(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】力及び運動を伝達するための低摩耗機械部品用複合材料
(51)【国際特許分類】
C08L 71/00 20060101AFI20240221BHJP
C08K 7/06 20060101ALI20240221BHJP
C08K 7/14 20060101ALI20240221BHJP
C08J 5/04 20060101ALI20240221BHJP
F16H 55/06 20060101ALI20240221BHJP
F04C 15/00 20060101ALI20240221BHJP
【FI】
C08L71/00 Z
C08K7/06
C08K7/14
C08J5/04
F16H55/06
F04C15/00 D
(21)【出願番号】P 2020564551
(86)(22)【出願日】2019-05-24
(86)【国際出願番号】 EP2019063538
(87)【国際公開番号】W WO2019224383
(87)【国際公開日】2019-11-28
【審査請求日】2022-05-23
(31)【優先権主張番号】102018208149.2
(32)【優先日】2018-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】597075904
【氏名又は名称】フレゼニウス メディカル ケア ドイッチェランド ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100171675
【氏名又は名称】丹澤 一成
(72)【発明者】
【氏名】フィッシャー ジェローム
(72)【発明者】
【氏名】ペーテルス アーン
(72)【発明者】
【氏名】クンツ ヴォルフガング
(72)【発明者】
【氏名】コーエン スコット
【審査官】武貞 亜弓
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-220322(JP,A)
【文献】特開2001-295903(JP,A)
【文献】特開昭63-213560(JP,A)
【文献】特開2010-155993(JP,A)
【文献】特開2010-006856(JP,A)
【文献】特開2013-177545(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
C08J 5/00
A61M 1/00
F04C11/00- 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
力及び運動を伝達するための機械部品用複合材料であって、前記複合材料が構成成分:
(i)前記複合材料の総質量に対して少なくとも45質量%の基材材料、
(ii)前記複合材料の総質量に対して3~20質量%の第1の繊維状補強材、及び
(iii)前記複合材料の総質量に対して10~45質量%の第2の
繊維状補強材、
を含み、
前記第1の繊維状補強材は、前記第2の
繊維状補強材よりも低い熱膨張係数を有し、前記第2の
繊維状補強材は、前記第1の
繊維状補強材よりも低い電気伝導率を有し、前記複合材料に含有される構成成分の質量部が合計100%にな
り、
前記基材材料が、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)であり、
前記第1の繊維状補強材が炭素繊維を含有するか、又は炭素繊維であり、
前記第2の繊維状補強材が、ガラス繊維を含有するか、又はガラス繊維である、前記複合材料。
【請求項2】
前記第1の繊維状補強材が、繊維の方向に平行な-0.15×10
-6/K~2×10
-6/Kの熱膨張係数を示し、前記第2の
繊維状補強材が、10
-4S/m又はこれよりも小さい電気伝導率を有することを特徴とする請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
前記第1の繊維状補強材及び前記第2の
繊維状補強材が、前記基材材料に
異方的に分散されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の複合材料。
【請求項4】
前記複合材料中の前記第1の繊維状補強材の百分率が、前記複合材料の総質量に対して合計で、3質量%~18質量%、好ましくは5質量%~15質量%、更に好ましくは7質量%~15質量%になることを特徴とする請求項1~
3の何れか1項に記載の複合材料。
【請求項5】
前記複合材料中の前記第2の
繊維状補強材の百分率が、前記複合材料の総質量に対して合計で、10質量%~40質量%、更に好ましくは15質量%~35質量%、更に好ましくは15質量%~30質量%になることを特徴とする請求項1~
4の何れか1項に記載の複合材料。
【請求項6】
前記複合材料中の前記基材材料の百分率が、前記複合材料の総質量に対して合計で、少なくとも50質量%、更に好ましくは少なくとも55質量%、更に好ましくは少なくとも60質量%になることを特徴とする請求項1~
5の何れか1項に記載の複合材料。
【請求項7】
前記第2の
繊維状補強材対前記第1の
繊維状補強材の質量比が、合計で3:1~1:1、好ましくは2:1~1:1になることを特徴とする請求項1~
6の何れか1項に記載の複合材料。
【請求項8】
前記複合材料が抗酸化剤を含むことを特徴とする請求項1~
7の何れか1項に記載の複合材料。
【請求項9】
前記抗酸化剤が一次及び/又は二次抗酸化剤であることを特徴とする請求項
8に記載の複合材料。
【請求項10】
前記複合材料中の前記抗酸化剤の割合が、前記複合材料の総質量に基づいて、0.001質量%~2.5質量%、好ましくは0.01質量%~2.0質量%、より好ましくは0.1質量%~1質量%であることを特徴とする請求項
