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特許7441435アスベスト除去装置及びアスベスト除去方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-21
(45)【発行日】2024-03-01
(54)【発明の名称】アスベスト除去装置及びアスベスト除去方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20240222BHJP
【FI】
E04G23/02 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023171717
(22)【出願日】2023-10-03
【審査請求日】2023-10-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523376947
【氏名又は名称】株式会社エターナルアート
(74)【代理人】
【識別番号】100202120
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 修
(72)【発明者】
【氏名】寺岡 寿
【審査官】菅原 奈津子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-059394(JP,A)
【文献】特開2007-291747(JP,A)
【文献】特開2020-041303(JP,A)
【文献】特開2020-143527(JP,A)
【文献】特開2022-102328(JP,A)
【文献】特開2007-125467(JP,A)
【文献】米国特許第05047089(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
E04G 23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物に付着したアスベスト層を除去するアスベスト除去装置であって、
前記アスベスト層を除去する除去部と、
前記除去部にアスベストの飛散を防ぐ水を供給し、前記水と前記除去部によって除去されたアスベスト除去物との混合物を受け入れて濾過して得た前記水を再び前記除去部に供給する循環部と、
前記除去部と前記循環部とを負圧に保つ吸引部と、を有し、
前記除去部は、
前記アスベスト層を研削して除去するディスクと、前記アスベスト層を覆うことで閉鎖空間を形成するカバーと、前記閉鎖空間に前記水を噴射するノズル部と、前記閉鎖空間から前記水と前記アスベスト除去物との前記混合物を排出する排出孔と、を有し、
前記循環部は、
前記ノズル部に前記水を供給するための給水ホースを接続する給水機構と、前記除去部から前記混合物を受け入れるための排出ホースを接続する受入口と、前記混合物を濾過するフィルターと、前記吸引部に排気するための排気ホースを接続する排気口と、
を有し、アスベスト層を除去する作業の開始から完了までの期間、前記水を排水しないことを特徴とするアスベスト除去装置。
【請求項2】
前記給水機構に接続される給水ホースと、
前記受入口に接続される排出ホースと、
前記排気口に接続される排気ホースと、
を有することを特徴とする請求項1に記載のアスベスト除去装置。
【請求項3】
前記循環部の前記給水機構は、前記循環部内の前記水を前記除去部に供給するポンプを備えることを特徴とする請求項1に記載のアスベスト除去装置。
【請求項4】
前記水は、剥離剤を含有することを特徴とする請求項1に記載のアスベスト除去装置。
【請求項5】
請求項1記載のアスベスト除去装置を用いて構造物に付着したアスベスト層を除去する除去方法であって、
以下の行程を含む、アスベスト除去方法
(1)アスベストの飛散を防ぐ前記水を前記循環部から前記給水ホースを介して前記除去部の前記ノズル部から前記閉鎖空間に供給する工程、
(2)前記除去部の前記カバーで構造物に付着した前記アスベスト層を覆うことで前記閉鎖空間を形成する行程、
(3)前記除去部の前記ディスクで研削して前記アスベスト層を除去する工程、
(4)前記除去部から前記水と前記除去物との混合物を前記循環部に排出する工程、
