(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】エレクトロコーティング浴を洗浄するための方法およびそのための装置
(51)【国際特許分類】
C25D 13/24 20060101AFI20240221BHJP
B01D 15/00 20060101ALI20240221BHJP
B01D 15/02 20060101ALI20240221BHJP
【FI】
C25D13/24 301
B01D15/00 P
B01D15/02
(21)【出願番号】P 2022502835
(86)(22)【出願日】2020-07-15
(86)【国際出願番号】 EP2020070040
(87)【国際公開番号】W WO2021009254
(87)【国際公開日】2021-01-21
【審査請求日】2022-03-16
(32)【優先日】2019-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008981
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ コーティングス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】BASF Coatings GmbH
【住所又は居所原語表記】Glasuritstrasse 1, D-48165 Muenster,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】パブスト,ドミニク
(72)【発明者】
【氏名】シュルテ,ロルフ
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】実開昭64-014162(JP,U)
【文献】特開平03-017296(JP,A)
【文献】特開平06-280095(JP,A)
【文献】特開平07-011496(JP,A)
【文献】特開平08-041687(JP,A)
【文献】特開平10-324997(JP,A)
【文献】特開平11-012798(JP,A)
【文献】特開2005-226090(JP,A)
【文献】特開2005-249605(JP,A)
【文献】特開2005-289102(JP,A)
【文献】特開2006-028579(JP,A)
【文献】特開2006-241546(JP,A)
【文献】特開2008-007831(JP,A)
【文献】特開2009-174005(JP,A)
【文献】国際公開第87/003016(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第03498382(EP,A1)
【文献】中国特許出願公開第102127792(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 15/00
B01D 15/02
C25D 13/00
13/22 - 13/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送設備に接続されたスキッド(1)がエレクトロコーティング浴を通って運ばれる、通過型設備の中で前記エレクトロコーティング浴を洗浄するための方法であって、
(a)前記スキッド(1)がフィルタ媒体(2)を備え、
(b)前記フィルタ媒体(2)が少なくとも1個の可動接続要素(3)を介して前記スキッド(1)の上に固着され、
(c)前記可動接続要素(3)がエレクトロコーティング浴と空気の間の界面における前記フィルタ媒体(2)の位置付けを許容し、
(d)前記スキッド(1)を前記エレクトロコーティング浴の中に沈めた後、前記スキッド(1)を前記エレクトロコーティング浴を通して運んでいる間、前記フィルタ媒体(2)がエレクトロコーティング浴と空気の間の前記界面に位置合わせされ、かつ、前記エレクトロコーティング浴の表面に沿って引っ張られることを特徴とする、
方法。
【請求項2】
