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特許7441178シクロイソマルトテトラオース、シクロイソマルトテトラオース生成酵素とそれらの製造方法並びに用途
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】シクロイソマルトテトラオース、シクロイソマルトテトラオース生成酵素とそれらの製造方法並びに用途
(51)【国際特許分類】
   C12P 19/18 20060101AFI20240221BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20240221BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240221BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240221BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240221BHJP
   C12N 9/24 20060101ALI20240221BHJP
   C12N 15/56 20060101ALI20240221BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20240221BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240221BHJP
   C07H 3/06 20060101ALI20240221BHJP
   C08B 37/02 20060101ALI20240221BHJP
   C07H 1/00 20060101ALI20240221BHJP
   A23L 33/125 20160101ALI20240221BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20240221BHJP
   A61K 8/60 20060101ALI20240221BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20240221BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20240221BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20240221BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20240221BHJP
   A23K 20/163 20160101ALI20240221BHJP
【FI】
C12P19/18 ZNA
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N9/24
C12N15/56
C12N1/20 A
C12N15/63 Z
C07H3/06 CSP
C08B37/02
C07H1/00
A23L33/125
A23L27/00 F
A61K8/60
A61K8/73
A61Q19/00
A61K47/26
A61K47/36
A23K20/163
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2020559243
(86)(22)【出願日】2019-12-10
(86)【国際出願番号】 JP2019048218
(87)【国際公開番号】W WO2020122050
(87)【国際公開日】2020-06-18
【審査請求日】2022-11-30
(31)【優先権主張番号】P 2018233145
(32)【優先日】2018-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019149422
(32)【優先日】2019-08-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-02815
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-02816
(73)【特許権者】
【識別番号】397077760
【氏名又は名称】株式会社林原
(74)【代理人】
【識別番号】110003074
【氏名又は名称】弁理士法人須磨特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 章弘
(72)【発明者】
【氏名】川島 晶
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 裕紀
(72)【発明者】
【氏名】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】西本 友之
【審査官】中野 あい
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-066191(JP,A)
【文献】European journal of biochemistry,1994年12月01日,vol. 226, no. 2,pp. 641-648
【文献】応用糖質科学,2011年,vol. 1, no. 4,pp. 307-312
【文献】応用糖質科学,2011年,vol. 1, no. 2,pp. 179-185
【文献】ACCESSION: PKY65200 (GI: 1317470807), NCBI Sequence Revision History [online],2017年12月28日,[2020.01.28 retrieved], <URL: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/1317470807?sat=37&satkey=315577762 >, which retrieved from the internet: <URL: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/PKY65200.1?report=girevhist >
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00-41/00
C12N 1/00- 7/08
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq/UniProt
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
4分子のD-グルコースがα-1,6グルコシド結合を介して環状に連結した構造を有するシクロイソマルトテトラオース。
【請求項2】
請求項1記載のシクロイソマルトテトラオースの結晶。
【請求項3】
5含水結晶の形態にある請求項2記載のシクロイソマルトテトラオースの結晶。
【請求項4】
粉末X線回折図において回折角(2θ)9.0°、9.8°、11.8°、13.1°及び19.1°に特徴的な回折ピークを有する請求項3記載の5含水結晶の形態にあるシクロイソマルトテトラオースの結晶。
【請求項5】
請求項1記載のシクロイソマルトテトラオース及び/又は請求項2記載のシクロイソマルトテトラオースの結晶とともに他の糖質を含んでなるシクロイソマルトテトラオース含有糖質。
【請求項6】
形態が、シラップ、粉末、結晶含有粉末又は固状物のいずれかである請求項5記載のシクロイソマルトテトラオース含有糖質。
【請求項7】
シクロイソマルトテトラオースに1分子又は2分子のD-グルコースが結合した構造を有するシクロイソマルトテトラオースのグルコシル誘導体。
【請求項8】
グルコース重合度4以上のα-1,6グルカン、デキストラン、又はデキストランの部分分解物に作用し、請求項1記載のシクロイソマルトテトラオースを生成する作用を有するシクロイソマルトテトラオース生成酵素であって、配列表における配列番号7又は8で示されるアミノ酸配列か、配列表における配列番号7又は8で示されるアミノ酸配列に対し90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するシクロイソマルトテトラオース生成酵素
【請求項9】
下記の理化学的性質を有する請求項8記載のシクロイソマルトテトラオース生成酵素:
(1) 分子量
SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動法において、86,000±10,000ダルトン;
(2)至適温度
pH6.0、30分間反応の条件下で、35乃至40℃;
(3)至適pH
40℃、30分間反応の条件下で、pH5.5乃至6.0;
(4)温度安定性
pH6.0、30分間保持の条件下で、40℃まで安定;
(5)pH安定性
4℃、16時間保持の条件下で、pH5.0乃至10.0で安定。
【請求項10】
配列表における配列番号5又は6で示されるアミノ酸配列をN末端アミノ酸配列として有する請求項8又は9記載のシクロイソマルトテトラオース生成酵素。
【請求項11】
微生物由来の酵素である請求項8乃至10のいずれかに記載のシクロイソマルトテトラオース生成酵素。
【請求項12】
微生物が、アグレイア(Agreia)属に属する微生物であるか、又はミクロバクテリウム(Microbacterium)属に属する微生物である請求項11記載のシクロイソマルトテトラオース生成酵素。
【請求項13】
アグレイア(Agreia)属に属する微生物が、アグレイア・スピーシーズ(Agreia sp.) D1110(独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター、受託番号NITE BP-02815)又はその変異株であって、請求項8乃至12のいずれかに記載のシクロイソマルトテトラオース生成酵素産生能を有する変異株であり、ミクロバクテリウム(Microbacterium)属に属する微生物が、ミクロバクテリウム・トリコセシノリティカム(Microbacter trichothecenolyticum) D2006(独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター、受託番号NITE BP-02816)又はその変異株であって、請求項8乃至12のいずれかに記載のシクロイソマルトテトラオース生成酵素産生能を有する変異株である請求項12記載のシクロイソマルトテトラオース生成酵素。
【請求項14】
アグレイア・スピーシーズ D1110(独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター、受託番号NITE BP-02815)若しくはその変異株であって、請求項8乃至13のいずれかに記載のシクロイソマルトテトラオース生成酵素産生能を有する変異株、又はミクロバクテリウム・トリコセシノリティカム D2006(独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター、受託番号NITE BP-02816)若しくはその変異株であって、請求項8乃至13のいずれかに記載のシクロイソマルトテトラオース生成酵素産生能を有する変異株
【請求項15】
請求項8乃至13のいずれかに記載のシクロイソマルトテトラオース生成酵素をコードするDNA。
【請求項16】
配列表における配列番号9又は10で示される塩基配列か、又は配列表における配列番号9又は10で示される塩基配列に対し90%以上の配列同一性を有する塩基配列、又はそれらに相補的な塩基配列を有する請求項15記載のDNA。
【請求項17】
遺伝子コードの縮重に基づき、コードするアミノ酸配列を変えることなく、配列表における配列番号9又は10で示される塩基配列における塩基の1個又は2個以上を他の塩基で置換した請求項16記載のDNA。
【請求項18】
アグレイア(Agreia)属に属する微生物又はミクロバクテリウム(Microbacterium)属に属する微生物に由来する請求項15乃至17のいずれかに記載のDNA。
【請求項19】
請求項15乃至18のいずれかに記載のDNAと、自律複製可能なベクターを含んでなる複製可能な組換えDNA。
【請求項20】
請求項19記載の組換えDNAを適宜の宿主に導入してなる形質転換体。
【請求項21】
請求項8乃至13のいずれかに記載のシクロイソマルトテトラオース生成酵素の産生能を有する微生物を栄養培地で培養する工程と、得られる培養物から請求項8乃至13のいずれかに記載のシクロイソマルトテトラオース生成酵素を採取する工程とを含んでなるシクロイソマルトテトラオース生成酵素の製造方法。
【請求項22】
請求項20記載の形質転換体を培養する工程と、培養物から組換え型シクロイソマルトテトラオース生成酵素を採取する工程とを含んでなる組換え型シクロイソマルトテトラオース生成酵素の製造方法。
【請求項23】
グルコース重合度4以上のα-1,6グルカン、デキストラン、又はデキストランの部分分解物を含有する溶液に、請求項8乃至13のいずれかに記載のシクロイソマルトテトラオース生成酵素を作用させる工程を含んでなる請求項1又は2記載のシクロイソマルトテトラオース又はその結晶、又は、請求項5又は6記載のシクロイソマルトテトラオース含有糖質の製造方法。
【請求項24】
澱粉又は澱粉部分分解物に作用し、グルコース重合度4以上のα-1,6グルカン、デキストラン又はα-1,6グルカンを部分構造として有する糖質を生成する酵素と、請求項8乃至13のいずれかに記載のシクロイソマルトテトラオース生成酵素とを組合せて澱粉又は澱粉部分分解物を含有する溶液に作用させる工程を含んでなる、澱粉又は澱粉部分分解物からの請求項1又は2記載のシクロイソマルトテトラオース又はその結晶、又は、請求項5又は6記載のシクロイソマルトテトラオース含有糖質の製造方法。
【請求項25】
請求項1又は2記載のシクロイソマルトテトラオース又はその結晶、請求項5又は6記載のシクロイソマルトテトラオース含有糖質、又は、請求項7記載のシクロイソマルトテトラオースのグルコシル誘導体とともに他の成分を含んでなる組成物。
【請求項26】
飲食物、嗜好物、飼料、餌料、化粧品、医薬品又は工業用品である請求項25記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、D-グルコースを構成糖とする新規な環状糖質と、当該環状糖質を生成する新規酵素、それらの製造方法並びに用途に関する。
【背景技術】
【0002】
糖質の分野では、澱粉又は澱粉部分分解物などのD-グルコースを構成糖とするα-1,4グルカンを原料として酵素反応により製造される種々の環状糖質が知られている。非特許文献1には、澱粉にマセランス アミラーゼ(macerans amylase)を作用させることにより得られる、6乃至8分子のD-グルコースがα-1,4グルコシド結合を介して環状構造を形成した糖質であるα-、β-又はγ-シクロデキストリンが開示されている。現在では、澱粉からこれらシクロデキストリンが工業的規模で生産され、非還元性で、無味であり、包接能を有するなどのそれぞれの特性を生かした用途に利用されている。また、特許文献1には、澱粉又はその部分分解物にα-イソマルトシルグルコ糖質生成酵素とα-イソマルトシル転移酵素を作用させることにより得られる、4分子のグルコースがα-1,3グルコシド結合及びα-1,6グルコシド結合で交互に結合した環状構造、すなわち、シクロ{→6)-α-D-グルコピラノシル-(1→3)-α-D-グルコピラノシル-(1→6)-α-D-グルコピラノシル-(1→3)-α-D-グルコピラノシル-(1→}の構造を有する環状四糖が開示されている。さらに、特許文献2には、澱粉又はその部分分解物に環状マルトシルマルトース生成酵素を作用させることにより得られる、4分子のグルコースがα-1,4グルコシド結合及びα-1,6グルコシド結合で交互に結合した環状構造、すなわち、シクロ{→6)-α-D-グルコピラノシル-(1→4)-α-D-グルコピラノシル-(1→6)-α-D-グルコピラノシル-(1→4)-α-D-グルコピラノシル-(1→}の構造を有する環状四糖(別名、環状マルトシルマルトース)が開示されている。また、さらに、特許文献3には、マルトペンタオース分子の還元末端グルコースの1位と非還元末端グルコースの6位水酸基がα-1,6グルコシド結合して環状構造を形成した環状五糖(イソシクロマルトペンタオース)、及び、マルトへキサオース分子の還元末端グルコースの1位と非還元末端グルコースの6位水酸基がα-1,6グルコシド結合して環状構造を形成した環状六糖(イソシクロマルトへキサオース)が開示されている。これら環状糖質は、環状構造を有することから包接能を有し、揮発性有機物を安定化する作用を示すとともに、非還元性の糖質であるため、アミノカルボニル反応を起こさず、褐変、劣化を懸念することなく利用、加工できることから、それぞれの特性を生かして種々の分野に利用され又は利用が期待されている。
