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特許7441324肉類似物を製造する方法、並びにそれによって調製された肉類似物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】肉類似物を製造する方法、並びにそれによって調製された肉類似物
(51)【国際特許分類】
   A23K 40/00 20160101AFI20240221BHJP
   A23K 10/20 20160101ALI20240221BHJP
   A23K 10/30 20160101ALI20240221BHJP
   A23K 20/163 20160101ALI20240221BHJP
   A23K 10/37 20160101ALI20240221BHJP
   A23L 13/00 20160101ALN20240221BHJP
【FI】
A23K40/00
A23K10/20
A23K10/30
A23K20/163
A23K10/37
A23L13/00 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022550750
(86)(22)【出願日】2021-02-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-14
(86)【国際出願番号】 EP2021054954
(87)【国際公開番号】W WO2021175745
(87)【国際公開日】2021-09-10
【審査請求日】2022-11-01
(31)【優先権主張番号】102020105688.5
(32)【優先日】2020-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390037914
【氏名又は名称】マース インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】MARS INCORPORATED
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】シュレブッシュ,ヨハネス,パウル
【審査官】大澤 元成
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/125615(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0274340(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0320085(US,A1)
【文献】特表2013-544101(JP,A)
【文献】特表2017-508447(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23K 10/00-50/90
A23L 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
肉類似物の製造方法であって、
a)次の原料:
i)卵粉以外の動物性タンパク質、
ii)植物繊維及び/又はデンプン、並びに
iii)卵粉
を含むミートバッターを加熱ユニットに導入し、前記ミートバッターを前記タンパク質の融点より高い温度に加熱して熱処理生成物を生成する工程、
b)前記熱処理生成物が却ユニットから出るときに大気圧で水の沸点より低い温度を有するように、前記冷却ユニットを通して移動させることによって前記熱処理生成物を冷却する工程、及び
c)前記冷却された熱処理生成物を小片へと分割する工程
を含み、
前記ミートバッターが、水分を除外した状態での該ミートバッターの総重量に基づいて、
- 75~85質量%の動物性タンパク質としての肉及び肉副産物、
- 少なくとも7質量%の植物繊維及び/又はデンプン、
- 少なくとも8質量%の卵粉、並びに
- 最大含有量40質量%の植物性タンパク質
を含み、
前記植物性タンパク質は、グルテンを含まない、方法。
【請求項2】
工程a)において、前記ミートバッターが第1の加熱ユニットに導入され、前記ミートバッターが該ミートバッター中の前記タンパク質の変性温度より高いが、前記タンパク質の融点より低い温度まで加熱されて第1の熱処理生成物を生成し、次いで、前記第1の熱処理生成物が第2の加熱ユニットに移送され、該第1の熱処理生成物が前記タンパク質の融点より高い温度まで加熱されて第2の熱処理生成物を生成する、請求項1に記載の肉類似物の製造方法。
