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特許7441245組換え腫瘍溶解性ウイルスとその調製方法、使用および医薬品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】組換え腫瘍溶解性ウイルスとその調製方法、使用および医薬品
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/38 20060101AFI20240221BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20240221BHJP
   C12N 15/39 20060101ALI20240221BHJP
   C12N 15/43 20060101ALI20240221BHJP
   C12N 15/41 20060101ALI20240221BHJP
   C12N 15/45 20060101ALI20240221BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20240221BHJP
   C12N 15/55 20060101ALI20240221BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20240221BHJP
   C12N 15/56 20060101ALI20240221BHJP
   C12N 15/53 20060101ALI20240221BHJP
   A61K 35/768 20150101ALI20240221BHJP
   A61K 35/761 20150101ALI20240221BHJP
   A61K 35/763 20150101ALI20240221BHJP
   A61K 35/765 20150101ALI20240221BHJP
   A61K 35/766 20150101ALI20240221BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240221BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20240221BHJP
【FI】
C12N15/38
C12N7/01 ZNA
C12N15/39
C12N15/43
C12N15/41
C12N15/45
C12N15/113 100Z
C12N15/55
C12N15/113 130Z
C12N15/12
C12N15/56
C12N15/53
A61K35/768
A61K35/761
A61K35/763
A61K35/765
A61K35/766
A61P35/00
A61K31/7105
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2021571547
(86)(22)【出願日】2020-05-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-04
(86)【国際出願番号】 CN2020093006
(87)【国際公開番号】W WO2020239040
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2022-01-18
(31)【優先権主張番号】201910462073.5
(32)【優先日】2019-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【微生物の受託番号】CCTCC  CCTCC V201919
(73)【特許権者】
【識別番号】521523947
【氏名又は名称】伍沢堂
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伍沢堂
【審査官】市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/023483(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/015601(WO,A1)
【文献】特表2010-539959(JP,A)
【文献】国際公開第2015/025940(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0241854(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 7/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲノム配列に、
(1)第1のプロモーターと第1の干渉RNA発現配列とを含む第1の発現カセットと、
(2)標的配列と、
(3)第2の発現カセットと
の外因性要素が含まれ、
前記第1の干渉RNA発現配列は、前記標的配列に結合する第1の干渉RNAの発現に用いられ、前記第1の干渉RNA発現配列は、第1の細胞で前記第1の干渉RNAを発現するように前記第1のプロモーターによって駆動され、
前記標的配列は、組換え腫瘍溶解性ウイルスの複製に必須なものである必須遺伝子の5’末端非コード領域または3’末端非コード領域に位置し、
前記第2の発現カセットは、第2のプロモーターと阻害成分発現配列とを含み、前記阻害成分発現配列が、腫瘍特異的に阻害成分を発現させることに用いられ、前記阻害成分が酵素の生合成の抑制および/または生物学的活性の抑制に用いられ、前記酵素が干渉RNAの生合成に必要な酵素であり、前記阻害成分発現配列が、前記第1の細胞で前記阻害成分を発現させずに第2の細胞で前記阻害成分を発現させるように前記第2のプロモーターによって駆動され、
前記第2の細胞は哺乳動物の腫瘍細胞であり、前記第1の細胞は哺乳動物の非腫瘍細胞であり、
前記標的配列は、第1の干渉RNAの標的配列であり
記阻害成分には、前記酵素の遺伝子の発現を干渉して前記酵素の生合成を阻害する第3の干渉RNAが含まれ、
前記第3の干渉RNAの塩基配列は、SEQ ID NO:4に示されている
ことを特徴とする組換え腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項2】
前記第1の発現カセットは、第2の干渉RNAを発現するための第2の干渉RNA発現配列をさらに有し、前記第2の干渉RNAは、前記組換え腫瘍溶解性ウイルスの複製に非必須の非必須遺伝子のオープンリーディングフレームに作用して前記非必須遺伝子の発現を阻害し、前記第2の干渉RNA発現配列は、前記第1のプロモーターの駆動により発現される
ことを特徴とする請求項1に記載の組換え腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項3】
前記第1の干渉RNAと前記第2の干渉RNAは、それぞれ独立した低分子干渉RNAまたはmicroRNAである
ことを特徴とする請求項2に記載の組換え腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項4】
前記哺乳動物はヒトであり、
前記腫瘍細胞は、肺がん細胞、肝臓がん細胞、乳がん細胞、胃がん細胞、前立腺がん細胞、脳腫瘍細胞、ヒト結腸がん細胞、子宮頸がん細胞、腎臓がん細胞、卵巣がん細胞、頭頸部がん細胞、黒色腫細胞、膵臓がん細胞または食道がん細胞である
ことを特徴とする請求項2に記載の組換え腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項5】
前記標的配列は、非哺乳動物の遺伝子の短い配列から選択され、
前記標的配列が、前記非哺乳動物の遺伝子におけるオープンリーディングフレームの長さが19-23個のヌクレオチドのヌクレオチド配列から選択され、
前記非哺乳動物が、酵母、クラゲ、大腸菌、昆虫、魚または植物であり、
前記非哺乳動物の遺伝子は、クラゲ由来の緑色蛍光タンパク質遺伝子、大腸菌由来のβ-ガラクトシダーゼ遺伝子、およびホタル由来のルシフェラーゼ遺伝子から選択されるいずれか1種である
ことを特徴とする請求項2に記載の組換え腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項6】
前記標的配列の塩基配列は、SEQ ID NO:1に示されており、前記第1の干渉RNAの塩基配列は、SEQ ID NO:2に示されている
ことを特徴とする請求項5に記載の組換え腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項7】
前記組換え腫瘍溶解性ウイルスの1つまたは複数の必須遺伝子の5’末端非コード領域または3’末端非コード領域に前記標的配列が挿入されており、
前記標的配列の挿入された任意の位置でのコピー数は1つ以上である
ことを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の組換え腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項8】
前記組換え腫瘍溶解性ウイルスは単純ヘルペスウイルスであり、前記必須遺伝子はICP27であり、非必須遺伝子はICP34.5である
ことを特徴とする請求項1に記載の組換え腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項9】
前記第2の干渉RNAの配列は、SEQ ID NO:3に示されている
ことを特徴とする請求項2に記載の組換え腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項10】
前記第1のプロモーターは構成的プロモーターであり、
複数の必須遺伝子の5’末端非コード領域または3’末端非コード領域に前記標的配列が挿入される場合、前記第1の発現カセットが、前記第1の干渉RNAのみを発現し、前記第1のプロモーターがヒトHu6またはH1プロモーターであり、
1つの必須遺伝子の5’末端非コード領域または3’末端非コード領域に前記標的配列が挿入される場合、前記第1の発現カセットが、前記第1の干渉RNAと前記第2の干渉RNAを発現し、前記第1のプロモーターが、CMV、SV40およびCBAプロモーターから選択されるいずれか1種である
ことを特徴とする請求項2に記載の組換え腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項11】
前記第2のプロモーターはヒト癌特異的プロモーターであり、
前記ヒト癌特異的プロモーターが、テロメラーゼ逆転写酵素プロモーター(hTERT)、ヒト上皮成長因子受容体-2プロモーター(HER-2)、E2F1プロモーター、オステオカルシンプロモーター、癌胎児性抗原プロモーター、サバイビンプロモーターおよびセルロプラスミンプロモーターから選択されるいずれか1種である
ことを特徴とする請求項1に記載の組換え腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項12】
前記酵素が、Droshaである
ことを特徴とする請求項1に記載の組換え腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項13】
前記阻害成分には、Droshaの生物学的活性を抑制するためのヌクレオチドトリプレットリピート配列またはDicer活性を抑制するための非コードRNAがさらに含まれ、
前記ヌクレオチドトリプレットリピート配列が、(CGG)nの一般式を有し、ただし、nが20以上の自然数であり、
nの値の範囲が60~150であり、
前記Dicer活性を抑制するための非コードRNAが5型アデノウイルスVA1 RNAであり、
前記5型アデノウイルスVA1 RNAの塩基配列が、SEQ ID NO:8に示されている
ことを特徴とする請求項に記載の組換え腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項14】
前記第2の発現カセットには、前記阻害成分の発現を増強するためのエンハンサー配列がさらに含まれ、