8又は9に記載の複合材料。
【請求項11】
前記第1の繊維状補強材の繊維及び/又は前記第2の
繊維状補強材の繊維が、1μm~10μm、好ましくは2μm~9μm、更に好ましくは3μm~8μmの繊維直径を有することを特徴とする請求項1~
10の何れか1項に記載の複合材料。
【請求項12】
前記第1の繊維状補強材の繊維及び/又は前記第2の繊維状補強材の繊維が、10μm~60μm、好ましくは15μm~55μm、更に好ましくは20μm~50μmの長さを有することを特徴とする請求項1~
11の何れか1項に記載の複合材料。
【請求項13】
前記第1の繊維状補強材の繊維及び前記第2の繊維状補強材の繊維の直径対長さの比率が、1:2~1:20よりも大きい、ことを特徴とする請求項1~
12の何れか1項に記載の複合材料。
【請求項14】
前記基材材料、前記第1の繊維状補強材及び前記第2の
繊維状補強材の百分率は、合計で100質量%になることを特徴とする請求項1~
7及び11~13の何れか1項に記載の複合材料。
【請求項15】
請求項1~
14のうちの少なくとも1つに記載の複合材料を含む、力及び運動を伝達するための機械部品。
【請求項16】
前記機械部品がギアであることを特徴とする請求項
15に記載の機械部品。
【請求項17】
請求項
16に記載のギアを少なくとも1つ含むギアポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、力及び運動を伝達するための機械部品用複合材料に関する。本発明は更に、本発明の複合材料を含む力及び運動伝達機械部品に関する。本発明は更に、本発明の複合材料から構成された少なくとも1つのギアを有するギアポンプに関する。本発明は同様に、医療用ポンプ送給用途において液体に浮遊された機械部品用の本発明の複合材料の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、複合材料の分野に関する。複合材料は、力及び運動を伝達する機械部品に用いられる。プラスチック及び補強材から作られた複合材料は、特に、より高い強度、より高い耐摩耗性、軽量化及び更に改善された特性を結果として生じる機械部品に与えるのに用いられる。力及び運動伝達機械部品は、例えば、ギアポンプで使用され、特にギアの形態で用いられる。
【0003】
ギアポンプは、治療液をポンプ送給するために医療技術において、特に透析機にて用いられる。従って、これは、透析療法で用いる流体をポンプ送給するために用いるポンプ、又は透析で用いる流体を脱気するための脱気ポンプに関する。
【0004】
透析機は、透析液の生成、搬送及び供給を実質的に確保する油圧回路を含む。特定の用途では、透析液は、提供される透析濃縮物及び超純水から透析機において生成される。超純水は、混合チャンバにおいて透析濃縮物と混合され、すぐに使える透析液に変換される。透析液を生成するのに必要なものの中には、超純水の脱気及びポンプ送給がある。これらの工程は、通常、目的のために意図したギアポンプで実現される。更に、透析機はまた、透析液が透析フィルタにポンプ送給されて体外血液浄化に利用できるようにするポンピング装置を含む。体外血液浄化では、患者から引き出された血液は、半透膜を介して、これによって、管体を通り血液ポンプ装置を介して透析フィルタにポンプ送給され、半透膜を介して同様に透析フィルタにポンプ送給される透析液と共に物質移動されて、従って血液浄化を行う。このような透析処置が完了した後、透析機の油圧回路を殺菌することが衛生上必要である。油圧回路は、これによって、約85℃の高温で超純水及び殺菌剤で洗浄手順を受ける。酸化剤は、特に、油圧回路を除染するための殺菌剤として用いられる。
【0005】
透析機の油圧回路で用いるギアポンプは、従って、透析液、超純水、酸化殺菌剤並びに液体空気混合物、又はそれぞれ脱気目的のため空気のみをポンプ送給するように提供される。これらのギアポンプの最大のポンプ送給作用は、特に透析液のポンプ送給に適用される。加えて、このようなギアポンプはまた、例えば85℃又はこれよりも高い、例えば最大で90℃又は95℃まで、透析機の熱殺菌中に高温下でポンプ送給手順を実行するようにされる。
【0006】
透析液の生成において公知で且つ用いられるギアポンプは、ギアがポンプ作動中にポンプ送給される流体中に浸漬されて浮動するように構成される。ギアは、例えば、これによってステンレス鋼ケースに装着され、回転磁気結合によって駆動することができる。ポリマー基材から成る複合材料並びに補強材で作られたギアは、通常、透析機においてギアポンプに用いられる。ポリエーテルテルケトン(PEEK)及び炭素繊維の複合材料から成るギアポンプ用のギアは公知である。PEEKを補強するのに炭素繊維を用いることで、これによって、単にPEEK単独と比較して、複合材料のより高い強度及びより低い熱膨張が得られる。この場合においてはギア自体が軸受負荷全体を支持し、従って、極めて高い機械的応力を受けるので、浮動ギアを備えたポンプの場合に補強材で基材を補強することが特に必要である。その結果として、複合材料は、持続的にポンプ送給される流体に所望の圧力を構築することができるようにするために、高い機械的強度が必要となる。
【0007】
衛生上の理由から、透析液の生成には、可能な限り高い純度を有する超純水が用いられる。透析液を生成するのに、好ましくは、10-4S/m及びこれよりも小さい電気伝導率を有する超純水が用いられる。これにより、低い電気伝導率は、超純水に対する高純度の尺度と見なされる。しかしながら、高純度の超純水は、既知の複合材料を含むギアポンプに関して悪影響につながる。例えば炭素繊維などの高い電気伝導率の補強材を含有する複合材料は、超純水の低い電気伝導率に起因して、超純水と接触状態で高い摩耗を示すことが証明されている。作動中に上述の複合材料から作られたこれらのギアの安定性は、これによって著しく低下する。詳細には、これによって摩耗粒子による流体の汚染も考慮に入れるべきであり、このことは、透析療法又は熱洗浄工程中に重大な問題につながる可能性がある。
