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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】流動接触分解触媒の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 37/08 20060101AFI20240221BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20240221BHJP
   B01J 29/08 20060101ALI20240221BHJP
   C10G 11/18 20060101ALI20240221BHJP
【FI】
B01J37/08
B01J37/04 102
B01J29/08 M
C10G11/18
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020158199
(22)【出願日】2020-09-23
(65)【公開番号】P2022052045
(43)【公開日】2022-04-04
【審査請求日】2023-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三津井 知宏
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 武聡
(72)【発明者】
【氏名】水野 隆喜
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-337758(JP,A)
【文献】特開2018-103120(JP,A)
【文献】特開平10-017321(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C10G 11/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダー成分およびゼオライトを含む流動接触分解触媒の製造方法であって、
バインダー成分およびゼオライトを含むマトリックスと、活性アルミナおよび金属捕捉剤から選ばれた少なくとも1種を含む添加物と、を含む混合スラリーを得る工程と、
記混合スラリーを噴霧乾燥することにより流動接触分解触媒の前駆体を得る工程と、
記前駆体を、水および水溶液の少なくとも一方に懸濁させた後、濾別をして洗浄ケーキ1を得る工程と
前記洗浄ケーキ1に対し、風量Fa(Nm/h)水分蒸発量We(kg/h)が下記不等式(1)を満足する条件で、乾燥温度Tdryが80~600℃の温度の範囲での滞留時間tdが5~90分の間で熱処理を行う工程と、
を含む流動接触分解触媒の製造方法。
7.0≦(水分蒸発量We/水の分子量×気体のモル体積)/風量Fa≦15.0 …(1)
ここで、水の分子量は、18.02kg/kmol、
標準状態における気体のモル体積は、22.4Nm/kmol
を表す。
【請求項2】
前記バインダー成分がアルミナ系バインダーであり、
記前駆体を、pHが5.5~7.5の範囲にあり、温度が40~70℃の範囲にある水溶液に懸濁させた後、濾別をして洗浄ケーキ1を得ること、
を特徴とする請求項1に記載の流動接触分解触媒の製造方法。
【請求項3】
記洗浄ケーキ1を、水中に懸濁させた後、希土類元素酸化物REの前駆体を含む水溶液を添加・撹拌し、濾別を行いさらに温水洗浄することにより、洗浄ケーキ2を得
前記洗浄ケーキ1に代えて前記洗浄ケーキ2に対し、前記熱処理を行うこと、
を特徴とする請求項1または2に記載の流動接触分解触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重質留分(以下、単に「ボトム」ともいう。)の分解性能が高い流動接触分解触媒(以下、単に「FCC」ともいう。)に関する。さらに詳しくは、シリカ又はアルミナを含むバインダー成分と、ゼオライトとを含有する流動接触分解触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の石油供給事情より、残渣油などの重質炭化水素油を接触分解の原料油として用いるケースが増加している。特に、残渣油などの重質炭化水素油の接触分解に使用して、バナジウムやニッケルに対する耐メタル性もあり、残渣油の分解能に優れ、水素、コークなどの生成量が少なく、ガソリンや灯軽油留分(LCO)の収率の高い触媒が求められている。
【0003】
これらの問題については、プロセス面からの改良や流動接触分解触媒(以下、単にFCC触媒ともいう)の開発によりある程度解決策が提案されている。
