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  • 特許-飼料用組成物およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】飼料用組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23K 20/153 20160101AFI20240221BHJP
   A23K 10/16 20160101ALI20240221BHJP
   A23K 10/30 20160101ALI20240221BHJP
【FI】
A23K20/153
A23K10/16
A23K10/30
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022510727
(86)(22)【出願日】2021-03-26
(86)【国際出願番号】 JP2021012817
(87)【国際公開番号】W WO2021193907
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2022-08-23
(31)【優先権主張番号】P 2020055577
(32)【優先日】2020-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113398
【弁理士】
【氏名又は名称】寺崎 直
(72)【発明者】
【氏名】橋本 唯史
(72)【発明者】
【氏名】杉山 慎治
(72)【発明者】
【氏名】藤原 一弘
【審査官】竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-184595(JP,A)
【文献】津田隆治,亜硫酸パルプ排液の利用(発酵生成品およびリグニン,材料,1967年,第16巻169号,819-824
【文献】賦形物質リグノスルホン酸カルシウム及びリグニンスルホン酸ナトリウム,飼料添加物評価書 賦形物質リグノスルホン酸カルシウム及びリグニンスルホン酸ナトリウム,2012年,第4頁の要約
【文献】本製紙(株)江津工場,紙パ技協誌,1998年,第52巻第6号,838-847
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23K 10/00 - 50/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子量5,000~100,000の核酸と、
酵母細胞壁成分と、
リグニンスルホン酸と、
を含み、前記リグニンスルホン酸の含有量が、10~30重量%である、飼料用組成物。
【請求項2】
前記核酸は、酵母菌体内から抽出されたものであり、且つ、核酸分解酵素未処理の核酸である、請求項1に記載の飼料用組成物。
【請求項3】
前記核酸が、酵母由来のリボ核酸である、請求項1または2に記載の飼料用組成物。
【請求項4】
さらに、亜硫酸塩を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の飼料用組成物。
【請求項5】
分子量5,000~100,000の核酸と、酵母細胞壁成分と、リグニンスルホン酸とを含む飼料用組成物の製造方法であって、
酵母を脱核処理して核酸と脱核酵母とに分離して回収し、前記分子量5,000~100,000の核酸と前記酵母細胞壁成分とをそれぞれ用意することと、
前記前記分子量5,000~100,000の核酸と、前記酵母細胞壁成分と、リグニンスルホン酸とを混合することと、
リグニンスルホン酸の含有量を10~30重量%に調整することと、
を含む、前記製造方法。
【請求項6】
前記分子量5,000~100,000の核酸は、核酸分解酵素未処理の核酸である、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
分子量5,000~100,000の核酸と、酵母細胞壁成分と、リグニンスルホン酸
とを含む飼料用組成物の製造方法であって、
リグニンスルホン酸を含む培地で酵母を培養することと、
前記酵母をアルカリ処理することと、
前記リグニンスルホン酸を含む培地と、前記酵母を脱核処理して抽出される核酸分解酵素未処理の核酸と、前記酵母を脱核処理して得られる酵母細胞壁成分とを含む混合物を回収することと、
前記飼料用組成物中のリグニンスルホン酸の含有量を10~30重量%に調整することとと、
