(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】無針注射器
(51)【国際特許分類】
A61M 5/30 20060101AFI20240221BHJP
A61M 5/42 20060101ALI20240221BHJP
【FI】
A61M5/30
A61M5/42 510
(21)【出願番号】P 2020523191
(86)(22)【出願日】2019-06-06
(86)【国際出願番号】 JP2019022645
(87)【国際公開番号】W WO2019235598
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2022-04-27
(31)【優先権主張番号】P 2018108899
(32)【優先日】2018-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 崇将
(72)【発明者】
【氏名】山本 裕三
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 洋
【審査官】上石 大
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-122712(JP,A)
【文献】特開平11-309211(JP,A)
【文献】米国特許第05911703(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/30
A61M 5/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
注射針を介することなく、注射対象領域を押圧した状態で注射目的物質を射出することによって、該注射目的物質を該注射対象領域に注射する無針注射器であって、
前記無針注射器のハウジングに設けられた、前記注射目的物質を収容する収容部と、
前記ハウジングに設けられ、前記収容部に収容された前記注射目的物質を射出するための射出エネルギーを発生させる駆動部と、
前記ハウジングの前記収容部の側の所定の端部である所定端部から突出して設けられたノズル部であって、前記駆動部により発生された射出エネルギーが付与された前記注射目的物質を前記注射対象領域に向かって射出する射出口が形成され、該射出口から該注射目的物質が射出されるときに、先端部が該注射対象領域と接触するように構成されたノズル部と、
前記ノズル部を囲むとともに該ノズル部との間に所定の隙間が形成されるように、前記所定端部から突出して設けられた押圧部であって、前記射出口から前記注射目的物質が射出されるときに、先端部が前記注射対象領域と接触するように構成された押圧部と、
を備え、
前記押圧部は、その先端部の端面の面積が、前記ノズル部の先端部の端面の面積よりも大きくなるように形成され、
前記押圧部の先端部における前記注射対象領域と接触する部分の幅が、前記ノズル部の先端部における前記注射対象領域と接触する部分の幅よりも細くなるように形成され、
前記注射対象領域が前記押圧部によって押圧されると、前記所定の隙間が該注射対象領域の一部を収容するように構成される、
無針注射器
(ただし、前記所定の隙間内を減圧する減圧機構を有する無針注射器を除く)。
【請求項2】
前記押圧部は、円筒状に形成され、且つ、その内周面と外周面との間隔が、軸方向に沿って先端側に向かうに従って徐々に小さくなるテーパ形状を有する、
請求項1に記載の無針注射器。
【請求項3】
前記ノズル部は、その幅が、先端側に向かうに従って徐々に小さくなるように形成される、
請求項1又は2に記載の無針注射器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注射針を介することなく、注射目的物質を注射対象領域に注射する無針注射器に関する。
【背景技術】
【0002】
注射針を介することなく注射液を射出し、対象物に注射を行う無針注射器が広く知られている。例えば、特許文献1に記載の無針注射器では、その先端側に円筒形のスカートが形成され、該スカートによって画定される隔室に注射チューブが配置されている。そして、当該無針注射器では、患者の皮膚にスカートの開端を押当てた状態で、吸引ポンプによって隔室内の空気が吸引される。そうすると、患者の皮膚が隔室内に吸引され、注射チューブの先端付近の皮膚が安定状態に保たれることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
無針注射器では、注射目的物質を射出する射出口が形成されたノズル部が備えられる。このような無針注射器において、射出口から射出される注射目的物質を的確に注射対象領域の目的部位に届けるためには、注射対象領域とノズル部との間で適切な接触状態が形成され、該目的部位への注射目的物質の注射中その状態が維持されなければならない。なお、このように、注射対象領域の目的部位への注射目的物質の的確な送達を可能にする注射対象領域とノズル部との間の接触状態を、以下「所望の接触状態」と称することもある。
【0005】
