(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】水性インキ及び積層体
(51)【国際特許分類】
C09D 11/107 20140101AFI20240221BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20240221BHJP
B41M 1/10 20060101ALI20240221BHJP
B41M 1/04 20060101ALI20240221BHJP
B41M 1/30 20060101ALI20240221BHJP
【FI】
C09D11/107
B32B27/30 A
B41M1/10
B41M1/04
B41M1/30 D
(21)【出願番号】P 2023065869
(22)【出願日】2023-04-13
【審査請求日】2023-10-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】310000244
【氏名又は名称】DICグラフィックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177426
【氏名又は名称】粟野 晴夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141601
【氏名又は名称】貴志 浩充
(74)【代理人】
【識別番号】100195556
【氏名又は名称】柿沼 公二
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 友香
(72)【発明者】
【氏名】大坪 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】小代 康敬
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-509980(JP,A)
【文献】特開2011-195835(JP,A)
【文献】特開2017-179274(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダー樹脂と、アジリジン系硬化剤と、水性溶剤とを含有し、
前記バインダー樹脂は、50質量%以上が(メタ)アクリル系樹脂(A)であり、
前記(メタ)アクリル系樹脂(A)は、ガラス転移温度が-10℃以上60℃以下であり、
酸価が20mgKOH/g以上80mgKOH/g以下であり、
前記バインダー樹脂の不揮発分100質量部に対する前記アジリジン系硬化剤の不揮発分の量が、2.0質量部以上11.0質量部以下である、ことを特徴とする、水性インキ。
【請求項2】
前記(メタ)アクリル系樹脂(A)が、スチレンアクリル樹脂である、請求項
1に記載の水性インキ。
【請求項3】
顔料を含有しないトップコートニスである、請求項1又は2に記載の水性インキ。
【請求項4】
フレキソ印刷又はグラビア印刷に用いられる、請求項1又は2に記載の水性インキ。
【請求項5】
基材と、前記基材上に設けられたインキ層とを備え、前記インキ層が、請求項1又は2に記載の水性インキの印刷層である、ことを特徴とする、積層体。
【請求項6】
前記基材と前記インキ層との間に、中間インキ層を更に備える、請求項
5に記載の積層体。
【請求項7】
熱収縮フィルムとして用いられる、請求項
5に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性インキ及び積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
軟包装フィルムの被印刷体に美粧性、機能性を付与させる目的で、グラビアインキ、フレキソインキが広く用いられている。
【0003】
具体的に、例えば商品の包装には、装飾や表面保護のために、これらのグラビアインキ、フレキソインキを、基材となるプラスチックフィルムの表側(包装対象の商品と接触しない側)に印刷し、裏側(包装対象の商品と接触する側)には印刷しないといった簡単な構成(表刷り印刷方式といわれる)の印刷物が利用されている。
【0004】
また、ペットボトル用の胴巻きラベルやシュリンクラベルの場合には、一般的には、外面側にフィルムの傷つき防止機能を付与するためのトップコートニスが印刷され、内面側に装飾用の印刷層及びペットボトルへのブロッキング防止等を付与するためのニス層が設けられる。上述した表刷り印刷のインキ及びトップコートニスは、外部に直接曝されたり、他の部材と直接接触したりすることから、商品の取り扱い時等における強靭な皮膜物性が要求される。
【0005】
近年、VOCによる大気汚染の悪化、地球温暖化など全地球規模の拡大を背景としたサステナビティの観点を根底に、労働安全衛生、更に引火爆発性も加え、脱石油資源への転換する動きに応じ、インキ中の有機溶剤を水に置き換えたいわゆる水性インキの普及が期待されつつある。このような状況下、表刷り印刷のインキ及びトップコートニスにも適用可能な水性インキの検討が、種々進められている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、インキからなる皮膜に対しては、基材との密着性に加え、各種の皮膜物性(耐熱性、耐水摩擦性、耐アルコール性、皮膜同士の耐ブロッキング性)が求められる。しかし、従来の水性インキは、これらの要求を全て満たす点で、改良の余地があった。
【0008】
そこで、本発明は、密着性、耐ブロッキング性、耐熱性、耐水摩擦性、及び耐アルコール性に優れた皮膜を得ることができる水性インキを提供することを課題とする。
また、本発明は、密着性、耐ブロッキング性、耐熱性、耐水摩擦性、及び耐アルコール性に優れたインキ層を皮膜として備える積層体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、所定の(メタ)アクリル系樹脂を含むバインダー樹脂に対し、アジリジン系硬化剤を所定の不揮発分換算の割合で用いることが、上記課題解決に有効であることを見出した。
即ち、本発明の要旨構成は、以下の通りである。
【0010】
[1] バインダー樹脂と、アジリジン系硬化剤と、水性溶剤とを含有し、
前記バインダー樹脂は、50質量%以上が(メタ)アクリル系樹脂(A)であり、
前記(メタ)アクリル系樹脂(A)は、ガラス転移温度が-10℃以上60℃以下であり、
前記バインダー樹脂の不揮発分100質量部に対する前記アジリジン系硬化剤の不揮発分の量が、2.0質量部以上11.0質量部以下である、ことを特徴とする、水性インキ。
【0011】