前記エンハンサー配列が、CMVまたはSV40エンハンサー配列である
ことを特徴とする請求項11~13のいずれか1項に記載の組換え腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項15】
前記組換え腫瘍溶解性ウイルスの受託番号は、CCTCC NO.V201919である
ことを特徴とする請求項14に記載の組換え腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項16】
ゲノム配列には、干渉RNA標的配列と発現カセットとの外因性要素が含まれ、
前記発現カセットに、プロモーターと干渉RNA発現配列とが含まれ、前記干渉RNA発現配列が、前記標的配列に結合する前記干渉RNAの発現に用いられ、
前記干渉RNA標的配列は、組換え腫瘍溶解性ウイルスの複製に必須なものである必須遺伝子の5’末端非コード領域または3’末端非コード領域に位置し、
前記干渉RNA発現配列は、第2の細胞で前記干渉RNAを発現させずに第1の細胞で前記干渉RNAを発現させるように第1の細胞特異的プロモーターによって駆動され、
前記第2の細胞は哺乳動物の腫瘍細胞であり、前記第1の細胞は哺乳動物の非腫瘍細胞である
ことを特徴とする組換え腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項17】
請求項1~15のいずれか1項に記載の組換え腫瘍溶解性ウイルスを調製するための組成物であって、
前記標的配列、前記第1の発現カセット、および前記第2の発現カセットのうちの1種または複数種の要素を有する配列からなる酸と、親ウイルスおよび相補的な宿主細胞の少なくとも一方とを含み、
前記親ウイルスのゲノム配列は、野生型ウイルスのゲノム配列に対して、前記必須遺伝子が欠失するものであり、
前記相補的な宿主細胞には、前記必須遺伝子を発現するDNA断片が含まれる
ことを特徴とする組成物。
【請求項18】
請求項1~15のいずれか1項に記載の組換え腫瘍溶解性ウイルスを調製するための方法であって、
前記標的配列、前記第1の発現カセット、および前記第2の発現カセットのうちの1種または複数種の要素を有する配列からなる酸を野生型腫瘍溶解性ウイルスのゲノムに取り込むことを含む
ことを特徴とする方法。
【請求項19】
前記核酸の存在下で、親ウイルスおよび相補的な宿主細胞とを共培養し、培養物から前記組換え腫瘍溶解性ウイルスを収集することを含み、
前記親ウイルスのゲノム配列は、野生型腫瘍溶解性ウイルスのゲノム配列に対して、前記必須遺伝子が欠失するものであり、
前記相補的な宿主細胞には、前記必須遺伝子を発現するDNA断片が含まれる
ことを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項20】
ICP27を発現するVero細胞株を調製するステップと、親ウイルスを調製するステップと、遺伝子操作されたICP27および調節成分発現プラスミドを構築するステップと、組換え溶解性ヘルペスウイルスを構築するステップとを含む
ことを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項21】
細胞を選択的に死滅させる医薬品の調製における、請求項1~16のいずれか1項に記載の組換え腫瘍溶解性ウイルスの使用。
【請求項22】
前記細胞は腫瘍細胞である
ことを特徴とする請求項21に記載の組換え腫瘍溶解性ウイルスの使用。
【請求項23】
請求項1~16のいずれか1項に記載の組換え腫瘍溶解性ウイルス、および薬学に許容されるアジュバントを含有する
ことを特徴とする細胞を死滅させるための医薬品。
【請求項24】
前記細胞は腫瘍細胞である
ことを特徴とする請求項23に記載の医薬品。
【請求項25】
組換え腫瘍溶解性ウイルスの力価の測定のステップと、組換え腫瘍溶解性ウイルスの増幅のステップと、組換え腫瘍溶解性ウイルスの精製のステップと、mRNA発現分析のステップと、タンパク質発現分析のステップと、miRNA発現分析のステップとを含む
請求項1~15のいずれか1項に記載の組換え腫瘍溶解性ウイルスを検出する方法。
【請求項26】
前記細胞が腫瘍細胞である、
細胞を選択的死滅させる使用に用いられる請求項1~16のいずれか1項に記載の組換え腫瘍溶解性ウイルス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本願は、2019年5月30日に中国特許庁に提出された出願番号201910462073.5の「組換え腫瘍溶解性ウイルスとその調製方法、使用および医薬品」という名称の中国特許出願の優先権を主張し、その内容のすべてはここに参照として取り込まれる。
【0002】
本開示は、バイオテクノロジーの分野に関し、具体的には、組換え腫瘍溶解性ウイルスとその調製方法、使用および医薬品に関する。
【背景技術】
【0003】
がんは、すでに人々の健康を脅かす主なキラーになっている。「2015世界のがん統計」のデータによると、2015年に、世界中で約1,410万例の新しいがんの症例があり、820万人が死亡した。2015年、中国では429万人の新規がん症例が発生し、281万人が死亡した。現在、がんの治療は主に伝統的な外科的切除、放射線療法および化学療法に依存している。外科的切除の場合、患者の痛みをある程度和らげることができるが、体の奥深くにある癌には適さず、広がった腫瘍には無力である。放射線療法と化学療法は長年臨床的に使用されてきたが、非選択性、大きな副作用、および高線量/高薬量による死の潜在的なリスクのために、それらの応用は制限されている。近年、特に過去5年間で、がん治療における抗体とCAR Tの可能性と応用がますます注目されている。抗体療法は癌の進行を遅らせることができるが、治癒効果があまり良くなく、補助療法としてより適していると広く考えられている。CAR T治療は、正確に標的を狙い、がんを根治する可能性があるが、その治療が主に血液がんに適し、かつ一つの治療計画が一人の特定の患者にのみ適すため、一般のがん患者にとって治療費が非常に高く、より大きな問題として、CAR T治療が標的から外れると患者が死にいたる。がん治療を安全かつ効率的に行い、がん患者の苦痛を軽減するためには、新しい案による新薬の開発が急務である。多くの可能な選択肢のうち、腫瘍溶解性ウイルスは薬剤耐性がなく、安全で効果的であるため、がんを治療するために遺伝子工学に操作された腫瘍溶解性ウイルスは特に魅力的である。
【0004】
100年前の臨床観察では、ウイルスの感染で腫瘍の成長を遅らせ、または腫瘍を消失させたことが観察された。その後、B型肝炎患者の血漿またはB型肝炎患者の血漿抽出物を用いてホジキン病を治療したことがある。しかし、がん細胞だけでウイルスを成長して増殖させることは不可能であったため、ウイルスががん治療の実行可能な選択肢であるとは考えていなかった。1990年代、分子生物学技術の進歩により、ウイルスを遺伝子操作してがん細胞に対して特異的な向性を持たせる道を開いた。初期の研究は、主に欠陥スプリットウイルス(ウイルスが感染した後、ウイルスが細胞内で増殖して細胞を死滅させ、死んだ細胞から放出されて隣接の細胞に感染する。これらのウイルスの例として、例えば、アデノウイルス、ニューカッスル病ウイルス、ヘルペスウイルスが挙げられる)、および欠損非溶解性ウイルス(例えば、アデノ随伴ウイルスおよびレンチウイルスなど)を増殖させて免疫分子(GMCSF、IL-12、IL-17)または免疫応答刺激因子(TNFα、IFNα)を発現させて、免疫応答を高めることによってがんを治療していた。ウイルスによる免疫療法は、従来の免疫療法と同様に、一般に臨床効果がよくないため、主に補助療法として使用される方法と考えられている。がん治療におけるウイルスの役割を強化するために、近年の研究では、主に遺伝子操作されたスプリットウイルスを利用し、がん細胞中で選択的に増殖(腫瘍溶解性ウイルス)させ、腫瘍内注射により元の腫瘍細胞中で増殖してがん細胞(溶解性)を死滅させ、溶解したがん細胞の断片が癌特異的な免疫応答を引き起こし、広がったがん細胞を死滅させることによって、がん治療の目的を達成していた。腫瘍溶解性ウイルスが安全で、かつ1つの腫瘍溶解性ウイルスが多種類のがんを治療する可能性があるため、がん治療における腫瘍溶解性ウイルスの応用の将来性は期待されている。米国、欧州連合、およびオーストラリアでは、2015年から2016年にかけて、メラノーマの治療にAmgen社のI型ヘルペスウイルによる腫瘍溶解性ウイルスTvecの臨床使用を前後して承認し、腫瘍溶解性ウイルスによるがん治療の新時代の幕が開いた。その後、腫瘍溶解性ウイルスの開発が本格化され、2017年だけでも、世界中、腫瘍溶解性ウイルスを使用して様々ながんを治療した臨床試験が80件あった。多種の腫瘍溶解性ウイルスは、単一の動物モデルで優れた性能を発揮し、臨床において安全だが、一般的な反応率と治癒率に満足なものにはまだ程遠い。
【発明の概要】
【0005】
本開示は、新しい組換え腫瘍溶解性ウイルス、該ウイルスを調製するための核酸配列と方法、がん治療における該組換え腫瘍溶解性ウイルスの関連する使用、および該組換え腫瘍溶解性ウイルスを含む医薬品などを提供する。該組換え腫瘍溶解性ウイルスの増殖または複製は、ゲノム配列に挿入された外因性要素によってコントロールされている。これらの外因性要素のコントロールによって、該組換え腫瘍溶解性ウイルスは異なるタイプの細胞で選択的に増殖または複製することができ、非標的細胞(例えば、正常細胞)に損傷を与えず、標的細胞(例えば、腫瘍細胞)を選択的に死滅させることができる。
【0006】
現在、従来の腫瘍溶解性ウイルスは、主に1つまたは複数のウイルス非必須遺伝子を排除するか、1つまたは複数の必須遺伝子を癌特異的プロモーターの駆動下で発現させることによって、がん細胞における腫瘍溶解性ウイルスの選択的増殖の目的を達成するものである。ウイルスの増殖については、in vitroでの場合、非必須遺伝子を必要としないが、in vivoでの場合、非必須遺伝子がウイルスの増殖を促進するために宿主の抗ウイルスメカニズムに拮抗するなど複数の機能を実行している。1つまたは複数の必須遺伝子を癌特異的プロモーターの駆動下で発現させる案を利用して構築された腫瘍溶解性ウイルスは、完全なウイルス遺伝子を持っているが、ウイルス遺伝子の時間に伴う発現の高度な調和性が変わった。したがって、非必須遺伝子の削除または癌特異的プロモーターの駆動下での必須遺伝子の発現は、in vivoでのウイルスの増殖に影響を及ぼす。要するに、現在の腫瘍溶解性ウイルスの不十分な臨床成績は既存の設計案による結果である。腫瘍溶解性ウイルスの有効性と広域性を高めるために、ウイルスのゲノムの完全性を維持するとともにウイルス遺伝子の時間に伴う発現の高度な調和性に影響を与えることないようにすることが腫瘍溶解性ウイルスの設計に重要である。以上のようなことを考慮して、本開示は、新しい案を採用し、新しい腫瘍溶解性ウイルスを作製した。
【0007】
第1の局面において、本開示は、組換え腫瘍溶解性ウイルスを提供し、前記組換え腫瘍溶解性ウイルスのゲノム配列に、
(1)第1のプロモーターと第1の干渉RNA発現配列とを含む第1の発現カセットと、
(2)標的配列と、
(3)第2の発現カセットと、
の外因性要素が含まれ、
前記第1の干渉RNA発現配列は、前記標的配列に結合した第1の干渉RNAの発現に用いられ、前記第1の干渉RNA発現配列は、第1の細胞で前記第1の干渉RNAを発現するように前記第1のプロモーターによって駆動され、
前記標的配列は、前記組換え腫瘍溶解性ウイルスの複製に必須な必須遺伝子の5’末端非コード領域または3’末端非コード領域に位置し、
前記第2の発現カセットは、第2のプロモーターと阻害成分発現配列とを含み、前記阻害成分発現配列が阻害成分の発現に用いられ、前記阻害成分が酵素の生合成の抑制および/または生物学的活性の抑制に用いられ、前記酵素が干渉RNAの生合成に必要な酵素であり、前記阻害成分発現配列が、前記第1の細胞で前記阻害成分を発現させずに第2の細胞で前記阻害成分を発現させるように前記第2のプロモーターによって駆動され、
前記第1の細胞と前記第2の細胞とは異なるタイプのものである。
