(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-21
(45)【発行日】2024-03-01
(54)【発明の名称】吸気冷却システム
(51)【国際特許分類】
F02M 31/20 20060101AFI20240222BHJP
F02M 35/10 20060101ALI20240222BHJP
F02B 29/04 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
F02M31/20 A
F02M35/10 311C
F02B29/04 N
(21)【出願番号】P 2020067584
(22)【出願日】2020-04-03
【審査請求日】2023-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100059959
【氏名又は名称】中村 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100196221
【氏名又は名称】上潟口 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】楢原 和晃
(72)【発明者】
【氏名】胡本 博史
(72)【発明者】
【氏名】前川 耕太
(72)【発明者】
【氏名】丸本 真玄
(72)【発明者】
【氏名】外薗 徹
(72)【発明者】
【氏名】森島 千菜美
【審査官】櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-256806(JP,A)
【文献】特開2004-216945(JP,A)
【文献】特開2015-044518(JP,A)
【文献】特開2000-179670(JP,A)
【文献】特開2005-075179(JP,A)
【文献】特開2009-236083(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0333674(US,A1)
【文献】特開2017-110701(JP,A)
【文献】特開平08-132926(JP,A)
【文献】特開2008-106653(JP,A)
【文献】特開平08-132861(JP,A)
【文献】特開2002-104011(JP,A)
【文献】特開2014-051171(JP,A)
【文献】特開2002-337542(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 31/20
F02M 35/10
F02B 29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のエンジンの吸気を冷却する吸気冷却システムであって、
前記エンジンの燃焼室に空気を供給する吸気通路に設けられ、冷媒と、前記吸気通路を流れる空気とを熱交換させることにより該空気を冷却するエバポレータと、
前記エンジンの出力軸に連結され、該出力軸の回転に基づいて駆動して冷媒を吐出するコンプレッサと、
前記コンプレッサが吐出した冷媒を前記エバポレータに供給する冷媒通路に設けられ、該冷媒通路からその内部に冷媒を流入させて貯留するとともに、貯留している冷媒を流出させて該冷媒通路に戻す蓄圧器と、
前記車両が慣性走行をしているか否かを判定するとともに、前記コンプレッサと、前記蓄圧器における冷媒の流入及び流出とを制御するように構成されているコントローラと、を備え、
前記コントローラは、
前記車両が前記慣性走行をしていると判定した場合は、前記車両の車輪の回転に伴う前記エンジンの前記出力軸の回転により前記コンプレッサを駆動させ、前記コンプレッサが吐出した冷媒を前記冷媒通路から前記蓄圧器の内部に流入させ、
前記車両が前記慣性走行をしていないと判定した場合は、前記蓄圧器の内部から前記冷媒通路に冷媒を戻させ
、
前記蓄圧器の内圧を取得し、前記蓄圧器から前記冷媒通路に冷媒を戻すことにより前記内圧が第1閾値よりも小さくなったと判定した場合は、前記内圧が前記第1閾値よりも大きい場合と比べて前記コンプレッサの吐出圧力を大きくするとともに、前記冷媒通路から前記蓄圧器の内部への冷媒の流入を禁止する、吸気冷却システム。
【請求項2】
車両のエンジンの吸気を冷却する吸気冷却システムであって、
前記エンジンの燃焼室に空気を供給する吸気通路に設けられ、冷媒と、前記吸気通路を流れる空気とを熱交換させることにより該空気を冷却するエバポレータと、
前記エンジンの出力軸に連結され、該出力軸の回転に基づいて駆動して冷媒を吐出するコンプレッサと、
前記コンプレッサが吐出した冷媒を前記エバポレータに供給する冷媒通路に設けられ、該冷媒通路からその内部に冷媒を流入させて貯留するとともに、貯留している冷媒を流出させて該冷媒通路に戻す蓄圧器と、
前記車両が慣性走行をしているか否かを判定するとともに、前記コンプレッサと、前記蓄圧器における冷媒の流入及び流出とを制御するように構成されているコントローラと、を備え、
前記コントローラは、
前記車両が前記慣性走行をしていると判定した場合は、前記車両の車輪の回転に伴う前記エンジンの前記出力軸の回転により前記コンプレッサを駆動させ、前記コンプレッサが吐出した冷媒を前記冷媒通路から前記蓄圧器の内部に流入させ、
前記車両が前記慣性走行をしていないと判定した場合は、前記蓄圧器の内部から前記冷媒通路に冷媒を戻させ、
前記蓄圧器の内圧を取得し、前記車両が前記慣性走行をしており、且つ前記冷媒通路から前記蓄圧器の内部への冷媒の流入により前記内圧が第2閾値よりも大きくなったと判定した場合は、前記冷媒通路から前記蓄圧器の内部への冷媒の流入を禁止し、前記コンプレッサが吐出する冷媒を前記エバポレータに供給させる、吸気冷却システム。
【請求項3】
