(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】抗HER2抗体-薬物コンジュゲート投与によるHER2変異がんの治療
(51)【国際特許分類】
A61K 47/68 20170101AFI20240221BHJP
A61K 31/4745 20060101ALI20240221BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240221BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240221BHJP
【FI】
A61K47/68 ZNA
A61K31/4745
A61K39/395 Y
A61P35/00
(21)【出願番号】P 2020522178
(86)(22)【出願日】2019-05-27
(86)【国際出願番号】 JP2019020886
(87)【国際公開番号】W WO2019230645
(87)【国際公開日】2019-12-05
【審査請求日】2022-05-27
(31)【優先権主張番号】P 2018101211
(32)【優先日】2018-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018177132
(32)【優先日】2018-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】307010166
【氏名又は名称】第一三共株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】藤崎 良彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 雄太
(72)【発明者】
【氏名】芹澤 結衣
(72)【発明者】
【氏名】志賀 遼太
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 格
(72)【発明者】
【氏名】慈幸 貴洋
(72)【発明者】
【氏名】徳廣 臣哉
【審査官】新熊 忠信
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/115091(WO,A1)
【文献】MAZIERES, J., et al.,Lung cancer patients with HER2 mutations treated with chemotherapy and HER2-targeted drugs: results,Annals of Oncology,2016年,Vol.27,p.281-286, ISSN 1569-8041,特にAbstract、Figure 1、第282頁左欄第19行~28行、第284頁右欄第17行~41
【文献】PETRELLI, F., et al.,Clinical and pathological characterization of HER2 mutations in human breast cancer: a systematic re,Breast Cancer Research and Treatment,2017年,Vol.166,p.339-349, ISSN 1573-7217,特にAbstract、Table 1
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/00-47/69
A61P 35/00
A61K 31/00-33/44
A61K 39/00-39/44
C07K 16/00-16/46
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式
【化1】
(式中、Aは抗HER2抗体との結合位置を示す)
で示される薬物リンカーと、抗HER2抗体とがチオエーテル結合によって結合した抗HER2抗体-薬物コンジュゲートを有効成分として含有する、HER2変異がんの治療剤
であり、
抗HER2抗体が、
配列番号1においてアミノ酸番号1乃至449に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号2においてアミノ酸番号1乃至214に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖を含んでなる抗体である、又は、
配列番号1に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号2に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖を含んでなる抗体である、
治療剤。
【請求項2】
HER2変異がんにおけるHER2変異が、Y772_A775dup、G778_P780dup、G776delinsVC、L755S、V777L、V659E、G660D、S310F、A20T、A21S、R143Q、K200N、A242V、D277Y、A293P、N302K、V308M、S310Y、N319Y、S335C、R340P、S418T、W452C、V541M、I613V、P627H、A644V、R647G、I654V、I655V、I661V、R678Q、Q680H、V697L、G704R、Q709L、Q711H、G727A、T733I、E744G、N745D、L755P、L755A、L755F、S760F、D769H、D769N、D769Y、E770_A771insAYVM、A771_Y772insYVMA、M774_A775insAYVM、A775_G776insYVMA、A775G、G776delinsLC、G776C、G776delinsAVGC、G776delinsVV、G776_V777insL、G776L、G776_V777insVC、G776_V777insVGC、V777_G778insCG、V777_G778insG、G778_S779insG、S779P、S779_P780insVGS、P780_Y781insGSP、R784C、R784H、L785R、L786V、T791I、G804S、L807F、S819F、I829T、V842I、L846F、T862I、R868W、L869R、T875I、W906*、T917S、Q943*、S1007*、及びS1151Lからなる群より選択される少なくとも一つである、請求項1に記載の治療剤。
【請求項3】
HER2変異がんにおけるHER2変異が、Y772_A775dup、G778_P780dup、G776delinsVC、L755S、V777L、及びS310Fからなる群より選択される少なくとも一つである、請求項2に記載の治療剤。
【請求項4】
HER2変異がんにおけるHER2変異が、Exon 20 insertion変異である、請求項1に記載の治療剤。
【請求項5】
Exon 20 insertion変異が、Y772_A775dup、G778_P780dup、G776delinsVC、E770_A771insAYVM、A771_Y772insYVMA、M774_A775insAYVM、A775_G776insYVMA、G776delinsLC、G776delinsAVGC、G776delinsVV、G776_V777insL、G776_V777insVC、G776_V777insVGC、V777_G778insCG、V777_G778insG、G778_S779insG、S779_P780insVGS、及びP780_Y781insGSPからなる群より選択される少なくとも一つである、請求項4に記載の治療剤。
【請求項6】
Exon 20 insertion変異が、Y772_A775dup、G778_P780dup、及びG776delinsVCからなる群より選択される少なくとも一つである、請求項5に記載の治療剤。
【請求項7】
HER2変異がんにおけるHER2変異が、HER2蛋白の膜貫通ドメインにおけるSingle base pair substitution変異である、請求項1に記載の治療剤。
【請求項8】
HER2蛋白の膜貫通ドメインにおけるSingle base pair substitution変異が、V659E、G660D、I654V、I655V、及びI661Vからなる群より選択される少なくとも一つである、請求項7に記載の治療剤。
【請求項9】
HER2蛋白の膜貫通ドメインにおけるSingle base pair substitution変異が、G660Dである、請求項8に記載の治療剤。
【請求項10】
HER2変異がんにおけるHER2変異が、HER2蛋白の細胞外ドメインにおけるSingle base pair substitution変異である、請求項1に記載の治療剤。
【請求項11】
HER2蛋白の細胞外ドメインにおけるSingle base pair substitution変異が、S310F、A20T、A21S、R143Q、K200N、A242V、D277Y、A293P、N302K、V308M、S310Y、N319Y、S335C、R340P、S418T、W452C、V541M、I613V、P627H、A644V、及びR647Gからなる群より選択される少なくとも一つである、請求項10に記載の治療剤。
【請求項12】
HER2蛋白の細胞外ドメインにおけるSingle base pair substitution変異が、S310Fである、請求項11に記載の治療剤。
【請求項13】
HER2変異がんにおけるがんが、非小細胞肺がん、乳がん、胃がん、大腸がん、食道がん、唾液腺がん、胃食道接合部腺がん、胆道がん、ページェット病、膵臓がん、卵巣がん、及び子宮がん肉腫からなる群より選択される少なくとも一つである、請求項1~12のいずれか1項に記載の治療剤。
【請求項14】
HER2変異がんにおけるがんが、非小細胞肺がんである、請求項1~12のいずれか
1項に記載の治療剤。
【請求項15】
非小細胞肺がんが、切除不能及び/又は転移性の非小細胞肺がんである、請求項14に記載の治療剤。
【請求項16】
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7から8個の範囲である、請求項1~
15のいずれか1項に記載の治療剤。
【請求項17】
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7.5から8個の範囲である、請求項1~
15のいずれか1項に記載の治療剤。
【請求項18】
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートの1回あたりの投与量が5.4mg/kgから8mg/kgの範囲である、請求項1~
17のいずれか1項に記載の治療剤。
【請求項19】
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートの1回あたりの投与量が5.4mg/kg又は6.4mg/kgである、請求項1~
17のいずれか1項に記載の治療剤。
【請求項20】
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートの1回あたりの投与量が5.4mg/kgである、請求項1~
17のいずれか1項に記載の治療剤。
【請求項21】
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートの1回あたりの投与量が6.4mg/kgである、請求項1~
17のいずれか1項に記載の治療剤。
【請求項22】
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートが3週に1回の間隔で投与される、請求項1~
21のいずれか1項に記載の治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の抗HER2抗体-薬物コンジュゲートを含有する、HER2変異がんの治療剤、及び/又は、特定の抗HER2抗体-薬物コンジュゲートを、HER2変異がんを有することが確認された患者に投与することを特徴とする、がんの治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト上皮増殖因子受容体2(HER2)は、受容体蛋白質チロシンキナーゼの上皮増殖因子受容体サブファミリーに属する膜貫通受容体である(非特許文献1~6)。
HER2は乳がん、胃がん等様々ながん種において過剰発現しており(非特許文献7~12)、乳がんにおいては負の予後因子であることが報告されている(非特許文献13、14)。HER2過剰発現がんに対し有効な抗HER2薬として、トラスツズマブ、トラスツズマブエムタンシン、ペルツズマブ、及びラパチニブ等が知られている。
【0003】
一方、HER2には変異体が存在し、がんのドライバー変異の一つであることが知られている。このようなHER2変異がんは、例えば、非小細胞肺がんのうち約2%~3%の割合で存在することが報告されている(非特許文献15~20)。HER2変異がんに対する抗HER2薬の効果を検証する試験が行われている(非特許文献21、22)。
【0004】
がん細胞表面に発現し、かつ細胞に内在化できる抗原に結合する抗体に、細胞毒性を有する薬物を結合させた抗体-薬物コンジュゲート(Antibody-Drug Conjugate;ADC)は、がん細胞に選択的に薬物を送達できることによって、がん細胞内に薬物を蓄積させ、がん細胞を死滅させることが期待できる(非特許文献23~27)。
【0005】
抗体-薬物コンジュゲートの一つとして、抗HER2抗体とトポイソメラーゼI阻害剤であるエキサテカンの誘導体を構成要素とする抗体-薬物コンジュゲートが知られている(特許文献1~3、非特許文献28~31)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2015/115091号
【文献】国際公開第2015/155976号
【文献】国際公開第2018/066626号
【非特許文献】
【0007】
【文献】Coussens L, et al., Science. 1985; 230(4730):1132-1139.
【文献】Graus-Porta G, et al., EMBO J.1997;16:1647-1655.
【文献】Karnagaran D, et al., EMBO J.1996;15:254-264.
【文献】Sliwkowski MX, et al., J Biom Chem. 1994;269: 14661-14665.
【文献】Di Fore PP, et al., Science. 1987; 237:178-182.
【文献】Hudziak RM, et al., Proc Natl Acad Sci U S A.1987; 84: 7159-7163.
【文献】Hardwick R, et al., Eur. J Surg Oncol. 1997(23):30-35.
【文献】Korkaya H, et al., Oncogene.2008;27(47):6120-6130.
【文献】Yano T, et al., Oncol Rep. 2006; 15(1):65-71.
【文献】Slamon DJ, et al., Science. 1987; 235:177-182.
【文献】Gravalos C, et al., Ann Oncol 19: 1523-1529,2008.
【文献】Fukushige S et al., Mol Cell Biol 6:955-958, 1986.
【文献】Slamon DJ, et al., Science. 1989; 244:707-712.
【文献】Kaptain S, et al., Diagn Mol Pathol 10:139-152, 2001.
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【文献】Li C, et al., J Thorac Oncol 2012; 7: 85-9.
【文献】Tomizaka K, et al., Lung Cancer 2011; 74:139-44.
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【文献】Ogitani Y. et al., Clinical Cancer Research(2016) 22(20), 5097-5108.
【文献】Ogitani Y. et al., Cancer Science (2016)107, 1039-1046.
【文献】Doi T, et al., Lancet Oncol 2017; 18:1512-22.
【文献】Takegawa N, et al., Int. J. Cancer: 141,1682-1689 (2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
抗HER2抗体とトポイソメラーゼI阻害剤であるエキサテカンの誘導体を構成要素とする抗HER2抗体-薬物コンジュゲートは、HER2過剰発現が確認されたがんに対し抗腫瘍効果を発揮することが知られている。しかし、該抗HER2抗体-薬物コンジュゲートがHER2変異がんに対し抗腫瘍効果を発揮し得ることは明らかにされていない。本発明は、特定の抗HER2抗体-薬物コンジュゲートを含有する、HER2変異がんの治療剤、及び/又は、特定の抗HER2抗体-薬物コンジュゲートを、HER2変異がんを有することが確認された患者に投与することを特徴とする、がんの治療方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討したところ、特定の抗HER2抗体-薬物コンジュゲートが、HER2変異がんに対し、優れた抗腫瘍効果を示すことを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[176]を提供する。
[1]
式
【0011】
【0012】
(式中、Aは抗HER2抗体との結合位置を示す)
で示される薬物リンカーと、抗HER2抗体とがチオエーテル結合によって結合した抗HER2抗体-薬物コンジュゲートを有効成分として含有する、HER2変異がんの治療剤。
[2]
HER2変異がんにおけるHER2変異が、Y772_A775dup、G778_P780dup、G776delinsVC、L755S、V777L、V659E、G660D、S310F、A20T、A21S、R143Q、K200N、A242V、D277Y、A293P、N302K、V308M、S310Y、N319Y、S335C、R340P、S418T、W452C、V541M、I613V、P627H、A644V、R647G、I654V、I655V、I661V、R678Q、Q680H、V697L、G704R、Q709L、Q711H、G727A、T733I、E744G、N745D、L755P、L755A、L755F、S760F、D769H、D769N、D769Y、E770_A771insAYVM、A771_Y772insYVMA、M774_A775insAYVM、A775_G776insYVMA、A775G、G776delinsLC、G776C、G776delinsAVGC、G776delinsVV、G776_V777insL、G776L、G776_V777insVC、G776_V777insVGC、V777_G778insCG、V777_G778insG、G778_S779insG、S779P、S779_P780insVGS、P780_Y781insGSP、R784C、R784H、L785R、L786V、T791I、G804S、L807F、S819F、I829T、V842I、L846F、T862I、R868W、L869R、T875I、W906*、T917S、Q943*、S1007*、及びS1151Lからなる群より選択される少なくとも一つである、[1]に記載の治療剤。
[3]
HER2変異がんにおけるHER2変異が、Y772_A775dup、G778_P780dup、G776delinsVC、L755S、V777L、及びS310Fからなる群より選択される少なくとも一つである、[2]に記載の治療剤。
[4]
HER2変異がんにおけるHER2変異が、Exon 20 insertion変異である、[1]に記載の治療剤。
[5]
