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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】チオール基含有化合物の担持方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 17/14 20060101AFI20240221BHJP
   C07K 1/22 20060101ALI20240221BHJP
【FI】
C07K17/14
C07K1/22
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021508853
(86)(22)【出願日】2020-02-27
(86)【国際出願番号】 JP2020008017
(87)【国際公開番号】W WO2020195514
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-12-26
(31)【優先権主張番号】P 2019057650
(32)【優先日】2019-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 琢磨
(72)【発明者】
【氏名】村田 大
(72)【発明者】
【氏名】西八條 正克
(72)【発明者】
【氏名】八浦 妃佐子
【審査官】平林 由利子
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-154200(JP,A)
【文献】特表2017-518293(JP,A)
【文献】Journal of Chromatography A,2017年,Vol.1485,pp.90-100
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12Q 1/00- 3/00
CAPLUS/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不溶性基材にチオール基を含むペプチドを担持するための方法であって、
工程A: 上記ペプチドに、チオール基含有有機還元剤および無機還元剤を作用させる工程、および、
工程B: 上記工程Aの反応液と上記不溶性基材とを接触させる工程を含み、
上記チオール基含有有機還元剤が、ジチオスレイトール、ジチオエリスリトールおよび1-チオグリセロールからなる群より選択される1以上のチオール基含有有機還元剤であり、
上記無機還元剤が、亜硫酸の塩、亜硫酸水素の塩、ピロ亜硫酸の塩、チオ硫酸の塩、および亜ジチオン酸の塩からなる群より選択される1以上の無機還元剤であることを特徴とする方法。
【請求項2】
上記ペプチドが有するチオール基1モルに対して、上記チオール基含有有機還元剤のチオール基の数が1倍モル以上である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記ペプチドが有するチオール基1モルに対して無機還元剤を1倍モル以上用いる請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
上記チオール基含有有機還元剤がジチオスレイトールである請求項1~のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
上記無機還元剤である上記塩がアルカリ金属イオン塩である請求項1~のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
空気雰囲気下で工程Aおよび工程Bを行う請求項1~のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不溶性基材にチオール基含有化合物を効率的に担持するための方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
チオール基は非共有電子対を有し、求核性を示すため、反応性官能基と反応して共有結合を形成する。かかる反応は、チオール基含有化合物を基材に結合させるために利用されている。例えば、ペプチドの多くはシステイン残基を有し、システイン残基はその側鎖にチオール基を有する。よって、エポキシ基やアルデヒド基などの反応性官能基を表面に有する不溶性基材にペプチドを担持し、ペプチドの機能を利用する担体として利用することが行われている(特許文献1)。
【0003】
例えば、タンパク質の重要な機能の一つとして、特定の分子に特異的に結合する機能が挙げられる。この機能は、生体内における免疫反応やシグナル伝達に重要な役割を果たす。この機能を有用物質の分離精製に利用する技術開発も盛んに為されている。実際に産業的に利用されている一例として、抗体のFc領域へ特異的に結合するプロテインAを担持しているものであり、抗体医薬を動物細胞培養物から一度に高い純度でキャプチャリングして精製するために利用されるプロテインAアフィニティ分離マトリックスが挙げられる(非特許文献1,2)。
