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特許7441140波長変換部材、波長変換装置、および、光源装置
<図1>
  • 特許-波長変換部材、波長変換装置、および、光源装置 図1
  • 特許-波長変換部材、波長変換装置、および、光源装置 図2
  • 特許-波長変換部材、波長変換装置、および、光源装置 図3
  • 特許-波長変換部材、波長変換装置、および、光源装置 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】波長変換部材、波長変換装置、および、光源装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/20 20060101AFI20240221BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20240221BHJP
   F21V 9/32 20180101ALI20240221BHJP
   F21V 29/502 20150101ALI20240221BHJP
   F21Y 115/10 20160101ALN20240221BHJP
   F21Y 115/30 20160101ALN20240221BHJP
【FI】
G02B5/20
H01L33/50
F21V9/32
F21V29/502 100
F21Y115:10
F21Y115:30
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020131691
(22)【出願日】2020-08-03
(65)【公開番号】P2022028346
(43)【公開日】2022-02-16
【審査請求日】2023-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 淳也
(72)【発明者】
【氏名】八谷 洋介
(72)【発明者】
【氏名】桜井 利之
(72)【発明者】
【氏名】高久 翔平
(72)【発明者】
【氏名】田中 智雄
(72)【発明者】
【氏名】竹内 裕貴
【審査官】内村 駿介
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-107417(JP,A)
【文献】特開2018-056497(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107887490(CN,A)
【文献】特開2020-046638(JP,A)
【文献】特開2012-059939(JP,A)
【文献】特開2019-075343(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/20
H01L 33/50
F21V 9/32
F21V 29/502
F21Y 115/10
F21Y 115/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長変換部材であって、
光が入射する入射面と、前記入射面の反対側に位置する裏面と、を有し、前記入射面から入射する光の波長を変換するセラミック蛍光体と、
前記セラミック蛍光体の前記裏面の一部に接合され、前記セラミック蛍光体に入射した光を反射する反射面を有する反射膜と、
前記反射膜を封止する封止膜であって、前記反射膜を覆い、前記封止膜の端部が前記反射膜の端部を超えて前記セラミック蛍光体の前記裏面に接合される封止膜と、を備え、
前記セラミック蛍光体と前記反射膜と前記封止膜との積層方向に沿った前記波長変換部材の断面において、
前記セラミック蛍光体と前記反射膜との接合線の一方の端部の位置を第1位置とし、
前記第1位置から、前記接合線に沿って、前記反射膜の前記積層方向における厚みの10倍に相当する距離だけ前記接合線の他方の端部側に向かった位置を第2位置とし、
前記第2位置から前記積層方向に沿った第1仮想線と、前記反射膜と前記封止膜との境界線との交点の位置を第3位置とし、
前記第1位置と前記第3位置とを結ぶ仮想線を第2仮想線とすると、
前記反射膜の断面のうち、
前記第2仮想線よりも前記封止膜側に位置する領域の面積Aは、
前記第1仮想線、前記第2仮想線、および、前記接合線で囲まれる領域の面積Bよりも小さい、ことを特徴とする波長変換部材。
【請求項2】
請求項1に記載の波長変換部材であって、
前記面積Aは、前記面積Bの90%以下である、ことを特徴とする波長変換部材。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の波長変換部材であって、