[2] 前記(メタ)アクリル系樹脂(A)の酸価が20mgKOH/g以上80mgKOH/g以下である、[1]に記載の水性インキ。
【0012】
[3] 前記(メタ)アクリル系樹脂(A)が、スチレンアクリル樹脂である、[1]又は[2]に記載の水性インキ。
【0013】
[4] 顔料を含有しないトップコートニスである、[1]~[3]のいずれかに記載の水性インキ。
【0014】
[5] フレキソ印刷又はグラビア印刷に用いられる、[1]~[4]のいずれかに記載の水性インキ。
【0015】
[6] 基材と、前記基材上に設けられたインキ層とを備え、前記インキ層が、[1]~[5]のいずれかに記載の水性インキの印刷層である、ことを特徴とする、積層体。
【0016】
[7] 前記基材と前記インキ層との間に、中間インキ層を更に備える、[6]に記載の積層体。
【0017】
[8] 熱収縮フィルムとして用いられる、[6]又は[7]に記載の積層体。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、密着性、耐ブロッキング性、耐熱性、耐水摩擦性、及び耐アルコール性に優れた皮膜を得ることができる水性インキを提供することができる。
また、本発明によれば、密着性、耐ブロッキング性、耐熱性、耐水摩擦性、及び耐アルコール性に優れたインキ層を皮膜として備える積層体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」と称することがある。)について詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0020】
(水性インキ)
本実施形態の水性インキは、バインダー樹脂と、アジリジン系硬化剤と、水性溶剤とを含有し、前記バインダー樹脂の50質量%以上が(メタ)アクリル系樹脂(A)であり、前記(メタ)アクリル系樹脂(A)は、ガラス転移温度が-10℃以上60℃以下であり、前記バインダー樹脂の不揮発分100質量部に対する前記アジリジン系硬化剤の不揮発分の量が、2.0質量部以上11.0質量部以下である、ことを特徴とする。
【0021】
硬化剤に関し、水性媒体中で使用可能な従来公知の硬化剤としては、エポキシ系硬化剤、カルボジイミド系硬化剤、オキサゾリン系硬化剤等が挙げられる。しかし驚くべきことに、本実施形態の水性インキにおいては、所定の(メタ)アクリル系樹脂を含むバインダー樹脂に対し、アジリジン系硬化剤を所定の不揮発分換算の割合で用いることにより、密着性、耐ブロッキング性、耐熱性、耐水摩擦性、及び耐アルコール性(以下、「5特性」と称することがある。)に優れた皮膜を得ることができることが見出された。
【0022】
本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及び/又はメタクリルを意味し、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及び/又はメタクリレートを意味する。
また、本明細書では、ガラス転移温度が-10℃以上60℃以下である(メタ)アクリル系樹脂を、「(メタ)アクリル系樹脂(A)」と称することとする。
【0023】
以下、本実施形態の水性インキに含有され得る各種成分について説明する。
【0024】
<バインダー樹脂>
本実施形態の水性インキは、バインダー樹脂を含有し、当該バインダー樹脂の50質量%以上が、(メタ)アクリル系樹脂(A)であることを要する。この(メタ)アクリル系樹脂(A)は、1種単独であってもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。バインダー樹脂における(メタ)アクリル系樹脂(A)の割合が50質量%未満であると、5特性の兼備を達成できない、特には、耐ブロッキング性及び/又は耐熱性の向上を達成できない虞がある。
【0025】
なお、上記バインダー樹脂は、(メタ)アクリル系樹脂(A)以外の樹脂を含んでもよい。但し、5特性をより効果的に向上させる観点から、バインダー樹脂における(メタ)アクリル系樹脂(A)の割合は、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましく、また、100質量%である(即ち、バインダー樹脂が、(メタ)アクリル系樹脂(A)のみからなる)ことも好ましい。
【0026】
ここで、(メタ)アクリル系樹脂とは、(メタ)アクリル酸エステルモノマーに由来する構成単位を有する樹脂をいい、例えば、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、ポリエステルーアクリル樹脂、ウレタンーアクリル樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合-アクリル樹脂、シリコーンーアクリル樹脂、アクリルアミド樹脂、エポキシーアクリル樹脂等が挙げられる。
また、換言すると、(メタ)アクリル系樹脂とは、(メタ)アクリル酸エステルを必須モノマーとし、必要に応じてその他の重合性不飽和基含有化合物とともに、(共)重合して得られる樹脂をいう。
【0027】
(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、iso-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2,2,2-トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3-ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、パーフルオロシクロヘキシル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、N-モノアルキル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-イソプロポキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-イソブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、2-アジリジニルエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、アクロレイン、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルモノマーは、1種単独であってもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0028】
