(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】電気車および電気車システム
(51)【国際特許分類】
B60L 50/53 20190101AFI20240221BHJP
B60L 5/26 20060101ALI20240221BHJP
B60L 7/14 20060101ALI20240221BHJP
B60L 7/22 20060101ALI20240221BHJP
B60L 13/00 20060101ALI20240221BHJP
B60M 3/06 20060101ALI20240221BHJP
【FI】
B60L50/53
B60L5/26
B60L7/14
B60L7/22 Z
B60L13/00 D
B60M3/06 E
(21)【出願番号】P 2023509884
(86)(22)【出願日】2021-03-29
(86)【国際出願番号】 JP2021013172
(87)【国際公開番号】W WO2022208569
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】319007240
【氏名又は名称】株式会社日立インダストリアルプロダクツ
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】宮田 博昭
(72)【発明者】
【氏名】菅原 直志
(72)【発明者】
【氏名】柳田 純一
(72)【発明者】
【氏名】今家 和宏
【審査官】冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-253084(JP,A)
【文献】特開2014-064398(JP,A)
【文献】特開2018-038217(JP,A)
【文献】特開2012-040954(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 50/53
B60L 7/14
B60L 7/22
B60L 13/00
B60M 3/06
B60L 5/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電装置を介して電力線から得た電力、もしくは、自車に搭載したエネルギー源、もしくは、その両方の併用によって駆動するとともに、制動時等に発生する電力を、集電装置を介して電力線に回生する、もしくは、自車に搭載した負荷で消費する電気車であって、
前記電力線の電圧、あるいは電気車内の回路電圧が定められた範囲を逸脱した際に、前記集電装置を前記電力線から電気的に離間する機能を有し、
前記、電力線の電圧、あるいは電気車内の回路電圧が定められた範囲を逸脱した際の判定は、電気車に搭載されたセンサに基づき行われ、当該センサの情報に基づき、電気車群内での無線相互通信により、前記電力線から電気的に離間する機能を実行する電気車が決定されることを特徴とす
る電気車。
【請求項2】
集電装置を介して電力線から得た電力、もしくは、自車に搭載したエネルギー源、もしくは、その両方の併用によって駆動するとともに、制動時等に発生する電力を、集電装置を介して電力線に回生する、もしくは、自車に搭載した負荷で消費する電気車であって、
前記電力線の電圧、あるいは電気車内の回路電圧が定められた範囲を逸脱した際に、前記集電装置を前記電力線から電気的に離間する機能を有し、
前記電気車は、その走行状態、すなわち、力行状態か、抑速・制動状態かを判断するコントローラを有し、
前記集電装置を前記電力線から電気的に離間する機能の実行までの解列確認時間の長さを、回路電圧が一定範囲より、
(A)抑速・制動状態:高い場合<低い場合、
(B)力行状態:高い場合>低い場合
とすることを特徴とす
る電気車。
【請求項3】
集電装置を介して電力線から得た電力、もしくは、自車に搭載したエネルギー源、もしくは、その両方の併用によって駆動するとともに、制動時等に発生する電力を、集電装置を介して電力線に回生する、もしくは、自車に搭載した負荷で消費する電気車であって、
前記電力線の電圧、あるいは電気車内の回路電圧が定められた範囲を逸脱した際に、前記集電装置を前記電力線から電気的に離間する機能を有し、
前記電気車は、その走行状態、すなわち、力行状態か、抑速・制動状態かを判断するコントローラを有し、
前記電力線の電圧、あるいは電気車内の回路電圧が定められた範囲の電圧レンジを、
力行状態>抑速・制動状態
とすることを特徴とす
る電気車。
【請求項4】
前記電気的に離間する機能は、機械的集電装置と前記電力線との距離離間により行われることを特徴とする請求項1
ないし3のいずれか1項に記載の電気車。
【請求項5】
前記電気的に離間する機能は、電気車に積載された開閉装置により行われることを特徴とする請求項1
ないし3のいずれか1項に記載の電気車。
【請求項6】