前記スキッド(1)が前記フィルタ媒体(2)および/または可動接続要素(3)の上に固着された1個または複数個の浮力要素を備え、および/またはフィルタ媒体(2)とスキッド(1)の間の前記可動接続要素(3)が駆動機構によって前記フィルタ媒体(2)を前記エレクトロコーティング浴の前記表面に運び、および/または前記フィルタ媒体(2)がその密度または密閉された空洞によって浮力ボディーとして作用する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記スキッド(1)が1個または複数個の追加フィルタインサート(5)および/または測定装置(6)を備える、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記フィルタ媒体(2)が1個または複数個の撥水ポリマーを備える、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記1個または複数個の撥水ポリマーがポリアルキレンの群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記フィルタ媒体(2)が前記エレクトロコーティング浴の前記表面で、前記スキッド(1)の搬送方向に対して実質的に直角に配置され、および/または前記フィルタ媒体がディップコーティングタンクの幅の少なくとも80%を占める、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記フィルタ媒体(2)が、織物、編物、フェルトまたは不織布の群から選択されるシート様織物製品の形態で選択される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記フィルタ媒体が、前記エレクトロコーティング浴の前記表面に蓄積し、および/または35mN/m未満の表面張力を有する物質を物理吸着または化学吸着する、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記1個または複数個の追加フィルタインサート(5)が、撥水ポリマーの群から選択される材料を含み、また、エレクトロコーティング材料を透過させ、フィルタ材料を透過させないハウジング、ネットおよび/またはバッグの中に存在する、請求項3に記載の方法。
【請求項10】
前記測定装置(6)が、前記エレクトロコーティング浴の組成を解析し、および/または前記
通過型設備の中で前記エレクトロコーティング浴を洗浄するための方法の有効性を検証するように働く、請求項3または請求項9に記載の方法。
【請求項11】
エレクトロコーティング通過型設備のためのスキッド(1)であって、1個または複数個の可動接続要素(3)を介して前記スキッド(1)に接続されるフィルタ媒体(2)を備え、これにより、前記フィルタ媒体(2)は、前記エレクトロコーティング通過型設備が動作している間、エレクトロコーティング浴と空気の間
の界面に位置合わせ可能であることを特徴とするスキッド(1)。
【請求項12】
前記スキッド(1)が前記フィルタ媒体(2)および/または可動接続要素(3)の上に固着された1個または複数個の浮力要素(4)を備える、請求項11に記載のスキッド(1)。
【請求項13】
前記スキッド(1)が1個または複数個の追加フィルタインサート(5)および/または測定装置(6)を備える、請求項11または12に記載のスキッド(1)。
【請求項14】
前記フィルタ媒体(2)および存在している場合は前記追加フィルタインサート(5)が撥水ポリマーの群から選択される材料を含む、請求項13に記載のスキッド(1)。
【請求項15】
前記測定装置(6)が、前記エレクトロコーティング浴の組成を解析し、および/または前記
エレクトロコーティング通過型設備の中で前記エレクトロコーティング浴を洗浄するための方法の有効性を検証するように働く、請求項13に記載のスキッド(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロコーティング浴を洗浄するための方法に関し、より詳細にはエレクトロコーティング浴から破壊物質(妨害物質)を除去するための方法、およびその目的のための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電着コーティングの分野では、エレクトロコーティング設備の設計に関連して、連続移動設備(通過型設備)とインデックス設備は区別されている。連続移動設備には、より高い処理能力が達成され、破壊に対する感受性が一般的により低く、また、関連する資本投資がより少ないという利点がある。連続移動設備は連続的に動作し、コーティングされる製品は、スキッドとして知られているラック上で、エレクトロコーティング材料が満たされたディップコーティングタンクを通って輸送される。
【0003】
