(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-21
(45)【発行日】2024-03-01
(54)【発明の名称】焼結ダイヤモンド電極素材
(51)【国際特許分類】
C25B 11/073 20210101AFI20240222BHJP
C25B 1/13 20060101ALI20240222BHJP
C04B 35/52 20060101ALI20240222BHJP
C04B 35/645 20060101ALI20240222BHJP
C02F 1/461 20230101ALI20240222BHJP
【FI】
C25B11/073
C25B1/13
C04B35/52
C04B35/645
C02F1/461 Z
(21)【出願番号】P 2020191675
(22)【出願日】2020-11-18
【審査請求日】2022-11-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000147811
【氏名又は名称】トーメイダイヤ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藤野 聡
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 宣博
(72)【発明者】
【氏名】藤川 洋基
(72)【発明者】
【氏名】石塚 良彰
【審査官】今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-532472(JP,A)
【文献】特開2005-290403(JP,A)
【文献】特開昭53-114589(JP,A)
【文献】特開2019-006662(JP,A)
【文献】特開2012-126605(JP,A)
【文献】国際公開第2008/096402(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 11/04
C25B 1/13
C04B 35/52
C04B 35/645
C02F 1/461
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性合成ダイヤモンド粒子を、粒子間に空隙を包含せしめて
ダイヤモンド-ダイヤモンド直接結合によって接合一体化させた、多孔質ダイヤモンド集合体で構成されるダイヤモンド電極素材であって、該ダイヤモンド集合体は、該ダイヤモンド集合体全体に対する容積比において20%を超える空隙を有し、かつ分布した空隙が相互に導通して外表面に開口し、水電解操作において、発生ガス及び周囲の水が通過する空間を提供する電極素材。
【請求項2】
前記導電性合成ダイヤモンドがボロンドープダイヤモンド(BDD)である、請求項1に記載のダイヤモンド電極素材。
【請求項3】
前記ダイヤモンド粒子同士がダイヤモンド-ダイヤモンド直接結合によって
接合一体化され、さらに全体として遷移金属からなる補強材(基材)に化学結合によって接合されている、請求項1に記載の焼結ダイヤモンド電極素材。
【請求項4】
水処理電解槽で使用される、請求項1に記載のダイヤモンド電極素材。
【請求項5】
(1) 導電性のバルクダイヤモンド粒子に密接して板状または粒子状の焼結助剤金属を配置し、
(2) 全体を加圧下で加熱し、焼結助剤金属を融解してダイヤモンド粒子間に溶浸させ、
溶解・析出による焼結機構によってダイヤモンド粒子同士が
ダイヤモンド-ダイヤモンド直接結合によって接合一体化された焼結層とし、
(3) 該焼結層を陽極として電解操作に供し、ダイヤモンド粒子間に残留した焼結助剤金属を除去することによって、粒子間に、該ダイヤモンド粒子との合計体積に対する比率に
おいて20%を超える導通した空隙を形成する
ことを特徴とする、請求項1に記載の焼結ダイヤモンド電極素材の製造方法。
【請求項6】
(1) 導電性のバルクダイヤモンド粒子と焼結助剤金属粉とを密に混合して混合粉とし、
(2) 該混合粉を加圧加熱処理に供して焼結助剤金属を融解しダイヤモンド粒子間に浸透させ、溶解・析出による焼結機構によってダイヤモンド粒子同士が
ダイヤモンド-ダイヤモンド直接結合によって接合一体化された焼結層とし、
(3) 該焼結層を陽極として電解操作に供し、ダイヤモンド粒子間に残留した焼結助剤金属を除去することによって、粒子間に、該ダイヤモンド粒子との合計体積に対する比率に
おいて20%を超える導通した空隙を形成する
ことを特徴とする、請求項1に記載の焼結ダイヤモンド電極素材の製造方法。
【請求項7】