(5)前記循環部の前記フィルターで前記混合物から分離して得た前記水を前記除去部の前記ノズル部に供給する工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスベスト除去装置及びアスベスト除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アスベストは過去に建材や断熱材として広く使用されていたが、その後の研究によって健康リスクが判明し、アスベストに関連する健康被害(肺がんや中皮腫など)が明らかになった。アスベストによる健康被害と言われている中皮腫の患者は年々増えつづけており、厚生労働省の人口動態統計によると、2017年に中皮腫で死亡された人は1,555名で、1995年の3倍以上になっている。また、平成29年度の労災の支給決定件数を業種別にみると、製造業と建設業が多くなっている。このため、安全なアスベスト除去方法が重要とされている。
【0003】
アスベストは、吸入すると肺やその他の臓器に深刻な健康被害をもたらす危険性がある。特に、アスベストが乾燥して粉塵となった際に、その微細な繊維が空中に放出されると、その繊維が肺に取り込まれやすくなる。このときの繊維は非常に小さく、空気中で長時間浮遊する。そのため、湿潤な状態に保ちながら作業を行う必要がある。
【0004】
アスベスト除去方法には、建築物の壁面の塗材に用いられているアスベストを高圧の水やミストを使って除去するウォータージェット法やグラインダーの研削領域に水や剥離剤を供給して除去したアスベストの飛散を防ぐ湿式方式などがある。しかしながら、ウォータージェット法は、数十~数百MPaという高圧水(又はミスト)を用いるため、大量の高圧水を必要とする。高圧水を使用して材料を切断するウォータージェットカッターの水の圧力が20~40Mpaであることと比較しても、ウォータージェット法によるアスベスト除去が高圧水を大量に使用することが分かる。
【0005】
特許文献1に記載の発明は、ウォータージェット方式によるアスベスト除去によるもので、1台の剥離装置に対して少なくとも245MPaの圧力の水を毎分9リットル供給できる高圧水供給装置を用いている([0031])。また、アスベスト除去に使用した水は排水装置を用いて排水されるが、1台の剥離装置が濾過槽へ送出する混合水の水量が、毎分9リットルであり、剥離装置が1日当り実際に高圧水を噴射している実動時間が2.5時間(150分)であるとすると、1台の剥離装置が濾過槽へ送出する混合水の水量は1,350リットルとされる([0041])。この水は、環境基準に適合するように水のかくはん機能を備えた中和装置を設置して中和処理したうえで自然環境に排水する必要があるため、アスベスト除去設備の大型化と除去費用のコスト高が避けられなかった。更に、ウォータージェット方式は、高圧の水を噴出するノズルが目詰まりしやすいため、アスベストの剥離に使用した粉砕されたアスベスト除去物を含む水を再利用することは困難であった。
【0006】
特許文献2に記載の発明は、スクレーパを用いた湿式グラインダー方式によるアスベスト除去を開示する。ウォータージェット方式に比べると使用する水の量は少ないものの、それでも毎分0.05~1.00リットルの水が供給される([0029])。仮に、実動時間が2.5時間(150分)であるとすると、1台の剥離装置が濾過槽へ送出する混合水の水量は、最大で150リットルになる。この使用した水は、環境基準に適合させるため中和処理槽を設置して処理したうえで自然環境に排水されるため[0048]、やはりアスベスト除去設備の大型化と除去費用のコスト高が避けられなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-144384号公報
【文献】特開2022-6896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、小型で、除去費用の処理コストを抑えることができるアスベスト除去装置及びその装置を使用したアスベスト除去方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく、発明者は湿式方式によるアスベスト除去において、アスベストの飛散を防ぐために使用した水を全く自然環境に排水せずに再利用することで、従前の湿式方式では必要とされた中和装置、排水装置などの設備を省くことができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の実施形態は、以下の構成の少なくとも一部を含み得る。
【0010】
[1]構造物に付着したアスベスト層を除去するアスベスト除去装置であって、
前記アスベスト層を除去する除去部と、前記除去部にアスベストの飛散を防ぐ水を供給し、前記水と前記除去部によって除去されたアスベスト除去物との混合物を受け入れて濾過して得た前記水を再び前記除去部に供給する循環部と、前記除去部と前記循環部とを負圧に保つ吸引部と、を有し、