コーティングのための製品をエレクトロコーティング浴に導入する前に、例えばクレータなどのコーティング欠陥を回避するために、コーティングされる製品が完全に洗浄される。クレータは、一般に、「乾燥後に残存するコーティング中の小さい円形の窪み」である(DIN EN ISO 4618-2)。本明細書において使用されているように狭義の意味では、「クレータ」という用語は、縁におけるビーズ様の高まりによって区別され、また、ほとんど基板まで達することがしばしばであるプレート様の窪みによって区別される膜欠陥を意味すると理解される。これらの種類の破壊の直径は、最大数ミリメートルに及ぶことがある。これらの種類の破壊は、自動車の車体の表面などの基板表面のトップコーティング後においても依然として目に見えることがしばしばであり、したがってそれらは労力およびコストを必要とする手直しを余儀なくしている。
【0004】
クレータは、破壊領域における表面張力の勾配が大きくなると増加する傾向にある。このパラメータの近似測度として有用であるのは、コーティング材料と破壊物質の間の表面張力の差である。生じる破壊物質には、とりわけ、グリースまたはオイル、シリコーンおよび有機フッ素化合物がある。
【0005】
陰極エレクトロコーティング結合剤は、通常、エポキシ樹脂に基づいており、したがってほぼ46mN/mの表面張力を想定することができる。有機フッ素化合物およびシリコーン(とりわけポリジアルキルシロキサン)は、ほぼ20mN/mのはるかに小さい表面張力を有している。グリースおよびオイルの表面張力ははるかに大きいが、それでもほぼ30mN/mであり、依然としてエレクトロコーティング結合剤よりはるかに小さい。
【0006】
コーティング膜の表面張力と破壊物質の表面張力の差は、エレクトロコート材料のクレータ感度の原因の1つである。しかしながら実際には、エレクトロコーティング浴への破壊物質の導入を完全に排除することはほとんど不可能である。
【0007】
例えばフッ素を含有した化合物は、潤滑剤としてコンベア工学に使用されている。シリコーンを広範囲に渡る様々な異なる方法で連行することができる。例えば金属成形では、少量のシリコーン含有補助剤を含むグリースまたはオイルが広く使用されている。ボディーシェル構成要素を製造する場合、通常、グリースまたはオイル自体がなくては、その製造は不可能である。
【0008】
したがってエレクトロコーティング浴に導入される前に、コーティングされる製品が完全に脱油されることが決定的に重要である。実際には、幾何構造的に単純な構成要素の脱油はそれほど面倒ではないことが分かっており、一方、例えば自動車ボディーシェルなどの複雑な構成要素の完全な脱油は極めて困難のようである。この文脈においては、エレクトロコーティング浴への破壊物質の連行の多くの実例が存在している。これらの問題物質は、コーティング段階における散乱に存在することがあり、また、エレクトロコーティング浴の表面でも浮遊し得る。したがってこれらの破壊物質を除去するための対策を取る必要がある。
【0009】
国際公開第87/03016号パンフレットは、表面欠陥の原因になる汚染物質をエレクトロコーティング浴から除去するための方法を記載しており、既に常習的になっている洗浄操作に加えて、表面張力が35mN/m以下である疎水性物質を吸着する吸着材料を介して、加圧されることなくエレクトロコーティング材料がフィルタリングされる。当該疎水性物質は、任意に他の非極性コモノマーをも含む、エチレン、プロピレン、1ブテンまたは2ブテンのホモポリマーまたはコポリマーが好ましい。とりわけ優先的に使用される吸着材料は、ルーズファイバー材料の形態の線維性ポリプロピレンを含む。国際公開第87/03016号パンフレットにおける発明のとりわけ有利な一実施形態では、吸着剤が充填されたフィルタバッグが、必要に応じて、また、必要な時に追加の濾過を容易に係合および係合解除することができるようにエレクトロコーティング設備のコーティング材料サーキットに設けられている。
【0010】
国際公開第90/05012号パンフレットは、同じ目的のために、フィルタハウジング内に配置され、また、不織布吸着ウェブの形態のファイバーパッキングを備えるフィルタカートリッジを有するフィルタを提案している。
【0011】
