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特許7441236多機能な針ホルダーと保持器リングのアッセンブリを有するシリンジ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】多機能な針ホルダーと保持器リングのアッセンブリを有するシリンジ
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/32 20060101AFI20240221BHJP
【FI】
A61M5/32 510H
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021549953
(86)(22)【出願日】2019-09-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-14
(86)【国際出願番号】 US2019051840
(87)【国際公開番号】W WO2020176134
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2022-06-29
(31)【優先権主張番号】16/286,958
(32)【優先日】2019-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513066638
【氏名又は名称】リトラクタブル テクノロジーズ,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Retractable Technologies, Inc.
【住所又は居所原語表記】511 Lobo Lane Little Elm, TX 75068, U.S.A.
(73)【特許権者】
【識別番号】508328486
【氏名又は名称】ショー,トーマス ジェイ.
【氏名又は名称原語表記】SHAW,Thomas J.
(74)【代理人】
【識別番号】110001438
【氏名又は名称】弁理士法人 丸山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ショー,トーマス ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ジュウ,ニ
(72)【発明者】
【氏名】デュースマン,ジョーダン
【審査官】小野田 達志
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-177467(JP,A)
【文献】特表2012-509716(JP,A)
【文献】特表2008-516676(JP,A)
【文献】特開2007-61623(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バレルと、プランジャーアッセンブリと、引込み可能な針と、針ホルダーと、エラストマー製保持器リングとを含むシリンジであって
前記針ホルダーはヘッド部を含み、前記ヘッド部が、前記引込み可能な針と連通する同軸に配置された流体流れ経路の後部開口部と、前記後部開口部に近接する位置に円錐台形状の内向き壁面と、を含み、
前記エラストマー製保持器リングが、前記バレルと前記針ホルダーの前記ヘッド部との間に配備されており、径方向に拡張されて前記針ホルダーの前記ヘッド部を取り囲む長手方向に延びる第1の部分と、実質的に径方向に拡張されず、前記針ホルダーの前記ヘッド部の基端部を後方側に超えて、かつ前記基端部の後方側で内向き拡大する長手方向に延びるカラー部である第2の部分と、を有し、
前記エラストマー製保持器リングの前記長手方向に延びるカラー部である第2の部分が、前記針ホルダーの前記円錐台形状の内向き壁面と協働して、前記バレル内で前記プランジャーアッセンブリを前進させるのに必要な親指の力を低減し、インジェクション中に、前記後部開口部から、同軸に配置された前記流体流れ経路に入る流体の乱流を低減し、シリンジの使用中に前記後部開口部の周囲に存在する流体の中にあらゆる気泡が維持されるのを低減する、シリンジ。
【請求項2】
前記保持器リングは内向き表面を含み、前記内向き表面は、前記針ホルダーの前記ヘッド部の外向き表面にスライド可能に係合するよう構成された環状突出部を有する、請求項1のシリンジ。
【請求項3】
前記保持器リングは内向き表面を含み、前記内向き表面は、断面が概ね台形柱形状として構成された環状突出部を含み、前記環状突出部は、傾斜した基端部側表面と傾斜した先端部側表面とが対向し、前記基端部側表面と前記先端部側表面との間に略平らな内向き表面を有する、請求項1のシリンジ。
【請求項4】
前記円錐台形状の内向き壁面内にあって、前記針ホルダーの長手方向軸と交差するラインは、前記保持器リングの前記長手方向に延びるカラー部である第2の部分と、前記保持器リングの後端部に近い位置でも交差する、請求項1のシリンジ。
【請求項5】
前記円錐台形状の内向き壁面は、前記針ホルダーの長手方向軸から約40°乃至約50°の範囲の鋭角で傾斜している、請求項1のシリンジ。
【請求項6】
前記鋭角は、前記針ホルダーの長手方向軸から約45°である、請求項5のシリンジ。
【請求項7】
前記保持器リングは、前記保持器リングと前記バレルの内壁部との間に形成された複数の歪んだエアポケットを含む、請求項1のシリンジ。
【請求項8】
前記複数の歪んだエアポケットは、前記ヘッド部及び前記バレルの内壁部に対して前記保持器リングが及ぼす保持力を高める、請求項7のシリンジ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1.発明の分野