前記積層方向に沿った前記波長変換部材の断面において、
前記第1位置から前記積層方向に沿った仮想線を第3仮想線とすると、
前記反射膜の断面は、前記第3仮想線の一方の側に位置し、前記第3仮想線にまたがって前記第3仮想線の両側に位置しない、ことを特徴とする波長変換部材。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の波長変換部材であって、
前記封止膜の端部は、前記第2仮想線に沿った方向に延伸している、ことを特徴とする波長変換部材。
【請求項5】
波長変換装置であって、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の波長変換部材と、
前記セラミック蛍光体の熱を外部に放出する放熱部材と、
前記波長変換部材と前記放熱部材とを接合する接合層と、を備えることを特徴とする波長変換装置。
【請求項6】
光源装置であって、
請求項5に記載の波長変換装置と、
前記セラミック蛍光体に光を照射する光源と、を備えることを特徴とする、
光源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長変換部材、波長変換装置、および、光源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、光源が発した光の波長を変換する波長変換部材が知られている。一般的に、波長変換部材は、入射する光の波長を変換する蛍光体と、蛍光体の裏面に配置され、蛍光体に入射した光を反射する反射膜と、を有する。例えば、特許文献1には、反射膜を覆う封止膜によって、反射膜と外気との接触を抑制する技術が開示されている。また、特許文献2には、反射膜の外側に、放熱部材と波長変換部材との接合力を高めるための接合補助膜を備える技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許6094617号公報
【文献】特開2019-105763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記先行技術によっても、波長変換部材において、反射膜の劣化を防止することで発光強度の低下を抑制するには、なお改善の余地があった。例えば、特許文献1に記載の技術では、封止膜は、蛍光体より小さい反射膜を覆いつつ、端部がセラミック蛍光体に接合される。これにより、封止膜において、反射膜を覆う部分のセラミック蛍光体からの距離と、セラミック蛍光体に接合する部分のセラミック蛍光体からの距離と、が異なるため、封止膜は、折れ曲がる形状となる。このような形状の封止膜は、応力が作用するとクラックが入りやすいため、クラックを通る外気と反射膜とが接触し、反射膜が酸化などするおそれがある。反射膜が酸化などによって劣化すると、波長変換部材の発光強度が低下する。また、特許文献2に記載の技術では、接合補助膜は、反射膜全体を覆いつつ、外縁部が蛍光体に接合される。このため、接合補助膜は、折れ曲がる形状となるため、クラックが入りやすく、クラックを通る外気と反射膜とが接触しやすくなる。これにより、反射膜が劣化し、波長変換部材の発光強度が低下するおそれがある。
【0005】
本発明は、波長変換部材において、発光強度の低下を抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0007】
(1)本発明の一形態によれば、波長変換部材が提供される。この波長変換部材は、光が入射する入射面と、前記入射面の反対側に位置する裏面と、を有し、前記入射面から入射する光の波長を変換するセラミック蛍光体と、前記セラミック蛍光体の前記裏面の一部に接合され、前記セラミック蛍光体に入射した光を反射する反射面を有する反射膜と、前記反射膜を封止する封止膜であって、前記反射膜を覆い、前記封止膜の端部が前記反射膜の端部を超えて前記セラミック蛍光体の前記裏面に接合される封止膜と、を備え、前記セラミック蛍光体と前記反射膜と前記封止膜との積層方向に沿った前記波長変換部材の断面において、前記セラミック蛍光体と前記反射膜との接合線の一方の端部の位置を第1位置とし、前記第1位置から、前記接合線に沿って、前記反射膜の前記積層方向における厚みの10倍に相当する距離だけ前記接合線の他方の端部側に向かった位置を第2位置とし、前記第2位置から前記積層方向に沿った第1仮想線と、前記反射膜と前記封止膜との境界線との交点の位置を第3位置とし、前記第1位置と前記第3位置とを結ぶ仮想線を第2仮想線とすると、前記反射膜の断面のうち、前記第2仮想線よりも前記封止膜側に位置する領域の面積Aは、前記第1仮想線、前記第2仮想線、および、前記接合線で囲まれる領域の面積Bよりも小さい。