いずれの場合においても、フィルタリング装置はコーティング材料循環システムの中に収容されており、また、コーティング材料のバルク相による流れの中を横切っている。吸着のゆっくりした力学の結果として、これらの特定のフィルタをフィルタハウジングに組み込んでも、ここでのコーティング材料の流量が極めて多く、したがって破壊物質とファイバーウェブの間のここでの接触時間が極めて短いため、ほとんど有効ではない。また、有効性を減じている要因は、水性ディップコーティング浴の場合と比較すると、破壊物質の密度が小さく、また、疎水性が増しているため、ディップコーティング浴と空気の間の界面に破壊物質の蓄積が存在することである。浴を循環させるためのポンプは、タンクの底でコーティング材料を引き込むため、コーティング材料の体積流が不十分な量の破壊物質しか含まず、したがってこのようなフィルタ方法の効力も同様に不十分である。
【0012】
したがって実際には、対応するホルダーを有するポリプロピレンのファイバーウェブがエレクトロコーティング浴の表面に置かれる。これは、通常、ディップコーティングタンクのオーバーフローポケットの前段階で生じ、したがって設備を通って運ばれた車両ボディーがフィルタ障壁と衝突することはない。この手法の利点は、破壊物質とフィルタウェブの間の接触時間が最長化され、また、破壊物質が概して存在している場所で洗浄のためのフィルタが係合されることである。
【0013】
さらに、エレクトロコーティング浴の表面をフィルタウェブでスキミングすることも可能である。そのために、例えばディップコーティングタンクの両側の縁に配置された二人の職工によって、浴の表面全体に浮動フィルタ障壁が複数回に渡って引かれる。この手順の欠点は、職工がディップコーティングタンクの縁で直接作業する必要があるため、また、単純に、安全の見地から、ディップコーティング操作を中断する必要があるため、製造を中断しなければならないことである。さらに、表面のスキミングは、搬送工学すなわち振子式搬送またはオーバーヘッド搬送あるいは組合せ技法によって複雑である。さらに、作業領域は、通常、アクセス不能なほど狭く、また、コーティング材料によって汚染されている。また、フィルタの交換も、やはりディップコーティング操作の中断が必要である。
【0014】
したがって従来の手順の場合、洗浄の必要があるため、電着コーティングにおける連続移動設備の使用と関連するより高い処理能力の利点は著しく限られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】国際公開第87/03016号パンフレット
【文献】国際公開第90/05012号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
したがってエレクトロコーティング浴を洗浄するための信頼性の高い方法、とりわけ破壊物質をエレクトロコーティング浴から除去するための、上記欠点がない信頼性の高い方法が必要である。
【0017】
その方法は、とりわけ、コーティング設備を停止させることなく破壊物質を除去することができ、なかんずくエレクトロコーティング浴の表面に蓄積する破壊物質を除去することができ、したがって操作を有効な方法で継続することができるものでなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0018】
連続移動設備(通過型設備)の中でエレクトロコーティング浴を洗浄するための方法、より詳細には搬送設備に接続されたスキッド(1)をエレクトロコーティング浴を通って運ぶことによって連続移動設備の中で破壊物質をエレクトロコーティング浴から除去するための方法を提供することによってこの要求事項に合致することが可能であり、
(a)スキッド(1)はフィルタ媒体(2)を備え、
(b)フィルタ媒体(2)は、少なくとも1個の可動接続要素(3)を介してスキッド(1)の上に固着され、
(c)可動接続要素(3)は、エレクトロコーティング浴と空気の間の界面におけるフィルタ媒体(2)の位置づけを許容し、
(d)スキッド(1)をエレクトロコーティング浴の中に沈めた後、スキッド(1)をエレクトロコーティング浴を通して運んでいる間、フィルタ媒体(2)がエレクトロコーティング浴と空気の間の界面で位置付けされ、かつ、エレクトロコーティング浴の表面に沿って引っ張られる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
この方法は、以下、本発明の方法と呼ばれる。
【0020】
工程(d)は、本明細書においては、フィルタ媒体と、エレクトロコーティング浴の表面に存在し、また、プロセスにおいてピックアップされる破壊物質とを接続するように働いている。
【0021】