を含む、前記製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飼料用組成物およびその製造方法に関し、詳しくは酵母を利用した飼料組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酵母に含まれる成分は飼料として有用であり、飼料または飼料添加剤として用いられている。例えば、酵母を原料として用い、摂食促進作用及び免疫増強作用を有する酵母エキス組成物を飼料添加剤として用いることが開示されている(例えば、特許文献1)。また、ビール酵母に由来するグルカンと脂質とを所定量含む免疫賦活剤を添加した飼料が開示されている(例えば、特許文献2)。さらに、カビの代謝物であるマイコトキシンで汚染された飼料は動物に対し生育状態及び毒性問題を発生させることがあるところ、酵母細胞壁エキスを利用してマイコトキシンを吸着させ不活化させる手法が開示されている(例えば、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平7-184595号公報
【文献】特許第6530846号公報
【文献】特表2002-512011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これまでのところ、免疫効果とカビ毒吸着効果を同時に満たす飼料は見当たらない。また、カビ毒を吸着してカビ毒の作用を弱める以前に、酵母を用いた飼料の腐敗を抑制することができれば、より好ましい。
飼料は、一般に廉価であることが求められており、複数の効能を持つ飼料をできるだけ低コストで製造することが求められている。
【0005】
以上のような状況に鑑み、本発明が解決しようとするいくつかの課題のうちの1つは、免疫活性化作用とカビ毒吸着作用を同時に満たす飼料用組成物を提供することである。
また、本発明の他の課題の1つは、酵母を用いた飼料用組成物において、腐敗を簡便に抑制する技術を提供することである。
さらに、本発明の他の課題の1つは、上記のような飼料用組成物を廉価に製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究したところ、酵母を培養する培地の成分として用いられることがあるリグニンスルホン酸が含まれるようにすることによって、酵母由来成分を添加することのメリットに加え、腐敗しにくい飼料用組成物を得ることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。本発明のいくつかの態様として、以下のような飼料用組成物およびその製造方法が提供される。
【0007】
〔1〕 分子量5,000~100,000の核酸と、
酵母細胞壁成分と、
リグニンスルホン酸と、
を含む飼料用組成物。
〔2〕 リグニンスルホン酸の含有量が、1~30重量%である、上記〔1〕に記載の飼料用組成物。
〔3〕 前記核酸が、酵母由来のリボ核酸である、上記〔1〕または〔2〕に記載の飼料用組成物。
〔4〕 さらに、亜硫酸塩を含む、上記〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載の飼料用組成物。
〔5〕 分子量5,000~100,000の核酸と、酵母細胞壁成分と、リグニンスルホン酸とを混合することを含む、飼料用組成物の製造方法。
〔6〕 酵母を脱核処理して核酸と脱核酵母とに分離して回収し、前記分子量5,000~100,000の核酸と前記酵母細胞壁成分とをそれぞれ用意することを含む、上記〔5〕に記載の飼料用組成物の製造方法。
〔7〕 分子量5,000~100,000の核酸と、酵母細胞壁成分と、リグニンスルホン酸とを含む飼料用組成物の製造方法であって、
リグニンスルホン酸を含む培地で酵母を培養することと、
前記酵母をアルカリ処理することと、
前記リグニンスルホン酸を含む培地と、前記酵母由来の核酸と、前記酵母由来の酵母細胞壁成分とを含む混合物を回収することと、
を含む、前記製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一実施形態によれば、酵母を原料として用いる飼料用組成物において、免疫活性化作用、カビ毒吸着作用を有し、且つ腐敗しにくい飼料用組成物を提供することができる。
また、本発明の一実施形態によれば、免疫活性化作用、カビ毒吸着作用に加え、腐敗しにくい飼料用組成物を廉価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、病原菌に対するマクロファージの貪食活性を測定した結果を示すグラフの図である。抗原として、胸膜肺炎菌を用いた区と、豚連鎖球菌を用いた区のそれぞれについて、比較例1および2、実施例1および2の結果を示す。各区において、左側から、比較例1(黒塗り)、比較例2(右肩上がり斜線)、実施例1(縦線)、実施例2(格子線)の棒グラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、特に断りない限り、数値範囲について「AA~BB」という記載は、「AA以上、BB以下」であることを示す(ここで、「AA」および「BB」は任意の数値を示す)。また、下限および上限の単位は、特に断りない限り、後者(すなわち、ここでは「BB」)の直後に付された単位と同じである。