【0003】
一方、D-グルコースを構成糖とする別のα-グルカンとして、D-グルコースがα-1,6グルコシド結合を介して鎖状に連なったα-1,6グルカンを基本構造とするデキストランが知られており、デキストランを原料とした酵素反応により得られる環状糖質としてシクロイソマルトオリゴ糖(「環状イソマルトオリゴ糖」、「シクロデキストラン」とも呼ばれている)が報告されている。特許文献4、非特許文献2には、デキストランにバチルス(Bacillus)属微生物由来の酵素を作用させて得られる、7乃至9分子のD-グルコースがα-1,6グルコシド結合を介して環状構造を形成した糖質であるシクロイソマルトヘプタオース(CI-7)、シクロイソマルトオクタオース(CI-8)又はシクロイソマルトノナオース(CI-9)が開示されている。また、特許文献5、非特許文献3には、グルコース重合度がさらに10乃至16と大きいCI-10~CI-16が、特許文献6には、グルコース重合度がまたさらに13乃至33と大きいCI-13~CI-33が開示されている。しかしながら、グルコース重合度が7未満であるシクロイソマルトオリゴ糖は全く知られていない。
【0004】
上記した糖質以外にもD-グルコースを構成糖とする環状糖質が提供されれば、更に多様な用途への利用が期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開WO2001/90338A1号パンフレット
【文献】国際公開WO2005/21564A1号パンフレット
【文献】国際公開WO2006/35725A1号パンフレット
【文献】特開平6-197783号公報
【文献】特開2004-166624号公報
【文献】特開2005-192510号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソサイエティー(Journal of American Chemical Society)、米国、1949年、第71巻、353乃至358頁
【文献】バイオサイエンス・バイオテクノロジー・バイオケミストリー(Biosci.Biotech.Biochem.)第57巻、1225-1227頁(1993年)
【文献】バイオサイエンス・バイオテクノロジー・バイオケミストリー(Biosci.Biotech.Biochem.)第72巻、3277-3280頁(2008年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、D-グルコースを構成糖とする新規な環状糖質と、当該環状糖質を生成する新規酵素、それらの製造方法並びに用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を解決するために、D-グルコースがα-1,6グルコシド結合を介して直鎖状に連結したグルコースポリマーであるα-1,6グルカンを基本構造とするデキストラン又はその部分分解物から新規な環状糖質を生成する全く新しい酵素に期待を込めて、このような酵素を産生する微生物を広く検索してきた。
【0009】
その結果、新たに土壌から分離したアグレイア属に属する微生物D1110株やミクロバクテリウム属に属する微生物D2006株が新規な酵素を産生し、この新規酵素の作用により、α-1,6グルカン、又はα-1,6グルカンを基本構造とするデキストラン又はその部分分解物から、4分子のD-グルコースがα-1,6グルコシド結合(以下、本明細書では、単に「α-1,6結合」という場合がある。)を介して環状に連結した構造を有する新規糖質、シクロイソマルトテトラオースが著量生成することを見出した。
【0010】
また、本発明者等は、当該シクロイソマルトテトラオースを生成する新規酵素の産生能を有する微生物を培養し、培養物からシクロイソマルトテトラオース生成酵素を精製し、その諸性質を明らかにするとともに、その製造方法を確立し、また、当該酵素をコードするDNAとこれを含んでなる組換えDNA及び形質転換体を確立し、さらに、本酵素を用いたシクロイソマルトテトラオース又はシクロイソマルトテトラオース含有糖質の製造方法並びに用途を確立して、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、4分子のD-グルコースがα-1,6グルコシド結合を介して環状に連結した構造を有する新規糖質であるシクロイソマルトテトラオース、当該糖質を生成する新規なシクロイソマルトテトラオース生成酵素、当該酵素をコードするDNAとこれを含んでなる組換えDNA及び形質転換体、それらの製造方法、さらには、シクロイソマルトテトラオース又はシクロイソマルトテトラオース含有糖質を含んでなる、飲食物、嗜好物、飼料、餌料、化粧品、医薬品、工業用品などの組成物を提供することによって上記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、従来未知であった新規環状糖質であるシクロイソマルトテトラオース、又は、シクロイソマルトテトラオース含有糖質が供給できることとなり、飲食物、化粧品、医薬品をはじめとする様々な分野における利用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、デキストラン基質に微生物D1110株由来粗酵素液を作用させて得た酵素反応物のTLCクロマトグラムである。
図2図2は、未知糖質I精製標品のHPLCクロマトグラムである。
図3図3は、未知糖質I精製標品のH-NMRスペクトルである。
図4図4は、未知糖質I精製標品のH-H COSYスペクトルである。
図5図5は、未知糖質I精製標品の13C-NMRスペクトルである。
図6図6は、未知糖質I精製標品のHSQCスペクトルである。
図7図7は、未知糖質I精製標品のHMBCスペクトルである。
図8図8は、本発明のシクロイソマルトテトラオースの構造を示す図である。
図9図9は、シクロイソマルトテトラオース結晶の顕微鏡写真(倍率400倍)である。
図10図10は、シクロイソマルトテトラオース5含水結晶の粉末X線回折図である。
図11図11は、アグレイア・スピーシーズ D1110由来シクロイソマルトテトラオース生成酵素の至適温度を示す図である。
図12図12は、アグレイア・スピーシーズ D1110由来シクロイソマルトテトラオース生成酵素の至適pHを示す図である。
図13図13は、アグレイア・スピーシーズ D1110由来シクロイソマルトテトラオース生成酵素の温度安定性を示す図である。
図14図14は、アグレイア・スピーシーズ D1110由来シクロイソマルトテトラオース生成酵素のpH安定性を示す図である。
図15図15は、ミクロバクテリウム・トリコセシノリティカム D2006由来シクロイソマルトテトラオース生成酵素の至適温度を示す図である。
図16図16は、ミクロバクテリウム・トリコセシノリティカム D2006由来シクロイソマルトテトラオース生成酵素の至適pHを示す図である。
図17図17は、ミクロバクテリウム・トリコセシノリティカム D2006由来シクロイソマルトテトラオース生成酵素の温度安定性を示す図である。
図18図18は、ミクロバクテリウム・トリコセシノリティカム D2006由来シクロイソマルトテトラオース生成酵素のpH安定性を示す図である。
図19図19は、アグレイア・スピーシーズ D1110及びミクロバクテリウム・トリコセシノリティカム D2006のシクロイソマルトテトラオース生成酵素遺伝子、ORF9038及びORF5328がそれぞれコードするアミノ酸配列の相同性を示す図である。
図20図20は、組換えDNA、pRSET A-ORF9038を示す図である。図中、黒い太線で示した部分は、アグレイア・スピーシーズ D1110由来のシクロイソマルトテトラオース生成酵素をコードするDNAである。
図21図21は、組換えDNA、pRSET A-ORF9038を保有する組換え大腸菌E9038を培養して調製した細胞抽出物上清を基質デキストランに作用させて得た反応液のHPLCクロマトグラムである。
図22図22は、シクロイソマルトテトラオースを受容体、α-シクロデキストリンを糖供与体としたシクロマルトデキストリングルカノトランスフェラーゼの糖転移反応により得た反応物をグルコアミラーゼ処理、アルカリ処理して得たシクロイソマルトテトラオースのグルコシル誘導体含有糖質のHPLCクロマトグラムである。
図23図23は、シクロイソマルトテトラオースの2種のグルコシル誘導体の構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、新規な環状糖質であるシクロイソマルトテトラオースに係るものである。本発明に係るシクロイソマルトテトラオースとは、4分子のD-グルコースがα-1,6グルコシド結合を介して環状に連結した構造、すなわち、シクロ{→6)-α-D-グルコピラノシル-(1→6)-α-D-グルコピラノシル-(1→6)-α-D-グルコピラノシル-(1→6)-α-D-グルコピラノシル-(1→}の構造を有する環状グルコ四糖を意味する(図8を参照)。
【0015】
本発明のシクロイソマルトテトラオースは、本発明者らが、土壌より得た微生物の培養液を粗酵素剤として基質デキストランに作用させ、得られた反応液中にその生成を初めて見出した従来未知の新規糖質であり、上記構造を有しているかぎり、その給源、製造方法を問わず本発明に包含される。
【0016】
また、本発明のシクロイソマルトテトラオースは、別の実施態様として、結晶の形態にあるものを含む。本発明のシクロイソマルトテトラオースの結晶は、通常、5含水結晶の形態にある。
【0017】
本発明のシクロイソマルトテトラオースの5含水結晶は、その粉末X線回折図において回折角(2θ)9.0°、9.8°、11.8°、13.1°及び19.1°に特徴的な回折ピークを有している。
【0018】
本発明は、その別の実施態様として、シクロイソマルトテトラオース及び/又はシクロイソマルトテトラオースの結晶とともに他の糖質を含んでなるシクロイソマルトテトラオース含有糖質を含む。シクロイソマルトテトラオース含有糖質の形態はシラップ、粉末、結晶含有粉末又は固状物のいずれであってもよい。
【0019】
本発明は、その別の実施態様として、シクロイソマルトテトラオースに1分子又は2分子のD-グルコースが結合した構造を有するシクロイソマルトテトラオースのグルコシル誘導体を含む。このグルコシル誘導体におけるD-グルコースのシクロイソマルトテトラオースへの結合様式は特に限定されず、α-1,2、α-1,3、又はα-1,4結合のいずれであってもよい。1分子のD-グルコースがシクロイソマルトテトラオースを構成する4つのグルコース残基の内1残基にα-1,3結合を介して結合したグルコシル誘導体は、後述する酵素によるシクロイソマルトテトラオース生成反応の反応液中に微量に存在する。また、後述する実施例に例示するとおり、シクロイソマルトテトラオースを受容体とし、適宜の糖供与体の存在下で適宜の糖転移酵素を作用させる糖転移反応、さらには糖転移生成物の酵素分解を行うことよりシクロイソマルトテトラオースのグルコシル誘導体を生成させ取得することもできる。糖転移酵素としては、例えば、α-グルコシダーゼ、β-グルコシダーゼ、α-アミラーゼ、シクロマルトデキストリングルカノトランスフェラーゼ(CGTase)などを用いることができる。糖転移生成物の酵素分解には、例えば、グルコアミラーゼ、β-アミラーゼなどを用いることができる。さらに、糖供与体と糖転移酵素を選択することにより、D-グルコース以外の糖をシクロイソマルトテトラオースに転移させたシクロイソマルトテトラオースのグリコシル誘導体、例えば、フラクトシル誘導体、ガラクトシル誘導体などを生成させ取得することも有利に実施できる。
【0020】
本発明に係るシクロイソマルトテトラオース生成酵素とは、グルコース重合度4以上のα-1,6グルカン、デキストラン、又はその部分分解物に作用し、シクロイソマルトテトラオースを生成する反応を触媒する酵素全般を意味する。上記の反応を触媒する酵素はその給源、形態、粗酵素又は精製酵素の区別なく、また、グルコース重合度4以上のα-1,6グルカン、デキストラン、又はその部分分解物に作用し、シクロイソマルトテトラオースを生成する反応のメカニズムに関わりなく、本発明のシクロイソマルトテトラオース生成酵素に包含される。本発明のシクロイソマルトテトラオース生成酵素は、その一例において、デキストランに作用させた場合、イソマルトテトラオース単位でα-1,6結合を切断し、このイソマルトテトラオースの還元末端グルコースの1位を同一分子の非還元末端グルコースの6位水酸基にα-1,6転移する分子内転移反応で環化することによりシクロイソマルトテトラオースを生成しているものと推察される。なお、本発明のシクロイソマルトテトラオース生成酵素は、その好適な一例において、一旦生成したシクロイソマルトテトラオースにさらに作用して加水分解することにより環状構造を開環し、イソマルトテトラオースを生成する活性をも有している。
【0021】
本発明のシクロイソマルトテトラオース生成酵素の酵素活性は、次のようにして測定することができる。基質としてのデキストラン又はデキストランの部分分解物を濃度1.11w/v%となるよう20mM酢酸緩衝液(pH6.0)に溶解させ基質溶液とし、その基質溶液0.9mLに20mM酢酸緩衝液(pH6.0)で調製した酵素液0.1mLを加えて40℃で反応を開始し、反応0.5分と反応30.5分の時点で反応液を0.4mLサンプリングしそれぞれ100℃の湯浴で10分間加熱することにより酵素を失活させ反応を停止させた後、それぞれの液中のシクロイソマルトテトラオース量を、後述する実験1に記載のHPLCで定量する。30.5分の時点でのシクロイソマルトテトラオース量から0.5分の時点のそれを減算することにより反応30分間で生成したシクロイソマルトテトラオース量を算出する。シクロイソマルトテトラオース生成酵素の活性1単位(U)は、上記の条件下で1分間に1μモルのシクロイソマルトテトラオースを生成する酵素量と定義する。
【0022】
本発明のシクロイソマルトテトラオース生成酵素の具体例としては、例えば、下記の理化学的性質を有するシクロイソマルトテトラオース生成酵素が挙げられる。
(1)分子量
SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動法において、86,000±10,000ダルトン;
(2)至適温度
pH6.0、30分間反応の条件下で、35乃至40℃;
(3)至適pH
40℃、30分間反応の条件下で、pH5.5乃至6.0;
(4)温度安定性
pH6.0、各温度30分間保持の条件下で、40℃まで安定;
(5)pH安定性
4℃、16時間保持の条件下で、pH5.0乃至10.0で安定;
【0023】
本発明のシクロイソマルトテトラオース生成酵素の別の具体例としては、例えば、下記の理化学的性質を有するシクロイソマルトテトラオース生成酵素が挙げられる。
(1)分子量
SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動法において、86,000±10,000ダルトン;
(2)至適温度
pH6.0、30分間反応の条件下で、40℃;
(3)至適pH
40℃、30分間反応の条件下で、pH5.5付近;
(4)温度安定性
pH6.0、各温度30分間保持の条件下で、35℃まで安定;