Exon 20 insertion変異が、Y772_A775dup、G778_P780dup、G776delinsVC、E770_A771insAYVM、A771_Y772insYVMA、M774_A775insAYVM、A775_G776insYVMA、G776delinsLC、G776delinsAVGC、G776delinsVV、G776_V777insL、G776_V777insVC、G776_V777insVGC、V777_G778insCG、V777_G778insG、G778_S779insG、S779_P780insVGS、及びP780_Y781insGSPからなる群より選択される少なくとも一つである、[4]に記載の治療剤。
[6]
Exon 20 insertion変異が、Y772_A775dup、G778_P780dup、及びG776delinsVCからなる群より選択される少なくとも一つである、[5]に記載の治療剤。
[7]
HER2変異がんにおけるHER2変異が、HER2蛋白の膜貫通ドメインにおけるSingle base pair substitution変異である、[1]に記載の治療剤。
[8]
HER2蛋白の膜貫通ドメインにおけるSingle base pair substitution変異が、V659E、G660D、I654V、I655V、及びI661Vからなる群より選択される少なくとも一つである、[7]に記載の治療剤。
[9]
HER2蛋白の膜貫通ドメインにおけるSingle base pair substitution変異が、G660Dである、[8]に記載の治療剤。
[10]
HER2変異がんにおけるHER2変異が、HER2蛋白の細胞外ドメインにおけるSingle base pair substitution変異である、[1]に記載の治療剤。
[11]
HER2蛋白の細胞外ドメインにおけるSingle base pair substitution変異が、S310F、A20T、A21S、R143Q、K200N、A242V、D277Y、A293P、N302K、V308M、S310Y、N319Y、S335C、R340P、S418T、W452C、V541M、I613V、P627H、A644V、及びR647Gからなる群より選択される少なくとも一つである、[10]に記載の治療剤。
[12]
HER2蛋白の細胞外ドメインにおけるSingle base pair substitution変異が、S310Fである、[11]に記載の治療剤。
[13]
HER2変異がんにおけるがんが、非小細胞肺がん、乳がん、胃がん、大腸がん、食道がん、唾液腺がん、胃食道接合部腺がん、胆道がん、ページェット病、膵臓がん、卵巣がん、及び子宮がん肉腫からなる群より選択される少なくとも一つである、[1]~[12]のいずれか1項に記載の治療剤。
[14]
HER2変異がんにおけるがんが、非小細胞肺がんである、[1]~[12]のいずれか1項に記載の治療剤。
[15]
非小細胞肺がんが、切除不能及び/又は転移性の非小細胞肺がんである、[14]に記載の治療剤。
[16]
抗HER2抗体が、配列番号1においてアミノ酸番号1乃至449に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号2においてアミノ酸番号1乃至214に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖を含んでなる抗体である、[1]~[15]のいずれか1項に記載の治療剤。
[17]
抗HER2抗体が、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号2に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖を含んでなる抗体である、[1]~[15]のいずれか1項に記載の治療剤。
[18]
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7から8個の範囲である、[1]~[17]のいずれか1項に記載の治療剤。
[19]
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7.5から8個の範囲である、[1]~[17]のいずれか1項に記載の治療剤。
[20]
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートの1回あたりの投与量が5.4mg/kgから8mg/kgの範囲である、[1]~[19]のいずれか1項に記載の治療剤。
[21]
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートの1回あたりの投与量が6.4mg/kgである、[1]~[19]のいずれか1項に記載の治療剤。
[22]
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートが3週に1回の間隔で投与される、[1]~[21]のいずれか1項に記載の治療剤。
[23]
式
【0013】
【0014】
(式中、薬物リンカーは抗HER2抗体とチオエーテル結合によって結合しており、nは1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数を示す)
で示される抗HER2抗体-薬物コンジュゲートを有効成分として含有する、HER2変異がんの治療剤。
[24]
HER2変異がんにおけるHER2変異が、Y772_A775dup、G778_P780dup、G776delinsVC、L755S、V777L、V659E、G660D、S310F、A20T、A21S、R143Q、K200N、A242V、D277Y、A293P、N302K、V308M、S310Y、N319Y、S335C、R340P、S418T、W452C、V541M、I613V、P627H、A644V、R647G、I654V、I655V、I661V、R678Q、Q680H、V697L、G704R、Q709L、Q711H、G727A、T733I、E744G、N745D、L755P、L755A、L755F、S760F、D769H、D769N、D769Y、E770_A771insAYVM、A771_Y772insYVMA、M774_A775insAYVM、A775_G776insYVMA、A775G、G776delinsLC、G776C、G776delinsAVGC、G776delinsVV、G776_V777insL、G776L、G776_V777insVC、G776_V777insVGC、V777_G778insCG、V777_G778insG、G778_S779insG、S779P、S779_P780insVGS、P780_Y781insGSP、R784C、R784H、L785R、L786V、T791I、G804S、L807F、S819F、I829T、V842I、L846F、T862I、R868W、L869R、T875I、W906*、T917S、Q943*、S1007*、及びS1151Lからなる群より選択される少なくとも一つである、[23]に記載の治療剤。
[25]
HER2変異がんにおけるHER2変異が、Y772_A775dup、G778_P780dup、G776delinsVC、L755S、V777L、及びS310Fからなる群より選択される少なくとも一つである、[24]に記載の治療剤。
[26]
HER2変異がんにおけるHER2変異が、Exon 20 insertion変異である、[23]に記載の治療剤。
[27]
Exon 20 insertion変異が、Y772_A775dup、G778_P780dup、G776delinsVC、E770_A771insAYVM、A771_Y772insYVMA、M774_A775insAYVM、A775_G776insYVMA、G776delinsLC、G776delinsAVGC、G776delinsVV、G776_V777insL、G776_V777insVC、G776_V777insVGC、V777_G778insCG、V777_G778insG、G778_S779insG、S779_P780insVGS、及びP780_Y781insGSPからなる群より選択される少なくとも一つである、[26]に記載の治療剤。
[28]
Exon 20 insertion変異が、Y772_A775dup、G778_P780dup、及びG776delinsVCからなる群より選択される少なくとも一つである、[27]に記載の治療剤。
[29]
HER2変異がんにおけるHER2変異が、HER2蛋白の膜貫通ドメインにおけるSingle base pair substitution変異である、[23]に記載の治療剤。
[30]
HER2蛋白の膜貫通ドメインにおけるSingle base pair substitution変異が、V659E、G660D、I654V、I655V、及びI661Vからなる群より選択される少なくとも一つである、[29]に記載の治療剤。
[31]
HER2蛋白の膜貫通ドメインにおけるSingle base pair substitution変異が、G660Dである、[30]に記載の治療剤。
[32]
HER2変異がんにおけるHER2変異が、HER2蛋白の細胞外ドメインにおけるSingle base pair substitution変異である、[23]に記載の治療剤。
[33]
HER2蛋白の細胞外ドメインにおけるSingle base pair substitution変異が、S310F、A20T、A21S、R143Q、K200N、A242V、D277Y、A293P、N302K、V308M、S310Y、N319Y、S335C、R340P、S418T、W452C、V541M、I613V、P627H、A644V、及びR647Gからなる群より選択される少なくとも一つである、[32]に記載の治療剤。
[34]
HER2蛋白の細胞外ドメインにおけるSingle base pair substitution変異が、S310Fである、[33]に記載の治療剤。
[35]
HER2変異がんにおけるがんが、非小細胞肺がん、乳がん、胃がん、大腸がん、食道がん、唾液腺がん、胃食道接合部腺がん、胆道がん、ページェット病、膵臓がん、卵巣がん、及び子宮がん肉腫からなる群より選択される少なくとも一つである、[23]~[34]のいずれか1項に記載の治療剤。
[36]
HER2変異がんにおけるがんが、非小細胞肺がんである、[23]~[34]のいずれか1項に記載の治療剤。
[37]
非小細胞肺がんが、切除不能及び/又は転移性の非小細胞肺がんである、[36]に記載の治療剤。
[38]
抗HER2抗体が、配列番号1においてアミノ酸番号1乃至449に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号2においてアミノ酸番号1乃至214に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖を含んでなる抗体である、[23]~[37]のいずれか1項に記載の治療剤。
[39]
抗HER2抗体が、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号2に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖を含んでなる抗体である、[23]~[37]のいずれか1項に記載の治療剤。
[40]
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7から8個の範囲である、[23]~[39]のいずれか1項に記載の治療剤。
[41]
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7.5から8個の範囲である、[23]~[39]のいずれか1項に記載の治療剤。
[42]
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートの1回あたりの投与量が5.4mg/kgから8mg/kgの範囲である、[23]~[41]のいずれか1項に記載の治療剤。
[43]
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートの1回あたりの投与量が6.4mg/kgである、[23]~[41]のいずれか1項に記載の治療剤。
[44]
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートが3週に1回の間隔で投与される、[23]~[43]のいずれか1項に記載の治療剤。
[45]
式
【0015】
【0016】
(式中、Aは抗HER2抗体との結合位置を示す)
で示される薬物リンカーと、抗HER2抗体とがチオエーテル結合によって結合した抗HER2抗体-薬物コンジュゲートを、HER2変異がんを有することが確認された患者に投与することを特徴とする、がんの治療方法。
[46]
HER2変異がんにおけるHER2変異が、Y772_A775dup、G778_P780dup、G776delinsVC、L755S、V777L、V659E、G660D、S310F、A20T、A21S、R143Q、K200N、A242V、D277Y、A293P、N302K、V308M、S310Y、N319Y、S335C、R340P、S418T、W452C、V541M、I613V、P627H、A644V、R647G、I654V、I655V、I661V、R678Q、Q680H、V697L、G704R、Q709L、Q711H、G727A、T733I、E744G、N745D、L755P、L755A、L755F、S760F、D769H、D769N、D769Y、E770_A771insAYVM、A771_Y772insYVMA、M774_A775insAYVM、A775_G776insYVMA、A775G、G776delinsLC、G776C、G776delinsAVGC、G776delinsVV、G776_V777insL、G776L、G776_V777insVC、G776_V777insVGC、V777_G778insCG、V777_G778insG、G778_S779insG、S779P、S779_P780insVGS、P780_Y781insGSP、R784C、R784H、L785R、L786V、T791I、G804S、L807F、S819F、I829T、V842I、L846F、T862I、R868W、L869R、T875I、W906*、T917S、Q943*、S1007*、及びS1151Lからなる群より選択される少なくとも一つである、[45]に記載の治療方法。
[47]
HER2変異がんにおけるHER2変異が、Y772_A775dup、G778_P780dup、G776delinsVC、L755S、V777L、及びS310Fからなる群より選択される少なくとも一つである、[46]に記載の治療方法。
[48]
HER2変異がんにおけるHER2変異が、Exon 20 insertion変異である、[45]に記載の治療方法。
[49]
Exon 20 insertion変異が、Y772_A775dup、G778_P780dup、G776delinsVC、E770_A771insAYVM、A771_Y772insYVMA、M774_A775insAYVM、A775_G776insYVMA、G776delinsLC、G776delinsAVGC、G776delinsVV、G776_V777insL、G776_V777insVC、G776_V777insVGC、V777_G778insCG、V777_G778insG、G778_S779insG、S779_P780insVGS、及びP780_Y781insGSPからなる群より選択される少なくとも一つである、[48]に記載の治療方法。
[50]
Exon 20 insertion変異が、Y772_A775dup、G778_P780dup、及びG776delinsVCからなる群より選択される少なくとも一つである、[49]に記載の治療方法。
[51]
HER2変異がんにおけるHER2変異が、HER2蛋白の膜貫通ドメインにおけるSingle base pair substitution変異である、[45]に記載の治療方法。
[52]
HER2蛋白の膜貫通ドメインにおけるSingle base pair substitution変異が、V659E、G660D、I654V、I655V、及びI661Vからなる群より選択される少なくとも一つである、[51]に記載の治療方法。
[53]
HER2蛋白の膜貫通ドメインにおけるSingle base pair substitution変異が、G660Dである、[52]に記載の治療方法。
[54]
HER2変異がんにおけるHER2変異が、HER2蛋白の細胞外ドメインにおけるSingle base pair substitution変異である、[45]に記載の治療方法。
[55]
HER2蛋白の細胞外ドメインにおけるSingle base pair substitution変異が、S310F、A20T、A21S、R143Q、K200N、A242V、D277Y、A293P、N302K、V308M、S310Y、N319Y、S335C、R340P、S418T、W452C、V541M、I613V、P627H、A644V、及びR647Gからなる群より選択される少なくとも一つである、[54]に記載の治療方法。
[56]
HER2蛋白の細胞外ドメインにおけるSingle base pair substitution変異が、S310Fである、[55]に記載の治療方法。
[57]
HER2変異がんにおけるがんが、非小細胞肺がん、乳がん、胃がん、大腸がん、食道がん、唾液腺がん、胃食道接合部腺がん、胆道がん、ページェット病、膵臓がん、卵巣がん、及び子宮がん肉腫からなる群より選択される少なくとも一つである、[45]~[56]のいずれか1項に記載の治療方法。
[58]
HER2変異がんにおけるがんが、非小細胞肺がんである、[45]~[56]のいずれか1項に記載の治療方法。
[59]
非小細胞肺がんが、切除不能及び/又は転移性の非小細胞肺がんである、[58]に記載の治療方法。
[60]
抗HER2抗体が、配列番号1においてアミノ酸番号1乃至449に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号2においてアミノ酸番号1乃至214に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖を含んでなる抗体である、[45]~[59]のいずれか1項に記載の治療方法。
[61]
抗HER2抗体が、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号2に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖を含んでなる抗体である、[45]~[59]のいずれか1項に記載の治療方法。
[62]
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7から8個の範囲である、[45]~[61]のいずれか1項に記載の治療方法。
[63]
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7.5から8個の範囲である、[45]~[61]のいずれか1項に記載の治療方法。
[64]
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートの1回あたりの投与量が5.4mg/kgから8mg/kgの範囲である、[45]~[63]のいずれか1項に記載の治療方法。
[65]
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートの1回あたりの投与量が6.4mg/kgである、[45]~[63]のいずれか1項に記載の治療方法。
[66]
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートが3週に1回の間隔で投与される、[45]~[65]のいずれか1項に記載の治療方法。
[67]
式
【0017】
【0018】
(式中、薬物リンカーは抗HER2抗体とチオエーテル結合によって結合しており、nは1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数を示す)
