(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】熱的に処理された鋼板を製造するための動的調整の方法
(51)【国際特許分類】
C21D 9/46 20060101AFI20240221BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20240221BHJP
C22C 38/38 20060101ALI20240221BHJP
C21D 9/56 20060101ALI20240221BHJP
C21D 9/52 20060101ALI20240221BHJP
【FI】
C21D9/46 G
C22C38/00 301S
C22C38/00 301T
C22C38/38
C21D9/46 J
C21D9/56 101C
C21D9/52 101
(21)【出願番号】P 2021206744
(22)【出願日】2021-12-21
(62)【分割の表示】P 2019554049の分割
【原出願日】2017-12-20
【審査請求日】2022-01-17
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2016/001788
(32)【優先日】2016-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(73)【特許権者】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フレデリック・ボネ
(72)【発明者】
【氏名】バン・タン・ファム
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-120742(JP,A)
【文献】国際公開第1990/015885(WO,A1)
【文献】米国特許第05891275(US,A)
【文献】特開昭62-156228(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/46
C22C 38/00
C22C 38/38
C21D 9/56
C21D 9/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱部、均熱部及び冷却システムを含む冷却部を含む熱処理ライン内で、少なくとも加熱ステップ、均熱ステップ及び冷却ステップを含む事前に定められた熱処理TTが実施される、化学的鋼組成並びにフェライト、マルテンサイト、ベイナイト、パーライト、セメンタイト及びオーステナイトの中から選択される0~100%の少なくとも1つの相を含むミクロ組織m
targetを有する熱的に処理された鋼板を製造するための動的調整の方法であって、
A.少なくとも1つの検出器が、TT中に生じる何らかのずれを検出する、制御ステップであって、前記ずれは、炉温度、鋼板温度、ガスの量、ガス組成、ガス温度、ライン速度、熱処理ライン内の故障、溶融浴の変化、鋼板放射率及び鋼厚さの変化の中から選択される1つの工程パラメータの偏差に起因するものである、ステップ、
B.ある一つのずれがTT中に検出されたとき実施される計算ステップであって、m
targetに達するために前記ずれを考慮して新しいある一つの熱経路TP
targetが決定されるようにするものであり、その計算ステップが、
1)冷却能の変化により、新しい冷却経路(複数)CP
xが、TT、m
targetに達するための前記鋼板の初期ミクロ組織mi、加熱経路、T
soakingを含む均熱経路及びT
coolingに基づいて計算される計算サブステップであって、TTの冷却ステップが、ある一つの熱経路TP
xを得るために、1個のCP
xで置き換えられた前記冷却ステップを有する新しい熱経路(複数)TP
xを得るために前記CP
xを使用して再計算され、各TP
xが、ある1つのミクロ組織m
xに対応するものであり、前記加熱経路が、加熱時間、加熱温度及び加熱率により規定され、前記均熱経路が、均熱時間、均熱温度及び等温率により規定される、計算サブステップ、
2)m
targetに達するための1個のTP
targetが選択され、TP
targetが、前記計算された熱経路(複数)TP
xの中から選択され、及びm
xがm
targetに最も近いように選択される、選択ステップ
を含む、計算ステップ、並びに
C.TP
targetが、前記鋼板に対してオンラインで実施される、新しい熱処理ステップ
を含み、
ステップB.1)において、m
target及びm
x中に存在する相割合の間の差が±3%であり、
ステップB.1)において、m
i及びm
targetの間の放出される熱エンタルピーHが、
【数1】
(Xは相分率である。)
のように計算され、
ステップB.1)において、すべての冷却経路CP
xが、
【数2】
(式中、Cpe:相の比熱(J・kg
-1・K
-1)、ρ:鋼の密度(g.m
-3)、Ep:前記鋼の厚さ(m)、ファイ(φの小文字):熱流束(対流及び放射、W)、H
released(J.kg
-1)、T:温度(℃)及びt:時間(s)。)
のように計算される、方法。
【請求項2】
前記相が、サイズ、形状及び化学組成から選択される少なくとも1つの要素により規定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ミクロ組織m
targetには、
- 100%のオーステナイト、
- 5~95%のマルテンサイト、4~65%のベイナイト、残部はフェライト、
- 8~30%の残留オーステナイト、固溶体中の0.6~1.5%の炭素、残部はフェライト、マルテンサイト、ベイナイト、パーライト及び/又はセメンタイト、
- 1%~30%のフェライト及び1%~30%のベイナイト、5~25%のオーステナイト、残部はマルテンサイト、