前記除去部は、前記アスベスト層を研削して除去するディスクと、前記アスベスト層を覆うことで閉鎖空間を形成するカバーと、前記閉鎖空間に前記水を噴射するノズル部と、前記閉鎖空間から前記水と前記アスベスト除去物との前記混合物を排出する排出孔と、を有し、
前記循環部は、前記ノズル部に前記水を供給するための給水ホースを接続する給水機構と、前記除去部から前記混合物を受け入れるための排出ホースを接続する受入口と、前記混合物を濾過するフィルターと、前記吸引部に排気するための排気ホースを接続する排気口と、を有し、アスベスト層を除去する作業の開始から完了までの期間、前記水を排水しないことを特徴とする。
[2]前記給水機構に接続される給水ホースと、前記受入口に接続される排出ホースと、
前記排気口に接続される排気ホースと、を有することを特徴とする。
[3]前記循環部の前記給水機構は、前記循環部内の前記水を前記除去部に供給するポン
プを備えることを特徴とする。
[4]前記水は、剥離剤を含有することを特徴とする。
[5][1]記載のアスベスト除去装置を用いて構造物に付着したアスベスト層を除去する除去方法であって、
以下の行程を含む、アスベスト除去方法
(1)アスベストの飛散を防ぐ前記水を前記循環部から前記給水ホースを介して前記除去部の前記ノズル部から前記閉鎖空間に供給する工程、
(2)前記除去部の前記カバーで構造物に付着した前記アスベスト層を覆うことで前記閉鎖空間を形成する行程、
(3)前記除去部の前記ディスクで研削して前記アスベスト層を除去する工程、
(4)前記除去部から前記水と前記除去物との混合物を前記循環部に排出する工程、
(5)前記循環部の前記フィルターで前記混合物から分離して得た前記水を前記除去部の前記ノズル部に供給する工程。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によれば、構造物に付着したアスベスト層を除去する場合に、アスベストの飛散を防ぐために除去部に供給する水を、アスベスト除去物と水との混合物を受け入れる循環部で濾過して得た水を再び除去部に供給することで、使用した水を自然環境に排水することなく何度でも再利用することができるため、貯留槽や中和装置などを設置したり、自然環境に排出する水の水質をモニターする必要がないことから、アスベスト除去装置を小型化できるとともに、除去費用の処理コストを抑えることができる。
【0012】
請求項2の発明によれば、除去したアスベストを循環部に運搬できる。
【0013】
請求項3の発明によれば、除去部に循環部内の水を供給できる。
【0014】
請求項4の発明によれば、構造物に付着したアスベスト層を容易に除去できる。
【0015】
請求項5の発明によれば、請求項1から3の発明に係るアスベスト除去装置を用いたアスベスト除去方法を使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】アスベスト除去装置及びアスベスト除去方法の概略図である。
図2】本発明の実施形態の一例である。
図3】除去部の正面図である。
図4】除去部の背面図である。
図5】循環部の説明図である。
図6】吸引部の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好ましい実施形態について、図を参照して説明する。
【0018】
本発明のアスベスト除去装置及びアスベスト除去方法の実施形態の一例について、図1ないし図6を参照しながら説明する。図1は、本発明のアスベスト除去装置及びアスベスト除去方法の実施形態の一例を示す概略図である。図2は、本発明の実施形態の一例である。図3は、本発明の除去部の正面図である。図4は、本発明の除去部の背面図である。図5は、本発明の循環部の説明図である。図6は、本発明の吸引部の説明図である。
【0019】
アスベスト除去装置1の概要について説明する。図1ないし図6に示すとおり、アスベスト除去装置1は、アスベスト層C又は下地調整層Aを除去する除去部2と、アスベストの飛散を防ぐための水や処理剤などの液体(以下、「水W」という。)を除去部2に供給するとともに、除去部2の除去物Rと水Wとの混合物Mを受け入れる循環部3と、循環部3の内部を負圧に維持する吸引部4から構成される。
【0020】
<除去部2の構成>
図1ないし図4に示すとおり、アスベスト除去装置1の除去部2は、下地調整層Aと、下地調整層Aの表面にアスベストを含有する塗材により形成されたアスベスト層Cと、を有する構造物Sのアスベストを含有するアスベスト層Cをディスク220のサンドペーパー部221を使用して削り取る。粗さの異なるサンドペーパーを選択することで、作業内容に応じた仕上げを行うことができる。図2に示すとおり、除去部2のカバー230がアスベスト層Cを覆うことで閉鎖空間Wsを形成するカバー230の内部周壁部231と、アスベストの飛散を防ぐための水Wを閉鎖空間Ws内に噴射するノズル部240と、除去部2の除去物Rと水Wとの混合物Mを循環部3へ排出する排出孔250と、を備えている。内部周壁部231の機能はカバー230が兼ねてもよい。この場合は、内部周壁部231を設けなくてもよい。