前記コントローラは、前記エンジンの回転数がゼロよりも大きく、且つ前記エンジンの燃焼室への燃料の供給が禁止されている場合に、前記車両が前記慣性走行をしていると判定する、請求項1
又は2に記載の吸気冷却システム。
【請求項4】
前記コントローラは、アクセルペダルの踏み込み量がゼロであって、且つ前記車両が下り坂を走行している場合に、前記車両が前記慣性走行をしていると判定する、請求項1
又は2に記載の吸気冷却システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のエンジンの吸気を冷却する吸気冷却システムに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの燃焼室に供給される空気(以下「吸気」ともいう。)を冷却することによりノッキングを抑制する技術が知られている。例えば、特許文献1は、吸気通路を流れる吸気を蒸発器により冷却する吸気冷却装置を開示している。当該吸気冷却装置では、エンジンの駆動によりコンプレッサが冷媒を圧縮し、当該冷媒が蒸発器に供給される。特許文献1は、ノッキングが発生しない条件下でも蒸発器に冷媒を供給して蒸発器を予冷することにより、吸気冷却を開始する際の応答性を高めることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1記載の吸気冷却装置では、エンジンの駆動によりコンプレッサが駆動するため、コンプレッサの駆動時はエンジンに付加される抵抗が大きくなり、エネルギ効率の観点で改善の余地があった。
【0005】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、コンプレッサの駆動に起因してエンジンに付加される抵抗を抑制しつつ、吸気を冷却することができる吸気冷却システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために、本発明は、車両のエンジンの吸気を冷却する吸気冷却システムであって、エンジンの燃焼室に空気を供給する吸気通路に設けられ、冷媒と、吸気通路を流れる空気とを熱交換させることにより空気を冷却するエバポレータと、エンジンの出力軸に連結され、出力軸の回転に基づいて駆動して冷媒を吐出するコンプレッサと、コンプレッサが吐出した冷媒をエバポレータに供給する冷媒通路に設けられ、冷媒通路からその内部に冷媒を流入させて貯留するとともに、貯留している冷媒を流出させて冷媒通路に戻す蓄圧器と、車両が慣性走行をしているか否かを判定するとともに、コンプレッサと、蓄圧器における冷媒の流入及び流出とを制御するように構成されているコントローラと、を備え、コントローラは、車両が慣性走行をしていると判定した場合は、車両の車輪の回転に伴うエンジンの出力軸の回転によりコンプレッサを駆動させ、コンプレッサが吐出した冷媒を冷媒通路から蓄圧器の内部に流入させ、車両が慣性走行をしていないと判定した場合は、蓄圧器の内部から冷媒通路に冷媒を戻させ、蓄圧器の内圧を取得し、蓄圧器から冷媒通路に冷媒を戻すことにより内圧が第1閾値よりも小さくなったと判定した場合は、内圧が第1閾値よりも大きい場合と比べてコンプレッサの吐出圧力を大きくするとともに、冷媒通路から蓄圧器の内部への冷媒の流入を禁止する。
【0007】
上記構成によれば、慣性走行をしている車両の運動エネルギを用いてコンプレッサを駆動させ、このコンプレッサが吐出した冷媒を蓄圧器に貯留するとともに、車両が慣性走行をしていない場合にこの冷媒をエバポレータに供給し、空気の冷却に用いることが可能になる。これにより、コンプレッサの駆動に起因してエンジンに付加される抵抗を抑制しつつ、吸気を冷却することが可能になる。また、蓄圧器の内圧が小さくなった場合でも、コンプレッサの吐出圧力を大きくすることにより、必要量の冷媒をエバポレータに供給し、エバポレータの冷却能力を維持することが可能になる。このとき、冷媒通路から蓄圧器の内部への冷媒の流入を禁止することにより、コンプレッサの駆動に要するエネルギの増加を抑制することが可能になる。
【0008】
本発明において、好ましくは、コントローラは、エンジンの回転数がゼロよりも大きく、且つエンジンの燃焼室への燃料の供給が禁止されている場合に、車両が慣性走行をしていると判定する。
この構成によれば、エンジンがトルクを発生させていない状態で、車両の運動エネルギを用いたコンプレッサの駆動と、蓄圧器への冷媒の貯留とが行われる。これにより、コンプレッサの駆動に起因してエンジンに付加される抵抗を抑制しつつ、吸気を冷却することが可能になる。
【0009】
本発明において、好ましくは、コントローラは、アクセルペダルの踏み込み量がゼロであって、且つ車両が下り坂を走行している場合に、車両が慣性走行をしていると判定する。
この構成によれば、エンジンがトルクを発生させていない状態で、車両の運動エネルギを用いたコンプレッサの駆動と、蓄圧器への冷媒の貯留とが行われる。これにより、コンプレッサの駆動に起因してエンジンに付加される抵抗を抑制しつつ、吸気を冷却することが可能になる。
【0011】
上述した目的を達成するために、本発明は、車両のエンジンの吸気を冷却する吸気冷却システムであって、エンジンの燃焼室に空気を供給する吸気通路に設けられ、冷媒と、吸気通路を流れる空気とを熱交換させることにより空気を冷却するエバポレータと、エンジンの出力軸に連結され、出力軸の回転に基づいて駆動して冷媒を吐出するコンプレッサと、コンプレッサが吐出した冷媒をエバポレータに供給する冷媒通路に設けられ、冷媒通路からその内部に冷媒を流入させて貯留するとともに、貯留している冷媒を流出させて冷媒通路に戻す蓄圧器と、車両が慣性走行をしているか否かを判定するとともに、コンプレッサと、蓄圧器における冷媒の流入及び流出とを制御するように構成されているコントローラと、を備え、コントローラは、車両が慣性走行をしていると判定した場合は、車両の車輪の回転に伴うエンジンの出力軸の回転によりコンプレッサを駆動させ、コンプレッサが吐出した冷媒を冷媒通路から蓄圧器の内部に流入させ、車両が慣性走行をしていないと判定した場合は、蓄圧器の内部から冷媒通路に冷媒を戻させ、蓄圧器の内圧を取得し、車両が慣性走行をしており、且つ冷媒通路から蓄圧器の内部への冷媒の流入により内圧が第2閾値よりも大きくなったと判定した場合は、冷媒通路から蓄圧器の内部への冷媒の流入を禁止し、コンプレッサが吐出する冷媒をエバポレータに供給させる。