本発明は、バレルと、前方に突出する針と、バレルの前部内部に着座した針引込みアッセンブリと、バレルの内壁に後部からスライド可能に係合し、針引込みアッセンブリと同軸に整列したプランジャーアッセンブリと、プランジャーアッセンブリの内部に配置され、針が引き込む際にアクセス可能になる針引込みキャビティと、を有する医療用シリンジに関する。より具体的には、本発明は、針引込みアッセンブリが、好ましくは、新しく構成された多機能な針ホルダーと保持器リングのアッセンブリをさらに備える医療用シリンジに関するもので、前記アッセンブリが、協働作用可能に構成されるよう再設計された構造要素を有し、該構造要素によって、先行技術で開示されたシリンジよりも優れた機能的能力及び性能特性を実現する。
【背景技術】
【0002】
<関連技術>
選択的に引込み可能な針と同軸上に整列される針引込み用キャビティを有するシリンジは広く知られており、例えば、米国特許第5,084,018号、第5,114,410号、第5,211,629号、第5,578,011号、第5,632,733号、第6,090,077号、第6,572,584号、第7,351,224号、第7,947,020号、及び第9,642,970号等に開示されている。リトラクタブル テクノロジーズ,インコーポレイテッドは、VanishPoint(登録商標)のブランド名でこのようなシリンジを製造し、販売している。VanishPointのシリンジは、様々なサイズを有する針引込み機構を提供している。この針引込み機構は、針ホルダーが圧縮コイルばねによって後方に付勢され、針ホルダーのヘッドとバレルの内壁との間に配置されたエラストマー製保持器リングによって引き込まれる前に所定の位置に保持される。
【0003】
このようなシリンジは、使用前に、幾つかの異なる要因や力成分が、シリンジの様々な部分や構造要素に影響を与え、作用することがある。これらの要因及び力は、シリンジの構成要素が、使用前は所望の位置で安定した状態を維持し、使用時に効果的に機能するように、考慮され適切にバランスを保つことが好ましい。保持器リングが針ホルダーに及ぼす主な力の1つは、保持器リングの弾性に起因する。保持器リングは、圧縮コイルばねが針ホルダーに及ぼす後方に向かう付勢力に抗する作用を有する。
【0004】
従来装置のエラストマー製保持器リングは、ドーナツ型(toroidal)形状で、針ホルダーのヘッド部と実質的に同じ長さの円筒形で長手方向に延びる内壁を有する。また、保持器リングの内径は、ヘッド部の外径よりも小さい。先行技術の針ホルダーと保持器リングのアッセンブリは、その組み立て中に、針ホルダーのヘッド部がエラストマー製保持器リングへ軸方向に挿入される。挿入中、エラストマー製保持器リングの内壁は、その全長に沿って半径方向外向きに拡張され、針ホルダーの前進するヘッドを受け入れる。針ホルダーのヘッド部の後方向き表面がエラストマー製保持器リングの後端と横方向に整列すると、エラストマー製保持器リングの内壁の全長が針ホルダーの外壁に対して半径方向内向きに押し込む。この内向きに押し込む力は、組立て時、保管時、及び針引込み前のシリンジの使用時に、針ホルダーの後方へのスライド移動を妨げる保持力の一部である。
【0005】
先に記載したエラストマー製保持器リングと針ホルダーのヘッド部の後方向きの端部は、上述のように実質的に整列しているので、これらは協働して、針ホルダーの後部開口部の周りで横方向に実質的に連続した後方向きの環状表面領域を形成する。この環状表面領域は、典型的には、後部開口部の面積よりも大きく、流体流れ経路の一部を構成する針ホルダーの軸方向ボアの内壁面に対して実質的に横向きである。例えば、米国特許6,090,077号の図1は、引込み可能な針を有する従来のシリンジを示しており、比較的平坦で、横方向で後方向きの環状表面領域が後部開口部を針ホルダーのヘッド部の中へ取り囲んでおり、前記環状表面領域は、後部開口部の面積よりも実質的に大きい。後部開口部の内壁面は、前方向にわずかに半径方向内向きにテーパが形成されているが、薬液がインジェクション時に前進するプランジャーによって前方に押し出される時、薬液が針ホルダーの流体流れ経路へスムーズに進入できない場合がある。
【0006】
協働作用する針ホルダーとエラストマー製保持器リングの後方向きの環状表面によって形成される横方向に延びる環状表面領域は、針ホルダーの中に入るか、又は針ホルダーを通る薬液が層流になるのを防止する「壁」として機能すると考えられる。この壁により、針ホルダーの開口部周囲で乱流が大きくなり、渦流の形成が増加する。また、臨床医が、針ホルダー及び針を介してバレルから液体を出して、針ホルダー及び針の中を通過させる際、プランジャーハンドルに加えなければならない親指の力が大きくなる。これは、ペニシリンのような大きな分子を含む粘性液体を投与するとき、より顕著であるが、針引込み前のシリンジ使用中に、エラストマー製保持器リングと針ホルダーとの間の相対的なスライド移動に抵抗するために必要な力成分のバランスにも影響を与えると考えられる。
【0007】
その結果、これら従来のシリンジの使用者は、インジェクションの準備中にシリンジバレル内に引き出される薬液により、針ホルダーのヘッド部と保持器リングの背後にある幅広の環状空間に1つ又は2つ以上の気泡(air bubbles)が「トラップされる(trapped)」ことを経験する。このような気泡は、インジェクション前に針ホルダーから排出することが困難であるため、投薬準備時間が長くなり、医療従事者や他の使用者は投与精度が変わったと誤って認識してしまう可能性がある。
【0008】
このような従来シリンジの使用者の中には、インジェクション準備時、針先を薬バイアルのストッパーを通して挿入する際、針ホルダーのヘッド部が保持器リングとの係合を外れて後方に押し出され、誤って針引込みの始動が早まり、シリンジが作動せず、インジェクションの投与を行うことができなくなる事態も見受けられる。このような発生は、「針プッシュスルー(needle push-through」又は「針プッシュアウト(needle push-out)」と呼ばれることがあり、保持器リングが針ホルダーに作用する保持力よりも大きな力を生じさせるのに必要な関連する力は、「プッシュアウトフォース(push-out force)」と称される。
【0009】