【0011】
1.飼料用組成物
本発明の一実施形態は、飼料用組成物でありうる。本発明の一実施形態において、飼料用組成物は、分子量5,000~100,000の核酸と、酵母細胞壁成分と、リグニンスルホン酸とを含有する。
【0012】
飼料用組成物の用途は、飼料に関して用いられる様々な態様を含み、例えば、対象とする、家畜、家禽、養魚などの動物に直接的に給与する飼料そのものであってもよいし、穀物など飼料のとして用いられる他の主要な栄養成分に添加する飼料添加物であってもよい。
【0013】
本発明の一実施形態において、飼料用組成物は核酸を含有する。核酸を飼料用組成物中に配合することにより、飼料を摂取した動物の免疫を活性化することができる。
【0014】
核酸は、高分子としての核酸だけではなく、核酸の構成単位であるヌクレオチドであってもよいが、ある程度大きい分子が好適である。好適な一実施形態としては、例えば、分子量5,0000~100,000の範囲内である核酸分子が飼料組成物中に含まれていることが挙げられる。
核酸の分子量の下限は、好ましくは5,000以上、より好ましくは6,000、7,000、8,000、または9,000以上、更に好ましくは10,000、15,000または20,000以上でありうる。
核酸の分子量の上限は、好ましくは100,000以下、より好ましくは80,000以下、更に好ましくは、70,000、60,0000、または50,000以下でありうる。
なお、ここでいう核酸の分子量分布は、例えばGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により求めることができる。
【0015】
本発明の他の一実施形態として、好適な核酸について、重量平均分子量(Mw)を指標としてもよい。
核酸の重量平均分子量の下限は、好ましくは5,000以上、より好ましくは10,000以上、更に好ましくは20,000以上でありうる。
核酸の重量平均分子量の上限は、好ましくは100,000以下、より好ましくは70,000以下、更に好ましくは50,000以下でありうる。
【0016】
核酸を構成する糖の種類は、デオキシリボースおよびリボースのいずれでもよい。すなわち、核酸はデオキシリボ核酸(DNA)およびリボ核酸(RNA)のいずれでもよい。核酸を構成する塩基の種類としては、主にアデニン、グアニン、チミン、シトシン、ウラシルが挙げられ、すなわち核酸を構成するヌクレオシドの種類としては、アデノシン、グアノシン、シチジン、ウリジン、チミジン、が挙げられる。ヌクレオチドを構成するリン酸は、一リン酸であっても、複数のリン酸で構成されていてもよい。核酸として、市販品を用いてもよい。核酸は、1種を単独で配合してもよいし、複数種を混合して配合してもよい。核酸としては、好ましくは、リボ核酸およびヌクレオチドを用いうる。
【0017】
核酸の由来は特に制限はなく、人工合成したものでもよいし、天然物由来のものであってもよい。例えば、酵母などの微生物から抽出または精製したものを用いてもよい。このように合成、抽出または精製した核酸は、飼料用組成物を与えられる動物などの対象生物が摂食した際に、吸収されやすい形態とすることができる。廃材とされた生物資源、例えば廃材とされた木材に含まれる木質糖分を用いて酵母などの微生物を増殖し、核酸を得て、飼料用組成物に配合して用いることにより、廃材とされていたものを有用物質に転換することができ、持続可能な循環型社会の形成に寄与することができる。
【0018】
飼料用組成物中における核酸の含有量は、飼料用組成物の用途に応じて適宜調整してよい。例えば、飼料と飼料用添加物とでは、含有量が異なるのが一般的であろう。例として、飼料用組成物を飼料として用いる場合の核酸の含有量の目安を示すと、次のとおりである。
飼料用組成物中における核酸の含有量の下限は、好ましくは3重量%以上であり、より好ましくは5、6、または7重量%以上であり、さらに好ましくは8、9、または10重量%以上でありうる。
飼料用組成物中における核酸の含有量の上限は、好ましくは50重量%以下であり、より好ましくは30重量%以下であり、さらに好ましくは20重量%以下でありうる。
好ましい実施形態としては、上記にて示した好ましい分子量(例えば、5,000~100,000)を有する核酸を、ここに示す好ましい含有量含んでいる飼料組成物を例示しうる。この場合において、上記にて示した好ましい分子量以外の分子量を有する核酸分子が、飼料組成物中にまったく含まれていないということまでは要しないが、その含有量は少ないことが好ましく、具体的には、上記の好ましい分子量の核酸分子の含有量よりは少ないことが好ましく、より好ましくは1重量%以下でありうる。
