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特許7441225ディスクブレーキ用の、ブレーキディスクの製造方法およびブレーキディスク
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】ディスクブレーキ用の、ブレーキディスクの製造方法およびブレーキディスク
(51)【国際特許分類】
   F16D 65/12 20060101AFI20240221BHJP
   C09K 3/14 20060101ALI20240221BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20240221BHJP
   C23C 4/04 20060101ALI20240221BHJP
【FI】
F16D65/12 E
F16D65/12 Z
C09K3/14 520G
C09K3/14 520C
C09K3/14 520L
C23C28/00 B
C23C4/04
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2021534329
(86)(22)【出願日】2019-12-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-04
(86)【国際出願番号】 IB2019060719
(87)【国際公開番号】W WO2020128740
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-11-21
(31)【優先権主張番号】102018000020773
(32)【優先日】2018-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】521259127
【氏名又は名称】ブレンボ・ソチエタ・ペル・アツィオーニ
【氏名又は名称原語表記】BREMBO S.p.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(72)【発明者】
【氏名】カルミナーティ,ファビアーノ
(72)【発明者】
【氏名】ビオンド,シモーネ
(72)【発明者】
【氏名】マンチーニ,アレッサンドロ
(72)【発明者】
【氏名】ベルタージ,フェデリコ
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-216969(JP,A)
【文献】特表2016-503148(JP,A)
【文献】国際公開第2014/097186(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0293849(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102014015474(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 49/00-71/04
C09K 3/14
C23C 28/00
C23C 4/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキディスクを製造する方法であって、
(a):ディスクの2つの主面のうちの1つを少なくとも部分的にそれぞれ画定する2つの対向する制動面(2a、2b)を備えた制動バンド(2)を含むブレーキディスクを準備するステップを含み、
制動バンドはねずみ鋳鉄または鋼で作られ、
前記方法はまた、
(b):前記制動面(2a、2b)の少なくとも一方に、それらの表面粗さを増大させるための加工処理を施すステップと、
(c):表面粗さを増大させた制動面を窒炭化して、その表面に窒炭化表面層(300)を得るステップと、
(d):窒炭化された表面層(300)上に、
- 炭化クロム(Cr)とニッケルクロム(NiCr)、または、
- ニッケルクロム(NiCr)、鉄(Fe)、モリブデン(Mo)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、およびアルミニウム(Al)、
を含む粒子状の材料を、
スプレー堆積技術、好ましくはHVOF(高速度酸素燃料)技術、またはHVAF(高速度空気燃料)技術、またはKM(コールドスプレー法)技術を用いて堆積させ、
窒炭化層(300)を介在させて前記制動バンドの2つの前記制動面のうち少なくとも1つを覆うベース保護コーティング(30)を形成するステップと、
(e):前記ベース保護コーティング(30)上に、炭化タングステン(WC)、鉄(Fe)、クロム(Cr)、およびアルミニウム(Al)を含む粒子状の材料を、スプレー堆積技術、好ましくはHVOF(高速度酸素燃料)技術、またはHVAF(高速度空気燃料)技術、またはKM(コールドスプレー法)技術を用いて堆積させ、炭化タングステン(WC)と鉄(Fe)、クロム(Cr)、およびアルミニウム(Al)からなり、制動バンドの2つの制動面のうち少なくとも1つを覆う表面保護コーティング(3)を形成するステップと、
の動作ステップを含む、方法。
【請求項2】
ステップ(b)で実行される加工プロセスは、30~200マイクロメートルの間の高さで表面に直交して延び、300~2000マイクロメートルの間のピッチで相互に離間している複数の突起(20)によって画定される粗いプロフィールを前記表面の上に生成するために実行され、
前記突起(20)は、それらがそこから延びる表面に直交する方向に対してアンダーカット角(α)を有し、
好ましくは、前記アンダーカット角αは、2°から15°の間である、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ステップ(b)は、チップ除去、レーザー彫刻、またはプラスチック変形の加工プロセスによって実行される、
請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記ステップ(b)は、粗さRaが0.8~2の間の微細旋盤加工による加工プロセスによって実行される、
請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ステップ(b)は、粗さRzが10~80の間のサンドブラストによる加工プロセスによって実行される、
請求項1に記載の方法。
【請求項6】
窒炭化ステップ(c)は、フェライト窒炭化処理によって得られる、
請求項1~5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
窒炭化ステップ(c)は、窒炭化された表面層(300)が、2~30マイクロメートルの深さを有し、マイクロハードネスで300HVよりも高い硬度値を有するように実施される、
請求項1~6のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
窒炭化ステップ(c)に続いて、堆積のステップ(d)の前に実施される窒炭化層300の後酸化(post-oxidation)のステップ(f)を行い、マグネタイト(Fe)を含む酸化された最上層(330)を得て、前記酸化された最上層(330)は、2~10マイクロメートルの厚さを有することが好ましい、
請求項1~7のいずれか1つに記載の方法。
【請求項9】
前記ベース保護コーティング(30)を作るための堆積ステップ(d)で堆積される前記粒子状の材料は、65重量%~95重量%の炭化クロム(Cr)と、残りの部分のニッケルクロム(NiCr)とから構成される、
請求項1~8のいずれか1つに記載の方法。
【請求項10】