重合性不飽和基含有化合物としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、(メタ)アクリロニトリル、スチレン、α-メチルスチレン、ジビニルスチレン、イソプレン、クロロプレン、ブタジエン、エチレン、テトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、N-ビニルピロリドン等のビニルモノマーが挙げられる。重合性不飽和基含有化合物は、1種単独であってもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0029】
また、(メタ)アクリル系樹脂は、自己架橋性成分と反応させたものであってもよい。即ち、(メタ)アクリル系樹脂は、自己架橋型であってもよい。自己架橋性成分としては、イソシアネート化合物、エポキシ化合物、アミン化合物、メラミン化合物、ヒドラジン化合物、アルデヒド化合物、オキサゾリン化合物等が挙げられる。
【0030】
(メタ)アクリル系樹脂は、例えば、重合開始剤の存在下、50℃~180℃、より好ましくは80℃~150℃の温度領域で各種モノマーを重合させることにより、製造することができる。重合の方法としては、例えば、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等が挙げられる。また、共重合体である場合の(メタ)アクリル系樹脂は、その重合様式の観点から、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体等であってもよい。
【0031】
(メタ)アクリル系樹脂は、コアシェル型を形成するエマルジョンであってもよい。上記コアシェル型エマルジョンは、第1の重合体が第2の重合体によって水性媒体中に分散された状態を指し、通常、第2の重合体が樹脂粒子の最外部に存在することでシェル部を形成し、第1の重合体の一部または全部がコア部を形成したものであることが多い。
【0032】
<(メタ)アクリル系樹脂(A)>
そして、本実施形態で用いる上記(メタ)アクリル系樹脂(A)は、ガラス転移温度(Tg)が-10℃以上60℃以下の(メタ)アクリル系樹脂である。上記ガラス転移温度が-10℃未満であると、5特性の兼備を達成できない虞、特には、耐ブロッキング性及び/又は耐熱性が悪化する虞がある。また、上記ガラス転移温度が60℃超であると、5特性の兼備を達成できない虞、特には、密着性が悪化する虞がある。そして、上記(メタ)アクリル系樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)は、5特性をより効果的に向上させる観点から、10℃以上がより好ましく、30℃以上が更に好ましく、35℃以上が一層好ましく、また、55℃以下がより好ましい。
【0033】
なお、ガラス転移温度(Tg)は、いわゆる計算ガラス転移温度を指し、下記の方法で算出された値を指す。
(式1) 1/Tg(K)=(W1/T1)+(W2/T2)+・・・(Wn/Tn)
(式2) Tg(℃)=Tg(K)-273
式1中のW1、W2、・・・Wnは、重合体の製造に使用したモノマーの合計質量に対する各モノマーの質量%を表し、T1、T2、・・・Tnは、各モノマーのホモポリマーのガラス転移温度(K)を表す。なお、T1、T2、・・Tnの値は、Polymer Handbook(Fourth Edition, J. Brandrup, E.H. Immergut, E.A. Grulke編)に記載された値を用いる。また、各モノマーのホモポリマーのガラス転移温度が前記Polymer Handbookに記載されていないもののガラス転移温度は、示差走査熱量計「DSCQ-100」(TA Instrument社製)を用い、JIS K7121に準拠した方法で測定した。具体的には、真空吸引して完全に溶剤を除去した重合体を、20℃/分の昇温速度で-100℃~+200℃の範囲で熱量変化を測定し、各ベースラインの延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線とが交わる点を、ガラス転移温度とした。
【0034】
上記(メタ)アクリル系樹脂(A)の酸価(「AV」とも称される。)は、20mgKOH/g以上80mgKOH/g以下であることが好ましい。上記(メタ)アクリル系樹脂(A)の酸価が20mgKOH/g以上であれば、5特性、特に耐アルコール性をより効果的に向上させることができ、また、80mgKOH/g以下であれば、5特性、特に耐ブロッキング性、耐水摩擦性及び耐アルコール性の少なくともいずれかをより効果的に向上させることができる。同様の観点から、上記(メタ)アクリル系樹脂(A)の酸価は、30mgKOH/g以上がより好ましく、また、78mgKOH/g以下がより好ましく、60mgKOH/g以下が更に好ましい。
なお、酸価とは、樹脂1g中に含まれる酸性成分を中和するのに要する水酸化カリウムのミリグラム数を示す。
【0035】
本実施形態においては、上記(メタ)アクリル系樹脂(A)が、アクリル樹脂(即ち、実質的に(メタ)アクリル酸エステルモノマーのみを重合して得られる樹脂)又はスチレンアクリル樹脂(即ち、スチレンモノマーと(メタ)アクリル酸エステルモノマーとを共重合して得られる樹脂)であることが好ましく、スチレンアクリル樹脂であることがより好ましい。この場合、5特性をより効果的に向上させることができる。
【0036】
<アジリジン系硬化剤>
本実施形態の水性インキは、アジリジン系硬化剤を含有する。アジリジン系硬化剤は、アジリジン基を有する化合物であり、より具体的には、例えば、トリメチロールプロパン-トリ-β-アジリジニルプロピオネート、テトラメチロールメタン-トリ-β-アジリジニルプロピオネート、トリメチロールプロパン-トリ-β-(2-メチルアジリジン)プロピオネート、N,N’-ジフェニルメタン-4,4’-ビス(1-アジリジンカルボキシアミド)、N,N’-ヘキサメチレン-1,6-ビス(1-アジリジンカルボキシアミド)、及びN,N’-トルエン-2,4-ビス(1-アジリジンカルボキシアミド)等が挙げられる。アジリジン系硬化剤は、1種単独であってもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0037】
また、アジリジン系硬化剤としては、市販品を用いることができる。アジリジン系硬化剤の市販品としては、例えば、株式会社日本触媒製の「PZ-33」、株式会社日本触媒製の「DZ-22E」、Stahl社製の「XL-706」、明成化学工業株式会社製の「SU-125F」等が挙げられる。
【0038】