前記、電力線の電圧、あるいは電気車内の回路電圧が定められた範囲を逸脱した際の判定は、電気車に搭載されたセンサに基づき行われ、このセンサの反応速度は電気車に対し設定可能であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の電気車。
【請求項7】
前記設定は、外部のセンタから電気車に対し設定可能であることを特徴とする請求項
6記載の電気車。
【請求項8】
前記、電力線の電圧、あるいは電気車内の回路電圧が定められた範囲を逸脱した際の判定は、電気車に搭載されたセンサに基づき行われ、当該センサの情報に基づき、外部のセンタが電気車に対し前記電力線から電気的に離間する機能の実行を指示することを特徴とする請求項
2または3に記載の電気車。
【請求項9】
請求項1ないし
8のいずれか1項に記載の電気車により運用される電気車システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気車、および電気車システムに関する。
【背景技術】
【0002】
架空電力線より電力供給を受け動力車を駆動する輸送手段が現在広く用いられている。電車、路面電車、トロリーバス等が中心であったが、近年では特許文献1に開示されるように、ダンプトラックにも適用されるに至っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
架空電力線からの電力による電気車は、ループ線を除けば往復で分けて運用される形となる。この際、平坦な路線で運用される場合には、上り側の動力車と下り側の電気車で、電力消費の不均衡は起こりづらいものであった。しかし、一方向に連続する勾配のある地域、例えば山岳地域や露天掘り鉱山の斜面等での運用を主とする場合には、電力をモータで消費し電気車のモータを駆動する上り側と、電力を消費せず自重で下る、あるいは電力回生ブレーキ等で電力をむしろ発生させながら運用する下り側とでは、双方に同じ電力を供給したとしても、上り側は電力が不足し、下り側は電力が過剰となる問題がある。
【0005】
本発明は、上述のかかる課題により電気車に不具合が発生することを防止する手段を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の「電気車」の一例を挙げるならば、
集電装置を介して電力線から得た電力、もしくは、自車に搭載したエネルギー源、もしくは、その両方の併用によって駆動するとともに、制動時等に発生する電力を、集電装置を介して電力線に回生する、もしくは、自車に搭載した負荷で消費する電気車であって、
前記電力線の電圧、あるいは電気車内の回路電圧が定められた範囲を逸脱した際に、前記集電装置を前記電力線から電気的に離間する機能を有し、
前記、電力線の電圧、あるいは電気車内の回路電圧が定められた範囲を逸脱した際の判定は、電気車に搭載されたセンサに基づき行われ、当該センサの情報に基づき、電気車群内での無線相互通信により、前記電力線から電気的に離間する機能を実行する電気車が決定されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、電気車に不具合が発生することを防止することができる。
【0008】
本発明による更なる効果は、以下明細書全体により明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1の電気車システムの一説明図である。
【
図2】実施例1の電気車システムの一説明図である。
【
図3】実施例1の電気車システムの一説明図である。
【
図6】実施例1の電気車の上り時の模式動作説明図である。
【
図7】実施例1の電気車の下り時の模式動作説明図である。
【
図9】実施例2の電気車の上り時の模式動作説明図である。
【
図10】実施例2の電気車の下り時の模式動作説明図である。
【
図11】実施例3の電気車の上り時の模式動作説明図である。
【
図12】実施例3の電気車の下り時の模式動作説明図である。
【
図13】実施例5の電気車の設定動作点の説明図である。
【
図14】実施例6の電気車の優先順位決定の一例の説明図である。
【
図15】実施例7の電気車の優先順位決定の一例の説明図である。
【
図16】実施例8の電気車の優先順位決定の一例の説明図である。
【
図17】実施例9の電気車の優先順位決定の一例の説明図である。
【
図18】実施例10の電気車の優先順位決定の一例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図面を用いて、本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0011】