(5)pH安定性
4℃、18時間保持の条件下で、pH5.0乃至7.0で安定;
【0024】
また、上記理化学的性質を有する本発明のシクロイソマルトテトラオース生成酵素は、そのN末端配列として、配列表における配列番号5又は6で表されるアミノ酸配列を有している場合がある。
【0025】
しかしながら、上記理化学的性質又はN末端アミノ酸配列を有するシクロイソマルトテトラオース生成酵素はあくまで一例であって、上記と異なる理化学的性質又はN末端アミノ酸配列を有する酵素も、シクロイソマルトテトラオースを生成するかぎり本発明に係るシクロイソマルトテトラオース生成酵素に包含されることは言うまでもない。
【0026】
本発明のシクロイソマルトテトラオース生成酵素は、通常、所定のアミノ酸配列を有しており、その一例としては、例えば、配列表における配列番号7又は8で示されるアミノ酸配列又はそれに相同的なアミノ酸配列が挙げられる。配列表における配列番号7又は8で示されるアミノ酸配列に相同的なアミノ酸配列を有する変異体酵素としては、デキストラン又はその部分分解物に作用しシクロイソマルトテトラオースを生成するという酵素活性を保持する範囲で、配列番号7又は8で示されるアミノ酸配列において1個又は2個以上のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加したアミノ酸配列を有するものが挙げられ、配列番号7又は8で示されるアミノ酸配列に対し、通常、70%以上、望ましくは、80%以上、さらに望ましくは、90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有するものが好適である。
【0027】
本発明のシクロイソマルトテトラオース生成酵素はその給源によって制限されないものの、好ましい給源として、微生物が挙げられ、とりわけ本発明者らが土壌より単離した微生物D1110株若しくはその変異株、又は、同じく土壌より単離した微生物D2006株若しくはその変異株が好適に用いられる。ここでいう変異株としては、例えば、人為的に変異を導入することにより、親株よりも培養性状が改善された変異株、シクロイソマルトテトラオース生成酵素の産生能が親株よりも向上した酵素高生産変異株、より活性の高いシクロマルトテトラオース生成酵素を産生する変異株などが挙げられる。
【0028】
前述したとおり、シクロイソマルトテトラオース生成酵素の産生能を有する微生物D1110株及びD2006株は、本発明者らが土壌から新たに単離した微生物であるが、後述する実験4に記載のとおり、16S rRNA(16S rDNA)の塩基配列に基づいて、公知菌のそれとの相同性を検討し、菌種の同定を行ったところ、微生物D1110株は、アグレイア・スピーシーズ(Agreia sp.)と同定され、また、微生物D2006株はミクロバクテリウム・トリコセシノリティカム(Microbacterium trichothecenolyticum)と同定された。これらの結果に基づき、本発明者等は、微生物D1110株及びD2006株をそれぞれ新規微生物アグレイア・スピーシーズ D1110、及び、ミクロバクテリウム・トリコセシノリティカム D2006と命名し、日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-6所在の独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE) 特許微生物寄託センター(NPMD)に寄託し、平成30年12月28日付でそれぞれ受託番号 NITE BP-02815、及び、NITE BP-02816として受託された。
【0029】
本発明のシクロイソマルトテトラオース生成酵素産生能を有する微生物には、上記菌はもとより、その変異株、更には、本明細書において用いた、基質デキストランに培養液を粗酵素液として作用させ、シクロイソマルトテトラオースの生成を調べるスクリーニング方法により、自然界から単離、選抜される他の属、種に属するシクロイソマルトテトラオース生成酵素産生能を有する微生物、及び、それらの変異株なども包含される。
【0030】
本発明は、前述した本発明に係るシクロイソマルトテトラオース生成酵素のアミノ酸配列をコードする塩基配列全般、及び当該塩基配列に相補的な塩基配列全般を有するDNAに係るものでもある。本発明のDNAは、シクロイソマルトテトラオース生成酵素のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するものである限り、それが天然由来のものであっても、人為的に合成されたものであってもよい。天然の給源としては、例えば、アグレイア・スピーシーズ D1110を含むアグレイア属の微生物、ミクロバクテリウム・トリコセシノリティカム D2006を含むミクロバクテリウム属の微生物などが挙げられ、これらの菌体から本発明のDNAを含むゲノムDNAを得ることができる。すなわち、斯かる微生物を栄養培地に接種し、好気的条件下で約5乃至10日間培養後、培養物から菌体を採取し、リゾチームやβ-グルカナーゼなどの細胞壁溶解酵素や超音波で処理することにより当該DNAを含むゲノムDNAを菌体外に溶出させる。このとき、プロテアーゼなどの蛋白質分解酵素を併用したり、SDSなどの界面活性剤を共存させたり凍結融解してもよい。斯くして得られる処理物に、例えば、フェノール抽出、アルコール沈殿、遠心分離、リボヌクレアーゼ処理などの常法を適用すれば目的のゲノムDNAが得られる。本発明のDNAを人為的に合成するには、例えば、配列表における配列番号9又は10で示される塩基配列に併記されたアミノ酸配列に基づいて化学合成すればよい。また、当該DNAを含むゲノムDNAを鋳型として、適当なプライマーとなる化学合成DNAを用いてPCR合成することも有利に実施できる。
【0031】
本発明に係るDNAの一例としては、配列表における配列番号9又は10で示される塩基配列、又はそれらに相同的な塩基配列、さらには、それらの塩基配列に相補的な塩基配列を有するDNAが挙げられる。配列表における配列番号9又は10で示される塩基配列に相同的な塩基配列を有するDNAとしては、コードするシクロイソマルトテトラオース生成酵素の活性を保持する範囲で、配列番号9又は10で示される塩基配列において1個以上の塩基が欠失、置換若しくは付加した塩基配列を有するものが挙げられ、配列番号9又は10で示される塩基配列に対し、通常、70%以上、望ましくは、80%以上、さらに望ましくは、90%以上、またさらに望ましくは95%以上の相同性(配列同一性)を有する塩基配列を有するものが好適である。また、これらシクロイソマルトテトラオース生成酵素をコードするDNAにおいて、遺伝子コードの縮重に基づき、それぞれがコードするシクロイソマルトテトラオース生成酵素のアミノ酸配列を変えることなく塩基の1個又は2個以上を他の塩基に置換したもの、それらに相補的なものも本発明のDNAに包含される。
【0032】
本発明のDNAを、自律複製可能な適宜ベクターに挿入して組換えDNAとすることも有利に実施できる。組換えDNAは、通常、DNAと自律複製可能なベクターとからなり、DNAが入手できれば、常法の組換えDNA技術により比較的容易に調製することができる。斯かるベクターの例としては、プラスミド、ファージ又はコスミド等を用いることができ、導入される細胞又は導入方法に応じて適宜選択できる。ベクターの具体的な種類は特に限定されるものではなく、宿主細胞中で発現可能なベクターを適宜選択すればよい。宿主細胞の種類に応じて、確実に上記遺伝子を発現させるために適宜プロモーター配列を選択し、これと上記遺伝子を各種プラスミド等に組み込んだものを発現ベクターとして用いればよい。かかる発現ベクターとしては、例えば、ファージベクター、プラスミドベクター、ウィルスベクター、レトロウィルスベクター、染色体ベクター、エピソームベクター及びウィルス由来ベクター(例えば、細菌プラスミド、バクテリオファージ、酵母エピソーム、酵母染色体エレメント及びウィルス(例えば、バキュロウィルス、パポバウィルス、ワクシニアウィルス、アデノウィルス、トリポックスウィルス、仮性狂犬病ウィルス、ヘルペスウィルス、レンチウィルス及びレトロウィルス))並びにそれらの組合せに由来するベクター(例えば、コスミド及びファージミド)を利用可能である。
【0033】
細菌における使用に好ましいベクターとしては、例えば、pRSET A、pQE-70、pQE-60、pBSベクター、Phagescriptベクター、Bluescriptベクター、pNH8A、pNH6a、pNH18A及びpNH46A;並びにptrc99a、pKK223-3、pKK233-3、pDR540及びpRIT5などが挙げられる。また、真核生物における使用に好ましいベクターとしては、pWLNE0、pSV2CAT、pOG44、pXT1及びpSG;並びにpSVK3、pBPV、pMSG及びpSVLなどが挙げられる。
【0034】
本発明のDNAを斯かるベクターに挿入するには、斯界において通常一般の方法が採用される。具体的には、まず、目的とするDNAを含む遺伝子DNAと自律複製可能なベクターとを制限酵素及び/又は超音波により切断し、次に、生成したDNA断片とベクター断片とを連結する。斯くして得られる組換えDNAは、適宜宿主に導入して形質転換体とし、これを培養することにより無限に複製することができる。
【0035】
このようにして得られる組換えDNAは、大腸菌、枯草菌、放線菌、酵母をはじめとする適宜の宿主微生物に導入することができる。形質転換体を取得するには、コロニーハイブリダイゼーション法を適用するか、栄養培地で培養し、シクロイソマルトテトラオース生成酵素を産生するものを選択すればよい。
【0036】
本発明のシクロイソマルトテトラオース生成酵素産生能を有する形質転換体も含めた微生物の培養に用いる培地は、微生物が生育でき、シクロイソマルトテトラオース生成酵素を産生しうる栄養培地であればよく、合成培地および天然培地のいずれでもよい。炭素源としては、微生物が生育に利用できる物であればよく、例えば、デキストランやその部分分解物、植物由来の澱粉やフィトグリコーゲン、動物や微生物由来のグリコーゲンやプルラン、また、これらの部分分解物やグルコース、フラクトース、ラクトース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、糖蜜などの糖質、また、クエン酸、コハク酸などの有機酸も使用することができる。培地におけるこれらの炭素源の濃度は炭素源の種類により適宜選択できる。窒素源としては、例えば、アンモニウム塩、硝酸塩などの無機窒素化合物および、例えば、尿素、コーン・スティープ・リカー、カゼイン、ペプトン、酵母エキス、肉エキスなどの有機窒素含有物を適宜用いることができる。また、無機成分としては、例えば、カルシウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、リン酸塩、マンガン塩、亜鉛塩、鉄塩、銅塩、モリブデン塩、コバルト塩などの塩類を適宜用いることができる。更に、必要に応じて、アミノ酸、ビタミンなども適宜用いることができる。
【0037】
培養は、通常、温度15乃至37℃でpH5.5乃至10の範囲、好ましくは温度20乃至34℃でpH5.5乃至8.5の範囲から選ばれる条件で好気的に行われる。培養時間は当該微生物が増殖し得る時間であればよく、好ましくは10時間乃至150時間である。また、培養条件における培養液の溶存酸素濃度には特に制限はないが、通常は、0.5乃至20ppmが好ましい。そのために、通気量を調節したり、攪拌したりするなどの手段を適宜採用する。また、培養方式は、回分培養または連続培養のいずれでもよい。
【0038】
このようにして微生物を培養した後、本発明の酵素を含む培養物を回収する。シクロイソマルトテトラオース生成酵素活性は、主に培養物の除菌液に認められ、除菌液を粗酵素液として採取することも、培養物全体を粗酵素液として用いることもできる。培養物から菌体を除去するには公知の固液分離法が採用される。例えば、培養物そのものを遠心分離する方法、あるいは、プレコートフィルターなどを用いて濾過分離する方法、平膜、中空糸膜などの膜濾過により分離する方法などが適宜採用される。除菌液をそのまま粗酵素液として用いることができるものの、一般的には、濃縮して用いられる。濃縮法としては、硫安塩析法、アセトン及びアルコール沈殿法、平膜、中空膜などを用いた膜濃縮法などを採用することができる。
【0039】
更に、シクロイソマルトテトラオース生成酵素活性を有する除菌液及びその濃縮液を用いて、シクロイソマルトテトラオース生成酵素を公知の方法により固定化することもできる。例えば、イオン交換体への結合法、樹脂及び膜などとの共有結合法・吸着法、高分子物質を用いた包括法などを適宜採用できる。
【0040】
上記のように本発明のシクロイソマルトテトラオース生成酵素は、粗酵素液をそのまま又は濃縮して用いることができるものの、必要に応じて、公知の方法によって、さらに分離・精製して利用することもできる。例えば、培養液の処理物を硫安塩析して濃縮した粗酵素標品を透析後、『DEAE-トヨパール(Toyopearl) 650S』ゲル(東ソ-株式会社製)を用いた陰イオン交換カラムクロマトグラフィー、続いて、『フェニル-トヨパール(Phenyl-Toyopearl) 650M』ゲル(東ソ-株式会社製)を用いた疎水クロマトグラフィーを用いて精製することにより、本発明のシクロイソマルトテトラオース生成酵素を電気泳動的に単一なレベルにまで精製された精製酵素として得ることができる。
【0041】
シクロイソマルトテトラオース生成酵素が組換え型酵素である場合には、宿主の種類によっては菌体内に酵素が蓄積することがある。このような場合には、菌体又は培養物をそのまま使用することも可能であるものの、通常は使用に先立ち、必要に応じて、浸透圧ショックや界面活性剤により菌体から抽出した後、又は、超音波や細胞壁溶解酵素により菌体を破砕した後、濾過、遠心分離などにより組換え型酵素を菌体又は菌体破砕物から分離して用いることも有利に実施できる。
【0042】
上記の方法で得られる天然型又は組換え型シクロイソマルトテトラオース生成酵素を用いれば、本発明のシクロイソマルトテトラオース、及び、シクロイソマルトテトラオース含有糖質を製造することができる。
【0043】
シクロイソマルトテトラオース、及び、シクロイソマルトテトラオース含有糖質を製造するに際し、シクロイソマルトテトラオース生成酵素を作用させる基質原料としては、デキストランや、デキストランを酸やデキストラナーゼなどの酵素によって部分的に加水分解して得られるデキストランの部分分解物などのα-1,6グルカンを用いることができる。また、後述する実験14に記載のとおり、本発明のシクロイソマルトテトラオース生成酵素はイソマルトテトラオースに作用し、シクロイソマルトテトラオースを生成することから、少なくともグルコース重合度4以上のα-1,6グルカンが基質として使用できることが分かった。さらに、国際公開番号WO2008/136331号パンフレットに開示された分岐α-グルカンは、その分子の部分構造としてD-グルコースがα-1,6結合で連結したα-1,6グルカン構造を有していることから、シクロイソマルトテトラオース生成酵素を作用させる基質原料として用いることができる。
【0044】
本発明のシクロイソマルトテトラオース生成酵素を基質原料に作用させるに際し、その基質濃度は特に限定されないものの、例えば、基質濃度が10質量%以上の比較的高濃度の水溶液を用いた場合には、本発明のシクロイソマルトテトラオース生成酵素による生成反応は進行し難くなるため、基質濃度5質量%以下が好適であり、この条件下で、シクロイソマルトテトラオースを有利に生成できる。反応温度は反応が進行する温度、即ち55℃付近までで行えばよい。好ましくは30乃至45℃付近の温度を用いる。反応pHは、通常、4.0乃至8.0の範囲、好ましくはpH4.5乃至7.5の範囲に調整するのがよい。酵素の使用量と反応時間とは密接に関係しており、目的とする酵素反応の進行により酵素の使用量と反応時間を適宜調整すればよい。
【0045】