【0021】
図2図4に示すとおり、除去部2は、ディスク220、カバー230、内部周壁部231を含む。以下、上下は、使用時において構造物Sに面する側を下と、その反対側を上と、左右は、使用時において左方向を左と、右方向を右とする。ディスク220の形状は上方が凸型の形状であり、ディスク220の外周下面には、サンドペーパー部221が円板状に形成されている。サンドペーパー部221の幅は1cm~5cmが好ましく、2cm~4cmが更に好ましい。ディスク220のサンドペーパー部221より中心寄りにディスク220の円周に沿って複数の孔222が形成されており、孔222の上方からノズル部240が孔222を通過して水を閉鎖空間Wsに噴射することができる。内部周壁部231は、カバー230からディスク220の上方からディスク220を覆うように下方に突出する。内部周壁部231は、カバー230と一体成型されてもよい。内部周壁部231を設けずにカバー230が内部周壁部231の機能を兼ねてもよい。内部周壁部231の下端には、更に下方に突出し、可撓性を有するパッキン232が敷設され、除去部2の使用時にはパッキン232が構造物Sに密着して閉鎖空間Wsを形成する。パッキン232はブラシ形状であってもよい。
【0022】
図2図4に示すとおり、除去部2の本体233は、略円筒形であり、一方向に棒状の取手234を備える。取手234は、本体233の左右いずれの方向に備えてもよい。除去部2の使用時に片方の手で本体233を把持し、もう片方の手で取手234を把持することで除去部2を構造物Sに安定して密着させることができる。
【0023】
除去部2のノズル部240は、水量を調節する水量調節コック241(図3)に連通し、水量調節コック241には、給水ホース242が接続されている。水量調節コック241は、回動可能に取付けられ、水量を自在に調節することができる。
【0024】
ノズル部240は、ディスク220が回転した際の孔222の軌跡上に配置されている。ディスク220の回転に伴い、ノズル部240の下を孔222が通過する際、ノズル部240から噴射された水Wは孔222を通過し、ノズル部240の下をディスク220の孔222のない部分が通過する際は、ノズル部240から噴射された水Wはディスク220に当たる。このプロセスにより、ノズル部240から噴射された水Wは、回転するディスク220や構造物Sに衝突して微細な水滴となり、除去部2の内部周壁部231に敷設されたパッキン232と構造物Sが密着することで形成される閉鎖空間Ws内を均等に湿潤な状態にすることができる。
【0025】
図2図4に示すとおり、除去部2は、排出孔250を備える。排出孔250は、ディスク220が削り取ったアスベストを含むアスベスト層C、下地調整層Aなどとノズル部240から供給された水Wとが混合した泥状の混合物Mを排出する。排出孔250は、カバー230の下面から上面に連通して設けられている。排出孔250は、使用状態において混合物Mが導出される位置に設けられる。
【0026】
アスベスト除去装置1は、除去部2のノズル部240に水を供給するための給水ホース242と、除去部2の除去物Rと水Wとの混合物Mを閉鎖空間Wsから排出するための排出ホース251をさらに備える。給水ホース242の一端は、ノズル部240に接続され、ノズル部240に給水ホース242を介して水Wが供給される。また、排出ホース251の一端は、排出孔250に接続され、排出ホース251を介してアスベストを含むアスベスト層C、下地調整層Aなどとノズル部240から供給された水Wとが混合した粒状の混合物Mが除去部2と構造物Sとの閉鎖空間Wsから排出される。排出ホース251の径は、20mm~100mmが好ましく、30mm~40mmがさらに好ましい。
【0027】
<循環部3の構成>