この構成によれば、慣性走行をしている車両の運動エネルギを用いてコンプレッサを駆動させ、このコンプレッサが吐出した冷媒を蓄圧器に貯留するとともに、車両が慣性走行をしていない場合にこの冷媒をエバポレータに供給し、空気の冷却に用いることが可能になる。これにより、コンプレッサの駆動に起因してエンジンに付加される抵抗を抑制しつつ、吸気を冷却することが可能になる。また、蓄圧器の内部に十分な量の冷媒が貯留されている場合は、慣性走行をしている車両の運動エネルギを用いてコンプレッサを駆動させ、このコンプレッサが吐出した冷媒をエバポレータに供給することにより、エバポレータを予冷することができる。この結果、その後に吸気冷却を開始する際の応答性を高めることが可能になる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、コンプレッサの駆動に起因してエンジンに付加される抵抗を抑制しつつ、吸気を冷却することができる吸気冷却システムを提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態に係る吸気冷却システムを搭載した車両の模式図である。
【
図3】吸気冷却システム及び空調装置の動作の例を示すタイムチャートである。
【
図4】コントローラが実行する処理を示すフローチャートである。
【
図5】コントローラが実行する処理を示すフローチャートである。
【
図6】変形例に係るコントローラが実行する処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら、実施形態に係る吸気冷却システム1について説明する。
【0015】
<車両>
まず、
図1を参照しながら、実施形態に係る吸気冷却システム1を搭載した車両100について説明する。
図1は、吸気冷却システム1を搭載した車両100の模式図である。
【0016】
車両100の前端寄りの部分には、エンジン120を収容するエンジンルーム110が形成されている。エンジン120は、複数の燃焼室121を有しており、インジェクタ(不図示)から燃焼室121に噴射される燃料を燃焼させ、トルクを発生させる内燃機関である。エンジン120が発生させたトルクは、エンジン120の出力軸(不図示)からパワートレイン(不図示)を介して車輪117に伝達され、車両100の走行に用いられるほか、後述するコンプレッサ31の駆動にも用いられる。
【0017】
エンジンルーム110には吸気ダクト130が収容されており、この吸気ダクト130の内部には吸気通路130aが形成されている。吸気通路130aは、車両100の外部から取り込まれた空気を流し、エアクリーナ131やスロットル弁133を介してエンジン120の燃焼室121に供給する(以下、この空気を「吸気」ともいう。)。また、空調ダクト135は、車室外又は車室内から空気を取り込み、後述する空調装置9に供給する。
【0018】
車両100の乗員は、アクセルペダル115を踏み込むことにより、エンジン120が発生させるトルクを調整する。アクセルペダル115の踏み込み量が変化すると、インジェクタから噴射される燃料の量と、スロットル弁133を通過する空気の量とが変化し、燃焼室121における燃料の燃焼が調整される。
【0019】
<吸気冷却システムの構成>
吸気冷却システム1は、エンジン120のノッキングを抑制することを目的として車両100に搭載されている。具体的には、吸気冷却システム1は、吸気通路130aを流れる吸気を冷却し、これにより燃焼室121における燃料の燃焼温度を低下させるために搭載されている。
【0020】
図1及び
図2を参照しながら、吸気冷却システム1の構成について説明する。
図2は、コントローラ6を示すブロック図である。
図1に示されるように、吸気冷却システム1は、冷媒通路2を備えている。また、吸気冷却システム1は、冷媒通路2に設けられたコンプレッサ31と、コンデンサ33と、吸気用エバポレータ35と、吸気用膨張弁37と、を備えている。後述するように、これらの構成の一部は空調装置9でも用いられる。
【0021】
冷媒通路2は、冷媒を流して循環させるように構成されている。冷媒通路2は、第1冷媒通路21と、第2冷媒通路22と、第3冷媒通路23と、第4冷媒通路24と、第5冷媒通路25と、第6冷媒通路26と、を有している。第1冷媒通路21は、コンプレッサ31が吐出した冷媒をコンデンサ33に供給するように構成されており、第2冷媒通路22は、コンデンサ33を通過した冷媒が供給されるように構成されている。第3冷媒通路23は、第2冷媒通路22から供給された冷媒を、吸気用膨張弁37を介して吸気用エバポレータ35に供給するように構成されており、第4冷媒通路24は、吸気用エバポレータ35を通過した冷媒をコンプレッサ31に供給するように構成されている。第5冷媒通路25は、第2冷媒通路22を通過した冷媒を、後述する空調用エバポレータ93に供給するように構成されており、第6冷媒通路26は、空調用エバポレータ93を通過した冷媒をコンプレッサ31に供給するように構成されている。
【0022】
コンプレッサ31は、エンジン120の出力軸に連結されている。コンプレッサ31は、出力軸の回転に基づいて駆動し、冷媒を圧縮して吐出するように構成されている。コンプレッサ31はクラッチ(不図示)を内蔵しており、当該クラッチは制御信号に基づいて制御される。コンプレッサ31の吐出圧力は、クラッチに送信する制御信号を変更することにより調整可能である。