【0008】
この構成によれば、積層方向に沿った波長変換部材の断面において、反射膜の断面形状では、面積Aは、面積Bより小さいため、反射膜のセラミック蛍光体側とセラミック蛍光体の反対側とは、緩やかに接続される。これにより、反射膜を覆いつつ端部が反射膜の端部を超えてセラミック蛍光体の裏面に接合される封止膜では、反射膜のセラミック蛍光体の反対側に配置される部分と、セラミック蛍光体の裏面に接合する接合部とが緩やかに接続される。封止膜において、この2つの部分が緩やかに接続されることで、封止膜の形状は、緩やかに曲がる形状になるため、封止膜に応力が作用しても、封止膜にクラックは発生しにくくなる。クラックは、反射膜を酸化などさせる外気が反射膜に接触するときの侵入経路となるが、上述した構成によれば、クラックの発生が抑制されるため、クラックを介した外気と反射膜との接触が抑制される。これにより、反射膜の劣化が抑制されるため、発光強度の低下を抑制することができる。
【0009】
(2)上記形態の波長変換部材において、前記面積Aは、前記面積Bの90%以下であってもよい。この構成によれば、反射膜の断面において、封止膜側の面積Aは、反射膜側の面積Bの90%以下となっている。これにより、反射膜の端部は、セラミック蛍光体側の幅より外側に突出しない形状となりやすいため、封止膜の形状は、さらに緩やかに曲がる形状となる。したがって、クラックを介した外気と反射膜との接触がさらに抑制されるため、反射膜の劣化が抑制され、発光強度の低下をさらに抑制することができる。
【0010】
(3)上記形態の波長変換部材において、前記積層方向に沿った前記波長変換部材の断面において、前記第1位置から前記積層方向に沿った仮想線を第3仮想線とすると、前記反射膜の断面は、前記第3仮想線の一方の側に位置し、前記第3仮想線にまたがって前記第3仮想線の両側に位置していなくてもよい。この構成によれば、反射膜の断面は、第3仮想線の一方の側に位置し、第3仮想線にまたがって第3仮想線の両側に位置していない。すなわち、反射膜において、セラミック蛍光体側の部分と、セラミック蛍光体の反対側の部分とは、比較的なだらかに接続される。これにより、封止膜の形状は、さらに緩やかに曲がる形状になるため、応力による封止膜でのクラックの発生がさらに抑制される。また、反射膜において、セラミック蛍光体側の部分と、セラミック蛍光体の反対側の部分とが比較的なだらかに接続されるため、反射膜上に形成される封止膜と反射膜との間に隙間が形成されにくくなる。これによっても、応力による封止膜でのクラックの発生がさらに抑制される。したがって、クラックを介した外気と反射膜との接触がさらに抑制されるため、反射膜の劣化が抑制され、発光強度の低下をさらに抑制することができる。
【0011】
(4)上記形態の波長変換部材において、前記封止膜の端部は、前記第2仮想線に沿った方向に延伸してもよい。この構成によれば、封止膜の端部は、第2仮想線に沿った方向に延伸している。これにより、封止膜は、セラミック蛍光体に向かって広がっているため、はんだを用いて、波長変換部材の封止膜側と、他の部材とを接合するとき、はんだ内に発生するボイドが封止膜の形状に沿って波長変換部材の外側に向かって移動する。はんだ内のボイドは、セラミック蛍光体において光の波長を変換するときに発生する熱の伝熱を妨げるため、特に、波長変換部材の中央部分にはないことが望ましい。上述した構成によれば、はんだ内のボイドは、波長変換部材の外側に移動するため、熱的に厳しい波長変換部材の中心部分の放熱を良好に行うことができる。したがって、温度消光による発光強度の低下を抑制することができる。
【0012】
(5)本発明の別の形態によれば、波長変換装置が提供される。この波長変換装置は、上記形態の波長変換部材と、前記波長変換部材の熱を外部に放出する放熱部材と、前記波長変換部材と前記放熱部材を接合する接合層と、を備える。この構成によれば、封止膜の形状は、緩やかに曲がる形状になるため、封止膜にクラックが発生しにくくなり、反射膜の酸化などを抑制することができる。また、波長変換部材で発生する熱を放熱部材によって外部に放出することができる。これにより、反射膜の劣化による発光強度の低下を抑制しつつ、熱による波長変換装置の発光強度の低下を抑制することができる。
【0013】
(6)本発明のさらに別の形態によれば、光源装置が提供される。この光源装置は、上記の波長変換装置と、前記セラミック蛍光体に光を照射する光源と、を備える。この構成によれば、波長変換装置では、緩やかに曲がる形状となっている封止膜にクラックが発生しにくいため、反射膜の劣化が抑制される。これにより、セラミック蛍光体で波長が変換された光の一部や、セラミック蛍光体を素通りする光などセラミック蛍光体内の光を、劣化しにくい反射膜で反射することができるため、光源装置の発光強度の低下を抑制することができる。