【0008】
本開示による組換え腫瘍溶解性ウイルスは、そのゲノムに外因性の第1の干渉RNA標的配列、第1の発現カセットおよび第2の発現カセットなどの外因性要素(図1を参照)を挿入して、そして第1のプロモーターを利用して第1の細胞(非標的細胞、例えば、正常細胞)で第1の干渉RNAの発現を駆動し、第2のプロモーターを利用して第1の細胞で阻害成分を発現させず、第2の細胞(標的細胞、例えば、腫瘍細胞)で阻害成分の発現を駆動するコントロール案により、該組換え腫瘍溶解性ウイルスが第1の細胞に感染したとき、発現する第1の干渉RNAがウイルス必須遺伝子の5’末端または3’末端非コード領域に位置する干渉RNAの標的配列に結合して必須遺伝子の翻訳を阻害し、さらにウイルスの増殖または複製を抑制し、第1の細胞に対して死滅効果がなく、または死滅効果が非常に低く、そして、組換え腫瘍溶解性ウイルスが第2の細胞に感染したとき、第2のプロモーターの駆動下で発現された阻害成分が干渉RNAの合成に関与する酵素の生合成および/または生物学的活性を抑制するため、第1の干渉RNAによる干渉が機能できなくなる。このようにして、必須遺伝子が正常に転写、翻訳され、該組換え腫瘍溶解性ウイルスが第2の細胞で増殖または複製され、第2の細胞に死滅効果をもつ。
【0009】
従来の組換え腫瘍溶解性ウイルスと異なり、本開示による組換え腫瘍溶解性ウイルスは、ウイルスゲノムの完全性を保つことができるとともに、ウイルス遺伝子の秩序のよい発現を乱すことなく、また、選択的に野生型ウイルスと同様のまたは野生型ウイルスに近い能力で第2の細胞で増殖または複製して第2の細胞に死滅効果をもつとともに、第1の細胞に死滅効果をもたないようにすることができ、第1の細胞に対して安全である。したがって、該組換え腫瘍溶解性ウイルスは、幅広く使用でき、例えば、本開示に係る組換え腫瘍溶解性ウイルスを利用すれば、高い死滅効率で、第2の細胞、例えば、腫瘍細胞を死滅させるとともに、第1の細胞、例えば、正常細胞に死滅効果をもたらさないようにすることができ、安全性と高い効率の目的を達することができる。
【0010】
さらに、本開示のいくつかの実施形態において、前記第1の発現カセットは、第2の干渉RNAを発現するための第2の干渉RNA発現配列をさらに有し、前記第2の干渉RNAは、前記組換え腫瘍溶解性ウイルスの複製に非必須の非必須遺伝子のオープンリーディングフレームに作用して前記非必須遺伝子の発現を阻害し、前記第2の干渉RNA発現配列は、前記第1のプロモーターの駆動により発現される。
【0011】
第2の干渉RNAを使用することにより、ウイルスが第1の細胞に感染したとき、第2の干渉RNAもウイルスの非必須遺伝子のオープンリーディングフレームに結合し、非必須遺伝子の翻訳を阻害してその発現を干渉することができ、第1の干渉RNAの役割と似ており、第1の細胞でウイルスの増殖または複製をできる限り抑制し、第1の細胞の安全性を向上させる。
【0012】
さらに、本開示のいくつかの実施形態において、前記第1の干渉RNAと前記第2の干渉RNAは、それぞれ独立した低分子干渉RNA(siRNA)またはmicroRNA(miRNA)である。
【0013】
さらに、本開示のいくつかの実施形態において、前記第2の細胞は哺乳動物の腫瘍細胞であり、前記第1の細胞は哺乳動物の非腫瘍細胞である。
【0014】
さらに、本開示のいくつかの実施形態において、前記哺乳動物はヒトである。
【0015】
さらに、本開示のいくつかの実施形態において、前記腫瘍細胞は、肺がん細胞、肝臓がん細胞、乳がん細胞、胃がん細胞、前立腺がん細胞、脳腫瘍細胞、ヒト結腸がん細胞、子宮頸がん細胞、腎臓がん細胞、卵巣がん細胞、頭頸部がん細胞、黒色腫細胞、膵臓がん細胞または食道がん細胞である。
【0016】
なお、本開示による組換え腫瘍溶解性ウイルスは、腫瘍細胞を選択的に死滅させることに限定されず、他の非腫瘍タイプの狙った細胞の死滅にも使用できる。すなわち、任意の狙った細胞も上記の第2の細胞または標的細胞とすることができ、狙わない細胞を第1の細胞または非標的細胞とする。例えば、神経細胞、赤血球、白血球、血小板、食細胞、上皮細胞、心筋細胞、卵細胞、精子などのいずれか1種の細胞を第2の細胞として死滅させることができ、すなわち、哺乳動物由来の任意の細胞も第2の細胞とすることができ、第2の細胞として選択されていない細胞のうちの任意の1種、複数種、またはすべてを第1の細胞とし、該組換え腫瘍溶解性ウイルスがこれらの第1の細胞に死滅効果をもたない。
【0017】
また、本開示の組換え腫瘍溶解性ウイルスは、腫瘍溶解性ウイルスに限定されず、他のタイプのウイルスも本開示に適用することができ、本開示による技術案をもとに、標的細胞を選択的に死滅させる効果を達成できれば、他のタイプのウイルス(如何なるタイプでもよい)で本開示の腫瘍溶解性ウイルスを置き換えてもよく、これも本開示の保護範囲に属する。
【0018】
さらに、本開示のいくつかの実施形態において、前記標的配列は、非哺乳動物の遺伝子の短い配列から選択される。
【0019】
好ましくは、本開示のいくつかの実施形態において、前記標的配列が、前記非哺乳動物の遺伝子におけるオープンリーディングフレームの長さが19-23個のヌクレオチドのヌクレオチド配列から選択される。
【0020】
好ましくは、本開示のいくつかの実施形態において、前記非哺乳動物が、酵母、クラゲ、大腸菌、昆虫、魚または植物である。
【0021】
好ましくは、本開示のいくつかの実施形態において、前記非哺乳動物の遺伝子は、クラゲ由来の緑色蛍光タンパク質遺伝子、大腸菌由来のβ-ガラクトシダーゼ遺伝子、およびホタル由来のルシフェラーゼ遺伝子から選択されるいずれか1種である。
【0022】
さらに、本開示のいくつかの実施形態において、前記標的配列の塩基配列は、SEQ ID NO:1に示されており、前記第1の干渉RNAの塩基配列は、SEQ ID NO:2に示されている。
【0023】
さらに、本開示のいくつかの実施形態において、前記組換え腫瘍溶解性ウイルスの1つまたは複数の必須遺伝子の5’末端非コード領域または3’末端非コード領域に前記標的配列が挿入されている。
【0024】
好ましくは、前記標的配列の挿入された任意の位置でのコピー数は1つ以上である。
【0025】
さらに、本開示のいくつかの実施形態において、前記組換え腫瘍溶解性ウイルスは、単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus、HSV)、アデノウイルス、ウシポックスウイルス、ニューカッスル病ウイルス、ポリオウイルス、コクサッキーウイルス、麻疹ウイルス、耳下腺炎ウイルス、ウシポックスウイルス、水疱性口内炎ウイルス(vesicular stomatitis virus、VSV)およびインフルエンザウイルスから選択されるいずれか1種である。
【0026】
好ましくは、前記組換え腫瘍溶解性ウイルスが単純ヘルペスウイルスである場合、必須遺伝子が、エンベロープ糖タンパク質L、ウラシルDNAグリコシラーゼ、キャプシドタンパク質、スパイラルエンザイムプロ酵素サブユニット、DNA複製開始結合ヘリカーゼ、ミリスチン酸誘導体タンパク質、デオキシリボヌクレアーゼ、外被セリン/トレオニンプロテインキナーゼ、DNAパッケージング末端酵素サブユニット1、コートタンパク質UL16、DNAパッケージングタンパク質UL17、キャプシドの3本鎖サブユニット2、主要なキャプシドタンパク質、エンベロープタンパク質UL20、核タンパク質UL24、DNAパッケージングタンパク質UL25、キャプシド成熟プロテアーゼ、キャプシドタンパク質、エンベロープ糖タンパク質B、一本鎖DNA結合タンパク質、DNAポリメラーゼ触媒サブユニット、核外輸送層タンパク質、DNAパッケージングタンパク質UL32、DNAパッケージングタンパク質UL33、核外輸送膜タンパク質、大キャプシドタンパク質、キャプシドの3本鎖サブユニット1、リボヌクレオチド還元酵素サブユニット1、リボヌクレオチド還元酵素サブユニット2、エンベロープ宿主閉鎖タンパク質、DNAポリメラーゼ加工性サブユニット、膜タンパク質UL45、コートタンパク質VP13/14、トランス活性化タンパク質VP16、コートタンパク質VP22、エンベロープ糖タンパク質N、コートタンパク質UL51、ヘリカーゼ-プライマーゼプライマーゼサブユニット、エンベロープ糖タンパク質K、ICP27、核タンパク質UL55、核タンパク質UL56、転写調節因子ICP4、調節タンパク質ICP22、エンベロープ糖タンパク質Dおよび膜タンパク質US8Aから選択され、非必須遺伝子が、ICP34.5、ICP0、核タンパク質UL3、核タンパク質UL4、スパイラルエンザイムプロ酵素スパイラルエンザイムサブユニット、表皮タンパク質UL7、エンベロープ糖タンパク質M、コートタンパク質UL14、コートタンパク質UL21、エンベロープ糖タンパク質H、チミジンキナーゼ、DNAパッキングターミナーゼサブユニット2、小キャプシドタンパク質、コートタンパク質UL37、エンベロープタンパク質UL43、エンベロープ糖タンパク質C、コートタンパク質VP11/12、デオキシウリジントリホスファターゼ、ウイルスタンパク質US2、セリン/トレオニンプロテインキナーゼU3、膜G糖タンパク質、エンベロープ糖タンパク質J、エンベロープ糖タンパク質I、エンベロープ糖タンパク質E、膜タンパク質US9、ウイルスタンパク質US10、表皮タンパク質Us11およびICP47から選択される1種または複数種である。
【0027】
好ましくは、前記組換え腫瘍溶解性ウイルスがアデノウイルスである場合、必須遺伝子が、初期タンパク質1A、初期タンパク質1B 19K、初期タンパク質1B 55K、カプセル化されたタンパク質Iva2、DNAポリメラーゼ、末端タンパク質前駆体pTP、カプセル化されたタンパク質52K、キャプシドタンパク質前駆体pIIIa、ペントンマトリックス、コアタンパク質pVII、コアタンパク質前駆体pX、コアタンパク質前駆体pVI、ヘキソン、プロテアーゼ、一本鎖DNA結合タンパク質、ヘキサマーアセンブリタンパク質100K、タンパク質33K、カプセル化されたタンパク質22K、キャプシドタンパク質前駆体、タンパク質U、フィブリン、調節タンパク質E4オープンリーディングフレーム6/7、調節タンパク質E4 34K、調節タンパク質E4オープンリーディングフレーム4、調節タンパク質E4オープンリーディングフレーム3、調節タンパク質E4オープンリーディングフレーム2および調節タンパク質E4オープンリーディングフレーム1から選択される1種または複数種であり、非必須遺伝子が、キャプシドタンパク質IX、タンパク質13.6K、コアタンパク質V、調節タンパク質E3 12.5K、膜糖タンパク質E3 CR1-α、膜糖タンパク質E3 gp19K、膜糖タンパク質E3 CR1-β、膜糖タンパク質E3 CR1-δ、膜糖タンパク質E3 RID-δおよび膜糖タンパク質E3 14.7Kから選択される1種または複数種である。
【0028】