で示される抗HER2抗体-薬物コンジュゲートを、HER2変異がんを有することが確認された患者に投与することを特徴とする、がんの治療方法。
[68]
HER2変異がんにおけるHER2変異が、Y772_A775dup、G778_P780dup、G776delinsVC、L755S、V777L、V659E、G660D、S310F、A20T、A21S、R143Q、K200N、A242V、D277Y、A293P、N302K、V308M、S310Y、N319Y、S335C、R340P、S418T、W452C、V541M、I613V、P627H、A644V、R647G、I654V、I655V、I661V、R678Q、Q680H、V697L、G704R、Q709L、Q711H、G727A、T733I、E744G、N745D、L755P、L755A、L755F、S760F、D769H、D769N、D769Y、E770_A771insAYVM、A771_Y772insYVMA、M774_A775insAYVM、A775_G776insYVMA、A775G、G776delinsLC、G776C、G776delinsAVGC、G776delinsVV、G776_V777insL、G776L、G776_V777insVC、G776_V777insVGC、V777_G778insCG、V777_G778insG、G778_S779insG、S779P、S779_P780insVGS、P780_Y781insGSP、R784C、R784H、L785R、L786V、T791I、G804S、L807F、S819F、I829T、V842I、L846F、T862I、R868W、L869R、T875I、W906*、T917S、Q943*、S1007*、及びS1151Lからなる群より選択される少なくとも一つである、[67]に記載の治療方法。
[69]
HER2変異がんにおけるHER2変異が、Y772_A775dup、G778_P780dup、G776delinsVC、L755S、V777L、及びS310Fからなる群より選択される少なくとも一つである、[68]に記載の治療方法。
[70]
HER2変異がんにおけるHER2変異が、Exon 20 insertion変異である、[67]に記載の治療方法。
[71]
Exon 20 insertion変異が、Y772_A775dup、G778_P780dup、G776delinsVC、E770_A771insAYVM、A771_Y772insYVMA、M774_A775insAYVM、A775_G776insYVMA、G776delinsLC、G776delinsAVGC、G776delinsVV、G776_V777insL、G776_V777insVC、G776_V777insVGC、V777_G778insCG、V777_G778insG、G778_S779insG、S779_P780insVGS、及びP780_Y781insGSPからなる群より選択される少なくとも一つである、[70]に記載の治療方法。
[72]
Exon 20 insertion変異が、Y772_A775dup、G778_P780dup、及びG776delinsVCからなる群より選択される少なくとも一つである、[71]に記載の治療方法。
[73]
HER2変異がんにおけるHER2変異が、HER2蛋白の膜貫通ドメインにおけるSingle base pair substitution変異である、[67]に記載の治療方法。
[74]
HER2蛋白の膜貫通ドメインにおけるSingle base pair substitution変異が、V659E、G660D、I654V、I655V、及びI661Vからなる群より選択される少なくとも一つである、[73]に記載の治療方法。
[75]
HER2蛋白の膜貫通ドメインにおけるSingle base pair substitution変異が、G660Dである、[74]に記載の治療方法。
[76]
HER2変異がんにおけるHER2変異が、HER2蛋白の細胞外ドメインにおけるSingle base pair substitution変異である、[67]に記載の治療方法。
[77]
HER2蛋白の細胞外ドメインにおけるSingle base pair substitution変異が、S310F、A20T、A21S、R143Q、K200N、A242V、D277Y、A293P、N302K、V308M、S310Y、N319Y、S335C、R340P、S418T、W452C、V541M、I613V、P627H、A644V、及びR647Gからなる群より選択される少なくとも一つである、[76]に記載の治療方法。
[78]
HER2蛋白の細胞外ドメインにおけるSingle base pair substitution変異が、S310Fである、[77]に記載の治療方法。
[79]
HER2変異がんにおけるがんが、非小細胞肺がん、乳がん、胃がん、大腸がん、食道がん、唾液腺がん、胃食道接合部腺がん、胆道がん、ページェット病、膵臓がん、卵巣がん、及び子宮がん肉腫からなる群より選択される少なくとも一つである、[67]~[78]のいずれか1項に記載の治療方法。
[80]
HER2変異がんにおけるがんが、非小細胞肺がんである、[67]~[78]のいずれか1項に記載の治療方法。
[81]
非小細胞肺がんが、切除不能及び/又は転移性の非小細胞肺がんである、[80]に記載の治療方法。
[82]
抗HER2抗体が、配列番号1においてアミノ酸番号1乃至449に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号2においてアミノ酸番号1乃至214に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖を含んでなる抗体である、[67]~[81]のいずれか1項に記載の治療方法。
[83]
抗HER2抗体が、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号2に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖を含んでなる抗体である、[67]~[81]のいずれか1項に記載の治療方法。
[84]
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7から8個の範囲である、[67]~[83]のいずれか1項に記載の治療方法。
[85]
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7.5から8個の範囲である、[67]~[83]のいずれか1項に記載の治療方法。
[86]
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートの1回あたりの投与量が5.4mg/kgから8mg/kgの範囲である、[67]~[85]のいずれか1項に記載の治療方法。
[87]
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートの1回あたりの投与量が6.4mg/kgである、[67]~[85]のいずれか1項に記載の治療方法。
[88]
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートが3週に1回の間隔で投与される、[67]~[87]のいずれか1項に記載の治療方法。
[89]
HER2変異がんの治療のための、
式
【0019】
【0020】
(式中、Aは抗HER2抗体との結合位置を示す)
で示される薬物リンカーと、抗HER2抗体とがチオエーテル結合によって結合した抗HER2抗体-薬物コンジュゲート。
[90]
HER2変異がんにおけるHER2変異が、Y772_A775dup、G778_P780dup、G776delinsVC、L755S、V777L、V659E、G660D、S310F、A20T、A21S、R143Q、K200N、A242V、D277Y、A293P、N302K、V308M、S310Y、N319Y、S335C、R340P、S418T、W452C、V541M、I613V、P627H、A644V、R647G、I654V、I655V、I661V、R678Q、Q680H、V697L、G704R、Q709L、Q711H、G727A、T733I、E744G、N745D、L755P、L755A、L755F、S760F、D769H、D769N、D769Y、E770_A771insAYVM、A771_Y772insYVMA、M774_A775insAYVM、A775_G776insYVMA、A775G、G776delinsLC、G776C、G776delinsAVGC、G776delinsVV、G776_V777insL、G776L、G776_V777insVC、G776_V777insVGC、V777_G778insCG、V777_G778insG、G778_S779insG、S779P、S779_P780insVGS、P780_Y781insGSP、R784C、R784H、L785R、L786V、T791I、G804S、L807F、S819F、I829T、V842I、L846F、T862I、R868W、L869R、T875I、W906*、T917S、Q943*、S1007*、及びS1151Lからなる群より選択される少なくとも一つである、[89]に記載の抗HER2抗体-薬物コンジュゲート。
[91]
HER2変異がんにおけるHER2変異が、Y772_A775dup、G778_P780dup、G776delinsVC、L755S、V777L、及びS310Fからなる群より選択される少なくとも一つである、[90]に記載の抗HER2抗体-薬物コンジュゲート。
[92]
HER2変異がんにおけるHER2変異が、Exon 20 insertion変異である、[89]に記載の抗HER2抗体-薬物コンジュゲート。
[93]
Exon 20 insertion変異が、Y772_A775dup、G778_P780dup、G776delinsVC、E770_A771insAYVM、A771_Y772insYVMA、M774_A775insAYVM、A775_G776insYVMA、G776delinsLC、G776delinsAVGC、G776delinsVV、G776_V777insL、G776_V777insVC、G776_V777insVGC、V777_G778insCG、V777_G778insG、G778_S779insG、S779_P780insVGS、及びP780_Y781insGSPからなる群より選択される少なくとも一つである、[92]に記載の抗HER2抗体-薬物コンジュゲート。
[94]
Exon 20 insertion変異が、Y772_A775dup、G778_P780dup、及びG776delinsVCからなる群より選択される少なくとも一つである、[93]に記載の抗HER2抗体-薬物コンジュゲート。
[95]
HER2変異がんにおけるHER2変異が、HER2蛋白の膜貫通ドメインにおけるSingle base pair substitution変異である、[89]に記載の抗HER2抗体-薬物コンジュゲート。
[96]
HER2蛋白の膜貫通ドメインにおけるSingle base pair substitution変異が、V659E、G660D、I654V、I655V、及びI661Vからなる群より選択される少なくとも一つである、[95]に記載の抗HER2抗体-薬物コンジュゲート。
[97]
HER2蛋白の膜貫通ドメインにおけるSingle base pair substitution変異が、G660Dである、[96]に記載の抗HER2抗体-薬物コンジュゲート。
[98]
HER2変異がんにおけるHER2変異が、HER2蛋白の細胞外ドメインにおけるSingle base pair substitution変異である、[89]に記載の抗HER2抗体-薬物コンジュゲート。
[99]
HER2蛋白の細胞外ドメインにおけるSingle base pair substitution変異が、S310F、A20T、A21S、R143Q、K200N、A242V、D277Y、A293P、N302K、V308M、S310Y、N319Y、S335C、R340P、S418T、W452C、V541M、I613V、P627H、A644V、及びR647Gからなる群より選択される少なくとも一つである、[98]に記載の抗HER2抗体-薬物コンジュゲート。
[100]
HER2蛋白の細胞外ドメインにおけるSingle base pair substitution変異が、S310Fである、[99]に記載の抗HER2抗体-薬物コンジュゲート。
[101]
HER2変異がんにおけるがんが、非小細胞肺がん、乳がん、胃がん、大腸がん、食道がん、唾液腺がん、胃食道接合部腺がん、胆道がん、ページェット病、膵臓がん、卵巣がん、及び子宮がん肉腫からなる群より選択される少なくとも一つである、[89]~[100]のいずれか1項に記載の抗HER2抗体-薬物コンジュゲート。
[102]
HER2変異がんにおけるがんが、非小細胞肺がんである、[89]~[100]のいずれか1項に記載の抗HER2抗体-薬物コンジュゲート。
[103]
非小細胞肺がんが、切除不能及び/又は転移性の非小細胞肺がんである、[102]に記載の抗HER2抗体-薬物コンジュゲート。
[104]
抗HER2抗体が、配列番号1においてアミノ酸番号1乃至449に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号2においてアミノ酸番号1乃至214に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖を含んでなる抗体である、[89]~[103]のいずれか1項に記載の抗HER2抗体-薬物コンジュゲート。
[105]
抗HER2抗体が、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号2に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖を含んでなる抗体である、[89]~[103]のいずれか1項に記載の抗HER2抗体-薬物コンジュゲート。
[106]
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7から8個の範囲である、[89]~[105]のいずれか1項に記載の抗HER2抗体-薬物コンジュゲート。
[107]
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7.5から8個の範囲である、[89]~[105]のいずれか1項に記載の抗HER2抗体-薬物コンジュゲート。
[108]
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートの1回あたりの投与量が5.4mg/kgから8mg/kgの範囲である、[89]~[107]のいずれか1項に記載の抗HER2抗体-薬物コンジュゲート。
[109]
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートの1回あたりの投与量が6.4mg/kgである、[89]~[107]のいずれか1項に記載の抗HER2抗体-薬物コンジュゲート。
[110]
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートが3週に1回の間隔で投与される、[89]~[109]のいずれか1項に記載の抗HER2抗体-薬物コンジュゲート。
[111]
HER2変異がんの治療のための、
式
【0021】
【0022】
(式中、薬物リンカーは抗HER2抗体とチオエーテル結合によって結合しており、nは1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数を示す)
で示される抗HER2抗体-薬物コンジュゲート。
[112]
HER2変異がんにおけるHER2変異が、Y772_A775dup、G778_P780dup、G776delinsVC、L755S、V777L、V659E、G660D、S310F、A20T、A21S、R143Q、K200N、A242V、D277Y、A293P、N302K、V308M、S310Y、N319Y、S335C、R340P、S418T、W452C、V541M、I613V、P627H、A644V、R647G、I654V、I655V、I661V、R678Q、Q680H、V697L、G704R、Q709L、Q711H、G727A、T733I、E744G、N745D、L755P、L755A、L755F、S760F、D769H、D769N、D769Y、E770_A771insAYVM、A771_Y772insYVMA、M774_A775insAYVM、A775_G776insYVMA、A775G、G776delinsLC、G776C、G776delinsAVGC、G776delinsVV、G776_V777insL、G776L、G776_V777insVC、G776_V777insVGC、V777_G778insCG、V777_G778insG、G778_S779insG、S779P、S779_P780insVGS、P780_Y781insGSP、R784C、R784H、L785R、L786V、T791I、G804S、L807F、S819F、I829T、V842I、L846F、T862I、R868W、L869R、T875I、W906*、T917S、Q943*、S1007*、及びS1151Lからなる群より選択される少なくとも一つである、[111]に記載の抗HER2抗体-薬物コンジュゲート。
[113]
HER2変異がんにおけるHER2変異が、Y772_A775dup、G778_P780dup、G776delinsVC、L755S、V777L、及びS310Fからなる群より選択される少なくとも一つである、[112]に記載の抗HER2抗体-薬物コンジュゲート。
[114]
HER2変異がんにおけるHER2変異が、Exon 20 insertion変異である、[111]に記載の抗HER2抗体-薬物コンジュゲート。
[115]
Exon 20 insertion変異が、Y772_A775dup、G778_P780dup、G776delinsVC、E770_A771insAYVM、A771_Y772insYVMA、M774_A775insAYVM、A775_G776insYVMA、G776delinsLC、G776delinsAVGC、G776delinsVV、G776_V777insL、G776_V777insVC、G776_V777insVGC、V777_G778insCG、V777_G778insG、G778_S779insG、S779_P780insVGS、及びP780_Y781insGSPからなる群より選択される少なくとも一つである、[114]に記載の抗HER2抗体-薬物コンジュゲート。
[116]
Exon 20 insertion変異が、Y772_A775dup、G778_P780dup、及びG776delinsVCからなる群より選択される少なくとも一つである、[115]に記載の抗HER2抗体-薬物コンジュゲート。
[117]
HER2変異がんにおけるHER2変異が、HER2蛋白の膜貫通ドメインにおけるSingle base pair substitution変異である、[111]に記載の抗HER2抗体-薬物コンジュゲート。
[118]
HER2蛋白の膜貫通ドメインにおけるSingle base pair substitution変異が、V659E、G660D、I654V、I655V、及びI661Vからなる群より選択される少なくとも一つである、[117]に記載の抗HER2抗体-薬物コンジュゲート。
[119]
HER2蛋白の膜貫通ドメインにおけるSingle base pair substitution変異が、G660Dである、[118]に記載の抗HER2抗体-薬物コンジュゲート。
[120]
HER2変異がんにおけるHER2変異が、HER2蛋白の細胞外ドメインにおけるSingle base pair substitution変異である、[111]に記載の抗HER2抗体-薬物コンジュゲート。
[121]