図1及び図5に示すとおり、循環部3は、密閉構造であり、除去部2から排出された混合物Mを受け入れる受入口320と、除去部2から受け入れた混合物Mを除去部2の除去物Rと水Wとに分離するフィルター321と、フィルター321により分離された水Wを給水ホース242を介して再び除去部2に供給する給水機構322と、吸引部4に排気ホース331を介して接続する排気口330とを備える。循環部3の形状は、循環部3が負圧で維持されることから、円筒形が好ましいが、これに限定されない。循環部3の容量は、10リットル~100リットルが好ましく、20リットル~60リットルが更に好ましい。循環部3のうち、除去物Rと分離された水を貯留する部分の容量は、10リットル~30リットルが好ましく、15リットル~25リットルが更に好ましい。循環部3のフィルター321で濾過された水は、循環部3から自然環境に排水されることなく、除去部2に送られて再利用されるので、アスベスト除去装置1は、循環部3を小型化でき、狭隘な現場でも搬入できる。循環部3の受入口320及び排気口330は、循環部3の上部に配置することが好ましく、給水機構322は、循環部3の下部に配置することが好ましいが、これに限定されない。フィルター321の孔径は、1μm~3mmが好ましく、100μm~1mmが更に好ましい。フィルター321で濾過して得た水Wは、自然環境に排水されないことから、除去物Rを検出限界値以下にまで濾過する必要はなく、水質検査も必要ない。
【0028】
図1に示すとおり、循環部3の給水機構322は、ポンプ323と給水口324とを含む。ポンプ323は水中ポンプ(例えば、LNSTUDIO 25W-1500L/H)が好ましい。循環部3のフィルター321で濾過された水は、ポンプ323により給水ホース242を介して除去部2のノズル部240に送られてアスベストの飛散を防ぐ水Wとして再利用される。
【0029】
図1に示すとおり、循環部3で濾過された水Wは再利用され、水Wを自然環境に排水しない。このため、従来のアスベスト除去装置では必要であった水Wを一旦貯留して自然環境に排水する前に中和処理を行う中和設備は必要なく、水Wの水質確認のための検査も不要である。従来は、数千リットルの容量の貯水槽に水Wを貯めておき、中和設備で環境基準に適合するよう処理して排水するため、日々の水質検査が必要であったが、アスベスト除去装置1では必要ない。このため、システム全体を小型化でき、作業効率、処理費用の点で有利である。また、貯水槽は容量が大きいためトラックなどによって現場に運搬する必要があり、狭隘な作業現場では設置が困難であり、狭隘な作業現場でのアスベスト除去に課題があったが、アスベスト除去装置1は、貯水槽が不要なため、狭隘な作業現場においてもアスベストの除去が可能となる。
【0030】
循環部3で濾過された水Wは、自然環境に排水されることなく、繰り返し再利用されるが、アスベスト除去工事が完了した時点で循環部3内に再利用されなかった水Wが残る場合がある。この場合でも、水Wの残量が少量(20リットル~30リットル)であるため、をフィルター321で濾過した除去物Rとともに凝固剤によって凝固し、産業廃棄物として処理することができる。この結果、アスベスト除去装置1は、アスベスト除去工事の開始から完了まで水Wを一切自然環境に排水することがない。
【0031】
<吸引部4の構成>
図1及び図6に示すとおり、吸引部4は、循環部3の排気口330と排気ホース331によりエアタイトに結合され、循環部3、排出ホース251、排出孔250及び閉鎖空間Ws内を負圧に維持できる。吸引部4は、微小な粒子や微細な粉塵などを捕集するために使用されるHEPAフィルター(High Efficiency Particulate Air filter)を備えてもよい(図示せず)。
【0032】
以下、アスベスト除去装置1を使用してアスベストを除去する方法について詳細に説明する。
【0033】
<アスベストの飛散を防ぐ水Wを循環部3から除去部2に供給する工程>
アスベスト除去装置1は、除去部2により、構造物Sの表面に形成された下地調整層Aと、下地調整層Aの更に表面にアスベストを含有する塗材により形成されたアスベスト層Cをディスク220のサンドペーパー部221で削り取る。この際に、アスベストの飛散を防ぐため、除去部2のカバー230の内部周壁部231及びパッキン232が構造物Sのアスベスト層Cを覆うことによって形成される閉鎖空間Ws内に水Wを噴射するノズル部240に水Wが供給される。
【0034】
ノズル部240は、水量を調節する水量調節コック241(図2) に連通しており、水量調節コック241には、給水ホース242が接続されている。水量調節コック241は回動可能に取付けられ、ノズル部240から供給される水Wの量を自在に調節できる。
【0035】
除去部2のノズル部240に供給される水Wは、外部の給水源によることなく、循環部3に貯留された水Wを使用することができる。循環部3に設置されたポンプ323は、循環部3に貯留された水Wを給水ホース242を介してノズル部240に供給できる。アスベスト除去工事の開始時に循環部3に貯留された水Wの量が少ないか、まだ水Wが貯留されていない場合は、循環部3、除去部2のノズル部240又は給水ホース242に外部の給水源から給水してもよい。