【0004】
特許文献1は、ゼオライト、シリ力、アルミナバインダーおよび沈降アルミナを含む接触分解用触媒に関するものであり、原料スラリーを噴霧乾燥、焼成した前駆体粉末を塩基性(pH7)水溶液にて再懸濁することにより、高表面積を有する流動接触分解触媒の製造方法について記載されている。
【0005】
また、特許文献2は、酸およびアルミナ処理したY型超安定ゼオライト(USY)を用いた炭化水素接触分解触媒に関するものであり、酸性アルミニウム水溶液処理を含む改質ゼオライトの製造方法を開示している。また、特許文献3は、骨格外アルミナを1.5質量%以上含むゼオライトとケイ素系酸化物とアルミナバインダーを含み、重質炭化水素油の分解能力が高く、ボトム分解活性に優れた流動接触分解用触媒に関するものであり、スラリーの噴霧乾燥段階でアルミナバインダー原料の分解反応を進行させることにより、メソ孔の形成を促進し耐摩耗性の良好な接触分解用触媒の製造方法を開示している。さらに、特許文献4及び5は、ジルコニウムもしくはチタン含有成分を担持したアルミナ粒子を流動接触分解触媒用マトリックスとして用いた流動接触分解触媒に関するものであり、アルミナ粒子の前駆体物質と、ジルコニウム含有溶液またはチタン含有溶液とを混合してアルミナマトリックススラリーを得る工程を含む触媒の製造方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2010-511512号公報
【文献】特開2014-080326号公報
【文献】特開2017-087204号公報
【文献】特開2019-166445号公報
【文献】特開2019-166446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
今後は、さらに残渣油中に含まれる被毒物質であるバナジウムやニッケルの含有量が上がっていく傾向にあり、その状況下においても残渣油の分解活性を保持した流動接触分解触媒が求められ、前記の流動接触分解触媒では、十分な活性を得ることができない課題がある。
【0008】
本発明の目的は、シリカまたはアルミナを含むバインダー成分とゼオライトとを含む流動接触分解触媒で、マトリックス比表面積(MSA)を大きくし、4~100nmの細孔容積(PVA)を大きくすることで、重質留分(ボトム)の分解性能に優れた触媒の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような技術的背景のもと、発明者らは、重質留分(ボトム)の分解に優れた流動接触分解触媒(以下、単にFCC触媒ともいう)の改善について鋭意研究した結果、乾燥条件を調整することでマトリックス比表面積(MSA)を安定して大きくし、4~100nmの細孔容積(PVA)を大きくしたFCC触媒を得ることができ、そのFCC触媒が格段に優れた重質留分(ボトム)分解性を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
前記課題を解決し上記の目的を実現するため開発した本発明は、下記のとおりのものである。すなわち、本発明は、バインダー成分およびゼオライトを含む流動接触分解触媒の製造方法であって、バインダー成分およびゼオライトを含むマトリックスと、活性アルミナおよび金属捕捉剤から選ばれた少なくとも1種を含む添加物と、を含む混合スラリーを得る工程と、前記混合スラリーを噴霧乾燥することにより流動接触分解触媒の前駆体を得る工程と、前記前駆体を、水および水溶液の少なくとも一方に懸濁させた後、濾別をして洗浄ケーキ1を得る工程と、前記洗浄ケーキ1に対し、風量Fa(Nm/h)水分蒸発量We(kg/h)が下記不等式(1)を満足する条件で、乾燥温度Tdryが80~600℃の温度の範囲での滞留時間tdが5~90分の間で熱処理を行う工程と、を含む流動接触分解触媒の製造方法である。
7.0≦(水分蒸発量We/水の分子量×気体のモル体積)/風量Fa≦15.0 …(1)
ここで、水の分子量は、18.02kg/kmol、
標準状態における気体のモル体積は、22.4Nm/kmol
を表す。
【0011】
なお、本発明に係る上記流動接触分解触媒の製造方法については、
(a)前記バインダー成分がアルミナ系バインダーであり、前記前駆体を、pHが5.5~7.5の範囲にあり、温度が40~70℃の範囲にある水溶液に懸濁させた後、濾別をして洗浄ケーキ1を得ること、
)前記洗浄ケーキ1を、水中に懸濁させた後、希土類元素酸化物REの前駆体を含む水溶液を添加・撹拌し、濾別を行いさらに温水洗浄することにより、洗浄ケーキ2を得
前記洗浄ケーキ1に代えて前記洗浄ケーキ2に対し、前記熱処理を行うこと、