そして、本実施形態の水性インキにおいては、上記バインダー樹脂の不揮発分100質量部に対する上記アジリジン系硬化剤の不揮発分の量が、2.0質量部以上11.0質量部以下であることを要する。上記の量が2.0質量部未満であると、5特性の兼備を達成できない虞、特には、耐熱性、耐水摩擦性及び耐アルコール性の少なくともいずれかの向上を達成できない虞がある。また、上記の量が11.0質量部超であると、5特性の兼備を達成できない虞、特には、耐ブロッキング性、耐水摩擦性及び耐アルコール性の少なくともいずれかの向上を達成できない虞がある。そして、上記バインダー樹脂の不揮発分100質量部に対する上記アジリジン系硬化剤の不揮発分の量は、上記と同様の観点から、5.0質量部以上であることが好ましく、7.0質量部以上であることがより好ましく、また、10.0質量部以下であることが好ましく、9.0質量部以下であることがより好ましい。
【0039】
なお、バインダー樹脂及びアジリジン系硬化剤は、水性インキの調製に用いる際には、溶剤中に分散した状態のものも多い。そのため、上述した不揮発分の質量比の算出のために、バインダー樹脂及びアジリジン系硬化剤それぞれのNV値(Nonvolatile content)を把握しておくことが肝要である。
なお、「不揮発分」(Non-Volatile、NV)は、一般的には「固形分」と称されることもある。
【0040】
<水性溶剤>
本実施形態で用いる水性溶剤としては、水単独、又は水と混和する有機溶剤が挙げられる。上記有機溶剤としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール等のアルコール類;プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノn-プロピ ルエーテル、エチルカルビトール等のエーテル類;等が挙げられる。水性溶剤は、1種単独であってもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0041】
<顔料>
本実施形態の水性インキは、上述したものに加えて、各種顔料を含有することができる。顔料としては、材料の観点からは無機顔料、有機顔料が挙げられ、また、着色の観点からは黒色顔料、藍色顔料、緑色顔料、赤色顔料、紫色顔料、黄色顔料、橙色顔料、茶色顔料等が挙げられる。これら顔料を含有する場合の水性インキは、いわゆる白黒印刷又はカラー印刷用のインキとして用いることができる。但し、本実施形態の水性インキは、外部との接触にも耐え得る強靭な皮膜物性を発現できることから、顔料を含有しないトップコートニス(即ち、カラー印刷層を保護する目的で、当該カラー印刷層の最表面にベタ印刷して用いられる無色透明インキ)であることが好ましい。
【0042】
<界面活性剤>
本実施形態の水性インキは、上述したものに加えて、界面活性剤を更に含有することができる。上記界面活性剤としては、アセチレン系界面活性剤、アルコールアルコキシレート系界面活性剤が好ましい。これら界面活性剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上の組み合わせで用いてもよい。
【0043】
アセチレン系界面活性剤として、具体的には、2,5-ジメチル-3-ヘキシン-2,5-ジオール、3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、3-メチル-1-ブチン-3-オール、3-メチル-1-ペンチン-3-オール、3-ヘキシン-2,5-ジオール、2-ブチン-1,4-ジオール等が挙げられる。これらアセチレン系界面活性剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上の組み合わせで用いてもよい。
【0044】
また、アセチレン系界面活性剤の市販品としては、アルキレンオキサイド非変性アセチレングリコール系界面活性剤の市販品、アルキレンオキサイド変性アセチレングリコール系界面活性剤の市販品が挙げられる。
アルキレンオキサイド非変性アセチレングリコール系界面活性剤の市販品としては、サーフィノール61、82、104(いずれも、エアープロダクツ社製)等が挙げられる。
アルキレンオキサイド変性アセチレングリコール系界面活性剤の市販品としては、サーフィノール420、440、465、485、TG、2502、ダイノール604、607(いずれも、エアープロダクツ社製);サーフィノールSE、MD-20、オルフィンE1004、E1010、PD-004、EXP4300、PD-501、PD-502、SPC(いずれも、日信化学工業株式会社製);アセチレノールEH、E40、E60、E81、E100、E200(いずれも、川研ファインケミカル株式会社製);等が挙げられる。
中でも、アセチレン系界面活性剤としては、アルキレンオキサイド変性アセチレングリコール系界面活性剤が好ましい。
【0045】
上記アルコールアルコキシレート系界面活性剤として、具体的には、アルコールエトキシレート、アルコールポリエトキシレート等が挙げられる。また、アルコールアルコキシレート系界面活性剤の市販品としては、「BYK-DYNWET800」(BYK社製)が挙げられる。これらアルコールアルコキシレート系界面活性剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上の組み合わせで用いてもよい。
【0046】
界面活性剤としては、上述したもののほか、更に必要に応じ、アクリルポリマー系界面活性剤(例えば、共栄社化学株式会社製「ポリフローWS-314」)、変性シリコーン系界面活性剤(例えば、共栄社化学株式会社製「ポリフローKL-401」)を用いてもよい。
【0047】
本実施形態の水性インキが界面活性剤を含有する場合、水性インキ全量に占める界面活性剤の合計の割合は、0.1質量%以上3.0質量%以下であることが好ましい。上記割合が0.1質量%以上であれば、基材の濡れ性を高めて、基材との密着性を保持する効果を得ることができる。また、上記割合が3.0質量%以下であれば、耐摩耗性、耐水摩耗性、及び耐スクラッチ性を良好に保持することができる。同様の観点から、上記割合は、1.0質量%以下であることがより好ましい。
【0048】
<ワックス>
本実施形態の水性インキは、上述したものに加えて、ワックスを更に含有することができる。上記ワックスとしては、炭化水素系ワックスが好ましい。上記ワックスとして、具体的には、流動パラフィン、天然パラフィン、合成パラフィン、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、フルオロカーボンワックス、エチレン-プロピレン共重合体ワックス、4フッ化エチレン樹脂ワックス、フィッシャー・トロプシュワックス等が挙げられる。これらワックスは、1種単独で用いてもよく、2種以上の組み合わせで用いてもよい。