「エレクトロコーティング浴」という用語は、エレクトロコーティングタンクに存在しているエレクトロコート材料を意味しており、この材料は、電着コーティングのために適した水性コーティング材料である(DIN 55655-1:2014-11)。
【0022】
「破壊物質」は、本明細書においては、とりわけ、エレクトロコーティング浴の表面に蓄積する物質、および/または表面張力が35mN/m未満の物質を含むと理解され、両方の条件を適用することが好ましい。物質の表面張力は、Du Noueyリング法またはWilhelmyプレート法によって、DIN EN 14370:2004-11に従って決定することができる。測定中のリングの運動は、リング法を準静的方法のみにする。平衡表面張力値をのろのろとしか展開しない液体の場合、Wilhelmyに従う静的プレート法が優先的に使用される。しかしながらこれは、破壊物質が排他的にエレクトロコーティング浴の表面に存在することを意味していない。とりわけスキッド(1)が沈められている場合、破壊物質の一部がエレクトロコーティング浴の表面からエレクトロコーティング浴のバルク相の中へ移動することがあり、あるいはエレクトロコーティング浴のバルク相に存在している場合、製品の一部しかコーティングされないことがあり得る。破壊物質は、上で既に説明したように、膜欠陥の共通の原因である。「膜欠陥」(膜損傷または膜破壊とも呼ばれる)は、DIN 55945:2007-03によれば、コーティングにおける破壊によって印が付けられ、また、通常、それらの形またはそれらの外観に従って名前が付けられるコーティング欠陥であることが理解される。エレクトロコーティング浴にしばしば存在する種類の破壊物質は、上で定義したクレータとして知られているクレータ様の膜欠陥をもたらす。
【0023】
「連続移動設備」は、インデックス設備に見られる種類のバッチ式チャージングとは対照的に、コーティングされる製品が設備を通って連続的に移動するエレクトロコーティング設備である。
【0024】
本明細書において使用されている「スキッド」(1)という用語は、典型的にはコーティングされる製品を収容するように働くが、本発明の文脈においては、好ましくはコーティングされる製品の代わりに、あるいはそれほどには好ましくないが前記製品に加えてフィルタ媒体(2)に接続されるラックを意味している。存在している場合、本明細書においてはスキッド(1)に属するものと見なされる、スキッド(1)の上に固着された他のラックが存在し得る。スキッド(1)の上に固着された他のラックが存在している場合、それに応じて接続要素(3)およびフィルタ媒体(2)をもその上に配置することができる。スキッドの上に固着された他のラックは存在しないことが好ましい。
【0025】
本明細書において使用されている「フィルタ媒体」(2)という用語は、濾過工学からの共通の用語であり、濾過のために利用される材料を表している。
【0026】
「コーティングされる製品」という用語は、エレクトロコーティング浴の中でコーティングすることが意図されたあらゆる部品を包含している。コーティングされる製品は導電性であり、金属であることが好ましい。それらは、例えば金属パネルなどの単純な形態の部品であっても、あるいは例えば自動車両車体などの三次元設計の複雑な部品であってもよい。
【0027】
「エレクトロコーティング浴の表面」は、大気と接触しているエレクトロコート材料の領域である。
【0028】
「エレクトロコーティング浴の表面に沿ってフィルタ媒体(2)を引っ張る」は、この場合、フィルタ媒体(2)が大気およびエレクトロコーティング浴の体積の両方に突出し、スキッド(1)がエレクトロコーティング浴を通って運ばれると、エレクトロコーティング浴の表面に沿って引っ張られ、また、このようにしてエレクトロコーティング浴の表面に存在している破壊物質と接触することを意味すると理解される。
【0029】
「接続要素」(3)は、フィルタ媒体(2)をスキッド(3)に接続する構成要素である。接続要素(3)は可動である。これは、接続要素(3)のスキッド(1)とフィルタ媒体(2)の間の距離が可変であり、したがってエレクトロコーティング浴を通って運んでいる間、スキッド(1)が異なる深さでエレクトロコーティング浴の中に沈められていても、フィルタ媒体(2)をエレクトロコーティング浴の表面に沿って搬送方向に引っ張ることができることを意味している。したがって接続要素(3)の長さは、スキッド(1)がその最も深い深さでエレクトロコーティング浴の中に沈められている場合に、接続要素(3)によって接続されたフィルタ媒体(2)をエレクトロコーティング浴の表面に沿って引っ張ることができるように計算しなければならない。接続要素(3)は、折畳み機構を備えていることが好ましい。