【0014】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、波長変換部材や波長変換装置などを含む各種装置、これらの装置を製造する製造方法等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1実施形態の波長変換装置を備える光源装置の断面図である。
図2】第1実施形態の波長変換部材の断面図である。
図3図2のS部拡大図である。
図4】製造時の波長変換装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<第1実施形態>
図1は、本実施形態の波長変換装置1を備える光源装置5の断面図である。図2は、第1実施形態の波長変換部材2の断面図である。本実施形態の光源装置5では、発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)や半導体レーザー(LD:Laser Diode)などの光源6が発した光L1を波長変換装置1に照射する。光L1が照射された波長変換装置1は、光L1とは異なる波長の光L2を発生し、光源装置5の外部に放出する。このような波長変換装置1は、例えば、ヘッドランプ、照明、プロジェクタなどの各種光学機器において使用される。波長変換装置1は、セラミック蛍光体10と、反射膜20と、封止膜30と、接合膜40と、放熱部材60と、接合層70と、を備えている。波長変換装置1は、セラミック蛍光体10と、反射膜20と、封止膜30と、接合膜40と、酸化防止膜50と、を備える波長変換部材2(図2参照)と、放熱部材60とを接合層70によって接合することで製造される。なお、図1および図2における、セラミック蛍光体10と、反射膜20と、封止膜30と、接合膜40と、酸化防止膜50と、放熱部材60と、接合層70とのそれぞれの大きさおよび厚みの関係は、説明の便宜上、実際の大きさまたは厚みの関係とは異なるように図示されている。
【0017】
波長変換部材2では、セラミック蛍光体10において、波長変換装置1に照射される光の波長が変換される。セラミック蛍光体10において波長が変換された光は、反射膜20によって反射された光とともに、波長変換装置1の外部に放出される。波長変換部材2の詳細な構成は、後述する。
【0018】
放熱部材60は、例えば、銅、銅モリブデン合金、銅タングステン合金、アルミニウム、窒化アルミニウムなど、セラミック蛍光体10よりも高い熱伝導性を有する材料から形成されている平板部材である。放熱部材60は、接合層70を通して伝わるセラミック蛍光体10の熱を外部に放出する。なお、放熱部材60は、上述した材料からなる単層構造の部材であってもよいし、同種または異なる材料から形成されている多層構造の部材であってもよい。また、放熱部材60のセラミック蛍光体10側の面には、接合層70との密着性を高めるめっきが配置されていてもよい。
【0019】
接合層70は、セラミック蛍光体10と放熱部材60の間に配置され、金と錫とからなる。接合層70は、セラミック蛍光体10と放熱部材60とを接合し、セラミック蛍光体10と放熱部材60との間での熱のやり取りを行う。
【0020】
波長変換部材2は、セラミック蛍光体10と、反射膜20と、封止膜30と、接合膜40と、酸化防止膜50と、を備える。
【0021】
セラミック蛍光体10は、平板状部材であって、本実施形態では、4mm×4mmの矩形状をなす。セラミック蛍光体10は、光が入射する入射面11と、入射面11の反対側に位置する裏面12とを有する。セラミック蛍光体10は、入射面11から入射する光L1の波長を変換する。セラミック蛍光体10は、蛍光性を有する結晶粒子を主体とする蛍光相と、透光性を有する結晶粒子を主体とする透光相を有するセラミック焼結体から構成されている。透光相の結晶粒子は、化学式Al23で表される組成を有し、蛍光相の結晶粒子は、化学式A3512:Ceで表される組成(いわゆる、ガーネット構造)を有することが好ましい。「A3512:Ce」とは、A3512の中にCeが固溶し、元素Aの一部がCeに置換されていることを示す。
【0022】
化学式A3512:Ce中の元素Aおよび元素Bは、それぞれ下記の元素群から選択される少なくとも1種類の元素から構成されている。
元素A:Sc、Y、Ceを除くランタノイド(ただし、元素AとしてさらにGdを含んでいてもよい)
元素B:Al(ただし、元素BとしてさらにGaを含んでいてもよい)