【0036】
<水Wを除去部2のノズル部240から閉鎖空間Wsに供給する工程>
ノズル部240は、ディスク220が回転したときの孔222の回転軌跡上に配置されている。ディスク220の回転に伴い、ノズル部240の下を孔222が通過する際、ノズル部240から噴射された水Wは孔222を通過し、ノズル部240の下をディスク220の孔222のない部分が通過する際は、ノズル部240から噴射された水Wはディスク220に当たる。このプロセスにより、ノズル部240から噴射された水Wは、回転するディスク220や構造物Sに衝突して微細な水滴となり、除去部2の閉鎖空間Ws内を均等に湿潤な状態にすることができ、研削されたアスベスト層C又は下地調整層Aを湿潤化し、アスベストを含む研削されたアスベスト層Cなどがアスベスト除去装置1の外部へ飛散することを防ぐ。
【0037】
図2図4に示すとおり、除去部2の内部周壁部231の下端には、可撓性を有するパッキン232が敷設されており、除去部2のカバー230で構造物Sのアスベスト層Cを覆うことで閉鎖空間Wsが形成される。循環部3から除去部2のノズル部240に供給された水Wは、パッキン232が構造物Sのアスベスト層Cに密着することで形成された閉鎖空間Wsに噴射される。供給される水Wの量は、例えば、毎分0.1~2リットル程度を例示できる。ノズル部240から噴射された水は、回転するディスク220や構造物Sのアスベスト層Cに衝突して微細な水滴となり、閉鎖空間Ws内を均等に湿潤な状態にすることができる。
【0038】
除去部2の閉鎖空間Ws内で、微細な水滴となった水Wは、研削されたアスベスト層C及び下地調整層Aなどと混合されることにより、泥状の混合物Mとなるため、アスベスト層Cに含有されているアスベストがアスベスト除去装置1の外に飛散するおそれがない。循環部3の水Wに研削されたアスベスト層Cの飛散を防止するためのポリマーなどの飛散防止剤を添加してもよい。
【0039】
<除去部2でアスベスト層C又は下地調整層Aを除去する工程>
コンプレッサー(図示せず)で圧縮された空気を給気ホース(図示せず)を介して除去部2へ供給する。除去部2は、本体233にエアモータ(図示せず)を備えており、コンプレッサーから供給された圧縮空気によって駆動され、エアモータと連結された歯車機構(図示せず)によりディスク220が回転する。
【0040】
ディスク220は上方が凸型の形状を例示できるが、これに限定されない。ディスク220の外周の構造物Sのアスベスト層Cに接する面には、サンドペーパー部221が円周状に形成されている。サンドペーパー部221の幅は1cm~5cmが好ましく、1.5cm~2cmが更に好ましい。ディスク220の径は、8cm~15cmが好ましく、10cm~13cmが更に好ましい。ディスク220の径が大きければ広い面積のアスベストを含むアスベスト層Cや下地調整層Aを削り取ることができ、効率的である。また、サンドペーパー部221の研磨剤の粒子が大きいものを選べばより深く研削でき、アスベスト層Cが下地調整層Aまで入り込んでいた場合には下地調整層Aとともに削り取ることができる。研磨剤の粒子が小さいものを選べばアスベスト層Cのみを選択して研削できる。
【0041】
<除去部2から除去物Rと水Wとの混合物Mを吸引部4により負圧が維持された循環部3に排出する工程>
図5及び図6に示すとおり、吸引部4は、循環部3と排気口330と排気ホース331によりエアタイトに結合され、循環部3、排出ホース251、排出孔250及び閉鎖空間Ws内を負圧に維持する。
【0042】
吸引部4(図6)を駆動すると、排気ホース331を介して循環部3の内部が負圧になり、これにより、排出ホース251を介して、除去部2のカバー230がアスベスト層Cを覆うことで形成される閉鎖空間Ws(図2)が負圧になる。そして、閉鎖空間Wsからアスベストを含む除去物Rと水Wとの混合物Mを除去部2の排出孔250から排出ホース251を介して循環部3へ排出される(図1)。
【0043】
<除去部2から排出された混合物Mを循環部3のフィルター321により除去物Rと水Wとに分離する工程>
図5に示すとおり、循環部3は、本体301と、この本体301の上部に開閉可能に設けられた蓋302とを備えている。また、図1に示すとおり、本体301の内部には、吸引された混合物Mを水Wと除去物Rとに分離するフィルター321が設けられている。循環部3に排出された混合物Mは、フィルター321によって混合物Mを研削されたアスベスト層C、下地調整層Aなどの除去物Rと水Wに分離する。
【0044】
フィルター321は、500μm以下の粒子を濾過する能力を例示できる。アスベスト除去装置1は、水Wを自然環境に排水しないので、水Wに含まれる除去物Rが検出限界値以下となるまで濾過する必要はない。