HER2蛋白の細胞外ドメインにおけるSingle base pair substitution変異が、S310F、A20T、A21S、R143Q、K200N、A242V、D277Y、A293P、N302K、V308M、S310Y、N319Y、S335C、R340P、S418T、W452C、V541M、I613V、P627H、A644V、及びR647Gからなる群より選択される少なくとも一つである、[120]に記載の抗HER2抗体-薬物コンジュゲート。
[122]
HER2蛋白の細胞外ドメインにおけるSingle base pair substitution変異が、S310Fである、[121]に記載の抗HER2抗体-薬物コンジュゲート。
[123]
HER2変異がんにおけるがんが、非小細胞肺がん、乳がん、胃がん、大腸がん、食道がん、唾液腺がん、胃食道接合部腺がん、胆道がん、ページェット病、膵臓がん、卵巣がん、及び子宮がん肉腫からなる群より選択される少なくとも一つである、[111]~[122]のいずれか1項に記載の抗HER2抗体-薬物コンジュゲート。
[124]
HER2変異がんにおけるがんが、非小細胞肺がんである、[111]~[122]のいずれか1項に記載の抗HER2抗体-薬物コンジュゲート。
[125]
非小細胞肺がんが、切除不能及び/又は転移性の非小細胞肺がんである、[124]に記載の抗HER2抗体-薬物コンジュゲート。
[126]
抗HER2抗体が、配列番号1においてアミノ酸番号1乃至449に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号2においてアミノ酸番号1乃至214に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖を含んでなる抗体である、[111]~[125]のいずれか1項に記載の抗HER2抗体-薬物コンジュゲート。
[127]
抗HER2抗体が、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号2に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖を含んでなる抗体である、[111]~[125]のいずれか1項に記載の抗HER2抗体-薬物コンジュゲート。
[128]
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7から8個の範囲である、[111]~[127]のいずれか1項に記載の抗HER2抗体-薬物コンジュゲート。
[129]
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7.5から8個の範囲である、[111]~[127]のいずれか1項に記載の抗HER2抗体-薬物コンジュゲート。
[130]
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートの1回あたりの投与量が5.4mg/kgから8mg/kgの範囲である、[111]~[129]のいずれか1項に記載の抗HER2抗体-薬物コンジュゲート。
[131]
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートの1回あたりの投与量が6.4mg/kgである、[111]~[129]のいずれか1項に記載の抗HER2抗体-薬物コンジュゲート。
[132]
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートが3週に1回の間隔で投与される、[111]~[131]のいずれか1項に記載の抗HER2抗体-薬物コンジュゲート。
[133]
HER2変異がんの治療用の医薬を製造するための、
式
【0023】
【0024】
(式中、Aは抗HER2抗体との結合位置を示す)
で示される薬物リンカーと、抗HER2抗体とがチオエーテル結合によって結合した抗HER2抗体-薬物コンジュゲートの使用。
[134]
HER2変異がんにおけるHER2変異が、Y772_A775dup、G778_P780dup、G776delinsVC、L755S、V777L、V659E、G660D、S310F、A20T、A21S、R143Q、K200N、A242V、D277Y、A293P、N302K、V308M、S310Y、N319Y、S335C、R340P、S418T、W452C、V541M、I613V、P627H、A644V、R647G、I654V、I655V、I661V、R678Q、Q680H、V697L、G704R、Q709L、Q711H、G727A、T733I、E744G、N745D、L755P、L755A、L755F、S760F、D769H、D769N、D769Y、E770_A771insAYVM、A771_Y772insYVMA、M774_A775insAYVM、A775_G776insYVMA、A775G、G776delinsLC、G776C、G776delinsAVGC、G776delinsVV、G776_V777insL、G776L、G776_V777insVC、G776_V777insVGC、V777_G778insCG、V777_G778insG、G778_S779insG、S779P、S779_P780insVGS、P780_Y781insGSP、R784C、R784H、L785R、L786V、T791I、G804S、L807F、S819F、I829T、V842I、L846F、T862I、R868W、L869R、T875I、W906*、T917S、Q943*、S1007*、及びS1151Lからなる群より選択される少なくとも一つである、[133]に記載の使用。
[135]
HER2変異がんにおけるHER2変異が、Y772_A775dup、G778_P780dup、G776delinsVC、L755S、V777L、及びS310Fからなる群より選択される少なくとも一つである、[134]に記載の使用。
[136]
HER2変異がんにおけるHER2変異が、Exon 20 insertion変異である、[133]に記載の使用。
[137]
Exon 20 insertion変異が、Y772_A775dup、G778_P780dup、G776delinsVC、E770_A771insAYVM、A771_Y772insYVMA、M774_A775insAYVM、A775_G776insYVMA、G776delinsLC、G776delinsAVGC、G776delinsVV、G776_V777insL、G776_V777insVC、G776_V777insVGC、V777_G778insCG、V777_G778insG、G778_S779insG、S779_P780insVGS、及びP780_Y781insGSPからなる群より選択される少なくとも一つである、[136]に記載の使用。
[138]
Exon 20 insertion変異が、Y772_A775dup、G778_P780dup、及びG776delinsVCからなる群より選択される少なくとも一つである、[137]に記載の使用。
[139]
HER2変異がんにおけるHER2変異が、HER2蛋白の膜貫通ドメインにおけるSingle base pair substitution変異である、[133]に記載の使用。
[140]
HER2蛋白の膜貫通ドメインにおけるSingle base pair substitution変異が、V659E、G660D、I654V、I655V、及びI661Vからなる群より選択される少なくとも一つである、[139]に記載の使用。
[141]
HER2蛋白の膜貫通ドメインにおけるSingle base pair substitution変異が、G660Dである、[140]に記載の使用。
[142]
HER2変異がんにおけるHER2変異が、HER2蛋白の細胞外ドメインにおけるSingle base pair substitution変異である、[133]に記載の使用。
[143]
HER2蛋白の細胞外ドメインにおけるSingle base pair substitution変異が、S310F、A20T、A21S、R143Q、K200N、A242V、D277Y、A293P、N302K、V308M、S310Y、N319Y、S335C、R340P、S418T、W452C、V541M、I613V、P627H、A644V、及びR647Gからなる群より選択される少なくとも一つである、[142]に記載の使用。
[144]
HER2蛋白の細胞外ドメインにおけるSingle base pair substitution変異が、S310Fである、[143]に記載の使用。
[145]
HER2変異がんにおけるがんが、非小細胞肺がん、乳がん、胃がん、大腸がん、食道がん、唾液腺がん、胃食道接合部腺がん、胆道がん、ページェット病、膵臓がん、卵巣がん、及び子宮がん肉腫からなる群より選択される少なくとも一つである、[133]~[144]のいずれか1項に記載の使用。
[146]
HER2変異がんにおけるがんが、非小細胞肺がんである、[133]~[144]のいずれか1項に記載の使用。
[147]
非小細胞肺がんが、切除不能及び/又は転移性の非小細胞肺がんである、[146]に記載の使用。
[148]
抗HER2抗体が、配列番号1においてアミノ酸番号1乃至449に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号2においてアミノ酸番号1乃至214に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖を含んでなる抗体である、[133]~[147]のいずれか1項に記載の使用。
[149]
抗HER2抗体が、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号2に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖を含んでなる抗体である、[133]~[147]のいずれか1項に記載の使用。
[150]
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7から8個の範囲である、[133]~[149]のいずれか1項に記載の使用。
[151]
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7.5から8個の範囲である、[133]~[149]のいずれか1項に記載の使用。
[152]
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートの1回あたりの投与量が5.4mg/kgから8mg/kgの範囲である、[133]~[151]のいずれか1項に記載の使用。
[153]
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートの1回あたりの投与量が6.4mg/kgである、[133]~[151]のいずれか1項に記載の使用。
[154]
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートが3週に1回の間隔で投与される、[133]~[153]のいずれか1項に記載の使用。
[155]
HER2変異がんの治療用の医薬を製造するための、
式
【0025】
【0026】
(式中、薬物リンカーは抗HER2抗体とチオエーテル結合によって結合しており、nは1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数を示す)
で示される抗HER2抗体-薬物コンジュゲートの使用。
[156]
HER2変異がんにおけるHER2変異が、Y772_A775dup、G778_P780dup、G776delinsVC、L755S、V777L、V659E、G660D、S310F、A20T、A21S、R143Q、K200N、A242V、D277Y、A293P、N302K、V308M、S310Y、N319Y、S335C、R340P、S418T、W452C、V541M、I613V、P627H、A644V、R647G、I654V、I655V、I661V、R678Q、Q680H、V697L、G704R、Q709L、Q711H、G727A、T733I、E744G、N745D、L755P、L755A、L755F、S760F、D769H、D769N、D769Y、E770_A771insAYVM、A771_Y772insYVMA、M774_A775insAYVM、A775_G776insYVMA、A775G、G776delinsLC、G776C、G776delinsAVGC、G776delinsVV、G776_V777insL、G776L、G776_V777insVC、G776_V777insVGC、V777_G778insCG、V777_G778insG、G778_S779insG、S779P、S779_P780insVGS、P780_Y781insGSP、R784C、R784H、L785R、L786V、T791I、G804S、L807F、S819F、I829T、V842I、L846F、T862I、R868W、L869R、T875I、W906*、T917S、Q943*、S1007*、及びS1151Lからなる群より選択される少なくとも一つである、[155]に記載の使用。
[157]
HER2変異がんにおけるHER2変異が、Y772_A775dup、G778_P780dup、G776delinsVC、L755S、V777L、及びS310Fからなる群より選択される少なくとも一つである、[156]に記載の使用。
[158]
HER2変異がんにおけるHER2変異が、Exon 20 insertion変異である、[155]に記載の使用。
[159]
Exon 20 insertion変異が、Y772_A775dup、G778_P780dup、G776delinsVC、E770_A771insAYVM、A771_Y772insYVMA、M774_A775insAYVM、A775_G776insYVMA、G776delinsLC、G776delinsAVGC、G776delinsVV、G776_V777insL、G776_V777insVC、G776_V777insVGC、V777_G778insCG、V777_G778insG、G778_S779insG、S779_P780insVGS、及びP780_Y781insGSPからなる群より選択される少なくとも一つである、[158]に記載の使用。
[160]
Exon 20 insertion変異が、Y772_A775dup、G778_P780dup、及びG776delinsVCからなる群より選択される少なくとも一つである、[159]に記載の使用。
[161]
HER2変異がんにおけるHER2変異が、HER2蛋白の膜貫通ドメインにおけるSingle base pair substitution変異である、[155]に記載の使用。
[162]
HER2蛋白の膜貫通ドメインにおけるSingle base pair substitution変異が、V659E、G660D、I654V、I655V、及びI661Vからなる群より選択される少なくとも一つである、[161]に記載の使用。
[163]
HER2蛋白の膜貫通ドメインにおけるSingle base pair substitution変異が、G660Dである、[162]に記載の使用。
[164]
HER2変異がんにおけるHER2変異が、HER2蛋白の細胞外ドメインにおけるSingle base pair substitution変異である、[155]に記載の使用。
[165]
HER2蛋白の細胞外ドメインにおけるSingle base pair substitution変異が、S310F、A20T、A21S、R143Q、K200N、A242V、D277Y、A293P、N302K、V308M、S310Y、N319Y、S335C、R340P、S418T、W452C、V541M、I613V、P627H、A644V、及びR647Gからなる群より選択される少なくとも一つである、[164]に記載の使用。
[166]
HER2蛋白の細胞外ドメインにおけるSingle base pair substitution変異が、S310Fである、[165]に記載の使用。
[167]
HER2変異がんにおけるがんが、非小細胞肺がん、乳がん、胃がん、大腸がん、食道がん、唾液腺がん、胃食道接合部腺がん、胆道がん、ページェット病、膵臓がん、卵巣がん、及び子宮がん肉腫からなる群より選択される少なくとも一つである、[155]~[166]のいずれか1項に記載の使用。
[168]
HER2変異がんにおけるがんが、非小細胞肺がんである、[155]~[166]のいずれか1項に記載の使用。
[169]
非小細胞肺がんが、切除不能及び/又は転移性の非小細胞肺がんである、[168]に記載の使用。
[170]
抗HER2抗体が、配列番号1においてアミノ酸番号1乃至449に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号2においてアミノ酸番号1乃至214に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖を含んでなる抗体である、[155]~[169]のいずれか1項に記載の使用。
[171]
抗HER2抗体が、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号2に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖を含んでなる抗体である、[155]~[169]のいずれか1項に記載の使用。
[172]
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7から8個の範囲である、[155]~[171]のいずれか1項に記載の使用。
[173]
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7.5から8個の範囲である、[155]~[171]のいずれか1項に記載の使用。
[174]
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートの1回あたりの投与量が5.4mg/kgから8mg/kgの範囲である、[155]~[173]のいずれか1項に記載の使用。
[175]
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートの1回あたりの投与量が6.4mg/kgである、[155]~[173]のいずれか1項に記載の使用。
[176]
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートが3週に1回の間隔で投与される、[155]~[175]のいずれか1項に記載の使用。
【0027】
また、本発明は、以下のように表すこともできる。
〔1〕
式
【0028】
【0029】
(式中、Aは抗HER2抗体との結合位置を示す)
で示される薬物リンカーと、抗HER2抗体とがチオエーテル結合によって結合した抗HER2抗体-薬物コンジュゲートを有効成分として含有する、HER2遺伝子変異がんの治療剤。
〔2〕
がんが、非小細胞肺がん、乳がん、胃がん、大腸がん、食道がん、唾液腺がん、胃食道接合部腺がん、胆管がん、ページェット病、膵臓がん、卵巣がん、及び子宮がん肉腫からなる群より選択される少なくとも一つである、〔1〕に記載の治療剤。
〔3〕
がんが、非小細胞肺がんである、〔1〕に記載の治療剤。
〔4〕
抗HER2抗体が、配列番号1においてアミノ酸番号1乃至449に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号2においてアミノ酸番号1乃至214に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖を含んでなる抗体である、〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の治療剤。
〔5〕
抗HER2抗体が、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号2に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖を含んでなる抗体である、〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の治療剤。