上述のとおり、本発明のシクロイソマルトテトラオース生成酵素は、グルコース重合度4以上のα-1,6グルカン、デキストラン、又はα-1,6グルカンを部分構造として有する糖質からシクロイソマルトテトラオースを生成する。したがって、澱粉又は澱粉部分分解物に作用し、グルコース重合度4以上のα-1,6グルカン、デキストラン、又はα-1,6グルカンを部分構造として有する糖質を生成する酵素と本発明のシクロイソマルトテトラオース生成酵素とを組合わせて用いれば、澱粉又は澱粉部分分解物を基質原料としてシクロイソマルトテトラオースを製造することができる。澱粉又は澱粉部分分解物に作用し、グルコース重合度4以上のα-1,6グルカン又はデキストランを生成する酵素としては、例えば、デキストリンデキストラナーゼを用いることができ、また、α-1,6グルカンを部分構造として有する糖質を生成する酵素としては、例えば、国際公開番号WO2008/136331号パンフレットに開示されたα-グルコシル転移酵素を用いることができる。
【0046】
上記した酵素の組合せにより澱粉又は澱粉部分分解物からシクロイソマルトテトラオースを製造するに際しては、まず、澱粉又は澱粉部分分解物に作用し、グルコース重合度4以上のα-1,6グルカン、デキストラン、又はα-1,6グルカンを部分構造として有する糖質を生成する酵素を澱粉又は澱粉部分分解物に作用させてグルコース重合度4以上のα-1,6グルカン、デキストラン、又はα-1,6グルカンを部分構造として有する糖質を一旦生成させた後、この生成物に本発明のシクロイソマルトテトラオース生成酵素を作用させてシクロイソマルトテトラオースを生成させる逐次反応を行ってもよく、また、澱粉又は澱粉部分分解物に、澱粉又は澱粉部分分解物に作用し、グルコース重合度4以上のα-1,6グルカン、デキストラン、又はα-1,6グルカンを部分構造として有する糖質を生成する酵素と本発明のシクロイソマルトテトラオース生成酵素を同時に作用させる同時反応を行うこともできる。
【0047】
上記の反応によって得られた反応液は、そのままシクロイソマルトテトラオース含有糖液として用いることができる。また、必要に応じて、シクロイソマルトテトラオース含有糖液に、デキストラナーゼ、α-グルコシダーゼ、グルコアミラーゼなどを作用させて、夾雑するイソマルトオリゴ糖を加水分解したシクロイソマルトテトラオース含有糖液として用いることもできる。また、水素添加して反応液中に残存する還元性糖質を糖アルコールに変換して還元力を消滅させるなどの更なる加工処理を施すことも随意である。一般的には、シクロイソマルトテトラオース含有糖液はさらに精製して用いられる。精製方法としては、糖の精製に用いられる通常の方法を適宜採用すればよく、例えば、活性炭による脱色、H型、OH型イオン交換樹脂による脱塩、イオン交換カラムクロマトグラフィー、活性炭カラムクロマトグラフィー、シリカゲルカラムクロマトグラフィーなどのカラムクロマトグラフィーによる分画、アルコールおよびアセトンなど有機溶媒による分別、適度な分離性能を有する膜による分離、更には、シクロイソマルトテトラオースを利用せず夾雑糖質を資化、分解する微生物、例えば酵母などによる発酵処理や、アルカリ処理などにより残存している還元性糖質を分解除去するなどの1種または2種以上の精製方法が適宜採用できる。
【0048】
とりわけ、大量生産方法としては、イオン交換カラムクロマトグラフィーの採用が好適であり、例えば、特開昭58-23799号公報、特開昭58-72598号公報などに開示されている強酸性カチオン交換樹脂を用いるカラムクロマトグラフィーにより夾雑糖類を除去し、目的物の含量を向上させたシクロイソマルトテトラオース又はシクロイソマルトテトラオース含有糖質を有利に製造することができる。この際、固定床方式、移動床方式、擬似移動床方式のいずれの方式を採用することも随意である。
【0049】
このようにして得られたシクロイソマルトテトラオースを含む水溶液、又はその含量を向上させた糖質水溶液は、通常、シクロイソマルトテトラオースを、固形物当たり、10質量%以上、望ましくは40質量%以上含有する糖質水溶液で、通常、これを濃縮し、シラップ状製品とする。このシラップ状製品は、更に、乾燥して非晶質固状物製品又は非晶質粉末製品にすることも随意である。
【0050】
さらに、前記シクロイソマルトテトラオースを含有する糖質水溶液を常法により精製することにより、シクロイソマルトテトラオース高含有糖質や高純度のシクロイソマルトテトラオース標品とすることができ、また、シクロイソマルトテトラオース高含有糖質や高純度のシクロイソマルトテトラオース標品を原料として結晶化を行うことによりシクロイソマルトテトラオースの結晶、及び、結晶含有粉末を調製することができる。
【0051】
なお、本発明のシクロイソマルトテトラオースは小腸粘膜α-グルコシダーゼによって僅かに分解されるのみであることから、経口摂取してもほとんど消化吸収されない難消化性の糖質であって、無毒、無害な糖質と考えられる。
【0052】
本発明のシクロイソマルトテトラオース又はシクロイソマルトテトラオース含有糖質は、甘味料、呈味改良剤、品質改良剤、安定剤、変色防止剤、賦形剤、粉末化基材などとして、他の成分と組合せ、飲食物、嗜好物、飼料、餌料、化粧品、医薬品、工業用品などの各種組成物に有利に利用できる。
【0053】
本発明のシクロイソマルトテトラオース又はシクロイソマルトテトラオース含有糖質は、そのまま甘味付のための調味料として使用できる。必要ならば、例えば、粉飴、ブドウ糖、異性化糖、砂糖、麦芽糖、トレハロース、蜂蜜、メープルシュガー、ソルビトール、マルチトール、ジヒドロカルコン、ステビオシド、α-グリコシルステビオシド、ラカンカ甘味物、グリチルリチン、ソーマチン、スクラロース、L-アスパラチルフェニルアラニンメチルエステル、サッカリン、グリシン、アラニンなどのような他の甘味料と、また、デキストリン、澱粉、乳糖などのような増量剤と混合して使用することもできる。
【0054】
また、本発明のシクロイソマルトテトラオース又はシクロイソマルトテトラオース含有糖質の粉末状製品は、そのままで、または必要に応じて、増量剤、賦形剤、結合剤などと混合して、顆粒、球状、短棒状、板状、立方体、錠剤など各種形状に成形して使用することも随意である。
【0055】
また、本発明のシクロイソマルトテトラオース又はシクロイソマルトテトラオース含有糖質の甘味は、酸味、塩から味、渋味、旨味、苦味などの他の呈味を有する各種の物質とよく調和し、加えて、本発明のシクロイソマルトテトラオースは、後述する実験に示すとおり、耐酸性、耐熱性も大きいので、一般の飲食物の甘味付、呈味改良に、また品質改良などに有利に利用できる。
【0056】
例えば、醤油、粉末醤油、味噌、粉末味噌、もろみ、ひしお、フリカケ、マヨネーズ、ドレッシング、食酢、三杯酢、粉末すし酢、中華の素、天つゆ、麺つゆ、ソース、ケチャップ、焼き肉のタレ、カレールウ、シチューの素、スープの素、ダシの素、複合調味料、みりん、新みりん、テーブルシュガー、コーヒーシュガーなどの各種調味料への甘味料、更には、呈味改良剤、品質改良剤などとして使用することも有利に実施できる。また、例えば、せんべい、あられ、おこし、求肥、餅類、まんじゅう、ういろう、あん類、羊羹、水羊羹、錦玉、ゼリー、カステラ、飴玉などの各種和菓子、パン、ビスケット、クラッカー、クッキー、パイ、プリン、バタークリーム、カスタードクリーム、シュークリーム、ワッフル、スポンジケーキ、ドーナツ、チョコレート、チューインガム、キャラメル、ヌガー、キャンディーなどの各種洋菓子、アイスクリーム、シャーベットなどの氷菓、果実のシロップ漬、氷蜜などのシロップ類、フラワーペースト、ピーナッツペースト、フルーツペーストなどのペースト類、ジャム、マーマレード、シロップ漬、糖果などの果実、野菜の加工食品類、福神漬け、べったら漬、千枚漬、らっきょう漬などの漬物類、たくあん漬の素、白菜漬の素などの漬物の素、ハム、ソーセージなどの畜肉製品類、魚肉ハム、魚肉ソーセージ、カマボコ、チクワ、天ぷらなどの魚肉製品、ウニ、イカの塩辛、酢コンブ、さきするめ、ふぐのみりん干し、タラ、タイ、エビなどの田麩などの各種珍味類、海苔、山菜、するめ、小魚、貝などで製造される佃煮類、煮豆、ポテトサラダ、コンブ巻などの惣菜食品、乳製品、魚肉、畜肉、果実、野菜の瓶詰、缶詰類、合成酒、増醸酒、清酒、果実酒、発泡酒、ビールなどの酒類、珈琲、ココア、ジュース、炭酸飲料、乳酸飲料、乳酸菌飲料などの清涼飲料水、プリンミックス、ホットケーキミックス、即席ジュース、即席コーヒー、即席しるこ、即席スープなどの即席食品、更には、離乳食、治療食、ドリンク剤、ペプチド食品、冷凍食品などの各種飲食物への甘味付に、呈味改良に、品質改良などに有利に実施できる。
【0057】
また、家畜、家禽、蜜蜂、蚕、魚などの飼育動物のための飼料、餌料などに嗜好性を向上させる目的で使用することもできる。その他、タバコ、練歯磨、口紅、リップクリーム、内服液、錠剤、トローチ、肝油ドロップ、口中清涼剤、口中香剤、うがい剤などの、固形状、ペースト状、液状など任意の形態にある嗜好物、化粧品、医薬品、医薬部外品などの各種組成物への甘味剤として、または呈味改良剤、矯味剤として、さらに品質改良剤、安定剤などとして有利に利用できる。
【0058】
品質改良剤、安定剤としては、有効成分、活性など失い易い各種生理活性物質またはこれを含む健康食品、機能性食品、医薬品などに有利に適用できる。例えば、インターフェロン-α、-β、-γ、ツモア・ネクロシス・ファクター-α、-β、マクロファージ遊走阻止因子、コロニー刺激因子、トランスファーファクター、インターロイキンIIなどのリンホカイン含有液、インシュリン、成長ホルモン、プロラクチン、エリトロポエチン、卵細胞刺激ホルモンなどのホルモン含有液、BCGワクチン、日本脳炎ワクチン、はしかワクチン、ポリオ生ワクチン、痘苗、破傷風トキソイド、ハブ抗毒素、ヒト免疫グロブリンなどの生物製剤含有液、ペニシリン、エリスロマイシン、クロラムフェニコール、テトラサイクリン、ストレプトマイシン、硫酸カナマイシンなどの抗生物質含有液、チアミン、リボフラビン、L-アスコルビン酸、肝油、カロチノイド、エルゴステロール、トコフェロールなどのビタミン含有液、EPA、DHA、アラキドン酸、などの高度不飽和脂肪酸又はそのエステル誘導体、リパーゼ、エステラーゼ、ウロキナーゼ、プロテアーゼ、β-アミラーゼ、イソアミラーゼ、グルカナーゼ、ラクターゼなどの酵素含有液、薬用人参エキス、スッポンエキス、クロレラエキス、アロエエキス、プロポリスエキスなどのエキス類、ウィルス、乳酸菌、酵母などの生菌ペースト、ローヤルゼリーなどの各種生理活性物質を含む健康食品、機能性食品、医薬品などに対しても、本発明のシクロイソマルトテトラオース又はシクロイソマルトテトラオース含有糖質を品質改良剤又は安定剤として用いることにより、その有効成分、活性を失うことなく、安定で高品質の液状、ペースト状または固状の健康食品、機能性食品や医薬品などを容易に製造できることとなる。
【0059】
以上述べたような各種組成物に、シクロイソマルトテトラオース又はシクロイソマルトテトラオース含有糖質を含有させる方法としては、その製品が完成するまでの工程に含有せしめればよく、例えば、混和、混捏、溶解、融解、浸漬、浸透、散布、塗布、被覆、噴霧、注入、晶析、固化など公知の方法が適宜選ばれる。その量は、通常0.1質量%以上、望ましくは1質量%以上含有せしめるのが好適である。
【0060】
以下、実験により本発明を詳細に説明する。
【0061】
<実験1:デキストランからの生成物>
<実験1-1:粗酵素液の調製>
市販のデキストラン(商品名『デキストラン T70』、ファーマコスモス社製)15g/L、酵母エキス(商品名『粉末酵母エキスSH』、日本製薬株式会社製造)1.0g/L、ポリペプトン(商品名『ハイポリペプトン』、日本製薬株式会社製造)5.0g/L、リン酸二カリウム1.0g/L、リン酸一ナトリウム・2水和物0.6g/L、硫酸マグネシウム・7水和物0.5g/L、硫酸第一鉄・7水和物0.01g/L、硫酸マンガン・5水和物0.01g/L、炭酸カルシウム3.0g/L、及び水からなる液体培地(pH6.8)を、500mL容三角フラスコ20本に100mLずつ入れ、オートクレーブで121℃、20分間滅菌し、冷却した。次いで、土壌より単離した微生物D1110株を接種し、27℃、240rpmで4日間回転振トウ培養した。培養後、培養液を遠心分離(12,000rpm、10分間)して菌体を除き、培養上清を得た。得られた培養上清約0.9Lに硫酸アンモニウムを80%飽和になるよう添加、溶解して塩析し、塩析物を20mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5)に溶解し、4℃で24時間透析し、次いで、4℃、12,000rpmで10分間遠心分離して得た上清を粗酵素液として回収した。
【0062】
<実験1-2:粗酵素液のデキストランへの作用>
デキストラン(商品名『デキストラン T70』、ファーマコスモス社製)を1%(w/v)、防腐剤としてのヒノキチオールを0.006%(w/v)含有する50mM酢酸緩衝液(pH6.0)1Lに実験1-1で得た粗酵素液を添加し、40℃で20時間反応させた。反応液を100℃で10分間熱処理することにより酵素を失活させ、エバポレーターを用いて濃縮し、脱イオン水100mLに溶解した。これにエタノール200mLを添加することにより反応液中に残存する高分子(デキストラン、蛋白質など)を沈殿させ、4℃で12,000rpm、20分間遠心分離し、上清を回収した。得られた上清は分画分子量10,000の膜ろ過を行い残存する高分子をさらに除去し、酵素反応物とした。
【0063】
得られた酵素反応物中の糖質を調べるため、イソマルトオリゴ糖マーカー(株式会社林原調製品)、イソマルトトリオース標準品(株式会社林原調製品)、イソマルトテトラオース標準品(株式会社林原調製品)とともに、展開溶媒として2-プロパノール:1-ブタノール:水混液(容量比12:3:4)を、また、薄層プレートとしてメルク社製『キーゼルゲル 60』(アルミプレート、10×20cm)を用い、2回展開する薄層クロマトグラフィー(以下、「TLC」と略す)に供し、糖質を分離した。得られたTLCプレート上に分離された糖質を硫酸-メタノール法にて発色させ検出した。結果を図1に示した。図1に見られるとおり、同時に展開したイソマルトオリゴ糖マーカー(レーン1)、イソマルトトリオース標準品(レーン2)、及びイソマルトテトラオース標準品(レーン3)との対比において、酵素反応物を分離したレーン4では、グルコース重合度3のイソマルトトリオース(図1中の符号「IG3」)よりも移動度が小さく、グルコース重合度4のイソマルトテトラオース(図1中の符号「IG4」)よりも移動度が大きい未知糖質のスポット(図1中の符号「I」)が検出された。この未知糖質を「未知糖質I」と名付けた。
【0064】
<実験1-3:未知糖質Iの調製>
酵素反応物を少量用いた予備試験において、未知糖質Iがα-グルコシダーゼ、グルコアミラーゼにより分解されず、アルカリ処理で分解されないことが確認されたので、引き続き、未知糖質Iに夾雑するデキストラン分解物をD-グルコースまで加水分解する実験を行った。すなわち、実験1-2で得た未知糖質Iを含有する酵素反応物を塩酸でpH5.0に調整した後、α-グルコシダーゼ(商品名『トランスグルコシダーゼL「アマノ」』、天野エンザイム株式会社製造)を固形物1グラム当り100単位及びグルコアミラーゼ(ナガセケムテックス株式会社販売)を固形物1グラム当り1,000単位添加して50℃、4日間反応させた。反応後、約100℃で10分間、熱処理して反応を停止させた。得られた反応液中の糖質を分析用の高速液体クロマトグラフィー(以下、分析HPLCと略称する。)で分析したところ、溶出時間58.7分のD-グルコース、溶出時間49.4分の未知糖質Iが検出された。反応液の糖組成は、D-グルコースが30.0質量%、未知糖質Iが65.5質量%、その他イソマルトオリゴ糖を含むデキストラン部分分解物が4.5質量%であった。なお、分析HPLCは、カラムに『MCIgel CK04SS』(三菱ケミカル株式会社製造)の2本を直列につなぎ、溶離液に水を用いて、カラム温度80℃、流速0.4mL/分の条件で行い、検出は示差屈折計RID-10A(株式会社島津製作所製造)を用いて行った。