【0004】
ところが、チオール基を介してペプチドを基材に担持する場合には、チオール基間で意図しないジスルフィド結合が形成されることが知られている。ペプチド間またはペプチド1分子内でジスルフィド結合が形成されると、当然に基材と反応できなくなって担持収率が低下する。そこで特許文献2には、ペプチドと基材を結合する際にはジスルフィド結合が形成されないよう還元雰囲気とすることや、チオール化合物を還元剤として添加することが記載されている。特許文献3には、溶媒不溶性基材とSH基含有化合物を抗酸化剤の存在下に反応させることが記載されている。また、特許文献4には、多量体タンパク質のポリペプチド間のジスルフィド結合の数を、酸化還元試薬などにより制御する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-1462号公報
【文献】特開2014-210733号公報
【文献】特開2000-154200号公報
【文献】特表2017-518293号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Hober S.ら,J.Chromatogr.B,2007,848巻,40-47頁
【文献】Shukla A.A.ら,Trends Biotechnol.,2010,28巻,253-261頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、反応性官能基を表面に有する不溶性基材にチオール基含有化合物を担持する際におけるジスルフィド化の問題は認識されており、還元雰囲気下や還元剤の存在下などで反応を行うことも知られていた。しかし、抗体医薬品の発展などにより有用なペプチドを不溶性基材に担持した担体の需要は増しており、不溶性基材にチオール基含有化合物を担持する効率のより一層の改善が求められている。
そこで本発明は、不溶性基材にチオール基含有化合物を効率的に担持するための方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、特定の還元剤を組み合わせて併用すれば、不溶性基材にチオール基含有化合物を効率的に担持できることを見出して、本発明を完成した。
以下、本発明を示す。
【0009】
[1] 不溶性基材にチオール基含有化合物を担持するための方法であって、
工程A: 上記チオール基含有化合物に、チオール基含有有機還元剤および無機還元剤を作用させる工程、および、
工程B: 上記工程Aの反応液と上記不溶性基材とを接触させる工程を含むことを特徴とする方法。
[2] 上記チオール基含有化合物が有するチオール基1モルに対して、上記チオール基含有有機還元剤のチオール基の数が1倍モル以上である上記[1]に記載の方法。
[3] 上記チオール基含有化合物が有するチオール基1モルに対して無機還元剤を1倍モル以上用いる上記[1]または[2]に記載の方法。
[4] 上記チオール基含有化合物が、チオール基を含むペプチドである上記[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5] 上記チオール基含有有機還元剤がジチオスレイトールである上記[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6] 上記無機還元剤が、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、ピロ亜硫酸塩、チオ硫酸塩、および亜ジチオン酸塩からなる群より選択される1以上の無機還元剤である上記[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7] 空気雰囲気下で工程Aおよび工程Bを行う上記[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明方法によれば、ジスルフィド結合の形成によるチオール基含有化合物のミスフォールディングや二量体化を効果的に抑制することができる。また、チオール基含有化合物のジスルフィド結合の抑制から不溶性基材への担持を同一系内で行うことができ、不溶性基材にチオール基含有化合物を効率的に担持することができる。よって本発明は、抗体や抗体断片の精製に用い得るアフィニティ分離マトリックス等の効率的な製造に利用できるものとして、産業上有用である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を工程毎に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではない。
【0012】
工程A: 還元工程
工程Aでは、チオール基含有化合物に、チオール基含有有機還元剤および無機還元剤を作用させることにより、チオール基含有化合物分子間またはチオール基含有化合物分子内で形成されたジスルフィド結合を還元してチオール基含有化合物を得るか、或いはチオール基含有化合物分子間またはチオール基含有化合物分子内でのジスルフィド結合の形成を抑制する。