図3は、勾配のある領域で電気車を上下運用している電気車システムの説明図である。50は勾配を示す。PSは電源であり、外部系統より供給されている場合を含む。電源PSに接続される高電圧側電力線は、上り側の高電圧側電力線1Aと、下り側の高電圧側電力線2Aに分岐し、遠端で再度相互に接続されている。同様に、電源PSに接続される低電圧側電力線は、上り側の低電圧側電力線1Bと、下り側の低電圧側電力線2Bに分岐し、遠端で再度相互に接続されている。
【0012】
M1は上り線の電気車である。上り側の高電圧側電力線1Aからの電力がパンタグラフPT1を経由し電気車の高電圧側入力部より導入され、モータを直接あるいは間接に駆動する。上り線の電気車M1には、高電圧側入力部に対応して低電圧側入力部を有し、上り側の低電圧側電力線1Bに接続される。
図3では、金属製の車輪を介して、上り側の低電圧側電力線1Bを構成する金属製のレールに接続される例を示している。
【0013】
M2は下り線の電気車である。下り側の高電圧側電力線2Aからの電力がパンタグラフPT2を経由し電気車の高電圧側入力部より導入され、モータを直接あるいは間接に駆動する。下り線の電気車M2は、高電圧側入力部に対応して低電圧側入力部を有し、下り側の低電圧側電力線2Bに接続される。
図3では、金属製の車輪を介して、下り側の低電圧側電力線2Bを構成する金属製のレールに接続される例を示している。
【0014】
上記説明は、電源PSが直流を供給する場合、また交流を供給する場合、いずれの場合も含む。
【0015】
パンタグラフPT1、パンタグラフPT2は、パンタグラフに限定されず、トロリーポールのような、給電機能が実現しうるものであれば特に限定はしない。
【0016】
ここで、上り線の電気車M1は、上り線であるため、電力線から供給される電力を消費しながらモータを駆動し上ることになる。一方、下り線の電気車M2は下り線であるため、その下降速度を減じるために、抑速ブレーキあるいは電力回生ブレーキのような発電型ブレーキを備えることが望ましい。その場合、下り線の電気車M2のモータは発電機として機能し、その発電した電力をむしろ電力線に還流する形となる。このため、上り線の電気車M1は電力消費をし、下り線の電気車M2は電力供給をする。そのため、上り線と下り線で動力車の電力消費の形態が真逆となる。
【0017】
この場合の電力状況を、
図3の模式等価回路図である
図4にて説明する。
【0018】
なお以下の説明では、他図を含め、
図3と同一の符号は同等の機能を有するものであるので再度の説明は省略する。
【0019】
図4中の添え字付きの各rは、各電力線での電力線抵抗を示している。
【0020】
v0は電源PS近傍での電圧値、v1は上り線での上り線の電気車M1での電圧値、v2は下り線での下り線の電気車M2の電圧値をそれぞれ示している。上り線の電気車M1はモータ駆動による力行のため、電力の流れはi1、i3のようになり、上り側の高電圧側電力線1Aから上り線の電気車M1に流れる向きとなる。逆に、下り線の電気車M2は、例えば回生ブレーキによる発電となり、電力の流れはi2、i4のようになり、下り側の高電圧側電力線2Aに下り線の電気車M2から流れる向きとなる。
【0021】
このときの電力の状態は、(1)力行する上り線の電気車M1による電力消費によって電力線の系全体のエネルギーが減少する。
【0022】
(2)電力線の系全体のエネルギーの減少は、電力線電圧が低下する側に作用する。
下り線の電気車M2による電力回生によって、電力線の系全体のエネルギーが増加する。
【0023】
(3)このとき電源PSは電力線への電力供給とともに、通過させる電力を調整して、電力線の系全体のエネルギーを調整することで、電力線電圧を一定に維持するよう調整する。
【0024】
(4)しかし、上述の系全体のエネルギーの増減による事象とは別に、上り線の電気車M1に向かって流れる電流と、その電流による電力線上での電圧降下によって、上り線の電気車M1の位置における電力線電圧v1は、電源電圧v0よりも低くなる。
【0025】
等価回路的には、
v1=v0-i1×(r11+r12)<v0
ということを意味する。
【0026】
(5)同様に、下り線の電気車M2から流れる電流と、その電流による電力線上での電圧降下によって下り線の電気車M2の位置における電力線電圧v2は、電源電圧よりも高くなる。
【0027】
等価回路的には、
v2=v0+i2×(r21+r22)>v0
このため、以下のような問題が生じる。
【0028】
(A)上り線の電気車M1にて、電力線電圧v1が低下すると、上り線の電気車M1が速度維持、加速等に用いることができるエネルギーが低減するため、加速度が低下するという問題、また、その結果として速度が低下するという問題が生じる。
【0029】
(B)下り線の電気車M2にて、下り線の電気車M2から電力線への電力供給により電力線電圧が上昇すると、下り線の電気車M2の電圧耐量を超過する、あるいは、それを避けるために電源PSから電力線への電圧を予め低下させるという手段もあるが、これは上り線の電気車M1の駆動力を低下させるという別の問題を引き起こす。