好ましくは、前記組換え腫瘍溶解性ウイルスがウシポックスウイルスである場合、必須遺伝子が、ヌクレオチド還元酵素小サブユニット、セリン/トレオニンキナーゼ、DNA結合ウイルスコアタンパク質、ポリメラーゼ大サブユニット、RNAポリメラーゼサブユニット、DNAポリメラーゼ、スルフヒドリルオキシダーゼ、仮想的DNA結合ウイルス核タンパク質、DNA結合リンタンパク質、ウイルスコアシステインプロテアーゼ、RNAヘリカーゼNPH-II、仮想的メタロプロテアーゼ、転写伸長因子、グルタチオン様タンパク質、RNAポリメラーゼ、仮想的ウイルス核タンパク質、後期転写因子VLTF-1、DNA結合ウイルス核タンパク質、ウイルスキャプシドタンパク質、ポリメラーゼ小サブユニット、DNA依存性RNAポリメラーゼサブユニットrpo22、DNA依存性RNAポリメラーゼサブユニットrpo147、セリン/トレオニンプロテインホスファターゼ、IMVヘパリン結合性表面タンパク質、DNA依存性RNAポリメラーゼ、後期転写因子VLTF-4、DNAトポイソメラーゼI型、mRNAキャッピング酵素大サブユニット、ウイルスコアタンパク質107、ウイルスコアタンパク質108、ウラシル-DNAグリコシラーゼ、トリホスファターゼ、初期遺伝子転写因子VETFの70kDa小サブユニット、DNA依存性RNAポリメラーゼサブユニットrpo18、ヌクレオシド三リン酸加水分解酵素-I、mRNAキャッピング酵素小サブユニット、リファンピシンターゲット、後期転写因子VLTF-2、後期転写因子VLTF-3、ジスルフィド結合形成経路、コアタンパク質4b前駆体p4b、コアタンパク質39kDa、DNA依存性RNAポリメラーゼサブユニットrpo19、初期遺伝子転写因子VETFの82kDa大サブユニット、転写因子VITF-3の32kDa小サブユニット、IMV膜タンパク質128、コアタンパク質4a前駆体P4a、IMV膜タンパク質131、ホスホネート化IMV膜タンパク質、IMV膜タンパク質A17L、DNAヘリカーゼ、ウイルスDNAポリメラーゼプロセシング因子、IMV膜タンパク質A21L、パルミトイル化タンパク質、中間遺伝子転写因子VITF-3の45kDa大サブユニット、DNA依存性RNAポリメラーゼサブユニットrpo132、DNA依存性RNAポリメラーゼrpo35、IMVタンパク質A30L、仮想的ATPアーゼ、セリン/トレオニンキナーゼ、EEV成熟タンパク質、パルミトイル化EEV膜糖タンパク質、IMV表面タンパク質A27L、EEV膜リン酸糖タンパク質、IEVとEEV膜糖タンパク質、EEV膜糖タンパク質、ジスルフィド結合形成経路タンパク質、仮想的ウイルス核タンパク質、IMV膜タンパク質I2L、ポックスウイルスミリストイルタンパク質、IMV膜タンパク質L1R、後期16kDa仮想的膜タンパク質、仮想的ウイルス膜タンパク質H2R、IMV膜タンパク質A21L、ケモカイン結合タンパク質、表皮成長因子様タンパク質およびIL-18結合タンパク質から選択される1種または複数種であり、非必須遺伝子が、分泌性補体結合タンパク質、kelch様タンパク質、病原性因子、仮想的α-アミノタンパク質感受性タンパク質、セリンプロテアーゼ阻害剤タンパク質、ホスフォリパーゼDタンパク質、特徴なしタンパク質K7R、CD47仮想的膜タンパク質、セマフォリンタンパク質、C型レクチンII型膜タンパク質、分泌性糖タンパク質、デオキシウリジントリホスファターゼ、kelch様タンパク質F3L、仮想的ミリストイル化タンパク質、リボヌクレオチド還元酵素大サブユニット、ウシポックスウイルスA型封入体タンパク質、アンキリンタンパク質、6kda細胞内ウイルスタンパク質、腫瘍壊死因子α受容体様タンパク質215、腫瘍壊死因子α受容体様タンパク質217、アンキリンタンパク質B4R、アンキリンタンパク質213、アンキリンタンパク質211、ジンクフィンガータンパク質207、ジンクフィンガータンパク質208、アンキリンタンパク質014、アンキリンタンパク質015、アンキリンタンパク質016、アンキリンタンパク質017、アンキリンタンパク質019、アンキリンタンパク質030、仮想的モノグリセリドリパーゼ036、仮想的モノグリセリドリパーゼ037、仮想的モノグリセリドリパーゼ038、アンキリンタンパク質199、アンキリンタンパク質203/仮想的タンパク質、A型封入体タンパク質、グアニル酸キナーゼおよびアンキリンタンパク質188から選択される1種または複数種である。
【0029】
好ましくは、前記組換え腫瘍溶解性ウイルスがコクサッキーウイルスである場合、必須遺伝子が、タンパク質Vpg、コアタンパク質2A、タンパク質2B、RNAヘリカーゼ2C、タンパク質3A、プロテアーゼ3C、逆転写酵素3D、コートタンパク質Vp4およびタンパク質Vp1から選択される1種または複数種であり、非必須遺伝子が、キャプシドタンパク質Vp2およびVp3から選択される1種または複数種である。
【0030】
好ましくは、前記組換え腫瘍溶解性ウイルスが麻疹ウイルスである場合、必須遺伝子が、核タンパク質N、リンタンパク質P、マトリックスタンパク質M、膜貫通糖タンパク質F、膜貫通糖タンパク質HおよびRNA依存性RNAポリメラーゼLから選択される1種または複数種であり、非必須遺伝子が、RNA依存性RNAポリメラーゼアネックスタンパク質CおよびRNA依存性RNAポリメラーゼアネックスタンパク質Vから選択される1種または複数種である。
【0031】
前記組換え腫瘍溶解性ウイルスが耳下腺炎ウイルスである場合、必須遺伝子が、核タンパク質N、リンタンパク質P、融合タンパク質F、RNAポリメラーゼLから選択される1種または複数種であり、非必須遺伝子が、リンタンパク質V、膜タンパク質Mおよび血球凝集素ノイラミニダーゼタンパク質HNから選択される1種または複数種である。
【0032】
好ましくは、前記組換え腫瘍溶解性ウイルスが水疱性口内炎ウイルスである場合、必須遺伝子が、糖タンパク質G、核タンパク質N、リンタンパク質PおよびRNAポリメラーゼLから選択される1種または複数種であり、非必須遺伝子が、マトリックスタンパク質Mである。
【0033】
好ましくは、前記組換え腫瘍溶解性ウイルスがポリオウイルスである場合、必須遺伝子が、キャプシドタンパク質VP1、キャプシドタンパク質VP2、キャプシドタンパク質VP3、システインプロテアーゼ2A、タンパク質2B、タンパク質2C、タンパク質3A、タンパク質3B、プロテアーゼ3C、タンパク質3DおよびRNAガイドRNAポリメラーゼから選択される1種または複数種であり、非必須遺伝子が、キャプシドタンパク質VP4である。
【0034】
好ましくは、前記組換え腫瘍溶解性ウイルスがインフルエンザウイルスである場合、必須遺伝子が、血球凝集素、ノイラミニダーゼ、核タンパク質、膜タンパク質M1、膜タンパク質M2、ポリメラーゼPA、ポリメラーゼPB1-F2およびポリメラーゼPB2から選択される1種または複数種であり、非必須遺伝子が、非構造タンパク質NS1および非構造タンパク質NS2から選択される1種または複数種である。
【0035】
さらに、本開示のいくつかの実施形態において、前記組換え腫瘍溶解性ウイルスは単純ヘルペスウイルス1型であり、前記必須遺伝子はICP27であり、非必須遺伝子はICP34.5である。
【0036】
さらに、本開示のいくつかの実施形態において、前記第2の干渉RNAの配列は、SEQ ID NO:3に示されている。
【0037】
さらに、本開示のいくつかの実施形態において、前記第1のプロモーターは構成的プロモーターである。
【0038】
好ましくは、複数の必須遺伝子の5’末端非コード領域または3’末端非コード領域に前記標的配列が挿入される場合、前記第1の発現カセットが、前記第1の干渉RNAのみを発現し、前記第1のプロモーターがヒトHu6またはH1プロモーターである。
【0039】
好ましくは、1つの必須遺伝子の5’末端非コード領域または3’末端非コード領域に前記標的配列が挿入される場合、前記第1の発現カセットが、前記第1の干渉RNAと前記第2の干渉RNAを発現し、前記第1のプロモーターが、CMV、SV40およびCBAプロモーターから選択されるいずれか1種である。
【0040】
さらに、本開示のいくつかの実施形態において、前記第2のプロモーターはヒト癌特異的プロモーターである。
【0041】
好ましくは、ヒト癌特異的プロモーターが、テロメラーゼ逆転写酵素プロモーター(hTERT)、ヒト上皮成長因子受容体-2(HER-2)プロモーター、E2F1プロモーター、オステオカルシンプロモーター(osteocalcin)、癌胎児性抗原(carcinoembryonic antigen)プロモーター、サバイビン(Survivin)プロモーターおよびセルロプラスミン(ceruloplasmin)プロモーターから選択されるいずれか1種である。
【0042】
さらに、本開示のいくつかの実施形態において、前記酵素は、Drosha、DicerおよびAgonautsから選択されるいずれか1種である。
【0043】
さらに、本開示のいくつかの実施形態において、前記阻害成分には、前記酵素の遺伝子の発現を干渉して前記酵素の生合成を阻害する第3の干渉RNAが含まれる。
【0044】
好ましくは、前記酵素が、Droshaである。
【0045】
さらに、本開示のいくつかの実施形態において、前記第3の干渉RNAの塩基配列は、SEQ ID NO:4に示されている。
【0046】
さらに、本開示のいくつかの実施形態において、前記阻害成分には、Droshaの活性を抑制するためのヌクレオチドトリプレットリピート配列またはDicer活性を抑制するための非コードRNAがさらに含まれる。
【0047】
好ましくは、前記ヌクレオチドトリプレットリピート配列が、(CGG)nの一般式を有し、ただし、nが20以上の自然数である。
【0048】
好ましくは、nの値の範囲が60~150である。
【0049】
好ましくは、nの値の範囲が100である。
【0050】
好ましくは、前記Dicer活性を抑制するための非コードRNAがアデノウイルス5型VA1RNAである。
【0051】
好ましくは、前記アデノウイルス5型VA1RNAの塩基配列が下記に示され(SEQ ID NO:8):
AGCGGGCACUCUUCCGUGGUCUGGUGGAUAAAUUCGCAAGGGUAUCAUGGCGGACGACCGGGGUUCGAGCCCCGUAUCCGGCCGUCCGCCGUGAUCCAUGCGGUUACCGCCCGCGUGUCGAACCCAGGUGUGCGACGUCAGACAACGGGGGAGUGCUCCUUU。
【0052】
さらに、本開示のいくつかの実施形態において、前記第2の発現カセットには、前記阻害成分の発現を増強するためのエンハンサー配列がさらに含まれる。
【0053】
好ましくは、前記エンハンサー配列が、CMVまたはSV40エンハンサー配列から選択される。
【0054】
さらに、本開示のいくつかの実施形態において、上記の組換え腫瘍溶解性ウイルスの受託番号は、CCTCC NO.V201919である。該ウイルスは、2019年4月24日付で武漢市武昌珞珈山武漢大学にある中国典型培養物寄託センター(CCTCC)に寄託がなされた。
【0055】
第2の局面において、本開示は、もう1種の組換え腫瘍溶解性ウイルスをさらに提供する。該組換え腫瘍溶解性ウイルスのゲノム配列には、干渉RNA標的配列と発現カセットとの外因性要素が含まれ、
前記発現カセットに、プロモーターと干渉RNA発現配列とが含まれ、干渉RNA発現配列が、前記標的配列に結合する前記干渉RNAの発現に用いられ、
前記RNA標的配列は、前記組換え腫瘍溶解性ウイルスの複製に必須な必須遺伝子の5’末端非コード領域または3’末端の非コード領域に位置し、
前記干渉RNA発現配列は、第2の細胞で前記RNAを発現させずに第1の細胞で前記RNAを発現させるように前記第1の細胞特異的プロモーターによって駆動され、
前記第1の細胞と前記第2の細胞とは異なるタイプのものである。
【0056】
第1の局面の組換え腫瘍溶解性ウイルスが細胞を死滅させる原理に基づいて、本開示はもう1種の組換え腫瘍溶解性ウイルスをさらに提供する。第1の局面の組換え腫瘍溶解性ウイルスと比較して、該組換え腫瘍溶解性ウイルスは、第2の発現カセットを有さず、その干渉RNA発現配列は、第1の細胞特異的プロモーターの駆動により発現され、該第1の細胞特異的プロモーターの駆動により、干渉RNAが第2の細胞で発現されず、第1の細胞で発現される。該第1の細胞特異的プロモーターのコントロールによれば、該組換え腫瘍溶解性ウイルスが第1の細胞に感染したとき、干渉RNAが発現されて干渉RNA標的配列に結合して、必須遺伝子の翻訳を阻止または阻害し、ウイルスの増殖または複製が阻止または抑制され、第1の細胞に死滅効果をもたず、第1の細胞に対して安全である。該組換え腫瘍溶解性ウイルスが第2の細胞に感染したとき、第1の細胞特異的プロモーターが発現を駆動せず、干渉RNAの発現が抑制され、必須遺伝子が正常に転写、翻訳して、増殖または複製することができ、第2の細胞に死滅効果をもつ。
【0057】
第2の局面の組換え腫瘍溶解性ウイルスは、第1の局面の組換え腫瘍溶解性ウイルスと同様に、選択的に増殖または複製する効果、即ち選択的に細胞を死滅させる効果をもち、つまり、第1の細胞、例えば、正常細胞に対して死滅効果をもたず、第2の細胞、例えば、腫瘍細胞に対して所望の死滅効果をもつ。
【0058】