【0019】
本発明の一実施形態において、飼料用組成物は酵母細胞壁成分を含有する。酵母細胞壁成分はカビ毒を吸着することができる。若干雑菌が繁殖した飼料用組成物を動物が摂食してしまったとしても、酵母細胞壁成分のカビ毒吸着作用により、雑菌から生じる毒素が動物に吸収されることを抑制し、動物から排出させることに寄与しうる。
【0020】
「酵母細胞壁成分」との用語は、酵母に由来する細胞壁の一部若しくは全体、または繊維質成分を意味する。酵母細胞壁成分は、酵母菌体から核酸を脱核処理して得られる脱核酵母であってもよいし、酵母の外殻形状を留めた細胞壁であってもよし、または外殻形状を留めない程度にまで細胞壁を粉砕したものであってもよい。本発明で用いられる細胞壁成分は、酵母細胞壁の一部でありうるが、少なくとも繊維質を残していることが望ましい。少なくとも繊維質を留めていることにより、カビ毒吸着性に優れる。他方、繊維質が残らないほど分解が進んでしまうと、カビ毒吸着性が低下する傾向が強まる。
【0021】
飼料用組成物中における酵母細胞壁成分の含有量は、飼料用組成物の用途に応じて適宜調整してよい。例えば、飼料と飼料用添加物とでは、含有量が異なるのが一般的であろう。例として、飼料用組成物を飼料として用いる場合の酵母細胞壁成分の含有量の目安を示すと、次のとおりである。
飼料用組成物中における酵母細胞壁成分の含有量の下限は、好ましくは3重量%以上であり、より好ましくは5重量%以上であり、さらに好ましくは10重量%以上でありうる。
飼料用組成物中における酵母細胞壁成分の含有量の上限は、好ましくは30重量%以下であり、より好ましくは25重量%以下であり、さらに好ましくは20重量%以下でありうる。
【0022】
飼料用組成物における、核酸および酵母細胞壁成分の原料として、酵母を用いうる。用いうる酵母の種類は、有胞子酵母類であっても無胞子酵母類であってもよい。酵母として、具体的には下記のような種類が例示される。
【0023】
有胞子酵母類としては、例えば、シゾサッカロミセス(Shizosaccharomyces)属、サッカロミセス(Saccharomyces)属、クリヴェロミセス(Kluyveromyces)属、ハンゼヌラ(Hansenula)属、ピヒア(Pichia)属、デバリオミセス(Debaryomyces)属、およびリポミセス(Lipomyces)属の酵母が挙げられ、より具体的には、シゾサッカロミセス・ポンビ(Shizosaccharomyces pombe)、シゾサッカロミセス・オクトスポルス(Shizosaccharomyces octosporus);サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロミセス・ウバルム(Saccharomyces uvarum)、サッカロミセス・ルーキシイ(Saccharomyces rouxii);クリヴェロミセス・フラギリス(Kluyveromyces fragilis)、クリヴェロミセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis);ハンゼヌラ・アノマラ(Hansenula anomala);ピヒア・メンブラネファシエンス(Pichia membranaefaciens);デバリオミセス・ハンセニ(Debaryomyces hansenii);およびリポミセス・スタルケイ(Lipomyces starkeyi)などが挙げられる。
【0024】
無胞子酵母類としては、例えば、トルロプシス(Torulopsis)属、カンジダ(Candida)属、およびロードトルラ(Rhodotorula)属の酵母が挙げられ、より具体的には、トルロプシス・ヴェルサテリス(Torulopsis versatilis);カンジダ・トロピカリス(Candida tropicalis)、カンジダ・リポリティカ(Candida lipolytica)、カンジダ・ユチリス(Candida utilis);ロードトルラ・グルチニス(Rhodotorula glutinis)などが挙げられる。
なお、カンジダ(Candida)属の酵母は、分類学上、トルラ酵母(torula yeast)とも言われ、サイバリンドネラ(Cyberlindnera)属の酵母として分類されることがある。
【0025】