〔6〕
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7から8個の範囲である、〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の治療剤。
〔7〕
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7.5から8個の範囲である、〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の治療剤。
〔8〕
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートの1回あたりの投与量が5.4mg/kgから8mg/kgの範囲である、〔1〕~〔7〕のいずれか1項に記載の治療剤。
〔9〕
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートの1回あたりの投与量が6.4mg/kgである、〔1〕~〔7〕のいずれか1項に記載の治療剤。
〔10〕
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートが3週に1回の間隔で投与される、〔1〕~〔9〕のいずれか1項に記載の治療剤。
〔11〕
式
【0030】
【0031】
(式中、Aは抗HER2抗体との結合位置を示す)
で示される薬物リンカーと、抗HER2抗体とがチオエーテル結合によって結合した抗HER2抗体-薬物コンジュゲートを、HER2遺伝子変異がんを有することが確認された患者に投与することを特徴とする、がんの治療方法。
〔12〕
がんが、非小細胞肺がん、乳がん、胃がん、大腸がん、食道がん、唾液腺がん、胃食道接合部腺がん、胆管がん、ページェット病、膵臓がん、卵巣がん、及び子宮がん肉腫からなる群より選択される少なくとも一つである、〔11〕に記載の治療方法。
〔13〕
がんが、非小細胞肺がんである、〔11〕に記載の治療方法。
〔14〕
抗HER2抗体が、配列番号1においてアミノ酸番号1乃至449に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号2においてアミノ酸番号1乃至214に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖を含んでなる抗体である、〔11〕~〔13〕のいずれか1項に記載の治療方法。
〔15〕
抗HER2抗体が、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号2に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖を含んでなる抗体である、〔11〕~〔13〕のいずれか1項に記載の治療方法。
〔16〕
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7から8個の範囲である、〔11〕~〔15〕のいずれか1項に記載の治療方法。
〔17〕
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7.5から8個の範囲である、〔11〕~〔15〕のいずれか1項に記載の治療方法。
〔18〕
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートの1回あたりの投与量が5.4mg/kgから8mg/kgの範囲である、〔11〕~〔17〕のいずれか1項に記載の治療方法。
〔19〕
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートの1回あたりの投与量が6.4mg/kgである、〔11〕~〔17〕のいずれか1項に記載の治療方法。
〔20〕
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートが3週に1回の間隔で投与される、〔11〕~〔19〕のいずれか1項に記載の治療方法。
〔21〕
HER2遺伝子変異がんの治療のための、
式
【0032】
【0033】
(式中、Aは抗HER2抗体との結合位置を示す)
で示される薬物リンカーと、抗HER2抗体とがチオエーテル結合によって結合した抗HER2抗体-薬物コンジュゲート。
〔22〕
がんが、非小細胞肺がん、乳がん、胃がん、大腸がん、食道がん、唾液腺がん、胃食道接合部腺がん、胆管がん、ページェット病、膵臓がん、卵巣がん、及び子宮がん肉腫からなる群より選択される少なくとも一つである、〔21〕に記載の抗HER2抗体-薬物コンジュゲート。
〔23〕
がんが、非小細胞肺がんである、〔21〕に記載の抗HER2抗体-薬物コンジュゲート。
〔24〕
抗HER2抗体が、配列番号1においてアミノ酸番号1乃至449に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号2においてアミノ酸番号1乃至214に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖を含んでなる抗体である、〔21〕~〔23〕のいずれか1項に記載の抗HER2抗体-薬物コンジュゲート。
〔25〕
抗HER2抗体が、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号2に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖を含んでなる抗体である、〔21〕~〔23]〕のいずれか1項に記載の抗HER2抗体-薬物コンジュゲート。
〔26〕
1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7から8個の範囲である、〔21〕~〔25〕のいずれか1項に記載の抗HER2抗体-薬物コンジュゲート。
〔27〕
1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7.5から8個の範囲である、〔21〕~〔25〕のいずれか1項に記載の抗HER2抗体-薬物コンジュゲート。
〔28〕
1回あたりの投与量が5.4mg/kgから8mg/kgの範囲である、〔21〕~〔27〕のいずれか1項に記載の抗HER2抗体-薬物コンジュゲート。
〔29〕
1回あたりの投与量が6.4mg/kgである、〔21〕~〔27〕のいずれか1項に記載の抗HER2抗体-薬物コンジュゲート。
〔30〕
3週に1回の間隔で投与される、〔21〕~〔29〕のいずれか1項に記載の抗HER2抗体-薬物コンジュゲート。
〔31〕
HER2遺伝子変異がんの治療用の医薬を製造するための、
式
【0034】
【0035】
(式中、Aは抗HER2抗体との結合位置を示す)
で示される薬物リンカーと、抗HER2抗体とがチオエーテル結合によって結合した抗HER2抗体-薬物コンジュゲートの使用。
〔32〕
がんが、非小細胞肺がん、乳がん、胃がん、大腸がん、食道がん、唾液腺がん、胃食道接合部腺がん、胆管がん、ページェット病、膵臓がん、卵巣がん、及び子宮がん肉腫からなる群より選択される少なくとも一つである、〔31〕に記載の使用。
〔33〕
がんが、非小細胞肺がんである、〔31〕に記載の使用。
〔34〕
抗HER2抗体が、配列番号1においてアミノ酸番号1乃至449に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号2においてアミノ酸番号1乃至214に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖を含んでなる抗体である、〔31〕~〔33〕のいずれか1項に記載の使用。
〔35〕
抗HER2抗体が、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号2に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖を含んでなる抗体である、〔31〕~〔33〕のいずれか1項に記載の使用。
〔36〕
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7から8個の範囲である、〔31〕~〔35〕のいずれか1項に記載の使用。
〔37〕
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7.5から8個の範囲である、〔31〕~〔35〕のいずれか1項に記載の使用。
〔38〕
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートの1回あたりの投与量が5.4mg/kgから8mg/kgの範囲である、〔31〕~〔37〕のいずれか1項に記載の使用。
〔39〕
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートの1回あたりの投与量が6.4mg/kgである、〔31〕~〔37〕のいずれか1項に記載の使用。
〔40〕
抗HER2抗体-薬物コンジュゲートが3週に1回の間隔で投与される、〔31〕~〔39〕のいずれか1項に記載の使用。
【発明の効果】
【0036】
本発明により、特定の抗HER2抗体-薬物コンジュゲートを含有する、HER2変異がんの治療剤、及び/又は、特定の抗HER2抗体-薬物コンジュゲートを、HER2変異がんを有することが確認された患者に投与することを特徴とする、がんの治療方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】ヒト化抗HER2抗体重鎖のアミノ酸配列(配列番号1)を示す。
【
図2】ヒト化抗HER2抗体軽鎖のアミノ酸配列(配列番号2)を示す。
【
図3】HER2発現又はHER2変異が確認された非小細胞肺がんの患者に対する、HER2-ADC(1)の有効性として、最大腫瘍縮小率を示す。図中、「NE」はHER2変異を未測定又は測定失敗の患者を示し、「E20」は、HER2蛋白にExon 20 insertion変異が確認された患者を示し、「TM」は、HER2蛋白の膜貫通ドメインにSingle base pair substitution変異が確認された患者を示し、「EC」はHER2蛋白の細胞外ドメインにSingle base pair substitution変異が確認された患者を示す。
【
図4】HER2発現又はHER2変異が確認された非小細胞肺がんの患者に対する、HER2-ADC(1)の有効性として、腫瘍縮小率の時間推移を示す。
【
図5】HER2蛋白のアミノ酸配列(配列番号3)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これによって本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0039】
[定義]
本発明において、「HER2」とは、ヒト上皮増殖因子受容体2(neu、ErbB-2と呼ばれることもある)と同義であり、HER1(EGFR、ErbB-1)、HER3(ErbB-3)及びHER4(ErbB-4)とともに受容体蛋白質チロシンキナーゼの上皮増殖因子受容体(EGFR)サブファミリーに属する膜貫通受容体である。HER2は、HER1、HER3、又はHER4とのヘテロダイマー形成により細胞内チロシン残基が自己リン酸化されて活性化することにより、正常細胞及び腫瘍細胞において細胞の増殖・分化・生存に重要な役割を果たすことが知られている。
本発明において、「HER2蛋白」という語は、HER2と同じ意味で用いている。HER2蛋白の発現は、免疫組織化学(IHC)法等、当業者に周知の方法を用いて検出することができる。
【0040】
HER2蛋白のアミノ酸配列を配列番号3(
図5)に示す。配列番号3において、アミノ酸番号1乃至652に記載のアミノ酸配列を「HER2蛋白の細胞外ドメイン」と呼び、アミノ酸番号653乃至675に記載のアミノ酸配列を「HER2蛋白の膜貫通ドメイン」と呼び、アミノ酸番号676乃至1255に記載のアミノ酸配列を「HER2蛋白の細胞内ドメイン」と呼ぶ。
【0041】
本発明において、「HER2遺伝子」とは、ヒト上皮細胞増殖因子受容体2型関連がん遺伝子と同義である。HER2蛋白は、HER2遺伝子の遺伝子産物の一つである。
【0042】
HER2遺伝子(cDNA)のヌクレオチド配列を配列番号4に示す。
【0043】
本発明において、「HER2変異」とは、HER2蛋白のアミノ酸配列に変異を有することを意味する。
【0044】
本発明において、「HER2変異がん」とは、HER2蛋白のアミノ酸配列に変異を有するがんを意味する。また、腫瘍組織全体にHER2変異を有さなくてもHER2変異を有するがん細胞を含むがんであれば、HER2変異がんに含まれる。
【0045】
本発明において、「HER2遺伝子変異」とは、HER2遺伝子に変異を有することを意味する。
【0046】
本発明において、「HER2遺伝子変異がん」とは、HER2遺伝子に変異を有するがんを意味する。また、腫瘍組織全体にHER2遺伝子変異を有さなくてもHER2遺伝子変異を有するがん細胞を含むがんであれば、HER2遺伝子変異がんに含まれる。
【0047】
HER2遺伝子変異は、遺伝子産物であるHER2蛋白のアミノ酸配列に変異を及ぼし、HER2変異を生じさせる。
【0048】
HER2変異の具体例としては、例えば、HER2蛋白の772~775番目のアミノ酸配列であるYVMA(チロシン、バリン、メチオニン、アラニン)がもう一度繰り返されている変異(「Y772_A775dup」又は「A775_G776insYVMA」とも言う)(Nature. 2004 Sep 30;431(7008):525-6、Cancer Res. 2005 Mar 1;65(5):1642-6、Cancer Res. 2005 Sep 1;65(17):7591-5、Int J Cancer. 2006 Dec 1;119(11):2586-91、Mol Cancer Res. 2008 Nov;6(11):1678-90、Nat Med. 2017 Jun;23(6):703-713、及びNature. 2018 Feb 8;554(7691):189-194等を参照)、HER2蛋白の778~780番目のアミノ酸配列であるGSP(グリシン、セリン、プロリン)がもう一度繰り返されている変異(「G778_P780dup」又は「P780_Y781insGSP」とも言う)(Cancer Res. 2005 Mar 1;65(5):1642-6、Pathobiology. 2008;75(1):2-8、Nature. 2012 May 16;486(7403):400-4、Clin Cancer Res. 2013 May 15;19(10):2668-76、Nature. 2016 Jun 2;534(7605):47-54、Cancer. 2016 Sep 1;122(17):2654-62、PLoS Med. 2016 Dec 27;13(12):e1002201、及びNat Med. 2017 Jun;23(6):703-713等を参照)、HER2蛋白の776番目のアミノ酸であるG(グリシン)がVC(バリン、システイン)に置き換わっている変異(「G776delinsVC」又は「G776>VC」とも言う)(Cancer Res. 2005 Mar 1;65(5):1642-6、Cancer Sci. 2006 Aug;97(8):753-9、Cancer Genet Cytogenet. 2007 Mar;173(2):107-13、Clin Cancer Res. 2012 Sep 15;18(18):4910-8、及びNature. 2018 Feb 8;554(7691):189-194等を参照)、HER2蛋白の755番目のアミノ酸であるL(ロイシン)がS(セリン)に置き換わっている変異(「L755S」とも言う)(Clin Cancer Res. 2006 Jan 1;12(1):57-61、Hum Mutat. 2008 Mar;29(3):441-50、Nature. 2012 Apr 4;486(7403):395-9、Breast Cancer Res Treat. 2012 Jul;134(2):561-7、Clin Cancer Res. 2012 Sep 15;18(18):4910-8、及びCancer Lett. 2013 Mar 1;330(1):33-40等を参照)、HER2蛋白の777番目のアミノ酸であるV(バリン)がL(ロイシン)に置き換わっている変異(「V777L」とも言う)(Clin Cancer Res. 2006 Jan 1;12(1):57-61、Int J Cancer. 2006 Dec 1;119(11):2586-91、Nature. 2010 Aug 12;466(7308):869-73、Nature. 2012 Jun 10;486(7403):353-60、Cancer Cell. 2016 Feb 8;29(2):229-40、及びCancer. 2016 Sep 1;122(17):2654-62等を参照)、HER2蛋白の659番目のアミノ酸であるV(バリン)がE(グルタミン酸)に置き換わっている変異(「V659E」とも言う)(Cancer Discov. 2013 Nov;3(11):1238-44、J Natl Cancer Inst. 2014 Jan;106(1):djt338、Nat Med. 2017 Jun;23(6):703-713、及びNature. 2018 Feb 8;554(7691):189-194等を参照)、HER2蛋白の660番目のアミノ酸であるG(グリシン)がD(アスパラギン酸)に置き換わっている変異(「G660D」とも言う)、(Nat Genet. 2014 Dec;46(12):1264-6、Cancer Cell. 2016 Feb 8;29(2):229-40、及びCell Rep. 2016 Apr 26;15(4):857-865等を参照)、及びHER2蛋白の310番目のアミノ酸であるS(セリン)がF(フェニルアラニン)に置き換わっている変異(「S310F」とも言う)(Nature. 2008 Oct 23;455(7216):1069-75、Nature. 2011 Jun 29;474(7353):609-15、Nat Genet. 2011 Oct 30;43(12):1219-23、Nature. 2012 Apr 4;486(7403):395-9、Genome Res. 2012 Nov;22(11):2109-19、及びClin Cancer Res. 2013 May 15;19(10):2668-76等を参照)を挙げることができる。
【0049】