【請求項3】
前記卵粉が、全卵粉末、卵白粉末、卵黄粉末、又はそれらの混合物から選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記植物繊維が、セルロース粉末、テンサイパルプ粉末、ペクチン含有材料、又はそれらの混合物から選択される、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ミートバッターが、植物性タンパク質を、前記ミートバッターの総重量に基づいて、10~20質量%量で含む、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の加熱ユニット及び第2の加熱ユニットのうちの少なくとも一方が、かきとり式熱交換器を含む、請求項2記載の方法。
【請求項7】
前記ミートバッターが前記第1の加熱ユニット内で90℃~120℃の温度に加熱され、前記第1の熱処理生成物が前記第2の加熱ユニット内で140℃~170℃の温度に加熱される、請求項2記載の方法。
【請求項8】
ミートバッターであって、水分を除外した状態での該ミートバッターの総重量に基づいて、
75~85質量%の卵粉以外の動物性タンパク質としての肉及び肉副産物
少なくとも7質量%の植物繊維及び/又はデンプン
少なくとも8質量%の卵粉、並びに
- 最大含有量40質量%の植物性タンパク質
を含み、
前記植物性タンパク質は、グルテンを含まない、ミートバッター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肉類似物の製造方法、該方法に用いられるミートバッター、及び該方法によって得られる肉類似物に関する。
【背景技術】
【0002】
ペットフードは、肉に対する人間の食品需要と競合することなく、必要な栄養プロファイルをペットに提供する高品質の食品を調製するために、長い間、動物の副産物と非動物由来の原料から製造されてきた。世界人口の増加に伴い、肉を含む高タンパク食品に対する世界的な需要が増加することが予想されるため、ペットの栄養ニーズを満たす肉類似物から調製されたペットフードの必要性が高まることが予想される。
【0003】
肉類似物は、典型的には、筋肉組織及び肉副産物から得られる、牛肉、豚肉、子羊肉、及び鶏肉などの生肉原料の混合物を混合、みじん切り、及び乳化することによって調製される。次に、これらの生肉原料は、植物副産物、デンプン、ビタミン、ミネラル、ガム、及びグルテンなどのさまざまな乾燥原料と混合されて、肉エマルションとなる。次に、得られた肉エマルションは、連続したスラブ又はシートへと押出成形され、これがさらに蒸気トンネルに移送され、スラブ/シートは熱にさらされることによって調理される。次に、調理されたスラブ/シートは、小片へと切り刻まれ、任意選択的にソース調製物などが加えられてもよく、肉類似物は包装され、滅菌処理される。
【0004】
特許文献1には、a)タンパク質を含むミートバッターを第1の加熱ユニットに導入し、ミートバッターを該ミートバッター中のタンパク質の変性温度より高いが、タンパク質の融点より低い温度に加熱して第1の熱処理生成物を生成する工程、b)第1の熱処理生成物を第2の加熱ユニットに移送し、第1の熱処理生成物をタンパク質の融解温度より高い温度に加熱して第2の熱処理生成物を生成する工程、c)冷却ユニットを通して移動させることによって、第2の熱処理生成物が冷却ユニットから出るときに大気圧で水の沸点より低い温度を有するように第2の熱処理生成物を冷却する工程、及びd)冷却された第2の熱処理生成物を小片へと分割する工程を含む、肉類似物を製造するための別のプロセスが開示されている。
【0005】
このプロセスでは、140℃より高温に加熱すると、新鮮な肉又は解凍した肉の使用による水分の放出が、小麦グルテンなどの植物性タンパク質によって補われ、これを吸収/吸着して、冷却後に均質なチャンクの形成を可能にする。
【0006】