【0008】
無機材料に基づく低い電気伝導率の補強材は公知である。しかしながら、これらの無機材料は、比較的高い熱膨張を示す。高い熱膨張は、同様に力及び運動伝達の機械部品の摩耗増加につながる。従って、ポリマー基材及び無機補強材の対応する複合材料は、高温での用途には同様に適していない。特に、このような複合材料から作られた透析機のギアポンプのギアは、高い材料の摩耗なしに熱洗浄動作に耐えられないことになる。
【0009】
WO2015/019047A1号は、第1部分及び第2部分で作られた構築構成要素を開示しており、第1部分は、フェニレン、カルボニル及びエーテル部分を有する第1の半結晶ポリマーを含む。第2部分は、フェニレン、カルボニル及びエーテル部分を同様に有する第2の半結晶ポリマーを含む。第2のポリマーは、第1のポリマーの溶融温度よりも低い溶融温度を有する。1つの具現化において、第1及び第2のポリマーは、充填剤、例えばガラス繊維又は炭素繊維の何れかを含む第1及び第2の複合材の一部とすることができる。更なる具現化において、WO2015/019047A1号は、2つの部分から成るギアを記載しており、第2部分は支持体を定め、第1部分はギアの歯を含む。第2部分は、例えば織物の形態の繊維材料によって補強される。
【0010】
米国特許第4,837,251号は、複合構造の圧力形成コア用組成物を記載している。組成物は、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリアリールスルフィド、ポリアリールケトン、ポリアリールスルホン又はポリアリールエーテルスルホンのグループの中から選択された熱可塑性樹脂を含む。1つの具現化において、組成物は、炭素繊維、ガラス繊維及びガラス微小球を含む。
【0011】
WO02/10320号は、プラスチック軸受を生成するためのプラスチック組成物を開示している。1つの具現化において、プラスチック組成物は、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、液晶ポリマー又はこれらの混合物を含むグループの中から選択されたポリマーマトリックス材料から成る。この具現化によるプラスチック組成物は、窒化ホウ素、炭素、黒鉛、二硫化モリブデン、タルク、テトラフルオロエチレン及びこれらの組合せを含むグループの中から選択された炭素繊維及び添加剤を更に含有する。
【0012】
従来技術で開示された複合材料は、上記で明確に述べた問題に対して満足のいく解決策を提示していない。詳細には、従来技術は、低熱膨張の複合材料、及び従って複合材料を力及び運動伝達の機械部品に適したものにする有利な摩耗特性を開示していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】WO2015/019047A1号
【文献】米国特許第4,837,251号明細書
【文献】WO02/10320号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って、本発明の第1の態様では、超純水と接触状態にあるときの高摩耗及び熱膨張によって生じる高摩耗の上述の欠点を克服した、力及び運動を伝達するための機械部品用複合材料を提供することが目的であった。
【0015】
従って、本発明の更なる態様では、超純水と接触状態にあって高温用途の下で摩耗特性が改善された力及び運動を伝達するための機械部品、特にギアを提供することが目的であった。
【0016】
従って、本発明の更なる態様では、改善された摩耗特性を示し、及びひいては長寿命並びに機能不全に対して脆弱性を受けにくい、超純水及びより高い温度を使用するポンプ用途用のギアポンプを提供することが目的であった。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の第1の態様において、本発明の目的は、請求項1に記載の力及び運動を伝達するための機械部品用複合材料によって解決される。請求項2~18は、好ましい実施形態を構成する。
【0018】
本発明の第2の態様において、本発明の目的は、請求項19又は20に記載の力及び運動を伝達するための機械部品によって解決される。
【0019】
本発明の第3の態様において、本発明の目的は、請求項21に記載のギアポンプによって解決される。
【0020】
本発明の第4の態様において、本発明の目的は、医療用ポンプ送給用途において液体中に浮遊された機械部品のために請求項22又は23に記載の複合材料の使用によって解決される。
【発明を実施するための形態】
【0021】
第1の態様において、本発明は、機械力及び運動を伝達するための成形構成要素用複合材料であって、少なくとも3つの構成成分:
(i)複合材料の総質量に対して少なくとも45質量%の基材材料、
(ii)複合材料の総質量に対して3~20質量%の第1の繊維状補強材、及び
(iii)複合材料の総質量に対して10~45質量%の第2の補強材、
から成り、第1の繊維状補強材は、第2の補強材よりも低い熱膨張係数を有し、第2の補強材は、第1の補強材よりも低い電気伝導率を有し、複合材料に含有される構成成分の質量部が合計100%になる、複合材料に関する。
【0022】
上記から明らかなように、本発明の複合材料は、上述の3つの構成成分に加えて、それぞれの実施形態及び要件に従って自由に選択することができる更なる構成成分を含有することができる。何れの場合も、本発明の構成成分の質量部は、合計100%になる。
【0023】
