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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-20
(45)【発行日】2024-02-29
(54)【発明の名称】距離測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 17/89 20200101AFI20240221BHJP
   G01S 17/86 20200101ALI20240221BHJP
   G01C 3/06 20060101ALI20240221BHJP
【FI】
G01S17/89
G01S17/86
G01C3/06 120Q
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023552909
(86)(22)【出願日】2022-10-04
(86)【国際出願番号】 JP2022037197
(87)【国際公開番号】W WO2023058666
(87)【国際公開日】2023-04-13
【審査請求日】2023-10-31
(31)【優先権主張番号】P 2021163775
(32)【優先日】2021-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】513306291
【氏名又は名称】株式会社ブルービジョン
(74)【代理人】
【識別番号】100115716
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 隆雄
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 孝美
【審査官】藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-071976(JP,A)
【文献】特開2000-221007(JP,A)
【文献】特許第5992116(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2013/0107005(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/48- 7/51
G01S 17/00-17/95
G01C 3/00- 3/32
G01B 11/00-11/30
H01L 27/146
H04N 25/705
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
近赤外光を発光して、被写体に前記近赤外光を照射する発光素子と、
被写体から同一の光軸を通る反射光を可視光と前記近赤外光とに分離して、前記可視光と前記近赤外光とをそれぞれ出力する光分離部と、
前記光分離部から出力された前記近赤外光を受光して、距離画像を生成する距離画像センサと、
前記光分離部から出力された前記可視光を受光して、被写体画像を生成する撮像センサと、
所定ブロック毎に、前記撮像センサにより生成された前記被写体画像に基づいて前記被写体の素材及び色を検出し、検出した素材及び色に対応する前記被写体の光反射率に基づいて補正信号を演算する補正信号演算部と、
前記所定ブロック毎に、前記補正信号生成部により演算された前記補正信号と、前記距離画像センサで生成された距離画像と、を用いて、前記被写体までの距離を測定する距離測定部と、
を備えた距離測定装置。
【請求項2】
近赤外光を発光して、被写体に前記近赤外光を照射する発光素子と、
被写体から同一の光軸を通る反射光を可視光と前記近赤外光とに分離して、前記可視光と前記近赤外光とをそれぞれ出力する光分離部と、
前記光分離部から出力された前記近赤外光を受光して、距離画像を生成する距離画像センサと、
前記光分離部から出力された前記可視光を受光して、被写体画像を生成する撮像センサと、
前記所定ブロック毎に、前記撮像センサにより生成された前記被写体画像に基づいて前記被写体の傾きを検出し、検出した傾きに基づいて補正信号を演算する補正信号演算部と、
前記所定ブロック毎に、前記補正信号生成部により演算された前記補正信号と、前記距離画像センサで生成された距離画像と、を用いて、前記被写体までの距離を測定する距離測定部と、
を備えた距離測定装置。
【請求項3】
近赤外光を発光して、被写体に前記近赤外光を照射する発光素子と、
被写体から同一の光軸を通る反射光を可視光と前記近赤外光とに分離して、前記可視光と前記近赤外光とをそれぞれ出力する光分離部と、
前記光分離部から出力された前記近赤外光を受光して、距離画像を生成する距離画像センサと、