中でも、ワックスとしては、ポリエチレンワックスが好ましい。
【0049】
本実施形態の水性インキがワックスを含有する場合、水性インキ全量に占めるワックスの合計の割合は、0.5質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。上記割合が0.5質量%以上であれば、耐水摩耗性を保持する効果を得ることができる。また、上記割合が5.0質量%以下であれば、基材との密着性、耐水摩耗性、及び耐ブロッキング性を良好に保持することができる。
【0050】
<その他の成分>
本実施形態の水性インキは、上述したもののほか、必要に応じて、上記バインダー樹脂以外の汎用の樹脂、体質顔料、滑剤(オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミド等)、顔料分散剤、レベリング剤、消泡剤(シリコン系消泡剤、非シリコン系消泡剤等)、可塑剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、芳香剤、難燃剤などのその他の成分を適量含有することができる。
【0051】
(水性インキの製造)
本実施形態の水性インキの製造方法は、特に限定されないが、例えば、水性溶剤及び消泡剤等を添加した混合物を分散させた後、バインダー樹脂、水性溶剤、アジリジン系硬化剤、及び必要に応じて界面活性剤等の添加剤を加え、撹拌混合することにより、水性インキを得ることができる。上記の分散及び撹拌混合に際しては、フレキソ印刷又はグラビア印刷用のインキの製造に一般的に使用されているビーズミル、アイガーミル、サンドミル、ガンマミル、アトライター等の分散機を用いることができる。
【0052】
また、本実施形態の水性インキは、後述の通り、フレキソ印刷又はグラビア印刷に用いられることが好ましい。
【0053】
本実施形態の水性インキをフレキソ印刷又はグラビア印刷に用いる場合、即ち、本実施形態の水性インキをフレキソインキ又はグラビアインキとして使用する場合、その粘度は、離合社製ザーンカップ#4使用、25℃にて、7~25秒であればよく、より好ましくは10~20秒である。また、当該インキの25℃における表面張力は、25~50mN/mが好ましい。インキの表面張力が低いほど、フィルム等の基材へのインキの濡れ性は向上するが、表面張力が25mN/mを下回ると、インキの濡れ広がりにより、中間調の網点部分で隣り合う網点どうしが繋がり易い傾向にある。そしてこれは、ドットブリッジと呼ばれる印刷面の汚れの原因と成りやすい。一方、表面張力が50mN/mを上回ると、フィルム等の基材へのインキの濡れ性が低下し、ハジキの原因と成り易い。同様の観点から、当該インキの25℃における表面張力は、33mN/m以上がより好ましく、また、43mN/m以下がより好ましい。
【0054】
(積層体)
本実施形態の積層体は、基材と、前記基材上に設けられたインキ層とを備え、前記インキ層が、上述した水性インキの印刷層である、ことを特徴とする。即ち、本実施形態の積層体は、上述した水性インキを基材上に印刷することで得られる。
【0055】
基材としては、例えば、熱可塑性樹脂フィルム、紙、合成紙、鋼板、アルミ箔、木材、織布、編布、不織布、石膏ボード、木質ボード等が挙げられる。これらの中でも、基材としては、紙、合成紙、熱可塑性樹脂フィルム等が好ましい。また、基材としては、上述したものの複数種の組み合わせであってもよく、例えば、紙と熱可塑性樹脂フィルムとが積層された積層基材、熱可塑性樹脂フィルムとアルミ箔とが積層された積層基材等であってもよい。複数種の組み合わせの場合、その積層方法は特に限定されず、汎用の1液型接着剤、2液型接着剤等を使用して接着させてもよいし、複数の熱可塑性樹脂フィルムであれば押出成形によって貼り合せた積層基材であってもよい。
【0056】
熱可塑性樹脂フィルムとしては、特に限定されず、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46等のポリアミド樹脂;ポリエチレンフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリトリメチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリ乳酸等のポリヒドロキシカルボン酸、ポリ(エチレンサクシネート)、ポリ(ブチレンサクシネート)等の脂肪族ポリエステル系樹脂に代表される生分解性樹脂;ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン等のポリオレフィン樹脂;ポリイミド樹脂;ポリアリレート樹脂;またはそれらの混合物等の熱可塑性樹脂からなるフィルムが挙げられ、また、これらが複数積層された積層フィルムも挙げられる。これらの中でも、熱可塑性樹脂フィルムとしては、ポリエステル、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレンからなるフィルムが好ましい。
【0057】
これらの熱可塑性樹脂フィルムは、未延伸フィルムであっても延伸フィルムであってもよく、その製法も特に限定されない。また、基材としての熱可塑性樹脂フィルムの厚みは、特に限定されないが、通常は1~500μmの範囲であればよい。また、熱可塑性樹脂フィルムの印刷対象の面には、コロナ放電処理がされていることが好ましい。この場合、密着性をより向上させることができる。更に、熱可塑性樹脂フィルムの印刷対象の面には、シリカ、アルミナ等が蒸着されていてもよく、酸素ガスバリア層等のガスバリアコート層が積層されていてもよい。
【0058】
基材としての紙としては、例えば、クラフト紙、ライナー紙、アート紙、コート紙、カートン紙等が挙げられる。また、合成紙の構造は、特に限定されず、単層構造であっても多層構造であってもよい。多層構造としては、例えば、基材層と表面層の2層構造、基材層と表裏面に表面層が存在する3層構造、基材層と表面層の間に他の樹脂フィルム層が存在する多層構造を例示することができる。また、多層構造の各層は、無機や有機のフィラーを含有していてもよいし、含有していなくてもよい。また、微細なボイドを多数有する微多孔性合成紙を使用することもできる。
【0059】
本実施形態においては、水性インキを基材上に印刷し、印刷層を設けることで印刷物を得る。この点に関し、通常は、グラビア印刷又はフレキソ印刷の印刷方式を用いてインキを基材に塗布し、オーブンによる乾燥によって乾燥させて定着することで印刷層が得られる。乾燥温度は、通常40~60℃程度である。