第1の態様による更なる実施形態では、複合材料は、第1の繊維状補強材が繊維の方向に平行な-0.15×10-6/K~2×10-6/Kの熱膨張を示し、第2の補強材が10-4S/m又はこれよりも小さい電気伝導率を有することによって特徴付けられる。
【0024】
例えば、炭素繊維などの電気伝導率が高く熱膨張が低い1つの補強材のみを有する公知の従来技術の複合材料と比較して、本発明の複合材料は、明らかに低摩耗であることによって特徴付けられる。加えて、本発明の複合材料は、複合材料が、高温で、力及び運動を伝達するための機械部品の生成にも好適であるこのような低い熱膨張係数を有する。更に、本発明の複合材料は、低摩擦係数によって特徴付けられる。更に、例えばガラス繊維などの低い電気伝導率であるが高い熱膨張の補強材のみを有する公知の従来技術の複合材料と比較して、本発明の複合材料は、明らかに低摩耗であることによって特徴付けられる。更に、複合材料はまた酸化作用に対して高い耐性を示すことが明らかになった。
【0025】
補強材の熱膨張は、10~110℃の技術関連温度範囲において熱機械分析(TMA)の公知の方法によって決定される。DIN 51045-1:2005-8規格は、固体の熱誘起長さの変化を決定するために特に知られている。補強材の熱膨張及び電気伝導率は、技術文献で更に文書化されている。
【0026】
本出願によって定義される用語「複合材料」は、これらの材料特性の観点で異なる様々な材料の凝集塊と理解すべきである。従って、材料は、例えば引張強度などの機械的特性、例えば熱膨張、溶融温度又はガラス転移温度などの熱特性、或いは化学的特性が異なる。特に、本発明の意味で用語「複合材料」によって理解されることは、基材と補強材の化合物である。従って、「基材」は、複合材料において連続相を示す材料を指す。本発明によれば、ポリマーが基材材料として用いられる。好ましくは、本発明の意味におけるポリマーは、高温で寸法的に安定を維持するように高い溶融温度及び/又は高いガラス転移温度を示す。しかしながら、これに加えて、これらのポリマーは、溶融状態でこれらの溶融温度を超えてポリマーを処理することができるように、温度感受性軟化特性によって特徴付けられる。
【0027】
本出願によって定義される用語「補強材」は、基材と比較してより高い引張強度及び/又は耐摩耗性を示す材料と理解すべきである。詳細には、基材と組合せた補強材は、複合材料により高い引張強度を与える。本発明によれば、少なくとも2つの補強材が提供される。補強材料は、繊維状又は非繊維状、例えば微粒子又はプレート状物質とすることができる。公知の繊維状補強材は、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、アスベスト繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、酸化ジルコニウム繊維、窒化ホウ素繊維又は窒化シリコーン繊維である。公知の非繊維状補強材は、例えば、マイカ、シリカ、タルク、アルミナ、カオリン、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、二酸化チタン、フェライト、粘土、ガラス粉末、酸化亜鉛、酸化鉄、粉末シリカ、炭酸マグネシウム、黒鉛、炭素粉末、例えばまたナノチューブの形態である。
【0028】
少なくとも3つの構成成分からなる本出願による複合材料は、好ましくは、配合工程において生成される。従って、ポリマー基材は、好ましくはポリマー基材の溶融温度よりも高い高温で第1の繊維状補強材及び第2の補強材と混合される。この高温は、ポリマー基材の熱分解温度よりも低い。本出願の意味では、ポリマー基材の「溶融温度」は、示差走査熱量計(DSC)法に従って決定された融解温度と理解すべきである。DIN EN ISO 11357-3:2013-04規格は、プラスチックの溶融温度を決定する上で特に知られている。有利には、溶融ポリマー基材は、第1の繊維状補強材及び第2の補強材がポリマー基材において均等に分布され封入されるように、補強材を僅かに被覆することができる。
【0029】
ポリマー基材及び第1の繊維状補強材並びに第2の補強材は、これらが押出によって複合材料に混合、加熱及び形成される配合工程の1つの点で連続的に供給することができる。1つの実施例では、繊維状補強材の塊は、ポリマー基材の溶融物を通過することができる。塊は、繊維充填剤の連続長さ、又はより好ましくは、少なくともある程度まで固化された複数の連続フィラメントを含むことができる。連続繊維塊は、例えば、メッシュ、網又は繊維ウェブを含むことができる。繊維塊を構成するフィラメントは、実質的に均等に又は確率的に塊内に分布することができ、好ましい方向でなく必要に応じて追加的に配向することができる。
【0030】
代替的に、複合材料は、第1のポリマー基材の所定量及び第1の繊維状補強材並びに第2の補強材の所定量を混合によって溶融物中に得られることになる工程で生成することができる。
【0031】
好ましくは、選択された製造方法によって第1の繊維状補強材及び第2の補強材が基材中に異方的に分布されることが提供される。これは、基材中の第1の補強材及び第2の補強材の分布が位置依存性ではなく、繊維の配向が好ましい方向を示さないことを意味する。従って、複合材料の材料特性は、基材中の第1の繊維状補強材及び第2の補強材の可能な配向に依存しない。従って、複合材料の機械的特性及び複合材料から生成された機械力及び運動伝達構築構成要素は、全ての配向で同じであり、利点を提供する。
【0032】