- 5~20%の残留オーステナイト、残部はマルテンサイト、
- フェライト及び残留オーステナイト、
- 残留オーステナイト及び金属間相、
- 80~100%のマルテンサイト及び0~20%の残留オーステナイト
- 100%のマルテンサイト、
- 5~100%のパーライト及び0~95%のフェライト並びに
- 少なくとも75%の等軸フェライト、5~20%のマルテンサイト及び10%以下の量のベイナイト
が含まれる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記鋼板が、二相、変態誘起塑性、焼入れ及び分配された鋼、双晶誘起塑性、炭化物を含まないベイナイト、プレスハードニング鋼、TRIPLEX、
又は高延性二相である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
TTが、予熱ステップをさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
TTが、溶融めっきステップ、過時効ステップ又は分配ステップをさらに含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ステップB.1)において、前記冷却システムの冷却能が、最小値から最大値まで変化する、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ステップB.1)において、前記冷却システムの冷却能が、最大値から最小値まで変化する、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ステップB.1)において、T
soakingが、600~1000℃の間の範囲から選択される定数である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
ステップB.1)において、T
soakingが、600℃から1000℃まで変化する、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
ステップB.1)の後に、
a.T
soakingが、600~1000℃の間の事前に定められた範囲値内で変化し、及び
b.T
soakingの各変化に対して、新しい冷却経路(複数)CP
xが、TT、m
standardに達するためのm
i及びT
coolingに基づいて計算され、TTの冷却ステップが、新しい熱経路(複数)TP
xを得るために前記CP
xを使用して再計算され、各TP
xがある1つのミクロ組織m
xに対応する
さらなる計算サブステップが実施される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
選択ステップB.2)において、前記選択されたTP
targetには、T
soakingの値がさらに含まれる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ステップB.2)において、少なくとも2個のCP
xが、等しいそれらのm
xを有するとき、選択される前記選択されたTP
targetが、必要な最小冷却能を有するものである、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
ステップB.1)において、中間冷却経路CP
xintに対応する少なくとも1つの中間鋼ミクロ組織m
xint及び熱エンタルピーH
xintが計算される、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
ステップB.1)において、CP
xが、すべてのCP
xintの合計であり、及びH
releasedが、すべてのH
xintの合計である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記冷却システムが、少なくとも1個の冷却ジェット、少なくとも1つの冷却噴霧器又は少なくとも両方を含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記冷却システムが、少なくとも1個の冷却ジェットを備え、前記冷却ジェットが、ガス、水性液又はそれらの混合物を噴霧する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記ガスが、空気、HN
x、H
2、N
2、Ar、He、水蒸気又はそれらの混合物から選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記水性液が、水又はナノ流体から選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記冷却ジェットが、0~350000Nm
3/hの間のデビットフローを有する空気を噴霧する、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記冷却部の後に、溶融浴を含む溶融めっき部が続き、T
coolingが前記溶融浴の浴温度である、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記溶融浴が、アルミニウム
をベースとするか、又は亜鉛
をベースとする、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
T
coolingが焼入れ温度T
qである、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
T
coolingが150~800℃の間である、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