などがより好ましい解決手段になり得るものと考えられる。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明によれば、重質留分(ボトム)の分解性に優れ、分解活性が高くしかも水素、ガスおよびコークの生成が少なく、ガソリンや灯軽油留分が高収率で得られる流動接触分解触媒の製造方法を提供することができるようになる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
― 流動接触分解触媒 -
本発明に係わる流動接触分解触媒は、シリカまたはアルミナを含むバインダー成分とゼオライトとを含むマトリックスと、活性アルミナおよび金属捕捉剤から選ばれた少なくとも1種を含む添加物と、を含むものであり、さらに希土類金属酸化物を含んでもよい。本発明で用いる結晶性アルミノシリケートゼオライト(以下、ゼオライトという)としては、通常の接触分解触媒に使用されるゼオライトが使用可能であり、例えば、X型ゼオライト、Y型ゼオライト、モルデナイト、ZSM型ゼオライトなどの合成ゼオライトおよび天然ゼオライトなどが挙げられる。これらのゼオライトは通常の接触分解触媒に使用される場合と同様に、水素、アンモニウムおよび多価金属から選ばれるカチオンでイオン交換された形で使用される。Y型ゼオライト、特に超安定化Y型ゼオライト(USY)は耐水熱安定性に優れているので好適である。
【0014】
本発明における希土類金属酸化物の前駆体としては、一般に市販されている希土類金属の炭酸塩、塩酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩等を使用することができる。
【0015】
本発明に係わる流動接触分解触媒は、通常の接触分解触媒と同様に多孔性無機酸化物マトリックスが使用される。多孔性無機酸化物マトリックスには、珪酸ナトリウム等のケイ酸塩やシリカゾルなどのシリカ系バインダーや塩基性塩化アルミニウム、アルミナゾル、アルミナゲルなどのアルミナ系バインダーを用いることができる。また、添加物として、カオリン、ハロイサイト、モンモリロナイトなどの粘土鉱物、活性アルミナ、シリカ―アルミナ、シリカ―マグネシア、アルミナ―マグネシア、シリカ―マグネシア―アルミナなどの固体酸を有するマトリックス、二酸化マンガン、カルシウムアルミネート、水酸化アルミニウム、希土類金属酸化物(例えば、炭酸ランタンなど)などの金属捕捉剤などを併用して含有することができる。
【0016】
本発明の流動接触分解触媒は、前記ゼオライトと好ましくは前記希土類金属酸化物とが前記多孔性無機酸化物マトリックス中に分散してなることを特徴とするものである。該流動接触分解触媒では、前述のゼオライトは触媒基準で好ましくは、5~50質量%、さらに好ましくは10~40質量%の範囲で含有するものである。また、前述の希土類金属酸化物を含む場合には触媒基準で酸化物換算(RE)としては0.5質量%以上、好ましくは0.8質量%以上、さらに好ましくは1.0質量%以上含有し、最大で20質量%以下、好ましくは18質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下の範囲で含有し、前述の多孔性無機酸化物マトリックス中に均一に分散していることが望ましい。
【0017】
該ゼオライトの含有量が5質量%未満では、得られる触媒組成物の分解活性が低くなることがあり、一方、50質量%より多い場合には分解活性が高すぎて水素、ガスおよびコークの生成が増加するためにガソリン収率が低くなることがある。また、前記希土類金属酸化物の前駆体の含有量がREとして0.5質量%未満では所望の効果が得られず、一方、20質量%より多い場合には触媒組成物の耐摩耗性(Attr.Res.)が低下することがある。また、該流動接触分解触媒では、前述の多孔性無機酸化物マトリックスを30~90質量%、好ましくは30~85質量%の範囲で含んでいることが望ましい。なお、該触媒組成物の各成分は、合計が100質量%となるようにそれぞれの範囲内で決められる。
【0018】
― 流動接触分解触媒の製造方法 -
前述の流動接触分解触媒は、その製造方法として、前述の多孔性無機酸化物マトリックス前駆物質である、塩基性塩化アルミニウムに前述のゼオライトを加えて均一に分散させた混合物スラリーを以下の工程で噴霧乾燥および洗浄することによって製造する方法を例に挙げて説明する。シリカ系バインダーを用いた場合、条件が異なることがあるので、その場合は括弧書きで記載することとする。
【0019】
<第一工程>
バインダー成分およびゼオライトを含むマトリックスと、活性アルミナおよび金属捕捉剤から選ばれた少なくとも1種を含む添加物と、を含む混合スラリーを得る工程を第一工程とする。