しかしながら、注射対象領域とノズル部との間の接触状態は、ユーザの手技差等に起因して変化し得る。したがって、ユーザによってノズル部が注射対象領域の表面に単に押し付けられるだけでは、所望の接触状態の形成が困難となることがある。また、最初に注射対象領域の表面にノズル部を接触させた際には所望の接触状態が形成されていたとしても、例えば、注射の操作が行われる過程で横滑り等が生じてしまうと、注射対象領域とノズル部との間の接触状態が変化してしまう。つまり、ユーザによってノズル部が注射対象領域の表面に単に押し付けられるだけでは、所望の接触状態の維持が困難となることがある。
【0006】
ここで、特許文献1に記載の無針注射器によれば、隔室内が減圧されることで患者の皮膚が該隔室内に吸引される。そのため、当該技術によれば、所望の接触状態が比較的容易に形成及び維持され得るとも思われる。しかしながら、隔室内を減圧するための構成がなければ、注射対象領域とノズル部との間で所望の接触状態を形成及び維持することができない。
【0007】
本発明は、上記した問題に鑑み、注射対象領域とノズル部との間で所望の接触状態を好適に形成及び維持することができる無針注射器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の無針注射器は、ノズル部と押圧部とを備え、該ノズル部と該押圧部との間に所定の隙間が形成される。そして、上記課題を解決するために、押圧部は、その先端部の幅がノズル部の先端部の幅よりも細くなるように形成され、注射対象領域が押圧部によって押圧されると、所定の隙間が該注射対象領域の一部を収容する。このような構成により、注射対象領域とノズル部との間で所望の接触状態を好適に形成及び維持することができる。
【0009】
具体的には、本発明の無針注射器は、注射針を介することなく、注射対象領域を押圧した状態で注射目的物質を射出することによって、該注射目的物質を該注射対象領域に注射する無針注射器であって、前記無針注射器のハウジングに設けられた、前記注射目的物質を収容する収容部と、前記ハウジングに設けられ、前記収容部に収容された前記注射目的物質を射出するための射出エネルギーを発生させる駆動部と、前記ハウジングの前記収容部の側の所定の端部である所定端部から突出して設けられたノズル部であって、前記駆動部により発生された射出エネルギーが付与された前記注射目的物質を前記注射対象領域に向かって射出する射出口が形成され、該射出口から該注射目的物質が射出されるときに、先端部が該注射対象領域と接触するように構成されたノズル部と、前記ノズル部を囲むとともに該ノズル部との間に所定の隙間が形成されるように、前記所定端部から突出して設けられた押圧部であって、前記射出口から前記注射目的物質が射出されるときに、先端部が前記注射対象領域と接触するように構成された押圧部と、を備える。そして、本発明の無針注射器では、前記押圧部の先端部における前記注射対象領域と接触する部分の幅が、前記ノズル部の先端部における前記注射対象領域と接触する部分の幅よりも細くなるように形成され、前記注射対象領域が前記押圧部によって押圧されると、前記所定の隙間が該注射対象領域の一部を収容する。
【0010】
本発明の無針注射器では、注射対象領域が押圧部によって押圧されると、注射対象領域のうち押圧部によって囲まれた部分が注射器に向かって盛り上がろうとする。ただし、上記の無針注射器では、ノズル部が、ハウジングの所定端部から突出し、且つ注射対象領域を押圧する押圧部に囲まれるように設けられている。そのため、注射対象領域における押圧部によって囲まれた領域は、その一部がノズル部の先端部によって押し付けられる。更に、上記領域の別の一部が、上述のように注射器に向かって盛り上がるように所定の隙間に侵入する。そして、このようにして注射対象領域とノズル部とが接触せしめられると、注射対象領域とノズル部との間で所望の接触状態が形成及び維持され易くなる。
【0011】
しかしながら、注射対象領域が押圧部によって押圧されるとき、押圧部の先端部と注射対象領域の表面とが良好に密着していなければ、注射対象領域が十分に押圧されない事態が生じ得る。その結果として、注射対象領域に注射目的物質が注射されるときに、仮に注射対象領域とノズル部との間で所望の接触状態が形成及び維持されなくなってしまうと、注射目的物質を的確に注射対象領域の目的部位に届けることができなくなる虞がある。
【0012】
そこで、本発明に係る無針注射器では、押圧部の先端部における注射対象領域と接触する部分の幅が、ノズル部の先端部における注射対象領域と接触する部分の幅よりも細くなるように、押圧部が形成される。なお、押圧部及びノズル部における上記幅とは、注射器をハウジングの縦断面で見たときの夫々の幅であり、注射対象領域と接する各々の先端部での幅である。そうすると、仮に押圧部の上記幅がノズル部の上記幅よりも太くなるように押圧部が形成される場合と比較して、押圧部の先端部と注射対象領域の表面との密着性が向上する。その結果、押圧部によって注射対象領域を十分に押圧することが可能となり、以て、注射対象領域とノズル部との間で所望の接触状態を形成することができる。