新しい鋼板が前記熱処理ラインに入るたびに、新しい計算ステップB.1)が自動的に実施される、請求項1~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
何らかのずれが現れたかを確認するために、自動計算が熱処理中に実施される、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱処理ライン内で、化学的鋼組成並びにフェライト、マルテンサイト、ベイナイト、パーライト、セメンタイト及びオーステナイトの中から選択される0~100%の少なくとも1つの相を含むミクロ組織mtargetを有する熱的に処理された鋼板を製造するための動的調整の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被覆鋼板又は未被覆鋼板を自動車車両の製造のために使用することが既知である。多数の鋼グレードが、乗り物を製造するために使用される。鋼グレードの選択は、鋼部品の最終用途に依存する。例えば、IF(極低炭素)鋼は、露出部品のために生産され得、TRIP(変態誘起塑性)鋼は、シート及びフロアクロスメンバ又はAピラーのために生産され得、DP(二相)鋼は、リアレール又はルーフクロスメンバのために生産され得る。
【0003】
これらの鋼の生産中、1つの特定の用途向けに期待される機械的性質を有する所望の部品を得るために、極めて重要な処理が鋼に対して実施される。そのような処理は、例えば、金属被覆を付着させる前の連続焼鈍又は焼入れ及び分配処理であり得る。これらの処理では、冷却ステップが重要であるが、その理由は、鋼のミクロ組織及び機械的性質が、実施される冷却処理に主に依存するからである。通常、実施する冷却ステップを含む処理は、既知の処理のリストの中から選択され、この処理は、鋼グレードに応じて選択される。
【0004】
しかしながら、これらの処理中、何らかの予定外のずれがオンラインで現れることがある。例えば、炉内の温度、鋼板の厚さ、ライン速度が変化し得る。
【0005】
特許出願US4440583は、帯鋼が進む方向に配置された、高温の走行する帯鋼に対して冷却剤を噴霧する複数のノズル、及び冷却剤をノズルに供給するパイプに取り付けられた流量制御弁を含む冷却装置を使用することにより実施される、鋼帯のための制御された冷却の方法に関する。帯鋼の厚さ、冷却開始温度及び冷却終了温度並びに所望の冷却率を含む式を使用することにより、所望の冷却率を得るのに必要な熱伝達率が計算され、得られた熱伝達率は、冷却剤噴霧ゾーンの前後のアイドルパスゾーン内の自然冷却効果に従って補正される。次いで、冷却剤の流量と熱伝達率とのあらかじめ確立された関係から冷却剤の流量が導かれ、設定される。帯鋼の進行経路に沿った冷却剤噴霧ゾーンの長さは、帯鋼の走行速度、冷却開始温度及び冷却終了温度並びに所望の冷却率を使用して計算される。計算値に対応するような数のノズルのみから冷却剤が噴霧されるように、ノズルはオンオフが設定される。制御された冷却が行われている間に帯鋼の厚さが変化すると、それに応じて冷却剤の流量を補正するように、上述の設定に基づいて熱伝達率が再計算される。帯鋼の速度が変化すると、ノズルのオンオフパターンを補正するように、冷却剤噴霧領域の長さが再計算される。
【0006】
この方法では、ずれが現れると、ずれを補正するように、熱伝達率又は冷却剤噴霧領域の長さが再計算される。この方法は、化学組成、ミクロ組織、性質、表面性状などを含む鋼板特性を考慮していない。したがって、各鋼板がそれ自体の特性を有する場合でも、同じ補正が任意の種類の鋼板に適用されるというリスクがある。この方法は、多数の鋼グレードの個別化されていない冷却処理を可能にする。
【0007】
その結果、補正は、1つの特定の鋼に適合されておらず、したがって、処理の最後に所望の特性が得られない。さらに、処理後、鋼は、機械的性質のばらつきが大きくなり得る。最後に、広範囲の鋼グレードを製造できる場合でも、処理された鋼の品質は不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の目的は、熱処理ライン内で、特定の化学的鋼組成及び達すべき特定のミクロ組織mtargetを有する熱的に処理された鋼板を製造するための動的調整の方法を提供することにより、上述の欠点を解決することである。特に、この目的は、各鋼板に適合させた処理を提供することにより、冷却処理をオンラインで調整することであり、そのような処理は、期待される性質を有する鋼板を提供するために可能な限り最短の計算時間で非常に正確に計算され、そのような性質は、可能な限り最小限のばらつきを有する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的は、請求項1に記載の方法を提供することにより達成される。本方法はまた、請求項2~37に記載のいずれかの特性を含むことができる。
【0011】
別の目的は、請求項38に記載のコイルを提供することにより達成される。本方法はまた、請求項39又は41に記載の特性を含むことができる。
【0012】
別の目的は、請求項42に記載の熱的処理ラインを提供することにより達成される。
【0013】
最後に、この目的は、請求項43に記載のコンピュータプログラム製品を提供することにより達成される。
【0014】
本発明の他の特徴及び利点は、以下の発明を実施するための形態から明らかになるであろう。
【0015】
本発明を例示するために、特に以下の図を参照して、非限定的な例の様々な実施形態及び試行を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】加熱ステップ、均熱ステップ、冷却ステップ及び過時効ステップを含む鋼板の連続焼鈍を示す図である。
【
図3】本発明による好ましい実施形態を示す図である。
