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特許7441152セメント水混練体に含まれる水分量の推定システム、セメント水混練体に含まれる水分量の推定方法、及びセメント水混練体に含まれる水分量の推定用センサ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】セメント水混練体に含まれる水分量の推定システム、セメント水混練体に含まれる水分量の推定方法、及びセメント水混練体に含まれる水分量の推定用センサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 22/04 20060101AFI20240221BHJP
   G01N 33/38 20060101ALI20240221BHJP
   G01N 22/00 20060101ALI20240221BHJP
【FI】
G01N22/04 Z
G01N33/38
G01N22/00 S
G01N22/00 U
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020162991
(22)【出願日】2020-09-29
(65)【公開番号】P2022055523
(43)【公開日】2022-04-08
【審査請求日】2023-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江里口 玲
(72)【発明者】
【氏名】中西 博
(72)【発明者】
【氏名】井坂 幸俊
【審査官】嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-008308(JP,A)
【文献】特開2014-198992(JP,A)
【文献】特開2008-049499(JP,A)
【文献】特開2008-145403(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 22/00-G01N 22/04
G01N 33/00-G01N 33/46
G01R 29/00-G01R 29/26
G01N 17/00-G01N 19/10
G01N 21/00-G01N 21/61
G01S 7/00-G01S 7/42
G01S 13/00-G01S 13/95
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
KAKEN
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
打設後のフレッシュコンクリート、硬化コンクリート、打設後のフレッシュモルタル、又は硬化モルタルのいずれか1種に属するセメント水混練体に含まれる水分量の推定システムであって、
前記セメント水混練体に埋設されたRFタグと、
前記RFタグとの間で電波信号の送受信が可能なリーダ又はリーダライタと、
前記リーダ又はリーダライタで受信した前記電波信号の強度値、若しくは前記電波信号の受信が検知できる前記リーダ又はリーダライタと前記セメント水混練体との離間距離の上限閾値の少なくとも一方の指標値に基づいて、前記セメント水混練体に含まれる水分量を推定する推定装置とを備え
前記推定装置は、前記指標値と前記セメント水混練体に含まれる水分量との相関関係に関する情報が記録された記憶部を備え、前記記憶部から前記相関関係に関する情報を読み出して、測定された前記指標値に対応する前記セメント水混練体に含まれる水分量を推定することを特徴とする、セメント水混練体に含まれる水分量の推定システム。
【請求項2】
前記RFタグは、前記セメント水混練体内における埋設深さの異なる第一RFタグ及び第二RFタグを含み、
前記推定装置は、前記第一RFタグからの前記電波信号の強度値に基づく前記指標値である第一指標値と、前記第二RFタグからの前記電波信号の強度値に基づく前記指標値である第二指標値との比較結果に基づいて、前記セメント水混練体に含まれる水分量を推定することを特徴とする、請求項1に記載の、セメント水混練体に含まれる水分量の推定システム。
【請求項3】
前記セメント水混練体内に埋設され、前記セメント水混練体よりも吸水率が低い材料からなるタグ保護体を有し、
前記RFタグは、前記タグ保護体内に埋設された第一RFタグと、前記タグ保護体の外側の位置において前記セメント水混練体内に埋設された第二RFタグとを含み、
前記推定装置は、前記第一RFタグからの前記電波信号の強度値に基づく前記指標値である第一指標値と、前記第二RFタグからの前記電波信号の強度値に基づく前記指標値である第二指標値との比較結果に基づいて、前記セメント水混練体に含まれる水分量を推定することを特徴とする、請求項1に記載の、セメント水混練体に含まれる水分量の推定システム。
【請求項4】
前記セメント水混練体内に埋設され、前記RFタグが固定されたスペーサを有し、
前記RFタグは、前記セメント水混練体の表面からの埋設深さに関する深さ情報が記録されており、
前記リーダ又はリーダライタは、前記RFタグからの前記電波信号の強度値と共に前記深さ情報を受信し、
前記推定装置は、前記リーダ又はリーダライタによって受信された前記電波信号の強度値と前記深さ情報、及び前記リーダ又はリーダライタと前記セメント水混練体との離間距離に基づいて、前記セメント水混練体に含まれる水分量を推定することを特徴とする、請求項1に記載の、セメント水混練体に含まれる水分量の推定システム。
【請求項5】
前記推定装置は、前記リーダ又はリーダライタ内に搭載されていることを特徴とする、請求項1~のいずれか1項に記載の、セメント水混練体に含まれる水分量の推定システム。
【請求項6】
打設後のフレッシュコンクリート、硬化コンクリート、打設後のフレッシュモルタル、又は硬化モルタルのいずれか1種に属するセメント水混練体に含まれる水分量の推定方法であって、
前記セメント水混練体にRFタグを埋設する工程(a)と、
前記セメント水混練体の外側の所定の位置に、前記RFタグとの間で電波信号の送受信が可能なリーダ又はリーダライタを配置する工程(b)と、
前記リーダ又はリーダライタで受信した前記電波信号の強度値、又は前記電波信号の受信が検知できる前記リーダ又はリーダライタと前記セメント水混練体との離間距離の上限閾値の少なくとも一方の指標値を測定する工程(c)と、
前記指標値に基づいて、前記セメント水混練体に含まれる水分量を推定する工程(d)とを有し、
前記工程(d)は、記憶された前記指標値と前記セメント水混練体に含まれる水分量との相関関係に関する情報を読み出して、前記工程(c)で測定された前記指標値に対応する前記セメント水混練体に含まれる水分量を推定する工程であることを特徴とする、セメント水混練体に含まれる水分量の推定方法。
【請求項7】
前記工程(a)は、フレッシュな状態の前記セメント水混練体内において、埋設深さの異なる位置に第一RFタグ及び第二RFタグを埋設する工程を含み、
前記工程(c)は、前記第一RFタグからの前記電波信号の強度値に基づく前記指標値である第一指標値と、前記第二RFタグからの前記電波信号の強度値に基づく前記指標値である第二指標値とを測定する工程を含み、
前記工程(d)は、前記第一指標値と前記第二指標値との比較結果に基づいて、前記セメント水混練体に含まれる水分量を推定する工程を含むことを特徴とする、請求項6に記載の、セメント水混練体に含まれる水分量の推定方法。
【請求項8】
前記工程(a)は、前記セメント水混練体よりも吸水率が低い特定材料からなるタグ保護体内に埋設された第一RFタグと、前記タグ保護体の外側の位置に配置された第二RFタグとを、前記タグ保護体ごとフレッシュな状態の前記セメント水混練体内に埋設する工程を含み、
前記工程(c)は、前記第一RFタグからの前記電波信号の強度値に基づく前記指標値である第一指標値と、前記第二RFタグからの前記電波信号の強度値に基づく前記指標値である第二指標値とを測定する工程を含み、
前記工程(d)は、前記第一指標値と前記第二指標値との比較結果に基づいて、前記セメント水混練体に含まれる水分量を推定する工程を含むことを特徴とする、請求項6に記載の、セメント水混練体に含まれる水分量の推定方法。
【請求項9】
前記RFタグは、前記セメント水混練体の表面からの埋設深さに関する深さ情報が記録されており、
前記工程(a)は、前記深さ情報が記憶された前記RFタグが固定されたスペーサごとフレッシュな状態の前記セメント水混練体内に埋設する工程を含み、
前記工程(c)は、前記リーダ又はリーダライタによって受信された前記電波信号の強度値と前記深さ情報を読み出す工程を含み、