【0023】
コンデンサ33は、車両100のグリル111の近傍に配置される熱交換器である。グリル111は、車両100の前端に設けられた開口部である。コンデンサ33は、グリル111からエンジンルーム110内に流入する空気が、コンデンサ33の外表面を流れるように配置されている。コンデンサ33の内部には通路が形成されており、第1冷媒通路21から供給された冷媒が当該通路を通過し、第2冷媒通路22に排出される。
【0024】
吸気用エバポレータ35は、熱交換器であり、本発明に係る「エバポレータ」の一例である。吸気用エバポレータ35の内部には、冷媒を流す通路(不図示)が形成されている。吸気用エバポレータ35は、吸気通路130aに設けられ、吸気用エバポレータ35の外表面を流れる吸気と、内部の通路を流れる冷媒とを熱交換させるように構成されている。
【0025】
吸気用膨張弁37は、制御信号に基づいて弁体(不図示)が姿勢を変更する電磁弁である。吸気用膨張弁37は、冷媒通路2の第3冷媒通路23に設けられ、全閉状態と全開状態との間で開度を変更することができる。
【0026】
さらに、吸気冷却システム1は、蓄圧器4及びコントローラ6を備えている。
【0027】
蓄圧器4は、冷媒通路2の第1冷媒通路21に設けられており、タンク41及び蓄圧器用開閉弁43を有している。タンク41の内部は、伸縮可能な隔膜(不図示)により2つの空間に分離されており、一方の空間には窒素ガスが充填されている。他方の空間は、第1冷媒通路21から流入する冷媒を貯留できるとともに、貯留している冷媒を流出させて第1冷媒通路21に戻すことができる。蓄圧器用開閉弁43は、制御信号を受信していない場合は開状態となり、制御信号を受信している場合は閉状態となるように構成された電磁弁である。蓄圧器用開閉弁43が開状態となることにより、第1冷媒通路21からタンク41内への冷媒の流入(矢印C4参照)、及び、タンク41内から第1冷媒通路21への冷媒の流出(矢印C5参照)が許可される。また、蓄圧器用開閉弁43が閉状態となることにより、当該冷媒の流入及び流出が禁止される。蓄圧器4の内圧PAは、内圧センサ54により検知される。また、第1冷媒通路21のうち蓄圧器4よりも下流側の部分の冷媒の圧力PL(以下「ライン圧力PL」という。)は、ライン圧力センサ55により検知される。
【0028】
コントローラ6は、メモリ(不図示)等のデバイスから成る電子制御ユニットである。
図2に示されるように、コントローラ6は、エンジン回転数センサ51、車輪速度センサ52、アクセル開度センサ53、内圧センサ54、ライン圧力センサ55、及び加速度センサ56から検知信号を受信するように構成されている。コントローラ6は、各検知信号に基づいて所定の演算を行うことにより、エンジン120の回転数、車輪117の回転速度、アクセルペダル115の踏み込みに基づくスロットル弁133の開度、蓄圧器4の内圧PA、ライン圧力PL、及び車両100の加速度、等の情報を取得する。
【0029】
また、コントローラ6は、取得した情報に基づいて制御信号や要求信号を生成する。コントローラ6は、この制御信号や要求信号をコンプレッサ31、吸気用膨張弁37、蓄圧器用開閉弁43、ブロワ91、空調用膨張弁97、及びエンジン120に送信することにより、各要素を制御する。
【0030】
さらに、コントローラ6は、取得した情報に基づいて、その時点のエンジン120の駆動状態が、「ノッキング発生域」と「非ノッキング発生域」のいずれに属するかを判定する。ここで、「ノッキング発生域」は、エンジン120のノッキングが比較的発生し易い駆動状態であり、「非ノッキング発生域」は、「ノッキング発生域」と比べてエンジン120のノッキングが比較的発生し難い駆動状態である。コントローラ6のメモリには、エンジン120への要求トルクTqrや回転数等に基づいて「ノッキング発生域」及び「非ノッキング発生域」を定めるマップが記憶されている。コントローラ6は、その時点のエンジン120への要求トルクTqr等を算出し、この算出値に基づいてマップを参照することにより、上記判定を行う。
【0031】
<空調装置の構成>
車両100は、空調装置9を搭載している。空調装置9は、車両100の車室内の温度を調整するために搭載されており、吸気冷却システム1と冷媒を共用して運転する。車両100の乗員は、車室に設けられたスイッチ(不図示)を操作することにより、空調装置9に運転開始及び運転停止を指示したり、車室内の温度の目標値を設定したりすることができる。空調装置9は、ブロワ91と、空調用エバポレータ93と、ヒータ95と、空調用膨張弁97と、を備えている。
【0032】
ブロワ91は、制御信号に基づいて駆動する電動送風機である。ブロワ91は、車両100の外部や車室内から空気を吸引し、当該空気を空調用エバポレータ93に向けて吹き出す。
【0033】
空調用エバポレータ93は熱交換器であり、冷媒通路2の第5冷媒通路25及び第6冷媒通路26に接続されている。空調用エバポレータ93の内部には、冷媒を流す通路(不図示)が形成されている。空調用エバポレータ93は、空調用エバポレータ93の外表面を流れる空気と、内部の通路を流れる冷媒とを熱交換させるように構成されている。
【0034】
ヒータ95は、ブロワ91が吹き出した空気の流れ方向において空調用エバポレータ93の下流側に配置されている。ヒータ95は、電力の供給を受けて発熱し、ヒータ95を通過する空気を加熱する。
【0035】
空調用膨張弁97は、制御信号に基づいて弁体(不図示)が姿勢を変更する電磁弁である。空調用膨張弁97は、冷媒通路2の第5冷媒通路25に設けられ、全閉状態と全開状態との間で開度を変更することができる。
【0036】