したがって、上記で調製したタンパク質融解チャンクは、融解物が冷却装置を通過するときに構造化された融解物を形成し、融解物の温度を約105℃未満に下げて、大気圧に解放されたときに混合物中の水の膨張を回避するのに適切なタンパク質含有量を達成するために、小麦グルテン、トウモロコシグルテン、大豆タンパク質濃縮物、又は他の植物性タンパク質単離物などの植物性タンパク質粉末を必要とする。小麦及びトウモロコシのグルテンは、一部の消費者にとっては好ましくない原料である。単にグルテンを除去して肉のみを加熱すると、固有の水分が放出されて、「ボローニャ」スタイルのソースで加熱されたひき肉のような肉の破片が生じるであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】独国特許出願公開第1020176125870号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、肉及び肉副産物に由来するタンパク質を実質的に含むが、当技術分野で知られている方法よりも植物性タンパク質の含有量が低い、テクスチャ化された肉類似物の新規製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
有利には、本発明のプロセスは、本物の繊維状のテクスチャ化された肉類似物を製造するために、繊維及び/又はデンプンが豊富なミートバッターから肉類似物を調製することを可能にすると同時に、テクスチャ化されていない肉配合物のような非常に低いタンパク質含有量を実現することができる。小麦グルテンなどの植物性タンパク質の大量使用と比較して、繊維、デンプン、卵粉がはるかに少ない量で含まれ、したがって、より多くの肉材料を含めることができ、肉のようなチャンクをもたらすことができる。本発明のプロセスは、低いタンパク質含有量で、最小限の繊維添加の使用を可能にする。
【0010】
本発明は、
a)次の原料:
i)卵粉以外の動物性タンパク質、
ii)植物繊維及び/又はデンプン、並びに
iii)卵粉、
を含むミートバッターを加熱ユニットに導入し、ミートバッターをタンパク質の融点より高い温度に加熱して、熱処理生成物を生成する工程、
b)前記熱処理生成物が前記冷却ユニットから出るときに大気圧で水の沸点より低い温度を有するように、冷却ユニットを通して移動させることによって前記熱処理生成物を冷却する工程、及び
c)前記冷却された熱処理生成物を小片へと分割する工程
を含む、肉類似物の製造方法を提供する。
【0011】
本発明はまた、次の原料:
- 卵粉以外の動物性タンパク質、
- 植物繊維及び/又はデンプン、並びに
- 卵粉
を含むミートバッターも提供する。
【0012】
本発明は、本発明のプロセスによって得られる肉類似物も提供する。
【0013】
本発明のプロセスのさらなる実施形態である、ミートバッター及び肉類似物は、従属請求項から解釈することができる。
【0014】
卵粉、植物繊維、及び/又はデンプンの使用は、最小限の繊維を使用して、相乗効果を有するミートバッターを提供する。植物繊維及び/又はデンプンのみを用いる場合、これらの構成成分はかなり多量に必要であるが、その結果、カロリー密度が低くなり、湿った糞便の排出量が多くなる。
【0015】
加熱ユニットでは、タンパク質の融解をもたらすあらゆる形態の加熱が機能する。一実施形態では、加熱ユニットには、マイクロ波加熱ユニット、無線周波数加熱ユニット、超音波加熱ユニット、管状、かきとり式熱交換器、押出機、二軸又は遊星スクリュー押出機、若しくはオーム加熱ユニットが含まれうる。
【0016】
加熱ユニットは、単一の加熱ユニットであってもよく、あるいは直列に配置することができる2つ以上の加熱ユニットを含む加熱ユニットであってもよい。幾つかの加熱ユニットの場合、ミートバッターを最終的に約140℃~約170℃の温度、すなわちタンパク質の融点より高い温度まで加熱することのみが必要である。この点に関して、各タンパク質(動物性及び植物性タンパク質)について、変性及び融点は特異的であることに注意する必要がある。したがって、実際の製品では、変性及び融解の温度範囲を観察することができるように、さまざまなタンパク質の混合物を処理することが必要である。用いられるタンパク質の融解範囲を測定する方法が以下に与えられている。
【発明を実施するための形態】
【0017】
一実施形態では、本プロセスは、すべての原料をミキサーに加えることによってミートバッターを調製する工程を含みうる。一実施形態では、ミートバッターは、容積式ポンプによって加熱ユニットへと搬送されうる。
【0018】
一実施形態では、熱処理生成物は、容積式ポンプによって冷却ユニットに移送されてもよい。
【0019】