用いうる酵母として好ましくは、例えば、ビール酵母、ワイン酵母、パン酵母、トルラ酵母等が挙げられ、より具体的にはサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロミセス・ウバルム(Saccharomyces uvarum)、サッカロミセス・ルーキシイ(Saccharomyces rouxii);クリヴェロミセス・フラギリス(Kluyveromyces fragilis)、トルロプシス・ヴェルサテリス(Torulopsis versatilis)、カンジダ・トロピカリス(Candida tropicalis)、カンジダ・リポリティカ(Candida lipolytica)、カンジダ・ユチリス(Candida utilis)、ロードトルラ・グルチニス(Rhodotorula glutinis)などが挙げられる。
なお、カンジダ・ユチリス(Candida utilis)は、分類学上、トルラ酵母の1種として、(Cyberlindnera jadinii)に分類されることがある。
【0026】
本発明の一実施形態において、飼料用組成物は、リグニンスルホン酸を含有する。リグニンスルホン酸を配合することにより、酵母を原料とする飼料用組成物の腐敗を抑制することができる。
【0027】
リグニンスルホン酸は、リグニンのヒドロキシフェニルプロパン構造の側鎖α位の炭素が開裂してスルホ基が導入された骨格を有する化合物である。リグニンスルホン酸は、塩の形態でありうる。飼料用組成物にリグニンスルホン酸を添加するために、リグニンスルホン酸塩を添加してもよい。リグニンスルホン酸塩としては、例えば、カルシウム塩、マグネシウム塩、ナトリウム塩、カルシウム・ナトリウム混合塩、アンモニウム塩、有機アンモニウム塩などが挙げられる。リグニンスルホン酸は、例えば、製紙産業で生じる亜硫酸パルプ廃液などから得ることができる。また、本発明において用いられるリグニンスルホン酸は、スルホン基、カルボキシル基、およびフェノール性水酸基等の官能基を有する高分子電解質で変性されたリグニンスルホン酸であってもよい。
【0028】
飼料用組成物中におけるリグニンスルホン酸の含有量は、飼料用組成物の用途に応じて適宜調整してよい。例えば、飼料と飼料用添加物とでは、含有量が異なるのが一般的であろう。一律に定めるのは難しいが、例として、飼料用組成物を飼料として用いる場合のリグニンスルホン酸の含有量の目安を示すと、次のとおりである。
飼料用組成物中におけるリグニンスルホン酸の含有量の下限は、好ましくは1重量%以上であり、より好ましくは3重量%以上であり、さらに好ましくは5重量%以上でありうる。
飼料用組成物中におけるリグニンスルホン酸の含有量の上限は、好ましくは50重量%以下であり、より好ましくは40重量%以下であり、さらに好ましくは30重量%以下でありうる。
【0029】
飼料用組成物の他の好ましい形態として、亜硫酸塩を配合してもよい。亜硫酸塩を配合することは、酸化抑制、または雑菌の繁殖抑制などに寄与しうる。
【0030】
その他、飼料用組成物には、必要に応じ任意成分として、水分、油分、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤、色材、香料、賦形剤、ビタミン類、ホルモン類、アミノ酸類、抗生物質、抗菌剤などを配合してもよい。
【0031】
飼料用組成物は、一般に、飼料または飼料用添加物として採用される形状でありうる。飼料用組成物の形状としては、例えば、粉体、顆粒、マッシュ、ペレット、クランブル、およびフレークなどが挙げられる。飼料用組成物の形態は、単一形態であってもよいし、上記のような形態のうちの2つ以上の形態のものの混合形態、例えば、ペレットとフレークの混合物、マッシュとペレットの混合物などとしてもよい。
【0032】
飼料用組成物は、例えば、飼料または飼料添加物として用いうる。
飼料として用いる場合、上述の核酸、酵母細胞壁成分、およびリグニンスルホン酸を含む混合物をそのまま飼料として用いてもよい。
また、飼料用組成物を飼料として用いる場合、飼料用組成物には主たる栄養成分(以下、主飼料成分ともいう。)を配合してもよい。主飼料成分としては、植物性飼料および/または動物性飼料などが挙げられる。植物性飼料は、植物由来の飼料であり、例えば、トウモロコシ、マイロ、大麦、小麦、キャッサバ、米ぬか、ふすま、大豆かす、菜種かす、米、米ぬか、およびビート、並びにこれらの加工品などが挙げられる。また、動物性飼料は、動物由来の飼料であり、例えば、魚粉、ポークミール、チキンミール、脱脂粉乳、および濃縮ホエーなどが挙げられる。これらは一種を単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。
また、飼料用組成物を飼料用添加物として用いる場合、上記のような主飼料成分に、飼料用組成物を添加剤として加えてもよい。
【0033】
2.飼料用組成物の製造方法
本発明のいくつかの実施形態のうちには、上記飼料用組成物を製造する方法が含まれる。
【0034】
<製造方法に関する第1の実施形態>
本発明における製造方法の第1の実施形態は、分子量5,000~100,000の核酸と、酵母細胞壁成分と、リグニンスルホン酸とを混合することを含む。