【
図4】溶融により被覆を付着させる前に連続焼鈍が鋼板に対して実施される本発明による一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下の用語が定義される:
- CC:重量パーセント単位の百分率での化学組成、
- mtarget:ミクロ組織の目標値、
- mstandard:選択された製品のミクロ組織、
- Ptarget:機械的性質の目標値、
- mi:鋼板の初期ミクロ組織、
- X:重量パーセント単位の相分率、
- T:セルシウス温度(℃)単位の温度、
- t:時間(s)、
- s:秒、
- UTS:最大引張強さ(MPa)
- YS:降伏応力(MPa)
- 亜鉛に基づく金属被覆は、50%超の亜鉛を含む金属被覆を意味し、
- アルミニウムに基づく金属被覆は、50%超のアルミニウムを含む金属被覆を意味し、及び
- TT:熱処理及び
- 熱経路、TT、TPtarget及びTPxは、時間、熱処理の温度、及び冷却率、等温率又は加熱率から選択される少なくとも1つの率を含み、
- 加熱経路は、時間、温度及び加熱率を含み、
- 均熱経路は、時間、温度及び均熱率を含み、
- CPx及びCPxintは、時間、温度及び冷却率を含み、及び
- ナノ流体:ナノ粒子を含む流体。
【0018】
「鋼」又は「鋼板」という名称は、部品が、最大2500MPa、より好ましくは最大2000MPaの引張強さを実現するのを可能にする組成を有する鋼板、コイル、プレートを意味する。例えば、引張強さは、500MPa以上、好ましくは1000MPa以上、有利には1500MPa以上である。本発明による方法は任意の種類の鋼に適用できるため、広範囲の化学組成が含まれる。
【0019】
本発明は、加熱部、均熱部及び冷却システムを含む冷却部を含む熱処理ライン内で、少なくとも加熱ステップ、均熱ステップ及び冷却ステップを含む事前に定められた熱処理TTが実施される、化学的鋼組成並びにフェライト、マルテンサイト、ベイナイト、パーライト、セメンタイト及びオーステナイトの中から選択される0~100%の少なくとも1つの相を含むミクロ組織mtargetを有する熱的に処理された鋼板を製造するための動的調整の方法であって、
A.少なくとも1つの検出器が、TT中に生じる何らかのずれを検出する、制御ステップ、
B.ある一つのずれがTT中に検出されたとき実施される計算ステップであって、mtargetに達するためにずれを考慮して新しい熱経路TPtargetが決定されるようにするものであり、その計算ステップが、
1)冷却能の変化により、新しい冷却経路(複数)CPxが、TT、mtargetに達するための鋼板の初期ミクロ組織mi、加熱経路、Tsoakingを含む均熱経路及びTcoolingに基づいて計算され、TTの冷却ステップが、新しい熱経路(複数)TPxを得るために前記CPxを使用して再計算され、各TPxが、ある1つのミクロ組織mxに対応する、計算サブステップ、
2)mtargetに達するための1個のTPtargetが選択され、TPtargetは、計算された熱経路(複数)TPxの中から選択され、及びmxがmtargetに最も近いように選択される、選択ステップ
を含む、計算ステップ、及び
C.TPtargetが、鋼板に対してオンラインで実施される、新しい熱処理ステップ
を含む、方法に関する。
【0020】
いかなる理論によっても制限されることは望まないが、本発明による方法が適用されるとき、各鋼板に応じた個別化された冷却経路を含む個別化された熱処理を提供することにより、熱処理中に生じる何らかのずれを補正することが可能であるようである。したがって、正確な新しい熱経路TPtargetが、mtarget、特に冷却経路中のすべての相の割合、mi(鋼板に沿ったミクロ組織のばらつきを含む。)及びずれを考慮して、短い計算時間で計算される。実際、本発明による方法は、計算のために、熱力学的安定相、すなわち、フェライト、オーステナイト、セメンタイト及びパーライト、並びに熱力学的準安定相、すなわち、ベイナイト及びマルテンサイトを考慮している。したがって、可能な限り最小限のばらつきを有する、期待される性質を有する鋼板が得られる。
【0021】
好ましくは、ミクロ組織mx相、mtarget相及びmi相は、サイズ、形状及び化学組成から選択された少なくとも1つの要素により規定される。
【0022】
好ましくは、TTは、予熱ステップをさらに含む。より好ましくは、TTは、溶融めっきステップ、過時効ステップ又は分配ステップをさらに含む。
【0023】
好ましくは、達すべきミクロ組織mtargetは、
- 100%のオーステナイト、
- 5~95%のマルテンサイト、4~65%のベイナイト、残部はフェライト、
- 8~30%の残留オーステナイト、固溶体中の0.6~1.5%の炭素、残部はフェライト、マルテンサイト、ベイナイト、パーライト及び/又はセメンタイト、
- 1%~30%のフェライト及び1%~30%のベイナイト、5~25%のオーステナイト、残部はマルテンサイト、
- 5~20%の残留オーステナイト、残部はマルテンサイト、
- フェライト及び残留オーステナイト、
- 残留オーステナイト及び金属間相、
- 80~100%のマルテンサイト及び0~20%の残留オーステナイト
- 100%のマルテンサイト、
- 5~100%のパーライト及び0~95%のフェライト並びに
- 少なくとも75%の等軸フェライト、5~20%のマルテンサイト及び10%以下の量のベイナイト
を含む。
【0024】
有利には、鋼板は、二相DP、変態誘起塑性(TRIP)、焼入れ及び分配された鋼(Q&P)、双晶誘起塑性(TWIP)、炭化物を含まないベイナイト(CFB)、プレスハードニング鋼(PHS)、TRIPLEX、DUPLEX及び高延性二相(DP HD)を含む任意の種類の鋼グレードであり得る。