さらに、本開示のいくつかの実施形態において、前記第1の細胞は哺乳動物の非腫瘍細胞であり、前記第2の細胞は腫瘍細胞である。
【0059】
第3の局面において、本開示は、上記の組換え腫瘍溶解性ウイルスを調製するための核酸配列を提供し、前記核酸配列は、
前記標的配列、前記第1の発現カセット、および前記第2の発現カセットのうちの1種または複数種の要素を有する。
【0060】
第4の局面において、本開示は、上記の核酸配列と、親ウイルスおよび/または相補的な宿主細胞の少なくとも一方とを含む、上記の組換え腫瘍溶解性ウイルスを調製するための組成物を提供する。
【0061】
ここで、前記親ウイルスのゲノム配列は、野生型ウイルスのゲノム配列に対して、前記必須遺伝子が欠失するものであり、
前記相補的な宿主細胞には、前記必須遺伝子を発現するDNA断片が含まれる。
【0062】
第5の局面において、本開示は、上記の核酸配列を野生型腫瘍溶解性ウイルスのゲノムに取り込むことが含まれる、上記の組換え腫瘍溶解性ウイルスを調製する方法を提供する。
【0063】
さらに、本開示のいくつかの実施形態において、上記の調製方法は、前記核酸配列と、親ウイルスおよび相補的な宿主細胞とを共培養し、培養物から前記組換え腫瘍溶解性ウイルスを収集することを含み、
前記親ウイルスのゲノム配列は、野生型腫瘍溶解性ウイルスのゲノム配列に対して、前記必須遺伝子が欠失するものであり、
前記相補的な宿主細胞には、前記必須遺伝子を発現するDNA断片が含まれる。
【0064】
さらに、本開示のいくつかの実施形態において、前記方法は、ICP27を発現するVero細胞株を調製するステップと、親ウイルスを調製するステップと、遺伝子操作されたICP27および調節成分発現プラスミドを構築するステップと、組換え溶解性ヘルペスウイルスを構築するステップと、を含む。
【0065】
第6の局面において、本開示は、細胞を選択的に死滅させる医薬品の調製における、上記の組換え腫瘍溶解性ウイルスの使用を提供する。
【0066】
さらに、本開示のいくつかの実施形態において、前記細胞は腫瘍細胞である。
【0067】
第7の局面において、本開示は、上記の組換え腫瘍溶解性ウイルスを標的細胞と接触させることを含む細胞を死滅させる方法を提供する。
【0068】
さらに、本開示のいくつかの実施形態において、前記標的細胞は腫瘍細胞である。
【0069】
さらに、本開示のいくつかの実施形態において、前記方法は非疾患治療を目的とする。
【0070】
第8の局面において、本開示は、上記の組換え腫瘍溶解性ウイルス、および薬学的に許容されるアジュバントを含む、細胞を死滅させるための医薬品を提供する。
【0071】
さらに、本開示のいくつかの実施形態において、前記細胞は腫瘍細胞である。
【0072】
第9の局面において、本開示は、組換え腫瘍溶解性ウイルスの力価の測定のステップと、組換え腫瘍溶解性ウイルスの増幅のステップと、組換え腫瘍溶解性ウイルスの精製のステップと、mRNA発現分析のステップと、タンパク質発現分析のステップと、miRNA発現分析のステップとを含む、上記の組換え腫瘍溶解性ウイルスを検出する方法を提供する。
【0073】
本開示は、被験者の疾患を治療する方法をさらに提供し、該方法が、本開示に記載の組換え腫瘍溶解性ウイルスまたはそれを含む組成物を前記被験者に投与することを含み、前記疾患は前記第2の細胞に関連する疾患である。
【0074】
1つまたは複数の実施形態において、前記疾患はがんであり、前記第2の細胞は腫瘍細胞である。
【0075】
本開示は、細胞を選択的に死滅させるための、本開示に記載の組換え腫瘍溶解性ウイルスの使用を提供する。
【0076】
1つまたは複数の実施形態において、前記細胞が腫瘍細胞である。
【0077】
本開示の実施例の技術案をより明瞭に説明するために、以下は、実施例に必要な図面を簡単に説明する。図面は、本開示のいくつかの実施例を示すものにすぎず、範囲を限定するものではないことが理解されたい。当業者にとって、発明能力を利用しなくても、これらの図面をもとに他の関係図面を得ることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
図1】本開示による組換え腫瘍溶解性ウイルスのゲノム配列に挿入された外因性要素の構造、およびコントロール関係の模式図である。図1では、(a):ゲノム配列上の外因性要素の構成模式図であり、標的配列の数は1つ以上であり、(b):標的配列が必須遺伝子の3’末端非コード領域(3’UTR)に挿入されたときの構成模式図であり、(c):第1の発現カセットが、第2の干渉RNA発現配列を有しない場合(c1)、第2の干渉RNA発現配列を有する場合(c2)の構成模式図であり、第1の干渉RNA発現配列が第1の干渉RNAを発現し、第1の干渉RNAが標的配列に結合し、必須遺伝子の発現を阻害し、第2の干渉RNA発現配列が第2の干渉RNAを発現し、第2の干渉RNAが非必須遺伝子に結合し、非必須遺伝子の発現を阻害し、(d):第2の発現カセットの構成模式図であり、阻害成分発現配列が、阻害成分を発現して干渉RNAの合成に関与する酵素の生合成および/または生物学的活性を阻害する。
図2】HSV-1ICP27相補的細胞の発現に必要なプラスミドを構築するための親プラスミドpcDNA3.1-EGFPの構成模式図である。CMVの駆動下でEGFP発現配列を発現し、およびネオマイシンのDNA配列を構成的に発現した。
図3】本開示の実施例における組換え腫瘍溶解性ウイルスoHSV-BJRのゲノム配列に挿入された外因性要素の構成模式図である。
図4】正常細胞では、EGFPとICP34.5 miRNAが組換え腫瘍溶解性ウイルスoHSV-BJRから発現され、標的遺伝子ICP27とICP34.5タンパク質の生合成が阻害される。Vero細胞に0.25MOI(ウイルスの数/細胞)HSV-1野生型ウイルスKOSまたは腫瘍溶解性ウイルスoHSV-BJRを感染させ、1日後、一部の細胞を収集し、低分子RNAを単離し、ノーザンブロット(Northern blot)でmiRNA(A)を検出した。感染の2日後、残りの細胞を収集し、タンパク質を単離し、ウエスタンブロット(Western blot)でHSV-1必須遺伝子ICP27と非必須遺伝子ICP34.5によってコードされるタンパク質(B)を検出した。
図5】がん細胞は機能性低分子干渉RNAの生合成経路を有し、組換え腫瘍溶解性ウイルスoHSV-BJRを感染したがん細胞でDroshaがわずかに発現し、低分子干渉RNAの生合成経路は顕著に阻害されまたは完全に遮断され、標的遺伝子ICP27とICP34.5は、野生型ウイルスKOSから正常に発現されるように、oHSV-BJRから正常に発現される。がん細胞が機能性低分子干渉RNAの生合成経路を有するか否かを検出した。子宮頸がんHela細胞、子宮頸部扁平上皮がんsiHa細胞、乳がんSK-BR3細胞と乳がんME-180細胞に対して、それぞれICP27発現プラスミドまたはICP27+ターゲット配列とmiRNA共発現プラスミドを利用して形質導入した。2日後、細胞を収集し、タンパク質を単離し、ウエスタンブロットでHSV-1必須遺伝子ICP27タンパク質(A)を検出した。がん細胞で腫瘍溶解性ウイルスoHSV-BJRからの阻害性トリプレットとDrosah siRNAの発現はDroshaの発現に影響を与えるか否か、低分子干渉RNAの生合成経路を遮断または閉鎖するか否か、およびICP27とICP34.5が腫瘍溶解性ウイルスから正常に発現できるか否かについて検出した。がん細胞Hela、siHA、SK-BR3とME-180は、それぞれKOSまたは腫瘍溶解性ウイルスoHSV-BJR(0.5MOI)に感染し、1日後、細胞を収集し、低分子RNAとタンパク質を抽出した。ノーザンブロットでトリプレットとDrosha siRNAを検出し(B)、およびEGFPとICP34.5 miRNAを検出し(D)、ウエスタンブロットでDroshaを検出し(C)、ICP27とICP34.5タンパク質を検出した(E)。
図6】がん細胞における腫瘍溶解性ウイルスoHSV-BJRと野生型ウイルスKOSの生殖動態は基本的に一致する。0.1MOIのKOSまたはoHSV-BJRで様々ながん細胞に感染させ、異なる日の後に、細胞と培地を回収し、3回の凍結融解サイクルで細胞内に保持されたウイルスを培地に放出された。相補的細胞はウイルスに感染し、プラーク法でウイルス力価(プラーク形成単位/ミリリットル、PFU/ml)を測定した。A:子宮頸がんHela細胞、B:子宮頸部扁平上皮がんsiHa細胞、C:乳がんSK-BR3細胞、D:乳がんME-180細胞。
図7】組換え腫瘍溶解性ウイルスoHSV-BJRは、動物において肺がん、胃がん、肝臓がんおよび直腸がんの増殖を顕著に抑制した。ヒト化肺がん、胃がん、肝臓がんマウスの癌モデルは、それぞれin vitroで培養された、ヒト非小細胞肺がんA549細胞、胃がんNCI-N87細胞、肝臓がんSK-HEP-1細胞を皮下接種したBALb/c(肺がんおよび胃がん)マウスまたはNPGマウス(肝臓がん)を使用した。腫瘍が一定の大きさに増殖したあと、腫瘍を取り出して小さく切り、対応するマウスに移植して、40-120mmまで成長させた後、ウイルスを腫瘍に注入した。直腸がんモデルは、直接直腸がん細胞株HCT-8をBALb/cマウスに皮下接種することによって構築され、腫瘍が40-120mmまで成長した後、腫瘍溶解性ウイルスの腫瘍内注射を開始した。腫瘍溶解性ウイルス腫瘍において、3日ごとに1回注射して計3回注射し、毎回2×10感染ユニット(40μlのPBSに懸濁)、複数の場所に注射した。ネガティブコントロールとしてPBS(腫瘍溶解性ウイルスを含まず)を注入した。腫瘍溶解性ウイルス注射後、腫瘍サイズを週に2回、合計25~32日間測定した(ネガティブコントロール動物を安楽死させることに必要な時間によって決める)。腫瘍の大きさに応じて腫瘍の成長曲線を作成した(A:肺がん、B:肝臓がん、C:胃がん、D:直腸がん)。試験終了時の試験群の腫瘍の大きさとネガティブコントロールを比較、分析して、相対阻害率を計算した(E)。
【発明を実施するための形態】
【0079】
本開示の実施例の目的、技術案、および利点をより明瞭にするために、本開示の実施例における技術案を以下に明瞭かつ完全に説明する。実施例に具体的な条件が示されていない場合は、従来の条件またはメーカーが推奨する条件に従って実施するものとする。使用される試薬または機器は、製造元が明示されていない場合、すべて市販で購入できる一般的な製品である。
【0080】
本明細書で使用される場合、「塩基配列」および「ヌクレオチド配列」という用語は交換して使用することができ、一般に、DNAまたはRNAの塩基の配列を指す。
【0081】
「プライマー」という用語は、ポリヌクレオチドテンプレートと二重鎖を形成した後、核酸合成の開始点として機能し、その3’末端からテンプレートに沿って伸長し、それによって拡張された二重鎖を形成することができる、天然または合成オリゴヌクレオチドを指す。伸長プロセスで追加されるヌクレオチド配列は、テンプレートポリヌクレオチドの配列によって決定され、プライマーはDNAポリメラーゼによって伸長される。プライマーは通常、プライマー伸長産物の合成での使用と互換性のある長さを持ち、その特定の長さは、温度、プライマー由来、実験方法などの多くの要因の影響を受ける。
【0082】
「プロモーター」という用語は、一般に、RNAポリメラーゼによって特異的に認識され、RNAポリメラーゼを活性化することができる構造遺伝子の5’末端の上流に位置するDNA配列を指す。
【0083】
「エンハンサー」という用語は、それに連鎖する遺伝子の転写の頻度を増加させるDNA配列を指す。エンハンサーはプロモーターによって転写を増強させる。効果的なエンハンサーは、遺伝子の5’末端または遺伝子の3’末端に位置してもよく、一部が遺伝子のイントロンに位置してもよい。エンハンサーの効果は顕著であり、一般に遺伝子転写の頻度を10~200倍増やすことができ、数千倍になることもある。
【0084】
本明細書で使用される場合、「干渉RNA」という用語は、標的配列と相互作用し、標的配列の発現を阻害することができるRNAまたはRNA様分子を指す。干渉RNA分子の例として、ショートヘアピンRNA(shRNA)、siRNA、一本鎖siRNA、マイクロRNA(miRNA)、ダイサー基質27-mer二重鎖を含むが、これらに限定されない。