前記光分離部から出力された前記可視光を受光して、被写体画像を生成する撮像センサと、
前記所定ブロック毎に、前記撮像センサにより生成された前記被写体画像と、予め記憶された太陽光の分光特性と、に基づいて、近赤外光の波長帯における外乱光の信号値を示す補正信号を演算する補正信号演算部と、
前記所定ブロック毎に、前記補正信号生成部により演算された前記補正信号と、前記距離画像センサで生成された距離画像と、を用いて、前記被写体までの距離を測定する距離測定部と、
を備えた距離測定装置。
【請求項4】
前記所定ブロックは、一画素又は複数の画素で構成された領域である
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の距離測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、距離測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、可視光に加えて近赤外の波長領域に感度を有するイメージセンサ及び前記イメージセンサが入手した画像情報を処理する画像信号処理部を備えたカメラと、近赤外光を前記カメラの撮像領域に照射する近赤外線照射手段と、前記カメラの出力画像を表示するモニタと、を備えた距離測定カメラシステムが開示されている(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1において、イメージセンサは、近赤外線照射手段の照射光が対象物に反射してイメージセンサに到達するまでの光の時間差情報を画素毎に取得する。画像信号処理部は、イメージセンサが取得した光の時間差情報を基に、画素毎に距離を算出して距離に応じた色或いは明るさ情報を出力する。これにより、モニタには、距離に応じて色を変化させた或いは明るさを変化させた画像が表示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2021-092420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、被写体までの距離が同じ場合であっても、被写体の素材、配色又は向きが異なると、被写体の光反射率が異なることから、正確に測定できない問題がある。また、同一の被写体であっても、被写体の傾きが変化すると、被写体の光反射率も変化してしまう。さらに、予期せぬ散乱光または外乱光が大きいと、イメージセンサに外乱光等が入射してしまい、正確に測定できないこともある。
【0006】
本発明は、このような実情を鑑みて提案されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る距離測定装置は、近赤外光を発光して、被写体に前記近赤外光を照射する発光素子と、被写体から同一の光軸を通る反射光を可視光と前記近赤外光とに分離して、前記可視光と前記近赤外光とをそれぞれ出力する光分離部と、前記光分離部から出力された前記近赤外光を受光して、距離画像を生成する距離画像センサと、前記光分離部から出力された前記可視光を受光して、被写体画像を生成する撮像センサと、所定ブロック毎に、前記撮像センサにより生成された前記被写体画像に基づいて前記被写体の素材及び色を検出し、検出した素材及び色に対応する前記被写体の光反射率に基づいて補正信号を演算する補正信号演算部と、前記所定ブロック毎に、前記補正信号生成部により演算された前記補正信号と、前記距離画像センサで生成された距離画像と、を用いて、前記被写体までの距離を測定する距離測定部と、を備えている。
本発明に係る距離測定装置は、近赤外光を発光して、被写体に前記近赤外光を照射する発光素子と、被写体から同一の光軸を通る反射光を可視光と前記近赤外光とに分離して、前記可視光と前記近赤外光とをそれぞれ出力する光分離部と、前記光分離部から出力された前記近赤外光を受光して、距離画像を生成する距離画像センサと、前記光分離部から出力された前記可視光を受光して、被写体画像を生成する撮像センサと、前記所定ブロック毎に、前記撮像センサにより生成された前記被写体画像に基づいて前記被写体の傾きを検出し、検出した傾きに基づいて補正信号を演算する補正信号演算部と、前記所定ブロック毎に、前記補正信号生成部により演算された前記補正信号と、前記距離画像センサで生成された距離画像と、を用いて、前記被写体までの距離を測定する距離測定部と、を備えている。