第1の繊維状補強材は、好ましくは、繊維の方向に平行な-0.15×10-6/K~2×10-6/Kの熱膨張係数を示す。第1の繊維状補強材の熱膨張係数値は、ポリマー基材と比較して極めて低く、又はそれぞれ負である。本発明の意味で適切なポリマー基材の典型的な熱膨張係数は、30×10-6/K~60×10-6/Kの範囲にある。負の熱膨張係数を有する繊維状補強材は、ポリマー基材の生来的に高い総熱膨張をある程度まで妨げて、複合材料の全体的に総熱膨張を低くする役割を担うので好ましい。ポリマー基材における第1の繊維状補強材の等方性分布は、これによって、全ての空間方向に基材の熱膨張の一貫した補償をもたらす。好ましい実施形態では、第1の繊維状補強材は、-0.12×10-6/K又はそれ以上、特に-0.1×10-6/K又はそれ以上、特に-0.8×10-6/K又はそれ以上、特に0.5×10-6/K又はそれ以上、特に-0.02×10-6/K又はそれ以上であるが、1.8×10-6/Kよりも小さい、特に1.5×10-6/Kよりも小さい、特に1.2×10-6/Kよりも小さい、特に1×10-6/Kよりも小さい、特に0.8×10-6/Kよりも小さい、特に0.5×10-6/Kよりも小さい熱膨張係数を示す。
【0033】
本発明によれば、第2の補強材は、合計で10-4S/m又はこれよりも小さくなる電気伝導率を示す。第2の補強材の低い導電率は、複合材料の摩耗に対する感受性の低下をもたらす。驚くことに、本発明の複合材料の摩耗の特定の比率は、基材単独、又はポリマー基材及び第1の繊維状補強材のみから成る複合材料、又はポリマー基材及び第2の繊維状補強材のみから成る複合材料よりも予想外に低いことが分かった。好ましい実施形態では、第2の補強材の電気伝導率は、10-5S/m又はこれよりも小さく、特に10-6S/m又はこれよりも小さく、特に10-7S/m又はこれよりも小さく、特に10-8又はこれよりも小さく、特に10-9S/m又はこれよりも小さく、特に10-10S/m又はこれよりも小さいが、少なくとも10-15S/mよりも大きい、特に10-14S/mよりも大きい、特に10-13S/mよりも大きい、特に10-12S/mよりも大きい、特に10-11S/mよりも大きい。
【0034】
第1の態様による更なる実施形態では、本発明は、第2の補強材が繊維状であることによって特徴付けられる。繊維状補強材は、これらが基材に高い安定性、特に高い引張強度及びより高い衝撃強度を与えるので好ましい。複合材料の必要な安定性並びに伝達力及び運動のための機械部品としての意図する負荷によっては、繊維形態の第2の補強材の使用は、有利とすることができる。
【0035】
第1の態様による更なる実施形態では、本発明は、120~200℃、好ましくは125℃~190℃、更に好ましくは130℃~160℃のガラス転移温度を示すポリマー基材によって特徴付けられる。ガラス転移温度は、例えば、示差走査熱量計(DSC)法に基づいて決定することができる。DIN EN ISO 11357-2:2014-07規格は、特にガラス転移温度を決定するのに公知である。ガラス転移温度を超えると、ポリマー基材の熱誘起軟化は、温度の上昇に伴って、特に機械的荷重の下で増大する。従って、ガラス転移温度は、ポリマーの熱軟化特性の尺度と見なすべきである。本発明の意味では、特に、120℃及びそれより高いガラス転移温度を有するポリマーは、本発明による複合材料用のポリマー基材として硬質で、従って好ましくは適していると見なすべきである。
【0036】
第1の態様による更なる実施形態では、本発明は、「リング試験のブロック」により測定された0.13~0.21μsの摩擦係数及び/又は2~6×10-6mm3/Nmの比摩耗量を有するポリマー基材によって特徴付けられる。試験に利用される「リング試験のブロック」は、ASTM G77-17規格の記載に基づいている。従って、試験される加工物は、金属リングに荷重が加えられ、リングは回転状態に設定される。摩擦係数及び摩耗量は、この実験装置に従って決定される。0.13~0.21μsの摩擦係数及び/又は2~6×10-6mm3/Nmの比摩耗量を有するポリマー基材を用いることで、複合材料の有利な低摩擦係数及び比摩耗量の値の全体的な調節に関して第1の繊維状補強材及び第2の補強材と共に複合材料の生成において有利である。
【0037】
第1の態様による更なる実施形態では、本発明は、ポリアリールエーテルケトン及びポリアリールスルホンからなるグループの中から選択されたポリマー、好ましくはポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリフェニレンスルホン(PPSU)、ポリスルホン(PSU)、ポリエーテルスルホン(PESU)又はこれらの混合物から成るグループから選択されたポリマーであるポリマー基材によって特徴付けられる。更に好ましくは、ポリマー基材は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)である。これらの耐熱性、これらの機械的特性、これらの化学的不活性及び溶融時のこれらの加工性の観点で、これらのポリマーは、本発明の複合材料を生成するのに特に適している。
【0038】
第1の態様による更なる実施形態では、本発明は、第1の繊維状補強材が炭素繊維であることによって特徴付けられる。本発明の意味では、用語「炭素繊維」は、熱分解工程でプラスチック繊維から得られる繊維と理解すべきである。炭素繊維は、繊維の方向に平行な高い引張強度によって、及び低い熱膨張係数、特に負の熱膨張係数によって特徴付けられる。本発明の複合材料中の炭素繊維に対する等方性の配列は、これによって、複合材料の温度感受性の膨張、及びひいては複合材料から作られた力及び運動伝達機械部品の摩耗を低く保つことができる。
【0039】
第1の態様による更なる実施形態では、本発明は、第2の繊維状補強材がガラス繊維であることによって特徴付けられる。ガラス繊維は、高い引張強度によって特徴付けられ、これによって、複合材料に大きな破断伸びを与える。ガラスは更に、低い電気伝導率によって特徴付けられる。複合材料から作られ且つ超純水と接触状態になる力及び運動伝達機械部品の摩耗が、これにより低減される。