前記電解操作に続けて、さらに焼結層を塩酸溶解処理に供して残留した焼結助剤金属を除去する、請求項5又は6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はダイヤモンド電極素材、特にオゾン水発生や様々な規模における汚染水の浄化を目的とした水処理設備用に適する導電性の焼結ダイヤモンドを用いた電極素材、並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水処理に利用可能な導電性ダイヤモンド電極材を得る方法として、シリコンまたはニオブ、タンタルなどの金属基板上に、CVD法によってボロンドープのダイヤモンド膜を形成する方式が広く用いられている。
【0003】
形成された膜の表面は必ずしも平坦でなく、むしろ凹凸のある方が有効表面積が大きいので電極として有利とされ、大きな表面積を得るために、予め基板材料表面にパターンを形成しておく方法も広く採用されている。
【0004】
CVD法によるボロンドープダイヤモンドの形成は、高純度のダイヤモンドの形成が可能であり、また形成過程においてもボロンのドープ量を任意に変えることができるメリットを有している。しかし形成反応に長時間を要し、多量のガスを必要とすることから生産性は高くない。
【0005】
ボロンドープダイヤモンドは高圧力・高温条件下での合成反応においても、出発原料中にボロン化合物を添加する方法を用いて、砥粒の形で製造されている。
【0006】
高圧力・高温技術はダイヤモンドの粉末を焼結した硬質材料の多結晶ダイヤモンド(PCD)として、我が国においても1962年頃から切削工具素材、耐摩耗材料の製造に用いられている(特許文献1)。
【0007】
工具素材、耐摩耗材料を目指した多結晶ダイヤモンドには、抜群の硬さに加えて靭性の付与も要求されることから、微粉原料を用いた緻密品が要求されている。このことから究極の多結晶ダイヤモンドとして、単結晶ダイヤモンドを超える高い硬度を持つバインダレスのナノ多結晶ダイヤモンドが開発されている。このタイプの多結晶体は結合材を含まないため耐熱性が高く、構成粒子が数十nm と微細であることから、高強度でシャープな刃先の形成が可能になっている(非特許文献1)。
【0008】
一般的な多結晶ダイヤモンドの製造では、焼結助剤としてコバルト系金属が主として用いられ、超高圧力下の高温状態における溶融金属の存在によって、ダイヤモンド粒子の再配列、溶解・析出機構による粒子間の結合、緻密化が進行すると理解されている。
【0009】
ダイヤモンド粒子の間隙へ焼結助剤金属を供給する方法としては、ダイヤモンド粒子の集合体に接してコバルト源 (例えばコバルト板、または超硬合金ブロック)を配置し、溶融状態の金属をダイヤモンド粒子の間隙へ供給する溶浸法が好ましいとされている。しかしダイヤモンド粒子が細かい場合や、ダイヤモンド層が厚く、溶浸が困難な場合には、予めダイヤモンド粒子とコバルト粉との混合物を反応容器に充填する方法も用いられている。
【0010】
焼結助剤金属は焼結後もダイヤモンド粒子間に残留し、焼結体の緻密性、靭性向上に寄与しているが、高温状態ではダイヤモンドの黒鉛化を促進する逆触媒になることから、高温に曝される用途向けには、粒子間に残留する金属を酸溶解処理によって除去し、ダイヤモンド粒子間の直接結合を維持しつつ、5~30容量%の空孔を持つ焼結体も提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特公昭39-20483号公報
【文献】特開昭53-114589号公報
【非特許文献】
【0012】
【文献】SEIテクニカルレビュー第165号、68-74(2004)
【0013】
従来技術により製造されたボロンドープ多結晶ダイヤモンド(PCD)を導電電極に用いる試みも知られているが、緻密に焼結された多結晶ダイヤモンドでは電極として機能する面が焼結表面に限られることから実用性が低かった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って本発明は、導電電極素材の製造において、高圧・高温技術を用いて予め合成されたバルクの砥粒状ボロンドープダイヤモンドを一体化品とすることにより、充分な導電性機能面を有する電極製造素材の生産性を高め、併せて電極形状、特性の多様化を可能にすることを主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の主旨は、導電性を持ち顕著な結晶粒界を示す個々のダイヤモンド粒子同士がダイヤモンド-ダイヤモンド直接結合によって相互に接合一体化されたダイヤモンド集合体で構成されるダイヤモンド電極素材であって、粒子間に、該ダイヤモンド粒子との合計体積に対する比率において20%を超える空隙乃至間隙を包含し、かつ全体として一定の導電性を有する多結晶ダイヤモンド電極素材にある。