本明細書で用いられる場合、「肉類似物」という用語は、肉代替物としてペット又は動物用食品に使用するのに適した肉代替物(好適には「チャンク」でありうる)を指す。肉類似物は、調理肉と同様の感覚属性を有しうる。肉類似物は、ペット又は人間の食品に組み込むことができる。それらは、あらゆるタイプのウェットペットフード製品に含めるのに特に適しており、例えば、それらを、パテ、パン、及びソース形式のチャンクに組み込むことができる。それらは、「チャンク・イン・ソース」製品、例えば、「チャンク・アンド・グレービー」、「チャンク・アンド・ゼリー」、又は「チャンク・アンド・ムース」製品に含めるのに特に適している。肉類似物は、典型的には、最長寸法に沿った長さが約13mmから約20mmの間である。それらは、好適には、肉類似物の総重量に基づいて、約55~65質量%、好ましくは60~65質量%の水分、約12~28質量%のタンパク質、好ましくは15~18質量%のタンパク質、及び8~16質量%、好ましくは8~12質量%の脂肪の栄養成分を有しうる。
【0020】
本明細書で用いられる場合、「ミートバッター」という用語は、水と、肉又は肉副産物などの原材料に由来する他の物質との濃厚な混合物を指す。それらは、マヨネーズ又はミルクなどのエマルションではなく、水、可溶化した肉タンパク質、細胞成分、及び他の成分からなる複合相に脂肪粒子と気泡が分散したものである。それらは肉エマルション又は肉スラリーと呼ばれることもある。これらの用語は、当技術分野でよく理解されており、交換可能に用いられる。通常、それらは、可溶性タンパク質、可溶性筋肉成分、筋肉繊維のセグメント、結合組織繊維、骨などを含む水性媒体である、連続相を含む。ミートバッター/エマルション/スラリーは、当技術分野で一般的なさらなる添加剤を含んでいてもよい。ミートバッターは、知られている方法、例えば、動物の骨格筋から得られる冷凍肉を断片化し、水、1つ以上の結合剤、及び任意選択的に他の原料とブレンドすることができる肉片を生成することによって、得ることができる。冷凍肉を、適切にみじん切り、破砕、及び肉挽きして、ミートバッター/スラリー/エマルションを生成する。典型的には、挽き肉スラリーは、回転要素と静的要素とを含むシステムを使用すること、例えばダイプレート上のナイフを回転させることによってサイズが縮小され、最終的に特徴的な直径の穴を通過する。さまざまな実施形態では、穴の最大直径は、約0.5mm、約1mm、約2mm、約3mm、約4mm、約5mm、約6mm、約7mm、約8mm、約9mm、及び/又は約10mmである。得られたより細かい挽き肉エマルションは、好適には、ミキサーに移すことができ、ここで、水、乾燥原料、及び液体原料(例えば、着色剤)を任意選択的に添加して、ミートバッターを提供することができる。
【0021】
本明細書で用いられる場合、「動物性タンパク質」という用語は、動物由来のタンパク質(脊椎動物及び無脊椎動物のタンパク質を含む)、例えば、哺乳動物、家禽、魚、及び昆虫に由来するタンパク質を含む。適切な動物性タンパク質の例には、鶏肉、七面鳥肉、牛肉、子羊肉、豚肉、鹿肉、バッファロー、アヒル、カンガルー、貝類、甲殻類、サケ、マグロ、白身魚などに由来するものが含まれる。それらは、筋肉、器官、腱、骨などに適切に由来していてもよい。
【0022】
植物繊維は、一実施形態では、セルロース粉末、テンサイパルプ粉末、リンゴ搾りかす及び柑橘類繊維などのペクチン含有材料、並びにそれらの混合物から選択される。
【0023】
卵粉は、好適には、全卵粉末、卵白粉末、卵黄粉末、又はそれらの混合物でありうる。
【0024】
ある特定の実施形態では、ミートバッターは、植物性タンパク質を、ミートバッターの総重量に基づいて40質量%の最大含有量で含む。ミートバッターは、好ましくは、植物性タンパク質を、ミートバッターの総重量に基づいて、40質量%、35質量%、30質量%、25質量%、20質量%、15質量%、10質量%、5質量%、3質量%の最大含有量で含む。ミートバッターは、好適には、植物性タンパク質を、ミートバッターの総重量に基づいて10~20質量%未満;ミートバッターの総重量に基づいて10~15質量%未満;ミートバッターの総重量に基づいて5~15質量%未満;ミートバッターの総重量に基づいて5~10質量%未満;ミートバッターの総重量に基づいて3~10%未満、又はミートバッターの総重量に基づいて3~5質量%未満の量で含む。植物性タンパク質は、当技術分野でよく知られており、エンドウ豆タンパク質、ジャガイモタンパク質、大豆タンパク質、小麦グルテン、トウモロコシグルテン、油料種子のプレスケーキ、大豆タンパク質濃縮物、又は植物タンパク質単離物から選択することができる。植物性タンパク質は、好ましくは植物単離物であり、さらに好ましくは、エンドウマメ単離物又はジャガイモ単離物であり、最も好ましくはエンドウマメ単離物である。