選択的に引込み可能な針を有するシリンジに必要とされるのは、バレルから針ホルダーへの流体流れを向上させることができ、針ホルダーと保持器リングの背後での気泡の形成又は蓄積を低減又は排除することができ、さらに通常の使用中における針プッシュアウトの可能性を低減できることである。同時に、シリンジに必要とされることは、インジェクション後に針の引込みを開始させるのに必要な作動力を増加させることなく、シリンジのバレルを作り直す(retool)必要性がなく、寿命を短くすることなく、そのようなシリンジが効果を維持し、これらの利点をもたらすことができることを期待できることである。
【発明の概要】
【0010】
<発明の要旨>
本発明の医療用シリンジは、好ましくは、バレルと、バレルの内壁にスライド可能に係合するプランジャーアッセンブリと、前方に突出する針であって、プランジャーアッセンブリの内部に同軸上に配置された針引込み用キャビティの中へ選択的に引込み可能な針と、を備える。この針が「選択的に引込み可能」であるのは、針と、該針が固定される針ホルダーとが、針が引き込む前に後方へ付勢され、インジェクションの後、プランジャーアッセンブリがバレルの中に完全に押し下げられて針の引込みが開始した時に解放されることによる。針が引き込む前に、多機能な針ホルダーと保持器リングのアッセンブリが、針を、バレルの前部内の安定した着座位置に保持し、圧縮コイルばねから針ホルダーに作用する後方に向かう付勢力に抵抗する。同時に、プランジャーアッセンブリの一部であるプラグ又は他のバリアが針引込み用キャビティの中へ進入するのをブロックし、インジェクション中に液体が針引込み用キャビティの中へ入るのを防止する。インジェクションの後、プランジャーアッセンブリをバレル内で前進させると、針が引き込まれ、バリアの位置が針引込み用キャビティに移動し、保持器リングが前方に押し出されて針ホルダーとの係合が解除される。次いで、圧縮されたばねがシリンジの後部に向かって速やかに伸長し、針ホルダーと針の少なくとも一部を針引込み用キャビティ内へ後方に押し出す。この引込み後の位置にあるとき、針の先端はシリンジバレルから前方に突出することはないので、患者等に針が偶発的に刺さることはなく、このような望ましくない事態から患者等を保護することができる。
【0011】
本発明における針ホルダーと保持器リングのアッセンブリは、構造的に再設計され、協働作用するように再構成されているので、従来の装置と比較して、対象装置の組立て、保管、及び使用において大きな利点及び優位性が得られる。このような利点及び優位性として、例えば、シリンジの組立てを容易にすること、シリンジを通る流体流れのプロファイルを改善すること、針の押出し力を増大させて、早すぎる針の引込みが起こる可能性を低減すること、シリンジバレルから針ホルダー及び針の中へ流体を送り出すのに必要な親指の力を低減すること、また、そのような利点を達成するための保管期間を短縮することなく、かつシリンジバレルを作り直すことなく、針の引込みを開始するために必要な力を低減すること、が挙げられる。
【0012】
本発明の一実施形態では、引込み可能な針と、協働作用可能に構成された針ホルダーと保持器リングのアッセンブリと、を有するシリンジを開示するもので、保持器リングの内向き(inwardly facing)の壁が拡張していないときの直径は、針ホルダーのヘッド部の外径よりも小さく、針ホルダーのヘッド部の軸方向長さは、エラストマー製保持器リングの軸方向長さよりも小さい。このように構成すると、保持器リングの内向きの壁の一部分が、針ホルダーのヘッド部の後方に延びて、組立て後の拡張していない状態のままであり、周方向に延びる小径のエラストマー製カラーが形成され、このカラーは、針ホルダーが保持器リングに関して後方へ移動するのを防止するので、シリンジの持つ針押出し力が増大する。さらに、針ホルダーのヘッド部の長さがエラストマー製保持器リングの同軸長さよりも短く、組み立て前の保持器リングの寸法が同じである場合、針ホルダーの後方に延びるエラストマー製保持器リングの未拡張部分の直径が小さいほど、針ホルダーのヘッド部の外壁が保持器リングの内向きの表面に接触する表面積が減少するので、針がインジェクション後に引込みを開始するのに必要な力が低減されると考えられる。
【0013】
本発明の一実施形態では、引込み可能な針と、協働作用可能に構成された針ホルダーと保持器リングのアッセンブリと、を有し、シリンジバレルから針ホルダー内を通り前方に向かう流体流れプロファイルが向上したシリンジを開示するもので、針ホルダーと保持器リングのアッセンブリは、エラストマー製保持器リングの周方向に延在する部分が、針ホルダーのヘッド部の後方に延びて、針ホルダーのヘッド部の後部開口部の内側に位置し、より広くより大きな角度で同軸上に整列した円錐台形状の内向き壁表面と協働作用する。この構成により、後部開口部の周囲に配置される横方向の連続する表面積が減少し、針ホルダー内を通る流体流れがより多くの層状になるので、インジェクション(特に粘性の高い薬剤の場合に有利)を行うために必要な親指の力と、針ホルダーと保持器リングの後方向き(rearwardly facing)の環状表面の背後に1つ又は複数の気泡がたまる可能性が減少する。
【0014】
本発明の一実施形態では、選択的に引込み可能な針と、多機能な針ホルダーと保持器リングのアッセンブリと、を有するシリンジを開示するもので、針ホルダーは、圧縮されたコイルばねを通り前方に延びる細長い部分を有する前部と、より大きな直径のヘッド部を有し、前方向き(forwardly facing)の環状表面がコイルばねの後端に当接する後部と、をさらに備えている。また、針と同軸に配置された連続する流体経路が、針の先端から針ホルダーの後部まで延びており、シリンジバレル内の流体チャンバーと直接に流体連通している。針ホルダーのヘッド部は、比較的狭く、後方向きの環状表面を有する後端をさらに備えており、その外縁がヘッド部の略円筒形の側壁によって囲まれ(bounded)、その内縁が前方向内向きテーパ状の表面を有する流体経路の円錐台形状の壁部の開口部によって囲まれている。針ホルダーの後端(又は基端)に、流体経路へのより広い、円錐台形状の開口部を設けることにより、針ホルダーの後端の開口部に隣接する横方向の環状表面領域の幅が減少し、針ホルダーを通る流体流れ経路の中へより多くの層流プロファイルをもたらすので、インジェクション投与に使用されるインジェクション用液を含むシリンジを準備する際に、針ホルダーの後部開口部の周りで気泡の形成、蓄積、又は「滞留(hang-up)」のために利用可能なスペースが減少する。協働作用可能に構成された本発明の針ホルダー及び保持器リングを有するシリンジを用いてインジェクションを行うと、薬液をバレルから針ホルダーの中を通る流体流れ経路に送り込むのに必要な親指の力が少なくて済む。