前記ベース保護コーティング(30)を作るために堆積ステップ(d)で堆積される前記粒子状の材料は、ニッケル(Ni)の重量による含有量が40%から75%であり、クロム(Cr)の重量による含有量が14%から30%であるニッケルクロム(NiCr)をベースとし、残りが、鉄(Fe)、モリブデン(Mo)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、およびアルミニウム(Al)をベースとしている、
請求項1~8のいずれか1つに記載の方法。
【請求項11】
前記表面保護コーティング(3)を作製するための堆積ステップ(d)で堆積される前記粒子状の材料は、75重量%から87重量%の炭化タングステン(WC)と、残りの部分の鉄(Fe)、クロム(Cr)、およびアルミニウム(Al)とから構成され、好ましくは、10重量%から17重量%の鉄(Fe)、2.5重量%から5.8重量%のクロム(Cr)、0.6重量%から2.2重量%のアルミニウム(Al)、および残りの部分の炭化タングステン(WC)とから構成され、さらに好ましくは、85重量%の炭化タングステン(WC)と、15重量%の鉄(Fe)、クロム(Cr)、およびアルミニウム(Al)とから構成される、
請求項1~10のいずれか1つに記載の方法。
【請求項12】
前記ベース保護コーティング(30)は、20マイクロメートルから80マイクロメートルの間の厚さを有し、好ましくは50マイクロメートルの厚さを有し、前記厚さは、粗いプロフィールの上にあるコーティングの部分を参照する、
請求項1~11のいずれか1つに記載の方法。
【請求項13】
前記表面保護コーティング(3)は、20マイクロメートルから90マイクロメートルの間の厚さを有し、好ましくは60マイクロメートルに等しい厚さを有し、前記厚さは、粗いプロフィールの上にあるコーティングの部分を参照する、
請求項1~11のいずれか1つに記載の方法。
【請求項14】
ディスクブレーキ用のブレーキディスクであって、
ディスク(1)の2つの主面のうちの1つを少なくとも部分的にそれぞれ画定する2つの対向する制動面(2a、2b)を備えた制動バンド(2)を含み、
前記制動バンド(2)は、ねずみ鋳鉄または鋼から選択されたベース金属から構成され、
前記ブレーキディスクには、
前記制動バンドの2つの前記制動面のうち少なくとも1つを覆うベース保護コーティング(30)が提供され、
前記ベース保護コーティング(30)は、
炭化クロム(Cr)とニッケルクロム(NiCr)、または、ニッケルクロム(NiCr)、鉄(Fe)、モリブデン(Mo)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、およびアルミニウム(Al)、を含み、
スプレー堆積技術、好ましくはHVOF(高速度酸素燃料)技術、またはHVAF(高速度空気燃料)技術、またはKM(コールドスプレー法)技術を用いた堆積により得られ、
前記ブレーキディスクにはまた、
前記制動バンドの2つの前記制動面のうち少なくとも1つを覆う表面保護コーティング(3)が提供され、
前記表面保護コーティング(3)は、
炭化タングステン(WC)、鉄(Fe)、クロム(Cr)、およびアルミニウム(Al)を含み、
前記ベース保護コーティング(30)上に、粒子状の材料のスプレー堆積技術、好ましくはHVOF(高速度酸素燃料)技術、またはHVAF(高速度空気燃料)技術、またはKM(コールドスプレー法)技術を用いた堆積により得られ、
前述のベース保護コーティング(3)によってコーティングされた前記制動面は、前記ベース金属の窒炭化層(300)によって画定され、前記制動バンドの中心に対して半径方向または円周方向の断面において粗いプロフィールを有する、
ブレーキディスク。
【請求項15】
前記粗いプロフィールは、30~200マイクロメートルの間の高さで表面に直交して延び、前記制動バンドの中心に対して半径方向または円周方向に300~2000マイクロメートルの間のピッチで相互に間隔を空けて配置された複数の突起(20)によって画定され、
好ましくは、前記突起(20)は、それらが延びる前記表面に直交する方向に対してアンダーカット角αを有し、好ましくは、前記アンダーカット角αは、2°~15°の間である、
請求項14に記載のブレーキディスク。
【請求項16】
前記窒炭化層(300)は、前記ベース金属のフェライト窒炭化処理によって得られる、
請求項14または15に記載のブレーキディスク。
【請求項17】
前記窒炭化層(300)は、2~30マイクロメートルの深さを有し、マイクロハードネスで300HVよりも高い硬度値を有する、
請求項14~16のいずれか1つに記載のブレーキディスク。
【請求項18】
前記窒炭化層300は、ベース保護層(30)との界面として作用するマグネタイト(Fe)を含む酸化最上層(330)を含み、
マグネタイト(Fe)を含む前記酸化最上層(330)は、2~10マイクロメートルの厚さを有することが好ましい、
請求項14~17のいずれか1つに記載のブレーキディスク。
【請求項19】
前記ベース保護コーティング(30)は、65%~95%の炭化クロム(Cr)と残りのニッケルクロム(NiCr)の組成;または、ニッケル(Ni)の重量含有率が40%~75%、クロム(Cr)の重量含有率が14%~30%であり、残りが鉄(Fe)、モリブデン(Mo)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、およびアルミニウム(Al)であるニッケルクロム(NiCr)の組成、を有する、
請求項14~18のいずれか1つに記載のブレーキディスク。
【請求項20】
前記表面保護コーティング(3)は、75重量%~87重量%の炭化タングステン(WC)と、残りの部分の鉄(Fe)、クロム(Cr)、およびアルミニウム(Al)とを含み、好ましくは、炭化タングステン(WC)が85重量%、鉄(Fe)、クロム(Cr)、およびアルミニウム(Al)が15重量%で構成されることが好ましい、
請求項14~19のいずれか1つに記載のブレーキディスク。
【請求項21】
前記ベース保護コーティング(30)は、20マイクロメートルと80マイクロメートルの間、好ましくは50マイクロメートルの厚さを有し、
前記厚さは、前記粗いプロフィールの上にあるコーティングの部分を参照する、
請求項14~20のいずれか1つに記載のブレーキディスク。
【請求項22】
前記表面保護コーティング(3)は、20マイクロメートルから90マイクロメートルの間の厚さを有し、好ましくは60マイクロメートルに等しい厚さを有し、
前記厚さは、前記粗いプロフィールの上にあるコーティングの部分を参照する、
請求項14~21のいずれか1つに記載のブレーキディスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスクブレーキ用の、ブレーキディスクの製造方法およびブレーキディスクに関する。
【背景技術】
【0002】
車両のディスクブレーキシステムのブレーキディスクは、環状構造または制動バンド(braking band)と、ディスクを車両サスペンションの回転部分、例えばハブに固定する手段である、ベルと呼ばれる中央固定要素とを備える。制動バンドには、制動バンドを跨ぐように配置され、車両サスペンションの非回転部品と一体化された少なくとも1つのキャリパ本体に収容された摩擦要素(ブレーキパッド)と協働するように適合された対向する制動面が設けられている。対向するブレーキパッドと制動バンドの対向する制動面との間の制御下の相互作用により、摩擦による制動作用が決定され、車両の減速または停止が可能となる。
【0003】