【0013】
チオール基含有化合物は、1以上のチオール基(-SH)を有する化合物であれば、特に制限されない。なお、チオール基は、pH等に応じて反応液中-S-となったり、更にナトリウムイオンと塩を形成している可能性があるが、本開示においてはこれらもチオール基に含まれるものとする。
【0014】
チオール基含有化合物としては、例えば、チオール基を含むペプチド;システイン、エタンチオール、アミノエタンチオール、ベンジルチオール、チオフェール等、チオール基を有する低分子有機化合物;1以上の水酸基がチオール基に変換されているポリエチレングリコールやポリビニルアルコール等、チオール基を有する高分子有機化合物を挙げることができる。なお、ペプチドとは、ポリペプチド構造を有するあらゆる分子を含むものであって、オリゴペプチドやタンパク質のみならず、断片化されたタンパク質や、ペプチド結合によって2以上のペプチドが連結されたものも包含されるものとする。断片化されたタンパク質にはドメインが含まれる。ドメインとは、タンパク質の高次構造上の単位であり、数十から数百のアミノ酸残基配列から構成され、何らかの物理化学的または生物化学的な機能を発現するに十分なタンパク質の単位をいう。
【0015】
チオール基含有化合物として特定の化合物へ特異的な親和性を有する化合物を用いることにより、チオール基含有化合物を担持した担体を用いて、チオール基含有化合物に特異的に結合する化合物を効率的に精製したり検出したりすることが可能になる。例えば、抗体またはその一部への特異的結合能を有するペプチドをチオール基含有化合物として不溶性基材に担持することにより、抗体や抗体断片の精製に用い得る。かかるチオール基含有化合物としては、例えば、Fc領域に特異的に結合するプロテインA、Fc領域に特異的に結合し、Fab領域とも弱く結合するプロテインG、κ軽鎖と特異的に結合するプロテインL、およびこれらの改変体が挙げられる。
【0016】
チオール基含有有機還元剤は、1以上のチオール基を有し、且つ還元作用を示す有機化合物をいう。例えば、ジチオスレイトール、ジチオエリスリトール、システイン、N-アセチル-L-システイン、2-メルカプトエタノール、還元型グルタチオン、2-メルカプトエチルアミン、1-チオグリセロールが挙げられる。チオール基含有有機化還元剤としては、特にジチオスレイトールが好ましい。ジチオスレイトールは、以下の通り、チオール基含有化合物から生じたジスルフィド結合を還元した後は安定な六員環構造となり、再びジスルフィド化され難くなる。ジチオスレイトールのエピマーであるジチオエリスリトールも、還元作用を示した後に同様の六員環構造を形成するが、ジチオエリスリトールの還元力はジチオスレイトールに及ばない。
【0017】
【化1】
【0018】
無機還元剤は、還元作用を示す無機化合物であれば特に制限されない。例えば、亜硫酸(SO3 2-)の塩、亜硫酸水素(HSO3 -)の塩、ピロ亜硫酸(S25 2-)の塩、チオ硫酸(S23 2-)の塩、および亜ジチオン酸(S24 2-)の塩からなる群より選択される1以上の無機還元剤が挙げられる。無機還元剤のカウンターカチオンとしては、ナトリウムイオンやカリウムイオン等のアルカリ金属イオンが挙げられ、コスト面からナトリウムイオンが好ましい。
【0019】
工程Aの反応条件は、チオール基含有化合物分子間またはチオール基含有化合物分子内で形成されたジスルフィド結合を還元することができ、および/またはチオール基含有化合物のチオール基を維持できる範囲で適宜調整すればよい。
【0020】
例えば、溶媒としては、主に水を用いることができる。チオール基含有化合物の水に対する溶解性が十分でない場合には、水混和性有機溶媒を併用してもよい。水混和性有機溶媒とは、水と制限無く混和する有機溶媒をいう。水混和性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール溶媒;アセトン等のケトン溶媒;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド溶媒;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド溶媒などが挙げられる。また、反応液のpHは、6以上、11以下に調整することが好ましく、当該pHとしては7以上がより好ましい。また、pHが当該範囲の緩衝液を溶媒として用いてもよい。水混和性有機溶媒を併用する場合、水と水混和性有機溶媒との合計に対する水混和性有機溶媒は、適宜調整すればよいが、例えば0.1質量%以上、80質量%以下とすることができ、0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、また、50質量%以下が好ましく、20質量%以下または10質量%以下がより好ましく、5質量%以下または2質量%以下がより更に好ましい。