【0025】
一実施形態では、ミートバッターはグルテンを含まない。別の実施形態では、ミートバッター穀物を含まない。さらに別の実施形態では、ミートバッターは大豆を含まない。この肉物質はまた、グルテンを含まず、穀物も含まない;グルテンを含まず、大豆も含まない;穀物を含まず、大豆も含まない、又はそれはグルテン、穀物、及び大豆を含まないことがある。とりわけ、セルロース粉末、テンサイパルプ、及び全卵粉末は、多量の水を吸収/吸着することが当技術分野でよく知られている。例えば、140℃より高い温度に加熱すると、テンサイパルプは自重の約4倍の水を吸収し、セルロース粉末は自重の約5倍の水を吸収し、全卵粉末は自重の約1.9倍の水を吸収する。これらの原料の量は、冷却ユニットから均質な連続したチャンクを得るために、処理中に使用済み肉から放出される水をそれぞれ吸収/吸着することができるように選択及び調整することができる。一実施形態では、ミートバッターは植物性タンパク質を含まない。
【0026】
一実施形態における第1及び第2の加熱ユニットは、好適には、当技術分野で知られている任意の加熱システムであってもよく、例えば、好適には、高剪断乳化機、熱交換器、又は誘電ヒータを備えていてもよい。幾つかの実施形態では、第1及び第2の加熱ユニットのうちの少なくとも1つは、熱交換器、好ましくは、かきとり式熱交換器を備える。本明細書で用いられる場合、「かきとり式熱交換器」という用語は、加熱面を有する機械装置と、スクレーピングによって加熱表面から材料を取り出すための装置とを指す。適切なかきとり式熱交換器の一例には、熱が伝達される外壁を加熱ジャケットで取り囲んだ管状装置が含まれる。このような管状装置は、固定されたスクレーパーを備えた中央ロータを含むことができる。このような中央ロータが回転すると、スクレーパーが管状装置の内壁から製品を取り出す。使用時には、原料の混合物を管状装置の一端に供給し、装置を通して押し出すことができる。加熱及び、シリンダの加熱された内壁と中央ロータとの間の環状空間を通る運動により、混合気の変化がもたらされる。かきとり式熱交換器には、外部表面に熱が印加されるように配置されたパイプ又は同様の中空シリンダを通して原料混合物を絶えず移動させるという利点がある。これは、所望の温度で維持することができる水浴にパイプ又はシリンダを入れることによって、例えば、熱剤媒体、スチームチャンバ、サーモオイル、又は他の適切な加熱媒体にパイプ又はシリンダを入れることによって、達成することができる。外部電気加熱された外部温度源の使用もまた可能である。かきとり式熱交換器の内部と外部との間の温度差により、間接加熱を通じて材料混合物が加熱される。かきとり式熱交換器は、当技術分野でよく知られている。好ましい実施形態では、第1及び第2の加熱ユニットの両方が熱交換器を含み、好ましくは、それらの両方がかきとり式熱交換器を含む。
【0027】
一実施形態では、第2の加熱ユニットは、マイクロ波加熱ユニット、高周波加熱ユニット、又はオーム加熱ユニットを含むことができ、それらの使用により、第2の加熱ユニットにおける第1の熱処理生成物の滞留時間を短縮することができる。
【0028】
別の実施形態では、本発明のプロセスは、追加の加熱ユニットを使用すること、例えば、ミートバッターをタンパク質の変性温度より低い温度に加熱するための工程a)の前に加熱ユニットを使用すること、及び/又は工程a)と第1の熱処理生成物をタンパク質の融解温度より低い温度にさらに加熱するための工程b)との間にさらなる加熱ユニットを使用することを含みうる。
【0029】
別の実施形態では、2つ以上の加熱ユニットを1つのプロセス工程で並行して動作させることができる。別の実施形態では、2つ以上の加熱ユニットを1つのプロセス工程で連続して動作させることもできる。
【0030】