【0040】
第1の態様による更なる実施形態では、本発明は、複合材料の総質量に対して複合材料中の第1の繊維状補強材の百分率が、合計で、3質量%又はそれ以上、好ましくは4質量%又はそれ以上、更に好ましくは5質量%又はそれ以上、更に好ましくは6質量%又はそれ以上、更に好ましくは7質量%又はそれ以上、及び20質量%又はこれよりも小さい、好ましくは19質量%又はこれよりも小さい、更に好ましくは18質量%又はこれよりも小さい、更に好ましくは17質量%又はこれよりも小さい、更に好ましくは16質量%又はこれよりも小さい、更に好ましくは15%又はこれよりも小さい、特に3質量%~18質量%、更に好ましくは5質量%~18質量%、更に好ましくは5質量%~15質量%、更に好ましくは7質量%~15質量%になることによって特徴付けられる。複合材料の総質量に対して第1の繊維状補強材、例えば炭素繊維の20質量%を超える高すぎる百分率は、超純水と接触状態になる力及び運動伝達機械部品に用いられるときに許容できない高い摩耗をもたらす。第1の繊維状補強材、例えば炭素繊維の百分率が、複合材料の総質量に対して3質量%よりも小さいときには、ポリマー基材又は第2の補強材、例えばガラス繊維の高い熱膨張は、もはや十分に補償することはできない。これに応じて、高温時にて、機械部品は、力又は運動伝達の用途において過度に高い熱膨張に起因して摩耗する可能性がある。
【0041】
第1の態様による更なる実施形態では、本発明は、複合材料の総質量に対して複合材料中の第2の補強材、例えばガラス繊維の百分率が、合計で、10質量%又はそれ以上、好ましくは12質量%又はそれ以上、好ましくは14質量%又はそれ以上、更に好ましくは15質量%又はそれ以上、更に好ましくは17質量%又はそれ以上で、及び45質量%を超えないほど、好ましくは42質量%を超えないほど、更に好ましくは40質量%を超えないほど、更に好ましくは38質量%を超えないほど、更に好ましくは35質量%を超えないほど、更に好ましくは33質量%を超えないほど、更に好ましくは30質量%を超えないほど、特に好ましくは10質量%~40質量%、更に好ましくは15質量%~35質量%、更に好ましくは15質量%~30質量%になることによって特徴付けられる。
【0042】
複合材料の総質量に対して45質量%を超える第2の補強材、例えばガラス繊維の百分率は、高すぎる複合材料の熱膨張を引き起こす可能性があり、これは特に高温時にて、本発明の複合材料から生成される力及び運動伝達機械部品の許容できないほどの摩耗をもたらす。複合材料の総質量に対して10質量%よりも小さい第2の補強材、例えばガラス繊維の低すぎる百分率は、更なる補強材、例えば第1の繊維状補強材によって補償する必要があり、その結果、複合材料は、力及び運動伝達機械部品に対して十分な安定性を有することになる。これらの補強材は、より高い電気伝導率に起因して超純水に対して不活性ではないので、このような機械部品が超純水と接触状態で用いられると、許容できないほどの摩耗が予想されることになる。
【0043】
第1の態様による更なる実施形態では、本発明は、複合材料中のポリマー基材の百分率は、複合材料の総質量に対して合計で、45質量%又はそれ以上、好ましくは50質量%又はそれ以上、更に好ましくは55質量%又はそれ以上、更に好ましくは60質量%又はそれ以上になることによって特徴付けられる。45質量%よりも小さいポリマー基材の百分率は、第1の繊維状補強材及び第2の補強材がポリマー基材によって完全に封入されていないことにつながる可能性がある。従って、これは、複合材料の安定性を低下させる可能性があり、複合材料が、力及び運動伝達構築構成要素に用いられるときに摩耗の増加につながる可能性がある。
【0044】
第1の態様による更なる実施形態では、本発明は、複合材料が抗酸化剤を含有することを特徴とする。抗酸化剤は、複合材料中の基材材料及び第1の繊維状補強材の劣化がイオン又はラジカル形成よって引き起こされるのを阻止する。
【0045】
詳細には、電荷は、摩擦接触及び結果として生じる摩擦電気作用による力及び運動の伝達のために構築構成要素に用いる複合材料に対して誘起される。第1の態様に従って定義される複合材料の場合、電荷は、基材材料及び/又は第1の繊維状補強材において、すなわち特に炭素繊維材料における均等及び不均等な共有結合開裂によって誘起される。
【0046】
不均等な結合開裂は、共有結合を開裂することによって1対のイオンを発生させ、これによって、イオンサイトは、基材材料又は繊維状補強材の分子開裂断片に位置付けられる。本出願の意味の範囲内で、基材材料又は第1の繊維状補強材においてこのようにして生成されるイオンサイトは、これらが機械的摩擦接触によって発生するので機械イオンと呼ばれる。機械イオンは、カチオン機械イオン、すなわち正電荷を帯びた分子開裂断片、及びアニオン機械イオン、すなわち負電荷を帯びた分子開裂断片を含む。
【0047】
均等結合開裂は、1対のラジカルを生成し、ラジカルサイトは、それぞれの分子開裂断片に位置付けられる。本出願の意味の範囲内で、このようなラジカルサイトは、これらが機械的摩擦接触によって発生するのでメカノラジカルと呼ばれる。
【0048】
メカノイオン及びメカノラジカルは、その後化学反応を引き起こし、これらは、新しい共有結合開裂を生じ、ひいては複合材料の強度の劣化及び喪失をもたらす。このようなメカノイオン及びメカノラジカルの形成が妨げられる場合、複合材料の脆弱化を回避することができる。10-4S/mの伝導率を有する超純水は、複合材料中のメカノイオン又はメカノラジカルと反応することができる少しのイオンだけを含有するので、十分な量のメカノイオン及びメカノラジカルと反応するのには適切ではない。従って、複合材料は、本発明の第1の態様によれば、力又は運動伝達構築構成要素として用いるとき及び摩擦電気作用に起因して過度の摩擦応力に露出されるときに超純水と組み合わせてこれらの強度を失うという問題があることが分かる。