【0035】
最終的に、核酸と酵母細胞壁成分とリグニンスルホン酸の三成分が混合されればよく、各成分を1つ1つ混ぜ合わせてもよいし、各成分を同時に加えて混ぜてもよい。核酸、酵母細胞壁成分、およびリグニンスルホン酸については、上述したとおりである。各成分は個別に用意しいてもよいし、酵母を培養し、当該酵母を原料として核酸および酵母細胞壁を用意してもよい。
【0036】
例えば、第1の実施形態の変形例として、酵母を脱核処理して核酸と脱核酵母とに分離して回収し、分子量5,000~100,000の核酸と酵母細胞壁成分とをそれぞれ用意してもよい。このようにして用意した核酸と酵母細胞壁成分に加えて、リグニンスルホン酸を添加して、飼料用組成物を得ることができる。
【0037】
脱核処理は、例えば、アルカリ薬品や食塩水、細胞壁溶解酵素などを酵母に接触させることにより、酵母の細胞壁を溶解し、酵母の内容物を培地中に溶出させ、細胞壁成分とその他の成分に分離するなどの方法によって、行うことができる。分離した成分は、必要に応じて、精製し、粉末化してもよい。本発明の一実施形態としては、核酸と酵母細胞壁成分とを配合する場合、酵母の菌体をそのまま配合することもありうるが、核酸と酵母細胞壁成分とを一旦分離してから配合し直す方が、免疫活性化の効果を高めるという点でより好ましい。
【0038】
アルカリ処理の方法は、酵母抽出物を得るために用いられる通常の方法を用いてよい。すなわち、アルカリ薬品を用いて酵母の細胞壁の一部又は全部を溶解又は破損させて、酵母菌体内の成分が溶出するようにすればよい。好ましいアルカリ薬品としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0039】
製造法の第1の実施形態によれば、免疫活性化作用、カビ毒吸着作用に加え、腐敗しにくい飼料用組成物を廉価に製造することができる。また、製造方法の第1の実施形態では、リグニンスルホン酸の添加量を容易に調整できる。したがって、リグニンスルホン酸の添加量を少なくしたい場合、例えば、10重量%、8重量%、または5重量%以下程度に抑えたい場合には、第1の実施形態は実施が容易である。
【0040】
<製造方法に関する第2の実施形態>
本発明における製造方法の第2の実施形態は、以下の工程:
酵母をリグニンスルホン酸を含む培地で培養することと、
前記酵母をアルカリ処理することと、
前記リグニンスルホン酸を含む培地と、前記酵母由来の核酸と、前記酵母由来の酵母細胞壁成分とを含む混合物を回収することと、
を含む。
【0041】
製造方法の第2の実施形態では、酵母を培養する培地中にリグニンスルホン酸を配合する。リグニンスルホン酸を培地中に配合することにより、酵母培養中に酵母が腐敗することを抑制することができる。また、リグニンスルホン酸を含む培地ごと回収して飼料用組成物とするため、飼料用組成物もまた腐敗しにくいものとすることができる。
【0042】
酵母の培養に用いる培地は、一般に酵母の培養に用いられているものにリグニンスルホン酸を加えればよい。培地に配合するリグニンスルホン酸の含有量の下限は、好ましくは1重量%以上であり、より好ましくは3重量%以上であり、さらに好ましくは5重量%以上でありうる。
飼料用組成物中におけるリグニンスルホン酸の含有量の上限は、好ましくは50重量%以下であり、より好ましくは40重量%以下であり、さらに好ましくは30重量%以下でありうる。
【0043】
十分な量の酵母を培養したら、第1の実施形態と同様に、酵母をアルカリ処理することにより、核酸を培地中に溶出させる。
【0044】
アルカリ処理の後、リグニンスルホン酸を含む培地と、前記酵母由来の核酸と、前記酵母由来の酵母細胞壁成分とをまとめて回収し、核酸と酵母細胞壁成分とリグニンスルホン酸の三成分を含む混合物を得ることができる。アルカリ処理の後、回収の前または後において、飼料用に適したpHに調製することが好ましい。
【0045】
第2の実施形態は、上記の三成分を含む混合物を得るための工程数を少なくするができるため、低コストで飼料用組成物を簡便に製造できる。
【実施例
【0046】
以下に実施例を挙げて本発明について具体的に説明するが、本発明の技術的範囲が下記の実施例に限定されるものではない。
【0047】
免疫活性化効果を比較、検討するために、以下の実験を行った。
<1.飼料の調製>
次の3種類の飼料を用意した。
【0048】
<比較例1(飼料1)>
RNA製剤(製品名「RNA-M」、日本製紙社製)を飼料1とした。「RNA-M」の分子量分布は約10,000~50,000の範囲にわたり、重量平均分子量(Mw)20,000のRNAが含まれる製品である。
【0049】