【0015】
本発明の一実施形態では、円錐台形状の壁面は、針ホルダーを通る長手方向軸から、約40°~約50°の範囲、最も好ましくは約45°の鋭角で傾斜している。しかしながら、長手方向軸からの好ましい傾斜角度は、他の要因、例えば、針ホルダー及び流体経路の後部開口部の長さ及び直径、後述する保持器リングの後方に延在する長さ、及びシリンジバレルの内部構造などに依存し得ることは理解されるべきである。なお、保持器リングは、インジェクションの際に完全な量の液体の送達を妨げたり、針の引込みを開始するのに必要な力を増加させたりする程度にまで、針ホルダーの後方に延在しないことが望ましい。また 針ホルダーのヘッド部の円錐台形状の内壁面が針ホルダーを通る長手方向軸に対する傾斜の鋭角は、針ホルダーの後部開口部の周りの後方向きの環状表面の半径方向の幅が狭くなる程にまで大きくないことが望ましい。その幅があまり狭くなると、組立て中又は組立て後でシリンジの使用前に、針ホルダーのヘッド部の後端部が、保持器リング及びバレルによってヘッド部の外壁に内向きの圧縮力を受けたとき、変形又は部分的な破壊が起こり得るからである。
【0016】
保持器リングのまだ拡張していない後方向き部分が、針ホルダーのヘッド部の後端を越えて後方に延びるよう構成することにより、気泡の滞留に利用され得るスペースはさらに減少される。この構成は、針ホルダーのヘッド部の後端の周りに後方に延在する周方向カラーを形成する。これは、例えば、針ホルダー及び保持器リング両方の後方向きの表面が、全体としてより広くて実質的に同一平面上にあり、針ホルダーを通る針ホルダーを通る長手方向軸に対して横方向にある従来のシリンジと比較して、針ホルダーの後部開口部の周りの実質的に同一平面の側面領域を有意に減少させる。本発明の一実施形態において、保持器リングは、針ホルダーの後端の背後に延びるが、その距離は、ヘッド部の半径よりも小さくて、ヘッド部の後部開口部の周りにおけるヘッド部の後方向きの環状表面の幅に略等しいことが好ましい。本発明の一実施形態では、針ホルダーと保持器リングがこのように協働して構成されるので、円錐台形状の壁部上にあって、流体経路の長手方向軸と交差するラインもまた、保持器リングの基端部に近接する位置で、保持器リングの後方に延びる部分と接線方向に交差することが望ましい。その結果、針ホルダーと保持器リングアッセンブリの背後において気泡の形成、蓄積又は滞留に利用され得る面積と体積は、減少し、軸方向にずれる(axially staggered)ので、形成されたあらゆる気泡も、シリンジを介して注入される液体のより多くの層流によって流体経路内を前方に運ばれ易くなる。
【0017】
本発明の一実施形態において、針ホルダーの後部開口部の周りの後方向きの環状表面は、保持器リングの軸方向及び周方向に延びる半径方向に拡張していないカラー部が、針ホルダーのヘッド部の後方向きの環状表面を超えて後方に延びる距離にほぼ等しい幅を有する。
【0018】
本発明の他の実施形態では、針ホルダーの後部開口部はある半径を有し、保持器リングの後方に延びる部分は、後部開口部の半径よりも小さい長手方向の距離だけ針ホルダーの後端の背後を延びている。
【0019】
本発明の他の実施形態では、針ホルダーのヘッド部は第1の半径を有し、ヘッド部の後部開口部は第2の半径を有し、保持器リングの後方に延びる部分は、第1の半径と第2の半径の間の長手方向の距離だけ針ホルダーの後端を越えて延びている。
【0020】
本発明の一実施形態では、選択的に引込み可能な針と、多機能な針ホルダーと保持器リングのアッセンブリと、を有するシリンジを開示するもので、保持器リングの内向き表面及び針ホルダーのヘッド部の外向き(outwardly facing)表面の少なくとも1つは、望ましくは、針ホルダーのヘッド部と保持器リングとの間の摩擦干渉を高める一方で、針の引込み中に両者の間で相対的なスライド移動を可能にするよう構成された環状の突出部を含む。このような摩擦干渉は、シリンジの使用前及びインジェクション中に、保持器リングに対する針ホルダーの位置を維持するのに有用であり、また、インジェクション中に針ホルダーと保持器リングとの間で流体の漏れを防ぐのに有用である。環状突出部は、インジェクション後の針の後退時、保持器リングが使用者によってプランジャー圧力が加えられる時、針ホルダーのヘッド部の外壁に沿って保持器リングを前方にスライド移動させられるよう構成することが好ましい。また、針の引込みは、インジェクションの終了時に略一定の圧力を継続して加えることによって開始されることが好ましく、ほとんどの場合、1回の滑らかな連続的動作によって、針の先端が患者から引き抜かれ、自動的にシリンジ本体内に引き込まれることは理解されるべきである。
【0021】
本発明の一実施形態では、選択的に引込み可能な針と、多機能な針ホルダーと保持器リングのアッセンブリと、を有するシリンジを開示するもので、保持器リングは、針ホルダーのヘッド部の外方に面する略円筒形の側壁にスライド可能に係合するよう構成された半径方向内向きの環状突出部をさらに含む内面を備えている。
【0022】
本発明の一実施形態では、選択的に引込み可能な針と、多機能な針ホルダーと保持器リングのアッセンブリと、を有するシリンジを開示するもので、保持器リングは、半径方向内向きの環状突出部を有する内面を備えており、該環状突出部は、台形柱(trapezoidal prism)として形成され、傾斜した基端部側表面と傾斜した先端部表面とが対向し、それら表面の間に略平らで内側に面する表面が形成されている。