ここで得られる混合スラリーは、その後の噴霧乾燥工程に適応するために固形分濃度が25~50質量%の範囲で調整することが好ましい。固形分濃度が、25質量%未満では、触媒の嵩密度の低下や耐摩耗性の悪化があり、50質量%超えでは、混合スラリーの粘度上昇により噴霧乾燥が困難になる場合がある。
【0020】
<第二工程>
前記第一工程で得られた混合スラリーを噴霧乾燥することにより流動接触分解触媒の前駆体を得る工程を第二工程とする。
本工程での噴霧乾燥の条件は、スプレー出口温度が200~250℃(シリカ系バインダーを用いたときは、出口温度は155~215℃)の範囲であることが好ましい。出口温度が、200℃以下では触媒を洗浄した後に粒子形状を保つことが困難となり、耐摩耗性が悪化し、一方、250℃以上では洗浄した後の粒子形状は保てるものの、乾燥速度が速くなるため触媒粒子に割れなどが発生しやすくなり、かえって耐摩耗性が悪化する場合がある。
【0021】
<第三工程>
前記第二工程で得られた流動接触分解触媒の前駆体を、pH5.5~7.5の範囲(シリカ系バインダーを用いたときは、pHは2.5~3.5)、40~70℃の水溶液に懸濁させた後、濾別を行い、必要に応じて、さらに温水洗浄して濾別を行い、洗浄ケーキ1を得る工程を第三工程とする。
本工程で懸濁時に用いる水溶液には、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウムのナトリウム塩を含む水溶液であることが好ましく、水溶液のpHが所望の範囲内になるように調整して用いることが好ましい。また、水酸化ナトリウムの場合は、硫酸アンモニウムを同時に用いることが好ましい。
【0022】
水溶液の温度は、40℃より低いと、バインダー成分由来の残存塩素量が増加するため流動接触分解装置を腐食する可能性が高くなり、一方、70℃より高いとバインダー成分の加水分解が起こりやすくなり、耐摩耗性が悪化する場合がある。(シリカ系バインダーを用いたときは、洗浄時の水溶液の温度は特に限定する必要はないが、50~70℃の範囲で行うことが好ましい。)
【0023】
さらに、洗浄時の前駆体の固形分と水溶液との割合は、溶解性不純物やろ過性の観点から質量比で固形分/水溶液=1/3~1/15の範囲で行うことが好ましい。
【0024】
<第四工程>
前記第三工程で得られた洗浄ケーキ1を、乾燥して洗浄ケーキ2を得る工程を第四工程とする。乾燥前に、水中に懸濁させた後、必要に応じて、希土類元素のRE前駆体を含む水溶液を添加・撹拌し、濾別を行いさらに温水洗浄することが好ましい。
【0025】
<第五工程>
前記第四工程で得られた洗浄ケーキ2を、無次元化した風量Fa(Nm/h)に対する水分蒸発量We(kg/h)の比([W/F])が、7.0~15.0の範囲にある条件で、乾燥温度Tdryが80~600℃の温度の範囲での滞留時間tdが5~90分の間で熱処理する第五工程とする。無次元化した風量Faに対する水分蒸発量Weの比が7.0未満では焼成炉内の水分量が不足するため効果が不十分となるおそれがあり、一方、15.0を超えると乾燥が不十分、もしくは乾燥時間を長く要するため製造上困難である。乾燥温度Tdryが80℃未満では乾燥が不十分となり使用時の触媒の物性や性能が悪化するおそれがあり、一方、600℃を超えると活性成分の凝集等により性能が低下するおそれがある。80~600℃の温度範囲への滞留時間tdが5分未満では乾燥が不十分となり使用時の触媒の物性や性能が悪化するおそれがあり、一方、90分を超えても効果は飽和してしまう。
ここでいう「無次元化した風量Faに対する水分蒸発量We([W/F])」とは、当該第五工程乾燥前後の触媒の水分量から水分蒸発量We(kg/h)を算出し、水の分子量を18.02kg/kmolとし、標準状態における気体のモル体積を22.4Nm/kmolとして、下記式()により計算した値を意味する。
W/F=(水分蒸発量We/水の分子量×気体のモル体積)/風量Fa …(
【0026】
前記第三工程または前記第五工程において、焼成を行ってもよい。第五工程における焼成では、低湿度または高湿度のいずれの条件で焼成を行ってもよい。
【0027】
本発明の流動接触分解触媒は、従来の炭化水素油流動接触分解法に使用でき、従来の流動接触分解条件が採用可能である。また、本発明の触媒組成物は、任意の従来の炭化水素油供給原料油の流動接触分解に使用できるが、特にニッケルやバナジウムなどを含む重質炭化水素油の流動接触分解に好適に使用される。また、従来の触媒に比べ4~100nmの細孔容積が10%以上向上しており、重質留分(ボトム)の分解に優れる等の触媒性能も向上が期待できる。