【0016】
前記ダイヤモンド電極素材は、特に以下のように作製される。
(1) 導電性のバルクダイヤモンド粒子に接して焼結助剤金属を配置し、
(2) 全体を加圧下で加熱し、焼結助剤金属を融解してダイヤモンド粒子間に溶浸させ、溶解・析出による焼結機構によってダイヤモンド粒子間の接合を行い、
(3) ダイヤモンド粒子間に残留した焼結助剤金属を溶解除去することによって、粒子間に導通した空隙を形成する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の焼結ダイヤモンド電極素材は耐食性に優れるので長い電極材寿命を提供する。またこの素材は製作のための処理時間も短くて済む。例えば高圧高温反応における試料の加熱時間は10~20分で十分であり、昇圧・降圧時間を加えても反応サイクルは30分程度であることから、CVD反応に比べて1/10以下の時間で導電電極素材の製造が可能である。
【0018】
本発明の電極素材の製造において、ダイヤモンド粒子は導電性付与物質としてホウ素を含有する、いわゆるボロンドープダイヤモンドを使用するのが便利である。このようなダイヤモンドは特殊砥粒として市販されており入手が容易である。導電性ダイヤモンドとしてはまた窒素、リンをドープした品種も知られており、ボロンドープダイヤモンドと同様に使用することができる。
【0019】
またボロンドープダイヤモンドの加圧焼結に際して、予めダイヤモンド粒子間に多量の焼結助剤金属を介在させるか、焼結の際に隣接配置した焼結助剤金属を粒子間の空間に溶浸させる方法を用いることによって、粒子間隔の広い焼結体を作製し、続く後工程において粒子間に残留する金属を溶出させて多孔質焼結体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
導電電極素材を目的とした焼結体においては、形状を保ち続けるだけの強度があれば十分であり、ダイヤモンド粒子間に水やガスの通過する連続した空間があり、水に接する面積の大きいことが要求される。このことから原料のダイヤモンド粒子にはメッシュサイズの粗い砥粒を用い、粒子間には溶解・析出機構による粒子間の共有結合を形成させた多孔質焼結体とすることが望ましい。
【0021】
このため原料のボロンドープダイヤモンド砥粒として400メッシュ(35μm)より粗いサイズが用いられるが、200メッシュ (75μm)以上とすることが好ましく、100メッシュ (150μm)よりも粗い砥粒を用いて大きな空孔を形成することがより好ましい。
【0022】
一方ダイヤモンド層に接して配置する溶浸源の焼結助剤金属は、ダイヤモンド層全体への溶浸に十分な量を予め配置する必要があり、一方、混合粉末として充填する際にはまず有機溶媒に懸濁させた形で充填してから溶媒を揮発除去する方法を採ることによって充填密度を上げておく必要がある。
【0023】
焼結ダイヤモンド層の平坦度を保つためには、溶浸源の焼結助剤金属にWC-Co系合金板を用いる方法があり、あるいは充填ダイヤモンドの基板として高融点金属やセラミックスを用いると好都合である。例えば基板材料として遷移金属、特にTiやNbを用いた場合、ダイヤモンド粒子と基板との接点では両者の反応で生じた炭化物を介した化学結合によって強力な接合が形成される。
【0024】
ダイヤモンド粒子の隙間に残留した金属は後工程の塩酸溶解処理によって除くことができる。この際に基材金属の表面からの溶解も生じるが、コバルト系金属に比べて溶解速度が遅く残留するので、通電基板として利用可能である。
【0025】
塩酸溶解に代えて電解抽出も用いることができる。焼結生成物を陽極とし、鉄陰極と組み合わせて希硫酸中で実施できる。大量処理には焼結生成物をまとめてチタンバスケットに入れて電解操作を行うのが有効である。
【0026】
セラミックス系の基板材料としてはマグネシアが好適である。マグネシアは熱伝導率が高く、2800℃という高融点に加えて塩酸に溶解することから、後工程の塩酸溶解処理によってダイヤモンドの粒子間に残留する金属と共に除くことができ、ボロンドープダイヤのみで構成された、自立導電薄板が得られる。
【0027】
電極素材から所定の形状の電極を切り出すのに放電加工を用いる場合には、所定の形状に切り出してから塩酸溶解処理を行うのが望ましい。
【0028】