【0025】
化学組成は各鋼板に依存する。例えば、DP鋼の化学組成は以下を含み得る:
0.05<C<0.3%、
0.5≦Mn<3.0%、
S≦0.008%、
P≦0.080%、
N≦0.1%、
Si≦1.0%、
鉄及び成長の結果生じる不可避不純物で構成される組成物の残部。
【0026】
図1は、TTが熱処理ライン内で鋼板に対して実施される本発明による一例を示し、そのような鋼板は、化学組成CC及び達すべきm
targetを有する。
【0027】
本発明によれば、ステップA)において、熱処理中に生じる何らかのずれが検出される。好ましくは、ずれは、炉温度、鋼板温度、ガスの量、ガス組成、ガス温度、ライン速度、熱処理ライン内の故障、溶融浴の変化、鋼板放射率及び鋼厚さの変化の中から選択される工程パラメータの変化に起因する。
【0028】
炉温度は、加熱温度、均熱温度、冷却温度、過時効温度であり得る。
【0029】
鋼板温度は、熱処理の任意の時点に、熱処理ラインの様々な位置、例えば、
-好ましくは直火炉(DFF)、ラジアントチューブ炉(RTF)、電気抵抗炉又は誘導炉である加熱部内、
-冷却部内、特に、冷却ジェット内、焼入れシステム内又はスナウト内及び
-好ましくは電気抵抗炉である等温部内
で測定することができる。
【0030】
温度変化を検出するために、検出器は、高温計又はスキャナであり得る。
【0031】
通常、熱処理は、酸化性雰囲気中、すなわち、例えば、O2、CO2又はCOである酸化性ガスを含む雰囲気中で実施することができる。熱処理はまた、中性雰囲気中、すなわち、例えば、N2、Ar、He又はXeである中性ガスを含む雰囲気中で実施することができる。最後に、熱処理はまた、還元性雰囲気中、すなわち、例えば、H2又はHNxである還元性ガスを含む雰囲気中で実施することができる。
【0032】
ガス量の変化は、気圧計により検出することができる。
【0033】
ライン速度は、レーザ検出器により検出することができる。
【0034】
例えば、熱処理ライン内の故障は以下があり得る:
-直火炉内:もはや動作しないバーナー、
- ラジアントチューブ炉内:もはや動作しないラジアントチューブ、
- 電気炉内:もはや動作しない抵抗又は
- 冷却部内:もはや動作しない1個又はいくつかの冷却ジェット。
【0035】
そのような場合、検出器は、高温計、気圧計、電気消費量又はカメラであり得る。
【0036】
鋼厚さの変化は、レーザ検出器又は超音波検出器により検出することができる。
【0037】
ずれが検出されたとき、冷却能の変化により、新しい冷却経路(複数)CPxが、TT、mtargetに達するためのmi、加熱経路、Tsoakingを含む均熱経路及びTcoolingに基づいて計算され、TTの冷却ステップが、新しい熱経路(複数)TPxを得るために前記CPxを使用して再計算され、各TPxが、ある1つのミクロ組織mxに対応する。CPxの計算は、熱的挙動が考慮されるだけの従来の方法と比較して、鋼板の熱的挙動及び冶金学的挙動に基づいている。
【0038】
図2は、加熱ステップ、均熱ステップ、冷却ステップ及び過時効ステップを含む鋼板の連続焼鈍を示す。T
soakingの変化に起因するずれDが検出される。したがって、
図2に第1の冷却ステップについてのみ示すように、TP
xの中から選択されるTP
standardがm
targetに達するように、多数のCP
x、したがって、TP
xが計算される。この例において、計算されたCP
xは第2の冷却ステップも含む(図示せず)。
【0039】
好ましくは、ステップB.1)において、冷却システムの冷却能は、最小値から最大値まで、又は最大値から最小値まで変化する。例えば、冷却システムは、少なくとも1個の冷却ジェット、少なくとも1つの冷却噴霧器又は少なくとも両方を含む。好ましくは、冷却システムは、少なくとも1個の冷却ジェットを備え、冷却ジェットは、ガス、水性液又はそれらの混合物である流体を噴霧する。例えば、ガスは、空気、HNx、H2、N2、Ar、He、水蒸気又はそれらの混合物から選択される。例えば、水性液は、水又はナノ流体から選択される。
【0040】
好ましくは、冷却ジェットは、0~350000Nm3/hの間の流量を有するガスを噴霧する。冷却部内に存在する冷却ジェットの数は、熱処理ラインに依存し、1から25個まで、好ましくは1から20個まで、有利には1から15個まで変化し得、より好ましくは1~5個の間で変化し得る。流量は、冷却ジェットの数に依存する。例えば、1個の冷却ジェットの流量は、0~50000Nm3/hの間、好ましくは0~40000Nm3/hの間、より好ましくは0~20000Nm3/hの間である。
【0041】
冷却部が冷却ジェットを備えるとき、冷却能の変化は流量に基づく。例えば、1個の冷却ジェットの場合、0Nm3/hは、0%の冷却能に対応し、40000Nm3/hは、100%の冷却能に対応する。
【0042】
したがって、例えば、1個の冷却ジェットの冷却能は、0Nm3/h、すなわち0%から40000Nm3/h、すなわち100%まで変化する。冷却能の最小値及び最大値は、0~100%の範囲内で選択される任意の値であり得る。例えば、最小値は、0%、10%、15%又は25%のものである。例えば、最大値は、80%、85%、90%又は100%のものである。
【0043】
冷却部が、少なくとも2個の冷却ジェットを備えるとき、冷却能は、各冷却ジェットにおいて同じでも、異なっていてもよい。これは、各冷却ジェットが互いに独立して構成され得ることを意味する。例えば、冷却部が11個の冷却ジェットを備えるとき、最初の3個の冷却ジェットの冷却能は100%の冷却能であり得、次の4個の冷却能は45%の冷却能であり得、最後の4個の冷却能は0%の冷却能であり得る。
【0044】