<吸気冷却システム及び空調装置の動作>
(1)車室内の温度の調整のみが行われる場合
エンジン120のノッキングが生じるおそれが比較的低く、且つ、車両100の乗員が空調装置9に運転を指示している場合、吸気冷却システム1及び空調装置9は、吸気を冷却することなく、車室内の温度を調整するように動作する。このとき、コンプレッサ31及びブロワ91が駆動し、吸気用膨張弁37は閉状態となり、空調用膨張弁97は開状態となる。
【0037】
コンプレッサ31は、エンジン120の出力軸の回転に基づいて駆動し、気相の冷媒を圧縮するとともに、矢印C1で示されるように第1冷媒通路21に吐出する。冷媒は、コンプレッサ31において圧縮されることにより液相となり、その温度と圧力が上昇する。コンプレッサ31から吐出された冷媒の圧力は、コンプレッサ31の下流側に設けられているライン圧力センサ55により検知される。
【0038】
コンプレッサ31から吐出された液相の冷媒は、次に、コンデンサ33に供給される。当該冷媒は、コンデンサ33内の通路を流れる際に、グリル111から流入してコンデンサ33の外表面を流れる空気と熱交換することにより、冷却される。コンデンサ33内の通路を通過した冷媒は、第2冷媒通路22に排出される。
【0039】
吸気用膨張弁37が閉状態であり、空調用膨張弁97が開状態であるため、第2冷媒通路22を流れる冷媒は、矢印C2で示されるように第5冷媒通路25のみに供給される(つまり、冷媒は第3冷媒通路23に供給されない)。第5冷媒通路25を流れる冷媒は、次に空調用膨張弁97に供給される。冷媒は、この空調用膨張弁97を通過する際に膨張し、その温度が低下する。
【0040】
空調用膨張弁97を通過した低温の冷媒は、次に空調用エバポレータ93に供給される。当該冷媒は、空調用エバポレータ93内の通路を流れる際に、ブロワ91から吹き出され空調用エバポレータ93の外表面を流れる空気と熱交換することにより、気化する。すなわち、空調用エバポレータ93の外表面を流れる空気は、冷媒との熱交換により冷却される。空調用エバポレータ93内の通路を通過した冷媒は、第6冷媒通路26により再びコンプレッサ31に供給される。空調用エバポレータ93の外表面を流れて冷却された空気は、ヒータ95を通過した後、車両100の車室に供給される。
【0041】
(2)吸気の冷却及び車室内の温度の調整が行われる場合
エンジン120のノッキングが生じるおそれが比較的高く、且つ、車両100の乗員が空調装置9に運転を指示している場合、吸気冷却システム1及び空調装置9は、吸気を冷却しつつ、車室内の温度の調整を行うように動作する。このとき、コンプレッサ31及びブロワ91が駆動し、吸気用膨張弁37及び空調用膨張弁97はいずれも開状態となる。
【0042】
この場合、コンプレッサ31は、吐出圧力が、上述した「(1)車室内の温度の調整のみが行われる場合」のものよりも高くなるように駆動する。また、吸気用膨張弁37及び空調用膨張弁97がいずれも開状態であるため、第2冷媒通路22を流れる冷媒は、矢印C2及び矢印C3で示されるように、第3冷媒通路23及び第5冷媒通路25の双方に供給される。第5冷媒通路25に供給される冷媒は、上述したように空調装置9の運転に用いられる。
【0043】
第3冷媒通路23を流れる冷媒は、次に吸気用膨張弁37に供給される。冷媒は、この吸気用膨張弁37を通過する際に膨張し、その温度が低下する。
【0044】
吸気用膨張弁37を通過した低温の冷媒は、次に吸気用エバポレータ35に供給される。当該冷媒は、吸気用エバポレータ35内の通路を流れる際に、吸気通路130a内で吸気用エバポレータ35の外表面を流れる吸気と熱交換することにより、気化する。すなわち、吸気用エバポレータ35の外表面を流れる吸気は、冷媒との熱交換により冷却される。吸気用エバポレータ35内の通路を通過した冷媒は、第4冷媒通路24により再びコンプレッサ31に供給される。吸気用エバポレータ35の外表面を流れて冷却された吸気は、エンジン120の燃焼室121に供給される。
【0045】
(3)吸気の冷却のみが行われる場合
エンジン120のノッキングが生じるおそれが比較的高く、且つ、車両100の乗員が空調装置9に運転を指示していない場合、吸気冷却システム1及び空調装置9は、車室内の温度を調整することなく、吸気を冷却するように動作する。このとき、ブロワ91は駆動することなくコンプレッサ31が駆動し、吸気用膨張弁37は開状態となり、空調用膨張弁97は閉状態となる。
【0046】
吸気用膨張弁37が開状態であり、空調用膨張弁97が閉状態であるため、第2冷媒通路22を流れる冷媒は、矢印C3で示されるように、第3冷媒通路23のみに供給される(つまり、冷媒は第5冷媒通路25に供給されない)。第3冷媒通路23に供給される冷媒は、上述したように吸気の冷却に用いられる。
【0047】
<蓄圧器の動作>
蓄圧器4は、車両100が慣性走行をしている場合に、第1冷媒通路21から冷媒を流入させて貯留し、車両100が慣性走行をしている場合に、当該冷媒を第1冷媒通路21に戻すように動作する。ここで、「慣性走行」とは、エンジン120の燃焼室121への燃料の供給が禁止され、車両100が慣性により走行することをいう。
【0048】
図3を参照しながら、蓄圧器4の動作について説明する。
図3は、吸気冷却システム1及び空調装置9の動作の例を示すタイムチャートであり、車両100が平地を走行している場合の各動作を示している。
【0049】
時刻t0に、エンジン120の駆動状態は非ノッキング発生域に属している。アクセルペダル115は乗員により所定量だけ踏み込まれ、エンジン120の燃焼室121に所定量の燃料が供給されている。また、コンプレッサ31は吐出圧力PC1で駆動しており、吸気の冷却が行われることなく、車室内の温度の調整が行われている。このとき、蓄圧器用開閉弁43は閉状態であり、蓄圧器4における冷媒の流入及び流出が禁止されている。