【0030】
(C)参考例として、
図5に示すように、
図4では電源PSが1つであるのに対し、上り線用の第1の電源PS1と、下り線用の第2の電源PS2とに分けて電源PSを構成し、第1の電源PS1の電圧を高く、第2の電源PS2の電圧を低く設定することも考えられる。しかしこの場合も、この場合では電源PSのコストが単純には倍増する。また相互に電圧が異なる状態で、末端で接続される上り側の高電圧側電力線1Aと下り側の高電圧側電力線2Aの間での電流の抑制が新たな課題として生じることになる。
【0031】
図1は、
図3に対し、電気車が複数台走行している場合の図である。上り線、下り線それぞれで、複数台の電気車の存在により、上述の下り線での電力線電圧の上昇、また上り線での電力線電圧の低下が、より一層増大することになる。
【0032】
図2は、電気車システムの別例の説明図である。
図1との違いは、上り側の低電圧側電力線1Bや下り側の低電圧側電力線2Bがレールでは無く架空電力線として構成されていることである。RD1、RD2は路面を示す。
図2では、上り側の高電圧側電力線1Aからの電力は第1の導電ポールを介し上り線の電気車M1に供給され、そして第2の導電ポールを介して上り側の低電圧側電力線1Bへと流れることになる。同様に、下り側の高電圧側電力線2Aからの電力は、別の第1の導電ポールを介し下り線の電気車M2に供給され、そして別の第2の導電ポールを介して下り側の低電圧側電力線2Bへと流れることになる。
【0033】
図2の例は、電気トラックのような用途に好適である。また、傾斜が急で、ゴムタイヤ駆動用のような非金属による車輪を具備する場合、
図1の代わりに
図2の構成を用いることになる。
【0034】
また、電源PSが交流の場合、
図2の構成では、高電圧側の構成と、低電圧側の構成を同条件にできるため、特に交流が電力線に供給される場合は本構成が好適である。
【0035】
下り線での電力線電圧の上昇が生じた場合、その電圧の上昇が過大となった際は、電気車の電気系装備の耐圧を超えるという問題ある。これを超過しての使用は、寿命の低下や、最悪破損につながることになる。また、電力線への電力回生ができないことにより、回生ブレーキの効力が低下し、結果、電気車の速度が望む値まで降下できず、あるいは機械的ブレーキの負担が増加するという問題が生じる。
【0036】
そこで、本実施例の電気車では、電気車へ供給される架線電圧、あるいは電気車内の回路電圧が定められた範囲を逸脱した際は、上り側あるいは力行状態の場合は電気車内のエネルギーにより駆動され、また下り側あるいは抑速状態の場合は電気車内にエネルギーを蓄積あるいは電気車内でエネルギーを消費するように駆動されることを特徴とする。
【0037】
図6(a)は、本実施例の電気車の一例として、通常走行時の状態を示す。架線1からの電力がパンタグラフPTを経由してパワーコントローラPCに入力され、パワーコントローラPCからの出力によりモータMTが駆動される。なお、上り線の例で示したが、下り線の例ではMTは回生発電機として機能し、パワーコントローラPCにより電力変換されパンタグラフPTより架線1に回生電力が供給されることになる。
【0038】
図6(b)は、電気車へ供給される架線電圧、あるいは電気車内の回路電圧が定められた範囲を逸脱した際に、パンタグラフPTを架線1から離間させ、架線との間の電力のやりとりを解除した状態を示す。電力検知センサ(図示せず)が、電気車へ供給される架線電圧、あるいは電気車内の回路電圧を測定し、コントローラCTが、定められた範囲からの逸脱を判断した際に、パンタグラフPTを架線1から離間させる指令を出し、パンタグラフPTが架線1から離間した状態である。
【0039】
このとき、上り線での場合は、
図6(b)に示すように、バッテリー(電源装置)BATからパワーコントローラPCに電力が供給され、該電力によりモータMTが駆動される。なお、バッテリーBATは、静的な手段に限定するものではなく、動的な手段、一例としてはエンジンや、補助発電機により電力が供給される場合も含むものである。また、モータMTは、車輪やタイヤに近接してあるいは一体に設置されたものに限定されるものではなく、電気車の車体本体に搭載されドライブトレーンを経由して車輪やタイヤを駆動する場合も当然含むものである。
【0040】
なお、上り線での離脱が必要となるのは、主に電気車へ供給される架線電圧、あるいは電気車内の回路電圧が定められた範囲を下方に逸脱した際である。この場合、系統の安定性と、電力不足による電気車の動作性能低下を抑止するため、架線から電気的に切り離すものである。これにより、架線電圧は回復に向かい、系統の安定性が回復方向に向かうようにすることができる。
【0041】