【0045】
本実施形態のアスベスト除去方法では、混合物Mは、湿潤状態のため、混合物Mに含有されているアスベストが外気に飛散するおそれがない。除去部2によりアスベスト層Cなどの表面を研削している作業中のみならず、その研削により除去されたアスベスト層Cなどを循環部3へ回収する経路においてもアスベスト層Cに含有されているアスベストがアスベスト除去装置1の外部に飛散するおそれがない。
【0046】
<フィルター321により分離された水Wを除去部2に供給する工程>
図1に示すとおり、循環部3に排出された混合物Mは、フィルター321で濾過され、フィルター321上には、粒上のアスベスト層C及び下地調整層Aなどの破砕物が残り、濾過された水Wは、循環部3の下部に溜まる。フィルター321の孔径は、1μm~3mmが好ましく、100μm~1mmが更に好ましい。
【0047】
図1に示すとおり、フィルター321で濾過された水Wは、ポンプ323で給水ホース242を介して、再び除去部2のノズル部240から閉鎖空間Wsに噴射され、アスベストの飛散を防ぐ水Wとして、アスベスト除去工事に使用され、アスベスト除去装置1から自然環境に排水されることはない。
【実施例
【0048】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0049】
アスベスト除去装置1を用いたアスベスト除去工事の一例を示す。アスベスト除去面積は100平方メートル、総作業時間は約50時間を例示できる。
コンプレッサーは、北越工業株式会社製で、毎分1300リットルの空気を除去部2へ供給する。除去部2にはエアモータが設けられており、コンプレッサーから供給された圧縮空気によって駆動し、ディスク220が毎分10600回転する。
【0050】
除去部2のノズル部240のノズルの径は5mm、給水ホース242の径は8mmで、長さは2mである。除去部2の除去物Rと水Wとの混合物Mを閉鎖空間Wsから排出するための排出ホース251の径は40mmで、長さは2mである。
【0051】
循環部3の容量は、50リットルで、除去物Rと分離された水を貯留する部分の容量は、20リットルである。フィルター321の孔径は、400μmである。
【0052】
吸引部4は、ケルヒャー製、吸引風量毎秒74リットル、真空度は25.4/kPaである。排気ホース331の径は50mmで、長さは5mである。
【0053】
循環部3の給水機構322は、ポンプ323は水中ポンプで、LNSTUDIO製、毎秒0.41リットルの給水能力を有する。
【0054】
工事終了時において、除去物Rの総量は0.3立方メートル、残った水Wを凝固した量は0.03立方メートルである。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、アスベスト飛散防止に用いる水を排水せず再利用することにより、狭隘な現場にも持ち込め、処理コストを抑えることができるスベスト除去装置及びアスベスト除去方法を提供するもので、工業的利用価値は大である。
【符号の説明】
【0056】
1・・・アスベスト除去装置
2・・・除去部
220・・・ディスク
221・・・サンドペーパー部
222・・・孔
230・・・カバー
231・・・内部周壁部
232・・・パッキン
233・・・本体
234・・・取手
240・・・ノズル部
241・・・水量調節コック
242・・・給水ホース
250・・・排出孔
251・・・排出ホース
3・・・循環部
301・・・本体
302・・・蓋
320・・・受入口
321・・・フィルター
322・・・給水機構
323・・・ポンプ
324・・・給水口
330・・・排気口
331・・・排気ホース
4・・・吸引部
C・・・アスベスト層
W・・・水
A・・・下地調整層
R・・・除去物
S・・・構造物
Ws・・・閉鎖空間
M・・・混合物
【要約】
【課題】
狭隘な現場にも持ち込め、処理コストを抑えることができるアスベスト除去装置及びその装置を使用したアスベスト除去方法を提供する。
【解決手段】
アスベスト除去装置1は、アスベストを含むアスベスト層Cを持つ構造物Sからアスベストを取り除くためのもので、アスベストの飛散を防ぐために水Wを供給し、除去部2を使用してアスベスト層Cを剥離し、除去物Rと水Wの混合物Mを循環部3で受け入れる。循環部3で受け入れた混合物Mをフィルター321で濾過し、濾過して得た水Wを再び除去部2に供給する。濾過して得た水Wは自然環境に排水しない。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6