【0050】
時刻t1に、アクセルペダル115の踏み込み量がゼロになったことに基づいて、エンジン120の燃焼室121への燃料の供給量が減少し始める。
【0051】
時刻t2に、燃料の供給量がゼロとなった(つまり、エンジン120の燃焼室121への燃料の供給が禁止された)ことに基づいて、コンプレッサ31の吐出圧力がPC1からPC2となり、蓄圧器用開閉弁43が閉状態から開状態に移行する。つまり、車両100が慣性走行を開始したことに基づいて、コンプレッサ31の吐出圧力が大きくなり、第1冷媒通路21から蓄圧器4のタンク41内への冷媒の流入が許可される。
【0052】
車両100の慣性走行中、車両100のパワートレインのクラッチは締結状態を維持している。これにより、車両100の車輪117の回転は、パワートレインを介して、エンジン120の出力軸からコンプレッサ31に伝達される。この結果、慣性走行をしている車両100の運動エネルギを用いてコンプレッサ31が駆動し、コンプレッサ31が吐出した冷媒が蓄圧器4に貯留される。蓄圧器4に貯留されている冷媒の量の増加とともに、蓄圧器4の内圧PAが上昇する。
【0053】
車両100が慣性走行をしている時刻t3に、蓄圧器4の内圧PAが閾値PA2よりも大きくなったことに基づいて、蓄圧器用開閉弁43が開状態から閉状態に移行する。閾値PA2は、本発明に係る「第2閾値」の一例である。つまり、蓄圧器4の内圧PAが閾値PA2よりも大きくなったことに基づいて、蓄圧器4における冷媒の流入及び流出が禁止される。
【0054】
また、時刻t3に、吸気用膨張弁37が閉状態から開状態に移行する。これにより、コンプレッサ31が吐出した冷媒が吸気用エバポレータ35に供給される。つまり、エンジン120の駆動状態が非ノッキング発生域に属している場合でも、慣性走行をしている車両100の運動エネルギを用いてコンプレッサ31を駆動させて、吸気用エバポレータ35に冷媒を供給し、吸気用エバポレータ35を予冷する。
【0055】
時刻t4に、アクセルペダル115の踏み込み量がゼロよりも大きくなったことに基づいて、エンジン120の燃焼室121への燃料の供給量が増加し始める。また、コンプレッサ31の吐出圧力がPC2からPC1となり、吸気用膨張弁37が開状態から閉状態に移行する。つまり、車両100の慣性走行が終了したことに基づいて、コンプレッサ31の吐出圧力が小さくなり、吸気用エバポレータ35の予冷が終了する。
【0056】
時刻t5に、エンジン120の駆動状態が非ノッキング発生域からノッキング発生域に移行したことに基づいて、蓄圧器用開閉弁43及び吸気用膨張弁37がいずれも閉状態から開状態に移行する。これにより、蓄圧器4に貯留されていた冷媒が第1冷媒通路21に戻され、コンプレッサ31から吐出される冷媒とともに、吸気用エバポレータ35に供給される。この結果、ノッキング発生域への移行時に、迅速に吸気の冷却を開始することが可能になる。
【0057】
時刻t6に、蓄圧器4の内圧PAが閾値PA1よりも小さくなったことに基づいて、コンプレッサ31の吐出圧力がPC1からPC2となり、蓄圧器用開閉弁43が開状態から閉状態に移行する。閾値PA1は、本発明に係る「第1閾値」の一例である。つまり、蓄圧器4の内圧PAが閾値PA1よりも小さくなったことに基づいて、コンプレッサ31の吐出圧力が大きくなり、蓄圧器4における冷媒の流入及び流出が禁止される。
【0058】
<コントローラが実行する処理>
次に、
図4及び
図5を参照しながら、コントローラ6が実行する処理について説明する。
図4及び
図5は、コントローラ6が実行する処理を示すフローチャートである。
【0059】
図4は、車両100が慣性走行をしている場合に、蓄圧器4における冷媒の貯留を行うための処理に関する。
【0060】
まず、コントローラ6は、ステップS11で、車両100が慣性走行中であるか否かを判定する。具体的には、コントローラ6は、エンジン120の回転数がゼロよりもおおきく、且つエンジン120の燃焼室121への燃料の供給が禁止された状態で車両100が走行しているか否かを判定する。車両100が慣性走行中であると判定しなかった場合(S11:NO)、コントローラ6はS2以降の処理を実行しない。一方、車両100が慣性走行中であると判定した場合(S11:YES)、コントローラ6は、ステップS12に進む。
【0061】
ステップS12で、コントローラ6は、空調装置9が運転中であるか否かを判定する。空調装置9が運転中であると判定した場合(S12:YES)、コントローラ6は、ステップS13に進む。
【0062】
ステップS13で、コントローラ6は、コンプレッサ31の吐出圧力を大きくする。つまり、空調装置9の空調用エバポレータ93への冷媒供給を維持しつつ、後述するように蓄圧器4における冷媒の貯留も可能とするために、コンプレッサ31の吐出圧力を大きくする。
【0063】
ステップS14で、コントローラ6は、蓄圧器用開閉弁43を開状態に移行させる。これにより、第1冷媒通路21から蓄圧器4のタンク41内への冷媒の流入が許可され、冷媒の貯留が開始される。
【0064】
ステップS15で、コントローラ6は、蓄圧器4の内圧PAが閾値PA2よりも大きいか否かを判定する。具体的には、コントローラ6は、内圧センサ54から受信する検知信号に基づいて蓄圧器4の内圧PAを取得し、この内圧PAが予め設定されている閾値PA2よりも大きいか否かを判定する。蓄圧器4の内圧PAが閾値PA2よりも大きいと判定しなかった場合(S15:NO)、コントローラ6は、蓄圧器用開閉弁43の開状態を維持し、蓄圧器4のタンク41内への冷媒の流入を継続する。一方、蓄圧器4の内圧PAが閾値PA2よりも大きいと判定した場合(S15:YES)、コントローラ6は、ステップS16に進む。
【0065】