【0030】
この方法に対する上で識別した利点に加えて、本発明による方法は、いずれの場合にも存在する、コーティングされる製品をコーティングするために使用されるスキッド(1)を、ここではフィルタ媒体(2)のための輸送ラックとしても使用することができ、したがって本発明の方法の実施態様には、連続移動エレクトロコート設備への複雑な適合が不要であることによって区別される。その代わりに、本発明に従って装備されるスキッド(1)はスタンバイ上に保持することができ、したがって必要に応じて、また、必要な時にそれらを直ちに展開させて、コーティングされる製品を装備したスキッド(1)に置き換えて操作を継続することができる。
【0031】
本発明の方法を実施している間、スキッド(1)は、コーティングされる製品をスキッド(1)が担っている場合と同様、通常の方法でエレクトロコーティングタンクを通過する。
【0032】
フィルタ媒体(2)は、スキッド(1)またはスキッドの上に個別に取り付けられたラックにフィルタ媒体(2)を接続する1個または複数個の要素(3)が、エレクトロコーティング浴と空気の間の界面におけるフィルタ媒体(2)の位置付けを許容するようにスキッド(1)の上に配置される。
【0033】
したがってフィルタ媒体(2)は、1個または複数個の接続要素(3)を介してスキッド(1)の側面に接続されることが好ましく、その側面は、実施されている本発明の方法を使用して前記界面の方向に向く。したがってこれにより、連続移動エレクトロコーティング設備を振子式搬送モードまたはオーバーヘッドモードの両方で、あるいは所望の任意の他のモードで動作させることができる。
【0034】
一方ではスキッド(1)と、他方ではフィルタ媒体(2)との間の接続は、装置が動作すると開く1個または複数個の折畳み式接続要素(3)によってなされることが好ましい。好ましくは1個または複数個の折畳み式接続要素(3)の、一方ではスキッド(1)と、他方ではフィルタ媒体(2)との間のこの開きは、場合によっては1個または複数個の浮力要素(4)(すなわちフロート(4))によって達成されることが好ましく、これらの浮力要素(4)は、フィルタ媒体(2)および/または接続要素(3)の上に固着されることが好ましい。これらの1個または複数個の浮力要素(4)は、スキッド(1)が運ばれると、それらの浮力要素(4)がフィルタ媒体(2)の後方に位置し、したがってフィルタ媒体(2)に対する非妨害の流れを許容するように配置されることが好ましい。スキッド(1)がエレクトロコーティング浴の中に沈められると、フロート(4)がフィルタ媒体(2)をエレクトロコーティング浴の表面に保持してフィルタ媒体(2)を位置付けする。沈む深さが深くなると、1個または複数個の折畳み式接続要素(3)が、一方ではスキッド(1)と、他方ではフィルタ媒体(2)との間で広がり、一方、折畳み機構は、スキッド(1)がエレクトロコーティングタンクの終わりで出現すると、再び閉じる。
【0035】
可能な限り遠くへ引っ張ることができるようにするためには、すなわち本発明に従って浴の幅全体に渡ってスキミングするためには、フィルタ媒体(2)および好ましくは浮力要素(4)も、フィルタ媒体(2)がディップコーティングタンクの幅全体またはほぼ幅全体、例えばディップコーティングタンクの幅の少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%を占有するようにスキッドに接続されることが有利である。フィルタ媒体(2)は、スキッド(1)を越えて横方向に突出することが好ましい。
【0036】
フィルタ媒体(2)と、スキッド(1)またはスキッド(1)の上に個別に取り付けられたラックとの間の接続要素(3)のための1個または複数個の浮力要素(4)の代わりに、駆動機構によってフィルタ媒体(2)をエレクトロコーティング浴の表面上に運ぶことも可能であることは認識されよう。
【0037】
最後に、フィルタ媒体(2)自体がその密度または密閉された空洞によって浮力要素(4)として機能し、したがってフィルタ媒体(2)の機能と浮力要素(4)の機能を合わせ持つ機能を担うことも同様に可能である。
【0038】