一方、下り線での離脱が必要となるのは、回生の電力が過剰となり、架線に回生供給される電力が過剰となり、架線電圧、あるいは電気車内の回路電圧が定められた範囲を上方に逸脱した際である。この場合、系統の安定性と、電圧の過大による回生失効あるいは電機品の破損防止ため、架線から電気的に切り離すものである。これにより、架線電圧は回復に向かい、系統の安定性が回復方向に向かうようにすることができる。
【0042】
また、下り線での場合は、
図7(a)に示すように、モータMTは発電機として機能し、パワーコントローラPCを介し負荷LDで消費されることにより回生ブレーキが働く。これにより、架線電圧、あるいは電気車内の回路電圧が定められた範囲を逸脱した際に、パンタグラフPTを架線1から離間させ、架線との間の電力のやりとりを解除した状態であっても、回生ブレーキを有効に機能させることが可能となる。
【0043】
図7(b)は、
図7(a)の負荷LDの代わりに、パワーコントローラPCで電力を変換し、バッテリーBATに充電することにより回生ブレーキを機能させることを示す図である。この場合、充電された電力を上り時に有効活用でき、電力の有効活用が実現する。
【0044】
図7(c)は、負荷LDとバッテリーBATを、状況に応じパワーコントローラPCが適切に電力を配分する例を示す図である。回生電力が大きい際には、バッテリーBATの短時間あたりの充電能力を超える場合、余剰分を負荷LDで消費することでバッテリーの劣化を抑止することができる。むろん、バッテリーBTが満充電あるいはそれに近い場合も、同様に回生電力を適切に配分することが可能となる。
【実施例2】
【0045】
図8は、
図6(a)に対応する図である。違いは、パンタグラフPTとパワーコントローラPCの間に、開閉装置SWが設けられていることである。これにより、
図6(b)のようにパンタグラフPTを物理的に架線1と離脱させることなく、開閉装置SWで電力を遮断することで、架線1から電気車を電気的に離脱させることが実現する。
【0046】
パンタグラフPTの収納や折り畳み等の機械的動作により、架線と電気車を電気的に分離する場合、動作時間を必要とするため、特に再接続時に時間を要する形となる。これに対し、開閉装置SWによる動作は、パンタグラフPTに対し小型のものであり、また開閉装置SW内の接点間距離もパンタグラフPTと架線1の離脱時の間隔より小さいものとなるため、ほぼ瞬時に再接続が可能となる。これにより、より効率的かつスムーズな電気車の電力面での運用が可能となる。特に、再接続により、再接続後の架線電圧が変動を受けるが、再接続により定められた範囲を逸脱することになった際は、再度短時間で再離脱することが望ましい。開閉装置SWの採用は、このような電源接続のON/OFFの高速化が実現するため、電気車システム全体の安定に有効である。
【0047】
開閉装置SWには、減流抵抗などにより、電流値の異なる複数の系統を設け、それを順次投入するようにしてもよい。架線1との電気的な接続を段階的とすることができ、再接続時の系統の電気的な安定性や影響を確認しながら再接続することが可能となるためである。また、該複数の系統は、安定的な接続の確保後は減流抵抗のない系統のみで接続するようにしても良い。この場合、減流抵抗による電力消費を抑制できるためである。
【0048】
また、開閉装置SWは、機械的な開閉装置に限定せず、半導体式の開閉装置も含むものである。
【0049】
図9は、
図6(b)に対応する図であり、パンタグラフPTの下降の代わりに開閉装置SWをOFFにし、バッテリーBATからの電力によりモータMTを駆動する状態を示した図である。また、
図10は
図7(a)に対応した図であり、下り時にモータMTが発電機として機能し、その電力がパワーコントローラPCより負荷LDに供給され、負荷LDで消費されることにより回生ブレーキとして機能する状態を示した図である。なお、図示しないが、
図7(b)、
図7(c)と同様に、モータMTからの電力はバッテリーBATに充電され、あるいはパワーコントローラPCによりバッテリーBATと負荷LDに配分されても良い。
【実施例3】
【0050】
実施例3と実施例2の違いは、スイッチSWの機能をパワーコントローラPCに一体化した点にある。これにより、ハード点数の削減と、より柔軟な制御が実現できる。
図11は上り時の状態で、架線の電圧降下が生じた際、不足電力をバッテリーBTから補うことで、継続して安定した登坂や加速、速度維持が実現する。
図12は下り時の状態で、回生電力の一部を負荷LDで消費したり、あるいはバッテリーBATに一部充電し、残りを架線に回生電力として戻すことで、架線電圧の回生電力による過度な上昇を抑止し、定められた電圧範囲からの逸脱を抑止することができる。
【実施例4】
【0051】
図3に模式的に示すように、電気車が上り下りに1台のみ存在する際は、上記実施例1~3の構成のみにて架線電圧の定められた範囲からの逸脱は容易に抑止できる。しかし、電気車が使われる際には、