ステップS16で、コントローラ6は、蓄圧器用開閉弁43を閉状態に移行させる。これにより、蓄圧器4における冷媒の流入及び流出が禁止される。
【0066】
ここで、ステップS12で、空調装置9が運転中であると判定しなかった場合(S12:NO)、コントローラ6は、ステップS18に進む。ステップS18で、コントローラ6は、それまで停止していたコンプレッサ31を駆動させ、その後、上述したステップS14~S16の処理を実行する。
【0067】
ステップS16の処理を終了したコントローラ6は、ステップS17に進む。ステップS17で、コントローラ6は、コンプレッサ31の吐出圧力を低下させる、又は、コンプレッサ31を停止させる。具体的には、コントローラ6は、ステップS13の処理を実行していた場合は、ステップS17でその吐出圧力を低下させる。また、コントローラ6は、ステップS18の処理を実行していた場合は、ステップS17でコンプレッサ31を停止させる。
【0068】
図5は、車両100が慣性走行をしていない場合に、吸気用エバポレータ35を予冷又は吸気を冷却するための処理に関する。
【0069】
まず、コントローラ6は、ステップS21で、その時点のエンジン120の駆動状態が、非ノッキング発生域に属しているか否かを判定する。具体的には、コントローラ6は、エンジン120への要求トルクTqr等を算出し、この算出値に基づいてマップを参照することにより、当該判定を行う。エンジン120の駆動状態が、非ノッキング発生域に属していると判定した場合(S21:YES)、コントローラ6は、ステップS22に進む。
【0070】
ステップS22で、コントローラ6は、蓄圧器4の内圧PAがライン圧力PL以上であるか否かを判定する。蓄圧器4の内圧PAがライン圧力PL以上である場合は、蓄圧器用開閉弁43を開状態とすることにより、蓄圧器4が貯留している冷媒を第1冷媒通路21に戻すことができる。蓄圧器4の内圧PAがライン圧力PL以上であると判定した場合(S22:YES)、コントローラ6は、ステップS23に進む。そして、ステップS23で、コントローラ6は、蓄圧器用開閉弁43を閉状態から開状態に移行させて蓄圧器4から冷媒通路2に冷媒を戻し、この冷媒を吸気用エバポレータ35に供給することにより、吸気用エバポレータ35を予冷する。ここでは、上述したように、蓄圧器4の内圧PAが閾値PA1よりも小さくなるまで、蓄圧器4が貯留している冷媒を用いることができる。
【0071】
一方、ステップS22で、蓄圧器4の内圧PAがライン圧力PL以上であると判定しなかった場合(S22:NO)、コントローラ6は、ステップS24に進む。そして、ステップS24で、コントローラ6は、コンプレッサ31を間欠的に駆動させて吸気用エバポレータ35に冷媒を供給することにより、吸気用エバポレータ35を予冷する。
【0072】
これに対し、ステップS21で、エンジン120の駆動状態が非ノッキング発生域に属していると判定しなかった場合(S21:NO)、つまり、エンジン120の駆動状態がノッキング発生域に属している場合、コントローラ6は、ステップS25に進む。そして、ステップS25で、コントローラ6は、コンプレッサ31を連続的に駆動させて吸気用エバポレータ35に冷媒を供給することにより、吸気を冷却する。
【0073】
<作用効果>
上記構成によれば、慣性走行をしている車両100の運動エネルギを用いてコンプレッサ31を駆動させ、このコンプレッサ31が吐出した冷媒を蓄圧器4に貯留するとともに、車両100が慣性走行をしていない場合にこの冷媒を吸気用エバポレータ35に供給し、吸気の冷却に用いることが可能になる。これにより、コンプレッサ31の駆動に起因してエンジン120に付加される抵抗を抑制しつつ、吸気を冷却することが可能になる。
【0074】
また、コントローラ6は、エンジン120の回転数がゼロよりも大きく、且つエンジン120の燃焼室121への燃料の供給が禁止されている場合に、車両100が慣性走行をしていると判定する。
【0075】
この構成によれば、エンジン120がトルクを発生させていない状態で、車両100の運動エネルギを用いたコンプレッサ31の駆動と、蓄圧器4への冷媒の貯留とが行われる。これにより、コンプレッサ31の駆動に起因してエンジン120に付加される抵抗を抑制しつつ、吸気を冷却することが可能になる。
【0076】
また、コントローラ6は、蓄圧器4の内圧PAを取得し、蓄圧器4から冷媒通路2に冷媒を戻すことにより内圧PAが第1閾値である閾値PA1よりも小さくなったと判定した場合は、内圧PAが閾値PA1よりも大きい場合と比べてコンプレッサ31の吐出圧力を大きくするとともに、冷媒通路2から蓄圧器4の内部への冷媒の流入を禁止する。
【0077】
この構成によれば、この構成によれば、蓄圧器4の内圧PAが小さくなった場合でも、コンプレッサ31の吐出圧力を大きくすることにより、必要量の冷媒を吸気用エバポレータ35に供給し、吸気用エバポレータ35の冷却能力を維持することが可能になる。このとき、冷媒通路2から蓄圧器4の内部への冷媒の流入を禁止することにより、コンプレッサ31の駆動に要するエネルギの増加を抑制することが可能になる。
【0078】
コントローラ6は、蓄圧器4の内圧PAを取得し、車両100が慣性走行をしており、且つ冷媒通路2から蓄圧器4の内部への冷媒の流入により内圧PAが第2閾値である閾値PA2よりも大きくなったと判定した場合は、冷媒通路2から蓄圧器4の内部への冷媒の流入を禁止し、コンプレッサ31が吐出する冷媒を吸気用エバポレータ35に供給させる。
【0079】
この構成によれば、この構成によれば、蓄圧器4の内部に十分な量の冷媒が貯留されている場合は、慣性走行をしている車両100の運動エネルギを用いてコンプレッサ31を駆動させ、このコンプレッサ31が吐出した冷媒を吸気用エバポレータ35に供給することにより、吸気用エバポレータ35を予冷することができる。この結果、その後に吸気冷却を開始する際の応答性を高めることが可能になる。
