(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-21
(45)【発行日】2024-03-01
(54)【発明の名称】車両のアームレスト取付構造
(51)【国際特許分類】
B60N 3/00 20060101AFI20240222BHJP
B60R 13/02 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
B60N3/00 C
B60R13/02 B
(21)【出願番号】P 2020055055
(22)【出願日】2020-03-25
【審査請求日】2022-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107238
【氏名又は名称】米山 尚志
(72)【発明者】
【氏名】谷口 仁章
(72)【発明者】
【氏名】新留 悠規
(72)【発明者】
【氏名】ジラデート プラサートシー
(72)【発明者】
【氏名】二ティテェ-プ 二ムサワド
【審査官】齊藤 公志郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-101164(JP,A)
【文献】特開2015-116985(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0231999(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 3/00-18
B60R 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドアトリム側に複数の取付係合部を設け、アームレスト側に複数の取付係止部を設け、
前記複数の取付係止部を前記複数の取付係合部にそれぞれ係合することによって、前記アームレストがドアの前後方向に沿った姿勢で前記ドアトリムに対して着脱可能に取付けられる車両のアームレスト取付構造であって、
前記アームレストの表面及び裏面のうち車室側へ露出しない少なくとも裏面に形成され、ドアの前後方向と交叉する方向に沿って延びる溝と、
前記溝の前方に配置され、前記アームレストから延びるテザーと、
前記テザーに対応して前記ドアトリム側に設けられ、前記複数の取付係止部が前記複数の取付係合部から外れた係合解除状態で前記テザーが係止可能なテザー係止部と、を備え、
前記テザーと前記テザー係止部とは、前記複数の取付係止部が前記複数の取付係合部と係合する係合完了状態と前記係合解除状態との間で、前記ドアトリムに対する前記アームレストの移動を許容し、
前記複数の取付係止部は、前記溝の前方に配置される第1の取付係止部と、前記第1の取付係止部の前方に配置される第2の取付係止部とを含み、
前記複数の取付係合部は、前記第1の取付係止部が係合する第1の取付係合部と、前記第2の取付係止部が係合する第2の取付係合部とを含み、
前記
テザーは、前記第1の取付係止部と前記第2の取付係止部との間に配置され、
前記テザーが前記テザー係止部に係止することにより、前記ドアトリムからの前記アームレストの前側の脱落が阻止される
ことを特徴とする車両のアームレスト取付構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アームレストがドアトリムに対して着脱可能に取付けられる車両のアームレスト取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ドアトリムにアームレスト支持部を膨出状に形成し、アームレスト支持部の上面にアームレストを取付ける構造が記載されている。アームレスト支持部の上面には開口(上面開口)が開設され、アームレストの内面には複数の係止片が下方に先端を向けて突設形成され、係止片を上面開口の縁部に係止することによってアームレストがアームレスト支持部に取り付けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の取付構造では、車両が側方からの衝突(側突)を受け、ドアにドア幅方向内側への荷重が入力した際に、係止片が上面開口から外れ、アームレストがドアトリムから剥離する可能性がある。ここで、アームレストの前端部と後端部とを比較すると、アームレストの後端部の側方(車室内側)には、シートに着座した乗員やシートバックが存在し、これら乗員やシートバックなどの障害物によってアームレストの車室内側への移動が抑制される場合が多く、これに対してアームレストの前端部の側方には、アームレストの車室内側への移動を抑制する障害物が存在しない場合が多い。このため、アームレストの前側は後側に比べてドアトリムから脱落し易く、脱落したアームレストの前側がシートに着座した乗員に衝突するおそれがある。