セラミック蛍光体10として、セラミック焼結体を使用することで、蛍光相と透光相との界面で光が散乱し、光の色の角度依存性を減らすことができる。これにより、色の均質性を向上することができる。なお、セラミック蛍光体10の材料は、上述の材料に限定されない。
【0023】
反射膜20は、銀(Ag)からなる矩形形状の薄膜であって、セラミック蛍光体10の裏面12の一部に接合されている。反射膜20は、セラミック蛍光体10の裏面12に対向する反射面21と、反射面21の反対側に位置する裏面22と、反射膜20の外縁において反射面21と裏面22とを接続する側面23と、を有する。反射面21は、セラミック蛍光体10に入射した光を反射する。裏面22は、反射膜20において反射面21に対して略平行な面であって、裏面22の幅は、反射面21の幅に比べ狭い。本実施形態では、反射面21の幅W21は、3.700mm×3.700mmとなっており、裏面22の幅W22は、3.699mm×3.699mmとなっている。側面23は、セラミック蛍光体10と反射膜20と封止膜30との積層方向Dsに沿って、裏面22から反射面21に向かって波長変換部材2の外側に広がるように形成される。反射膜20の詳細な構成は、後述する。なお、反射膜20は、アルミニウムなど光の反射率が高い材料から形成されていてもよい。
【0024】
封止膜30は、チタン(Ti)からなる薄膜であって、反射膜20を覆い、反射膜20を封止する。封止膜30は、被覆部31と、接合部32と、接続部33と、を有する。被覆部31は、反射膜20の裏面22上に配置されており、厚みが150nmである。被覆部31のセラミック蛍光体10側の対向面31aは、反射膜20の裏面22に対向する。接合部32は、厚みが150nmであり、反射膜20の端部20aを超えてセラミック蛍光体10の裏面12に接合される。接合部32は、セラミック蛍光体10の裏面12に接合される接合面32aを有する。接続部33は、被覆部31と接合部32とを接続する。接続部33は、セラミック蛍光体10側に、対向面31aと接合面32aとを接続する接続面33aを有する。接続面33aは、反射膜20の側面23に沿っている。接合部32は、特許請求の範囲の「封止膜の端部」に相当する。封止膜30の詳細な構成は、後述する。
【0025】
接合膜40は、ニッケル(Ni)からなる薄膜であって、封止膜30のセラミック蛍光体10の反対側の表面31b、32b、33bに配置されている。本実施形態では、接合膜40の厚みは、200nmであり、封止膜30の表面31b、32b、33bの形状に沿って形成されている。これにより、接合膜40の封止膜30の反対側の表面41の形状は、封止膜30の表面31b、32b、33bの形状と同じように、セラミック蛍光体10側に向かって外縁部分が広がるように形成される。
【0026】
酸化防止膜50は、接合膜40のセラミック蛍光体10の反対側に配置されており、厚みが、10~500nm程度の金からなる薄膜である。酸化防止膜50は、ニッケルからなる接合膜40の表面の酸化を防止するとともに、後述する放熱部材60と波長変換部材2とを接合層70によって接合するとき、接合層70に拡散し、セラミック蛍光体10と放熱部材60との接合力を向上する。
【0027】
図3は、図2のS部拡大図である。図3は、波長変換部材2における反射膜20の端部20aを含む周辺の断面図である。なお、図3における、セラミック蛍光体10と、反射膜20と、封止膜30と、接合膜40とのそれぞれの大きさおよび厚みの関係は、説明の便宜上、実際の大きさまたは厚みの関係とは異なるように図示されている。
【0028】
図3に示す積層方向Dsに沿った波長変換部材2の断面において、セラミック蛍光体10と反射膜20との接合線JL21の一方の端部の位置を第1位置P1とする。第1位置P1から、接合線JL21に沿って、反射膜20の積層方向Dsにおける厚みD20の10倍に相当する距離(図3に示す距離D1)だけ接合線JL21の他方の端部側(図3の二点鎖線矢印Dpが示す方向側)に向かった位置を第2位置P2とする。第2位置P2から積層方向Dsに沿った第1仮想線VL1と、反射膜20と封止膜30との境界線BL23との交点の位置を第3位置P3とする。第1位置P1と第3位置P3とを結ぶ仮想線を第2仮想線VL2とする。この場合、反射膜20の断面のうち、第2仮想線VL2よりも封止膜30側に位置する領域の面積Aは、第1仮想線VL1、第2仮想線VL2、および、接合線JL21で囲まれる領域の面積Bよりも小さい。具体的には、図3において、比較的密なドットハッチングが付されている部分の面積Aは、面積Aの部分に比べて比較的疎なドットハッチングが付されている部分の面積Bよりも小さい。これにより、封止膜30の形状は、緩やかに曲がる形状になるため、波長変換部材2に応力が作用しても封止膜30にクラックが発生しにくくなり、クラックを介した外気と反射膜20との接触が抑制することができる。