前記工程(d)は、前記リーダ又はリーダライタと前記セメント水混練体との離間距離を検知する工程を含むと共に、当該離間距離に関する情報と、前記工程(c)で読み出された前記電波信号の強度値及び前記深さ情報とに基づいて、前記セメント水混練体に含まれる水分量を推定することを特徴とする、請求項6に記載の、セメント水混練体に含まれる水分量の推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント水混練体に含まれる水分量を推定するためのシステム及び方法に関する。また、本発明は、このような推定処理に利用可能なセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートやモルタル中の水分量を把握することは、耐久性の効率的な管理の観点から、高い重要性を有している。
【0003】
従来、硬化後のコンクリート(以下、「硬化コンクリート」と称する。)中の水分量把握の方法としては、電気抵抗法による方法や湿度センサを用いる方法が知られている。また、別の方法として、下記特許文献1のように、中性子を用いた水分量の推定方法が知られている。
【0004】
コンクリート構造体の供用段階では、硬化コンクリートは水分によって劣化が促進されることが知られている。水の浸透は二酸化炭素や塩化物イオンを運ぶ役割を果たし、二酸化炭素による中性化後は塩化物イオンによる鉄筋腐食が生じやすくなる。そのため、硬化コンクリート中の水分量を把握し、鉄筋腐食の発生リスクを把握することは、耐久性確保の観点から重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-9371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の電気抵抗法による計測の場合には、硬化コンクリートの表面からごくわずかな浅い領域における水分量しか測定することができない。また、湿度センサによる計測の場合には、測定している値が湿度に関する情報であるため、硬化コンクリートの広い範囲にわたる、含有水分量を高精度に測定することは難しい。
【0007】
また、特許文献1に記載の方法の場合には、中性子発生源などの専用の装置が必要となり、各作業現場において汎用的に利用するには現実的な方法とはいえない。
【0008】
更に、上述した従来の水分量測定の方法は、いずれも硬化コンクリートに対して行うことができるが、フレッシュコンクリートやフレッシュモルタルといったまだ固まっていないセメント水混練体に含まれる水分量を測定する方法としては利用できない。
【0009】
床コンクリートの施工段階では、フレッシュコンクリートを打設した後、一定時間が経過し、凝結が進行した後に仕上げ作業が行われる。しかし、例えば、フレッシュコンクリートの硬化表面の仕上げ時期の判断は、施工者の感覚によるところが大きく、施工者の習熟度によって判断の時期にバラつきが生じるという課題があった。そのため、施工者の習熟度に依存せずに作業時期の判断を適切に行い、コンクリートの耐久性を効率的に管理できる技術が求められている。
【0010】
本発明は、上記の課題に鑑み、硬化前及び硬化後のいずれの状態のセメント水混練体に対しても利用可能であり、且つ、簡易な方法でセメント水混練体に含まれる水分量を推定できるシステム及び方法を提供することを目的とする。また、本発明は、このような方法の実施に利用可能な、セメント水混練体に含まれる水分量の推定用センサを提供することを別の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、打設後のフレッシュコンクリート、硬化コンクリート、打設後のフレッシュモルタル、又は硬化モルタルのいずれか1種に属するセメント水混練体に含まれる水分量の推定システムであって、
前記セメント水混練体に埋設されたRFタグと、
前記RFタグとの間で電波信号の送受信が可能なリーダ又はリーダライタと、
前記リーダ又はリーダライタで受信した前記電波信号の強度値、若しくは前記電波信号の受信が検知できる前記リーダ又はリーダライタと前記セメント水混練体との離間距離の上限閾値の少なくとも一方の指標値に基づいて、前記セメント水混練体に含まれる水分量を推定する推定装置とを備えたことを特徴とする、セメント水混練体に含まれる水分量の推定システム。
【0012】
本明細書において、「セメント水混練体」とは、セメントと水を少なくとも含む混練混合物を指し、その硬化の程度は問わない。すなわち、セメント水混練体には、例えば、フレッシュコンクリート、硬化コンクリート、フレッシュモルタル、又は硬化モルタルが含まれる。
【0013】
本明細書において、「リーダ」とは、RFタグから送信される電波信号を読み取る機能を備え、RFタグに対して情報の書き込み機能を備えない機器を指し、「リーダライタ」とは、RFタグから送信される電波信号を読み取る機能と共に、RFタグに対して情報の書き込み機能を備える機器を指す。以下では、煩雑さを避けるために、リーダ又はリーダライタという記載を、「リーダライタ等」と略記することがある。
【0014】
水は導電性であるため、電波を吸収する性質を示す。このため、セメント水混練体に埋設されたRFタグとセメント水混練体の表面との間に水分が存在すると、リーダライタ等とRFタグとの間における通信を妨害する。この妨害の程度は、水分量が多いほど、高くなる。言い換えれば、セメント水混練体に含まれる水分量が多いほど、リーダライタ等で受信できる電波強度は小さくなる傾向を示す。また、リーダライタ等がRFタグからの電波信号が受信できるようになるまで、リーダライタ等とセメント水混練体の表面との間の離間距離を縮めていく場合には、セメント水混練体に含まれる水分量が多いほどその離間距離は狭くなる。
【0015】
よって、上記システムによれば、リーダライタ等で受信された電波信号の強度値、又は、電波信号の受信が検知できるリーダライタ等とセメント水混練体との離間距離の上限閾値に基づいて、セメント水混練体に含まれる水分量を推定できる。特に、予めフレッシュコンクリート又はフレッシュモルタルにRFタグを埋設しておけば、リーダライタ等をセメント水混練体に近づけて電波信号を受信することのみでセメント水混練体に含まれる水分量を推定できるため、極めて簡易な方法で水分量の推定が行える。
【0016】
また、上記システムは、埋設されたRFタグとセメント水混練体の外側に設置されたリーダライタ等との間における電波信号の受信に基づいてセメント水混練体に含まれる水分量を推定する態様である。このため、従来のようにセメント水混練体の表面近傍にのみ含まれる水分量を測定するものではなく、原理的に、深さ方向に関してセメント水混練体の表面からRFタグの埋設位置までの広い領域についてセメント水混練体に含まれる水分量を推定できる。
【0017】
例えば、セメント水混練体が硬化前のフレッシュコンクリート又はフレッシュモルタルである場合、水和反応に伴って硬化が進行していくに連れて自由水が減少する。このため、リーダライタ等で受信された電波強度の大きさが上昇してきたことを確認することで、セメント組成物に対する水和反応の進行の程度が認識でき、フレッシュコンクリート又はフレッシュモルタルの硬化の程度が確認できる。水和反応は、フレッシュコンクリート又はフレッシュモルタルの全体にわたってほぼ均一的に生じるため、リーダライタ等で受信された電波信号の強度値、若しくはリーダライタ等とセメント水混練体との離間距離の前記上限閾値によって、フレッシュコンクリート又はフレッシュモルタルに含まれる水分量を推定することが可能である。
【0018】
また、例えば、セメント水混練体が硬化コンクリート又は硬化モルタルである場合、雨水や結露などに起因する水分が内部に浸透して、含有水分量が増加することが考えられる。特に、セメント水混練体がコンクリート構造物である場合には、内部に鉄筋を含むことが一般的であり、この鉄筋が浸透してきた水によって腐食するおそれがある。また、硬化モルタルであっても、外部からの水の侵入により内部の可溶性物質と反応・結合し、表面にエフロレッセンスが発生するという課題が生じるおそれがある。
【0019】
セメント水混練体が、このような硬化コンクリート又は硬化モルタルである場合には、リーダライタ等で受信された電波強度の大きさが低下してきたことを確認することで、セメント水混練体の内側に浸透した水分量が増加傾向にあることを認識できる。硬化コンクリート又は硬化モルタルに対して外部から水分が浸透する現象は、硬化コンクリート又は硬化モルタルの全体にわたってほぼ均一的に生じるため、リーダライタ等で受信された電波信号の強度値、若しくは前記のリーダライタ等とセメント水混練体との離間距離の上限閾値によって、フレッシュコンクリート又はフレッシュモルタルに含まれる水分量を推定することが可能である。