【0085】
用語の「被験者」、「個体」および「患者」は、本明細書で交換して使用することができ、脊椎動物を指し、好ましくは、哺乳動物を指し、最も好ましくは、ヒトを指す。哺乳動物は、げっ歯類、類人猿、ヒト、家畜、スポーツ動物、ペットなどを含むが、これらに限定されない。
【0086】
本開示の特徴および性能は、実施例を用いてさらに詳細に説明する。
【0087】
実施例1
組換え腫瘍溶解性ウイルスの調製
ヘルペスウイルス1型(HSV-1)KOSを実験の材料にして改造を行って、本実施例による組換え腫瘍溶解性ウイルスを構築した。該組換え腫瘍溶解性ウイルスのゲノム配列は、以下の構造的特徴がある。
【0088】
(1)その必須遺伝子ICP27と非必須ICP34.5遺伝子をmiRNAの標的遺伝子として扱い、HSVゲノムの必須遺伝子ICP27遺伝子の3’末端非コード領域(3’UTR)に緑色蛍光タンパク質miRNA(EGFP miRNA、即ち第1の干渉RNA)の標的配列(該標的配列は、EGFP遺伝子配列に従って設計され、その配列は、EGFP遺伝子のORF対応セグメントの配列と一致しており、以下、EGFP miRNA標的配列と名付ける)、第1の発現カセット、および第2の発現カセットを挿入した。
【0089】
(2)第1の発現カセットには、CMVプロモーター、CMVプロモーターの駆動下でEGFP miRNAを発現するEGFP miRNA発現配列(即ち第1の干渉RNA発現配列)、HSV非必須遺伝子ICP34.5に特異的なmiRNA(即ち第2の干渉RNA、以下ICP34.5 miRNAと名付ける)を発現するICP34.5 miRNA発現配列(即ち第2の干渉RNA発現配列)、およびICP34.5 miRNA発現配列の後に位置するPoly(A)配列が含まれる。
【0090】
(3)第2の発現カセットには、がん細胞特異的プロモーターhTERTおよび互いに接続されたCMVエンハンサーによって形成された複合プロモーター、および阻害成分発現配列が含まれる。該阻害成分発現配列は、複合プロモーターの駆動により、阻害成分を発現することができる。該阻害成分には、Drosha酵素の合成を阻害またはブロックするDrosha siRNA(即ち第3の干渉RNA)、およびDrosha酵素の活性を阻害するCGGトリプレット(即ちヌクレオチドトリプレットリピート配列)が含まれる。該CGGトリプレットは、(CGG)100との一般式を有する。阻害成分発現配列には、Drosha siRNA発現配列、CGGトリプレット発現配列、および阻害成分発現配列の下流に位置するPoly(A)配列が含まれる。
【0091】
該組換え腫瘍溶解性ウイルスoHSV-BJRの調製方法は、以下の通りである。EGFP遺伝子でICP27を置き換えたKOSを親ウイルスとして、組換え腫瘍溶解性ウイルスを調製した。アフリカングリーンモンキー腎臓細胞(Vero細胞)を宿主として、ICP27を発現する相補的細胞を確立し、組換え腫瘍溶解性ウイルスの調製、増殖、および増幅を行った。組換え腫瘍溶解性ウイルスoHSV-BJRは、親ウイルスとプラスミドDNAの相同組換えによって相補細胞に構築された。
【0092】
具体的なステップは、以下の通りである。
【0093】
(1)ICP27を発現するVero細胞株の調製
野生型ヘルペスウイルスDNAをテンプレートとして用いて、ICP27遺伝子のコード領域をPCRで増幅し、増幅した断片を、ネオマイシン耐性遺伝子を発現するプラスミドpcDNA3.1-EGFP(図2を参照)のHindIIIとXbaサイトの間に挿入してEGFPを置き換えた。処理されたプラスミドはpcDNA3.1-ICP27と名付けられ、ICP27遺伝子はCMVプロモーターの駆動下で発現された。
【0094】
Vero細胞を異なる濃度のG418で処理し、3日ごとにG418を含む培地を交換し、6日後の細胞死を観察した。細胞死に必要な最小限のG418濃度を決定し、これを、細胞株を樹立する際のG418濃度として使用した。3.5×10個のVero細胞を6ウェル細胞培養プレートの各ウェルに播種し、抗生物質を含まない培地で一晩インキュベートし、リポソーム(Lipofectamine 2000)でpcDNA3.1-ICP27発現プラスミドを形質導入した(投与量:4μg/ウェル)。24時間後、1:5、1:10および1:20の比率で希釈し、プレートに移し、G418を含む培地で培養し、3日ごとに培地を交換した。培地を6~7回交換した後、クローンを収集し、24ウェルプレートから段階的に増幅した。その後、タンパク質を単離し、ウエスタンブロット法(Western blot)でICP27の発現を検出した。ICP27を高度に発現するクローン由来の細胞を相補的細胞(即ち、必須遺伝子が欠失或いは非発現の複製欠損ウイルスに欠失タンパク質機能を提供することにより複製をサポートするトランスジェニック細胞であり、VERO-C1CP27と名付け、C1CP27と略称する)として選択した。該相補的細胞は、2019年4月24日付で武漢市武昌珞珈山武漢大学にある中国典型培養物寄託センター(CCTCC)に寄託がなされ、CCTCC NO.C201974の受託番号が付与された。
【0095】
(2)親ウイルスの調製
親ウイルスHSV-EGFPは、EGFP遺伝子でICP27遺伝子を置き換えた移行型ヘルペスウイルス1型であり、腫瘍溶解性ウイルスのスクリーニングを容易にするように、プラスミドと野生型ヘルペスウイルスKOSの相同組換えによって得られる。
【0096】
人工合成には、ICP27遺伝子の5’末端配列、CMVプロモーター、EGFPコーディングフレーム、ウシ成長ホルモンPoly(A)(BGH Poly(A))、およびICP27遺伝子の3’末端配列のDNA断片Aが含まれる。DNA断片Aの塩基配列は、SEQ ID NO:5に示されている。ここで、
1~6番目:無関係な配列、末端の長さを長くすると酵素的切断が容易になり、
7~12番目:Xho1サイト、C/TCGAG、
13~575番目:ICP27 5’末端配列、
576~1163番目:CMVプロモーター配列、
1164~1174番目:スペーサー配列、
1175~1180番目:Kozak配列、タンパク質の発現を増強させ、
1181~1900番目:EGFPコーディングフレーム、
1901~2144番目:BGH Poly(A)、
2145~2667番目:ICP27 3’末端配列、
2668~2773番目:HindIIIサイト、A/AGCTT、
2774~2779番目:無関係な配列、末端の長さを長くすると酵素的切断が容易になる。
【0097】
DNA断片Aを酵素的切断し、プラスミドpcDNA3.1-EGFP(図2を参照)のHindIIIとXho1サイトにライゲーションし、改造されたプラスミドをEGFP発現プラスミドと名付けた。
【0098】
3.5×10/ウェルの相補的細胞CICP27を6ウェル細胞培養プレートに播種し、抗生物質を含まない培地で一晩培養し、細胞にそれぞれ0.1、0.5、1、3MOI(ウイルス/細胞)野生型ウイルスKOSを感染させ、1時間後、上記のステップで得られたEGFP発現プラスミド(4μg DNA/ウェル)をLipofectamine 2000によって細胞に形質導入した。
【0099】
4時間後、完全培地で形質導入溶液を置き換えた。すべての細胞が感染した後、細胞と培地を収集し、3回凍結融解し、遠心処理によって上清液を収集した。
【0100】
上清液を希釈し、相補的細胞CICP27に感染させ、プラーク単離法によってウイルスを単離した。感染の4~5日後、蛍光顕微鏡下で緑色のウイルスプラークを選択した。その後、得られたウイルスプラークを、純粋なウイルスプラークを得るまで2または3回スクリーニングした。それを増殖して拡大して、親ウイルスHSV-EGFPを取得した。親ウイルスを野生型ヘルペスウイルスと比較し、親ウイルスのICP27遺伝子がEGFP遺伝子に置き換えられた。
【0101】
(3)遺伝子操作されたICP27および調節成分発現プラスミドの構築
TAクローンプラスミドは、マルチクローニングサイトがXhoIサイト(プラスミドTA-XhoI)のみを含むように遺伝子操作された。
【0102】
人工合成には、ICP27 5’末端配列(天然のICP27プロモーターを含む)、ICP27オープンリーディングフレーム、2コピーのEGFP miRNA標的配列(単一コピーのEGFP miRNA標的配列は、SEQ ID NO:1に示されており、塩基配列が表1に示される)、SV40 Poly(A)配列とICP27 3’末端配列のDNA断片B(5’と3’の各末端にそれぞれ1つのXhoIサイトを含み、SV40 Poly(A)とICP27 3’末端配列の間に1つのHindIIIサイトがある)が含まれる。DNA断片Bの塩基配列は、SEQ ID NO:6に示されている。ここで、
1~6番目:無関係な配列、末端の長さを長くすると酵素的切断が容易になり、
7~12番目:Xho1サイト、C/TCGAG、
13~683番目:ICP27 5’末端配列(ICP27プロモーターを含む)、
684~2222番目:ICP27リーディングフレーム、
2223~2227番目:スペーサー配列、
2228~2249、2253~2274番目:EGFP miRNA標的配列(SEQ ID NO:1)、
2250~2252番目:スペーサー配列、
2275~2800番目:SV40 Poly(A)、
2801~2806番目:HindIIIサイト、A/AGCTT、
2807~3326番目:ICP27 3’末端配列、
3327~3332番目:Xho1サイト、
3333~3338:無関係な配列、末端の長さを長くすると酵素的切断が容易になる。
【0103】
DNA断片BをXhoIで酵素的切断し、プラスミドTA-XhoIのXhoIサイトに挿入し、プラスミドTA-XhoI-mICP27を生成した。
【0104】
人工合成には、CMVプロモーター、EGFP miRNA発現配列、ICP34.5 miRNA発現配列、BGH Poly(A)、hTERT-CMV複合プロモーター、Drosha siRNA発現配列、およびCGGトリプレット発現配列とSV40 Poly(A)配列のDNA断片C(逆相補的)が含まれ、5’と3’の各末端にそれぞれ1つのHindIIIサイトがある。
【0105】
DNA断片C的塩基配列は、SEQ ID NO:7に示されている。ここで、
1~8番目:無関係な配列、末端の長さを長くすると酵素的切断が容易になり、
9~14番目:HindIIIサイトA/AGCTT、
15~629番目:CMVプロモーター、
630~706番目:EGFP miRNA発現配列(発現されたEGFP miRNAの塩基配列は、SEQ ID NO:2に示され、塩基配列が表1に示される)。
707~762番目:無関係な配列、スペーサー配列として機能し、
763~830番目:ICP34.5 miRNA発現配列(発現されたICP34.5 miRNAの塩基配列は、SEQ ID NO:3に示され、塩基配列が表1に示される)、
831~989番目:無関係な配列、スペーサー配列として機能し、
990~1213番目:BGH Poly(A)、15~1213番目配列は、第1の発現カセットを構成し、
1214~1660番目:逆相補的SV40 Poly(A)、
1661~1667番目:無関係な配列、スペーサー配列として機能し、
1668~1967番目:逆相補的CGGトリプレットリピート配列(即ちCGGトリプレット発現配列、発現されたCGGトリプレットの一般式は、(CGG)100)であり、
1968~1976番目:無関係な配列、スペーサー配列として機能し、
1977~2026番目:逆相補的Drosha siRNA発現配列(発現されたDrosha siRNAの塩基配列は、SEQ ID NO:4に示され、塩基配列が表1に示される)、
2027~2044番目:無関係な配列、スペーサー配列として機能し、
2045~2152番目:逆相補的CMVエンハンサー、
2153~2608番目:逆相補的hTERTプロモーター、1214~2608番目は第2の発現カセットを構成し、