【0065】
続いて、α-グルコシダーゼ及びグルコアミラーゼ処理によって得られた上記反応液に水酸化ナトリウムを添加してpHを12に調整し、98℃で1時間保持することにより還元糖(D-グルコースと少量のデキストラン部分分解物)を分解した。不溶物を濾過して除去した後、三菱ケミカル株式会社製カチオン交換樹脂『ダイヤイオンSK-1B』を添加して中和することによりpH8付近とした後、活性炭処理により脱色した。得られた糖液をさらに『ダイヤイオンSK-1B』と三菱ケミカル株式会社製アニオン交換樹脂『ダイヤイオンWA30』及びオルガノ製アニオン交換樹脂『IRA411』を用いて脱塩し、精密濾過した後、エバポレーターで濃縮し、真空乾燥して固形物として約60mgの未知糖質Iの精製標品を得た。得られた未知糖質I標品の糖組成を分析HPLCで調べたところ、図2のHPLCクロマトグラムに示すように、未知糖質Iの純度は99.1質量%であり、極めて高純度の標品であることが判明した。
【0066】
<実験2:未知糖質Iの構造解析>
実験1で得た未知糖質Iの精製標品について、LC/MS分析、各種NMR分析を行い、未知糖質Iの構造解析を行った。
【0067】
<実験2-1:LC/MS分析>
実験1で得た未知糖質Iの精製標品について、LC/MS分析装置(商品名「Prominence」)(株式会社島津製作所製)を用いて、液体クロマトグラフィーに関しては、前記実験1-3で行ったHPLCと同じ条件で分析したところ、未知糖質Iのピークが保持時間49.5分に溶出するとともに、質量数(m/z)671のナトリウム付加分子イオンが顕著に検出され、未知糖質Iの分子量は648であることが判明した。この分子量は、未知糖質Iが、4分子のD-グルコースが環状に連結した構造を有する環状グルコ四糖であることを示唆するものであった。
【0068】
<実験2-2:H-NMR及びH-H COSY解析>
未知糖質Iの化学構造を決定する目的で、実験1で得た未知糖質Iの精製標品を重水(DO)に溶解し、NMR装置(『Avance II spectrometer』、Bruker社製)を用いた核磁気共鳴(NMR)分析に供し、H-NMR及びH-H COSY解析を行った。未知糖質IのH-NMRスペクトルを図3に、H-H COSYスペクトルを図4にそれぞれ示した。
【0069】
図3に見られるとおり、未知糖質IのH-NMRスペクトルには7つの主要なピークが認められた(なお、NMR分析の溶媒として重水を用いているため、本スペクトルではOH基のプロトンは検出されない)。ピークの積分比から、未知糖質Iの分子内には環境の異なる7つのプロトンが存在することが分かった。5.13ppmに認められたダブレットのピークをD-グルコースのアノメリックカーボンに結合する1位のプロトンと帰属した。図4に示したH-H COSYスペクトルに基づき、1位プロトンから順次相関が認められたピークを帰属した。認められた7つのプロトンピークを帰属した結果を表1に示した。
【0070】
【表1】
【0071】
表1に示す各プロトンピークのカップリング定数及びケミカルシフトの値から、未知糖質Iはグルコピラノシル構造を有することが判明し、アノメリックカーボンに結合する1位のプロトンのピークが5.13ppmに認められたことから未知糖質IにおけるD-グルコースの結合様式はα-アノマーであることが分かった。
【0072】
<実験2-3:13C-NMR、HSQC、及び、HMBC解析>
実験2-2で用いたNMR装置を用い、引き続き13C-NMR、HSQC(Heteronuclear Single-Quantum Correlation Spectroscopy、異種核一量子相関分光法)、及び、HMBC(Heteronuclear Multiple Bond Correlation Spectroscopy、異種核多量子相関分光法)解析を行った。未知糖質Iの13C-NMRスペクトル、HSQCスペクトル、及び、HMBCスペクトルをそれぞれ図5図6、及び、図7に示した。
【0073】
図5に見られるとおり、未知糖質Iの13C-NMRスペクトルにはカーボンのピークが6種だけ認められた。実験2-1のLC/MS分析において分子量から未知糖質Iは4分子のD-グルコースが環状に連結した構造を有する環状グルコ四糖であることが示唆されており、カーボンのピークが6種しか認められなかったことから、未知糖質Iは単一の結合様式で結合した環状グルコ四糖であることが示唆された。13C-NMRスペクトルにおける95.522ppmに認められるカーボンをアノメリックカーボンと帰属した。
【0074】
表1に示したH-NMRスペクトルのピークの帰属結果に基づき、図6に示すHSQCスペクトルにおいて各プロトンと相関を示したカーボンを帰属した結果を表2に示した。
【0075】
【表2】
【0076】
さらに、図7に示したHMBCスペクトルにおいて、1位のプロトンと相関を示すカーボンを観察したところ、1位プロトンと2,3,5,6位のカーボンに相関が認められ、4位カーボンには相関が認められなかった。2,3,5位のカーボンに加えて6位のカーボンとの間にも相関を示したことから、未知糖質Iにおいて、1位のカーボンと6位のカーボンとの間にグルコシド結合が存在すること、すなわち、未知糖質IにおいてD-グルコースは1,6グルコシド結合を介して結合していることが判明した。
【0077】
以上の結果から、未知糖質Iは、図8に示すとおり、4分子のD-グルコースがα-1,6グルコシド結合を介して環状に連結した構造を有する環状グルコ四糖、すなわち、シクロイソマルトテトラオースであることが判明した。このような構造を有する糖質は従来全く知られておらず、シクロイソマルトテトラオースは新規な環状糖質である。
【0078】
<実験3:シクロイソマルトテトラオースの結晶>
実験1の方法をスケールアップして再調製したシクロイソマルトテトラオース精製標品(25.9g、純度96.1質量%)を用い、当該糖質の結晶の取得を試みた。
【0079】
<実験3-1:結晶の調製>
上記シクロイソマルトテトラオース精製標品を脱イオン水に懸濁した後、加熱溶解し、糖濃度(Brix値)53.2%に調整したシクロイソマルトテトラオース水溶液を静置して室温まで冷却したところ、結晶が析出した。結晶の顕微鏡写真を図9に示した。析出した結晶を濾過にて回収し、25℃で減圧乾燥することによりシクロイソマルトテトラオースの結晶標品8.6gを得た。本結晶のシクロイソマルトテトラオース純度を前記した分析HPLCで測定したところ、99.5質量%と高純度であった。
【0080】
<実験3-2:結晶シクロイソマルトテトラオースの分析>
実験3-1で得たシクロイソマルトテトラオースの結晶標品について、常法により、水分含量を測定するとともに熱分析、粉末X線回折を行った。
【0081】
<水分含量>
実験3-1で得たシクロイソマルトテトラオースの結晶標品について、水分含量をカールフィッシャー水分測定装置(商品名「AVQ-2200A」、平沼産業株式会社製)にて測定したところ13.9質量%の値が得られた。結晶シクロイソマルトテトラオースが5含水結晶又は6含水結晶であると仮定した場合の水分含量の理論値は12.2質量%又は14.3質量%であることから、本結晶シクロイソマルトテトラオースは5含水結晶又は6含水結晶のいずれかと考えられた。
【0082】
<熱分析(DSC、TG/DTA)>
実験3-1で得たシクロイソマルトテトラオース結晶標品約5mgをアルミニウム容器に精秤し、窒素雰囲気下において、5℃/分の昇温速度で30℃から300℃まで昇温し、示差熱量重量同時測定装置(商品名「TG/DTA 6200」、株式会社日立ハイテクサイエンス製)により熱分析を行ったところ116.5℃までに12.12質量%の重量減少が認められた。この重量減少は結晶水の脱離によるものと考えられ、水分含量についての前記の知見と合わせ、本結晶シクロイソマルトテトラオースは5含水結晶と考えられた。
【0083】
<粉末X線回折図>
シクロイソマルトテトラオース5含水結晶の粉末X線回折分析は、シリコン製無反射板に試料をのせ、粉末X線回折装置「X‘ Pert Pro MPD」(CuKα線使用)(スペクトリス株式会社製)を用いて行った。シクロイソマルトテトラオース5含水結晶の粉末X線回折図を図10に示した。回折角(2θ)9.0°、9.8°、11.8°、13.1°及び19.1°(図10における符号「↓」)に特徴的な回折ピークが認められた。
【0084】
<実験4:シクロイソマルトテトラオース生成酵素生産菌の同定>
土壌スクリーニングにおいて、シクロイソマルトテトラオース生成酵素生産菌として、新規微生物D1110株と、菌のコロニー形態がD1110株とは異なる新規微生物D2006株の2株を単離した。各微生物の顕微鏡観察を行ったところ、微生物D1110株とD2006株はいずれも桿菌であることが分かった。本実験では、16S rRNA(16S rDNA)の塩基配列を決定し、この塩基配列に基づき微生物D1110株及びD2006株の菌種同定を行った。
【0085】
<実験4-1:微生物D1110株及びD2006株からの16S rDNAの調製>
市販のデキストラン(商品名『デキストラン T70』、ファーマコスモス社製)1.5g/L、リン酸二カリウム1.0g/L、硫酸マグネシウム・7水和物1.0g/L、塩化ナトリウム1.0g/L、硫酸アンモニウム2.0g/L、硫酸第一鉄・7水和物0.01g/L、硫酸マンガン・7水和物0.01g/L、硫酸亜鉛・7水和物0.001g/L、ジェランガム20.0g/L及び水からなる培地(pH6.8)を、オートクレーブで121℃、20分間滅菌した後、シャーレに分注し冷却してジェランガム平板培地を調製した。次いで、土壌より単離した微生物D1110株及びD2006株をそれぞれこの平板培地に接種し、それぞれ27℃で3日間静置培養し、単コロニー化した。
【0086】
上記で単コロニー化した微生物D1110株及びD2006株をそれぞれ釣菌し、市販のDNA簡易抽出試薬(商品名『MightyPrep reagent for DNA』、タカラバイオ株式会社販売)50μLに懸濁し、95℃で10分間処理した後、15,000rpm、2分間遠心分離することによりゲノムDNAを含む上清を回収した。回収した微生物D1110株のゲノムDNA及び微生物D2006株のゲノムDNAそれぞれに対して、配列表における配列番号1で示される塩基配列を有するセンスプライマー「8F」、及び、配列表における配列番号2で示される塩基配列を有するアンチセンスプライマー「1512R」を用いたPCRを行い、PCR増幅産物についてアガロース電気泳動を行ったところ、それぞれから約1.5kbpのPCR増幅産物が認められたため、エタノール沈殿によりそれぞれを回収し16S rDNAとした。
【0087】
<実験4-2:16S rDNA塩基配列の決定>
実験4-1で得た微生物D1110株及びD2006株の16S rDNAの塩基配列をそれぞれ常法により決定したところ、それぞれ配列表における配列番号3で示される塩基配列(1,447bp)及び配列表における配列番号4で示される塩基配列(1,485bp)を有していることが判明した。
【0088】
<実験4-3:相同性検索による微生物D1110株及びD2006株の同定>
実験4-2で決定した16S rDNAの塩基配列に基づき、データベースRDP(The Ribosomal Database Project)及びEzTaxonに対して、遺伝子解析ソフトウェア(GENETYX Ver.13)を用いて相同性検索を行った。
【0089】
実験4-2で得た微生物D1110株の16S rDNAについて行った相同性検索の結果として、検索された相同性の高い上位20エントリーの内、エントリー上位5位までの微生物の属・種・株とそれらの16S rDNA塩基配列との相同性を表3に示した。また、微生物D2006株の16S rDNAについて同様に行ったものの結果を表4に示した。
【0090】
【表3】
【0091】
【表4】
【0092】
表3に見られるとおり、D1110株の16S rDNAの塩基配列はアグレイア・プラテンシス(Agreia pratensis) VKM Ac-2510(T)株との間で最も高い相同性98.34%を示した。一般的に、16S rDNA塩基配列での細菌の分類は99%以上の相同性があれば同種である可能性が高いと言われている。検索した中に99%以上の相同性を示すものはなく、菌種の同定にまでは至らなかったものの、D1110株はアグレイア属に属することが示された。この結果に基づき、D1110株をアグレイア・スピーシーズ(Agreia sp.)と同定し、アグレイア・スピーシーズ D1110と命名した。
【0093】
また、表4に見られるとおり、D2006株の16S rDNAの塩基配列はミクロバクテリウム・トリコセシノリティカム(Microbacterium trichothecenolyticum) DSM8608株との間で最も高い相同性99.17%を示した。この結果に基づき、D2006株の属・種をミクロバクテリウム・トリコセシノリティカムと同定し、ミクロバクテリウム・トリコセシノリティカム D2006と命名した。
【0094】
アグレイア・スピーシーズ D1110及びミクロバクテリウム・トリコセシノリティカム D2006はいずれも、日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-6所在の独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE) 特許微生物寄託センター(NPMD)に寄託し、平成30年12月28日付でそれぞれ受託番号 NITE BP-02815、及び、NITE BP-02816として受託された。
【0095】
<実験5:アグレイア・スピーシーズ D1110(NITE BP-02815)由来シクロイソマルトテトラオース生成酵素の調製>
実験1-1で用いたと同じ液体培地を試験管に3mLずつ入れ、オートクレーブで121℃、20分間滅菌し、冷却して、アグレイア・スピーシーズ D1110(NITE BP-02815)を接種し、27℃、240rpmで96時間振トウ培養したものを種培養とした。
【0096】
種培養と同じ組成の液体培地を100mL入れた容量500mLの三角フラスコ20本をオートクレーブで121℃、20分間滅菌し、冷却して温度27℃とした後、種培養液1mLずつ接種し、温度27℃で66時間回転振トウ培養した。培養後、遠心分離(12,000rpm、15分間)して菌体を除き、培養上清約1.8Lを得た。培養上清についてシクロイソマルトテトラオース生成酵素活性を測定したところ、培養上清中には該酵素活性を0.112U/mL含むことが分かった。
【0097】
<実験6:アグレイア・スピーシーズ D1110(NITE BP-02815)由来シクロイソマルトテトラオース生成酵素の精製>
実験5で得た培養上清約1.8L(総活性202U)に、80%飽和となるように硫安を添加し、4℃、24時間放置することにより塩析した。生成した塩析沈殿物を遠心分離(12,000rpm、30分間)にて回収し、これを20mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5)に溶解後、同緩衝液に対して透析し、透析酵素液として153mLを得た。透析酵素液中のシクロイソマルトテトラオース生成酵素活性は33.2Uであった。この酵素液を東ソー株式会社製『DEAE-トヨパール(Toyopearl) 650S』ゲルを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー(ゲル容量24.1mL)に供した。シクロイソマルトテトラオース生成酵素活性は、20mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5)で平衡化した『DEAE-トヨパール 650S』ゲルに吸着し、食塩濃度0Mから0.5Mまでのリニアグラジエントで溶出させたところ、食塩濃度約0.25M付近に溶出した。この活性画分を回収し、終濃度1Mとなるように硫安を添加した後、遠心分離して不溶物を除き、東ソー株式会社製『フェニル-トヨパール(Phenyl-Toyopearl) 650M』ゲルを用いた疎水クロマトグラフィー(ゲル容量11mL)に供した。シクロイソマルトテトラオース生成酵素活性は、1M硫安を含む20mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5)で平衡化した『フェニル-トヨパール 650M』ゲルに吸着し、硫安濃度1Mから0Mまでのリニアグラジエントで溶出させたところ、硫安濃度約0.3M付近に溶出した。この精製の各ステップにおけるシクロイソマルトテトラオース生成酵素の全活性、全蛋白、比活性及び収率を表5に示す。