一般に、ブレーキディスクは、ねずみ鋳鉄または鋼で作られる。実際、この材料は、比較的低コストで、良好なブレーキ性能(特に摩耗の抑制)を得ることを可能とする。カーボンまたはカーボセラミック材料で作られたディスクは、はるかに大きな性能を提供するが、はるかに高いコストがかかる。
【0004】
鋳鉄または鋼で作られた従来のディスクの限界は、過度の摩耗に関連している。ねずみ鋳鉄製のディスクの場合、もう1つの非常に悪い点は、過度の表面酸化と、その結果としての錆の形成に関連する。この問題は、ブレーキディスクの性能と外観の両方に影響を与えてしまい、なぜなら、ブレーキディスク上の錆は、ユーザにとって美的に受け入れがたいものだからである。このような問題に対処するために、ねずみ鋳鉄や鋼製のディスクに保護コーティングを施すことが試みられてきた。この保護コーティングは、一方で、ディスクの摩耗を低減し、他方で、ねずみ鋳鉄のベースを表面酸化から保護して、それにより、錆の層の形成を防止する。現在市販されて、ディスクに適用されている保護コーティングは、耐摩耗性を提供するものの、剥がれ(flaking)が発生してディスク自体から剥離する可能性がある。
【0005】
現在市販されて、ディスクに適用されている保護コーティングは、耐摩耗性を提供するものの、剥がれが発生してディスク自体から剥離する可能性がある。
【0006】
このタイプの保護コーティングは、例えば、低摩耗ディスクブレーキに関する米国特許第4715486号に記載されている。特に鋳鉄製のディスクは、高運動エネルギー衝突技術によってディスク上に堆積された粒子材料を含むコーティングを有する。第1の実施形態によれば、コーティングは、20%から30%の炭化タングステン、5%のニッケル、および残りの部分は炭化クロムとタングステンの混合物を含む。第2の実施形態によれば、コーティングは、80%から90%の炭化タングステン、最大10%のコバルト、最大5%のクロム、および最大5%の炭素を含む。
【0007】
溶射技術でコーティングを施す場合、ねずみ鋳鉄や鋼でできたディスクから従来の保護コーティングが剥離する原因の1つは、保護コーティング中の遊離炭素の存在である。実際、この炭素は、形成される保護コーティングに含まれる酸素と結合して燃焼する傾向がある。これにより、コーティング内にマイクロバブルが形成され、コーティングのディスクへの適切な接着が妨げられ得て、コーティングが剥がれやすくなる。
【0008】
以上のことから、保護コーティングをしたねずみ鋳鉄や鋼から作られるディスクは、現在、ブレーキシステムの分野では使用できないことが明らかである。
【0009】
しかしながら、保護コーティングによって保証される耐摩耗性の点での利点を考慮すると、先行技術を参照して上述した欠点を解決する必要性が当該分野で強く感じられている。特に、ディスクの耐摩耗性を向上させることができ、かつ経時的に強い保護コーティングを備えたねずみ鋳鉄製または鋼製のディスクを得る必要性が感じられている。
【0010】
前述の問題に対する解決策は、ねずみ鋳鉄または鋼で作られたディスクについて、国際出願WO2014/097187において本出願人によって示唆された。
【0011】
ねずみ鋳鉄または鋼製のディスクの場合、70~95重量%の炭化タングステン、5~15重量%のコバルトおよび1~10重量%のクロムを含む粒子状の材料を堆積させることによって得られるディスクブレーキの制動面上の保護コーティングを作ることを含む。粒子状の材料の堆積は、HVOF(High-Velocity Oxygen Fuel:高速度酸素燃料)、またはHVAF(High-Velocity Air Fuel:高速度空気燃料)、またはKM(Kinetic Metallization:コールドスプレー法)技術を用いて得られる。
【0012】
より詳細には、WO2014/097187で提供されている解決策によれば、HVOF、HVAFまたはKM堆積技術と、コーティングを形成するために使用される化学成分との組み合わせにより、高い結合強度を有する保護コーティングを得ることができ、ねずみ鋳鉄または鋼に対する高度な固定を保証することができる。使用されている粒子材料は、遊離炭素(C)をたとえ微量でも含んでいない。これにより、保護コーティングの剥がれ現象を大幅に軽減することができる。
【0013】
ねずみ鋳鉄または鋼で作られたディスクについてWO2014/097187で提供されている解決策、あるいはアルミニウムまたはアルミニウム合金で作られたディスクについてWO2014/097186で提供されている解決策を採用することで、既知の先行技術で見られる保護コーティングの剥がれ現象を大幅に低減することができるが、完全になくすことはできない。実際に、WO2014/097186またはWO2014/097187に従って製造された保護コーティングを備えたアルミニウムまたはアルミニウム合金または鋳鉄または鋼製のディスクにおいても、既知の先行技術よりも少ない頻度ではあるが、保護コーティングの剥がれおよび崩壊が引き続き発生している。
【0014】
保護コーティングの剥がれおよび崩壊の問題に対する部分的な解決策は、国際出願WO2017046681A1において本出願人によって提供されている。特に、そのような解決策は、保護コーティングと制動面との間に、65%~95%の炭化クロム(Cr)と残りの部分のニッケルクロム(NiCr)とを含むベース保護コーティングを作ることを提供する。ベース保護コーティングの上に形成される表面保護コーティングは、80~90重量%の炭化タングステン(WC)と、残りがコバルト(Co)で構成されている。両方の保護コーティングのための粒子状の材料の堆積は、HVOF(高速度酸素燃料)またはHVAF(高速度空気燃料)またはKM(コールドスプレー法)技術を用いて得られる。このような解決策は、特にねずみ鋳鉄や鋼でできたディスクに適用される。
【0015】
先行技術に関して、WO2017046681A1が提供する技術的解決策は、保護コーティングの崩壊と剥がれの低減という点で大きな改善をもたらす。しかしながら、達成可能な結果は、完全に満足できるものではない。
【0016】
したがって、参照分野では、長期にわたる耐摩耗性を確保するために、剥がれの影響を受けない、または既知の解決策よりもはるかに影響の程度が低い保護コーティングを施したねずみ鋳鉄または鋼製のディスクの必要性が存在し続けている。
【発明の概要】
【0017】
経時的な耐摩耗性を保証するために、剥がれの影響を受けないか、現在知られている解決策よりもはるかに少ない程度の影響しか受けない保護コーティングを備えたディスクの必要性は、請求項1に記載のブレーキディスクの製造方法および請求項14に記載のディスクブレーキ用のブレーキディスクによって満たされる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
本発明のさらなる特徴と利点は、非限定的な例として挙げられる好ましい実施形態の以下の説明からより明らかになる。
【0019】
図1図1は、本発明の実施形態に係るディスクブレーキの平面図である。
図2図2は、図1のディスクを図1の線II-IIで切った断面を示し、コーティング層および粗さプロフィールの実寸を無視して視覚的にわかりやすいように制動バンドが模式的に示されている。
図3図3は、図2に示されるボックス内に示される制動バンドの一部に関する拡大詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に説明する実施形態に共通する要素や部品は、同じ参照符号を用いて示す。
【0021】
前述の図を参照すると、参照符号1は、本発明によるブレーキディスクを全体として示している。
【0022】