つまり、押圧部の先端部の幅を細くすることで、注射対象領域にかかる荷重を集中させ、所定の隙間への注射対象領域の収容量(侵入量)を増やすことができる。これにより、押圧部やノズル部の先端部の周囲に注射対象領域を位置させることができ、以て、押圧部やノズル部が保持され易くなる。また、所定の隙間への注射対象領域の収容量(侵入量)が増やされると、注射対象領域における押圧部によって囲まれた部分が注射器に向かって高く盛り上がり易くなり、以て、注射対象領域とノズル部とが密着し易くなる。更に、押圧部の先端部と注射対象領域の表面との密着性が向上すると、注射対象領域に対する押圧部による押圧状態が維持され易くなるため、押圧されることで上記のように変形した注射対象領域を、その変形後の態様で良好に固定することができる。その結果、注射対象領域とノズル部との間で所望の接触状態が安定して形成及び維持され得る。よって、このような効果が得られる限りにおいては押圧部の形状や仕様は問わず、押圧部は、例えば、ノズル部の周囲を連続的に覆う環状の態様であってもよいし、複数の押圧部が隣同士に間隔をあけて周方向に配列した態様であってもよい。
【0013】
以上に述べた無針注射器によれば、注射対象領域とノズル部との間で所望の接触状態を好適に形成及び維持することができ、注射対象領域の目的部位への注射目的物質の投与を、的確に且つ安定して再現良く行うことが可能となる。
【0014】
ここで、前記押圧部は、円筒状に形成され、且つ、その内周面と外周面との間隔が、軸方向に沿って先端側に向かうに従って徐々に小さくなるテーパ形状を有していてもよい。これにより、押圧部の先端部と注射対象領域の表面との密着性を向上させることができる。
【0015】
また、前記押圧部は、その先端部の端面の面積が、前記ノズル部の先端部の端面の面積よりも大きくなるように形成されてもよい。なお、押圧部及びノズル部における上記端面とは、ハウジングの軸方向に沿うように延在するこれら押圧部及びノズル部の先端面である。このように、押圧部の先端面の面積がノズル部の先端面の面積よりも大きくされると、注射対象領域が押圧部によって押圧されたときに、注射対象領域と押圧部の先端部の端面との接触面積が大きくなり、その押圧状態が安定して維持され易くなる。これによれば、例えば、注射の操作が行われる過程で注射器の横滑りや傾き等が生じてしまう事態を可及的に抑制することができる。そのため、注射対象領域とノズル部との間で所望の接触状態が安定して形成及び維持され得る。
【0016】
または、前記押圧部が上述したテーパ形状を有する場合、前記押圧部は、その先端部の端面の面積が、前記ノズル部の先端部の端面の面積よりも小さくなるように形成されてもよい。このような構成によれば、押圧部の機械的強度を確保しつつ該押圧部の先端部を可及的に細くすることができる。このように、押圧部の先端部が可及的に細くされることによっても、注射対象領域が押圧部によって押圧されたときに、その押圧状態が安定して維持され易くなる。これによれば、例えば注射の操作が行われる過程で注射器の傾き等が生じてしまったとしても、注射対象領域の表面は押圧部の先端面によって比較的強く押圧されているため、押圧されることで上記のように変形した注射対象領域を、その変形後の態様で良好に固定することができる。また、注射の操作が行われる過程で注射器の横滑り等が生じてしまう事態を可及的に抑制することもできる。そのため、注射対象領域とノズル部との間で所望の接触状態が安定して形成及び維持され得る。
【0017】
以上に述べた無針注射器において、前記ノズル部は、その幅が、先端側に向かうに従って徐々に小さくなるように形成されてもよい。なお、上記幅とは、注射器をハウジングの縦断面で見たときのノズル部の幅である。このような構成によれば、注射対象領域が押圧部によって押圧され注射対象領域が上記のように変形すると、変形した注射対象領域とノズル部の先端部とがより密着し易くなる。そうすると、注射対象領域がノズル部の先端部を取り囲んで該先端部と密着し、該注射対象領域によってノズル部が固定され易くなる。その結果、注射対象領域とノズル部との間で所望の接触状態が維持され易くなる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、注射対象領域とノズル部との間で所望の接触状態を好適に形成及び維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施例1に係る注射器の概略構成を示す第一の図である。
【
図2】対象物の注射対象領域に注射液が注射されるときの該注射対象領域とノズル部の先端部との接触状態を説明するための図である。
【
図3A】生体の皮膚がリムによって押圧されているときの、生体の皮膚とノズル部の先端部との接触状態を表す図であって、皮膚とノズル部との間で所望の接触状態が形成されない場合を示す図である。
【
図3B】生体の皮膚がリムによって押圧されているときの、生体の皮膚とノズル部の先端部との接触状態を表す図であって、皮膚とノズル部との間で所望の接触状態が形成される場合を示す図である。
【
図4】本発明の実施例1に係る注射器の概略構成を示す第二の図である。
【
図5】本発明の実施例1の変形例1に係る注射器の概略構成を示す図である。