【0023】
本発明の一実施形態では、選択的に引込み可能な針と、多機能な針ホルダーと保持器リングのアッセンブリと、を有するシリンジを開示するもので、該アッセンブリは、針ホルダーのヘッド部の円筒形側壁部に、外向きの環状突出部をさらに備えており、この外向きの環状突出部は、前方に傾斜した後部面と、針ホルダーを通る長手方向軸と交差する前部面と、これらの面の間に配置された略平らな内向き面と、をさらに備えており、針ホルダーのヘッド部に対する保持器リングの前方軸方向のスライド移動を容易にし、針ホルダーのヘッド部に対する保持器リングの後方軸方向のスライド移動を妨げる。
【0024】
開示された本発明を使用することによって観察される1つの利点は、バレルから針ホルダーへの流体流れが改善される(乱流が少なく、層流が多い)ことであり、それに関連して、投薬準備中に針ホルダー及び保持器リング背後での気泡の形成、蓄積、滞留が減少し、それゆえ、投薬準備時間の短縮、投与量の正確さに対する使用者の自信の向上の他、薬液を所望の速度でシリンジから排出するのに必要な親指の力を減少させることができる。これはまた、薬液をより迅速に注入することができ、インジェクション時間及び針が患者の体内に挿入されている時間を短縮することができ、また、インジェクションを受ける患者が経験する痛みや不快感を軽減することがでる。
【0025】
開示された本発明を使用することによって観察される他の利点は、インジェクションの準備において、針を薬のストッパーに挿入する際、針の引込みが時期尚早にトリガするのに要する「押出し」力が増加することである。また、本発明を使用することによって観察される他の利点は、インジェクション後に針の引込みを開始させるのに必要な作動(機能)力が減少することである。開示された本発明を使用することによって達成できると考えられる付随的な利点は、加速劣化試験によって実証されるように、製品の性能の低下や作動力の増加を伴うことなく、保管寿命が向上する(延びる)ことである。
【0026】
引込み可能な針を有するシリンジにおいて、本発明の協働作用可能に構成された針ホルダーと保持器リングのアッセンブリを使用することによって達成可能な他の潜在的な利益及び利点があると考えられる。そのような利点の1つは、針ホルダーと保持器リングのアッセンブリを有するシリンジが、長期保管又は乱暴な取扱いを受ける等の悪環境条件に耐え、その構造的完全性を維持し、その性能目標を達成できることである。他の潜在的な利点は、針ホルダーと保持器リングのアッセンブリを有するシリンジが、比較的高い粘度を有する流体のインジェクション中、又は臨床関係者による粘度の低い流体の「高速プッシュ(fast push)」インジェクション中に、保持器リングが早期噴出する可能性を低減することである。もう一つの潜在的利点は、針ホルダーと保持器リングのアッセンブリを有するシリンジが、針の引込み開始前に、保持器リングとシリンジバレルの内面との間で流体が漏れる可能性を低減することである。
【0027】
また、この明細書で開示される本発明の針ホルダーと保持器リングのアッセンブリを備えるシリンジは、例えば、筒状や、段差のある前端部又は傾斜した前端部などの様々な形態の前端部を有するプランジャーハンドルを有するプランジャーアッセンブリとの使用に適していることは理解されるべきである。プランジャーハンドルの前端部の具体的な形態の選択は、少なくともその一部分は、プランジャーハンドルを通じて伝達される親指の力を保持器リングの円周の周りに均等に分配させることを所望するか、又は保持器リングの一方の側又は円弧状部分によって発生する前方向きの力の全部又は一部を集中させることを所望するかによって決定される。親指の力を保持器リングの一方の側又は部分に集中させることにより、保持器リングを、針ホルダー及びバレルに対して前方へのスライド移動を開始するための慣性、又は針の引込み開始前に、針ホルダー、保持器リング又はバレルから突出する構造要素間で相対移動に抵抗するあらゆる構造要素に過度の圧力を作用させるための慣性を克服するのに有用であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0028】
本発明の装置について、以下の図面に関連してさらに記載し、説明する。
図1図1は、本発明の一実施形態に基づいて構成された医療用シリンジの前端部の縦断面図であり、医療用シリンジは、設置された針と針引込み機構、エラストマー製保持器リング、及びスライド可能に係合したプランジャーアッセンブリ(一部破断して示す)を有しており、プランジャーアッセンブリは、針引込み用キャビティへの接近をブロックするプラグを備えている。
図2図2は、図1のプランジャーアッセンブリの一部が破断して示される装置の縦断面図であって、プランジャーアッセンブリが前方移動によって針の引き込みが開始され、保持器リングが針ホルダー及びバレルのヘッド部に対して前方に移動した状態を示している(移動は矢印52で示されている)。
図3図3は、図1から取り出した拡大断面詳細図である。
図4図4は、図3から取り出した拡大断面詳細図である。
図5図5は、図1の実施形態に従って構成されたシリンジの使用に適した針ホルダーの後部斜視図である。
図6図6は、図5の針ホルダーの拡大縦断面図である。
図7図7は、図1のシリンジの一実施形態の使用に適した保持器リングの後部斜視図である。
図8図8は、図7の保持器リングの縦断面図である。
図9図9は、保持器リングが図3に示された実施形態とは異なる構成である本発明の他の実施形態について、図3と同様に拡大して示す詳細図である。
図10図10は、保持器リングと針ホルダーのヘッドの外面との協働作用可能な構成が、図3に示された実施形態とは異なる他の実施形態について、図3と同様に拡大して示す詳細図である。