【0029】
また、本実施形態では、面積Aは、面積Bの90%以下となっている。これにより、反射膜20の側面23は、セラミック蛍光体10側の幅W21より外側に突出しない形状となりやすいため、封止膜30の形状は、比較的緩やかに曲がる形状となる。これにより、封止膜30に応力が作用しても封止膜30にクラックは発生しにくくなるため、クラックを介した外気と反射膜20との接触が抑制することができる。
【0030】
さらに、積層方向Dsに沿った波長変換部材2の断面において、第1位置P1から積層方向Dsに沿った仮想線を第3仮想線VL3とすると、反射膜20の断面は、第3仮想線VL3の一方の側に位置し、第3仮想線VL3にまたがって第3仮想線VL3の両側に位置しない。具体的には、図3に示す波長変換部材2の断面において、反射膜20の断面は、第3仮想線VL3より第2仮想線VL2側にのみ存在しており、第3仮想線VL3より第2仮想線VL2の反対側には存在していない。これにより、後述するように反射膜20上に形成される封止膜30の形状は、さらに緩やかな形状となるため、応力による封止膜30のクラックの発生がさらに抑制される。また、反射膜20上に形成される封止膜30と反射膜20との間には隙間が形成されにくくなるため、波長変換部材2に応力が作用しても隙間を起点としたクラックが封止膜30に発生しにくくなる。したがって、クラックを介した外気と反射膜20との接触がさらに抑制することができる。
【0031】
本実施形態では、封止膜30は、図3に示すように、第2仮想線VL2に沿った方向に延伸してしている。具体的には、封止膜30のセラミック蛍光体10の反対側の表面31b、32b、33bのそれぞれは、対向面31a、接合面32a、および、接続面33aとほぼ同じ形状になっている。これにより、被覆部31のセラミック蛍光体10とは反対側の表面31bにおけるセラミック蛍光体10の裏面12からの距離は、接合部32のセラミック蛍光体10とは反対側の表面32bにおけるセラミック蛍光体10の裏面12からの距離より長い。本実施形態では、表面31bと表面32bとを接続する接続部33のセラミック蛍光体10の反対側の表面33bは、波長変換部材2の外側に向かうにしたがって、セラミック蛍光体10の裏面12に近づく。すなわち、封止膜30は、セラミック蛍光体10側に向かって広がるように形成される。
【0032】
次に、波長変換部材2の製造方法について説明する。最初に、セラミック蛍光体10の裏面12にレジスト膜を形成する。このとき、レジスト膜の厚みを調整することで、レジスト膜の開口部分の大きさを、セラミック蛍光体10の裏面12から離れるにしたがって小さくする。次に、レジスト膜が裏面12に形成されているセラミック蛍光体10に対して、銀を蒸着またはスパッタリングし、反射膜20を成膜する。その後、レジスト膜を除去し、反射膜20の裏面22および側面23、ならびに、セラミック蛍光体10の裏面12上に封止膜30を製膜する。さらに、封止膜30の表面31b、32b、33b上に、接合膜40と酸化防止膜50とを、この順番で製膜し、波長変換部材2を製造する。
【0033】
さらに、波長変換部材2を用いて波長変換装置1を製造する場合、波長変換部材2と放熱部材60との間に金錫半田箔を挟みこんだ状態で、窒素雰囲気中または水素雰囲気中のリフロー炉において加熱する。これにより、セラミック蛍光体10と放熱部材60とが接合層70によって接合され、波長変換装置1が完成する。また、金錫半田箔を使用する代わりに、金錫半田ペーストを塗布して波長変換部材2と放熱部材60とを接合してもよい。
【0034】
図4は、製造時の波長変換装置1の断面図である。金錫半田箔を用いて波長変換部材2と放熱部材60とを接合するとき、放熱部材60の表面に形成されるめっきに含まれるガス成分や、波長変換部材2と金錫半田箔との間の隙間に由来するボイドが、波長変換部材2と放熱部材60との間に発生する(図4のV1参照)。本実施形態の波長変換装置1の製造方法では、波長変換部材2と放熱部材60とを接合するとき、図4に示すように、セラミック蛍光体10が波長変換部材2において最も鉛直方向上側に位置するように配置する。波長変換装置1の中心軸CA1付近で発生するボイドV1は、溶融状態の接合層70の内部において、接合膜40の表面41に沿って、波長変換装置1の中心軸CA1から離れ、波長変換装置1の外側に移動する(図4に示す白抜き矢印F1)。これにより、本実施形態の波長変換装置1の製造方法では、波長変換装置1の中心軸CA1付近におけるボイドV1の密度を小さくすることができる。なお、図4における、セラミック蛍光体10と、反射膜20と、封止膜30と、接合膜40と、放熱部材60と、接合層70とのそれぞれの大きさおよび厚みの関係は、説明の便宜上、実際の大きさまたは厚みの関係とは異なるように図示されている。