例えば、冷却能の変化の増加は、5~50%の間、好ましくは5~40%の間、より好ましくは5~30%の間、有利には5~20%の間である。冷却能の増加は、例えば、10%、15%又は25%の増加である。
【0045】
冷却部が、少なくとも2個の冷却ジェットを備えるとき、冷却能の増加は、各冷却ジェットにおいて同じでも、異なっていてもよい。例えば、ステップB.1)において、冷却能の増加は、すべての冷却ジェットにおいて5%の増加であり得る。別の実施形態において、冷却能の増加は、最初の3個のジェットにおいて5%、次の4個において20%、最後の4個において15%の増加であり得る。好ましくは、冷却能の増加は、各冷却ジェットにおいて異なり、例えば、第1のジェットにおいて5%、第2のジェットにおいて20%、第3のジェットにおいて0%、第4のジェットにおいて10%、第5のジェットにおいて0%、第6のジェットの35%などである。
【0046】
好ましい実施形態において、冷却システムは、相変態に応じて互いに独立して構成される。例えば、冷却システムが11個の冷却ジェットを備えるとき、最初の3個の冷却ジェットの冷却能は、変態のために構成され得、次の4個の冷却能は、オーステナイトからパーライトへの変態のために構成され得、最後の4個の冷却能は、オーステナイトからベイナイトへの変態のために構成され得る。別の実施形態において、冷却能の増加は、各冷却ジェットにおいて異なり得る。
【0047】
好ましくは、ステップB.1)において、Tsoakingは、600~1000℃の間の範囲から選択される定数である。例えば、Tsoakingは、鋼板に応じて700℃、800℃又は900℃であり得る。
【0048】
別の好ましい実施形態において、Tsoakingは、600℃から1000℃まで変化する。例えば、Tsoakingは、鋼板に応じて650から750℃まで、又は800から900℃まで変化し得る。
【0049】
有利には、Tsoakingが変化するとき、ステップB.1)の後に、
a.Tsoakingが、600~1000℃の間の事前に定められた範囲値内で変化し、及び
b.Tsoakingの各変化に対して、新しい冷却経路(複数)CPxが、TT、mstandardに達するためのmi及びTcoolingに基づいて計算され、TTの冷却ステップが、新しい熱経路(複数)TPxを得るために前記CPxを使用して再計算され、各TPxが、ある1つのミクロ組織mxに対応する
さらなる計算サブステップが実施される。
【0050】
実際、本発明による方法により、Tsoakingの変化は、CPxの計算のために考慮される。したがって、各均熱温度について、多数の新しい冷却経路CPx、したがって、新しいTPxが計算される。
【0051】
好ましくは、少なくとも10個のCPXが計算され、より好ましくは少なくとも50個、有利には少なくとも100個、より好ましくは少なくとも1000個のCPXが計算される。例えば、計算されたCPxの数は、2~10000個の間、好ましくは100~10000個の間、より好ましくは1000~10000個の間である。
【0052】
ステップB.2)において、mtargetに達するための1個のTPtargetが選択され、TPtargetは、TPxから選択され、及びmxがmtargetに最も近いように選択される。好ましくは、mtarget及びmx中に存在する相割合の間の差は±3%である。
【0053】
好ましくは、ステップB.2)において、少なくとも2個のCPxが、等しいそれらのmxを有するとき、選択される選択されたTPtargetは、必要な最小冷却能を有するものである。
【0054】
有利には、Tsoakingが変化するとき、選択されたTPtargetは、mtargetに達するためのTsoakingの値をさらに含み、TPtargetは、TPxから選択される。
【0055】
有利には、ステップB.2)において、mi及びmtargetの間の熱エンタルピーHreleasedが、
【0056】
【数1】
(Xは相分率である。)
のように計算される。
【0057】
いかなる理論によっても制限されることは望まないが、Hは、相変態が実施されるときにすべての熱経路に沿って放出されるエネルギーを表す。いくつかの相変態は発熱性であり、いくつかの相変態は吸熱性であると考えられる。例えば、加熱経路中のフェライトからオーステナイトへの変態は吸熱性である一方、冷却経路中のオーステナイトからパーライトへの変態は発熱性である。
【0058】
好ましい実施形態において、ステップB.2)において、すべての熱サイクルCPxが、
【0059】
【数2】
(式中、C
pe:相の比熱(J・kg
-1・K
-1)、ρ:鋼の密度(g.m
-3)、Ep:鋼の厚さ(m)、φ:熱流束(対流及び放射、W)、H
realeased(J.kg
-1)、T:温度(℃)及びt:時間(s)。)
のように計算される。
【0060】
好ましくは、ステップB.2)において、中間熱経路CPxintに対応する少なくとも1つの中間鋼ミクロ組織mxint及び熱エンタルピーHxintが計算される。この場合、CPXの計算は、多数のCPxintの計算によって得られる。したがって、好ましくは、CPxは、すべてのCPxintの合計であり、Hreleasedは、すべてのHxintの合計である。この好ましい実施形態において、CPxintは、定期的に計算される。例えば、CPxintは、0.5秒毎、好ましくは0.1秒以下毎に計算される。
【0061】
図3は、ステップB.1)において、CP
xint1及びCP
xint2にそれぞれ対応するm
int1及びm
int2並びにH
xint1及びH
xint2が計算される好ましい実施形態を示す。すべての熱経路中のH
releasedが、CP
xを計算するために決定される。本実施形態において、多数の、すなわち、2個を超えるCP
xint、m
xint及びH