図11図11は、シリンジの他の実施形態について図1と同様の縦断面図であって、シリンジは、プランジャーハンドルの前端部の一方の側が、プランジャーに加えられる親指の力を保持器リングの一方の側に集中させることができるように、プランジャーアッセンブリのハンドルの前端部が後方に向けて段差を有している。
図12図12は、シリンジの他の実施形態について図11と同様な縦断面図であって、シリンジは、プランジャーハンドルの前端部の一方の側が、プランジャーに加えられる親指の力を保持器リングの一方の側に集中させることができるように、プランジャーアッセンブリのハンドルの前端部が後方に向けて傾斜している。 なお、添付の図面が縮尺通りに描かれていないことは理解されるべきである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
<好ましい実施形態の説明>
図1に示すシリンジ10を参照すると、シリンジ10のバレル12及びプランジャー40の後部を破断して示しており、シリンジ10の前部に配置された要素を拡大して示している。図1図5及び図6を参照すると、針ホルダー14の傾斜した肩部74(図6)が、バレル12のノーズ部の内側に着座し、針ホルダー14の先端17は、ノーズ部の遠位側端部の開口部を通って前方に突出している。針15は、斜めカットされた先端部が前方に突出し、後部は、針ホルダー14を通り直径が変化する軸孔32に固定されている。針ホルダー14の基端部はヘッド部18を有し、該ヘッド部18は、大径の外壁76が前方向きの環状肩部を形成している。圧縮コイルばね25が、バレル12のノーズ部の内側で、針ホルダー14の傾斜した肩部74とヘッド部18の外壁76の先端部との間にある細長い部分の周りに着座されると、環状肩部は圧縮コイルばねの基端部に当接する。この構成では、コイルばね25がシリンジ10の組み立て中に圧縮されると、コイルばね25は針ホルダー14をバレル12のノーズ部に対して後方に付勢する。
【0030】
図1に示されるプランジャー40に配備されるプランジャーシール44は、インジェクション中に親指に力を作用させて、プランジャー先端50がバレル12に対して前方に移動すると、プランジャー40の前方向に面する環状肩部46に当接する位置まで後方にスライドすることができる。これに対して、図11に示されるシリンジ100では、異なる構成のプランジャー先端104とプランジャーシール106を有しており、プランジャーシール106は、2つの環状肩部の間の所定位置で保持され、インジェクション中は、プランジャーハンドルに対して軸方向にスライドすることができない。それでも、本発明の多機能を有する針ホルダー・保持器リングは、どちらのプランジャー構成のシリンジにも適用可能である。
【0031】
再び図1を参照すると、エラストマー製保持器リング24は、内径が針ホルダー14のヘッド部18の外径よりも小さく、エラストマー製保持器リング24の前部は、組立て時に針ホルダー14のヘッド部18を挿入する際、ヘッド部18の軸方向に延びる外壁部76が容易に挿入されるように、拡張することが好ましい。ヘッド部18をエラストマー製保持器リング24の前部へ挿入し、保持器リング24が針ホルダー14のヘッド部18とバレル12の内壁部26との間に配置された後、エラストマー製保持器リング24は針ホルダー14のヘッド部18に対して十分な保持力を発揮し、針の引込みが行われる前のシリンジ10の使用中に保持器リング24の周りでの相対的な動きや流体の漏れを防止する。なお、本明細書で述べた以外の他の性能上の利点についても、本発明の構造的に改良された多機能な針ホルダーと保持器リングのアッセンブリを使用することによって達成される。本明細書で使用される「多機能な針ホルダーと保持器リングのアッセンブリ(multifunctional needle holder and retainer ring assembly)」(又は以下で使用されるように、単に、「針ホルダーと保持器リングのアッセンブリ(needle holder and retainer ring assembly)」)の用語は、本発明のシリンジ10において針ホルダー14と保持器リング24が配備された組合せを含むものと理解されるべきである。この協働作用可能に構成された要素の組合せは、図1図10に関して以下でより詳細に説明する。
【0032】
本発明で開示される他の特徴について、図1、5及び6に関して説明する。ヘッド部18の基端部34は、針ホルダー14の直径が変化する軸孔32の基部の開口部を含む。この開口部は、針ホルダー14のヘッド部18の基端部に配備された壁面20を有する円錐台形状部(frustoconical section)を含む。円錐台形状の壁面20の基端部34における内径は、同じ様に作られた従来シリンジの針ホルダーの後部開口部の内径よりも大きいことが好ましい。また、針ホルダー14の基端部34におけるヘッド部18の外径よりも十分に小さいと、ヘッド部18の基端部34が、エラストマー製保持器リング14から加えられる圧縮力に対して変形又は破壊することなく耐えることができる。この特徴により、針ホルダー14の基端部34の後部開口部の周りに、比較的狭く、後方向きの環状表面が形成される。
【0033】
ヘッド部18の円錐台形状の内壁面20は、基端部34の前方に向かって半径方向内向きのテーパ形状であり、針ホルダー14の中を通る流体流れ経路64の基端部を形成し、バレル12(図1)の内部チャンバー22から針ホルダー14内への液体の円滑な流れを受けることができるので、インジェクション中、シリンジ10の使用者がプランジャー40をバレル12内に前進させるのに必要な親指の力を低減することができる。流体流れ経路64を構成する軸孔32の直径は、壁面20の収束が終わり、軸孔32の内径が、針ホルダー14の内部に針15の挿入と確実な装着を行うための異なる構成となる位置に達するまで略一定の割合で減少する。この針ホルダーの構成は、医療用シリンジ10を使用してインジェクションを行う間、プランジャーアッセンブリによってバレル12から針15の中へ押し出される薬液に対して、内向きテーパ状の流体流れ経路64を提供する。
【0034】
