を含み、回転電機のH駆動を実行可能に構成されている。制御部12は、その上アームスイッチ及び下アームスイッチの開閉を制御することにより第1インバータINV1と第2インバータINV2の作動を制御可能に構成されている。
【0064】
制御部12は、さらに、回転電機のH駆動時に、相電流センサDU,DV,DWが検出する相電流IU,IV,IWに基づいて各相電流の総和である総和電流ISを算出する。そして、総和電流ISに基づいて、相電流センサDU,DV,DWの故障診断を実行する。H駆動時には、特定周波数成分においても総和電流ISが零にならないため、総和電流ISを監視することにより、相電流センサDU,DV,DWの故障を診断できる。駆動装置10によれば、第1相接続線LU1,LV1,LW1を流れる相電流センサDU,DV,DWを相ごとに1つずつ設置するだけで、相電流センサDU,DV,DWのいずれかが故障した場合には、これを診断により判定できる。H駆動を実行する駆動回路11において、相電流センサDU,DV,DWの故障診断のために追加する電流センサの個数を低減でき、電流センサの故障診断と、電流センサの個数低減とを両立できる。
【0065】
例えば、制御部12は、総和電流ISが、所定の電流閾値X1を超えた時間の累計(T1)が所定の時間閾値Y1を超えた場合に、相電流センサDU,DV,DWのうちの少なくともいずれかが故障したと判定するように構成されていてもよい。
【0066】
また、制御部12は、総和電流ISを周波数解析し、次数が偶数である周波数成分のピークが所定以上となった場合に、相電流センサDU,DV,DWのうちの少なくともいずれかが故障したと判定するように構成されていてもよい。
【0067】
駆動回路11は、複数の相接続線に流れる全電流を一括して検出可能な1つの電流センサを監視センサDTとしてさらに備えていてもよい。この場合、制御部12は、相電流IU,IV,IWの電流波形と、監視センサDTが検出する全電流ITの電流波形とに基づいて、相電流センサの故障診断を実行するように構成されていてもよい。具体的には、制御部12は、総和電流ISと全電流ITとの双方が正常な正弦波形である場合には、正常と判断してもよい。また、総和電流ISと全電流ITとの双方が正常な正弦波形ではない場合には、相電流センサDU,DV,DWおよび監視センサDT以外の他の駆動回路11の部位が故障したと判断してもよい。また、総和電流ISが正常な正弦波形ではなく、かつ、全電流ITが正常な正弦波形である場合には、相電流センサDU,DV,DWの少なくともいずれかが故障したと判断してもよい。また、総和電流ISが正常な正弦波形であり、かつ、全電流ITが正常な正弦波形ではない場合には、監視センサDTが故障したと判断してもよい。
【0068】
駆動回路11が監視センサDTを備える場合、制御部12は、相電流センサDU,DV,DWの少なくともいずれかが故障したと判断した場合に、さらに、各相接続線について1相のみを通電した状態で、総和電流ISの電流波形と、全電流ITの電流波形とを比較することにより、故障した相電流センサを特定するように構成されていてもよい。駆動装置10が、車両に搭載される回転電機の駆動装置である場合においては、相電流センサDU,DV,DWのうちいずれが故障したかを特定することにより、故障時の退避走行が可能となる。
【0069】
制御部12は、相電流センサDU,DV,DWの故障診断を常時実行する常時故障診断モードと、相電流センサDU,DV,DWの故障診断を所定の診断条件時にのみ実行する非常時故障診断モードとを、回転電機の駆動状態に基づいて切り替え可能に構成されていてもよい。
【0070】
また、駆動回路11は、第1インバータINV1と第2インバータINV2とを導通または遮断する接続線スイッチSCをさらに備え、回転電機のH駆動とY駆動とを切り替え可能に構成されている。この場合、制御部12は、回転電機のY駆動時には、相電流センサDU,DV,DWのうちの1つを代替監視センサとして選定し、代替監視センサ以外の他の相電流センサの相電流の総和と、代替監視センサが検出する電流とに基づいて、相電流センサDU,DV,DWの故障診断を実行するように構成されていてもよい。駆動装置10によれば、回転電機のH駆動時とY駆動時のいずれの場合においても、3つの相電流センサDU,DV,DWを用いて、その故障診断を実行することができる。H駆動時とY駆動時のいずれの場合においても、相電流センサDU,DV,DWの故障診断のために追加する電流センサの個数を低減でき、電流センサの故障診断と、電流センサの個数低減とを両立できる。
【0071】
本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウエア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウエア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0072】
10…駆動装置、11…駆動回路、12…制御部