xintが、CP
xを得るために計算される(図示せず)。
【0062】
好ましい実施形態において、ステップA.1)の前に、降伏応力YS、最大引張強さUTS、伸び、穴拡げ性、成形性の中から選択される少なくとも1つの目標機械的性質Ptargetが選択される。本実施形態において、好ましくは、mtargetは、Ptargetに基づいて計算される。
【0063】
いかなる理論によっても制限されることは望まないが、鋼板の特性は、鋼生産中に適用される工程パラメータにより規定されると考えられる。したがって、有利には、ステップB.1)において、熱処理ラインに入る前に鋼板が経る工程パラメータが、CPxを計算するために考慮される。例えば、工程パラメータは、冷間圧延圧下率、巻取温度、ランアウトテーブル冷却経路、冷却温度及びコイル冷却率の中から選択される少なくとも1つの要素を含む。
【0064】
別の実施形態において、熱処理ライン内で鋼板が経る処理ラインの工程パラメータが、CPxを計算するために考慮される。例えば、工程パラメータは、ライン速度、達すべき特定の熱鋼板温度、加熱部の加熱能、加熱温度及び均熱温度、冷却部の冷却能、冷却温度並びに過時効温度の中から選択される少なくとも1つの要素を含む。
【0065】
好ましくは、冷却部の後に、溶融浴を含む溶融めっき部が続くとき、Tcoolingは浴温度である。好ましくは、浴は、アルミニウムに基づいているか、又は亜鉛に基づいている。好ましい実施形態において、アルミニウムに基づく浴は、15%未満のSi、5.0%未満のFe、任意選択的に0.1~8.0%のMg、任意選択的に0.1~30.0%のZnを含み、残部はAlである。
【0066】
別の好ましい実施形態において、亜鉛に基づく浴は、0.01~8.0%のAl、任意選択的に0.2~8.0%のMgを含み、残部はZnである。
【0067】
溶融浴はまた、供給鋼塊からの、又は溶融浴内の鋼板の通過による不可避不純物及び残留元素を含み得る。例えば、任意選択的な不純物は、Sr、Sb、Pb、Ti、Ca、Mn、Sn、La、Ce、Cr、Zr又はBiから選択され、余分な各元素の重量含有率は、0.3重量%未満である。供給鋼塊からの、又は溶融浴内の鋼板の通過による残留元素は、含有量が最大5.0重量%、好ましくは3.0重量%の鉄であり得る。
【0068】
別の好ましい実施形態において、Tcoolingは焼入れ温度Tqである。実際、Q&P鋼板については、焼入れ及び分配処理の重要な点はTqである。
【0069】
好ましくは、Tcoolingは150~800℃の間である。
【0070】
有利には、新しい鋼板が熱処理ラインに入るたびに、新しい計算ステップB.2)が自動的に実施される。実際、各鋼の実際の特性はしばしば異なるため、本発明による方法は、同じ鋼グレードが熱処理ラインに入る場合でも、冷却経路を各鋼板に適合させる。新しい鋼板を検出することができて、鋼板の新しい特性が測定され、事前に予備選択される。例えば、検出器は、2つのコイル間の溶接を検出する。
【0071】
好ましくは、工程での大きな変化を防ぐために、鋼板が熱処理ラインに入るとき、鋼板の最初の複数メートルに対して熱経路の適合が実施される。
【0072】
好ましくは、何らかのずれが現れたかを確認するために、自動計算が熱処理中に実施される。本実施形態において、定期的に、わずかなずれが発生したかを確認するために計算が実現される。実際、検出器の検出閾値が高すぎることがあり、これは、わずかなずれが必ずしも検出されるとは限らないことを意味する。例えば、数秒毎に実施される自動計算は、検出閾値に基づいていない。したがって、計算が同じ熱処理を導く場合、すなわち、熱処理がオンラインで実施される場合、TTは変化しない。計算が、わずかなずれのために異なる処理を導く場合、処理は変化する。
【0073】
図4は、溶融により被覆を付着させる前に連続焼鈍が鋼板に対して実施される本発明による一例を示す。本発明による方法により、ずれDが現れると、TP
xが、m
i、選択された製品、TT及びm
targetに基づいて計算される。この例において、中間熱経路CP
xint1~CP
xint4、それぞれ対応するm
xint1~m
xint4及びH
xint1~H
xint4が計算される。H
realeasedが、CP
x、したがって、TP
xを得るために決定される。この図では、TP
targetが示されている。
【0074】
本発明による方法により、ずれが現れると、新しい熱処理ステップTPtargetが鋼板に対して実施される。
【0075】
したがって、DP、TRIP、Q&P、TWIP、CFB、PHS、TRIPLEX、DUPLEX、DP HDを含む前記事前に定められた製品タイプを含む鋼板でできたコイルが得られ、そのようなコイルは、コイルに沿った任意の2点間で25MPa以下、好ましくは15MPa以下、より好ましくは9MPa以下の機械的性質の標準偏差を有する。実際、いかなる理論によっても制限されることは望まないが、計算ステップB.1)を含む方法は、コイルに沿った鋼板のミクロ組織のばらつきを考慮していると考えられる。したがって、鋼板に対して適用されるTPtargetは、ミクロ組織並びに機械的性質の均質化を可能にする。
【0076】
好ましくは、機械的性質は、YS、UTS又は伸びから選択される。標準偏差の値の低さは、TPtargetの精度に起因する。
【0077】
好ましくは、コイルは、亜鉛に基づく、又はアルミニウムに基づく金属被覆によって覆われている。
【0078】
好ましくは、工業的生産において、DP、TRIP、Q&P、TWIP、CFB、PHS、TRIPLEX、DUPLEX、DP HDを含む前記事前に定められた製品タイプを含む鋼板でできた2つのコイル間で、25MPa以下、好ましくは15MPa以下、より好ましくは9MPa以下の機械的性質の標準偏差。
【0079】