本発明に係る距離測定装置は、近赤外光を発光して、被写体に前記近赤外光を照射する発光素子と、被写体から同一の光軸を通る反射光を可視光と前記近赤外光とに分離して、前記可視光と前記近赤外光とをそれぞれ出力する光分離部と、前記光分離部から出力された前記近赤外光を受光して、距離画像を生成する距離画像センサと、前記光分離部から出力された前記可視光を受光して、被写体画像を生成する撮像センサと、前記所定ブロック毎に、前記撮像センサにより生成された前記被写体画像と、予め記憶された太陽光の分光特性と、に基づいて、近赤外光の波長帯における外乱光の信号値を示す補正信号を演算する補正信号演算部と、前記所定ブロック毎に、前記補正信号生成部により演算された前記補正信号と、前記距離画像センサで生成された距離画像と、を用いて、前記被写体までの距離を測定する距離測定部と、を備えている。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、被写体や外部環境に影響されることなく、被写体までの距離を高精度に測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、距離測定装置の構成を示すブロック図である。
図2図2は、反射率テーブルを示す図である。
図3図3は、距離測定装置に対して正対するときの黄色の立方体状の段ボール箱を示す模式図である。
図4図4は、傾いたときの段ボール箱を示す模式図である。
図5図5は、段ボール箱の傾きθを示す模式図である。
図6図6は、TOFセンサのフレーム毎の信号出力レベルを示す図である。
図7図7は、太陽光の分光特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、距離測定装置1の構成を示すブロック図である。距離測定装置1は、被写体で反射された光を集光するレンズ11と、レンズ11からの光を可視光と近赤外光とに分離するビームスプリッタ12と、ビームスプリッタ12からの可視光に応じた画像信号(被写体画像)を生成するベイヤーセンサ13と、ベイヤーセンサ13で生成された被写体画像に所定の信号処理を施す第1信号処理部14と、を備えている。
【0011】
さらに、距離測定装置1は、ビームスプリッタ12からの近赤外光に応じた画像信号(距離画像)を生成するTOF(Time Of Flight)センサ15と、TOFセンサ15で生成された距離画像に所定の信号処理を施す第2信号処理部16と、被写体からの距離情報を演算する測定部17と、所定波長のパルス状の近赤外光を出力するLED光源18と、LED光源18の発光を制御する光源制御部19と、を備えている。
【0012】
被写体には、自然光又は照明光だけでなく、LED光源18からの近赤外光(例えば波長850nm)が照射される。被写体で反射された光は、レンズ11を経由して、ビームスプリッタ12に入射する。
【0013】
ビームスプリッタ12は、2個の直角プリズムで構成されている。各直角プリズムの斜辺の面は、互いに対向するように貼り合わされている。ビームスプリッタ12に入射された光のうちの可視光(例えば波長450~700nm)は、貼り合わせ面(反射面)で反射した後、そのまま直進してベイヤーセンサ13に入射される。一方、ビームスプリッタ12に入射された光のうちの近赤外光(例えば波長750~1000nm)は、反射面を透過して、TOFセンサ15に入射される。
【0014】
すなわち、ビームスプリッタ12は、被写体から同一の光軸を通って入射された光を、可視光と近赤外光とに分離する。本実施形態では、近赤外光は、主に、LED光源18から出力されたものである。なお、可視光と近赤外光のそれぞれの帯域は、一例であり、本実施形態の数値に限定されるものではない。また、LED光源18の代わりに、レーザ光源を用いても良い。
【0015】
ベイヤーセンサ13は、例えばマトリクス状に配列された複数の受光素子を有している。すなわち、ベイヤーセンサ13は、各受光素子にカラーフィルタがベイヤー配列されたイメージセンサである。ベイヤーセンサ13は、ビームスプリッタ12からの可視光に応じて被写体画像を生成する。第1信号処理部14は、ベイヤーセンサ13で生成された被写体画像に所定の信号処理を行う。
【0016】
TOFセンサ15は、例えばマトリクス状に配列された複数の受光素子(画素)を有する距離画像センサである。なお、ベイヤーセンサ13とTOFセンサ15の各々の画素は、大きさも数も同じではない。但し、スケーリング処理によって、ベイヤーセンサ13とTOFセンサ15の各々の画素が対応する。このため、TOFセンサ15の各画素の信号値は、後述するように、ベイヤーセンサ13の対応する各画素の信号値によって補正される。また、ビームスプリッタ12からベイヤーセンサ13までの距離と、ビームスプリッタ12からTOFセンサ15までの距離は、ほぼ等しい。
【0017】
TOFセンサ15は、ビームスプリッタ12からの近赤外光に応じて距離画像を生成する。第2信号処理部16は、TOFセンサ15で生成された距離画像に所定の信号処理を行う。