添付の図に示す本発明の一般的な実施形態によれば、ディスクブレーキ1は、2つの対向する制動面2aおよび2bを備えた制動バンド2を含み、それぞれがディスクの2つの主面の1つを少なくとも部分的に画定する。
【0023】
制動バンド2は、ねずみ鋳鉄または鋼から選ばれたベース金属で構成されている。制動バンドはねずみ鋳鉄で作られることが好ましい。特に、ディスク全体がねずみ鋳鉄で作られている。したがって、以下の説明では、ねずみ鋳鉄で作られたディスクを参照するが、それが鋼で作られる可能性を排除するものではない。
【0024】
ディスク1には、
- 制動バンドの2つの制動面の少なくとも一方を覆うベース保護コーティング30と、
- 制動バンドの2つの制動面のうち少なくとも一方を覆い、かつ前記ベース保護コーティング30を覆うように作られた表面保護コーティング3と、
が備えられる。
【0025】
ベース保護コーティング30は、炭化クロム(Cr)とニッケルクロム(NiCr)から、またはニッケルクロム(NiCr)、鉄(Fe)、モリブデン(Mo)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、およびアルミニウム(Al)から構成され、コーティングの成分を粒子状にしてディスク1上にスプレー堆積(spray deposition)技術、好ましくはHVOF(高速度酸素燃料)技術、またはHVAF(高速度空気燃料)技術、またはKM(コールドスプレー法)技術で堆積することによって得られる。
【0026】
炭化タングステン(WC)、鉄(Fe)、クロム(Cr)、およびアルミニウム(Al)から構成される表面保護コーティング3は、ベース保護コーティング30上に炭化タングステン(WC)、鉄(Fe)、クロム(Cr)、およびアルミニウム(Al)を粒子状にして、スプレー技術、好ましくはHVOF(高速度酸素燃料)技術、またはHVAF(高速度空気燃料)技術、またはKM(コールドスプレー法)技術によって堆積させることによって得られる。
【0027】
本発明によれば、図2および図3に模式的に示されているように、前述のベース保護コーティング3によってコーティングされた制動面は、ベース金属(ねずみ鋳鉄または鋼)の窒炭化層(nitrocarburized layer)300によって画定され、制動バンドの中心に対して半径方向または円周方向の断面において粗いプロフィールを有する。
【0028】
したがって、ベース保護層30は、制動バンドを形成するベース金属上に直接固定されるのではなく、前述した窒炭化(窒素と炭素を表面に堆積する方法)ベース金属層300上に固定される。
【0029】
特に、前述の粗いプロフィールは、30~200マイクロメートルの間の高さで表面に直交して延び、制動バンドの中心に対して半径方向または円周方向に300~2000マイクロメートルの間のピッチで相互に間隔を空けて配置された複数の突起20によって画定される。好ましくは、前記突起は、ディスク1の制動面上に規則的なパターンで分布している。しかし、不規則な分布パターンを設けることもできる。
【0030】
有利には、図3に模式的に示すように、前記突起20は、それらが延びる表面に直交する方向に対してアンダーカット角αを有する。前記アンダーカット角αは、2°~15°の間であることが好ましい。
【0031】
代替的な実施形態によれば、前記粗いプロフィールは、旋盤加工によって得られた場合には0.8~2の間の粗さRaを有してもよく、サンドブラストによって得られた場合には10~80の間の粗さRzを有してもよい。
【0032】
前記窒炭化層300は、ベース金属のフェライト窒炭化処理(ferritic nitrocarburization treatment)によって得られることが好ましい。
【0033】
好適な実施形態によれば、窒炭化層300は、2~30マイクロメートルの深さを有し、マイクロハードネスで300HVよりも高い硬度値を有する。
【0034】
特に好適な実施形態によれば、前記窒炭化層300は、前記保護ベース層30との界面として作用するマグネタイトFeを含む酸化最上層330を含んでいる。
【0035】
マグネタイトFeを含む前述の酸化最上層330は、2~10マイクロメートルの厚さを有することが好ましい。
【0036】
ベース保護コーティング(30)は、
- 65%~95%の炭化クロム(Cr)と残りのニッケルクロム(NiCr);または
- ニッケル(Ni)の重量含有率が40%~75%、クロム(Cr)の重量含有率が14%~30%であり、残りが鉄(Fe)、モリブデン(Mo)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、およびアルミニウム(Al)であるニッケルクロム(NiCr)、の組成を有することが好ましい。
【0037】
特に、ベース保護コーティング30は、
- 炭化クロム(Cr)が93重量%、ニッケルクロム(NiCr)が7重量%、
- 炭化クロム(Cr)が90重量%、ニッケルクロム(NiCr)が10重量%、
- 炭化クロム(Cr)75重量%、ニッケルクロム(NiCr)25重量%;または、
- 炭化クロム(Cr)が65重量%、ニッケルクロム(NiCr)が35重量%、の組成を有してもよい。
【0038】
ベース保護コーティング30は、75重量%の炭化クロム(Cr)と、25重量%のニッケルクロム(NiCr)とからなることが好ましい。特に、ニッケルクロム(NiCr)は、80%のニッケルと20%のクロムからなる。
【0039】
表面保護コーティング3は、75重量%~87重量%の炭化タングステン(WC)と、残りの部分の鉄(Fe)、クロム(Cr)、およびアルミニウム(Al)とを含むことが好ましい。表面保護コーティング3は、炭化タングステン(WC)が85重量%、鉄(Fe)、クロム(Cr)、およびアルミニウム(Al)が15重量%で構成されることがさらに好ましい。
【0040】
有利には、ベース保護コーティング20は、20マイクロメートルと80マイクロメートルの間、好ましくは50マイクロメートルに等しい厚さを有し、一方、表面保護コーティング3は、30マイクロメートルと90マイクロメートルの間、好ましくは60マイクロメートルに等しい厚さを有している。2つの保護コーティング3、および30の厚さは、粗い状態の上のコーティング部分に関連して算出される。したがって、これらは、粗さの窪み/ピットを埋めるために使用される可能性のあるコーティングの厚さを考慮していない最小の厚さ値である。
【0041】
全体として、図3に模式的に示されているように、2つの保護コーティング3および30は、制動面の粗さを完全に満たし、好ましくは上記に規定された間隔内の厚さの層を有する粗いプロフィール上に進展する。
【0042】
未改質のベース金属とベース保護コーティング30との間の界面に前記の窒炭化層300が存在すると、同様の保護コーティングを有するが窒炭化層を有しないブレーキディスクと比較して、コーティング剥がれ現象の発生を完全には解除できないまでも大幅に低減できることが意外にも判明した。
【0043】
考えられる技術的説明は、すべての場合において非限定的であるが、従来の保護コーティングとは異なり、窒炭化層は、ベース金属自体に適用される材料の層からいかなる方法でも構成されることなく、ベース金属を腐食から保護するという事実に基づく。言い換えれば、未改質のベース金属と窒炭化層300との間には正味の分離面(net separation surface)がない。窒炭化層は、実際に、窒炭化のプロセスによって形態的および化学的に改質されたベース金属の層である。したがって、未改質のベース金属から窒炭化処理された金属への移行は、進行性であってもよい。