【0080】
<変形例>
次に、
図6を参照しながら、変形例に係るコントローラ(不図示)が実行する処理について説明する。
図6は、変形例に係るコントローラが実行する処理を示すフローチャートである。
【0081】
図6は、
図5に示した処理に代えて実行される処理の一部であり、吸気を冷却するための処理を示している。上述した実施形態に係るコントローラ6は、その時点のエンジン120の駆動状態(ノッキング発生域又は非ノッキング発生域)に基づいて吸気を冷却する処理を実行する。これに対し、変形例に係るコントローラは、エンジン120の駆動状態がノッキング発生域に移行することが予測される場合に、吸気を冷却する処理を実行する。
【0082】
まず、コントローラは、
図6のステップS31で、エンジン120への要求トルクTqrが閾値Tqr1以上であるか否かを判定する。具体的には、コントローラは、アクセルペダル115の踏み込み量等からエンジン120への要求トルクTqrを算出するとともに、この要求トルクTqrに基づいて、メモリに記憶されているマップを参照することにより、当該判定を行う。要求トルクTqrが閾値Tqr1以上である場合、エンジン120の駆動状態がノッキング発生域に移行する可能性が高い。要求トルクTqrが閾値Tqr1以上であると判定しなかった場合(S31:NO)、コントローラは、S32以降の処理を実行しない。一方、要求トルクTqrが閾値Tqr1以上であると判定した場合(S31:YES)、コントローラは、ステップS32に進む。
【0083】
ステップS32で、コントローラは、要求ライン圧力PLrを算出する。要求ライン圧力PLrは、吸気の冷却を十分に行うことが可能であるか否かを判断するための指標である。ライン圧力PLがこの要求ライン圧力PLr以上である場合は、コンプレッサ31の駆動のみにより十分な量の冷媒を迅速に吸気用エバポレータ35に供給し、吸気の冷却を迅速に開始することが可能である。コントローラは、ステップS31において算出した要求トルクTqrに基づいて、メモリに記憶されているマップを参照することにより、要求ライン圧力PLrを算出する。
【0084】
ステップS33で、コントローラは、ライン圧力PLが要求ライン圧力PLr以上であるか否かを判定する。したがって、ステップS33で、ライン圧力PLが要求ライン圧力PLr以上であると判定した場合(S33:YES)、コントローラは、ステップS38に進む。そして、ステップS38で、コントローラは、コンプレッサ31を駆動させて吸気用エバポレータ35に冷媒を供給し、吸気の冷却を開始する。このとき、蓄圧器4は、冷媒通路2に冷媒を戻さない。
【0085】
一方、ライン圧力PLがこの要求ライン圧力PLr未満である場合は、コンプレッサ31の駆動のみでは十分な量の冷媒を迅速に吸気用エバポレータ35に供給することができず、吸気の冷却の開始が遅くなるおそれがある。したがって、ステップS33で、ライン圧力PLが要求ライン圧力PLr以上であると判定しなかった場合(S33:NO)、コントローラは、ステップS34に進む。そして、コントローラは、ステップS34でコンプレッサ31を駆動させるとともに、次のステップS35で蓄圧器用開閉弁43を閉状態から開状態に移行させる。これにより、コンプレッサ31が冷媒を吐出するとともに、蓄圧器4が冷媒通路2に冷媒を戻すため、ライン圧力PLが迅速に増加する。この冷媒は吸気用エバポレータ35に供給され、吸気の冷却が開始する。
【0086】
ステップS36で、コントローラは、ライン圧力PLが要求ライン圧力PLr以上であるか否かを再び判定する。ライン圧力PLが要求ライン圧力PLr以上であると判定しなかった場合(S36:NO)は、コントローラは、引き続き蓄圧器4から冷媒通路2に冷媒を戻す。そして、ライン圧力PLが要求ライン圧力PLr以上であると判定した場合(S36:YES)は、コントローラは、ステップS37に進む。そして、ステップS37で、コントローラは、蓄圧器用開閉弁43を開状態から閉状態に移行させる。これにより、その後は、コンプレッサ31が吐出する冷媒のみを吸気用エバポレータ35に供給することにより、吸気を冷却することができる。
【0087】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。実施形態が備える各要素並びにその配置、材料、条件、形状及びサイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく、適宜変更することができる。
【0088】
上述した実施形態では、コントローラ6は、エンジン120の燃焼室121への燃料の供給が禁止されている場合に、車両100が慣性走行をしていると判定する。しかしながら、本発明では、これに代えて、コントローラ6は、アクセルペダル115の踏み込み量がゼロであって、且つ車両100が下り坂を走行している場合に、車両100が慣性走行をしていると判定してもよい。例えば、コントローラ6は、加速度センサ56から受信する検知信号に基づいて、鉛直方向における車両100の加速度を取得し、この加速度に基づいて、当該判定を行うことができる。このような構成によれば、エンジン120がトルクを発生させていない状態で、車両100の運動エネルギを用いたコンプレッサ31の駆動と、蓄圧器4への冷媒の貯留とが行われる。これにより、コンプレッサ31の駆動に起因してエンジン120に付加される抵抗を抑制しつつ、吸気を冷却することが可能になる。
【符号の説明】
【0089】
1 吸気冷却システム
2 冷媒通路
31 コンプレッサ
35 吸気用エバポレータ(エバポレータ)
4 蓄圧器
6 コントローラ
100 車両
117 車輪
120 エンジン
121 燃焼室
130a 吸気通路