また、HER2変異の他の具体例として、HER2蛋白の20番目のアミノ酸であるA(アラニン)がT(トレオニン)に置き換わっている変異(「A20T」とも言う)(Nature 2010;466(7308):869-73等を参照)、HER2蛋白の21番目のアミノ酸であるA(アラニン)がS(セリン)に置き換わっている変異(「A21S」とも言う)(Nature medicine 2017;23(6):703-713等を参照)、HER2蛋白の143番目のアミノ酸であるR(アルギニン)がQ(グルタミン)に置き換わっている変異(「R143Q」とも言う)(Nature communications 2015;6:10131、及びCancer biology & therapy 2014;15(9):1239-47等を参照)、HER2蛋白の200番目のアミノ酸であるK(リシン)がN(アスパラギン)に置き換わっている変異(「K200N」とも言う)(Nature medicine 2017;23(6):703-713等を参照)、HER2蛋白の242番目のアミノ酸であるA(アラニン)がV(バリン)に置き換わっている変異(「A242V」とも言う)(Nature medicine 2017;23(6):703-713等を参照)、HER2蛋白の277番目のアミノ酸であるD(アスパラギン酸)がY(チロシン)に置き換わっている変異(「D277Y」とも言う)(Nature medicine 2017;23(6):703-713、及びNature genetics 2013;45(12):1459-63等を参照)、HER2蛋白の293番目のアミノ酸であるA(アラニン)がP(プロリン)に置き換わっている変異(「A293P」とも言う)(Nature medicine 2017;23(6):703-713等を参照)、HER2蛋白の302番目のアミノ酸であるN(アスパラギン)がK(リシン)に置き換わっている変異(「N302K」とも言う)(Nature medicine 2017;23(6):703-713等を参照)、HER2蛋白の308番目のアミノ酸であるV(バリン)がM(メチオニン)に置き換わっている変異(「V308M」とも言う)(Cell Rep. 2016 Apr 26;15(4):857-865等を参照)、HER2蛋白の310番目のアミノ酸であるS(セリン)がY(チロシン)に置き換わっている変異(「S310Y」とも言う)(Nature genetics 2014;46(8):872-6、Nature 2016;534(7605):47-54、及びNature medicine 2017;23(6):703-713等を参照)、HER2蛋白の319番目のアミノ酸であるN(アスパラギン)がY(チロシン)に置き換わっている変異(「N319Y」とも言う)(Cell. 2018 May 3;173(4):864-878.e29等を参照)、HER2蛋白の335番目のアミノ酸であるS(セリン)がC(システイン)に置き換わっている変異(「S335C」とも言う)(Nature medicine 2017;23(6):703-713等を参照)、HER2蛋白の340番目のアミノ酸であるR(アルギニン)がP(プロリン)に置き換わっている変異(「R340P」とも言う)(Nature medicine 2017;23(6):703-713等を参照)、HER2蛋白の418番目のアミノ酸であるS(セリン)がT(トレオニン)に置き換わっている変異(「S418T」とも言う)(Cell 2012;150(6):1107-20等を参照)、HER2蛋白の452番目のアミノ酸であるW(トリプトファン)がC(システイン)に置き換わっている変異(「W452C」とも言う)(Cell. 2018 May 3;173(4):864-878.e29等を参照)、HER2蛋白の541番目のアミノ酸であるV(バリン)がM(メチオニン)に置き換わっている変異(「V541M」とも言う)(Cell. 2018 May 3;173(4):864-878.e29等を参照)、HER2蛋白の613番目のアミノ酸であるI(イソロイシン)がV(バリン)に置き換わっている変異(「I613V」とも言う)(Scientific reports 2016;6:31628等を参照)、HER2蛋白の627番目のアミノ酸であるP(プロリン)がH(ヒスチジン)に置き換わっている変異(「P627H」とも言う)(PloS one 2016;11(4):e0154133等を参照)、HER2蛋白の644番目のアミノ酸であるA(アラニン)がV(バリン)に置き換わっている変異(「A644V」とも言う)(Nat Genet. 2012 Oct;44(10):1104-10、及びNature 2015;524(7563):47-53等を参照)、HER2蛋白の647番目のアミノ酸であるR(アルギニン)がG(グリシン)に置き換わっている変異(「R647G」とも言う)(Cell. 2018 May 3;173(4):864-878.e29等を参照)、HER2蛋白の654番目のアミノ酸であるI(イソロイシン)がV(バリン)に置き換わっている変異(「I654V」とも言う)(Br J Cancer. 2017 Jun 27;117(1):136-143、及びCell. 2018 May 3;173(4):864-878.e29等を参照)、HER2蛋白の655番目のアミノ酸であるI(イソロイシン)がV(バリン)に置き換わっている変異(「I655V」とも言う)(Oncotarget 2017;8(40):68026-68037、Nature communications 2015;6:10131、及びNature genetics 2014;46(6):595-600等を参照)、HER2蛋白の661番目のアミノ酸であるI(イソロイシン)がV(バリン)に置き換わっている変異(「I661V」とも言う)(Nature medicine 2017;23(6):703-713等を参照)、HER2蛋白の678番目のアミノ酸であるR(アルギニン)がQ(グルタミン)に置き換わっている変異(「R678Q」とも言う)(Nature 2018;554(7691):189-194等を参照)、HER2蛋白の680番目のアミノ酸であるQ(グルタミン)がH(ヒスチジン)に置き換わっている変異(「Q680H」とも言う)(Nature medicine 2017;23(6):703-713等を参照)、HER2蛋白の697番目のアミノ酸であるV(バリン)がL(ロイシン)に置き換わっている変異(「V697L」とも言う)(Nature 2018;554(7691):189-194、Nature medicine 2017;23(6):703-713、及びPLoS medicine 2016;13(12):e1002162等を参照)、HER2蛋白の704番目のアミノ酸であるG(グリシン)がR(アルギニン)に置き換わっている変異(「G704R」とも言う)(Lung 2016;194(1):125-35等を参照)、HER2蛋白の709番目のアミノ酸であるQ(グルタミン)がL(ロイシン)に置き換わっている変異(「Q709L」とも言う)(Nature medicine 2017;23(6):703-713等を参照)、HER2蛋白の711番目のアミノ酸であるQ(グルタミン)がH(ヒスチジン)に置き換わっている変異(「Q711H」とも言う)(Nature medicine 2017;23(6):703-713等を参照)、HER2蛋白の727番目のアミノ酸であるG(グリシン)がA(アラニン)に置き換わっている変異(「G727A」とも言う)(Nature medicine 2017;23(6):703-713等を参照)、HER2蛋白の733番目のアミノ酸であるT(トレオニン)がI(イソロイシン)に置き換わっている変異(「T733I」とも言う)(Nature 2018;554(7691):189-194等を参照)、HER2蛋白の744番目のアミノ酸であるE(グルタミン酸)がG(グリシン)に置き換わっている変異(「E744G」とも言う)(Cancer research 2007;67(12):5667-72等を参照)、HER2蛋白の745番目のアミノ酸であるN(アスパラギン)がD(アスパラギン酸)に置き換わっている変異(「N745D」とも言う)(Cancer research 2007;67(12):5667-72等を参照)、HER2蛋白の755番目のアミノ酸であるL(ロイシン)がP(プロリン)に置き換わっている変異(「L755P」とも言う)(Oncotarget 2016;7(28):44322-44329、Nature 2004;431(7008):525-6、及びNature medicine 2017;23(6):703-713等を参照)、HER2蛋白の755番目のアミノ酸であるL(ロイシン)がA(アラニン)に置き換わっている変異(「L755A」とも言う)(Nature 2018;554(7691):189-194、及びNature medicine 2017;23(6):703-713等を参照)、HER2蛋白の755番目のアミノ酸であるL(ロイシン)がF(フェニルアラニン)に置き換わっている変異(「L755F」とも言う)(Clin Cancer Res. 2015 Aug 15;21(16):3631-9等を参照)、HER2蛋白の760番目のアミノ酸であるS(セリン)がF(フェニルアラニン)に置き換わっている変異(「S760F」とも言う)(Clin Cancer Res. 2006 Apr 15;12(8):2538-44等を参照)、HER2蛋白の769番目のアミノ酸であるD(アスパラギン酸)がH(ヒスチジン)に置き換わっている変異(「D769H」とも言う)(Cancer 2016;122(17):2654-62、Nature medicine 2017;23(6):703-713、及びNature 2018;554(7691):189-194等を参照)、HER2蛋白の769番目のアミノ酸であるD(アスパラギン酸)がN(アスパラギン)に置き換わっている変異(「D769N」とも言う)(Nature 2018;554(7691):189-194等を参照)、及びHER2蛋白の769番目のアミノ酸であるD(アスパラギン酸)がY(チロシン)に置き換わっている変異(「D769Y」とも言う)(Nature 2018;554(7691):189-194等を参照)を挙げることもできる。
【0050】
さらに、HER2変異の他の具体例として、HER2蛋白の770番目のアミノ酸であるE(グルタミン酸)と771番目のアミノ酸配列であるA(アラニン)との間にAYVM(アラニン、チロシン、バリン、メチオニン)が挿入されている変異(「E770_A771insAYVM」とも言う)(Nature medicine 2017;23(6):703-713、及びNature 2018;554(7691):189-194等を参照)、HER2蛋白の771番目のアミノ酸配列であるA(アラニン)と772番目のアミノ酸であるY(チロシン)との間にYVMA(チロシン、バリン、メチオニン、アラニン)が挿入されている変異(「A771_Y772insYVMA」とも言う)(Nature 2018;554(7691):189-194等を参照)、HER2蛋白の774番目のアミノ酸であるM(メチオニン)と775番目のアミノ酸配列であるA(アラニン)との間にAYVM(アラニン、チロシン、バリン、メチオニン)が挿入されている変異(「M774_A775insAYVM」とも言う)(J Thorac Oncol. 2013 Feb;8(2):e19-20、及びThe American journal of surgical pathology 2006;30(10):1309-15等を参照)、HER2蛋白の775番目のアミノ酸であるA(アラニン)と776番目のアミノ酸であるG(グリシン)との間にYVMA(チロシン、バリン、メチオニン、アラニン)が挿入されている変異(「A775_G776insYVMA」とも言う)(Clin Cancer Res. 2013 May 15;19(10):2668-76、Cancer 2016;122(17):2654-62、及びEuropean urology 2016;70(2):348-57等を参照)、HER2蛋白の775番目のアミノ酸であるA(アラニン)がG(グリシン)に置き換わっている変異(「A775G」とも言う)(Anticancer research 2013;33(11):5127-33等を参照)、HER2蛋白の776番目のアミノ酸であるG(グリシン)がLC(ロイシン、システイン)に置き換わっている変異(「G776delinsLC」又は「G776>LC」とも言う)(Cancer research 2005;65(5):1642-6等を参照)、HER2蛋白の776番目のアミノ酸であるG(グリシン)がC(システイン)に置き換わっている変異(「G776C」とも言う)(Clin Cancer Res. 2012 Sep 15;18(18):4910-8等を参照)、HER2蛋白の776番目のアミノ酸であるG(グリシン)がAVGC(アラニン、バリン、グリシン、システイン)に置き換わっている変異(「G776delinsAVGC」又は「G776>AVGC」とも言う)(Nature 2018;554(7691):189-194、及びNature medicine 2017;23(6):703-713等を参照)、HER2蛋白の776番目のアミノ酸であるG(グリシン)がVV(バリン、バリン)に置き換わっている変異(「G776delinsVV」又は「G776>VV」とも言う)(Nature medicine 2017;23(6):703-713等を参照)、HER2蛋白の776番目のアミノ酸であるG(グリシン)と777番目のアミノ酸配列であるV(バリン)との間にL(ロイシン)が挿入されている変異(「G776_V777insL」とも言う)(Oncotarget 2016;7(20):29761-9等を参照)、HER2蛋白の776番目のアミノ酸であるG(グリシン)がL(ロイシン)に置き換わっている変異(「G776L」とも言う)(Lung Cancer. 2012 Apr;76(1):123-7等を参照)、HER2蛋白の776番目のアミノ酸であるG(グリシン)と777番目のアミノ酸配列であるV(バリン)との間にVC(バリン、システイン)が挿入されている変異(「G776_V777insVC」とも言う)(J Clin Oncol. 2013 Jun 1;31(16):1997-2003等を参照)、HER2蛋白の776番目のアミノ酸であるG(グリシン)と777番目のアミノ酸配列であるV(バリン)との間にVGC(バリン、グリシン、システイン)が挿入されている変異(「G776_V777insVGC」とも言う)(Nature 2018;554(7691):189-194等を参照)、HER2蛋白の777番目のアミノ酸であるV(バリン)と778番目のアミノ酸配列であるG(グリシン)との間にCG(システイン、グリシン)が挿入されている変異(「V777_G778insCG」とも言う)(Clin Cancer Res. 2012 Sep 15;18(18):4910-8等を参照)、HER2蛋白の777番目のアミノ酸であるV(バリン)と778番目のアミノ酸配列であるG(グリシン)との間にG(グリシン)が挿入されている変異(「V777_G778insG」とも言う)(Nature 2018;554(7691):189-194等を参照)、HER2蛋白の778番目のアミノ酸であるG(グリシン)と779番目のアミノ酸配列であるS(セリン)との間にG(グリシン)が挿入されている変異(「G778_S779insG」とも言う)(Nature 2018;554(7691):189-194等を参照)、HER2蛋白の779番目のアミノ酸であるS(セリン)がP(プロリン)に置き換わっている変異(「S779P」とも言う)(Virchows Arch. 2016 Jun;468(6):651-62等を参照)、HER2蛋白の779番目のアミノ酸であるS(セリン)と780番目のアミノ酸配列であるP(プロリン)との間にVGS(バリン、グリシン、セリン)が挿入されている変異(「S779_P780insVGS」とも言う)(Nature 2004;431(7008):525-6、及びJ Thorac Oncol. 2009 Jan;4(1):5-11等を参照)、HER2蛋白の780番目のアミノ酸であるP(プロリン)と781番目のアミノ酸であるY(チロシン)との間にGSP(グリシン、セリン、プロリン)が挿入されている変異(「P780_Y781insGSP」とも言う)(Nature medicine 2017;23(6):703-713等を参照)、HER2蛋白の784番目のアミノ酸であるR(アルギニン)がC(システイン)に置き換わっている変異(「R784C」とも言う)(Gynecol Oncol. 2018 Feb;148(2):311-316、Nature genetics 2014;46(12):1264-6、及びCell Rep. 2016 Apr 26;15(4):857-865等を参照)、HER2蛋白の784番目のアミノ酸であるR(アルギニン)がH(ヒスチジン)に置き換わっている変異(「R784H」とも言う)(Cell Rep. 2016 Apr 26;15(4):857-865、Virchows Arch. 2016 Jun;468(6):651-62、及びEur J Cancer. 2014 Jul;50(10):1740-1746等を参照)、HER2蛋白の785番目のアミノ酸であるL(ロイシン)がR(アルギニン)に置き換わっている変異(「L785R」とも言う)(Br J Cancer. 2015 Dec 22;113(12):1704-11等を参照)、HER2蛋白の786番目のアミノ酸であるL(ロイシン)がV(バリン)に置き換わっている変異(「L786V」とも言う)(Nature 2018;554(7691):189-194等を参照)、HER2蛋白の791番目のアミノ酸であるT(トレオニン)がI(イソロイシン)に置き換わっている変異(「T791I」とも言う)(Cancer research 2007;67(12):5667-72等を参照)、HER2蛋白の804番目のアミノ酸であるG(グリシン)がS(セリン)に置き換わっている変異(「G804S」とも言う)(Clin Cancer Res. 2006 Apr 15;12(8):2538-44、HER2蛋白の807番目のアミノ酸であるL(ロイシン)がF(フェニルアラニン)に置き換わっている変異(「L807F」とも言う)(Eur J Cancer. 2015 Sep;51(13):1803-11等を参照)、HER2蛋白の819番目のアミノ酸であるS(セリン)がF(フェニルアラニン)に置き換わっている変異(「S819F」とも言う)(PLoS medicine 2016;13(12):e1002162、及びCancer cell 2015;27(3):327-41等を参照)、HER2蛋白の829番目のアミノ酸であるI(イソロイシン)がT(トレオニン)に置き換わっている変異(「I829T」とも言う)(Clin Cancer Res. 2006 Apr 15;12(8):2538-44等を参照)、HER2蛋白の842番目のアミノ酸であるV(バリン)がI(イソロイシン)に置き換わっている変異(「V842I」とも言う)(Nature 2018;554(7691):189-194等を参照)、HER2蛋白の846番目のアミノ酸であるL(ロイシン)がF(フェニルアラニン)に置き換わっている変異(「L846F」とも言う)(Oncotarget. 2016 Sep 20;7(38):61755-61763等を参照)、HER2蛋白の862番目のアミノ酸であるT(トレオニン)がI(イソロイシン)に置き換わっている変異(「T862I」とも言う)(Nature 2018;554(7691):189-194等を参照)、HER2蛋白の868番目のアミノ酸であるR(アルギニン)がW(トリプトファン)に置き換わっている変異(「R868W」とも言う)(Nature 2012;487(7407):330-7、及びBr J Cancer. 2015 Dec 22;113(12):1704-11等を参照)、HER2蛋白の869番目のアミノ酸であるL(ロイシン)がR(アルギニン)に置き換わっている変異(「L869R」とも言う)(Nature medicine 2017;23(6):703-713、Nature 2018;554(7691):189-194、及びPLoS medicine 2016;13(12):e1002201等を参照)、HER2蛋白の875番目のアミノ酸であるT(トレオニン)がI(イソロイシン)に置き換わっている変異(「T875I」とも言う)(Br J Cancer. 2015 Dec 22;113(12):1704-11等を参照)、HER2蛋白の906番目のアミノ酸であるW(トリプトファン)が欠如している変異(「W906*」とも言う)(Nature 2008;455(7216):1069-75等を参照)、HER2蛋白の917番目のアミノ酸であるT(トレオニン)がS(セリン)に置き換わっている変異(「T917S」とも言う)(Carcinogenesis. 2012 Jul;33(7):1270-6等を参照)、HER2蛋白の943番目のアミノ酸であるQ(グルタミン)が欠如している変異(「Q943*」とも言う)(Cell 2012;150(6):1107-20等を参照)、HER2蛋白の1007番目のアミノ酸であるS(セリン)が欠如している変異(「S1007*」とも言う)(Cell. 2018 May 3;173(4):864-878.e29等を参照)、及びHER2蛋白の1151番目のアミノ酸であるS(セリン)がL(ロイシン)に置き換わっている変異(「S1151L」とも言う)(Nature medicine 2017;23(6):703-713等を参照)を挙げることもできる。