【0044】
この観点から、それに対応して窒炭化層300が作られる制動面の粗さプロフィールは、窒炭化されたベース金属から未改質のベース金属への移行における不規則性をさらに強調し、肯定的な効果を高めることになる。
【0045】
それに対応して窒炭化層300が作られた制動面の粗さプロフィールは、ベース保護層30の窒炭化層への機械的接着をさらに容易にする。
【0046】
また、窒炭化層300の存在は、通常の環境下において、耐摩耗性と摩擦学的(tribological)挙動(摩擦、退色、すり合わせ運転)の両方の観点から、表面保護コーティング3の性能に影響を与えないことが実験的に確認されている。
【0047】
最後に、窒炭化層300の存在は、環境ストレス(熱衝撃や塩害)の存在下での耐性を向上させることが実験的に確認されている。
【0048】
窒炭化層が提供する抗腐食作用は、窒炭化層300がマグネタイトFeを含む酸化された最上層330を含む好ましいケースでは、より強調される。
【0049】
このような抗腐食作用は、いずれにしても、ベース保護コーティング層30の存在によってさらに強化される。このようなベース保護コーティング30の組成(CrとNiCr、またはNiCr、Fe、Mo、Co、Mn、およびAl)と堆積方法により、このようなベースコーティング30は、ディスクの制動面においても抗腐食作用を有する。
【0050】
抗腐食作用は、表面保護コーティング3の完全性とディスクへの接着性に有益である。
【0051】
また、ベース保護コーティング30は、表面保護(摩耗防止)コーティング3の機械的な「ダンパ」機能を果たす。実際、CrおよびNiCrを含むベース保護コーティング30、またはNiCr、Fe、Mo、Co、Mn、およびAlを含むベース保護コーティング30は、炭化タングステン、鉄、クロム、およびアルミニウムを含む表面保護コーティング3よりも高い延性を有する。これにより、ベース層30に弾性的な挙動が付与され、使用時にディスクに付与される応力を少なくとも部分的には緩和することができる。したがって、ベース保護コーティング30は、ディスクと表面保護コーティング3との間で、一種のダンパまたはクッションのように作用する。これにより、2つの部分の間で応力が直接伝達されるのを防ぎ、表面保護コーティング3にクラックが発生するリスクを低減することができる。
【0052】
摩耗防止機能に関しては、表面保護コーティング3は、ベース保護コーティング30の存在にも、窒炭化層300(場合によっては酸化された最上層330を備える)にも影響されない。
【0053】
以下、簡単にする目的で、本発明による方法とともにブレーキディスク1を説明する。
【0054】
ブレーキディスク1は、以下に説明する本発明による方法で製造されることが好ましいが、必ずしもそうでなくてもよい。
【0055】
本発明による方法の一般的な実施態様によれば、本方法は以下の動作ステップを含む。
【0056】
ステップ(a):ディスクの2つの主面のうちの1つを少なくとも部分的にそれぞれ画定する2つの対向する制動面2a、2bを備えた制動バンド2を含むブレーキディスクを準備するステップであり、制動バンドはねずみ鋳鉄または鋼で作られる。
【0057】
ステップ(b):前記制動面2aまたは2bの少なくとも一方に、その表面粗さを増大させるための加工処理を施すステップ。
【0058】
ステップ(c):表面粗さを増大させた制動面を窒炭化して、その表面に窒炭化表面層300を得るステップ。
【0059】
ステップ(d):窒炭化された表面層(300)上に、以下を含む粒子状の材料を堆積させるステップ。
- 炭化クロム(Cr)とニッケルクロム(NiCr)、または、
- ニッケルクロム(NiCr)、鉄(Fe)、モリブデン(Mo)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、およびアルミニウム(Al)。
【0060】
そこで、スプレー堆積技術、好ましくはHVOF(高速度酸素燃料)技術またはHVAF(高速度空気燃料)技術またはKM(コールドスプレー法)技術を用いて、前記窒炭化層300を介在させて制動バンドの2つの制動面のうち少なくとも1つを覆うベース保護コーティング30を形成する。
【0061】
ステップ(e):ベースとなる保護コーティング(30)上に、炭化タングステン(WC)、鉄(Fe)、クロム(Cr)、およびアルミニウム(Al)を含む粒子状の材料を、スプレー堆積技術、好ましくはHVOF(高速度酸素燃料)技術、またはHVAF(高速度空気燃料)技術、またはKM(コールドスプレー法)技術を用いて堆積させ、炭化タングステン(WC)と鉄(Fe)、クロム(Cr)、およびアルミニウム(Al)からなり、制動バンドの2つの制動面のうち少なくとも1つを覆う表面保護コーティング3を形成するステップ。
【0062】
好ましくは、ステップ(b)で実行される加工プロセスは、30~200マイクロメートルの間の高さhで表面に直交して延び、300~2000マイクロメートルの間のピッチPで相互に離間している複数の突起20によって画定される粗いプロフィールを前記表面上に生成するために実行されてもよい。
【0063】
有利には、そのような突起部20は、それらがそこから延びる表面に直交する方向に対してアンダーカット角αを有する。好ましくは、そのようなアンダーカット角αは、2°から15°の間であり、さらに好ましくは10°に等しい。アンダーカット角αの存在は、窒炭化層300上のベース保護コーティング30の機械的接着能力を高める。
【0064】
特に、前記ステップ(b)は、チップ除去、レーザー彫刻、またはプラスチック変形によって実行される。
【0065】
有利には、前述のステップ(b)の代わりに、粗さRaが0.8~2の間の微細旋盤加工による加工プロセスが実行されてもよい。
【0066】
さらなる代替案によれば、前述のステップ(b)は、粗さRzが10~80の間のサンドブラストによる加工プロセスで実行される。
【0067】
好ましくは、窒炭化のステップ(c)は、フェライト窒炭化処理によって得られる。
【0068】
有利には、窒炭化ステップ(c)は、窒炭化された表面層300が、2~30マイクロメートルの深さを有し、マイクロハードネスで300HVよりも高い硬度値を有するように実施される。
【0069】
本発明による方法の好ましい実施形態によれば、窒炭化のステップ(c)に続いて、堆積のステップ(d)の前に実施される窒炭化層300の後酸化(post-oxidation)のステップ(f)を行い、マグネタイトFeを含む酸化された最上層330を得ることができる。
【0070】
好ましくは、マグネタイト(Fe)を含む酸化された最上層330は、2~10マイクロメートルの厚さを有する。
【0071】
マグネタイト(Fe)を含む酸化された最上層330の存在は、未改質のベース金属に対する窒炭化層の抗腐食作用を強化するものである。
【0072】
窒炭化は、当業者にそれ自体よく知られているプロセスであり、したがって、詳細には説明しない。ここでは、明確化のためにいくつかの一般的な情報を提供することに留める。
【0073】
窒炭化は、フェライト相において、比較的低い温度(550℃~580℃)で、部品の表面領域に窒素と炭素の拡散を得るような条件で行われる熱化学的表面硬化プロセスである。特に、窒素と炭素の拡散プロセスを実施するために採用される手段は、塩浴、ガス、プラズマである。
【0074】
高度な均一性と清浄性が求められる場合(ブラインドキャビティ、溝、ねじ山など)には、塩浴での窒炭化よりも気体媒体での窒炭化の方が好ましい。
【0075】
窒炭化工程で採用される温度では、変形の抑制が保証される。
【0076】