【0021】
工程Aの反応液におけるチオール基含有化合物の濃度は、チオール基含有化合物のチオール基が維持される範囲で適宜調整すればよい。例えば、0.1mg/mL以上、100mg/mL以下とすることができ、0.5mg/mL以上、70mg/mL以下が好ましい。
【0022】
チオール基含有有機還元剤は、ジスルフィド結合に対する還元作用や、チオール基の維持作用に優れている。その一方で、チオール基含有化合物を不溶性基材に担持する際にチオール基含有有機還元剤が残留していると、チオール基含有有機還元剤が不溶性基材に担持されてしまい、所望の担体の収率が低下するおそれがある。そこで、チオール基含有化合物をチオール基含有有機還元剤で処理した後に、酸化されたチオール基含有有機還元剤や過剰のチオール基含有有機還元剤を除去することも考えられるが、除去のために手間やコストがかかることに加えて、除去後にチオール基含有化合物がジスルフィド化するおそれがある。よって本発明では、チオール基含有有機還元剤に加えて無機還元剤を併用する。
【0023】
チオール基含有有機還元剤の使用量は、チオール基含有化合物が有するチオール基1モルに対してチオール基含有有機還元剤のチオール基の数が1倍モル以上、8倍モル以下となるよう調整することが好ましい。当該数が1倍モル以上であれば、ジスルフィド結合をより確実に還元でき、また、チオール基含有化合物のジスルフィド化をより確実に抑制することができ、8倍モル以下であれば、チオール基含有化合物が担持された所望の担体の収率をより高めることが可能になる。上記数としては、5倍モル以下がより好ましい。
【0024】
無機還元剤の使用量としては、チオール基含有化合物が有するチオール基1モルに対して1倍モル以上、50倍モル以下が好ましい。当該比率が1倍モル以上であれば、ジスルフィド結合をより確実に還元でき、また、チオール基含有化合物のジスルフィド化をより確実に抑制することができる。また、上記比率が大き過ぎても効果が飽和するため、上記比率としては50倍モル以下が好ましい。2倍モル以上、10倍モル以下がより好ましい。
【0025】
工程Aの反応温度は、例えば、1℃以上、40℃以下とすることができ、反応時間は、10分間以上、120時間以下とすることができる。また、工程Aは、チオール基含有有機還元剤および無機還元剤の存在によりチオール基含有化合物のジスルフィド化が抑制されているため、還元性雰囲気下で行う必要は無く、空気雰囲気などの酸化性雰囲気下で行うことができる。
【0026】
工程B: 担持工程
工程Bでは、工程Aの反応液と不溶性基材とを接触させる。具体的には、工程Aの反応液に不溶性基材またはその分散液を添加してもよいし、工程Aの反応液と不溶性基材またはその分散液とを混合してもよいし、不溶性基材またはその分散液に工程Aの反応液を添加してもよい。何れにしても、工程Aの反応液から還元剤を除去する必要は無く、工程Aと工程Bを同一系内、即ちワンポットで行うことができる。
【0027】
不溶性基材は、水や有機溶媒などに不溶性を示し、チオール基含有化合物を担持することができる基材として利用できるものであれば特に制限されない。不溶性基材としては、無機基材、有機基材、有機-有機、有機-無機などの複合基材などが挙げられる。無機基材の材質としては、ガラス、シリカゲル、金属などが挙げられる。有機基材の材質としては、架橋ポリビニルアルコール、架橋ポリアクリレート、架橋ポリアクリルアミド、架橋ポリスチレン等の合成高分子;結晶性セルロース、架橋セルロース、架橋アガロース、架橋デキストラン等の多糖類を挙げることができる。市販品としては、多孔質セルロースゲルであるGCL2000、アリルデキストランとメチレンビスアクリルアミドを共有結合で架橋したSephacryl S-1000、アクリレート系の基材であるToyopearl、アガロース系の架橋基材であるSepharose CL4B、および、セルロース系の架橋基材であるCellufineなどを例示することができる。但し、本発明で用いる不溶性基材は、例示したこれらの基材のみに限定されるものではない。
【0028】
本発明に用いる不溶性基材は、チオール基含有化合物を担持するためのものであることから、表面積が大きいことが望ましく、適当な大きさの細孔を多数有する多孔質であることが好ましい。不溶性基材の形態としては、ビーズ状、モノリス状、繊維状、膜状(中空糸を含む)などいずれも可能であり、任意の形態を選ぶことができる。
【0029】
不溶性基材は、チオール基と反応する官能基を表面に有することからチオール基含有化合物のチオール基と反応し、共有結合を形成することができる。チオール基と反応可能な官能基としては、例えば、エポキシ基、カルボニル基、シアノ基、トルエンスルホニル基、メタンスルホニル基、2,2,2-トリフルオロエタンスルホニル基、ヒドラジノ基などが挙げられる。不溶性基材の表面にチオール基と反応する官能基を導入するために、エピクロロヒドリン、ジグリシジルエーテル、臭化シアン、トシルクロライド、メシルクロライド、トレシルクロライド、ヒドラジン、過ヨウ素酸塩などと不溶性基材を反応させればよい。