【0028】
― 流動接触分解触媒の物性の評価方法 -
第五工程で得た流動接触分解触媒を、600℃で2時間加熱処理したものの物性評価を行った。
<全比表面積SA、マトリックスの比表面積MSA>
全比表面積SAは、窒素吸着-脱着等温線を基にしてBET(Brunauer-Emmett-Teller)の式にて算出し、マトリックスの比表面積MSAは、t-plot解析にて算出した。
【0029】
<触媒の平均粒子径>
本発明の流動接触分解触媒は、各々試料の粒度分布の測定を、堀場製作所(株)製レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(LA-950V2)にて行うことができる。具体的には、光線透過率が70~95%の範囲となるように試料を溶媒(水)に投入し、循環速度:2.8L/min、超音波印加:3min、反復回数:30で測定した。メディアン径(D50)を平均粒子径として採用し、本発明の流動接触分解触媒の平均粒子径は、40~100μmが好適であり、50~90μmがより一層好ましい。
【0030】
<細孔容積(PV、PVA、PVB)>
本発明の流動接触分解触媒は、水銀圧入法により細孔径-細孔容積分布を測定する。測定装置としては、例えば、Quanta chrome社製Pore Master-60GTを用いて、細孔径-細孔容積分布を測定する。細孔径は、水銀の表面張力480dyne/cm、接触角150°を用いて計算した値である。水銀圧入法により測定した4~1000nmの細孔径範囲の細孔容積を全細孔容積(PV)とし、4~100nmの細孔径範囲の細孔容積をPVAとし、100~1000nmの細孔径範囲の細孔容積をPVBとする。全細孔容積(PV)が0.05~0.50ml/g、好適には0.10~0.45ml/gの範囲内にあることが好ましい。流動触媒として使用した場合、細孔容積が0.05ml/gを下回ると、十分な接触分解活性が得られないおそれがある。一方で、細孔容積が0.50ml/gを超えるものは触媒強度が低下するおそれがある。
【実施例
【0031】
以下に実施例を示し、本例を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0032】
(実施例1)
水ガラス(SiO換算で17.5質量%に調整した3号水ガラス)と硫酸(濃度25質量%に調整したもの)を同時に連続的に加えて、12.5質量%のSiOを含むシリカヒドロゾルを調製した。このシリカヒドロゾル71.6kgに、カオリン13.9kg(固形分濃度:84質量%)、活性アルミナ粉末20.7kg(固形分濃度:84質量%)、硫酸にてpHを3.9に調整した超安定化Y型ゼオライトスラリー32.5kg(固形分濃度:33質量%)を加え、混合スラリーを調製した。
この混合スラリーを液滴として入口温度が250℃、出口温度が160℃の噴霧乾燥機で噴霧乾燥を行い、平均粒子径が70μmの乾燥粒子を得た。この乾燥粒子を温水懸濁、洗浄した。懸濁時のpHは2.5~3.5だった。次いで硫酸アンモニウム水溶液、希土類金属塩化物水溶液によるイオン交換と温水洗浄し、REとして1.8質量%となるようにイオン交換し、流動接触分解触媒用洗浄ケーキ(1)を得た。
流動接触分解触媒用洗浄ケーキ(1)を乾燥炉に投入し、風量Fa=316Nm/hとし、乾燥温度Tdry=170℃、滞留時間td=30分間乾燥し、流動接触分解触媒(1)を得た。触媒組成および乾燥処理条件を表1に、物理性状を表2に示す。
【0033】
(実施例2)
流動接触分解触媒用洗浄ケーキ(1)を乾燥炉にて、乾燥温度Tdry=150℃、滞留時間td=45分間乾燥し、風量Fa=280Nm/hとした以外は、実施例1と同様にして流動接触分解触媒(2)を得た。触媒組成および乾燥処理条件を表1に、物理性状を表2に示す。
【0034】
(実施例3)
流動接触分解触媒用洗浄ケーキ(1)を乾燥炉にて、乾燥温度Tdry=190℃、滞留時間td=20分間乾燥し、風量Fa=風量を353Nm/hとした以外は、実施例1と同様にして流動接触分解触媒(3)を得た。触媒組成および乾燥処理条件を表1に、物理性状を表2に示す。
【0035】
(実施例4)