【0020】
この推定装置は、リーダライタ等に搭載されているものとしても構わないし、リーダライタ等とは別体の装置として構成されていても構わない。前者の場合、推定装置は、入力された前記指標値に基づいて所定の演算処理を行うことで、セメント水混練体に含まれる水分量の推定を行うソフトウェア手段とすることができる。後者の場合には、リーダライタ等との間で通信可能であって、前記演算処理を行う機能を搭載したコンピュータや専用のハードウェア装置とすることができる。
【0021】
前記システムは、前記指標値と前記セメント水混練体に含まれる水分量との相関関係に関する情報が記録された記憶部を備え、
前記推定装置は、前記記憶部から前記相関関係に関する情報を読み出して、測定された前記指標値に対応する前記セメント水混練体に含まれる水分量を推定するものとしても構わない。
【0022】
この記憶部は、例えば、リーダライタ等又はリーダライタ等と別体の装置内に搭載されたメモリによって構成できる。また、前記相関関係に関する情報としては、データテーブルの形式で記載されたものであっても構わないし、関数の形式で記載されたものであっても構わない。
【0023】
前記RFタグは、前記セメント水混練体内における埋設深さの異なる第一RFタグ及び第二RFタグを含み、
前記推定装置は、前記第一RFタグからの前記電波信号の強度値に基づく前記指標値である第一指標値と、前記第二RFタグからの前記電波信号の強度値に基づく前記指標値である第二指標値との比較結果に基づいて、前記セメント水混練体に含まれる水分量を推定するものとしても構わない。
【0024】
リーダライタ等で受信した電波信号の強度値によってセメント水混練体に含まれる水分量を推定する場合、推定精度を高めるためには、リーダライタ等とセメント水混練体の表面との離間距離を所定の値に設定するのが好ましい。しかしながら、現実的には推定処理の実行時にリーダライタ等の位置が変動することも予想される。
【0025】
これに対し、上記構成によれば、予めセメント水混練体内における埋設深さの異なる位置に、第一RFタグと第二RFタグとが埋設されている。このため、リーダライタ等とセメント水混練体の表面との離間距離が仮に変動したとしても、リーダライタ等と第一RFタグとの離間距離(第一離間距離)と、リーダライタ等と第二RFタグとの離間距離(第二離間距離)との差は、埋設深さ位置の差で固定される。よって、第一RFタグからの電波信号の強度値に基づく第一指標値と、第二RFタグからの電波信号の強度値に基づく第二指標値との比較結果、より詳細には差分値に基づいて、セメント水混練体内における、第一RFタグの埋設位置と第二RFタグの埋設位置の間の領域に存在する水分量を精度良く推定でき、この推定値に基づいて、セメント水混練体の全体に存在する水分量を精度良く推定できる。
【0026】
前記システムは、前記セメント水混練体内に埋設され、前記セメント水混練体よりも吸水率が低い材料からなるタグ保護体を有し、
前記RFタグは、前記タグ保護体内に埋設された第一RFタグと、前記タグ保護体の外側の位置において前記セメント水混練体内に埋設された第二RFタグとを含み、
前記推定装置は、前記第一RFタグからの前記電波信号の強度値に基づく前記指標値である第一指標値と、前記第二RFタグからの前記電波信号の強度値に基づく前記指標値である第二指標値との比較結果に基づいて、前記セメント水混練体に含まれる水分量を推定するものとしても構わない。
【0027】
このような構成によれば、前述したように、リーダライタ等で受信した電波信号の強度値によってセメント水混練体に含まれる水分量を推定する場合において、推定処理の実行時にリーダライタ等の位置が変動することは予想されるところ、予めセメント水混練体内において、吸水率が低い材料からなるタグ保護体内に埋設された第一RFタグと、その外側の領域に配置された第二RFタグとが埋設されている。
【0028】
このため、深さ方向に関して、セメント水混練体内において、第一RFタグとセメント水混練体の表面との間の領域に含まれる水分量と、第二RFタグとセメント水混練体の表面との間の領域に含まれる水分量には、タグ保護体の吸水率とセメント水混練体の吸水率の相違に基づく差が生じる。この結果、第一RFタグからの電波信号の強度値に基づく第一指標値と、第二RFタグからの電波信号の強度値に基づく第二指標値との比較結果に基づいて、セメント水混練体内における、第二RFタグの埋設位置とセメント水混練体の表面との間の領域に含まれる水分量を推定できる。特に、第一RFタグと第二RFタグの両者を、ほぼ同じ埋設深さの位置に埋設しておくことで、第一指標値と第二指標値の比率と、タグ保護体の吸水率とセメント水混練体の吸水率の比率とに基づいて、第二RFタグの埋設位置の間の領域に存在する水分量を精度良く推定でき、この推定値に基づいて、セメント水混練体の全体に存在する水分量を精度良く推定できる。
【0029】
第一RFタグと第二RFタグの両者の埋設深さを同じにするためには、例えば、第二RFタグを予めセメント水混練体と同一の材料からなる硬化コンクリート又は硬化モルタル内に埋設してなるタグ埋設物を準備しておくと共に、第一RFタグが埋設されたタグ保護体と、第二RFタグが埋設されたタグ埋設物とを、共にセメント水混練体内に埋設する方法が採用できる。
【0030】
タグ保護体の材料としては、吸水率が5%未満であるのが好ましく、3%未満であるのがより好ましく、1%未満であるのが特に好ましい。また、タグ保護体の材料としては、誘電率がセメント水混練体と同程度であるのが好ましい。かかる観点から、タグ保護体は、超高強度コンクリート、セラミックス、ABS、ポリエチレンやポリプロピレン等の樹脂を好適に用いることができる。
【0031】
前記システムは、前記セメント水混練体内に埋設され、前記RFタグが固定されたスペーサを有し、
前記RFタグは、前記セメント水混練体の表面からの埋設深さに関する深さ情報が記録されており、
前記リーダ又はリーダライタは、前記RFタグからの前記電波信号の強度値と共に前記深さ情報を受信し、
前記推定装置は、前記リーダ又はリーダライタによって受信された前記電波信号の強度値と前記深さ情報、及び前記リーダ又はリーダライタと前記セメント水混練体との離間距離に基づいて、前記セメント水混練体に含まれる水分量を推定するものとしても構わない。
【0032】
前述したように、リーダライタ等で受信した電波信号の強度値によってセメント水混練体に含まれる水分量を推定する場合において、推定処理の実行時にリーダライタ等の位置が変動することは予想される。上記構成によれば、RFタグ側において予め埋設深さについての情報が記録されており、リーダライタ等で電波信号の強度値と深さ情報とが受信可能な構成である。また、推定処理の実行時における、リーダライタ等とセメント水混練体の表面との離間距離は実測可能である。よって、受信した電波強度値と、RFタグの埋設深さに関する深さ情報、及びリーダライタ等とセメント水混練体との離間距離に基づいて、演算処理によって、RFタグとセメント水混練体の表面との間におけるセメント水混練体内の水分量を推定できる。
【0033】
本発明は、打設後のフレッシュコンクリート、硬化コンクリート、打設後のフレッシュモルタル、又は硬化モルタルのいずれか1種に属するセメント水混練体に含まれる水分量の推定方法であって、
前記セメント水混練体にRFタグを埋設する工程(a)と、
前記セメント水混練体の外側の所定の位置に、前記RFタグとの間で電波信号の送受信が可能なリーダ又はリーダライタを配置する工程(b)と、
前記リーダ又はリーダライタで受信した前記電波信号の強度値、又は前記電波信号の受信が検知できる前記リーダ又はリーダライタと前記セメント水混練体との離間距離の上限閾値の少なくとも一方の指標値を測定する工程(c)と、
前記指標値に基づいて、前記セメント水混練体に含まれる水分量を推定する工程(d)とを有することを特徴とする。
【0034】
上記方法によれば、硬化前又は硬化後のいずれのコンクリート又はモルタルであっても、内部に含有される水分量を簡易な方法で推定することができる。
【0035】
また、本発明は、打設後のフレッシュコンクリート、硬化コンクリート、打設後のフレッシュモルタル、又は硬化モルタルのいずれか1種に属するセメント水混練体に含まれる水分量の推定用センサであって、
リーダ又はリーダライタとの間で通信可能なRFタグと、
前記RFタグが内側に固定され、前記セメント水混練体内における前記RFタグの埋設深さを調整するスペーサとを備えたことを特徴とする。