【0030】
工程Bでは、チオール基含有化合物を含む工程Aの反応液と不溶性基材とを接触させることができれば特に条件は制限されないが、中性条件下で反応を行ってもよいし、塩基性条件下で反応を行ってもよい。具体的には、工程Bの反応液、即ち工程Aの反応液と不溶性基材との混合物のpHを6以上、11以下とすることが好ましい。当該pHが6以上であれば、チオール基含有化合物のチオール基と不溶性基材の反応性官能基とをより確実に効率的に反応させることが可能になる。一方、当該pHが11以下であれば、チオール基含有化合物の変性をより確実に抑制することができる。当該pHとしては、7以上、10以下がより好ましい。
【0031】
工程Bの反応液を塩基性条件にする場合のための塩基は、反応を阻害しないものであれば特に制限されないが、例えば、炭酸水素ナトリウムや炭酸水素カリウムなど、アルカリ金属の炭酸水素塩;炭酸ナトリウムや炭酸カリウムなど、アルカリ金属の炭酸塩;炭酸カルシウムなど、アルカリ土類金属の炭酸塩;水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなど、アルカリ金属の水酸化物;水酸化カルシウムなど、アルカリ土類金属の水酸化物を挙げることができる。
【0032】
工程Bの反応液を塩基性にする場合のための塩基は、適宜添加すればよい。例えば、工程Aの反応液に塩基を添加した後に不溶性基材またはその分散液と混合してもよいし、不溶性基材の分散液に塩基を加えた後に工程Aの反応液と混合してもよいし、工程Aの反応液と不溶性基材またはその分散液と混合した後に塩基を添加してもよい。或いは、例えば不溶性基材の分散液の溶媒として、適切なpH範囲の緩衝液を用いてもよい。
【0033】
工程Bの反応条件は、適宜調整すればよい。例えば反応温度は、1℃以上、50℃以下とすることができ、反応時間は、30分間以上、24時間以下とすることができる。また、チオール基含有化合物を不溶性基材に担持する際には、チオール基含有化合物の二量化を抑制するために、還元性雰囲気下で反応を行うことがある。しかし本発明では、工程Aで用いたチオール基含有有機還元剤および/または無機還元剤が残留しているため、空気雰囲気などの酸化性雰囲気下で行うことができる。
【0034】
反応後は、通常の後処理を行うことができる。例えば、反応後、チオール基含有化合物を担持した担体を濾過や遠心分離などにより反応液から分離し、更に水などにより担体を洗浄すればよい。なお、担体へのチオール基含有化合物の担持量は、使用したチオール基含有化合物の量と反応液中に残留しているチオール基含有化合物の量から間接的に算出することができる。
【0035】
本発明方法によりチオール基含有化合物が担持された担体は、チオール基含有化合物に親和性を有する化合物の精製に利用することができる。かかる精製方法は、免疫グロブリンのアフィニティーカラム・クロマトグラフィー精製法に準じる手順により行うことができる。即ち、チオール基含有化合物に親和性を有する化合物を含む所望の液状試料を調製する。かかる試料は、例えば、血液、血漿、血清、培養液、培養細胞のホモジェネートなどであってもよい。また、かかる試料は、通常、中性または略中性に調整しておく。別途、本発明に係る担体をカラムに充填してアフィニティカラムを調製しておく。かかるカラムに上記試料を通液することにより、チオール基含有化合物に親和性を有する化合物を担体に選択的に吸着させる。次いで、アフィニティカラムに中性または略中性の緩衝液を適量通過させ、カラム内部を洗浄する。この時点では、所望の化合物は担体に吸着されている。次いで、適切なpHに調整した酸性緩衝液をカラムに通液し、所望の化合物を溶出することにより、高純度な精製が達成される。溶出に用いる酸性緩衝液には、所望の化合物のマトリックスからの解離を促進する物質を添加してもよい。
【0036】
また、本発明方法によりチオール基含有化合物が担持された担体は、チオール基含有化合物に親和性を有する化合物の検出にも利用することができる。例えば、プロテインマイクロアレイに適用可能なガラス製や樹脂製の基板に本発明方法により多数のチオール基含有化合物を担持させ、チオール基含有化合物に親和性を示す化合物の検出や同定に用いることができる。また、表面プラズモン共鳴やバイオレイヤー干渉法を利用した分析機器のセンサーチップに本発明方法によりチオール基含有化合物を担持して、チオール基含有化合物に親和性を示す化合物の検出や定量に用いることができる。
【0037】
本願は、2019年3月26日に出願された日本国特許出願第2019-57650号に基づく優先権の利益を主張するものである。2019年3月26日に出願された日本国特許出願第2019-57650号の明細書の全内容が、本願に参考のため援用される。
【実施例
【0038】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0039】