【0035】
以上説明した、本実施形態の波長変換部材2によれば、積層方向Dsに沿った波長変換部材2の断面において、反射膜20の断面形状では、面積Aは、面積Bより小さい。すなわち、反射膜20のセラミック蛍光体10側の部分とセラミック蛍光体10の反対側の部分とは、緩やかに接続される。これにより、反射膜20を覆いつつセラミック蛍光体10の裏面12に接合される封止膜30では、反射膜20のセラミック蛍光体10の反対側に配置される被覆部31と、セラミック蛍光体10の裏面12に接合する接合部32とが、緩やかな形状の接続部33によって接続される。封止膜30において、被覆部31と接合部32とが緩やかに接続されることで、封止膜30の形状は、緩やかに曲がる形状になるため、封止膜30に応力が作用しても、封止膜30にクラックは発生しにくくなる。クラックは、反射膜を酸化などさせる外気が反射膜に接触するときの侵入経路となるが、上述した構成によれば、クラックの発生が抑制されるため、クラックを介した外気と反射膜20との接触が抑制される。これにより、反射膜20の劣化が抑制されるため、波長変換部材2の発光強度の低下を抑制することができる。
【0036】
また、例えば、積層方向に沿った反射膜の断面形状が矩形形状である場合、反射膜を覆う封止膜は、折れ曲がる形状となるため、クラックが発生しやすくなる。この場合、クラックの発生を抑制するために封止膜の厚みを厚くすると封止膜とセラミック蛍光体との接合面積が増えるおそれがあり、反射膜の反射面の面積が小さくなる。反射面の面積が小さくなると、波長変換部材の発光強度が低下する。本実施形態の波長変換部材2によれば、積層方向Dsに沿った反射膜20の断面において、面積Aを面積Bより小さくすることで、封止膜30でのクラックの発生を抑制する。このことによって、反射膜20において、セラミック蛍光体10に入射した光を反射する反射面21の面積は、上述したような断面形状が矩形形状の反射膜における反射面の面積と変わらない。したがって、波長変換部材2の発光強度を低下させることなく、封止膜30にクラックが発生することを抑制することができる。
【0037】
また、本実施形態の波長変換部材2によれば、反射膜20の断面において、封止膜30側の面積Aは、反射膜20側の面積Bの90%以下となっている。これにより、反射膜20の側面23は、セラミック蛍光体10側の幅W21より外側に突出しない形状となりやすい。反射膜の側面がセラミック蛍光体側の幅より外側に突出していると、封止膜は反射膜に沿って形成されるため、封止膜も外側に突出した形状となり、大きく折れ曲がる場合がある。このため、封止膜に応力が作用するとクラックが発生しやすい。一方、波長変換部材2の封止膜30の形状は、緩やかに曲がる形状になるため、応力が作用してもクラックは発生しにくい。したがって、クラックを介した外気と反射膜20との接触がさらに抑制されるため、反射膜20の劣化が抑制され、波長変換部材2の発光強度の低下をさらに抑制することができる。
【0038】
また、本実施形態の波長変換部材2によれば、反射膜20の断面は、図3に示すように、第3仮想線VL3の一方の側に位置し、第3仮想線VL3にまたがって第3仮想線VL3の両側に位置していない。すなわち、反射膜20において、セラミック蛍光体10側の部分と、セラミック蛍光体10の反対側の部分とは、比較的なだらかに接続される。これにより、封止膜30の形状は、さらに緩やかな形状になるため、応力による封止膜30のクラックの発生がさらに抑制される。また、一般的に、反射膜上に形成される封止膜と反射膜との間に隙間が形成されると、応力のかかり具合によっては隙間を起点としたクラックが封止膜に発生しやすくなる。波長変換部材2によれば、反射膜20において、セラミック蛍光体10側の部分と、セラミック蛍光体10の反対側の部分とが比較的なだらかに接続されるため、反射膜20上に形成される封止膜30と反射膜20との間に隙間が形成されにくくなる。これによっても、応力による封止膜でのクラックの発生がさらに抑制される。したがって、クラックを介した外気と反射膜20との接触がさらに抑制されるため、反射膜20の劣化が抑制され、発光強度の低下をさらに抑制することができる。
【0039】