【
図6】実施例1の変形例1における、生体の皮膚がリムによって押圧されているときの、生体の皮膚とノズル部の先端部との接触状態を表す図である。
【
図7】本発明の実施例1の変形例2に係る注射器の概略構成を示す図である。
【
図8】実施例1の変形例2における、生体の皮膚がリムによって押圧されているときの、生体の皮膚とノズル部の先端部との接触状態を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、図面を参照して本発明の実施形態に係る注射器として、針のない無針注射器1(以下、単に「注射器1」という)を例に挙げて説明する。なお、以下の実施形態の構成は例示であり、本発明はこれらの実施の形態の構成に限定されるものではない。
【0021】
<実施例1>
図1(a)は注射器1の断面図であり、
図1(b),(c)は注射器1を、先端側から見た図である。なお、本願の以降の記載においては、注射器1によって対象物の注射対象領域に注射される注射目的物質を「注射液」と総称する。しかし、これには注射される物質の内容や形態を限定する意図は無い。注射目的物質では、皮膚構造体に届けるべき成分が溶解していても溶解していなくてもよく、また注射目的物質も、加圧することで射出口から皮膚構造体に対して射出され得るものであれば、その具体的な形態は不問であり、液体、ゲル状、粉末状等様々な形態が採用できる。
【0022】
ここで、注射器1は、先端側ハウジング3と基端側ハウジング4とシリンジ部5とを含むハウジング2を有しており、先端側ハウジング3と基端側ハウジング4との間にシリンジ部5が配置されている。そして、これらがネジで固定されて一体となることで、ハウジング2が構成される。ただし、先端側ハウジング3、基端側ハウジング4、およびシリンジ部5は、ネジ以外の公知の方法によっても接続され得る。ここで、基端側ハウジング4の内部には、その軸方向に延在する内部空間である孔40が形成されている。
【0023】
シリンジ部5は、注射液MLを収容する収容室(収容部)50を内部に有する。シリンジ部5は、基端側ハウジング4に対して螺合されて取り付けられており、その取付状態において基端側ハウジング4内の孔40と、シリンジ部5内の収容室50とは連続した空間となる。なお、その取付状態では、注射液MLは、プランジャ7によって収容室50内に液密に収容されており、このプランジャ7が孔40側に露出した状態となっている。ここで、プランジャ7は、収容室50内を摺動可能に配置され、さらに、摺動することにより注射液MLを加圧し、射出口からの注射液の射出が行われることになる。また、プランジャ7は、円滑に収容室50内を摺動できるように、表面にシリコンオイルを薄く塗布したゴム部材により形成される。なお、プランジャ7の摺動性を向上させるため、例えばプランジャ7の表面をフッ素加工してもよい。
【0024】
そして、基端側ハウジング4内の孔40には、金属製のピストン6が配置され、該ピストン6は、孔40内を摺動可能に保持されている。ピストン6は、孔40の軸方向に沿って延在する概ね軸状に形成され、シリンジ部5に配置されるプランジャ7に接触する第1端部6aと、該第1端部6aの反対側に設けられ後述する燃焼室41を画定する第2端部6bと、を有する。また、第2端部6b側におけるピストン6の周囲には、後述する点火薬の燃焼による燃焼生成物を燃焼室41内に封止するとともに、ピストン6が孔40内を円滑に摺動可能となるように構成されたOリング6cが配置されている。
【0025】
更に、基端側ハウジング4において、シリンジ部5が取り付けられた側とは反対側には、イニシエータ20が配置される。
図1(a)に示すように、イニシエータ20は、ハウジング2の基端側の端部に設けられている。そして、イニシエータ20によって孔40の一端に形成された燃焼室41が閉じられる。ここで、孔40におけるイニシエータ20とピストン6の第2端部6bとによって画定される空間が、燃焼室41となる。そして、イニシエータ20に電圧が印加されると、イニシエータ20が有する点火薬が燃焼する。そうすると、点火薬の燃焼によって生じる燃焼生成物が燃焼室41に流入し、燃焼室41内の圧力が上昇する。このようにして、収容室50に収容された注射液MLを射出するための射出エネルギーが発生する。なお、イニシエータ20が、この射出エネルギーを発生させる駆動部となる。
【0026】
ここで、注射器1において用いられる点火薬として、好ましくは、ジルコニウムと過塩素酸カリウムを含む火薬(ZPP)、水素化チタンと過塩素酸カリウムを含む火薬(THPP)、チタンと過塩素酸カリウムを含む火薬(TiPP)、アルミニウムと過塩素酸カリウムを含む火薬(APP)、アルミニウムと酸化ビスマスを含む火薬(ABO)、アルミニウムと酸化モリブデンを含む火薬(AMO)、アルミニウムと酸化銅を含む火薬(ACO)、アルミニウムと酸化鉄を含む火薬(AFO)、もしくはこれらの火薬のうちの複数の組合せからなる火薬が挙げられる。これらの火薬は、点火直後の燃焼時には高温高圧のプラズマを発生させるが、常温となり燃焼性生物が凝縮すると気体成分を含まないために発生圧力が急激に低下する特性を示す。なお、これら以外の火薬を点火薬として用いても構わない。