ミートバッターが第1の加熱ユニットに入るとき、該ミートバッターは、好適には約10~35℃、好ましくは15~25℃の温度を有する。スラリーは、好適には約800~2000kPa、好ましくは1000~1250kPaでユニットにポンプ送給することができ、ユニットを通過する際に、例えばヒートジャケットに蒸気を供給することによって、加熱することができる。幾つかの実施形態では、ミートバッターは、第1の加熱ユニット内で、約90℃~約120℃;約100℃~約120℃;約90℃~約115℃;約100℃~約115℃;約90℃~約110℃;又は約100℃~約110℃の温度に加熱される。さらなる実施形態では、第1の熱処理生成物は、第2の加熱ユニット内で、約140℃~約170℃;約145℃~約170℃;約150℃~約170℃;約155℃~約170℃;約160℃~約170℃;約140℃~約165℃;約145℃~約165℃;約150℃~約165℃;155℃~約165℃又は約160℃~約165℃の温度に加熱される。第1の加熱ユニット内のバッターの滞留時間の第2の加熱ユニット内の滞留時間に対する比は、好適には約3:2~約14:2であり、好ましくは約3:2~約7:2であり、さらに好ましくは約4:2~約6:2である。幾つかの実施形態では、第1の加熱ユニットの圧力及び第2の加熱ユニットの圧力は、それぞれの局所温度における水蒸気圧を超える。幾つかの実施形態では、第1の加熱ユニットの圧力及び第2の加熱ユニットの圧力は、実質的に等しく、好ましくは、約800~約2000kPa;約800~約1,800kPa;約1,000~約1,800kPa;約1,000~約1,500kPaの範囲にあり;さらに好ましくは約1000kPa~約1250kPaの間である。この圧力範囲は、エネルギー伝達の効率化と、例えばかきとり式熱交換器のスクレーパーなどの機器の摩耗の低減を可能にする。第2の熱処理生成物は、好適には、約40℃~約80℃;約40℃~約70℃;約50℃~約80℃;約50℃~約70℃の温度で小片へと分割することができる。
【0031】
本発明のプロセスに利用されるミートバッターは、典型的には、異なる変性温度及び融解温度を有するタンパク質の混合物を含む。好ましくは、ミートバッター中の実質的にすべてのタンパク質が、第1の加熱ユニット内で変性される。好ましくは、第2の加熱ユニットにおいて、ミートバッター中のタンパク質の総量に基づいて、少なくとも50質量%、60質量%、70質量%、80質量%、又は90質量%のタンパク質が融解される。最も好ましくは、実質的にすべてのタンパク質が融解される。一実施形態では、十分なタンパク質が融解されて、融解されていない他のタンパク質、繊維、骨粒子などを担持しうる第2の熱処理生成物の凝集性の連続的な外相を形成することのみを必要とする。
【0032】
本明細書で用いられる場合、タンパク質に関連して「変性」という用語は、変性したタンパク質がその三次元構造を失ったことを意味する。変性タンパク質は、溶解性の喪失からタンパク質の凝集まで、幅広い特性を示しうる。当業者は、変性タンパク質の下で何を理解すべきかをよく知っている。
【0033】
本明細書で用いられる場合、タンパク質の融点とは、選択された圧力で、状態が固体から液体に変化する温度である。
【0034】
タンパク質の変性温度は、当技術分野でよく知られている方法によって、例えばゴム加工分析装置を使用して、測定することができる。ゴム加工分析装置として、ドイツ国ヴェッツラー所在のTA Instruments社のそれぞれの分析装置である、Model RPA Eliteを使用して、タンパク質の融解範囲を提供する温度スイープ分析を追求するタンパク質/水分サンプルの粘弾性特性を測定することができる。
【0035】
用いられるタンパク質の融解範囲に関しては、レオロジー測定を利用することができ、ここで融解範囲は温度範囲であり、タンパク質の変性(アンフォールディング)に起因する粘度の増加後に、固体の懸濁液から均質な液相への変化を示唆する粘度の低下が観察される。混合物の全体的な流動性によって、層状に固化することができるかどうかが決まる。一実施形態では、タンパク質の50%超が混合物内で融解されるべきである。粘度の最小値は、すべてのタンパク質の液体状態によって決まる。これは、圧力セル内のスピンドルと磁気的に結合された通常のレオメータ(アントンパールレオメータ)でも測定することができる。
【0036】
また、タンパク質の融点は、当技術分野でよく知られている方法、例えば示差走査熱量測定(DSC)によって測定することができる。
【0037】
個々のタンパク質については、変性温度と融点のそれぞれのデータも科学文献から取得することができる。
【0038】
熱処理生成物は、好適には、材料が工程(c)において冷却するにつれて形成される、層状及び/又は整列した生成物である。融解した材料が固化すると、層状になった繊維状の肉類似構造が形成される。工程(c)及び/又は工程(d)は、タンパク質が、繊維構造を作り出す層において段階的に固化するように、約800~2000kPaの圧力下で任意選択的に実施される。したがって、冷却工程では、タンパク質の凝集体が液体融解物から固相へと変化する。