【0049】
高い摩擦応力の条件下及び超純水と接触状態では、本発明の第1の態様による複合材料の強度は、複合材料中の抗酸化剤の割合によって更に増大させることができる。
【0050】
抗酸化剤を含有する複合材料の製造は、基材材料、第1の繊維状補強材、第2の補強材、及び抗酸化剤の構成成分の溶融押出及び配合によって行われ、複合材料を形成することができる。本出願内で、用語「抗酸化剤」は、イオン又はラジカルに対して化学的に反応性のある1又は2以上の物質を意味するものとする。本出願によれば、使用される抗酸化剤は、本発明の第1の態様に従って複合材料において形成されたメカノイオン及びメカノラジカルと反応性のあるものである。
【0051】
詳細には、トコフェロール、トコトリエノール、レスベラトロール、フラボノイドなどの化合物、芳香族アミン及び立体障害フェノールなどのH供与体、亜リン酸塩、ホスホナイト、チオシネルギストなどのヒドロペルオキシド分解剤、例えば立体障害アミン安定剤、ヒドロキシルアミン、ベンゾフラノン、アクリルロイル修飾フェノールなどのアルキルラジカルスカベンジャー、又は上述のタイプの多官能安定剤、或いは上述のタイプの安定剤の混合物を用いることができる。
【0052】
第1の態様による更なる実施形態では、本発明は、抗酸化剤が一次及び/又は二次抗酸化剤であることを特徴とする。一次抗酸化剤は、立体障害フェノール又は二次芳香族アミンとすることができる。用語「立体」は、分子レベルで空間的に要求する分子群を指す。好ましい一次抗酸化剤は、化合物3、3’,3’,5,5’,5’-ヘキサ-tert-ブチルa,a’,a’-(メシチレン-2,4,6トリチル)トリ-p-クレゾールを含有する、商業的に入手可能なEvernox 1330である。二次抗酸化剤は、過酸化物、有機ヒドロペルオキシド、亜リン酸塩、チオエーテル又は有機スルフィドとすることができる。好ましい二次抗酸化剤は、化合物ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリストリトールジホスファイトを含有する、商業的に入手可能なDoverphos S-9228である。一次抗酸化剤の使用が好ましい。
【0053】
第1の態様による更なる実施形態では、本発明は、複合材料中の抗酸化剤の割合が、複合材料の総質量に基づいて、0.001質量%~2.5質量%、好ましくは0.01質量%~2.0質量%、より好ましくは0.1質量%~1質量%であることを特徴とする。詳細には、指定範囲における抗酸化剤の割合は、電気伝導率及び熱膨張に関して複合材料の材料特性に僅かな影響しか与えず、その結果、超純水接触及び熱膨張の場合に力及び運動の伝達において機械部品としての使用における複合材料の摩耗が起こらなくなる。
【0054】
詳細には、本発明の第1の態様による本発明の複合材料は更に、基材材料、第1の繊維状補強材及び第2の補強材並びに抗酸化剤の割合が、合わせて100質量%という結果になることを特徴とすることができる。
【0055】
第1の態様による更なる実施形態では、本発明は、複合材料における第2の補強材対繊維状の第1の補強材の質量比が、合計で3:1~1:1になることによって特徴付けられる。力及び運動伝達機械部品における複合材料の摩耗率は、この質量比範囲が用いられるときに最低値を示すことが証明されている。
【0056】
第1の態様による更なる実施形態では、本発明は、繊維状の第1の補強材の繊維及び/又は繊維状の第2の補強材の繊維が、1μm又はそれ以上、好ましくは2μm又はそれ以上、更に好ましくは3μm又はそれ以上及び10μm又はこれよりも小さい、更に好ましくは9μm又はこれよりも小さい、更に好ましくは8μm又はこれよりも小さい、特に1μm~10μm、好ましくは2μm~9μm、更に好ましくは3~8μmの繊維の長手方向伸長にわたる繊維径を有することによって特徴付けられる。
【0057】
第1の態様による更なる実施形態では、本発明は、繊維状の第1の補強材の繊維及び/又は第2の繊維状補強材の繊維が、10μm又はそれ以上、好ましくは15μm又はそれ以上、好ましくは20μm又はそれ以上、好ましくは25μm又はそれ以上及び60μm又はこれよりも小さい、好ましくは55μm又はこれよりも小さい、更に好ましくは50μm又はこれよりも小さい、特に10μm~60μm、好ましくは15μm~55μm、更に好ましくは20~50μmの長さを有するによって特徴付けられる。60μmよりも大きい繊維長は、複合材料中の繊維の有利な等方性分布を阻止する可能性がある。詳細には、小さい機械部品の場合には、60μmよりも大きな繊維長は、構築構成要素の製造中に、構築構成要素の安定性に悪影響を与える可能性がある繊維配向につながる可能性がある。10μm又はそれよりも小さい繊維長は、複合材料においてこれらの架橋特性を失った繊維状の第1又は第2の補強材をもたらし、複合材料の安定性の低下を生じる可能性がある。
【0058】
詳細には、第1の繊維及び第2の繊維状補強材についての繊維径及び長さの好ましい範囲は、第1の繊維状補強材の繊維及び第2の繊維状補強材の繊維についての直径対長さの比率が、合計で1:2~1:20になるように選択すべきである。第1の繊維及び第2の繊維状補強材の繊維の少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、更に好ましくは80%は、この好ましい比率にある。
【0059】