図1に模式的に示すように、上り線、下り線に、同時に複数台が走行している状況も想定される。
【0052】
このような複数台走行の際、仮に、全ての電気車が、同一のルールに従って、一斉に架線との電気的接続のON/OFFを行ってしまうと、例えば10台中1台のみ電気的に離脱すれば正常範囲に復帰できるような際にも、一斉に内部電力利用あるいは内部電力消費に切り替わることになり、電気車システム全体として非効率な状態となってしまう。
【0053】
そこで、電気車が複数台走行している際には、そのうちの一部をまずは電気的に架線から離脱するようにして、正常範囲への復帰を試行し、それでも正常範囲に至らない際は、追加でさらに離脱するようにと、順次進めることが望ましい。
【0054】
この離脱は、各電気車の車上の電圧検知センサにより、各車の反応の早い順に、離脱処理を行うこともできる。
【0055】
このため、各車両に搭載するセンサの検出速度にばらつきを設けることにより、この順番の自発的決定を容易にすることができる。
【0056】
一例として、センサで検出された値をデジタル化した後、一定のタイムウエイトを設定する。このウエイトの値を電気車毎に異ならせる、あるいは複数台単位で異ならせる。これは運用環境に柔軟に対応するため、車上あるいは遠隔で設定可能としてもよい。車両の電気システムの管制を行うコントローラCTは、センサで逸脱を確認後、自車が架線からの電気的遮断処理指令をパンタグラフPTや開閉装置SW、あるいはパワーコントローラPCに出すまでは、その設定されたウエイトの間待った後に指令を出す。もしそのウエイトの時間内に、センサの検出値が正常範囲に復帰した場合、遮断を行うと、系全体として過剰な遮断となり全体の効率が低下するため、遮断指令の出力前に正常範囲の復帰を確認した際は、遮断指令の出力を中止することにより、過剰な遮断を防止することができる。
【実施例5】
【0057】
本実施例と実施例4の大きな違いは、どの電気車から遮断するかの設定の仕方にある。
【0058】
図13は横軸に電気車の走行経路をイメージ的に示している。第1のポジションPST1で電気車は架線に接続され、上り走行を始める。
【0059】
上り走行を継続し、第2のポジションPST2で上り側の行程を終了する。
【0060】
この後第3のポジションPST3までは、架線に接続されたまま運搬や、人、荷物や、土砂あるいは鉱石等の積載、積み下ろしを行っても良い。または、PST2からPST3までの間は、架線を外れ、自立走行により運搬や、人、荷物や、土砂あるいは鉱石等の積載、積み下ろしを行なっても良い。
【0061】
次に第3のポジションPST3で架線に接続され、下り走行を始める。
【0062】
下り走行を継続し、第4のポジションPST4で下り側の行程を終了する。
【0063】
この後、再度第1のポジションPST1にループし、PST1までは、架線に接続されたまま運搬や、人、荷物や、土砂あるいは鉱石等の積載、積み下ろしを行っても良い。または、PST4からPST1までの間は、架線を外れ、自立走行により運搬や、人、荷物や、土砂あるいは鉱石等の積載、積み下ろしを行なっても良い。
【0064】
上述のように、主な架線への侵入箇所は、PST1とPST3として特定されるため、PST1やPST3を通過時に、電気車全体を統括する中央センタCCから、離脱処理を行う電気車をPST通過時に特定して指示しても良い。指示を受けた電気車は、自車のコントローラCTに、離脱対象であることを設定し、センサでの電圧の常時監視を開始する。あるいは、中央センタCCから、離脱処理を行う優先順位を、PST通過時に電気車に指示しても良い。これにより電気車は、実施例4でのタイムウエイトを、指示された優先順が高いほど短く設定することができる。
【実施例6】
【0065】
本実施例と実施例4および実施例5の大きな違いは、どの電気車から遮断するかの設定の仕方にある。
【0066】
本実施例では、予め遮断する電気車を特定しておく。
【0067】
数十台規模で電気車が常時走行するような大規模な系統では、予め遮断する電気車を複数台特定しておいても、その電気車は平均的に分散することが期待される。このため、
図14に示すように、M5とM6をそれぞれ離脱対象として特定しておくような運用も可能である。さらに台数が多い際は、さらにM10とM11、M15とM16のように事前設定しておく運用である。
【0068】
この場合、随時の設定作業の省略が可能となり、運用上の利便性が向上する。
【実施例7】
【0069】
本実施例と実施例4および実施例5の大きな違いは、どの電気車から遮断するかの設定の仕方にある。
【0070】