【0036】
かかるセンサによれば、フレッシュな状態の前記セメント水混練体にスペーサを埋設することのみで、容易に、セメント水混練体に埋設されるRFタグの深さ位置を所定値に設定することができる。これにより、推定処理の実行時にリーダライタ等の位置が変動した場合であっても、当該RFタグから反射された電波信号をリーダライタ等で受信することによって精度よくセメント水混練体に含まれる水分量を推定することが可能となる。
【0037】
なお、この場合において、前記RFタグには埋設深さに関する情報が書き込まれているものとしても構わない。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、硬化前及び硬化後のいずれの状態のセメント水混練体に対しても、簡易な方法で含有水分量を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】セメント水混練体に含まれる水分量の推定システムの第一実施形態の態様を模式的に示す図面である。
図2】リーダライタの機能ブロック図の一例である。
図3A】セメント水混練体に含まれる水分量が少ない場合において、前記推定方法が実行された場合を説明するための図面である。
図3B】セメント水混練体に含まれる水分量が多い場合において、前記推定方法が実行された場合を説明するための図面である。
図4】セメント水混練体に含まれる水分量とリーダライタで受信された反射電波強度との関係を模式的に示すグラフである。
図5A】打設後のフレッシュコンクリート又はフレッシュモルタルにおける含有水分量及び反射電波強度の経時的な変化を模式的に示すグラフである。
図5B】供用段階の硬化コンクリート又は硬化モルタルにおける含有水分量及び反射電波強度の経時的な変化を模式的に示すグラフである。
図6】セメント水混練体に含まれる水分量と通信距離との関係を図4にならって模式的に示すグラフである。
図7】セメント水混練体に含まれる水分量の推定システムの第二実施形態の態様を模式的に示す図面である。
図8】第一反射電波強度及び第二反射電波強度と、セメント水混練体内の含有水分量との関係を図4にならって模式的に示すグラフである。
図9】セメント水混練体に含まれる水分量の推定システムの第三実施形態の態様を模式的に示す図面である。
図10】セメント水混練体に含まれる水分量の推定システムの第三実施形態の別の態様を模式的に示す図面である。
図11】セメント水混練体に含まれる水分量の推定システムの第四実施形態の別の態様を模式的に示す図面である。
図12】リーダライタの機能ブロック図の別の一例である。
図13】セメント水混練体に含まれる水分量の推定システムの別実施形態の態様を模式的に示す図面である。
図14】セメント水混練体に含まれる水分量の推定システムの別実施形態の態様を模式的に示す図面である。
図15】試験用モルタルの打設後の経過時間と貫入抵抗値の関係を測定した結果である。
図16A】RFタグが埋設された試験用モルタルの打設開始からの経過時間と、測定された反射電波強度との関係を示すグラフである。
図16B図16Aの一部領域を拡大したグラフである。
図17】打設後の試験用コンクリートに対するブリーディング水の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明に係る、セメント水混練体に含まれる水分量の推定システム、セメント水混練体に含まれる水分量の推定方法、及びセメント水混練体に含まれる水分量の推定用センサの実施形態につき、適宜図面を参照して説明する。なお、以下の図面において、説明の都合上、一部が誇張して図示されている場合があり、実際の寸法比と図面上の寸法比とは必ずしも一致しない。
【0041】
[第一実施形態]
図1に示すように、セメント水混練体に含まれる水分量の推定システム(以下、「推定システム1」と略記する。)は、セメント水混練体3内に埋設されたRFタグ5と、リーダライタ10を含む。
【0042】
セメント水混練体3は、硬化前又は硬化後のいずれかの状態における、コンクリート又はモルタルである。
【0043】
RFタグ5は、誘導アンテナ(不図示)を内蔵し、所定の周波数帯の無線周波数で通信を行う。一例として、RFタグ5は、共振周波数が13.56MHz、寸法が54mm×86mm、厚みが2mmの板状型のRFタグである。RFタグ5は、金属非対応型であっても金属対応型であっても構わない。本発明において、RFタグ5の通信周波数帯、寸法、及び形状は任意である。このようなRFタグ5が、セメント水混練体3内に埋設されている。
【0044】
セメント水混練体3が硬化後のコンクリート又はモルタルで構成されている場合、このセメント水混練体3は、硬化前のフレッシュな状態においてRFタグ5が埋設された後、硬化処理が行われたものである。また、セメント水混練体3が硬化前のフレッシュなコンクリート又はモルタルで構成されている場合には、このセメント水混練体3内にRFタグ5が埋設される。この埋設工程が、工程(a)に対応する。
【0045】
作業員は、セメント水混練体3に含まれる水分量を推定する際、セメント水混練体3に埋設されたRFタグ5との間で無線通信が可能なリーダライタ10を当該セメント水混練体3が設置された現場に持参する。そして、リーダライタ10を、RFタグ5が埋め込まれている領域の近傍に配置又は把持し(工程(b)に対応)、リーダライタ10から所定周波数の電波信号W1をRFタグ5に向けて放射して、RFタグ5から送信される反射電波信号W2を受信する(工程(c)に対応)。なお、この工程(c)の詳細な説明は後述される。
【0046】
リーダライタ10は、専用機器であっても構わないし、電波信号W1の送信や反射電波信号W2の受信が可能な専用アプリケーションプログラムがインストールされた、スマートフォンやタブレットPCなどの汎用機器であっても構わない。なお、本実施形態では、「リーダライタ10」を用いる場合を例として説明するが、少なくともRFタグ5との間で通信可能な機器であればよく、すなわち、RFタグ5に対する情報の書き込み機能を有しない、いわゆる「リーダ」であっても構わない。
【0047】
図2は、本実施形態におけるリーダライタ10の機能ブロック図の一例である。リーダライタ10は、通信部11、表示出力部12、及び推定装置20を備える。なお、図13を参照して後述されるように、推定装置20は、リーダライタ10に内蔵されずに、リーダライタ10とは別体の装置として構成されていても構わない。
【0048】
通信部11は、RFタグ5との間で無線通信を行うためのインタフェースである。表示出力部12は、所定の表示用の演算処理を行うと共に、不図示のモニタに処理後の内容を表示する機能的手段である。推定装置20は、通信部11においてRFタグ5から送信された反射電波信号W2に基づいて、セメント水混練体3内に含まれる水分量を演算処理によって推定する処理装置であり、推定処理部21と記憶部22を備える。記憶部22は、フラッシュメモリ、ハードディスクなどの記憶媒体で構成され、後述される所定の情報が予め記録されている。推定処理部21は、RFタグ5から送信された反射電波信号W2と記憶部22に記録された情報とに基づいて演算処理を行う処理部であり、専用のハードウェア又はソフトウェアで構成される。
【0049】
セメント水混練体3内に含まれる水分量の多寡によって、反射電波信号W2の強度が変化する点につき、図3A及び図3Bを参照して説明する。図3Aは、セメント水混練体3内に含まれる水分量が比較的少ない場合に対応し、図3Bは、図3Aの状況と比べてセメント水混練体3内に含まれる水分量が多い場合に対応している。図3A及び図3Bでは、セメント水混練体3内に含まれる水分量の多寡の相違が、セメント水混練体3に付されたハッチングの密度によって模式的に表現されている。
【0050】
上述したように、リーダライタ10からRFタグ5に向かって電波信号W1が送信されると、セメント水混練体3の表面3a(以下、適宜「セメント水混練体表面3a」と称する。)とリーダライタ10との間の離間距離h10が離れ過ぎていない限り、RFタグ5側で電波信号W1が受信され、反射電波信号W2がリーダライタ10に向かって送信される。ところが、水は導電性を示すことから、反射電波信号W2の伝播経路内に存在する水の量に応じて、この反射電波信号W2の強度が低下する。
【0051】