【0027】
また、
図1に示す燃焼室41内には何も配置されていないが、点火薬の燃焼によって生じる燃焼生成物によって燃焼しガスを発生させるガス発生剤を、燃焼室41内に配置するようにしてもよい。仮に燃焼室41内にガス発生剤を配置させる場合、その一例としては、ニトロセルロース98質量%、ジフェニルアミン0.8質量%、硫酸カリウム1.2質量%からなるシングルベース無煙火薬が挙げられる。また、エアバッグ用ガス発生器やシートベルトプリテンショナ用ガス発生器に使用されている各種ガス発生剤を用いることも可能である。このようなガス発生剤の併用は、上記点火薬のみの場合と異なり、燃焼時に発生した所定のガスは常温においても気体成分を含むため、発生圧力の低下率は小さい。さらに、当該ガス発生剤の燃焼時の燃焼完了時間は、上記点火薬と比べて極めて長いが、燃焼室41内に配置されるときの該ガス発生剤の寸法や大きさ、形状、特に表面形状を調整することで、該ガス発生剤の燃焼完了時間を変化させることが可能である。このようにガス発生剤の量や形状、配置を調整することで、燃焼室41内での発生圧力を適宜調整できる。
【0028】
以上に述べたように構成される注射器1において、シリンジ部5には、更に先端側ハウジング3がシリンジ部5に対して螺合されて取り付けられる。なお、先端側ハウジング3は、ガスケット3aを挟んでシリンジ部5に取り付けられている。そして、先端側ハウジング3には、ノズル部8及びリム9が該先端側ハウジング3と一体に形成されている。ここで、ノズル部8及びリム9は、ハウジング2の先端側(収容室50側)の所定の端部である所定端部2aから突出して設けられている。なお、ノズル部8及びリム9は、先端側ハウジング3とは別体の部品として、所定端部2aから突出して設けられてもよい。
【0029】
ここで、ノズル部8は、先端側ハウジング3のシリンジ部5側よりも縮径した本体8aを有している。本体8aは、その径が、所定端部2aから軸方向に沿って先端側に向かうに従って徐々に小さくなる基端部82aと、基端部82aよりも先端側に形成された先端部81aと、を含む。そして、ノズル部8において、本体8aの先端部81aには射出口8bが形成されている。プランジャ7によって加圧された注射液MLは、先端側ハウジング3に形成された流路を流れて射出口8bから射出される。詳しくは、イニシエータ20の点火薬が燃焼することで燃焼室41内の圧力が上昇すると、ピストン6が注射器1の先端側に向かって摺動する。そして、ピストン6が摺動していくと、プランジャ7が収容室50に収容された注射液MLを押圧する。その結果、注射液MLが、先端側ハウジング3に形成された流路を流通し、射出口8bから注射対象領域に向けて射出されることになる。
【0030】
なお、射出口8bは、本体8aの先端部81aに複数形成されてもよく、または、一つ形成されてもよい。複数の射出口が形成される場合には、各射出口に対して注射液MLが可及的に均等に送り込まれるように、各射出口に対応する流路がノズル部8の本体8aに形成される。さらに、複数の射出口が形成される場合には、
図1(c)に示すように、注射器1の中心軸の周囲に等間隔で各射出口が配置されるのが好ましい。
【0031】
そして、先端側ハウジング3におけるノズル部8の周囲にはリム9が形成されている。リム9は、所定端部2aから突出して円筒状に形成され、本実施例では、リム9における内周面と外周面との間隔(幅)は、軸方向に沿って変化せず一定である。
【0032】
そして、リム9とノズル部8との間には、所定の隙間10が形成される。本発明に係る注射器1では、このようにリム9とノズル部8との間に隙間10が設けられるとともに、対象物の注射対象領域に注射液MLが注射されるときにリム9によって注射対象領域が押圧されることによって、このときに隙間10に該注射対象領域の一部が侵入することになる。言い換えれば、隙間10が注射対象領域の一部を収容することになる。なお、リム9が、注射対象領域を押圧する押圧部となる。これについて、以下に詳しく説明する。
【0033】
図2は、対象物の注射対象領域に注射液MLが注射されるときの該注射対象領域とノズル部8の先端部81aとの接触状態を説明するための図である。本発明では、リム9によって注射対象領域が押圧された状態で、注射液MLの射出が行われる。ここで、
図2(a)は、注射対象領域の表面とリム9の先端部とが当接した状態を表しており、
図2(b)は、
図2(a)によって表された状態から更にリム9によって注射対象領域が押圧された状態を表している。また、
図2(c)は、
図2(b)によって表された状態においてイニシエータ20が作動され、注射液MLの射出が完了した状態を表している。
【0034】
図2(b)に示されるように、注射対象領域がリム9によって押圧されると、隙間10に該注射対象領域の一部が侵入する。ここで、仮に筒状体のリム9の内側にノズル部8が配置されない場合には、リム9の内側において、注射対象領域が弓状に盛り上がる傾向にある。これに対して、リム9の内側にノズル部8が配置される本発明の注射器1では、リム9の内側において、注射器1に向かって弓状に盛り上がろうとする注射対象領域がノズル部8の先端部81aに押し付けられるとともに、リム9の内側に存在する注射対象領域が隙間10に侵入する。本発明の注射器1では、このようにして、注射対象領域とノズル部8とが接触せしめられる。なお、