本発明方法においてはダイヤモンド粒子間に残存する焼結助剤金属の溶解除去によって、表面に導通した間隙の形成による電極素材の多孔質化、作用表面積増大が達成される。この多孔質化構造によって作用表面積を大きくすることができ、ガス、水の移動が容易になるのに伴うガス発生効率の上昇、電流密度の低下による電極寿命の向上といった効果が得られる。
【0029】
前記の間隙はダイヤモンド粒子に混合する焼結助剤の量によって調整可能であるが、全間隙のダイヤモンド粒子層に対する相対量(気孔率)において、少なくともダイヤモンド粒子層全容積の5%、より好ましくは20%以上形成する。
【0030】
本発明の電極素材におけるダイヤモンド粒子の結合(焼結)はダイヤモンドが熱力学的に安定な圧力温度領域内で行うのが好ましいが、加熱反応時間が短く、さらに反応を非酸化雰囲気内で実施することによって、HIP, ホットプレス、放電プラズマ焼結などの手法を用いた準安定な領域内でも実施可能である。
【実施例1】
【0031】
厚さ0.15mmのニオブ板で作成した外径63mm、深さ17mmのカプセル容器を用意し、底面から次の充填順序で反応材料を充填して、厚さ約14mmの加圧・加熱試料を製作した。
(充填順序)
(1) ボロンドープダイヤモンド(以下、BDD): #140/170 (粒径100μm)50g
(2) Co円板、厚さ2mm
(3) マグネシア円板、厚さ5mm
【0032】
このカプセルを5段重ねて反応室内に充填し、5.5GPa、1300℃の加圧・加熱条件に10分間保持した。反応後試料を取り出し、表面のカプセル材をショットブラストによって除去、ダイヤモンド粒子間に食い込んでいるカプセル材金属はフッ硝酸を用いて溶解除去した。ダイヤモンド焼結層の厚みは約6mmであった。
【0033】
マグネシア円板の大部分を研削加工によって除去し、次いで塩酸・硝酸混液中でダイヤモンド焼結層中に残留しているコバルトを溶出除去した。この際にマグネシアも溶解除去できた。
マグネシア円板を用いることによって平坦度の高い円板状の自立電極板が得られた。
ダイヤモンド層のサイズと質量との測定から、焼結ダイヤモンド層の気孔率は約22%と推定した。
【実施例2】
【0034】
上記と同じニオブ板製のカプセルの底に、BDD: #100/120(粒径約150μm)のボロンドープダイヤモンド粉25gを入れて平らにならし、次いで直径62mm、厚さ10mmの13%Co-WC超硬合金基板を嵌め込んでカプセルをかしめた。このカプセルを5.5GPa、1350℃の加圧加熱条件に供し10分間保持した。
反応後のダイヤモンド焼結層の厚みは約3mmであった。
【0035】
基板の超硬合金部を研削によって除去し、次いで塩酸・硝酸混液中でダイヤモンド焼結層中に残留しているコバルトを溶出除去した。
超硬合金基板を用いたことで、平坦度の高い気孔率25%の円板状自立電極板が得られた。
【実施例3】
【0036】
振動テーブルの上に置いた前実施例と同じニオブ板製のカプセルの底に、BDD: #60/70(粒径約250μm)のボロンドープダイヤモンド粉20gを入れて平らに均し、粒径2μmのコバルト粉35gをアセトン中に分散させて加え、アセトンを蒸発させた後厚さ5mmのマグネシア円板を置いてカプセルをかしめた。
6GPa、1350℃の加圧・加熱条件に供し、5分間保持した。
【0037】
反応後回収された試料のダイヤモンド焼結層の厚みは約2.6mmであり、マグネシア板から簡単に外すことができた。ダイヤモンド焼結層がニオブ板に貼り付いたままでワイヤーカット加工により20mm角の電極素材に切り出し、4N希硫酸中で電極素材を陽極、鉄板を陰極とした電解操作によってダイヤモンドの粒子間に残留するコバルトを除去し、気孔率約30%の電極素材を得た。
【実施例4】
【0038】
上記と同じニオブ板製のカプセルの底に、厚さ0.5mmのチタン板を置き、次いでBDD: #200/230 (粒径約75μm)のボロンドープダイヤモンド粉20gを入れて平らに均し、さらに粒径 2μmのコバルト粉20gをアセトン中に分散させて加え、アセトンを蒸発させた後厚さ0.15mmのニオブ円板を置いてカプセルをかしめた。
加圧・加熱条件は6GPa、1400℃で、5分間保持した。
【0039】
取り出した反応生成物はショットブラストで周囲のニオブ板を除き、続いて塩酸煮沸によってダイヤモンド粒子間に残留したコバルトを溶解除去した。
熱塩酸によってチタン板にも溶解の痕跡が認められたが、明らかな厚さの減少は認められず、厚さ約2.5mmの焼結ダイヤモンド層が強固に結合した電極素材が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の電極素材は、電極に適用されて様々な過酷な環境で経済的かつ安全に使用でき、長期間高い導電性能を発揮可能である。