【0060】
上述した水性インキの印刷層の厚みは、特に限定されず、印刷層形成時のインキ乾燥性やランニングコスト等の様々な事情を踏まえて、適宜決定することができる。
【0061】
上述した水性インキの印刷層は、フレキソ印刷又はグラビア印刷の印刷方式を用いて形成することが好ましい。フレキソ印刷及びグラビア印刷は、いずれも輪転印刷の一種であり、5特性が良好に保持された印刷層を形成することができる。また、フレキソ印刷及びグラビア印刷は、高速印刷適性、印刷再現性等の面から好ましい。
【0062】
フレキソ印刷は、凸版印刷の一種であり、主にゴム版を印刷版(凸版)として用い、当該刷版にインキを供給する部分にアニロックスロールと呼ばれる細かいメッシュの彫刻ロールを使用する。アニロックスロールは、チャンバ型ドクタからインキを受け取って、刷版上にインキ付けを行う役割を担っており、アニロックスロールを介することでインキを刷版に均一に転移できる利点がある。
【0063】
具体的には、隔壁及び隔壁で囲まれた開口部を多数有するアニロックスロールの表面にインキを塗布し、アニロックスロールの表面にドクタを押し付けて、アニロックスロールの隔壁天面に存在するインクを掻き落とし、開口部である凹部にインクを充填する。続いて、アニロックスロールにフレキソ版を押し付けて、アニロックスロールの凹部に存在するインクを印刷版の凸部(パターン部)に転移させ、次に版を基材に接触させて版のパターン部に存在するインクを基材に転移させて、印刷物を得る。
【0064】
また、輪転印刷方式を組み合わせてもよい。例えば、基材として熱可塑性樹脂フィルムを用いて輪転印刷する場合、巻取り熱可塑性樹脂フィルムの表面に、水性インキを用いて輪転印刷を行う。印刷後は、ラミネート、スリット(幅部分の不要部をカット)、製袋(切り取ってヒートシールして袋にする)等の工程を行うことができる。水性インキを巻き取り熱可塑性樹脂フィルムへ輪転印刷することにより、高速印刷が可能であり、生産性に優れる。
【0065】
なお、輪転印刷としては、上述の通りグラビア印刷及びフレキソ印刷が挙げられ、どちらの方式も採用可能である。但し、本実施形態の水性インキの印刷には、フレキソ印刷方式を用いることが好ましい。そこで、以下では、フレキソ印刷について詳細に説明する。
なお、本明細書において輪転印刷とは、グラビア印刷及びフレキソ印刷を意味するものであり、その他の印刷方式であるインキジェット印刷及びシルクスクリーン印刷方式は、含まれない。
【0066】
フレキソ印刷では、水性インキを溜める容器から当該水性インキを直接、又はインキ供給用ポンプ等を介して、表面に凹凸形状を有するアニロックスローラに供給し、このアニロックスローラに供給された水性インキが、版面の凸部との接触により版面に転移し、更に版面と熱可塑性樹脂フィルムとの接触により最終的に熱可塑性樹脂フィルムに転移して、絵柄及び/又は文字が形成される。
【0067】
水性インキを使用する場合、インキ乾燥性が溶剤型のフレキソ印刷インキよりも若干劣ることから、インキの膜厚は、できるだけ薄いことが好ましい。この観点から、アロニックスローラに供給されるインキ量は、できるだけ少ないことが好ましい。一方で、膜厚が薄くなると印字濃度が薄くなる傾向にあるので、使用する水性インキにおける顔料の濃度を適宜コントロールすることが好ましい。具体的には、水性インキにおける顔料の濃度は、溶剤型のフレキソ印刷インキの濃度よりも、1~5重量%増量した濃度であると、適正な印字濃度が得られる。
【0068】
巻取り熱可塑性樹脂フィルムとは、規定の幅に揃えられたロール状の熱可塑性樹脂フィルムのことであり、1枚1枚が予め切り離されている枚葉紙とは異なる、輪転印刷用のフィルムである。フィルムの幅は、使用する輪転印刷機の版幅、及びグラビア版の画像(絵柄)部分の幅を基準として、適宜選択される。なお、複数の色の輪転印刷インキを用いて色を重ねる場合、それらの印刷の順番は、特に限定されない。
【0069】
表刷り印刷を行うときは、必要に応じて先に白インキを印刷し、その後色インキを印刷するのが一般的である。色インキが複数の場合、例えばイエロー、マゼンタ、シアン、及びブラックの順に印刷することができるが、特に制限されるものではない。表刷り印刷の構成の場合、必要に応じて輪転印刷物の印刷面にオーバーコート剤を塗布することにより、耐摩耗性及び耐水性等を向上させることができる。
【0070】
基材の色が白色系の場合、即ち、例えば紙基材や、白色系顔料を練り込んだ熱可塑性樹脂フィルムの場合、必要に応じて色インキのみでの印刷も可能である。
【0071】
また、裏刷り印刷を行うときは、巻取り熱可塑性樹脂フィルムに、先に色インキを印刷し、次に白インキを印刷するのが一般的である。色インキが複数色の場合、例えばブラック、シアン、マゼンタ、及びイエローの順に印刷することができるが、特に制限されるものではない。なお、大型印刷機では更に、前記基本色に加えて特色等を用いることができる。即ち、大型印刷機には、5~10色に対応する複数の印刷ユニットがあり、1印刷ユニットには1色のインキが備えられ、5~10色の重ね印刷を一度に行うことができる。裏刷り印刷で得た印刷物は、そのままで使用することもあるし、得られた輪転印刷物の印刷面にアンカーコート剤及び接着剤等を塗布し、必要に応じて乾燥後に、フィルム等と貼り合せてラミネート体とすることもできる。
【0072】
そして、本実施形態の積層体における上記インキ層(印刷層)は、外部との接触にも耐え得る強靭な皮膜物性を有し、特に耐ブロッキング性や耐水摩擦性に優れるので、最表層に位置することが好ましい。そのため、本実施形態の積層体においては、基材とインキ層との間に、中間インキ層を更に備えてもよい。かかる中間インキ層は、任意のインキの印刷層とすることができ、1層のみであってもよく、2層以上であってもよい。また、中間インキ層は、所望される意匠に基づいて、顔料等の色材を適宜含有する色インキ層であってもよい。中間インキ層の製造方法も特に限定されず、例えば、上述した本実施形態の水性インキの印刷層と同様のやり方で製造することができる。
【0073】
本実施形態の積層体は、プラスチックフィルムをはじめとする基材の種類を選ばずに優れた密着性を有し、また、実施例に記載の物性に追加して、塗膜強度、特に耐摩擦性や耐スクラッチ性にも優れるので、印刷層が最表層となる形態に適している。そのため、表刷り印刷物や、裏刷り印刷物において、流通時に最表層となる面に本実施形態の水性インキの印刷層を備える印刷物が、本発明の効果を最大限に発揮でき好ましい。本実施形態の積層体は、飲料や食品用ボトルに適用するプラスチックラベル(シュリンクラベルや胴巻きラベルが該当する)や、集積包装体、外装用包装体等、様々な用途に展開可能である。特に、本実施形態の積層体は、上述した様々な用途において、熱収縮フィルムとして好適に用いられる。