針ホルダー14の周囲に延在する幅狭の後方向きの環状表面と、基端部34における幅広の後部開口部とが協働作用して、針ホルダー14の基端部34の開口部の周りで矢印29で示されるスペース(図9-12に見られる)に小さな気泡が蓄積又は滞留(hang-up)するのを低減する。本発明の一実施形態において、針ホルダー14のヘッド部18の後部開口部内の円錐台形状部は、針ホルダー14の長手方向軸102(図9-10に見える)から約40°~約50°の範囲、好ましくは約45°の鋭角で傾斜した壁面20を有する。本発明の他の実施形態では、円錐台形状部の壁面20上にあって、針ホルダーの長手方向軸102と交差するライン100(図4、9-10に見える)は、保持器リングの後端に密に隣接する位置で、保持器リングの後方に延在する部分と接線方向に交差する。
【0035】
針ホルダー14のヘッド部18の外径を一定に維持しながら基端部34の表面の幅を狭くし、針ホルダー14の内面部20の基端によって画定される開口部を広くすることにより、流体流れ経路64(図3)へのより円滑な流れプロファイルが達成される。また、針ホルダー14の基端部における横断表面積(transverse surface area)は小さくなり、針ホルダー14の背後に気泡の蓄積が防止される。このような気泡は、シリンジ12による投与が不完全であったのではないかと、患者や臨床医を不安にさせたり、また、不完全であったことを認識させることがある。従来の引込み可能なシリンジとは異なり、針ホルダー14の基端部34及び保持器リング24の基端部28の環状表面は横方向に整列していないので、針ホルダー18及び保持器リング24の基端部は、トータルで、隣接する表面の幅を広くすることはない。その表面は、気泡がインジェクション前又はインジェクション中に針ホルダーの後部開口部の周りに蓄積し得る表面である。
【0036】
図1図3及び図4に関連して説明する本発明の他の好ましい実施形態では、選択的に引込み可能な針15を有するシリンジ10もまた、多機能な針ホルダーと保持器リングのアッセンブリを含み、保持器リング24の拡張していない基端部28は、針ホルダー14の基端部34における環状表面の半径方向の幅よりも好ましくは有意に大きくないほどの短い距離だけ、針ホルダー14の基端部34より後方に延在している。保持器リング24が針ホルダー14に対して後方へ延びる部分は、比較的短く、軸方向に延びて、半径方向に拡張していない環状カラー69を形成し、これが保持器リング24の基端部34の周りを半径方向内側に押圧する。また、シリンジ10の組み立て中に、バレル12内で内向きに突出する環状の「バンプ(bump)」72が、保持器リング24の半径方向に拡張していない後方に延びる基端部28によって形成される環状カラー69を、針ホルダー14の基端部34における環状表面の外側エッジの背後で半径方向内向きに力を加える。これらの要因が協働して、保持器リング24の基端部28を、外壁76(図6)の背後の基端部34にて内側に押圧する。これにより、インジェクション後の針の引き込みの際、保持器リング24を外壁76から離れて前方へ押し出すのに必要な作動力を増加させることなく、保持器リング24に対して針ホルダー14が後方へスリップする可能性を低減することができる。
【0037】
本発明の新規で多機能な針ホルダーと保持器リングのアッセンブリを、それ以外は同様な構成を有する従来シリンジの既存のシリンジバレルの中へ、バレルを再設計又は作り直すことなく後付けすることが所望される場合、保持器リング24の軸方向の長さを維持し、針ホルダー14のヘッド部18の軸方向長さを保持器リング24よりも短くして、実質的に拡張されていない環状カラー69を形成する(図3-4)。次いで、保持器リング24がヘッド部18の外壁とバレル12の内壁部26との間に適切に配置されると、ヘッド部18の基端部34は、保持器リング24の基端部28よりもわずかに前方の位置に配置される。同時に、保持器リング24先端部の前方向きの表面は、針ホルダー14のヘッド部18の先端部の前方向きの環状表面と実質的に同じ平面であることが望ましい。換言すれば、保持器リング24が、その取付け中、バレル12のヘッド部18と内壁部26との間でわずかに圧縮されるとき、保持器リング24の軸方向長さは、針ホルダー14のヘッド部18の軸方向の長さを超える長さが好ましく、これにより、保持器リング24の基端部28は、針ホルダー14の基端部34の周りで、後方に短く延びるカラー69を形成する。
【0038】
本発明の一実施形態では、保持器リング24の基端部28は、針ホルダー14の基端部34における後方向に面する環状表面の幅よりも有意に広くない距離だけ、針ホルダー14の基端部34の後方に延びている。本発明の他の実施形態では、針ホルダー14の円錐台形状の壁部20上にあって、針ホルダー14及び流体経路64の長手方向軸と交差するライン100は、好ましくは、保持器リング24の基端部28に密に隣接する位置で、保持器リング24の後方に延びる拡張されていない部分と接線方向に交差する。これらの好ましい各実施形態において、保持器リング24は、液体流れ経路64(図3)の後部開口部が、上述したように、内向きテーパ状の円錐台形状の壁面20を有するように、針ホルダー14と協働作用可能な構成であることが望ましい。
【0039】
図1、3-4及び7-8に関連して開示及び説明する本発明の他の実施形態では、シリンジ10は、選択的に引込み可能な針15を有し、多機能な針ホルダー14と保持器リング24のアッセンブリを備える。保持器リング24は、望ましくは、内向きの表面部58をさらに含み、該表面部58は、この実施形態では台形柱形状に形成された内向きの環状突出部66によって離間している。環状突出部66は、傾斜した基端部側表面と傾斜した先端部側表面とが対向し、両表面の間に略平らな内表面が延在している。図3及び図4は、保持器リング24と針ホルダー14のヘッド部18の外壁76(図6)との間の対向面及び接触面をより良く示すために徐々に拡大したもので、図8の保持器リング24の断面図と比較することにより、保持器リング24をバレル12の内壁部26と針ホルダー14のヘッド部18の外壁との間に取り付ける際、保持器リング24の本体68がバレル側及び針ホルダー側の両方から半径方向に圧縮されることが観察される。この圧縮により、保持器リング24に対する針ホルダー14の軸方向の相対的移動、及びバレル12の内壁部26に対する保持器リング24の軸方向の相対的移動を制限する保持力が高められ、保持器リング24からの流体の漏れ可能性が低減される。図4に最もよく見られる歪んだエアポケット70もまた、保持器リング24が、ヘッド部18及びバレル12の内壁部26に対して及ぼす保持力を高めると考えられる。