【0005】
係る不都合は、アームレストがドアトリムから離脱しないようにアームレストをドアトリムにビス等によって強固に固定することによって解決することも可能である。しかし、ドアの構成上、ドアパネルからドアトリムを取外すためには、ドアトリムからアームレストを取外す必要がある場合があり、部品交換やメンテナンスの作業性を考慮すると、アームレストの着脱を容易に行えることが好ましい。
【0006】
そこで本開示は、ドアトリムからのアームレストの着脱作業性を損なうことなく、アームレストの前側の脱落を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成すべく、本開示は、ドアトリム側に複数の取付係合部を設け、アームレスト側に複数の取付係止部を設け、複数の取付係止部を複数の取付係合部にそれぞれ係合することによって、アームレストがドアの前後方向に沿った姿勢でドアトリムに対して着脱可能に取付けられる車両のアームレスト取付構造であって、溝とテザーとテザー係止部とを備える。
【0008】
溝は、アームレストの表面及び裏面のうち車室側へ露出しない少なくとも裏面に形成され、ドアの前後方向と交叉する方向に沿って延びる。テザーは、溝の前方に配置され、アームレストから延びる。テザー係止部は、テザーに対応してドアトリム側に設けられ、テザー係止部には、複数の取付係止部が複数の取付係合部から外れた係合解除状態でテザーが係止可能である。テザーとテザー係止部とは、複数の取付係止部が複数の取付係合部と係合する係合完了状態と上記係合解除状態との間で、ドアトリムに対するアームレストの移動を許容する。複数の取付係止部は、溝の前方に配置される第1の取付係止部と、第1の取付係止部の前方に配置される第2の取付係止部とを含む。複数の取付係合部は、第1の取付係止部が係合する第1の取付係合部と、第2の取付係止部が係合する第2の取付係合部とを含む。テザーは、第1の取付係止部と第2の取付係止部との間に配置される。テザーがテザー係止部に係止することにより、ドアトリムからのアームレストの前側の脱落が阻止される。
【0009】
上記構成では、ドア幅方向外側からの荷重入力に対し、アームレストは溝で曲折し易い。このため、車両(車両の前後方向に沿って起立する閉止位置のドア)が側突を受け、ドアトリムが車幅方向内側(車室側)へ凹むように曲折した際に、アームレストは溝で曲折してドアトリムの変形に追従し易くなり、アームレストの前側はドアトリムから離脱し難くなる。また、ドアトリムの変形にアームレストが追従できず、取付係止部が取付係合部から外れて係合解除状態となった場合であっても、テザーがテザー係止部に係止することによってドアトリムからのアームレストの前側の脱落が阻止される。これにより、アームレストの前側の脱落を防止することができる。
【0010】
また、テザーとテザー係止部とは、係合完了状態と係合解除状態との間でドアトリムに対するアームレストの移動を許容するので、アームレストの着脱に際しては、テザーを設けていない場合と同様に、取付係合部に対する取付係止部の係合や係合解除を行なえばよい。従って、アームレストをドアトリムにビス等によって強固に固定する場合に比べて、アームレストの着脱作業を容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0011】
本開示のアームレスト取付構造によれば、ドアトリムに対するアームレストの着脱作業性を損なうことなく、アームレストの前側の脱落を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係るアームレスト取付構造を適用したドアを車室内側から視た内側面図である。
【
図2】アームレストを車室内側から視た斜視図である。
【
図3】アームレストの前部をドアトリム側へ取付ける前のアームレスト及びドアトリムを車室内側から視た斜視図である。
【
図4】アームレストの前部を車室外側から視た斜視図である。
【
図5】アームレストの前部が取付けられるドアトリム側の構造を車室内側から視た斜視図である。
【
図6】プルボックス及びテザーを車室内側から視た内側面図である。
【
図8】
図2のVIII-VIII矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において、FRは車両の前方を、UPは上方を、INは車幅方向内側をそれぞれ示す。また、以下の説明において、左右方向は車両前方を向いた状態での左右方向を意味する。
【0014】