上述したように、図3Bは、図3Aよりもセメント水混練体3に含まれる水分量が多い状況が模擬されている。このことは、図3Bの状態では、RFタグ5とセメント水混練体表面3aとの間の領域3b内に含まれる水分量、言い換えれば反射電波信号W2の伝播経路内に存在する水分量が、図3Aの状態よりも多いことを意味する。つまり、図3Aの状態においてリーダライタ10で受信される反射電波信号W2の強度がE2xである場合、図3Aよりも含有水分量の多い図3Bの状態においては、リーダライタ10で受信される反射電波信号W2の強度はE2xよりも低いE2yとなる。
【0052】
以上により、セメント水混練体3内に含まれる水分量(含有水分量V3)を横軸に取り、反射電波信号W2の強度E2(以下、適宜「反射電波強度E2」と称する。)を縦軸に取ってグラフ化すると、図4に示すように両者は負の相関を示す。より詳細には、反射電波強度E2は、含有水分量V3に対して実質的に反比例の関係を示す。なお、図4は、あくまで模式的に示したグラフであり、反射電波強度E2がセメント水混練体3内の含有水分量V3に対して、厳密な意味で反比例の関係であることに限定する意図はない。
【0053】
セメント水混練体3がフレッシュコンクリート又はフレッシュモルタルである場合には、時間の経過と共に水和反応が進行して自由水が減少する。このような現象は、セメント水混練体3の内部の特定の箇所で生じるものではなく、セメント水混練体3の全体にわたって生じる。これにより、RFタグ5とセメント水混練体表面3aとの間の領域3b内における水分量の多寡に依存する、反射電波強度E2(E2x,E2y)の値によって、セメント水混練体3全体にわたる含有水分量V3の推定が可能であることが分かる。
【0054】
図5Aは、打設後のフレッシュコンクリート又はフレッシュモルタルにおける含有水分量V3及び反射電波強度E2の経時的な変化を模式的に示すグラフである。図5Aに示すように、打設後の時間経過と共に水和反応が進展する結果、含有水分量V3が低下するため、リーダライタ10で受信される反射電波強度E2は経時的に増加傾向を示す。
【0055】
一方、セメント水混練体3が硬化コンクリート又は硬化モルタルである場合、すなわち、セメント水混練体3が供用段階にある場合には、水和反応に伴う水分量の変化は実質的に生じない。このようなセメント水混練体3内の含有水分量が変化する原因としては、雨水や結露に由来するものが一般的である。雨水や結露に由来する水分は、セメント水混練体表面3a側からセメント水混練体3内に深さ方向に浸透し、且つ、この浸透現象がセメント水混練体表面3aの面方向に関して全体的に生じる。つまり、この場合であっても、RFタグ5とセメント水混練体表面3aとの間の領域3b内における水分量の多寡に依存する、反射電波強度E2(E2x,E2y)の値によって、セメント水混練体3の全体にわたる含有水分量V3の推定が可能である。
【0056】
図5Bは、供用段階の硬化コンクリート又は硬化モルタルにおける含有水分量V3及び反射電波強度E2の経時的な変化を模式的に示すグラフである。図5Bに示すように、セメント水混練体3が供用段階にある場合には、基本的には時間経過と共に含有水分量V3は変化せずほとんど一定である。そして、あるタイミング(時間帯t1,t2)で、雨水や結露などの原因により、水分がセメント水混練体3内に浸透すると、水分量が一時的に増加し、リーダライタ10で受信される反射電波強度E2が一時的に低下する。
【0057】
以上のように、本実施形態の推定システム1によれば、セメント水混練体3を構成するコンクリートやモルタルがまだ十分に硬化していない施工段階から、硬化後の供用段階までの幅広い状況において、セメント水混練体3に含まれる水分量V3を推定することが可能となる。
【0058】
具体的には、図4に示したように、セメント水混練体3内における含有水分量V3と反射電波強度E2とは一定の相関関係を示すことから、この相関関係が規定された情報(以下、「相関情報」と称する。)を予め記憶部22に記録しておくものとして構わない。これにより、推定処理部21は、通信部11で受信された反射電波強度E2に関する情報を、記憶部22に記録された相関情報と照合することで、セメント水混練体3内の含有水分量V3の推定値を算定できる。つまり、リーダライタ10によって、反射電波強度E2が測定され(工程(c)に対応)、この反射電波強度E2と前記相関情報とに基づいて含有水分量V3が推定される(工程(d)に対応)。
【0059】
この相関情報は、含有水分量V3と反射電波強度E2との関係が表記されていればよく、その表記方法には限定されない。すなわち、相関情報は、データテーブルの形式で記載されていても構わないし、関数の形式で記載されていても構わない。
【0060】
また、記憶部22に記録される相関情報としては、事前にセメント水混練体3と同種の材料・配合からなる供試体を用いて測定されたデータを利用することができる。この場合、含有水分量V3の値としては、例えば、以下の方法を用いて測定された値を採用することができる。
【0061】
供試体が硬化後のセメント水混練体(硬化コンクリート、硬化モルタル等)の場合には、供試体の湿潤状態から乾燥状態への変化、又はその逆の湿潤状態から乾燥状態への変化に伴って変化する質量の測定値をもって含有水分量V3とすることができる。そして、この質量の測定データV3と反射電波強度の測定データE2との関係から相関情報を求めることができる。
【0062】
供試体が硬化前のセメント水混練体(フレッシュコンクリート、フレッシュモルタル等)の場合には、供試体の硬化過程の経時的な水分の変化に対応する測定指標の測定値から推定した値をもって含有水分量V3とすることができる。例えば、ブリーディング水の量を測定指標とすることができ、試験方法(例えばJIS A 1123に準拠した方法)を用いて、ブリーディング水の量を経時的に測定すると共に、この測定値から含有水分量V3の値を推定する。そして、この推定値と反射電波強度の測定データとの関係から相関情報を求めることができる。
【0063】
ブリーディング水は、フレッシュコンクリートの打設後、コンクリート表面に浮き上がってくる水であり、このブリーディング水の量と、試料中の全水量に対するブリーディング水の量を百分率で表したブリーディング率などから、含有水分量V3の値を推定することができるため、ブリーディング水の量を測定指標とすることができる。なお、含有水分量V3の推定値は、単位面積あたりの含有水分量の推定値としてもよいし、配合した水の量に対する比率の推定値などとしてもよい。フレッシュコンクリートの打設後に生じるブリーディング水の量の変化の態様については、実施例を参照して後述される。
【0064】
なお、この供試体はあくまで記憶部22に記録するための情報を得る際に用いられるものであって、推定処理の実行時に用いられるものではないことを確認のために付言しておく。
【0065】
(別態様)
ところで、上述した方法は、反射電波信号W2の強度(反射電波強度E2)の値に基づいて含有水分量V3を推定するものであり、言い換えれば、含有水分量V3を推定するための基礎となる指標値が反射電波強度E2であった。しかし、リーダライタ10によっては、反射電波信号W2を受信する機能を有していても、その強度値については計測できないものも存在する。
【0066】
かかる場合には、リーダライタ10とセメント水混練体表面3aとの離間距離h10(図3A参照)を変えながら、リーダライタ10が反射電波信号W2を検知できる離間距離h10の最大値(以下、「離間距離上限閾値h10max」と称する。)を、含有水分量V3を推定するための基礎となる指標値としても構わない。
【0067】
図6は、含有水分量V3と通信距離d2との関係を図4にならって模式的に示すグラフである。なお、ここでいう通信距離d2とは、リーダライタ10側で反射電波信号W2を検知できる、リーダライタ10とRFタグ5との離間距離の上限閾値を指す。
【0068】
RFタグ5から送信される反射電波信号W2がセメント水混練体3内を通過した後に当該反射電波信号W2が示す強度E2(反射電波強度E2)が比較的高い場合には、リーダライタ10をRFタグ5から比較的遠ざけたとしてもリーダライタ10が反射電波信号W2を検知できる。一方、反射電波強度E2が比較的低い場合には、リーダライタ10をRFタグ5に近づけなければリーダライタ10が反射電波信号W2を検知できない。
【0069】
つまり、反射電波強度E2と通信距離d2とは正の相関にあり、より詳細には実質的に比例関係にあるといえる。図6図4とを比較すると、縦軸が反射電波強度E2であるか通信距離d2であるかが相違するのみで、含有水分量V3との比較関係は近似している。
【0070】
通信距離d2は、前述した離間距離上限閾値h10maxと、セメント水混練体3内におけるRFタグ5の埋設深さとの合計値に対応する。セメント水混練体3内におけるRFタグ5の埋設深さは、同一の現場においては変化するものではない。従って、実質的に離間距離上限閾値h10maxによって、含有水分量V3を推定することが可能である。