【0039】
言い換えれば、タンパク質の硬化は、融解したタンパク質の制御された固化である。肉のような繊維の形成は、適切に制御された冷却の直接の結果である。上述のように、第1の熱処理生成物がタンパク質の融点を超えて加熱された場合、そのタンパク質(又はタンパク質混合物)の少なくとも一部は、融解したと言われる。タンパク質が融解状態になると、冷却する際に、革様の特性を有する強力かつ弾力性のある塊へと固化する。この塊は容易に再融解せず、機械的に容易にポンプ送給することができない。したがって、タンパク質が融解したら、その動きを維持し、固化した材料を連続的に排出することができる冷却ユニット内で冷却することが重要である。
【0040】
熱処理生成物は、例えば、140℃~約170℃で加熱ユニットから出て、例えば、水で冷却された管状の冷却ゾーンを使用して、冷却ユニット内で、好ましくは水の沸点より低い温度に冷却される。また、長方形の形状をした冷却ダイ設計を使用することもできる。生成物は、例えば冷たい表面に沿ってユニットを通って移送され、融解物が固化するにつれて(生成物の温度がその融点以下に下降するにつれて)、層状の繊維構造を形成する。これは、圧力下で動いているときに生じ、タンパク質は層状に段階的に固化して繊維構造を作り出す。
【0041】
本明細書で用いられる場合、「分割」という用語は、熱処理生成物を粉砕するための任意の動作、例えば、切断する、破る、引き裂く、圧搾する、ハンマーミリングすることなどを指す。これは、グリッド切断装置又は回転切断装置を使用して適切に実施することができる。分割は、1つ以上の工程で実施することができ、例えば、グリッドカッターを使用して第1の切断を実施した後、ロータリーカッターを使用して第2の切断を実施することができる。得られた肉類似物は、形状が不規則、ランダム、又は実質的にランダムである。任意選択的に、それらは、目視検査のために検査ステーションに移送されて、例えばデジタルカメラと適切な画像認識ソフトウェアとを使用して、手動又は自動での品質管理を容易にすることができる。
【0042】
肉類似物を製造するための装置もまた提供される。該装置は、
i)ミートバッターを加熱ユニットに移送するための移送手段、例えば容積式ポンプ、
ii)ミートバッターをタンパク質の融解温度より高い温度へと加熱するように動作可能な加熱ユニット、
iii)熱処理生成物を冷却ユニットに移送するためのさらなる移送手段、例えば容積式ポンプ、
iv)加熱ユニットの下流に位置し、冷却ユニットから出るときに、加熱ユニットから得られた熱処理生成物を大気圧で水の沸点より低く冷却するように動作可能な冷却ユニット、及び
v)冷却ユニットから得られた冷却された熱処理生成物を小片へと分割するのに適した、冷却ユニットの下流に位置した分割ユニット
を備えることができる。
【0043】
該装置はまた、
i)肉を挽くためのグラインダ、
ii)ミキサー、
iii)移送手段の上流に設置された乳化ユニット又はバッターポンプ、
iv)調節ユニット、
v)包装ユニット、及び
vi)加熱ユニットの下流に設置された殺菌ユニット
のうちの1つ以上をさらに備えてもよい。
【0044】
移送手段は、好適には、装置の全工程を通じてミートバッター及び熱処理生成物の移送を可能にする、ポンプなどでありうる。必要に応じて、例えば第1の加熱ユニットと第2の加熱ユニットの間、第2の加熱ユニットと冷却ユニットの間、又は冷却ユニットと分割ユニットの間に、さらなる移送手段を設けることができる。さらなる移送手段は、任意のタイプのポンプなどであってもよい。好ましくは、本発明のプロセスは、蒸気トンネルを利用しない、及び/又は蒸気トンネルを含まない。
【0045】
加熱ユニット、好ましくは、第1及び/又は第2の加熱ユニットは、好適には、わずかに傾けることができる。このような実施形態では、熱処理生成物は、好ましくは、(一又は複数の)加熱ユニット内に下から入ることが好ましく、それにより、空気をユニットの外へと押し出すことができ、熱伝達の改善が確保される。
【0046】
本発明のさらなる特徴及び利点は、以下の実施例に例証されるが、これらは決して限定を意図するものではない。
【実施例
【0047】
実施例1
次の組成のミートバッターを調製した。以下に示す量は、ミートバッターの総重量に基づいた重量パーセントである:
鶏レバー 28.000
豚の脾臓 11.518
鶏肉(機械的に骨を除去した肉=分離された筋繊維) 40.000
セルロース粉末 4.180
ビートパルプ繊維 4.180