2609~2614番目:HindIIIサイト、A/AGCTT、
2615~2622番目:無関係な配列、末端の長さを長くすると酵素的切断が容易になる。
DNA断片CをHinIIIで酵素的切断し、HindIIIサイトに上記プラスミドTA-XhoI-mICP27を挿入し、組換え腫瘍溶解性ウイルスを調製するための組換えプラスミドTA-XhoI-mICP27-REG-RNAを生成した。
【0106】
【表1】
【0107】
(4)組換え溶解性ヘルペスウイルスoHSV-BJRの構築
組換え溶解性ヘルペスウイルスは、相補的細胞CICP27においてプラスミドTA-XhoI-mICP27-REG-RNAと親ウイルスHSV-EGFPの相同組換えによって得られた。操作方法は、以下の通りである。
【0108】
3.5×10個の相補的細胞CICP27を6ウェル細胞培養プレートに播種し、抗生物質を含まない培地で一晩培養した。異なるMOI(0.1、0.5、1、3)の親ウイルスHSV-EGFPで細胞に感染させ、1時間後、Lipofectamine 2000によって組換えプラスミドTA-XhoI-mICP27-REG-RNA(4μg DNA/ウェル)を細胞に形質導入した。4時間後、完全培地で形質導入溶液を置き換えた。すべての細胞が感染した後、細胞と培地を収集し、3回凍結融解し、遠心処理によって上清液を収集した。上清液を希釈し、相補的細胞CICP27に感染させ、プラーク単離法によってウイルスを単離した。4~5日後、蛍光顕微鏡下で黒色のウイルスプラークを選択した。その後、得られたウイルスプラークを、純粋なウイルスプラークを得るまで2または3サイクルスクリーニングした。ウイルスを増殖、増幅させ、感染細胞のDNAを単離し、特異的プライマーを使用して、PCR増幅によってフラグメントを調べ、配列決定を行い、組換え腫瘍溶解性ウイルスを取得し、oHSV-BJRと命付けた。
【0109】
上記組換え腫瘍溶解性ウイルスoHSV-BJRは、2019年4月24日付で武漢市武昌珞珈山武漢大学にある中国典型培養物寄託センター(CCTCC)に寄託がなされ、CCTCC NO.V201919の受託番号が付与されている。
【0110】
得られた組換え腫瘍溶解性ウイルスoHSV-BJRのゲノム配列に以下の要素(各要素の挿入の位置関係は図3を参照)が挿入されており、
必須遺伝子ICP27の3’末端非コード領域に挿入されたEGFP miRNA標的配列とSV40 Poly(A)配列、
SV40 Poly(A)配列の下流にあり、CMVプロモーター、EGFP miRNA発現配列、ICP34.5 miRNA発現配列、BGH Poly(A)が含まれる第1の発現カセット。
【0111】
および、第1の発現カセットの下流にあり、hTERT-CMV複合プロモーター、Drosha siRNA発現配列、CGGトリプレット発現配列およびSV40 Poly(A)配列が含まれる第2の発現カセット(逆相補的配列)。
【0112】
実施例2
腫瘍溶解性ウイルスの力価分析、増殖増幅および精製、miRNA、mRNAおよびタンパク質の発現分析、がん細胞の培養
【0113】
(1)組換え腫瘍溶解性ウイルスoHSV-BJRの力価の測定
3.5×10個の相補的細胞CICP27を6ウェル細胞培養プレートに播種し、培養液で一晩培養した。実施例1で得られた組換え腫瘍溶解性ウイルスoHSV-BJRのウイルス液を10倍に段階希釈し、0.1ml異なる希釈倍数のウイルスで細胞に感染させた。1時間後、培養液を吸引し、1.25%メチルセルロースを含む培地3mlを細胞の各ウェルに加えた。細胞をCOインキュベーターで5日間培養し、50%メタノールと50%エタノールで調製した0.1%アメジストブルーで染色し、ウイルスプラークをカウントした。ウイルス力価(PFU/ml)を算出した。
【0114】
(2)組換え腫瘍溶解性ウイルスoHSV-BJRの増幅
5.5×10個の相補的細胞CICP27を150ml培養フラスコに播種し、一晩培養した。0.03MOI(ウイルス数/細胞)の実施例1で得られた組換え腫瘍溶解性ウイルスoHSV-BJRで細胞に感染させ、すべての細胞が感染するまで細胞をCOインキュベーターで培養した。細胞を収集し、組換え腫瘍溶解性ウイルスoHSV-BJRの初始抽出液を取得した。
【0115】
(3)組換え腫瘍溶解性ウイルスoHSV-BJRの精製
組換え腫瘍溶解性ウイルスoHSV-BJRの初始抽出液を-80℃/37℃で3回凍結融解し、4℃の温度下で、3500rpmで遠心分離し、上清液を収集した。0.6μMタンジェンシャルフロー(中空糸)でろ過し、0.1μMタンジェンシャルフローで限外ろ過濃縮し、濃縮溶液をヘパラン(heparan)アフィニティークロマトグラフィーおよび0.1μMタンジェンシャルフロー濃度で精製し、精製された組換え腫瘍溶解性ウイルスoHSV-BJRを取得した。
【0116】
(4)mRNA発現分析
細胞を収集し、Qiagen RNA精製試薬でRNAを単離した。Thermofisher逆転写試薬でcDNAを合成した。その後、ICP27またはICP34.5特異的プライマーを半定量的PCR(20サイクルのPCR)と組み合わせて使用し、ICP27またはICP34.5mRNAの発現を分析した。ローディングコントロールとしてβ-アクチンを使用した。
【0117】
(5)タンパク質発現分析
細胞を収集し、1×PBSで洗浄し、遠心分離して、RIPAバッファーでタンパク質を抽出した。標準サンプルとしてBSAを使用し、タンパク質の含有量をBCA法で測定した。タンパク質を4%~20%のグラジエントSDS-PAGEで分離しPVDFメンブレンに電気転写した。5%粉乳を含むPBST(PBSに0.05%Tween 20を含む)で固定し、メンブレンを室温下で2.5%粉乳と一次抗体を含むPBST溶液で2時間インキュベートした。メンブレンをPBSTで3回洗浄し、メンブレンを室温下で、二次抗体PBST溶液で1時間インキュベートした。メンブレンをPBSTで3回洗浄し、その後、Piece社の化学蛍光基質で染色し、Biorad社の化学蛍光試薬イメージャーを使用してタンパク質バンドを検出した。ローディングコントロールとしてβ-アクチンを使用した。
【0118】
(6)miRNA発現分析
Thermofisher pure miRNA分離キットを使用してmiRNAを単離し、Roche社のDIG RNAラベリングキットを使用してRNAプローブを標識し、ノーザンブロット(Northern blotting)でmiRNAを分析した。
【0119】
(7)がん細胞の培養
子宮がん細胞Hela、子宮頸部扁平上皮がん細胞siHA、乳がん細胞SK-BR3及乳がん細胞ME-180は、すべて米国のATCCから購入されたものである。Hela、siHAおよびME-180は10%ウシ血液1×ペニシリン/ストレプトマイシンを含むDMEM培地で培養し、SK-BR3は10%ウシ血液1×ペニシリン/ストレプトマイシンを含むMcCoy培地で培養した。3日ごとにフラスコを交換して増幅培養を行った。
【0120】
実施例3
導入されたmiRNAは正常細胞で発現し、標的ウイルス遺伝子の発現に大きく影響する。
【0121】
導入されたmiRNAが正常細胞で組換えウイルスoHSV-BJRから予想通りに発現され、標的ウイルス遺伝子の生合成を阻害するか否かを調べるために、3MOI組換え腫瘍溶解性ウイルスoHSV-BJRと野生型ウイルスKOSでVero細胞に感染させ、一日後に細胞を収集し、低分子RNAを単離し、タンパク質を抽出した。ノーザンブロット(Northern blot)でEGFPおよびICP34.5 miRNAを検出し、ウエスタンブロット(Western blot)でHSV-1ICP27およびICP34.5タンパク質を検出した。
【0122】
野生型ウイルスKOSに感染した細胞の場合、EGFP関連の一次miRNA(pri-miRNA)、前駆体miRNA(pre-miRNA)および成熟miRNAの産生はない。野生型ウイルスKOSに感染した細胞の場合、ICP34.5特異的pri-miRNA、pre-miRNAおよび成熟miRNAはすべて検出可能なレベルに達するが、pre-miRNAおよび成熟miRNAの量はpri-miRNA(宿主細胞にコードされたICP34.5特異的miRNAを使用してHSV-1の増殖を抑制する案を開示した文献が既にあった)より顕著に多かった。oHSV-BJR感染細胞において、EGFPとICP34.5関連のpri-miRNA、pre-miRNAおよび成熟miRNAはすべて検出可能なレベルに達し、pre-miRNAおよび成熟miRNAの量はpri-miRNAより顕著に多く、且つICP34.5pre-miRNAおよび成熟miRNA量はKOSに感染した細胞におけるICP34.5pre-miRNAおよび成熟miRNA量よりも顕著に多かった(図4A)。そして、野生型ウイルスKOSに感染した細胞においてICP27とICP34.5タンパク質が容易に検出可能なレベルまで発現したが、oHSV-BJRに感染した細胞においてICP27とICP34.5の発現レベルは検出限界を下回った(図4B)。その結果、導入されたmiRNA、すなわちEGFPmiRNAおよびICP34.5miRNAが、正常細胞で組換えウイルスoHSV-BJRから健康に発現され、標的ウイルス遺伝子の発現を阻害したことがわかった。
【0123】
実施例4
がん細胞は機能性低分子干渉RNAの生合成経路を有する。Droshaは、組換え腫瘍溶解性ウイルスoHSV-BJRに感染したがん細胞でわずかに発現し、低分子干渉RNAの生合成経路は顕著に阻害されまたは完全に遮断される。したがって、がん細胞では、組換え腫瘍溶解性ウイルスoHSV-BJRは、野生型ウイルスKOSと同様、正常に標的遺伝子ICP27とICP34.5を発現した。
【0124】
がん細胞が機能性低分子干渉RNAの生合成経路を有するか否かを調べるために、がん細胞Hela、siHA、SK-BR3およびME-180に対しては、それぞれICP27発現プラスミドまたはICP27+ターゲット配列とmiRNA共発現プラスミドを利用して形質導入し、2日後、細胞を収集し、タンパク質を単離し、ウエスタンブロットでHSV-1必須遺伝子ICP27タンパク質を検出した。
【0125】
がん細胞において、阻害性トライアドおよびDroshasiRNAの組換え腫瘍溶解性ウイルスoHSV-BJRからの発現がDroshaの発現に影響を与えるか否か、低分子干渉RNAの生合成経路を遮断または閉鎖するか否か、およびICP27およびICP34.5が腫瘍溶解性ウイルスから正常に発現できるか否かを調べるには、がん細胞Hela、siHA、SK-BR3およびME-180に対しては、それぞれKOSまたは腫瘍溶解性ウイルスoHSV-BJR(0.5MOI)で感染させ、1日後、細胞を収集し、低分子RNAとタンパク質を抽出した。
【0126】
ノーザンブロットを使用してトリプレットおよびDroshasiRNA、ならびにEGFPとICP34.5 miRNAを検出し、ウエスタンブロットでDrosha、ICP27およびICP34.5タンパク質を検出した。
【0127】
4種のがん細胞において、EGFPmiRNAの発現は、標的配列を有するICP27の発現を阻害した(図5A)。CGGトリプレットリピートとpri-DroshasiRNAハイブリッドRNAは容易に検出可能なレベルまで発現した(図5B)が、pre-Drosha siRNAと成熟Drosha siRNAは検出可能なレベルを下回った(結果は掲示せず)。4種のがん細胞のうち、野生型ウイルスKOSに感染した細胞はDroshaタンパク質を検出可能なレベルに達したが、oHSV-BJRに感染した4種のがん細胞において、Droshaタンパク質の量はいずれも非常に少なかった(図5C)。pri-EGFPとICP34.5 miRNAは容易に検出可能な範囲に達したが、pre-EGFPおよび成熟EGFPとICP34.5 miRNAの量は非常に少なくまたは検出されなかった(図5D)。oHSV-BJRに感染した細胞において、成熟EGFPとICP34.5 miRNAの非常に低いレベルに対応して、oHSV-BJRに感染した4種のがん細胞において、ICP27とICP34.5タンパク質の発現レベルは、基本的にKOSに感染した細胞と一致した(図5E)。その結果、組換え腫瘍溶解性ウイルスoHSV-BJRに感染したがん細胞において、干渉RNA合成経路が阻害または遮断され、oHSV-BJRの標的ウイルス遺伝子は野生型ウイルスKOSのウイルス遺伝子と同様に正常に発現することができることがわかった。