【0071】
この方法による場合には、含有水分量V3と離間距離上限閾値h10maxとの相関関係が規定された情報(上述した「相関情報」に対応する。)が記憶部22に記録されているものとしても構わない。この場合の相関情報としては、例えば、含有水分量V3と反射電波強度E2の相関情報を得る場合と同様の手法により得られたものを利用できる。
【0072】
また、含有水分量V3と通信距離d2との相関情報が記憶部22に記録されているものとしても構わない。この場合には、記憶部22に予めセメント水混練体3内におけるRFタグ5の埋設深さについての情報が記録されており、この埋設深さと離間距離上限閾値h10maxの情報とに基づいて、対象となるセメント水混練体3の通信距離d2を算定した上で、前記相関情報から含有水分量V3が推定できる。なお、図11を参照して後述するように、RFタグ5側に埋設深さについての情報が予め記憶されている場合には、埋設深さに関する情報を記憶部22に記録しておく必要はなく、リーダライタ10側で反射電波信号W2を受信する際に併せて埋設深さについての情報を受信すればよい。
【0073】
なお、リーダライタ10が反射電波強度E2を検知できる構成であっても、推定装置20が離間距離上限閾値h10maxに基づいて含有水分量V3を推定するものとしても構わない。
【0074】
[第二実施形態]
推定システム1の第二実施形態について、図7及び図8を参照して説明する。なお、図7では、図示の都合上、電波信号(E1,E2)のうち、電波信号W1の図示が省略され、反射電波信号W2のみが図示されている。以下の図面においても、電波信号W1の図示が省略されることがある。
【0075】
第一実施形態で上述した推定システム1において、反射電波強度E2に基づいて含有水分量V3を推定する場合には、リーダライタ10とセメント水混練体表面3aとの離間距離h10(図3A図3B参照)を、可能な限り所定の値に保持する必要がある。なぜなら、離間距離h10が変化してしまうと、反射電波強度E2が変化し、含有水分量V3を正しく推定できなくなるおそれがあるためである。
【0076】
しかし、測定対象となるセメント水混練体3の周辺環境等の事情によっては、離間距離h10を所定の値に保持しながらリーダライタ10を配置することが困難な場合がある。
【0077】
本実施形態の推定システム1は、リーダライタ10の位置が固定できない場合であっても、精度よくセメント水混練体3の含有水分量V3を推定できる構成であって、セメント水混練体3内において埋設深さの異なる第一RFタグ5aと第二RFタグ5bとを含む。より詳細には、図7に示すように、セメント水混練体3内には、埋設深さh5aの位置に第一RFタグ5aが埋設されており、埋設深さh5aよりも深い埋設深さh5bの位置に第二RFタグ5bが埋設されている。
【0078】
セメント水混練体3が硬化後のコンクリート又はモルタルで構成されている場合、このセメント水混練体3は、硬化前のフレッシュな状態において、埋設深さの異なる位置に第一RFタグ5aと第二RFタグ5bとが埋設された後、硬化処理が行われたものである。また、セメント水混練体3が硬化前のフレッシュなコンクリート又はモルタルで構成されている場合には、このセメント水混練体3内の埋設深さの異なる位置に第一RFタグ5aと第二RFタグ5bが埋設される(工程(a)に対応)。
【0079】
リーダライタ10は、RFタグ(5a,5b)からそれぞれ反射電波信号(W2a,W2b)を受信する(工程(c)に対応)。第一RFタグ5aは、第二RFタグ5bよりもセメント水混練体3の表面3aに近い位置に埋設されているため、第一RFタグ5aからの反射電波信号W2aの強度E2aは、第二RFタグ5bからの反射電波信号W2bの強度E2bよりも高くなる。以下では、第一RFタグ5aからの反射電波信号W2aの強度E2aを「第一反射電波強度E2a」と記載し、第二RFタグ5bからの反射電波信号W2bの強度E2bを「第二反射電波強度E2b」と記載する。
【0080】
図8は、第一反射電波強度E2a及び第二反射電波強度E2bと、セメント水混練体3内の含有水分量V3との関係を、図4にならって模式的に示すグラフである。
【0081】
セメント水混練体3内の含有水分量が多くなるほど、第一反射電波強度E2aと第二反射電波強度E2bとの差分値dE2は小さくなる傾向を示す。これは、セメント水混練体3内の含有水分量が多くなるに連れて、第一RFタグ5aとセメント水混練体表面3aとの間の領域内に存在する水分量と、第二RFタグ5bとセメント水混練体表面3aとの間の領域内に存在する水分量との差が小さくなるためである。
【0082】
従って、第一反射電波強度E2aと第二反射電波強度E2bとの差分値dE2は、含有水分量V3の値に対して負の相関を示す。そして、この差分値dE2は、リーダライタ10とセメント水混練体表面3aとの離間距離h10が変化しても、殆ど又は全く変化しない。よって、推定装置20の記憶部22に差分値dE2と含有水分量V3との相関関係を記録しておき、推定処理部21が、通信部11で受信した各反射電波強度(E2a,E2b)の差を算出すると共に記憶部22から読み出した前記相関関係と照合することで、セメント水混練体3内の含有水分量V3を推定できる(工程(d)に対応)。
【0083】
(別態様)
本実施形態の推定システムの別態様について説明する。
【0084】
〈1〉 本実施形態では、第一反射電波強度E2aと第二反射電波強度E2bとの差分値dE2に基づいてセメント水混練体3内の含有水分量V3を推定するものとしたが、前記差分値dE2の値に対して所定の演算を行って得られる参照値に基づいて、セメント水混練体3内の含有水分量V3を推定するものとしても構わない。つまり、本実施形態では、第一RFタグ5aからの第一反射電波強度E2aを「第一指標値」とし、第二RFタグ5bからの第二反射電波強度E2bを「第二指標値」として、これらの指標値の差分値又は当該差分値に基づいて一意に決定される値、又は第一反射電波強度E2aと第二反射電波強度E2bとの比によって、含有水分量V3が推定される。
【0085】
〈2〉 本実施形態の推定システム1において、セメント水混練体3内の3種類以上の埋設深さの箇所にそれぞれRFタグ5が埋設されていても構わない。
【0086】
〈3〉 セメント水混練体3内に埋設されていない状態において、リーダライタ10側で受信される第一反射電波強度E2aと第二反射電波強度E2bとが相違するように、第一RFタグ5aと第二RFタグ5bとが選択されるものとしても構わない。かかる構成によれば、図8に模式的に示したように、含有水分量V3に対する第一反射電波強度E2aの変位傾向と、含有水分量V3に対する第二反射電波強度E2bの変位傾向とに差をつけやすくなるため、差分値dE2に基づく含有水分量V3の推定精度が高められる。
【0087】
[第三実施形態]
推定システム1の第三実施形態について、図9を参照して説明する。本実施形態の推定システム1も、第二実施形態と同様に、リーダライタ10の位置が固定できない場合であっても精度よくセメント水混練体3の含有水分量V3を推定できる構成である。本実施形態の推定システム1は、第二実施形態と同様に、セメント水混練体3内に埋設された複数のRFタグ(5a,5b)を含む。ただし、第一RFタグ5aと第二RFタグ5bとは、設置されている領域の吸水率が異なっている。
【0088】
図9に示す例では、複数のRFタグ(5a,5b)は、一体のスペーサ30内に設置されている。このスペーサ30は、セメント水混練体3よりも吸水率の低い材料からなる第一領域31と、セメント水混練体3と同等の吸水率を示す材料からなる第二領域32とを有して構成されている。一例として、第一領域31は、UFC(超高強度繊維補強コンクリート)、セラミックス、ポリエチレンやポリプロピレン等の樹脂で構成される。また、第二領域32は、セメント水混練体3と同様に、モルタルやコンクリートで構成される。図9に示す例では、スペーサ30の第一領域31が「タグ保護体」に対応する。
【0089】
第一RFタグ5aと第二RFタグ5bとは、ほぼ同じ埋設深さになるように設置される。なお、「ほぼ同じ」とは、第一RFタグ5aからの反射電波信号W2aの強度E2a(第一反射電波強度E2a)と、第二RFタグ5bからの反射電波信号W2bの強度E2b(第二反射電波強度E2b)との相違が、実質的に吸水率の相違にのみ依存すると近似可能な範囲で相違する場合を含む。具体的には、第一RFタグ5aと第二RFタグ5bの埋設深さの差が、埋設深さの10%以内の範囲内である場合を許容する。