核酸の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にて測定し得る。GPCの測定は、プルラン換算する公知の方法にて、下記の条件にて行えばよい。
【0050】
測定装置:東ソー製
使用カラム:Shodex Column OH-pak SB-806HQ、SB-804HQ、SB-802.5HQ
溶離液:四ホウ酸Na1.0%、イソプロピルアルコール0.3%の水溶液
溶離液流速:1.00ml/min
カラム温度:50℃
測定サンプル濃度:0.2質量%
標準物質:プルラン(昭和電工製)
検出器:RI検出器(東ソー製)
検量線:プルラン基準
【0051】
<比較例2(飼料2)>
原料酵母(Cyberlindnera jadinii)を糖濃度3%、リグニンスルホン酸濃度10%の亜硫酸パルプ排液培地を用いて培養し、集菌後、ドラムドライヤーで乾燥させ、100gを調製し、これを飼料2とした。
【0052】
飼料2の重量平均分子量として、文献値(日本化学雑誌、S25年6月、第71巻第4号)の数字120,000を転用した。
【0053】
<実施例1(飼料3)>
RNA-Mと、脱核酵母(製品名「カビトルラ」日本製紙社製)とを1:9の混合比で10重量%の濃度になるように水懸濁し、ドラムドライヤーで乾燥させ、100gを調製し、得られた混合物を飼料3とした。なお、「カビトルラ」の脱核酵母にはリグニンスルホン酸が含まれている。
【0054】
飼料3中の核酸の重量平均分子量(Mw)は、10%懸濁液をホモディスパーで1hr、5,000rpmの条件にて攪拌し、その後高速遠心分離機で10,000rpm、10分処理して得られた上澄み液のGPC測定により算出したところ20,000であった。
【0055】
<実施例2(飼料4)>
原料酵母(Cyberlindnera jadinii)を糖濃度3%、リグニンスルホン酸濃度10%の亜硫酸パルプ排液培地を用いて培養し、酵母を集菌した。リグニンスルホン酸は重量あたり20%含有されていた。その後、得られた酵母3000gを95℃の沸騰浴内で10分間攪拌して、菌体内酵素を失活させた。その後、55℃に温度調整したウォーターバス内で48%NaOH水溶液にてpH=8.5に調整後、2時間攪拌にてアルカリ抽出反応を実施した。反応後、35%HClでpHを7.0に調整した。その後、ダブルドラムドライヤー(表面温度120℃、3rpm)にて乾燥し、フィルム化した乾燥物を乳鉢ですりつぶして乾燥品(粉末)を得た。当該粉末は、当該酵母に由来する核酸と、脱核した酵母細胞壁と、培養に用いたリグニンスルホン酸を含む。当該粉末を飼料4とした。
【0056】
飼料4中の核酸の重量平均分子量(Mw)は飼料3中の核酸の重量平均分子量(Mw)と同様の方法で算出したところ45,000であった。
【0057】
<実施例3(飼料5)>
RNA製剤として製品名「RNA-FN 日本製紙製」を用いた以外は実施例1と同様にして飼料5を調製した。飼料5中の核酸の重量平均分子量(Mw)は飼料3中の核酸の重量平均分子量(Mw)と同様の方法で算出したところ11,000であった。
【0058】
各飼料における、可溶性核酸、不溶性核酸、リグニンスルホン酸マグネシウム塩、およびβグルカンの含有量を以下のようにして測定した。
<可溶性核酸・不溶性核酸>
各飼料を水懸濁して得られた可溶成分及び不溶成分の核酸は、Schmidt-Thannhauser-Schneider法による高分子核酸の定量法(「東京大学出版会 生物化学実験法」1969年初版P16~P28参照)に従って測定した。なお、「可溶性核酸」は総じて相対的に高分子の核酸(例えば、分子量、約10,000~50,000程度)と、総じて相対的に低分子の核酸(例えば、分子量、約10,000未満程度)の分子量ごとに区分して測定可能である。
【0059】
<リグニンスルホン酸マグネシウム塩>
一般にリグニンの構造中には芳香核に結合したメトキシル基が存在する。そのため、メトキシル基含量は、リグニン含量の指標となる。例えばメトキシル基含量は、ViebockおよびSchwappach法によるメトキシル基の定量法(「リグニン化学研究法」、P.336~340、平成6年、ユニ出版(株)発行、参照)によって測定し、測定されたメトキシル基の含有量からリグニンスルホン酸Mg量を定量した。
【0060】
<βグルカン>
日本バイオコン(株)社製のβグルカン(β-1,3:-1,6酵母型)アッセイキットに記載の方法を用いて測定した。
【0061】
比較例1および2、並びに実施例1および2の分析値を表1に示す。表1中の各成分の含有量の単位は重量%である。
【0062】
【表1】
【0063】
<2.試験群>
以下の4つの試験群を設定した。
<試験群1>
比較例1(飼料1) 0.0174mg/20gB.W.(B.W.は体重)
<試験群2>
比較例2(飼料2) 0.1813mg/20gB.W.