スチームジャケット付きのチタン製のタンク(容量60L)に、10.14kgの塩化アルミニウム6水和物と38.9kgの純水とを入れて十分に撹拌し、塩化アルミニウム水溶液を得た。この塩化アルミニウム水溶液を撹拌しながら95℃まで加温し、液温を保持したまま、純度99.9%のアルミニウムホイル(アルミ箔)5.67kgを6時間かけて少量ずつ(15.75g/分)投入して、アルミ箔を溶解させた。なお、アルミ箔の溶解時には、大量の水素ガスが発生し、水溶液中の水が水蒸気として蒸発するため、タンク内の水溶液の貯留量が一定になるように95℃の純水を補給した。アルミ箔が完全に溶解した後、この水溶液を35℃まで冷却して、54.7kgの塩基性塩化アルミニウム水溶液を得た。この塩基性塩化アルミニウム水溶液は、pH3.6であり、Alとして23.5質量%の塩基性塩化アルミニウムを含んでいた。
このようにして調製した塩基性塩化アルミニウム水溶液(Al濃度=24質量%)64.2kgと水29.2kgとを混合した。次いで、この撹拌混合液に、超安定化Y型ゼオライトスラリー(固形分濃度:33質量%)90.9kgとカオリンを37.6kg(固形分濃度:85質量%)と活性アルミナを15.5kg(固形分濃度:84質量%)と炭酸ランタン(La濃度:69.9質量%)を14.3kgとを順次添加し、良く撹拌し調合スラリー(混合スラリー)を得た。得られた調合スラリーはコロイドミルを用いて粉砕処理を行い、固形分濃度42質量%、pH4.6だった。
この調合スラリーを液滴として入口温度が480℃、出口温度が240℃の噴霧乾燥機で噴霧乾燥を行い、平均粒子径が70μmの乾燥粒子を得た。この乾燥粒子を60℃に加温した硫酸アンモニウム水溶液に、40%水酸化ナトリウム水溶液でpH5.5~7.5に調整しながら添加し、次いで硫酸アンモニウム水溶液、希土類金属塩化物水溶液によるイオン交換と温水洗浄し、流動接触分解触媒用洗浄ケーキ(2)を得た。
流動接触分解触媒用洗浄ケーキ(2)を乾燥炉に投入し、風量Fa=280Nm/hとし、乾燥温度Tdry=190℃、滞留時間td=20分間乾燥し、流動接触分解触媒(4)を得た。触媒組成および乾燥処理条件を表1に、物理性状を表2に示す。
【0036】
(比較例1)
流動接触分解触媒用洗浄ケーキ(1)を乾燥炉にて、乾燥温度Tdry=230℃、滞留時間td=20分間乾燥し、風量Fa=430Nm/hとした以外は、実施例1と同様にして流動接触分解触媒(R1)を得た。触媒組成および乾燥処理条件を表1に、物理性状を表2に示す。
【0037】
(比較例2)
流動接触分解触媒用洗浄ケーキ(1)を乾燥炉にて、乾燥温度Tdry=210℃、滞留時間td=30分間乾燥し、風量Fa=273Nm/hとした以外は、実施例1と同様にして流動接触分解触媒(R2)を得た。触媒組成および乾燥処理条件を表1に、物理性状を表2に示す。
【0038】
(比較例3)
流動接触分解触媒用洗浄ケーキ(1)を乾燥炉にて、乾燥温度Tdry=170℃、滞留時間td=2分間乾燥し、風量Fa=8Nm/hとした以外は、実施例1と同様にして流動接触分解触媒(R3)を得た。触媒組成および乾燥処理条件を表1に、物理性状を表2に示す。
【0039】
(比較例4)
流動接触分解触媒用洗浄ケーキ(2)を乾燥炉にて、乾燥温度Tdry=210℃、滞留時間td=30分間乾燥し、風量Fa=250Nm/hとした以外は、実施例4と同様にして流動接触分解触媒(R4)を得た。触媒組成および乾燥処理条件を表1に、物理性状を表2に示す。
【0040】
[触媒活性評価試験]
各実施例、比較例の触媒について、ACE-MAT(Advanced Cracking Evaluation Micro Activity Test)を用い、同一原油、同一反応条件下で触媒の性能評価試験を行った。ただし、これらの性能評価試験を行う前に、各触媒の表面に、予めニッケルおよびバナジウムをそれぞれ1000質量ppm(ニッケルの質量を触媒の質量で除算している)および2000質量ppm(バナジウムの質量を触媒の質量で除算している)沈着させ、次いでスチーミングして擬平衡化処理を行った。
【0041】
活性評価試験における運転条件は以下の通りである。
原料油:原油の脱硫常圧残渣油(DSAR)+脱硫減圧軽油(DSVGO)(50+50)
触媒/通油量の質量比(C/O):5.00
反応温度:520℃
1)転化率=100-(LCO+HCO)
2)ガソリンの沸点範囲:30~216℃
4)LCOの沸点範囲:216~343℃(LCO:Light Cycle Oil)
5)HCOの沸点範囲:343℃+(HCO:Heavy CycleOil)
【0042】
活性評価試験結果は表3に示す通りである。比較例1~3と比較して実施例1~3ではHCO+コーク収率が低く、ボトム分解能の高い接触分解用触媒であると評価できる。また、比較例4と比較して実施例4ではHCO+コーク収率が低く、ボトム分解能の高い接触分解用触媒であると評価できる。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
【表3】