また、本実施形態の波長変換部材2によれば、封止膜30の接合部32と接続部33とは、第2仮想線VL2に沿った方向に延伸している。これにより、封止膜30は、セラミック蛍光体10に向かって広がっている。金と錫から形成されている接合層70を用いて、波長変換部材2と、放熱部材60とを接合するとき、図4に示すように、接合層70内に発生するボイドV1が、封止膜30とほぼ同じ形状を有する接合膜40の形状に沿って波長変換部材2の外側に向かって移動する。接合層70内のボイドは、セラミック蛍光体10において光の波長を変換するときに発生する熱の伝熱を妨げるため、特に、波長変換部材2の中央部分にはないことが望ましい。本実施形態の波長変換部材2によれば、接合層70内のボイドV1は、波長変換部材2の外側に移動するため(図4参照)、熱的に厳しい波長変換部材2の中心部分の放熱を良好に行うことができる。したがって、波長変換部材2において、温度消光による発光強度の低下を抑制することができる。
【0040】
また、本実施形態の波長変換装置1によれば、封止膜30の形状は、緩やかに曲がる形状になるため、封止膜30にクラックが発生しにくくなり、反射膜20の酸化などを抑制することができる。また、波長変換部材2で発生する熱を放熱部材60によって外部に放出することができる。これにより、反射膜20の劣化による発光強度の低下を抑制しつつ、熱による波長変換装置1の発光強度の低下を抑制することができる。
【0041】
また、本実施形態の光源装置5によれば、波長変換装置1では、緩やかに曲がる形状となっている封止膜30にクラックが発生しにくいため、反射膜20の劣化が抑制される。これにより、セラミック蛍光体10で波長が変換される光の一部や、セラミック蛍光体10を素通りする光などセラミック蛍光体10内の光を、劣化しにくい反射膜20で反射することができるため、光源装置5の発光強度の低下を抑制することができる。
【0042】
<本実施形態の変形例>
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0043】
[変形例1]
上述の実施形態では、波長変換部材2は、セラミック蛍光体10と反射膜20と封止膜30の他に、接合膜40と酸化防止膜50とを備えるとした。これらの膜はなくてもよい。
【0044】
[変形例2]
上述の実施形態では、反射膜20の断面において、面積Aは、面積Bの90%以下であるとした。しかしながら、面積Aと面積Bとの関係は、これに限定されない。面積Aが面積Bより小さければよい。面積Aが面積Bの50%以下となることで、封止膜30の形状は、さらに緩やかに曲がる形状になるため、クラックがさらに発生しにくくなり、反射膜の劣化がさらに抑制される。
【0045】
[変形例3]
上述の実施形態では、積層方向Dsに沿った波長変換部材2の断面において、反射膜20の断面は、第3仮想線VL3より第2仮想線VL2側にのみ存在しており、反射膜20と封止膜30との境界線BL23が第3仮想線VL3より第2仮想線VL2の反対側には存在していないとした。しかしながら、反射膜20の断面の形状はこれに限定されない。反射膜20の断面が第3仮想線VL3より第2仮想線VL2側にのみ存在することで、反射膜20の側面23の形状が緩やかになるため、封止膜30の形状は、さらに緩やかに曲がる形状となる。
【0046】
[変形例4]
上述の実施形態では、封止膜30は、図3に示すように、第2仮想線VL2に沿った方向に延伸しており、封止膜30の表面31b、32b、33bは、対向面31a、接合面32a、および、接続面33aとほぼ同じ形状になっているとした。しかしながら、封止膜30の表面31b、32b、33bの形状は、これに限定されていない。例えば、表面31b、32b、33bは、平面形状であってもよい。
【0047】
以上、実施形態、変形例に基づき本態様について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本態様の理解を容易にするためのものであり、本態様を限定するものではない。本態様は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本態様にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【符号の説明】
【0048】
1…波長変換装置
2…波長変換部材
5…光源装置
6…光源
10…セラミック蛍光体
11…入射面
12…裏面
20…反射膜
20a…端部
21…反射面
30…封止膜
32…接合部
60…放熱部材
70…接合層
A,B…面積
BL23…境界線
Ds…積層方向
JL21…接合線
P1…第1位置
P2…第2位置
P3…第3位置
VL1…第1仮想線
VL2…第2仮想線
VL3…第3仮想線
図1
図2
図3
図4