【0040】
図9を参照すると、本発明の他の実施形態を示しており、異なる構成の多機能な針ホルダーと保持器リングのアッセンブリを作製するために、異なる構成の保持器リング80が針ホルダー14と組み合わせて設けられている。この実施形態では、保持器リング80は、軸方向に再び長くなっているが、他の態様として、針ホルダー14のヘッド部18は、ヘッド部18の基端部34の後方に延びる基端部86を有する短い環状カラーを再び作製するために、保持器リング80に対して短くてもよい。保持器リング24に関連して上述したように、針ホルダー14のヘッド部18の後方に延びる保持器リング80の一部分は、軸方向の保持力を高めるために、針ホルダー14のヘッド部18の基端部34の背後を内向きに圧縮することもできる。しかしながら、この実施形態では、保持器リング80の内向きの表面84は、図7-8に関連して説明した内向きの環状突出部を欠いている。
【0041】
図10を参照すると、本発明の他の実施形態を示しており、他の異なる構成の多機能な針ホルダーと保持器リングのアッセンブリを作製するために、保持器リング80がヘッド部98を有する針ホルダー94と組み合わせて設けられている。この実施形態では、保持器リング80は、軸方向に再び長くなっているが、他の態様として、針ホルダー94のヘッド部98は、ヘッド部98の基端部97の後方に延びる基端部86を有する短い環状カラーを再び作製するために、保持器リング80に対して短くてもよい。保持器リング24に関連して上述したように、軸方向の保持力を高めるために、針ホルダー94のヘッド部98の基端部97の背後を内向きに圧縮することもできる。しかしながら、この実施形態では、ヘッド部98の外壁面が、基端側に傾斜面を有する外向きの環状突出部96を含む。この環状突出部は、保持器リング80の略円筒形の内側面が、組み立て中、及びシリンジ10使用後の針引込み中において、環状突出部96の上をスライドすることができる。これについては、図1-2及び図11-12を参照して後述する。しかしながら、シリンジ10の使用前及び使用中に、環状突出部96の先端側で前方向きの四角い(square)肩部が、針ホルダー94のヘッド部98に関して、例えば針の「プッシュスルー」の時に起こり得る保持器リング80のあらゆる後方向きの移動を制限する。
【0042】
再び図1を参照すると、シリンジ10を使用したインジェクション中、プランジャー先端42の前端部50がバレル12内を前進すると、容量可変チャンバー22内に装入された薬液(図示せず)は、針ホルダー14の基端部34の開口部の中、次いで、針ホルダー14及び針15を通って送られる。前端部50が保持器リング24の基端部28に接触すると、プランジャーアッセンブリ40に親指で力を加え続けることにより、次の3つの動作が同時に開始する。その1つは、プランジャーシール44が、前方向きの肩部46に向けて後方へ移動を開始することである。その2は、保持器リング24が、針ホルダー14のヘッド部18との境界面に沿って前方へ移動を開始し、最終的に、保持器リング24をヘッド部18から押し出して環状空間30に入ることである。その3は、プランジャープラグ48が、プランジャープラグ48の背後のプランジャーハンドル内で同軸に整列した針引込み用キャビティに向けて後方へ移動を開始することである。
【0043】
図2は、説明目的のために、プランジャーアッセンブリの部品を取り除いた図を示しており、矢印52は保持器リング24の移動方向を示し、矢印54は針ホルダー14の移動方向を示している。図示の保持器リング24の位置は、針ホルダー14からほぼ完全に離脱した位置を示しており、圧縮ばね25が後方への伸長を開始し、針ホルダー14及び針15を、同軸上に整列した針引込み用キャビティに向けて後方に移動させる。
【0044】
再び図1のシリンジ10を参照すると、プランジャーアッセンブリ40のプランジャー先端42の前端部50は円形であり、シリンジ10の長手方向軸を横断している。図11のシリンジ100を参照すると、前端部104はプランジャー102の一方の側が軸方向に後退しているので、前端部104の1つの円弧状セグメントが、残りの部分よりも前に保持器リング24に接触する。その結果、「親指の力」が保持器リング24の一方の側に最初に集中するので、針ホルダー14に対する保持器リング24の前方へのスライドが補助される。図12のシリンジ200を参照すると、前端部204はプランジャー202の一方の側が後方に傾斜しているので、前端部204の1つの円弧状セグメントが、残りの部分よりも前に保持器リング24に接触する。その結果、「親指の力」が保持器リング24の一方の側の比較的短い円弧状セグメントに最初に集中し、その後、親指の力が保持器リング24の基端部28の残りの部分の周りに徐々に分配されるので、針ホルダー14に対する保持器リング24の前方へのスライドが補助される。
【0045】
なお、当業者であれば、本開示を読めば本発明の他の利益、利点、実施形態及び変更は明らかであろう。それゆえ、本発明の範囲は、発明者及び出願人が法的に権利を有する明細書及び特許請求の範囲の最も広い解釈によってのみ制限されることが意図されている。
図1
図2
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図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12