フェライト窒炭化の代替として、イオン窒炭化を実施することができる。後者は、温度が570℃であることと、雰囲気がアンモニアとメタンであることがフェライトのものと本質的に異なる。
【0077】
イオン窒炭化処理では、表面構成物質の種類と深さを自由に変えることができる。したがって、疲労および/又は摩耗に耐えなければならない部品(ブレーキディスクなど)の場合には、(Fe4N)または(Fe2-3CxNy)の層形成を決定することが可能である。
【0078】
好ましくは、ベース保護コーティング30を作るための堆積のステップ(d)で堆積される粒子状の材料は、65%~95%の炭化クロム(Cr)と、残りの部分のニッケルクロム(NiCr)とから構成される。
【0079】
特に、ベース保護コーティング30を作るための堆積のステップ(b)で堆積された粒子状の材料は、以下の組成を有していてもよい。
- 炭化クロム(Cr)が93重量%、ニッケルクロム(NiCr)が7重量%。
- 炭化クロム(Cr)が90重量%、ニッケルクロム(NiCr)が10重量%。
- 炭化クロム(Cr)が75重量%、ニッケルクロム(NiCr)が25重量%;または
- 炭化クロム(Cr)が65重量%、ニッケルクロム(NiCr)が35重量%。
【0080】
好適な実施形態によれば、ベース保護コーティング30を作るための堆積のステップ(d)で堆積された粒子状の材料は、75重量%の炭化クロム(Cr)と25重量%のニッケルクロム(NiCr)とからなる。特に、ニッケルクロム(NiCr)は、80%のニッケルと20%のクロムからなる。
【0081】
代わりに、ベース保護コーティング30を作るために堆積ステップ(d)で堆積される粒子状の材料は、ニッケル(Ni)の重量による含有量が40%から75%であり、クロム(Cr)の重量による含有量が14%から30%であるニッケルクロム(NiCr)をベースとし、残りが、鉄(Fe)、モリブデン(Mo)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、およびアルミニウム(Al)をベースとしている。
【0082】
好ましくは、表面保護コーティング3を作製するための堆積のステップ(e)で堆積される粒子状の材料は、75重量%から87重量%の炭化タングステン(WC)と、残りの部分の鉄(Fe)、クロム(Cr)、およびアルミニウム(Al)とから構成されるものである。
【0083】
特に、表面保護コーティング3を作るために堆積させるステップ(e)で堆積された粒子状の材料は、10重量%から17重量%の鉄(Fe)、2.5重量%から5.8重量%のクロム(Cr)、0.6重量%から2.2重量%のアルミニウム(Al)、および残りの部分の炭化タングステン(WC)とから構成される。
【0084】
好ましい実施形態によれば、得られる表面保護コーティング3は、85重量%の炭化タングステン(WC)と、15重量%の鉄(Fe)、クロム(Cr)、およびアルミニウム(Al)とから構成される。
【0085】
有利には、ブレーキディスクには、ディスクを車両に固定するのに適した部分が設けられており、この部分は、ディスク1に対して中心に配置され、制動バンド2と同心円状に配置された環状部分4からなる。固定部分4は、接続要素5をホイールハブに(すなわちベルに)支持する。ベルは、(添付の図に示すように)環状の固定部分と一体的に形成されていてもよいし、別個に形成された後、適切な接続要素によって固定部分に固定されてもよい。
【0086】
環状固定部分4は、制動バンドと同じ材料、すなわちねずみ鋳鉄製、または鋼製であってもよい。また、ベル5は、ねずみ鋳鉄または他の適切な材料で作られてもよい。特に、ディスク全体(すなわち、制動バンド、固定部分およびベル)は、ねずみ鋳鉄で作られてもよい。
【0087】
好ましくは、制動バンド2は、鋳造によって製造される。同様に、それらがねずみ鋳鉄で作られている場合には、固定部分および/またはベルは鋳造によって製造されてもよい。
【0088】
環状固定部は、(添付の図に示すように)制動バンドと一体で作られてもよく、あるいは、別体として作られて、制動バンドに機械的に接続されてもよい。
【0089】
有利には、ベース保護コーティング30を形成するためにステップ(d)で堆積される粒子状の材料は、5~40マイクロメートルの間の粒径を有する。このような範囲の値を選択することにより、窒炭化層300に堆積面密度および付着能力の高い特性を付与することができる。
【0090】
好ましくは、ベース保護コーティング30は、20マイクロメートルから80マイクロメートルの間の厚さを有し、好ましくは50マイクロメートルに等しい厚さを有する。このような範囲の値を選択することにより、酸化防止の保護作用の有効性と、コーティング自体の熱膨張の制限との間の最適なバランスを実現することができる。言い換えると、ベース保護コーティング30の厚さが20マイクロメートル未満であると、十分な酸化防止保護作用が得られない。一方、厚さが80マイクロメートルを超えると、ディスクブレーキのライフサイクルで発生する熱膨張により、経時的に接着が不完全になる可能性がある。
【0091】
前述の厚さの範囲内で、ベース保護コーティング30は、表面保護コーティング3の完全性を維持するのに役立つ前述の「ダンパ」効果を発揮することができる。
【0092】
有利には、表面保護コーティング3を形成するためにステップ(e)で堆積される粒子状の材料は、5~45マイクロメートルの間の粒径を有する。このような範囲の値を選択することにより、密度、硬度、および限定された多孔性の高い特性をコーティングに付与することができる。
【0093】
好ましくは、表面保護コーティング3は、30マイクロメートルから90マイクロメートルの間の厚さを有し、好ましくは60マイクロメートルに等しい厚さを有する。このような範囲の値を選択することにより、保護層の消費量とコーティング自体の熱膨張の制限との間の最適なバランスを実現することができる。言い換えれば、保護コーティングの厚さが20マイクロメートル未満であると、摩耗した場合に、過度に短い時間で完全に除去されてしまう。一方、厚さが90マイクロメートルを超えると、ディスクブレーキのライフサイクルで発生する熱膨張により、経時的に接着が不完全になってしまう。
【0094】
上述したように、2つの保護コーティング3および30の厚さは、粗い状態の上にあるコーティングの部分に関連して計算される。したがって、これらは、粗さの窪み/ピットを埋めるために使用される可能性のあるコーティングの厚さを考慮していない最小の厚さ値である。
【0095】
全体として、図3に図示されているように、2つの保護コーティング3および30は、制動面の粗さを完全に満たし、好ましくは上記で規定された間隔内の厚さの層で粗いプロフィール上に進展する。
【0096】
既に述べたように、ベース保護コーティング30を形成する材料(炭化クロム(Cr)とニッケルクロム(NiCr)、またはニッケルクロム(NiCr)、鉄(Fe)、モリブデン(Mo)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、およびアルミニウム(Al))と、表面保護コーティング3を形成する材料(炭化タングステン、鉄、クロム、およびアルミニウム)との両方は、好ましくはHVOF技術、HVAF技術、またはKM技術により、窒炭化層300上およびベース保護コーティング30上にそれぞれ粒子状に堆積させられる。
【0097】
これら3つの堆積技術は、当業者にはよく知られているので、詳細な説明は省略する。
【0098】