図1に示すように、本実施形態に係るアームレスト取付構造は、自動車等の車両の左右のドア1(
図1には右側のドアを示す)に適用される。左右のドア1は、車両の左右に対称的に設けられ、ほぼ同様の構成を有するため、以下では、右側のドアについて説明し、左側の説明を省略する。
【0015】
ドア1は、ドアパネル2とドアトリム3とから概略構成され、キャブ(車体)の側面に配置されてドア開口(図示省略)を開閉自在に閉止する。ドア開口を閉止する閉止位置のドア1は、車室の側方で車両の前後方向に沿って起立する。以下の説明において、ドア1に関する方向は、特に断らない限り閉止位置のドア1における方向を意味し、ドア1の前後方向及び幅方向(ドア幅方向)は、車両の前後方向及び車幅方向と概ね同方向となる。
【0016】
ドアパネル2は、車幅方向外側のドアアウタパネル(図示省略)と、車幅方向内側のドアインナパネル4とを接合して形成され、その前端部が上下2つのドアヒンジ(図示省略)を介してキャブのドア開口の前端縁部(車体側)に回転自在に支持される。
【0017】
ドアトリム3は、ドアインナパネル4のドア幅方向内側面(内面)に固定される樹脂製のパネルである。ドアトリム3には樹脂製のプルボックス5が固定され、ドアトリム3及びプルボックス5に対して樹脂製のアームレスト6が着脱可能に取付けられる。アームレスト6は、ドア1の車室内のシート(図示省略)に着座した乗員の肘掛として好適な高さ位置で、ドア1の後端部から前後方向の略中央まで略水平に延びる。プルボックス5は、上方に開口する箱体状であり、アームレスト6の前端部6Fのドア幅方向の外側に配置される。シート1に着座した乗員は、ドア1を閉める際に、プルボックス5に上方から指を挿入し、アームレスト6の前端部6Fを掴んで、ドア1を引き寄せることができる。
【0018】
図2~
図8に示すように、アームレスト6は、L状断面であり、ドアトリム3からドア幅方向内側へ略水平に延びるアームレスト横面部7と、アームレスト横面部7のドア幅方向内側の端縁から下方へ曲折して延びるアームレスト縦面部8とを一体的に有する。アームレストの前端部6Fでは、プルボックス5の開口を上方へ露出させるための切欠き状の凹部9がアームレスト横面部7のドア幅方向外側に形成され、アームレスト横面部7の横幅は、前後方向の中央よりも前端部6Fの方が狭く、アームレスト縦面部8の下縁は、前方に向かって上方へ傾斜し、アームレスト縦面部8の上下幅は、前方に向かって狭くなる。
【0019】
アームレスト6は、硬質なアームレスト基材10と、アームレスト基材10に固定されてアームレスト基材10の外面を覆う軟質な表皮材11とから構成さている(
図7参照)。アームレスト6の表面及び裏面のうち車室側へ露出しない裏面(アームレスト基材10の裏面)には、複数のクリップ12が固定され(
図4参照)、ドアトリム3及びプルボックス5には、各クリップ12に対応して複数のクリップ係合孔13が形成されている(
図6参照)。クリップ12は、アームレスト6側に設けられる取付係止部を構成し、クリップ係合孔13は、ドアトリム3側に設けられる取付係合部を構成する。クリップ係合孔13にクリップ12を上方から挿入して係合することにより、アームレスト6がドア1の前後方向に沿った姿勢でドアトリム3に対して着脱可能に取付けられる。なお、
図2、
図4及び
図8には、アームレスト基材10のみを図示し、表皮材11の図示を省略している。
【0020】
アームレスト6(本実施形態ではアームレスト基材10)の前端部6Fの裏面には、ドア1の前後方向と交叉する方向に沿って溝14が形成されている。溝14は、アームレスト横面部7のドア幅方向外側の端面からアームレスト縦面部8の下端面まで連続し、アームレスト横面部7ではドア幅方向に沿って直線状に延び、アームレスト縦面部8では上下方向に沿って直線状に延び、アームレスト横面部7のドア幅方向外側の端面では、溝14が上下方向に貫通している(
図8参照)。なお、アームレスト基材10の裏面に加えてアームレスト基材10の表面にも溝を形成してもよい。また、アームレスト横面部7の車幅方向外側端部やアームレスト縦面部8の下端部等において、表皮材11にも溝を形成してもよい。
【0021】
アームレスト6(本実施形態ではアームレスト基材10)の前端部6Fの裏面には、テザー15が固定され、ドアトリム3側(本実施形態ではプルボックス5)には、テザー15に対応してテザー係止部16が設けられる。テザー15は、溝14の前方でアームレスト6から下方へ延びる。溝14の前方には2つのクリップ12が設けられ、これら2つのクリップ12の間にテザー15が配置される(