【0018】
測定部17は、データ記憶部、演算処理部等を有するコンピュータである。測定部17は、第1信号処理部14から出力される被写体画像を用いて、第2信号処理部16から出力される距離画像を補正することによって、被写体までの距離を高精度に示す距離画像を生成する。
【0019】
測定部17は、最初に、LED光源18から出力された近赤外光(基準信号)と、TOFセンサ15で受光された近赤外光(反射信号)と、の位相差を画素毎に検出する。この位相差が距離情報に相当する。測定部17は、その位相差に基づいて、画素毎に、被写体までの距離情報を示す距離画像を演算する。
【0020】
測定部17は、次に、ベイヤーセンサ13で受光された可視光に基づく被写体画像を用いて、画素毎に補正情報を演算する。測定部17は、最後に、画素毎に、補正情報を用いて距離画像を補正して、被写体までの距離を高精度に示す距離画像を演算する。
【0021】
以下、補正情報について、詳しく説明する。
(被写体の素材・配色に関する補正)
一般に、光の反射率は、光が入射・反射される物体(被写体)毎に異なる。また、同一の物体であっても、物体の色毎に、光の反射率が異なる。このため、実際には同一の距離であっても、被写体の物体又は色が異なると、測定される距離画像が異なってしまう。例えば、被写体が白紙と黒紙の場合、距離測定装置1から白紙及び黒紙までのそれぞれの距離が同じ場合でも、測定される距離画像が異なることがある。そこで、本実施形態では、測定部17は、予め反射率テーブルを記憶している。
【0022】
図2は、反射率テーブルを示す図である。反射率テーブルは、物体毎に、その物体の様々な色毎に、対応する反射率を示している。例えば、木材の色が黄色、黄土色、焦げ茶色の場合、反射率はr1、r2、r3となる。なお、これらの反射率は、距離測定装置1に対して正対した状態の値である。
【0023】
測定部17は、被写体として想定される物体の画像を用いて予め学習処理を行うことによって、上記の反射率テーブルを作成する。なお、反射率テーブルは、学習処理によって作成されたものに限らず、既知のデータとして予め設定されたものでもよい。
【0024】
測定部17は、ベイヤーセンサ13から得られた被写体画像に基づいて、画素毎に、被写体の素材及び配色を決定し、反射率テーブルを参照して、その被写体の素材及び配色に対応する反射率を選択する。これにより、被写体の反射率を正確に求めることができる。
【0025】
なお、この反射率は、距離測定装置1に対して被写体が正対している場合のものである。以下、正対時の反射率をR1する。但し、被写体は常に正対しているとは限らないため、次のことを考慮する必要がある。
【0026】
(被写体の傾きに関する補正)
同一の物体及び色であっても、距離測定装置1に対して物体が正対しているか、又は斜めになっているかによって、反射率Rが異なる。通常、物体が正対する時の反射率Raは、物体が傾いている時の反射率Rbに比べて大きくなる(Ra>Rb)。
【0027】
ここで、被写体への放射エネルギーをLout、TOFセンサ15への入射エネルギーをLin、反射率をRとすると、次の式が成立する。
Lin=Lout×R
【0028】
このため、被写体が正対する時に比べて傾いている場合、反射率R1,R2が異なるので、TOFセンサ15で得られる距離画像の精度が低下する。
【0029】
ここで、被写体が黄色の段ボール箱である場合について考える。このとき、距離測定装置1に対して被写体が正対しているときの被写体画像の一画素の信号をVsyとすると、次の式が成り立つ。
Vsy=aR+bG+cB・・・(1)
【0030】
なお、R,G,Bは、ベイヤーセンサ13によって検出された赤色、緑色、青色の各信号を示し、a,b,cは0~1の係数である。そして、距離測定装置1に対して黄色の段ボール箱が傾いている場合、正対している場合に比べて、上記の一画素の信号については、色の比率(a:b:c)は変わらないが、全体的な明るさ(輝度信号)は変化する。このため、次の式(2)が成り立つ。
Vty=Vsy×(Rsy/Rty)・・・(2)
なお、Vtyは、ベイヤーセンサ13によって検出された信号である。Rtyは、黄色の段ボール箱が正対しているときの反射率R1である。Rsyは、黄色の段ボール箱が傾いたときの反射率である。
【0031】
よって、被写体の正対時の信号は、式(3)によって求められる。
Vsy=Vty×(Rty/Rsy)・・・(3)
Vtyはセンサ(ベイヤーセンサ13・TOFセンサ15)によって実際に検出される信号である。Rtyは、上述のように被写体の素材及び配色によって求められる反射率R1である。Rsyは、被写体の傾きによって決定される反射率である。
【0032】