全卵粉末 10.173
ミネラル、ビタミンなどを加えて、合計100%とする。
【0048】
混合物を、1,200kPaの生成物圧力下、約17Lの容積及び60m/mの表面積対容積比を有する第1のSSHEユニットに4kg/分の速度で連続的に供給した。第1のSSHEユニットに、蒸気を134~136℃の温度で連続的に供給し、シャフトを200rpmで動作させた。この加熱ユニットからの材料の出口温度は109℃から111℃の間であった。材料を、すぐに、1,200kPaの生成物圧力下、約9.7Lの容積及び60m/mの表面積対容積比を有する第2のSSHEユニットに導いた。第2のSSHEユニットに、蒸気を166~168℃の温度で連続的に供給し、シャフトを300rpmで動作させた。この加熱ユニットからの材料の出口温度は158℃から160℃の間であった。2つの加熱ユニットにおける滞留時間は、第1の加熱ユニットに3分の2、第2の加熱ユニットに3分の1として分配した。次に材料を冷却領域に導き、そこで温度を80℃未満に下げた。得られた固体材料を切断して、内部繊維を有する肉類似物を生成した。
【0049】
前述の説明及び特許請求の範囲に開示された特徴は、別々に及び任意の組合せでの両方で、本発明をその多様な形態で実現するための材料となりうる。
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
実施形態1
肉類似物の製造方法であって、
a)次の原料:
i)卵粉以外の動物性タンパク質、
ii)植物繊維及び/又はデンプン、並びに
iii)卵粉
を含むミートバッターを加熱ユニットに導入し、前記ミートバッターを前記タンパク質の融点より高い温度に加熱して熱処理生成物を生成する工程、
b)前記熱処理生成物が前記冷却ユニットから出るときに大気圧で水の沸点より低い温度を有するように、冷却ユニットを通して移動させることによって前記熱処理生成物を冷却する工程、及び
c)前記冷却された熱処理生成物を小片へと分割する工程
を含む、方法。
実施形態2
工程a)において、前記ミートバッターが第1の加熱ユニットに導入され、前記ミートバッターが該ミートバッター中の前記タンパク質の変性温度より高いが、前記タンパク質の融点より低い温度まで加熱されて第1の熱処理生成物を生成し、次いで、前記第1の熱処理生成物が第2の加熱ユニットに移送され、該第1の熱処理生成物が前記タンパク質の融点より高い温度まで加熱されて第2の熱処理生成物を生成する、実施形態1に記載の肉類似物の製造方法。
実施形態3
前記ミートバッターが、該ミートバッターの総重量に基づいて、
- 75~85質量%の動物性タンパク質としての肉及び肉副産物、
- 少なくとも7質量%の植物繊維及び/又はデンプン、並びに
- 少なくとも8質量%の卵粉
を含む、実施形態1又は2に記載の方法。
実施形態4
前記卵粉が、全卵粉末、卵白粉末、卵黄粉末、又はそれらの混合物から選択される、実施形態1から3のいずれか一つに記載の方法。
実施形態5
前記植物繊維が、セルロース粉末、テンサイパルプ粉末、ペクチン含有材料、又はそれらの混合物から選択される、実施形態1から4のいずれか一つに記載の方法。
実施形態6
前記ミートバッターが、植物性タンパク質を、前記ミートバッターの総重量に基づいて、40質量%の最大含有量で含む、実施形態1から5のいずれか一つに記載の方法。
実施形態7
前記ミートバッターが、植物性タンパク質を、前記ミートバッターの総重量に基づいて、10~20質量%未満の量で含む、実施形態1から6のいずれか一つに記載の方法。
実施形態8
前記ミートバッターがグルテンを含まず、好ましくは穀物及び/又は大豆を含まない、実施形態1から7のいずれか一つに記載の方法。
実施形態9
前記第1の加熱ユニット及び第2の加熱ユニットのうちの少なくとも一方が、かきとり式熱交換器を含み、好ましくは、前記第1の加熱ユニットと第2の加熱ユニットの両方がかきとり式熱交換器を含む、実施形態2から8のいずれか一つに記載の方法。
実施形態10
前記ミートバッターが前記第1の加熱ユニット内で約90℃~約120℃の温度に加熱され、前記第1の熱処理生成物が前記第2の加熱ユニット内で約140℃~約170℃の温度に加熱される、実施形態2から9のいずれか一つに記載の方法。
実施形態11
ミートバッターであって、
- 卵粉以外の動物性タンパク質、
- 植物繊維及び/又はデンプン、並びに
- 卵粉
を含む、ミートバッター。
実施形態12
実施形態1から10のいずれか一つに記載の方法によって得られる肉類似物。