好ましくは、工業的生産において、同じラインで生産されたDP、TRIP、Q&P、TWIP、CFB、PHS、TRIPLEX、DUPLEX、DP HDを含む前記事前に定められた製品タイプを含む鋼板でできた2つのコイル間の連続的に測定された機械的性質の標準偏差は、25MPa以下、好ましくは15MPa以下、より好ましくは9MPa以下である。
【0080】
本発明による方法の実施のための熱的処理ラインが、TPtargetを実施するために使用される。例えば、熱的処理ラインは、連続焼鈍炉、プレスハードニング炉、バッチ焼鈍又は焼入れラインである。最後に、本発明は、TPtargetを決定するために互いに協働する少なくとも冶金学的モジュール、最適化モジュール及び熱的モジュールを含むコンピュータプログラム製品であって、コンピュータにより実施されたとき本発明による方法を実施するソフトウェア命令をそのようなモジュールが含む、コンピュータプログラム製品に関する。
【0081】
冶金学的モジュールは、ミクロ組織(準安定相:ベイナイト及びマルテンサイト並びに安定相:フェライト、オーステナイト、セメンタイト及びパーライトを含むmx、mtarget)、より正確には全処理にわたる相の割合を予測し、相変態の速度を予測する。
【0082】
熱的モジュールは、熱処理に使用される設備、例えば、連続焼鈍炉である設備、バンドの幾何学的特性、冷却能、加熱能又は等温能を含む工程パラメータ、相変態が実施されるときにすべての熱経路に沿って放出又は消費される熱エンタルピーHに応じて鋼板温度を予測する。
【0083】
最適化モジュールは、冶金学的モジュール及び熱的モジュールを使用する本発明による方法にしたがって、mtargetに達するための最良の熱経路、すなわちTPtargetを決定する。ここで本発明を、情報のためだけに実施された試行において説明する。それらの試行は限定的ではない。
【実施例】
【0084】
以下の実施例では、以下の化学組成を有するDP780GIを選択した:
【0085】
【0086】
1.2mmの厚さを得るために、冷間圧延の圧下率は55%とした。
【0087】
達すべきmtargetは、以下のPtarget:460MPaのYS及び790MPaのUTSに対応する12%のマルテンサイト、58%のフェライト及び30%のベイナイトを含む。亜鉛浴による溶融めっきを実施するために、460℃の冷却温度Tcoolingにも達しなければならない。Zn浴内の良好な被覆性を保証するために、この温度に+/-2℃の精度で達しなければならない。
【0088】
鋼板に対して実施する熱処理TTは以下の通り:
- 鋼板が、周囲温度から680℃まで37.5秒間加熱される、予熱ステップ、
- 鋼板が、680℃から780℃まで40秒間加熱される、加熱ステップ、
- 鋼板が、780℃の均熱温度Tsoakingで24.4秒間加熱される、均熱ステップ、
- 鋼板が、以下の通りHNxを噴霧する11個の冷却ジェットで冷却される、冷却ステップ:
【0089】
【表2】
- 460℃の亜鉛浴内での溶融めっき、
- 300℃で27.8s間のトップロールまでの鋼板の冷却及び
- 周囲温度での鋼板の冷却。
【0090】
[実施例1]
<Tsoakingのずれ>
均熱温度Tsoakingが780℃から765℃まで低下したとき、mtargetに達するためにずれを考慮して新しい熱経路TPtarget1が決定される。この目的のために、多数の熱経路CPxが、TT、mtargetに達するためのDP780GIのmi、加熱経路、Tsoakingを含む均熱経路及びTcoolingに基づいて計算した。
【0091】
新しい熱経路(複数)TPxを得るために、前記CPxを使用してTTの冷却ステップを再計算した。TPxの計算後、mtargetに達するための1個のTPtargetを選択し、TPtargetを、再計算されたTPxから選び、及びmxがmtargetに最も近いように選択した。TPtarget1は以下の通りである:
- 熱処理ラインの均熱部内で、ずれのために、鋼板が、765℃の均熱温度Tsoakingで24.4秒間加熱される、均熱ステップ、
- 以下を含む、冷却ステップCP1:
- 鋼板が、以下の通りHNxを噴霧する11個の冷却ジェットで冷却される、冷却ステップ:
【0092】
【表3】
- 460℃の亜鉛浴内での溶融めっき、
- 300℃で27.8s間のトップロールまでの鋼板の冷却及び
- 周囲温度での鋼板の冷却。
【0093】
[実施例2]
<異なる組成を有する鋼板>
新しい鋼板DP780が熱処理ラインに入り、したがって、計算ステップが、以下の新しいCCに基づいて自動的に実施された:
【0094】
【0095】
mtargetに達するために新しいCCを考慮して新しい熱経路TPtarget2を決定した。TPtarget2は以下の通りである:
- 鋼板が、周囲温度から680℃まで37.5秒間加熱される、予熱ステップ、
- 鋼板が、680℃から780℃まで40秒間加熱される、加熱ステップ、
- 鋼板が、780℃の均熱温度Tsoakingで24.4秒間加熱される、均熱ステップ、
- 以下を含む、冷却ステップCP3:
【0096】
【表5】
- 460℃の亜鉛浴内での溶融めっき、
- 300℃で26.8s間のトップロールまでの鋼板の冷却及び
- 周囲温度での鋼板の冷却。
【0097】
表1は、TT、TPtarget1及びTPtarget2により得られた鋼の性質を示す。
【0098】
【0099】
本発明による方法により、ずれが現れるとき、又は異なるCCを有する新しい鋼板が熱処理ラインに入るとき、熱的TTを調整することが可能である。新しい熱経路TPtarget1及びTPtarget2を適用することにより、所望の期待される性質を有する鋼板を得ることが可能であり、各TPtargetは、各ずれに応じて正確に適合されている。