【0090】
セメント水混練体3が硬化後のコンクリート又はモルタルで構成されている場合、このセメント水混練体3は、硬化前のフレッシュな状態において、第一領域31内に第一RFタグ5aが設置されると共に第二領域32内に第二RFタグ5bが設置されてなるスペーサ30が埋設された後、硬化処理が行われたものである。また、セメント水混練体3が硬化前のフレッシュなコンクリート又はモルタルで構成されている場合には、このセメント水混練体3内に第一RFタグ5aと第二RFタグ5bが設置されたスペーサ30が埋設される(工程(a)に対応)。
【0091】
リーダライタ10は、RFタグ(5a,5b)からそれぞれ反射電波信号(W2a,W2b)を受信する(工程(c)に対応)。セメント水混練体3に水分が含まれている場合であっても、第一RFタグ5aはセメント水混練体3の材料よりも吸水率の低い第一領域31内に設置されているため、第一RFタグ5aとセメント水混練体表面3aとの間の水分量は比較的少ない。これに対し、第二RFタグ5bは、セメント水混練体3と同等の吸水率を示す材料からなる第二領域32内に設置されているため、第二RFタグ5bとセメント水混練体表面3aとの間の水分量は、第一RFタグ5aとセメント水混練体表面3aとの間の水分量と比べて多くなる。
【0092】
この結果、第一RFタグ5aからの反射電波信号W2aの強度E2a(第一反射電波強度E2a)は、第二RFタグ5bからの反射電波信号W2bの強度E2b(第二反射電波強度E2b)よりも高くなる。そして、第一反射電波強度E2aと第二反射電波強度E2bの相違は、第一領域31の吸水率ε1と第二領域32の吸水率ε2との相違に由来する。つまり、第一反射電波強度E2aと第二反射電波強度E2bの相違は、第一領域31の吸水率ε1と第二領域32の吸水率ε2との比率と、セメント水混練体3内に含まれる含有水分量V3とで決定される。
【0093】
例えば、第一領域31の吸水率ε1をほぼ0とみなすことができる場合には、第一反射電波強度E2aと第二反射電波強度E2bの比率jE2によって、セメント水混練体3内に含まれる含有水分量V3の推定を行うことができる。この場合には、推定装置20の記憶部22に、比率jE2と含有水分量V3との相関関係を記録しておき、推定処理部21が、通信部11で受信した各反射電波強度(E2a,E2b)の比率を算出すると共に記憶部22から読み出した前記相関関係と照合することで、セメント水混練体3内の含有水分量V3を推定できる(工程(d)に対応)。
【0094】
また、第一領域31の吸水率ε1が0と近似できない場合であっても、各吸水率(ε1、ε2)は既知であるため、第一領域31と第二領域32の吸水率の相違に伴って、含有水分量V3を、第一反射電波強度E2aと第二反射電波強度E2bとの関数で規定することが可能である。この場合には、当該関数を推定装置20の記憶部22に記録しておき、推定処理部21が、通信部11で受信した各反射電波強度(E2a,E2b)の値を記憶部22から読み出した前記関数に当てはめて演算することで、セメント水混練体3内の含有水分量V3を推定できる(工程(d)に対応)。
【0095】
第二RFタグ5bは、必ずしもスペーサ30に設置される必要はない。すなわち、図10に示すように、第一RFタグ5aのみを、上述したセメント水混練体3よりも吸水率の低い材料からなるスペーサ30内に設置した上で、このスペーサ30をセメント水混練体3内に埋設するものとしても構わない。この場合、第二RFタグ5bは、スペーサ30の外側であって、第一RFタグ5aとほぼ同じ埋設深さの位置において、セメント水混練体3内に埋設される。図10に示す構成の場合には、スペーサ30自体が「タグ保護体」に対応する。
【0096】
なお、図9に示す第一RFタグ5a及び第二RFタグ5bを備えたスペーサ30、又は、図10に示す第一RFタグ5aを備えたスペーサ30が、本発明に係る「セメント水混練体に含まれる水分量の推定用センサ」の一例に対応する。
【0097】
[第四実施形態]
推定システム1の第四実施形態について、図11図12を参照して説明する。本実施形態の推定システム1も、第二実施形態と同様に、リーダライタ10の位置が固定できない場合であっても、精度よくセメント水混練体3の含有水分量V3を推定できる構成である。
【0098】
本実施形態の推定システム1は、第三実施形態と同様に、セメント水混練体3内に埋設されたスペーサ30を含む。ただし、スペーサ30の吸水率は限定されない。また、本実施形態の推定システム1では、スペーサ30内に設置されるRFタグ5は単独であっても構わない。
【0099】
スペーサ30は、コンクリートやモルタルのかぶり厚を調整するために設けられる。よって、スペーサ30内の所定の位置にRFタグ5を設置しておけば、セメント水混練体表面3aとRFタグ5との離間距離、すなわちRFタグ5の埋設深さh5を施工前の段階から認識できる。すなわち、RFタグ5側において、埋設深さh5の情報(深さ情報)を書き込むことが可能である。
【0100】
つまり、セメント水混練体3が硬化後のコンクリート又はモルタルで構成されている場合、このセメント水混練体3は、硬化前のフレッシュな状態において、埋設深さh5の情報が書き込まれたRFタグ5が設置されてなるスペーサ30が埋設された後、硬化処理が行われたものである。また、セメント水混練体3が硬化前のフレッシュなコンクリート又はモルタルで構成されている場合には、埋設深さh5の情報が書き込まれたRFタグ5が設置されてなるスペーサ30が埋設される(工程(a)に対応)。
【0101】
リーダライタ10は、RFタグ5から反射電波信号W2を受信する(工程(c)に対応)。この際、リーダライタ10は、RFタグ5に記録された埋設深さh5の情報についても併せて読み出す。
【0102】
本実施形態のリーダライタ10は、図12に示すように測距センサ23を備えており、セメント水混練体表面3aで反射したセンシング信号i23によって、リーダライタ10とセメント水混練体表面3aとの離間距離h10を測定することができる。
【0103】
ここで、反射電波信号W2の空気中の通信距離(離間距離h10)によって変動する係数をα、反射電波信号W2の乾燥状態のセメント水混練体3中の通信距離(埋設深さh5)によって変動する係数をβ、反射電波信号W2のセメント水混練体3中の水分量V3によって変動する係数をγとすると、反射電波強度E2は以下の(1)式で評価できる。
E2 = α・h10+(β・h5)・γ …(1)
【0104】
つまり、以下の(2)式によって、セメント水混練体3中の水分量の関数で規定されるγの値が算定される。
γ = (E2 - α・h10)/(β・h5) …(2)
【0105】
記憶部22には、予め、離間距離h10と係数αの関係、埋設深さh5と係数βの関係、及びセメント水混練体3の含有水分量V3と係数γの関係、及び上記(2)式に対応する評価式に関する情報がそれぞれ記録されている。上述したように、推定装置20側では、離間距離h10及び埋設深さh5についての情報を検知できる。よって、推定処理部21は、離間距離h10及び埋設深さh5に関する情報から、係数α及び係数βの値を演算で導出できる。そして、推定処理部21は、反射電波強度E2、係数α、及び係数βの値を(2)式に代入して係数γを算定した上で、記憶部22に記録された含有水分量V3と係数γの関係から、算定されたγの値に対応する含有水分量V3を導出できる。
【0106】
上記(2)式はあくまで説明のために一例として記載したものであり、演算に際しては、必ずしもこの式に基づかなくてはならないものではない。本実施形態の推定システム1は、RFタグ5から読み出された埋設深さh5に関する情報と、反射電波強度E2と、リーダライタ10とセメント水混練体表面3aとの離間距離h10に関する情報とを用いて、セメント水混練体3の含有水分量V3の推定値を算定する方法を包含する。
【0107】
また、リーダライタ10とセメント水混練体表面3aとの離間距離h10を測定する方法は任意である。つまり、リーダライタ10側に、前記離間距離h10を測定する機能が搭載されていなくても構わない。
【0108】
なお、図11に示す第一RFタグを備えたスペーサ30が、本発明に係る「セメント水混練体に含まれる水分量の推定用センサ」の一例に対応する。
【0109】
[別実施形態]
以下、別実施形態について説明する。
【0110】