<試験群3>
実施例1(飼料3) 0.1988mg/20gB.W.
<試験群4>
実施例2(飼料4) 0.1988mg/20gB.W.
<対照群>
生理食塩水
【0064】
<飼料の投与>
週齢マウスを導入後、5匹ずつ無作為に群れ分けし、プラスティックケージ内に群毎に収容した。1週間施設及び飼料馴化を行った。馴化終了後、上記の各飼料の投与を開始した。各試験群において、上記各飼料が所定の投与量となるように生理食塩水に懸濁し、強制経口投与を行った。生理食塩水投与対照群へは、同量の生理食塩水を強制投与した。7日間、毎日夕方16時に給与を行った。
【0065】
<腹腔マクロファージの回収>
7日間、飼料を投与した後、17時に、マウスの腹腔内へ、1g/100mL濃度のグリセリン溶液を、マウス1匹あたりに0.4mL注射して、一晩飼育した。翌朝、腹腔内に冷却したPBS(リン酸緩衝食塩水)を、マウス一匹あたりに5mL注射して腹部をよく揉んだ後、腹腔内液、約4mLを注射器で取り出し、シリコンコートしたスピッツ管に入れて遠心分離(1200rpm、5分)を行った。上清および壁面の赤血球を除去した後、冷PBSを加えてピペッティングし、さらに遠心分離(800rpm、5分)を行い、上清及び血球を除去する洗浄操作を2回繰り返した。洗浄完了後、10%FCS(ウシ胎仔血清)を添加したRPMI640培地(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)で懸濁した。
【0066】
<マクロファージの病原菌に対する貪食活性測定>
マクロファージ生細胞数が2×105個/mLとなるように96穴プレートに播種し、CO2インキュベーターで2時間培養した。培養後、非付着性細胞を除去し、各ウェルにFITC(Fluorescein isothiocyanate)ラベルした抗原(胸膜肺炎菌または豚連鎖球菌)を添加した。すなわち、胸膜肺炎菌を抗原とする試験区と豚連鎖球菌を抗原とする試験区の2種を設けた。また、添加しないBlank区も設けた(図1では不図示)。培養は2反復で実施する培養終了後,フローサイトメーターでFITC陽性細胞数をカウントした。結果を図1に示す。
【0067】
図1を参照すると、原料酵母をそのまま用いるよりも、核酸を一旦酵母から抽出して、それからブレンドした方が免疫活性に関する結果が良好であることが示された。すなわち、核酸と酵母細胞壁成分の双方を有効成分として配合する場合であっても、原料酵母をそのまま用いるより、核酸を一旦酵母から抽出して、それからブレンドしなおした方が、免疫活性化効果が向上することが明らかとなった。
【0068】
<カビ毒の吸着能実験>
以下のようにして、比較例1、2および実施例1、2の各飼料用組成物について、カビ毒の吸着能を以下のようにして測定した。
【0069】
カビ毒の一種であるゼアラレノンに対する吸着効果を以下のようにして評価した。各試料5mgをエッペンドルフチューブに計り取り、ゼアラレノン濃度0.0001mol/Lの遺伝子工学研究用リン酸バッファー(1370mM NaCl、81mM Na2HPO4、26.8mM KCl、14.7mM KH2PO4:pH=7.4)を0.5ml入れてよく混和し、ローテーターにセットして1時間緩やかに攪拌した。遠心分離によって、各組成物を除去した後、ゼアラレノン濃度は高速液体クロマトグラフィーを用い次の条件で測定した。
【0070】
カラム:Wacosill 5C18RS、4.6mm×250mm、
カラム温度:40℃、
溶離液:メタノール/蒸留水=65/35、
インジェクション:20μl、
流速:1ml/分、
検出:励起278nm/測定460nm
【0071】
吸着未処理のゼアラレノン濃度の測定値(A)及び吸着処理したゼアラレノン濃度の測定値(B)から、次式に従って、ゼアラレノン吸着率(%)を算出した。
ゼアラレノン吸着率(%)={(A-B)/A}×100
結果を、表2に示す。
【0072】
【表2】
【0073】
<耐腐敗性試験>
比較例1、比較例2、実施例1および実施例2の各飼料用組成物をシャーレに入れ、35~40℃、相対湿度約70~90%、窓のある室内で直射日光の当たらない条件下で7日間放置した。
比較例1および2の飼料用組成物では腐敗臭が確認されたが、実施例1および2は腐敗臭が発生していなかった。
図1