そこで、上述したように被写体の素材及び配色を決定するだけでなく、被写体の傾きθを求めて、被写体の素材、配色及び傾きを考慮した反射率を求める必要がある。
【0033】
図3は距離測定装置1に対して正対するときの黄色の立方体状の段ボール箱である。図4は、傾いたときの段ボール箱である。図5は、段ボール箱の傾きθを示す模式図である。
【0034】
図3及び図4に示すように、被写体の正面形状(正対時のエッジの形状)が正方形であるにもかかわらず、検出された被写体のエッジの形状が等脚台形になった場合について考える。なお、被写体の正対時の形状(正方形)一辺の長さをaする。また、被写体が傾いたときの形状(等脚台形)の下底の長さは、正方形の一辺の長さと同じaとなる。但し、その高さ(上底と下底の間の長さ)はbとする。
【0035】
被写体の縦横比が分かれば、被写体の傾きも分かる。正対の場合、縦横比がa:a(=1:1)となり、傾きはゼロである。一方、被写体が傾いている場合、縦横比がb:aとなる。そこで、被写体の正対時に対する傾きθを用いると、次の式が成り立つ。
cosθ=b/a
【0036】
そこで、測定部17は、被写体が立方体の場合、次の演算を行うことによって、傾きθを求めることができる。
θ=cos-1(b/a)
【0037】
被写体の傾きの演算方法は特に限定されるものではなく、その他の手法を用いてもよい。例えば、測定部17は、ベイヤーセンサ13からの被写体画像を用いて被写体のエッジの形状を検出し、被写体が正対する場合のエッジの形状に比べて、検出したエッジの形状がどの程度歪んでいるかを判定することによって、被写体の傾きを検出してもよい。
【0038】
また例えば、測定部17は、ベイヤーセンサ13によって毎秒60フレームで連続的に生成されるフレーム画像を追跡して、ターゲットである被写体が正対しているのか、傾いているのかを判定してもよい。そして、測定部17は、被写体が傾いているときは、その傾きθを検出する。この場合、測定部17は、被写体の形状を予め学習しておけば、その被写体の傾きθを容易に検出することができる。測定部17は、検出した傾きθを用いて、被写体が傾いたときの反射率Rsyを求める。
【0039】
ここで、TOFセンサ15から生成された距離画像の各画素の信号は、式(3)のVtyに相当する。そこで、測定部17は、式(3)に従って、TOFセンサ15から生成された距離画像Vty、上述の処理によって求められた反射率Rsy,Rtyを用いて、画
素毎に、正対時の距離画像Vsyを求めることができる。この距離画像は、被写体の素材、配色及び傾きが考慮されており、正確な距離情報を示している。
【0040】
(外乱光・散乱光を考慮した補正)
撮影環境では、予期しない外乱光又は散乱光(以下、「外乱光等」という。)が存在している。外乱光等の一部がTOFセンサ15に入射した場合、TOFセンサ15によって生成される距離画像が異常値になってしまう。
【0041】
図6は、TOFセンサ15のフレーム毎の信号出力レベルを示す図である。上段はフレーム期間、中段は外乱光等がない場合の信号出力レベル、下段は外乱光等がある場合の信号出力レベルを示す。
【0042】
図6に示すように、外乱光等の影響を受けると、その分だけ信号出力レベルが変化する。これにより、正しい距離情報が得られない。一方、外乱光等がゼロのときに信号出力レベルが既に飽和レベルに達している場合、外乱光等の影響を受けると、信号出力レベルは飽和レベルのままで変化しない。但し、信号に外乱光等の成分が多く含まれてしまう。
【0043】
そこで、測定部17は、太陽光の分光特性を利用して、外乱光等の影響を除去するための補正情報を演算することができる。
【0044】
(原理)
最初に、測定部17は、ホワイトバランス調整を行う。
具体的には、近赤外光(NIR:850nm)を含む外乱光のない状態でベイヤーセンサ13のホワイトバランス調整を行う。このとき、LED光源18は、白色LEDが使用される。また、被写体の色は白である。すなわち、白色と定義された被写体が使用される。
【0045】
ホワイトバランス調整によって、式(4)が成り立つ。
R=G=B=1 ・・・(4)
ここで、R、G、Bは、白色被写体を撮影したベイヤーセンサ13から生成される赤色光、緑色光、青色光の各信号値である。ホワイトバランス調整後は、上述した式(1)の係数a,b,cはすべて1になる。さらに、白色被写体を撮影したTOFセンサ15から生成される近赤外光の信号値をTsとすると、Ts=1になるように調整する。
【0046】
次に、太陽光が入射する環境、すなわち外乱光のある環境で被写体を撮影する場合について説明する。