〈1〉 図13に示すように、推定装置20は、リーダライタ10とは別体の装置で構成されていても構わない。この場合、リーダライタ10で受信した反射電波信号W2の強度に関する情報は、推定装置20に対して有線又は無線を介して送信され、推定装置20側において、受信した情報に基づいて演算処理が行われて含有水分量V3が推定される。図13に示す例では、推定装置20が推定処理部21による演算結果を出力するための情報出力部24を備えている。情報出力部24は、通信用インタフェースであっても構わないし、不図示のモニタに表示するための表示処理用の処理手段であっても構わない。
【0111】
〈2〉 上記実施形態では、RFタグ5(5a,5b)が金属非対応のRFタグであるものとしたが、例えばスペーサ30を鉄筋に固定する場合など、裏面側の近傍に金属材料が存在する場合には、RFタグ5(5a,5b)を金属対応のRFタグ(メタルタグ)としても構わない。
【0112】
〈3〉 上述の各実施形態において、推定システム1は、推定した水分量をユーザに報知する機能を更に備えていても構わない。一例として、リーダライタ10に搭載された表示出力部12が、推定処理部21において推定された水分量を表示するものとしても構わない。また、不図示の通信手段を通じて、推定した水分量に関する情報がサーバやスマートフォンに送信されるものとしても構わない。更に、不図示の音声出力手段(スピーカ等)を通じて、報知用の音声信号が出力されるものとしても構わない。ユーザは、報知された水分量に関する情報や報知用の音声信号に基づいて、例えば、上述の床コンクリートの施工段階における仕上げ時期や、コンクリート構造体の共用段階における鉄筋腐食の発生リスクを把握することができる。
【0113】
なお、この場合において、報知される情報としては、推定した水分量の値そのものには限られない。一例として、推定装置20が、床コンクリートの施工段階における仕上げ時期に達したか否かを、推定した水分量に基づいて判定すると共に、この判定結果が報知される構成としてもよい。別の一例として、推定装置20が、コンクリート構造体の共用段階における鉄筋腐食の発生リスクの程度を、推定した水分量に基づいて判定し、この判定結果が報知される構成としてもよい。この判定手法としては、例えば、仕上げ時期に達したと判定する水分量の閾値を記憶部22に予め記憶しておき、実際に推定した水分量がこの閾値に達した場合には、推定処理部21が仕上げ時期に達したと判定する手法を採用することができるが、この方法に限られない。
【0114】
〈4〉 上述した第二実施形態では、埋設深さの異なる2種類のRFタグ(5a,5b)を用いると共に、これらのRFタグ(5a,5b)のそれぞれから送信された反射電波信号(W2a,W2b)の差分値や比率に基づく値に基づいて、含有水分量V3を推定する構成であった。これに対し、リーダライタ10側において、異なる位置に複数の通信部11を設けることで、それぞれの通信部11とRFタグ5との離間距離の複数種類にするものとしても構わない(例えば図14参照)。
【0115】
図14は、この別実施形態の推定システム1の構成を模式的に示す図面である。リーダライタ10は、複数の通信部(11a,11b)を搭載している。この通信部(11a,11b)は例えばアンテナであり、このうちの少なくとも1つのアンテナが外付けであっても構わない。これらの通信部(11a,11b)は、相互に、セメント水混練体表面3aとの離間距離を異ならせることができるような位置に設置されている。より詳細には、これらの通信部(11a,11b)は、リーダライタ10の面のうち、測定対象となるセメント水混練体3に対向する面10aからの距離(h11a,h11b)がそれぞれ異なる位置に設置される。図A09の例によれば、通信部11aとセメント水混練体表面3aとの離間距離は、h10とh11aの合計値に対応し、通信部11bとセメント水混練体表面3aとの離間距離は、h10とh11bの合計値に対応する。
【0116】
この構成の場合、リーダライタ10は、搭載した2つの通信部(11a,11b)において、RFタグ5からそれぞれ反射電波信号(W2a,W2b)を受信する。これらの反射電波信号の強度(E2a,E2b)の差分値又は比率は、リーダライタ10の表面とセメント水混練体表面3aとの離間距離h10が変動しても、セメント水混練体3内の含有水分量に依存した値となる。この結果、測定時に前記離間距離h10を所定の値に保持できない事情がある場合であっても、上記実施形態と同様に、セメント水混練体3内の含有水分量V3を推定できる
【実施例
【0117】
以下、実施例を参照して説明する。
【0118】
[試験1]
下記表1及び表2に示す材料からなる試験用モルタルを打設し、JIS A 1147に準拠する方法で、所定時間の経過と共に貫入抵抗値を測定しながら、硬化時間を計測した。この評価結果を図15に示す。なお、図15において、貫入抵抗値が3.5N/mm2に達した時点を「始発」と記載し、28.0N/mm2に達した時点を「終結」と記載している。なお、表1において、W/Cは水セメント比を指し、S/Cは砂セメント比を指す。
【0119】
【表1】
【0120】
【表2】
【0121】
次に、埋設深さ4cmの位置に、横25mm×縦9mm×厚み3mmの寸法のRFタグ5を埋設した状態で上記表1の材料からなるモルタルを打設し、所定時間経過ごとに、リーダライタ10によって反射電波信号W2を受信して強度E2(反射電波強度E2)を計測した。リーダライタ10は、対応する信号の周波数が920MHz帯で、出力が250mWのものが用いられた。この計測結果を、図16A及び図16Bに示す。
【0122】
つまり、本実施例では、含有水分量の測定対象となるセメント水混練体3が、フレッシュモルタルによって模擬されている。
【0123】
なお、計測に際しては、リーダライタ10を、モルタルの表面からの離間距離h10が90mm、120mm、150mmと異ならせた3種類の位置に設置した状態で、反射電波強度E2の計測が行われた。また、図16Bは、図16Aの一部時間帯を拡大した図面である。
【0124】
図16Bによれば、打設してから終結するタイミングまでの間において、離間距離h10に関わらず、反射電波強度E2が徐々に上昇していることが確認される。このことは、セメントの水和反応が進行して硬化が進むに連れて自由水が減少するに連れ、反射電波強度E2が上昇していることを示すものである。この結果より、反射電波強度E2に基づいてセメント水混練体3内の含有水分量V3が推定できることが分かる。
【0125】
また、図16Aによれば、終結の後、更に反射電波強度E2が更に上昇していることが確認される。このことは、水和反応が更に進行してセメント水混練体3(ここではモルタル)内の含有水分量V3が減少傾向にあることを示すものである。
【0126】
以上の結果から、反射電波強度E2に基づいてセメント水混練体3内の含有水分量V3が推定できることが確認される。
【0127】
[試験2]
下記表3及び表4に示す材料からなる試験用コンクリートを打設し、JIS A 1123に準拠する方法で、ブリーディング水の量を計測した。この評価結果を図17及び表5に示す。図17は、ブリーディング水の累積水量と経過時間との関係をグラフ化したものである。表4において、s/aとは、全体の質量に対する細骨材の質量の比率(細骨材率)を指し、混和剤(Ad1,Ad2)の混入量は、セメントの質量に対する百分率で表記されている。
【0128】
【表3】
【0129】
【表4】
【0130】
【表5】
【0131】
図17によれば、打設してから終結するタイミングまでの間において、ブリーディング水の水量が経時的に増加傾向を示すことが確認される。このことは、時間経過に伴い、自由水の一部がコンクリート表面に浮き出ていることを示すものである。上述の通り、自由水が減少するに連れて、反射電波強度E2は上昇する。よって、経過時間毎に測定されたブリーディング水量と反射電波強度の情報を、上述した相関情報として利用し、この相関情報と実際に測定した反射電波強度E2とに基づいてセメント水混練体3内の含有水分量V3が推定できることが分かる。
【符号の説明】
【0132】
1 :推定システム
3 :セメント水混練体
3a :セメント水混練体表面
3b :領域
5 :RFタグ
5a :第一RFタグ
5b :第二RFタグ
10 :リーダライタ
10a :リーダライタ表面
11 :通信部
12 :表示出力部
20 :推定装置
21 :推定処理部
22 :記憶部
23 :測距センサ
24 :情報出力部
30 :スペーサ
31 :第一領域
32 :第二領域
W1 :電波信号
W2,W2a,W2b:反射電波信号
E2,E2a,E2b:反射電波強度
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16A
図16B
図17