【0098】
【表5】
【0099】
『フェニル-トヨパール 650M』ゲルを用いた疎水クロマトグラフィーで精製したシクロイソマルトテトラオース生成酵素標品をSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)(8乃至16w/v%濃度勾配)に供し、純度を検定したところ単一な蛋白バンドを示し、純度の高い標品であることが判明した。
【0100】
<実験7:アグレイア・スピーシーズ D1110(NITE BP-02815)由来シクロイソマルトテトラオース生成酵素の性質>
【0101】
<実験7-1:分子量>
実験6の方法で得たシクロイソマルトテトラオース生成酵素精製標品をSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(6乃至16w/v%濃度勾配)に供し、同時に泳動した分子量マーカー(商品名『プレシジョンPlusプロテイン未着色スタンダード』、日本バイオ・ラッド・ラボラトリーズ株式会社販売)と比較して分子量を測定したところ、シクロイソマルトテトラオース生成酵素の分子量は、86,000±10,000ダルトンであることが判明した。
【0102】
<実験7-2:酵素反応の至適温度及び至適pH>
実験6の方法で得たシクロイソマルトテトラオース生成酵素精製標品を用いて、酵素活性に及ぼす温度、pHの影響を活性測定の方法に準じて調べた。これらの結果を図11(至適温度)、図12(至適pH)に示した。シクロイソマルトテトラオース生成酵素の至適温度は、pH6.0、30分間反応の条件下で、35乃至40℃であり、至適pHは、40℃、30分間反応の条件下でpH5.5乃至6.0であることが判明した。
【0103】
<実験7-3:酵素の温度安定性及びpH安定性>
実験6の方法で得た精製シクロイソマルトテトラオース生成酵素標品を用いて、本酵素の温度安定性及びpH安定性を調べた。温度安定性は、酵素溶液(20mM酢酸緩衝液、pH6.0)各温度に30分間保持し、水冷した後、残存する酵素活性を測定することにより求めた。pH安定性は、本酵素を各pHの100mM緩衝液中で4℃、16時間保持した後、pHを6.0に調整し、残存する酵素活性を測定することにより求めた。これらの結果を図13(温度安定性)、図14(pH安定性)に示した。図13から明らかなように、シクロイソマルトテトラオース生成酵素の温度安定性は40℃まで安定であることが判明した。また、図14から明らかなように、シクロイソマルトテトラオース生成酵素のpH安定性はpH5.0乃至10.0の範囲で安定であることが判明した。
【0104】
<実験7-4:N末端アミノ酸配列>
実験6の方法で得たシクロイソマルトテトラオース生成酵素精製標品を用いて、D1110由来酵素のN末端アミノ酸配列を、プロテインシーケンサー PPSQ-31A型(株式会社島津製作所製)を用いて分析したところ、配列表における配列番号5で示されるアミノ酸配列、すなわち、アラニン-スレオニン-バリン-グリシン-アスパラギン酸-アラニン-トリプトファン-スレオニン-アスパラギン酸-リジン-アラニン-アルギニン-チロシン-アスパラギン酸-プロリン を有していることが判明した。
【0105】
<実験8:ミクロバクテリウム・トリコセシノリティカム D2006(NITE BP-02816)由来シクロイソマルトテトラオース生成酵素の調製>
実験1-1で用いたと同じ液体培地を試験管に3mLずつ入れ、オートクレーブで121℃、20分間滅菌し、冷却して、ミクロバクテリウム・トリコセシノリティカム D2006(NITE BP-02816)を接種し、27℃、240rpmで96時間振トウ培養したものを種培養とした。
【0106】
種培養と同じ組成の液体培地を100mL入れた容量500mLの三角フラスコ15本をオートクレーブで121℃、20分間滅菌し、冷却して温度27℃とした後、種培養液1mLずつ接種し、温度27℃で66時間回転振トウ培養した。培養後、遠心分離(12,000rpm、15分間)して菌体を除き、培養上清約1.4Lを得た。培養上清についてシクロイソマルトテトラオース生成酵素活性を測定したところ、培養上清中には該酵素活性を0.069U/mL含むことが分かった。
【0107】
<実験9:ミクロバクテリウム・トリコセシノリティカム D2006(NITE BP-02816)由来シクロイソマルトテトラオース生成酵素の精製>
実験8で得た培養上清約1.4L(総活性96.6U)に、80%飽和となるように硫安を添加し、4℃、16時間放置することにより塩析した。生成した塩析沈殿物を遠心分離(12,000rpm、30分間)にて回収し、これを1mMの塩化カルシウムを含む20mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5)に溶解後、同緩衝液に対して透析し、透析酵素液として110mLを得た。透析酵素液中のシクロイソマルトテトラオース生成酵素活性は140.7Uであった。この酵素液を東ソー株式会社製『DEAE-トヨパール(Toyopearl) 650S』ゲルを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー(ゲル容量20mL)に供した。シクロイソマルトテトラオース生成酵素活性は、1mMの塩化カルシウムを含む20mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5)で平衡化した『DEAE-トヨパール 650S』ゲルに吸着し、食塩濃度0Mから0.5Mまでのリニアグラジエントで溶出させたところ、食塩濃度約0.2M付近に溶出した。この活性画分を回収し、1mMの塩化カルシウムを含む20mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5)に対して透析した後、GEヘルスケア・ジャパン株式会社製『モノQ(Mono Q) 5/50GL』ゲルを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー(ゲル容量1.0mL)に供した。シクロイソマルトテトラオース生成酵素活性は、1mMの塩化カルシウムを含む20mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5)で平衡化した『モノQ 5/50GL』ゲルに吸着し、食塩濃度0Mから0.5Mまでのリニアグラジエントで溶出させたところ、食塩濃度約0.3M付近に溶出した。この精製の各ステップにおけるシクロイソマルトテトラオース生成酵素の全活性、全蛋白、比活性及び収率を表6に示す。
【0108】
【表6】
【0109】
『モノQ 5/50GL』ゲルを用いた疎水クロマトグラフィーで精製したシクロイソマルトテトラオース生成酵素標品をSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)(8乃至16w/v%濃度勾配)に供し、純度を検定したところ単一な蛋白バンドを示し、純度の高い標品であることが判明した。
【0110】
<実験10:ミクロバクテリウム・トリコセシノリティカム D2006(NITE BP-02816)由来シクロイソマルトテトラオース生成酵素の性質>
【0111】
<実験10-1:分子量>
実験9の方法で得たシクロイソマルトテトラオース生成酵素精製標品をSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(6乃至16w/v%濃度勾配)に供し、同時に泳動した分子量マーカー(商品名『プレシジョンPlusプロテイン未着色スタンダード』、日本バイオ・ラッド・ラボラトリーズ株式会社販売)と比較して分子量を測定したところ、シクロイソマルトテトラオース生成酵素の分子量は、86,000±10,000ダルトンであることが判明した。
【0112】
<実験10-2:酵素反応の至適温度及び至適pH>
実験9の方法で得たシクロイソマルトテトラオース生成酵素精製標品を用いて、酵素活性に及ぼす温度、pHの影響を活性測定の方法に準じて調べた。これらの結果を図15(至適温度)、図16(至適pH)に示した。シクロイソマルトテトラオース生成酵素の至適温度は、pH6.0、30分間反応の条件下で、40℃であり、至適pHは、40℃、30分間反応の条件下でpH5.5付近であることが判明した。
【0113】
<実験10-3:酵素の温度安定性及びpH安定性>
実験9の方法で得た精製シクロイソマルトテトラオース生成酵素標品を用いて、本酵素の温度安定性及びpH安定性を調べた。温度安定性は、酵素溶液(20mM酢酸緩衝液、pH6.0)各温度に30分間保持し、水冷した後、残存する酵素活性を測定することにより求めた。pH安定性は、本酵素を各pHの100mM緩衝液中で4℃、18時間保持した後、pHを6.0に調整し、残存する酵素活性を測定することにより求めた。これらの結果を図17(温度安定性)、図18(pH安定性)に示した。図17から明らかなように、シクロイソマルトテトラオース生成酵素の温度安定性は35℃まで安定であることが判明した。また、図18から明らかなように、シクロイソマルトテトラオース生成酵素のpH安定性はpH5.0乃至7.0の範囲で安定であることが判明した。
【0114】
<実験10-4:N末端アミノ酸配列>
実験9の方法で得たシクロイソマルトテトラオース生成酵素精製標品を用いて、D2006由来酵素のN末端アミノ酸配列を、プロテインシーケンサー PPSQ-31A型(株式会社島津製作所製)を用いて分析したところ、配列表における配列番号6で示されるアミノ酸配列、すなわち、アラニン-アスパラギン酸-ロイシン-グリシン-アスパラギン酸-アラニン-トリプトファン-スレオニン-アスパラギン酸 を有していることが判明した。
【0115】
<実験11:シクロイソマルトテトラオース生成酵素をコードするDNAのクローニング及びこれを含む組換えDNAと形質転換体の調製>
シクロイソマルトテトラオース生成酵素をコードするDNAを、アグレイア・スピーシーズ D1110(NITE BP-02815)及びミクロバクテリウム・トリコセシノリティカム D2006(NITE BP-02816)からそれぞれクローニングし、自律複製可能な組換えDNAの作製、酵素をコードするDNAの塩基配列の決定、及び形質転換体の調製を行った。
【0116】
<実験11-1:ゲノムDNAの調製>
平板寒天培地にて継代培養したアグレイア・スピーシーズ D1110(NITE BP-02815)又はミクロバクテリウム・トリコセシノリティカム D2006(NITE BP-02816)をそれぞれ一白金耳かきとり、実験1で用いた液体培地3mLを入れた試験管に植菌し、27℃、240rpmで5日間それぞれ振トウ培養した。培養終了後、培養液を遠心分離して回収したそれぞれの菌体より、市販の全DNA精製キット(商品名『DNeasy Blood&Tissue Kit』、QIAGEN社販売)を用いて、常法によりゲノムDNAを調製した。
【0117】
<実験11-2:次世代シーケンサーを用いた全ゲノム塩基配列の決定>
実験11-1で得たそれぞれの微生物由来のゲノムDNAを、それぞれ市販のキット(商品名『Nextera XT DNA Library Preparation Kit』、イルミナ社販売)を用いて酵素的に断片化し、断片化したDNAの末端の平滑化処理とDNA末端へのアダプター配列の付加を行うことによりDNA断片をライブラリー化し、さらにPCRで増幅した後、市販のDNA精製キット(商品名『AMPure XP』、ベックマン・コールター社販売)を用いて精製した。次いで、ライブラリー化したDNA断片の塩基配列を次世代シーケンサー(装置名『MiSeq』、イルミナ社製)を用いて決定し、決定した各DNA断片の塩基配列(コンティグ配列)をコンピュータ上で統合することにより、全ゲノムDNAの塩基配列をそれぞれ得た。
【0118】
次いで、遺伝子領域予測ソフトウェア(『Glimmer』)を用いて全ゲノムDNAの塩基配列を解析し、蛋白質をコードしていると推定されるオープンリーディングフレーム(Open Reading Frame、ORF:推定遺伝子領域)を予測したところ、アグレイア・スピーシーズ D1110(NITE BP-02815)の全ゲノムDNAには、ORFが9,139個あることが判明し、同様にミクロバクテリウム・トリコセシノリティカム D2006(NITE BP-02816)の全ゲノムDNAには、ORFが11,068個あることが判明した。
【0119】
<実験11-3:シクロイソマルトテトラオース生成酵素をコードするORFの同定>
実験11-2の全ゲノム解析において認められたアグレイア・スピーシーズ D1110(NITE BP-02815)由来ゲノムDNAの9,139個のORFを対象とし、実験3-2で決定したアグレイア・スピーシーズ D1110(NITE BP-02815)由来シクロイソマルトテトラオース生成酵素のN末端アミノ酸配列(配列表における配列番号5で示されるアミノ酸配列)と一致するアミノ酸配列をコードするORFを検索したところ、同N末端アミノ酸配列と完全に一致するアミノ酸配列がORF9038にコードされていることが判明した。この結果から、ORF9038の塩基配列、すなわち配列表における配列番号9で示される塩基配列がシクロイソマルトテトラオース生成酵素の構造遺伝子DNAであり、アグレイア・スピーシーズ D1110(NITE BP-02815)由来シクロイソマルトテトラオース生成酵素は、配列表における配列番号9で示される塩基配列に併記されたアミノ酸配列から、分泌シグナル配列と推定されるN末端部分の31アミノ酸残基が除去されたアミノ酸配列、すなわち、配列表における配列番号7で示されるアミノ酸配列からなることが判明した。
【0120】
また、実験11-2の全ゲノム解析において認められたミクロバクテリウム・トリコセシノリティカム D2006(NITE BP-02816)由来ゲノムDNAの11,068個のORFを対象とし、実験10-4で決定したシクロイソマルトテトラオース生成酵素のN末端アミノ酸配列(配列表における配列番号6で示されるアミノ酸配列)と一致するアミノ酸配列をコードするORFを検索したところ、同N末端アミノ酸配列と完全に一致するアミノ酸配列がORF5328にコードされていることが判明した。この結果から、ORF5328の塩基配列、すなわち配列表における配列番号10で示される塩基配列がミクロバクテリウム・トリコセシノリティカム D2006(NITE BP-02816)由来シクロイソマルトテトラオース生成酵素の構造遺伝子DNAであり、ミクロバクテリウム・トリコセシノリティカム D2006(NITE BP-02816)由来シクロイソマルトテトラオース生成酵素は、配列表における配列番号10で示される塩基配列に併記されたアミノ酸配列から、分泌シグナル配列と推定されるN末端部分の32アミノ酸残基が除去されたアミノ酸配列、すなわち、配列表における配列番号8で示されるアミノ酸配列を有することが判明した。
【0121】
因みに、配列表における配列番号7で示されるアミノ酸配列からなるアグレイア・スピーシーズ D1110(NITE BP-02815)由来シクロイソマルトテトラオース生成酵素の分子量は86,350と、また、配列表における配列番号8で示されるアミノ酸配列からなるミクロバクテリウム・トリコセシノリティカム D2006(NITE BP-02816)由来同酵素の分子量は86,658とそれぞれ算出され、前記実験3-1及び実験10-1においてSDS-PAGEによりそれぞれ求めた分子量86,000±10,000とよく一致した。配列表における配列番号9で示されるアグレイア・スピーシーズ D1110(NITE BP-02815)由来酵素遺伝子がコードするアミノ酸配列と、配列表における配列番号10で示されるミクロバクテリウム・トリコセシノリティカム D2006(NITE BP-02816)由来酵素遺伝子がコードするアミノ酸配列との相同性(配列同一性)を市販の遺伝情報処理ソフトウェア(『GENETYX Ver.13』、株式会社ゼネティックス販売)を用いて調べたところ、71%であった(図19を参照)。