図15に本実施例の概念を示す。各電気車は、車上のコントローラCTと中央センタCCが無線通信で接続されており、各電気車のセンサが検出した電圧値が随時中央センタCCに連絡される。中央センタCCは、電圧の状態を判断し、離脱する電気車を決定し、当該電気車に離脱指令を出す。離脱指令を受けた電気車は、架線との電気的接続の遮断を行い、電気系全体の、定められた範囲からの逸脱、あるいは逸脱傾向の回復を行う。
【0071】
また、中央センタCCは、離脱指令を出す電気車を決定する際に、各電気車の位置、速度、勾配、走行先の地形等のいずれか、あるいは複数を考慮し、電気車の性能低下が生じにくい順に、あるいはより系統の安定化に効率的な順に、離脱指令を出す電気車を決定することも望ましい。この場合、さらに効率的な電気車群の運用が実現する。
【0072】
また、勾配や地形、走行情報の収集等の目的で、各電気車にGPSのような位置特定手段を積載し、当該情報を合わせて中央センタCCに集約し、離脱指令を出す電気車を決定する際に利用しても良い。容易に、高精度な情報が確保できるようになるためである。
【実施例8】
【0073】
本実施例と実施例7の大きな違いは、どの電気車から遮断するかの設定の仕方にある。
【0074】
図16に本実施例の概念を示す。
図15では、中央センタCCと各電気車が1:1で対応していたが、本実施例では
図16のように、上り側の電気車群M(ODD)と、下り側の電気車群M(EVEN)が各群内で無線通信により相互通信し、各群で自立的に離脱する電気車を決定する点にある。この場合、中央センタCCを有さない場合、あるいは中央センタCCからの距離が離れた位置まで架線が設置されている場合も、良好な無線通信環境を維持できるため、通信障害による離脱判断の遅れを回避することができる。
【0075】
換言すれば、実施例7の中央制御型に対し、本実施例は自律分散制御型ということもできる。
【0076】
また、同じ群内でも、仮に架線の総延長が長大である場合や、無線通信環境が劣悪な場合には、相互通信可能な電気車のみでサブの群を形成し、その群内で離脱の要否や離脱する電気車を決定することもできる。これにより、種々の電気車の使用環境に対し、より確実な運用が可能となる。
【実施例9】
【0077】
本実施例と実施例8の大きな違いは、どの電気車から遮断するかの設定の仕方にある。
【0078】
図17に本実施例の概念を示す。
図16では、上りと下りでそれぞれ群を構成していたが、本実施例では全体で群を構成した点である。
【0079】
これにより、中央センタCCといった特定設備が不要となり、運用コストの低下を期待することができる。
【実施例10】
【0080】
本実施例と実施例8の大きな違いは、どの電気車から遮断するかの設定の仕方にある。
【0081】
図18に本実施例の概念を示す。本実施例では、上りと下りを分けず、近接する電気車間で群を構成した点にある。
【0082】
本実施例の場合、同じ上り線、あるいは下り線の内、群に所属する電気車の台数は低減するが、無線通信環境が悪い場合にも対応可能となる利点がある。
【実施例11】
【0083】
図1のように、上り線、下り線それぞれに複数の電気車が走行する場合、電気車へ供給される架線電圧、あるいは電気車内の回路電圧が定められた範囲を逸脱した際に、電気車を架線との電気的接続から離脱させた際に生じる事象は、一例として次のようになる。
(A)電力線に接続された電気車の回路電圧が一定範囲の下限を下回って逸脱したときの場合である。
【0084】
上り線で力行する電気車が架線から解列すると、電力線の系全体のエネルギーが増加するために、電力線に接続されたままの他の電気車の回路電圧は上昇して一定範囲の側に戻るように作用する。
【0085】
一方、下り線で抑速・回生制動する電気車が架線から解列すると、架線の系全体の電力エネルギーが減少するために、他の電気車の回路電圧はさらに低下して一定範囲からの逸脱が大きくなる。
【0086】
すなわち、下限を下回って逸脱した際には、上り線の電気車を離脱させることが必要となる。
(B)電力線に接続された電気車の回路電圧が一定範囲の上限を上回って逸脱したときの場合である。
【0087】
下り線で抑速・回生制動する電気車が架線から解列すると、電力線の系全体のエネルギーが減少するために、架線に接続されたままの他の電気車の回路電圧は低下して一定範囲の側に戻るように作用する。
【0088】
一方、上り線で力行する電気車が電力線から解列すると、架線の系全体のエネルギーが増加するために、架線に接続されたままの他の電気車の回路電圧はさらに上昇して一定範囲からの逸脱が大きくなる。
【0089】
すなわち、上限を上回って逸脱した際には、下り線の電気車を離脱させることが必要となる。
【0090】
そこで本実施例では、電力線に接続された電気車の回路の電圧があらかじめ設定した一定範囲を逸脱した状態が予め設定した一定の確認時間以上継続したときに、電気車が電力線から解列するようにし、さらに力行時と抑速・制動時で、解列のしやすさに差をつけることを特徴とする。
【0091】