図2(b)によって表された状態では、リム9によって注射対象領域が十分に押圧され、注射対象領域とノズル部8との間で後述する所望の接触状態が形成されているものとする。
【0035】
そして、
図2(b)によって示された状態においてイニシエータ20に電圧が印加されると、点火薬の燃焼によって生じる燃焼生成物が燃焼室41に流入し、燃焼室41内の圧力が上昇する。そうすると、プランジャ7によって注射液MLが押圧され、注射液MLは、射出口8bから注射対象領域に向けて射出される。その結果、注射器1は、
図2(c)によって示される状態に至る。
【0036】
このように、注射器1では、対象物の注射対象領域に注射液MLが注射されるとき、該注射対象領域とノズル部8の先端部81aとが接触した状態において、射出口8bから注射液MLが射出される。そして、このとき、仮に、注射対象領域とノズル部8との間で適切な接触状態が形成され注射液MLの注射中にその適切な接触状態が維持されないと、注射液MLを的確に注射対象領域の目的部位に届けることができなくなる虞がある。
【0037】
そこで、本発明に係る注射器1では、リム9の先端部における注射対象領域と接触する部分の幅が、ノズル部8の先端部81aにおける注射対象領域と接触する部分の幅よりも細くなるように、リム9が形成される。これにより、対象物の注射対象領域に注射液MLを注射するときに、注射対象領域の目的部位への注射液MLの的確な送達を可能にする注射対象領域とノズル部8との間の接触状態(以下、「所望の接触状態」と称する場合もある。)を好適に形成及び維持した状態で注射を行うことが可能となる。これについて、
図3A及び
図3Bに基づいて説明する。
【0038】
図3A及び
図3Bによって示される例には、生体の皮膚がリム9によって押圧されているときの、生体の皮膚とノズル部8の先端部81aとの接触状態が表されている。ここで、注射対象領域が生体である場合、その表面である皮膚には、毛穴(体毛)や角質等による凹凸が存在する。したがって、この凹凸に起因して、リム9の先端面と皮膚との接触状態が変化し得る。そうすると、押圧力が同じであっても、皮膚に対するリム9による押圧状態が変化してしまうことがあり、以て、生体の皮膚とノズル部8の先端部81aとの接触状態が変化してしまう虞がある。
【0039】
ここで、
図3Aは、生体の皮膚に存在する凹凸に起因して、皮膚とノズル部8との間で所望の接触状態が形成されない場合を例示している。この場合において、本発明に係る注射器1とは異なり、リム9の先端部における注射対象領域と接触する部分の幅が、ノズル部8の先端部81aにおける注射対象領域と接触する部分の幅よりも太くなるように、リム9が形成されている。なお、リム9の先端部における上記の幅とは、リム9の先端面における内周面と外周面との距離であって、注射器1の縦断面を示す
図3Aでは、幅D21により表される。また、ノズル部8の先端部81aにおける上記の幅とは、先端部81aの径であって、注射器1の縦断面を示す
図3Aでは、幅D1により表される。つまり、
図3Aでは、リム9の先端部の幅D21が、ノズル部8の先端部81aの幅D1よりも太くなるように、リム9が形成されている。そうすると、
図3Aに示すように、皮膚の凹凸によって、リム9の先端部と皮膚との密着性が低下する。つまり、リム9の先端面で押し付け荷重が分散するために、その結果として、皮膚に対して応力が集中せず、リム9によって皮膚を十分に押圧することができなくなる。以て、隙間10内に皮膚の盛り上がりが現れにくく、皮膚とノズル部8との間で所望の接触状態が形成されなくなってしまう。このように、注射器1にリム9と隙間10とが設けられたとしても、仮にリム9の先端部における上記の幅がノズル部8の先端部81aにおける上記の幅よりも太くなるようにリム9が形成される場合には、注射対象領域とノズル部8との間で所望の接触状態を好適に形成及び維持することができない。
【0040】
これに対して、
図3Bに示すように、リム9の先端部における注射対象領域と接触する部分の幅D22が、ノズル部8の先端部81aにおける注射対象領域と接触する部分の幅D1よりも細くなるように、リム9が形成されると、
図3Aに示した場合と比較して、リム9の先端部と皮膚との密着性が向上する。その結果、リム9によって生体の皮膚を十分に押圧することが可能となり、以て、皮膚とノズル部8との間で所望の接触状態を形成することができる。
【0041】
更に、本発明に係る注射器1によれば、このような所望の接触状態が安定して形成及び維持され得る。なぜなら、リム9の先端部と皮膚との密着性が向上すると、注射対象領域に対するリム9による押圧状態が維持され易くなるため、リム9の内側において上述したように変形した注射対象領域を、その変形後の態様で良好に固定することができるからである。また、このとき、リム9の内側において固定される注射対象領域の変形態様は、リム9及びノズル部8の本体8aの幾何学形状による影響が支配的となるため、ユーザの手技差等に起因して注射対象領域とノズル部8との間の接触状態が変化する事態が生じ難くなる。