【実施例】
【0074】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0075】
〔樹脂Eの作製〕
撹拌器、温度計、滴下ロート、還流管を備える反応容器に、酢酸n-プロピル60.0質量部を仕込んだ。窒素雰囲気下で撹拌しながら、温度90℃まで昇温した。一方で、メチルメタクリレート36.0質量部、エチルメタクリレート10.0質量部、n-ブチルメタクリレート20.0質量部、イソブチルメタクリレート10.0質量部、2-エチルヘキシルアクリレート10.0質量部、アクリル酸14.0質量部、アゾビスイソブチロニトリル1.0質量部を、酢酸n-プロピル40.0質量部に溶解し、滴下ロートを用いて4時間かけて滴下した。滴下終了後、更に6時間反応を行った。反応終了後に冷却を行い、得られたアクリル樹脂溶液に30%アンモニア水を8.0質量部加えて中和した。更に、イオン交換水を加えて加熱しながら溶剤置換を行い、固形分55%のアクリル樹脂の水溶液を得た。上記樹脂は、酸価が105mgKOH/g、Tgが65℃であった。
その後、撹拌器、温度計、滴下ロート、還流管を備える反応容器に、上記のアクリル樹脂の水溶液158.7質量部を仕込み、イオン交換水195.5質量部を加えた。窒素雰囲気下で撹拌しながら、温度75℃まで昇温した。続いて、滴下ロートを用い、メチルメタクリレート30.0質量部、ブチルアクリレート25.0質量部、エチルメタクリレート8.0質量部、イソブチルメタクリレート25.0質量部、30%過硫酸アンモニウム3.5質量部を、4時間かけて滴下した。滴下終了後、更に6時間反応を行い、固形分41%のコアシェル型アクリルエマルジョン(樹脂E)を得た。樹脂Eは、酸価が55mgKOH/g、Tgが40℃であった。
【0076】
〔樹脂Hの作製〕
撹拌器、温度計、滴下ロート、還流管を備える反応容器に、酢酸n-プロピル65.0部を仕込んだ。窒素雰囲気下で撹拌しながら、温度90℃まで昇温した。一方で、スチレン38.0質量部、エチルメタクリレート29.0質量部、2-エチルヘキシルアクリレート24.0質量部、アクリル酸9.0質量部、アゾビスイソブチロニトリル1.6質量部を、酢酸n-プロピル35.0質量部に溶解し、滴下ロートを用いて4時間かけて滴下した。滴下終了後、更に6時間反応を行った。反応終了後に冷却を行い、得られたアクリル樹脂溶液に30%アンモニア水を20.0質量部加えて中和した。更に、イオン交換水を加えて加熱しながら溶剤置換を行い、固形分30%のスチレンアクリル樹脂の水溶液を得た。上記樹脂は、酸価が70mgKOH/g、Tgが52℃であった。
その後、撹拌器、温度計、滴下ロート、還流管を備える反応容器に、上記のスチレンアクリル樹脂の水溶液104.6質量部を仕込み、イオン交換水119.6質量部を加えた。窒素雰囲気下で撹拌しながら、温度75℃まで昇温した。続いて、滴下ロートを用い、メチルメタクリレート16.0質量部、ブチルアクリレート16.0質量部、エチルメタクリレート39.0質量部、イソブチルメタクリレート29.0質量部、30%過硫酸アンモニウム3.5質量部を、4時間かけて滴下した。滴下終了後、更に6時間反応を行い、固形分41%のコアシェル型スチレンアクリルエマルジョン(樹脂H)を得た。樹脂Hは、酸価が33mgKOH/g、Tgが53℃であった。
【0077】
〔樹脂A、樹脂B、樹脂C、樹脂D、樹脂F、樹脂G、樹脂M、樹脂N及び樹脂Oの作製〕
樹脂A、樹脂B、樹脂C、樹脂D、樹脂F、樹脂G、樹脂M及び樹脂Nについては、上述したアクリルエマルジョン(樹脂E)の作製において、表1に記載のTg及び酸価の値となるようにそれぞれ条件を適宜変更して、作製した。
樹脂Oについては、上述したスチレンアクリルエマルジョン(樹脂H)の作製において、表1に記載のTg及び酸価の値となるように条件を適宜変更して、作製した。
【0078】
〔樹脂I、樹脂J及び樹脂Kの作製〕
樹脂I及び樹脂Jについては、上述したアクリルエマルジョン(樹脂E)の作製において、更に自己架橋性成分としてのアジピン酸ジヒドラジド(ADH)を1質量%添加するとともに、表1に記載のTg及び酸価の値となるようにそれぞれ条件を適宜変更して、作製した。
樹脂Kについては、上述したスチレンアクリルエマルジョン(樹脂H)の作製において、更に自己架橋性成分としてのアジピン酸ジヒドラジド(ADH)を1質量%添加するとともに、表1に記載のTg及び酸価の値となるように条件を適宜変更して、作製した。
【0079】
〔樹脂L、樹脂P、樹脂Qの準備〕
樹脂Lとして、星光PMC株式会社製の「ハイロスX AW-36H」(水性アクリル)を準備した。
樹脂Pとして、星光PMC株式会社製の「ハイロス X-2010L」(水溶性スチレン-アクリル)を準備した。
樹脂Qとして、三井化学株式会社社製の「タケラック WS-4022」(ウレタンエマルジョン)を準備した。
【0080】
〔水性インキ及び積層体の作製〕
各例において、表1に示す配合処方で水性インキを常法に従って作製した。
一方、基材として、コロナ処理ポリスチレン熱収縮フィルム(タキロンシーアイ株式会社製 ボンセットBS55S 厚さ50μm)を準備し、印刷装置として、Flexoproof100テスト印刷機(Testing Machines,Inc.社製、アニロックス200線/inch)を準備した。そして、このテスト印刷機のアニロックスロール及び樹脂版により、各例の水性インキの縦240mm×横80mmのベタ絵柄を、印刷速度100m/分で印刷した。次いで、得られた印刷物について25℃にて24時間エージングを行い、印刷インキ積層体を得た。
【0081】
得られた積層体について、下記の評価を行った。結果を表1に示す。
【0082】
<基材密着性>
積層体のインキ層の形成面にセロハンテープを貼り付けた。次いで、上記セロハンテープを急速に剥がし、そのときの基材からのインキ層(皮膜)の剥離の度合を目視観察し、下記基準に従って評価した。なお、4.5の評価結果は、複数回の評価のうち、4と5の評価結果が同等レベルに混在した場合である。実用レベルは、4以上である。
5:インキ層の剥離無し
4:インキ層の剥離面積が印刷面積の0%超10%未満
3:インキ層の剥離面積が印刷面積の10%以上30%未満
2:インキ層の剥離面積が印刷面積の30%以上75%未満
1:インキ層の剥離面積が印刷面積の75%以上
【0083】
<耐ブロッキング性>