巨視的に見ると、フィルタ媒体(2)は細長いことが好ましく、また、この方法が実施される場合、フィルタ媒体(2)はエレクトロコーティング浴の表面のスキッド(1)の搬送方向に対して実質的に直角に配置される。しかしながら原理的には他の幾何構造のフィルタ媒体(2)も可能である。例えばフィルタ媒体(2)は、例えばフィルタ媒体(2)の利用可能な吸着表面積を広くするために、V字形、U字形またはジグザグ設計を有することも可能である。
【0039】
フィルタ媒体(2)は、エレクトロコーティング浴の洗浄を許容し、より詳細にはエレクトロコーティング浴の表面に存在している破壊物質のピックアップを許容する。したがってフィルタ媒体(2)は、典型的な破壊物質に対して親和力がある材料からなっている。吸着は、原理的には化学的(化学吸着)または物理的(物理吸着)に生じ得る。優先的には物理的に生じる。
【0040】
疎水性ポリマーとも呼ばれる撥水ポリマーは、エレクトロコーティング浴に典型的に存在する破壊物質に対するとりわけ良好な親和力を有している。これらは、より詳細にはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレンなどのポリアルキレンを含むことが好ましく、また、エチレン、プロピレン、1-ブチレンおよび2-ブチレンからなる群から選択される少なくとも2個のモノマーからできているコポリマーをも含むことが好ましい。さらに、上記のポリマーは他の非極性コモノマーを含むことができる。
【0041】
様々なポリマーおよびコポリマーは異なる極性を有しているため、それらは、好ましい一実施形態では、破壊物質の可能な限り広いスペクトルに関して親和力をカバーするために、互いにやはり結合され得る。
【0042】
とりわけ適切であるのは、織物、編物、フェルトまたは不織布の群から選択されることが好ましいシート様織物製品の形態のフィルタ媒体(2)の実施形態である。不織布の形態のフィルタ媒体(2)の実施形態はとりわけ適している。この場合、シート様織物製品、より詳細には不織布は巻かれていることが好ましく、ロールは、上で参照した幾何構造の形態で使用されることが好ましい。
【0043】
しかしながら例えばルーズファイバー材料の形態の上で説明した撥水ポリマーを、エレクトロコート材料を透過させる好ましくは管状ネットの中または管状バッグの中に置くことも可能であり、また、これらのネットまたはバッグを上記ロールと同じ方法でフィルタ媒体(2)として使用することも可能である。
【0044】
本発明の他の主題は連続移動エレクトロコーティング設備のためのスキッド(1)であり、スキッド(1)は、1個または複数個の接続要素(3)を介してスキッド(1)に接続されるフィルタ媒体(2)を備えており、フィルタ媒体(2)は、連続移動エレクトロコーティング設備が動作している間、フィルタ媒体がエレクトロコーティング浴と空気の間の界面における位置付けを取り入れることができるようにスキッド(1)に接続される。これを保証するために、接続要素(3)は、スキッドを使用することができる本発明によるプロセスに関して既に上で説明したように可動である。
【0045】
このようにして装備されるこのスキッド(1)は、以下、本発明のスキッド(1)と呼ばれる。
【0046】
本発明の方法に使用することができる本発明のスキッド(1)の特に好ましい一実施形態では、スキッド(1)の上に取り付けられた1個または複数個の追加フィルタインサート(5)が存在している。これらのフィルタインサート(5)は細長い設計を有していることが好ましく、また、上で説明したフィルタ媒体(2)とは対照的に、スキッド(1)の搬送方向に対して平行に配置されることが好ましい。また、洗浄操作の間、これらの追加フィルタインサート(5)は、上で説明したフィルタ媒体(2)とは対照的に、エレクトロコーティング浴のバルク相に主として配置される。1個または複数個の追加フィルタインサート(5)の部分は、没入している間および出現している間のみ、エレクトロコーティング浴のバルク相に完全に配置されない。エレクトロコーティング浴の中への没入は、典型的にはフィルタインサート(5)を開ける前に実施され、エレクトロコーティングタンクの没入ゾーンでは、表面の汚染物質は、エレクトロコーティング浴の表面を通って移行している間に既にピックアップされていることがあり得る。エレクトロコーティングタンクの出現ゾーンにおける出現の間、同じことが生じる。追加フィルタインサート(5)は、完全な没入の後、および出現の前に、エレクトロコーティング浴のバルク相に排他的に配置されることが好ましく、そこでは追加フィルタインサート(5)は汚染物質をピックアップすることができる。