図7は、太陽光の分光特性を示す図である。太陽光の分光特性(曲線)は、太陽光の各波長に対する規格化放射強度スペクトル(最大強度が1)を示している。測定部17は、太陽光の分光特性を予め記憶している。
【0047】
外乱光の影響を受けて白色被写体を撮影した場合、式(4)は成立しなくなる。つまり、外乱光の影響によって、赤色光、緑色光、青色光、近赤外光の各信号値が変化する。
そこで、測定部17は、太陽光の分光特性を参照して、画素毎に、赤色光、緑色光及び青色光の各信号値の比率から、近赤外光の信号値を推定演算する。これにより、TOFセンサ15から生成される距離画像の各画素の信号値に含まれる外乱光を求めることができる。
【0048】
(補正例)
LED光源18がオフの場合に、どの程度の外乱光があるかを考える。図7の場合、外乱光によってベイヤーセンサ13で検出された青色光、緑色光、赤色光のそれぞれの信号値Bs、Gs、Rsの比率は、例えば次式のようになった。
Bs:Gs:Rs=0.96:0.98:0.98
よって、ベイヤーセンサ13で検出される外乱光の信号値は、式(5)となる。
(ベイヤーセンサ13で検出される外乱光信号)
=0.96Bs+0.98Gs+0.98Rs ・・・(5)
【0049】
測定部17は、太陽の分光特性を参照して、ベイヤーセンサ13で検出された青色光、緑色光、赤色光のそれぞれの信号値Bs、Gs、Rsの比率に基づいて、近赤外光の信号値を推定演算する。この結果、近赤外光の比率は、例えば、0.95となった。
よって、TOFセンサ15で検出される外乱光の信号値は式(6)のようになる。
(TOFセンサ15で検出される外乱光信号)=0.95Ts ・・・(6)
【0050】
そして、測定部17は、上記のように求めた外乱光の信号値を用いて、LED光源18をオンにして被写体までの距離を演算する。なお、被写体までの距離の演算方法は、特に限定されるものではない。
【0051】
例えば、測定部17は、LED光源18がオンのときの距離画像の信号値から外乱光の信号値を差し引き、外乱光の影響のない補正済みの距離画像を求めてもよい。そして、補正済みの距離画像に基づいて、被写体までの距離を演算すればよい。
【0052】
また、測定部17は、外乱光の信号値を距離に換算した補正距離を演算し、LED光源18がオンのときの距離画像に基づいて被写体までの距離を演算し、当該距離と補正距離とを用いて被写体までの正確な距離を演算してもよい。
【0053】
このように、測定部17は、太陽光の分光特性を参照して、LED光源18がオフのときにベイヤーセンサ13で生成された被写体の青色光、緑色光、赤色光の各信号値を用いて、近赤外光の波長帯における外乱光の信号値を推定演算する。そして、測定部17は、このようにして求められた外乱光の信号値を用いて、外乱等の影響を除去して、被写体までの高精度の距離を求めることができる。
【0054】
以上のように、本実施形態の距離測定装置1は、ビームスプリッタ12を介して、同じ光軸を通過した光から距離画像及び被写体画像を生成し、画素毎に、被写体画像を用いて距離画像を補正することができる。
【0055】
具体的には、距離測定装置1は、被写体画像を用いて、画素毎に、被写体の素材及び配色を決定し、さらに被写体の正対に対する傾きを検出することによって、被写体の素材、配色及び傾きを反映した反射率を求めることができる。そして、距離測定装置1は、このようにして求めた反射率を用いて距離画像を補正することで、被写体の素材、配色、傾きに影響されることなく、正確な距離情報を得ることができる。
【0056】
また、距離測定装置1は、外乱光が入射する場合には、画素毎に、太陽の分光特性を参照して、LED光源18をオフにしたときに被写体画像の各色の信号値の比率から、近赤外光の波長帯における外乱光の信号値を推定する。そして、距離測定装置1は、画素毎に、推定した外乱光の信号値と、TOFセンサ15で検出される近赤外光の信号値と、を用いることにより、外乱光等の影響が除去され、被写体までの正確な距離情報を得ることができる。
【0057】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で設計変更されたものにも適用可能である。例えば、距離測定装置1は、距離画像を画素単位に補正するのではなく、複数の画素からなるブロック毎に補正してもよい。また、可視光及び近赤外光のそれぞれの波長は、一例であり、その他の波長であってもよい。
【符号の説明】
【0058】
1 距離測定装置
11 レンズ
12 ビームスプリッタ
13 ベイヤーセンサ,
14 第1信号処理部
15 TOFセンサ
16 第2信号処理部
17 測定部
18 LED光源
19 光源制御部

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7