HVOF(高速度酸素燃料)は、混合・燃焼室とスプレーノズルを備えたスプレー装置を用いた粉末スプレー堆積技術である。燃焼室には酸素と燃料が供給される。1Mpaに近い圧力で形成された高温の燃焼ガスが、収束発散ノズルを通過することで、粉体の材料を極超音速(すなわち、マッハ5以上)で搬送する。堆積される粉体の材料は、高温のガス流の中に注入され、その中で急速に溶融し、1000m/sの桁の速度にまで加速される。堆積面に衝突すると、溶融した材料は急速に冷却され、高い運動エネルギーの衝突によって非常に高密度でコンパクトな構造が形成される。
【0099】
HVAF(高速度空気燃料)堆積技術は、HVOF技術と似ている。違いは、HVAF技術では酸素の代わりに空気が燃焼室に供給される点である。そのため、温度はHVOFに比べて低くなる。これにより、コーティングの熱的改質をよりよく制御することができる。
【0100】
KM(コールドスプレー法)堆積技術は、固体堆積プロセスであり、不活性ガス流の中で金属粒子を加速し、摩擦電気的(triboelectric)に帯電させる2つのステップで、金属粉末を音波堆積ノズルからスプレーする。熱エネルギーはキャリヤストリームで供給される。圧縮された不活性ガスの流れと熱エネルギーの位置エネルギーは、プロセス内で粉体の運動エネルギーに変換される。一旦高速に加速され、電気を帯びると、粒子は、堆積面に向けられる。堆積面に金属粒子が高速で衝突すると、粒子が大きく変形する(衝突に垂直な方向に約80%)。この変形により、粒子の表面積が非常に大きくなる。衝突の結果、粒子と堆積面との間に緊密な接触が生じ、金属結合が形成され、非常に緻密でコンパクトな構造のコーティングが形成される。
【0101】
有利なことに、高運動エネルギー衝突堆積技術であるという事実を共有する上述の3つの堆積技術に代わるものとして、異なる堆積方法を利用するが、非常に高密度でコンパクトな構造を持つコーティングを生成することができる他の技術がある。
【0102】
HVOF、HVAFまたはKM堆積技術と、2つの保護コーティング(ベース30および表面3)を形成するために使用される化学成分との組み合わせにより、それらが堆積された下の材料上で高い結合強度を有する保護コーティングを得ることができる。
【0103】
特に、前述の組み合わせにより、窒炭化層300(場合によっては酸化された上層330を有する)上のベースコーティング30と、ベース保護コーティング30上の表面コーティング3の両方の高い定着度を得ることができる。
【0104】
2つの保護コーティングを形成する最終材料中に、微量の形でも存在しないことが好ましい遊離炭素(C)の不在は、剥離のリスクを低減するのに役立つ。実際、溶射技術によるコーティングの適用の場合、アルミニウムまたはアルミニウム合金、あるいはねずみ鋳鉄または鋼からなるディスクから従来の保護コーティングが剥離する原因は、保護コーティング中の遊離炭素の存在であることが分かっている。実際、この炭素は、形成される保護コーティングに含まれる酸素と結合して燃焼する傾向がある。これにより、コーティング内に微細な気泡が形成され、コーティングのディスクへの適切な接着が妨げられ、コーティングの剥がれを促進する。
【0105】
本発明の特に好ましい実施形態によれば、ベース保護コーティング3を作るための堆積のステップ(b)で堆積された粒子状の材料と、表面保護コーティング30を作るための堆積のステップ(d)で堆積された粒子状の材料の両方が、HVOF(高速度酸素燃料)技術によって堆積される。実際、この技術は、特に制動バンドと関連している場合や、全体がねずみ鋳鉄製のディスクに関連している場合、耐摩耗性と摩擦学的性能の点で最良の妥協点を提供する複合保護コーティング(ベース+表面)を実現することができることが分かっている。
【0106】
より詳細には、実施した実験テストによると、(好ましい)HVOF(高速度酸素燃料)技術に関しては、HVAF(高速度空気燃料)技術では、公称値に近い規則的な厚さのコンパクトで均一なコーティングを得ることができる。HVOFで作られたコーティングは、コンパクトさに欠け、「スポンジのような」外観を有し、厚さが均一ではない。
【0107】
HVOFおよびHVAFで作られたコーティングを有する試料に対して行われた熱衝撃試験では、WC+Fe、Cr、Alの表面保護コーティングのみに影響を与え、すべての試料に損傷が見られ、コーティングのマイクロクラックからなるものであった。しかし、このようなマイクロクラックは、HVAF技術で作られたコーティングを持つ試料でより顕著に見られ、おそらく塗布の剛性が高いことが原因であると考えられる。これにより、HVOF技術がより好ましいものとなる。
【0108】
いずれの場合も、Cr+Ni、またはNiCr+Fe+Mo+Co+Mn+Alからなるベース保護コーティングは、熱衝撃試験後の影響を受けることはなく、常に緻密で、鋳鉄に完全に付着し、クラックもなかった。
【0109】
上述したように、ベース保護コーティング30及び表面保護コーティング3は、制動バンドの2つの制動面のうち少なくとも一方を覆っている。
【0110】
以下、ベース保護コーティング30と表面保護コーティング3の全体を「複合保護コーティング」3、30として広く識別する。
【0111】
好ましくは、図2に示すように、ディスク1には、制動バンド2の両制動面2a、2bを覆う「複合保護コーティング」3、30が設けられている。
【0112】
特に、複合保護コーティング3、30は、制動バンドのみを覆っても、単一の制動面上を覆っても、両方を覆ってもよい。
【0113】
添付の図には示されていない実施形態の解決策によれば、複合保護コーティング3、30は、ディスク1の表面全体を覆うまで、環状固定部4やベル5などのディスク1の他の部分にも延びてもよい。特に、複合保護コーティング3、30は、制動バンドに加えて、固定部分のみ、またはベルのみを覆ってもよい。この選択は、ディスク全体またはその一部の間で均一な着色および/または仕上げを行うために、実質的に外観上の理由によって決定される。
【0114】
有利には、複合保護コーティング3、30の形成のための粒子材料の堆積は、少なくともコーティングの厚さの点で、ディスクの表面上で差別化して行われてもよい。
【0115】
制動バンドにおいて、複合保護コーティング3、30は、2つの対向する制動面において同じ厚さで作られてもよい。制動バンドの2つの制動面の間で異なる厚さで区別して複合保護コーティング3、30が作られるという代替策を提供することができる。
【0116】
特に好ましい実施形態によれば、ベース保護コーティング30を形成するための堆積ステップ(d)は、保護コーティングを形成するための、表面上の粒子状材料自体の2つ以上の別の堆積段階を含む。
【0117】
より詳細には、堆積のステップ(d)は、
- ベース保護コーティング30の第1の層をディスク上に直接作成するための、粒子状の材料の第1の堆積段階;および、
- 第1の層上にベース保護コーティングの第2の層を作成するための、粒子状の材料の第2の堆積段階、
を含む。
【0118】
以下に明らかになるとおり、第2の仕上げ層は、ベース保護コーティング3の表面仕上げを調整することを可能にする。
【0119】
堆積のステップ(d)を2つの段階に分割することにより、特に、各段階で使用される粒子状の材料の少なくとも粒子サイズを差別することができる。これにより、堆積のステップ(d)をより柔軟にすることができる。
【0120】
有利には、第1の堆積段階で堆積される粒子状の材料は、第2の堆積段階で堆積される材料よりも大きい粒子サイズを有する。特に、第1の堆積段階で堆積される粒子状の材料は、30マイクロメートルと40マイクロメートルの間の粒子サイズを有し、第2の堆積段階で堆積される粒子状の材料は、5マイクロメートルと20マイクロメートルの間の粒子サイズを有する。