【0047】
追加フィルタインサート(5)のために使用することができるフィルタ材料は、同様に、フィルタ媒体(2)に対して上で説明した材料の群から選択されることが好ましい。
【0048】
追加フィルタインサート(5)は、フィルタ材料および好ましくは寸法的に安定したハウジングを備えており、ハウジングは、エレクトロコート材料を透過させ、また、フィルタ材料をそれらを透過させることなく収容する。エレクトロコート材料を透過させるハウジングに対する代替または追加として、エレクトロコート材料を透過させ、また、フィルタ材料をそれらを透過させることなく収容するネットおよび/またはバッグを使用することも可能である。
【0049】
極めて特定の採択では、本発明の方法に使用することができる本発明のスキッド(1)は、エレクトロコーティング浴のパラメータを決定するのに適した1つまたは複数の測定装置(6)をさらに備える。この測定装置は、場合によっては、本発明の洗浄方法の有効性に関連して、エレクトロコーティング浴の組成を解析し、および/またはエレクトロコーティング浴の品質を検証するように働くことが好ましい。後者の目的の場合、これらの装置は、後者が存在する追加フィルタユニット(5)の後に、空間的に配置されることが好ましい。
【0050】
本発明の方法、また本発明のスキッド(1)およびその機能モードは、一例として、添付の
図1~
図4を参照してより詳細に説明することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【
図1】
図1は、振子式搬送モードの連続移動エレクトロコーティング設備の線図を示したものである。エレクトロコーティング浴の没入ゾーン(E)および出現ゾーン(A)におけるスキッド(1)は、折り畳まれた状態のフィルタ媒体(2)、任意の追加フィルタユニット(5)および任意の測定装置(6)を備えている。エレクトロコーティング浴の中に完全に沈められる中間スキッド(1)は、開いた状態のフィルタ媒体(2)、および完全に沈められた状態の任意の追加フィルタユニット(5)、また任意の測定装置(6)を示している。矢印は搬送方向を示している。
【
図2】
図2は、オーバーヘッド搬送モードの連続移動エレクトロコーティング設備の線図を示したものである。エレクトロコーティング浴の没入ゾーン(E)および出現ゾーン(A)におけるスキッド(1)は、折り畳まれた状態のフィルタ媒体(2)、任意の追加フィルタユニット(5)および任意の測定装置(6)を備えている。エレクトロコーティング浴の中に完全に沈められる2個の中間スキッド(1)は、開いた状態のフィルタ媒体(2)、および完全に沈められた状態の任意の追加フィルタユニット(5)、また任意の測定装置(6)を示している。矢印は搬送方向を示している。
【
図3A】
図3Aは、折り畳まれたフィルタ媒体(2)、任意の追加フィルタインサート(5)および任意の測定装置(6)を装備した本発明のスキッド(1)の線図を側面図で示したものである。
【
図3B】
図3Bは、開いたフィルタ媒体(2)、任意の追加フィルタインサート(5)および任意の測定装置(6)を装備した本発明のスキッド(1)の線図を側面図で示したものである。
【
図4】
図4は、フィルタ媒体(2)、任意の追加フィルタインサート(5)および任意の測定装置(6)を装備した、本発明のスキッド(1)の上側からの線図を示したものである。
【0052】
本発明の方法は著しく有効であることが分かっており、また、破壊物質をフィルタ媒体(2)に結合することにより、エレクトロコーティング浴のバルク相の洗浄をはるかに超える、エレクトロコーティング浴の洗浄または汚染除去を観察することが可能である。詳細には、汚染したエレクトロコーティング浴の洗浄を実施した後、電着コーティングプロセスでコーティングされた金属パネルは、著しく少ない数の表面欠陥を示し、とりわけより少ない数のクレータを示した。この方法によれば、エレクトロコーティング浴の早期交換を防止し、また、コーティングプロセスにおけるこのような交換と不可避的に関連する種類の長い中断をも防止することも可能であった。
【0053】
参照符号のリスト
(1) スキッド
(2) フィルタ媒体
(3) 接続要素
(4) 浮力要素
(5) 追加フィルタインサート
(6) 任意の測定装置
(A) 出現ゾーン
(E) 没入ゾーン