図4参照)。テザー係止部16は、プルボックス5に形成された矩形状のテザー挿通孔21の前方及び後方で離間して対向する前後一対の対向壁22の下端面によって構成される(
図6参照)。
【0022】
テザー15は、アームレスト基部10にビス20によって固定される上端部17と、上端部17から下方へ延びる中間部18と、中間部18の下端に形成される矢じり形状の下端部19とを一体的に有する(
図6及び
図7参照)。テザー15の下端部19は、テザー挿通孔21に上方から挿入される。テザー15の下端部19の前後幅はテザー係止部16の離間幅(前後の対向壁22の下端間の距離)よりも大きく、下端部19をテザー挿通孔21に上方から挿入して下方へ押圧すると、下端部19が弾性変形してテザー挿通孔21を通り抜け、テザー係止部16の下方に到達する。
【0023】
アームレスト6をドアトリム3側へ組付ける場合、テザー15の下端部19を上方からテザー挿通孔21に挿入してテザー係止部16の下方まで押込んだ後、各クリップ12を対応するクリップ係合孔13にそれぞれ係合する。テザー15の下端部19とテザー係止部16とは、クリップ12がクリップ係合孔13と係合する係合完了状態と、クリップ12がクリップ係合孔13から外れた係合解除状態との間で、ドアトリム3に対するアームレスト6の移動を許容する。換言すると、ドアトリム3にアームレスト6を組付けた組付状態で、テザー係止部16とテザー15の下端部19の上端との距離D(
図6参照)は、クリップ12をクリップ係合孔13から外す際にドアトリム3に対してアームレスト6を移動させる距離よりも長く設定されている。
【0024】
テザー係止部16には、クリップ12がクリップ係合孔13から外れた係合解除状態で、テザー15の下端部19の上端が係止可能である。テザー15がテザー係止部16に係止することにより、ドアトリム3からのアームレスト6の前側の脱落が阻止される。なお、テザー15とテザー係止部16との係止力(テザー15をテザー係止部16から引き抜いて係止を解除するために要する力)は、クリップ12とクリップ係合孔13との係合力(クリップ12をクリップ係合孔13から引き抜いて係合を解除するために要する力)よりも大きく設定されている。
【0025】
本実施形態によれば、ドア幅方向外側からの荷重入力に対し、アームレスト6は溝14で曲折し易いので、車両(前後方向に沿って起立する閉止位置のドア1)が側突を受け、ドアトリム3が車幅方向内側(車室側)へ凹むように曲折した際に、アームレスト6は溝14で曲折してドアトリム3の変形に追従し易くなり、アームレスト6の前側はドアトリム3から離脱し難くなる。また、ドアトリム3の変形にアームレスト6が追従できず、クリップ12がクリップ係合孔13から外れて係合解除状態となった場合であっても、テザー15がテザー係止部16に係止することによってドアトリム3からのアームレスト6の前側の脱落が阻止される。これにより、アームレスト6の前側の脱落を防止することができる。
【0026】
また、テザー15とテザー係止部16とは、係合完了状態と係合解除状態との間でドアトリム3に対するアームレスト6の移動を許容するので、アームレスト6の着脱に際しては、テザー15を設けていない場合と同様に、クリップ係合孔13に対するクリップ12の係合や係合解除を行なえばよい。従って、アームレスト6をドアトリム3にビス等によって強固に固定する場合に比べて、アームレスト6の着脱作業を容易に行うことができる。
【0027】
以上、本発明について、上記実施形態に基づいて説明を行ったが、本発明は上記実施形態の内容に限定されるものではなく、当然に本発明を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。すなわち、この実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例および運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、アームレストをドアトリムに対して着脱可能に取付ける車両に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0029】
1:ドア
2:ドアパネル
3:ドアトリム
4:ドアインナパネル
5:プルボックス
6:アームレスト
6F:アームレストの前端部
7:アームレスト横面部
8:アームレスト縦面部
9:凹部
10:アームレスト基材
11:表皮材
12:クリップ(取付係止部)
13:クリップ係合孔(取付係合部)
14:溝
15:テザー
16:テザー係止部
17:テザー係止部の上端部
18:テザー係止部の中間部
19:テザー係止部の下端部
20:ビス
21:テザー挿通孔
22:対向壁