【0051】
本発明におけるHER2変異は、HER2蛋白のアミノ酸配列に変異を有するものであれば特に限定はされないが、例えば、具体例として上記で示したHER2変異からなる群より選択される少なくとも一つを挙げることができ、好適には、Y772_A775dup、G778_P780dup、G776delinsVC、L755S、V777L、及びS310Fからなる群より選択される少なくとも一つを挙げることができる。
【0052】
本発明において「Exon 20 insertion変異」とは、HER2遺伝子のエクソン20に塩基対が挿入されることにより生じるHER2変異を示す。HER2遺伝子のエクソン20は、配列番号4のヌクレオチド番号2308乃至2493に記載のヌクレオチド配列で示され、これによりコードされるHER2蛋白は、配列番号3のアミノ番号770乃至831に記載のアミノ酸配列で示される。
【0053】
本発明におけるExon 20 insertion変異は、HER2遺伝子のエクソン20に塩基対が挿入されることにより生じるHER2変異であれば特に限定はされないが、例えば、Y772_A775dup、G778_P780dup、G776delinsVC、E770_A771insAYVM、A771_Y772insYVMA、M774_A775insAYVM、A775_G776insYVMA、G776delinsLC、G776delinsAVGC、G776delinsVV、G776_V777insL、G776_V777insVC、G776_V777insVGC、V777_G778insCG、V777_G778insG、G778_S779insG、S779_P780insVGS、及びP780_Y781insGSPからなる群より選択される少なくとも一つを挙げることができ、好適には、Y772_A775dup、G778_P780dup、及びG776delinsVCからなる群より選択される少なくとも一つを挙げることができる。
【0054】
本発明において「Single base pair substitution変異」とは、HER2遺伝子のある1つの塩基対が他の1つの塩基対に置換されることにより生じるHER2変異を示す。
【0055】
本発明におけるSingle base pair substitution変異は、HER2遺伝子のある1つの塩基対が他の1つの塩基対に置換されることにより生じるHER2変異であれば特に限定はされないが、例えば、L755S、V777L、V659E、G660D、S310F、A20T、A21S、R143Q、K200N、A242V、D277Y、A293P、N302K、V308M、S310Y、N319Y、S335C、R340P、S418T、W452C、V541M、I613V、P627H、A644V、R647G、I654V、I655V、I661V、R678Q、Q680H、V697L、G704R、Q709L、Q711H、G727A、T733I、E744G、N745D、L755P、L755A、L755F、S760F、D769H、D769N、D769Y、G776C、G776L、S779P、R784C、R784H、L785R、L786V、T791I、G804S、L807F、S819F、I829T、V842I、L846F、T862I、R868W、L869R、T875I、W906*、T917S、Q943*、S1007*、及びS1151Lからなる群より選択される少なくとも一つを挙げることができ、好適には、L755S、V777L、V659E、G660D、及びS310Fからなる群より選択される少なくとも一つを挙げることができる。
【0056】
本発明において「HER2蛋白の膜貫通ドメインにおけるSingle base pair substitution変異」とは、HER2遺伝子のある1つの塩基対が他の1つの塩基対に置換されることにより、HER2蛋白の膜貫通ドメインにおいて生じるHER2変異を示す。
【0057】
本発明におけるHER2蛋白の膜貫通ドメインにおけるSingle base pair substitution変異は、HER2遺伝子のある1つの塩基対が他の1つの塩基対に置換されることにより、HER2蛋白の膜貫通ドメインにおいて生じるHER2変異であれば特に限定はされないが、例えば、V659E、G660D、I654V、I655V、及びI661Vからなる群より選択される少なくとも一つを挙げることができ、好適には、G660Dを挙げることができる。
【0058】
本発明において「HER2蛋白の細胞外ドメインにおけるSingle base pair substitution変異」とは、HER2遺伝子のある1つの塩基対が他の1つの塩基対に置換されることにより、HER2蛋白の細胞外ドメインにおいて生じるHER2変異を示す。
【0059】
本発明におけるHER2蛋白の細胞外ドメインにおけるSingle base pair substitution変異は、HER2遺伝子のある1つの塩基対が他の1つの塩基対に置換されることにより、HER2蛋白の細胞外ドメインにおいて生じるHER2変異であれば特に限定はされないが、例えば、S310F、A20T、A21S、R143Q、K200N、A242V、D277Y、A293P、N302K、V308M、S310Y、N319Y、S335C、R340P、S418T、W452C、V541M、I613V、P627H、A644V、及びR647Gからなる群より選択される少なくとも一つを挙げることができ、好適には、S310Fを挙げることができる。
【0060】
本発明の治療剤及び/又は治療方法は、上記の少なくとも一つの変異が確認されたHER2変異がんに対し好適に使用することができるが、HER2に変異を有するがんであればこれらに限定されない。
HER2変異の有無は、例えば、がん患者から腫瘍組織を採取し、ホルマリン固定パラフィン包埋された検体(FFPE)をリアルタイム定量PCR(qRT-PCR)又はマイクロアレイ解析等の方法を行うことにより確認することができる。
【0061】
また、HER2変異の有無は、がん患者から無細胞血中循環腫瘍DNA(ctDNA)を採取し、次世代シークエンス(NGS)等の方法を行うことにより確認することもできる(J Clin Oncol 2013; 31: 1997-2003、Clin CancerRes 2012; 18: 4910-8、J Thorac Oncol 2012; 7: 85-9、Lung Cancer 2011; 74: 139-44、Cancer Res2005; 65: 1642-6、Cancer Sci 2006; 97: 753-9、ESMO Open 2017; 2:e000279、及びAnnals ofOncology 26: 1421-1427, 2015等を参照)。
【0062】
本発明において、「HER2変異」という語は、HER2遺伝子変異と同じ意味で用いている。
【0063】
本発明において、「抗HER2抗体」とは、HER2に特異的に結合し、好ましくは、HER2と結合することによってHER2発現細胞に内在化する活性を有する抗体、言い換えれば、HER2と結合した後、HER2発現細胞内に移動する活性を有する抗体を示す。
[抗HER2抗体-薬物コンジュゲート]
本発明において使用される抗HER2抗体-薬物コンジュゲートは、式
【0064】
【0065】
(式中、Aは抗体との結合位置を示す)
で示される薬物リンカーと、抗体とがチオエーテル結合によって結合した抗HER2抗体-薬物コンジュゲートである。
【0066】
本発明においては、抗HER2抗体-薬物コンジュゲートのうち、リンカー及び薬物からなる部分構造を「薬物リンカー」と称する。この薬物リンカーは抗体の鎖間のジスルフィド結合部位(2箇所の重鎖-重鎖間、及び2箇所の重鎖-軽鎖間)において生じたチオール基(言い換えれば、システイン残基の硫黄原子)に結合している。
【0067】
本発明の薬物リンカーは、トポイソメラーゼI阻害剤であるエキサテカン(IUPAC名:(1S,9S)-1-アミノ-9-エチル-5-フルオロ-1,2,3,9,12,15-ヘキサヒドロ-9-ヒドロキシ-4-メチル-10H,13H-ベンゾ[de]ピラノ[3’,4’:6,7]インドリジノ[1,2-b]キノリン-10,13-ジオン、(化学名:(1S,9S)-1-アミノ-9-エチル-5-フルオロ-2,3-ジヒドロ-9-ヒドロキシ-4-メチル-1H,12H-ベンゾ[de]ピラノ[3’,4’:6,7]インドリジノ[1,2-b]キノリン-10,13(9H,15H)-ジオンとして表すこともできる))を構成要素としている。エキサテカンは、式
【0068】
【0069】
で示される、抗腫瘍効果を有するカンプトテシン誘導体である。
【0070】
本発明において使用される抗HER2抗体-薬物コンジュゲートは、次式で示すこともできる。
【0071】
【0072】
ここで、薬物リンカーは抗HER2抗体とチオエーテル結合によって結合している。また、nはいわゆる平均薬物結合数(DAR; Drug-to-Antibody Ratio)と同義であり、1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数を示す。
【0073】
本発明において使用される抗HER2抗体-薬物コンジュゲートの1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数は、好適には2から8であり、より好適には3から8であり、更により好適には7から8であり、更により好適には7.5から8であり、更により好適には約8である。
【0074】
本発明において使用される抗HER2抗体-薬物コンジュゲートは、腫瘍細胞内に移行した後にリンカー部分が切断され、式
【0075】
【0076】
で表される化合物を放出する。
【0077】
上記化合物は、本発明において使用される、上記の抗HER2抗体-薬物コンジュゲートの抗腫瘍活性の本体であると考えられ、トポイソメラーゼI阻害作用を有することが確認されている(Ogitani Y. et al., Clinical Cancer Research, 2016, Oct15;22(20):5097-5108, Epub 2016 Mar 29)。
【0078】
なお、本発明で使用される抗HER2抗体-薬物コンジュゲートは、バイスタンダー効果を有することも知られている(OgitaniY. et al., Cancer Science (2016) 107, 1039-1046)。このバイスタンダー効果は、本発明で使用される抗HER2抗体-薬物コンジュゲートが、標的発現がん細胞に内在化した後、上記化合物が、標的を発現していない近傍のがん細胞に対しても抗腫瘍効果を及ぼすことにより発揮される。
【0079】
本発明において使用される抗HER2抗体-薬物コンジュゲートは、国際公開第2015/115091号等の記載を参考に製造することができる。
【0080】
[抗HER2抗体の製造]
本発明で用いるHER2蛋白は、ヒト、非ヒト哺乳動物(ラット、マウス等)のHER2発現細胞から直接精製して使用するか、或は当該細胞の細胞膜画分を調製して使用することができ、また、HER2をin vitroにて合成する、或は遺伝子操作によって宿主細胞に産生させることによって得ることができる。遺伝子操作では、具体的には、HER2 cDNAを発現可能なベクターに組み込んだ後、転写と翻訳に必要な酵素、基質及びエネルギー物質を含む溶液中で合成する、或は他の原核生物、又は真核生物の宿主細胞を形質転換してHER2を発現させることによって、該蛋白質を得ることができる。また、前記の遺伝子操作によるHER2発現細胞、或はHER2を発現している細胞株をHER2蛋白として使用することも可能である。
本発明で用いるHER2蛋白質は、ヒトのHER2発現細胞から直接精製して使用するか、或は、抗原として使用する際には、当該細胞の細胞膜画分をHER2蛋白質として使用することができ、また、HER2をin vitroにて合成する、又は遺伝子操作によって宿主細胞に産生させることによって得ることができる。遺伝子操作では、具体的には、HER2 cDNAを発現可能なベクターに組み込んだ後、当該ベクターを転写と翻訳に必要な酵素、基質及びエネルギー物質を含む溶液中でインキュベートすることにより、HER2を合成することができる。或は他の原核生物、又は真核生物の宿主細胞を当該ベクターにて形質転換させ、HER2を発現させることによって、該蛋白質を得ることができる。また、前記の遺伝子操作によるHER2発現細胞、又はHER2を発現している細胞株をHER2蛋白質抗原として使用することも可能である。
HER2のDNA配列及びアミノ酸配列は公的データベース上に公開されており、例えば、M11730(Genbank)、NP_004439.2(NCBI)等のアクセッション番号により参照可能である。
【0081】
また、上記HER2のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、当該蛋白質と同等の生物活性を有する蛋白質もHER2に含まれる。
【0082】
ヒトHER2蛋白は、N末端22アミノ酸残基から成るシグナル配列、630アミノ酸残基から成る細胞外ドメイン、23アミノ酸残基から成る細胞膜貫通ドメイン、580アミノ酸残基から成る細胞内ドメインで構成されている。
【0083】
本発明で使用される抗HER2抗体は、公知の手段によって取得することができる。例えば、この分野で通常実施される方法を用いて、抗原となるHER2又はHER2のアミノ酸配列から選択される任意のポリペプチドを動物に免疫し、生体内に産生される抗体を採取、精製することによって得ることができる。抗原の由来はヒトに限定されず、マウス、ラット等のヒト以外の動物に由来する抗原を動物に免疫することもできる。この場合には、取得された異種抗原に結合する抗体とヒト抗原との交差性を試験することによって、ヒトの疾患に適用可能な抗HER2抗体を選別できる。
【0084】
また、公知の方法(例えば、Kohler and Milstein, Nature (1975) 256,p.495-497;Kennet, R. ed., Monoclonal Antibodies,p.365-367, Plenum Press, N.Y.(1980))に従って、抗原に対する抗体を産生する抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させることによってハイブリドーマを樹立し、モノクローナル抗体を得ることもできる。
【0085】
なお、抗原は抗原蛋白質をコードする遺伝子を遺伝子操作によって宿主細胞に産生させることによって得ることができる。具体的には、抗原遺伝子を発現可能なベクターを作製し、これを宿主細胞に導入して該遺伝子を発現させ、発現した抗原を精製すればよい。上記の遺伝子操作による抗原発現細胞、又は抗原を発現している細胞株、を動物に免疫する方法を用いることによっても抗体を取得できる。
【0086】
本発明で使用される抗HER2抗体は、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体、例えば、キメラ(Chimeric)抗体、ヒト化(Humanized)抗体であることが好ましく、又はヒト由来の抗体の遺伝子配列のみを有する抗体、すなわちヒト抗体であることが好ましい。これらの抗体は、既知の方法を用いて製造することができる。
【0087】
キメラ抗体としては、抗体の可変領域と定常領域が互いに異種である抗体、例えばマウス又はラット由来抗体の可変領域をヒト由来の定常領域に接合したキメラ抗体を挙げることができる(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 81, 6851-6855,(1984))。
【0088】
ヒト化抗体としては、異種抗体の相補性決定領域(CDR;complementarity determining region)のみをヒト由来の抗体に組み込んだ抗体(Nature(1986) 321, p.522-525)、CDR移植法によって、異種抗体のCDRの配列に加えて、異種抗体の一部のフレームワークのアミノ酸残基もヒト抗体に移植した抗体(国際公開第90/07861号)、遺伝子変換突然変異誘発(gene conversion mutagenesis)ストラテジーを用いてヒト化した抗体(米国特許第5821337号)を挙げることができる。
【0089】
ヒト抗体としては、ヒト抗体の重鎖と軽鎖の遺伝子を含むヒト染色体断片を有するヒト抗体産生マウスを用いて作成した抗体(Tomizuka, K. et al., Nature Genetics(1997) 16, p.133-143;Kuroiwa, Y.et. al., Nucl. Acids Res.(1998) 26, p.3447-3448;Yoshida, H. et. al., AnimalCell Technology:Basic and Applied Aspects vol.10, p.69-73(Kitagawa, Y.,Matsuda, T. and Iijima, S. eds.), Kluwer Academic Publishers, 1999;Tomizuka, K.et. al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA(2000) 97, p.722-727等を参照。)を挙げることができる。或いは、ヒト抗体ライブラリーより選別したファージディスプレイにより取得した抗体(Wormstone, I. M. et. al, Investigative Ophthalmology & VisualScience. (2002)43 (7), p.2301-2308;Carmen, S. et. al.,Briefings in Functional Genomics and Proteomics(2002), 1(2),p.189-203;Siriwardena, D. et. al., Ophthalmology(2002) 109(3), p.427-431等参照。)も挙げることができる。
【0090】
本発明で使用される抗HER2抗体には、抗体の修飾体も含まれる。当該修飾体とは、本発明に係る抗体に化学的又は生物学的な修飾が施されてなるものを意味する。化学的な修飾体には、アミノ酸骨格への化学部分の結合、N-結合又はO-結合炭水化物鎖への化学部分の結合を有する化学修飾体等が含まれる。生物学的な修飾体には、翻訳後修飾(例えば、N-結合又はO-結合型糖鎖の付加、N末端又はC末端のプロセッシング、脱アミド化、アスパラギン酸の異性化、メチオニンの酸化等)されたもの、原核生物宿主細胞を用いて発現させることによってN末端にメチオニン残基が付加されたもの等が含まれる。また、本発明で使用される抗HER2抗体又は抗原の検出又は単離を可能にするために標識されたもの、例えば、酵素標識体、蛍光標識体、アフィニティ標識体もかかる修飾体の意味に含まれる。この様な本発明で使用される抗HER2抗体の修飾体は、抗体の安定性及び血中滞留性の改善、抗原性の低減、抗体又は抗原の検出又は単離等に有用である。
【0091】
また、本発明で使用される抗HER2抗体に結合している糖鎖修飾を調節すること(グリコシル化、脱フコース化等)によって、抗体依存性細胞傷害活性を増強することが可能である。抗体の糖鎖修飾の調節技術としては、国際公開第99/54342号、国際公開第00/61739号、国際公開第02/31140号等が知られているが、これらに限定されるものではない。本発明で使用される抗HER2抗体には当該糖鎖修飾が調節された抗体も含まれる。
【0092】