【0042】
更に、隙間10に侵入した注射対象領域は、ノズル部8の先端部81aを取り囲むようにして、該先端部81aの外周面を押圧する。そうすると、このような注射対象領域によってノズル部8が固定されるため、所望の接触状態が維持され易くなる。
【0043】
以上に述べた注射器1によれば、注射対象領域とノズル部8との間で所望の接触状態を好適に形成及び維持することができる。その結果、注射対象領域の目的部位への注射液MLの投与を、的確に且つ安定して再現良く行うことが可能となる。
【0044】
また、
図1(b),(c)に示すように、本実施例における注射器1において、リム9は、その先端面の面積(これは、
図1(b),(c)において面積A2として表される。)が、ノズル部8の先端面の面積(これは、
図1(b),(c)において面積A1として表される。)よりも大きくなるように形成されている。このように、リム9の先端面の面積がノズル部8の先端面の面積よりも大きくされると、注射対象領域がリム9によって押圧されたときに、その押圧状態が安定して維持され易くなる。これによれば、例えば、注射の操作が行われる過程で注射器1の傾き等が生じてしまう事態を可及的に抑制することができる。そのため、注射対象領域とノズル部8との間で所望の接触状態を安定して形成及び維持することができ、以て、注射液MLの投与を安定して行うことが可能となる。
【0045】
ただし、本発明は、その先端面の面積がノズル部8の先端面の面積よりも大きくなるように形成されたリム9を備えた注射器1に限定されず、リム9の先端面の面積は、ノズル部8の先端面の面積よりも小さくてもよい。このような態様は、
図4に表す注射器1によって例示される。
図4に例示される注射器1では、所定端部2aから突出して円筒状に形成されるリム9が、ノズル部8の周囲に全周ではなく断続的に形成される。その結果、リム9の先端面の面積(これは、
図4(b),(c)において面積A3として表される。)が、ノズル部8の先端面の面積(これは、
図4(b),(c)において面積A1として表される。)よりも小さくなる。このような注射器1では、リム9の先端面によって注射対象領域に付加される圧力が増加することで、注射の操作が行われる過程で注射器の横滑り等が生じてしまう事態が可及的に抑制される。
【0046】
<実施例1の変形例1>
次に、上述した実施例1の変形例1について、
図5及び
図6に基づいて説明する。なお、本変形例において、上述した実施例1と実質的に同一の構成については、その詳細な説明を省略する。
図5(a)は本変形例に係る注射器1の断面図であり、
図5(b),(c)は本変形例に係る注射器1を、先端側から見た図である。
【0047】
図5(a)に示すように、本変形例に係る注射器1では、リム9がテーパ部9aを有する。詳しくは、円筒状のリム9の内周面にテーパ部9aが形成され、該テーパ部9aによって、リム9の内周面と外周面との間隔が、軸方向に沿って先端側に向かうに従って徐々に小さくされる。なお、円筒状のリム9の外周面に、リム9の内周面と外周面との間隔が、軸方向に沿って先端側に向かうに従って徐々に小さくなるようにテーパ部が形成されてもよい。
【0048】
また、
図5(b),(c)に示すように、本変形例における注射器1において、リム9は、その先端面の面積(これは、
図5(b),(c)において面積A4として表される。)が、ノズル部8の先端面の面積(これは、
図5(b),(c)において面積A1として表される。)よりも小さくなるように形成されている。このように、リム9の先端面の面積がノズル部8の先端面の面積よりも小さくなるように注射器1が構成される場合において、仮にリム9における内周面と外周面との間隔が軸方向に沿って変化しないと、リム9が全長に亘って薄肉となるため、リム9の機械的強度が確保され難くなる。これに対して、
図5に示すように、リム9にテーパ部9aが形成されたうえで、リム9の先端面の面積がノズル部8の先端面の面積よりも小さくされる場合には、リム9の機械的強度を確保しつつリム9の先端部を可及的に細くすることができる。
【0049】
そして、このような注射器1によっても、注射対象領域とノズル部8との間で所望の接触状態を好適に形成及び維持することができる。これについて、
図6に基づいて説明する。
【0050】
図6によって示される例には、
図3Bと同様に、生体の皮膚がリム9によって押圧されているときの、生体の皮膚とノズル部8の先端部81aとの接触状態が表されている。なお、
図6に示すように、リム9の内周面と外周面との間隔(リム9の幅)は、所定端部2aから軸方向に沿って先端側に向かうに従って、D22からD23にまで徐々に小さくされる。そして、本変形例に係る注射器1によれば、
図6に示すように、リム9が皮膚に対して比較的深く食い込むことになる。これは、押圧力が同じ場合、リム9の先端部が細くなるほど(リム9の先端面の面積が小さくなるほど)、リム9の先端面によって皮膚表面に付加される荷重が集中するからである。そして、このように皮膚が押圧されることによっても、リム9の内側において、上述した実施例1と同様に注射対象領域が変形し、皮膚とノズル部8との間で所望の接触状態が形成される。