【0122】
<実験12:発現用組換えDNA、pRSET A-ORF9038の作製とその形質転換体E9038による組換え型シクロイソマルトテトラオース生成酵素の産生>
アグレイア・スピーシーズ D1110(NITE BP-02815)のゲノムDNAからORF9038のシクロイソマルトテトラオース生成酵素遺伝子を常法によりPCRにて増幅し、発現用ベクター『pRSET A』(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)に挿入し、組換え型シクロイソマルトテトラオース生成酵素の大腸菌における発現を検討した。
【0123】
<実験12-1:発現用組換えDNA、pRSET A-ORF9038の作製及び形質転換体E9038の調製>
アグレイア・スピーシーズ D1110(NITE BP-02815)のシクロイソマルトテトラオース生成酵素遺伝子を発現用ベクター『pRSET A』に組込むに際し、配列表における配列番号11で示される塩基配列を有するセンスプライマーと、配列表における配列番号12で示される塩基配列を有するアンチセンスプライマーとの組合せで、アグレイア・スピーシーズ D1110(NITE BP-02815)の全ゲノムDNAに対してPCRを行い、増幅DNA断片を得た。このPCR増幅DNAは、ベクターpRSET AにIn-fusion法にて組込むために、5´末端及び3´末端にpRSET Aと相同な15塩基の配列を有し、且つ、開始コドンATGの直後にシクロイソマルトテトラオース生成酵素の成熟酵素のアミノ酸配列、すなわち配列表における配列番号7で示されるアミノ酸配列をコードするDNAを配置し、その直後に終止コドンTAA・TAGが位置するように設計されている。なお、T7プロモーター、リボソ-ム結合部位(RBS)及び開始コドンATGはpRSET A上のものを利用することとした。
【0124】
上記で増幅したDNAをベクターpRSET AにIn-fusion法で組込んで得られた組換えDNAを『pSET A-ORF9038』と命名した。pRSET A-ORF9038を図20に示す。pSET A-ORF9038を用いて大腸菌HST-08(タカラバイオ株式会社販売)を形質転換し、得られた形質転換体からpRSET A-ORF9038を単離、調製し、発現用宿主大腸菌BL21(DE3)(メルク株式会社販売)を形質転換して形質転換体『E9038』を調製した。
【0125】
<実験12-2:形質転換体E9038による組換え型シクロイソマルトテトラオース生成酵素の産生>
Terrific Broth(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)47g/L、グリセロール4g/L、及び水からなる液体TB培地(pH6.8)を、ガラス試験管に5mLずつ入れ、オートクレーブで121℃、20分間滅菌し、冷却した後、アンピシリンを終濃度100μg/mLとなるように無菌的に添加して液体培地を調製した。この液体培地に実験12-1で得た形質転換体E9038を接種し、37℃で8時間振盪培養した時点でイソプロピル-1-チオ-β-D-ガラクトピラノシド(IPTG)を終濃度100μMになるように添加してシクロイソマルトテトラオース生成酵素遺伝子の発現を誘導し、さらに16時間培養した。得られた培養物から遠心分離により菌体を回収した。得られた菌体を常法に従い、リゾチーム処理、凍結解凍処理の後、超音波破砕し細胞抽出物を調製した。超音波破砕は、菌体を20mMトリス-塩酸緩衝液(pH7.5)に懸濁した後、その菌体懸濁液を氷水中で冷却しながら超音波ホモジナイザー(モデルUH-600、株式会社エスエムテー製)で細胞破砕することによって行った。得られた細胞破砕抽出物を遠心分離し、細胞抽出物上清を得た。
【0126】
このようにして調製した細胞抽出物上清を組換えシクロイソマルトテトラオース生成酵素の粗酵素液とし、当該粗酵素液0.3mLをデキストラン(商品名『デキストラン T70』ファーマコスモス社製)を2.0%(w/v)含有する200mM酢酸緩衝液(pH6.0)0.3mLと混合し、40℃で一晩保持することにより反応させた後、100℃で10分間加熱し反応を停止させた。得られた反応液を実験1で用いた分析HPLCに供した。反応液のHPLCクロマトグラムを図21に示した。なお、対照として、発現ベクターpRSET Aを保持する大腸菌BL21(DE3)を上述の形質転換体の場合と同一条件で培養し、培養物から細胞抽出物上清を調製し、同様にシクロイソマルトテトラオース生成能を調べた。
【0127】
図21に見られるとおり、反応液のHPLCクロマトグラムには、保持時間17分付近に基質としたデキストランのピーク(図21における符号「Dex」)の溶出が認められ、保持時間49.4分付近にシクロイソマルトテトラオースのピーク(図21における符号「CI-4」)が認められた。この結果から、宿主大腸菌の細胞内でシクロイソマルトテトラオース生成酵素遺伝子が発現し、シクロイソマルトテトラオース生成酵素が産生していることが定性的に確認された。一方、具体的なクロマトグラムは省略するが、宿主である対照の大腸菌の菌体抽出上清ではシクロイソマルトテトラオースの生成は認められず、当該酵素活性は全く検出できなかった。
【0128】
なお、詳細は省略するものの、ミクロバクテリウム・トリコセシノリティカム D2006(NITE BP-02816)由来酵素についても、上記アグレイア・スピーシーズ D1110(NITE BP-02815)由来酵素の場合と同様に、組換えDNA、形質転換体を調製し、宿主大腸菌の細胞内で組換え酵素を発現させたところ、シクロイソマルトテトラオース生成酵素の産生が確認された。
【0129】
<実験13:シクロイソマルトテトラオース生成酵素のイソマルトペンタオースへの作用>
シクロイソマルトテトラオース生成酵素の基質特異性を調べる一環として、イソマルトペンタオースへの作用を調べた。イソマルトペンタオース(株式会社林原調製品、純度98.1質量%)を1%(w/v)、防腐剤としてのヒノキチオールを0.006%(w/v)含有する50mM酢酸緩衝液(pH6.0)0.5mLに実験6の方法で得たアグレイア・スピーシーズ D1110(NITE BP-02815)由来のシクロイソマルトテトラオース生成酵素の精製標品をイソマルトペンタオース1g当たり2.0単位添加し、40℃で24時間反応させ、反応液を100℃で10分間熱処理することにより酵素を失活させた。反応液中の生成物を調べるため、展開溶媒としてアセトニトリル:水:酢酸エチル:1-プロパノール混液(容量比85:70:20:50)を、また、薄層プレートとしてメルク社製『キーゼルゲル 60』(アルミプレート、10×20cm)を用い、2回展開するTLCを行い、糖質を分離した。硫酸-メタノール法にて発色させることにより分離した糖質を検出し、イソマルトペンタオースからの酵素反応生成物を確認した。
【0130】
その結果、シクロイソマルトテトラオース生成酵素は、イソマルトペンタオースに作用し、シクロイソマルトテトラオースを生成するとともにイソマルトテトラオースを生成し、また、僅かにイソマルトトリオース、イソマルース、グルコース及び高分子グルカンを生成することが判明した。この結果から、本酵素は少なくともグルコース重合度が5以上のα-1,6グルカンに作用すると考えられた。
【0131】
<実験14:シクロイソマルトテトラオース生成酵素の基質特異性>
各種糖質を用いて、シクロイソマルトテトラオース生成酵素の基質特異性を調べた。D-グルコース、マルトース、イソマルトース、パノース、イソマルトトリオース、イソマルトテトラオース、イソマルトペンタオース、イソマルトヘキサオース、イソマルトヘプタオース、デキストラン T10(平均分子量10,000、ファーマコスモス社製)、デキストラン T70(平均分子量70,000、ファーマコスモス社製)又はデキストラン T2000(平均分子量2,000,000、ファーマコスモス社製)を含む水溶液を調製した。これらの基質溶液に、最終濃度50mM酢酸緩衝液(pH6.0)と最終濃度1mM塩化カルシウムを加えた後、実験6の方法で得たアグレイア・スピーシーズ D1110(NITE BP-02815)由来シクロイソマルトテトラオース生成酵素精製標品を基質固形物1グラム当たりそれぞれ20単位ずつ加え、基質濃度を1%(w/v)になるように調整し、40℃、pH6.0で24時間作用させた。酵素反応前後の反応液中の糖質を調べるため、展開溶媒として2-プロパノール、1-ブタノール、水混液(容量比12:3:4)を、また、薄層プレートとしてメルク社製『キーゼルゲル 60F254』(アルミプレート、10×20cm)を用い、2回展開するシリカゲル薄層クロマトグラフィー(以下、TLCと略す)を行い、糖質を分離した。硫酸-メタノール法にて発色させ、分離した糖質を検出し、それぞれの糖質からのシクロイソマルトテトラオースの生成の程度とその他の生成物を調べた。結果を表7に示す。
【0132】
【表7】
【0133】
表7に見られるとおり、シクロイソマルトテトラオース生成酵素は、試験した糖質のうち、D-グルコース、マルトース、イソマルトース、パノース、イソマルトトリオースなどの単糖、二糖、三糖へは作用しなかった。一方、同酵素は、イソマルトテトラオース、イソマルトペンタオース、イソマルトヘキサオース、イソマルトヘプタオース、及び、デキストランに作用し、シクロイソマルトテトラオースを生成したことから、グルコース重合度が4以上のα-1,6グルカンに作用し、シクロイソマルトテトラオースを生成することが判明した。また、同酵素は、生成したシクロイソマルトテトラオースを加水分解することによりイソマルトテトラオースを生成した。さらに、同酵素は、グルコース重合度が4以上のα-1,6グルカンに作用し、グルコース重合度2以上の一連のイソマルトオリゴ糖を生成する不均化反応を触媒することも判明した。加えて、同酵素は、受容体としてのイソマルトースの共存下でシクロイソマルトテトラオースに作用させたところ、イソマルトヘキサオースを生成したことから、シクロイソマルトテトラオースを開環するとともにイソマルトテトラオースをイソマルトースに結合させるカップリング反応をも触媒することも判明した。なお、ミクロバクテリウム・トリコセシノリティカム D2006(NITE BP-02816)由来シクロイソマルトテトラオース生成酵素についても同様に基質特異性を調べたところ、アグレイア・スピーシーズ D1110(NITE BP-02815)由来酵素と同様にグルコース重合度が4以上のα-1,6グルカンに作用し、シクロイソマルトテトラオースを生成した。さらに、同酵素は、シクロイソマルトテトラオースの加水分解反応、α-1,6グルカンの不均化反応、カップリング反応を触媒する点でもD1110由来酵素と同様であり、全体として、その基質特異性はD1110由来酵素と同等であった。
【0134】
<実験15:シクロイソマルトテトラオースの小腸粘膜酵素による消化試験>
実験3-1で得た純度99.5質量%のシクロイソマルトテトラオース結晶標品を50mMマレイン酸緩衝液(pH6.0)に濃度1質量%になるよう溶解し、基質溶液とした。この基質溶液にラット小腸アセトンパウダー(シグマ・アルドリッチ社販売)より調製した小腸粘膜酵素(α-グルコシダーゼ)をマルトース分解活性として、シクロイソマルトテトラオース1g当たり50単位添加し、37℃で24時間保持した後、100℃で10分間加熱し酵素を失活させた。反応前及び反応後の溶液中のシクロイソマルトテトラオースをHPLC法にてそれぞれ定量し、酵素反応後のシクロイソマルトテトラオースの残存率(%)、すなわち、(反応後の質量/反応前の質量)×100を測定したところ、酵素反応24時間後で残存率91.6%であった。シクロイソマルトテトラオースは小腸粘膜酵素でわずかしか分解されない難消化性の糖質であった。
【0135】
<実験16:シクロイソマルトテトラオースの熱安定性>
実験3-1で得た純度99.5質量%のシクロイソマルトテトラオース結晶標品を脱イオン水に溶解し、濃度7w/v%のシクロイソマルトテトラオース水溶液を調製した。その水溶液8mlをスクリューキャップ付きガラス製遠心管に採り、密封した後、120℃で30乃至90分間加熱した。加熱前と、各加熱時間後の水溶液について着色度の測定と、HPLC法によるシクロイソマルトテトラオースの純度測定を行った。着色度は1cmセルでの480nmにおける吸光度とした。結果を表8に示した。
【0136】
【表8】
【0137】
表8の結果から明らかなように、シクロイソマルトテトラオース水溶液は120℃の高温加熱においても着色せず、分解による純度低下も認められず、シクロイソマルトテトラオースは熱に対して安定な糖質であることが判明した。
【0138】
<実験17:シクロイソマルトテトラオースのpH安定性>
実験3-1で得たシクロイソマルトテトラオース結晶標品を各種緩衝液に溶解し、シクロイソマルトテトラオース濃度4w/v%、pHを3乃至9に調整した7種類のシクロイソマルトテトラオース水溶液を調製した。それぞれの水溶液8mlをスクリューキャップ付きガラス製遠心管に採り、密封した後、100℃で24時間加熱した。放冷後、実験16と同様にそれら水溶液の着色度の測定と、HPLC法によるシクロイソマルトテトラオースの純度測定を行った。結果を表9に示した。
【0139】
【表9】
【0140】
表9から明らかなように、シクロイソマルトテトラオースは100℃、24時間の加熱において、pH4乃至9の範囲で実質的に分解されず、弱酸性から弱アルカリ性の広い範囲で安定であることが分かった。しかしながら、pH3では僅かに分解され、純度の低下が認められた。
【0141】
以下、実施例によりさらに詳細に本発明を説明する。しかしながら、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0142】
市販のデキストラン(商品名『デキストラン T70』、ファーマコスモス社製)15g/L、酵母エキス(商品名『粉末酵母エキスSH』、日本製薬株式会社販売)1.0g/L、ポリペプトン(商品名『ハイポリペプトン』、日本製薬株式会社販売)5.0g/L、リン酸二カリウム1.0g/L、リン酸一ナトリウム・2水和物0.6g/L、硫酸マグネシウム・7水和物0.5g/L、硫酸第一鉄・7水和物0.01g/L、硫酸マンガン・5水和物0.01g/L、炭酸カルシウム3.0g/L、及び水からなる液体培地(pH6.8)を、500ml容三角フラスコ50本に100mLずつ入れ、オートクレーブで121℃、20分間滅菌し、冷却した。次いで、アグレイア・スピーシーズ D1110(NITE BP-02815)を接種し、27℃、240rpmで4日間回転振トウ培養した。培養後、培養液を遠心分離(12,000rpm、10分間)して菌体を除き、培養上清を得た。更に、その培養上清約4.8LをUF膜濃縮し、0.70U/mLの本発明のシクロイソマルトテトラオース生成酵素を含む濃縮酵素液1,100mLを粗酵素液として回収した。
【実施例2】
【0143】
酵母エキス(商品名『粉末酵母エキスSH』、日本製薬株式会社販売)を他の酵母エキス(商品名『酵母エキスミースト顆粒S』、アサヒフードアンドヘルスケア株式会社販売)に、また、ポリペプトン(商品名『ハイポリペプトン』、日本製薬株式会社販売)を(商品名『ハイニュートS』、不二製油株式会社販売)に変えた以外は実施例1と同じ組成の液体培地(pH6.8)を調製し、500ml容三角フラスコ50本に100mLずつ入れ、オートクレーブで121℃、20分間滅菌し、冷却した。次いで、ミクロバクテリウム・トリコセシノリティカム D2006(NITE BP-02816)を接種し、27℃、240rpmで4日間回転振トウ培養した。培養後、培養液を遠心分離(12,000rpm、10分間)して菌体を除き、培養上清を得た。更に、その培養上清約4.7LをUF膜濃縮し、0.41U/mLの本発明のシクロイソマルトテトラオース生成酵素を含む濃縮酵素液920mLを粗酵素液として回収した。