実施例1
(1)プロテインGの調製と処理
WO2016/031902の実施例1に記載の方法に準じて、1分子あたり1個のシステイン残基を含むプロテインGを調製した。また、ジチオスレイトール(富士フィルム和光純薬社製)(1.54g)を水に溶解させ、更に水を追加して全量を10mLとすることにより、1.0mol/Lジチオスレイトール水溶液を調製した。更に、亜硫酸ナトリウム(キシダ化学社製)(6.3g)を水に溶解させ、更に水を追加して全量を50mLとすることにより、1.0mol/L亜硫酸ナトリウム水溶液を調製した。
調製した37mg/mLプロテインG溶液(1.9kg,4.6mmol)に対し、1.0mol/Lジチオスレイトール水溶液(4.5mL,4.5mmol)を添加し、更に1.0mol/L亜硫酸ナトリウム水溶液(19mL,19mmol)を添加し、4℃で11時間反応させた。
【0040】
(2)モノマー含量の測定
CaおよびMgを含まないダルベッコリン酸緩衝生理食塩末(富士フィルム和光純薬社製)を9.6g/Lの割合で水に溶解してリン酸緩衝液を調製した。上記(1)で得た反応後の混合溶液(50μL)に当該リン酸緩衝液(1.7mL)を加えて希釈した。続いて、当該希釈溶液を以下の条件の高速液体クロマトグラフィで分析し、二量体などプロテインGオリゴマーとプロテインGモノマーの合計に対するプロテインGモノマーの比率を、ピーク面積から算出した。
クロマトグラフィーシステム: 「alliace」日本ウォーターズ社製
検出: UV(280nm)
移動相: CaおよびMgを含まないダルベッコリン酸緩衝生理食塩末(富士フィルム和光純薬社製)を9.6g/Lの割合で水に溶解して調製したリン酸緩衝液(pH7.4)
カラム: 「Superdex 75 10/300」GEヘルスケア社製
カラム温度: 25℃
流速: 0.5mL/min
サンプル注入量: 50μL
モノマー含量(%)=[プロテインGモノマーのピーク面積/(プロテインGモノマーのピーク面積+プロテインGオリゴマーのピーク面積)]×100
その結果、プロテインGモノマー含量は86%であった。
【0041】
(3)不溶性基材への担持
不溶性基材として、特開2009-242770号公報に記載の方法により、架橋セルロース粒子のゲルを調製した。当該架橋セルロース粒子ゲル(3.3L)を水に懸濁し、総液量を4.0Lとした。当該分散液に2.0mol/L水酸化ナトリウム水溶液(0.5kg)を加え、33℃で30分間撹拌した。続いて、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル(3.45kg)を加え、7時間撹拌することにより、不溶性基材の表面にエポキシ基を導入した。その後、十分量の水で洗浄することにより、エポキシ基導入不溶性基材を得た。
上記エポキシ基導入不溶性基材(3.3L)を150mMリン酸ナトリウム・1mM EDTA緩衝液(pH8.5)に懸濁させ、総液量4.2Lに調整した。その後、上記(1)で取得したプロテインG含有混合溶液(1.87kg)と、150mMリン酸ナトリウム・1mM EDTA緩衝液(pH8.5,0.49kg)を添加し、30℃で35分間撹拌した。別途、硫酸ナトリウムを150mMリン酸ナトリウム・1mM EDTA緩衝液(pH8.5)に溶解させて、2.5mol/L硫酸ナトリウム溶液を調製した。上記混合液に、得られた2.5mol/L硫酸ナトリウム溶液(3.3kg)を添加し、3時間撹拌し、プロテインGを不溶性基材へ担持した。続いて、150mMリン酸ナトリウム・1mM EDTA緩衝液(10L)で洗浄した。このとき、洗浄廃液を回収し、廃液中のプロテインG含量を紫外可視光分光光度計(島津製作所社製)にて測定した。使用したプロテインGの量と、廃液中に含まれるプロテインGの量から不溶性基材に担持されたプロテインGの割合を算出したところ、84%であった。
【0042】
実施例2
上記実施例1(1)と同様にして、1分子あたり1個のシステイン残基を含むプロテインGを調製した。調製した37mg/mLプロテインG溶液(0.41mL,1.0μmol)に対し、1.0mol/Lジチオスレイトール水溶液(1.0μL,1.0μmol)、1.0mol/L亜硫酸ナトリウム水溶液(1.0μL,1.0μmol)を添加した後に、4℃で20時間反応させた。反応後の混合溶液(50μL)にリン酸緩衝液(1.7mL)を加えて希釈し、上記実施例1(2)の方法に従いモノマー含量を測定した結果、モノマー含量は80%であった。
【0043】
実施例3
上記実施例1(1)と同様にして、1分子あたり1個のシステイン残基を含むプロテインGを調製した。また、ジチオエリスリトール(富士フィルム和光純薬社製)(0.1546g)を水に溶解させ、更に水を追加して全量を2mLとすることにより、0.5mol/Lジチオエリスリトール水溶液を調製した。更に、亜硫酸ナトリウム(キシダ化学社製)(0.126g)を水に溶解させ、更に水を追加して全量を2mLとすることにより、0.5mol/L亜硫酸ナトリウム水溶液を調製した。また、CaおよびMgを含まないダルベッコリン酸緩衝生理食塩末(富士フィルム和光純薬社製)を9.6g/Lの割合で水に溶解してリン酸緩衝液(pH7.4)を調製した。