第1の態様による更なる実施形態では、本発明は、複合材料が摩擦修正のための更なる構成成分を含むことによって特徴付けられる。上述の更なる構成成分は、例えば窒化ホウ素及び/又は「テフロン(登録商標)」である。更なる摩擦修正構成成分の百分率は、複合材料の総質量に対して合計で、15質量%又はこれよりも小さい、好ましくは10質量%又はこれよりも小さい、更に好ましくは5質量%又はこれよりも小さい、摩擦修正構成成分が複合材料に提供される場合には、少なくとも0.2質量%又は少なくとも0.5質量%、或いは少なくとも1質量%になる。
【0060】
第1の態様による更なる実施形態では、本発明は、ポリマー基材、第1の繊維状補強材及び第2の補強材の百分率が、合計で、97質量%又はそれ以上、詳細には100質量%になることによって特徴付けられる。
【0061】
第2の態様において、本発明は、本発明の第1の態様に従う少なくとも1つの実施形態による複合材料を含む力及び運動を伝達するための機械部品に関する。本発明の機械部品は、低い摩耗によって特徴付けられる。詳細には、機械部品はまた、超純水と接触状態にあるときに低摩耗を示す。
【0062】
第2の態様の1つの実施形態では、本発明は機械部品に関し、機械部品はギアである。
【0063】
第3の態様において、本発明は、ギアポンプに関し、これは、本発明の第2の態様に従う1つの実施形態による少なくとも1つのギアを有するギアポンプによって特徴付けられる。設計に起因して、ギアポンプのギアは、ポンプ送給される流体中に浮遊される。本発明によるギアポンプの利点は、特に高温においても、超純水のポンプ送給と比べてより小さい摩耗を示すことに見られる。更に、ギアポンプはまた、例えば医療用デバイスの熱洗浄中に、酸化殺菌剤をポンプ送給するときに低摩耗であることが分かった。従って、本発明のギアポンプは、医療技術分野における使用、特に透析機におけるポンピング装置として好適である。
【0064】
実施例
リング試験のブロック
「リング試験のブロック」は、ASTM G77-17の仕様に基づいて行われた。4×4×17mmを計測した試験サンプルは、試験される複合材料から生成された。試験サンプルは、試験ベッドに装着されて環状体上に設定された。環状体は、CrNiMo鋼から成っていた。試験体は、その後2.5MPaの力を受けて、リングの外面に押し付けられた。リングは、試験サンプルが、0.5m/sの相対速度で環状体の接触領域上を滑動するように回転状態に設定された。リング及び試験サンプルの試験温度は、23℃に設定された。試験サンプル及びリングは、試験中に水で洗い流された。36000mの相対総滑動距離を横断した。
(1)比摩耗量
比摩耗量を決定するために、試験サンプルと環状体との間に2.5Vの電圧が印加された。印加された電圧は、複合材料の超純水用途の下で腐食状態を擬似したサンプル及びリング表面電荷を発生させた。一般的な実験室の脱塩水は、潤滑剤として用いられた。滑動中に結果として生じる試験サンプルの磨損の量は、時間の関数として測定された。特定の摩耗係数は、研磨摩耗量と時間との間の検出された直線的な進行の勾配から決定された。 同時に、摩擦係数は、駆動される環状体のトルクを介して決定された。
同じ工程条件は、様々な複合材料に対する比較試験のために何れの場合にも事前設定され、決定された比摩耗量及び摩擦係数が、それぞれ試験された複合材料の組成物のみに依存するようにした。
【0065】
複合材料の製造
(1)実施例1:PEEK/CF/GF-PEEK炭素繊維及びガラス繊維の複合材料
Victrex companyによるポリエーテルエーテルケトンの塊、-0.1×10-6/Kの熱膨張係数を有する炭素繊維、及び1×10-9S/mの電気伝導率を有するガラス繊維は、溶融押出によって複合材料に配合されて試験サンプルに加工された。炭素繊維及びガラス繊維は、同じ質量部で用いられた。試験サンプル中の炭素繊維及びガラス繊維の百分率は、何れの場合も合計15質量%になった。特定の摩耗係数及び摩擦係数は、「リング試験のブロック」を介して決定された。更に、複合材料の熱膨張は、熱機械分析によって決定された。表1に値が示されている。
【0066】
(2)実施例2:PEEK/CF-PEEK及び炭素繊維の構成材料-比較例
Victrex companyによるポリエーテルエーテルケトンの塊及び-0.1×10-6/Kの熱膨張係数を有する炭素繊維は、溶融押出によって配合されて試験試料に加工された。試験サンプル中の炭素繊維の百分率は、合計で30質量%になった。特定の摩耗係数及び摩擦係数は、「リング試験のブロック」を介して決定された。更に、複合材料の熱膨張は、熱機械分析によって決定された。表1に値が示されている。
【0067】
実施例3:PEEK及びガラス繊維のPEEK/GF複合材料-比較サンプル
Victrex companyによるポリエーテルエーテルケトの塊及び1×10-9S/mの電気伝導率を有するガラス繊維は、溶融押出によって配合されて試験サンプに加工された。試験試料中のガラス繊維のそれぞれの百分率は、合計で30質量%になった。特定の摩耗係数及び摩擦係数は、「リング試験のブロック」を介して決定された。更に、複合材料の熱膨張は、熱機械分析によって決定された。表1に値が示されている。
【0068】
実施例4-比較例
試験サンプルはPEEKから生成された。特定の摩耗係数及び摩擦係数は、「リング試験のブロック」を介して決定された。複合材料の熱膨張は更に決定された。表1に値が示されている。
【0069】
【0070】
結果は、本発明のPEEK/CF/GF複合材料がPEEK/CF複合材料に対応する摩擦係数を表すことを示している。
【0071】
摩擦係数は、PEEK/GF複合材料の摩擦係数よりも低い。PEEK/CF/GFの熱膨張係数は、ガラス繊維の百分率に起因してPEEK/CF複合材料に対して増加したにもかかわらず、PEEK/GF複合材料の熱膨張係数よりも低い。PEEK/CF/GF複合材料の比摩耗量は、比較PEEK/CF及びPEEK/GF複合材料の比摩耗量よりも予想外に著しく低かった。