力行時と抑速・制動時で、解列のしやすさに差をつける仕組みのひとつとして、力行時と抑速・制動時で、電圧が一定範囲から逸脱した状態の確認時間に差をつけることがある。
【0092】
回路電圧が一定範囲の上限を上回って逸脱した場合の確認時間については、力行時の確認時間を、抑速・制動時の確認時間よりも長くする。逆に、回路電圧が一定範囲の下限を下回って逸脱した場合の確認時間については、抑速・制動時の確認時間を、力行時の確認時間よりも長くする。
【0093】
すなわち、回路電圧が一定範囲よりも高い場合には抑速・制動車よりも力行車の方が解列確認時間が長く、回路電圧が一定範囲よりも低い場合には、力行車よりも抑速・制動車の方が解列確認時間が長くなるようにする。
【0094】
このようにすることで、以下の効果を得て、問題を解決することができる。
【0095】
電力線に接続された電気車の回路電圧が一定範囲の下限を下回って逸脱したときに、抑速・制動する電気車よりも先に、力行する電気車が電力線から解列するようになるため、電気車の電力線からの解列によっては、電力線の系全体のエネルギーが増加して、電力線に接続されたままの他の電気車の回路電圧は上昇して一定範囲の側に戻るようにのみ作用する。
【0096】
これにより、回路電圧の逸脱が助長される側に作用しないため、電気車の連鎖的な解列が生じなくなる。
【0097】
逆に、電力線に接続された電気車の回路電圧が一定範囲の上限を上回って逸脱したときに、力行する電気車よりも先に、抑速・制動する電気車が電力線から解列するようになるため、電気車の電力線からの解列によっては、電力線の系全体のエネルギーが減少して、電力線に接続されたままの他の電気車の回路電圧は低下して一定範囲の側に戻るようにのみ作用する。
【0098】
これにより、回路電圧の逸脱が助長される側に作用しないため、電気車の連鎖的な解列が生じなくなる。
【0099】
これは、換言すると次のようになる。
【0100】
電気車の走行状態、すなわち、力行状態か、抑速・制動状態かを電気車のコントローラCT等が判断し、その判断結果に応じ、解列確認時間の長さを、回路電圧が一定範囲より
(A)抑速・制動状態:高い場合<低い場合、
(B)力行状態:高い場合>低い場合
とすることを意味する。
【0101】
本実施例では、電気車本体の走行状態に応じて、電気車が電力線から解列する際の判断となる電圧範囲に差を設けることで、各電気車単独で系統の安定化方向への離脱処理が可能となり、電気車システム全体の安定運用が実現する。
【実施例12】
【0102】
本実施例と実施例11の違いは、解列のしやすさに差をつける仕組みとして、実施例11とは異なる仕組みを用いた点にある。
【0103】
本実施例では、力行時と抑速・制動時で、解列のしやすさに差をつける別の仕組みとして、力行時と抑速・制動時で、回路電圧の一定範囲・電圧逸脱のレベルに差をつけるものである。一例として、力行時の回路電圧の一定範囲のレンジを、抑速・制動時のそれよりも高くする。このようにすることで、抑速・制動車において回路電圧が一定範囲の上限を上回って逸脱した場合でも、力行車においては回路電圧が一定範囲から逸脱せず、走行を安定継続できる。そして抑速・制動車の離脱により、電力系の電圧は低下に向かい、所定範囲に戻る方向となり、電力系全体が安定化に向かう。
【0104】
逆に、力行車において回路電圧が一定範囲の下限を下回って逸脱した場合でも、抑速・制動車においては回路電圧が一定範囲から逸脱しなくなり、回生電圧の供給の継続が実現する。この際、電力の消費者たる力行車の離脱により、電力系の電圧は上昇に向かい、所定範囲に戻る方向となり、電力系全体が安定化に向かう。
【0105】
これは、換言すると次のようになる。
【0106】
電気車の走行状態、すなわち、力行状態か、抑速・制動状態かを電気車のコントローラCT等が判断し、その判断結果に応じ、回路電圧の一定範囲のレンジを、
力行状態>抑速・制動状態
とすることである。
【0107】
本実施例では、電気車本体の走行状態に応じて、電気車が電力線から解列する際の判断となる電圧範囲に差を設けることで、各電気車単独で系統の安定化方向への離脱処理が可能となり、電気車システム全体の安定運用が実現する。
【0108】
上記各実施例は、単独で実施する場合も、また可能な際は相互に組み合わせて実施した場合も本明細書の開示範囲に含むものである。
【符号の説明】
【0109】
1 架線
1A 上り側の高電圧側電力線
2A 下り側の高電圧側電力線
1B 上り側の低電圧側電力線
2B 下り側の低電圧側電力線
PT、PT1、PT2 パンタグラフ(集電装置)
M 電気車
M1 上り線の電気車
M2 下り線の電気車
RD1,RD2 路面
50 勾配
PS 電源
CT コントローラ
BAT バッテリー(電源装置)
PC パワーコントローラ
LD 負荷
MT モータ
SW 開閉装置
CC 中央センタ