なお、哺乳類培養細胞で生産される抗体では、その重鎖のカルボキシル末端のリシン残基が欠失することが知られており(Journal of Chromatography A, 705: 129-134(1995))、また、同じく重鎖カルボキシル末端のグリシン、リシンの2アミノ酸残基が欠失し、新たにカルボキシル末端に位置するプロリン残基がアミド化されることが知られている(Analytical Biochemistry, 360: 75-83(2007))。しかし、これらの重鎖配列の欠失及び修飾は、抗体の抗原結合能及びエフェクター機能(補体の活性化や抗体依存性細胞障害作用等)には影響を及ぼさない。したがって、本発明で使用される抗HER2抗体には、当該修飾を受けた抗体及び当該抗体の機能性断片も含まれ、重鎖カルボキシル末端において1又は2のアミノ酸が欠失した欠失体、及びアミド化された当該欠失体(例えば、カルボキシル末端部位のプロリン残基がアミド化された重鎖)等も包含される。但し、抗原結合能及びエフェクター機能が保たれている限り、本発明で使用される抗HER2抗体の重鎖のカルボキシル末端の欠失体は上記の種類に限定されない。本発明で使用される抗HER2抗体を構成する2本の重鎖は、完全長及び上記の欠失体からなる群から選択される重鎖のいずれか一種であってもよいし、いずれか二種を組み合わせたものであってもよい。各欠失体の量比は本発明で使用される抗HER2抗体を産生する哺乳類培養細胞の種類及び培養条件に影響を受け得るが、本発明で使用される抗HER2抗体は、好ましくは、2本の重鎖の双方でカルボキシル末端のひとつのアミノ酸残基が欠失しているものを挙げることができる。
【0093】
本発明で使用される抗HER2抗体のアイソタイプとしては、例えばIgG(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)等を挙げることができるが、好ましくはIgG1又はIgG2を挙げることができる。また、これらの改変体も本発明にかかる抗HER2抗体として利用することができる。
【0094】
本発明において使用される抗HER2抗体としては、例えば、トラスツズマブ(Trastuzumab)(米国特許第5821337号)、及び、ペルツズマブ(Pertuzumab)(国際公開第01/00245号)を挙げることができ、好適にはトラスツズマブを挙げることができる。
【0095】
本発明において、「トラスツズマブ」は、配列番号1(
図1)においてアミノ酸番号1乃至449に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号2(
図2)においてアミノ酸番号1乃至214に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖を含んでなるヒト化抗HER2抗体である。
【0096】
本発明に係る抗HER2抗体-薬物コンジュゲートの製造に使用される、好適な抗HER2抗体は、
(1)配列番号1においてアミノ酸番号1乃至449に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号2においてアミノ酸番号1乃至214に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖を含んでなる抗体、又は、
(2)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号2に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖を含んでなる抗体である。
【0097】
[抗HER2抗体-薬物コンジュゲートの製造]
本発明に係る抗HER2抗体-薬物コンジュゲートの製造に使用される薬物リンカー中間体は、次式で示される。
【0098】
【0099】
上記の薬物リンカー中間体は、N-[6-(2,5-ジオキソ-2,5-ジヒドロ-1H-ピロール-1-イル)ヘキサノイル]グリシルグリシル-L-フェニルアラニル-N-[(2-{[(1S,9S)-9-エチル-5-フルオロ-9-ヒドロキシ-4-メチル-10,13-ジオキソ-2,3,9,10,13,15-ヘキサヒドロ-1H,12H-ベンゾ[de]ピラノ[3’,4’:6,7]インドリジノ[1,2-b]キノリン-1-イル]アミノ}-2-オキソエトキシ)メチル]グリシンアミド、という化学名で表すことができ、国際公開第2015/115091号の記載を参考に製造することができる。
【0100】
本発明で使用される抗HER2抗体-薬物コンジュゲートは、前述の薬物リンカー中間体と、チオール基(又はスルフヒドリル基とも言う)を有する抗HER2抗体を反応させることによって製造することができる。
【0101】
スルフヒドリル基を有する抗HER2抗体は、当業者周知の方法で得ることができる(Hermanson, G.T, Bioconjugate Techniques, pp.56-136, pp.456-493, Academic Press(1996))。例えば、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP)等の還元剤を、抗体内鎖間ジスルフィド1個当たりに対して0.3乃至3モル当量用い、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)等のキレート剤を含む緩衝液中で、抗HER2抗体と反応させることで、抗体内鎖間ジスルフィドが部分的若しくは完全に還元されたスルフヒドリル基を有する抗HER2抗体を得ることができる。
【0102】
さらに、スルフヒドリル基を有する抗HER2抗体1個あたり、2乃至20モル当量の薬物リンカー中間体を使用して、抗体1個当たり2個乃至8個の薬物が結合した抗HER2抗体―薬物コンジュゲートを製造することができる。
【0103】
製造した抗HER2抗体-薬物コンジュゲートの抗体一分子あたりの平均薬物結合数の算出は、例えば、280nm及び370nmの二波長における抗HER2抗体-薬物コンジュゲートとそのコンジュゲーション前駆体のUV吸光度を測定することにより算出する方法(UV法)や、抗体-薬物コンジュゲートを還元剤で処理し得られた各フラグメントをHPLC測定により定量し算出する方法(HPLC法)により行うことができる。
【0104】
抗HER2抗体と薬物リンカー中間体のコンジュゲーション、及び抗HER2抗体-薬物コンジュゲートの1抗体あたりの平均薬物結合数の算出は、国際公開第2015/115091号等の記載を参考に実施することができる。
【0105】
[治療剤及び/又は治療方法]
本発明の治療剤及び/又は治療方法は、特定の抗HER2抗体-薬物コンジュゲートを投与することを特徴とし、HER2変異がんの治療のために使用することができる。
【0106】
本発明の治療剤及び/又は治療方法を使用することができるHER2変異がんにおけるがんは、好適には、肺がん(非小細胞肺がんを含む)、乳がん、胃がん(胃腺がんと呼ぶこともある)、大腸がん(結腸直腸がんと呼ぶこともあり、結腸がん及び直腸がんを含む)、食道がん、唾液腺がん、胃食道接合部腺がん、胆道がん(胆管がんを含む)、ページェット病、膵臓がん、卵巣がん、子宮がん肉腫、尿路上皮がん、前立腺がん、膀胱がん、胃腸間質腫瘍、子宮頸がん、扁平上皮がん、腹膜がん、肝臓がん、肝細胞がん、子宮体がん、腎臓がん、外陰部がん、甲状腺がん、陰茎がん、白血病、悪性リンパ腫、形質細胞腫、骨髄腫、頭頸部がん、咽頭がん、多型神経膠芽腫、及びメラノーマからなる群より選択される少なくとも一つであり、より好適には、非小細胞肺がん、乳がん、胃がん、大腸がん、食道がん、唾液腺がん、胃食道接合部腺がん、胆道がん、ページェット病、膵臓がん、卵巣がん、及び子宮がん肉腫からなる群より選択される少なくとも一つであり、更により好適には、非小細胞肺がんであり、更により好適には、切除不能及び/又は転移性の非小細胞肺がんである。
【0107】
本発明の治療剤及び治療方法は、好適には、本発明で使用される抗HER2抗体-薬物コンジュゲートの1回あたりの投与量が5.4mg/kg(体重1kgあたりの投与量が5.4mgであることを示す。以下、同様。)から8mg/kgの範囲であり、より好適には、5.4mg/kg、6.4mg/kg、7.4mg/kg、又は8mg/kgであり、更により好適には、5.4mg/kg、又は6.4mg/kgであり、更により好適には、6.4mg/kgである。
【0108】
本発明の治療剤及び治療方法は、好適には、本発明で使用される抗HER2抗体-薬物コンジュゲートが3週に1回の間隔で投与されることを特徴とする。
【0109】
本発明の治療剤及び治療方法は、本発明で使用される抗HER2抗体-薬物コンジュゲート以外の1以上の他の薬剤(例えば、第二の薬剤)を含んでいてもよい。すなわち、本発明の治療剤又は本発明で使用される抗HER2抗体-薬物コンジュゲートは、他の薬剤と併用して投与することもでき、これによって抗がん効果を増強させることができる。この様な目的で使用される他の薬剤は、本発明で使用される抗HER2抗体-薬物コンジュゲートと同時に、別々に、或は連続して個体に投与されてもよいし、それぞれの投与間隔を変えて投与されてもよい。他の薬剤または第二の薬剤は、好ましくは、がん治療剤である。この様ながん治療剤としては、抗腫瘍活性を有する薬剤であれば限定されることはないが、例えば、イリノテカン(Irinotecan、CPT-11)、シスプラチン(Cisplatin)、カルボプラチン(Carboplatin)、オキサリプラチン(Oxaliplatin)、フルオロウラシル(Fluorouracil、5-FU)、ゲムシタビン(Gemcitabine)、カペシタビン(Capecitabine)、パクリタキセル(Paclitaxel)、ドセタキセル(Docetaxel)、ドキソルビシン(Doxorubicin)、エピルビシン(Epirubicin)、シクロフォスファミド(Cyclophosphamide)、マイトマイシンC(Mitomycin C)、テガフール(Tegafur)・ギメラシル(Gimeracil)・オテラシル(Oteracil)配合剤、セツキシマブ(Cetuximab)、パニツムマブ(Panitumumab)、ベバシズマブ(Bevacizumab)、ラムシルマブ(Ramucirumab)、レゴラフェニブ(Regorafenib)、トリフルリジン(Trifluridine)・チピラシル(Tipiracil)配合剤、ゲフィチニブ(Gefitinib)、エルロチニブ(Erlotinib)、アファチニブ(Afatinib)、メトトレキサート(Methotrexate)、ペメトレキセド(Pemetrexed)、トラスツズマブエムタンシン(Trastuzumab emtansin)、トラスツズマブ(Trastuzumab)、ペルツズマブ(Pertuzumab)、タモキシフェン(Tamoxifen)、トレミフェン(Toremifene)、フルベストラント(Fulvestrant)、リュープロレリン(Leuprorelin)、ゴセレリン(Goserelin)、レトロゾール(Letrozole)、アナストロゾール(Anastrozole)、及びプロゲステロン製剤(Progesterone formulation)からなる群より選択される少なくとも一つを挙げることができる。
【0110】
本発明の治療剤及び治療方法は、がん治療の主要な治療法である薬物療法のための薬剤として選択して使用することができ、その結果として、がん細胞の成長を遅らせ、増殖を抑え、さらにはがん細胞を破壊することができる。これらの作用によって、がん患者において、がんによる症状からの解放や、QOLの改善を達成でき、がん患者の生命を保って治療効果が達成される。がん細胞の破壊には至らない場合であっても、がん細胞の増殖の抑制やコントロールによってがん患者においてより高いQOLを達成しつつより長期の生存を達成させることができる。
【0111】
このような薬物療法においての薬物単独での使用の他、本発明の治療剤及び治療方法は、アジュバント療法において他の療法と組み合わせる薬剤としても使用でき、外科手術や、放射線療法、ホルモン療法等と組み合わせることができる。さらにはネオアジュバント療法における薬物療法の薬剤として使用することもできる。
【0112】
以上のような治療的使用の他、本発明の治療剤及び治療方法は、微細な転移がん細胞の増殖を抑さえ、さらには破壊するといった予防効果も期待することができる。例えば、転移過程で体液中にあるがん細胞を抑制し破壊する効果や、いずれかの組織に着床した直後の微細ながん細胞に対する抑制、破壊等の効果が期待できる。したがって、特に外科的ながんの除去後においてのがん転移の抑制、予防効果が期待できる。
【0113】
本発明の治療剤及び治療方法は、患者に対しては全身療法として適用する他、がん組織に局所的に適用して治療効果を期待することができる。
【0114】
本発明の治療剤及び治療方法は、哺乳動物に対して好適に使用することができるが、より好適にはヒトに対して使用することができる。
【0115】
本発明の治療剤は、1種以上の薬学的に適合性の成分を含む医薬組成物として投与され得る。薬学的に適合性の成分は、本発明で使用される抗HER2抗体-薬物コンジュゲートの投与量や投与濃度等に応じて、この分野において通常使用される製剤添加物その他から適宜選択して適用することができる。例えば、本発明の治療剤は、ヒスチジン緩衝剤等の緩衝剤、スクロース等の賦形剤、及びポリソルベート80等の界面活性剤を含む医薬組成物(以下、「本発明で使用される医薬組成物」という。)として投与され得る。本発明で使用される医薬組成物は、好適には、注射剤として使用することができ、より好適には、水性注射剤又は凍結乾燥注射剤として使用することができ、更により好適には、凍結乾燥注射剤として使用することができる。
【0116】
本発明で使用される医薬組成物が水性注射剤である場合、好適には、適切な希釈液で希釈した後、静脈内に点滴投与することができる。希釈液としては、ブドウ糖溶液や、生理食塩液、等を挙げることができ、好適には、ブドウ糖溶液を挙げることができ、より好適には5%ブドウ糖溶液を挙げることができる。
【0117】
本発明で使用される医薬組成物が凍結乾燥注射剤である場合、好適には、注射用水により溶解した後、必要量を適切な希釈液で希釈した後、静脈内に点滴投与することができる。希釈液としては、ブドウ糖溶液や、生理食塩液、等を挙げることができ、好適には、ブドウ糖溶液を挙げることができ、より好適には5%ブドウ糖溶液を挙げることができる。
【0118】
本発明で使用される医薬組成物を投与するために使用され得る導入経路としては、例えば、静脈内、皮内、皮下、筋肉内、及び腹腔内の経路を挙げることができ、好適には、静脈内の経路を挙げることができる。
【実施例】
【0119】
以下に示す例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、これらはいかなる意味においても限定的に解釈されるものではない。
【0120】
実施例1:抗HER2抗体-薬物コンジュゲートの製造
国際公開第2015/115091号に記載の製造方法に従って、ヒト化抗HER2抗体(配列番号1においてアミノ酸番号1乃至449に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号2においてアミノ酸番号1乃至214に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖を含んでなる抗体)を用いて、式
【0121】
【0122】
(式中、Aは抗体との結合位置を示す)
で示される薬物リンカーと、抗HER2抗体とがチオエーテル結合によって結合した抗HER2抗体-薬物コンジュゲート(本発明において「HER2-ADC(1)」と称する)を製造した。HER2-ADC(1)における1抗体あたりの平均薬物結合数は7~8の範囲である。
【0123】
実施例2: 臨床試験(フェーズI試験)
HER2-ADC(1)のフェーズI試験は、HER2陽性乳がん患者(トラスツズマブエムタンシンの治療歴あり)、HER2陽性胃がん患者(トラスツズマブの治療歴あり)、HER2低発現乳がん患者(IHCが1+、又はIHCが2+でISHがー)、及び、HER2発現(IHCが1+以上)又はHER2変異が確認されたその他の固形がん患者(IHC、FISH、NGS、又はその他の方法により確認)を対象に行われた。副作用(AEs)、奏効率(ORR:CR(完全奏効)+PR(部分奏効))、及び、病勢コントロール率(DCR:CR+PR+SD(安定))を評価した。
【0124】
2015年9月から2018年4月にかけて、HER2発現又はHER2変異が確認された非小細胞肺がんの患者12人が、HER2-ADC(1)の投与(6.4mg/kg)を受けた。患者の年齢のメジアン値は58.5歳であり、患者の前治療歴はメジアン値で3回である。データ・カットオフとして、8/12(66.7%)の患者が投薬を継続中である。投薬期間のメジアン値は3.663カ月であった。評価可能な患者でORRは62.5%(5/8)であり、DCRは75.0%(6/8)であった。このうち、4人の患者にHER2変異が確認され、PRは75.0%(3/4)であった。奏効期間のメジアン値は11.5カ月であった。1以上のpost-baseline scanを経た患者のうち、8/10(80.0%)の患者に腫瘍の縮退が認められた(そのうち100%の患者が1回目(投与約6週後)のpost-baseline scanで腫瘍の縮退を示した)。投薬中止の理由はPD(3/4、75.0%)及びAE(1/4、25.0%)であった。3/12(25.0%)の患者にグレード3以上のAEが見られた。主なAEとしては、脱毛症が41.7%(グレード3以上は0.0%)、疲労が41.7%(グレード3以上は0.0%)の割合で確認された(2018年4月18日時点のデータ)。
【0125】
実施例3:臨床試験(フェーズI試験)
実施例2に引き続き、HER2-ADC(1)のフェーズI試験を行った。これまでにHER2-ADC(1)の投与(6.4mg/kg)を受けたHER2発現又はHER2変異が確認された非小細胞肺がんの患者は18人である。患者の年齢のメジアン値は58.0歳であり、患者の前治療歴はメジアン値で3回である。18人の患者のうち、HER2変異が確認された患者は11人(61.1%)である。
【0126】
HER2-ADC(1)の抗腫瘍効果として、客観的奏効率(Objective Response Rate;ORR)、病勢コントロール率(Disease Control Rate;DCR)、奏効期間(Duration of Response;DoR)、奏効までの期間(Time to Response;TTR)、無憎悪生存期間(Progression-free Survival;PFS)を表1に示す。
【0127】
【0128】
HER2発現又はHER2変異が確認された非小細胞肺がんの患者(18人)のコホートにおいてHER2-ADC(1)は、58.8%(10/17)のORRを示し、88.2%(15/17)のDCRを示した。DoRのメジアン値は9.9カ月であり、TTRのメジアン値は1.4カ月であり、PFSのメジアン値は14.1カ月であった。
【0129】
このうち、HER2変異が確認された非小細胞肺がんの患者(11人)のコホートにおいてHER2-ADC(1)は72.7%(8/11)のORRを示し、100%(11/11)のDCRを示した。DoRのメジアン値は11.5カ月であり、TTRのメジアン値は1.4カ月であり、PFSのメジアン値は14.1カ月であった。 また、最大腫瘍縮小率を
図3に、腫瘍縮小率の時間推移を
図4に示した。
【0130】
HER2-ADC(1)による治療下で確認された主な有害事象(AE)を表2に示す。いずれのAEも総じて低いグレードのものであった。
【0131】
【0132】
その他、特に注目すべきAEとしては、間質性肺疾患が1名(5.6%)、肺臓炎が1名(5.6%)で確認された(2018年8月10日時点のデータ)。
【0133】
実施例4: 臨床試験(フェーズII試験)
HER2-ADC(1)のフェーズII試験は、HER2過剰発現(IHCが3+又は2+)が確認された切除不能及び/又は転移性の非小細胞肺がん患者(約40人: Cohort 1)、及び、HER2変異が確認された切除不能及び/又は転移性の非小細胞肺がん患者(約40人: Cohort 2)を対象に行う。HER2-ADC(1)は6.4mg/kgの投与量を3週に1回の間隔で投与し、奏効率(ORR)、奏効期間(DoR)、無憎悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)等を評価する。
【配列表フリーテキスト】
【0134】
配列番号1:ヒト化抗HER2抗体重鎖のアミノ酸配列
配列番号2:ヒト化抗HER2抗体軽鎖のアミノ酸配列
配列番号3:HER2蛋白のアミノ酸配列
配列番号4:HER2遺伝子(cDNA)のヌクレオチド配列
【配列表】