調製した37mg/mLプロテインG溶液(0.205mL,0.5μmol)に対し、0.5mol/Lジチオエリスリトール水溶液(1μL,0.5μmol)を添加し、更に0.5mol/L亜硫酸ナトリウム水溶液(1μL,0.5μmol)を添加した後に、4℃で20時間反応させた。反応後の混合溶液(50μL)をリン酸緩衝液(1.7mL)で希釈した。希釈液につき、上記実施例1(2)の方法に従いモノマー含量を測定した結果、モノマー含量は82%であった。
【0044】
実施例4
上記実施例1(1)と同様にして、1分子あたり1個のシステイン残基を含むプロテインGを調製した。また、1-チオグリセロール(東京化成工業社製)(0.1083g)を水に溶解させ、更に水を追加して全量を2mLとすることにより、0.5mol/L1-チオグリセロール水溶液を調製した。更に、亜硫酸ナトリウム(キシダ化学社製)(0.126g)を水に溶解させ、更に水を追加して全量を2mLとすることにより、0.5mol/L亜硫酸ナトリウム水溶液を調製した。また、CaおよびMgを含まないダルベッコリン酸緩衝生理食塩末(富士フィルム和光純薬社製)を9.6g/Lの割合で水に溶解してリン酸緩衝液(pH7.4)を調製した。
調製した37mg/mLプロテインG溶液(0.205mL,0.5μmol)に対し、0.5mol/Lの1-チオグリセロール水溶液(1μL,0.5μmol)を添加し、更に0.5mol/L亜硫酸ナトリウム水溶液(1μL,0.5μmol)を添加した後、4℃で20時間反応させた。反応後の混合溶液(50μL)をリン酸緩衝液(1.7mL)で希釈した。希釈液につき、上記実施例1(2)の方法に従いモノマー含量を測定した結果、モノマー含量は75%であった。
【0045】
実施例5
上記実施例1(1)と同様にして、1分子あたり1個のシステイン残基を含むプロテインGを調製した。また、ジチオスレイトール(富士フィルム和光純薬工業社製)(0.1546g)を水に溶解させ、更に水を追加して全量を2mLとすることにより、0.5mol/Lジチオスレイトール水溶液を調製した。更に、チオ硫酸ナトリウム・5水和物(富士フィルム和光純薬工業社製)(0.2483g)を水に溶解させ、更に水を追加して全量を2mLとすることにより、0.5mol/Lチオ硫酸ナトリウム水溶液を調製した。また、CaおよびMgを含まないダルベッコリン酸緩衝生理食塩末(富士フィルム和光純薬社製)を9.6g/Lの割合で水に溶解してリン酸緩衝液(pH7.4)を調製した。
調製した37mg/mLプロテインG溶液(0.205mL,0.5μmol)に対し、0.5mol/Lジチオスレイトール水溶液(1μL,0.5μmol)を添加し、更に0.5mol/Lチオ硫酸ナトリウム水溶液(1μL,0.5μmol)を添加した後に、4℃で20時間反応させた。反応後の混合溶液(50μL)をリン酸緩衝液(1.7mL)で希釈した。希釈液につき、上記実施例1(2)の方法に従いモノマー含量を測定した結果、モノマー含量は78%であった。
【0046】
実施例6
上記実施例1(1)と同様にして、1分子あたり1個のシステイン残基を含むプロテインGを調製した。また、ジチオエリスリトール(富士フィルム和光純薬工業社製)(0.1546g)を水に溶解させ、更に水を追加して全量を2mLとすることにより、0.5mol/Lジチオエリスリトール水溶液を調製した。更に、チオ硫酸ナトリウム・5水和物(富士フィルム和光純薬工業社製)(0.2483g)を水に溶解させ、更に水を追加して全量を2mLとすることにより、0.5mol/Lチオ硫酸ナトリウム水溶液を調製した。また、CaおよびMgを含まないダルベッコリン酸緩衝生理食塩末(富士フィルム和光純薬社製)を9.6g/Lの割合で水に溶解してリン酸緩衝液(pH7.4)を調製した。
調製した37mg/mLプロテインG溶液(0.205mL,0.5μmol)に対し、0.5mol/Lジチオエリスリトール水溶液(1μL,0.5μmol)を添加し、更に0.5mol/Lチオ硫酸ナトリウム水溶液(1μL,0.5μmol)を添加した後に、4℃で20時間反応させた。反応後の混合溶液(50μL)をリン酸緩衝液(1.7mL)で希釈した。希釈液につき、上記実施例1(2)の方法に従いモノマー含量を測定した結果、モノマー含量は77%であった。
【0047】
比較例1
(1)プロテインGの調製と処理
上記実施例1(1)と同様にして、1分子あたり1個のシステイン残基を含むプロテインGを調製した。別途、CaおよびMgを含まないダルベッコリン酸緩衝生理食塩末(富士フィルム和光純薬社製)を9.6g/Lの割合で水に溶解してリン酸緩衝液(pH7.4)を調製した。調製した37mg/mLプロテインG溶液(50μL,0.12μmol)に当該リン酸緩衝液(1.7mL)を加えて希釈し、上記実施例1(2)の方法に従いモノマー含量を測定した結果、モノマー含量は20%であった。