2つの積層体を用意し、そのインキ層の印刷面同士を合わせて、5kg/cm2の荷重下に40℃、湿度80%で1日間静置した。次いで、手で剥がし、そのときの剥離抵抗の有無とインキ層(皮膜)の転移の度合とを目視観察し、下記の基準に従って評価した。なお、4.5の評価結果は、複数回の評価のうち、4と5の評価結果が同等レベルに混在した場合である。実用レベルは、4以上である。
5:インキ層の転移無し、剥離抵抗無し
4:インキ層の転移無し、しかし剥離抵抗有り
3:インキ層の転移量が印刷面積の10%未満で、剥離抵抗有り
2:インキ層の転移量が印刷面積の10%以上50%未満で、剥離抵抗有り
1:インキ層の転移量が印刷面積の50%以上で、剥離抵抗有り
【0084】
<耐熱性>
2つの積層体を用意し、そのインキ層の印刷面同士を合わせた状態で、ヒートシールテスター(上下90℃)にて、0.1MPaで1秒間荷重をかけた。次いで、手で剥がし、そのときの剥離抵抗の有無とインキ層(皮膜)の融着の度合とを目視観察し、下記の基準に従って評価した。実用レベルは、4以上である。
5:インキ層の融着無し、剥離抵抗無し
4:インキ層の融着無し、しかし比較的弱い剥離抵抗有り
3:インキ層の融着無し、しかし比較的強い剥離抵抗有り
2:比較的少量のインキ層の融着有り、剥離抵抗有り
1:比較的多量のインキ層の融着有り、剥離抵抗有り
【0085】
<耐水摩擦性>
積層体のインキ層の形成面に、水に浸漬したカナキンを当て、学振型摩擦堅牢度試験機にて荷重200g×100回摩擦した。このときのインキ層(皮膜)の剥離の度合を目視観察し、下記の基準に従って評価した。実用レベルは、4以上である。
5:インキ層の剥離無し
4:インキ層の剥離面積が印刷面積の0%超10%未満
3:インキ層の剥離面積が印刷面積の10%以上50%未満
2:インキ層の剥離面積が印刷面積の50%以上70%未満
1:インキ層の剥離面積が印刷面積の70%以上
【0086】
<耐アルコール性>
積層体のインキ層の形成面に、評価用アルコール溶液を50μm滴下し、室温で24時間乾燥させた。次いで、インキ層(皮膜)を常温水で洗浄し、そのときのインキ層(皮膜)の脱離及び白化の度合を目視観察し、下記の基準に従って評価した。なお、4.5の評価結果は、複数回の評価のうち、4と5の評価結果が同等レベルに混在した場合である。実用レベルは、4以上である。
5:インキ層の脱離無し、白化無し(外観変化なし)
4:インキ層の脱離無し、比較的少量の白化有り
3:インキ層の脱離無し、比較的多量の白化有り
2:比較的少量のインキ層の脱離有り
1:比較的多量のインキ層の脱離有り
【0087】
【0088】
なお、表1では、各バインダー樹脂に関して、ガラス転移温度(Tg、単位:℃)、酸化(AV、単位:mgKOH/g)、及び不揮発分の割合(NV値、単位:質量%)も示している。
【0089】
また、表1の「バインダー樹脂の不揮発分100質量部に対する硬化剤の不揮発分の量(質量部)」は、一例として実施例1を挙げると、以下のように算出される。
{(3.0×100/100)÷(84.0×50/100)}×100≒7.1
【0090】
表1におけるバインダー樹脂以外の各成分の詳細は、以下の通りである。
【0091】
消泡剤:有機変性ポリシロキサン乳化剤(Evonik社製、「TEGO(登録商標)Formax1488」)
界面活性剤:アルコールアルコキシレート(BYK社製、「BYK-DYNWET800」)
ワックス:ポリエチレンワックス(BYK社製、「AQUACER531」)
酸化チタン:白色顔料、テイカ株式会社製、「TITANIX JR-701」
アジリジン系硬化剤A:株式会社日本触媒製、「PZ-33」、NV値:100質量%
アジリジン系硬化剤B:Stahl社製、「XL-706」、NV値:100質量%
エポキシ系硬化剤C:エポキシ化合物、ナガセケムテックス株式会社製、「EX-614B」
カルボジイミド系硬化剤D:日清紡ケミカル株式会社製、「カルボジライト E-05」
【0092】
表1より、本発明に従う実施例においては、基材密着性、耐ブロッキング性、耐熱性、耐水摩擦性、及び耐アルコール性の全てにおいて良好な評価結果となっており、基材との密着性に加え、各種の耐久性に優れていることが分かる。
【0093】
これに対し、比較例においては、基材密着性、耐ブロッキング性、耐熱性、耐水摩擦性、及び耐アルコール性の少なくともいずれかが不良な評価結果となった。
【0094】
その理由として、
比較例1では、使用した(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度が低すぎたためと考えられる。
比較例2,3では、使用した(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度が高すぎたためと考えられる。
比較例4では、使用した(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度が高すぎた上、バインダー樹脂の不揮発分に対するアジリジン系硬化剤の不揮発分の量が多すぎたためと考えられる。
比較例5では、バインダー樹脂の不揮発分に対するアジリジン系硬化剤の不揮発分の量が多すぎたためと考えられる。
比較例6では、バインダー樹脂の不揮発分に対するアジリジン系硬化剤の不揮発分の量が少なすぎた(硬化剤自体を用いていない)ためと考えられる。
比較例7,8では、アジリジン系硬化剤以外の硬化剤を用いたためと考えられる。
比較例9では、バインダー樹脂として(メタ)アクリル系樹脂以外の樹脂を用いたためと考えられる。
比較例10では、一定量の酸化チタン(白色顔料)を配合したことに伴い、バインダー樹脂の不揮発分に対するアジリジン系硬化剤の不揮発分の量が多すぎたためと考えられる。
【0095】
本発明によれば、密着性、耐ブロッキング性、耐熱性、耐水摩擦性、及び耐アルコール性に優れた皮膜を得ることができる水性インキを提供することができる。
また、本発明によれば、密着性、耐ブロッキング性、耐熱性、耐水摩擦性、及び耐アルコール性に優れたインキ層を皮膜として備える積層体を提供することができる。
【要約】 (修正有)
【課題】密着性、耐ブロッキング性、耐熱性、耐水摩擦性、及び耐アルコール性に優れた皮膜を得ることができる水性インキを提供する。
【解決手段】バインダー樹脂と、アジリジン系硬化剤と、水性溶剤とを含有し、前記バインダー樹脂は、50質量%以上が(メタ)アクリル系樹脂(A)であり、前記(メタ)アクリル系樹脂(A)は、ガラス転移温度が-10℃以上60℃以下であり、前記バインダー樹脂の不揮発分100質量部に対する前記アジリジン系硬化剤の不揮発分の量が、2.0質量部以上11.0以下質量部である、ことを特徴とする、水性インキ。
【選択図】なし