【実施例3】
【0144】
デキストラン(商品名『デキストラン T70』、ファーマコスモス社製)を2%(w/v)、防腐剤としてのヒノキチオールを0.006%(w/v)含有する50mM酢酸緩衝液(pH6.0)10Lに実施例1の方法で得たアグレイア・スピーシーズ D1110(NITE BP-02815)由来のシクロイソマルトテトラオース生成酵素を含む粗酵素液をデキストラン1g当たり5単位添加し、40℃で24時間反応させたところ、反応物は、固形物当たりシクロイソマルトテトラオースを11.2質量%、イソマルトテトラオースを1.8質量%含有していた。反応液を95℃で30分間熱処理することにより酵素を失活させ冷却した後、分画分子量10,000のUF膜にて膜ろ過を行い高分子をさらに除去し、固形物当たりシクロイソマルトテトラオースを62質量%、イソマルトテトラオースを12.8質量%含有する糖液を得た。得られた濾液を、常法に従って、活性炭で脱色し、H型及びOH型イオン交換樹脂により脱塩して精製し、更に濃縮して、濃度60質量%のシラップを得た。得られたシラップを糖液として、強酸性カチオン交換樹脂(アンバーライトCR-1310、Na型、オルガノ株式会社製造)を用いたカラム分画を行なった。樹脂を内径5.4cmのジャケット付きステンレス製カラム4本に充填し、直列につなぎ樹脂層全長20mとした。カラム内温度60℃に維持しつつ、糖液を樹脂に対して5v/v%加え、これに60℃の温水をSV0.13で流して分画し、溶出液の糖組成をHPLC法でモニターし、シクロイソマルトテトラオースを含む画分を採取し、濃縮してシクロイソマルトテトラオース溶液(シクロイソマルトテトラオース純度98.6質量%)を得た。次いで、実験3-1記載の方法に準じてシクロイソマルトテトラオースを結晶化し、純度99.8質量%のシクロイソマルトテトラオース5含水結晶を得た。本品は、還元力を有さず、品質改良剤、安定剤、賦形剤、粉末化基材などとして、各種飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物に有利に利用できる。
【実施例4】
【0145】
デキストラン(商品名『デキストラン T70』、ファーマコスモス社製)を2.5%(w/v)、防腐剤としてのヒノキチオールを0.006%(w/v)含有する50mM酢酸緩衝液(pH6.0)20Lに実施例2の方法で得たミクロバクテリウム・トリコセシノリティカム D2006(NITE BP-02816)由来のシクロイソマルトテトラオース生成酵素を含む粗酵素液をデキストラン1g当たり5単位添加し、35℃で48時間反応させたところ、反応物は、固形物当たりシクロイソマルトテトラオースを9.7質量%、イソマルトテトラオースを2.0質量%含有していた。反応液を95℃で30分間熱処理することにより酵素を失活させ、冷却した後分画分子量10,000のUF膜ろ過を行い高分子をさらに除去し、固形物当たりシクロイソマルトテトラオースを62質量%、イソマルトテトラオースを12.8質量%含有する糖液を得た。得られた糖液を更に濃縮、粉末化して、シクロイソマルトテトラオース含有粉末を得た。本品は、固形物当たり、シクロイソマルトテトラオースを64質量%、イソマルトテトラオースを13質量%、グルコース重合度7以上のその他の糖質を25質量%含有していた。本品は、品質改良剤、安定剤、賦形剤、粉末化基材などとして、各種飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物に有利に利用できる。
【実施例5】
【0146】
市販のコーンスターチを、1mM塩化カルシウムを含む20mM酢酸緩衝液(pH5.5)に濃度30質量%になるよう懸濁した後、加熱溶解し、これを50℃まで冷却した原料溶液に、国際公開番号WO2008/136331号パンフレットに開示されたα-グルコシル転移酵素、イソアミラーゼ(澱粉枝切り酵素)、及び、α-アミラーゼ(商品名『クライスターゼ E5CC』、天野エンザイム株式会社販売)をそれぞれ基質固形物当たり10単位、1,000単位、及び10単位添加し、温度50℃で72時間反応させ、次いで、100℃で15分間加熱することにより酵素を失活させ、α-1,6グルカンを部分構造として有する分岐α-グルカン混合物を含有する反応液を調製した。
【0147】
上記で得た分岐α-グルカン混合物含有反応液の一部を、1mM塩化カルシウムを含む100mM酢酸緩衝液(pH6.0)で濃度1.0質量%になるよう希釈し、実験8の方法で得たミクロバクテリウム・トリコセシノリティカム D2006(NITE BP-02816)由来シクロイソマルトテトラオース生成酵素を基質固形物1g当たり2.2単位添加して40℃で48時間反応させたところ、反応物は、固形物当たりシクロイソマルトテトラオースを8.1質量%、イソマルトテトラオースを5.7質量%、イソマルトトリオースを4.2質量%、イソマルトースを5.0質量%含有していた。このことから、澱粉からα-1,6グルカンを部分構造として有する糖質を生成する酵素とシクロイソマルトテトラオース生成酵素を組合わせて用いることにより、澱粉基質からシクロイソマルトテトラオースを製造できることが分かった。
【実施例6】
【0148】
<シクロイソマルトテトラオースのグルコシル誘導体>
無水物換算で0.5gの実施例3の方法で得たシクロイソマルトテトラオース五含水結晶と、2.5gの市販のα-シクロデキストリン(商品名『CAVAMAX W6 food』、シクロケム社販売)をそれぞれ糖転移反応の受容体及び糖供与体として用い、1mMの塩化カルシウムを含む50mM酢酸緩衝液(pH5.5)50mLに溶解し、得られた溶液を基質溶液とした。この基質溶液に糖転移酵素としてジオバチラス・ステアロサーモフィラス由来CGTaseを糖供与体1g当たり2単位添加し、50℃で24時間反応させた後、100℃で10分間加熱することにより酵素反応を停止させた。次いで、得られた反応液に市販のグルコアミラーゼ(商品名『グルコチーム#2000』、ナガセケムテックス株式会社販売)を糖供与体1g当たり10単位添加し、さらに50℃で24時間反応させた後、100℃で10分間加熱することにより酵素反応を停止させた。得られたグルコアミラーゼ処理液に水酸化ナトリウムを添加しpH13.0に調整した後、105℃で1時間オートクレーブするアルカリ処理を行いグルコアミラーゼ処理液中の還元糖を分解した。さらにアルカリ処理液を常法により脱塩、濃縮、ろ過し、シクロイソマルトテトラオースのグルコシル誘導体含有糖液を得た。
【0149】
上記で得たシクロイソマルトテトラオースのグルコシル誘導体含有糖液を下記条件によるHPLC分析に供し、得られたクロマトグラムを図22に示した。
(HPLC条件)
カラム:YMC-Pack ODS-AQ303(4.6mm×250mm)
(株式会社ワイエムシィ製)
溶離液:水/メタノール(95:5、v/v)
カラム温度:40℃ 流速:0.7mL/分
検出:示差屈折計
【0150】
図22に見られるように、保持時間6.47分にシクロイソマルトテトラオースのピークが、保持時間9.12分及び11.36分にシクロイソマルトテトラオースのグルコシル誘導体と考えられる2つの糖質ピークが認められ、また、保持時間19.1分に糖供与体としたα-シクロデキストリンのピークが、保持時間47,7分にα-シクロデキストリンから生成したと考えられるβ-シクロデキストリンのピークが認められた。保持時間9.12分及び11.36分に溶出した糖質をそれぞれグルコシル誘導体A及びBとした。グルコシル誘導体含有糖液におけるグルコシル誘導体Aの含量は31.6質量%、グルコシル誘導体Bの含量は15.8質量%であった。
【0151】
グルコシル誘導体含有糖液をODSカラム(商品名『D-ODS-5』、(株式会社ワイエムシィ製)を用いた分取HPLCに供し、グルコシル誘導体A及びBをそれぞれ分取することにより、純度99.2質量%のグルコシル誘導体Aを229mg、純度98.0質量%のグルコシル誘導体Bを117mg得た。グルコシル誘導体A及びBを実験2で用いたLC/MS分析及びNMR分析に供したところ、グルコシル誘導体Aは分子量810を有し、1分子のD-グルコースがシクロイソマルトテトラオースを構成する4つのグルコース残基の内1残基にα-1,4結合を介して結合した構造を有する5糖であり、シクロイソマルトテトラオースのモノグルコシル誘導体であることが判明した。また、グルコシル誘導体Bは分子量972を有し、2分子のD-グルコースがシクロイソマルトテトラオースを構成する4つのグルコース残基の内対角線に位置する2つのグルコース残基にそれぞれα-1,4結合を介して結合した構造を有する6糖であり、シクロイソマルトテトラオースのジグルコシル誘導体であることが判明した。シクロイソマルトテトラオースのグルコシル誘導体A及びBの構造を図23に示した。
【実施例7】
【0152】
<ハードキャンディー>
濃度55%蔗糖溶液100質量部に実施例3の方法で得たシクロイソマルトテトラオース5含水結晶30質量部を加熱混合し、次いで減圧下で水分2%未満になるまで加熱濃縮し、これにクエン酸0.6質量部および適量のレモン香料と着色料とを混和し、常法に従って成型し、製品を得た。本品は歯切れ、呈味、風味とも良好で、シクロイソマルトテトラオースを含有することから蔗糖の晶出も起こさず、吸湿性少なく、ダレも起こさない安定で高品質のハードキャンディーである。
【実施例8】
【0153】
<チョコクッキー>
小麦粉(薄力粉)140質量部、バター90質量部、チョコレート115質量部、グラニュー糖360質量部、全卵200質量部、アーモンド200質量部、実施例4の方法で調製したシクロイソマルトテトラオース含有粉末30質量部を使用して、常法によりチョコクッキーを製造した。本品を、室温で2週間保存後、試食したところ、吸湿や乾燥もなく、又、シクロイソマルトテトラオースが油脂の酸化や分解を抑制し、製造直後の風味がよく保持されていた。
【実施例9】
【0154】
<乳酸菌飲料>
脱脂粉乳175質量部、実施例4の方法で得たシクロイソマルトテトラオース含有粉末30質量部及びラクトスクロース高含有粉末(株式会社林原販売、登録商標『乳果オリゴ』)70質量部を水1、500質量部に溶解し、65℃で30分間殺菌し、40℃に冷却後、これに、常法に従って、乳酸菌のスターターを30質量部植菌し、37℃で8時間培養して乳酸菌飲料を得た。本品は、風味良好で、オリゴ糖、シクロイソマルトテトラオースを含有し、乳酸菌を安定に保つだけでなく、ビフィズス菌増殖促進作用、整腸作用を有する乳酸菌飲料として好適である。
【実施例10】
【0155】
<ボディーソープ>
ラウリン酸カリウム15質量部、ミリスチン酸カリウム5.0質量部、実施例4の方法で得たシクロイソマルトテトラオース含有粉末4.0質量部、プロピレングリコール2.0質量部、ポリエチレン粉末0.5質量部、ヒドロキシプロピルキトサン溶液0.5質量部、グリシン0.25質量部、グルタミン0.25質量部、感光色素201号0.1質量部、適量のフェノール、pH調整剤、ラベンダー水を適量加えた後、精製水を加えて総量を100質量部とし、常法により乳化してホディーソープを調製した。本品は、泡立ちの良い、使用感に優れたホディーソープである。また、本品は、体臭の発生の予防、かゆみの予防や、或いは、皮膚の老化の治療用、予防用などに有利に利用できる。また、本品は、シクロイソマルトテトラオースを含有することから保湿性に優れている上、皮膚に対する刺激性が低いので、過敏症を懸念することなく利用することができる。
【実施例11】
【0156】
<化粧用クリーム>
モノステアリン酸ポリオキシエチレングリコール2質量部、自己乳化型モノステアリン酸グリセリン5質量部、実施例3の方法で得たシクロイソマルトテトラオース5含水結晶2質量部、α-グルコシルルチン(株式会社林原販売、商品名「αGルチン」)1質量部、流動パラフィン1質量部、トリオクタン酸グリセリン10質量部および防腐剤の適量を常法に従って加熱溶解し、これにL-乳酸2質量部、1、3-ブチレングリコール5質量部および精製水66質量部を加え、ホモゲナイザーにかけ乳化し、更に香料の適量を加えて攪拌混合し、化粧用クリームを製造した。本品は、シクロイソマルトテトラオースがα-グルコシルルチンの抗酸化能を安定化し、高品質の日焼け止め、美肌剤、色白剤などとして有利に利用できる。
【実施例12】
【0157】
<練歯磨>
第二リン酸カルシウム45質量部、ラウリル硫酸ナトリウム1.5質量部、グリセリン25質量部、ポリオキシエチレンソルビタンラウレート0.5質量部、実施例3の方法で得たシクロイソマルトテトラオース5含水結晶10質量部、サッカリン0.02質量部を水18質量部と混合して練歯磨を得た。本品は、界面活性剤の洗浄力を落とすことなく、嫌味を改良し、使用後感も良好である。
【産業上の利用可能性】
【0158】
本発明によれば、4分子のD-グルコースがα-1,6グルコシド結合を介して環状に連結した構造を有する新規糖質であるシクロイソマルトテトラオース又はシクロイソマルトテトラオース含有糖質を、シクロイソマルトテトラオース生成酵素を用いて製造し、提供することが可能となる。全く新規なシクロイソマルトテトラオースの提供を可能とする本発明は、飲食物、化粧品、医薬品など種々の利用分野に貢献することとなり、その産業的意義はきわめて大きい。
【符号の説明】
【0159】
図1において、
レーン1:イソマルトオリゴ糖マーカー
レーン2:イソマルトトリオース標準品
レーン3:イソマルトテトラオース標準品
レーン4:デキストラン基質に微生物D1110株由来粗酵素を作用させて得た酵素反応物
G:グルコース
IG2:イソマルトース
IG3:イソマルトトリオース
IG4:イソマルトテトラオース
I:未知糖質
図4図6、及び図7において、
破線は、シグナル帰属の便宜上、出願人が加えた補助線である。
1H:D-グルコースの1位カーボンに結合したプロトン
2H:D-グルコースの2位カーボンに結合したプロトン
3H:D-グルコースの3位カーボンに結合したプロトン
4H:D-グルコースの4位カーボンに結合したプロトン
5H:D-グルコースの5位カーボンに結合したプロトン
6Ha及び6Hb:D-グルコースの6位カーボンに結合したプロトン
図6及び図7において、
1C:D-グルコースの1位カーボン
2C:D-グルコースの2位カーボン
3C:D-グルコースの3位カーボン
4C:D-グルコースの4位カーボン
5C:D-グルコースの5位カーボン
6C:D-グルコースの6位カーボン
図10において、
↓:シクロイソマルトテトラオース5含水結晶の粉末X線回折図における特徴的な回折ピーク
図19において、
ORF9038:アグレイア・スピーシーズ D1110由来シクロイソマルトテトラオース生成酵素遺伝子がコードするアミノ酸配列
ORF5328:ミクロバクテリウム・トリコセシノリティカム D2006由来シクロイソマルトテトラオース生成酵素遺伝子がコードするアミノ酸配列
図20において、
f1 ori:f1ファージ複製起点
Ampicillin:アンピシリン耐性遺伝子
pUC ori:pUC複製起点
T7:T7プロモーター
RBS:リボソーム結合部位
ATG:開始コドン
黒矢印:シクロイソマルトテトラオース生成酵素遺伝子
図21において、
Dex:デキストラン
CI-4:シクロイソマルトテトラオース
図22において、
CI-4:シクロイソマルトテトラオース
A:シクロイソマルトテトラオース誘導体A
B:シクロイソマルトテトラオース誘導体B
α-CD:α-シクロデキストリン
β-CD:β-シクロデキストリン
図23において
(A)誘導体A:シクロイソマルトテトラオースのグルコシル誘導体;
(B)誘導体B:シクロイソマルトテトラオースのジグルコシル誘導体;
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
【配列表】
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