【0051】
そして、このような注射器1によれば、注射対象領域とノズル部8との間で所望の接触状態を安定して形成及び維持することができる。なぜなら、リム9が注射対象領域に対して比較的深く食い込むことで、リム9による注射対象領域に対する押圧状態が安定して維持され易くなるからである。これによれば、例えば注射の操作が行われる過程で注射器1の傾き等が生じてしまったとしても、リム9の内側において上述したように変形した注射対象領域を、その変形後の態様で良好に固定することができる。また、注射の操作が行われる過程で注射器1の横滑り等が生じてしまう事態を可及的に抑制することもできる。
【0052】
つまり、注射対象領域とノズル部8との間で所望の接触状態が好適に形成及び維持され、以て、注射対象領域の目的部位への注射液MLの投与を、的確に且つ安定して再現良く行うことが可能となる。
【0053】
<実施例1の変形例2>
次に、上述した実施例1の変形例2について、
図7及び
図8に基づいて説明する。なお、本変形例において、上述した実施例1と実質的に同一の構成については、その詳細な説明を省略する。
図7(a)は本変形例に係る注射器1の断面図であり、
図7(b),(c)は本変形例に係る注射器1を、先端側から見た図である。
【0054】
実施例1の説明で述べた注射器1では、ノズル部8の本体8aは、その径が所定端部2aから軸方向に沿って先端側に向かうに従って徐々に小さくなる基端部82aと、基端部82aよりも先端側に形成されその径が全長に亘って変化しない先端部81aと、を含む。これに対して、本変形例に係る注射器1では、ノズル部8の本体8aは、実施例1に係る注射器1と同様の基端部82aと、基端部82aよりも先端側に形成されその径が軸方向に沿って先端側に向かうに従って徐々に小さくなる先端部811aと、を含む。
【0055】
そして、このような注射器1によっても、注射対象領域とノズル部8との間で所望の接触状態を好適に形成及び維持することができる。これについて、
図8に基づいて説明する。
【0056】
図8によって示される例には、
図3Bと同様に、生体の皮膚がリム9によって押圧されているときの、生体の皮膚とノズル部8の先端部81aとの接触状態が表されている。なお、
図8に示すように、先端部811aの径(先端部811aの幅)は、軸方向に沿って先端側に向かうに従って、D1からD11にまで徐々に小さくされる。また、リム9の先端部の幅D22が、ノズル部8の先端面の幅D11よりも細くなるように、リム9が形成されている。そして、本変形例に係る注射器1によれば、
図8に示すように、ノズル部8の先端部811aが皮膚に対して食い込み易くなる。そうすると、先端部811aの外周面を取り囲む注射対象領域によってノズル部8が固定され易くなり、注射対象領域とノズル部8との間で所望の接触状態が維持され易くなる。
【0057】
つまり、注射対象領域とノズル部8との間で所望の接触状態が好適に形成及び維持され、以て、注射対象領域の目的部位への注射液MLの投与を、的確に且つ安定して再現良く行うことが可能となる。
【0058】
<その他の実施例>
本発明に係る注射器1によれば、例えば、ヒトに対する再生医療の分野において、特開2008-206477号公報に示すように、移植される部位及び再細胞化の目的に応じて当業者が適宜決定し得る細胞、例えば、内皮細胞、内皮前駆細胞、骨髄細胞、前骨芽細胞、軟骨細胞、繊維芽細胞、皮膚細胞、筋肉細胞、肝臓細胞、腎臓細胞、腸管細胞、幹細胞、その他再生医療の分野で考慮されるあらゆる細胞を、注射器1により注射することが可能である。より具体的には、上記細胞を含む液(細胞懸濁液)を、収容室50に収容し、それに対して加圧することで、移植される部位に所定の細胞を注射、移植する。
【0059】
さらには、特表2007-525192号公報に記載されているようなDNA等の送達にも、本発明に係る注射器1を使用することができる。この場合、針を用いて送達する場合と比較して、本発明に係る注射器1を使用した方が、細胞や足場組織・スキャフォールド等への影響を抑制できるためより好ましいと言える。
【0060】
さらには、各種遺伝子、癌抑制細胞、脂質エンベロープ等を送達したり、病原体に対する免疫を高めるために抗原遺伝子を投与したりする場合にも、本発明に係る注射器1は好適に使用される。その他、各種疾病治療の分野(特表2008-508881号公報、特表2010-503616号公報等に記載の分野)、免疫医療分野(特表2005-523679号公報等に記載の分野)等にも、当該注射器1は使用することができ、その使用可能な分野は意図的には限定されない。
【符号の説明】
【0061】
1・・・・注射器
2・・・・ハウジング
3・・・・先端側ハウジング
4・・・・基端側ハウジング
5・・・・シリンジ部
6・・・・ピストン
7・・・・プランジャ
8・・・・ノズル部
8a・・・本体
81a・・先端部
8b・・・射出口
9・・・・リム
10・・・・隙間
20・・・・イニシエータ