【0121】
ベース保護コーティング30を2つの異なる堆積段階で作成し、第1の層の形成のために粗い粒子サイズを使用し、第2の層(仕上げの機能を備える)の形成のためにより細かい粒子サイズを使用することにより、堆積の終わりに、その後の表面保護コーティング3の堆積の機能として、必要な表面仕上げ特性をすでに有するコーティングを得ることができる。このような所望の表面仕上げ特性は、コーティングのための研磨および/またはその他の表面仕上げ操作の実施を必要とせずに得ることができる。第2段階で堆積された粒子は、ベース層の表面の粗い粗さを埋める。有利には、第2段階で堆積される粒子の粒径を調整することによって、コーティングの表面仕上げレベルを調整することができる。
【0122】
ベース保護コーティング30の第1層の厚さは、コーティングの全厚さの2/4から3/4の間であり、ベース保護コーティング4の第2層の厚さは、コーティングの全厚さの1/4から2/4の間であることが好ましい。
【0123】
本方法の特に好ましい実施形態によれば、表面保護コーティング3を形成する粒子材料(WC+Fe+Cr+Al)を堆積させるステップ(e)は、保護コーティングを形成するために同一表面上に粒子材料を堆積させる2つ以上の異なる堆積段階を含む。
【0124】
より詳細には、堆積の前記ステップ(e)は、
- ベース保護コーティング30上に直接コーティングの第1の層を作成するための、粒子状の材料の第1の堆積段階;および、
- 表面保護コーティング3の第1の層上に第2の層を作成するための、粒子状の材料の第2の堆積段階、
を含む。
【0125】
表面保護層3は、所望の最終的な粗さ程度を達成するために、表面仕上げのステップを経ることが好ましい。
【0126】
代わりに、保護層3の表面仕上げは、コーティング自体3の堆積モードに直接働きかけることで得られてもよい。
【0127】
より詳細には、ベースコーティングを堆積させるステップ(d)で想定されていることと同様に、表面保護コーティング3を形成する粒子材料を堆積させるステップ(e)を特に2つ以上の段階に分割することによっても、各ステップで使用される粒子材料の少なくとも粒子サイズを差別することができる。これにより、堆積ステップ(e)がより柔軟になる。
【0128】
有利には、第1の堆積段階で堆積される粒子材料は、第2の堆積段階で堆積されたものよりも大きい粒子サイズを有する。特に、第1の堆積段階で堆積される粒子材料は、30マイクロメートルと40マイクロメートルの間の粒子サイズを有し、一方、第2の堆積段階で堆積される粒子材料は、5マイクロメートルと20マイクロメートルの間の粒子サイズを有する。
【0129】
ベース層を形成するために粗い粒径を使用し、仕上げ層を形成するために細かい粒径を使用して、2つの異なる堆積段階で表面保護コーティング3を作ることにより、コーティングのために研削および/または他の表面仕上げ操作を行う必要なく、堆積の終わりにすでに必要な表面仕上げ特徴を有する表面保護コーティング3を得ることが可能となる。第2段階で堆積された粒子は、ベース層の表面の粗い粗さを埋める。有利なことに、表面保護コーティング3の表面仕上げレベルは、第2段階で堆積された粒子の粒径を調整することによって調整することができる。
【0130】
特に、第1段階に30~40マイクロメートルの粒径の粒子を用い、第2段階に5~20マイクロメートルの粒径の粒子を用いることにより、表面保護コーティング3は、仕上げ層において、2.0~3.0マイクロメートルの範囲の表面粗さRaを有する。
【0131】
表面保護コーティング3の第1層の厚さは、コーティングの全厚さの2/4から3/4の間であり、表面保護コーティング3の第2層の厚さは、コーティングの全厚さの1/4から2/4の間であることが好ましい。
【0132】
全体として、粒子材料のHVOF、HVAF、またはKM堆積技術、使用される化学成分、および複数の段階における堆積モードの組み合わせにより、特にブレーキディスク1の使用目的に適合した、限定されたレベルの表面粗さを有するコーティングを得ることができる。
【0133】
以下のディスクの比較試験を実施した。
A)厚さ50マイクロメートルのベース保護コーティング(Cr+NiCr)と厚さ60マイクロメートルの表面保護コーティング(WC+Fe+Cr+Al)を有する、HVOF技術により製造された本発明による「複合」保護コーティングを有するねずみ鋳鉄製のディスクブレーキ。ベース保護コーティングは、深さ15マイクロメートルでマイクロハードネスで300HVより高い硬度値を有する窒炭化層上にディスク上に堆積された。窒炭化層は、5マイクロメートルの厚さの磁鉄鉱Feを含む酸化された最上層を含み、窒炭化層は、あらかじめその粗さを増加させるように適合された処理を受けたブレーキ表面上に作られた。
B) ねずみ鋳鉄製ブレーキディスクに、本発明と同様の「複合」保護コーティングを施したが、窒炭化層を設けずにディスクに直接施した。
【0134】
この2枚のディスクに、通常のダイナミックベンチテスト(ランイン、AKマスター、摩耗)を行った。
【0135】
そのような試験は、試験条件が同じであれば、本発明によるディスクAは、摩耗の点でディスクBと同等の耐久性を有することを示した。
【0136】
また、摩擦学的挙動(摩擦、フェーディング、ランイン)の観点からも、試験条件が同じであれば、本発明によるディスクは、従来のディスクBと実質的に同等の性能を有する。
【0137】
また、この2枚のディスクには、環境ストレスと熱機械的ストレスとが組み合わされて存在する状態で一連の抵抗試験が実施された。
【0138】
前述のように、このような試験は、本発明によるディスクが、環境ストレス(熱機械的衝撃および腐食剤)の存在下での耐性において、ディスクBよりも優れた性能を有することを示した。
【0139】
より詳細には,この2つのディスクは,複合ダイナミックベンチテスト(ディスクは,それぞれ複数の連続した制動操作を伴う異なる制動サイクルにさらされた)と,腐食環境でのテスト(塩水噴霧および結露水テスト:ディスクとブレーキパッドは,塩水噴霧と,高温にさらされた水分の多い環境に置かれた)の繰り返しを含むテストプログラムにかけられた。
【0140】
セットの繰り返しが終了した時点で、ディスクBは保護コーティングの全体的な剥離が見られたが、ディスクAは保護コーティングの最小限の局所的な剥離しか見られなかった。
【0141】
以上の説明から理解できるように、本発明によるディスクブレーキおよびその製造方法は、先行技術の欠点を克服することができる。
【0142】
実際に、本発明に従って製造されたブレーキディスクは、剥がれの影響を受けないか、または既知の解決策よりもはるかに少ない程度で剥がれの影響を受けることになる(その結果、時間的に耐摩耗性が確保される)。
【0143】
窒炭化層を備えた本発明によるコーティングを施したブレーキディスクは、窒炭化層を備えていない同様のコーティングを施したディスクと比較して、通常の環境下で同様の耐摩耗性および摩擦学的挙動を示した。
【0144】
また、本発明に従ってコーティングされたブレーキディスクは、環境ストレス(熱衝撃および塩害)の存在下での耐性の点で最高の性能を有することが確認された。
【0145】
また、ブレーキディスク1は、概して製造コストが低い。
【0146】
偶発的な特定のニーズを満たすために、当業者は、上述のディスクおよびブレーキディスクに多くの変更および変形を行うことができるが、これらはすべて、以下の請求項によって定義される本発明の範囲内に含まれる。
図1
図2
図3