【0128】
実施例5
組換えウイルスoHSV-BJRはがん細胞において野生型ウイルスKOSの増殖能を維持する。
組換えウイルスoHSV-BJRの、がん細胞を死滅させる能力を分析するために、異なるがん細胞において、組換え腫瘍溶解性ウイルスoHSV-BJRの増殖能を分析した。0.1MOIのKOSまたはoHSV-BJRを使用して、それぞれ子宮頸がんHela細胞、子宮頸部扁平上皮がんsiHa細胞、乳がんSK-BR3細胞および乳がんME-180細胞に感染させた。異なる日の後に、細胞と培地を回収し、3回の凍結融解サイクルで細胞内に保持されたウイルスを培地に放出した。ウイルスで相補的細胞に感染させ、プラーク法でウイルス力価(プラーク形成単位/ミリリットル、PFU/ml)を測定した。組換えウイルスoHSV-BJRは、Hela(図6A)、siHa(図6B)、SK-BR3(図6C)およびME-180(図6D)での増殖速度が異なるが、各細胞での生殖動態が基本的にKOSと一致した。
【0129】
実施例6
組換え腫瘍溶解性ウイルスoHSV-BJRは、野生型ウイルスKOSと同様にがん細胞を死滅させる。
【0130】
組換え腫瘍溶解性ウイルスoHSV-BJRががん細胞を死滅させる能力を分析するために、0.25または0.5MOIの野生型KOSまたはoHSV-BJRを使用して、子宮頸がんHela細胞、子宮頸部扁平上皮がんsiHa細胞、乳がんSK-BR3細胞および乳がんME-180細胞にそれぞれ感染させ、異なる日の後に、細胞死率を分析した。結果を表2-表5に示した。表2~表5は、2つのウイルスに感染した異なるがん細胞の死亡率を反映した。組換え腫瘍溶解性ウイルスoHSV-BJRがHela(表2)、siHa(表3)、SK-BR3(表4)とME-180(表5)に対する死滅能力は多少異なるが、各種のがん細胞に対する死滅効率は基本的にKOSのそれと一致した。
【0131】
【表2】
【0132】
oHSV-BJRの、がん細胞Hela細胞に感染させ、死滅させる効率は、野生型ウイルスと基本に同じである(表中のデータは細胞死亡率であり、単位は%である)。
【0133】
【表3】
【0134】
oHSV-BJR感染による、がん細胞siHA細胞を死滅させる効率は、基本に野生型ウイルスと同じである(表中のデータは細胞死亡率であり、単位は%である)。
【0135】
【表4】
【0136】
oHSV-BJRは、野生型ウイルスに対して、がん細胞SK-BR3細胞を死滅させる能力に基本的に相違がなかった(表中のデータは細胞死亡率であり、単位は%である)。
【0137】
【表5】
【0138】
oHSV-BJRは、野生型ウイルスと同様に効率的にがん細胞ME-180を死滅させる(表中のデータは細胞死亡率であり、単位は%である)。
【0139】
実施例7
組換え腫瘍溶解性ウイルスoHSV-BJRは、基本的に正常細胞の活性に影響を与えない。
【0140】
組換え腫瘍溶解性ウイルスoHSV-BJRの安全性を調べるために、組換え腫瘍溶解性ウイルスoHSV-BJR(2MOI)および野生型ウイルスKOS(0.5MOI)でVero細胞または初代ヒト角膜上皮細胞に感染させた。oHSV-BJRに感染した細胞と未処理の細胞の活性を3日後に測定し、野生ウイルスKOSに感染した細胞の活性を2日後に測定した。各群の細胞生存率の検出結果は表6に示される。
【0141】
KOS感染の2日後、Vero細胞と初代ヒト角膜上皮細胞はすべて死亡した(表6)。oHSV-BJR感染の3日後、Vero細胞と初代ヒト角膜上皮細胞はほとんど死亡しなかった(表6)。生存率は95%達し、これは未処理群の細胞生存率と基本的に同じである。これは、実施例1で得られた組換え腫瘍溶解性ウイルスoHSV-BJRが、正常細胞および非がん細胞に対して比較的信頼できる安全性を有することを示している。
【0142】
【表6】
野生型ウイルスは正常細胞を死滅させることに対し、oHSV-BJRは、正常細胞の活性に対する影響が小さい(表中のデータは細胞生存率であり、単位は%である)。
【0143】
実施例8
実施例1の組換え腫瘍溶解性ウイルスoHSV-BJRは、動物において肺がん、胃がん、肝臓がん及直腸がんの成長を顕著に抑制した。
【0144】
がん治療における腫瘍溶解性ウイルスoHSV-BJRの有効性と効果範囲の広さを調べるために、ヒト肺がん、胃がん、肝臓がんのマウスの癌モデルを構築した。それぞれin vitroで培養されたヒト非小細胞肺がんA549細胞、胃がんNCI-N87細胞、肝臓がんSK-HEP-1細胞をBALb/c(肺がんおよび胃がん)またはNPGマウス(肝臓がん)に皮下接種し、腫瘍が800-1000mmまで成長したとき、腫瘍を取り出して30mmのものに細かく切り、相応のマウスに移植して40~120mmまで成長させた後、実施例1で得られた組換え腫瘍溶解性ウイルスoHSV-BJRを腫瘍内に注射した。
【0145】
BALb/cマウスに直腸がん細胞株HCT-8を直接皮下接種して直腸がんモデルを構築した。腫瘍が40~120mmまで成長したとき、実施例1で得られた組換え腫瘍溶解性ウイルスoHSV-BJRを腫瘍内に注射した。
【0146】
組換え腫瘍溶解性ウイルスoHSV-BJRを、3日に1回、合計3回、毎回2×10感染ユニット(40μlのPBSに懸濁)腫瘍内に注射し、複数の箇所に注射した。モデルごとに8匹の動物に注射し、ネガティブコントロールとして40μlのPBSを注射した。組換え腫瘍溶解性ウイルスが注射され後、腫瘍サイズを週に2回、合計25~32日間測定した(ネガティブコントロール動物の安楽死の要する時間によって決まる)。腫瘍の大きさに基づいて腫瘍の成長曲線を作成し、結果を図7に示した(図7において、A:肺がん、B:肝臓がん、C:胃がん、D:直腸がん)。試験終了時の試験群の腫瘍の大きさとネガティブコントロールを比較、分析して、相対阻害率を計算した(E)、結果を図7Eに示した。
【0147】
図7の結果は、組換え腫瘍溶解性ウイルスoHSV-BJRの注射後の経時的な腫瘍サイズが、陰性対照群の腫瘍サイズより顕著に小さかったことが示され、組換え腫瘍溶解性ウイルスoHSV-BJRが腫瘍の成長速度を抑制できることがわかった。そして、該組換え腫瘍溶解性ウイルスoHSV-BJRは、肺がん、肝臓がん、胃がん、直腸がんなどの腫瘍に対して増殖を抑制する効果があり、抗がん効果範囲が広い。
【0148】
上記のように、様々な従来の腫瘍溶解性ウイルスの欠陥は、主に腫瘍溶解性ウイルス構築の従来の設計案に関わっていることを発明者が発見した。従来の設計案は、ウイルスの増殖能力(腫瘍溶解性能力)の犠牲と引き換えに、腫瘍溶解性ウイルスのがん細胞における増殖の選択性を得ていたため、in vitro、特にin vivoの腫瘍溶解性ウイルスの増殖を損なうことになる。
【0149】
従来の腫瘍溶解性ウイルスの設計は、主に3種の案が採用されている。
【0150】
1)正常細胞の抗ウイルスメカニズムに拮抗する1つまたは複数の非必須遺伝子を削除する。がん細胞は、正常細胞と異なり、抗ウイルスメカニズムが比較的損傷したものまたは比較的弱いものであるため、腫瘍溶解性ウイルスががん細胞内で選択的に増殖して成長する。ウイルスによってコードされる、非必須遺伝子を含むいずれの遺伝子も直接または間接的にウイルスの複製に影響を与え、in vitro試験により、該案により産生された腫瘍溶解性ウイルスのin vitro増殖速度が、野生型のものより数倍または1オーダ以上で低く、in vitroの増殖の場合、1~3オーダで低いことが証明されている。
【0151】
2)がん細胞特異的プロモーターを使用して1つまたは2つのウイルス必須遺伝子を駆動する。この案によって開発された腫瘍溶解性ウイルスは、ウイルスゲノムの完全性が保たれたが、ウイルスが細胞に感染させた後、ウイルス遺伝子がバッチで経時的に調和性の高く発現され(初期の遺伝子が発現した後、中期後期の遺伝子の発現を開始する前にオフにする必要がある)、ウイルス遺伝子発現時の高度な調和性が破壊され。in vitroおよびin vivo試験により、この案によって産生された腫瘍溶解性ウイルスの増殖能力が第1種の案によって産生された腫瘍溶解性ウイルスよりも劣ることが証明されている。
【0152】
3)ウイルス必須遺伝子の3’末端非コード領域に組織特異的miRNAターゲット配列を挿入する。特異的miRNAは正常組織で発現し、相応のmiRNAは該組織のがん細胞では発現しなくまたは低レベルで発現する。したがって、腫瘍溶解性ウイルスはがん細胞でのみ増殖し、がん細胞を死滅させることができる。しかし、特定の種類のがんの患者集団に対して、各患者の発がんメカニズムがそれぞれ異なり、異なる患者のがん細胞の抗ウイルス能力または組織特異的miRNAの発現レベルは大きく異なるため、上記の3種の案からの腫瘍溶解性ウイルスは、特定の種類の癌に対する反応率と治癒率が比較的低く、または効果がない可能性もある。がん治療における腫瘍溶解性ウイルスの有効性を高め、様々ながん治療に適する効果範囲の広い腫瘍溶解性ウイルスを開発するために、本開示は、従来の案と全く異なる案でがんを治療する腫瘍溶解性ウイルスを設計、開発する案を採用している。ウイルス遺伝子の完全性を保ちながら、内因性プロモーターの駆動下でウイルス遺伝子を発現し、非哺乳類動物miRNAターゲティング配列を1つまたは2つのウイルス必須遺伝子の3’非コード領域に挿入する。強力な構成的プロモーターによる駆動下で非哺乳類miRNA(2つのウイルス必須遺伝子を同時に攻撃する)を発現し、または非哺乳類miRNA(1つのウイルス必須遺伝子を攻撃する)とウイルス非必須遺伝子ORFを標的とするmiRNAを同時に発現するDNA配列をウイルスゲノムに挿入することにより、ウイルスが正常細胞で増殖できず、二重保険で安全性を保証する。同時に、ハイブリッドプロモーターとなる、効果範囲の広いがん細胞特異的プロモーター(多くのがん細胞でも発現活性を有する)+強力なプロモーターのエンハンサー(プロモーター活性を増強し、がん細胞特異的プロモーター活性のがん細胞での生成物の高発現を確保する)によって駆動されて、干渉RNA(siRNA、miRNA)生合成酵素を標的に阻害するsiRNAと、干渉RNA(siRNA、miRNA)生合成酵素の活性を抑制するヌクレオチドトリプレットリピートとを発現するDNA配列をウイルスゲノムに挿入することにより、がん細胞において、干渉RNAの生合成経路が迅速かつ継続的に阻害され、または完全に遮断され、miRNAによるウイルス遺伝子に対する攻撃を解除し、ウイルスが、野生型ウイルスと同様または野生型ウイルスに類似してがん細胞内で急速に増殖しがん細胞を死滅させることができる。in vitro試験により、本願による案で構築されたヘルペスウイルス1型ベースの腫瘍溶解性ウイルスが、正常細胞に対して安全であるとともに、野生型ウイルスのように効率的に増殖できて様々ながん細胞を死滅させることができることがわかった。動物試験により、該腫瘍溶解性ウイルスが肺がん、肝臓がん、胃がんおよび直腸がんの成長を顕著に抑制できることがわかった。
【0153】
上記の説明は、本開示の好ましい実施例にすぎず、本開示を限定することを意図するものではない。当業者にとって、本開示は、様々な修正および変更を有することができる。本開示の精神および原則の範囲内で行われた修正、均等置換、改善などは、本開示の保護範囲に含まれるものとする。
【産業上の利用可能性】
【0154】
本開示による組換え腫瘍溶解性ウイルスは、非標的細胞(例えば正常細胞)を損なわずに、選択的な増殖または複製を通じて標的細胞(例えば腫瘍細胞)を選択的に死滅させることができる。特に、本開示の組換え腫瘍溶解性ウイルスは、がん治療に使用できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
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