【0048】
(2)不溶性基材への担持
上記実施例1(3)と同様にして取得したエポキシ基導入不溶性基材(3.0mL)を150mMリン酸ナトリウム・1mM EDTA緩衝液に懸濁させ、総液量3.8mLに調整した。その後、比較例1(1)の未処理プロテインG溶液(1.69mL)と150mMリン酸ナトリウム・1mM EDTA緩衝液(0.55mL)を添加し、30℃で撹拌した。30分後、2.5mol/L硫酸ナトリウム溶液(2.4mL)を添加し、更に3時間撹拌し、プロテインGを不溶性基材へ担持した。続いて10mLの150mMリン酸ナトリウム・1mM EDTA緩衝液で洗浄した。このとき、洗浄廃液を回収し、廃液中のプロテインG含量を紫外可視光分光光度計(島津製作所社製)にて測定した。使用したプロテインGの量と、廃液中に含まれるプロテインGの量から不溶性基材に担持されたプロテインGの割合を算出したところ、35%であった。
【0049】
比較例2
(1)プロテインGの調製と処理
上記実施例1(1)と同様にして、1分子あたり1個のシステイン残基を含むプロテインGを調製した。調製した37mg/mLプロテインG溶液(1.9mL,4.6μmol)に対し、1.0mol/Lジチオスレイトール水溶液(23μL,23μmol)を添加した後に、4℃で20時間反応させた。別途、CaおよびMgを含まないダルベッコリン酸緩衝生理食塩末(富士フィルム和光純薬社製)を9.6g/Lの割合で水に溶解してリン酸緩衝液(pH7.4)を調製した。反応後の上記混合溶液(50μL)に当該リン酸緩衝液(1.7mL)を加えて希釈し、上記実施例1(2)の方法に従いモノマー含量を測定した結果、モノマー含量は84%であった。
【0050】
(2)不溶性基材への担持
上記実施例1(3)と同様にして取得したエポキシ基導入不溶性基材(3.3mL)を150mMリン酸ナトリウム・1mM EDTA緩衝液に懸濁させ、総液量4mLに調整した。その後、比較例1(1)で取得したプロテインG含有混合溶液(1.89mL)と150mMリン酸ナトリウム・1mM EDTA緩衝液(0.6mL)を添加し、30℃で撹拌した。30分後、2.5mol/L硫酸ナトリウム溶液(2.6mL)を添加し、更に3時間撹拌し、プロテインGを不溶性基材へ担持した。続いて150mMリン酸ナトリウム・1mM EDTA緩衝液(10mL)で洗浄した。このとき、洗浄廃液を回収し、廃液中のプロテインG含量を紫外可視光分光光度計(島津製作所社製)にて測定した。使用したプロテインGの量と、廃液中に含まれるプロテインGの量から不溶性基材に担持されたプロテインGの割合を算出したところ、72%であった。
【0051】
比較例3
上記実施例1(1)と同様にして、1分子あたり1個のシステイン残基を含むプロテインGを調製した。調製した37mg/mLプロテインG溶液(0.41mL,1.0μmol)に対し、1.0mol/L亜硫酸ナトリウム水溶液(5.0μL,5.0μmol)を添加した後に、4℃で20時間反応させた。別途、CaおよびMgを含まないダルベッコリン酸緩衝生理食塩末(富士フィルム和光純薬社製)を9.6g/Lの割合で水に溶解してリン酸緩衝液(pH7.4)を調製した。反応後の混合溶液(50μL)に当該リン酸緩衝液(1.7mL)を加えて希釈し、上記実施例1(2)の方法に従いモノマー含量を測定した結果、モノマー含量は65%であった。
【0052】
考察
【表1】
【0053】
比較例1の通り、システイン残基を含むプロテインGを還元剤にて処理しない場合には、おそらくジスルフィド結合の形成に起因するプロテインGの二量体化により、プロテインGモノマーの含量は低く、また基材への担持量は低かった。
また、比較例2の通り、システイン残基を含むプロテインGをチオール基含有有機還元剤であるジチオスレイトールのみにて処理した場合にも、プロテインGの担持量が相対的に低下した。その理由としては、おそらくジチオスレイトールがチオール基を介して基材に担持されてしまったことが考えられた。
更に、比較例3の通り、システイン残基を含むプロテインGを無機還元剤のみにより処理した場合には、プロテインGモノマーの含量が低減された。その理由としては、おそらく無機還元剤のみではジスルフィド結合の形成に起因するプロテインGの二量体化を十分に抑制することができなかったことが考えられた。
上記比較例1~3に対して、実施例1~6の通り、プロテインGをチオール基含有有機還元剤と無機還元剤の両方で処理した場合には、モノマー含量が高く維持されていた。なお、実施例2~6ではプロテインGの固定化反応は試験していないが、実施例1での担持収率が高く、実施例2~6での還元剤の総使用量は実施例1よりも少なく、固定化反応への影響は小さいと考えられることから、実施例2~6で固定化反応を行えば、実施例1と同等またはそれ以上の担持収率が得られることが想定される。